JP2021134445A - アラミド繊維、それを用いたコード、及びそれらの製造方法 - Google Patents

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勇輝 高谷
将 古屋敷
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将 古屋敷
義洋 草西
Yoshihiro Kusanishi
義洋 草西
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Abstract

【課題】水分率が低いアラミド繊維に油剤を付与した際にも、アラミド繊維の工程通過性及びゴムとの接着性を向上させることができるアラミド繊維、それを用いたコード、及びそれらの製造方法を提供する。【解決手段】油剤として、(a)エポキシ化合物と(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物を、混合して、あるいは、段階的に付着させたアラミド繊維、及び該アラミド繊維を撚糸してなるコード。紡出・中和した後、水分率15質量%以下に乾燥したアラミド繊維に、油剤として、(a)エポキシ化合物と(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物を混合して、あるいは、段階的に付与した後、続いて巻き取り工程でボビンに巻き取り、巻き上げ後のアラミド繊維の水分率を3〜15質量%に保持することを特徴とするアラミド繊維の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、アラミド繊維、それを用いたコード、及びそれらの製造方法に関する。
アラミド繊維は、高強度、高弾性率、高耐熱性、非導電性、錆びない等の高い機能性と、有機繊維特有のしなやかさと軽量性を併せ持った合成繊維であることから、各種タイヤ、ベルト、コンベヤ等の補強用繊維として用いられている。しかし、アラミド繊維をゴムと接着させる場合は、レゾルシノール・ホルマリン・ラテックス(以下、RFLと記す)等の接着剤で処理する必要があるが、RFLはアラミド繊維への付着性が劣る。そこで、アラミド繊維のゴムに対する接着性を改善するために、アラミド繊維表面にエポキシ化合物を付着させることが行われている。
例えば、特許文献1には、遊離エポキシド含量10ミリモル/kg以下のエポキシ被覆を形成することによりアラミド繊維の接着性を改善する方法が開示されており、乾燥されていないヤーンにエポキシ化合物、硬化剤、界面活性剤を施与した後、ヤーンを乾燥し、続いて硬化処理する方法(第23項、第27項、実施例1、3、6)、あるいは、乾燥したヤーンにエポキシ化合物を施与した後、ヤーンを硬化処理する方法(第32項、実施例2、4、7)が記載されている。実施例4では、乾燥したヤーンに仕上剤として脂肪酸ポリグリコールエステルを付与した後、エポキシ化合物と硬化剤の混合物を付与し硬化処理する方法が記載されている。
しかし、前記ヤーンを製造する過程で、エポキシ化合物、硬化剤、界面活性剤の3種類以上を付与するため、取り扱い性が悪くなる。
特許文献2には、硬化性エポキシ化合物を含む油剤(炭素数18以下の低分子量脂肪酸エステル、ポリエーテルあるいは鉱物油等)を、水分量が15〜200質量%のアラミド繊維に付与し、硬化性エポキシ化合物を繊維骨格内に含浸させることにより、アラミド繊維本来の高耐熱性及び高ヤング率を保持しながら、接着強度が高く、ゴム材料、樹脂材料の補強用として有用な繊維複合体が得られることが開示されている。
しかし、前記油剤は、水分率が低いアラミド繊維に付与した場合には、RFLディップコードの接着強力及び引張強力が向上しないため、水分率が低いアラミド繊維に適用できないものである。また、乾燥工程が必要となるため、製造コストが高くなる。
特許文献3には、高級脂肪酸によりエステル結合を介して片末端を封鎖したポリアルキレングリコールと、一価高級アルコールの高級脂肪酸エステルとを、質量比70/30〜95/5で含有する油剤を、アラミド繊維に0.5〜3.0質量%付着させることで、マトリックス樹脂との接着性が良好なアラミド繊維が得られることが開示されている。
しかし、片末端を高級脂肪酸で封鎖したポリアルキレングリコールを単独で使用した場合は、繊維に毛羽が発生して製品品位が劣り、一方、アルコールの高級脂肪酸エステルを単独で使用した場合は、エポキシ樹脂との接着性能が劣るため、製品品位と接着性能を兼備するアラミド繊維を得るためには、両者を併用することが必須である。
特開昭59−094640号公報 特開2012−207326号公報 特開2010−275656号公報
本発明は、水分率が低いアラミド繊維に油剤を付与した際にもアラミド繊維の工程通過性及びゴムとの接着性を向上させることができるアラミド繊維、それを用いたコード、及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明者等は鋭意検討を行った結果、エポキシ化合物と、脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物とをアラミド繊維に付着させることにより、水分率が低いアラミド繊維に付着させても、またエポキシ硬化剤を添加していなくても、RFL処理後のアラミド繊維のゴムに対する接着性が良好であることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)油剤を付着させたアラミド繊維であって、前記油剤が(a)と(b)とを含み、かつエポキシ硬化剤を含まないことを特徴とするアラミド繊維。
(a)エポキシ化合物
(b)下記一般式(I)及び/または下記一般式(II)で示される、脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物
Figure 2021134445
(式中、Rは炭素原子数5〜30のアルキル基もしくはアルケニル基である。Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、mはオキシアルキレン基(R−O)の平均付加モル数を表す5〜100の整数である。なお、(R−O)においては、同一のオキシアルキレン基が付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。)
Figure 2021134445
(式中、R及びRは、共に炭素原子数5〜30のアルキル基もしくはアルケニル基であり、同一であっても異なっていても良い。Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、nはオキシアルキレン基(R−O)の平均付加モル数を表す5〜100の整数である。なお、(R−O)においては、同一のオキシアルキレン基が付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。)
(2)(b)一般式(I)または(II)において、Rが炭素数2のアルキレン基である前記(1)に記載のアラミド繊維。
(3)(b)一般式(I)または(II)において、m及びnが9〜30である前記(1)または(2)に記載のアラミド繊維。
(4)(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物が、主成分が一般式(I)で表されるエステル化合物であり、Rが炭素原子数9〜26のアルキル基もしくはアルケニル基、Rが炭素数2のアルキレン基、mが9〜21である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のアラミド繊維。
(5)(a)エポキシ化合物が、グリセロールジグリシジルエーテル及びグリセロールトリグリシジルエーテルから選ばれる1種または2種の混合物である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のアラミド繊維。
(6)油剤を付着させるアラミド繊維の水分率が15質量%以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のアラミド繊維。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の油剤を付着させたアラミド繊維を撚糸してなるコード。
(8)紡出・中和した後、水分率15質量%以下に乾燥したアラミド繊維に、(a)エポキシ化合物と(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物の混合物からなる油剤(ただし、エポキシ硬化剤は含まない。)を付与する工程を含み、続いて前記油剤を付与したアラミド繊維を巻き取り工程でボビンに巻き取り、巻き上げ後のアラミド繊維の水分率を3〜15質量%に保持することを特徴とするアラミド繊維の製造方法。
(9)紡出・中和した後、水分率15質量%以下に乾燥したアラミド繊維に、(a)エポキシ化合物を付与する工程と、(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物を付与する工程を含み(ただし、エポキシ硬化剤を付与する工程を含まない。)、続いて前記エポキシ化合物及び前記エステル化合物を付与したアラミド繊維を巻き取り工程でボビンに巻き取り、巻き上げ後のアラミド繊維の水分率を3〜15質量%に保持することを特徴とするアラミド繊維の製造方法。
(10)前記(8)または(9)記載の製造方法によって得られたアラミド繊維をボビンから巻き出して撚糸することを特徴とするアラミド繊維コードの製造方法。
(11)前記(8)または(9)記載の製造方法によって得られたアラミド繊維をボビンから巻き出して撚糸し、撚糸コードに接着剤を付着させることを特徴とするアラミド繊維コードの製造方法。
(12)前記(8)または(9)記載の製造方法によって得られたアラミド繊維をボビンから巻き出して接着剤を付着させ、接着剤を付着させたコードを撚糸することを特徴とするアラミド繊維コードの製造方法。
本発明のアラミド繊維は、油剤として、エポキシ化合物と、脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物とをアラミド繊維に付着させているため、水分率15質量%以下のアラミド繊維に付与した場合にアラミド繊維の集束性が向上する、また摩擦係数が低下することで、工程通過性及び生産性が飛躍的に向上する。脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物は、エポキシ化合物の希釈剤ならびに繊維用油剤として機能するだけでなく、エポキシ化合物によるゴムとの接着性向上効果を阻害しない利点を有している。油剤には、エポキシ硬化剤を含まないために、製造工程での油剤の取り扱い性、およびエポキシ化合物の安定性に優れている。
また、本発明のアラミド繊維を撚糸してなるコードは、RFLを処理した際のゴムとの接着力に優れている。
さらに、本発明のアラミド繊維の製造方法によれば、多種類のエステル化合物を混合する工程を簡略化できるため、経済性に優れるアラミド繊維を提供できる。
アラミド繊維には、パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維がある。本発明の油剤は、引張強さに優れているパラ系アラミド繊維に対して好適に用いられる。なお、市販されているパラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維(米国デュポン社、東レ・デュポン(株)製、商品名「Kevlar」(登録商標)等)、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人(株)製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等を挙げることができる。
本発明の油剤は、紡糸、中和後、または、紡糸、中和、洗浄後の繊維を、乾燥して、水分率15質量%以下に調整したアラミド繊維に対して、好ましく適用される。水分率15質量%以下のアラミド繊維に適用することで乾燥工程を1工程省略することができる。また、アラミド繊維の水分率は3質量%以上であることが好ましく、3質量%未満になると擦過による毛羽が発生し易くなる。一方で、アラミド繊維の水分率が15質量%を超えると、アラミド繊維表面に自由水が付着した状態になり易いため繊維表面に油剤が付着しにくくなるだけでなく、撚糸コードの強力が低下する傾向がある。加えて、アラミド繊維表面の水分が乾燥した後にパッケージ品位が悪くなる。
本発明の油剤は、(a)エポキシ化合物と(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物からなり、エポキシ硬化剤は含まない。これらの(a)成分と(b)成分は、別々に2工程で付与しても良いし、混合物として付与しても良い。2工程で付与する場合、(a)成分と(b)成分を付与する順序は特に限定されないが、好ましくは工程通過性が良くなる点から、(a)成分を付与した後に(b)成分を付与した方が良い。より好ましい付与形態は、(a)成分と(b)成分を混合物として付与することである。別々に付与した場合は、2段階処理のために取り扱い性が悪くなる。
本発明で用いる(a)エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物及び芳香環を有するエポキシ化合物から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。2種以上を用いる場合は、混合して用いても良く、別々に用いても良い。
脂肪族エポキシ化合物としては、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロール等の多価アルコールのグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種または2種以上の混合物が好ましい。例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。より好ましいエポキシ化合物は、グリシジル基を2個または3個有する多官能性エポキシ化合物である。
芳香環を有するエポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種または2種以上の混合物が好ましい。例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールC]等のグリシジルエーテル化合物が挙げられる。これらの中でも、常温で液状である点より、ビスフェノールA、ビスフェノールFのグリシジルエーテル化合物がより好ましい。
上記のエポキシ化合物の中でも、粘度が低く紡糸工程で付与することができ、また工程通過性を向上させることができる点より、脂肪族エポキシ化合物が好ましく、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテルと言ったグリセロール系エポキシ化合物が特に好ましい。
本発明で用いる(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物は、下記一般式(I)及び/または下記一般式(II)で表わされる。一般式(I)はモノエステル型であり、一般式(II)はジエステル型である。これらのエステル化合物を油剤に含有せしめることにより、アラミド繊維の撚糸時のトラベラとの摩耗を減少させ、かつRFL処理した際のゴムとの接着性を向上させることができる。
上記一般式(I)または(II)において、R及びRの炭素原子数は5〜30であり、5未満では、アラミド繊維の収束性が低いため工程通過性が悪くなり、また、30を超えると、エステル化合物の疎水性が高くなるためエポキシ化合物と混合できない、もしくは親和性が低くなる場合がある。エステル化合物のゴムに対する接着性及びエポキシ化合物との溶解性を考慮すると、式中、R及びRの炭素原子数は7〜28が好ましく、より好ましくは9〜26、さらに好ましくは11〜24、特に好ましくは13〜22である。
一般式(I)または(II)で示されるエステル化合物を構成する脂肪酸の具体例としては、飽和または不飽和の脂肪酸を挙げることができ、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸や、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エライジン酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。これらの脂肪酸のなかでも、ポリアルキレングリコールとのエステル化合物の粘性が極端に高くなることがなく取扱性に優れている点では炭素数13〜22の飽和または不飽和脂肪酸が好ましい。
上記一般式(I)または(II)において、m及びn(オキシアルキレン基の平均付加モル数)は5〜100であり、5未満ではエポキシ化合物との混合が困難となりRFLを処理した際のゴムとの接着力が低くなる。また、100を超えると、油剤の粘度が高くなり、油剤の付与性が悪くなるため好ましくない。m及びnは5〜50が好ましく、より好ましくは9〜30、さらに好ましくは11〜19、特に好ましくは13〜17である。
ポリアルキレングリコールとしては、酸化エチレンの重合体であるポリエチレングリコール、酸化プロピレンの重合体であるポリプロピレングリコール、酸化エチレンと酸化プロピレンの共重合体等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ化合物の溶解性に優れるエステル化合物が得られる点より、ポリエチレングリコールが好ましい。
ポリエチレングリコールの重量平均分子量(Mw)は、400〜1300が好ましく、より好ましくは400〜920、さらに好ましくは480〜840、特に好ましくは570〜750である。ポリエチレングリコールの重量平均分子量(Mw)が400以上であると、エステル化合物の親水性が高くなることによりエポキシ化合物との混合が容易となり、一方、重量平均分子量(Mw)が1300を超えるとエステル化合物の粘度が高くなり、工程での油剤付与性が低下し、また工程通過性が悪化する。尚、ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
一般式(I)または(II)で示されるエステル化合物の好ましい具体例としては、ポリエチレングリコール(m=10〜20)ラウリン酸モノエステル及び/またはジエステル、ポリエチレングリコール(m=10〜20)オレイン酸モノエステル及び/またはジエステル、ポリエチレングリコール(m=10〜20)ステアリン酸モノエステル及び/またはジエステル等が挙げられる。
本発明の油剤においては、(a)エポキシ化合物と、(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物の比率(質量比)としては、一般的には80/20〜20/80の範囲で選択することができ、より好ましくは70/30〜30/70の範囲、さらに好ましくは65/35〜45/55の範囲である。(a)エポキシ化合物に対する(b)エステル化合物の比率は、高くなるとエポキシ化合物によるゴムとの接着性を阻害し、反対に、低くなるとアラミド繊維の収束性が低くなり工程通過性が悪化する。油剤中に(b)エステル化合物が過剰に存在すると、アラミド繊維のゴムに対する接着性を阻害する傾向があるため、(a)エポキシ化合物と(b)エステル化合物の比率は65/35〜55/45の範囲が特に好ましい。
本発明の油剤には、本発明による効果を阻害しない範囲で、公知の平滑剤、非イオン活性剤、アニオン活性剤、カチオン活性剤、両性活性剤等の界面活性剤、制電剤等が配合されていても良い。また、エポキシ硬化剤は、配合しなくても、エポキシ化合物が繊維表面にありさえすればゴムとの接着が可能であるため不要である。ただし、必要に応じて公知のエポキシ硬化剤を配合することを妨げるものではない。エポキシ硬化剤としては、アミン化合物や、三級アミン化合物などがある。例えば、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミンや、脂肪族一級アミンにエチレンオキサイドを付加した長鎖アルキルポリオキシエチレン型三級アミン等が挙げられる。
上記の混合油剤のアラミド繊維への付着量、及び、エポキシ化合物及び脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物のアラミド繊維への付着量(総量)は、繊維質量(乾燥基準)に対して0.3〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.4〜3質量%、特に好ましくは0.5〜2質量%である。0.3質量%より少ない場合はアラミド繊維被覆効果が不十分となり、5質量%を超えると粘着によるロールへの巻きつきが発生しやすい。
上記の油剤は、水分率が15質量%以下のアラミド繊維に付与した場合においても、RFLを処理した際のゴムに対する接着性が発現し、紡糸したアラミド繊維の集束性が向上する利点がある。一方、水分率が3質量%未満では、静電気によるロールへの巻き付きが多発し、さらに過度な熱処理による強力低下が起こる。上記の油剤を付与するアラミド繊維の水分率は、より好ましくは3〜14質量%であり、特に好ましくは5〜13質量%である。
一方、水分率を15質量%以上に保持したアラミド繊維の骨格内にエポキシ化合物を含浸・浸透させる方法では、紡糸したアラミド繊維を一旦乾燥して水分率を15質量%以下に保持する工程を設ける必要がある。これに対し、本発明で用いる油剤は、水分率15質量%以下のアラミド繊維に付着させてもゴムとの接着性を発現するため、アラミド繊維の製造コスト面で大きなメリットを有している。
本発明のアラミド繊維の製造方法(第1の製造方法)は、紡出・中和した後、水分率15質量%以下に乾燥したアラミド繊維に、(a)エポキシ化合物と(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物の混合物からなる油剤(ただし、エポキシ硬化剤を付与する工程を含まない。)を付与した後、続いて巻き取り工程でボビンに巻き取り、巻き上げ後のアラミド繊維の水分率を3〜15質量%に保持する。
本発明のアラミド繊維の製造方法(第2の製造方法)は、紡出・中和した後、水分率15質量%以下に乾燥したアラミド繊維に、(a)エポキシ化合物を付与する工程と(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物からなる油剤を付与する工程を含み(ただし、エポキシ硬化剤を付与する工程を含まない。)、続いて前記エポキシ化合物及び前記油剤を付与したアラミド繊維を巻き取り工程でボビンに巻き取り、巻き上げ後のアラミド繊維の水分率を3〜15質量%に保持する。
本発明の第1及び第2の製造方法は、付与したエポキシ化合物を硬化させるための硬化剤付与工程を含まない点に特徴を有している。すなわち、エポキシ化合物を硬化させるための硬化剤を外部添加する必要がない。従来は、硬化剤を添加してエポキシ化合物を硬化させることがアラミド繊維の接着性向上に効果があると考えられていたが、本発明によれば、エポキシ化合物が100%硬化していない、未硬化のエポキシ化合物がアラミド繊維表面に付着している状態でも、従来と同等以上にゴムや樹脂に対する接着性を向上させることが可能になる。
油剤が付与されたアラミド繊維は、レゾルシノール・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)処理剤等の接着剤が付与されることで、ゴムまたは樹脂の補強用として好適なアラミド繊維となる。接着剤を付着させたアラミド繊維を、必要に応じてさらに、所定の長さ(0.1〜10mm)に切断することで、ゴムまたは樹脂の補強用として好適なアラミド短繊維を得ることもできる。
上記のレゾルシノール・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)処理剤としては、例えば、ゴムラテックス100質量部に対し、レゾルシノール−ホルムアルデヒド初期縮合物を約2〜20質量部含有させた混合物を、約5〜25質量%含有するRFL処理液等が挙げられる。
ゴムラテックスとしては、例えば、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン系ゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス、アクリレート系ゴムラテックス及び天然ゴムラテックス等が挙げられる。レゾルシノール−ホルムアルデヒド初期縮合物としては、レゾルシノール−ホルムアルデヒドを酸触媒またはアルカリ触媒下で縮合させて得られたノボラック型縮合物等が挙げられる。尚、RFL処理液には、ブロックドポリイソシアネート化合物、エチレンイミン化合物、ポリイソシアネートとエチレンイミンとの反応物等から選ばれた1種または2種以上の化合物が混合されていても良い。
本発明のアラミド繊維を撚糸してなるコードとしては、油剤を付着させたアラミド繊維束をボビンから巻き出して撚糸したコード、あるいは、同様にボビンから巻き出したアラミド繊維束を撚糸した撚糸コードに接着剤を付着させたコード、あるいは、同様にボビンから巻き出したアラミド繊維束を撚糸した撚糸コードに接着剤を付着させたコード等が挙げられる。接着剤による処理は、1回でも良いが、2回以上行っても良い。アラミド繊維束や下撚りコードに対して行っても良いし、下撚りコードに上撚りを加えた撚糸コードに対して行っても良いし、前記上撚りコードにさらに上撚りを加えた撚糸コードに対して行っても良い。また、RFLを主成分とする接着剤を付着させたアラミド繊維に対しては、従来と同様の条件(100〜260℃)にて乾燥、熱処理を行うことが好ましい。
コードとしては、例えば、2本以上のアラミド繊維束を引き揃え適度な撚りを掛けた片撚りコード、あるいは、適度な撚りを掛けて作製した下撚りコードを2本または3本以上束ねて上撚りを加えた諸撚りコード等が挙げられる。また、アラミド繊維コードは、6ナイロン、66ナイロン等のナイロン繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ビニロン繊維、ポリケトン繊維等との複合コードであっても良い。本発明のアラミド繊維コードは、タイヤ用のコードやスダレに用いることで特に優れた効果が発現する。
本発明において、上記の油剤あるいはRFL処理液を、アラミド繊維に付与する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。
本発明のアラミド繊維は、エポキシ化合物と、該エポキシ化合物を希釈するための希釈剤として機能し得る脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物を、混合物としてあるいは段階的に、油剤として付着させている。エポキシ化合物は、主としてアラミド繊維のゴムに対する接着性の向上に寄与し、希釈剤は、主としてアラミド繊維の工程通過性向上に寄与する。
本発明のアラミド繊維を撚糸してなるコードは、撚糸時トラベラ摩耗が無く、破断強力が高く、ゴムとの接着力に優れているため、ベルト、タイヤ、ホース等のゴム製品の補強コードとして幅広く用いることができる。
上記のゴムとしては、例えば、アクリルゴム(ACM)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(AU、EU)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム等を挙げることができる。ゴムには、主成分のゴムの他に、通常ゴム業界で用いられるカーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、クマロン樹脂、フェノール樹脂等の有機充填剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤等の各種配合剤が含まれていてもよい。
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。以下の実施例等において「%」は「質量%」である。なお、実施例中の各測定値は次の方法にしたがった。
(1)アラミド繊維水分率
試料約5gの質量(乾燥前質量)を測定し、300℃×20分間加熱し、25℃65%RHで5分間放置した後、再度質量(乾燥後質量)を測定する。ここで使う水分率は、[乾燥前質量−乾燥後質量]/[乾燥後質量]で得られるドライベース水分率である。
(2)油剤の付着量
ソックスレー抽出装置を用い、シクロヘキサン溶媒にて繊維束の油剤分を抽出し、溶媒を蒸発させた後、油剤の質量を測定して算出した。
(3)撚糸時のトラベラ摩耗評価
アラミド繊維の工程通過性を、撚糸時のトラベラの磨耗有無によって評価した。アラミド繊維のマルチフィラメント(繊度:1,670dtex)2本を用いて、下撚32t/10cm、上撚32t/10cmの撚数で撚糸してPPTA繊維コードとした。このとき、ナイロン製トラベラで1時間、1,000m撚糸し、トラベラの梨地加工が磨耗していれば磨耗有り、トラベラの梨地加工が磨耗していなければ磨耗無し、とした。
(4)T−接着力(コードとゴムとの接着力)評価
JIS L 1017:2002の接着力−A法に準じて、処理コ−ドを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で、初期接着力は150℃×30分時間プレス加硫を行い、放冷後、コードをゴムブロックから300mm/minの速度で引き抜き、その引き抜きに要した荷重をN/cmで表示した。
(実施例1〜3)
通常の方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、200℃で加熱乾燥して、水分率10質量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(総繊度1,670dtex)を得た。
上記のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束を、表1に示す、エポキシ化合物とポリアルキレングリコール脂肪酸エステルとの混合物からなる油剤を水分率0%に換算したときの繊維質量に対し0.7%となるよう付与した後、巻き上げてパッケージにした。
パッケージから巻き出したポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束をZ方向に32t/10cmで加撚して下撚りコードを得た後、下撚りコードを2本引き揃えてS方向に32t/10cmで加撚して上撚りコードを得た。
続いて、作製したコードを、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、RFLを主成分とする接着剤処理液に浸漬し、100℃で150秒乾燥し、続いて、220℃で123秒間熱処理することにより、RFL処理アラミド繊維コードを得た。
(実施例4)
実施例1と同様の方法でポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を得、得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束に、グリセロールポリグリシジルエーテルを付与し、その後、ポリエチレングリコール-オレイン酸モノエステルを付与した後、巻き上げてパッケージにした。
パッケージから巻き出したポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束を、2本引き揃えてZ方向に32t/10cmで加撚して下撚りコードを得た後、下撚りコードを2本引き揃えてS方向に32t/10cmで加撚して上撚りコードを得た。
作製した撚糸コードを、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、実施例1と同様、RFL処理液に浸漬し、実施例1と同様の条件で乾燥、熱処理することにより、RFL処理アラミド繊維コードを得た。
(比較例1)
実施例1と同様の方法でポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を得、得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束を、表1に示す、エポキシ化合物と希釈油剤の混合物からなる油剤を付与した後、巻き上げてパッケージにした。
パッケージから巻き出したポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束を、2本引き揃えてZ方向に32t/10cmで加撚して下撚りコードを得た後、下撚りコードを2本引き揃えてS方向に32t/10cmで加撚して上撚りコードを得た。
作製した撚糸コードを、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、実施例1と同様、RFL処理液に浸漬し、実施例1と同様の条件で乾燥、熱処理することにより、RFL処理アラミド繊維コードを得た。
(比較例2)
実施例1において、乾燥条件を変更することにより水分率50質量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(総繊度1,670dtex)を得た。得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束を、表1に示す、エポキシ化合物と希釈油剤の混合物からなる油剤を付与した後、巻き上げてパッケージにした。
パッケージから巻き出したポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の束を、2本引き揃えてZ方向に32t/10cmで加撚して下撚りコードを得た後、下撚りコードを2本引き揃えてS方向に32t/10cmで加撚して上撚りコードを得た。
作製した撚糸コードを、コンピュートリータ処理機(リッツラー社製)を用いて、実施例1と同様、RFL処理液に浸漬し、実施例1と同様の条件で乾燥、熱処理することにより、RFL処理アラミド繊維コードを得た。
評価結果を表1にまとめて示す。
Figure 2021134445
表1の結果から、本発明の油剤を付与した実施例のアラミド繊維は、撚糸時におけるトラベラ摩耗性が良好であり、かつT−接着力も非常に良好であった。
一方、グリセロール系エポキシ化合物をポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体で希釈した油剤を付与したアラミド繊維は、ゴム接着性は良好であったが、撚糸時にトラベラが磨耗しており、工程通過性が劣っていた。水分率50質量%のアラミド繊維に、ソルビトール系エポキシ化合物をポリエチレングリコール−オレイン酸エステルで希釈した油剤を付与したアラミド繊維は、撚糸時にトラベラが磨耗することなく工程通過性に優れていたが、ゴムとの接着性が劣っていた。
本発明のアラミド繊維は、タイヤ、ベルト、ホース等のゴム製品の補強用として好適に利用できる。

Claims (12)

  1. 油剤を付着させたアラミド繊維であって、前記油剤が(a)と(b)とを含み、かつエポキシ硬化剤を含まないことを特徴とするアラミド繊維。
    (a)エポキシ化合物
    (b)下記一般式(I)及び/または下記一般式(II)で示される、脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物
    Figure 2021134445
    (式中、Rは炭素原子数5〜30のアルキル基もしくはアルケニル基である。Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、mはオキシアルキレン基(R−O)の平均付加モル数を表す5〜100の整数である。なお、(R−O)においては、同一のオキシアルキレン基が付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。)
    Figure 2021134445
    (式中、R及びRは、共に炭素原子数5〜30のアルキル基もしくはアルケニル基であり、同一であっても異なっていても良い。Rは炭素原子数2〜3のアルキレン基、nはオキシアルキレン基(R−O)の平均付加モル数を表す5〜100の整数である。なお、(R−O)においては、同一のオキシアルキレン基が付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。)
  2. (b)一般式(I)または(II)において、Rが炭素数2のアルキレン基である請求項1に記載のアラミド繊維。
  3. (b)一般式(I)または(II)において、m及びnが9〜30である請求項1または2に記載のアラミド繊維。
  4. (b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物が、主成分が一般式(I)で表されるエステル化合物であり、Rが炭素原子数9〜26のアルキル基もしくはアルケニル基、Rが炭素数2のアルキレン基、mが9〜21である請求項1〜3のいずれかに記載のアラミド繊維。
  5. (a)エポキシ化合物が、グリセロールジグリシジルエーテル及びグリセロールトリグリシジルエーテルから選ばれる1種または2種の混合物である請求項1〜4のいずれかに記載のアラミド繊維。
  6. 油剤を付着させるアラミド繊維の水分率が15質量%以下である請求項1〜5のいずれかに記載のアラミド繊維。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の油剤を付着させたアラミド繊維を撚糸してなるコード。
  8. 紡出・中和した後、水分率15質量%以下に乾燥したアラミド繊維に、(a)エポキシ化合物と(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物の混合物からなる油剤(ただし、エポキシ硬化剤は含まない。)を付与する工程を含み、続いて前記油剤を付与したアラミド繊維を巻き取り工程でボビンに巻き取り、巻き上げ後のアラミド繊維の水分率を3〜15質量%に保持することを特徴とするアラミド繊維の製造方法。
  9. 紡出・中和した後、水分率15質量%以下に乾燥したアラミド繊維に、(a)エポキシ化合物を付与する工程と、(b)脂肪酸とポリアルキレングリコールのエステル化合物を付与する工程を含み(ただし、エポキシ硬化剤を付与する工程を含まない。)、続いて前記エポキシ化合物及び前記エステル化合物を付与したアラミド繊維を巻き取り工程でボビンに巻き取り、巻き上げ後のアラミド繊維の水分率を3〜15質量%に保持することを特徴とするアラミド繊維の製造方法。
  10. 請求項8または9記載の製造方法によって得られたアラミド繊維をボビンから巻き出して撚糸することを特徴とするアラミド繊維コードの製造方法。
  11. 請求項8または9記載の製造方法によって得られたアラミド繊維をボビンから巻き出して撚糸し、撚糸コードに接着剤を付着させることを特徴とするアラミド繊維コードの製造方法。
  12. 請求項8または9記載の製造方法によって得られたアラミド繊維をボビンから巻き出して接着剤を付着させ、接着剤を付着させたコードを撚糸することを特徴とするアラミド繊維コードの製造方法。
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