JP2021076638A - 光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ - Google Patents

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Abstract

【課題】短波長領域の吸収特性の観点から有利な光吸収性組成物を提供する。【解決手段】本発明に係る光吸収性組成物は、ホスホン酸と、ヒドロキシ基及びカルボニル基を分子内に有する紫外線吸収剤と、金属成分とを含有している。紫外線吸収剤において、望ましくは、ヒドロキシ基と前記カルボニル基とは、1〜6個の原子を隔てて配置されている。【効果】波長300〜500nmにおける光吸収帯が長波長側にシフトする現象が効果的に生じ、光吸収性組成物を硬化させて得られる光吸収膜は、より確実に、波長400nm付近の光を効果的にかつ適切に吸収しやすい。【選択図】なし

Description

本発明は、光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタに関する。
CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を用いた撮像装置において、良好な色再現性を有する画像を得るために様々な光学フィルタが固体撮像素子の前面に配置されている。一般的に、固体撮像素子は紫外線領域から赤外線領域に至る広い波長範囲で分光感度を有する。一方、人間の視感度は可視光の領域にのみに存在する。このため、撮像装置における固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけるために、固体撮像素子の前面に赤外線又は紫外線の一部の光を遮蔽する光学フィルタを配置する技術が知られている。
従来、そのような光学フィルタとしては、誘電体多層膜による光反射を利用して赤外線又は紫外線を遮蔽するものが一般的であった。一方、近年、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタが注目されている。光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタの透過率特性は入射角の影響を受けにくいので、撮像装置において光学フィルタに斜めに光が入射する場合でも色味の変化が少ない良好な画像を得ることができる。また、光反射膜を用いない光吸収型光学フィルタは、光反射膜による多重反射を原因とするゴーストやフレアの発生を抑制することができるので、逆光状態や夜景の撮影において良好な画像を得やすい。加えて、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタは、撮像装置の小型化及び薄型化の点でも有利である。
そのような光吸収剤として、ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤が知られている。例えば、特許文献1には、フェニル基又はハロゲン化フェニル基を有するホスホン酸(フェニル系ホスホン酸)と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する光吸収層を備えた、光学フィルタが記載されている。
また、特許文献2には、赤外線及び紫外線を吸収可能なUV‐IR吸収層を備えた光学フィルタが記載されている。UV‐IR吸収層は、ホスホン酸と銅イオンとによって形成されたUV‐IR吸収剤を含んでいる。光学フィルタが所定の光学特性を満たすように、UV‐IR吸収性組成物は、例えば、フェニル系ホスホン酸と、アルキル基又はハロゲン化アルキル基を有するホスホン酸(アルキル系ホスホン酸)とを含有している。
また、特許文献3には、所定の有機色素を含有している有機色素含有層と、ホスホン酸銅含有層とを備えた赤外線カットフィルタが記載されている。
国際公開第2018/088561号 特許第6232161号公報 国際公開第2017/006571号
特許文献1〜3に記載の技術は、波長400nm付近の短波長領域の吸収特性の観点から再検討の余地を有する。そこで、本発明は、短波長領域の吸収特性の観点から有利な、光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタを提供する。
本発明は、
ホスホン酸と、
ヒドロキシ基及びカルボニル基を分子内に有する紫外線吸収剤と、
金属成分と、を含有している、
光吸収性組成物を提供する。
また、本発明は、
ホスホン酸と、
ヒドロキシ基及びカルボニル基を分子内に有する紫外線吸収剤と、
金属成分と、を含有している、
光吸収膜を提供する。
また、本発明は、上記の光吸収膜を備えた、光学フィルタを提供する。
上記の光吸収性組成物は、短波長領域の吸収特性の観点から有利である。加えて、上記の光吸収膜及び上記の光学フィルタは、短波長領域の吸収特性の観点から有利である。
図1は、本発明に係る光吸収膜の一例を示す断面図である。 図2は、本発明に係る光学フィルタの一例を示す断面図である。 図3は、実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。 図4は、実施例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。 図5は、実施例3に係る光学フィルタの透過スペクトルである。 図6は、実施例4に係る光学フィルタの透過スペクトルである。 図7は、比較例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。 図8は、比較例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。 図9は、比較例3に係る光学フィルタの透過スペクトルである。 図10は、比較例4に係る光学フィルタの透過スペクトルである。 図11は、透明ガラス基板の透過スペクトルである。 図12は、実施例5に係る光吸収膜の断片を含むエタノールのLC−UVクロマトグラフである。 図13は、図12に示すLC−UVクロマトグラフにおける特徴的なピークに関する吸収スペクトルである。 図14は、実施例5に係る光吸収膜の断片から紫外線吸収剤が溶出したエタノール溶液の透過スペクトルである。 図15は、所定の濃度で紫外線吸収剤が溶解した5種類のエタノール溶液の透過スペクトルである。 図16は、図15に示す透過スペクトルに基づく、透過率の最小値を透過率の最大値で割った値trと、紫外線吸収剤の濃度η[%]との関係を示すグラフである。 図17は、比較例5に係る光吸収膜の断片から紫外線吸収剤が溶出したエタノール溶液の透過スペクトルである。
固体撮像素子を用いた撮像装置のための光学フィルタにおいて、赤外線等の長波長領域の光を吸収することに加え、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収することを実現できれば、光学フィルタの価値がより高まる。特許文献1に記載の光学フィルタによれば、波長350nm〜450nmにおいて分光透過率が50%となる波長は400nm未満である。加えて、特許文献2に記載の光学フィルタによれば、波長350nm〜450nmにおいて分光透過率が50%となる波長は、約390nm〜415nmの範囲である。これらの事実によれば、特許文献1及び2に記載の光学フィルタは、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収する観点から有利であるとは言い難い。特許文献3に記載の赤外線カットフィルタは、有機色素含有層及びホスホン酸銅含有層という複数の光吸収層を必要とする。このため、特許文献3に記載の技術は、光学フィルタの簡素化の観点から有利であるとは言い難い。
そこで、本発明者らは、ホスホン酸及び金属成分を含有しつつ、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収する観点から有利な光吸収性組成物を開発すべく鋭意検討を重ねた。多大な試行錯誤を重ねた結果、本発明者らは、ホスホン酸及び金属成分とともに、所定の紫外線吸収剤を含有している光吸収性組成物が短波長領域の光を効果的に吸収する観点から有利であることを新たに見出し、本発明を完成させた。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の例示に関するものであり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本発明に係る光吸収性組成物は、ホスホン酸と、ヒドロキシ基及びカルボニル基を分子内に有する紫外線吸収剤と、金属成分とを含有している。光吸収性組成物がホスホン酸及び金属成分とともにヒドロキシ基及びカルボニル基を分子内に有する紫外線吸収剤を含有していることにより、光吸収性組成物を用いて作製される光吸収膜又は光学フィルタは、波長400nm付近の波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
紫外線吸収剤にとって有利な条件として、光の吸収範囲及び透過範囲が適切なこと、光化学的に安定であること、光増感作用が使用の範囲内で影響のない程度に低いこと、熱化学的に安定であること等の条件が挙げられる。このような観点から、紫外線吸収剤の光吸収の機序として、光励起による分子内でのヒドロキシ基の水素の移動反応(分子内の水素引き抜き反応)を利用することが考えられる。このような機序を発揮する紫外線吸収剤として、例えば、ヒドロキシベンゾフェノン、サリチル酸、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、ヒドロキシフェニルトリアジン、及び置換アクリロニトリル等の化合物が挙げられる。ヒドロキシベンゾフェノン及びサリチル酸においては、分子内に含まれるヒドロキシ基とカルボニル基との間で水素の移動に関する反応が紫外線等の光吸収に関わる。一方、ヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール、ヒドロキシフェニルトリアジン、及び置換アクリロニトリルにおいては、分子内に含まれるヒドロキシ基と窒素原子との間で水素の移動に関する反応が、紫外線等の光吸収に関わる。これらの紫外線吸収剤は、その分子内にヒドロキシ基を有しているので、併存する金属成分又は水素供与体と、一部錯体化等の相互作用を生じるものと推測される。紫外線吸収剤を含む光吸収性組成物及びその硬化物等の系において、ヒドロキシ基を有する紫外線吸収剤が単独で存在する場合と、金属成分や水素供与体とヒドロキシ基を有する紫外線吸収剤とが併存する場合とを比較する。この比較によれば、上記の推測を裏付けるように、それらの光吸収スペクトル及びそれらの光透過スペクトル等の光学的特性に差異が生じる。特に、ホスホン酸と、ヒドロキシ基及びカルボニル基を分子内に有する紫外線吸収剤と、金属成分とを含有している光吸収性組成物を硬化して得られる光吸収膜において、波長300〜500nmにおける光吸収帯が長波長側にシフトする現象が生じることが分かった。このため、このような光吸収膜は、波長400nm付近の光を効果的にかつ適切に吸収するのに有利である。なお、光吸収帯が長波長側にシフト又は長波長側に拡大すると、例えば、透過スペクトルの波長300nm〜500nmの範囲内において吸収極大波長が長波長側にシフトする現象、又は、透過率が50%となる波長(UVカットオフ波長)が長波長側にシフトする現象が顕在化し得る。このように、本発明に係る光吸収性組成物、その硬化物である光吸収膜、及びその光吸収膜を備えた光学フィルタによれば、紫外線吸収剤が本来的に備えている吸収特性が短波長領域の光を効果的に吸収できるように調整される。その結果、このような光吸収膜又は光学フィルタの分光透過率が固体撮像素子等とともに使用される場合にとってより適切なものとなりやすい。
紫外線吸収剤におけるヒドロキシ基とカルボニル基との配置は特定の配置に限定されない。紫外線吸収剤において、望ましくは、ヒドロキシ基と前記カルボニル基とは、1〜6個の原子を隔てて配置されている。これにより、紫外線吸収剤において、ヒドロキシ基とカルボニル基との間で水素の移動が生じやすいと考えられる。このため、波長300〜500nmにおける光吸収帯が長波長側にシフトする現象が効果的に生じやすい。その結果、光吸収性組成物を硬化させて得られる光吸収膜は、より確実に、波長400nm付近の光を効果的にかつ適切に吸収しやすい。
本発明に係る光吸収性組成物を硬化させて得られる光吸収膜の、0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T400、波長550nmにおける透過率T550、及び波長800nmにおける透過率T800は、例えば、8≦T550/T400及び8≦T550/T800の条件を満たす。これにより、光吸収性組成物を用いて作製される光吸収膜又は光学フィルタは、可視域周辺の波長領域において紫外線及び赤外線を適切に吸収しつつ、可視光に対して高い透過率を発揮しやすい。
透過率T400、透過率T550、及び透過率T800は、望ましくは12≦T550/T400及び28≦T550/T800の条件を満たし、より望ましくは16≦T550/T400及び60≦T550/T800の条件を満たす。
紫外線吸収剤は、その分子内にヒドロキシ基及びカルボニル基を有する限り特定の紫外線吸収剤に限定されない。紫外線吸収剤は、望ましくは、ホスホン酸及び金属成分と混合されても凝集しにくい化合物である。このような紫外線吸収剤は、例えば、ヒドロキシベンゾフェノンを少なくとも含む。
紫外線吸収剤は、望ましくは、下記式(A1)で表されるベンゾフェノン系化合物を含む。この場合、光吸収性組成物を用いて作製される光吸収膜又は光学フィルタは、より確実に、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
Figure 2021076638
式(A1)において、R11、R12、R21、及びR22の少なくとも1つはヒドロキシ基である。式(A1)において、R11、R12、R21、又はR22がヒドロキシ基以外の官能基である場合、複数のR11、複数のR12、複数のR21、又は複数のR22が存在していてもよく、R11、R12、R21、及びR22の少なくとも1つは存在しなくてもよい。
11、R12、R21、又はR22がヒドロキシ基以外の官能基である場合、その官能基は、例えば、カルボキシル基、アルデヒド基、ハロゲン、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基、又は1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基であってもよい。
紫外線吸収剤は、望ましくは、下記式(A2)で表されるベンゾフェノン系化合物を含む。この場合、光吸収性組成物を用いて作製される光吸収膜又は光学フィルタは、さらに確実に、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
Figure 2021076638
式(A2)において、R31は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、ハロゲン、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基、又は1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基であってもよい。式(A2)において、R31は、存在していなくてもよい。式(A2)において、R41及びR42は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、ハロゲン、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基、又は1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基であってもよい。式(A2)において、R41及びR42は、存在していなくてもよい。式(A2)において、複数のR41が存在していてもよく、複数のR42が存在していてもよい。
式(A1)又は式(A2)で表されるベンゾフェノン系化合物は、特定の化合物に限定されない。そのベンゾフェノン系化合物は、例えば、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−4’−クロロベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−クロロベンゾフェノン、及び2,4−ジベンゾイルレゾルシンからなる群より選ばれる少なくとも1つである。
ホスホン酸は、特定のホスホン酸に限定されない。光吸収性組成物は、単一種類のホスホン酸を含有していてもよいし、複数種類のホスホン酸を含有していてもよい。ホスホン酸は、例えば、下記式(B)で表される。この場合、光吸収性組成物を用いて作製される光吸収膜又は光学フィルタは、波長750nmより長波長域の光を効果的に吸収するとともに、より確実に、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
Figure 2021076638
式(B)において、R3は、アルキル基、アルキル基における少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化アルキル基、アリール基、又はアリール基における少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化アリール基である。
式(B)で表されるホスホン酸は、特定のホスホン酸に限定されない。式(B)で表されるホスホン酸は、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ノルマル(n−)プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ノルマル(n−)ブチルホスホン酸、イソブチルホスホン酸、secブチルホスホン酸、tertブチルホスホン酸、及びフェニルホスホン酸等のホスホン酸であってもよく、ブロモメチルホスホン酸、フルオロエチルホスホン酸、ブロモフェニルホスホン酸、及びヨードフェニルホスホン酸等の、上記ホスホン酸において少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。
金属成分は、特定の金属成分に限定されない。金属成分は、例えば、銅成分である。この場合、光吸収性組成物を用いて作製される光吸収膜又は光学フィルタは、より確実に、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。光吸収性組成物において、金属成分は、金属イオンとして存在していてもよいし、所定の化合物と錯体を形成した状態で存在していてもよい。金属成分の供給源は、特定の化合物に限定されない。金属成分の供給源は、例えば、酢酸塩、安息香酸塩、ギ酸塩、ステアリン酸塩、ピロリン酸塩、酸化物、塩化物、水酸化物、又はこれらの水和塩である。
光吸収性組成物において、金属成分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比は、特定の値に限定されない。その比は、物質量基準で、例えば0.001〜0.100であり、望ましくは0.001〜0.030である。これにより、光吸収性組成物を用いて作製される光吸収膜又は光学フィルタは、より確実に、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
光吸収組成物において、ホスホン酸の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比は、特定の値に限定されない。その比は、質量基準で、例えば0.1%〜5%であり、望ましくは0.1%〜3%であり、より望ましくは0.1%〜1%である。これにより、光吸収性組成物を用いて作製される光吸収膜又は光学フィルタは、より確実に、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
光吸収性組成物において、ホスホン酸と金属成分との反応のほか、ホスホン酸、金属成分、及び紫外線吸収剤のいずれかの反応によって微粒子状の光吸収剤が形成されてもよい。例えば、ホスホン酸と銅成分との反応から形成されるホスホン酸−銅化合物は、赤外線吸収剤である。微粒子状の光吸収剤の平均粒子径は、例えば5nm〜200nmである。微粒子の平均粒子径が5nm以上であれば、微粒子の微細化のために特別な工程を要さず、光吸収剤を少なくとも含む微粒子の構造が壊れる可能性が小さい。また、光吸収性組成物において微粒子が良好に分散する。また、微粒子の平均粒子径が200nm以下であると、ミー散乱による影響を低減でき、光吸収膜において可視光の透過率を向上させることができ、撮像装置で撮影された画像のコントラスト及びヘイズなどの特性の低下を抑制できる。微粒子の平均粒子径は、望ましくは100nm以下である。この場合、レイリー散乱による影響が低減されるので、光吸収性組成物を用いて形成された光吸収膜において可視光に対する透明性が高まる。また、微粒子の平均粒子径は、より望ましくは75nm以下である。この場合、光吸収性組成物を用いて作製された光吸収膜の可視光に対する透明性がとりわけ高い。なお、微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法によって測定できる。
光吸収性組成物は、例えば、リン酸エステルをさらに含有していてもよい。リン酸エステルの働きにより、光吸収性組成物、又は、それを硬化させた光吸収膜において光吸収剤が適切に分散しやすい。また、リン酸エステルは、分散剤としての機能のほか、その一部が金属成分と反応して化合物を形成してもよい。また、リン酸エステルは、金属成分とホスホン酸によって形成された化合物にさらに配位又は反応して化合物を形成してもよい。光吸収剤にはこれらの化合物又はこれらの銅塩の成分が含まれていてもよい。
リン酸エステルは、例えば、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルである。ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルは、特定のリン酸エステルに限定されない。ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルは、例えば、プライサーフA208N:ポリオキシエチレンアルキル(C12、C13)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208F:ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフA219B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフAL:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、プライサーフA212C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、又はプライサーフA215C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルである。これらはいずれも第一工業製薬社製の製品である。また、リン酸エステルは、例えば、NIKKOL DDP−2:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、NIKKOL DDP−4:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、又はNIKKOL DDP−6:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルであってもよい。これらは、いずれも日光ケミカルズ社製の製品である。光吸収性組成物において、リン酸エステルの含有量に対するホスホン酸の含有量の質量比は、0.2〜10.0であり、望ましくは0.3〜8.0である。
光吸収性組成物は、樹脂をさらに含有していてもよい。樹脂は、望ましくは、少なくとも可視光域で高い透過率を示す透明樹脂である。例えば、これらに限られるものではないが、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、環状オレフィン樹脂、及びシリコーン樹脂等が樹脂として用いられる。
樹脂は、望ましくはフェニル基等のアリール基を含んでいるシリコーン樹脂である。光吸収膜に含まれる樹脂が硬い(リジッドである)と、その樹脂を含む層の厚みが増すにつれて、光吸収膜の作製中に硬化収縮によりクラックが生じやすい。樹脂がアリール基を含むシリコーン樹脂であると、光吸収性組成物によって形成される光吸収膜が良好な耐クラック性を有しやすい。また、アリール基を含むシリコーン樹脂は、ホスホン酸及び紫外線吸収剤と高い相溶性又は分散性を有しやすく、光吸収剤を凝集させにくい。シリコーン樹脂の具体例としては、KR−255、KR−300、KR−2621−1、KR−211、KR−311、KR−216、KR−212、KR−251、及びKR−5230を挙げることができる。これらはいずれも信越化学工業社製のシリコーン樹脂である。
光吸収性組成物において、樹脂の固形分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比は、特定の値に限定されない。その比は、質量基準で、例えば0.1%〜1.8%であり、望ましくは0.2%〜1.5%である。このことは、耐候性の低下又はブリードアウト等の問題の発生を抑制する観点から有利である。
光吸収性組成物は、必要に応じて、アルコキシシランをさらに含有していてもよい。この場合、アルコキシシランの加水分解縮重合によりシロキサン結合(−Si−O−Si−)が形成され、光吸収膜が緻密な構造を有しやすい。アルコキシシランは、モノマーであってもよく、ある程度加水分解と縮重合が進展したオリゴマーやポリマーの形態でもよく、それらの混合物であってもよい。
モノマーのアルコキシシランとしては、入手が容易な点、反応の制御が容易な点、膜の密着性、膜の耐候性等の観点から、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、及び3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲内で、一種類又は複数種類のアルコキシシランを用いることができる。
光吸収性組成物がこれらのアルコキシシランを含有することにより、ホスホン酸と金属成分とからなる光吸収剤の凝集を抑制する作用が生じ、分散剤として機能するリン酸エステル化合物の添加量を低減できる。
光吸収性組成物の調製方法の一例を説明する。酢酸塩等の金属塩をテトラヒドロフラン(THF)などの所定の溶媒に添加して撹拌し、金属塩の溶液であるA液を調製する。A液の調製において、リン酸エステルが添加されてもよい。次に、ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えて撹拌し、B液を調製する。光吸収性組成物が複数種類のホスホン酸を含有する場合、各ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えたうえで撹拌して各ホスホン酸の種類ごとに調製した複数の予備液を混合してB液を調製してもよい。B液の調製において必要に応じてアルコキシシランが加えられてもよい。B液の調製に用いられるホスホン酸は、例えば、アリール基又はハロゲン化アリール基を有するホスホン酸である。A液を撹拌しながら、A液にB液を加えて所定時間撹拌する。次に、この溶液にトルエンなどの所定の溶媒を加えて撹拌し、C液を得る。次に、C液を加温しながら所定時間脱溶媒処理を行って、D液を得る。これにより、THFなどの溶媒及び酢酸(沸点:約118℃)などの金属塩の解離により発生する成分が除去され、ホスホン酸と金属成分とによって光吸収剤が生成される。C液を加温する温度は、金属塩から解離した除去されるべき成分の沸点に基づいて定められている。なお、脱溶媒処理においては、C液を得るために用いたトルエン(沸点:約110℃)などの溶媒も揮発する。この溶媒は、光吸収性組成物においてある程度残留していることが望ましいので、この観点から溶媒の添加量及び脱溶媒処理の時間が定められうる。なお、C液を得るためにトルエンに代えてo‐キシレン(沸点:約144℃)を用いることもできる。この場合、o‐キシレンの沸点はトルエンの沸点よりも高いので、添加量をトルエンの添加量の4分の1程度に低減できる。
必要に応じて、以下の通り、H液が調整されうる。酢酸塩等の金属塩をTHFなどの所定の溶媒に添加して撹拌し、金属塩の溶液であるE液を調製する。E液の調製において、リン酸エステルが添加されてもよい。次に、ホスホン酸をTHFなどの所定の溶媒に加えて撹拌し、F液を調製する。F液の調製に用いられるホスホン酸は、例えば、アルキル基又はハロゲン化アルキル基を有するホスホン酸でありうる。E液を撹拌しながら、E液にF液を加えて所定時間撹拌する。次に、この溶液にトルエンなどの所定の溶媒を加えて撹拌し、G液を得る。次に、G液を加温しながら所定時間脱溶媒処理を行って、H液を得る。これにより、THFなどの溶媒及び酢酸(沸点:約118℃)などの金属塩の解離により発生する成分が除去され、ホスホン酸と金属成分とによって光吸収剤が生成される。G液を加温する温度は、金属塩から解離した除去されるべき成分の沸点に基づいて定められている。なお、脱溶媒処理においては、G液を得るために用いたトルエン(沸点:約110℃)などの溶媒も揮発する。この溶媒は、光吸収性組成物においてある程度残留していることが望ましいので、この観点から溶媒の添加量及び脱溶媒処理の時間が定められうる。なお、G液を得るためにトルエンに代えてo‐キシレン(沸点:約144℃)を用いることもできる。この場合、o‐キシレンの沸点はトルエンの沸点よりも高いので、添加量をトルエンの添加量の4分の1程度に低減できる。
ヒドロキシ基及びカルボニル基を分子内に有する紫外線吸収剤をトルエンなどの所定の溶媒に加えて撹拌し、U液を得る。必要に応じてシリコーン樹脂とともに、U液とD液とを混合して撹拌することにより、光吸収性組成物を調整できる。必要に応じてシリコーン樹脂と共に、U液と、D液と、H液とを混合して撹拌することによっても光吸収性組成物を調整できる。D液の調製又はH液の調製においてU液が加えられてもよい。例えば、C液の調製及びG液の調製においてU液が加えられてもよい。
光吸収性組成物を用いて、例えば、図1に示す光吸収膜10を提供できる。光吸収膜10は、例えば、光吸収性組成物の塗膜を硬化させることによって得られる。光吸収膜10は、ホスホン酸と、ヒドロキシ基及びカルボニル基を分子内に有する紫外線吸収剤と、金属成分とを含有している。これにより、光吸収膜10は、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
光吸収膜10の紫外線吸収剤において、望ましくは、ヒドロキシ基と前記カルボニル基とは、1〜6個の原子を隔てて配置されている。これにより、光吸収膜10は、より確実に、波長400nm付近の光を効果的にかつ適切に吸収しやすい。
光吸収膜10の、0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T400、波長550nmにおける透過率T550、及び波長800nmにおける透過率T800は、8≦T550/T400及び8≦T550/T800の条件を満たす。これにより、光吸収膜10は、可視光域周辺の波長領域において紫外線及び赤外線を適切に吸収しつつ、可視光に対して高い透過率を発揮しやすい。
光吸収膜10において、透過率T400、透過率T550、及び透過率T800は、望ましくは12≦T550/T400及び28≦T550/T800の条件を満たし、より望ましくは16≦T550/T400及び60≦T550/T800の条件を満たす。
光吸収膜10における紫外線吸収剤は、例えば、上記の式(A1)で表されるベンゾフェノン系化合物を含む。これにより、光吸収膜10は、より確実に、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
光吸収膜10における紫外線吸収剤は、望ましくは、上記の式(A2)で表されるベンゾフェノン系化合物を含む。これにより、光吸収膜10は、さらに確実に、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
光吸収膜10におけるホスホン酸は、例えば、上記の式(B)で表される。これにより、光吸収膜10は、波長750nmより長波長域の光を効果的に吸収するとともに、より確実に、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
光吸収膜10における金属成分は、例えば、銅成分である。この場合、光吸収膜10は、より確実に、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
光吸収膜10は、例えば、リン酸エステルをさらに含有していてもよい。リン酸エステルの働きにより、光吸収膜10において光吸収剤が適切に分散しやすい。
図1に示す通り、例えば、光吸収膜10を備えた光学フィルタ1aを提供できる。光学フィルタ1aによって、波長400nm付近の短波長領域の光を効果的に吸収しやすい。
光学フィルタ1aの0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T400、波長550nmにおける透過率T550、及び波長800nmにおける透過率T800は、例えば、8≦T550/T400及び8≦T550/T800の条件を満たす。
光学フィルタ1aにおいて、透過率T400、透過率T550、及び透過率T800は、望ましくは12≦T550/T400及び28≦T550/T800の条件を満たし、より望ましくは16≦T550/T400及び60≦T550/T800の条件を満たす。また、光学フィルタ1aにおいて、透過率T400、透過率T550、及び透過率T800は、例えば、T550/T400≦120及びT550/T800≦1×107の条件を満たし、望ましくはT550/T400≦100及びT550/T800≦1×106の条件を満たす。
光学フィルタ1aの0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、望ましくは、下記(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII)、(IX)、及び(X)の条件がさらに満たされる。これにより、光学フィルタ1aは、所望の特性を発揮しやすい。
(I)波長300nm〜380nmにおける最大の透過率TM 300-380が1%以下である。
(II)波長400nmにおける透過率T400が20%以下である。
(III)波長400nm〜490nmにおいて透過率が50%となる波長であるUVカットオフ波長λUV CFは、405nm≦λUV CF≦480nmの条件を満たす。
(IV)波長480nm〜580nmにおける透過率の平均値TA 480-580が78%以上である。
(V)波長590nm〜700nmにおいて透過率が50%となる波長であるIRカットオフ波長λIR CFは、600nm≦λIR CF≦700nmの条件を満たす。
(VI)波長700nm〜750nmにおける透過率の平均値TA 700-750が10%以下である。
(VII)波長800nm〜950nmにおける最大の透過率TM 800-950が3%以下である。
(VIII)波長700nm〜1000nmにおける最大の透過率TM 700-1000が10%以下である。
(IX)波長700nm〜1100nmにおける最大の透過率TM 700-1100が15%以下である。
(X)波長700nm〜1200nmにおける最大の透過率TM 700-1200が20%以下である。
上記の(I)の条件に関し、光学フィルタ1aの0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、望ましくは、波長300nm〜385nmにおける最大の透過率TM 300-385が1%以下であり、より望ましくは、波長300nm〜390nmにおける最大の透過率TM 300-390が1%以下である。
上記の(II)の条件に関し、透過率T400は、望ましくは10%以下であり、より望ましくは5%以下である。
上記の(III)の条件に関し、望ましくは405nm≦λUV CF≦470nmの条件が満たされ、より望ましくは405nm≦λUV CF≦460nmの条件が満たされる。
上記の(IV)の条件に関し、平均値TA 480-580は、望ましくは、82%以上である。
上記の(V)の条件に関し、望ましくは620nm≦λIR CF≦680nmの条件が満たされる。
上記の(VI)の条件に関し、平均値TA 700-750は、望ましくは3%以下である。
上記の(VII)の条件に関し、最大の透過率TM 800-950は、望ましくは1%以下であり、より望ましくは0.5%以下である。
上記の(VIII)の条件に関し、最大の透過率TM 700-1000は、望ましくは7%以下であり、より望ましくは5%以下である。
上記の(IX)の条件に関し、最大の透過率TM 700-1100は、望ましくは10%以下であり、より望ましくは5%以下である。
上記の(X)の条件に関し、最大の透過率TM 700-1200は、望ましくは15%以下であり、より望ましくは10%以下である。
光学フィルタ1aの0度の入射角度での透過スペクトルは、例えば、下記の(α)、(β)、及び(γ)の条件を満たしていてもよい。
(α)波長300nm〜450nmにおいて、1%の透過率を示す最大波長と1%の透過率を示す最小波長との差λRUV 1%が90nm以上である。
(β)IRカットオフ波長λIR CFとUVカットオフ波長λUV CFとの差λR CFが180nm以上である。
(γ)波長700nm〜1200nmにおいて、1%の透過率を示す最大波長と1%の透過率を示す最小波長との差λRIR 1%が200nm以上である。
(α)の条件が満たされていることにより、光学フィルタ1aは、良好な紫外線吸収性能を発揮できる。(β)の条件が満たされていることにより、光学フィルタ1aを通過した光を受光する固体撮像素子等のセンサにおいて、十分な光量の可視光が受光されうる。(γ)の条件を満たすことにより、光学フィルタ1aは、良好な赤外線吸収性能を発揮できる。このため、(α)、(β)、及び(γ)の条件を満たすことにより、光学フィルタ1aは、紫外線及び紫外線を良好に吸収する性能、すなわち、良好なUV‐IR吸収性能を発揮できる。
(γ)の条件に関し、差λRIR 1%は、望ましくは300nm以上であり、より望ましくは350nm以上である。
光学フィルタ1aは、例えば、光吸収膜10単体で構成されている。この場合、光学フィルタ1aは、例えば、撮像素子又は光学部品とは別体で使用されうる。光学フィルタ1aは、撮像素子及び光学部品に対して接合されていてもよい。一方、上記の光吸収性組成物を撮像素子又は光学部品に塗布して、光吸収性組成物を硬化させることによって、光学フィルタ1aが構成されていてもよい。
光吸収膜10の厚みは、特定の値に限定されない。光吸収膜10の厚みは、例えば、10μm〜600μmであり、20μm〜400μmであってもよく、30μm〜300μmであってもよい。
光学フィルタ1aは、例えば、基板上に形成された光吸収膜10を基板から剥離することによって作製できる。この場合、基板の材料は、ガラスであってもよく、樹脂であってもよく、金属であってもよい。基板の表面には、フッ素含有化合物を用いたコーティング等の表面処理が施されていてもよい。
光学フィルタ1aは、例えば、図2に示す光学フィルタ1bのように変更されてもよい。光学フィルタ1bは、特に説明する場合を除き、光学フィルタ1aと同様に構成されている。光学フィルタ1aの構成要素と同一又は対応する光学フィルタ1bの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。光学フィルタ1aに関する説明は技術的に矛盾しない限り光学フィルタ1bにも当てはまる。
図2に示す通り、光学フィルタ1bは、光吸収膜10と、透明誘電体基板20とを備えている。光吸収膜10は、透明誘電体基板20の一方の主面と平行に形成されている。光吸収膜10は、例えば、透明誘電体基板20の一方の主面に接触していてもよい。この場合、例えば、透明誘電体基板20の一方の主面に上記の光吸収性組成物を塗布して光吸収性組成物を硬化させることによって光吸収膜10が形成されうる。
透明誘電体基板20の種類は、特定の種類に限定されない。透明誘電体基板20は、赤外線領域に吸収能を有していてもよい。透明誘電体基板20は、例えば波長350nm〜900nmにおいて90%以上の平均分光透過率を有していてもよい。透明誘電体基板20の材料は、特定の材料に制限されないが、例えば、所定のガラス又は樹脂である。透明誘電体基板20の材料がガラスである場合、透明誘電体基板20は、例えば、ソーダ石灰ガラス及びホウケイ酸ガラスなどのケイ酸塩ガラスでできた透明なガラス又はCu及びCo等の着色性の成分を含有するリン酸塩ガラス及び弗リン酸塩ガラスでありうる。着色性の成分を含有するリン酸塩ガラス及び弗リン酸塩ガラスは、例えば赤外線吸収性ガラスであり、それ自体が光吸収性を有する。光吸収膜10を、赤外線吸収性ガラスの透明誘電体基板20とともに用いる場合には、双方の光吸収性及び透過スペクトルを調整して、所望の光学特性を有する光学フィルタを作製でき、光学フィルタの設計の自由度が高い。
透明誘電体基板20の材料が樹脂である場合、その樹脂は、例えば、ノルボルネン系樹脂等の環状オレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はシリコーン樹脂である。
光学フィルタ1a及び1bのそれぞれは、赤外線反射膜及び反射防止膜等の他の機能膜をさらに備えるように変更されてもよい。このような機能膜は、光吸収膜10又は透明誘電体基板20の上に形成されうる。例えば、光学フィルタが反射防止膜を備えることにより、所定の波長の範囲(例えば可視光域)の透過率を高めることができる。反射防止膜は、MgF2及びSiO2等の低屈折率材料の層として構成されていてもよく、このような低屈折率材料の層とTiO2等の高屈折率材料の層との積層体として構成されていてもよく、誘電体多層膜として構成されていてもよい。このような反射防止膜は、真空蒸着及びスパッタ法等の物理的な反応を伴う方法、又は、CVD法及びゾルゲル法等の化学的な反応を伴う方法によって形成されうる。
光学フィルタは、例えば、二枚の板状のガラスの間に光吸収膜10が配置された状態で構成されていてもよい。これにより、光学フィルタの剛性及び機械的強度が向上する。加えて、光学フィルタの主面が硬質となり、キズ防止等の観点から有利である。特に、光吸収膜10におけるバインダー又はマトリクスとして比較的柔軟性の高い樹脂を用いた場合に、このような利点が重要である。
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
<実施例1>
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られたこの酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を1.646gの分量で加えて30分間撹拌し、1−A液を得た。フェニルホスホン酸0.706gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、1−B1液を得た。4‐ブロモフェニルホスホン酸4.230gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、1−B2液を得た。次に、1−B1液と1−B2液とを混ぜて1分間撹拌し、メチルトリエトキシシラン(MTES)(信越化学工業社製、製品名:KBE−13)8.664gと、テトラエトキシシラン(TEOS)(キシダ化学社製 特級)2.830gとを、この混合液に加えて、さらに1分間撹拌し、1−B液を得た。1−A液を撹拌しながら1−A液に1−B液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン140gを加えた後、室温で1分間撹拌し、1−C液を得た。1−C液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB−2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N−1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液を取り出し、1−D液を得た。このようにして、アリール系ホスホン酸と、銅成分と、リン酸エステルとを含む1−D液を得た。
紫外線吸収剤であるUvinul3049(BASF社製、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン)0.12gと、トルエン99.88gとを混合して30分間の撹拌を行い、紫外線吸収剤を含む1−U液を得た。
酢酸銅一水和物4.500gと、THF240gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを2.572gの分量で加えて30分間撹拌し、1−E液を得た。n‐ブチルホスホン酸2.886gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、1−F液を得た。1−E液を撹拌しながら1−F液を加え、さらに室温で1分間撹拌した。次に、この溶液に紫外線吸収剤を含む1−U液を加えた後、室温で1分間撹拌し、1−G液を得た。1−G液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液を取り出し、1−H液を得た。このようにしてアルキル系ホスホン酸と、銅成分と、リン酸エステルと、紫外線吸収剤とを含む1−H液を得た。
1−D液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)を8.800g添加し、30分間撹拌して、1−I液を得た。1−H液全量の40質量%に相当する量を1−I液に加えてさらに30分間撹拌を行い、実施例1に係る光吸収性組成物を得た。実施例1に係る光吸収性組成物は、アリール系ホスホン酸と、アルキル系ホスホン酸と、銅成分と、リン酸エステルと、アルコキシシラン又はその加水分解物と、重合性樹脂(シリコーン樹脂)と、紫外線吸収剤とを含んでいた。実施例1に係る光吸収性組成物の各成分の含有量を表1に示す。なお、表1において、樹脂における固形分の含有量は、50%質量であるとの前提で、樹脂の固形分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比を算出した。
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で30分間の熱処理行い、溶媒を揮発させて塗膜を硬化させた。さらに、温度85℃及び相対湿度85%の環境下で透明ガラス基板を2時間程度置いてアルコキシシランの加水分解反応を促進させた。このようにして、実施例1に係る光吸収膜を形成し、実施例1に係る光学フィルタを得た。
(透過スペクトル測定)
紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、製品名:V−670)を用いて、実施例1に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを測定した。実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルを図3に示す。また、図3から読み取った透過率に関する特性を表2、3、及び4に示す。これらの結果から、実施例1に係る光学フィルタの400nmの透過率は、5%以下であり、実施例1に係る光学フィルタは、紫外線を含む短波長領域の光に対して、望ましい吸収特性を有し、良好な光学特性を有することが確認された。参考に、透明ガラス基板として用いたD263 T ecoの透過スペクトルを図11に示す。
(厚み測定)
レーザー変位計(キーエンス社製、製品名:LK−H008)を用いて、光学フィルタの表面との距離を測定し、透明ガラス基板の厚みを差し引くことによって、光吸収膜の厚みを算出した。その結果を表2に示す。
<実施例2>
実施例1に係る光吸収性組成物の調製に用いた1−U液の代わりに、Uvinul3049(BASF社製)0.04gと、トルエン99.96gとを混合して調製した紫外線吸収剤を含む2−U液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る光吸収性組成物を調製し、かつ、光吸収膜を形成して実施例2に係る光学フィルタを作製した。実施例2に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを実施例1と同様に測定した。加えて、実施例2に係る光学フィルタにおける光吸収膜の厚みを実施例1と同様にして算出した。実施例2に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを図4に示す。図4の透過スペクトルから看取できる各パラメータ及び光吸収膜の膜厚について表2〜4に示す。これらの結果から、実施例2に係る光学フィルタの400nmの透過率は、5%以下であり、実施例2に係る光学フィルタは、紫外線を含む短波長領域の光に対して、望ましい吸収性能を有し、良好な光学特性を有することが確認された。
<実施例3>
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを1.646gの分量で加えて30分間撹拌し、3−A液を得た。フェニルホスホン酸0.706gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、3−B1液を得た。4‐ブロモフェニルホスホン酸4.230gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、3−B2液を得た。次に、3−B1液と3−B2液とを混ぜて1分間撹拌し、メチルトリエトキシシラン(MTES)(信越化学工業社製、製品名:KBE−13)8.664gと、テトラエトキシシラン(TEOS)(キシダ化学社製 特級)2.830gとをこの混合液に加えて、さらに1分間撹拌し、3−B液を得た。3−A液を撹拌しながら3−A液に3−B液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン140gを加えた後、室温で1分間撹拌し、3−C液を得た。3−C液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB−2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N−1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液を取り出し、3−D液を得た。このようにして、アリール系ホスホン酸と、銅成分と、リン酸エステルとを含む3−D液を得た。
紫外線吸収剤であるUvinul3050(BASF社製、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン)5gと、エタノール95gとを混合して30分間の撹拌を行い、紫外線吸収剤を含む3−U液を得た。
酢酸銅一水和物4.500gと、THF240gとを混合して3時間撹拌し、酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを2.572gの分量で加えて30分間撹拌し、3−E液を得た。n‐ブチルホスホン酸2.886gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、3−F液を得た。3−E液を撹拌しながら3−E液に3−F液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエンを100g加えた後、室温で1分間撹拌し、3−G液を得た。3−G液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の3−H液を取り出し、3−H液を得た。このようにしてアルキル系ホスホン酸と、銅成分と、リン酸エステルと、を含む3−H液を得た。
3−D液に、シリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)を8.800g添加し、30分間撹拌して、3−I液を得た。3−H液全量の40質量%に相当する量を3−I液に加えて、さらに紫外線吸収剤を含む3−U液を0.96g加えて30分間の撹拌を行い、実施例3に係る光吸収性組成物を得た。実施例3に係る光吸収性組成物は、アリール系ホスホン酸と、アルキル系ホスホン酸と、銅成分と、リン酸エステルと、アルコキシシラン又はその加水分解物と、重合性樹脂(シリコーン樹脂)と、紫外線吸収剤とを含んでいた。
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて実施例3に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で30分間の熱処理行い、溶媒を揮発させて塗膜を硬化させた。さらに、温度85℃及び相対湿度85%の環境下で透明ガラス基板を2時間程度置いてアルコキシシランの加水分解反応を促進させた。このようにして、実施例3に係る光吸収膜を形成し、実施例3に係る光学フィルタを得た。実施例3に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを実施例1と同様に測定した。加えて、実施例3に係る光学フィルタにおける光吸収膜の厚みを実施例1と同様にして算出した。実施例3に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを図5に示す。図5の透過スペクトルから看取できる各パラメータ及び光吸収膜の膜厚について表2〜4に示す。これらの結果から、実施例3に係る光学フィルタの400nmの透過率は、5%以下であり、実施例3に係る光学フィルタは、紫外線を含む短波長領域の光に対して、望ましい吸収性能を有し、良好な光学特性を有することが確認された。
<実施例4>
実施例3に係る光吸収性組成物の調製に用いた3−U液の代わりに、Uvinul3050(BASF社製)1.67gと、トルエン98.33gとを混合して調製された紫外線吸収剤を含む4−U液を用いた以外は、実施例3と同様にして、実施例4に係る光吸収性組成物を調製し、かつ、光吸収膜を形成して実施例4に係る光学フィルタを作製した。実施例4に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを実施例1と同様に測定した。加えて、実施例4に係る光学フィルタにおける光吸収膜の厚みを実施例1と同様にして算出した。実施例4に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを図6に示す。図6の透過スペクトルから看取できる各パラメータ及び光吸収膜の膜厚について表2〜4に示す。これらの結果から、実施例4に係る光学フィルタの400nmの透過率は、5%以下であり、実施例4に係る光学フィルタは、紫外線を含む短波長領域の光に対して、望ましい吸収性能を有し、良好な光学特性を有することが確認された。
<比較例1>
紫外線吸収剤であるUvinul3049(BASF社製)0.250gと、トルエン12.25gとを混合して30分間の撹拌を行い、紫外線吸収剤を溶解させた。その後、その溶液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)を25.000g加え、30分間の撹拌を行い、比較例1に係る紫外線吸収性組成物を得た。
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて比較例1に係る紫外線吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜をオーブンに入れて45℃で2時間、85℃で1時間の熱処理行い、溶媒を揮発させて塗膜を硬化させた。このようにして、比較例1に係る光吸収膜を形成し、比較例1に係る紫外線吸収フィルタを得た。
比較例1に係る紫外線吸収フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを実施例1と同様に測定した。加えて、比較例1に係る紫外線吸収フィルタにおける光吸収膜の厚みを実施例1と同様にして算出した。比較例1に係る紫外線吸収フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを図7に示す。図7の透過スペクトルから看取できる各パラメータ及び光吸収膜の膜厚について表2〜4に示す。これらの結果から、比較例1に係る紫外線吸収フィルタは、波長400nmにおける透過率が40.78%と高く、波長400nm付近における光の吸収に関し、難点があることが分かった。これはUvinul3049の色素の吸収特性によるものであり、Uvinul3049単体では、400nm付近を十分に吸収できないことが確認された。
<比較例2>
比較例1に係る紫外線吸収性組成物の調製に用いた紫外線吸収剤の代わりに、Uvinul3050(BASF社製)を用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例2に係る紫外線吸収性組成物を調製し、かつ、光吸収膜を形成して比較例2に係る紫外線吸収フィルタを作製した。比較例2に係る紫外線吸収フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを実施例1と同様に測定した。加えて、比較例2に係る紫外線吸収フィルタにおける光吸収膜の厚みを実施例1と同様にして算出した。比較例2に係る紫外線吸収フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを図8に示す。図8の透過スペクトルから看取できる各パラメータ及び光吸収膜の膜厚について表2〜4に示す。
<比較例3>
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を1.646gの分量で加えて30分間撹拌し、13−A液を得た。フェニルホスホン酸0.706gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、13−B1液を得た。4‐ブロモフェニルホスホン酸4.230gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、13−B2液を得た。13−B1液と13−B2液とを混ぜて1分間撹拌し、メチルトリエトキシシラン(MTES)(信越化学工業社製、製品名:KBE−13)8.664gと、テトラエトキシシラン(TEOS)(キシダ化学社製 特級)2.830gとをこの混合液に加えて、さらに1分間撹拌し、13−B液を得た。13−A液を撹拌しながら13−A液に13−B液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン140gを加えた後、室温で1分間撹拌し、13−C液を得た。この13−C液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB−2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N−1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液を取り出し、13−D液を得た。このようにして、アリール系ホスホン酸と、銅成分と、リン酸エステルと、アルコキシシラン又はその加水分解物とを含む13−D液を得た。
酢酸銅一水和物4.500gと、THF240gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを2.572gの分量で加えて30分間撹拌し、13−E液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸2.886gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、13−F液を得た。13−E液を撹拌しながら13−E液に13−F液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエンを100g加えた後、室温で1分間撹拌し、13−G液を得た。この13−G液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の液を取り出し、13−H液を得た。このようにして、アルキル系ホスホン酸と、銅成分と、リン酸エステルとを含む13−H液を得た。
13−D液にシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR−300)を8.800g添加し、30分間撹拌して、13−I液を得た。13−H液全量の40質量%に相当する量を13−I液に加えて30分間の撹拌を行い、比較例3に係る光吸収性組成物を得た。比較例3に係る光吸収性組成物は、アリール系ホスホン酸と、アルキル系ホスホン酸と、銅成分と、リン酸エステルと、アルコキシシラン又はその加水分解物と、重合性樹脂と、を含んでいた。
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて比較例3に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で30分間の熱処理行い、溶媒を揮発させて塗膜を硬化させた。さらに、温度85℃及び相対湿度85%の環境下で透明ガラス基板を2時間程度置いてアルコキシシランの加水分解反応を促進させた。このようにして、比較例3に係る光吸収膜を形成し、比較例3に係る光学フィルタを得た。
比較例3に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを実施例1と同様に測定した。加えて、比較例3に係る光学フィルタにおける光吸収膜の厚みを実施例1と同様にして算出した。比較例3に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを図9に示す。図9の透過スペクトルから看取できる各パラメータ及び光吸収膜の膜厚について表2〜4に示す。これらの結果から、比較例3に係る光学フィルタの400nmの透過率は35.06%であり、比較例3に係る光学フィルタの紫外線吸収特性は不十分であることが確認された。
<比較例4>
76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラスでできた透明ガラス基板(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて比較例1に係る紫外線吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜をオーブンに入れて45℃で2時間、85℃で1時間の熱処理行い、溶媒を揮発させて塗膜を硬化させ、光吸収膜を形成した。次に、透明ガラス基板の他方の主面に、比較例3に係る光吸収性組成物を同様に塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で30分間の熱処理行い、溶媒を揮発させて塗膜を硬化させた。その後、温度85℃及び相対湿度85%の環境下で透明ガラス基板を2時間程度置いてアルコキシシランの加水分解反応を促進させた。このようにして、透明ガラス基板の両面に比較例4に係る光吸収膜を形成し、比較例4に係る光学フィルタを得た。
比較例4に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを実施例1と同様に測定した。加えて、比較例4に係る光学フィルタにおける光吸収膜の厚みを実施例1と同様にして算出した。比較例4に係る光学フィルタの0°の入射角における透過率を図10に示す。透過スペクトルから看取できる各パラメータ及び光吸収膜の膜厚について表2〜4に示す。これらの結果から、比較例4に係る光学フィルタの波長400nmにおける透過率は14.52%と大きく、比較例4に係る光学フィルタは、十分な光吸収特性を有しているとは言い難かった。このため、紫外線吸収剤を含有する層と、ホスホン酸銅を含有する層とを別々に形成してこれらを重ねただけでは、波長400nm付近における光の吸収に関し難点があることが分かった。このため、実施例1〜4のように所定の紫外線吸収剤と、金属成分とを同一の層において組み合わせることが、波長400nm付近における光の吸収の観点から有利であることが示唆される。
実施例1〜4に係る光学フィルタのUVカットオフ波長λUV CFは、それぞれ、445nm、434nm、436nm、及び430nmである。加えて、実施例1〜4に係る光学フィルタの透過率T400は、それぞれ、1.49%、4.93%、1.82%、及び4.54%である。一方で、比較例1及び2に係る紫外線吸収フィルタは、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤単体の光吸収性能を利用したフィルタあり、比較例1及び2に係る紫外線吸収フィルタのUVカットオフ波長λUV CFは、それぞれ、402nm及び398nmである。加えて、比較例1及び2に係る紫外線吸収フィルタの透過率T400は、それぞれ、40.78%及び57.15%である。比較例4に係る光学フィルタは、透明ガラス基板の両面にベンゾフェノン系紫外線吸収剤を単独で含有している光吸収膜と、ホスホン酸と銅成分とを含む光吸収膜とを備えている。比較例4に係る光学フィルタのUVカットオフ波長λUV CFは412nmであり、比較例1及び2に係る紫外線吸収フィルタの透過率T400は、14.52%である。従って、実施例に係る光学フィルタのUVカットオフ波長λUV CFは、比較例1及び2に係る紫外線吸収フィルタのUVカットオフ波長λUV CFより約30nm程度大きく、かつ、比較例4に係る光学フィルタのUVカットオフ波長λUV CFより約15nm以上大きい。また、実施例に係る光学フィルタの透過率T400は、比較例1及び2に係る光学フィルタのT400より約35ポイント以上小さく、比較例4に係る光学フィルタの透過率T400より約10ポイント以上小さい。これらのことから、本発明に係る光学フィルタの紫外線を含む短波長領域の光吸収特性は、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤単体によって発揮される光吸収特性よりも、長波長側で発現しうることが理解される。このような効果のための機序は定かではない。例えば、光吸収性組成物の調製工程において、紫外線吸収剤のヒドロキシ基が銅成分と相互作用して錯体を形成し、紫外線吸収剤が本来的に備えている吸収特性が長波長側へシフトが生じ、このような効果が得られたものと考えられる。
実施例1〜4によれば、光吸収性組成物において、樹脂の固形分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比が質量基準で0.36%〜1.09%であることが、良好な特性を得るために有利であることが分かった。一方、比較例1及び2によれば、紫外線吸収性組成物において、樹脂の固形分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比が質量基準で2.00%となっており、樹脂に対して多くの量の色素が添加されている。それにも関わらず、比較例1及び2に係る紫外線吸収フィルタの紫外線吸収特性は、実施例1〜4に係る光学フィルタの紫外線吸収特性と比べて大きく劣っている。本発明によれば、光吸収性組成物において、樹脂の固形分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比を2.00%未満に調整しても、良好な紫外線吸収特性の実現が可能であると理解される。樹脂の固形分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比が小さいことは、耐候性の低下又はブリードアウト等の問題の発生を抑制する観点から有利である。光吸収性組成物において、樹脂の固形分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比は、質量基準で、望ましくは0.1%〜1.8%であり、より望ましくは0.2〜1.5%である。
実施例1〜4によれば、光吸収性組成物において、ホスホン酸の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比は、質量基準で、0.263%〜0.788%に調整されている。この結果から、ホスホン酸に比べて極少量の紫外線吸収剤の使用により、光学フィルタが有利な特性を発揮できることが理解される。ホスホン酸の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比が大きすぎないことにより、可視光の透過率の低下を抑制できる。ホスホン酸の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比は、質量基準で、望ましくは0.1〜5.0%であり、より望ましくは0.1〜3.0%であり、さらに望ましくは0.1〜1.0%である。
実施例1〜4によれば、光吸収性組成物において、銅成分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比は、物質量基準で、0.002〜0.006である。銅成分の多くはホスホン酸と錯体を形成すると推測される。このため、銅成分の含有量は、紫外線吸収剤の含有量に比べて大きい。銅成分の含有量に対する紫外線吸収剤の含有量の比は、物質量基準で、望ましくは0.001〜0.100であり、より望ましくは0.001〜0.030である。
本発明の光学フィルタは、実施例1〜4に係る光学フィルタのように、光吸収性組成物を透明ガラス基板上に塗布し、塗膜を硬化させて吸収膜を形成して作製される、透明な基板と光吸収膜との積層体でありうる。一方、本発明の光学フィルタは、光吸収膜を支持体上に形成した後に、光吸収膜を支持体から剥離させて得られる、光吸収膜のみからなる光学フィルタであってもよい。図11によれば、透明ガラス基板の透過スペクトルは、表2〜4に示す光学特性に大きく影響を与えるものではないことが理解される。なぜなら、透明ガラス基板の透過スペクトルにおいては、少なくとも波長350nmを超えた特定波長から波長1200nmに至るまで、透過率が略一定だからである。従って、光吸収膜を含み、透明ガラス基板を備えない光学フィルタであっても、8≦T550/T400及び8≦T550/T800の条件、(I)〜(X)の条件、及び(α)〜(γ)の条件を満たし得る。
(紫外線吸収剤の検出)
光吸収膜に含まれる紫外線吸収剤について以下の要領でエタノール溶出試験を行った。
<実施例5>
まず、光学フィルタから光吸収膜を容易に取り外せるように、光吸収膜が形成される透明ガラス基板の主面をフッ素化合物によって予め表面処理してフッ素処理基板を作製した。表面防汚コーティング剤(ダイキン工業社製、製品名:オプツールDSX、有効成分の濃度:20質量%)0.1gと、ハイドロフルオロエーテル含有液(3M社製、製品名:ノベック7100)19.9gとを混合し、5分間撹拌して、フッ素処理剤(有効成分の濃度:0.1質量%)を調製した。このフッ素処理剤を、76mm×76mm×0.21mmのホウケイ酸ガラス(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)からなる透明ガラス基板の主面に塗布して塗膜を形成し、室温で24時間放置してフッ素処理剤の塗膜を乾燥させた。その後、ノベック7100を含んだ無塵布でガラス表面を軽く拭いて余分なフッ素処理剤等を取り除き、フッ素処理基板を得た。
実施例3と同様の条件及び方法で得られた光吸収性組成物の全量を、ディスペンサを用いてフッ素処理基板の一方の主面に塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間及び85℃で30分間の熱処理行った。これにより、光吸収性組成物に含まれる溶媒を揮発させて塗膜を硬化させた。さらに、温度85℃及び相対湿度85%の環境下にフッ素処理基板を2時間程度置いてアルコキシシランの加水分解反応を促進させた。このようにして、実施例5に係る光吸収膜を形成して、実施例5に係る光学フィルタを得た。光吸収膜に含まれる紫外線吸収剤は、2,2’−4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンであった。
次に、ピンセットで実施例5に係る光学フィルタから光吸収膜を注意深く引き剥がし、フィルム状の光吸収膜を得た。光吸収膜の質量は9.500gであった。実施例3に係る光吸収性組成物の作製過程において、3−U液には紫外線吸収剤が5質量%含まれ、その3−U液を0.960g加えて光吸収性組成物が調製されているので、光吸収膜には0.048gの紫外線吸収剤が含まれていた。光吸収膜における紫外線吸収剤の含有量は、質量基準で0.505%であった。
光吸収膜の一部を切断して0.100gの光吸収膜の断片を取り出し、1.000gのエタノール中に24時間浸して、光吸収膜の断片に含まれる紫外線吸収剤の溶出を試みた。0.100gの光吸収膜の断片に含まれる紫外線吸収剤は0.000505gであった。この断片に含まれる紫外線吸収剤のすべてがエタノールに溶出したと仮定すると、エタノール中の紫外線吸収剤は質量基準で0.050%と算出できる。一方、対照として紫外線吸収剤を含まない比較例3に係る光吸収性組成物を用いて、同様に光吸収膜の断片を作製し、1.000gのエタノール中に24時間浸漬させて、溶出の様子を観察した。
紫外線吸収剤を含む光吸収膜の断片を含むエタノールは黄色に呈色していたことから、この光吸収膜からエタノール中に可視光領域を含む領域に吸収を有する成分が溶出していることが示唆された。紫外線吸収剤を含まない光吸収膜の断片を含むエタノールは、略無色透明のままであった。紫外線吸収剤を含む光吸収膜の断片を含むエタノールにおいて、可視光領域を含む領域に吸収を有する成分を特定するために、LC−UV測定を行った。この測定には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製の高速液体クロマトグラフ装置Ultimate3000を用いた。この測定における、波長450±150nm検出でのLC−UVクロマトグラフのスペクトルを図12に示す。図12において、横軸は時間[分]であり、縦軸は相対的な吸収強度を示す。また対照として、エタノールのみを試料としたときのLC−UVクロマトグラフ及び紫外線吸収剤を含まない光吸収膜の断片を含むエタノールを試料としたときのクロマトグラフのスペクトルにおいてはバックグランド(相対的な吸収強度がほぼゼロ)の状態が続き、特徴的な動きは見られなかった。
図12において、時間が5.8分であるときに、特徴的な吸収強度のピークが見られた。このピークの吸収スペクトルを図13に示す。横軸は波長[nm]であり、縦軸は相対的な吸収度を示す。図13に表したスペクトルから、波長285nm及び342nmに特徴的な吸収ピークがあることが確認された。
次に、紫外線吸収剤を含む光吸収膜の断片を含むエタノールについて、LC−MS測定を行った。測定はサーモフィッシャーサイエンティフィック社製の液体クロマトグラフィー質量分析装置Orbitrap Fusionを用いた。その測定結果であるマススペクトルによれば、エタノールへの溶出物には、C1395(負イオン検出)及びC13115(正イオン検出)が含まれることがわかった。
これらLC−UV測定及びLC−MS測定の結果から、紫外線吸収剤を含む光吸収膜からのエタノールへの溶出成分には、紫外線吸収剤であるテトラヒドロキシベンゾフェノンが含まれることが推定された。
(紫外線吸収剤の溶出成分の同定)
実施例5に係る光吸収膜の断片から紫外線吸収剤が溶出したエタノール溶液について、その透過スペクトルを測定した。紫外線吸収剤が溶出したエタノール溶液を、光路長が1mmである石英セル(日本分光社製:型番J/1/Q/1)に充填し、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、製品名:V−670)を用いて、その透過スペクトルを測定した。その透過スペクトルを図14に示す。波長300〜450nmにおいて、透過率の最小値を透過率の最大値で割った値は0.895であった。透過率の最小値は、波長348nm付近における透過率の極小値に相当していた。
次に、紫外線吸収剤である2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンをエタノールに溶解させ、質量基準で0.005%、0.010%、0.025%、0.100%、及び0.200%の紫外線吸収剤が溶解した5種類のエタノール溶液を調製した。これらの紫外線吸収剤が溶解したエタノール溶液の透過スペクトルを、実施例5に係る紫外線吸収剤を含む光吸収膜の断片から紫外線吸収剤が溶出したエタノール溶液と同様にして測定した。この透過スペクトルを図15に示す。これらの透過スペクトルにおいて、透過率の最小値に対応する波長は348nmであった。さらに、これらの透過スペクトルにおいて、透過率の最小値を透過率の最大値で割った値trを求めた。表5及び図16に紫外線吸収剤の濃度η[%]と値trとの関係を示す。図16に示すグラフから、濃度η[%]と値trとの関係は、η=(−1/a)ln(tr/b)(ただし、a=1.213×101、b=1.004である)で表される。図16に示す破線のグラフは、紫外線吸収剤の濃度を求める検量線である。実施例5に係る光吸収膜における紫外線吸収剤が溶出したエタノール溶液において、tr=0.895であった。このため、実施例5に係る光吸収膜をエタノールに浸し、紫外線吸収剤をエタノール中に溶出させた場合、紫外線吸収剤の濃度が質量基準で0.0095%であるように紫外線吸収剤を溶解させたエタノール溶液と同等の光透過特性を備えることが示唆された。
実施例5に係る紫外線吸収剤を含む光吸収膜の断片から紫外線吸収剤がエタノール中に溶出した場合、エタノール中に質量基準で0.0095%の紫外線吸収剤が含まれると仮定される。光吸収膜中に含まれる紫外線吸収剤がすべて溶出した場合、エタノール溶液における紫外線吸収剤の濃度は0.05%となることが上記の検討から理解される。このため、実施例5に係る紫外線吸収剤を含む光吸収膜の断片から光吸収膜に含まれる紫外線吸収剤の質量基準で19%がエタノール中に溶出したと推定される。
<比較例5>
すべてのホスホン酸と酢酸銅一水和物との添加を省略した以外は、実施例5と同様の条件及び方法によって、比較例5に係る光吸収性組成物を得た。加えて、実施例5と同様にしてフッ素処理基板を作製した。比較例5に係る光吸収性組成物の全量を、ディスペンサを用いてフッ素処理基板の一方の主面に塗布し、得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で30分間の熱処理行い、溶媒を揮発させて塗膜を硬化させた。さらに、温度85℃及び相対湿度85%の環境下で透明ガラス基板を2時間程度置いてアルコキシシランの加水分解反応を促進させた。このようにして、比較例5に係る光吸収膜を形成し、比較例5に係る光学フィルタを得た。
次に、ピンセットで比較例5に係る光学フィルタから光吸収膜を注意深く引き剥がし、フィルム状の光吸収膜を得た。得られた光吸収膜の全量は4.200gであった。比較例5に係る光吸収性組成物の作製過程において、3−U液に対応する紫外線吸収剤を含む液には5質量%の紫外線吸収剤が含まれており、その液を0.960g加えて光吸収性組成物が調製されていた。このため、光吸収膜には0.048gの紫外線吸収剤が含まれており、光吸収膜における紫外線吸収剤の含有量は、質量基準で1.130%であった。
光吸収膜の一部を切断して、0.100gの光吸収膜の断片を取り出して、1.000gのエタノール中に24時間浸し、光吸収膜の断片に含まれる紫外線吸収剤の溶出を試みた。0.100gの光吸収膜に含まれる紫外線吸収剤は0.00113gであった。紫外線吸収剤のすべてがエタノールに溶出したと仮定すると、エタノール溶液における紫外線吸収剤の濃度は質量基準で0.113%と算出できる。
(紫外線吸収剤の溶出成分の同定)
比較例5に係る光吸収膜の断片から紫外線吸収剤が溶出したエタノール溶液について、その透過スペクトルを測定した。紫外線吸収剤が溶出したエタノール溶液を、光路長が1mmである石英セル(日本分光社製:型番J/1/Q/1)に充填し、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社製、製品名:V−670)を用いて、その透過スペクトルを測定した。その透過スペクトルを図17に示す。波長300〜450nmにおいて、透過率の最小値を透過率の最大値で割った値trは0.550であった。図16に示す検量線及びその検量線を表す上記の式によれば、比較例5に係る光吸収膜をエタノールに浸して紫外線吸収剤をエタノール中に溶出させた場合、紫外線吸収剤の濃度が質量基準で0.0496%であるように紫外線吸収剤を溶解させたエタノール溶液と同等の光透過特性を備えることが分かった。
比較例5に係る紫外線吸収剤を含む光吸収膜の断片から紫外線吸収剤がエタノール中に溶出した場合、エタノール溶液中に質量基準で0.0496%の紫外線吸収剤が含まれると仮定した。光吸収膜中に含まれる紫外線吸収剤がすべてエタノールに溶出した場合は、エタノール溶液中の紫外線吸収剤の濃度は、0.113%となることが上記の検討から理解される。このため、光吸収膜に含まれる紫外線吸収剤のうち、43.89%がエタノール中に溶出したと推定された。
実施例5と比較例5とを対比すると、比較例5において、より多くの紫外線吸収剤がエタノールに溶出したことが理解される。紫外線吸収剤を含む光吸収膜においては、紫外線吸収剤が銅等の金属成分とともに含まれることにより、一部錯体化などの相互作用が生じ、紫外線吸収剤がエタノールなどの有機溶剤中に溶出しにくくなると推定される。
紫外線吸収剤と、銅等の金属成分とを含む光吸収膜をエタノール中に24時間浸漬させた場合、エタノール中に溶出する紫外線吸収剤の量は、質量基準で、光吸収膜中に含まれる紫外線吸収剤の10%〜40%、より定量的には10%〜20%に調整されると示唆された。
Figure 2021076638
Figure 2021076638
Figure 2021076638
Figure 2021076638
Figure 2021076638
1a、1b 光学フィルタ
10 光吸収膜
20 透明誘電体基板

Claims (20)

  1. ホスホン酸と、
    ヒドロキシ基及びカルボニル基を分子内に有する紫外線吸収剤と、
    金属成分と、を含有している、
    光吸収性組成物。
  2. 前記ヒドロキシ基と前記カルボニル基とは、1〜6個の原子を隔てて配置されている、請求項1に記載の光吸収性組成物。
  3. 当該光吸収性組成物を硬化させて得られる光吸収膜の、0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T400、波長550nmにおける透過率T550、及び波長800nmにおける透過率T800は、8≦T550/T400及び8≦T550/T800の条件を満たす、請求項1又は2に記載の光吸収性組成物。
  4. 前記紫外線吸収剤は、下記式(A1)で表されるベンゾフェノン系化合物を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
    Figure 2021076638
    [式(A1)において、R11、R12、R21、及びR22の少なくとも1つはヒドロキシ基である。式(A1)において、R11、R12、R21、又はR22がヒドロキシ基以外の官能基である場合、複数のR11、複数のR12、複数のR21、又は複数のR22が存在していてもよく、R11、R12、R21、及びR22の少なくとも1つは存在しなくてもよい。]
  5. 前記紫外線吸収剤は、下記式(A2)で表されるベンゾフェノン系化合物を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
    Figure 2021076638
    [式(A2)において、R31は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、ハロゲン、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基、又は1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基であってもよく、R31は、存在していなくてもよい。式(A2)において、R41及びR42は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、ハロゲン、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基、又は1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基であってもよく、R41及びR42は、存在していなくてもよい。式(A2)において、複数のR41が存在していてもよく、複数のR42が存在していてもよい。]
  6. 前記ホスホン酸は、下記式(B)で表される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
    Figure 2021076638
    [式(B)において、R3は、アルキル基、アルキル基における少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化アルキル基、アリール基、又はアリール基における少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化アリール基である。]
  7. 前記金属成分は、銅成分を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
  8. リン酸エステルをさらに含有している、請求項1〜7のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
  9. ホスホン酸と、
    ヒドロキシ基及びカルボニル基を分子内に有する紫外線吸収剤と、
    金属成分と、を含有している、
    光吸収膜。
  10. 前記ヒドロキシ基と前記カルボニル基とは、1〜6個の原子を隔てて配置されている、請求項9に記載の光吸収膜。
  11. 0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T400、波長550nmにおける透過率T550、及び波長800nmにおける透過率T800は、8≦T550/T400及び8≦T550/T800の条件を満たす、請求項9又は10に記載の光吸収膜。
  12. 前記紫外線吸収剤は、下記式(A1)で表されるベンゾフェノン系化合物を含む、請求項9〜11のいずれか1項に記載の光吸収膜。
    Figure 2021076638
    [式(A1)において、R11、R12、R21、及びR22の少なくとも1つはヒドロキシ基である。式(A1)において、R11、R12、R21、又はR22がヒドロキシ基以外の官能基である場合、複数のR11、複数のR12、複数のR21、又は複数のR22が存在していてもよく、R11、R12、R21、及びR22の少なくとも1つは存在しなくてもよい。]
  13. 前記紫外線吸収剤は、下記式(A2)で表されるベンゾフェノン系化合物を含む、請求項9〜12のいずれか1項に記載の光吸収膜。
    Figure 2021076638
    [式(A2)において、R31は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、ハロゲン、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基、又は1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基であってもよく、R31は、存在していなくてもよい。式(A2)において、R41及びR42は、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、ハロゲン、1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルキル基、1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基、又は1つ以上の水素原子がハロゲン原子に置換された1〜12個の炭素原子を有するアルコキシ基であってもよく、R41及びR42は、存在していなくてもよい。式(A2)において、複数のR41が存在していてもよく、複数のR42が存在していてもよい。]
  14. 前記ホスホン酸は、下記式(B)で表される、請求項9〜13のいずれか1項に記載の光吸収膜。
    Figure 2021076638
    [式(B)において、R3は、アルキル基、アルキル基における少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化アルキル基、アリール基、又はアリール基における少なくとも一つの水素原子がハロゲン原子に置換されたハロゲン化アリール基である。]
  15. 前記金属成分は、銅成分を含む、請求項9〜14のいずれか1項に記載の光吸収膜。
  16. リン酸エステルをさらに含有している、請求項9〜15のいずれか1項に記載の光吸収膜。
  17. 請求項9〜16のいずれか1項に記載の光吸収膜を備えた、光学フィルタ。
  18. 0度の入射角度での透過スペクトルにおいて、波長400nmにおける透過率T400、波長550nmにおける透過率T550、及び波長800nmにおける透過率T800は、8≦T550/T400及び8≦T550/T800の条件を満たす、請求項17に記載の光学フィルタ。
  19. 前記透過スペクトルにおいて、下記(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)、(VI)、(VII)、(VIII)、(IX)、及び(X)の条件をさらに満たす、請求項18に記載の光学フィルタ。
    (I)波長300nm〜380nmにおける最大の透過率が1%以下である。
    (II)波長400nmにおける透過率が20%以下である。
    (III)波長400nm〜490nmにおいて透過率が50%となる波長であるUVカットオフ波長λUV CFは、405nm≦λUV CF≦480nmの条件を満たす。
    (IV)波長480nm〜580nmにおける透過率の平均値が78%以上である。
    (V)波長590nm〜700nmにおいて透過率が50%となる波長であるIRカットオフ波長λIR CFは、600nm≦λIR CF≦700nmの条件を満たす。
    (VI)波長700nm〜750nmにおける透過率の平均値が10%以下である。
    (VII)波長800nm〜950nmにおける最大の透過率が3%以下である。
    (VIII)波長700nm〜1000nmにおける最大の透過率が10%以下である。
    (IX)波長700nm〜1100nmにおける最大の透過率が15%以下である。
    (X)波長700nm〜1200nmにおける最大の透過率が20%以下である。
  20. 前記透過スペクトルにおいて、下記(α)、(β)、及び(γ)の条件をさらに満たす、請求項19に記載の光学フィルタ。
    (α)波長300nm〜450nmにおいて、1%の透過率を示す最大波長と1%の透過率を示す最小波長との差が90nm以上である。
    (β)IRカットオフ波長λIR CFとUVカットオフ波長λUV CFとの差が180nm以上である。
    (γ)波長700nm〜1200nmにおいて、1%の透過率を示す最大波長と1%の透過率を示す最小波長との差が200nm以上である。
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