以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。なお、本願図面では、説明の便宜上、個々の構成要素の縮尺や縦横の寸法比等を、実際の部材のそれらから若干変更し、必要に応じて誇張して示してある。また、本願明細書に記載した個々の構成要素の形状や幾何学的条件、ならびにそれらを特定するために用いられている「平行」、「直交」、「同一」、「一致」、「矩形」等の用語、長さや角度の値等については、文言上の厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈すべきものである。
<<< §1. 車載型の照明装置の特徴 >>>
本発明に係る照明装置は、所定の照明対象面上に所定形状をもった照明領域を形成するのに適した装置であり、特に、路面上に所望の形状をもった照明パターンを形成する車載型の照明装置などへの用途に適している。このような用途では、照明光の光軸と照明対象面とのなす角が非常に小さくなるため、照明領域として提示される照明パターンが不鮮明になりやすい。本発明に係る照明装置では、このような用途においても、照明対象面上に鮮明な照明パターンを形成することが可能になる。そこで、この§1では、本発明の典型的な適用例として、路面上に所望の照明パターンを形成するための車載型の照明装置の特徴を簡単に述べておく。
図1は、本発明に係る車載型の照明装置を用いた照明により、照明対象面となる路面10上に照明領域20を形成した一例を示す運転席からの俯瞰図である。この図は、車両(自動車)前方の路面10を、運転中の運転手から見た状態を示しており、路面前方の左側には、歩行者30が立っている。ここでは、説明の便宜上、図の右方向にX軸、図の奥行方向(車両の進行方向)にY軸を定義している。図1には示されていないが、路面10に対して直交する方向(鉛直方向)にはZ軸が定義される。
図には、路面10上に矢印の形状をした照明領域20が形成されている例が示されている。この照明領域20は、車載型の照明装置からの照明光を路面10上に投影することにより得られたものであり、車両の走行とともに前方へ移動してゆくことになる。実際には、この照明領域20の内部の領域が照明されており、運転手や歩行者から見ると、路面10上に明るい領域として矢印図形の照明パターンが認識されることになる。この矢印図形の照明パターン(照明領域20)は、運転手もしくは歩行者30に対して、何らかの情報(たとえば、車両の進行方向)を提示するための路面上の指標として利用することができる。なお、照明領域20は、矢印図形に限定されるものではなく、後述する光ビームの走査により、任意の図形パターンや任意の文字パターンからなる照明領域20を形成することができる。
本発明に係る照明装置の特徴は、照明対象面上に、任意の照明パターンを形成することができる点である。一般に夜間であれば、路面10上に形成された照明領域20は認識しやすいが、昼間の場合は、ある程度高い輝度で照明領域20が表示されるように、十分な照明強度を確保する必要がある。後述するように、本発明に係る照明装置には、レーザ光のようなコヒーレント光を放射するコヒーレント光源が用いられているため、十分な照明強度を確保することが可能である。
なお、レーザ光のようなコヒーレント光は、一般の光に比べて放射強度がはるかに大きいため、観察者の目を損傷するおそれがある。たとえば、図1に示す例の場合、歩行者30や対向車の運転手などが、照明装置からの照明光を直視した場合でも、目に損傷を与える危険性がないような配慮が必要になる。本発明に係る照明装置の場合、後述するように、拡散光によって照明対象面を照らすようにしているため、照明光の単位面積当たりの光強度は十分に安全な程度にまで弱められる。このため、仮に歩行者30や対向車の運転手などが、照明装置の光源側を直視したとしても、強いコヒーレント光が人間の目に入ることはなく、人間の目を痛めるおそれはない。
また、車載型の照明装置では、照明光の光軸と照明対象面(図示の例の場合、路面10)とのなす角が非常に小さくなるため、照明領域20として形成される照明パターンが不鮮明になりやすい。特に、路面10上に形成された照明パターンの奥の部分(図示の例の場合、矢印の先端部)および手前の部分(図示の例の場合、矢印の根元部)の輪郭にはボケが発生しやすい。本発明に係る照明装置は、このような問題に対処する機能も備えている。
図2は、車載型の照明装置100からの照明により、路面10上に照明領域20(太線部分)を形成した一例を示す側面図である。この例では、車両(自動車)40は、路面10上を図の左から右へ向けて進行している。ここでは、図1と同様に、車両40の進行方向(図の右方向)にY軸を定義し、路面10に直交する方向(図の上方向)にZ軸を定義する。X軸は、図2には示されていないが、紙面垂直手前方向を向くことになる。
図示のとおり、車両40の前方には、本発明に係る照明装置100が取り付けられており、光軸Cに沿って路面10の前方が照明されている。ここに示す実施例における照明装置100は、ヘッドライト等とは別の装置であり、路面10上の所定の照明領域20を照明して、所定の照明パターンを提示する役割を果たす。ここに示す例の場合、照明領域20は、矢印形状の図形パターンになる。
図2に示す照明装置100は、自動車のヘッドライト等とは別の装置であるが、ヘッドライトとして利用することも可能であるし、ヘッドライトに組み込んで用いることも可能である。もちろん、この照明装置100は、自動車のテールライトやサーチライトなどの種々の照明灯として利用することも可能であり、これら種々の照明灯に組み込んで用いることも可能であるし、バンパー部などに取り付けて利用してもかまわない。
図2に示す車載型の照明装置100は、XY平面に位置する路面10上に任意形状の照明領域20を形成する機能を有している。運転手は、通常、路面10の進行方向に視線を向けている。したがって、照明領域20を運転手の視野の中心に入れるためには、路面10上のかなり遠方に照明領域20を形成する必要がある。たとえば、図2には、車両40の前方50m先の位置に、長手方向が10mにわたる照明領域20(太線部分)を形成した例が示されている。このような位置に照明領域20を形成する場合、照明装置100の設置高さを75cmとすると、光軸Cと路面10とのなす角θ(照明対象面に対する照射角)は、0.7°程度になる。図2では、便宜上、θの大きさをデフォルメして描いているが、実際には、光軸Cと路面10とのなす角度は極めて小さい。
このように、車載型の照明装置100は、一般的なプロジェクタなどと異なり、照明対象面に対する光の照射角θが極めて小さいという特徴がある。一般的なプロジェクタでは、照射角θの基準は90°であるため、上例のように照射角θが0.7°程度になるような使用形態は想定外である。したがって、一般的なプロジェクタに用いられている照明機構をそのまま車載用の照明装置に転用すると、投影面(照明対象面)上に鮮明な投影像を得ることが困難になる。
実際、図2に示す例のように、照明領域20のY軸方向の長さが10mに及ぶことになると、手前と奥との距離差が10mになるため、一般的なプロジェクタを用いた場合、照明領域20として提示される矩形パターンの輪郭線のすべてを鮮明に表示することは困難である。このため、運転手や歩行者30から見ると、路面10上に投影された照明パターンがボケているように観察される。照射角θが非常に小さいため、輪郭線のボケは、運転手から見て奥の部分(図2に示す照明領域20の右端)および手前の部分(図2に示す照明領域20の左端)において、特に顕著になる。
本発明に係る照明装置100では、後述するように、コヒーレントな光ビームを異方性拡散し、この拡散光によって照明対象面上に描画スポットを形成するようにし、光ビームを走査することによって描画スポットを移動させて所望の照明パターンからなる照明領域を形成する。このような異方性拡散は、後に詳述するように、照明領域の輪郭線のボケを抑制する上で効果的であり、また、コヒーレント光に対する安全性を確保する上でも効果的である。
以上、本発明の典型的な適用例として、本発明を車載型の照明装置に適用した例を説明した。このような車載型の照明装置100には、車両40に取り付けるための取付部が設けられており、車両40の前方、後方、側方等に取り付けることにより、車両40から、路面10上に設定された照明対象面に対して照明を行うことが可能になる。
もっとも、本発明に係る照明装置は、必ずしも車載型の照明装置に限定されるものではない。本発明に係る照明装置は、自動車、バイク、自転車等の車両だけでなく、船舶や飛行機、列車などを含む種々の乗物に搭載して利用することができる。また、本発明に係る照明装置は、このような乗物に搭載する用途だけでなく、様々な構造物に取り付けて、様々な情報を提示する用途にも利用可能である。たとえば、本発明に係る照明装置を、路面もしくは路面近傍に設置された構造物、または建物などに取り付ければ、各種案内標識や誘導標識を提示する用途に利用することも可能である。もちろん、本発明に係る照明装置によって照明領域が形成される照明対象面は、必ずしも平面である必要はなく、用途に応じて、曲面を照明対象面としてもかまわない。
<<< §2. 基本的実施形態の全体構成 >>>
続いて、本発明の基本的実施形態の全体構成を説明する。図3は、本発明の基本的実施形態に係る照明装置100の基本構成を示す斜視図(一部はブロック図)である。この照明装置100は、§1で述べた車載型の装置であり、図2に示すように、車両40の前部に取り付けられ、照明対象面となる路面10上を照らして照明領域20を形成する機能を有している。
図3に示すとおり、この照明装置100は、光源110、走査部材120、光拡散素子130、照明光学系140、走査制御部150(ブロック図で示す)を備えており、所定の照明対象面S上に所定形状をもつ照明領域LAを形成して照明を行う。この例の場合、照明対象面Sは車両前方の路面であり、図3では、矢印図形の照明パターンからなる照明領域LAが形成された状態が示されている。なお、図3では、説明の便宜上、照明対象面Sの輪郭を矩形で示しているが、照明対象面Sは概念上の面であり、必ずしも矩形面である必要はない。また、上述したように、照明対象面Sは曲面であってもかまわない。
ここでは、説明の便宜上、図示の各方向にX軸,Y軸,Z軸をとったXYZ三次元直交座標系を定義し、各構成要素の配置を、この座標系を参照しながら説明することにする。図3に示す座標系におけるX軸,Y軸,Z軸の向きは、図1および図2に示す各座標軸の向きと同じであり、Y軸は車両40の進行方向、X軸はこれに直交する横方向、Z軸は鉛直方向になる。X軸およびY軸は水平面上の軸になり、照明対象面S(路面10)はXY平面に相当する。
なお、Z′軸は、X軸を回転軸としてZ軸を所定の傾斜角ξだけ回転させること(X軸の負方向に向かって見たときに時計まわりに回転させること)により得られる軸である。したがって、XZ′平面は、XZ平面をX軸を回転軸として傾斜角ξだけ回転させて傾けた面になる。後述するように、光拡散素子130および照明光学系140は、このXZ′平面に平行な平面上に配置されている。
光源110は、コヒーレントな光ビームL110を射出する構成要素であり、一般的には、レーザ光を射出するレーザ光源を用いればよい。レーザ光源には、様々なタイプのものがあるが、いずれのタイプのレーザ光源を用いてもかまわない。ここに示す実施例の場合、断面が直径数10μm程度の円形の光ビームL110を射出する半導体レーザを用いている。
走査部材120は、光源110からの光ビームL110を走査する構成要素である。図3には、走査部材120が、光ビームL110を一次元走査した例が示されている。具体的には、3つの走査時点t1,t2,t3について、走査後の光ビームL120(以下、走査ビームL120と呼ぶ)の光路が、それぞれ走査ビームL120(t1),走査ビームL120(t2),走査ビームL120(t3)として示されている。
すなわち、走査時点t1において、光ビームL110は、走査ビームL120(t1)として光拡散素子130の入射点P(t1)に照射され、走査時点t2において、光ビームL110は、走査ビームL120(t2)として光拡散素子130の入射点P(t2)に照射され、走査時点t3において、光ビームL110は、走査ビームL120(t3)として光拡散素子130の入射点P(t3)に照射される。
図示する実施例の場合、走査部材120は、第1の面に入射した光を第2の面から射出する透過型走査体(図に符号120で示されている構成要素)と、この透過型走査体を回動して走査する走査機構(モータや歯車などから構成される要素:図示省略)とを有している。透過型走査体としては、透明な板状部材やプリズムなどの屈折部材を用いることができる。これらの部材を回動することで、射出される光の進行方向を変化させることができる。上述した一次元走査を行う場合、Z′軸に平行な軸を回動軸として、走査機構により透過型走査体を回動軸まわりに回動させればよい。図に示す両方向矢印は、このような回動状態を示している。
光拡散素子130は、XZ′平面に平行な平面上に配置されている平板状の構成要素であり、走査部材120が、上述した一次元走査(Z′軸に平行な軸まわりの回動走査)を行うと、走査ビームL120の光拡散素子130上の入射点Pは、図に破線で示すように、X軸に平行な走査線SLに沿って移動することになる。したがって、この場合、走査部材120は、光ビームをX軸方向に一次元走査することになる。走査部材120によって走査された走査ビームL120を受光した光拡散素子130は、受光した走査ビームL120を拡散させて、拡散光L130を放出する。図3には、走査時点t2において、入射点P(t2)に照射された走査ビームL120(t2)を拡散させることにより、拡散光L130(t2)が放出された状態が示されている。
図3には示されていないが、もちろん、走査時点t1においては、走査ビームL120(t1)の拡散光L130(t1)が入射点P(t1)から放出され、走査時点t3においては、走査ビームL120(t3)の拡散光L130(t3)が入射点P(t3)から放出される。
ここで、重要な点は、光拡散素子130が、走査部材120によって走査されたコヒーレント光(走査ビームL120)を異方性拡散させる点である。ここで、異方性拡散とは、光拡散素子130の光放出面から二次元方向に等方的にコヒーレント光を拡散させるのではなく、所定方向に対するコヒーレント光の拡散範囲が、当該所定方向に交差する方向に対する拡散範囲よりも大きくなるように、コヒーレント光を拡散させることを意味する。より望ましくは、所定方向に対するコヒーレント光の拡散範囲を、当該所定方向に交差する方向に対する拡散範囲よりもはるかに大きくする。すなわち、光拡散素子130が、走査部材120で走査されたコヒーレント光(走査ビームL120)を、主に一軸方向に拡散させるようにすればよい。
別言すれば、図示のように、光拡散素子130の光放出面上に第1の拡散軸A1および第2の拡散軸A2を定義したときに、光拡散素子130が、第1の拡散軸方向A1への拡散光L130の広がりの程度を示す第1の拡散角度φ1と第2の拡散軸方向A2への拡散光の広がりの程度を示す第2の拡散角度φ2とが異なるような異方性拡散を行うようにする。図示の例の場合、光拡散素子130は、XZ′平面に平行な平面上に配置されており、第1の拡散軸A1は、X軸に平行な軸に設定され、第2の拡散軸A2は、Z′軸に平行な軸に設定されている。そして、第1の拡散角度φ1が第2の拡散角度φ2よりも大きくなるようにしている(たとえば、φ1がφ2の2倍以上、好ましくは5倍以上、更に好ましくは10倍以上になるようにする)。
こうして、光拡散素子130から放出された拡散光L130は、照明光学系140に入射する。照明光学系140は、拡散光L130を照明対象面S(この例の場合、XY平面)へと導く光学系であり、ここに示す実施例の場合、コリメートレンズ(1枚の凸レンズ)を照明光学系140として用いている。もちろん、複数枚のレンズを組み合わせた光学系を照明光学系140として用いてもかまわない。
図示の例では、走査時点t2における拡散光L130(t2)が照明光学系140の前面に拡散光スポットG(t2)を形成した状態が示されている。この拡散光スポットG(t2)は、照明光学系140の前面位置(照明光学系140の光学作用を受ける前の位置)に定義された仮想投影平面上に形成されるスポットである。図示の実施例の場合、第1の拡散軸A1および第2の拡散軸A2は、互いに直交する軸になり、拡散光L130をその中心軸に直交する平面で切断した断面は矩形になる。このため、拡散光スポットG(t2)の形状も矩形になる。
こうして、照明光学系140を通過した拡散光L130(t2)は、照明光L140(t2)として照明対象面Sへと導かれ、この照明対象面S(XY平面)上に描画スポットD(t2)を形成する。描画スポットD(t2)は、拡散光スポットG(t2)を照明光学系140を通して照明対象面S上に投影したものになるので、若干変形されるものの、基本的には矩形に近い図形になる。しかも、この実施例の場合、X軸に沿った二辺を長辺、Y軸に沿った二辺を短辺とする矩形に近い図形になる。このような描画スポットD(t2)の形状は、§5で詳述するように、照明領域LA(図示の例の場合、矢印図形の照明パターン)のボケを低減する上で重要である。
図3には、走査時点t2において、拡散光スポットG(t2)に基づいて描画スポットD(t2)が形成された例が示されているが、もちろん、走査時点t1においては、拡散光スポットG(t1)に基づく描画スポットD(t1)が形成され、走査時点t3においては、拡散光スポットG(t3)に基づく描画スポットD(t3)が形成される。図示のような一次元走査を行うと、走査ビームL120の光拡散素子130への入射点Pは、X軸に平行な走査線SLに沿って移動するので、照明対象面S上に形成される描画スポットDも、この走査に応じて、ほぼX軸に沿って移動することになる。
このように、走査部材120による走査を行うと、個々の走査時点において、異方性拡散によって得られた拡散光L130が、照明光学系140を通して照明対象面S上に描画スポットDを形成することになる。しかも、この描画スポットDの形成位置は、個々の走査時点によって異なるので、個々の走査時点で得られる個々の描画スポットDの和集合として、所定形状をもつ照明領域LAが形成されることになる。
図3には、このような描画スポットDの和集合として、矢印図形の照明パターンからなる照明領域LAが形成された状態が示されている。実際には、このような矢印図形の照明パターンを形成するためには、二次元走査が必要になる。もちろん、一次元走査によっても、X軸に沿った線状の照明パターンを形成することは可能であり、走査部材120による走査方向は、一次元方向でもよいし、二次元方向でもよい。ただ、任意形状の図形や文字などからなる照明領域LAを形成する上では、実用上は、走査部材120に二次元走査の機能をもたせておくのが好ましい。
もちろん、二次元走査を行った場合でも、得られる照明領域LAの解像度は、描画スポットDのサイズによる制限を受けることになるので、図3に例示したサイズの描画スポットDによって、図3に照明領域LAとして例示する矢印図形の矢尻の先鋭部を正確に描くことは困難であるが、描画スポットDのサイズを小さくすれば、二次元走査によって、より解像度の高い任意形状のパターンを描画することが可能になる。以下の説明では、光拡散素子130の入射面が二次元平面上に広がっており、この入射面の二次元方向に沿って、走査部材130がコヒーレント光を繰り返し走査させる例を説明する。
図4は、図3に示す光拡散素子130上における二次元走査の例を示す平面図である。ここに示す二次元走査の方式は、一般にラスター走査と呼ばれている方式であり、CRTディスプレイにおける電子線の走査に利用されている。具体的には、まず、走査時点t11において、左上隅の入射点P(t11)に走査ビームL120を入射させ、この位置にビームスポットBを形成する。ここに示す例は、光源110から円形断面をもつ光ビームL110が射出された場合の例であり、光拡散素子130上の入射点P(t11)の位置には、破線で示すように、ほぼ円形のビームスポットBが形成される。
ここで、走査部材120によって第1の拡散軸A1方向への一次元走査を行うと、ビームスポットBは、走査線SL1に沿って左から右へと移動してゆき、走査時点t12において、入射点P(t12)の位置へ到達する。続いて、ビームスポットBを左端の入射点P(t11)より1行分下の位置へと戻し、再び、左から右への走査を行った後に左端の1行分下の位置へと戻し、... という操作を順に繰り返してゆく。最後に、最下行の左端の入射点P(t31)の位置から走査線SL3に沿って左から右へと移動させ、右端の入射点P(t32)の位置へ到達すれば、1フレーム分の走査が完了する。
1フレーム分の走査が完了したら、ビームスポットBを右下隅の入射点P(t32)から左上隅の入射点P(t11)の位置へ戻し、再び、1フレーム分の走査を行う(あるいは、入射点P(t32)から入射点P(t11)へと、前回の1フレーム分の走査の経路を逆に辿って戻るようにしてもよい)。図3に示す入射点P(t1)→P(t2)→P(t3)への走査線SLは、図4に示す入射点P(t21)→P(t22)→P(t23)への走査線SL2に相当する。
この図4に示す例のように、走査ビームL120の入射点Pが、光拡散素子130の全領域に渡るようなラスター走査を行うと、照明対象面S上に形成される描画スポットDも同様に二次元走査されることになる。したがって、この場合、照明対象面S上には、ほぼ矩形状の照明領域(図3に示す矩形状の照明対象面Sのような矩形領域)が形成されることになる。図3に示すような矢印図形の照明領域LAを形成するには、光拡散素子130の全領域に渡るラスター走査ではなく、矢印図形に対応する部分領域内のみを走査すればよい(§6.1で述べる変形例を採用すれば、光源110に対する光点灯制御を行うことにより、全領域に渡るラスター走査を行いつつ、矢印図形等の任意のパターンからなる照明領域LAを形成できる)。
任意の図形パターンや文字パターンからなる照明領域LAを形成するには、上述したラスター走査の代わりに、ベクター走査を行うと便利である。ベクター走査は、光拡散素子130上に定義された任意のベクトルに沿ってビームスポットBを移動させる走査である。走査部材120に、二次元走査を行う機能をもたせておけば、第1の拡散軸A1方向への走査量と第2の拡散軸A2方向への走査量とを組み合わせることにより、ビームスポットBを光拡散素子130上の任意の位置へ移動させることが可能になる。すなわち、光拡散素子130上でビームスポットBが任意の軌跡を描くような走査が可能になる。
図3にブロックとして示された走査制御部150は、実際には、電子回路やコンピュータによって構成され、走査ビームL120の光拡散素子130への入射点Pが所定の軌跡を描くように、走査部材120の走査を制御する役割を果たす。照明対象面S上に任意形状の照明領域LAを形成するには、当該任意形状のパターンを描画することができるように、走査制御部150が、走査ビームL120の光拡散素子130への入射点Pを二次元的に変化させる走査制御を行うようにすればよい。そうすれば、照明対象面S上で描画スポットDを移動させて描画を行うことができ、所定形状をもつ照明領域LAを形成することができる。
もちろん、描画スポットDの移動速度が遅ければ、人間の目から見ると、矩形状の描画スポットDが移動しているように認識されてしまうので、実際には、走査制御部150は、照明対象面S上に形成される照明領域LAが、人間の目に連続した領域として視認される速度で走査を行うようにする。
<<< §3. 光拡散素子の構成 >>>
ここでは、図3に示す照明装置100における光拡散素子130の構成について、より詳細な説明を行う。
<3.1 回折現象によって拡散光を生成する光拡散素子>
既に§2で述べたとおり、本発明における光拡散素子130は、走査部材120によって走査された走査ビームL120を受光し、これを拡散させて拡散光L130を放出する構成要素であり、第1の拡散軸A1の方向への拡散光の広がりの程度(前述した実施例の場合、第1の拡散角度φ1)と、第2の拡散軸A2の方向への拡散光の広がりの程度(前述した実施例の場合、第2の拡散角度φ2)とが異なるような異方性拡散を行うという特徴を有している。
このような特徴をもった異方性拡散を行う光拡散素子130としては、たとえば、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)や、ホログラフィック光学素子(HOE:Holographic Optical Element)などを用いることができる。この他、光拡散素子130は、マイクロレンズアレイやレンチキュラーレンズ、拡散板などで構成してもよい。もちろん、マイクロレンズアレイやレンチキュラーレンズの機能を回折光学素子に組み込むことにより、マイクロレンズアレイやレンチキュラーレンズと同等の機能を有する回折光学素子を用いるようにしてもよい。
ここでは、光拡散素子130を、回折光学素子もしくはホログラフィック光学素子によって構成した例を詳述する。これらの素子は、光の回折現象によって拡散光を生成するものであり、記録する回折パターンの構成を工夫することにより回折角度を調整して、所望の異方性拡散の特性を実現することができる。以下、光の回折現象によって生じる異方性拡散の実態を、もう少し詳しく説明する。
図5は、変位角θV,θHを用いて、光拡散素子130上の1点Pから放出される1次回折光強度の角度空間分布を表現する方法を示す図である。なお、光拡散素子130からは、0次回折光や2次以上の回折光も放出されるが、実用上、1次回折光の強度が支配的になるため、ここでは、1次回折光のみを考慮することにする。以下、光拡散素子130の回折面(光放出面)がXZ平面上に配置されているものとし、所定の入射角度で入射光Linを与えた場合に、座標(xp,yp,zp)に位置する回折面上の1点P(xp,yp,zp)から射出する1次回折光Lout の向きを考える。
図5(a) は、XYZ三次元直交座標系を上方から見た投影図(XY平面への投影図)であり、図の右方がY軸正方向、図の下方がX軸正方向、図の紙面に垂直な手前方向がZ軸正方向になる。そして、光拡散素子130は、この座標系のXZ平面上に配置されている。ここで、この光拡散素子130上の点Pに所定の方向から入射光Linを与えた場合に、点Pから1次回折光として射出する射出光Lout の光路(破線)を考えてみる。図5(a) には、点Pから射出された1次回折光Lout(破線)が、三次元空間上の任意の点Q(xq,yq,zq)に向かう様子が示されている。
図示の例の場合、1次回折光Lout は、点Pに立てた法線Np(Y軸に平行)に対して第1方向変位角θHをなす方向に射出している。この第1方向変位角θHは、入射光Linについての水平方向(XY平面に平行な水平面に沿った方向)の変位角に相当し、ここでは、図5(a) に示す投影図において、反時計まわりの方向を第1方向変位角θHの正の方向にとることにする(図示の変位角θHは負の値をとることになる)。
一方、図5(b) は、XYZ三次元直交座標系を側方から見た投影図(YZ平面への投影図)であり、図の右方がY軸正方向、図の上方がZ軸正方向、図の紙面に垂直な手前方向がX軸正方向になる。上述したとおり、光拡散素子130は、この座標系のXZ平面上に配置されている。ここでも、この光拡散素子130上の点Pに所定の方向から入射光Linを与えた場合に、点Pから1次回折光として射出する射出光Lout の光路(破線)を考えてみる。この図5(b) でも、点Pから射出された1次回折光Lout(破線)が、三次元空間上の点Q(図5(a) に示す点Qと同一の点)に向かう様子が示されている。
図示の例の場合、1次回折光Lout は、点Pに立てた法線Np(Y軸に平行)に対して第2方向変位角θVをなす方向に射出している。この第2方向変位角θVは、入射光Linについての垂直方向(Z軸に平行な方向)の変位角に相当し、ここでは、図5(b) に示す投影図において、反時計まわりの方向を第2方向変位角θVの正の方向にとることにする(図示の変位角θVは負の値をとることになる)。
このように、光拡散素子130の任意の1点Pから射出される1本の回折光Lout の進行方向(回折方向)は、第1方向変位角θHと第2方向変位角θVという2組の角度によって表現することができる。すなわち、点P(xp,yp,zp)から点Q(xq,yq,zq)に向かう回折光の向きは、(θH,θV)なる2組の角度によって表現できる。
したがって、ある1点Pから射出する1次回折光の向きは、図5(c) に示すように、二次元直交座標系θH-θVで表現される角度空間分布図上の分布点Rの位置座標によって示すことができる。図5(c) に示す分布点Rは、この分布図における横座標値θH(R),縦座標値θV(R)で示される座標にプロットされた点であり、図5(a) ,(b) に示す射出光Lout の向きを示している。図5(a) ,(b) に示す光拡散素子130の回折面(XZ平面)を、図の右方向から観察した場合(法線Npの矢印とは逆方向に観察した場合)、点QのXZ平面への投影像は、点Pの左下に位置することになる。図5(c) に示す分布点Rは、図5(a) ,(b) に示す点Qに対応するものであり、やはり点Pの左下に位置している。
以上、説明の便宜上、光拡散素子130上の幾何学的な1点Pに入射光Linが入射し、この入射光Linが向きを変えて1本の射出光Lout として射出される例を示したが、実際には、光拡散素子130に入射する走査ビームL120は、図4に示すように、ある程度の面積をもったビームスポットBを形成する。このため、ある走査時点において光拡散素子130上で生じる光学現象は、1点Pの近傍領域にビームスポットBが照射され、当該近傍領域に形成されている回折パターンにより、当該近傍領域全体から拡散光L130が広がってゆく現象ということになる。したがって、実際には、図5(a) ,(b) に示すように、点Pから1本の射出光Lout が射出されるわけではなく、点P近傍から、ある程度の広がり幅をもった拡散光L130が放出されることになる。
図5(c) に示す二次元直交座標系θH-θV上の各分布点Rについて、それぞれ所定の強度値を定めたものは、点Pの近傍の回折パターンによって回折される1次回折光強度の角度空間分布を示す情報になり、これは当該点Pの近傍の回折パターンの回折特性を示す情報になる。たとえば、図5(c) に示す分布点R(θH(R),θV(R))の位置にのみ強度値100が定義され、それ以外の部分にはすべて強度値0が定義された1次回折光強度の角度空間分布をもつ光拡散素子130は、図5(a) ,(b) に示すように、入射光Linに対して、強度値100をもつた1本の射出光Linのみを1次回折光として射出する回折特性を有する素子ということになる。
もちろん、1次回折光強度の角度空間分布は、入射光Linの入射角に応じて変わる。図5(a) ,(b) に示す例の場合、入射角=0°であるが、この入射角を変化させると、射出光Lout の向きも変化し、第1方向変位角θHおよび第2方向変位角θVも変化し、図5(c) に示す角度空間分布も変化する。したがって、図5(c) に示す角度空間分布は、入射光Linを、ある特定の入射角で点Pの近傍に照射したときに得られる1次回折光の強度の角度空間分布を示している。
<3.2 光拡散素子の垂直配置>
図6は、XZ平面上に配置された光拡散素子130上の点P近傍に入射光Linが与えられたときに、当該点P近傍から放出される拡散光L130の様子を示す図である。図6(a) は、図5(a) と同様に、XYZ三次元直交座標系を上方から見た投影図(XY平面への投影図)であり、図の右方がY軸正方向、図の下方がX軸正方向、図の紙面に垂直な手前方向がZ軸正方向になる。一方、図6(b) は、図5(b) と同様に、XYZ三次元直交座標系を側方から見た投影図(YZ平面への投影図)であり、図の右方がY軸正方向、図の上方がZ軸正方向、図の紙面に垂直な手前方向がX軸正方向になる。上述したとおり、光拡散素子130は、この座標系のXZ平面上に配置されている。
この図6に示す例の場合、光拡散素子130の回折面(XZ平面)の点P近傍に所定の入射角(この例の場合、入射角=0°)をもつ入射光Linを与えると、X軸方向(水平方向)に関しては、図6(a) に示すように、法線Npを中心として第1の拡散角度φ1で広がり、Z軸方向(垂直方向)に関しては、図6(b)に示すように、法線Npより下方に向かうように第2の拡散角度φ2で広がる拡散光L130が得られる。図にハッチングを施して示す領域が、拡散光L130の回折範囲ということになる。なお、図6(a) ,(b) では、便宜上、1点Pから拡散光L130が広がってゆく状態が描かれているが、実際には、入射光Linとして照射された光ビームによって形成されるビームスポットBに応じた点Pの近傍領域全体から、拡散光L130が放出されることになる。
結局、光拡散素子130の点P近傍の領域には、図6(a) ,(b) に示す拡散光L130を回折光として生じるような回折特性を有する回折パターンが形成されていることになる。この回折特性は、図6(c) に示す1次回折光強度の角度空間分布として示すことができる。図6(c) には、矩形状の回折光分布領域E(ハッチング部分)が示されているが、この回折光分布領域Eは、第1方向変位角θHおよび第2方向変位角θVの特定の範囲を示すものであり、その横幅は第1の拡散角度φ1、縦幅は第2の拡散角度φ2に相当する。
なお、1次回折光強度の角度空間分布は、図6(c) に示す二次元座標系の各座標位置にそれぞれ所定の強度値を定義したものになる。すなわち、図6(c) には、回折光分布領域Eがハッチングを施した矩形領域として描かれているが、1次回折光強度の角度空間分布は、各部分に所定の強度値を定義したものになる。たとえば、図6(c) における回折光分布領域Eの内部に強度値100が定義され、それ以外の部分に強度値0が定義された1次回折光強度の角度空間分布をもつ光拡散素子130の場合、図6(a) ,(b) にハッチングを施して示す領域にのみ強度値100をもった1次回折光が進行し、それ以外の領域には1次回折光は全く進行しないことになる。
図6(c) に示す回折光分布領域Eが、縦軸θVを中心軸として左右対称になっているのは、図6(a) に示すように、拡散光L130が法線Npを中心とする対称形となるように広がっているためである。また、図6(c) に示す回折光分布領域Eが、原点Pよりも下方の位置(座標値θVが負の値となる位置)に配置されているのは、図6(b) に示すように、拡散光L130が法線Npよりも下方に向かって進行するためである。このように、拡散光L130が下方に向かって進行すれば、照明対象面となるXY平面を照明するために好都合である。
図6に示す例は、光拡散素子130の光放出面(回折面)をXZ平面上に配置した例である。このように、光拡散素子130の光放出面をXZ平面もしくはXZ平面に平行な平面(本願では、XZ平面自身も含めて、単に、XZ平面に平行な平面と言う)上に配置すれば、光拡散素子130の光放出面は照明対象面(XY平面)に対して直交することになる。そこで、本願では、このような光拡散素子130の配置を「垂直配置」と呼ぶことにする。
図2に示すような車載型の照明装置100において、光拡散素子130を垂直配置し、路面10を照明対象面として照明する場合、照明光の光軸Cを斜め下方に向ける必要がある。したがって、垂直配置を採用する実施例の場合、図6(b) に示すように、拡散光L130が下方に向かって進行するような回折特性を光拡散素子130にもたせておくと便利である。図6(c) に示す回折光分布領域Eは、このような配慮のもとに設計された光拡散素子130の回折特性を示すものである。
図6(b) に示すように、拡散光L130は下方に向かって進行するため、照明光学系140は、この進行方向に配置するのが好ましい。また、照明光学系140は、その主面が拡散光L130の中心軸に対して直交する向きに配置するのが好ましい。なお、図6(b) に示す例では、入射光Linは法線Npの方向に入射しているので、光源110の光軸も法線Npに一致させれば、光源110、走査部材120、光拡散素子130を一直線上に配置することが可能になり、全体的に単純な構造をもった照明装置を実現できる。
もちろん、光源110や走査部材120は、設計上の都合に合わせて任意の位置に配置することができる。たとえば、図6(a) ,(b) では、入射光Lin(走査ビームL120)が入射面に対して垂直に入射する例を示したが、入射光Linの入射方向は入射面に対して必ずしも垂直にする必要はないので、光源110および走査部材120は、必ずしも法線Npを通る直線上に配置する必要はない。
光拡散素子130に対する入射光Lin(走査ビームL120)の向きを任意の方向に設定した場合でも、光拡散素子130に記録する回折パターンを調整すれば、図6(a) ,(b) に示す拡散光L130と全く同じ方向に向かう拡散光を得ることができる。したがって、本発明を実施する上で、光源110および走査部材120の配置は、特に限定されるものではない。ただ、光拡散素子130から放出される拡散光L130は、予め設定した照明対象面の方向へ向かうようにする必要があるので、光拡散素子130を設計する上では、入射光Lin(走査ビームL120)の入射方向を予め定めておき、当該方向から入射する入射光Linが照明対象面へ向かうような回折特性をもった回折パターンを光拡散素子130に記録しておくのが好ましい。
<3.3 光拡散素子の傾斜配置>
一方、図7は、拡散素子130の光放出面(回折面)をXZ平面に対して傾斜させるように配置した例を示す側方投影図である。図に一点鎖線で示すZ′軸は、X軸を回転軸としてZ軸を所定の傾斜角ξだけ回転させることにより得られる軸である。この例の場合も、照明対象面はXY平面上に設定されているが、拡散素子130は、その光放出面(回折面)がXZ′平面もしくはXZ′平面に平行な平面(本願では、XZ′平面自身も含めて、単に、XZ′平面に平行な平面と言う)上に位置する。本願では、このような光拡散素子130の配置を「傾斜配置」と呼ぶことにする。
図2に示すような車載型の照明装置100において、光拡散素子130を傾斜配置し、路面10を照明対象面として照明する場合、照明光の光軸Cを斜め下方に向ける必要があるが、図7に示す傾斜角ξを、図2に示す照射角θに一致させておけば、光拡散素子130の光放出面上の点Pに立てた法線Np′の方向を、図2に示す光軸Cの方向に一致させることができる。
図7は、図6(b) と同様に、XYZ三次元直交座標系を側方から見た投影図(YZ平面への投影図)であり、図の右方がY軸正方向、図の上方がZ軸正方向、図の紙面に垂直な手前方向がX軸正方向になるが、光拡散素子130は、この座標系のXZ平面を傾斜させたXZ′平面上に配置されている。したがって、この図7は、XZ′平面上に配置された光拡散素子130上の点P近傍に入射光Linが与えられたときに、当該点P近傍から放出される拡散光L130の様子を示す図になっている。
この図7に示す光拡散素子130のX軸方向に関する拡散特性は、図6(a) に示す例と全く同様である。したがって、傾斜配置された光拡散素子130は、所定の入射角(この例の場合、入射角=0°)をもつ入射光Linが与えられたときに、X軸方向に関しては、図6(a) に示すように、法線Np(実際には、図7に示す法線Np′)を中心として第1の拡散角度φ1で広がり、Z′軸方向に関しては、図7に示すように、法線Np′を中心として第2の拡散角度φ2で広がる拡散光L130を放出することになる。なお、図7では、便宜上、1点Pから拡散光L130が広がってゆく状態が描かれているが、実際には、入射光Linとして照射された光ビームによって形成されるビームスポットBに応じた点Pの近傍領域全体から、拡散光L130が放出されることになる。
このような回折特性は、図7の右上の枠内に示す1次回折光強度の角度空間分布として示すことができる。この分布図には、矩形状の回折光分布領域E(ハッチング部分)が示されているが、この回折光分布領域Eは、第1方向変位角θHおよび第2方向変位角θVの特定の範囲を示すものであり、その横幅は第1の拡散角度φ1、縦幅は第2の拡散角度φ2に相当する。
図6(c) に示す例(垂直配置の実施例)における回折光分布領域Eも、図7に示す例(傾斜配置の実施例)における回折光分布領域Eも、縦軸θVを中心軸として左右対称の矩形になっているが、これは、図6(a) に示すように、拡散光L130が法線Npを中心とした対称形になるように広がっているためである。
一方、図6(c) に示す回折光分布領域Eは、原点Pよりも下方の位置(座標値θVが負の値となる位置)に配置されているのに対し、図7に示す回折光分布領域Eは、原点Pを中心に配置されている。これは、垂直配置の実施例の場合、図6(b) に示すように、拡散光L130を照明対象面(XY平面)に向かわせるために下方に回折させているのに対して、傾斜配置の場合、図7に示すように、光拡散素子130自身が傾斜して配置されており、その法線Np′が照明対象面(XY平面)に向いているため、第2方向変位角θVは0°に近くても、拡散光L130が法線Np′に沿って照明対象面(XY平面)に向かうためである。
図3に示す基本的実施形態に係る照明装置100は、傾斜配置を採用した実施例に対応し、光拡散素子130の光放出面(回折面)および照明光学系140の光学的な主面は、XZ′平面に平行な平面上に配置されている。そして、光源110の光軸が照明光学系140の光軸に一致するように配置されており、光拡散素子130には、図7の右上枠内に示すような回折特性をもった回折パターンが記録されている。このため、光源110、走査部材120、光拡散素子130、照明光学系140を、一直線上に配置することができ、全体的に単純な構造をもった照明装置が実現されている。
<3.4 本発明に用いる光拡散素子の特徴>
これまで、光拡散素子130を垂直配置する場合の回折特性として、図6(c) に示す角度空間分布を例示し、光拡散素子130を傾斜配置する場合の回折特性として、図7に示す角度空間分布を例示したが、このような回折特性を採用するのは、拡散光L130をXY平面上に定義された照明対象面に導きやすくするための配慮である。したがって、本発明を実施するにあたり、必ずしも図6(c) や図7に示す回折特性を採用する必要はない。
たとえば、照明光学系140に、光拡散素子130からの拡散光L130を曲げたり、反射したりして照明対象面へと導く機能を設けておけば、光拡散素子130からの拡散光L130が照明対象面に向かって放出されていなくても、照明光学系140によって、これを照明対象面へと導くことが可能である。ただ、上述したような回折特性を採用すれば、照明光学系140として1枚の単純なコリメートレンズを用いただけでも、拡散光L130を照明対象面へと効率的に導くことができ、照明光学系140の構成を単純化することができる。
本発明に用いる光拡散素子130の重要な特徴は、光放出面上に定義された第1の拡散軸A1方向への拡散光の広がりの程度を示す第1の拡散角度φ1と第2の拡散軸A2方向への拡散光の広がりの程度を示す第2の拡散角度φ2とが異なるような異方性拡散を行う点にある。このような異方性拡散によって、コヒーレント光に対する安全性を確保しつつ、照明対象面にボケを抑制した鮮明な照明領域を形成するという固有の作用効果が得られるのである(その理由は、§5で説明する)。
特に、これまで述べてきた実施例は、第1の拡散軸A1および第2の拡散軸A2として互いに直交する軸を設定した例である。たとえば、図6に示す垂直配置の実施例の場合、第1の拡散軸A1はX軸に平行な軸になり、第2の拡散軸A2はZ軸に平行な軸になり、両軸は直交している。そして、第1の拡散角度φ1は、第2の拡散角度φ2よりも大きくなるように設定されており、回折光分布領域Eは横長の矩形になる。一方、図7に示す傾斜配置の実施例の場合、第1の拡散軸A1はX軸に平行な軸になり、第2の拡散軸A2はZ′軸に平行な軸になり、やはり両軸は直交している。ここでも、第1の拡散角度φ1は、第2の拡散角度φ2よりも大きくなるように設定されており、回折光分布領域Eは横長の矩形になる。
このように、回折光分布領域Eが矩形になるような回折特性をもった光拡散素子130からの拡散光L130を、その中心軸に直交する平面で切断すると、矩形の断面が得られる。図8は、図7に示す光拡散素子130から放出される拡散光L130を、XZ′平面に平行な平面で切断した断面図である。図4に示すように、光拡散素子130の入射面に等方的なほぼ円形のビームスポットBが照射された場合であっても、ビームスポットBが形成される領域の回折特性が図7の右上枠内の分布図になっていれば、光拡散素子130から放出される拡散光L130の断面は、図8に示すような矩形になる。図6に示す光拡散素子130から放出される拡散光L130を、その中心軸に直交する平面で切断した場合も、やはり矩形の断面が得られることになる。
図6(a) ,(b) および図7には、光拡散素子130の光放出面(回折面)上の特定の点Pから回折光として放出される拡散光L130が示されているが、光拡散素子130の放出面上のいずれの点についても、図6(c) もしくは図7の右上枠内に示す角度空間分布に応じた拡散光が得られるように、光拡散素子130の全面にわたって所定の回折パターンを形成しておけば、光放出面上のいずれの位置からも、図6(a) ,(b) または図7に示す方向に拡散光が放出されることになる。
図6に示す垂直配置の実施例は、XYZ三次元直交座標系を定義したときに、照明対象面がXY平面上に設定され、光拡散素子130の光放出面がXZ平面に平行な平面上に位置し、第1の拡散軸A1がX軸に平行になり、第2の拡散軸A2がZ軸に平行になる実施例ということになる。そして、光拡散素子130の異方性拡散により、光放出面から放出された拡散光L130は、照明対象面となるXY平面へと向かい、この拡散光L130をその中心軸に直交する平面で切断したときの断面は、X軸に平行な二辺を長辺、他の二辺を短辺とする矩形になる。
一方、図7に示す傾斜配置の実施例は、XYZ三次元直交座標系を定義するとともに、X軸を回転軸としてZ軸を所定の傾斜角ξだけ回転させることにより得られるZ′軸を定義したときに、照明対象面がXY平面上に設定され、光拡散素子130の光放出面がXZ′平面に平行な平面上に位置し、第1の拡散軸A1がX軸に平行になり、第2の拡散軸A2がZ′軸に平行になる実施例ということになる。そして、光拡散素子130の異方性拡散により、光放出面から放出された拡散光L130は、照明対象面となるXY平面へと向かい、この拡散光L130をその中心軸に直交する平面(XZ′平面に平行な平面)で切断したときの断面は、X軸に平行な二辺を長辺、他の二辺(Z′軸に平行な二辺)を短辺とする矩形になる。
図3に示す例の場合、光拡散素子130の異方性拡散によって、X軸に平行な二辺を長辺とする矩形断面をもつ拡散光L130が得られており、照明対象面S上には、X軸に平行な二辺を長辺、Y軸に平行な二辺を短辺とする矩形状の描画スポットDが投影されている。このように長辺と短辺の長さの比が大きい描画スポットDを走査して所望の照明パターンを描画すれば、コヒーレント光に対する安全性を確保しつつ、照明対象面にボケを抑制した鮮明な照明領域を形成することができる(§5参照)。
光拡散素子130を、回折光学素子(DOE)もしくはホログラフィック光学素子(HOE)によって構成する場合、光拡散素子130の各部分には、所定の入射角をもつ入射光Linが与えられたときに、所定の1次回折光強度の角度空間分布をもった回折光が拡散光L130として放出されるような回折格子もしくは干渉縞を記録しておけばよい。
具体的には、所定の入射点Pへの入射光Linに対する回折光の変位角度を、第1の拡散軸方向A1への変位を示す第1方向変位角θHと第2の拡散軸方向A2への変位を示す第2方向変位角θVとによって表し、第1方向変位角θHを横座標軸にとり、第2方向変位角θVを縦座標軸にとり、第1方向変位角=0、第2方向変位角=0となる点を原点Pにとった分布グラフを定義したときに、この分布グラフ上において、1次回折光強度の角度空間分布が、縦座標軸を対称軸として左右対称をなす横長の矩形からなる回折光分布領域Eによって表されるような回折特性をもった回折格子もしくは干渉縞を記録しておけばよい。
図6に示す垂直配置の実施例の場合、光拡散素子130の各部分についての1次回折光強度の角度空間分布は、図6(c) に示すように、分布グラフ上において、縦座標軸を中心として、拡散光L130が照明対象面(XY平面)へと向かうような所定の縦座標値(負のθVの値)をもつ位置に配置された横長の矩形からなる回折光分布領域Eによって表されることになる。
これに対して、図7に示す傾斜配置の実施例の場合、光拡散素子130の各部分についての1次回折光強度の角度空間分布は、図7の右上枠内に示すように、分布グラフ上において、原点Pを中心として配置された横長の矩形からなる回折光分布領域Eによって表されることになる。図7の右上枠内に示す角度空間分布において、回折光分布領域Eの横幅φ1に比べて、縦幅φ2を十分に小さくする設計を行うのであれば、光拡散素子130には、実質的に水平方向(第1方向変位角θHの方向)にのみ回折を行う機能をもたせておけばよい。この場合、光拡散素子130を回折格子によって構成することができる。
図9は、図7に示す光拡散素子130を回折格子を利用して形成した例を示す平面図(図(a) )および側断面図(図(b) )である。この光拡散素子130は、図示のとおり、Z′軸に平行な多数の格子線131を複数通りのピッチで配置した回折格子を物理的構造体に記録した回折光学素子によって構成されている。図9(a) の平面図に示すとおり、各格子線131はいずれもZ′軸に平行な方向に形成されているが、そのピッチは様々になっている。図示の例の場合、中央部分の格子線ピッチは大きく、左右両端へゆくほど、格子線ピッチは徐々に小さくなっている。
また、図9(b) の側断面図に示すとおり、回折格子は、鋸歯状の物理的凹凸構造によって構成されており、しかも鋸歯を構成する傾斜面の向きは、右半分と左半分とで逆になっている。このため、同一方向から入射光Linを与えたとしても、回折する方向(X軸の正方向か負方向か)は右半分と左半分とで異なることになる。また、格子線のピッチも様々であるため、X軸方向への回折角も様々になる。結局、このような物理的構造をもつ回折格子を光拡散素子130として利用すれば、入射光LinをX軸方向の所定範囲内(図6(a) に示す第1の拡散角度φ1内)に回折することができる。
図9に示す光拡散素子130は、入射光LinをZ′軸方向に回折する機能を有していないが、実際には、図9(a) に破線の円で示すように、光拡散素子130への入射光Linは、ある程度面積をもったビームスポットBとして照射されるため、光拡散素子130からの拡散光L130は、Z′軸方向にもある程度広がった光になる。なお、図9では、説明の便宜上、格子線131のピッチがビームスポットBの寸法に比べて拡大されて描かれているが、実際の格子線ピッチは光の波長程度の寸法であり、ビームスポットB内に、様々なピッチをもつ多数の格子線が含まれることになる。したがって、ビームスポットBとして与えられた入射光Linは、X軸方向に様々な回折角をもって回折し、第1の拡散角度φ1内に広がることになる。
以上、図9を参照しながら、光拡散素子130を回折格子によって構成した実施例を説明したが、光拡散素子130を、ホログラフィック光学素子(HOE)によって構成すれば、より自由度の高い回折特性をもたせることが可能になる。たとえば、光拡散素子130を、個々の部分がそれぞれ所定位置に矩形面の再生像を生成するホログラフィック光学素子によって構成すれば、断面形状が矩形の拡散光L130を任意の方向に放出させることが可能である。
たとえば、図3に示す例において、矩形状の拡散光スポットG(t2)をホログラム再生像として生成するための干渉縞を、光拡散素子130の入射点P(t2)の近傍領域に記録しておけば、走査時点t2において、入射点P(t2)の近傍に走査ビームL130(t2)を再生用照明光として照射すれば、図示する拡散光スポットG(t2)の位置に、矩形状のホログラム再生像が得られることになる。要するに、光拡散素子130には、入射光を第1の拡散軸A1の方向には大きく拡散し、これに交差する第2の拡散軸A2の方向には小さく拡散(たとえば、ビームスポットB程度の拡散)するような回折特性をもったホログラムが記録されていればよい。
なお、このような矩形状のホログラム再生像を生成する機能をもった光拡散素子130は、たとえば、図3の拡散光スポットG(t2)の位置に矩形面を有する拡散板を配置し、図3の光拡散素子130の位置に感光性媒体(ブランクのホログラム記録材料)を配置し、走査ビームL130(t2)と同じビームを参照光として与え、拡散板からの物体光と参照光とによって生じた干渉縞を感光性媒体に記録する光学的な方法によって作成することができる。ただ、実用上は、CGH(Computer Generated Hologram)の手法を利用して作成するのが好ましい。
CGHの手法を利用すれば、物体光を発生させる拡散板やこれを照明する光源、干渉縞を形成するための光学系、干渉縞を記録するための感光性媒体などを用意する必要がなく、干渉縞の記録工程をすべてコンピュータ上の演算によって行うことができる。このため、任意の回折特性を持つ干渉縞を簡易な手順で低コストにて再現性よく生成できる。たとえば、図4に示すように、等方的なビームスポットBとして、ほぼ円形の領域にコヒーレント光が照射された場合に、図8に示すような矩形断面をもつ拡散光L130が放出されるような異方性拡散を行う干渉縞の情報をコンピュータによって演算し、演算により得られた干渉縞をホログラム記録媒体に記録すればよい。
CGHの手法を利用して作成された光拡散素子130は、コンピュータによる演算によって求められた干渉縞を有するCGHを、物理的構造体に記録したホログラフィック光学素子ということになる。このようなCGHの手法を利用したホログラフィック光学素子の作成方法は公知の技術であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
<<< §4. 照明領域の形成 >>>
ここでは、図3に示す照明装置100において、光拡散素子130から放出された拡散光L130が照明光学系L140を通って照明対象面S(XY平面)に照射され、描画スポットDを形成し、更に、この描画スポットDを走査することにより、照明対象面S上に所定形状をもつ照明領域LAを形成するプロセスを詳述する。
光拡散素子130の各位置から放出された拡散光L130は、いずれも図8に示すように断面が矩形形状をなす。そして、照明光学系140は、その光軸がXZ′軸に直交する向きに配置されている。したがって、図3に示すように、照明光学系140の位置に形成される拡散光スポットGも、拡散光L130の断面に相似した矩形形状になる。図3に示す実施例の場合、照明光学系140はコリメートレンズ(1枚の凸レンズ)によって構成されており、光拡散素子130の光放出面がこのコリメートレンズの前側焦点位置に配置されている。
図4に示すように、走査部材120による走査を受けて、ビームスポットBは、光拡散素子130上を移動する。このため、光拡散素子130から放出される拡散光L130も移動し、照明光学系140の位置に形成される拡散光スポットGも移動する。図10は、図4に示す走査を行った場合に、照明光学系140に入射する拡散光L130によって形成される拡散光スポットGの移動状態を示す平面図であり、図4に示す走査時点t11~t32に対応させて、矩形状の拡散光スポットG(t11)~G(t32)が形成される状態が示されている。
なお、ここに示す実施例の場合、照明光学系140はレンズから構成されており、その入射面は湾曲面になる。したがって、拡散光L130の断面が図8に示すような矩形であったとしても、レンズの入射面(湾曲面)に形成されるスポットは、正確な矩形にはならない。そこで、本願では、便宜上、照明光学系140(レンズ)の前面位置に、照明光学系140の光軸に直交する仮想投影平面Mを定義し、拡散光L130によってこの仮想投影平面M上に投影されるスポットを拡散光スポットGと定義することにする。
図10に一点鎖線で描かれている枠は、この仮想投影平面Mを示している。仮想投影平面Mは、照明光学系140(レンズ)の直前に配置され、照明光学系140の光軸に直交している。図示されている矩形状の拡散光スポットG(t11)~G(t32)は、いずれもこの仮想投影平面M上に位置している。また、光拡散素子130の任意の位置から放出される拡散光L130の断面は、いずれも、図8に示すように、X軸に平行な2辺を長辺とし、他の2辺を短辺とする矩形になる。したがって、図10に示す各拡散光スポットG(t11)~G(t32)も、X軸に平行な2辺を長辺とし、他の2辺を短辺とする矩形になる。
図10に示す拡散光スポットGの移動軌跡は、図4に示すビームスポットBの移動軌跡に応じたものになる。図示の例は、ラスター走査を行う例であり、拡散光スポットGは、走査線SL1,... ,SL2,... ,SL3,... に沿って二次元的に移動することになる。なお、図10は図4の走査と連動して拡散光スポットGが移動することを概念的に示すための図であり、拡散光スポットG(t11)~G(t32)の位置は、必ずしも正確なものではない。
要するに、ここに示す実施例の場合、照明光学系140の前面位置に、照明光学系140の光軸に直交する仮想投影平面Mを定義したときに、個々の走査時点において、光拡散素子130からの拡散光L130によって、仮想投影平面M上に、一対の長辺と一対の短辺とを有する矩形状の拡散光スポットGが形成されることになる。
図3に示す照明装置100は、§3.3で述べた「光拡散素子の傾斜配置」の実施例に相当するものである。この「光拡散素子の傾斜配置」の実施例では、XYZ三次元直交座標系を定義するとともに、X軸を回転軸としてZ軸を所定の傾斜角ξだけ回転させることにより得られるZ′軸を定義したときに、光拡散素子130がXZ′平面に平行な平面上に配置され、照明対象面SがXY平面上に設定され、第1の拡散軸A1がX軸に平行になり、第2の拡散軸A2がZ′軸に平行になる。また、照明光学系140は、その光軸がXZ′軸に直交する向きに配置されている。
このため、照明光学系140の前面位置に、XZ′平面に平行な仮想投影平面Mを定義すれば、個々の走査時点において、光拡散素子130の個々の位置から放出される拡散光L130は、仮想投影平面M上に、X軸に平行な一対の長辺とZ′軸に平行な一対の短辺とを有する矩形状の拡散光スポットGを形成することになる。図10に示されている拡散光スポットG(t11)~G(t32)は、いずれもX軸に平行な一対の長辺とZ′軸に平行な一対の短辺とを有する矩形になっている。
図11は、図3に示す照明装置100における光拡散素子130から得られる拡散光L130が、照明光学系140を経て照明対象面Sに到達する光路の一例を示す側面図である。照明光学系140は、光拡散素子130によって異方性拡散された拡散光L130(コヒーレント光)を照明対象面Sへと導びく役割を果たす。光拡散素子130は、理想的には照明光学系140の前側焦点位置に配置するのが好ましい。図11に示す例は、このような理想的な配置を行った例であり、光拡散素子130の拡散面(回折面)と照明光学系140(レンズ)の主面との距離が、照明光学系140の焦点距離fに一致するように設定されている。
一方、照明対象面Sは、通常、照明光学系140の後側焦点位置Fよりも遠くに位置する。たとえば、図2に示すような車載型の照明装置の場合、照明対象面Sは、路面10上のかなり遠方に設定される。図11では、走査時点t11において、光拡散素子130の点P(t11)から放出された拡散光L130(t11)の光路が破線で示され、走査時点t21において、点P(t21)から放出された拡散光L130(t21)の光路が実線で示され、走査時点t31において、点P(t31)から放出された拡散光L130(t31)の光路が一点鎖線で示されている。したがって、照明対象面S上には、走査時点t11において破線で示す照明光L140(t11)が到達し、走査時点t21において実線で示す照明光L140(t21)が到達し、走査時点t31において一点鎖線で示す照明光L140(t31)が到達する。
なお、図11に示す各光路は、拡散光L130や照明光L140の中心軸を示すものであり、実際には、拡散光L130および照明光L140は所定の幅をもった光になる。ここに示す実施例の場合、照明光学系140はコリメートレンズによって構成されており、光拡散素子130からの拡散光L130を平行化するコリメータとして機能する。このコリメートレンズ140に対する拡散光L130の入射位置は、図10に示すように、各走査時点t11~t31によって異なる。
ただ、光拡散素子130がコリメートレンズ140の前側焦点位置に配置されているため、コリメートレンズ140のどの位置に拡散光L130が入射しても、コリメートレンズ140は入射した拡散光L130を平行化して射出する。したがって、たとえば、図に破線で示す拡散光L130(t11)は、所定の拡散角度で広がる光になるが、照明光学系140を通ることにより平行化され、照明対象面Sへと向かう照明光L140(t11)は平行化された光になる。このため、照明対象面Sがかなり遠方に設定されていた場合でも、ほぼ矩形形状を維持した描画スポットDを形成することができる。
図12は、図11に示す各構成要素を、視線方向V(図11の右上参照)から観察した状態を示す投影図である。この図では、走査時点t21において、光拡散素子130の点P(t21)から放出された拡散光L130(t21)の光路が破線で示され、走査時点t22において、点P(t22)から放出された拡散光L130(t22)の光路が実線で示され、走査時点t23において、点P(t23)から放出された拡散光L130(t23)の光路が一点鎖線で示されている。したがって、照明対象面S上には、走査時点t21において破線で示す照明光L140(t21)が到達して描画スポットD(t21)が形成され、走査時点t22において実線で示す照明光L140(t22)が到達して描画スポットD(t22)が形成され、走査時点t23において一点鎖線で示す照明光L140(t23)が到達して描画スポットD(t23)が形成される。
このように、コリメートレンズ140から射出する照明光L140の進行方向は、コリメートレンズ140のどの位置に拡散光L130が入射したかによって異なってくる。図11に示すように、拡散光L130の入射位置をZ′軸方向に変化させると、照明対象面Sに形成される描画スポットDの位置はY軸方向に変化し、図12に示すように、拡散光L130の入射位置をX軸方向に変化させると、照明対象面Sに形成される描画スポットDの位置はX軸方向に変化する。
図8に示すように、拡散光L130の断面は、X軸に平行な2辺を長辺とする矩形になるため、拡散光L130のX軸方向への広がりは、Z′軸方向への広がりに比べて顕著になる。このため、図12では、拡散光L130(t21),拡散光L130(t22),拡散光L130(t23)の光路をそれぞれ広がりをもった光路として描いている。上述したように、照明光学系140はコリメートレンズによって構成されているため、照明光学系140を通った照明光L140(t21),拡散光L140(t22),拡散光L140(t23)は平行化され、照明対象面Sに到達する。その結果、図12に示すとおり、照明対象面S上に形成される描画スポットDも矩形になる。
以上、図3に示す照明装置100を例にとりながら、§3.3で述べた「光拡散素子の傾斜配置」の実施例における照明領域LAの形成プロセスを説明したが、§3.2で述べた「光拡散素子の垂直配置」の実施例における照明領域LAの形成プロセスもほぼ同様である。
「光拡散素子の垂直配置」の実施例の場合、図6に示すように、XYZ三次元直交座標系を定義したときに、光拡散素子130がXZ平面に平行な平面上に配置され、照明対象面SがXY平面上に設定され、第1の拡散軸A1がX軸に平行になり、第2の拡散軸A2がZ軸に平行になる。このとき、照明光学系140は、その光軸が光拡散素子130の放出面上の所定点P(たとえば、放出面の中心点)から放出される拡散光L130の中心軸に平行になるような向きに配置するのが好ましい。より好ましくは、照明光学系140は、その光軸が光拡散素子130の放出面上の所定点Pから放出される拡散光L130の中心軸に一致するように配置するとよい。
この場合、照明光学系140の前面位置に、その光軸に直交する仮想投影平面Mを定義すると、図10に示す例と同様に、個々の走査時点において、光拡散素子130からの拡散光L130が、仮想投影平面M上に、X軸に平行な一対の長辺と他の一対の辺からなる短辺とを有する矩形状の拡散光スポットGを形成することになる。したがって、照明対象面S上にも、矩形状の描画スポットDを形成することができる。
このように、図3に示す照明装置100では、走査部材120の走査に応じて、照明光学系140(コリメートレンズ)に入射するコヒーレント光の入射位置が変化する。そして、コリメートレンズ140上のコヒーレント光の入射位置および入射角度に応じて、コリメートレンズ140から射出されるコヒーレント光の進行方向も変化する。その結果、照明対象面S上に形成される描画スポットDの位置も変化する。したがって、走査制御部150によって走査部材120の走査を制御することにより、照明対象面S上で描画スポットDを移動させ、任意形状のパターンからなる照明領域LAを形成することができる。
以上、照明光学系140として1枚のコリメートレンズ(凸レンズ)を用いる例を述べたが、もちろん、複数枚のレンズを組み合わせたコリメート光学系を照明光学系140として用いてもかまわない。また、照明光学系140は必ずしもレンズで構成する必要はなく、同等の機能を果たす凹面鏡などの曲面ミラーを用いて構成してもよい。凹面鏡を照明光学系140として用いた場合でも、光拡散素子130を凹面鏡の焦点位置に配置するようにすれば、凹面鏡で反射されたコヒーレント光は、ほぼ平行な方向に進行し、照明対象面Sに到達することになる。
<<< §5. 本発明に固有の作用効果 >>>
既に述べたとおり、図3に示す照明装置100は、描画スポットDを移動させることにより、照明対象面S上に任意の形状をもつ照明領域LAを描くことができる。照明対象面S上に、矢印のパターンからなる照明領域LAを描画するためには、図13に示すように、光拡散素子130上の矢印状の走査領域SAの内部(ハッチングを施した部分)のみに、ビームスポットBが照射されるような走査を行えばよい。前述したとおり、このような走査は、ラスター走査で行うこともできるし、ベクター走査で行うこともできる。
照明対象面S上の描画スポットDの動きは、光拡散素子130上のビームスポットBの動きに連動したものになる。したがって、走査制御部150に所望の走査パターンのデータを用意しておき、この走査パターンに応じて走査部材120の走査を制御し、光拡散素子130上でビームスポットBにより所望の図形を描くようにすれば、照明対象面S上では、描画スポットDにより当該所望の図形を描くことができる。
本発明の第1の利点は、光拡散素子130からの拡散光L130(光学的な現象によって得られる拡散光)によって形成された描画スポットDを、照明対象面S上で動かすことにより、所望の形状をもった照明領域LAを描画しているため、高い解像度をもった照明領域LAを得ることができる点である。以下、この第1の利点を、蛍光体を用いた第1の比較例を参照しながら、より詳しく説明する。
図14は、本発明に対する第1の比較例に係る照明装置200の基本構成を示す図である。この照明装置200は、照明装置100における光拡散素子130の代わりに、蛍光体230を配置したものであり、図示のとおり、光源210、走査部材220、蛍光体230、照明光学系240、走査制御部250を有している。
光源210は、たとえば、レーザ光源であり、コヒーレントな光ビームを発生する。この光ビームは、走査制御部250の制御の下に、走査部材220によって走査され、蛍光体230に照射される。蛍光体230において、光ビームによる照射を受けた部分の分子は、この光ビームを吸収することによって一旦励起状態となった後、再び基底状態に戻る際に波長変換された蛍光を発生させる。蛍光体230が発生した蛍光は、拡散光として照明光学系240によって照明対象面Sに導かれ、所定形状の照明領域LAを形成する。
この第1の比較例に係る照明装置200では、一応、走査部材220の走査を走査制御部250によって制御することにより、所望の形状を有する照明領域LAを形成することができる。しかしながら、蛍光体230に照射された光ビームに比べて、蛍光体230から発せられる拡散光(光学的な現象によって得られる拡散光ではなく、励起分子からの蛍光として発せられる拡散光)は大きく広がるため、蛍光体230に照射する光ビームの径が小さくても、照明対象面Sに形成される描画スポットのサイズは大きくなり、高い解像度をもった照明領域LAを形成することが困難になる。
特に、この第1の比較例に係る照明装置200を、図2に示すような車載型の照明装置として用いると、蛍光体230から蛍光として発せられる光の径が、照明対象面Sとなる路面上ではY軸方向(運転手から見て奥行き方向)に引き伸ばされ、Y軸方向に関するボケは看過できないものになる。
また、蛍光体230に微小スポット径のコヒーレント光を照射すると、蛍光体230が燃えてしまったり、蛍光体230のエッジが熱で変形してしまうなどの問題もあり、照明対象面Sに形成される照明領域LAのパターンは鮮明にならず、ボケが生じてしまう。
このように、第1の比較例に係る照明装置200には、照明対象面Sに形成される照明領域LAのパターンにボケが生じ、また、蛍光体230の劣化も起きやすいという問題がある。これに対して、本発明に係る照明装置100では、拡散光L130は回折現象などの光学的な現象によって得られるものであるため、照明対象面S上に形成される描画スポットDは、第1の比較例に係る照明装置200に比べて格段に鮮明なものになり、高い解像度をもった照明領域LAを得ることができる。また、蛍光体230の劣化という問題も生じない。
一方、本発明の第2の利点は、光拡散素子130が、第1の拡散軸A1方向への拡散光の広がりの程度(前述した実施例の場合、第1の拡散角度φ1)と第2の拡散軸A2方向への拡散光の広がりの程度(前述した実施例の場合、第2の拡散角度φ2)とが異なるような異方性拡散を行うため、コヒーレント光に対する安全性を確保しつつ、照明対象面Sにボケを抑制した鮮明な照明領域LAを形成することができるようになる点である。以下、この第2の利点を、2軸方向への等方性拡散を行う光拡散素子135を用いた第2の比較例を参照しながら、より詳しく説明する。
図15は、本発明に対する第2の比較例に係る照明装置100′の基本構成を示す斜視図である。この照明装置100′は、図3に示す照明装置100における光拡散素子130の代わりに、光拡散素子135を配置したものであり、両者の相違は、この点だけである。ここでは、図3および図15に示されている走査時点t2における光路を例にとって、両者を比較してみよう。
図3に示す光拡散素子130は、これまで述べてきたように、第1の拡散軸A1方向への拡散光の広がりの程度と第2の拡散軸A2方向への拡散光の広がりの程度とが異なるような異方性拡散を行うため、拡散光L130の断面は、図8に示すように、X軸に平行な2辺を長辺とする矩形になる。このため、図3に示すとおり、照明光学系140の位置に形成される拡散光スポットG(t2)もX軸に平行な2辺を長辺とする矩形になる。したがって、照明対象面S上に形成される描画スポットD(t2)も、拡散光スポットG(t2)に応じた矩形状になる。なお、描画スポットD(t2)のY軸方向の寸法は、図2に示す照射角θに依存するため、描画スポットD(t2)は、必ずしもX軸に平行な2辺を長辺とする矩形にはならない(照射角θによっては、Y軸に平行な2辺が長辺になることもある。)。
これに対して、図15に示す光拡散素子135は、第1の拡散軸A1方向への拡散光の広がりの程度と第2の拡散軸A2方向への拡散光の広がりの程度とが同じになるような等方性拡散を行う。このため、図示の拡散光L135(t2)の断面は正方形になり、照明光学系140の位置に形成される拡散光スポットJ(t2)も正方形になる。したがって、照明対象面S上に形成される描画スポットK(t2)も、拡散光スポットJ(t2)に応じた矩形状になる。
結局、図3と図15との実質的な相違は、前者における拡散光スポットG(t2)が後者では拡散光スポットJ(t2)になる点と、前者における描画スポットD(t2)が後者では描画スポットK(t2)になる点だけである。両者の重要な点は、拡散光スポットG(t2)がX軸に平行な2辺を長辺とする矩形になるのに対して、拡散光スポットJ(t2)が正方形になる点である。この矩形の縦横比の相違は、照明対象面S上に形成される描画スポットD(t2)と描画スポットK(t2)の縦横比の相違として現れてくる。
描画スポットD(t2)や描画スポットK(t2)は、拡散光スポットG(t2)や拡散光スポットJ(t2)を斜め方向から投影することによって得られ、照明光学系140による平行化が行われるため、照明対象面S上で矩形を構成する。そして、描画スポットD(t2)や描画スポットK(t2)の縦横比は、図2に示す照射角θに依存する(θが小さくなればなるほど、Y軸方向に引き伸ばされることになる)。したがって、描画スポットD(t2)や描画スポットK(t2)について、X軸に平行な2辺が長辺になるのか、Y軸に平行な2辺が長辺になるのかは、照射角θに依存して定まる事項であり、一概に言うことはできない。
しかしながら、少なくとも、同じ照射角θで比較する限り、描画スポットD(t2)のY軸方向の寸法は、描画スポットK(t2)のY軸方向の寸法よりも小さくなる。このように、描画スポットのY軸方向の寸法を小さくすることは、この描画スポットの移動によって描画される照明領域LAのボケを低減することに貢献する。以下、その理由を説明する。
一般に、ディスプレイ装置上に表示される図形パターンは、画素の集合体によって構成され、表示される図形パターンの解像度は、画素のサイズに大きく依存する。図16(a) は、実線の正方形で示された画素Hの集合体によって、二等辺三角形からなる図形パターンを描いた例を示す。この例は、描画対象となる図形パターンのサイズに比べて、画素Hのサイズがかなり大きいため、本来の二等辺三角形からかなり外れた、解像度の低い図形が描かれている。解像度を上げて、より正確な二等辺三角形を描くためには、用いる画素Hのサイズをより小さくする必要がある。
一方、本発明に係る照明装置のように、描画スポットによって、照明対象面S上に図形パターンを描く場合は、上述した画素Hによって図形パターンを構成する場合と比べて、若干事情が異なってくる。たとえば、図16(b) において、実線の正方形で示された描画スポットK1の集合体のみによって図形パターンを構成すると、図16(a) に示す例と同様に、低い解像度をもった二等辺三角形が得られる。ただ、個々の描画スポットは、画素とは異なり、走査部材120の走査により、照明対象面S上の任意の位置に形成することができる。したがって、たとえば、図16(b) において、破線の正方形で示された位置に描画スポットK2を形成することも可能である。ここで、描画スポットK2は、描画スポットK1を縦横にそれぞれ半ピッチずらしたものである。
そこで、図16(b) において、実線の正方形で示す描画スポットK1に、更に、破線の正方形で示す描画スポットK2を加えれば、図16(a) に示す画素Hの集合体からなる図形パターンに対して、2倍の解像度をもった図形パターンを形成することができる。図16(b) では、説明の便宜上、描画スポットK1と、これを半ピッチずらした描画スポットK2とを示したが、実際は、描画スポットを、照明対象面S上で連続的に移動させることができる。したがって、走査制御部150によって、適切な二次元走査を行えば、図16(b) に一点鎖線で示すような左斜め輪郭線CLおよび右斜め輪郭線CRをもった図形パターンを描画することが可能になり、より正確な形状をもった二等辺三角形が得られる。
結局、図16(a) のように、画素Hの集合体として所定の図形パターンを描く方法と、図16(b) のように、照明光による描画スポットKを走査して所定の図形パターンを描く方法とを比べると、画素Hおよび描画スポットKのサイズが同じであっても、前者より後者の方がより解像度の高い図形パターンが得られることになる。これが、画素Hと描画スポットKとの本質的な違いである。
しかしながら、描画スポットKによって描画された図形パターンには、その輪郭部分にボケが生じるという潜在的な問題が生じる。その理由は、図16(b) に示すように、実線で示す描画スポットK1と破線で示す描画スポットK2とによって図形パターンを形成した場合の各部の輝度差を考えれば、容易に理解できる。
図16(b) にドットによるハッチングを施した輪郭領域は、描画スポットK1のみによって構成される領域であるのに対して、斜線によるハッチングを施した内部領域は、描画スポットK1と描画スポットK2との双方が重なった領域になる。別言すれば、ドットによるハッチングを施した輪郭領域は、照明光が描画スポットK1の位置にあるときにしか照明されないのに対して、斜線によるハッチングを施した内部領域は、照明光が描画スポットK1の位置にあるときだけでなく、照明光が描画スポットK2の位置にあるときにも照明されることになる。
実際には、描画スポットKは連続的に移動するため、形成された図形パターンの輪郭線の近傍には、輪郭線の位置から内部領域に向かって、なだらかな輝度差が生じることになり、このなだらかな輝度差が輪郭線のボケとして認識されることになる。図16(a) に示すように、画素Hの集合体によって構成された図形パターンの場合、このような事情に起因して輪郭線のボケが生じることはない。
図17は、描画スポットにより図形パターンを形成すると、図形パターンの輪郭部分にボケが生じる理由を説明する図である。図17(a) は、横軸にY軸をとり、照明対象面S上で、正方形状の描画スポットKを、このY軸に沿って白矢印で示すように、左から右へと移動させた状態を示している。実線の正方形で示す描画スポットK1は、始点位置にある描画スポットを示し、破線の正方形で示す描画スポットK2,K3は、中途位置にある描画スポットを示し、実線の正方形で示す描画スポットK4は、終点位置にある描画スポットを示している。
図17(b) は、図17(a) に示すように、描画スポットをK1からK4へと移動させたときの、Y軸上の各位置における照明光の累積照射時間tを示すグラフである。図示のとおり、照明光の累積照射時間tは、左端においてなだらかに上昇し、右端においてなだらかに下降する。この上昇および下降の区間の長さは、描画スポットKのY軸方向に関する幅Wに一致する。Y軸上の特定位置における照明光の累積照射時間tは、当該特定位置における照明の輝度値に相当するので、図示の例の場合、左端近傍および右端近傍において、輝度値がなだらかな変化することになり、輪郭線のボケを生じさせる。
一方、図17(c) は、図17(a) と同様に、照明対象面S上で、描画スポットDをY軸に沿って白矢印で示すように、左から右へと移動させた状態を示している。ただ、図17(a) に示す描画スポットKがY軸方向に関する幅Wをもった正方形状の描画スポットであるのに対し、図17(c) に示す描画スポットDはY軸方向に関する幅δをもった長方形状の描画スポットである。ここでも、実線の長方形で示す描画スポットD1は、始点位置にある描画スポットを示し、破線の長方形で示す描画スポットD2,D3は、中途位置にある描画スポットを示し、実線の長方形で示す描画スポットD4は、終点位置にある描画スポットを示している。
図17(d) は、図17(c) に示すように、描画スポットをD1からD4へと移動させたときの、Y軸上の各位置における照明光の累積照射時間tを示すグラフである。やはり、照明光の累積照射時間tは、左端において上昇し、右端において下降するが、この上昇および下降の区間の長さは、描画スポットDのY軸方向に関する幅δに一致する。もちろん、この場合も、左端近傍および右端近傍において、輝度値が変化することになり、輪郭線のボケが生じることになる。
ただ、図17(b) と図17(d) とを比べると、輪郭線のボケが生じる区間の長さが相違することがわかる。すなわち、Y座標を座標値y1~y7の順に追ってゆくと、図17(b) のグラフにおける累積照射時間tは、座標値y1~y3の区間に徐々に増加し、座標値y3からy4を経てy5に至るまでは平坦になり、座標値y5~y7の区間に徐々に減少してゆく。これに対して、図17(d) のグラフにおける累積照射時間tは、座標値y1~y2の区間に徐々に増加し、座標値y2からy3,y4,y5を経てy6に至るまでは平坦になり、座標値y6~y7の区間に徐々に減少してゆく。
したがって、図17(a) に示すように、Y軸方向に関する幅Wをもった描画スポットKを用いた場合、輪郭線のボケが生じる領域は、座標値y1~y3に至る幅Wの区間と座標値y5~y7に至る幅Wの区間になるのに対して、図17(c) に示すように、Y軸方向に関する幅δをもった描画スポットDを用いた場合、輪郭線のボケが生じる領域は、座標値y1~y2に至る幅δの区間と座標値y6~y7に至る幅δの区間になる。このように、描画スポットのY軸方向に関する幅は、輪郭線近傍に生じるボケ量を左右する重要なパラメータになる。
ここで、図15に示す第2の比較例に係る照明装置100′と、図3に示す本発明に係る照明装置100とを比べると、前者では、図17(a) に示すように、Y軸方向に関する幅が大きい描画スポットKが形成されるのに対して、後者では、図17(c) に示すように、Y軸方向に関する幅がより小さい描画スポットDが形成されることがわかる。したがって、第2の比較例に係る照明装置100′に比べて、本発明に係る照明装置100では、Y軸方向に関する端部に形成された輪郭線近傍に生じるボケ量が低減することがわかる。
また、走査部材120によるビーム走査の態様を同一に設定した場合で比較すると、Y軸上の位置に関して、図17に示す描画スポットK1の中心位置とD1の中心位置とがほぼ一致し、描画スポットK4の中心位置とD4の中心位置とがほぼ一致することになる。このため、実際の描画スポットK1の位置は図示の位置よりも若干左寄りになり、描画スポットK4の位置は図示の位置よりも若干右寄りになる。したがって、走査部材120によるビーム走査の態様が同一の場合、図3に示す照明領域LA(矢印図形)に比べて、図15に示す照明領域LA(矢印図形)の方が、Y軸方向に関する端部のエッジがY軸方向に若干引き伸ばされ、この部分に上述した原因に基づくボケが生じることになる。逆言すれば、本発明に係る照明装置100では、描画スポットKの代わりに、Y軸方向に関する幅が小さい描画スポットDが用いられるため、このようなY軸方向に関する端部のエッジに生じるボケ量を低減する効果が得られる。
なお、描画スポットKも描画スポットDも、X軸方向に関する幅は同じであるため、X軸方向に関する端部に形成された輪郭線近傍に生じるボケ量については、照明装置100も照明装置100′も変わりはない。ただ、図2に示すような車載用の照明装置として利用する場合、X軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケ対策よりも、Y軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケ対策の方がはるかに重要になる。これは、車載用の照明装置の場合、図2に示すとおり、かなり前方の路面10上に照明領域20が形成されるので、照明領域20を構成する図形パターンは、Y軸方向に引き伸ばされて提示されるためである。
たとえば、図1に示す例の場合、運転者の目には、前方に矢印の図形パターンからなる照明領域20が観察されることになるが、路面10上に形成される実際の照明領域20は、たとえば、横幅(X軸方向の幅)がたかだか1m程度であるのに対して、縦幅(Y軸方向の幅)は、図2に示す例の場合、10mにも及ぶことになる。このように、路面10上に投影された図形パターンは、Y軸方向に引き伸ばされるので、Y軸方向に関する端部(矢印の先端部と根元部)の輪郭線近傍のボケは強調されることになる。特に、照明領域20の近くにいる歩行者30から観察すると、Y軸方向に関する端部に生じた輪郭線のボケは、非常に顕著なものになる。
このような理由から、車載用の照明装置など、照明対象面Sに対する照射角θが非常に小さくなるような環境で利用される照明装置の場合、Y軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケ対策は非常に重要である。図3に示す照明装置100では、図8に示すように、X軸に平行な2辺を長辺、他の2辺を短辺とする矩形断面をもった拡散光L130が生成され、この拡散光L130によって照明対象面S上に描画スポットDが形成されることになるので、図15に示す照明装置100′に比べて、Y軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケを効果的に抑制することができる。
また、図3に示す照明装置100で用いる拡散光L130は、その断面がX軸に平行な2辺を長辺とする矩形になるので、X軸方向(第1の拡散軸A1の方向)に関する拡散光の広がりの程度は十分に大きくとることができる。たとえば、図6に示す例の場合、Z軸方向(第2の拡散軸A2の方向)に関する拡散光の広がりの程度を示す第2の拡散角度φ2は小さく抑えられている(図6(b) 参照)のに対し、X軸方向(第1の拡散軸A1の方向)に関する拡散光の広がりの程度を示す第1の拡散角度φ1は十分大きく設定されている(図6(a) 参照)。これは、コヒーレント光に対する安全性を確保する上で重要である。
すなわち、第2の拡散角度φ2とともに、第1の拡散角度φ1も小さく抑えるようにすると、X軸方向に関する拡散光の広がり程度も小さくすることができ、照明領域LAのX軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケ対策も十分に行うことができるメリットは得られるが、高いエネルギー密度をもったコヒーレント光がそのまま照明対象面S上に照射されることになり、安全性が損なわれるという重大な問題が生じることになる。
たとえば、図1に示すように、車載用の照明装置を用いて路面10を照明する場合、歩行者30が、車両40に組み込まれた照明装置100の方向に視線を向けると、路面10に向かうコヒーレント光が歩行者30の目に直接入射する可能性がある。この場合、照明装置100から照明光として照射されるコヒーレント光のエネルギー密度が高いと、歩行者30の目に損傷を与える可能性がある。本発明に係る照明装置100では、光拡散素子130によって異方性拡散が行われるため、第2の拡散角度φ2は小さく抑えつつ、第1の拡散角度φ1は十分大きく設定することができる。このため、光源110から射出された光ビームのエネルギー密度は、第1の拡散角度φ1に応じてX軸方向に分散されることになり、十分な安全性を確保することが可能になる。
既に述べたとおり、本発明に係る照明装置100では、光源110からのコヒーレントな光ビームL110が、走査部材120によって走査され、光拡散素子130の受光面に入射する。そして、入射した走査ビームL120は、拡散光L130として放出され、照明光学系140を経て照明対象面Sに描画スポットDを形成する。ここで、走査制御部150が、光ビームの走査を矢印形状の図形パターンに応じて制御したとすると、照明対象面S上には、移動する描画スポットDにより、矢印形状をもつ照明領域LAが形成される。光拡散素子130は、入射した光ビームを主としてX軸方向に広げる異方性拡散を行うため、拡散光L130の広がりは一方向に偏る。
このように、「光拡散素子130が異方性拡散を行う」という本発明の基本的な特徴は、コヒーレント光に対する安全性を確保しつつ、照明対象面Sにボケを抑制した鮮明な照明領域を形成する、という作用効果を得る上で、非常に重要な特徴になる。すなわち、第1の拡散軸A1の方向に十分に広げた拡散光L130を用いた照明を行うことにより、照明光として照射されるコヒーレント光のエネルギー密度を低下させ、実用上、十分な安全性を確保することが可能になる。その一方で、第2の拡散軸A2の方向への広がりを小さく制限した拡散光L130を用いて描画スポットDを形成することにより、この描画スポットDで描かれた照明領域LAの輪郭線のボケを抑制し、鮮明な照明領域を形成することが可能になる。
もちろん、上記構成に基づくボケ抑制効果は、Y軸方向に関する端部に形成された輪郭線については有効であるが、X軸方向に関する端部に形成された輪郭線については有効でない。ただ、前述したとおり、車載用の照明装置など、照明対象面Sに対する照射角θが非常に小さくなるような環境で利用される照明装置の場合、Y軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケ対策は、X軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケ対策に比べて非常に重要になるので、本発明に基づくボケ抑制効果は、非常に実用性のある効果になる。
なお、光源110として、屋外の路面上に、昼間でも人間が十分に認識可能な輝度で照明領域LAを形成できる機能をもった一般的な半導体レーザ装置を用いた場合について、第1の拡散軸A1方向への拡散光の広がりの、第2の拡散軸A2方向への拡散光の広がりに対する比(第1の拡散角度をφ1、第2の拡散角度をφ2としたときのφ1/φ2の値、もしくは、図8に示す拡散光L130の断面を構成する矩形の横幅/縦幅の値)を、いくつかの実験により求めたところ、当該比を2もしくはそれ以上に設定すれば、コヒーレント光に対する安全性を確保しつつ、照明対象面Sにボケを抑制した鮮明な照明領域LAを形成できることが判明した。実用上は、この比を5以上に設定するのが好ましく、特に、10以上に設定すると更に効果的である。したがって、本発明に係る照明装置を、車載型の照明装置など、屋外の路面上に照明領域LAを形成する照明装置として用いる場合、上記比を、2以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上に設定するのがよい。
また、図15に示す描画スポットK(t2)と図3に示す描画スポットD(t2)とを比べると、前者に比べて後者の方が、Y軸方向に関する干渉パターンが細かくなるため、条件によっては、スペックルが低減するという付随的な効果も得られる。
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ここでは、これまで述べてきた本発明の基本的実施形態に係る照明装置100について、いくつかの変形例を説明する。なお、以下に示す各変形例は、矛盾が生じない限り、相互に組み合わせて実施することが可能である。
<6.1 光点灯制御を行う変形例>
図18は、本発明の一変形例に係る、光点灯制御機能付き照明装置300の基本構成を示すブロック図である。この照明装置300は、図3に示す照明装置100の各構成要素に、更に、光点灯制御部160を付加したものである。したがって、図18に示す光源110、走査部材120、光拡散素子130、照明光学系140、走査制御部150は、図3に示す照明装置100に用いられている同一符号の構成要素と実質的に同じ構成要素である。
照明装置300において、新たに付加された光点灯制御部160は、光源110の点灯および消灯を制御する構成要素である。ここで、光点灯制御部160による点灯および消灯の制御は、走査制御部150による走査制御に連動して行われ、照明対象面S上には、光源110の点灯時に得られる描画スポットDの集合体によって所定形状をもつ照明領域LAが形成される。
具体的には、走査制御部150から光点灯制御部160に対して、走査部材120による現時点の走査状態を示す信号が与えられ、光点灯制御部160は、この信号に基づいて、光源110を点灯したり、消灯したりする制御を行う。すなわち、光点灯制御部160は、走査部材120の走査位置に同期して、光源110の点灯または消灯を制御することになる。たとえば、光点灯制御部160は、走査部材120が走査ビームL120を所定の方向に向けたときのみ光源110を点灯する制御を行う。このような点灯制御により、照明対象面S上に任意の形状およびサイズの照明パターンを形成することができ、照明領域LAとして任意の情報を表示することができる。
これまで述べてきた基本的実施形態に係る照明装置100の場合、図3に示すような矢印図形の照明領域LAを形成するためには、図13に示すように、光拡散素子130上において、矢印図形の走査領域SA内のみをビームスポットBが移動するような走査を行う必要がある。これに対して、図18に示す照明装置300の場合、光拡散素子130上におけるビームスポットBの走査は、常に、図4に示すような全面に対するラスター走査を行えばよい。このような全面走査を行うと、照明装置100の場合は、照明対象面S上に矩形の照明領域LAしか形成できないが、照明装置300の場合は、光点灯制御部160の点灯制御により、任意形状の照明領域LAを形成することができる。
たとえば、図13に示す例において、光拡散素子130の全面に対するラスター走査を行うと、ビームスポットBは、光拡散素子130の左上隅位置から右下隅位置まで、1行ずつ順次移動することになるが、光点灯制御部160によって、ビームスポットBが走査領域SA(ハッチングを施した矢印図形)内に位置するときにのみ光源110を点灯させる制御を行えば、照明対象面S上には、矢印図形の照明領域LAが形成されることになる。
結局、図18に示す照明装置300の場合、走査制御部150には、常に、図4に示すような全面ラスター走査を行うような走査制御を実行しつつ、現時点の走査位置を示す信号を光点灯制御部160に与える機能をもたせておき、光点灯制御部160には、照明対象面S上に所望の形状をもった照明領域LAが形成されるように、各時点の走査位置に同期して光源110を点灯もしくは消灯させる制御を行う機能をもたせておけばよい。このように、光源110の点灯制御を行えば、照明対象面S上に飛び地からなる複数の照明領域LAを形成することが可能になり、複数の文字からなるメッセージを表示することもできる。
<6.2 カラー表示を行う変形例>
図19は、本発明の一変形例に係る、カラー照明装置400の基本構成を示す斜視図(一部はブロック図)である。このカラー照明装置400は、図3に示す照明装置100を3組用意することにより、照明対象面S上に任意の色をもった照明領域LAを形成できるようにしたものである。以下、これら3組の照明装置を、第1の照明装置、第2の照明装置、第3の照明装置と呼ぶ。
このカラー照明装置400に含まれる3組の照明装置の各構成要素は、基本的には、図3に示す照明装置100の各構成要素と同じものであり、図19では、個々の構成要素の符号として、図3の対応する構成要素の符号末尾に、R,G,Bなる符号を付して示している。ここで、符号Rを付した構成要素は、赤色の照明領域を形成するための第1の照明装置の構成要素であり、符号Gを付した構成要素は、緑色の照明領域を形成するための第2の照明装置の構成要素であり、符号Bを付した構成要素は、青色の照明領域を形成するための第3の照明装置の構成要素である。
なお、第1の照明装置の走査制御部150R、第2の照明装置の走査制御部150G、第3の照明装置の走査制御部150Bについては、それぞれ別個に設けてもかまわないが、図19に示す実施例では、これらを統合した統合走査制御部155を設けている。この統合走査制御部155は、各色用の走査部材120R,120G,120Bの走査制御を行う機能を有する。また、図3に示す照明装置100では用いられていなかったが、図19に示す照明装置400には、新たに、赤色光源用レンズ115R、緑色光源用レンズ115G、青色光源用レンズ115Bが付加されている。これらの光源用レンズは、各光源から発せられた光ビームの平行度を高める役割を果たす。
3組の光源110R,110G,110Bは、それぞれ異なる波長帯域のコヒーレントな光ビームを射出する。すなわち、第1の照明装置の光源110Rは赤色の光ビームを生成し、第2の照明装置の光源110Gは緑色の光ビームを生成し、第3の照明装置の光源110Bは青色の光ビームを生成する。こうして生成された各色の光ビームは、各色用の光源用レンズ115R,115G,115Bを経て、各色用の走査部材120R,120G,120Bで走査された後、各色用の光拡散素子130R,130G,130Bに入射する。
第1の照明装置の光拡散素子130Rには、赤色の走査ビームが与えられるので、赤色波長の光に適した回折パターンが記録されている。同様に、第2の照明装置の光拡散素子130Gには、緑色の走査ビームが与えられるので、緑色波長の光に適した回折パターンが記録されており、第3の照明装置の光拡散素子130Bには、青色の走査ビームが与えられるので、青色波長の光に適した回折パターンが記録されている。
こうして、第1の照明装置の光拡散素子130Rは、赤色用照明光学系140Rを介して、赤色の拡散光によって赤色の照明領域を形成する。同様に、第2の照明装置の光拡散素子130Gは、緑色用照明光学系140Gを介して、緑色の拡散光によって緑色の照明領域を形成し、第3の照明装置の光拡散素子130Bは、青色用照明光学系140Rを介して、青色の拡散光によって青色の照明領域を形成する。したがって、照明対象面S上には、赤色の照明領域、緑色の照明領域、青色の照明領域が形成され、これら各色の照明領域の重複部分に所定色のカラー照明領域が形成される。
各色用の光拡散素子130R,130G,130Bが、異方性拡散を行う点は、これまで述べてきた基本的実施形態と同様である。また、各色用の照明光学系140R,140G,140Bが、コリメートレンズによって構成され、その前側焦点位置に、各色用の光拡散素子130R,130G,130Bが配置されている点も、これまで述べてきた基本的実施形態と同様である。したがって、各色用の照明光学系140R,140G,140Bは、入射した拡散光を平行化して照明対象面Sに向けて射出する。
カラー照明領域の色は、3組の光源110R,110G,110Bの出力を調整することにより、任意の色に変えることができる。また、§6.1で述べた光点灯制御を行う変形例と組み合わせれば、カラー照明領域の個々の部分ごとに色を変えることも可能になる。図19に示す例では、3組の光源110R,110G,110Bとして、それぞれ赤色,緑色,青色の3色の光ビームを発生させる光源を用いた例を述べたが、各光源の色は、これらに限定されるものではなく、赤緑青以外の色のコヒーレント光を発生させる光源を用いてもかまわないし、4組以上の照明装置を用いて、4色以上の光を合成してカラー照明領域を形成するようにしてもよい。あるいは、同一波長域の光源を複数組設けて、カラー照明領域の照明強度を向上させてもよい。
もちろん、図19に示す各構成要素の配置は、一例を示すものであり、この他にも様々な配置を利用することができる。たとえば、図19に示す例では、3組の光源110R,110G,110B、3組の走査部材120R,120G,120B、3組の光拡散素子130R,130G,130B、3組の照明光学系140R,140G,140Bを、それぞれ縦方向に積み上げて配置しているが、これらを横方向に並べて配置するようにしてもよい。
<6.3 反射型走査部材を用いた変形例>
図20は、本発明の一変形例に係る、反射型走査部材を用いた照明装置を示す斜視図である。この照明装置500は、図3に示す照明装置100の走査部材120を、走査部材125に置き換え、光源110の配置を若干変えたものである。したがって、図20に示す光源110、光拡散素子130、照明光学系140、走査制御部150は、図3に示す照明装置100に用いられている同一符号の構成要素と実質的に同じ構成要素である。
図3に示す走査部材120は、透過型走査部材であり、第1の面に入射した光を第2の面から射出する透過型走査体を回動して走査を行うものである。したがって、光ビームL110は、この透過型走査体を透過して光拡散素子130に入射する。これに対して、図20に示す走査部材125は、反射型走査部材であり、入射した光ビームL110を反射して射出する反射面を有する反射型走査体(図に符号125で示されている構成要素)と、この反射型走査体を回動して走査する走査機構(モータや歯車などから構成される要素:図示省略)とを有している。
反射型走査体としては、たとえば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーなどの反射ミラーを用いることができる。この反射ミラーを走査機構によって所定の回動軸まわりに回動することにより、反射した光ビームの進行方向を変化させることができる。一次元走査を行う場合は、Z′軸に平行な軸を回動軸として、走査機構により反射型走査体を回動軸まわりに回動させればよい。光源110からの光ビームL110は、反射型走査体を反射し、反射した走査ビームL125が光拡散素子130へと向かうことになる。
二次元走査を行う場合は、反射型走査体を2軸まわりに回動して走査する走査機構を用意し、走査制御部150によって、走査ビームL125の光拡散素子130への入射点を二次元的に変化させる走査制御を行えばよい。たとえば、Z′軸に平行な第1の回動軸まわりの回動と、X軸に平行な第2の回動軸まわりの回動とを行うことができる走査機構を用いれば、反射した光ビームによって光拡散素子130上に形成されるビームスポットBを、図4に示すように二次元走査して移動させることができる。
<6.4 要素回折光学領域を用いた変形例>
図21は、本発明の変形例に用いる、要素回折光学領域を有する光拡散素子170の機能を示す斜視図である。既に述べたように、図3に示す照明装置100における光拡散素子130は、所定の回折パターンが記録されたホログラフィック光学素子によって構成することができる。図21に示す光拡散素子170も、ホログラフィック光学素子によって構成された光拡散素子の例であるが、この光拡散素子170は、図示のとおり、複数の領域に分割されており、個々の領域がそれぞれ独立したホログラムとして機能する。ここで述べる変形例を実施する場合、図3に示す照明装置100における光拡散素子130の代わりに、図21に示す光拡散素子170を用いればよい。
ここでは、この光拡散素子170を構成する個々の領域を、要素回折光学領域と呼ぶ。個々の要素回折光学領域から放出された拡散光は、照明光学系140(図21では、図示が省略されている)を介して、照明対象面S上のそれぞれ異なる位置に、別個の描画スポットDを形成する。たとえば、図にハッチングを施して示す要素回折光学領域171からの拡散光は、図示されていない照明光学系140を通って、照明対象面S上に描画スポットD1を形成する。同様に、要素回折光学領域172からの拡散光は、照明対象面S上に描画スポットD2を形成し、要素回折光学領域173からの拡散光は、照明対象面S上に描画スポットD3を形成する。他の要素回折光学領域についても同様である。なお、実際には、図示されていない照明光学系140による平行化が行われるため、照明対象面Sに入射する照明光は平行光になる。
別言すれば、個々の要素回折光学領域には、それぞれ独立した個別ホログラムが記録されており、これら個別ホログラムは、走査部材120からの走査ビームL120を受光したときに、図示されていない照明光学系140を通して、照明対象面S上の個別位置にそれぞれ別個の描画スポットDを形成する拡散光を放出する機能を有している。たとえば、要素回折光学領域171に記録されている個別ホログラムは、走査ビームL120が所定方向から入射したときに、図示されていない照明光学系140を通して照明対象面S上に描画スポットD1を形成するような拡散光を放出する機能を有していることになる。
各要素回折光学領域に記録されている個別ホログラムには、全く同一の回折パターンを記録しておくこともできるし、互いに異なる回折パターンを記録しておくこともできる。個々の個別ホログラムに全く同一の回折パターンを記録しておくと、すべての要素回折光学領域は同一の回折特性を有することになるが、それぞれ光拡散素子170上の位置が異なり、また、走査ビームL120の入射角度も異なるため、照明対象面S上には、それぞれ異なる位置に描画スポットが形成されることになる。もちろん、個々の個別ホログラムごとに異なる回折パターンを記録するようにすれば、照明対象面S上に形成される描画スポットの位置を個別に調整することができる。
走査部材120からの走査ビームL120は、図21に示す光拡散素子170の裏面に照射され、ビームスポットBを形成する。走査部材120によって二次元走査を行えば、ビームスポットBは、光拡散素子170上を二次元的に移動し、移動場所の要素回折光学領域から所定の拡散光が放出される。たとえば、要素回折光学領域171の位置にビームスポットBが移動してきたときには、照明対象面S上に図示する描画スポットD1が形成されることになる。
ビームスポットBの径が各要素回折光学領域の寸法よりも大きい場合、ある走査時点において、ビームスポットBが、隣接する複数の要素回折光学領域を覆うことになる。この場合、個々の要素回折光学領域からの拡散光によって、それぞれ異なる位置に描画スポットDが形成され、照明対象面S上には、複数の描画スポットDが現れることになるが、そもそも複数の描画スポットDの集合体として所定形状をもつ照明領域LAが形成されることになるので、何ら支障は生じない。
これに対して、ビームスポットBの径が各要素回折光学領域の寸法よりも小さい場合は、ビームスポットBが同一の要素回折光学領域内に留まる限り、照明対象面S上には、同一の描画スポットが現れることになる。ただ、ビームスポットBが隣接する要素回折光学領域内に移動すれば、別な位置に描画スポットが現れることになるので、やはり支障は生じない。
もちろん、要素回折光学領域を有する光拡散素子170を用いると、ビームスポットBが同一の要素回折光学領域内に留まる限り、同じ位置に描画スポットが現れることになるので、描画スポットの移動は連続的ではなく離散的になる。ただ、走査制御部150による走査速度をある程度速く設定すれば、描画スポットが離散的に移動したとしても、照明対象面S上に形成される照明領域LAが、人間の目に単一の領域として視認される点に変わりはなく、特に支障は生じない。なお、要素回折光学領域を有する光拡散素子170を用いると、各要素回折光学領域からのコヒーレント光の重ね合わせにより照明領域LAが形成されることになるので、コヒーレント光の安全性がより向上するとともに、スペックルも視認しにくくなるというメリットが得られる。
もちろん、各要素回折光学領域から放出される拡散光は、これまで述べてきた実施例と同様に、第1の拡散軸方向への拡散光の広がりの程度と第2の拡散軸方向への拡散光の広がりの程度とが異なるような異方性拡散によって得られたものであり、その断面は、図8に示すような矩形状になる。したがって、光拡散素子170を用いた場合でも、§5で述べた本発明に固有の作用効果が得られることになる。
なお、各要素回折光学領域に記録する個別ホログラムには、たとえば、三次元空間上の任意の位置に矩形面(縦横比がある程度大きな矩形の面)の再生像を形成する機能をもったホログラムを用いることができる。このような個別ホログラムは、光学的なプロセス(たとえば、矩形面を有する拡散板を三次元空間上の所定の位置に配置し、この拡散板の矩形面からの物体光と所定の参照光との干渉縞を感光性媒体に記録するプロセス)によって作成することも可能であるが、実用上は、CGHの手法を利用して、コンピュータによる演算によって求められた干渉縞を物理的構造体に記録することにより作成するのが好ましい。
要素回折光学領域を用いた変形例の利点は、走査部材120による走査方向と、照明対象面S上での描画スポットDの移動方向と、を全く無関係に設定できる点である。たとえば、図4に示す基本的実施形態の場合、走査線SL1,SL2,SL3という経路に沿った走査を行うと、照明光学系140について形成される拡散光スポットGは、図10に示すように、走査線SL1,SL2,SL3という経路に沿って移動し、照明対象面S上の描画スポットDも同様の経路に沿って移動する。これは、図4に示す光拡散素子130には、全面にわたって、所定の拡散特性をもつ回折パターンが記録されているため、入射光の入射位置や入射角度がビーム走査によって変化してゆくと、放出される回折光の向きも、このビーム走査の変化に準じた方向に変化してゆくためである。
図21に示す要素回折光学領域を用いた変形例の場合も、説明の便宜上、描画スポットDが走査方向に準じた動きを行うように設定した例を示した。しかしながら、図21に示す個々の要素回折光学領域171は、それぞれ独立した個別ホログラムを記録したものなので、ホログラム再生像の位置はそれぞれ任意に設定することが可能である。たとえば、図21において、要素回折光学領域171からの回折光によって描画スポットD2が形成されるように設定したり、要素回折光学領域172からの回折光によって描画スポットD3が形成されるように設定したりすることもできる。要するに、どの要素回折光学領域からの回折光によってどの位置に描画スポットDを形成するかは、設計時に任意に定めることができる。
このように、要素回折光学領域を用いた変形例では、光拡散素子170に対する入射光の走査方向と、照明対象面S上での描画スポットDの移動方向と、を全く無関係に設定できるので、たとえば、光ビームをX軸方向に走査しつつ、描画スポットDをY軸方向に移動させたり、描画スポットDをジグザグに移動させたり、描画スポットDを全くランダムな位置に移動させたりすることもできる。この特徴は、コヒーレント光に対する安全性を確保する、という本発明の目的を達成する上で大きく貢献できる。
すなわち、照明対象面S上での描画スポットDの移動経路が、光ビームの走査経路に応じた所定の軌跡に沿ったものになると、光源方向に視線を向けた人間の目には、光源からの光が連続的に入ることになる。これに対して、上述のように、描画スポットDをジグザグに移動させたり、ランダムな位置に移動させたりする方法を採用すれば、照明方向を分散させることができるので、人間の目に入る光源からの光を分散させ、安全性を向上させることが可能になる。
要するに、要素回折光学領域を用いた変形例では、走査部材120による光ビームの走査経路と、照明対象面S上での描画スポットDの移動経路とが異なるように、各要素回折光学領域に所定の回折特性をもった回折パターンを記録しておくことが可能になり、そうすることにより、人間の目に入る光源からの光を分散させ、安全性を向上させることができる。
<6.5 異方性拡散の方向に関する変形例>
これまで述べてきた実施例は、本発明を車載型の照明装置として利用することを想定し、路面上に形成された照明領域20のY軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケを解消することを目的としたものであった。§5で述べたとおり、車載用の照明装置など、照明対象面Sに対する照射角θが非常に小さくなるような環境で利用される照明装置の場合、照明領域20はY軸方向に引き伸ばされるため、Y軸方向に関する端部(図1に示すように、車両の運転手から路面を見たときに、照明領域20の奥の部分と手前の部分)に形成された輪郭線のボケ対策が非常に重要になる。
しかしながら、本発明に係る照明装置の用途は、必ずしも車載型の照明装置に限定されるものではなく、たとえば、建物の壁面上に所定形状の照明領域を形成するような用途にも利用可能である。したがって、利用環境によっては、Y軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケ対策よりも、X軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケ対策の方が重要なケースもあり得る。また、図1に示すような車載型の照明装置に利用する場合であっても、照明領域20として提示する図形や文字の性質上、Y軸方向に関する端部(奥の部分と手前の部分)よりも、X軸方向に関する端部(左右の端)についてのエッジ部分のボケ抑制の方が重要になるケースもあり得る。
このようなケースでは、図8に示す図形を90°回転させた断面形状を有する拡散光が放出される光拡散素子を用いるようにすればよい。すなわち、これまでの実施例では、図7の右上枠内に示すように、横長矩形で示される角度空間分布をもった1次回折光が得られる光拡散素子を用いていたが、その代わりに、縦長矩形で示される角度空間分布をもった1次回折光が得られる光拡散素子を用いるようにすればよい。そうすれば、Y軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケ対策の代わりに、X軸方向に関する端部に形成された輪郭線のボケ対策を施した照明を行うことができる。
もちろん、特殊な照明環境において、照明領域20の特定部分の輪郭線のボケ対策を行う必要がある場合には、図8に示す図形を任意の角度だけ回転させた断面形状を有する拡散光が放出される光拡散素子を用いることも可能である。
本発明の要点は、光拡散素子130の光放出面上に第1の拡散軸および第2の拡散軸を定義したときに、光拡散素子130が、第1の拡散軸方向への拡散光の広がりの程度と第2の拡散軸方向への拡散光の広がりの程度とが異なるような異方性拡散を行うようにした点にある。これまで述べてきた実施例では、第1の拡散軸をX軸に平行な方向にとり、第2の拡散軸をZ軸もしくはZ′軸に平行な方向にとり、第1の拡散軸方向への拡散光の広がりの程度を第2の拡散軸方向への拡散光の広がりの程度よりも大きく設定しているが、逆に、第2の拡散軸方向への拡散光の広がりの程度を第1の拡散軸方向への拡散光の広がりの程度よりも大きく設定してもかまわない。また、第1の拡散軸および第2の拡散軸は、互いに交差する方向であれば、任意の方向に設定することができ、両軸は必ずしも直交している必要はない。
<6.6 多数のレンズを用いた変形例>
図22に示す照明装置600は、図20に示す照明装置500と同様に、反射型走査部材125を用いた変形例であるが、より多数のレンズを用いて装置を構成した例である。すなわち、この照明装置600の場合、光源111と反射型走査部材125との間にコリメートレンズ180が配置されており、反射型走査部材125と光拡散素子130との間に集光レンズ190が配置されている。また、照明光学系140は、図示のとおり、複数のレンズからなるレンズ群によって構成されている。
この変形例で用いられている光源111は、点光源からレーザ光を発散させるタイプのものであり、光源111からのコヒーレント光は、細い光ビームではなく、点光源の位置から円錐状に広がる発散光として放出される。コリメートレンズ180は、この点光源からのコヒーレント光を平行化する役割を果たす。したがって、反射型走査部材125に対しては、図示のように、幅をもった平行光(円形断面を有する)が入射する。反射型走査部材125は、走査制御部150の制御のもとに、図の矢印のように回動する可動ミラーによって構成されており、この可動ミラーで反射した平行光は、集光レンズ190を通って光拡散素子130の入射面に照射される。
光拡散素子130の入射面は、集光レンズ190の後側焦点位置に配置されているため、集光レンズ190によって集光されたコヒーレント光は、光拡散素子130の入射面上において、微小なビームスポットBを形成する。走査部材125により、このビームスポットBが光拡散素子130上で走査される点は、これまで述べてきた基本的実施形態と同様である。また、光拡散素子130にビームスポットBとして照射されたコヒーレント光が、異方性拡散して照明光学系140へ向かう点も、これまで述べてきた基本的実施形態と同様である。この変形例では、照明光学系140が、複数のレンズによって構成されているが、この照明光学系140がコリメートレンズの役割を果たす点も、これまで述べてきた基本的実施形態と同様であり、照明光学系140から射出される照明光は平行光として照明対象面Sへと向かうことになる。
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最後に本発明の基礎概念をまとめ、その骨子を記載しておく。本発明は、コヒーレント光に対する安全性を確保しつつ、照明対象面にボケを抑制した鮮明な照明領域を形成することができる照明装置を提供するものであり、次のような種々の態様をもつ。
本発明の基本的な態様は、コヒーレント光を射出する光源と、入射されたコヒーレント光を異方性拡散させる光拡散素子と、前記光源から射出されたコヒーレント光を前記光拡散素子上で走査させる走査部材と、前記異方性拡散されたコヒーレント光を被照明領域に導光する照明光学系と、を備える照明装置に係るものである。
本発明の一態様は、上記照明装置において、前記照明光学系が、前記異方性拡散されたコヒーレント光をコリメートするコリメータであるようにしたものである。
本発明の一態様は、上記照明装置において、前記光拡散素子が、前記照明光学系の前側焦点位置に配置されるようにしたものである。
本発明の一態様は、上記照明装置において、前記光拡散素子が、前記走査部材にて走査されたコヒーレント光を一軸方向に拡散させるようにしたものである。
本発明の一態様は、上記照明装置において、前記光拡散素子が、前記走査部材にて走査されたコヒーレント光を、前記被照明領域の法線方向と前記照明光学系の光軸中心方向とを通過する面の法線方向に拡散させるようにしたものである。
本発明の一態様は、上記照明装置において、前記光拡散素子が、前記光拡散素子に入射される前記走査部材からのコヒーレント光のビームスポットのサイズよりも大きいサイズで所定方向にコヒーレント光を拡散させ、前記所定方向に交差する方向については前記ビームスポットのサイズでコヒーレント光を拡散させるようにしたものである。
本発明の一態様は、上記照明装置において、前記照明光学系が、前記光拡散素子にて拡散されたコヒーレント光の前記照明光学系への入射位置に応じて、前記被照明領域内の照明位置、照明形状および照明サイズの少なくとも一つが相違する照明範囲を照明するようにしたものである。
本発明の一態様は、上記照明装置において、前記照明光学系が、レンズ、凹面鏡または曲面ミラーであるようにしたものである。
本発明の一態様は、上記照明装置において、前記光拡散素子は、回折光学素子またはホログラフィック光学素子であるようにしたものである。
このように、本発明の実施例に係る照明装置では、異方性拡散を行う光拡散素子130からのコヒーレント光をレンズ等の光学照明系140で平行化して照明対象面Sを照明するため、照明対象面Sに形成される照明領域LAの照明ボケを抑制でき、任意の形状の照明パターンを鮮明に表示できる。このため、照明領域LAの近くにいる観察者が照明パターンを観察した場合でも、これを正しく認識することができる。
また、光拡散素子130は、走査部材120からのコヒーレント光を所定方向に大きく拡散させるため、観察者が照明領域LA側から光源110側に目を向けても、目を痛めるほどの光強度のコヒーレント光が観察者の目に入らないよう設計することが可能となり、コヒーレント光の安全性を向上できる。
以上、本発明をいくつかの実施例に基づいて説明したが、本開示の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本開示の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本開示の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。