JP2021011785A - 木造建築物の耐震補強方法 - Google Patents
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Abstract
Description
大地震に伴う木造建築物の倒壊を防止するためには、旧耐震基準に基づく木造建築物を新耐震基準に適合する建築物に建て替えることが最良である。しかし、建物の再建築には多大な費用が必要となるため全ての建築物を立て替えることは困難である。そこで、建物の立て替えに比べてより安価な耐震補強技術が開発され、提案されている。
特許文献2には、接合金物の上から補強用の不織布をエポキシ樹脂接着材により接着して建築物を補強する技術が記載されている。
また、特許文献2に記載のように不織布を用いる方法は、接着対象部位の形状が複雑な場合には採用できない。即ち、耐震補強効果を適切に発揮するためには、不織布を接着対象部位に隙間無く密着させる必要があるが、仕口部に取り付けられた接合金物の形状によっては不織布を接着対象部位に密着させることは困難である。
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、木造建築物の耐震補強を安全に短工期で且つ安価に実施可能な耐震補強方法を提供することを目的とする。
〔第一の実施形態〕
図1は、本発明の第一の実施形態に係る耐震補強構造を説明する図であり、(a)〜(c)は三面図であり、(d)は接合金物の取付状態を示す斜視図である。なお、図1(a)、(b)においては接合金物110と補強層120の一部を断面にて示している。また、図1(d)は補強層形成前の状態を示している。
本実施形態に係る耐震補強構造1は、土台(水平材、横架材、第一の方向に伸びる第一の構造材)101と柱(垂直材、第二の方向に伸びる第二の構造材)102とを接合して仕口部103を補強する接合金物(接合部材)110と、接合金物110の全体と土台101と柱102の少なくとも一部とを被覆するポリウレア樹脂からなる補強層120とを備える点に特徴がある。
以下の説明においては、土台101が左右方向に伸びるように見える側面の一方を正面として説明する。
軸組構法により建築された木造建築物は、土台101や梁等の水平材と、垂直荷重を支持する柱102とを備える。柱102の長手方向の各端部に相当する柱脚及び柱頭には、土台101及び梁と夫々接合する仕口部103が形成される。土台101及び梁と柱102は木材から構成され、互いに直交するように組み合わせられている。本実施形態に係る耐震補強構造1においては、土台と柱(柱脚)とによって形成される仕口部のみならず、梁と柱(柱頭)とによって形成される仕口部も補強対象部位とする。
図1に示す接合金物110は概略L字形状であり、平板状の第一接合片111と、一辺を第一接合片111の一辺に連接されて第一接合片111に対して直交配置された(第一接合片111の一面側に起立した)第二接合片112とを備える。第一接合片111は土台101に対してビスBによりネジ留め固定され、第二接合片112は柱102に対してビスBによりネジ留め固定される。
図1においては柱102の左右側面に形成された仕口部103に夫々接合金物110,110が取り付けられている。接合金物110は土台101の上面と柱102の側面とに跨がって固定されることによって、土台101と柱102とを強固に接合する。
接合金物110は、第一接合片111と第二接合片112の面内適所から内角側に突出し、両接合片間を接続して補強する補強リブ113等を備えても良い。
接合金物110は、例えば、平板状の金属材(例えばステンレス材)に対して打ち抜き加工、及び曲げ加工を施すことにより形成される。接合金物110には、第一接合片111と第二接合片112との曲げ角度を安定させる三角リブが補強リブ113として形成されている。接合金物110は、複数の部品を溶接することにより形成されたものでもよい。
補強層120は、仕口部103に取り付けられた接合金物110の上に重ねて形成される。補強層120は、接合金物110と土台101の表面、及び接合金物110と柱102の表面に跨がって形成される。即ち、補強層120は、接合金物110の全体と、土台101の少なくとも一部と、柱102の少なくとも一部と、を連続的且つ一体的に被覆する。
補強層120は、土台101と柱102の長手方向に夫々所定長形成される。接合金物110は補強層120によって完全に被覆され、外部には露出しない。土台101と柱102が交差する点から補強層120の端縁までの長手方向長L1、L2は、接合金物110の長さLa、Lbに対して、夫々2、3倍程度の長さ〜数十cm程度あれば、接合金物110の抜けを防止するには十分である。
仮に、居住中の木造建築物に対して耐震補強をする場合は、外壁又は内壁の一部を撤去して仕口部を露出させた状態で補強工事を実施することになるが、住人が居住中である場合は、一時的であっても外壁と内壁の双方を撤去することは困難である。本実施形態においては、接合金物110の取付面とこれに隣接する面に対して補強層120を形成することで仕口部103に十分な耐力を確保できるため、作業者に対して裏面となる側にポリウレア樹脂を塗布する必要はなく、住人が居住したままの耐震補強を実現し、且つ耐震補強に係る施工時間を短縮できる。もちろん、補強層120は、更に仕口部103の背面側(土台101の背面101cと柱102の背面102d)にも形成してもよい。
図2は、ポリウレア樹脂を対象物に吹き付ける吹付装置の一例を示す模式図である。
ポリウレア樹脂は、ポリイソシアネート化合物(主剤)と活性水素を持つアミン化合物(硬化剤)とをスプレーガンで衝突混合させて化学反応させることにより生成される。吹付装置20は、ポリイソシアネート化合物とアミン化合物を衝突混合させてミスト状にして対象物に吹き付ける装置である。
吹付装置20は、ポリイソシアネート化合物を収容した第一タンク21a、アミン化合物を収容した第二タンク21b、第一タンク21aから化合物を送り出す第一ポンプ22a、第二タンク21bから化合物を送り出す第二ポンプ22b、化合物に十分な圧力をかけて所定量を送り出す高圧定量ポンプ23、輸送される化合物を加熱するヒータ24、化合物の温度を保持するヒータ付ホース25、及び、両化合物を衝突混合させてミスト状態で射出するスプレーガン26を備えている。また、吹付装置20は、高圧定量ポンプ23を制御して両化合物の混合割合を可変させたり、ヒータを制御して加熱温度等を可変させる反応制御装置等も備えている。
第一タンク21aと第二タンク21bに収容されたポリイソシアネート化合物とアミン化合物は、それぞれ第一及び第二ポンプ22a,22bにより送液され、高圧定量ポンプ23により所定の圧力に加圧されて所定量が送り出される。両化合物は、ヒータ24により所定の温度に加熱されヒータ付ホース25により所定の温度に保持されたままスプレーガン26に送られる。スプレーガン26は、両化合物を衝突混合させると共に、ミスト状にして射出する。両化合物は化学反応によりポリウレア樹脂を生成し、吹付対象物の表面において固化し、塗膜を形成する。
図3は、図1に示す耐震補強構造を形成する手順を示すフローチャートである。
ステップS1においては、補強対象部位周辺を養生シート等により養生する。
ステップS2においては、補強対象部位となる仕口部103を露出させる。即ち、壁材(外壁材又は内壁材)を部分的に撤去する。また、必要に応じて断熱材を部分的に撤去する。
ステップS3においては、仕口部103に接合金物110を取り付ける。
ステップS4においては、仕口部103にポリウレア樹脂を吹き付けて、所定長及び所定厚さの補強層120を形成する。
ステップS5においては、ステップS2において撤去した壁材等を復旧させる。
ステップS6においては、ステップS1において設置した養生材を撤去し、周辺を清掃して作業を完了する。
なお、仕口部103の耐震補強を床下や天井裏において実施する場合は、ステップS2とステップS5を省略可能である。
本実施形態において、接合金物は主として横揺れによる建物の変形を防止し、ポリウレア樹脂は土台と柱に接着して、ポリウレア樹脂の伸びと粘りにより主として縦揺れ(鉛直方向に働く引張荷重)による柱及び接合金物の抜けを防止する。本実施形態においては、接合金物の全体と土台と柱の少なくとも一部とを連続的、且つ一体的に被覆する補強層を形成するので、縦揺れによる柱及び接合金物の抜けを効果的に防止し、直下型の大規模地震による木造建築物の倒壊を阻止する。
本実施形態においては、接合金物の上からポリウレア樹脂を塗布するため、補強金物の形状が複雑であっても、その形状に対応した形状の補強層を形成することができる。接合金物、土台、及び柱等に対してポリウレア樹脂を隙間や欠損等なく密着させることができるので、最大の補強効果を得ることができる。なお、本実施形態に係る耐震補強構造は、筋交い(斜材)が取り付けられた仕口部を補強対象としてもよい。
居住者が居住中の建物に対して耐震補強を行う場合は、居住者が建物に居住したままで耐震補強工事を実施できることが望ましい。居住者が仮住居を準備する必要がなくなるため耐震補強に係る費用が低減する。
エポキシ樹脂に比べてポリウレア樹脂は硬化時間が非常に短く、数秒で硬化するため、耐震補強工期を大幅に短縮できる。ポリウレア樹脂は乾燥工程を設けなくても、重ね塗りを繰り返すことによって補強層の膜厚を自由に制御できる。従って、工期の長期化による人件費等の増加を抑制し、耐震補強を安価に実施できる。
ポリウレア樹脂を木材に直接吹き付けることで、ポリウレア樹脂と木材との間に十分な接着力を確保できるため、プライマーを塗布する必要はない。従って、工程数の低減による工期の短縮化を図れる。
本実施形態を、土台と柱、又は梁と柱とを接合金物にて接合する場合の例により説明したが、本実施形態は、土台と筋交い、梁と筋交い、又は柱と筋交いとを接合金物にて接合する場合にも適用できる。
また、本実施形態は木造枠組壁構法により建築された木造建築物に適用してもよい。
図4は、本発明の第二の実施形態に係る耐震補強構造を説明する図であり、(a)〜(c)は三面図であり、(d)は接合金物の取付状態を示す斜視図である。なお、図4(d)は補強層形成前の状態を示している。第一の実施形態と同一の構成については同一の符号を付して適宜その説明を省略する。
本実施形態に係る耐震補強構造2は、平板状の接合金物130を用いる点で第一の実施形態と異なる。
接合金物130は、正面側に位置する仕口部103に取り付けられる。接合金物130は土台101の正面と柱102の正面とに跨がって固定されることによって、土台101と柱102とを強固に接合する。なお、接合金物130は、背面側に位置する仕口部103に取り付けられてもよい。
なお、補強層120は、仕口部103の背面側(土台101の背面101cと柱102の背面102d)にも形成してもよい。
なお、第一の実施形態と第二の実施形態とを併用してもよい。即ち、仕口部103の補強に第一の実施形態に示すL字状の接合金物130と、第二の実施形態に示す平板状の接合金物130とを取り付けて、その上からポリウレア樹脂による補強層120を形成してもよい。
本実施形態も、第一の実施形態と同様の効果を奏する。
本実施形態を、土台と柱、又は梁と柱とを接合金物にて接合する場合の例により説明したが、本実施形態は、土台と筋交い、梁と筋交い、又は柱と筋交いとを接合金物にて接合する場合にも適用できる。
また、本実施形態は木造枠組壁構法により建築された木造建築物に適用してもよい。
本発明の耐震補強構造に係る仕口引張試験の結果について説明する。
図5は、仕口引張試験に使用した試験体の概要を示す6面図である。
表1に、全試験体の構成及び試験結果の概要を示す。
試験体番号3〜7の試験体には、接合金物を図1又は図4に示す態様で取り付けた。試験体に取り付ける接合金物としてL字金物には、株式会社タナカ製、コンパクトコーナー(告示1460号第二号(は)に適合)を使用した。試験体200に取り付ける接合金物として平型金物には、株式会社タナカ製、オメガプレートSD10kN(告示1460号第二号(に)〜(へ)に適合)を使用した。
試験体番号1〜6の試験体には、ポリウレア樹脂を塗布した。試験体に塗布するポリウレア樹脂には、米国ライノライニングス社製ライノ・エクストリーム(Rhino Extreme)を使用した。
仕口引張試験においては、図5に示された概略形状を有する試験体200の土台201を試験機に固定し、柱202に引張荷重を加えて、試験体が破損するまでの引張荷重と変位を測定した。
図6(a)は、接合金物を取り付けなかった場合の試験体(試験体番号1、2、8)の引っ張り強さを比較したグラフ図である。接合金物を取り付けなかった場合の引っ張り強さは、ポリウレア樹脂を塗布しなかった試験体(試験体番号1)に比べて、ポリウレア樹脂を4mm厚で吹付塗布した試験体(試験体番号2)の最大荷重は6.9[kN]増加した。
図6(b)は、L字型の接合金物を取り付けた場合の試験体(試験体番号3、4、7)の引っ張り強さを比較したグラフ図である。ポリウレア樹脂を塗布しなかった試験体(試験体番号3)に比べて、ポリウレア樹脂を4mm厚で均一に吹付塗布した試験体(試験体番号4)の最大荷重は5.1[kN]増加した。
図6(c)は、平型の接合金物を取り付けた場合の試験体(試験体番号5、6)の引っ張り強さを比較したグラフ図である。ポリウレア樹脂を塗布しなかった試験体(試験体番号5)に比べて、ポリウレア樹脂を4mm厚で塗布した試験体(試験体番号5)の最大荷重は9.7[kN]増加した。
図6(d)は、ポリウレア樹脂を塗布した試験体(試験体番号2、4、6)の引っ張り強さを比較したグラフ図である。ポリウレア樹脂のみの試験体(試験体番号2)に比べて、接合金物を併用した場合の試験体(試験体番号4、6)の最大荷重は、13.9〜14.3[kN]増加した。
なお、本試験ではポリウレア樹脂に破断は発生しなかった。
図7は、本発明の第三の実施形態に係る耐震補強構造を示す図である。
本実施形態に係る耐震補強構造3は、避難経路となる空間を形成する柱102(柱102の長手方向の中間部)の表面にポリウレア樹脂を吹き付けて補強層120を形成する点に特徴がある。
本実施形態においてポリウレア樹脂の吹き付け対象となる柱102は、第一、及び/又は、第二の実施形態に示す補強が施された柱102と同一の柱であってもよいし、第一及び第二の実施形態に示す補強が施された柱102と同一の木造建築物を構成する他の柱102であってもよい。
本実施形態に示す補強層120は、図3のフローチャートに示す手順に準じて形成する。
<第一の実施態様>
本態様に係る、木造建築物の耐震補強方法(耐震補強構造1、2)は、第一の方向に伸びる第一の構造材(水平材、土台101、梁)と第一の方向とは異なる第二の方向に伸びる第二の構造材とを接合して仕口部103を補強する接合部材(接合金物110、130)を取り付ける工程(ステップS3)と、接合部材を取り付けた仕口部にポリウレア樹脂を吹き付けて、接合部材の全体と、第一の構造材の少なくとも一部と、第二の構造材の少なくとも一部と、を被覆する連続的且つ一体的な補強層120を形成する工程(ステップS4)と、を含むことを特徴とする。
本態様によれば、木造建築物の耐震補強を安全に短工期で且つ安価に実施できる。
ここで、第一の構造材又は第二の構造材は、筋交い(斜材)であってもよい。
本態様に係る木造建築物の耐震補強方法(耐震補強構造1、2)において、補強層120は、第一の構造材(水平材、土台101、梁)と第二の構造材(垂直材、柱102)の表面のうち、少なくとも接合部材(接合金物110、130)の取付面と該取付面に隣接する一つの面に形成されることを特徴とする。
接合部材の取付面と隣接する面にも、取付面から一体的に連続する補強層を形成することにより、接合部材の取付面とは異なる面においても地震動により印加される荷重を担保することができ、より高い補強効果を得られる。
本態様に係る耐震補強方法(耐震補強構造3)は、避難経路となる空間を形成する柱102の表面にポリウレア樹脂を吹き付けて補強層120を形成する工程を含むことを特徴とする。
本態様によれば、大規模地震による建物の損傷より、補強層の内部で柱が破損していたとしても、ポリウレア樹脂の有する引き裂きに対する強度や弾力性等により、柱の繊維がポリウレア樹脂層を突き破って外部に突出することを防止でき、安全な避難経路を確保できる。
Claims (3)
- 木造建築物の耐震補強方法であって、
第一の方向に伸びる第一の構造材と該第一の方向とは異なる第二の方向に伸びる第二の構造材とを接合して仕口部を補強する接合部材を取り付ける工程と、
前記接合部材を取り付けた前記仕口部にポリウレア樹脂を吹き付けて、前記接合部材の全体と、前記第一の構造材の少なくとも一部と、前記第二の構造材の少なくとも一部と、を被覆する連続的且つ一体的な補強層を形成する工程と、を含むことを特徴とする木造建築物の耐震補強方法。 - 前記補強層は、前記第一の構造材と前記第二の構造材との表面のうち、少なくとも前記接合部材の取付面と該取付面に隣接する一つの面に形成されることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物の耐震補強方法。
- 避難経路となる空間を形成する柱の表面にポリウレア樹脂を吹き付けて補強層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の木造建築物の耐震補強方法。
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