JP6879365B2 - 温度応答性細胞培養基材及びその製造方法 - Google Patents

温度応答性細胞培養基材及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、温度応答性細胞培養基材及びその製造方法に関する。
細胞培養基材として、温度応答性の表面を有する基材が用いられている。これらの基材は、主に、接着性細胞の培養のために用いられる。接着性細胞は、担体の表面に接着することにより増殖する。接着性細胞は、一般に、適度な疎水性表面に接着しやすく、親水性表面に接着しない性質を持っているとされる。このため、温度応答によって適度な疎水性から親水性へ、あるいはその逆方向に変化する表面を有する基材を用いることにより、接着細胞の表面への接着を温度変化により制御することが可能となる。
このような細胞培養基材のことを、「温度応答性細胞培養基材」という。これまで、培養した細胞は、蛋白分解酵素(ペプシン、トリプシン、ペプチダーゼなど)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸=金属キレート剤)などを用いて、基材−細胞間のタンパク質を「化学的に破壊」させる方法、あるいは、ピペッティング(ピペットで培養液を噴射)、ラバーポリスマン、セルスクレイパーなど用いて、同タンパク質を「物理的に破壊」させる方法で、基材表面から剥離するしかなかった。温度応答性細胞培養基材を用いれば、こうした操作が全て不要となり、温度を変えるだけで培養した細胞を剥がせるようになる。
温度応答性細胞培養基材から回収した細胞(シート状に限定されない)は、化学的、物理的に損傷を受けていない特徴がある。また、温度応答性細胞培養基材から回収した細胞シートは、接着性タンパク質をそのまま保持しており、生体組織にも速やかに付着することができる。また、細胞シート同士を積層化すれば組織化することもでき、今後の再生医療技術の展開のためのプラットホーム技術と位置付けられる。
温度応答性細胞培養基材として、種々のものが開発されている。例えば、下限臨界溶液温度[Lower Critical Solution emperature(LCST)]が32℃であるポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)を表面に固定化した培養基材が開発されている(特許文献1)。32℃以上の温度の水に触れた基材表面のポリマー鎖は凝縮し、基材表面の性質としてはNIPAMポリマー鎖そのものの性質が強く現れ、比較的疎水性を示す。一方、基材表面が32℃以下の温度の水に接すると温度応答が起こり、表面のポリマー鎖は水分子と水和する。これにより、基材表面の性質としては、温度応答前に比べ親水性を示すことになり、接着していた細胞を剥離することができる。
特開平2−211865号公報
本発明者らは、従来の温度応答性細胞培養基材においては、温度応答時の細胞剥離性において改善すべき点があることを見出した。本発明は、より優れた細胞剥離性を有する温度応答性細胞培養基材を提供することを課題とする。
本発明者らは、鋭意検討を重ね、基材表面に固定化された温度応答性ポリマーにより表面が覆われた温度応答性細胞培養基材において、温度応答性ポリマーによる表面被覆率を従来よりもさらに向上させることにより、上記課題を解決できることを見出した。さらに本発明者らは、温度応答性ポリマーの表面被覆率を、X線光電子分光(XPS)法で測定される元素濃度に基づいて評価する手法を開発し、かかる評価指標に基づいて、上記課題を解決することのできる表面特性を定義した。本発明は、かかる知見に基づきさらなる試行錯誤を重ねることにより完成したものであり、以下の態様を含む。
項1.
(A)温度応答層;及び
(B)基材層
を含有する温度応答性細胞培養基材であって、
前記温度応答層(A)は、窒素原子を有する温度応答性ポリマーを含有し、
前記温度応答層(A)は、前記基材層(B)の少なくとも一方の面に配置されており、
前記基材層(B)は、窒素原子を有さず、かつ
前記温度応答層(A)側の表面は、放出角45°におけるX線光電子分光法で測定される窒素元素濃度N1s及び炭素元素濃度C1sが、以下の数式(1):
(1)100×(N1s/C1s)/(N/C)≧80
(数式中、N/Cは、前記温度応答性ポリマーにおける各元素比の理論値を表わす)
を満たす、温度応答性細胞培養基材。
項2.
前記温度応答層(A)側の表面は、アルゴンガスクラスターイオンビームにより表面側からエッチングしながら、X線光電子分光法により測定されるN1sとC1sとが、以下の条件(A)を満たす、項1に記載の温度応答性細胞培養基材:
(A)エッチング深さ2nmにおける測定値が、以下の数式(2)を満たす:
(2)100×(N1s/C1s)/(N/C)≧50
(数式中、N/Cは、前記と同じ意味を表わす)。
項3.
前記温度応答層(A)側の表面に、前記温度応答性ポリマーが、1〜10μg/cm固定化されている、項1又は2に記載の温度応答性細胞培養基材。
項4.
前記温度応答層(A)が、デンドリティックポリマーの末端に前記温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーを含有する、項1〜3のいずれか一項に記載の温度応答性細胞培養基材。
項5.
前記デンドリティックポリマーが、スチレン骨格又はシロキサン骨格のデンドリティックポリマーである、項4に記載の温度応答性細胞培養基材。
項6.
前記温度応答性ポリマーの少なくとも一種が、
(メタ)アクリルアミド、N−(若しくはN,N−ジ)置換(メタ)アクリルアミド及びビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を含むモノマー組成物を重合することにより得られうる温度応答性ポリマー、又は
ポリビニルアルコール部分酢化物
である、項1〜5のいずれか一項に記載の温度応答性細胞培養基材。
項7.
前記N−(若しくはN,N−ジ)置換(メタ)アクリルアミドが、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、及びポリ−N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミドからなる群より選択される少なくとも一種である、項6に記載の温度応答性細胞培養基材。
項8.
前記基材層(B)がポリスチレンを含む、項1〜7のいずれか一項に記載の温度応答性細胞培養基材。
項9.
リユース用である、項1〜8のいずれか一項に記載の温度応答性細胞培養基材。
項10.
(a)ブロックポリマーであって、スチレン骨格又はシロキサン骨格のデンドリティックポリマーの末端に、温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーが溶解してなる、ポリスチレンの良溶媒と貧溶媒とを含む溶液を、ポリスチレン基材表面に滴下し、展開させる工程;
(b)前記工程(a)で得られた表面を、2時間以上、前記溶媒の蒸気下に置く工程;及び
(c)前記工程(b)で得られた表面を、乾燥させる工程
を含む、温度応答性細胞培養基材の製造方法。
本発明によれば、温度応答時の細胞剥離性がより優れた温度応答性細胞培養基材を提供できる。
本発明の温度応答性細胞培養基材であって、温度応答層(A)の表面のうち、中心点と、中心点からそれぞれ均等に離間した特定の4点との計5点における温度応答性ポリマー固定化量の各測定値の間に大きなばらつきのないことを特徴とする、本発明の一態様における、それら測定点5点の取り方の例を示した図面である。 本発明の別の一態様における、前記測定点5点の取り方を示した図面である 本発明の温度応答性細胞培養基材における、エッチング深さ毎の、数式(2)左辺の測定値を示したグラフである。
1. 温度応答層(A)
1.1 温度応答性ポリマーの分布に関するパラメーター
本発明の温度応答性細胞培養基材は、
(A)温度応答層;及び
(B)基材層
を含有する温度応答性細胞培養基材であって、
前記温度応答層(A)は、窒素原子を有する温度応答性ポリマーを含有し、
前記温度応答層(A)は、前記基材層(B)の少なくとも一方の面に配置されており、 前記基材層(B)は、窒素原子を有さず、かつ
前記温度応答層(A)側の表面は、放出角45°におけるXPS法で測定される窒素元素濃度N1s及び炭素元素濃度C1sが、以下の数式(1):
(1)100×(N1s/C1s)/(N/C)≧80
(数式中、N/Cは、前記温度応答性ポリマーにおける各元素比の理論値を表わす)
を満たす、温度応答性細胞培養基材である。
温度応答層(A)は、少なくとも温度応答性ポリマーを含み、表面が温度応答性を示す。本発明の温度応答性細胞培養基材は、この温度応答性を示す表面を、細胞培養を行う面として使用する。
温度応答層(A)は、温度応答性ポリマーを少なくとも一種含む。また、温度応答層(A)は、温度応答性ポリマーを単独の分子の形態で含んでいてもよいし、温度応答性ポリマーを含む複合体の形態で含んでいてもよい。かかる複合体においては、温度応答性ポリマーが他の構造部分に何らかの様式で結合している。結合様式は限定されないが、共有結合であれば温度応答性ポリマーが安定的に基材層(B)の面に固定化されるという点で好ましい。
本発明の温度応答性細胞培養基材は、温度応答層(A)側の表面が上記の特性を有していることにより、温度応答時の細胞剥離性がより優れたものとなる。
具体的には、温度応答層(A)側の表面は、温度応答性ポリマーの被覆量が、従来の温度応答性細胞培養基材におけるものよりも高いという特徴を有している。数式(1)は、XPS法で温度応答層(A)側の表面を測定することにより得られる、温度応答性ポリマーの被覆量の指標の一つである。表面が完全に温度応答性ポリマーで被覆されている場合には、N1s/C1sがN/Cと等しくなるため、数式(1)の左辺の値は100(%)となる。ここで、N1sはXPS法で測定される窒素原子濃度を表わし、N/Cは、前記温度応答性ポリマーに含まれる炭素原子量(C)に対する、窒素原子(N)の比率の理論値を表わす。温度応答性ポリマーがポリイソプロピルアクリルアミドの場合、その繰返単位のイソプロピルアクリルアミドは窒素原子1個、炭素原子6から構成されるため、N/Cの理論値は、1/6=0.167である。
一方、表面が温度応答性ポリマーで全く被覆されていない場合には、基材層(B)が、温度応答性ポリマーの有する窒素原子を有さないためN1sが検出されない。したがって、数式(1)の左辺の値は0(%)となる。
数式(1)の左辺の値が80(%)以上であると、温度応答性ポリマーの表面被覆量が十分に高く、温度応答時の細胞剥離性がより優れたものとなる。この効果の点で、数式(1)の左辺は、85(%)以上であれば好ましく、90(%)以上であればより好ましく、95(%)以上であればさらに好ましい。
20℃の蒸留水中に本発明の温度応答性細胞培養基材を浸漬して24時間静置した後に、上記方法にて測定される値に基づいて計算される数式(1)の左辺の値が、上記の範囲内となることが好ましい。
XPSは、具体的には以下のようにして測定する。
アルバック・ファイ社製 表面分析装置 PHI5000 VersaProbe II又はその同等品を用いて、単色化されたX線 AlKαを照射し、放出角45°で測定する。
本発明の温度応答性細胞培養基材は、好ましくは、前記温度応答層(A)側の表面が、アルゴンガスクラスターイオンビームにより表面側からエッチングしながら、XPSにより測定されるN1sとC1sとが、以下の条件(A)及び/又は(B)を満たす:
(A)エッチング深さ2nmにおける測定値が、以下の数式(2)を満たす:
(2)100×(N1s/C1s)/(N/C)≧50
(数式中、N/Cは、前記と同じ意味を表わす)
(B)以下の数式(3)が満たされるエッチング深さが5nm以上である:
(3)100×(N1s/C1s)/(N/C)≦5
(数式中、N/Cは、前記と同じ意味を表わす)。
数式(2)は、アルゴンガスクラスターイオンビームにより温度応答性細胞培養基材の表面側からエッチングしながらXPS法で測定することにより得られる、表面からの深さ2nmの位置における、温度応答性ポリマーの存在量の指標である。この位置が完全に温度応答性ポリマーで占められている場合には、N1s/C1sがN/Cと等しくなるため、数式(2)の左辺の値は100(%)となる。
数式(2)の左辺の値が50(%)以上であると、表面からの深さ2nmの位置における温度応答性ポリマーの存在量が十分に多く、温度応答時の細胞剥離性がより優れたものとなる。この効果の点で、数式(2)の左辺は、60(%)以上であれば好ましく、70(%)以上であればより好ましく、80(%)以上であればさらに好ましい。
数式(3)は、アルゴンガスクラスターイオンビームにより温度応答性細胞培養基材の表面側からエッチングしながらX線光電子分光法で測定することにより得られる、温度応答性ポリマーの存在量が十分に少なくなる深さ位置の指標である。つまり、数式(3)が満たされる地点では、温度応答性ポリマーの存在量が十分に少なくなっている。数式(3)が満たされる深さ位置が5nm以上であると、温度応答性ポリマーが表面側からより深い位置にまで十分量存在していると言え、このとき、温度応答時の細胞剥離性がより優れたものとなる。この効果の点で、数式(3)の左辺が満たされるエッチング深さは4nm以上であれば好ましく、5nm以上であればより好ましく、6nm以上であればさらに好ましい。
アルゴンガスクラスターイオンビームによるエッチングを行いながらXPSを測定する方法は、具体的には以下のようにして行う。
アルバック・ファイ社製 表面分析装置 PHI5000 VersaProbe II又はその同等品を用いて、2.5kV、10nA(Area 2mm□)の条件で、アルゴンガスクラスターイオンでエッチングしながら深さ方向の元素を測定する。エッチングレートは、膜厚61nmのPNIPAM薄膜(基板:シリコンウエハ)に、Siが検出されるまでアルゴンガスクラスターイオンでエッチングすることにより、2.0nm/minを算出する。
本発明の温度応答性細胞培養基材は、温度応答性ポリマーの表面被覆量が、表面においてより均一に被覆されていると好ましい。この点で、
前記温度応答層(A)側の表面の中心点、及び
該中心点から各端点までの距離の合計が最大となるように設定された、該中心点を交点とする十字線における、各端点と中心点とを結ぶ線の中心点
からなる5点における、前記温度応答性ポリマー固定化量の各測定値から算出された変動係数[(標準偏差/平均値)×100]が、以下の数式(4):
(4)変動係数≦10
を満たすことが好ましい。
数式(4)は、表面のうち、中心点と、中心点からそれぞれ均等に離間した特定の4点との計5点における温度応答性ポリマー固定化量の各測定値の間に大きなばらつきのないことを保証したものである。ばらつきが全くない場合、標準偏差は0となるため、数式(4)の左辺は0となる。よりばらつきの少ない表面であるという点において、数式(4)の左辺は10以下であれば好ましく、7以下であればより好ましく、5以下であればさらに好ましい。
特定の5点の取り方の例を図1及び図2に示す。図1は表面が円形の場合の例を示しており、図2は表面が略正方形の場合の例を示している。図1及び図2の両方において、点Aは中心点を、点Bは、十字線(破線で示す)における、各端点と中心点とを結ぶ線の中心点をそれぞれ示している。測定に用いられる基材の面積は、例えば、9.6〜78.5cmである。
本発明において、基材表面への温度応答性ポリマーの固定化量は、基材表面に適用した温度応答性ポリマーの量から計算できる。ただし、必要に応じて、温度応答性ポリマーの固定化量を常法に従って測定することもできる。そのような測定方法としては、例えばフーリエ変換赤外分光全反射減衰法(FT-IR-ATR法)、元素分析法及びXPS法等が挙げられる。測定結果にバラつきが生じない限り、いずれの測定法を選択してもよいが、バラつきが生じる場合は、本発明においてはFT-IR-ATR法による測定結果を採用する。
FT-IR-ATR法での測定は、具体的には以下のようにして行う。基材としてポリスチレン製セルカルチャーディッシュを、温度応答性ポリマーとしてPNIPAMをそれぞれ用いる場合を一例として説明するが、他の基材及び/又はポリマーを用いる場合も以下の例を応用することにより同様にして測定できる。
ポリスチレン製セルカルチャーディッシュを基材とし、温度応答性ポリマーとしてPNIPAMを固定化させた、温度応答性細胞培養基材を用意する。同基材をFT−IR−ATR測定すると、次式(5)にて表される、ポリスチレンに由来するベンゼン環伸縮(1600cm−1)の吸収強度に対する、PNIPAMに由来するアミド伸縮(1650cm−1)の吸収強度の比率を得ることができる。
(5) 吸収強度比率=I1650/I1600
既知量のPNIPAM(1〜10μg/cm)をポリスチレン基材に塗布し、式(5)により得られる吸収強度比率から検量線を予め作成しておくことにより、ポリスチレン基材上に固定化された未知のPNIPAMの量を求めることができる。なお、ポリスチレン基材上のポリマー固定化層は、試料に対する赤外光(エバネッセント波)のしみこみ深さ(1μmオーダー)に対し十分に薄いと仮定する(参考文献:Langmuir 2004,20,5506−5511)。
本発明の温度応答性細胞培養基材は、温度応答性ポリマーが、表面に0.5μg/cm以上固定化されていることが好ましい。本発明の温度応答性細胞培養基材は、温度応答性ポリマーが他の構造との複合体として表面に固定化されている場合、当該複合体が温度応答性ポリマー換算で0.5μg/cm以上、好ましくは1.0μg/cm以上、より好ましくは1.5μg/cm以上基材表面に固定化されていることが好ましい。本発明の温度応答性細胞培養基材は、温度応答性ポリマーの固定化量が上記以上であると、温度を変えても当該ポリマー上の培養細胞が剥離し難くなるということがない。
本発明の温度応答性細胞培養基材は、温度応答性ポリマーが、あるいは温度応答性ポリマーが他の構造との複合体として表面に固定化されている場合は、当該複合体が温度応答性ポリマー換算で、10μg/cm以下、好ましくは5μg/cm以下、より好ましくは4μg/cm以下、基材表面に固定化されていれば、温度応答前の状態で細胞が表面に付着し易く、細胞を十分に付着させることが容易となる。
総合すると、本発明の温度応答性細胞培養基材は、温度応答性ポリマーが、あるいは温度応答性ポリマーが他の構造との複合体として表面に固定化されている場合は、当該複合体が温度応答性ポリマー換算で、0.5〜10μg/cm、表面に固定化されていることが好ましく、1〜5μg/cm、表面に固定化されていることがより好ましく、1.5〜4μg/cm、表面に固定化されていることがさらに好ましい。
1.2 温度応答性ポリマー
温度応答性ポリマーは、窒素原子を有する温度応答性ポリマーであれば特に限定されず、幅広く選択することができる。温度応答性ポリマーは、具体的には、下限臨界溶解温度(LCST)を有するポリマー、又は上限臨界溶解温度[Upper Critical Solution emperature(UCST)]を有するポリマーが挙げられ、特定構造のブロックポリマーを用いることが好ましい。ブロックポリマーは、一種の温度応答性ポリマーをブロックとして含んでいてもよいし、複数種の温度応答性ポリマーをブロックとして含んでいてもよい。
温度応答性ポリマーとしては、例えば、特公平06−104061号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの少なくとも一種に基づく構成単位を有するポリマーが挙げられる。モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体及びビニルエーテル誘導体等が挙げられる。
温度応答性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール部分酢化物及び含窒素環状ポリマー等も例示できる。
温度応答性ポリマーとしては、アルキル置換セルロース誘導体、ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体及びポリアルキレンオキサイドブロック共重合体等も例示できる。
培養細胞の剥離は、通常、5℃〜50℃の範囲で行うことが好ましいため、LCST又はUCSTがこの範囲内である温度応答性ポリマーが好ましい。そのような温度応答性を有する、ポリ(N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体を重合して得られるポリマー(ポリ(N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド))の具体例としては、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(下限臨界溶解温度21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(同27℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N−エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド(同56℃)、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(同32℃)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)及びポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)等が挙げられる。
上記と同様の範囲のLCST又はUCSTを有する具体的なポリマーとしては、他にも、以下のものを例示できる。ポリビニルエーテルとして、例えば、ポリメチルビニルエーテル等が挙げられる。含窒素環状ポリマーとして、例えば、ポリ(N−アクリロイルピロリジン)及びポリ(N−アクリロイルピペリジン)等が挙げられる。アルキル置換セルロース誘導体として、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体としては、例えば、ポリポリプロピレンオキサイドとポリエチレンオキサイドとのブロック共重合体等が挙げられる。
温度応答性ポリマーとしては、ホモポリマーが温度応答性を示す上記モノマーの少なくとも一種と、上記モノマー以外の少なくとも一種のモノマーとの共重合体を用いることもできる。そのような他のモノマーとして、例えば、荷電を有するモノマー及び/又は疎水性モノマーを使用できる。
荷電を有するモノマーとして、例えばアミノ基を有するモノマー、アンモニウム塩を有するモノマー、カルボキシル基を有するモノマー、及びスルホン酸基を有するモノマー等が挙げられる。
アミノ基を有するモノマーとしては、例えば、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノスチレン、アミノアルキルスチレン、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
アンモニウム塩を有するモノマーとしては、例えば、[2−(2−メチルアクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム塩、(メタ)アクリルアミドアルキルトリメチルアンモニウム塩である3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
また、スルホン酸を有するモノマーとしては、(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸等が挙げられる。
疎水性モノマーとしては、アルキルアクリレート、アルキルメタアクリレート等が挙げられる。アルキルアクリレートとしては、例えば、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート等が挙げられる。アルキルメタアクリレートとしては、例えば、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、メチルメタクリレート等が挙げられる。疎水性モノマーとしては、以下に挙げる含フッ素モノマーも使用できる。
含フッ素モノマーとして、例えば、カルボキシル基に対して直接又は2価の有機基を介してエステル結合又はアミド結合したフルオロアルキル基を有し、α位に置換基を有することのあるアクリル酸エステル(以下、「フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル」と略記することがある。)、又は「フルオロアルキル基含有アクリルアミド」等が挙げられる。
フルオロアルキル基含有アクリル酸エステル又はフルオロアルキル基含有アクリルアミドの好ましい具体例としては、下記一般式(1):
CH=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1)
[式中、Xは、水素原子、炭素数1〜21の直鎖状又は分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX基(但し、X及びXは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状若しくは分岐状のフルオロアルキル基、置換若しくは非置換のベンジル基又は置換若しくは非置換のフェニル基であり;
Yは、−O−又は−NH−であり;
Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基若しくは環状脂肪族基、
−CHCHN(R)SO−基(但し、Rは炭素数1〜4のアルキル基である。
)、−CHCH(OZ))CH−基(但し、Zは水素原子又はアセチル基である。)、−(CH−SO−(CH−基、−(CH−S−(CH−基(但し、mは1〜10、nは0〜10である。)又は−(CH−COO−基(mは1〜10である。)であり;
Rfは、ヘテロ原子を有していてもよい、炭素数1〜20の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基である。]で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドを例示できる。
上記一般式(1)において、Rfで表されるフルオロアルキル基は、少なくとも一個の水素原子がフッ素原子で置換された、ヘテロ原子を有していてもよいアルキル基であり、全ての水素原子がフッ素原子で置換された、ヘテロ原子を有していてもよいパーフルオロアルキル基も包含するものである。
上記一般式(1)で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドでは、Rfが炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基であることが好ましく、特に、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。近年、EPA(米国環境保護庁)により、炭素数が8以上のフルオロアルキル基を有する化合物は、環境、生体中で分解して蓄積するおそれがある環境負荷が高い化合物であることが指摘されているが、一般式(1)で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドにおいてRfが炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基である場合には、この様な環境問題が指摘されていないためである。
上記式(1)において、Rf基の例として、−CF、−CFCF、−CFCFH、−CFCFCF、−CFCFHCF、−CF(CF、−CFCFCFCF、−CFCF(CF、−C(CF、−(CFCF、−(CFCF(CF、−CFC(CF、−CF(CF)CFCFCF、−(CFCF、−(CFCF(CF等が挙げられる。
さらに、含フッ素モノマーは、非テロマーであることが好ましく、この点で、Rf基としては、炭素数1〜2のフルオロアルキル基、又はヘテロ原子によって介在された二以上の炭素数1〜3のフルオロアルキル基が好ましい。具体例としては、COCF(CF)CFOCF(CF)−、(CFNC2p−(p=1〜6)等が挙げられる。
上記した一般式(1)で表されるアクリル酸エステル及びアクリルアミドの具体例は、次の通りである。
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CH−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−C−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CHN(−CH)SO−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CHN(−C)SO−Rf CH=C(−H)−C(=O)−O−CHCH(−OH)CH−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−CHCH(−OCOCH)CH−Rf CH=C(−H)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−H)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf CH=C(−H)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CH−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−C−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CHN(−CH)SO−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CHN(−C)SO−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−CHCH(−OH)CH−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−CHCH(−OCOCH)CH−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CH)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf CH=C(−F)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−F)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf CH=C(−F)−C(=O)−NH−(CH−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CF)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CFH)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CN)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−S−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−S−(CH−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−SO−Rf
CH=C(−CFCF)−C(=O)−O−(CH−SO−(CH−Rf
[上記式中、Rfは、炭素数1〜6、好ましくは、1〜3のフルオロアルキル基である。]
OCF(CF)CFO−CF(CF)CH−MAc
OCF(CF)CFO−CF(CF)CH−Ac
(CFCH−Ac
CH−MAc
CH−Ac
[上記式中において、Acはアクリレート、MAcはメタクリレートを、それぞれ表す。]
上記したフルオロアルキル基含有アクリル酸エステル及びフルオロアルキル基含有アクリルアミドは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
温度応答性ポリマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N−(若しくはN,N−ジ)置換(メタ)アクリルアミド及びビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を少なくとも含むモノマー組成物を重合することにより得られうる温度応答性ポリマー、又はポリビニルアルコール部分酢化物が好ましい。
また、前記した温度応答性ポリマーをセグメントとして有するブロックポリマーを用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で温度応答性ポリマー同士を架橋したものを用いてもよい。その際利用される架橋性モノマーとしては特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
1.3 デンドリティックブロックコポリマー
本発明においては、温度応答層(A)が、デンドリティックポリマーの末端に、前記温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマー(本明細書において、「デンドリティックブロックコポリマー」という)を含有することが好ましい。これにより、上記の好ましい温度応答性ポリマーの分布に関するパラメーターを達成しやすくなる。
本発明においては、温度応答層(A)が、デンドリティックブロックコポリマーを含有していると、温度応答性ポリマーがより安定的に温度応答層(A)に固定化されやすくなる。具体的には、上記態様では、温度応答層(A)を水洗した後の温度応答性ポリマーの温度応答層(A)への残存率が優れている。このため、かかる態様の温度応答性細胞培養基材は、リユース用として好ましく用いられる。
かかる態様の温度応答性細胞培養基材は、好ましくは、温度応答層(A)が、20℃の蒸留水中に浸漬して24時間静置した後の温度応答性ポリマー残存量が1μg/cm以上である。特に限定されないが、上記において、温度応答性ポリマー残存量の上限は、通常、10μg/cmであり、好ましくは5μg/cmであり、より好ましくは4μg/cmである。温度応答性ポリマーの残存量は、温度応答性ポリマーの固定化量の測定方法として上述したものと同じ方法により測定できる。
特に、温度応答性ポリマー部分を除いた、コアとなるデンドリティックポリマー部分(本明細書において、この部分のことを、デンドリティックブロックコポリマー全体と峻別するために、単に「デンドリティックポリマー」と呼ぶことがある)が、スチレン骨格又はシロキサン骨格のデンドリティックポリマーであることが好ましい。本発明者らの検討によれば、このような骨格を有していることにより、デンドリティックポリマー部分が、基材表面に規則的に配置されやすくなり、これにより安定的に基材表面に固定化される結果、細胞培養のときだけでなく、温度応答により細胞を剥離させるときにおいても遊離しにくいという効果が得られる。
また、スチレン骨格のデンドリティックポリマーの末端に前記温度応答性ポリマーが結合したデンドリティックブロックコポリマーは、水不溶性のスチレン骨格のデンドリティックポリマー部分と、水に親和性を有する温度応答性ポリマー部分とが結合したものである。したがって、このデンドリティックブロックコポリマーで基材表面を被覆し、乾燥させることにより、基材表面に微細な相分離構造が形成されることが期待される。細胞が基材表面に付着する際に、基材表面に相分離構造があると細胞の変性を抑えることが可能となるため好ましい。
デンドリティックポリマーとしては、末端数15以上のデンドリティックポリマーが好ましい。末端数が15以上であることにより、末端に結合する温度応答性ポリマーの単位体積当たり密度を好ましい範囲とすることができ、このことが、温度応答時の細胞剥離性の向上に寄与する。この点において、スチレン骨格のデンドリティックポリマーの末端数は、15以上であれば好ましく、20以上であればより好ましい。
また、このデンドリティックポリマーの末端数は、温度応答性ポリマーを付加させる反応の時間を短縮できるという点において、100以下であることが好ましく、50以下であることがより好ましい。
以上を総合すると、デンドリティックポリマーの末端数の好ましい範囲としては、15〜50が挙げられ、その中においても20〜50が好ましく、30〜50がより好ましい。
デンドリティックポリマーの分子量は特に限定されず、幅広い範囲から選択することができる。特に、デンドリティックポリマーの分子量が2,000以上であれば、ポリスチレン基材にデンドリティックブロックコポリマーが固定化されやすくなり、培地等に溶出する可能性が低減される。この点で、デンドリティックポリマーの分子量は、3,000以上が好ましく、4,000以上がより好ましく、5,000以上が最も好ましい。
本発明のデンドリティックポリマーの分子量は、GPCにより以下の条件で測定する。
なお、以下に挙げる装置及び試薬等に換えて、それらと同等のものを使用してもよい。
装置 :特に限定されない。
検出器 :示差屈折率検出器RIカラム:LF−604(2本)、KF−601(2本)(Shodex)
溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :0.6ml/min
カラム温度 :40℃
試料調製 :試料をテトラヒドロフランに溶解させ、0.5質量%に調製した。溶解後、0.45μmフィルターを用いてろ過した。
注入量 :0.2ml
標準試料:shodex製標準ポリスチレン
また、デンドリティックポリマーの分子量が1,000,000以下であれば、温度応答性ポリマー導入率を好ましい範囲内に保つことができる。この点で、デンドリティックポリマーの分子量は、500,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましく、100,000以下が最も好ましい。
必要に応じて、デンドリティックブロックコポリマーの末端に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基等の正又は負の荷電を有する基を付与してもよい。これらの基の付与は常法により行うことができる。
また、必要に応じて、温度応答性ポリマーが結合した状態のデンドリティックブロックコポリマーにおいて、デンドリティックポリマー部分に水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基等の正又は負の荷電を有する基が残存していてもよい。温度応答性ポリマー中または末端に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基等の正又は負の荷電を有する基を付与させてもよい。
デンドリティックブロックコポリマーは、デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーが少なくとも一種結合しているが、少なくとも一種のその他のポリマーがさらに結合していてもよい。
デンドリティックブロックコポリマーは、末端数15以上のデンドリティックポリマーの末端に、分子量3000以上の温度応答性ポリマーがデンドリティックブロックコポリマー全体に対して50〜99.5質量%結合しているものであれば好ましい。このデンドリティックブロックコポリマーは、温度応答性ポリマーがデンドリティックポリマーの末端に十分量結合しているため、温度を変えても当該ポリマー上の培養細胞が剥離し難くなるということがない。この点において、本発明のデンドリティックブロックコポリマーは、温度応答性ポリマーがデンドリティックポリマーの末端に、デンドリティックブロックコポリマー全体に対して70質量%以上結合していると好ましく、80質量%以上結合しているとより好ましい。
デンドリティックブロックコポリマーは、デンドリティックポリマーの末端に、温度応答性ポリマーがデンドリティックブロックコポリマー全体に対して99.5質量%以下結合しているものであれば好ましい。この点において、デンドリティックブロックコポリマーは、デンドリティックポリマーの末端に、温度応答性ポリマーがデンドリティックブロックコポリマー全体に対して98質量%以下結合していると好ましく、97質量%以下結合しているとより好ましい。
本発明のデンドリティックブロックコポリマーの分子量は、GPCにより以下の条件で測定する。なお、以下に挙げる装置及び試薬等に換えて、それらと同等のものを使用してもよい。
装置:特に限定されない。
検出器:示差屈折率検出器RI
カラム:TSKgel−M(1本)、TSKgel−3000(1本)(東ソー)
溶媒:ジメチルホルムアミド(50mM LiBr 添加)
流速:0.8mL/min
カラム温度 :23℃
試料調製 :試料10mgにDMF溶媒5mLを加え、室温で緩やかに攪拌して溶解させた後、0.45μmフィルターを用いてろ過する。
注入量:0.2mL
標準試料:東ソー製単分散ポリスチレン
本発明のデンドリティックブロックコポリマーの分子量(重量基準)は、100,000〜500,000であれば好ましい。測定された分子量が100,000未満の場合、温度応答性ポリマーがデンドリティックポリマーの末端に導入されず、単にブレンドされている割合が多いため、細胞剥離性が低下する。
本発明のデンドリティックブロックコポリマーにおいて、デンドリティックポリマーの末端に温度応答性ポリマーを結合させる方法は、特に限定されず、幅広く選択できる。
結合方法としては、デンドリティックポリマーの末端にRAFT剤を導入し、それを起点に各種モノマーを成長させる等の方法が挙げられる。
RAFT重合の開始剤は特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ‐2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70)及び2,2’−アゾビス[(2−カルボキシエチル)−2−(メチルプロピオンアミジン)(V−057)等が挙げられる。
RAFT重合時に使用する溶媒については特に限定されず幅広く選択できる。例えば、ベンゼン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン及びジメチルホルムアルデヒド(DMF)等が好ましく、重合反応に使用するモノマー、RAFT剤及び重合開始剤の種類によって、適宜選択できる。重合時の開始剤濃度、RAFT剤量、反応温度及び反応時間等は特に限定されず、目的に応じて適宜設定できる。重合時、反応液は静置させても攪拌してもよい。
スチレン骨格デンドリティックポリマーの構造は、幅広く選択することができる。スチレン骨格デンドリティックポリマーの構造は、例えば、以下の一般式(2)により表わすことができる。
Figure 0006879365
上記式中、Rは、共有結合により温度応答性ポリマーが導入されうる基である。nは重合度を表わす。
としては、特に限定されず、幅広く選択することができる。特に、可逆的付加−開裂連鎖移動(RAFT)剤として作用しうる基であれば、RAFT重合により温度応答性ポリマーを導入できるため好ましい。このようなRAFT剤として作用しうる基としては、特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、チオカルボニルチオ基等が挙げられる。
チオカルボニルチオ基としては、ジチオエステル基、ジチオカルバメート基、トリチオカーボネート基、キサンタート基及びジチオベンゾエート基等が挙げられる。
は、末端に、炭素数3〜12の、置換されていてもよい炭化水素基を有していてもよい。この炭化水素基は、分岐状炭化水素基であれば好ましい。このことにより、デンドリティックブロックコポリマー中の温度応答性部位に適度な立体障害を持たせることができ、より効果的に基材表面を被覆することができるという効果が得られる。このときのRの具体例として、以下のようなトリチオカーボネート基が挙げられる。
Figure 0006879365
上記式中、Rは、炭素数3〜12の、置換されていてもよい炭化水素基を指す。Rは、分岐状炭化水素基であれば好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、分岐プロピル基、ブチル基、分岐ブチル基、ヘキシル基、分岐ヘキシル基、ペンチル基、分岐ペンチル基、ヘプチル基、分岐ヘプチル基、オクチル基、分岐オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、分岐ノニル基、デシル基、分岐デシル基、ドデシル基、分岐ドデシル基があり、好ましくはイソプロピル基、エチルヘキシル基及びブチルオクチル基等が挙げられる。
スチレン骨格デンドリティックポリマーの製造方法は、特に限定されず、幅広く選択することができる。例えば、常法として行われているクロロベンゼン中、塩化銅存在下で原子移動ラジカル重合(ATRP)法によって得ることができる。あるいは、乾燥トルエン中、加熱下、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)存在下にてラジカル重合させることによっても得ることができる。
より詳細には、上記Rの導入の目的のために、官能基を有するスチレン誘導体を少なくともモノマーとして用いて重合することが好ましい。このようなスチレン誘導体としては、ハロゲン化メチルスチレン等が挙げられる。ハロゲン化メチルスチレンとしては、クロルメチルスチレン、ブロムメチルスチレン等が用いられる。スチレン誘導体は一種を単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
上記の通り重合反応によりスチレン骨格デンドリティックポリマーを製造する際、使用する総モノマー全体に対する、官能基を有するスチレン誘導体の割合は、5%以上であることが好ましい。官能基を有するスチレン誘導体の上記割合が5%以上であると、温度応答性ポリマー鎖を導入する効率が良好となり、本発明で目標とする温度応答性ポリマー導入率を達成しやすくなる。この点で、官能基を有するスチレン誘導体の上記割合は、10%以上であればより好ましく、15%以上であればさらに好ましく、20%以上であれば最も好ましい。
官能基を有するスチレン誘導体の上記割合が90%以下であると、温度応答性ポリマー鎖を導入する効率を良好な範囲に保ちつつ、得られるデンドリティックブロックコポリマーが水に溶けにくくなり、デンドリティックブロックコポリマーが培地等に溶出する可能性が低減される。この点で、官能基を有するスチレン誘導体の上記割合は、80%以下であればより好ましく、70%以下であればさらに好ましく、60%以下であれば最も好ましい。
総合すると、官能基を有するスチレン誘導体の上記割合としては、5%〜90%が好ましく、10%〜80%がより好ましく、15%〜70%がさらに好ましく、20%〜60%が最も好ましい。
シロキサン骨格デンドリティックポリマーは、幅広く選択することができる。シロキサン骨格デンドリティックポリマーは、例えば、ビス(ジメチルビニルシロキサン)メチルシラン、トリス(ジメチルビニルシロキサン)シラン、ビス(ジメチルアリルシロキサン)メチルシラン及びトリス(ジメチルアリルシロキサン)シランからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーを重合することにより得られうるもの等が挙げられる。また、ビス(ジメチルシロキシ)メチルビニルシラン、トリス(ジメチルシロキシ)ビニルシラン、ビス(ジメチルシロキシ)メチルアリルシラン及びトリス(ジメチルシロキシ)アリルシランからなる群より選択される少なくとも一種のモノマーを重合することにより得られうるもの等も挙げられる。このようなシロキサン骨格デンドリティックポリマーは、例えばWO2004/074177号パンフレット等に記載の方法により得ることができる。
1.4. 基材層(B)表面への温度応答層(A)の配置方法
本発明の温度応答性細胞培養基材は、基材層(B)の少なくとも一方の面に温度応答層(A)を配置することにより得られうる。具体的には、例えば、温度応答性ポリマーを、基材層(B)の面に直接的又は間接的に固定することにより、温度応答層(A)を基材層(B)の面に配置できる。
温度応答層(A)は、互いに異なるUCST又はLCSTを有する二以上の領域を有し、それらの領域が二次元パターンを形成するように配列していてもよい。
温度応答層(A)は、基材層(B)の少なくとも一方の面の一部に配置されており、その領域と、温度応答しない領域とが、二次元パターンを形成するように配列していてもよい。
温度応答性ポリマーの基材層(B)の面への固定方法は、特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、温度応答性ポリマーを溶媒に溶解又は分散させてから、基材表面が均一に被覆されるように塗布することにより直接的に固定することができる。
また、温度応答性ポリマーを含む複合体を溶媒に溶解又は分散させてから、基材層(B)の面に塗布することにより、温度応答性ポリマーを間接的に固定することもできる。そのような複合体としては、例えば上記1.3のデンドリティックブロックコポリマー等が挙げられる。
この場合、溶媒としては、温度応答性ポリマー又はそれを含む複合体を溶解又は分散させるものであれば特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、N、N−ジメチルアクリルアミド;イソプロピルアルコール;並びにアセトニトリル及びN、N−ジメチルホルムアミドの混合液等が挙げられる。
複数種の溶媒を混合して使用してもよい。この場合、混合比は特に限定されず、幅広く選択できる。テトラヒドロフランとメタノールとの混合溶媒の場合、例えば、テトラヒドロフラン:メタノール=0.5〜2:4とすることができる。アセトンとエタノールとの混合溶媒の場合、例えば、アセトン:エタノール=0.5〜1:4とすることができる。
ジオキサンとノルマルプロパノールとの混合溶媒の場合、例えば、ジオキサン:ノルマルプロパノール=0.5〜2:4とすることができる。トルエンとノルマルブタノールとの混合溶媒の場合、例えば、トルエン:ノルマルブタノール=0.5〜2:4とすることができる。アセトニトリルとN、N−ジメチルホルムアミドとの混合溶媒の場合、例えば、アセトニトリル:N、N−ジメチルホルムアミド=4:1〜6:1とすることができる。
溶媒としては、ポリスチレンの良溶媒と貧溶媒とを含む溶液が好ましい。このような溶媒を使用すると、特に基材層(B)の材質がポリスチレンである場合、基材層(B)の面のポリスチレンを膨潤させつつ、上記1.3のスチレン骨格デンドリティックブロックコポリマー又はシロキサン骨格デンドリティックブロックコポリマーを固定化させることができ、結果的にスチレン骨格デンドリティックブロックコポリマー又はシロキサン骨格デンドリティックブロックコポリマーが基材層(B)の面に埋め込まれるような形となるため好ましい。この場合、前記良溶媒と前記貧溶媒とが、それぞれテトラヒドロフランとメタノールであれば好ましい。さらに、テトラヒドロフランとメタノールの混合溶媒中のテトラヒドロフラン含量が10〜35体積%であればより好ましい。
温度応答性ポリマー又はそれを含む複合体の基材層(B)の面への固定化に際しては、温度応答性ポリマー又はそれを含む複合体を含む溶液を基材層(B)の面へ均一に塗布することが好ましい。その方法は特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、ディスペンサーを利用する方法、基材層(B)を水平な台の上に静置させる方法等が挙げられる。
温度応答性ポリマー又はそれを含む複合体を含む溶液を基材層(B)の面へ塗布した後、溶媒を除去することにより、本発明の温度応答性細胞培養基材が得られる。溶媒の除去方法は特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、室温にて、かつ大気中で時間をかけてゆっくり蒸発させる方法、室温にて、かつ溶媒飽和環境下で時間をかけてゆっくり蒸発させる方法、加熱下で蒸発させる方法、減圧下で蒸発させる方法等が挙げられる。特に、均一な温度応答層(A)の面が得られるという点で、室温にて、かつ溶媒飽和環境下で時間をかけてゆっくり蒸発させる方法が好ましい。具体的には、2時間以上、前記溶媒の蒸気下に置くことが好ましい。
均一な温度応答層(A)の面が得られるという点で、溶媒飽和環境下で時間をかけてゆっくり溶媒を蒸発させた後、いったん表面を水洗してから乾燥させることが好ましい。
2. 基材層(B)
基材層(B)の材質は、窒素原子を有さないものであればよく、特に限定されない。通常、細胞培養に用いられるものであればよく特に制限されない。例えば、ガラス、改質ガラス、各種樹脂等が挙げられる。また、これらの他にもさらに、一般に形態付与が可能とされる材質からなるものであってもよい。そのような材質は、特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、グラフトポリマー、セラミックス及び金属類等が挙げられる。
樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリサルフォン及びポリフェニレンスルファイド等が挙げられる。
これらの中でも、特に、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等が好ましく用いられる。
基材層(B)の、温度応答層(A)が配置される側の面は、必要に応じて表面処理がなされていてもよい。表面処理としては、例えば、プラズマ処理及びコロナ処理等が挙げられる。
また、基材層(B)の、温度応答層(A)が配置される側の面は、平滑であってもよいし、穴状、突起状又は壁状等の三次元構造が形成されていてもよい。そのような三次元構造を表面に有する基材層(B)としては、例えば、市販されている三次元構造細胞培養基材である、SCIVAX製NanoCulture Plate、日立ハイテクノロジーズ製 ナノピラープレート、3D Biomatrix製Perfecta3D又はクラレ製ELPLASIA等を使用できる。
温度応答層(A)は、基材層(B)の面に、少なくとも一種のその他の層を介して配置されていてもよい。その他の層としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリサルフォン及びポリフェニレンスルファイド等が挙げられる。
3. 温度応答性細胞培養基材のその他の構成、特性及び用途等
本発明の温度応答性細胞培養基材は、必要に応じて、温度応答層(A)及び基材層(B)に加えてさらにその他の層を有していてもよい。その他の層としては、例えば、形状保持の目的で使用される支持層が挙げられる。
本発明の温度応答性細胞培養基材の形状は、特に限定されない。ペトリ皿等の細胞培養皿であってもよいし、プレート、ファイバー又は粒子等であってもよい。粒子は多孔質であってもよい。また、一般に細胞培養等に用いられる別の容器形状であってもよい。そのような容器形状としては、例えば、フラスコ、バッグ等が挙げられる。
本発明の温度応答性細胞培養基材は、細胞全般に対して使用できる。例えば、動物、昆虫、植物等の細胞、細菌類が挙げられる。動物細胞の由来の例として、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ヌードマウス、マウス、モルモット、ブタ、ヒツジ、チャイニーズハムスター、ウシ、マーモセット及びアフリカミドリザル等が挙げられる。
本発明の温度応答性細胞培養基材は、接着性細胞に対して好ましく使用できる。接着性細胞としては、幅広く選択することができ、例えば、内皮細胞、表皮細胞、上皮細胞、筋細胞、神経細胞、骨細胞及び脂肪細胞等のほか、樹状細胞及びマクロファージ等も挙げられる。内皮細胞としては、例えば、肝細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞及び角膜内皮細胞等が挙げられる。表皮細胞としては、例えば、繊維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞及び表皮角化細胞等が挙げられる。上皮細胞としては、例えば、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞及び角膜上皮細胞等が挙げられる。筋細胞としては、例えば、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞及び心筋細胞等が挙げられる。神経細胞としては、例えば、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞及び視神経細胞等が挙げられる。骨細胞としては、例えば、破骨細胞、軟骨細胞等が挙げられる。
接着性細胞としては、各種幹細胞も使用できる。接着性の幹細胞としては、胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cells:EG細胞)、生殖細胞系列幹細胞(germline stem cells:GS細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞;induced pluripotent stem cell)等の多能性幹細胞、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経系幹細胞等の複能性幹細胞、心筋前駆細胞、血管内皮前駆細胞、神経前駆細胞、脂肪前駆細胞、皮膚線維芽細胞、骨格筋筋芽細胞、骨芽細胞、象牙芽細胞等の単能性幹細胞(前駆細胞)等の幹細胞が挙げられる。
本発明の温度応答性細胞培養基材においては、対象となる細胞を培養するために通常用いられる培地をそのまま使用できる。
本発明の細胞培養用温度応答性基材においては、全面もしくは一部の培養基材の温度を温度応答性ポリマーのUCST以上若しくはLCST以下にすることによって、培養細胞を酵素処理することなく剥離させることができる。この温度変化による剥離は、培養液中において行ってもよいし、その他の等張液中等において行ってもよい。また、細胞をより早く、より高効率に剥離及び回収する目的で、基材を軽くたたいたり、ゆらしたりすることができる。さらに必要に応じて、ピペット等を用いて培地を撹拌する等してもよい。基材の一部のみの温度を変化させることのメリットとしては、例えば、iPS細胞の分化誘導において、分化した細胞コロニーのみを選択的に剥離することが可能となること等が挙げられる。
本発明の細胞培養用温度応答性基材は、温度応答性ポリマーが表面に強固に固定されていることが好ましく、この場合、リユース用として用いることができる。特に、上記1.3のデンドリティックブロックコポリマーが固定化されている表面を有する細胞培養用温度応答性基材は、特に温度応答性ポリマーが表面に強固に固定されており、リユース用として好ましく用いることができる。
リユース用として用いる場合、液体培地を添加して細胞培養を行い、温度応答により細胞を剥離し、基材表面をリン酸緩衝生理食塩水等の適当な洗浄液で洗浄する、という一連の工程を一サイクルとして、同一の細胞培養用温度応答性基材を二以上のサイクルにおいて使用する、すなわち、2回以上のリユースのために用いられる。本発明の細胞培養用温度応答性基材は、好ましくは3回以上のリユースのために用いられる。
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
<製造例1>
[S−(4−ビニル)ベンジル S’−アルキルトリチオカーボネートの合成]
窒素置換下の100ml三ツ口フラスコ中へ、ナトリウムメトキシド(5.6ml, 0.028mol)、メタノール(MeOH、28ml)を入れ、2分間撹拌させた。そこへ、2−エチル−1−ヘキサンチオール(4.10g、0.028mol)をMeOH(22ml)に溶解させたものを添加し、室温にて2時間撹拌した。そこへ二硫化炭素(CS)(2.1ml、0.035mol)を添加し、室温にて5時間撹拌した。さらに、4−ビニルベンジルクロリド(4.3ml、0.028mol)を添加し、そのまま20時間室温にて撹拌した。反応後、水を添加し、ジクロロメタンにて抽出、有機層を飽和食塩水にて洗浄後、硫化マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。精製は、ヘキサンを展開溶媒にカラムクロマトグラフィーにて行った。オレンジ色液体の目的物が、5.6gの収率にて得られた。
参考文献:Macromolecules 2011,44,2034−2049
[デンドリティックポリマー1の合成]
窒素置換下の10ml枝管付フラスコ中へ、S−(4−ビニル)ベンジル S’−(2−エチル−1−ヘキシル)トリチオカーボネート(1.20g、3.61×10−3mol)、脱水トルエン(1ml)を入れ、撹拌して溶解させた。さらに2、2’−アゾジイソブチロニトリル(AIBN、0.0745g、4.50×10−4mol)を添加し、80℃にて10時間撹拌した。反応後、トルエンを2ml追加し希釈した後、氷浴中で冷却したヘキサン中へ滴下及び再沈させ、オレンジ色のオイル状のポリマーを0.58g回収した。
[デンドリティックブロックコポリマーの合成(温度応答性ポリマー含量85%)]
窒素置換下の10ml枝管付フラスコ中へ、上述したデンドリティックポリマー1(0.028g)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM、1g、8.85×10−3mol)、脱水テトラヒドロフラン(THF、3ml)を入れ、撹拌して溶解させた。
さらに、AIBN(4.0×10−3g、4.6×10−6mol)を添加し、70℃にて10時間撹拌した。反応後、THFを3ml添加し希釈した後、ジエチルエーテル中へ滴下及び再沈させ、卵色固体を回収した。再度THF5mlに溶解させ、ジエチルエーテル中へ再沈を行い、白色の粉末状固体を0.706g得た。
<製造例2>
[デンドリティックポリマー2の合成]
窒素置換下の10ml枝管付フラスコ中へ、S−(4−ビニル)ベンジル S’−(2−エチル−1−ヘキシル)トリチオカーボネート(1.20g、3.61×10−3mol)、脱水トルエン(1ml)を入れ、撹拌して溶解させた。さらに、AIBN(0.0745g、4.50×10−4mol)を添加し、80℃にて24時間撹拌した。反応後、トルエンを2ml追加し希釈した後、氷浴中で冷却したヘキサン中へ滴下・再沈させ、オレンジ色のオイル状のポリマーを回収した。収量は0.58gであった。
[デンドリティックブロックコポリマーの合成(温度応答性ポリマー含量95%)]
窒素置換下の10ml枝管付フラスコ中へ、上述したデンドリティックポリマー2(0.028g)、NIPAM(1g、8.85×10−3mol)、脱水THF(3ml)を入れ、撹拌して溶解させた。さらに、AIBN(4.0×10−3g、4.6×10−6mol)を添加し、70℃にて24時間撹拌した。反応後、THFを3ml添加し希釈した後、ジエチルエーテル中へ滴下及び再沈させ、卵色固体を回収した。再度THF5mlに溶解させ、ジエチルエーテル中へ再沈を行い、白色の粉末状固体を0.730g得た。
<比較製造例1>
[ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)の合成]
窒素置換下の50ml三ツ口フラスコ中へ、NIPAM(5g,0.044mol)、2−プロパノール(25ml)を添加し、撹拌して溶解させた。さらにそこへ、AIBN(0.0726g、4.4×10−4mol)を添加し、80℃にて6時間撹拌した。反応後、溶媒を減圧留去し、白色固体を4.95g得た。
<実施例1>
[コーティング溶液の調製]
製造例1にて合成したデンドリティックブロックコポリマー10mgを、THF/MeOH=1/4(v/v)の混合溶媒(4ml)へ溶解させた。これを、母液と称する。この母液を、培養面積9.6cmのセルカルチャーディッシュに50μl塗布した時の、PNIPAM換算での塗布量が3.5μg/cmとなるよう、THF/MeOH=1/4(v/v)の混合溶媒でさらに希釈した。これを、コーティング溶液と称する。
[ポリスチレン製基材に対するポリマーの固定化、水洗なし]
上記方法で得られたコーティング溶液(50μl)を、ポリスチレン製セルカルチャーディッシュ(コーニング製Falcon3001、培養面積9.6cm)に塗布し、蓋をした。そのまま2.5時間静置させた後に乾燥させ、温度応答性細胞培養基材を得た。
[ポリスチレン製基材に対するポリマーの固定化、水洗あり]
コーティング溶液(50μl)を、ポリスチレン製セルカルチャーディッシュ(コーニング製Falcon3001、培養面積9.6cm)に塗布し、蓋をした。そのまま4時間静置させた後に乾燥させた。乾燥後、純水にて1時間洗浄した。洗浄後は、水切り後一晩自然乾燥させ、温度応答性細胞培養基材を得た。
<実施例2>
[コーティング溶液の調製]
コーティング溶媒の調製に使用する混合溶媒をTHF/MeOH=2/5(v/v)とした。その他の操作については、実施例1と同様に実施した。
[その他の操作]
ポリスチレン製基材に対するポリマーの固定化、並びに細胞評価の方法については、実施例1と同様に実施した。
<実施例3>
[コーティング溶液の調製]
デンドリティックブロックコポリマーを製造例2で合成したものに置き換える以外は、実施例1と同じ方法で調製した。
[その他の操作]
ポリスチレン製基材に対するポリマーの固定化、並びに細胞評価の方法については、実施例1と同様に実施した。
<実施例4>
[コーティング溶液の調製]
コーティング溶液の調製に使用する混合溶媒をTHF/MeOH=2/5(v/v)とした。その他、コーティング溶液の調製方法については実施例3と同様にした。
[その他の操作]
ポリスチレン製基材に対するポリマーの固定化、並びに細胞評価の方法については、実施例1と同様に実施した。
<比較例1>
コーニング製Falcon3001(培養面積9.6cm)を比較例1として用いた。
<比較例2、3>
[コーティング溶液の調製]
デンドリティックブロックコポリマーを比較製造例1で合成したPNIPAMに置き換える以外は、実施例1と同じ方法で調製した。
[その他の操作]
ポリスチレン製基材に対するポリマーの固定化、並びに細胞評価の方法については、実施例1と同様に実施した。ポリマー塗布後、水洗なしの場合を比較例2、水洗ありの場合を比較例3とした。
<比較例4>
電子線照射によりポリスチレン基材表面にPNIPAMをグラフト重合により化学的に付与した、市販品温度応答性細胞培養基材Aを比較例4として用いた。
[XPSによる測定]
アルバック・ファイ社製 表面分析装置 PHI5000 VersaProbe IIを用いて、単色化されたX線 AlKαを照射し、放出角45°で測定した。
アルゴンガスクラスターイオンビームによるエッチングを行いながらのX線光電子分光法測定は、以下のようにして行った。
アルバック・ファイ社製 表面分析装置 PHI5000 VersaProbe IIを用いて、2.5kV、10nA(Area 2mm)の条件で、アルゴンガスクラスターイオンでエッチングしながら深さ方向の元素を測定した。エッチングレートは、膜厚61nmのPNIPAM薄膜(基板:シリコンウエハ)に、Siが検出されるまでアルゴンガスクラスターイオンでエッチングすることにより、2.0nm/minを算出した。
[温度応答性ポリマーによる被覆率]
表面、又は特定のエッチング深さにおける温度応答性ポリマーによる被覆率は、以下のようにして評価した。
放出角45°におけるXPS法で測定される窒素元素濃度N1s及び炭素元素濃度C1sに関する、以下の数式(1)の値(%)を、被覆率とした。
(1)100×(N1s/C1s)/(N/C)(%)
(数式中、N/Cは、温度応答性ポリマーにおける各元素比の理論値を表わす)
[FT-IR-ATR法]
ポリスチレン製セルカルチャーディッシュを基材とし、温度応答性ポリマーとしてPNIPAMを固定化させた、温度応答性細胞培養基材を用意した。同基材をFT−IR−ATR測定することにより、次式(5)にて表される、ポリスチレンに由来するベンゼン環伸縮(1600cm−1)の吸収強度に対する、PNIPAMに由来するアミド伸縮(1650cm−1)の吸収強度の比率を得た。
(5) 吸収強度比率=I1650/I1600
既知量のPNIPAM(1〜10μg/cm)をポリスチレン基材に固定化させ、式(5)により得られる吸収強度比率から検量線を予め作成しておくことにより、ポリスチレン基材上に固定化された未知のPNIPAMの量を求めた。なお、ポリスチレン基材上のポリマー固定化層は、試料に対するIR光の侵入深さに対し十分に薄いと仮定した(参考文献:Langmuir 2004,20,5506−5511)。
[培養後における温度応答性細胞培養基材の細胞評価方法]
3.5cmφ温度応答性細胞培養基材へ培地[ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、10%仔ウシ血清、1%抗生物質含]1mlを加え、さらに3T3マウス線維芽細胞が1×10個分散した培地1mlを加え、COインキュベーター(37℃、5%CO)中で4日間培養を行った。
培養終了後、培養細胞の付着状態、並びに培養細胞がシャーレ内で満杯(コンフルエント)になるまで増殖しているかどうかを、倒立顕微鏡を用いて観察した。その後、培養細胞が入った温度応答性シャーレを低温COインキュベーター(20℃、5%CO)内で静置し、15分間冷却した。冷却後、培養細胞の剥離状態、培養細胞がシート状で剥離しているかどうかを倒立顕微鏡で観察し、以下の基準に従って細胞シートの剥離性を評価した。
1.剥離しない
2.一部剥離
3.培養細胞全体が剥がれるが、剥離に15分程度かかる
4.15分以内に良好に剥離する
5.さらに短い時間で極めて良好に剥離する
[実施例1(水洗なし)の評価、及び比較例4との比較]
結果を表1に示す。実施例1(水洗なし)の基材は、エッチング深さ0nmにおける最表面のPNIPAM被覆率が99%以上であった。一方、比較例4(市販品A)で得た基材は、最表面のPNIPAM被覆率が80%に満たないことから、基材が露出していることが示唆された。さらに、エッチング深さに対するPNIPAM被覆率を測定したところ、比較例4で得た基材と比べ、実施例1で得た基材の方が2倍以上深くPNIPAMが存在していることが示唆された。以上より、本発明品は、基材に対し効果的にポリマーを埋め込むことができており、且つ基材表面をPNIPAMによりほぼ被覆できていることが確認された。
実施例、比較例の結果を表1にまとめた。
[実施例1(水洗あり)の評価、及び比較例4との比較]
実施例1(水洗なし)の基材では、基材に固定化しきれなかったポリマーが、細胞シート剥離性を阻害する可能性があった。そこで、実施例1において得られた温度応答性細胞培養基材を水洗し、水洗前後において、PNIPAM被覆率が5%以下となるエッチング深さ(=PNIPAM存在深さ)を比較したところ、水洗後はPNIPAM存在深さが約3nm浅いことが確認された。FT−IR−ATR測定においては、水洗によりPNIPMA被覆量が約半分にまで減少していること、さらに、変動係数が5%以下に軽減していることが確認された。従って、余分なポリマーを除去することによって、非常に均一なPNIPAM層を得られることが確認された。比較例4と同じく、基材表面の露出が懸念されたが、エッチング深さ0nmにおけるPNIPAM被覆率を確認したところ、表面は水洗前と同様に被覆されていることが判った。
実施例1の水洗なし基材、実施例1の水洗あり基材、比較例4の基材について、マウス線維芽細胞を用いて細胞シート剥離性評価を実施した。その結果、比較例4<実施例1(水洗なし)<実施例1(水洗あり)の順に良好な剥離性を示した。これは、ポリスチレンデンドリティックポリマー部位を基材に埋め込むことにより、表面を効果的にPNIPAMで被覆し、さらに、水洗により余分なポリマーを除去したことによる効果であると考えられる。一方、比較例4はPNIPAMの被覆量、被覆率ともに不足していたため、実施例1と比べ剥離時間が長くなったものと考えられる。
上記[実施例1(水洗あり)の評価]において、水洗により初期塗布量の約半分のポリマーが除去されることが確認された。そこで、より良好な細胞シート剥離性を目指し、基材に対するポリマー固定化量を増加させる試みを以下の通り行った。
[実施例2の評価]
実施例2においては、コーティング溶媒中のTHF含量を20体積%から29体積%に増加させた。その効果についてPNIPAM被覆量と被覆率の両面から評価した。その結果、FT−IR−ATR測定により、実施例1と比べ水洗後のPNIPAM被覆量が約20%増加したことが確認され、それに伴いエッチング深さ2nmに対するPNIPAM被覆率、及びPNIPAM被覆率が5nm以下となるエッチング深さもやや増加した。
上記で得られた実施例2の基材を、マウス線維芽細胞を用いて細胞シート剥離性評価を実施した結果、「水洗なし」/「水洗あり」のどちらにおいても実施例1より良好な剥離性を示した。特に「水洗あり」は極めて良好な剥離性を発現し、評価5を得た。
[実施例3及び4の評価]
さらに優れた剥離性を目指し、実施例3、4においては、ポリマー中のPNIPAM含量が95重量%のデンドリティックブロックコポリマーを用いた温度応答性細胞培養基材を作製した。ポリマー中のPNIPAM含量が85%である実施例1、2の結果と比較したところ、特に「THF含量29%、水洗あり」の基材において、PNIPAM被覆量、各エッチング深さにおける被覆率、PNIPAM存在深さに増加傾向が見られた。デンドリティックブロックコポリマー中のPNIPAM鎖が長鎖化した効果と考えられる。
上記で得られた実施例3、4のそれぞれの基材について、マウス線維芽細胞を用いて細胞シート剥離性評価を実施した。その結果、「水洗なし」の基材については実施例1,2と同様の結果であったものの、「水洗あり」基材については実施例1,2と比べさらに良好な剥離性を示した。特に「THF含量29%、水洗あり」の基材においては極めて短い時間である8分で剥離させることができた。
[比較例1の評価]
比較例1の基材においては、温度応答性ポリマーで表面を被覆していないため、上述したような細胞剥離性は発現しなかった。
[比較例2、3の評価]
比較例2では、比較製造例1にて得られたPNIPAMを塗布した基材について評価したが、細胞剥離性は発現しなかった。このPNIPAMは、基材に対する結合手段を有していないことから、培地(水)を添加した際に溶解し、除去されたためと考えられる。比較例3は、比較例2の基材を水洗したものであり、PNIPAMによる表面の被覆が確認できなかった。PNIPAMが基材と結合していないため、塗布したすべてのPNIPAMが水洗の時点で既に除去されたためと考えられる。そのため、比較例3においては細胞剥離性が発現しなかった。
Figure 0006879365
[実施例1(水洗あり)の評価]
実施例1の水洗あり基材について、室温水に対するポリマー溶出試験を行った。具体的には、試料を室温水に浸漬後、表面のPNIPAM被覆率がどの程度変化するかについて、先述のXPS(分析深さ約10nm)、及びFT−IR−ATR(分析深さ1〜数μm)を利用した方法により分析した。比較例4として、電子線照射を用いたグラフト重合法により、PNIPAMをポリスチレン基材に化学的に付与した市販品温度応答性細胞培養基材についても、同様に測定した。
XPSを用いた評価について、以下の手順で行った。
1.各基材を適当な大きさにカットし、試料とした。
2.各試料の裏側に、マジックペンで目印をつけた。この時、n=2で測定を行うため、二箇所に目印をつけた。
3.上記2.の目印部分について、XPS分析を行った。
4.測定後の試料を装置から取り出し、蒸留水を充填した50mlのスクリュー管瓶に浸漬させた。この時、水温は20℃であった。
5.24時間後に4.の試料を取り出し、乾燥させたのち、再度目印部分についてXPS分析を行った。
6.浸漬前後の測定値から、先述したとおりPNIPAM被覆率を計算した。また、それぞれの値から計算した変化率を、溶出試験後のPNIPAM残存率として示した。
計算結果を表2に示す。
Figure 0006879365
評価の結果、分析深さ約10nmにおいて、実施例1の基材は溶出試験前後でPNIPAM残存率に変化が見られなかった。それに対して、PNIPAMを基材表面に化学的に結合させた比較例4においては明らかに被覆率が低下しており、ポリマーが溶出していることが示唆された。
次に、FT−IR−ATRを用いた評価について、以下の手順で行った。
1.各基材を適当な大きさにカットし、試料とした(約1.5cm四方のものを2枚ずつ用意した)。
2.50mlスクリュー管瓶に蒸留水を充填した。この時、水温は20℃であった。
3.上記2.の蒸留水に上記1.の試料を1枚浸漬させ、24時間後に取り出した。
4.浸漬あり、なしの各試料についてFT−IR−ATR分析を行い、検量線法により各表面のPNIPAM量を分析した(各試料につき5点ずつ測定した)。
5.PNIPAM残存率を次式に従って計算した。
(浸漬ありの際のPNIPAM量/浸漬なしの際のPNIPAM量)×100(%)
計算結果を表3に示す。
Figure 0006879365
PNIPAMをグラフト重合により表面に化学結合させた比較例4に対し、実施例1の基材においてはPNIPAMの溶出が少ない事が明らかとなった。

Claims (10)

  1. (A)温度応答層;及び
    (B)基材層
    を含有する温度応答性細胞培養基材であって、
    前記温度応答層(A)は、窒素原子を有する温度応答性ポリマーがデンドリティックポリマーの末端に結合したブロックポリマーを含有し、
    前記温度応答層(A)は、前記基材層(B)の少なくとも一方の面に配置されており、 前記基材層(B)は、窒素原子を有さず、かつ
    前記温度応答層(A)側の表面は、放出角45°におけるX線光電子分光法で測定される窒素元素濃度N1s及び炭素元素濃度C1sが、以下の数式(1):
    (1)100×(N1s/C1s)/(N/C)≧80
    (数式中、N/Cは、前記温度応答性ポリマーにおける各元素比の理論値を表わす)
    を満たし、かつ
    前記温度応答層(A)側の表面の中心点、及び
    該中心点から各端点までの距離の合計が最大となるように設定された、該中心点を交点とする十字線における、各端点と中心点とを結ぶ線の中心点
    からなる5点における、前記温度応答性ポリマー固定化量の測定値から算出された変動係数[(標準偏差/平均値)×100]が、以下の数式(4):
    (4)変動係数≦10
    を満たす、温度応答性細胞培養基材。
  2. 前記温度応答層(A)側の表面は、アルゴンガスクラスターイオンビームにより表面側からエッチングしながら、X線光電子分光法により測定されるN1sとC1sとが、以下の条件(A)を満たす、請求項1に記載の温度応答性細胞培養基材:
    (A)前記窒素原子について、エッチング深さ2nmにおける測定値が、以下の数式(2)を満たす:
    (2)100×(N1s/C1s)/(N/C)≧50
    (数式中、N/Cは、前記と同じ意味を表わす)。
  3. 前記温度応答層(A)側の表面に、前記温度応答性ポリマーが、1〜10μg/cm固定化されている、請求項1又は2に記載の温度応答性細胞培養基材。
  4. 前記デンドリティックポリマーが、スチレン骨格又はシロキサン骨格のデンドリティックポリマーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の温度応答性細胞培養基材。
  5. 前記温度応答性ポリマー固定化量の測定値が、フーリエ変換赤外分光全反射減衰法(FT-IR-ATR法)によるものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の温度応答性細胞培養基材。
  6. 前記温度応答性ポリマーの少なくとも一種が、
    (メタ)アクリルアミド、N−(若しくはN,N−ジ)置換(メタ)アクリルアミド及びビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種を含むモノマー組成物を重合することにより得られうる温度応答性ポリマー、又は
    ポリビニルアルコール部分酢化物
    である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の温度応答性細胞培養基材。
  7. 前記N−(若しくはN,N−ジ)置換(メタ)アクリルアミドが、ポリ−N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、及びポリ−N、N−ジメチル(メタ)アクリルアミドからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項6に記載の温度応答性細胞培養基材。
  8. 前記基材層(B)がポリスチレンを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の温度応答性細胞培養基材。
  9. リユース用である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の温度応答性細胞培養基材。
  10. (a)ブロックポリマーであって、スチレン骨格又はシロキサン骨格のデンドリティックポリマーの末端に、温度応答性ポリマーが結合したブロックポリマーが溶解してなる、ポリスチレンの良溶媒と貧溶媒とを含む溶液を、ポリスチレン基材表面に滴下し、展開させる工程;
    (b)前記工程(a)で得られた表面を、2時間以上、前記溶媒の蒸気下に置く工程;及び
    (c)前記工程(b)で得られた表面を、水洗し、さらに乾燥させる工程を含む、温度応答性細胞培養基材の製造方法。
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