以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
<樹脂エマルション>
本発明の一実施形態の樹脂エマルション(以下、単に「樹脂エマルション」と記載することがある。)は、内層と、その内層を取り囲んだ保護層とを含む樹脂粒子を含有する樹脂エマルションである。内層は、シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコーン成分を含む内層形成成分が重合したシリコーン含有重合体で形成されたものである。保護層は、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体(d)1〜45質量%、及びカルボキシ基含有重合性単量体(d)以外の重合性単量体(e)を含む保護層形成成分が重合したカルボキシ基含有重合体で形成されたものである。そして、この樹脂エマルションでは、上記樹脂粒子のレーザー回折・散乱法による平均粒子径DAと、動的光散乱法による平均粒子径DBとの比であるDA/DBは、上記カルボキシ基含有重合体で形成された保護層により、0.90以下である。
本明細書及び特許請求の範囲(以下、「本明細書等」と記載する。)において、「重合性単量体」とは、分子中に、重合性二重結合及び重合性三重結合等の重合性不飽和結合を少なくとも1つ有する、ラジカル重合性の単量体を意味する。本明細書等においては、後述する通り、樹脂エマルションにおける樹脂粒子の内層形成成分に用いることが可能な「重合性単量体」を「重合性単量体(C)」と記載し、保護層形成成分に用いられる「重合性単量体」を「重合性単量体(c)」と記載することがある。本明細書等における「重合」には、例えば、単独重合及び共重合、並びにラジカル重合(例えば乳化重合、溶液重合等)及びアニオン重合等の連鎖重合、重縮合及び重付加等の逐次重合等の種々の重合が含まれ得る。
また、本明細書等において、「内層形成成分」とは、樹脂エマルションにおける樹脂粒子の内層を形成する成分を表す文言であり、「保護層形成成分」とは、樹脂エマルションにおける樹脂粒子の保護層を形成する成分を表す文言である。ただし、上記の通り、樹脂粒子には、シリコーン成分(シリコーンオリゴマー及び/又は加水分解性シラン化合物)、並びに重合性単量体が必須として用いられることから、これらのうちで、内層に用いられた成分をまとめて「内層形成成分」と称し、保護層に用いられた成分をまとめて「保護層形成成分」と称することとする。なお、樹脂粒子(内層及び保護層)を形成する成分には、シリコーンオリゴマー、加水分解性シラン化合物、及び重合性単量体以外のものが含まれていてもよい。
本明細書等において、樹脂粒子のレーザー回折・散乱法による平均粒子径DAは、樹脂エマルションについて、レーザー回折・散乱法によって、屈折率1.45−0.50iの条件下で測定される、体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50)を意味する。平均粒子径DAは、レーザー回折・散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
レーザー回折・散乱法では、液状媒体中に分散された粒子試料をレーザー光が通過する際に散乱する光の強度の角度依存性を測定することで、粒子径を測定する。大きな粒子の場合、レーザー光に対して小さい角度で光が散乱し、小さい粒子の場合は大きな角度までほぼ同じ強度で光が散乱する。その後、角度ごとのデータを解析し、フランホーファ回折理論やミー散乱理論等を使用して、回折・散乱パターンを作り出している粒子径を計算する。このように、レーザー回折・散乱法では、分散された粒子試料をレーザー光が通過する際に散乱する光の強度の角度変化を測定することで粒度分布を測定する。このことから、測定対象のエマルションが、粒子の表面に保護層や水溶性保護コロイドを有する場合、レーザー光は、保護層や保護コロイドを透過するため、コア粒子のみの粒子径が測定される傾向にあると考えられる。
また、本明細書等において、樹脂粒子の動的光散乱法による平均粒子径DBは、樹脂エマルションについて動的光散乱法によって測定される、キュムラント法解析の平均粒子径を意味する。平均粒子径DBは、動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
溶液や懸濁液中でブラウン運動をしている粒子にレーザー光を照射すると、粒子からの散乱光には拡散係数に応じた揺らぎが生じる。大きな粒子は動きが遅いので散乱光強度の揺らぎは緩やかであり、一方、小さな粒子は動きが速いので散乱光強度の揺らぎは急激に変化する。動的光散乱法では、この拡散係数を反映した散乱光の揺らぎを検出し、ストークス・アインシュタイン式等を利用して粒子径を測定し、キュムラント法により平均粒子径が算出される。このように、動的光散乱法では、粒子のブラウン運動の速度に対応した揺らぎを観測するため、測定対象のエマルションが、粒子の表面に保護層や水溶性保護コロイドを有する場合、それらを含めた粒子径が測定される傾向にあると考えられる。
本発明の一実施形態の樹脂エマルションは、内層と、その内層を取り囲んだ保護層とを含む樹脂粒子を含有する。この樹脂粒子は、その保護層に起因して、樹脂エマルションについて測定される、動的光散乱法による平均粒子径DBに対する、レーザー回折・散乱法による平均粒子径DAの比(DA/DB)が0.90以下である。樹脂エマルションにおける樹脂粒子は、内層を取り囲んだ保護層を含むことから、上述の通り、その樹脂粒子の平均粒子径DAは、ほぼ内層のサイズに基づく値として測定されると考えられる。一方、上述の通り、樹脂粒子の平均粒子径DBは、内層及び保護層を含む樹脂粒子全体のサイズに基づく値として測定されると考えられる。そのため、樹脂エマルションにおける樹脂粒子のレーザー回折・散乱法による平均粒子径DAは、動的光散乱法による平均粒子径DBよりも小さく、平均粒子径DBの0.90倍以下となると考えられる。
なお、レーザー回折・散乱法による平均粒子径DAの測定においては、内層に含まれるシリコーン成分(シリコーンオリゴマー(A)及び/又は加水分解性シラン化合物(B))と、内層形成成分(シリコーン成分や、それとともに内層形成成分にさらに使用されてもよい後述する重合性単量体(C))に含まれる有機基(例えばアルキル基等)とで屈折率が異なることから、DAの上記測定条件下では、DAは、内層における有機基に基づく値として測定され、さらに小さい値として測定されると考えられる。ただし、仮に、上記の屈折率差の影響を考慮しない場合、すなわち、仮に、樹脂粒子の内層にシリコーン成分を用いない場合でも、上記保護層を含む樹脂粒子であれば、DA/DBが0.90以下となり得る。
上記保護層によって、DA/DBが0.90以下である樹脂粒子を含有する樹脂エマルションは、例えば、保護層となるカルボキシ基含有重合体を含む重合液中であって、高分子乳化剤のような働きをさせるべく中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液中で、内層形成成分を重合させることで得ることができる。この製造方法については、後記「樹脂エマルションの製造方法」の説明において詳述するが、その概略は次の通りである。まず、水性媒体中で、界面活性剤及び重合開始剤の存在下、保護層形成成分を重合させて、カルボキシ基含有重合体を合成する。次いで、そのカルボキシ基含有重合体におけるカルボキシ基の一部又は全部を塩基性物質で中和する。これにより、合成されたカルボキシ基含有重合体が、水性媒体中に溶解したり、一部に親水性を有したりするようになり、ある種の高分子乳化剤のように作用する。そして、このような状態にある中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液中で、内層形成成分を重合させる。中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液に内層形成成分を添加すると、カルボキシ基含有重合体が、高分子乳化剤的な働きによって内層形成成分を取り囲み、その状態で、内層形成成分が重合したシリコーン含有重合体を合成することができる。これにより、シリコーン含有重合体で形成された内層と、その内層を取り囲む、カルボキシ基含有重合体で形成された保護層とを含むとともに、DA/DBが0.90以下である樹脂粒子を含有する樹脂エマルションを安定して得ることができる。
樹脂エマルションにおける樹脂粒子は、シリコーン含有重合体で形成された内層を含むため、この樹脂エマルションは、耐候性が良好な膜を形成することが可能である。また、樹脂粒子は、内層を取り囲んでいるカルボキシ基含有重合体で形成された保護層を含み、その保護層により、DA/DBが0.90以下であるため、この樹脂エマルションは、樹脂粒子にシリコーン成分を含有しながら、しかもその含有率が高い場合でも、成膜性が良好で均一な膜を形成することが可能である。以下、この樹脂エマルションにおける樹脂粒子の内層及び保護層のそれぞれについて詳細に説明する。
[内層]
樹脂エマルションにおける樹脂粒子の内層は、シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコーン成分を含む内層形成成分が重合したシリコーン含有重合体で形成されている。そのため、この樹脂エマルションを用いて得られる膜の耐候性を高めることが可能である。
(シリコーンオリゴマー(A))
シリコーンオリゴマー(A)は、無機質のシロキサン結合(Si−O−Si)による主骨格(主鎖)を有するとともに側鎖に有機基を有するオリゴマーである。シロキサン結合(Si−O−Si)は、炭素−炭素結合(C−C結合)に比べて、結合エネルギーが大きいことなどから、耐候性及び耐熱性等に優れる。そのため、シリコーンオリゴマー(A)を樹脂エマルションにおける樹脂粒子の内層に用いることで、樹脂エマルションを用いて形成される膜の耐候性及び耐熱性等を高めることが期待できる。
シリコーンオリゴマー(A)は、加水分解性シランの縮合物である。シリコーンオリゴマー(A)としては、下記一般式(1)で表される加水分解性シランの縮合物が好ましい。このようなシリコーンオリゴマー(A)は、下記一般式(1)で表される加水分解性シランの1種又は2種以上を加水分解縮合して得られる。
(R1)a−Si−(R2)4−a (1)
一般式(1)中、aは0〜3の整数を表し、R1は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換若しくは非置換の一価炭化水素基を表し、R2は、それぞれ独立して、加水分解性基を表す。aが2又は3である場合において、各R1は同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。また、aが0、1、又は2である場合において、各R2は同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。
一般式(1)において、ケイ素原子に結合するR1が、置換又は非置換の一価炭化水素基を表す場合、その置換又は非置換の一価炭化水素基の全炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましい。
R1がとりうる一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、及びデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、及び2−ブテニル基等のアルケニル基;フェニル基、ビニルフェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、及びフェニルプロピル基等のアラルキル基;等を挙げることができる。また、これらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部が他の原子や基で置換された基(置換基)を有するものを置換の一価炭化水素基として挙げることができる。そのような置換基としては、例えば、塩素原子、フッ素原子、及び臭素原子等のハロゲン原子、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、グリシジルオキシ基、メルカプト基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、カルボキシ基、シアノ基、及びイソシアネート基等を挙げることができる。一般式(1)中のR1は、それぞれ独立して、置換若しくは非置換の炭素原子数1〜10のアルキル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又はビニル基を表すことが好ましく、非置換の炭素原子数1〜6のアルキル基、又は非置換のフェニル基を表すことがより好ましい。
一般式(1)において、ケイ素原子に結合するR2で表される加水分解性基としては、アルコキシ基、アルコキシ置換アルコキシ基、アシルオキシ基、アルケニルオキシ基、ケトオキシム基、アミノ基、アミノオキシ基、アミド基、ヒドロキシ基、及びエポキシ基等を挙げることができる。R2の少なくとも1つは、アルコキシ基であることが好ましい。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、及びブトキシ基等;アルコキシ置換アルコキシ基としては、例えば、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、及びメトキシプロポキシ基等;アシルオキシ基としては、例えば、アセトキシ基、オクタノイロキシ基、及びベンゾイロキシ基等;アルケニルオキシ基としては、例えば、ビニロキシ基、プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基、及びシクロヘキセニルオキシ基等;ケトオキシム基としては、例えば、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、及びジエチルケトオキシム基等;アミノ基としては、例えば、N−メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−ブチルアミノ基、及びシクロヘキシルアミノ基等;アミノオキシ基としては、例えば、N,N−ジメチルアミノオキシ基、及びN,N−ジエチルアミノオキシ基等;アミド基としては、例えば、N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基、及びN−メチルベンズアミド基等;をそれぞれ挙げることができる。
好適なシリコーンオリゴマー(A)としては、例えば、下記一般式(2)〜(4)のいずれかで表されるシリコーンオリゴマーを挙げることができる。
一般式(2)〜(4)中の各R1及びR2は、それぞれ、上述した一般式(1)中のR1及びR2と同義である。一般式(2)〜(4)中のnは、1〜999の整数を表す。
一般式(2)〜(4)中のR1は、それぞれ独立して、置換若しくは非置換の炭素原子数1〜10のアルキル基、置換若しくは非置換のフェニル基、又はビニル基を表すことが好ましく、非置換の炭素原子数1〜6のアルキル基、又は非置換のフェニル基を表すことがより好ましい。一般式(2)〜(4)中のR2は、アルコキシ基を表すことが好ましく、メトキシ基又エトキシ基を表すことがより好ましい。一般式(2)〜(4)中のnは、2〜50の整数であることが好ましく、2〜20の整数であることがより好ましい。シリコーンオリゴマー(A)は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
シリコーンオリゴマー(A)は、上述の通り、アルコキシ基を有することが好ましく、そのシリコーンオリゴマー(A)中のアルコキシ基の量は、2〜50質量%であることがより好ましく、2〜30質量%であることがさらに好ましい。シリコーンオリゴマー(A)中のアルコキシ基の量が上記範囲であることにより、樹脂エマルションの製造安定性が良好となる。
好適なシリコーンオリゴマー(A)としては、例えば、アルキル基及びアルコキシ基を有するシリコーンオリゴマー(アルキルアルコキシシリコーンオリゴマー);アルキル基及びアリール基、並びにアルコキシ基を有するシリコーンオリゴマー(アルキルアリールアルコキシシリコーンオリゴマー);反応性官能基である上記置換基(より好ましくはエポキシ基、グリシジルオキシ基、メルカプト基、アクリロイルオキシ基、又はメタクリロイルオキシ基)を有する炭化水素基、及びアルコキシ基を有するシリコーンオリゴマー;等を挙げることができる。これらのなかでも、アルキルアルコキシシリコーンオリゴマーやアルキルアリールアルコキシシリコーンオリゴマーがより好ましい。これらのなかでも、メチル基及びメトキシ基を有するシリコーンオリゴマー(メチルメトキシシリコーンオリゴマー);メチル基及びフェニル基、並びにメトキシ基を有するシリコーンオリゴマー(メチルフェニルメトキシシリコーンオリゴマー)がさらに好ましい。
シリコーンオリゴマー(A)としては、上記一般式(1)で表される加水分解性シランを加水分解縮合して得られた調製物を用いてもよい。この調製物を用いる場合は、この調製物をシリコーンオリゴマー(A)として用いた際の樹脂エマルションの製造安定性を良好にする観点から、加水分解性シランを加水分解縮合した後、その際に副生し得るアルコールが除去処理されたものを用いることが好ましい。
樹脂エマルションにおける樹脂粒子の内層には、上述したシリコーンオリゴマー(A)の1種又は2種以上を用いることができる。なお、シリコーンオリゴマー(A)は、樹脂粒子の内層のほか、樹脂粒子の保護層にも使用されてもよいが、内層及び保護層のうちの内層のみに用いられる方が、カルボキシ基含有重合性単量体を使用する上での樹脂エマルションを製造しやすい観点からより好ましい。
(加水分解性シラン化合物(B))
加水分解性シラン化合物(B)は、加水分解性シリル基を有する化合物である。加水分解性シラン化合物(B)は、シリコーン構造の架橋密度を付与する成分として機能し得る成分である。加水分解性シラン化合物(B)としては、シリコーンオリゴマー(A)の説明で挙げた一般式(1)で表される加水分解性シランと同じように、下記一般式(5)で表される加水分解性シラン化合物(B)が好ましい。
(R3)b−Si−(R4)4−b (5)
一般式(5)中、bは0〜3の整数を表し、R3は、それぞれ独立して、水素原子、又は置換若しくは非置換の一価炭化水素基を表し、R4は、それぞれ独立して、加水分解性基を表す。bが2又は3である場合において、各R3は同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。また、bが0、1、又は2である場合において、各R4は同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。bは1又は2であることが好ましい。
一般式(5)において、ケイ素原子に結合するR3が、置換又は非置換の一価炭化水素基を表す場合、その置換又は非置換の一価炭化水素基の全炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましい。一般式(5)中のR3がとりうる一価炭化水素基の具体例としては、上述した一般式(1)中のR1がとりうる一価炭化水素基の説明で挙げた基と同じものを挙げることができる。また、一般式(5)において、ケイ素原子に結合するR4で表される加水分解性基の具体例としては、上述した一般式(1)中のR2で表される加水分解性基の説明で挙げた基と同じものを挙げることができる。
一般式(5)で表される加水分解性シラン化合物(B)のなかでも、一般式(5)中のR3は、それぞれ独立して、炭素原子数1〜10のアルキル基、フェニル基、ビニル基、炭素原子数1〜10のアクリル酸アルキル基(アクリロイルオキシアルキル基)、又は炭素原子数1〜10のメタクリル酸アルキル基(メタクリロイルオキシアルキル基)を表すことが好ましく、メチル基、フェニル基、ビニル基、3−アクリロキシプロピル基、又は3−メタクリロキシプロピル基を表すことがより好ましい。また、一般式(5)で表される加水分解性シラン化合物(B)のなかでも、一般式(5)中のR4は、それぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、又はヒドロキシ基を表すことが好ましい。
一般式(5)中のbが1である加水分解性シラン化合物(B)としては、例えば、メチルトリメトシキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
一般式(5)中のbが2である加水分解性シラン化合物(B)としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及びN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、及び3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。一般式(5)中のbが3である加水分解性シラン化合物(B)としては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、及びトリエチルエトキシシラン等を挙げることができる。一般式(5)中のbが0である加水分解性シラン化合物(B)としては、例えば、テトラエトキシシラン等を挙げることができる。
上記に挙げた加水分解性シラン化合物(B)のなかでも、加水分解性シラン化合物(B)は、一般式(5)中のR3の1つが、ビニル基、又は炭素原子数1〜10の(メタ)アクリル酸アルキル基(アクリロイルオキシアルキル基又はメタクリロイルオキシアルキル基)である、ラジカル重合性の加水分解性シラン化合物を含むことが好ましい。このようなラジカル重合性の加水分解性シラン化合物として、例えば、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びビニルトリエトキシシラン等を挙げることができる。上記ラジカル重合性の加水分解性シラン化合物の含有量は、内層形成成分及び保護層形成成分の総質量を基準として、0.1〜3質量%であることが好ましく、0.2〜2質量%であることがより好ましい。ラジカル重合性の加水分解性シラン化合物を用いることによって、樹脂エマルションを用いて得られる膜の耐ブロッキング性及び耐水性を高めることが期待できる。
加水分解性シラン化合物(B)として、上述したシラン化合物の環状物である環状シランを用いてもよい。環状シランとしては、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及びテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等を挙げることができる。
樹脂エマルションにおける樹脂粒子の内層には、上述した加水分解性シラン化合物(B)の1種又は2種以上を用いることができる。例えば、一般式(5)中のbが1である加水分解性シラン化合物を主として用いることによって、架橋密度を高めて、得られる膜の耐水性等を高めることが期待できる。また、例えば、一般式(5)中のbが1である加水分解性シラン化合物と、bが2である加水分解性シラン化合物及び/又は上記環状シランとを組み合わせて用いることによって、架橋密度を調整して、得られる膜の可撓性を調整し得る。なお、加水分解性シラン化合物(B)は、樹脂粒子の内層のほか、樹脂粒子の保護層にも使用されてもよいが、内層及び保護層のうちの内層のみに用いられる方が、カルボキシ基含有重合性単量体を使用する上での樹脂エマルションを製造しやすい観点からより好ましい。
内層(シリコーン含有重合体)中のシリコーン成分(シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)の合計)の含有量は、内層形成成分の全質量を基準として、10〜100質量%であることが好ましい。本明細書等において、シリコーン成分の含有量は、シリコーン成分のうちシリコーンオリゴマー(A)のみが用いられる場合、シリコーンオリゴマー(A)の含有量を意味する。また、シリコーン成分の含有量は、シリコーン成分のうち加水分解性シラン化合物(B)のみが用いられる場合、加水分解性シラン化合物(B)の含有量を意味する。さらに、シリコーン成分の含有量は、シリコーン成分のうち、シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)の両方が用いられる場合、シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)の合計の含有量を意味する。内層中のシリコーン成分の含有量は、10〜99.9質量%であることがより好ましく、50〜99.9質量%であることがさらに好ましく、70〜99.9質量%であることがよりさらに好ましい。
内層中のシリコーン成分の含有量が10〜100質量%である場合において、内層(シリコーン含有重合体)中のシリコーンオリゴマー(A)の含有量は、内層形成成分の全質量を基準として、0〜60質量%であることが好ましい。このシリコーンオリゴマー(A)の含有量は、1〜50質量%であることがより好ましく、1〜40質量%であることがさらに好ましく、1〜35質量%であることがよりさらに好ましい。
また、内層中のシリコーン成分の含有量が10〜100質量%である場合において、内層(シリコーン含有重合体)中の加水分解性シラン化合物(B)の含有量は、内層形成成分の全質量を基準として、0〜95質量%であることが好ましい。この加水分解性シラン化合物(B)の含有量は、5〜95質量%であることがより好ましく、15〜95質量%であることがさらに好ましく、30〜95質量%であることがよりさらに好ましい。
内層形成成分中のシリコーン成分(シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)の合計)の質量に占める、シリコーンオリゴマー(A)の質量の割合は、5〜70質量%であることが好ましい。これにより、樹脂エマルションの成膜性がより良好となり、その樹脂エマルションを用いることで、よりきれいで透明性のある均一な膜を形成しやすくなる。その観点から、内層形成成分中のシリコーン成分の質量に占める、シリコーンオリゴマー(A)の質量の割合は、5〜60質量%であることがより好ましく、5〜50質量%であることがさらに好ましい。
(重合性単量体(C))
内層形成成分は、上述のシリコーンオリゴマー(A)及び/又は加水分解性シラン化合物(B)のほか、さらに重合性単量体(C)を含むことが好ましい。内層形成成分に用いることが可能な重合性単量体(C)には、重合性不飽和結合を少なくとも1つ有する単量体を用いることができる。重合性不飽和結合としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、3−ブテニル基、及びエチニル基等を挙げることができるが、ラジカル重合し得る基であれば、これらに限定されない。重合性単量体(C)は、重合性不飽和結合の1種又は2種以上を有していてもよい。なお、本明細書等において、重合性不飽和結合を有する加水分解性シラン化合物については、上述した加水分解性シラン化合物(B)に分類するものとする。
重合性単量体(C)としては、例えば、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体(D)、及びそのカルボキシ基含有重合性単量体(D)以外の重合性単量体(E)等を挙げることができる。樹脂エマルションにおける樹脂粒子の内層に重合性単量体(C)を用いる場合には、カルボキシ基含有重合性単量体(D)以外の重合性単量体(E)を少なくとも用いることが好ましい。
重合性単量体(C)は、カルボキシ基含有重合性単量体(D)以外の重合性単量体(E)として、(メタ)アクリル酸エステルを含むことがより好ましい。本明細書等において、「(メタ)アクリル」との文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。また、同様に、「(メタ)アクリレート」との文言には、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、及びヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル、並びにそれら以外の他の(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。これらの(メタ)アクリル酸エステルの1種又は2種以上を用いることができる。これらのなかでも、内層形成成分における重合性単量体(E)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることがさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。この(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基の炭素原子数は、1〜22であることが好ましく、1〜16であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ウンデシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルの具体例としては、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、及び2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、及びナフチルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、及びナフチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
ヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、及び[4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシル]メチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
他の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;2−クロロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、及びパーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2−(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2−(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、及び3−(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体;2−スルホエチル(メタ)アクリレート、及び3−スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート;2−(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸2−イソシアナトエチル等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、及びフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキル基又はアリール基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
カルボキシ基含有重合性単量体(D)以外の重合性単量体(E)としては、上述の(メタ)アクリル酸エステルのほか、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、及びα−クロロアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−[2−ジメチルアミノエチル](メタ)アクリルアミド、N−[3−ジメチルアミノプロピル](メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、4−アクリロイルモルホリン、及び4−メタクリロイルモルホリン等のアクリルアミド系単量体;酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニル等の飽和脂肪族カルボン酸ビニルエステル単量体;スチレン、α−メチルスチレン、及びビニルトルエン等のスチレン系単量体;等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
内層(シリコーン含有重合体)中の重合性単量体(E)の含有量は、内層形成成分の全質量を基準として、0〜90質量%とすることができる。重合性単量体(E)を用いる場合、重合性単量体(E)の上記含有量は、0.1〜90質量%であることが好ましく、0.1〜50質量%であることがより好ましく、0.1〜30質量%であることがさらに好ましい。
(カルボキシ基含有重合性単量体(D))
本明細書において、カルボキシ基含有重合性単量体には、不飽和カルボン酸等のカルボキシ基を有する重合性単量体のほか、水等の水性媒体に溶解すると加水分解して不飽和カルボン酸を生じる不飽和カルボン酸無水物も含まれるものとする。カルボキシ基含有重合性単量体(D)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、及びシトラコン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、及びイタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステル;カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート等のカルボキシ基含有(メタ)アクリレート;等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
[保護層]
樹脂エマルションにおける樹脂粒子の保護層は、保護層形成成分が重合したカルボキシ基含有重合体で形成されている。保護層(カルボキシ基含有重合体)は、内層の周囲に内層を取り囲んだ状態で設けられていればよく、例えば、内層に吸着していてもよく、内層(内層形成成分)と保護層(保護層形成成分)とで共有結合していてもよい。保護層形成成分には、上述した内層形成成分に用いることが可能な「重合性単量体(C)」と同様の「重合性単量体(c)」を用いることができる。ただし、保護層形成成分は、重合性単量体(c)として、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体(d)1〜45質量%、及びカルボキシ基含有重合性単量体(d)以外の重合性単量体(e)を含む必要がある。
(カルボキシ基含有重合性単量体(d))
保護層形成成分におけるカルボキシ基含有重合性単量体(d)としては、上述の「カルボキシ基含有重合性単量体(D)」の説明で挙げた具体例をいずれも用いることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。それらのなかでも、カルボキシ基含有重合性単量体(d)として、(メタ)アクリル酸を用いることが好ましい。
保護層(カルボキシ基含有重合体)中のカルボキシ基含有重合性単量体(d)の含有量は、保護層形成成分の全質量を基準として、1〜45質量%である。内層を取り囲む構成を持つ保護層を形成しやすい観点から、カルボキシ基含有重合性単量体(d)の上記含有量は、2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることがさらに好ましい。一方、樹脂エマルションを用いて得られる膜の耐水性を良好にする観点から、カルボキシ基含有重合性単量体(d)の上記含有量は、40質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。
(カルボキシ基含有重合性単量体(d)以外の重合性単量体(e))
保護層形成成分における、カルボキシ基含有重合性単量体(d)以外の重合性単量体(e)としては、上述の「重合性単量体(E)」の説明で挙げた具体例をいずれも用いることができ、それらの1種又は2種以上を用いることができる。それらのなかでも、重合性単量体(e)は、(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。保護層形成成分には、重合性単量体(e)として、(メタ)アクリル酸エステルの1種又は2種以上を用いることが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの1種又は2種以上を用いることがより好ましい。この(メタ)アクリル酸アルキルエステルのなかでも、炭素原子数が1〜12(より好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜8)のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
保護層(カルボキシ基含有重合体)中のカルボキシ基含有重合性単量体(d)以外の重合性単量体(e)の含有量は、保護層形成成分の全質量を基準として、55〜99質量%であることが好ましく、55〜98質量%であることがより好ましく、55〜95質量%であることがさらに好ましい。
保護層を形成しているカルボキシ基含有重合体は、前述の通り、内層を取り囲み、樹脂粒子のDA/DBが0.90以下となるように、カルボキシ基含有重合性単量体(d)に由来するカルボキシ基の一部又は全部が中和されているものが好ましい。より具体的には製造方法の観点から述べることができ、水性媒体中で内層形成成分を重合させてシリコーン含有重合体を合成する際に、上記水性媒体中に、カルボキシ基の一部又は全部が塩基性物質(第1の塩基性物質)で中和されたカルボキシ基含有重合体が存在することがより好ましい。
カルボキシ基含有重合体は、塩基性物質で中和されたカルボキシ基を有することが好ましく、−COOM(Mは塩基性物質に由来する塩構造となるための対イオンを表す)で表される基を有することがより好ましい。上記Mとしては、例えば、カリウムイオン及びナトリウムイオン等のアルカリ金属イオン;アンモニウムイオン;並びにアンモニウムイオンにおける1〜4個の水素原子が有機基に置換された有機アンモニウムイオン(例えば、モノ,ジ,トリ,又はテトラメチルアンモニウムイオン、モノ,ジ,トリ,又はテトラエチルアンモニウムイオン、モノ,ジ,又はトリエタノールアンモニウムイオン等)等を挙げることができる。
以上に述べた樹脂粒子は上述の保護層を含むため、樹脂中のシリコーン成分(シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)の合計)の含有量の広範囲にわたって、樹脂エマルションを用いて均一な膜を形成することが可能である。具体的には、シリコーン成分の含有量は、内層形成成分及び保護層形成成分の総質量を基準として、5〜95質量%とすることができる。このような広範囲にわたって、樹脂エマルションを用いて均一な膜を形成することが可能である。樹脂エマルションを用いて得られる膜におけるシリコーン成分に起因した機能(例えば、耐候性、耐熱性、耐水性、耐汚染性、及び耐クラック性等)が高まりやすい観点から、シリコーン成分の上記含有量は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
ここで、従来技術では、耐候性及び耐熱性等のシリコーン成分に起因した機能を高めるべく、シリコーン成分の含有量を多くすると、均一な膜を形成し難くなる。これに対し、本発明の一実施形態の樹脂エマルションは、その樹脂粒子が上述の保護層を含むため、シリコーン成分の含有量を多くすることで、耐候性及び耐熱性等の機能を高めやすくすること可能でありながら、均一な膜を形成することが可能である。このような観点から、上記シリコーン成分(シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)の合計)の含有量は、50〜95質量%であることが好ましく、70〜95質量%であることがより好ましく、75〜95質量%であることがさらに好ましい。
内層形成成分及び保護層形成成分の総質量に占める、保護層形成成分の質量の割合は、1〜90質量%であることが好ましい。これにより、樹脂エマルションの成膜性をより良好にすることが可能となる。この観点から、保護層形成成分の質量の上記割合は、1〜80質量%であることがより好ましく、1〜70質量%であることがさらに好ましい。
[水性媒体]
樹脂エマルションは、前述した樹脂エマルションの製造方法の概略の通り、分散質である前述の樹脂粒子の分散媒として、水性媒体を含有することができる。水性媒体は、少なくとも水を含む液状媒体であり、水のみを使用してもよいし、水、及び水と混じり合うことができる有機溶剤のうちの1種又は2種以上を含む混合溶剤を用いてもよい。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチルカルビトール、及びN−メチルピロリドン等を挙げることができるが、これらに限定されない。水性媒体としては、水を主成分として用いることが好ましく、水性媒体の全質量を基準として、水を50〜100質量%用いることがより好ましい。
[界面活性剤]
樹脂エマルションは、前述した樹脂エマルションの製造方法の概略の通り、界面活性剤(乳化剤)を含有することができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上の界面活性剤を用いることができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム;並びにポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム等の反応性アニオン性界面活性剤等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、及びポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体;ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル;並びにエーテルサルフェート型ノニオン性界面活性剤及びポリオキシアルキレンアルケニルエーテル等の反応性ノニオン性界面活性剤等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド;ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド;セチルトリメチルアンモニウムクロライド;ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド等のアルキル4級アンモニウム塩界面活性剤等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。
樹脂エマルション中の界面活性剤の含有量は、内層形成成分及び保護層形成成分の総量100質量部に対して、固形分量として、0.5〜10質量部であることが好ましく、1〜8質量部であることがより好ましい。界面活性剤の含有量が上記範囲であることにより、貯蔵安定性が良好な樹脂エマルションが得られやすい。
なお、樹脂エマルションは、必要に応じて、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、顔料及び染料等の着色剤、金属化合物、可塑剤、分散剤、発泡剤、滑剤、ゲル化剤、造膜助剤、凍結防止剤、架橋剤、pH調整剤、粘度調整剤、防腐剤、防黴剤、殺菌剤、防錆剤、難燃剤、湿潤剤、消泡剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、帯電防止剤、及びブロッキング防止剤等を挙げることができる。
本発明の一実施形態の樹脂エマルションにおける樹脂粒子の動的光散乱法による平均粒子径DBは、特に限定されないが、25〜800nmであることが好ましく、30〜600nmであることがより好ましく、35〜300nmであることがさらに好ましい。また、この樹脂エマルションのpHは、特に限定されないが、6.0〜11.0であることが好ましく、6.5〜10.5であることがより好ましく、7.0〜10.0であることがさらに好ましい。本明細書において、樹脂エマルションのpHは、JIS K6833−1:2008の規定に準拠して測定される値をとることができ、25℃での値である。さらに、この樹脂エマルションの不揮発分(固形分)は、樹脂エマルションの全質量を基準として、25〜75質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることがより好ましく、35〜65質量%であることがさらに好ましい。本明細書において、樹脂エマルションの不揮発分(固形分)は、JIS K6833−1:2008の規定に準拠して測定される値をとることができる。
以上詳述した本発明の一実施形態の樹脂エマルションによれば、樹脂(樹脂粒子)にシリコーン成分を含有しながら、しかも、シリコーン成分の含有率が高い場合でも、均一な膜を形成しやすい。また、この樹脂エマルションを用いることによって、耐候性、耐熱性、耐水性、耐汚染性、及び耐クラック性等が良好で、均一な塗膜を形成することが可能な塗料の提供が期待できる。そのため、樹脂エマルションは、塗料の成分として用いられることが好適であり、耐候性等の上記機能が要求されることから、外装用塗料の成分として用いられることがより好適である。
<樹脂エマルションの製造方法>
次に、概略を前述した樹脂エマルションの製造方法について詳細に説明する。以下に述べる樹脂エマルションの製造方法において用いられる用語は、いずれも、前述の本発明の一実施形態の樹脂エマルションの説明で挙げた用語と同様に説明されるものである。
本発明の一実施形態の樹脂エマルションの製造方法(以下、単に「樹脂エマルションの製造方法」と記載することがある。)は、以下の(i)〜(iv)を含む。以下の(i)〜(iv)を含む製造方法により、シリコーン含有重合体で形成された内層と、その内層を取り囲む、カルボキシ基含有重合体で形成された保護層とを含むとともに、レーザー回折・散乱法による平均粒子径DAと、動的光散乱法による平均粒子径DBとの比であるDA/DBが0.90以下である樹脂粒子を含有する樹脂エマルションを得ることができる。
(i)水性媒体中で、界面活性剤及び重合開始剤の存在下、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体(d)1〜45質量%、及びカルボキシ基含有重合性単量体(d)以外の重合性単量体(e)を含む保護層形成成分を重合させて、カルボキシ基含有重合体を合成すること。
(ii)カルボキシ基含有重合体におけるカルボキシ基の一部又は全部を第1の塩基性物質で中和すること。
(iii)中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液中で、シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコーン成分を含む内層形成成分を重合させて、シリコーン含有重合体を合成すること。
(iv)第2の塩基性物質を用いて、シリコーン含有重合体を含む重合液のpHを8.0〜10.0に調整すること。
以下では、便宜上、上記(i)を「第1の重合工程」、上記(ii)を「中和工程」、上記(iii)を「第2の重合工程」、及び上記(iv)を「pH調整工程」と記載することがあるが、前工程が完了する前に次工程が進められてもよい。また、各工程が別々に行われてもよいし、連続的に行われてもよい。
[第1の重合工程]
第1の重合工程(上記(i))では、水性媒体中で、界面活性剤及び重合開始剤の存在下、保護層形成成分を重合させて、カルボキシ基含有重合体を合成する。保護層形成成分、水性媒体、及び界面活性剤は、いずれも前述した通りのものを用いることができる。保護層形成成分中のカルボキシ基含有重合性単量体(d)の含有量が、保護層形成成分の全質量を基準として、1〜45質量%であることにより、第1の重合工程で得られる重合液の安定性を良好にすることができ、その重合液を次工程の中和工程により、高分子乳化剤のように作用させやすくなる。これらの観点から、カルボキシ基含有重合性単量体(d)の上記含有量は、2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることがさらに好ましい。
カルボキシ基含有重合体を合成する際には、水性媒体、保護層形成成分、界面活性剤、及び重合開始剤等を一括混合して重合を行う方法や、好ましくは、水性媒体、保護層形成成分、及び界面活性剤等を含有するプレエマルションを用いて重合を行う方法等をとることができる。具体的には、保護層形成成分を含むプレエマルションと、重合開始剤とをそれぞれ、別途用意された水性媒体に添加し、その水性媒体中で保護層形成成分を重合させることがより好ましい。保護層形成成分を含むプレエマルションを用いる場合には、第1の重合工程は、予め、水性媒体、保護層形成成分、及び界面活性剤を含む混合物を乳化してプレエマルションを調製することを含むことが好ましい。
カルボキシ基含有重合体を合成する際の重合温度及び重合時間等の重合条件や、使用する重合開始剤及び界面活性剤等の種類及び使用量等は、従来公知の重合方法と同様の範囲内で適宜決めることができる。例えば、重合温度は、20〜100℃程度の範囲が好ましく、より好ましくは40〜90℃程度の範囲であり、また、重合時間は、1〜15時間程度の範囲が好ましい。さらに、上述のプレエマルションや重合開始剤の添加(滴下)方法も特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、及び多段添加法等の方法を採ることができ、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、及び過酸化水素等の過酸化物、並びにアゾ化合物等を挙げることができ、1種又は2種以上の重合開始剤を用いることができる。また、過酸化物と併用したレドックス重合開始剤や、重合促進剤として、1種又は2種以上の還元剤を用いることもできる。
過硫酸塩の具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウム等を挙げることができる。有機過酸化物の具体例としては、過酸化ベンゾイル及びジラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、t−ブチルクミルパーオキサイド及びジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシラウレート及びt−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル類、クメンハイドロパーオキサイド及びt−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等を挙げることができる。アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、及び4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等を挙げることができる。還元剤の具体例としては、アスコルビン酸及びその塩、酒石酸及びその塩、亜硫酸及びその塩、重亜硫酸及びその塩、チオ硫酸及びその塩、並びに鉄(II)塩等を挙げることができる。
カルボキシ基含有重合体を合成する際には、公知の連鎖移動剤を使用してもよく、その場合には、上述したプレエマルションに連鎖移動剤を含有させてもよい。連鎖移動剤としては、例えば、ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−デシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、セチルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸エチル、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸n−オクチル、チオグリコール酸3−メトキシブチル、3−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、3−メルカプトプロピオン酸n−オクチル、及び3−メルカプトプロピオン酸3−メトキシブチル等のメルカプタン類;α−メチルスチレンダイマー等を挙げることができる。これらの連鎖移動剤の1種又は2種以上を用いることができる。
[中和工程]
中和工程(上記(ii))では、カルボキシ基含有重合体におけるカルボキシ基の一部又は全部を第1の塩基性物質で中和する。これにより、第1の重合工程(上記(i))で得られたカルボキシ基含有重合体を、水性媒体中に溶解させたり、一部に親水性を持たせたりして、ある種の高分子乳化剤のように作用させることができる。中和工程では、第1の重合工程(上記(i))で得られたカルボキシ基含有重合体を含む重合液と、第1の塩基性物質とを接触させればよく、カルボキシ基含有重合体を含む重合液に、第1の塩基性物質を添加することが好ましい。
第1の塩基性物質としては、例えば、アンモニア;メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びジメチルアミノエタノール等のアミン類;1−アミノ−2−プロパノール、及び2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等のアミノアルコール類;並びに水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;等を挙げることができる。これらの1種又は2種以上を用いることができる。第1の塩基性物質は、水溶液の形態で用いることが好ましい。
中和工程は、第1の塩基性物質により、中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液のpHを5.0〜9.0に調整することを含むことが好ましい。これにより、水性媒体中に存在するカルボキシ基含有重合体を十分に高分子乳化剤のように作用させやすくなる。この観点から、第1の塩基性物質により、中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液のpHを、5.5〜8.5に調整することがより好ましく、6.0〜8.0に調整することがさらに好ましい。中和工程における第1の塩基性物質の使用量は、カルボキシ基含有重合体を含む重合液のpHが上記範囲内となる量とすることができる。
[第2の重合工程]
第2の重合工程(上記(iii))では、中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液中で、内層形成成分を重合させて、シリコーン含有重合体を合成する。上述の通り、中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液中では、中和されたカルボキシ基含有重合体が高分子乳化剤のように作用する。この重合液に、内層形成成分を添加すると、カルボキシ基含有重合体が、高分子乳化剤的な働きにより、内層形成成分を取り囲み、その状態で、内層形成成分が重合したシリコーン含有重合体を合成することができる。これにより、シリコーン含有重合体で形成された内層と、その内層を取り囲む、カルボキシ基含有重合体で形成された保護層とを含む樹脂粒子を含有する重合液を得ることができる。
シリコーン含有重合体を合成する際には、中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液、及び内層形成成分を一括混合して重合を行う方法や、好ましくは、中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液に、水性媒体、内層形成成分、及び界面活性剤を含有するプレエマルションを添加して重合を行う方法等をとることができる。具体的には、内層形成成分を含むプレエマルションと、重合開始剤とをそれぞれ、中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液に添加し、その重合液中で内層形成成分を重合させることがより好ましい。内層形成成分を含むプレエマルションを用いる場合には、第2の重合工程は、予め、水性媒体、内層形成成分、及び界面活性剤を含む混合物を乳化してプレエマルションを調製することを含むことが好ましい。内層形成成分、水性媒体、及び界面活性剤は、いずれも前述した通りのものを用いることができる。
シリコーン含有重合体を合成する際の重合温度及び重合時間等の重合条件や、使用し得る重合開始剤及び界面活性剤等の種類及び使用量等は、従来公知の重合方法と同様の範囲内で適宜決めることができる。例えば、重合温度は、20〜100℃程度の範囲が好ましく、より好ましくは40〜90℃程度の範囲であり、また、重合時間は、1〜15時間程度の範囲が好ましい。さらに、上述のプレエマルションや重合開始剤の添加(滴下)方法も特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、及び多段添加法等の方法を採ることができ、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
本発明の一実施形態の樹脂エマルションの製造方法において、第1の重合工程や必要に応じて第2の重合工程でも用い得る界面活性剤の使用量は、内層形成成分及び保護層形成成分の総量100質量部に対して、固形分量として、0.5〜10質量部であることが好ましく、1〜8質量部であることがより好ましい。界面活性剤の使用量が上記範囲であることにより、重合時の重合液の安定性を良好にしやすい。
[pH調整工程]
pH調整工程(上記(iv))では、第2の塩基性物質を用いて、シリコーン含有重合体を含む重合液のpHを8.0〜10.0に調整する。なお、シリコーン含有重合体を含む重合液は、上述の通り、第2の重合工程(上記(iii))により得られたものであるから、上述した樹脂粒子を含有する重合液(樹脂エマルション)といってもよい。pH調整工程により、樹脂粒子における加水分解性シラン化合物(B)に由来する加水分解性基の加水分解、及びそれによる脱水・縮合反応を促進させることが可能となり、また、樹脂エマルションの貯蔵安定性を良好にすることができる。これらの効果が得られやすい観点から、第2の塩基性物質を用いて、シリコーン含有重合体を含む重合液のpHを9.0〜10.0に調整することが好ましい。
pH調整工程では、第2の重合工程(上記(iii))で得られたシリコーン含有重合体を含む重合液(上記樹脂粒子を含有する重合液)と、第2の塩基性物質とを接触させればよく、シリコーン含有重合体を含む重合液に、第2の塩基性物質を添加することが好ましい。第2の塩基性物質としては、第1の塩基性物質と同様のものを用いることができる。
第2の塩基性物質を用いる際には、シリコーン含有重合体を含む重合液(上記樹脂粒子を含有する重合液)の温度を、前述の重合温度と同じ温度にすることができ、好ましくは50〜90℃の範囲とすることができる。また、第2の塩基性物質により、シリコーン含有重合体を含む重合液(上記重合液)のpHを調整した後は、上述した加水分解・縮合反応を促進させる観点、及び貯蔵安定性のより良好な樹脂エマルションが得られやすい観点から、上記重合液の温度を50〜90℃に維持することが好ましい。
pH調整工程後、上述した加水分解・縮合反応後、必要に応じて、減圧等の手段により、加水分解・縮合反応により副生したアルコールの少なくとも一部を除去してもよい。副生したアルコールの少なくとも一部を除去することによって、貯蔵安定性が良好な樹脂エマルションを調製することができる。減圧の手段によってアルコールの少なくとも一部を除去する場合は、減圧する前に、必要に応じて水性媒体を加えてもよい。
以上詳述した本発明の一実施形態の樹脂エマルションの製造方法によれば、前述の樹脂エマルションを安定して簡便に製造することができ、また、貯蔵安定性も良好であり、凝集物が生じ難い樹脂エマルションを製造することが可能である。
なお、前述の本発明の一実施形態の樹脂エマルション、及び樹脂エマルションの製造方法は、以下の構成を採ることも可能である。
[1]内層と、前記内層を取り囲んだ保護層とを含む樹脂粒子を含有する樹脂エマルションであって、前記内層は、シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコーン成分を含む内層形成成分が重合したシリコーン含有重合体で形成されており、前記保護層は、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体(d)1〜45質量%、及び前記カルボキシ基含有重合性単量体(d)以外の重合性単量体(e)を含む保護層形成成分が重合したカルボキシ基含有重合体で形成されており、前記樹脂粒子のレーザー回折・散乱法による平均粒子径DAと、動的光散乱法による平均粒子径DBとの比であるDA/DBが、前記カルボキシ基含有重合体で形成された前記保護層により、0.90以下である、樹脂エマルション。
[2]前記カルボキシ基含有重合体は、前記カルボキシ基含有重合性単量体(d)に由来する前記カルボキシ基の一部又は全部が中和されているものである上記[1]に記載の樹脂エマルション。
[3]前記シリコーン成分の含有量は、前記内層形成成分及び前記保護層形成成分の総質量を基準として、5〜95質量%である上記[1]又は[2]に記載の樹脂エマルション。
[4]前記内層形成成分及び前記保護層形成成分の総質量に占める、前記保護層形成成分の質量の割合が、1〜90質量%である上記[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂エマルション。
[5]前記内層形成成分は、さらに重合性単量体(C)を含む上記[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂エマルション。
[6]前記保護層形成成分における前記重合性単量体(e)は、(メタ)アクリル酸エステルを含む上記[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂エマルション。
[7]外装用塗料の成分として用いられる上記[1]〜[6]のいずれかに記載の樹脂エマルション。
[8]水性媒体中で、界面活性剤及び重合開始剤の存在下、カルボキシ基を有するカルボキシ基含有重合性単量体(d)1〜45質量%、及び前記カルボキシ基含有重合性単量体(d)以外の重合性単量体(e)を含む保護層形成成分を重合させて、カルボキシ基含有重合体を合成すること;前記カルボキシ基含有重合体におけるカルボキシ基の一部又は全部を第1の塩基性物質で中和すること;中和された前記カルボキシ基含有重合体を含む重合液中で、シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)からなる群より選ばれる少なくとも1種のシリコーン成分を含む内層形成成分を重合させて、シリコーン含有重合体を合成すること;第2の塩基性物質を用いて、前記シリコーン含有重合体を含む重合液のpHを8.0〜10.0に調整すること;を含むことにより、前記シリコーン含有重合体で形成された内層と、前記内層を取り囲む、前記カルボキシ基含有重合体で形成された保護層とを含むとともに、レーザー回折・散乱法による平均粒子径DAと、動的光散乱法による平均粒子径DBとの比であるDA/DBが0.90以下である樹脂粒子を含有する樹脂エマルションを得る、樹脂エマルションの製造方法。
[9]前記第1の塩基性物質により、前記中和されたカルボキシ基含有重合体を含む重合液のpHを5.0〜9.0に調整することを含む上記[8]に記載の樹脂エマルションの製造方法。
以下、実施例及び比較例を挙げて、前述の一実施形態のさらなる具体例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<樹脂エマルションの製造>
[実施例1]
(1段目の重合に用いるプレエマルションの調製)
ブチルアクリレート(BA)7.0質量部、メチルメタクリレート(MMA)5.0質量部、及びメタクリル酸(MAAc)2.0質量部からなる単量体成分(総量14.0質量部)、並びにt−ドデシルメルカプタン0.4質量部、アニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム2.0質量部(花王製の商品名「ラテムルE−118B」(固形分25質量%)8.0質量部)、及び脱イオン水16.2質量部を、ホモディスパーで乳化させ、1段目のプレエマルションを調製した。
(2段目の重合に用いるプレエマルションの調製)
脱イオン水40.2質量部、ブチルアクリレート(BA)3.0質量部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)3.0質量部、シリコーンオリゴマー(A)として、メチルフェニルメトキシシリコーンオリゴマー(信越化学製の商品名「KR−510」、アルコキシ基量17質量%)10.0質量部、加水分解性シラン化合物(B)として、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(MAPTMS)1.0質量部、ジメチルジメトキシシラン19.0質量部、メチルトリメトキシシラン16.5質量部、及びフェニルトリメトキシシラン33.5質量部、並びにアニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム2.5質量部(花王製の商品名「ラテムルE−118B」(固形分25質量%)10.0質量部)を、ホモディスパーで乳化させ、2段目のプレエマルションを調製した。
(樹脂エマルションの製造)
撹拌機、温度計、還流冷却器、及び滴下ロートを取り付けた四ツ口セパラブルフラスコに、脱イオン水36.5質量部を仕込み、撹拌しながら内温を80℃まで昇温させた。四ツ口セパラブルフラスコ内の内温を80℃に維持しながら、そのセパラブルフラスコ内の脱イオン水に、10質量%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液(10質量%APS)1.0質量部を添加し、直ちに、調製した1段目のプレエマルションを滴下ロートから1時間かけて均一に滴下し、これと同時に、1質量%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液(1質量%APS)6.0質量部を、1時間かけて均一に滴下した。さらに1時間かけて重合を行い、カルボキシ基含有重合体を合成した(第1の重合工程)。次いで、重合液に、第1の塩基性物質としての25質量%アンモニア水(0.8質量部)を添加して、カルボキシ基含有重合体におけるカルボキシ基の一部又は全部を中和し、pH7.5の1段目の重合液を調製した(中和工程)。
1段目の重合液の調製に続けて、1段目の重合液に、上記2段目のプレエマルションと、1質量%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液(1質量%APS)6.0質量部とを同時に、2時間かけて滴下して重合を行い、シリコーン含有重合体を合成した(第2の重合工程)。それらの滴下終了後、重合液の温度を80℃で1時間維持し、第2の塩基性物質としての25質量%アンモニア水(3.0質量部)を添加して、重合液のpHを9.8に調整した後(pH調整工程)、85℃まで昇温し、5時間かけて縮合反応を行った。さらに、得られた乳化物を40℃まで冷却し、脱イオン水4.7質量部を添加後、減圧条件下において、副生したメタノールを水とともに留去した。このようにして、実施例1の樹脂エマルション(アクリルシリコーン系樹脂エマルション)を得た。
[実施例2〜15]
実施例1において、1段目及び2段目の各プレエマルションの調製に用いた材料及びその量、並びに樹脂エマルションの製造条件を、表1(表1−1及び表1−2)に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜15の樹脂エマルション(アクリルシリコーン系樹脂エマルション)を得た。
なお、表1に示す界面活性剤の欄における「ニューコール707SF」は、日本乳化剤製のアニオン性界面活性剤(固形分(有効成分):ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩30質量%)の商品名であり、「アクアロンKH−1025」は、第一工業製薬製の反応性アニオン性界面活性剤(固形分(有効成分):ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸アンモニウム25質量%)の商品名である。表1中の界面活性剤の量は、有効成分を含む界面活性剤全体(商品)の使用量である。
また、表1中の「1段目の重合液のpH」は、2段目のプレエマルションの重合を行うときにおける、1段目のプレエマルションの重合で得られた重合液のpHを意味し、例えば、第1の塩基性物質を添加した場合には、その添加後の1段目の重合液のpHを示す。同様に、表1中の「2段目の重合液のpH」は、2段目のプレエマルションの重合で得られた重合液に第2の塩基性物質を添加した後の当該重合液のpHを示す。
さらに、表1の下段に示す「1段目の単量体(d)の含有量(質量%)」は、1段目のプレエマルションに使用した、樹脂粒子を形成する成分(重合性単量体、シリコーンオリゴマー、及び加水分解性シラン化合物の総量)中のカルボキシ基含有重合性単量体(d)(本実施例では、MAAc及びAAcが該当)の含有量(質量%)を意味する。また、表1の下段に示す「シリコーン成分の含有量(質量%)」は、1段目及び2段目の各プレエマルションに使用した、樹脂粒子を形成する成分(重合性単量体、シリコーンオリゴマー、及び加水分解性シラン化合物の総量)中のシリコーン成分(シリコーンオリゴマー及び加水分解性シラン化合物の合計)の含有量(質量%)を意味する。
[比較例1〜5及び参考例16]
実施例1において、1段目及び2段目の各プレエマルションの調製に用いた材料及びその量、並びに樹脂エマルションの製造条件を、表1−2に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜5及び参考例16の樹脂エマルションの製造を試みた。しかし、比較例1及び3〜5においては、樹脂エマルションを製造することができなかった。これは、比較例1、3、及び4では、第1の重合工程で得られた1段目の重合液に、第1の塩基性物質を添加することによる中和工程を行わず、かつ、樹脂粒子を形成する成分中のシリコーン成分の量が過多であったためと考えられる。また、比較例5では、1段目のプレエマルションに使用した、樹脂粒子を形成する成分中のカルボキシ基含有重合性単量体(d)の含有量(質量%)が過多であったことから、中和工程時に、第1の重合工程で得られた1段目の重合液の粘度が非常に高くなったため、又は粒子径が過大となり分離したため、樹脂エマルションを製造することができなかった。
<測定及び評価>
[樹脂エマルションのpH]
製造できた各樹脂エマルション(メタノール等の留去操作後に得られた各樹脂エマルション;以下の記載も同じ。)について、JIS K6833−1:2008の規定に準拠し、pHメーター(東亜ディーケーケー社製、商品名「pHメーター HM−25R」)を用いて、各樹脂エマルションの25℃でのpHを測定した。
[樹脂エマルションの固形分]
製造できた各樹脂エマルションについて、JIS K6833−1:2008の規定に準拠し、乾燥温度140℃、乾燥時間0.5時間の条件で、各樹脂エマルションの固形分(不揮発分)を測定した。
[レーザー回折・散乱法による平均粒子径DA]
製造できた各樹脂エマルションについて、樹脂エマルションにおける樹脂粒子のレーザー回折・散乱法による平均粒子径DA(nm)を測定した。具体的には、レーザー回折・散乱法を利用した粒度分布測定装置(島津製作所製、商品名「レーザー回折式ナノ粒子径分布測定装置 SALD−7100」)を用いて、屈折率が1.45−0.50iのときの体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50)を平均粒子径DAとして測定した。
[動的光散乱法による平均粒子径DB]
製造できた各樹脂エマルションについて、樹脂エマルションにおける樹脂粒子の動的光散乱法による平均粒子径DB(nm)を測定した。具体的には、動的光散乱法を利用した粒度分布測定装置(大塚電子製、商品名「濃厚系粒径アナライザー FPAR−1000」)及び濃厚系プローブを用いて、キュムラント法解析により平均粒子径DBを測定した。そして、平均粒子径DA及びDBの各測定値を用いて、それらの比であるDA/DBを算出した。
[成膜性]
製造できた各樹脂エマルションについて、成膜性を評価した。具体的には、樹脂エマルションをガラス板(幅70mm×長さ150mm×厚さ2mm)に50μmの厚さに塗工して、60℃の熱風循環器で5分間乾燥させて、樹脂エマルションからなる膜を作製した。その膜の外観を目視にて観察し、以下の評価基準にしたがって、膜の仕上がり具合を成膜性として評価した。
A:クラックがなく、均一で透明な膜であった。
B:わずかに白化が確認されたが、クラックがなく、均一な膜であった。
C:白化が確認され、かつ、クラックがあり、不均一な膜であった。
[製造安定性]
製造できた各樹脂エマルションを、150メッシュのポリエステル製フィルター(品番「59/150−48」、ムラカミ製)で濾過し、その濾過残渣量(mg)を測定した。この濾過残渣量が少ない程、樹脂エマルションを安定して製造することが可能であったことを表し、したがって、製造安定性が良好であったことを表す。
[貯蔵安定性]
製造できた各樹脂エマルションにおける、上記製造安定性の試験による濾過後に得られた濾液としての各樹脂エマルションについて、室温(23℃)で3ヶ月間静置したものと、50℃で1ヶ月間静置したものを用意した。その後、それらの樹脂エマルションを、上記ポリエステル製フィルターで濾過し、その濾過残渣量(mg)と、動的光散乱法による平均粒子径DB(nm)を測定した。濾過残渣量(mg)が少ない程、また、平均粒子径DBの変化が小さい程、樹脂エマルションの貯蔵安定性が良好であったことを表す。凝集物の生成に基づく新たな残渣発生がなく、かつ、静置後の平均粒子径DBの変化が±5nm以内である場合、貯蔵安定性に優れているといえる。
以上の測定及び評価結果を表2(表2−1及び表2−2)に示す。
表2に示す通り、実施例1〜15では、DA/DBが0.90以下である樹脂エマルションが得られたことが確認された。この結果及び実施例の製造条件等から、実施例1〜15では、2段目のシリコーン含有重合体で形成された内層と、その内層を取り囲んだ、1段目のカルボキシ基含有重合体で形成された保護層とを含む樹脂粒子を含有する樹脂エマルションが得られたと考えられる。そのため、実施例1〜15で得られた各樹脂エマルションは、成膜性、製造安定性、及び貯蔵安定性がいずれも良好であった。
また、実施例1〜15の結果、樹脂中のシリコーン成分(シリコーンオリゴマー(A)及び加水分解性シラン化合物(B)の合計)の含有量が5〜95質量%と広範囲にわたって、成膜性が良好で均一な膜を形成可能な樹脂エマルションが得られたことが認められた。そのため、樹脂中のシリコーン成分の含有量を例えば50質量%以上とより高めた樹脂エマルションは、耐候性等の機能がより良好な膜を形成することが期待でき、外装用塗料の成分として用いられることがよりいっそう期待できるものといえる。