以下、図面を参照して本開示の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や、長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
図1は、照明装置10を有する移動体5を、照明装置10によって光を投射される被照明領域LZの一部分とともに、模式的に示す斜視図である。移動体5は、移動体本体6と、移動体本体6によって保持された照明装置10と、を有している。移動体本体6は、移動可能な装置であって、鉄道車両、自動車、台車、船、飛行機、ヘリコプター、ドローン、ロボット等を例示することができる。照明装置10が後述するように情報を表示する機能において優れることから、とりわけ自動運転可能な移動体本体6に対して本実施の形態は好適である。ここで自動運転とは、移動体に乗車した人間或いは移動体を遠隔操作する人間による逐次の操作入力に基づく運転ではなく、センサ等から受信した情報や予め入力された情報に基づいた運転のことである。
図2は、照明装置を被照明領域とともに示す斜視図である。本実施の形態による照明装置10は、コヒーレント光源30と、コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光を回折する回折光学素子60と、を有している。この照明装置10は、回折光学素子60がコヒーレント光を回折して、コヒーレント光を被照明面LP上に形成された被照明領域LZに向ける。照明装置10は、被照明領域LZにコヒーレント光を投射することで、被照明面LP上の被照明領域LZをコヒーレント光で照明する。後述するように、このような本実施の形態による照明装置10によれば、被照明領域LZに対して高精度に光を投射することが可能となっている。とりわけ、被照明領域LZのエッジを鮮明にしながら、所望の被照明領域LZのみに光を投射することができる。したがって、この照明装置10によれば、単に被照明領域LZの周囲を明るくすることだけでなく、被照明領域LZに対応した情報を被照明面LP上に表示することができる。本実施の形態において、被照明領域LZを含む被照明面LPは、路面や滑走路等の地面や海面等の水面を例示することができる。
地面や水面等がなす被照明面LP上に位置する被照明領域LZは、大面積を有することができる。そして、大面積の被照明領域LZは、照明装置10の出射面としての出射端11または回折光学素子60の回折面から遠く離れて位置する。このため、多くの場合、照明装置10の出射端11及び回折光学素子60の回折面は、被照明面LP及び被照明領域LZに対して大きな角度をなすようになる。例えば、照明装置10の出射端11及び回折光学素子60の回折面は、被照明面LP及び被照明領域LZに対して、45°以上の角度、更には70°以上の角度、更には80°以上の角度で傾斜し、或いは、被照明面LP及び被照明領域LZに対して垂直となることもある。
ここで、図1及び図2に示された例において、移動体本体6は、移動可能に構成された車両部6aと、車両部6aに支持された装備6bと、を有している。車両部6aは、路面等の地面を走行することができる。とりわけ図示された車両部6aは、自動運転可能となっている。装備6bとしては、カメラ等の撮像装置や、温度、音、臭い等の車両部6aの周囲に関連した周囲情報または環境情報を取得するセンサ等を例示することができる。また、図示された移動体本体6は、装備6bの後方となる車両部6a上に荷台を有している。この荷台には、いわゆる通し箱のような収容体等を介して或いは直接、荷が載置され得る。この移動体本体6は、省人化や無人化等を目的とした自動運転で運転され得る。一方、照明装置10は、路面等の地面からなる被照明面LP上の被照明領域LZにコヒーレント光を投射する。
図示された例において、移動体5は、複数の照明装置10、とりわけ三つの照明装置10を有している。ただし、この例に限られず、移動体5は、照明装置10を一つのみ有していてもよく、二つの照明装置10を有していてもよく、更には四つ以上の照明装置10を有していてもよい。なお、移動体5が複数の照明装置10を有する場合、複数の照明装置10が、同一の被照明領域LZにコヒーレント光を投射するようにしてもよいし、部分的に重なる被照明領域LZにコヒーレント光を投射するようにしてもよいし、互いから離間した異なる被照明領域LZにコヒーレント光を投射するようにしてもよい。
図3A及び図3Bは、法線方向NDから被照明面LPを示す平面図であって、照明装置10によって照明される被照明領域LZの例を示す平面図である。図3Aに示された例において、被照明領域LZは線状の領域となっている。図3Aに示された例において、被照明領域LZは、移動体本体6から離間する向きに直線状に延びている。このような被照明領域LZは、移動体本体6の進行方向を示す情報として認識され得る。すなわち、図3Aに示された被照明領域LZを確認した者は、移動体本体6がこれから被照明領域LZの長手方向に沿って進むものとして認識することができる。図3Bに示された例によって、被照明領域LZは、複数の矢印を含む領域となっている。複数の矢印は、共に同一の方向を示しており、各矢印が示す方向と一致する長手方向に沿って配列されている。図3Bに示された被照明領域LZも、移動体本体6の進行方向を示す情報として認識され、被照明領域LZを確認した者は移動体本体6の進行方向を被照明領域LZのパターンから把握することができる。
すなわち、図3A及び図3Bに示された例において、照明装置10は、被照明領域LZを照明することによって、被照明領域LZのパターンに応じた情報、とりわけ方向を表示することができる。すなわち、照明装置10は、方向を表示する方向表示装置として機能する。照明装置10によって表示される方向は、照明装置10を保持した移動体本体6に関連した方向であり、典型的には移動体本体6が移動する方向を示す。ここで、図3A及び図3Bは、方向を表示し得る被照明領域LZの一例に過ぎない。方向を表示する被照明領域LZとして、図4A〜図4Iに示された被照明領域LZを更に例示することができる。
また、照明装置10によって表示される情報は、方向に限られない。例えば、図5に示すように、移動体本体6の前方となる被照明面LP上の領域を被照明領域LZとすることができる。被照明領域LZを注意すべき領域として照明することで、被照明領域LZからの退避を促すことが可能となる。とりわけ図5に示された例において、被照明領域LZは、移動体本体6の直前となる第1被照明領域LZ1と、第1被照明領域LZ1に隣接する更に前方となる第2被照明領域LZ2と、を有している。第1被照明領域LZ1をより明るく照明することで、或いは、第1被照明領域LZ1を赤色等のより注意喚起を促すことができる色で照明することで、第1被照明領域LZ1を立ち入り禁止領域として表示し、第1被照明領域LZ1からの退避を促すことができる。また、第2被照明領域LZ2を第1被照明領域LZ1よりも暗く照明することで、或いは、第2被照明領域LZ2を黄色等で照明することにより、第2被照明領域LZ2を移動体5がしばらくして到達する領域として表示し、注意を促すことができる。例えば、第1被照明領域LZ1と第2被照明領域LZ2の境界を急ブレーキによって移動体5が停止できる位置としてもよい。すなわちこの例において、第1被照明領域LZ1は、急ブレーキによっても停止することができない領域となる。なお、図5に示された被照明領域LZは扇形となっており、第1被照明領域LZ1は扇の要を含んで被照明領域LZの一部分をなす扇形となっている。
さらに他の例として、照明装置10によって照明される被照明領域LZは、文字のパターンを有するようにしてもよい。例えば、被照明領域LZを「自動運転」や「AUTO」等の文字パターンとすることで、移動体5が自動運転中であることを周囲に告知することができる。その他、被照明領域LZを「減速」、「急ブレーキ」、「加速」といった文字パターンすることで、移動体5の移動に関する情報を表示するようにしてもよい。
さらに、被照明領域LZのパターンは文字に限られない。被照明領域LZは、文字、絵柄、色模様、記号、マーク、イラスト、キャラクター、ピクトグラムのいずれか一以上を表すパターンを含むようにしてもよい。
さらに、図6A〜図7Bに示す例のように、照明装置10によって照明される被照明領域LZは、移動体本体6の移動状態に応じて変化するようにしてもよい。図6A〜図7Bに示された例では、移動体5の移動状態に応じて照明装置10の向きを変化させるようになっている。図6A及び図7Aは側面図であり、図6B及び図7Bは上面図である。図6A〜図7Bにおいて、通常の移動状態を二点鎖線で示している。通常の移動状態において、図6A及び図7Aに二点鎖線で示すように、照明装置10はその長手方向である軸方向が移動方向前方を向くようにして保持されている。このとき、照明装置10は、図6B及び図7Bに二点鎖線で示された直線状の被照明領域LZを照明する。
一方、図6A及び図6Bは、通常状態よりも低速で移動している状態、又は、減速している状態とすることができる。図6Aに示すように、照明装置10は、出射端11が二点鎖線で示された通常状態よりも下方を向くように傾斜している。図6Bに示すように、被照明領域LZのパターンは、二点鎖線で示された通常状態よりも短くなる。また、被照明領域LZのパターンは、先細りする線状パターンとなり、移動体5の低速状態または減速状態を表示するパターンとして観察者に認識させることが期待できる。
図7A及び図7Bは、通常状態よりも高速で移動している状態、又は、加速している状態とすることができる。図7Aに示すように、照明装置10は、出射端11が二点鎖線で示された通常状態よりも上方を向くように傾斜している。図7Bに示すように、被照明領域LZのパターンは、二点鎖線で示された通常状態よりも長くなる。また、被照明領域LZのパターンは、先太りする線状パターンとなり、移動体5の高速状態または加速状態を表示するパターンとして観察者に認識させることが期待できる。
さらに、図8に示すように、移動体5の旋回に対応して照明装置10の向きを左右に傾斜させるようにしてもよい。図8は上面図であり、図8において通常の移動状態を二点鎖線で示している。二点鎖線で示された通常の移動状態において、移動体5は直進し、照明装置10はその長手方向である軸方向が移動方向前方を向くようにして保持されている。このとき、照明装置10は、二点鎖線で示された直線状の被照明領域LZを照明する。
図8に示された例において、移動体5が右に旋回する場合、照明装置10の出射端11がいくらか右側を向くように照明装置10を傾斜させる。このとき、被照明領域LZは、右斜め前方に直線状に延びるようになる。図示は省略するが、移動体5が左に旋回する場合、照明装置10の出射端11がいくらか左側を向くように照明装置10を傾斜させる。このとき、被照明領域LZは、左斜め前方に直線状に延びるようになる。移動体5の前方に対して傾斜した被照明領域LZは、移動体5の旋回を表示するパターンとして観察者によって把握され得る。とりわけ、自動運転する移動体5では、予め旋回する状態が設定され得る。自動運転する移動体5においては、旋回を開始する前に照明装置10を左右に傾斜させることで、旋回前に旋回する方向を表示することが好ましい。移動体5の周囲にいる観察者に対し、移動体5の旋回前に移動体5が旋回すること認識させることができる。
以下、図9に示された一具体例及び図10〜図28に示された他の具体例を参照しながら照明装置10について、更に詳述していく。
本実施の形態による照明装置10は、その構成要素として、コヒーレント光源30及び回折光学素子60を有している。図9に示された具体例において、照明装置10は、コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光を整形する整形光学系50と、コヒーレント光源30と整形光学系50との間に配置されたマスクシート45と、整形光学系50等を収容する筐体20と、コヒーレント光源30を制御する制御部15と、を更に有している。整形光学系50は、コヒーレント光の進行方向を変化させる複数のレンズを含んでいる。筐体20は、整形光学系50をなす複数のレンズを保持する筒状部21を有している。以下、照明装置10の各構成要素について順に説明していく。
コヒーレント光源30は、波長及び位相が揃ったコヒーレント光を射出することができる。コヒーレント光源30として、種々の型式の光源を用いることができる。典型的には、コヒーレント光源30として、レーザー光を発振するレーザー光源を用いることができ、一具体例として、半導体レーザー光源を例示することができる。図2に示された例において、コヒーレント光源30は、単一の光源を含んでいる。したがって、図示された例では、コヒーレント光源30から発振されるコヒーレント光の波長域に対応した色で、被照明領域LZが照明される。
コヒーレント光源30は、直接または光源ホルダ35を介して、筐体20に保持される。光源光の利用効率の観点や光漏れ防止の観点から、少なくともコヒーレント光源30のコヒーレント光を射出する部分、すなわち射出端は、筐体20内に位置していることが好ましい。コヒーレント光源30又は光源ホルダ35の筐体20への固定は、接着剤等の接合材を用いた固定、螺子等の機械的な固定具を用いた固定、溶接による溶着部による固定、これらの固定方法の組み合わせ等により実現され得る。
図示された例において、コヒーレント光源30は、光源ホルダ35に保持されている。コヒーレント光源30の光源ホルダ35への固定は、接着剤等の接合材を用いた固定、螺子等の機械的な固定具を用いた固定、溶接による溶着部による固定、これらの固定方法の組み合わせ等により実現され得る。図示された例において、コヒーレント光源30は、CANタイプのレーザーダイオードとしての光源部31と、光源部31から延び出した配線32と、を有している。光源ホルダ35は、光源部31を収容し且つ光源部31から射出したコヒーレント光を通過させる保持貫通孔36を設けられている。光源部31が保持貫通孔36に挿入圧入されることで、コヒーレント光源30が光源ホルダ35に保持されている。好ましくは、光源部31は光源ホルダ35の保持貫通孔36に圧入されている。コヒーレント光源30及び光源ホルダ35によって光源ユニットLSUが形成されている。図9に示された例において、光源ユニットLSUは、接着剤等の接合材24を用いて筐体20に固定されている。筐体20の筒状部21に孔23が形成され、孔23内に収容された接合材24が筒状部21及び光源ホルダ35を互いに接合している。
ただし上述したように、コヒーレント光源30又は光源ホルダ35は、接合材24に代えて又は接合材24に加えて、図10及び図11に示すように溶接による溶着部37によって筐体20に固定することができる。図10及び図11に示された例において、光源ホルダ35は、円柱状の外形状を有しており、筒状部21の開口部に挿入されている。そして、光源ホルダ35は、円柱の外周面にあたる部分において筐体20に溶接されている。図示された例のように、溶着部37は、周方向に概ね等間隔に離間して複数、例えば120°分ずらして三つ設けられている。このような溶着部37は、例えばスポット溶接により形成され得る。なお、図11は、図10に示された照明装置10を光源ユニットLSUの側から示した平面図である。
また、コヒーレント光源30又は光源ホルダ35は、接合材24や溶着部37に代えて又は接合材24や溶着部37に加えて、図12に示すように螺子やボルトからなる固定具38を用いて筐体20に固定されていてもよい。とりわけ螺子やボルトからなる固定具38を用いる場合には、この固定具38によって、コヒーレント光源30又は光源ホルダ35の筐体20に対する傾斜角度を調節可能となっていることが好ましい。
なお、図示された例において、コヒーレント光源30が光源ホルダ35を介して筐体20に固定されている。ただし、光源ホルダ35を介することなく、コヒーレント光源30は、直接、筐体20に固定されていてもよい。また他の例として、図13に示す例において、コヒーレント光源30は、ファイバレーザーとして構成され、光源部31と、光源部31で発振されたコヒーレント光を誘導する光ファイバ33と、を有している。光ファイバ33の先端部分が筐体20に保持されている。このコヒーレント光源30におけるコヒーレント光の射出端は、光ファイバ33の先端となる。光ファイバ33の先端は筐体20内に位置している。
次に、コヒーレント光源30からのコヒーレント光の射出および射出停止を制御する制御部15について説明する。
制御部15は、コヒーレント光源30と電気的に接続されている。図2に示された例において、制御部15は電源8と電気的接続している。制御部15は、電源8からコヒーレント光源30への電力供給を制御することにより、コヒーレント光源30によるコヒーレント光の射出および射出停止を切り換えるようにしてもよい。コヒーレント光源30から連続的にコヒーレント光を射出する場合、制御部15からコヒーレント光源30に一定の電流が連続的に供給されるようにしてもよいし、パルス電流が供給されるようにしてもよい。パルス電流を用いることで、制御部15及びコヒーレント光源30からの発熱量を低減することができる。
電源8は、移動体本体6の始動や駆動に用いられる電源と併用されてもよいし、移動体本体6とは区別された別の電源であってもよい。制御部15と電気的に接続する電源8は、蓄電池だけでなく、非常用電源、太陽電池、さらには発電機等であってもよい。電源8としての発電機は、風力発電機やエンジンを用いた発電機、さらには、手回し式、ペダル式等の手動発電機を採用することができる。特に風力発電や太陽電池によれば、移動体5の移動時に照明装置10で消費される電力を生成することができる点において都合が良い。
図2に示すように、制御部15は、移動体5の制御装置7と電気的に接続していてもよい。制御装置7は、移動体本体6の動作を制御する主制御器である。上述したように移動体本体6の動作に応じて照明装置10を制御する場合、制御部15は制御装置7から移動体本体6の移動に関する情報を取得する。制御部15は、制御装置7から取得した情報に基づいてコヒーレント光源30を制御することができる。なお、制御部15は、情報を記録又は保存するメモリ等の一部の構成を制御装置7と共用してもよい。
制御部15は、ICチップとして構成されていてもよいし、図示された例のようにプリント基板として構成されていてもよい。図示された制御部15は、例えばポリイミド等の絶縁性材料からなる基材16と、基材16上に形成された回路17と、を有している。制御部15とコヒーレント光源30との電気的接続は、図示された例のようにコヒーレント光源30の光源部31から延び出した配線32を介して実現されていてもよいし、或いはソケット等を用いた嵌め込みにより実現されていてもよい。制御部15は、図9に示すように筐体20内に位置していてもよいし、図2に示すように筐体20外に位置していてもよく、さらには図13に示すように筐体20から遠くに離間して配置されていてもよい。例えば、制御部15は、移動体5の制御装置7や電源8の近傍に配置されていてもよい。なお、ノイズによってコヒーレント光源30の動作が不安定となることを防止する観点から、制御部15が、回路17を覆う電磁シールド層を更に有することが好ましい。
ところで、コヒーレント光源30及び制御部15は、使用中に温度上昇をきたし、発熱源となる。コヒーレント光源30や制御部15が昇温すると、照明装置10のエネルギー効率の低下、照明装置10からの出力低下等の問題が生じ得る。この点から、コヒーレント光源30及び制御部15の少なくとも一方に、放熱を促す放熱手段40が設けられていることが好ましい。放熱手段40を設けることで、照明装置10を長時間に亘って安定して継続使用することが可能となる。
図9に示された照明装置10は、コヒーレント光源30を保持する光源ホルダ35の一部分が、ヒートシンクとして機能する放熱フィン41を構成している。この放熱フィン41は、光源ホルダ35とは別体として作製され、光源ホルダ35に固定されていてもよい。光源ホルダ35の一部分は放熱フィン41を構成する例において、光源ホルダ35は、熱伝導性に優れる銅、アルミニウム、又はこれらの合金によって形成されていることが好ましい。コヒーレント光源30からの放熱を促す観点において、上述したようにコヒーレント光源30が光源ホルダ35に圧入されていることが、コヒーレント光源30と光源ホルダ35との安定した接触を確保して効率的な熱伝導を生じさせ得る点において好ましい。
図9に示された例では、制御部15にも、ヒートシンクとして機能する放熱フィン42が設けられている。放熱フィン42は、基材16の回路17とは反対側面に接触している。この放熱フィン42も、好ましくは、熱伝導性に優れる銅、アルミニウム、又はこれらの合金によって形成されている。さらに、図9に示された照明装置10は、放熱手段40として機能する送風機43も有している。送風機43は、放熱フィン41及び放熱フィン42に空気を吹き付け、放熱を促す。
図9に示された例において、照明装置10の放熱手段40は、放熱フィン41、放熱フィン42および送風機43を有している。この例において、放熱フィン41、放熱フィン42及び送風機43の一以上を省略することができる。また、図9に示された放熱手段40の一以上に代えて或いは図9に示された放熱手段40の一以上に加えて、液冷式の放熱手段40を設けることも可能である。図10に示された照明装置10では、水や油等の液体冷媒が通過する冷媒流路44が光源ホルダ35に設けられている。
さらに、コヒーレント光源30や制御部15の温度に関連した情報を取得可能な温度センサ18が設けられていてもよい。温度センサ18として、温度変化に伴って抵抗値が変化するサーミスタを用いることができる。図9に示された例において、温度センサ18は、光源ホルダ35および制御部15に設けられている。温度センサ18は、コヒーレント光源30に設けられていてもよい。図示された例において、温度センサ18は制御部15と電気的に接続しており、制御部15は、温度センサ18の検出結果に基づき、例えば制御部15やコヒーレント光源30の少なくとも一方が所定の温度以上になったと考えられる状況下で、コヒーレント光源30からのコヒーレント光の射出を停止するようにしてもよい。すなわち、温度センサ18を設けることで、温度上昇の異常を発見することができ、コヒーレント光源30を稼働停止とすることで異常の拡大を効果的に防止することができる。
次に、マスクシート45について説明する。マスクシート45は、絞りを形成する。マスクシート45は、コヒーレント光を透過可能な透過部と、透過部の周囲に位置し遮光性を有した遮光部と、を有している。遮光部は、光吸収性を有していることが好ましい。マスクシート45として、絞り孔47を形成された遮光性の板材を用いることができる。絞り孔47が透過部を形成し、板材のその他の部分が光吸収性を有した吸収部46として遮光部を形成する。吸収部46は、例えば黒色材料等の光吸収性に優れた材料によって形成され得る。図示された例において、コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光は、マスクシート45の絞り孔47を通過して、整形光学系50に入射する。コヒーレント光が整形光学系50に入射する際における整形光学系50上の入射領域や整形光学系50への入射角度は、コヒーレント光源30と絞り孔47との相対位置に起因して、特定の範囲に制限されるようになる。すなわち、マスクシート45を設けることで、整形光学系50によるコヒーレント光の光路調整の精度を高めることができる。
次に、整形光学系50について説明する。整形光学系50は、コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光を整形する。言い換えると、整形光学系50は、コヒーレント光の光軸に直交する断面での形状や、コヒーレント光の光束の立体的な形状を整形する。典型的には、整形光学系50は、コヒーレント光の光軸OAに直交する断面でのコヒーレント光の光束断面積を拡大させる。
図示された例において、整形光学系50は、コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光を拡幅した平行光束に整形する。すなわち、整形光学系50は、コリメート光学系として機能する。図9に示された例において、整形光学系50は、コヒーレント光の光路に沿って配置された第1レンズ51、第2レンズ52及び第3レンズ53を有している。第1レンズ51はコヒーレント光を発散光束に整形し、第2レンズ52は発散光束を整え、第3レンズ53は発散光束を平行光束に整形し直す。一方、図2に模式的に示された他の例、並びに、後に参照する図31に示された例において、整形光学系50は、コヒーレント光の光路に沿った順で、上流側レンズ54及び下流側レンズ55を有している。上流側レンズ54は、コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光を発散光束に整形する。下流側レンズ55は、上流側レンズ54で生成された発散光束を、平行光束に整形し直す。これらの例において、第3レンズ53及び下流側レンズ55は、コリメートレンズとして機能する。
回折光学素子60によってコヒーレント光を所望の方向に高精度に回折するには、回折光学素子60へ入射する光の光路が、予め設計された光路となっていることが重要となる。したがって、コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光の光路を整形光学系50で調整することにより、被照明領域LZに対してさらに高精度にコヒーレント光を投射することが可能となる。この点において、マスクシート45の設置も、被照明領域LZに対する高精度な照明の実現に有用となる。そして、マスクシート45の設置と同様の観点から、整形光学系50に含まれるレンズの周縁部に、可視光吸収性を有した吸収層が設けられていることが好ましい。通常、レンズの周縁部には光が入射しないように設計される。ただし、迷光等の意図しない光がレンズ周縁部に入射することも考えられる。このような意図しない光をレンズ周縁部の吸収層が吸収することで、回折光学素子60にコヒーレント光を意図された光路にて供給することが可能となる。同様の観点から、筐体20の内面にも可視光吸収性を有した吸収層が設けられていることが好ましい。さらに、迷光等の意図しない光の発生を防止する観点から、整形光学系50に含まれるレンズに反射防止処理がなされていることが好ましい。具体的には、レンズの表面に反射防止層が設けられていることが好ましい。
また、被照明領域LZへの高精度なコヒーレント光の投射を実現する上で、整形光学系50で整形されたコヒーレント光の平行度が±0.3°以下となっていることが好ましく、0.1°以下となっていることがより好ましく、0.05°以内となっていることが更に好ましい。ここで、平行度とは、光束の光軸を通過する平面内を進む光の光路がコリメートされるべき方向に対してなす最大の角度を意味している。したがって、平行度が±0.3°以下の場合、当該平行度が測定された面内を進む光は、0.6°の角度範囲内を進んでいることになる。このような整形光学系50を用いることで、照明装置10が所望の被照明領域LZに高精度にコヒーレント光を投射することができる。
ここで、光束の光軸とは、光束に含まれる光の光路のうちの最高光度が得られる光路上に位置する。図9に示された例において、コヒーレント光源30から射出して回折光学素子60に入射するまで、光軸OAは一直線に沿っている。この光軸OAと平行な方向を軸方向ADと呼ぶ。
また、整形光学系50が複数のレンズを用いてコヒーレント光を平行光束に整形する場合、図9に示された整形光学系50のように、少なくとも一つの凹レンズと少なくとも一つの凸レンズとが設けられていることが好ましい。図9に示された例において、第1レンズ51及び第2レンズ52が凹レンズ面を有し、第2レンズ52及び第3レンズ53が凸レンズ面を有している。凹レンズ及び凸レンズは、正負が逆のパワーを有していることから、お互いの収差の影響を緩和するようになる。すなわち、凹レンズと凸レンズとを組み合わせることで、レンズで生じる収差の影響を緩和することができる。これにより、被照明領域に対してさらに高精度に光を投射することができる。
整形光学系50が凹レンズ及び凸レンズを含むことに代えて、整形光学系50は、非球面レンズを含むようにしてもよい。正パワーを有した部分および負パワーを有した部分の両方を含む非球面レンズを用いることで、レンズで生じる収差の影響を緩和することができる。これにより、被照明領域LZに対してさらに高精度に光を投射することが可能となる。
整形光学系50に含まれるレンズは、当該レンズの光軸方向からの観察において、後に参照する図25に示すように円形状となっていてもよいし、後に参照する図23に示すように矩形形状となっていてもよい。矩形形状となっているレンズは、レンズの不要部分をトリミングすることで作製され得る。この場合、平面視において矩形形状となるレンズを用いることで、照明装置10を小型軽量化することができる。
整形光学系50を構成する複数のレンズは、図示された例において、筐体20へ固定されている。筐体20に固定されることで、複数のレンズの相対位置が一定に維持されている。整形光学系50をなすレンズの筐体20への固定は、接着剤等の接合材を用いた固定、機械的な固定具を用いた固定、これらの固定方法の組み合わせ等により実現され得る。図9に示された例において、整形光学系50を構成する各レンズ51,52,53は、接着剤等の接合材24を用いて筐体20に固定されている。筐体20の筒状部21に孔23が形成され、孔23内に収容された接合材24が筒状部21及び各レンズ51,52,53を互いに接合している。
次に、回折光学素子60について説明する。
回折光学素子60は、コヒーレント光源30から射出した光に対して回折作用を及ぼす素子である。回折光学素子60は、コヒーレント光源30からの光を回折して、被照明領域LZに向ける。したがって、図2に示すように、被照明領域LZには、回折光学素子60での回折光が投射され、被照明領域LZは、回折光によって照明されることになる。
回折光学素子60は、典型的には、ホログラム素子である。回折光学素子60は、DOE(Diffractive Optical Element)、HOE(Holographic Optical Element)とも呼ばれる。回折光学素子60としてホログラム素子を用いることで、ホログラム素子の回折特性を設計しやすくなる。予め定めた位置、サイズおよび形状の被照明領域LZの全域のみにコヒーレント光を投射し得るホログラム素子の設計は、比較的容易に行うことができる。
被照明領域LZは、回折光学素子60に対して予め定めた位置に、予め定めたサイズおよび形状で実空間に設定されている。被照明領域LZの位置、サイズおよび形状は、回折光学素子60の回折特性に依存しており、回折光学素子60の回折特性を調整することで、被照明領域LZの位置、サイズおよび形状を任意に調整することができる。従って、回折光学素子60を設計する際には、まず被照明領域LZの位置、サイズおよび形状を決定して、決定した被照明領域LZの全域にコヒーレント光を投射できるように、回折光学素子60の回折特性を調整すればよい。
回折光学素子60は、計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram)として作製され得る。計算機合成ホログラムは、任意の回折特性を持つ構造をコンピュータ上で計算することによって作製される。したがって、計算機合成ホログラムを回折光学素子60として採用することで、コヒーレント光源や光学系を用いた物体光及び参照光の生成や、露光によるホログラム記録材料への干渉縞の記録を不要とすることができる。照明装置10は、例えば図2に示すように、回折光学素子60に対して予め定めた位置に、予め定めたサイズおよび形状の被照明領域LZを照明することを想定されている。被照明領域LZに関する情報をパラメータとしてコンピュータに入力することで、この被照明領域LZを照明可能な回折特性を持つ構造、例えば凹凸面を、コンピュータでの演算によって特定することができる。特定された構造を、例えば樹脂賦型により形成することで、計算機合成ホログラムとしての回折光学素子60を、簡易な手順にて低コストで作製することができる。
回折光学素子60で回折された光が、被照明領域LZに投射されて、照明光として被照明領域LZを照明する。図2に示された例において、回折光学素子60と被照明領域LZとの間には、他の光学素子等が介在していない。したがって、回折光学素子60での回折光は、被照明領域LZに直接入射する。回折光学素子60上の各点における回折光は、被照明領域LZの少なくとも一部に投射される。すなわち、回折光学素子60上の各点における回折光は、所定の拡散角度範囲内を進行して、被照明領域LZに入射する。
回折光学素子60の設計には、例えば反復フーリエ変換法が用いられる。図14は反復フーリエ変換法の処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、回折光学素子60への入射光の放射強度分布を設定するとともに、ランダムな位相分布を準備する(ステップS1)。
次に、ステップS1で設定した放射強度分布とランダムな位相分布とを組み合わせた複素振幅分布を生成する(ステップS2)。その後、得られた複素振幅分布に対して逆フーリエ変換(IFT)を施して、被照明領域LZ上での複素振幅分布を生成する(ステップS3)。
得られた複素振幅分布は、ランダムな位相分布を用いて計算されたものであり、当該ランダムな位相分布を反映している。次に、回折光学素子60での回折によって得られるべき放射強度分布に基づき、ステップS3で得られた被照明領域LZ上での複素振幅分布の実部を修正する(ステップS4)。その後、ステップS4で実部を修正された複素振幅分布に対してフーリエ変換を施して、回折光学素子60上での複素振幅分布を計算する(ステップS5)。次に、ステップS1で設定した回折光学素子60への入射光の放射強度分布に基づき、ステップS5で得られた回折光学素子60上での複素振幅分布の実部を修正する(ステップS6)。
その後、ステップS6で生成した複素振幅分布を用いて、ステップS3以降の処理を繰り返す。ステップS3〜S6の処理を繰り返すうちに、回折光学素子60上での複素振幅分布の実部が、ステップS1で設定した放射強度分布に近づいていく。
図14の処理手順は、被照明領域LZが回折光学素子60から遠方にあることを前提とした場合の処理であり、被照明領域LZ上の回折像は、フラウンホーファ回折像である。したがって、被照明領域LZ及び被照明面LPの法線方向NDが回折光学素子60の回折面の法線方向と非平行であっても、それどころか被照明領域LZ及び被照明面LPの法線方向NDが回折光学素子60の回折面の法線方向に対して45°を超える大きな角度αをなしていても、被照明領域LZの全域にわたって、光強度を均一化することができる。
なお、本実施の形態における回折光学素子60は、フーリエ変換ホログラムに限られることなく、その他のホログラム、例えばフレネルホログラムを用いることができる。さらに、回折光学素子60は、計算機合成ホログラムに限られず、光に対して回折作用を及ぼす種々の光学素子、例えばアナログ記録のホログラムを用いることができる。また回折光学素子60の回折作用を生じさせる構成も公知の種々の構成を採用することができる。例えば回折光学素子60は、レリーフ型ホログラムとして構成されていてもよいし、体積型ホログラムとして構成されていてもよい。
なお、図2に示された例において、回折光学素子60の回折面は、照明装置10の出射面をなす出射端11と平行となっている。ここで回折面は、シート状からなる回折光学素子60を全体的に観察した際に当該回折光学素子60によって画成される面のことである。図示された例において回折面及び出射端11は、被照明領域LZ及び被照明面LPに対して垂直となっている。ただし、この例に限られず、回折面及び出射端11は、被照明領域LZ及び被照明面LPに対して傾斜していてもよいし、平行となっていてもよい。
図15に示すように、回折光学素子60は、複数の要素回折光学素子61を含んでいてもよい。図15に示された要素回折光学素子61は、例えばホログラム素子であり、上述した回折光学素子と同様に構成され得る。図15に示された例において、複数の要素回折光学素子61で回折された光は、互いに同一の領域に投射されるようになっている。つまり、各要素回折光学素子61で回折されたコヒーレント光は、被照明領域LZの全域に投射される。このような、回折光学素子60によれば、被照明領域LZ内の各位置に向かう光を、回折光学素子に含まれる複数の要素回折光学素子61から分散して射出することができる。これにより、回折光学素子60上の各位置が明るくなり過ぎることが効果的に防止され、レーザー安全性を向上させることができる。
各要素回折光学素子61は、互いに同一の回折特性を有するように構成されていてもよい。ただし、より高精度な投射を実現する上で、各要素回折光学素子61が、当該要素回折光学素子61の回折光学素子60内における配置位置に応じて、別個に設計された回折特性を付与されていることが好ましい。
図15に示された例とは異なり、複数の要素回折光学素子61で回折された光が、互いに異なる領域に投射されるようにしてもよい。例えば図3Bに示された例において、異なる要素回折光学素子61で回折された光が、異なる矢印をなす領域に入射するようにしてもよい。
また、図16に示された例において、回折光学素子60は、第1〜第12要素回折光学素子61A〜61Lを含んでいる。被照明領域LZは、第1〜第12要素被照明領域ELPA〜ELPLに区分けされている。第1〜第12要素回折光学素子61A〜61Lで回折されたコヒーレント光は、それぞれ、別個の第1〜第12要素被照明領域ELZA〜ELZLに投射されるようになる。照明装置10は、各要素回折光学素子61A〜61Lへの光の照射の有無を制御する。各要素回折光学素子61A〜61Lへの光の照射の有無を制御することにより、任意の要素回折光学素子61A〜61Lのみにコヒーレント光を投射することができる。すなわち、被照明領域LZ内を所望のパターンで照明することが可能となる。
図17及び図18は、各要素回折光学素子61A〜61Lへの光の照射の有無を制御する方法の具体例を示している。図17に示された例において、照明装置10は走査装置62を有している。走査装置62は、制御部15によって制御され、制御部15からの電気信号に基づいて動作する。走査装置62は、コヒーレント光の光路を経時的に変化させ、コヒーレント光の回折光学素子60への入射位置を変化させる。この結果、走査装置62で進行方向を変化させられるコヒーレント光が、回折光学素子60の入射面上を走査するようになる。図17に示された例では、走査装置62は、一つの軸線RAを中心として回動可能な反射面を有した反射デバイスを含んでいる。より具体的に説明すると、反射デバイスは、一つの軸線RAを中心として回動可能な反射面としてのミラーを有したミラーデバイスとして、構成されている。ただし、図示された走査装置62は、例示に過ぎず、光の入射位置が回折光学素子60上を走査するように光の進行方向を変化させる装置を、走査装置62として広く用いることができる。
制御部15は、走査装置62の動作に応じて、コヒーレント光源30からの光の射出およびコヒーレント光源30からのコヒーレント光の射出出力を制御する。制御部15は、走査装置62の動作に基づいて、各要素回折光学素子61にコヒーレント光が走査装置62によって向けられるタイミングを把握することができる。そして、制御部15は、所望の要素回折光学素子61に入射するタイミングでコヒーレント光源30からコヒーレント光を射出させ、それ以外の要素回折光学素子61に入射するタイミングでコヒーレント光源30からコヒーレント光の射出を停止するよう、コヒーレント光源30を制御する。これにより、被照明領域LZ内を所望のパターンにて照明することができる。また、制御部15が、コヒーレント光源30からのコヒーレント光の射出出力を調節することで、被照明領域LZ内を所望の階調パターンの明るさで照明することができる。
なお、走査装置62による走査速度は、人間の目で分解不可能な速度となっている。したがって、実際には繰り返しコヒーレント光を投射されている各要素被照明領域が、連続的にコヒーレント光を投射されているかのように視認される。
次に、図18に示された例において、照明装置10は、各要素回折光学素子61に対応して別個に設けられた複数のコヒーレント光源30を含んでいる。制御部15は、各コヒーレント光源30からのコヒーレント光の射出の有無を、他のコヒーレント光源30からのコヒーレント光の射出の有無から独立して制御する。制御部15は、各コヒーレント光源30からの光の射出の有無および各コヒーレント光源30からの射出出力を制御する。したがって、被照明領域LZ内を所望のパターンにて照明することができる。また、制御部15が、各コヒーレント光源30からのコヒーレント光の射出出力を調節することで、被照明領域LZ内を所望の階調パターンの明るさで照明することも可能となる。
回折光学素子60は、直接または素子ホルダ65を介して、筐体20に保持される。回折光学素子60又は素子ホルダ65の筐体20への固定は、接着剤等の接合材を用いた固定、螺子等の機械的な固定具を用いた固定、溶接による溶着部による固定、これらの固定方法の組み合わせ等により実現され得る。
図9に示された例において、回折光学素子60は、素子ホルダ65に保持されている。回折光学素子60の素子ホルダ65への固定は、接着剤等の接合材を用いた固定、螺子等の機械的な固定具を用いた固定、溶着部による固定、これらの固定方法の組み合わせ等により実現され得る。図示された例において、素子ホルダ65は、回折光学素子60を収容する段部65aを有している。回折光学素子60が、この段部65aにおいて素子ホルダ65に圧入されている。この圧入によって、回折光学素子60は素子ホルダ65に位置決めされて保持されている。回折光学素子60及び素子ホルダ65によって素子ユニットEUが形成されている。図9に示された例において、素子ユニットEUは、接着剤等の接合材24を用いて筐体20に固定されている。筐体20の筒状部21に孔23が形成され、孔23内に収容された接合材24が筒状部21及び光源ホルダ35を互いに接合している。
ただし上述したように、回折光学素子60又は素子ホルダ65は、接合材24に代えて又は接合材24に加えて、図19に示すように螺子やボルトからなる固定具66を用いて筐体20に固定され得る。とりわけ螺子やボルトからなる固定具66を用いる場合には、この固定具66によって、回折光学素子60又は素子ホルダ65の筐体20に対する傾斜角度を調節可能となっていることが好ましい。その他、回折光学素子60又は素子ホルダ65は、接合材24に代えて又は接合材24に加えて、図示は省略するが溶着部によって筐体20に固定され得る。溶着部は、スポット溶接にて形成され得る。さらに、図20に示すように、回折光学素子60は、直接、筐体20に固定されていてもよい。図20に示された例において、回折光学素子60は、筐体20の筒状部21の一方の開口部に圧入されている。
なお、回折光学素子60と整形光学系50との間で光軸OAを中心とした相対回転中心位置を調節可能となっていることが好ましい。回折光学素子60と整形光学系50との相対回転位置を調節することで、被照明領域LZを高精度に照明することができる。とりわけ、整形光学系50から回折光学素子60に向けて平行光束のコヒーレント光が入射する照明装置10においては、回折光学素子60と整形光学系50との当該平行光束の光軸OAを中心とした相対回転位置を調節することで、被照明領域LZを極めて高精度に照明することができる。例えば、図9に示された例において、光軸OAを中心として、筐体20に対して、回折光学素子60を保持した素子ホルダ65が相対回転可能となっていてもよい。
また、レリーフホログラムのように、回折光学素子60の表面に凹凸が形成されている場合、この凹凸が設けられている側が整形光学系50に対面するようにして回折光学素子60を筐体20に固定することが好ましい。この場合、回折光学素子60の回折作用を引き起こす凹凸が外部と接触することを効果的に防止することができ、回折光学素子60での意図した回折作用を安定して確保することができる。さらに、図12に示された例のように、照明装置10が、回折光学素子60を覆うカバー63を更に有していてもよい。図12に示された例において、カバー63は、素子ホルダ65によって保持されている。回折光学素子60は、カバー63と整形光学系50との間に位置している。カバー63によって、雨、雪等の落下物や、埃等が回折光学素子60に付着することを効果的に防止することができる。さらに、カバー63によって、回折光学素子60を物理的に保護することができる。
カバー63を設置する例において、回折光学素子60で回折された光は、カバー63を透過して、被照明領域LZに向かう。したがって、カバー63は、コヒーレント光を透過させることができるよう、50%以上の可視光透過率、より好ましくは70%以上の可視光透過率を有している。ここで、可視光透過率は、JISK0115に準拠して測定された値とする。カバー63は、樹脂やガラスを用いて作製することができる。このカバー63の表面には親水処理が施されていることが好ましい。親水処理によって、カバー63に付着した水滴の接触角が小さくなり、この水滴がレンズ効果によりコヒーレント光の光路を大きく曲げてしまうことを効果的に回避することができる。
また、図21及び図22に示すように、図示された照明装置10は、回折光学素子60の状態に関する情報を取得する状態検出部70を更に有している。状態検出部70を用いて回折光学素子60の状態を把握することで、回折光学素子60が脱落する等の異常を検出することができる。例えば、回折光学素子60の状態異常が検出された際に、制御部15の制御によって、照明装置10からのコヒーレント光の射出を停止することができる。回折光学素子60は、図示された照明装置10において、照明光の出射端となっており、外部から直接観察可能となっている。状態検出部70を用いて回折光学素子60の状態を把握することで、回折光学素子60が筐体20から落下した際にコヒーレント光が照明装置10から射出し続けることを効果的に防止することができる。これにより、レーザー安全性を向上させることができる。
図21に示された例において、状態検出部70は、回折光学素子60を保持する素子ホルダ65と筐体20との間を跨いで形成された状態検出回路71を有している。素子ホルダ65は、筐体20の開口部に固定され、回折光学素子60を支持している。状態検出回路71は、筐体20に固定された一対の固定側端子73と、素子ホルダ65に固定された一対の素子側端子74と、筐体20及び素子ホルダ65に設けられて固定側端子73又は素子側端子74と電気的に接続した配線72と、を有している。回折光学素子60を保持した素子ホルダ65が、正しい姿勢にて筐体20に固定されている場合、一つの固定側端子73と対応する一つの素子側端子74とが接触して電気的に接続し、他の一つの固定側端子73と対応する他の一つの素子側端子74とが接触して電気的に接続する。結果として、固定側端子73、素子側端子74及び配線72が直列で接続し、一方の固定側端子73から、一対の素子側端子74及び配線を経由して、他方の固定側端子73へと電流を流すことができる。一方、回折光学素子60を保持した素子ホルダ65が、正しい姿勢で筐体20に固定されていない場合、予定した固定側端子73と素子側端子74との電気的接続を確保することができない。したがって、一対の固定側端子73間の導通が遮断される。このようにして、状態検出回路71の断線の有無によって、素子ホルダ65の状態異常の有無を検出することができ、この検出結果に基づいて、回折光学素子60の状態を評価することができる。
次に、図20に示された例のように回折光学素子60を筐体20によって直接保持する照明装置10では、図22に示すように、状態検出回路71が、回折光学素子60と筐体20との間を跨ぐように形成され得る。図22に示された状態検出回路71は、筐体20に固定された一対の固定側端子73と、回折光学素子60に固定された一対の素子側端子74と、筐体20及び回折光学素子60に設けられて固定側端子73又は素子側端子74と電気的に接続した配線72と、を有している。回折光学素子60が、正しい姿勢にて筐体20に固定されている場合、一つの固定側端子73と対応する一つの素子側端子74とが接触して電気的に接続し、他の一つの固定側端子73と対応する他の一つの素子側端子74とが接触して電気的に接続する。結果として、固定側端子73、素子側端子74及び配線72が直列で接続し、一方の固定側端子73から、一対の素子側端子74及び配線72を経由して、他方の固定側端子73へと電流を流すことができる。一方、回折光学素子60が、正しい姿勢で筐体20に固定されていない場合、予定した固定側端子73と素子側端子74との電気的接続を確保することができない。したがって、一対の固定側端子73間の導通が遮断される。このようにして、状態検出回路71の断線の有無によって、回折光学素子60の状態異常の有無を検出することができる。なお、回折光学素子60は、コヒーレント光を透過する部位である、したがって、回折光学素子60に形成される配線72及び素子側端子74は、透明な導電体、例えば酸化インジウム錫(ITO)のような透明導電体を用いて作製されることが好ましい。
なお、図21に示された照明装置10のように、回折光学素子60が素子ホルダ65に保持されている場合、素子ホルダ65と回折光学素子60との間に更なる状態検出回路71を形成してもよい。この場合、素子ホルダ65から回折光学素子60が脱落または落下してことを検出することも可能となる。この例において、素子ホルダ65と回折光学素子60との間の状態検出回路71と、素子ホルダ65と光源ホルダ35との間の状態検出回路71が、直列に接続していてもよい。この場合、一つの状態検出回路71を監視することで、筐体20からの素子ホルダ65の脱落および素子ホルダ65からの回折光学素子60の脱落の両方を検出することができる。
また、図19に示すように、素子ホルダ65又は回折光学素子60が固定具66によって筐体20に固定される場合、状態検出回路71は、金属製の固定具66と筐体20との間を跨ぐように形成され得る。図19に示された状態検出回路71は、筐体20に固定された固定側端子73と、金属製の固定具66からなる素子側端子74と、固定側端子73及び素子側端子74に電気的に接続した配線72と、を有している。固定具66が正しい姿勢で筐体20に固定されている場合、固定側端子73と素子側端子74とが接触して電気的に接続する。結果として、固定側端子73、素子側端子74及び配線72が直列で接続し、状態検出回路71に電流を流すことができる。一方、固定具66が正しい姿勢で筐体20に固定されていない場合、予定した固定側端子73と素子側端子74との電気的接続を確保することができない。この場合、状態検出回路71に電流が流れない。このようにして、状態検出回路71は、状態検出回路71の断線により固定具66の状態異常の有無を検出することで、回折光学素子60の状態を把握することができる。
次に、筐体20について説明する。
筐体20は、照明装置10を構成するコヒーレント光源30、整形光学系50及び回折光学素子60等を保持する。図示された例において、筐体20は、整形光学系50を構成する複数のレンズを保持する筒状部21を有している。筒状部21は、一対の開口部21a,21bを有している。第1開口部21aに光源ユニットLSUを保持している。また、第2開口部21bに素子ユニットEUを保持している。そして、第1開口部21a及び第2開口部21bの間となる内部に、マスクシート45、第1レンズ51、第2レンズ52及び第3レンズ53を保持している。
なお、筒状部21は、コヒーレント光源30、整形光学系50および回折光学素子60の相対位置を安定して維持し得る程度の強度を有することが好ましい。この点から、筒状部21は、金属製であることが好ましい。金属製の筒状部21を用いる場合、既に説明したように、迷光等を反射せずに吸収し得るよう、吸収層が内面に形成されていること好ましい。一例として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる筒状部21を用いる場合、アルマイト処理により黒化した吸収層を内表面に形成することができる。
図示された例において、筐体20は、筒状部21に外部から固定された外装材25を更に有している。外装材25は、例えば樹脂製である。樹脂製の外装材25と金属製の筒状部21との組み合わせによれば、コヒーレント光源30、整形光学系50及び回折光学素子60といった構成要素を筒状部21によって安定して保持しながら、外装材25によって軽量化を図ることができる。
さらに、照明装置10は、移動体本体6に筐体20を固定されることで、移動体本体6によって保持されるようになる。図示された例において、筐体20は、筒状部21と外装材25との間に緩衝材26を更に有している。緩衝材26は、筒状部21及び外装材25と比較してヤング率が低く弾性変形し易い材料、例えば樹脂やゴム等によって形成される。緩衝材26を設けることで、移動体本体6からの振動が、外装材25から筒状部21に緩和して伝達されるようになる。これにより、コヒーレント光源30、整形光学系50及び回折光学素子60等の光学要素を、筒状部21によって安定して保持することができる。結果として、移動体5に設置された照明装置10によって、被照明領域LZを高精度に照明することができる。
また、筐体20は、筒状部21と外装材25との間に、緩衝材26に代えて又は緩衝材26に加えて、防塵層や防水層を設けるようにしてもよい。なお、樹脂やゴム等からなる緩衝材26によれば、上述した振動吸収機能とともに、防塵機能および防水機能を発揮することができる。また、筐体20の内部、例えば筒状部21の内部が、窒素やアルゴン等の不活性ガスでパージされ、不活性ガスを充填されていてもよい。これらの構成によれば、筒状部21内に水分や粉塵等の異物が発生することを効果的に抑制することができる。結果として、種々の環境下を移動する移動体5に設置された照明装置10によって、被照明領域LZを高精度に照明することができる。
ところで既に説明したように、図9に示された例において、筒状部21は、レンズ51,52,53や、光源ユニットLSU及び素子ユニットEUに対面する位置に孔23を形成されている。孔23内の接合材24によって、筒状部21と、レンズ51,52,53や光源ユニットLSU及び素子ユニットEUとが、互いに接合および固定されている。一方、マスクシート45は、筒状部21の内面に形成された段部に位置決めされている。マスクシート45は、圧入による固定、接着剤等の接合材を用いた固定、固定具を用いた固定、またはこれの組み合わせ等によって、筒状部21に固定されている。このような構成に代えて又は加えて、光学要素を位置決めするための保持具27が、筒状部21内に設けられていてもよい。また、筒状部21または筐体20全体を省いて、保持具27によって光学要素が位置決めされるようにしてもよい。
一例として図23及び図24に示された保持具27は、平面視において矩形形状の光学要素45,51〜56,60、例えばレンズや回折光学素子60の角部を支持する。図24に示すように、保持具27は、光学要素45,51〜56,60の角部に軸方向ADに直交する径方向から対面するL字状の本体部27aと、本体部27aから径方向内側に突出した突出部27bと、を有している。図23及び図24の例において、本体部27aは、光学要素45,51〜56,60の角部に径方向外側から接触して光学要素45,51〜56,60の径方向外側への移動を規制する。突出部27bは、光学要素45,51〜56,60の角部に軸方向ADにおける一方の側から接触して光学要素45,51〜56,60の軸方向ADにおける一方の側への移動を規制する。
図25及び図26に示された保持具27は、平面視において円形状の光学要素45,51〜56,60、例えばレンズや回折光学素子60の縁部を支持する。図26に示すように、保持具27は、光学要素45,51〜56,60の縁部に軸方向ADに直交する径方向から対面する開いたV字状の本体部27aと、本体部27aから径方向内側に突出した突出部27bと、を有している。図25及び図26の例において、本体部27aは、光学要素45,51〜56,60の縁部に径方向外側から接触して光学要素45,51〜56,60の径方向外側への移動を規制する。突出部27bは、光学要素45,51〜56,60の縁部に軸方向ADにおける一方の側から接触して光学要素45,51〜56,60の軸方向ADにおける一方の側への移動を規制する。
レンズや回折光学素子60等をなす一つの光学要素45,51〜56,60に対し、図23及び図25に示すように一対の保持具27が設けられてもよいし、一つの保持具27のみが設けられてもよい。一対の保持具27が設けられる場合、図23及び図25とは異なり、一方の保持具27の突出部27bが、軸方向ADにおける一方の側から光学要素45,51〜56,60に対面し、他方の保持具27の突出部27bが、軸方向ADにおける他方の側から光学要素45,51〜56,60に対面するようにしてもよい。この例によれば、一対の保持具27に対する光学要素45,51〜56,60の軸方向ADにおける両側への相対移動を規制することができる。
なお、径方向外側とは、軸方向ADに直交する径方向における内側とは反対側のことである。そして、径方向内側とは、径方向において光軸OAに近接する側であり、径方向外側とは、径方向において光軸OAから離間する側である。
また、図27及び図28に示すように、筒状部21が、光学系をなす光学要素45,51〜56,60を位置決めする段部22a〜22fを内部に有するようにしてもよい。とりわけ図27又は図28に示すように、筒状部21の内寸法が、コヒーレント光の光路に沿った上流側から下流側に向けて又はコヒーレント光の光路に沿った下流側から上流側に向けて小さくなっていくことが好ましい。より具体的には、軸方向ADへの投影において、一つの段部22a〜22fの前後における筒状部21の内部の一方の断面形状が、他方の断面形状に内包されるようになっていることが好ましい。この例において、筒状部21内に収容される光学要素の平面視形状も、コヒーレント光の光路に沿った上流側から下流側に向けて又はコヒーレント光の光路に沿った下流側から上流側に向けて、軸方向ADへの投影において内包されるようにして、小さくなっていく。
図27及び図28に示された例において、筒状部21の内面には、光軸OAに沿った上流側から下流側に向けて、第1段部22aから第6段部22fまでの六つの段部が設けられている。すなわち、第1開口部21aに近接して第1段部22aが設けられ、第2開口部21bに近接して第6段部22fが設けられている。第1段部22aに光源ユニットLSUが位置決めされている。第2段部22bにマスクシート45が位置決めされている。第3段部22cに整形光学系50の第1レンズ51が位置決めされている。第4段部22dに整形光学系50の第2レンズ52が位置決めされている。第5段部22eに整形光学系50の第3レンズ53が位置決めされている。第6段部22fに素子ユニットEUが位置決めされている。各光学要素45,51〜56,60は、対応する段部22a〜22fにおいて筒状部21に圧入され、位置決めされた状態で筒状部21に保持されるようにしてもよい。或いは、各光学要素45,51〜56,60は、対応する段部22a〜22fに縁部を接触させた状態で位置決めされ、さらに接着剤等の接合材や固定具等を用いて筒状部21に固定されていてもよい。
図示された例において各要素LSU,45,51,52,53,EUは、軸方向AD及び軸方向に直交する径方向の両方向において位置決めされる。したがって、各要素LSU,45,51,52,53,EUを筒状部21内に順に挿入していくことにより、要素LSU,45,51,52,53,EU間の相対位置を軸方向AD及び径方向の両方向において位置決することができる。この位置決め精度は、筒状部21の段部22a〜22fの形成精度に依存している。したがって、予め作製した筒状部21によって、要素LSU,45,51,52,53,EU間の相対位置を容易且つ高精度に位置決めすることができる。
図27に示された例において、筒状部21の内寸法は、コヒーレント光の光路に沿った下流側で広がっている。この例において、光源ユニットLSU、マスクシート45、整形光学系50の第1レンズ51、第2レンズ52、第3レンズ53、及び、素子ユニットEUを、この順番にて、第2開口部21bから筒状部21内に挿入していく。筒状部21内に順に挿入される各要素LSU,45,51,52,53,EUが対応する段部22a〜22fに接触することにより、各要素LSU,45,51,52,53,EUを筒状部21内で順に位置決めしていくことができる。すなわち、高精度に位置決めしながら容易にアッセンブリすることができる。図27に示された例において、光源ユニットLSU、マスクシート45、整形光学系50の第1レンズ51、第2レンズ52、第2レンズ52、および、素子ユニットEUの寸法は、軸方向ADへの投影において内包していくようにして、順に大きくなっていく。一方、筐体20内においてコヒーレント光の光束の寸法は、上流側から下流側に向けて広がっていく傾向にある。したがって、図27に示された照明装置10では、光学要素の寸法が入射するコヒーレント光の光束の寸法に応じて大きくなっていく。すなわち、照明装置10を不必要に大きくする必要がないので、照明装置10の小型軽量化を図ることができる。
一方、図28に示された例において、筒状部21の内寸法は、コヒーレント光の光路に沿った上流側で広がっている。この例において、素子ユニットEU、整形光学系50の第3レンズ53、第2レンズ52、第1レンズ51、マスクシート45、及び、光源ユニットLSUを、この順番にて、上流側の第1開口部21aから筒状部21内に挿入していく。筒状部21内に順に挿入される各要素EU,53,52,51,45,LSUが対応する段部22a〜22fに接触することにより、各要素EU,53,52,51,45,LSUを筒状部21内で順に位置決めしていくことができる。すなわち、高精度に位置決めしながら容易にアッセンブリすることができる。図28に示された例では、対応する段部との接触により、各要素EU,53,52,51,45,LSUは、軸方向ADにおける光路に沿った下流側への移動を効果的に規制される。自動運転される移動体5では、急加速を回避することができるが、意図せず急減速の必要が生じる。図28に示された照明装置10によれば、このような急減速時においても筒状部21内に収容された各要素EU,53,52,51,45,LSUの筒状部21に対する相対位置を安定して維持することができる。この点において、図28に示された筐体20の構成は、自動運転する移動体5に対して好適である。
次に、以上に説明した照明装置10の作用について説明する。
コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光は、まずマスクシート45によって絞られ、次に整形光学系50に入射する。整形光学系50は、図示された例においてコヒーレント光を平行光束に整える。整形光学系50で整形されたコヒーレント光は、次に、回折光学素子60へと向かう。回折光学素子60は、整形光学系50からのコヒーレント光を回折する。回折光学素子60で回折されたコヒーレント光は、被照明領域LZに投射されるようになる。被照明領域LZに入射したコヒーレント光によって、被照明領域LZが照明されることになる。
ところで、このような照明装置10からコヒーレント光を投射される地面や海面等は、被照明面LP上において大面積の被照明領域LZや照明装置10から遠く離間した被照明領域LZを確保することができる。大面積の被照明領域LZでは、被照明領域LZ内の各位置への入射角度α(図1及び図2参照)も大きくばらつき、照明装置10から遠く離間した被照明領域LZへの入射角度αは、非常に大きく、とりわけ90°近くにもなる。併せて、照明装置10の出射端11及び回折光学素子60の回折面は、被照明面LP及び被照明領域LZに対して大きな角度をなすようになる。ここで、被照明領域LZへの入射角度αとは、入射光の進行方向が被照明領域LZの法線方向NDに対してなす角度のことである。
一方、上述してきた本実施の形態の照明装置10では、回折光学素子60によって、コヒーレント光の光路を調整している。一般に、回折光学素子60の光路調整機能は高精度である。したがって、所望のパターンの被照明領域LZに向けて、コヒーレント光の光路を回折光学素子60で調節することができる。このため、照明装置10との相対位置に強い拘束を受けることなく、例えば照明装置10から遠方に離間した位置や、照明光の入射角度αが大きくなってしまう位置等にも、被照明領域LZを設定することができる。すなわち、被照明面LP及び被照明領域LZの設定の自由度を大幅に向上させることができる。結果として、被照明領域LZに高精度に照明光を照射して、種々の情報を適切に表示することができる。
図14を参照して説明した設計により作製された計算機合成ホログラムからなる回折光学素子60によれば、一定の方向から入射する光の進行方向を、角度空間において、±0.1°の精度で調整することができる。このような回折光学素子60を用いることにより、回折光学素子60から1m以上120m以下の距離にある被照明領域LZや、照明光の被照明領域LZへの入射角度αが最小でも45°以上となり最大で89.99°以下となる被照明領域LZを、所望するパターンで高精度に照明することが可能となる。
すなわち、本実施の形態による移動体5に搭載された照明装置10は、地面や水面等によって形成された被照明面LP上に位置する被照明領域LZに対して、高精度にコヒーレント光を投射することができる。とりわけ、所望のパターンの被照明領域LZに対してコヒーレント光を高精度に投射して、被照明領域LZのエッジを明確にすることもできる。
また、回折光学素子60を用いることで、照明装置10の出射端11及び回折面から被照明領域LZ内の各位置に向かう光度の分布を容易に調整することが可能となる。例えば、照明装置10の出射端11から被照明領域LZの一つの位置に向けた光度を、当該一つの位置から出射端(出射面)11までの距離よりも出射端11までの距離が短い被照明領域LZの他の一つの位置に向けた照明装置10の出射端11からの光度よりも大きくすることができる。すなわち、出射端11から遠く離れた位置に向けた光度を高く設定することができる。さらには、照明装置10の出射端11から被照明領域LZの任意の位置に向けた光度を、当該任意の位置から出射端11までの距離よりも出射端11までの距離が短い被照明領域LZの他の位置に向けた照明装置10の出射端11からの光度以上としてもよい。すなわち、出射端11から遠く離れた位置に向かうにつれて光度がしだいに高くなっていくようにしてもよい。これらの光度調整によれば、被照明領域LZを均一な明るさで照明することが可能となる。とりわけ、照明装置10の出射端11から離間するように延びる細長い被照明領域LZを、均一な明るさで照明することに有効である。なお、光度とは、照明装置10から単位立体角内(微小角度範囲内)に射出するエネルギー量のことであり、単位は[cd]である。
以上に説明してきた一実施の形態において、照明装置10は、移動体5に用いられる照明装置であって、コヒーレント光源30と、コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光を回折する回折光学素子60と、を有している。この一実施の形態によれば、回折光学素子60を用いることで、被照明領域LZに対して高精度に、すなわちエッジを鮮明にしながら所定パターンの被照明領域LZに対して、コヒーレント光を投射することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、照明装置10は、コヒーレント光源30またはコヒーレント光源30を保持する光源ホルダ35の温度に関する情報を取得する温度センサ18と、温度センサ18の検出結果に基づきコヒーレント光源30からのコヒーレント光の射出を停止する制御部15と、を更に有している。この具体例によれば、温度上昇の異常を迅速に検出して、照明装置における異常の拡大を未然に防止することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、照明装置10は、複数のレンズを有しコヒーレント光源30から射出したコヒーレント光を整形する整形光学系50と、複数のレンズを内部に保持する筒状部21を有した筐体20と、を更に有している。筒状部21は、コヒーレント光の光路に沿った上流側から下流側に向けて又はコヒーレント光の光路に沿った下流側から上流側に向けて内寸法が小さくなっていくよう変化させる複数の段部22a〜22fを内部に有している。複数のレンズ51〜56の各々は、複数の段部22a〜22fのいずれかによって位置決めされている。この具体例によれば、複数のレンズ51〜56の位置関係を容易且つ高精度に位置決めし、且つ、位置決めされた相対位置を安定して維持することができる。これにより、整形光学系50が期待された光学機能を安定して発揮することができ、結果として、被照明領域LZを高精度にコヒーレント光を投射することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、コヒーレント光源30またはコヒーレント光源30を保持する光源ホルダ35は、複数の段部22a〜22fのいずれかによって位置決めされている。この具体例によれば、コヒーレント光源30を整形光学系50に対して容易且つ高精度に位置決めし、且つ、位置決めされた相対位置を安定して維持することができる。これにより、整形光学系50が期待された光学機能を安定して発揮することができ、結果として、被照明領域LZを高精度にコヒーレント光を投射することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、回折光学素子60または素子ホルダ65は、複数の段部22a〜22fのいずれかによって位置決めされている。この具体例によれば、回折光学素子60を整形光学系50に対して容易且つ高精度に位置決めし、且つ、位置決めされた相対位置を安定して維持することができる。これにより、回折光学素子60が期待された光学機能を安定して発揮することができ、結果として、被照明領域LZを高精度にコヒーレント光を投射することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、筒状部21の内寸法は、コヒーレント光の光路に沿った上流側から下流側に向けて小さくなっていく。この具体例によれば、自動運転する移動体5に適用されて前方を照明する照明装置10において、整形光学系50の複数のレンズの相対位置を安定して維持することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、筒状部21の内寸法は、コヒーレント光の光路に沿った下流側から上流側に向けて小さくなっていく。この具体例によれば、照明装置10の小型軽量化を図ることができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、照明装置10は、複数のレンズ51〜56を有しコヒーレント光源から射出したコヒーレント光を整形する整形光学系50と、筐体20と、を有している。筐体20は、複数のレンズ51〜56を内部に保持する筒状部21と、筒状部21に外側から接続した外装材25と、筒状部21及び外装材25との間に設けられた緩衝材26と、を有している。この具体例によれば、移動体5に固定された外装材25からの振動を緩衝材26で吸収することができ、これにより、筒状部21によって複数のレンズの相対位置を安定して維持することができる。したがって、移動体5に適用される照明装置10において、被照明領域LZを高精度にコヒーレント光を投射することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、照明装置10は、回折光学素子60の状態に関する情報を取得する状態検出部70と、状態検出部70の検出結果に基づき照明装置10からのコヒーレント光の射出を停止する制御部15と、を更に有している。この具体例によれば、回折光学素子60の筐体20への取り付け状態の異常を状態検出部70によって検出することができる。したがって、回折光学素子60が筐体20から外れた状態で、すなわち回折光学素子60によって拡散されることなく、照明装置10からコヒーレント光が射出することを効果的に回避することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、照明装置10は、コヒーレント光源30および照明装置10からのコヒーレント光の射出を制御する制御部15の少なくとも一方の放熱を促す放熱手段40を更に有している。この具体例によれば、温度が上昇しやすいコヒーレント光源30や制御部15を放熱手段40によって効果的に冷却することができる。したがって、高効率かつ高精度な被照明領域LZの照明を実現することができる。
上述した一実施の形態の一具体例において、文字、絵柄、色模様、記号、マーク、イラスト、キャラクター、ピクトグラムのいずれか一以上を表すパターンで照明する。この具体例によれば、照明装置10によって情報を有効に表示することができる。このような照明装置10は、自動運転する移動体5への適用に好適である。
上述した一実施の形態の一具体例において、移動体5は、移動体本体6と、移動体本体6に保持された照明装置10と、を有している。本実施の形態の照明装置10よれば、回折光学素子60を用いることで、被照明領域LZに対して高精度に、すなわちエッジを鮮明にしながら所定パターンの被照明領域LZに対して、コヒーレント光を投射することができる。したがって、照明装置10は、単に周囲を明るく照明するだけでなく、周囲に対して情報を表示することもできる。このような照明装置10は、移動体5、とりわけ自動運転する移動体5に対して好適である。
上述した一実施の形態の一具体例において、移動体5の移動状態に応じて照明装置10の向きを変化させる。この具体例によれば、移動体5の移動状態、例えば移動方向を表示することができる。
一実施の形態をいくつかの具体例により説明してきたが、上述した具体例が一実施の形態を限定することを意図していない。上述した一実施の形態は、その他の様々な具体例で実施されることが可能であり、その要旨を逸脱しない範囲で、種々の構成の省略、置き換え、変更、或いは、更なる構成の追加を行うことができる。
以下、図面を参照しながら、他の具体例を説明していくことで上述した実施の形態を更に説明していく。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した具体例と同様に構成され得る部分について、上述の具体例における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いるとともに、重複する説明を省略する。
被照明領域LZを所望の色に照明することができるよう、コヒーレント光源30が複数のコヒーレント光源30を含み、各コヒーレント光源30から射出した光が重ね合わされた後、整形光学系50及び回折光学素子60に向かうようにしてもよい。また、図29に示された変形例のように、各コヒーレント光源30から射出した光が当該コヒーレント光源30に対応して設けられた整形光学系50A,50B,50C及び回折光学素子60A,60B,60Cを経て、その後に被照明領域LZ上で重ね合わされてもよい。さらに、複数のコヒーレント光源30を含む例において、コヒーレント光源30に含まれる複数のコヒーレント光源30は、異なる波長域の光を射出するだけでなく、同一の波長域の光を射出するようにしてもよい。コヒーレント光源30が同一の波長域の光を射出する複数のコヒーレント光源30を含むことで、被照明領域LZを明るく照明することが可能となる。
なお、図29に示す例において、コヒーレント光源30は、第1コヒーレント光源30A、第2コヒーレント光源30B及び第3コヒーレント光源30Cを有している。コヒーレント光源30が、複数のコヒーレント光源を含む場合には、各コヒーレント光源30からのコヒーレント光の射出、より具体的には射出の発停および射出量を調節することで、被照明領域Zの照明色や被照明領域Zの明るさを制御するようにしてもよい。
また、図30に示すように、一つの照明装置10が、選択的にコヒーレント光を照射される複数の回折光学素子60を有するようにしてもよい。図30に示された例において、照明装置10は、コヒーレント光源30に対して相対動作可能な支持部材68を有している。支持部材68は、複数の回折光学素子60を支持している。支持部材68は、コヒーレント光源30に対して相対動作することで、コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光が入射する回折光学素子60を変更することができる。
図30に示された例において、支持部材68は、四つの回折光学素子60A〜60Dを有している。支持部材68は回転可能となっており、回転することで、コヒーレント光源30から射出したコヒーレント光の光路上に位置する回折光学素子60A〜60Dを変更することができる。第1〜第4回折光学素子60A〜60Dは、互いに異なる回折特性を有している。例えば、第1回折光学素子60Aは、右向き矢印を再生することができ、第2回折光学素子60Bは、下向き矢印を再生することができ、第3回折光学素子60Cは、左向き矢印を再生することができ、第4回折光学素子60Dは、上向き矢印を再生することができる。このような照明装置10によれば、被照明領域LZのパターンを変更することが可能となる。
さらに、図9等に図示された照明装置10は例示に過ぎず、種々の変更が可能である。照明装置10の更なる具体例を図31に示す。図31に示された照明装置10は、筐体20と、筐体20に固定された光源ホルダ35と、光源ホルダ35に保持されたコヒーレント光源30と、筐体20及び光源ホルダ35に保持された整形光学系50と、筐体20に保持された回折光学素子60と、を有している。整形光学系50は、上流側レンズ54としての鏡筒付き非球面レンズ56と、下流側レンズ55と、を有している。光源ホルダ35は、コヒーレント光源30とともに、整形光学系50の鏡筒付き非球面レンズ56を保持している。鏡筒付き非球面レンズ56は、光源ホルダ35に形成された孔内に設けられた固定具76によって、光源ホルダ35に固定されている。筐体20の内面に設けられた段部22によって下流側レンズ55が位置決めされている。光路に沿った下流側となる筐体20の端部に、留め筒78が固定されている。留め筒78は、例えば螺子によって筐体20に固定されている。留め筒78は、回折光学素子60を下流側レンズ55に向けてスペーサ77を介して押し付けている。
なお、以上において一実施の形態に関連した複数の具体例や変形例を説明してきたが、複数の具体例や変形例を適宜組み合わせて適用することも可能である。