JP2021011564A - 酸化重合型凹版インキ組成物 - Google Patents
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Abstract
Description
はじめに、本発明における酸化重合型凹版インキ組成物の概要について説明する。
本実施形態における酸化重合型凹版インキ組成物は、酸化硬化型ワニスと、融解が起こる温度が、50℃から85℃の間にある少なくとも一つのワックスと、少なくとも一つの顔料と、少なくとも一つの乾燥剤とを含む、凹版インキ組成物であって、温度サイクル(室温→ワックスの融解が起こる温度→30℃)を経ることにより、当該酸化硬化型ワニスとワックスとの相乗効果によりインキが劇的に固化し、良好な耐裏移り性を実現する。「ワックスの融解が起こる温度」とは、ワックスの融解温度範囲の中の任意の温度である。
本実施形態において用いられる酸化硬化型ワニスは、少なくとも一つの酸化硬化型バインダからなる。例えば、不飽和脂肪酸残基、飽和脂肪酸残基又はこれらの混合物を含む一般的なポリマー、オリゴマー、又はモノマーである。詳細には、アルキド樹脂、ビニルポリマー、ロジン変性マレイン酸樹脂、テルペン樹脂、ポリアミド、アクリル樹脂、動物性脂肪、獣脂油、植物油、変性植物油、非植物油、脂肪酸等を一種類以上含有するものであるが、これらに限定されない。
本発明の凹版インキ組成物は、少なくとも一つの酸化硬化型ワニスを凹版インキ組成物の全重量の15重量%から70重量%の間の量を含む。好ましくは、凹版インキ組成物の全重量の30重量%から50重量%の間の量を含む。酸化硬化型ワニスが15重量%未満の場合、凹版インキ組成物の耐溶剤性等の堅ろう性が低下する。
乾燥剤(酸化重合型ドライヤー、オキシ重合用触媒、酸化乾燥剤及び乾燥物質とも呼ばれる)は当技術分野では公知であり、例えば、乾燥時に開始される自動酸化反応のための触媒として作用する金属塩である。詳細には、カチオンとしてコバルト、カルシウム、銅、亜鉛、鉄、ジルコニウム、マンガン、バリウム、亜鉛、ストロンチウム、リチウム、バナジウム及びカリウム、並びにアニオンとしてハロゲン、硝酸、硫酸、カルボン酸、例えば、酢酸、エチルヘキサン酸、オクタン酸、ナフタレン酸及びアセトアセトネートを含む多価塩等を一種類以上含有するものであるが、これらに限定されない。
ワックスとして、当該ワックスを配合した酸化硬化型ワニスを加熱することにより融解後、インキの温度を下げることにより再度ワックスを固化するときに、インキ成分である酸化硬化型ワニスと作用し、固化する程度が大きいワックスが該当する。例えば、長鎖エステルワックス、脂肪酸エステルワックス、精製モンタンワックス、モンタン酸、モンタンアミド、モンタンエステル、変性又はけん化モンタンワックス、キャンデリアワックス、カルナウバワックス、大豆極度硬化油、菜種極度硬化油、パーム極度硬化油、牛脂極度硬化油、長鎖固体エステル及びこれらの混合物よりなる群から選択されるワックスが挙げられる。
本発明の凹版インキ組成物は、50℃から85℃の間に融解温度領域がある少なくとも一つのワックスを、凹版インキ組成物の全重量の4重量%から30重量%の間の量を含む。好ましくは、凹版インキ組成物の全重量の11重量%から20重量%の間の量を含む。当該ワックスが4重量%未満であると凹版インキ組成物の耐裏移り性が低下し、当該ワックスが30重量%を超えると凹版インキの作製が困難となる。
ワックスの粒度分布としては、10%粒子直径(d10)が1.0μm以上であり、かつ、50%粒子直径(d50)が5.0μm以上であり、かつ、90%粒子直径(d90)が65μm以下であることが望ましい。10%粒子直径が1.0μm未満又は50%粒子直径が5.0μm未満の場合、インキの流動性が低下する。90%粒子直径が65μmより大きい場合、印刷機上の凹版印刷部のワイピングローラにおける傷発生の原因となり、良好な印刷画線が得られないおそれがある。インキにはワックスの他に顔料等の多くの材料が存在するため、インキ中のワックスのみの粒度分布を測定することは容易でない。本明細書に記載するワックスの粒度分布とは、ワックス単体、又は酸化硬化型ワニスにワックス及びワニスのみを配合し、本明細書に記載の方法で作製した試料(ワックス粒度分布測定用試料と記載)におけるワックスの粒度分布を意味する。
本発明のインキの室温(30℃)での粘度及び降伏価は低く、その高い流動性のためインキを自動供給できる。また、酸化硬化型ワニス、着色顔料及び体質顔料を、ビーズミルにより練合して作製する練合物(ミルベースと記載)も高い流動性を示すため、問題なくビ一ズミルで製造できる。一方、ワックス及びワニスを含むインキ材料を3本ロールミルで練合した場合、得られる凹版インキの室温での粘度及び降伏価は本発明のインキと比べて上昇する。この理由は、ワックスの小さい粒子径の成分が増えるため、インキ内でワックスがより高分散となり、ワニス等との間に相互作用がより強く働くためである。このため、印刷機でのインキ自動供給が困難となり、印刷物の製造効率や作業効率が大きく低下する。同様に、ワックス及びワニスを含むインキ材料をビーズミルで練合した場合、ビーズミル内での熱の発生によりワックスが融解し、その後室温になる際に得られる凹版インキにおいてワックスが固化するため、インキの室温での粘度及び降伏価は測定不能なほど硬くなる。そのため、低融点ワックスを配合するインキのビーズミルでの製造は困難である。
ワニスの硬化を阻害しなければ特に限定されず、公知の顔料を使用できる。着色顔料として、例えば、アゾ系、カルボニル系、アンス(ト)ラキノン系、ニトロ系、フタロシアニン系、インジゴ系、ベンゾジフラノン系、メチン系、ポリエン系、ポリメチン系、ジオキサジン系、硫黄系、窒素系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系及びカロテン系等の幅広い色材を使用できる。また、インキの流動特性を整え、印刷適性を向上させる等の目的で、体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、アルミナ、硫酸バリウム、酸化亜鉛及び酸化チタン等の無機顔料を配合してもよい。また、着色顔料に加え、又は、着色顔料の代わりに染料を配合してもよい。この場合、顔料や溶剤等の染料以外の成分の配合量を調節し、適切なインキ流動特性が得られるようにする。
本発明の凹版インキ組成物は、少なくとも一つの顔料を印刷用インキ組成物の全重量の25重量%から70重量%の間の量を含む。好ましくは、印刷用インキ組成物の全重量の40重量%から60重量%の間の量を含む。
3本ロールミルやビーズミル等の練合機を使用して、ワニス、ワックス、顔料及び乾燥剤を加えることにより、酸化重合型凹版インキ組成物を作製する。
本発明の凹版インキ組成物は、温度サイクル(室温→T[℃]→30℃)を経ることにより、動的弾性率G*(=G'+iG'')の弾性成分である貯蔵弾性率(「G'」と記載する)について、T[℃]におけるG'(「G'(T[℃])」と記載する)に対する、当該温度サイクル後の30℃におけるG'(「G'(30℃)」と記載する)、すなわちG'(30℃)/G'(T[℃])の値が当該酸化硬化型ワニスとワックスとの相乗効果により劇的に上昇する。このような効果を示すためには、Tはワックスの融解温度範囲にある必要がある。G'(30℃)/G'(T[℃])の値は、インキ固化、すなわちワックスの融解温度範囲に加熱した凹版版面での印刷後の印刷物間のインキの耐裏移り性の指標となり、この値が大きいほど印刷物における耐裏移り性が向上する。良好な耐裏移り性の実現には、G'(30℃)/G'(T[℃])の値が110以上であることが望ましい。同一の凹版インキ組成物では、温度サイクルにおけるTの値が大きいほどG'(30℃)/G'(T[℃])の値が大きくなる傾向がある。この理由は、より高温でワックスの融解が促進されるためである。しかし、Tの値が大きいほど印刷機への負荷が大きくなるため、Tの値は好ましくは50℃から85℃の間であり、より好ましくは50℃から70℃の間である。
作製した凹版インキ組成物の流動特性である動的弾性率の温度依存性は、流動特性測定装置、例えば、Modular Compact Rheometer MCR302(アントンパール)により測定できる。条件を、振り角0.1%、周波数1.0Hzの一定条件下で速度5℃ min-1、ひずみ0.1%となるように設定し、凹版インキ組成物を事前にワックスの融解が起こる温度に加熱後、速やかに、当該温度から30℃まで1℃ごとに測定することにより、温度サイクルを経た後の凹版インキ組成物の固化の程度、すなわち凹版インキ組成物の耐裏移り性の程度を評価できる。
粘度については、画線再現性の観点から約30Pa・s以上であることが望ましく、凹版インキ組成物の取り扱い作業性の観点から約500Pa・s以下であることが望ましい。
粘度を調節するために、本発明の凹版インキ組成物には鉱物油等の溶剤、例えば、AFソルベント6号(東新油脂)、や添加剤を加えてもよい。
作製した凹版インキ組成物の流動特性である粘度及び降伏価は、流動特性測定装置、例えば、Modular Compact Rheometer MCR302(アントンパール)により測定できる。剪断速度を0s‐1から10s‐1に変化させた後、10s‐1から0s‐1に変化させたときの剪断応力(フローカーブ)を30℃で測定し、フローカーブにおいてビンガム近似により粘度及び降伏価を算出できる。
ワックスの融解が起こる温度に加熱した凹版版面で、当該凹版インキ組成物を基材に転写する。
本発明の凹版インキ組成物では、画線ににじみがなく、凹版版面の画線をよく再現する。印刷物上の凹版インキ組成物の膜厚みは数十μmであり、酸化重合型の凹版インキ組成物でありながら、十分な厚みを得ることができる。
本発明の凹版インキ組成物は、酸化硬化型ワニスからなるが、印刷後に重ねた基材間に凹版インキ組成物の裏移りをほとんど起こさず、十分な耐裏移り性を示す。
耐裏移り性は、例えば、次のように評価できる。凹版印刷適性試験機により、上質紙等の基材に凹版版面を用いて凹版インキ組成物を印刷後、速やかに別の基材を印刷面上に重ね、印刷から一定時間後に、加圧後、重ねた基材を外し、この基材に付着した凹版インキ組成物を目視評価する。
また、本発明の凹版インキ組成物では、印刷機において印刷終了後に凹版インキ組成物を供給しない状態で用紙を数十枚印刷機に供給すると、凹版版面に残存した凹版インキ組成物のほぼすべてが用紙上に転移し、その後の凹版版面の洗浄の負荷を大幅に削減できる。この理由は、凹版インキ組成物中に配合したワックスと酸化硬化型ワニスとが相互作用し固化するためである。
さらに、水酸化ナトリウム水溶液等に対する耐アルカリ水溶液性についても、従来の酸化重合型の凹版インキ印刷物が大きく劣るのに対して、本発明の凹版インキ組成物の印刷物は高い耐性を示す。例えば、完全に乾燥後の当該印刷物を濃度1.0重量%の水酸化ナトリウム水溶液に5時間浸漬しても画線は変化しない。この理由は、固化したワックス及び酸化硬化型ワニスからなる組成物が耐水性をもつためである。本発明の凹版インキ組成物は他の液体、例えば、塩酸(3.0重量%)、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(1.0重量%)、熱水(90℃から100℃)、エタノール、アセトン等に対しても高い耐性を示す。
さらに、本発明の凹版インキ組成物はワックスを含有するにも関わらず、完全硬化後の凹版インキ組成物の耐熱性についても問題ない。例えば、当該組成物の印刷物作成後、当該印刷物を、200℃に加熱したヒーター上に印刷面の裏面がヒーター面に接するように置き、その上に上質紙、さらに、ガラス板、重りを置き、当該印刷物全体に1kgの荷重を5分間かけ、その後の当該印刷物の状態及び上質紙への付着物の状態を評価する場合、当該組成物は上質紙に転移しない。この理由は、ワックスは硬化した酸化硬化型ワニスと一体となっており、この組成物をワックスの融解が起こる温度に加熱しても、もはやワックスは融け出さないためである。
(実施例)
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、本発明の凹版インキ組成物の実施例について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
表1に示す、本発明のインキ1‐1を3本ロ‐ルミル(井上製作所製)により練合して作製した。なお、表中のワックス名称の右のかっこ内に当該ワックスの融点または融解範囲の最大温度を示す。一般にワックスの融解温度領域には一定の幅があるため、表1中のポリエチレンワックス以外のワックスは、70℃においても融解する。
本発明のインキ1‐1を使用し、印刷適性試験機(熊谷理機工業)により、凹版版面温度85℃で、上質紙上に当該インキの印刷画像部を形成して印刷物を作製した。また、凹版版面温度70℃においても同様に行い印刷物を作製した。
表1に示す、本発明のインキ1‐2から1‐4及び比較用のインキ2‐1から2‐2について、実施例1と同様に凹版印刷物を作製した。これらのインキは、酸化硬化型ワニスとしてアマニ油変性アルキド樹脂を使い、各ワックスを配合したインキである。
本発明のインキ1‐1から1‐4及び比較用のインキ2‐1から2‐2においては、配合するワックスのみが異なる。これらの6種類のインキを比較することにより、ワックスの効果を検証した。
本発明のインキ1‐1から1‐4及び比較用のインキ2‐1から2‐2の動的弾性率の温度依存性を測定した。Modular Compact Rheometer MCR302(アントンパール)により、12mmパラレルプレートを使用し、間隙0.35mm、振り角0.1%、周波数1.0Hzの一定条件下で速度5℃ min‐1、ひずみ0.1%となるときの動的弾性率を測定した。インキを事前に一定温度に加熱後、速やかに、当該温度から30℃まで1℃ごとに測定した。事前に加熱する当該温度は85℃及び70℃とし、それぞれの温度から測定した。
図1及び図2に、本発明のインキ1‐1から1‐4及び比較用のインキ2‐1から2‐2の貯蔵弾性率の温度依存性を示す。図1には事前に85℃で加熱したときの結果を示す。図1の横軸は温度を、縦軸のG'/G'(85℃)は任意の温度における貯蔵弾性率(G')を85℃における貯蔵弾性率(G'(85℃))で除した値を表す。本発明のインキ1‐1から1‐4において、低温領域でG'が大きく上昇し、G'(30℃)/G'(85℃)の値が110以上となった。一方、比較用のインキ2‐1から2‐2では、このような効果は見られなかった。本発明のインキでは、ワックスと酸化硬化型ワニスとの適切な組み合わせにより、G'(30℃)/G'(85℃)の値が劇的に向上した。この効果により、UV硬化成分を使用せずに、良好なインキ固化を示す凹版印刷物を作製できた。図2には事前に70℃で加熱したときの結果を示す。縦軸のG'/G'(70℃)の意味は図1と同様である。本発明のインキ1‐1から1‐3では高いG'(30℃)/G'(70℃)を示した。一方、本発明のインキ1‐4ではG'(30℃)/G'(70℃)が、図1のG'(30℃)/G'(85℃)低くなった。この理由は、比較例2‐2のインキと同様に、70℃においてワックスが十分に融解しなかったためである。
表2に示す、比較用のインキ2‐3から2‐8を使用し、実施例1と同様に、凹版印刷物を作製した。
比較用のインキ2‐3から2‐8は、本発明のインキ1‐1から1‐4及び比較用のインキ2‐1から2‐2の酸化硬化型ワニスであるアマニ油変性アルキド樹脂を、UV硬化型ワニスであるアクリレートに置換したインキである。これらの12種類のインキを比較することによりワニスの効果を検証した。
比較用のインキ2‐3から2‐8の動的弾性率の温度依存性を、実施例1と同様に測定した。
図3及び図4に、比較用のインキ2‐3から2‐8の貯蔵弾性率の温度依存性を示す。図3は事前に85℃で加熱したときのG'/G'(85℃)を、図4は事前に70℃で加熱したときのG'/G'(70℃)を示す。いずれのインキにおいても30℃付近にかけてのG'の上昇は比較的小さく、図1に示した比較用のインキ2‐1から2‐2と同等であった。これらの挙動が、本発明のインキ1‐1から1‐4の挙動と大きく異なることから、30℃付近にかけてのG'の上昇にはワックスと酸化硬化型ワニスとの組合せが必要であることがわかる。
表3に示す、本発明のインキ1‐5から1‐12及び比較用のインキ2‐9について、実施例1と同様に、凹版印刷物を作製した。
本発明のインキ1‐5から1‐12及び比較用のインキ2‐9においては、酸化硬化型ワニスの配合量及びワックスの配合量が異なる。これらの9種類のインキを比較することにより、酸化硬化型ワニスの配合量及びワックスの配合量の効果を検証した。
本発明のインキ1‐5から1‐12及び比較用のインキ2‐9の動的弾性率の温度依存性を、25mmパラレルプレートを使用し、間隙0.25mmとし、その他の条件については実施例1と同様にして測定した。
図5及び図6に、本発明のインキ1‐5から1‐12及び比較用のインキ2‐9の貯蔵弾性率の温度依存性を示す。図5は事前に85℃で加熱したときのG'/G'(85℃)を、図6は事前に70℃で加熱したときのG'/G'(70℃)を示す。本発明のインキ1‐5から1‐12は30℃付近にかけて大きなG'の上昇を示した。一方、比較用のインキ2‐9は大きな上昇を示さなかった。
表4に示す、本発明のインキ1‐13から1‐15を使用し、実施例1と同様に行い凹版印刷物を作製した。
本発明のインキ1‐3、1‐8、1‐13から1‐15においては、酸化硬化型ワニスの配合量及び体質顔料の配合量が異なる。これらの5種類のインキを比較することにより、酸化硬化型ワニスの配合量及び体質顔料の配合量の効果を検証した。
本発明のインキ1‐3、1‐8及び1‐13から1‐15の動的弾性率の温度依存性を、実施例1と同様に測定した。
図7及び図8に、本発明のインキ1‐3、1‐8及び1‐13から1‐15の貯蔵弾性率の温度依存性を示す。図7は事前に85℃で加熱したときのG'/G'(85℃)を、図8は事前に70℃で加熱したときのG'/G'(70℃)を示す。いずれのインキも30℃付近にかけて大きなG'の上昇を示した。
表5に示す、本発明のインキ1‐16を、本発明のインキ1‐12に溶剤を添加・混合して作製し、その後、実施例1と同様に凹版印刷物を作製した。
本発明のインキ1‐16は、本発明のインキ1‐12に溶剤であるAFソルベント6号(東新油脂)を配合したインキである。溶剤の配合によりインキの流動特性である粘度及び降伏価を低下させ、インキの取り扱い性を向上できる。これらの2種類のインキを比較することにより、溶剤配合の効果を検証した。
比較例のインキ1‐16の動的弾性率の温度依存性を、実施例5と同様に行い、測定した。
図9及び図10に、本発明のインキ1‐12及び1‐16のインキの貯蔵弾性率の温度依存性を示す。図9は事前に85℃で加熱したときのG'/G'(85℃)を、図10は事前に70℃で加熱したときのG'/G'(70℃)を示す。いずれのインキも30℃付近にかけて大きなG'の上昇を示した。
本発明のインキ1‐1から1‐16及び比較用のインキ2‐1から2‐9の粘度及び降伏価を、Modular Compact Rheometer MCR302(アントンパール)により、CP25型コーンプレートを用いて測定した。剪断速度を0s‐1から10s‐1に変化させた後、10s‐1から0s‐1に変化させたときの剪断応力(フローカーブ)を30℃で測定した。フローカーブにおいてビンガム近似により粘度及び降伏価を算出した。
表6に、本発明のインキ1‐1から1‐16及び比較用のインキ2‐1から2‐9の粘度及び降伏価の結果を示す。なお、表中の「‐」はインキの流動性が低く、測定範囲を超えたため測定できなかったものである。しかし、「‐」の記載があるインキについては、本発明のインキ1‐16のように、溶剤の配合により、本発明のインキの効果を維持しながら、適度な流動性を付与できる。
表7に本発明のインキ1‐1から1‐16及び比較用のインキ2‐1から2‐9のG'(30℃)/G'(85℃)及びG'(30℃)/G'(70℃)の値の結果を示す。本発明のインキ1‐4のG'(30℃)/G'(70℃)を除き、本発明のインキ1‐1から1‐16が110より大きいG'(30℃)/G'(85℃)及びG'(30℃)/G'(70℃)の値を示した。一方、比較用のインキ2‐1から2‐9は、110未満の低いG'(30℃)/G'(85℃)及びG'(30℃)/G'(70℃)の値を示した。
本発明のインキ1‐1から1‐16及び比較用のインキ2‐1から2‐9について、実施例1と同様に印刷物を作製後、速やかに別の上質紙を印刷面上に重ね、印刷から2分後に、HEIDONー14S/DRPAT.P.型表面性試験機(新東科学)のタック性ロールユニット(幅20mm、重量270g)により走査速度10cm min‐1で印刷物を加圧した。加圧後、重ねた上質紙を外し、この上質紙に付着したインキを目視評価した。凹版版面の画線面積に対して、裏移り領域の面積が10%未満の場合「〇(良好)」、10以上から30%未満の場合「△(可)」、30%以上の場合「×(不可)」と評価した。
表8に、本発明のインキ1‐1から1‐16及び比較用のインキ2‐1から2‐9の耐裏移り性の評価結果を示す。110以上の高いG'(30℃)/G'(85℃)及びG'(30℃)/G'(70℃)の値を示した本発明のインキ1‐1から1‐16で耐裏移り性が劇的に上昇し、「〇」の評価となった。ただし、110未満の低いG'(30℃)/G'(70℃)を示した本発明のインキ1‐4については、70℃での印刷物の評価は「△」となった。一方、110未満の低いG'(30℃)/G'(85℃)及びG'(30℃)/G'(70℃)の値を示した比較用のインキ2‐1から2‐9では、「△」又は「×」の評価となった。
さらに、より低融点を有するワックスについてもその効果を検証するために、表9に示す、本発明のインキ1‐17から1‐19について、実施例1と同様に、酸化硬化型ワニスとしてアマニ油変性アルキド樹脂を使い、各ワックスを配合したインキを作製し、凹版印刷物を作製した。
本発明のインキ1‐17から1‐19の粘度及び降伏価を、実施例1と同様に測定した。
表10に、本発明のインキ1‐17から1‐19の粘度及び降伏価の結果を示す。
本発明のインキンキ1‐17から1‐19の動的弾性率の温度依存性を、実施例1と同様に測定した。ただし、事前に加熱する温度は60℃とし、60℃から測定した。
図11に、本発明のインキンキ1‐17から1‐19の貯蔵弾性率の温度依存性を示す。いずれのインキも30℃付近に掛けて大きなG'の上昇を示した。このように、今回設定した60℃のような、より低い加熱する温度で大きなG'の上昇をすることは、より低い凹版版面加熱温度で耐裏移り性のよい印刷物が得られることにつながる。そのため、印刷機において凹版版面加熱温度をより低く設定でき、印刷機への温度負荷を小さくできる。
表11に本発明のインキ1‐17から1‐19のG'(30℃)/G'(60℃)の値の結果を示す。いずれのインキも110より大きいG'(30℃)/G'(60℃)の値を示した。
本発明のインキ1‐17から1‐19の耐裏移り性を、実施例1と同様に測定・評価した。
表12に、本発明のインキ1‐17から1‐19の耐裏移り性の評価結果を示す。110以上の高いG'(30℃)/G'(60℃)の値を示したいずれのインキも「〇」の評価となった。
表1に示す、本発明のインキ1‐3と同じ配合で本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2を作製した。本発明のインキ1‐3の配合において酸化硬化型ワニス、着色顔料及び体質顔料を、ビーズミル(アシザワファインテック社製)により練合してミルベースを作製した。当該ミルベースに、所定の粒度分布を持つワックス(モンタン酸ワックス))及び乾燥剤(酸化重合触媒)を添加し、プラネタリミキサで30分間混合し、酸化重合型凹版インキを作製した。本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2には、粒度分布が異なるワックスを使用した。本発明のインキ1‐3‐P1にはモンタン酸ワックス‐P1を、本発明のインキ1‐3‐P2にはモンタン酸ワックス‐P2を使用した。
本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2には、粒度分布が異なるワックスを使用した。本発明のインキ1‐3‐P1にはモンタン酸ワックス‐P1を、本発明のインキ1‐3‐P2にはモンタン酸ワックス‐P2を使用した。モンタン酸ワックス‐P1及びモンタン酸ワックス‐P2は、本発明のインキ1‐3に使用したモンタン酸ワックスと化学的に同一のワックスであり、粒度分布のみが互いに異なる。本発明のインキ1‐3、本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2を比較することにより、インキ中のワックスの粒度分布の効果を検証した。
ワックス単体の粒度分布は次のように測定した。粒度分布計CILAS Granulometer 1064(シーラス)により、分散媒体としてエタノールを使用し、1分間超音波分散後に測定した。ただし、本発明のインキ1‐3に使用したモンタン酸ワックスについては、インキ作製時に練合するため、インキ製造前のワックス単体の粒度分分布の測定は行わなかった。
表13に、ワックス単体の粒度分布の測定結果を示す。
インキ中のワックスのみの粒度分布を測定することは容易でないため、ワックス粒度分布測定用試料を作製し、当該試料中のワックスの粒度分布を測定した。本発明のインキ1‐3に対応するワックス粒度分布測定用試料は、次のように作製した。表1に示す本発明のインキ1‐3のインキ配合に記載する材料の内、ワックス及び酸化硬化型ワニスのみを使用し、実施例1の凹版インキの作製と同様の方法で作製した。本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2に対応するワックス粒度分布測定用試料は、次のように作製した。表1に示す本発明のインキ1‐3のインキ配合に記載する材料の内、ワックス及び酸化硬化型ワニスのみを使用し、実施例20及び実施例21の凹版インキの作製と同様の方法で作製した。次に、ワックス粒度分布測定用試料100mg及びアセトン20mLを蓋付ガラス瓶に入れ、超音波処理器により室温で2分間超音波分散し、分散液を作製した。次に、粒度分布計CILAS Granulometer 1064(シーラス)により、エタノール300mLでバックグラウンド測定をした後、ここへ、前述の分散液を加えて1分間超音波分散後に測定した。
表14に、ワックス粒度分布測定用試料におけるワックスの粒度分布の測定結果を示す。本発明のインキ1‐3に対応するワックス粒度分布測定用試料では、ワックスが3本ロールミルで練合されるため、小さい粒子径のワックス成分が比較的多くなる。一方、本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2に対応するワックス粒度分布測定用試料では、ワックスは練合する工程を経ないため、本発明のインキ1‐3に対応するワックス粒度分布測定用試料での粒度分より大きい粒子径の範囲に粒度分布を持つ。
実施例20及び実施例21で作製したミルベース、本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2の粘度及び降伏価を、実施例1と同様に測定した。
表15に、ミルベース、本発明のインキ1‐3(比較用)、本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2の粘度及び降伏価の結果を示す。本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2で作製したミルベースは、高い流動性を持つためビ一ズミルで問題なく製造できる。また、本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2は、本発明のインキ1‐3よりも高い流動性を持つ。これにより印刷機で問題なくインキの自動供給ができる。このように、流動性の高いミルベース及びインキを製造できる本発明により、インキ製造及び印刷における製造効率を向上できる。
本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2の動的弾性率の温度依存性を、実施例1と同様に測定した。ただし、事前に加熱する温度は70℃とし、70℃から測定した。
図12に、本発明のインキ1‐3(比較用)、本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2の貯蔵弾性率の温度依存性を示す。いずれのインキも30℃付近に掛けて大きなG'の上昇を示した。
表16に本発明のインキ1‐3(比較用)、本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2のG'(30℃)/G'(70℃)の値の結果を示す。いずれのインキも110より大きいG'(30℃)/G'(70℃)の値を示した。いずれのインキも同等のG'(30℃)/G'(70℃)の値を示した理由は、いずれのインキも同一のインキ配合であり、70℃においてワックスが融解した後は、同様な性状になったためと考えられる。
本発明のインキ1‐3‐P1及び本発明のインキ1‐3‐P2の耐裏移り性を、実施例1と同様に測定・評価した。
表17に、耐裏移り性の評価結果を示す。110以上の高いG'(30℃)/G'(70℃)の値を示したいずれのインキも「〇」の評価となった。
G' 動的弾性率の弾性成分(貯蔵弾性率)
G'' 動的弾性率の粘性成分(損失弾性率)
T 温度 [℃]
G'(T[℃]) T[℃]における貯蔵弾性率
G'(85℃) 85℃における貯蔵弾性率
G'(70℃) 70℃における貯蔵弾性率
G'(60℃) 60℃における貯蔵弾性率
G'(30℃) 30℃における貯蔵弾性率
d10 10%粒子直径
d50 50%粒子直径
d90 90%粒子直径
Claims (4)
- 酸化重合型凹版インキ組成物の全重量の15重量%から70重量%までの間の量の植物油及び変性植物油より成る群から選択される少なくとも一つの酸化硬化型ワニスと、前記インキ組成物の全重量の4重量%から30重量%までの間の量の50℃から85℃までの間に融解温度領域がある少なくとも一つの低融点ワックスと、少なくとも一つの顔料と、少なくとも一つの乾燥剤とを含む、酸化重合型凹版インキ組成物であって、
前記酸化重合型凹版インキ組成物を低融点ワックスの融解が起こる温度に加熱後、30℃にしたとき、前記低融点ワックスの融解が起こる温度における動的弾性率の弾性成分である貯蔵弾性率に対する、前記加熱後30℃における貯蔵弾性率が、110以上であることを特徴とする酸化重合型凹版インキ組成物。 - 加熱前の30℃で測定した粘度が、30Pa・sから500Pa・sまでの間にあることを特徴とする請求項1記載の酸化重合型凹版インキ組成物。
- 前記酸化重合型凹版インキ組成物中の前記低融点ワックスの10%粒子直径(d10)が1.0μm以上であり、かつ、50%粒子直径(d50)が5.0μm以上であり、かつ、90%粒子直径(d90)が65μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の酸化重合型凹版インキ組成物。
- 請求項1から請求項3いずれか一項に記載の前記酸化重合型凹版インキ組成物の製造方法であって、前記酸化硬化型ワニスに前記低融点ワックス及び前記乾燥剤を除く材料を混合して練合し、前記練合後に前記低融点ワックス及び前記乾燥剤を添加して混合することを特徴とする酸化重合型凹版インキ組成物の製造方法。
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