JP2021004400A - 片状黒鉛鋳鉄材およびその切削加工方法、ならびに片状黒鉛鋳鉄部材およびその製造方法 - Google Patents

片状黒鉛鋳鉄材およびその切削加工方法、ならびに片状黒鉛鋳鉄部材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】切削性に優れた片状黒鉛鋳鉄材と、該片状黒鉛鋳鉄材の高速での切削加工方法、ならびに片状黒鉛鋳鉄部材およびその製造方法を提供する。【解決手段】本発明の片状黒鉛鋳鉄材は、成分組成が、Al:0.005質量%〜0.015質量%、Ca:0.0005質量%〜0.02質量%、およびTi:0.005質量%〜0.025質量%を含む。【選択図】図8

Description

本発明は、片状黒鉛鋳鉄材およびその切削加工方法、ならびに片状黒鉛鋳鉄部材およびその製造方法に関する。特に本発明は、切削性に優れた片状黒鉛鋳鉄材と、該片状黒鉛鋳鉄材の切削加工方法、ならびに上記片状黒鉛鋳鉄材を用いて作製された片状黒鉛鋳鉄部材と、その製造方法に関する。
片状黒鉛鋳鉄は、強度と耐摩耗性を兼備した材料であるため、自動車部品、産業機械、圧縮機等の機械部品に用いられる。該機械部品の製造には、上記片状黒鉛鋳鉄の切削工程が含まれるため、片状黒鉛鋳鉄には切削性が求められる。片状黒鉛鋳鉄の切削性を高めた技術として、例えば特許文献1には、微量のMgを片状黒鉛鋳鉄に添加することで、工具摩耗を抑制できることが記載されている。また鋳鉄を対象とした技術ではないが、切削性の向上手段として、特許文献2に示される通りMg等を添加する方法や、鋼に硫黄を添加する方法が古くから提案されている。
特開2003−129167号公報 特開2009−30160号公報
片状黒鉛鋳鉄材に対して、フライス加工やエンドミル加工等の切削を施す場合、現状では、超硬質工具材料K種を素材とする工具を使用し、切削工具と片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が100m/min(分)から200m/minの範囲で加工が行われている。以下、「切削工具と片状黒鉛鋳鉄材の相対速度」を単に「切削速度」ということがある。
近年では、工具材の進歩や新たなコーティング皮膜の開発が進められており、特定の硬質皮膜の形成された超硬工具を用いることで、上記フライス加工やエンドミル加工を、200m/minを超えて250m/min程度の切削速度で行うことが実用化されつつある。しかしながら、より速い速度での切削、例えばアルミニウム合金を被削材とした場合の様に500m/minを超えるような高速での切削加工は実現できていない。本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、切削性に優れた片状黒鉛鋳鉄材と、該片状黒鉛鋳鉄材の切削加工方法、ならびに片状黒鉛鋳鉄部材およびその製造方法を提供することにある。
本発明の態様1は、成分組成が、
Al:0.005質量%〜0.015質量%、
Ca:0.0005質量%〜0.02質量%、および
Ti:0.005質量%〜0.025質量%を含む片状黒鉛鋳鉄材である。
本発明の態様2は、前記成分組成が、更に、
C :2.5質量%〜3.5質量%、
Si:1.5質量%〜2.5質量%、
Mn:0.5質量%〜1.0質量%、
P :0質量%超、0.1質量%以下、および
S :0質量%超、0.1質量%以下を含み、
残部が鉄および不可避不純物である態様1に記載の片状黒鉛鋳鉄材である。
本発明の態様3は、前記成分組成が、更に、Cu、Ni、Cr、Mo、Sn、Mg、Zn、Sb、B、PbおよびVよりなる群から選択される1種以上の元素を含む態様2に記載の片状黒鉛鋳鉄材である。
本発明の態様4は、態様1〜3のいずれかに記載の片状黒鉛鋳鉄材を用いて作製された片状黒鉛鋳鉄部材である。
本発明の態様5は、態様1〜3のいずれかに記載の片状黒鉛鋳鉄材を切削加工する方法であって、
切削工具として、超硬質工具材料P種を材料として用いた超硬質工具、チタンを含む硬質皮膜の被覆された超硬質被覆工具、またはサーメット工具を使用し、
前記切削工具と前記片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が400m/min以上の条件で、
フライス加工またはエンドミル加工を行う片状黒鉛鋳鉄材の切削加工方法である。
本発明の態様6は、態様4の片状黒鉛鋳鉄部材の製造方法であって、
態様1〜3のいずれかに記載の片状黒鉛鋳鉄材を用い、
切削工具として、超硬質工具材料P種を材料として用いた超硬質工具、チタンを含む硬質皮膜の被覆された超硬質被覆工具、またはサーメット工具を使用し、
前記切削工具と前記片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が400m/min以上の条件で、
フライス加工またはエンドミル加工を行う切削工程を含む片状黒鉛鋳鉄部材の製造方法である。
本発明によれば、切削性に優れた片状黒鉛鋳鉄材と、該片状黒鉛鋳鉄材の切削加工方法、ならびに片状黒鉛鋳鉄部材およびその製造方法、特には、切削速度400m/min以上での切削が可能な片状黒鉛鋳鉄材と該片状黒鉛鋳鉄材の切削加工方法を提供できる。
図1Aは、切削速度が400m/minの場合の、Al量が工具の逃げ面摩耗量に及ぼす影響を、切削速度別に示したグラフである。 図1Bは、切削速度が800m/minの場合の、Al量が工具の逃げ面摩耗量に及ぼす影響を、切削速度別に示したグラフである。 図1Cは、切削速度が1200m/minの場合の、Al量が工具の逃げ面摩耗量に及ぼす影響を、切削速度別に示したグラフである。 図2Aは、切削速度が400m/minの場合の、Ca量が工具の逃げ面摩耗量に及ぼす影響を、切削速度別に示したグラフである。 図2Bは、切削速度が800m/minの場合の、Ca量が工具の逃げ面摩耗量に及ぼす影響を、切削速度別に示したグラフである。 図2Cは、切削速度が1200m/minの場合の、Ca量が工具の逃げ面摩耗量に及ぼす影響を、切削速度別に示したグラフである。 図3Aは、切削速度が400m/minの場合の、Ti量が工具の逃げ面摩耗量に及ぼす影響を、切削速度別に示したグラフである。 図3Bは、切削速度が800m/minの場合の、Ti量が工具の逃げ面摩耗量に及ぼす影響を、切削速度別に示したグラフである。 図3Cは、切削速度が1200m/minの場合の、Ti量が工具の逃げ面摩耗量に及ぼす影響を、切削速度別に示したグラフである。 図4は、本発明の片状黒鉛鋳鉄材の金属組織の顕微鏡観察写真である。 図5は、実施例における、切削速度が400m/minのときの、切削長と工具の逃げ面摩耗量の関係を、試料別に表したグラフである。 図6は、実施例における、切削速度が800m/minのときの、切削長と工具の逃げ面摩耗量の関係を、試料別に表したグラフである。 図7は、実施例における、切削速度が1200m/minのときの、切削長と工具の逃げ面摩耗量の関係を、試料別に表したグラフである。 図8は、実施例における、切削速度と5m切削加工後の工具の逃げ面摩耗量の関係を試料別に表したグラフである。
本発明者らは、切削性に優れた片状黒鉛鋳鉄材と、該片状黒鉛鋳鉄材の高速での切削加工方法、ならびに片状黒鉛鋳鉄部材およびその製造方法、特には切削速度400m/min以上での切削が可能な片状黒鉛鋳鉄材と、該片状黒鉛鋳鉄材の切削加工方法を実現すべく鋭意研究を重ねた。特に本発明者らは、工具摩耗を低減するような機能を鋳鉄材料側に付与する観点から、片状黒鉛鋳鉄材の成分組成について検討を行った。
その結果、特定量のAl、CaおよびTiを含む成分組成を有する片状黒鉛鋳鉄材を被削材とし、切削工具として、超硬質工具材料P種を材料として用いた超硬質工具、TiAlNのようなチタンを含む硬質皮膜の被覆された超硬質被覆工具、またはサーメット工具を使用し、フライス加工またはエンドミル加工を行えば、切削速度が400m/min以上の高速条件であっても工具摩耗を抑制できることを見出した。
以下、片状黒鉛鋳鉄材の成分組成から説明する。本発明の片状黒鉛鋳鉄材は、成分組成が、Al:0.005質量%〜0.015質量%、Ca:0.0005質量%〜0.02質量%、およびTi:0.005質量%〜0.025質量%を含む。以下、各元素について説明する。
Al:0.005質量%〜0.015質量%
まず本発明者らは、Al量が種々の片状黒鉛鋳鉄材を用い、切削工具と片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が400m/min、800m/min、1200m/minのそれぞれの条件で、切削長5mの切削加工試験(その他の切削加工試験の条件は、後記する実施例に記載の条件と同じ)を行い、切削加工後の工具の逃げ面摩耗量を測定した。その結果を図1A〜図1Cに示す。
図1A〜図1Cから、切削速度が400m/minの場合は、Al量が逃げ面摩耗量に及ぼす影響はみられなかったが、切削速度が800m/min、1200m/minと速い場合、Al量の増加につれて逃げ面摩耗量が低下する傾向にあることを見出した。上記の通り、Alは、工具摩耗の抑制に寄与する元素である。またAlは、黒鉛化傾向の強い元素であり、片状黒鉛鋳鉄製造時の黒鉛化促進に寄与する元素である。
上記Alの効果を発揮させるため、本発明ではAl量を0.005質量%以上とする。Al量は、好ましくは0.006質量%以上、より好ましくは0.008質量%以上である。なお従来、黒鉛化の促進を目的に、接種剤であるFe−Si合金を添加する接種工程で、接種剤としてAlを含む合金が用いられる場合があったが、この場合のAl量は0.005質量%未満に抑えられていた。
一方、Alの含有量が過剰になると、黒鉛の粗大化や片状黒鉛鋳鉄のパーライト組織がフェライト化しやすくなり、機械的強度の低下、種々の鋳造欠陥の原因となる。よって、Al量は0.015質量%以下とする。Al量は、好ましくは0.014質量%以下、より好ましくは0.013質量%以下である。
Ca:0.0005質量%〜0.02質量%
Caは、アルミナ等の硬質介在物を軟質化して工具摩耗を抑制する作用を発揮する。またCaは、MnSを球状化する作用によって、圧延直角方向の靭性向上に寄与する。
Ca量が種々の鋳鉄を用い、切削工具と片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が400m/min、800m/min、1200m/minのそれぞれで、切削長5mの切削加工試験(その他の切削加工試験の条件は、後記する実施例に記載の条件と同じ)を行い、切削加工後の工具の逃げ面摩耗量を測定した。その結果を図2A〜図2Cに示す。図2A〜図2Cから、いずれの切削速度においても、Ca量の増加に伴い逃げ面摩耗量の低下がみられた。Caの該効果を発揮させるため、本発明ではCaを0.0005質量%以上含有させる。好ましくはCa量を0.0009質量%以上とする。一方、Caを過剰に含有させると、介在物量が増大して片状黒鉛鋳鉄の延性と靭性が低下するため、Ca量は0.02質量%以下、好ましくは0.010質量%以下とする。
特許文献1には、微量のAlとMgを併せて添加すればよい旨記載されている。しかしながら本発明は特に、上記量のAlと共に特にCaを含有させ、かつTi量を下記に詳述する範囲内とすることにより、微量のAlとMgを併せて添加した特許文献1の場合よりも格段に、高速での切削性を向上させることができる。
Ti:0.005質量%〜0.025質量%
本発明者らは、Tiについても、上記AlやCaの場合と同様に、Ti量が工具の逃げ面摩耗量に及ぼす影響について検討した。詳細には、Ti量が種々の片状黒鉛鋳鉄材を用い、切削工具と片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が400m/min、800m/min、1200m/minのそれぞれで、切削長5mの切削加工試験(その他の切削加工試験の条件は、後記する実施例に記載の条件と同じ)を行い、切削加工後の工具の逃げ面摩耗量を測定した。その結果を図3A〜図3Cに示す。図3A〜図3Cから、切削速度が400m/min、800m/minの場合は、Ti量の増加と逃げ面摩耗量の関係について相関がややみられたのに対し、切削速度が1200m/minの場合には、Ti量と逃げ面摩耗量の関係に十分な相関がみられ、Ti量の増加に伴って逃げ面摩耗量が増加することがわかった。これは、Ti量が増大すると、硬質の炭化物が生成して被削性が低下するためと考えられる。よって本発明では、Ti量を0.025質量%以下、好ましくは0.022質量%以下、より好ましくは0.020質量%以下、更に好ましくは0.015質量%以下、より更に好ましくは0.010質量%以下とする。なお、結晶粒の異常成長を抑制する効果を発揮させる観点から、Ti量は0.005質量%以上とする。
上記以外の成分については、従来の片状黒鉛鋳鉄材の組成と同様とすることができる。例えば成分組成を、上記量のAl、CaおよびTiを含むとともに、
C:2.5質量%〜3.5質量%、
Si:1.5質量%〜2.5質量%、
Mn:0.5質量%〜1.0質量%、
P:0質量%超、0.1質量%以下、および
S:0質量%超、0.1質量%以下を含み、残部が鉄および不可避不純物とすることができる。前記成分組成のうち、Si量は2.1質量%以下であることがより好ましい。
上記のC、Si、Mn、P、Sの各元素が切削性に及ぼす影響について、高速での切削加工試験を行って検討した。なお切削加工試験は、切削工具と片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が400m/min、800m/min、1200m/minのそれぞれの条件で、切削長5mの切削加工試験(その他の切削加工試験の条件は、後記する実施例に記載の条件で切削加工試験と同じ)を行った後の工具の逃げ面摩耗量を測定した。
その結果、Mnは、その含有量が高くなると、摩耗が多くなる傾向にあった。よって本発明では、Mn量を、上記の通り1.0質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.80質量%以下、更に好ましくは0.70質量%以下である。
また、上記元素のうち、P量が多くなると摩耗量が増加する傾向にあった。よってP量は、上記の通り0.1質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.08質量%以下、更に好ましくは0.06質量%以下、より更に好ましくは0.04質量%以下である。
上記元素のうちSは、一般に被削性向上に有効な元素と言われている。よってS量は、上記の通り0質量%超とすることが好ましく、より好ましくは0.010質量%以上、更に好ましくは0.020質量%以上である。また、鋳造欠陥の発生防止の観点から、S量は0.1質量%以下とすることが好ましい。本発明者らが確認したところ、切削速度が400〜1200m/minの高速でフライス加工を行った場合、S量と摩耗量との間に相関がみられなかった。このことから、高速切削を行う場合には、S量の制御よりも、上述したAl、TiおよびCaの3元素の含有量を制御することが有効であることがわかった。
好ましい実施形態の1つとして、残部が鉄および不可避不純物の場合が挙げられる。不可避不純物としては、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる微量元素の混入が許容される。なお、例えば、上記Pのように、通常、含有量が少ないほど好ましく、従って不可避不純物であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避不純物」という場合は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
本発明の片状黒鉛鋳鉄材の特性を維持できる限り、任意のその他の元素を更に含んでいてもよい。上記その他の元素として、例えばCu、Ni、Cr、Mo、Sn、Mg、Zn、Sb、B、Pb、Vが挙げられる。
このうち、前記Cuの含有量は、0.2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以下である。Crの含有量は、0.050質量%以下であることが好ましく、0.040質量%以下であることがより好ましい。Moの含有量は0.01質量%以下であることが好ましい。Snの含有量は0.01質量%以下であることが好ましい。Sbの含有量は0.01質量%以下であることが好ましい。上記元素の含有量の範囲内において、各元素の含有量は切削性と相関性が低く、切削性に悪影響を及ぼさないことを確認した。なお本発明では、所定量のAl、CaおよびTiを含むことを前提に、Mgが任意に含まれていてもよい。
本発明の片状黒鉛鋳鉄材は、例えば機械部品等に用いられる場合を想定し、JIS 5501(1995)に示された機械的特性を有することが好ましい。すなわち引張強さは250MPa以上であることが好ましく、かつブリネル硬さは241HB以下であることが好ましい。
本発明には、上記片状黒鉛鋳鉄材の切削加工方法も含まれる。該片状黒鉛鋳鉄材の切削加工方法は、上述した成分組成を満たす片状黒鉛鋳鉄材を用い、(i)超硬質工具材料P種を材料として用いた超硬質工具、(ii)チタンを含む硬質皮膜の被覆された超硬質被覆工具、または(iii)サーメット工具を使用し、前記切削工具と前記片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が400m/min以上の条件で、フライス加工またはエンドミル加工を行うことに特徴がある。
前記相対速度は、更には800m/min以上、より更には1000m/min以上とすることができる。本発明の切削加工方法によれば、切削加工に要する時間を、従来の片状黒鉛鋳鉄材を被削材とた場合よりも短縮でき、結果として、機械部品等の片状黒鉛鋳鉄部材の生産性を高めることができる。
前記(i)の超硬質工具は、基材が超硬質工具材料P種で形成されていればよく、コーティングの有無は問わない。前記コーティングとして、例えばTi(C,N)系硬質皮膜が挙げられる。前記(ii)のチタンを含む硬質皮膜の被覆された超硬質被覆工具は、基材が超硬合金で形成され、コーティングがチタンを含む硬質皮膜である。基材が例えばWC及びCoを主成分とする超硬合金であって、K種、P種、M種のものが挙げられる。また、前記チタンを含む硬質皮膜として、Tiの炭化物(TiC)、窒化物(TiN)、炭窒化物(TiCN)、TiAlNを、単層で設けてもよいし、複数層を積層してもよい。前記(iii)サーメット工具としては、基材がサーメットで形成されていればよく、コーティングの有無は問わない。前記サーメット工具として、基材が、例えばTiC、TiNやTiCNを主成分とするものが挙げられる。また前記サーメット工具は、上記基材の表面に、更にTi(C,N)系硬質皮膜が形成されたものであってもよい。
切削加工における上記以外の条件として、例えば、径方向の切り込み:工具直径まで(例えば工具直径100mmまで)、送り速度:例えば0.3mm/rev以下、潤滑方式:乾式、湿式(ただし切削速度が800m/min以上の場合、好ましくは乾式)等が挙げられる。
本発明の片状黒鉛鋳鉄材は、以下の切削性を有する。すなわち、本発明の片状黒鉛鋳鉄材を用い、超硬質工具材料P種を材料として用いた超硬質工具、チタンを含む硬質皮膜の被覆された超硬質被覆工具、またはサーメット工具を使用し、前記切削工具と前記片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が400m/min以上の条件で、フライス加工またはエンドミル加工を5m行ったときに、工具の逃げ面摩耗量が120μm以下に抑えられる。前記逃げ面摩耗量は好ましくは110μm以下、より好ましくは100μm以下である。
本発明の片状黒鉛鋳鉄材を、例えば自動車部品、産業機械、圧縮機等の機械部品といった片状黒鉛鋳鉄部材の製造に適用すれば、該部材の生産性を向上させることができる。
本発明の片状黒鉛鋳鉄材は、一般的に行われている方法で製造することができる。例えば溶湯に対し、後記する実施例に示すようなFe−Ca−Siを接種剤として添加し、更に成分組成を調製してから、溶湯を鋳型に鋳込んで製造することができる。
本発明には、上記片状黒鉛鋳鉄材を用いて得られる片状黒鉛鋳鉄部材も含まれる。該片状黒鉛鋳鉄部材として例えば、自動車部品、産業機械、圧縮機等の機械部品が挙げられる。
また本発明には、本発明の片状黒鉛鋳鉄材を用い、上記条件で切削を行う切削工程を含む、上記片状黒鉛鋳鉄部材の製造方法も含まれる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
1.サンプル作製
(1)1500kgのFC250(ねずみ鋳鉄)の溶湯に、Alを1.6kg加えた。
(2)FCD用取鍋底にFe−Ca−Siを16kg設置し、その上部に、下記表1に示す成分組成(残部はFeおよび不可避不純物)のカタンコロ(可鍛コロ)1およびカタンコロ2を混ぜたものを被せて設置してから、上記(1)の溶湯500kgを投入して、各成分につき、100mm×100mm×200mmのAs Cast素材を3つ製造した。前記Fe−Ca−Siとして、粒度が直径5〜10mmのものを使用した。そして前記素材3つを、550〜580℃で5時間保持した後、ヒーターの電源を切って炉冷を行って、表2に示す成分組成の片状黒鉛鋳鉄材のサンプルを得た。なお、表2において空欄は、その元素が含まれていないことを示す。
Figure 2021004400
Figure 2021004400
2.金属組織
1例として、表2のNo.6のサンプルについて、光学顕微鏡を用いて金属組織を観察した。その顕微鏡観察写真を図4に示す。
3.材料試験
一部のサンプルについては、前記サンプル3個のうち1個を用いて、ブリネル硬さを測定した。
(ブリネル硬さ)
JIS法に基づきブリネル硬さを測定した。ブリネル硬さは、黒皮が存在したままの部分と、黒皮を除去した部分の両方について測定した。このうち、黒皮除去部の硬さを1か所または2か所測定した結果を表3に示す。なお、表3におけるNo.4の「129」は黒皮除去後の表層部の硬さであり、カッコ内の数値「138」は黒皮が存在したままでの硬さである。
Figure 2021004400
4.切削加工試験
上記得られた片状黒鉛鋳鉄材を用い、下記表4に示す条件でエンドミル加工を行って工具摩耗の進行状況を調査した。詳細には、切削速度が400m/min、800m/min、1200m/minのそれぞれにおいて、切削長1m、2m、3m、4m、5mでの工具の逃げ面摩耗量を、試料別に求めた。その結果として、切削速度が400m/minのときの、切削長と工具の逃げ面摩耗量の関係を試料別に表したグラフを図5に、切削速度が800m/minのときの、切削長と工具の逃げ面摩耗量の関係を、試料別に表したグラフを図6に、また、切削速度が1200m/minのときの、切削長と工具の逃げ面摩耗量の関係を、試料別に表したグラフを図7に示す。更に、上記結果から、切削速度と5m切削加工後の逃げ面摩耗量の関係を試料別に表したグラフを図8に示す。
Figure 2021004400
上記表2と、図5〜8の切削加工試験の結果に示される通り、本発明で規定する成分組成を満たす片状黒鉛鋳鉄材を被削材とすれば、所定の切削工具を用い、切削速度を400m/min以上と高めた高速切削を実施した場合であっても、工具の摩耗を抑制できた。このことから、本発明で規定する成分組成を満たす片状黒鉛鋳鉄材を被削材とし、所定の条件で切削すれば、機械部品等の片状黒鉛鋳鉄部材を生産性良く製造できることがわかる。

Claims (6)

  1. 成分組成が、
    Al:0.005質量%〜0.015質量%、
    Ca:0.0005質量%〜0.02質量%、および
    Ti:0.005質量%〜0.025質量%を含む片状黒鉛鋳鉄材。
  2. 前記成分組成が、更に、
    C :2.5質量%〜3.5質量%、
    Si:1.5質量%〜2.5質量%、
    Mn:0.5質量%〜1.0質量%、
    P :0質量%超、0.1質量%以下、および
    S :0質量%超、0.1質量%以下を含み、
    残部が鉄および不可避不純物である請求項1に記載の片状黒鉛鋳鉄材。
  3. 前記成分組成が、更に、Cu、Ni、Cr、Mo、Sn、Mg、Zn、Sb、B、PbおよびVよりなる群から選択される1種以上の元素を含む請求項2に記載の片状黒鉛鋳鉄材。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の片状黒鉛鋳鉄材を用いて作製された片状黒鉛鋳鉄部材。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載の片状黒鉛鋳鉄材を切削加工する方法であって、
    切削工具として、超硬質工具材料P種を材料として用いた超硬質工具、チタンを含む硬質皮膜の被覆された超硬質被覆工具、またはサーメット工具を使用し、
    前記切削工具と前記片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が400m/min以上の条件で、
    フライス加工またはエンドミル加工を行う片状黒鉛鋳鉄材の切削加工方法。
  6. 請求項4の片状黒鉛鋳鉄部材の製造方法であって、
    請求項1〜3のいずれかに記載の片状黒鉛鋳鉄材を用い、
    切削工具として、超硬質工具材料P種を材料として用いた超硬質工具、チタンを含む硬質皮膜の被覆された超硬質被覆工具、またはサーメット工具を使用し、
    前記切削工具と前記片状黒鉛鋳鉄材の相対速度が400m/min以上の条件で、
    フライス加工またはエンドミル加工を行う切削工程を含む片状黒鉛鋳鉄部材の製造方法。
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