JP2020200879A - 摩擦部材 並びにこれを具えた構造物 - Google Patents
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Abstract
Description
互いに直交する二つの軸を第1軸と第2軸とし、
第2軸に平行な複数の摩擦要素体を、第1軸方向に接触状態で連設して成る摩擦要素群と、
この摩擦要素群を連設方向たる第1軸方向において適宜の圧力で加圧して成る圧接構造と、
前記摩擦要素体の連設状態を維持しながら摩擦要素群の剪断変形を許容する剪断変形許容構造とを具え、
前記摩擦要素群が、摩擦要素体の摩擦面と直交方向または平行な方向に剪断変形した際、各摩擦要素体が連設状態を維持したまま接触面たる摩擦面において相対的に変位し、互いに擦れ合って摩擦抵抗を発生する構成であることを特徴として成るものである。
前記摩擦要素群には、少なくとも先端部にネジ部を有する貫体が、摩擦要素体の連設方向たる第1軸方向に貫通されて成り、貫通後、当該ネジ部にナットが螺合されて、前記圧接構造が実現されることを特徴として成るものである。
前記第1軸は水平軸(X軸)であり、且つ前記第2軸は垂直軸(Y軸)であり、更に前記摩擦要素群は、摩擦要素体を水平方向に連続して並べるように設けられ、且つまた摩擦要素群の剪断変形は、摩擦要素体の摩擦面に直交する方向の剪断変形であることを特徴として成るものである。
前記第1軸は垂直軸(Y軸)であり、且つ前記第2軸は水平軸(X軸)であり、更に前記摩擦要素群は、摩擦要素体を垂直方向に積層するように並べて設けられ、且つまた摩擦要素群の剪断変形は、摩擦要素体の摩擦面に平行な方向の剪断変形であることを特徴として成るものである。
前記摩擦要素群は、構造物の荷重を受けるように構造物の下側に設けられ、前記圧接構造は、構造物の重量で摩擦要素群を加圧する構造であることを特徴として成るものである。
前記請求項1〜5のいずれか1項記載の摩擦部材を具えたことを特徴として成るものである。
前記摩擦部材には、
複数の板材を垂直方向に積層し、この内部を、少なくとも先端部にネジ部を有した貫体を貫通させ、貫通後、当該ネジ部にナットを螺合させて、前記積層した複数の板材を上下方向から締め付けるようにした積層柱を、併せて設けるようにしたことを特徴として成るものである。
まず請求項1、3、4のいずれか1項記載の発明によれば、摩擦部材は、変形の際、摩擦要素群が剪断変形するため(曲げ変形しないため)弾性化しない。このため変形時に外部から摩擦部材に入力されるエネルギーは、摩擦部材に蓄積されず、全て摩擦抵抗によって摩擦熱に変換される。従って摩擦部材を建物の横架材や柱(既存の横架材や柱)に連結しておけば、塑性剛性の構造体が形成でき、塑性剛体として建物の剛性を担う。
また摩擦部材は、外力により変形(剪断変形)しても元の形に戻り、元通りの塑性剛性を保持することができる。つまり摩擦部材は、疲労損傷することなく、反復変形を繰り返すものである。そのため摩擦部材を建物の横架材や柱に連結すると、振動を減衰させる制振部材としても機能する。一方、このような摩擦部材に対し、土壁・プラスターボード・木製合板などの壁は、限界を越えた変形(塑性変形)をすると、元の形に戻ることも、元通りの剛性を保持することもできない。
また、摩擦要素群の内部は、摩擦要素体で埋め尽くされており、全ての摩擦要素体が、摩擦面として摩擦抵抗を発生するため、設置容積当たりの摩擦抵抗の総量が非常に大きなものとなる。また、摩擦部材は、大小の壁に設置可能であり、壁そのものとしても設置できるため、非常に大きな抵抗総量を建物等に付加できる。このように本発明の摩擦部材は、大きな剛性と減衰力を建物等に付加できるものである。
また、摩擦部材は、受ける剪断変形が大きいほど、摩擦抵抗が大きくなり、この特性を利用して、建物等の変形制限部材として機能させることができる。
また、摩擦要素体は、形や構造がシンプルに形成でき、摩擦部材全体として安価に、且つ容易に製作することができる。
また上記貫体は、摩擦部材(摩擦要素群)の変形限定部材として機能させることができる。すなわち、摩擦要素群は、一定以上、剪断変形すると、摩擦抵抗が急激に増大する。その結果、摩擦部材(摩擦要素群)を具える建物等は、事実上、一定以上には傾かなくなるものであり、貫体を変形限定部材として機能させることができる。すなわち地震によって建物は適宜の加速度を受けて、剪断変形する。この際、地震の加速度が建物に与える力と、摩擦部材(摩擦要素群)の抵抗値とが釣り合うときがあり、これが貫体の変形限定部材機能となる。
また地震による建物への力は、建物の重量に比例する。従って、振動減衰部材に要求される減衰力は、建物の重量に影響されるが、上記圧接構造を有した摩擦部材の摩擦抵抗は、建物の重量が大きいほど大きくなる。そのため、このような摩擦部材を摩擦ダンパーとして、建物の重量に合わせてバランスよく配置することが可能になる。しかも、工事後に建物の重量が変わっても、変更後の重量に適合するように自動的に減衰力が変化する点も長所である。
振動に対する各種の構造物の挙動や、構造物に付加する様々な要素部材の効果を研究するために、種々の実験が行われており、とりわけ実物大の構造物で実験することが有効である。ここで積層柱は、純粋な弾性体として形成され、且つこの積層柱は、ネジ部に螺合させるナットのトルク(締め付けトルク)によって、弾性係数を任意に設定することができる。そのため構造物の柱をこの積層柱で形成するとともに、壁を純粋な塑性剛体で構成し、更にこの壁についても、その特性を任意に設定可能とすることにより、上記実験における条件を整えることができ、構造物の諸要素や制振部材に関するデータを正確に取得することができる。
一方、摩擦部材1の連設形態としては、このような垂直式の他、例えば上記図2に示すように、第1軸が垂直軸(Y軸)に設定され、且つ第2軸が水平軸(X軸)に設定されたものも挙げられる。この形態は各摩擦要素体21を横置き状に積層(連設)して行くことに因み、本明細書では「水平式」と称するものである。ここで上記記載の「縦」とは垂直方向(上下方向)を指し、「横」とは、「縦」に直交する水平方向を意味する。以下、摩擦部材1の代表例となる上記二種の摩擦部材1について更に説明する。なお、垂直式と水平式を区別する場合には、末尾符号A、Bを付して区別するものとする。具体的には垂直式の摩擦部材を1A、水平式の摩擦部材を1Bとする。
垂直式の摩擦部材1Aは、上述したように縦置き姿勢の複数の摩擦要素体21が水平方向に連続して接触するように設けられて、摩擦要素群2を構成する。すなわち摩擦要素群2は、上記図1に示すように、初期設置状態では(変位を生じない常態にあっては)、隣接する摩擦要素体21が、互いの摩擦面22を当接させるように設けられる(連設状態)。また、このような設置態様を採るため、摩擦要素体21は、規則正しく並べて配設されるものであり、このような状態を整列状態と称することがある。
また、この摩擦要素群2には、少なくとも本体部31の先端側にネジ部32を有する貫体3が、水平方向(摩擦面22に直交する方向)に貫通状態に設けられる。そして貫通後に当該ネジ部32にナット33が螺合され、これにより摩擦要素体21は、適宜の圧接状態で取り付けられる(摩擦面22同士を圧接し合うように取り付けられる)。すなわち、ここではナット33を具えた貫体3によって圧接構造M1が実現されている。なお、本実施例では、貫体3としてボルトを図示しているが、貫体3は必ずしもボルトで形成される必要はない。
ここで図中符号24は、摩擦要素体21に開口された貫通用孔であり、これは貫体3を通すための孔である。この貫通用孔24は、当然ながら貫体3(本体部31)よりも大きいサイズに形成されるものであり、貫体3の断面の大きさと、貫通用孔24の大きさとの差が大きいと、剪断変形時、摩擦要素体21の相対変位量に偏差をもたらすが、摩擦抵抗の大きさには影響しない。
建物等の構造物Sは、地震エネルギーを受けると揺れ、構造材である上下の横架材Bが、平行に相対変位する(逆方向に平行移動する)。ここで本実施例では柱状の端部材23が、横架材Bに連結されているため、この横架材Bの相対変位に連動して、図1(b)に示すように、端部材23も傾斜する。次いで、端部材23の傾斜により、この端部材23に押されるようにして、摩擦要素群2も全体的に傾斜し、剪断変形する。具体的には図中に示す変位A・変位Bの剪断変形を交互に行う。
より詳細には、摩擦要素群2は、摩擦要素体21の摩擦面22と直交方向(水平方向)に剪断変形するものであり、この際、各摩擦要素体21が互いの連設状態を維持したまま接触面たる摩擦面22において相対的に変位し、相互に擦れ合って摩擦抵抗を発生する。そして、この摩擦熱によって地震エネルギーを吸収するものである。
また、変位Bの剪断変形は、摩擦要素群2の上部が図中の左方向に平行移動するような剪断変形(傾斜変形)であり、傾斜した個々の摩擦要素体21は、拡大図に示すように、端面(ここでは上端面)がずれるような擦れ合いを生じる。
なお変位に付したA・Bの符号は、変位(摩擦要素体21の移動態様)を区別するために便宜的に付した符号であり、必ずしもこの順番で変位が起こるものではない。このため常態→変位B→常態→変位A→常態→変位B→・・・という反復も当然あり得る。
なお、高い剛性を有する端部材23としては、一例として図3(a)の(i)・(ii)に示すように、H形鋼(I形鋼)やC字の溝形鋼(いわゆるCチャン)の適用も可能である。
剪断変形許容構造M2は、上下の横架材Bが相対変位したとき、摩擦要素群2が連設状態を維持しながら剪断変形し得るようにする構造であり、本実施例では主としてナット33を含めた貫体3が、この作用を担っている。このため摩擦要素群2は、剪断変形を受けてもバラバラに分散してしまうことや分離してしまうことがないものである。なおナット33の締め付けトルクを小さくすると(弱く締め込むと)、摩擦要素体21同士の圧接力が弱まり、摩擦抵抗としても小さくなる。また、ナット33の締め付けトルクを小さくした場合には、摩擦要素群2の剪断変形が生じ易くなる(小さい外力でも剪断変形が起こる)。一方、ナット33の締め付けトルクを大きくすると(強く締め込むと)、摩擦要素体21同士の圧接力が強まり、摩擦抵抗としても大きくなる。また、この場合、摩擦要素群2の剪断変形が生じ難くなる(小さい外力では剪断変形が起こり難くなる)。このように本実施例では、ナット33を含む貫体3が、圧接構造M1のみならず剪断変形許容構造M2にも大きく関与する構造となっている。
因みに、剛性の高い端部材23を用いた場合であっても、この端部材23を上下の横架材Bに対し全ての接合点で剛接合(接合部が変形しない接合)してしまうと、横架材Bが相対変位した場合、端部材23自体が曲がってしまい(傾斜せず)、摩擦要素群2に剪断変形が伝達できないため、端部材23の少なくとも一カ所を横架材Bに対しピン接合することが必要であり、このようなことも剪断変形許容構造M2に包含される。
また、貫体3は剪断変形時に上下方向に移動するものであり、この移動によって摩擦要素群2は、各摩擦要素体21の変位が均等化される。つまり貫体3は、各摩擦要素体21の変位を均等化する機能(構造)も有しており、本明細書ではこれを変位均等化構造(または変位均等化機能)と称することがある。このように貫体3は、種々の機能(作用)を兼ね具える。
また図1の実施例では、ボルト頭部やナット33を端部材23の端面から突出した状態でネジ止めした状態を示しているが、例えば図1(b)の部分図に示すように、ボルト頭部やナット33は、端部材23の内部に収めることも可能である。
更に図1の実施例では、貫体3は二本設けていたが、この数は例えば摩擦要素群2の高さ寸法等によって適宜変更可能であり、三本以上用いることも可能である。ただし貫体3が一本だけでは、摩擦要素体21の連設状態を維持できないことが考えられるので(特に剪断変形時)、一基の摩擦要素群2に対し貫体3は、少なくとも二本用いることが好ましい。
因みに、上記のように摩擦面22を噛み合い構造とした場合には、この噛み合い構造によって個々の摩擦要素体21の連設状態が維持されるため(噛み合い構造が連設維持構造として機能し、剪断変形許容構造M2を実現するため)、貫体3は必ずしも必要ではない。ただし、貫体3を省略した場合には、他の圧接構造M1、例えば前述したような弾性体3Aを併用する必要がある(上記図3(d)参照)。
なお、ナット33を含めた貫体3や上記噛み合い構造以外の連設維持構造としては、整列状態の摩擦要素体21を収納するケーシングやケージ等も考えられる。
ここで本図中の左側の柱材は、建物に設けられた既設の柱Cであり、図中右側の柱材は、曲がり梁に合わせた新設の柱(または端部材23)である。こここで新設の柱(または端部材23)の上下は、下横架材Bと曲がり梁とに対して、例えば図示のようなL字金具を適用した固定部材41で強固に接合することが可能である。
すなわち地震によって建物等の構造物Sは適宜の加速度を受け、剪断変形するものである。この際、地震の加速度が建物等の構造物Sに与える力と、摩擦部材1A(摩擦要素群2)の抵抗値とが釣り合うときがある。このことは貫体3が変形限定機能として作用することを意味する。もちろん圧接構造M1として、ゴム素材やスプリングで形成された弾性体3Aを使用した場合には、このような変形限定機能は発生しない。
摩擦係数は、特定の周期成分にだけ作用するのではなく、全ての周期成分に作用するため、摩擦部材1Aの剛性は低下する。このため摩擦部材1Aは、作動時より静止時の方が、1〜2割ほど剛性が大きい。
一方、摩擦部材1Aは、剪断変形しても、地震による外力が復元力となり元の形に戻るため、疲労損傷することなく、反復変形を繰り返すことができる。そして、反復変形によって摩擦抵抗を発生する。そのため摩擦部材1Aは、上記横架材Bまたは柱Cに連結すると、建物(構造物S)の振動に連動し、反復変形を繰り返して摩擦抵抗を発生し、振動減衰部材として構造物Sの振動を減衰させるのである。
すなわち摩擦部材1Aに水平方向の剪断力が加わるとき、上下の端部が横架材Bにピン接合されていれば、各摩擦要素体21の下端部から上端部まで相対変位し、その結果として外力の全てが摩擦抵抗によって熱エネルギーに変換される。しかし、いずれか一方の端部が、横架材Bに剛接合されていれば、摩擦要素群2の1/2が弾性変形する。そのため、摩擦抵抗の大きさは1/2になる。残りの1/2は、弾性エネルギーとなって摩擦要素群2に蓄積される。
上下とも横架材Bに剛接合されていれば、全ての摩擦要素群2が同一形状に変形するため相対変位しない。よって摩擦抵抗は発生しない。全ての仕事が弾性エネルギーとなって摩擦要素群2に蓄積される。
因みに、後述する水平式の摩擦部材1Bにおいては、このような問題は発生しない。ただし、水平式の摩擦部材1Bであっても、例えば摩擦要素群2を貫通する貫体3自体が、剪断変形時に弾性変形すれば、当該部材には弾性エネルギーが蓄積される。
水平式の摩擦部材1Bは、上記図2に示すように、横置き姿勢の複数の摩擦要素体21を上下方向に連続して接触するように設けて、摩擦要素群2を構成する。すなわち摩擦要素群2は、各摩擦要素体21が下方から上方に積み上げられるように積層されて成る。この水平式においても、各摩擦要素体21は、上下方向において隣接する互いの摩擦面22同士を当接させるように設けられる(連設状態)。またこのような設置態様であるため、摩擦要素体21は、上下方向に規則正しく並べて配設されるものである(整列状態)。
また、この摩擦要素群2にも、垂直式の摩擦部材1Aと同様に、少なくとも本体部31の先端側にネジ部32を有した貫体3が貫通状態に設けられる。すなわち水平式の摩擦部材1Bにおいては、貫体3は、摩擦要素体21の摩擦面22に直交する垂直方向に設けられる。もちろん貫通後には、ネジ部32にナット33が螺合されるものであり、これにより摩擦要素体21は、適宜の力で加圧した状態に取り付けられる(摩擦面22同士を圧接し合うように取り付けられる)。このように本実施例においてもナット33を有する貫体3が、圧接構造M1を担うものである。
また図2(b)は、この水平式の摩擦部材1Bを、建物等の構造物Sに取り付けた様子(一例)であり、下側の端部材23として建物における下の横架材Bを利用して摩擦部材1Bを取り付けている。一方、上側の端部材23は、建物の構造材である既存の柱C(または新たに設けた柱)に対しスライド自在(垂直方向のスライド)に連結している。これは、上側の端部材23が、摩擦要素群2の剪断変形によって上下方向(垂直方向)に移動するためである。また、摩擦要素群2は、建物の二本の既設柱C(または新たに設けた二本の柱)の間に、当接状態で設置されている。
そして、摩擦要素群2が、摩擦要素体21の摩擦面22と平行な方向(水平方向)に剪断変形した際、各摩擦要素体21が連設状態を維持したまま接触面たる摩擦面22において相対的に変位し、互いに擦れ合って摩擦抵抗を発生する。この際、摩擦熱を発して地震のエネルギーを吸収するものである。
なお、図2(b)において摩擦要素群2を左右両側から挟むように設けられる柱材を新たに設ける場合には、横架材Bの相対変位を、摩擦要素群2に伝えるための剛性が必要である。これは、上述したように、柱材の剛性が小さいと地震の揺れによって柱材自体が曲がってしまい、横架材Bの変位を摩擦要素群2に伝達することができないためである。
変位Aの剪断変形は、摩擦要素群2の上部の摩擦要素体21が図中の右方向に平行移動するような剪断変形である。この際、各摩擦要素体21は、例えば図2(b)の部分図に示すように、個々の摩擦要素体21は、傾倒する既設柱C(または新設柱)に押されるようにして平行に相対変位する。なお摩擦要素群2には、上記のように貫体3が差し込まれており、このため個々の摩擦要素体21は、同じ変位量ずつ図中の右方向に平行変位する。そして、各摩擦要素体21は、互いに接触した摩擦面22で擦れ合いが生じ、摩擦熱を発する。
因みに、図2(b)の部分図は、剪断変形を受けた際に傾倒する既設柱C(または新設柱)の傾斜角度が誇張して図示されており、またこれに伴い各摩擦要素体21の変位量(摺動量)も誇張して示されている。
また、ここでも摩擦要素群2の剪断変形は、変位Aから始まるものではなく、変位Bから始まることもある。
ここで、上記図5(a)では、摩擦要素群2を貫通する貫通体3Bを別途設けており、更にこの貫通体3Bを上下の横架材Bに差し込むように連結することで、横架材Bの相対変位を摩擦要素群2に伝達するようにしている。
なお、上記ボルト42は、例えば上の横架材Bにナット43を埋設しておき、このナット43にボルト42を螺合状態に設けることができる。
因みに、本実施例でも摩擦部材1Bは、摩擦要素群2を挟む左右の既設柱C(または新設柱)と、間隔をあけて設けており、このため摩擦要素群2を貫通する貫通体3Bを上下の横架材Bに差し込むように設け、剪断変形の際、横架材Bの相対変位を摩擦部材1Bに伝達するようにしている。
もちろん、弾性体3Aは、摩擦要素群2の上部に設けるだけでなく、摩擦要素群2の途中に組み込むように設けることも可能であり、その場合には、摩擦部材1B(摩擦要素群2)を上下の横架材Bの間に設置し易くなるものである。
なお、本図では、摩擦要素群2を貫く貫体3が上下の横架材Bも貫通するように形成されており、剪断変形を生じた場合には、この貫体3によって横架材Bの相対変位が摩擦部材1Bに伝達されるため、上下の横架材Bをつなぐ柱材は、必ずしも設ける必要はない。このため本図でも当該柱材を排除した形態で図示している。
因みに、例えば建物(構造物S)の構造体として、たすき掛け状にブレースが設けられていれば、上記摩擦部材1Bを、このブレース間に設けることも考えられる。この場合、このブレースが、整列状態の摩擦要素体21を収納するケージの作用を担うのであれば(一対のブレースが連設維持構造を担うのであれば)、上記噛み合い構造も省略することができる。
この場合、上記図6(c)に示すように、摩擦要素群2を貫く貫通体3Bが上下の横架材Bを貫通していなくても(ここでは貫通体3Bを棒や板の想定で図示)、剪断変形の際の横架材Bの相対変位を摩擦要素群2に伝達できるものである。
因みに、図6(c)の実施例では、上の横架材Bが受ける構造物Sの荷重が、摩擦部材1Bに作用するため(当該荷重で摩擦部材1Bを押圧するため)、当該荷重が圧接構造M1となる。
具体的には、一例として図7(a)に示すように、例えば偏平な板材(ここでは平面視正方形状の板材を図示)を摩擦要素体21とし、この摩擦要素体21を複数枚、積層して摩擦要素群2を構成する。また摩擦要素群2には、摩擦要素体21を貫くように、例えば四本の貫体3を貫通させ、更にそのネジ部32をナット33で締め付け、圧接構造M1を実現する。
このように構成した摩擦要素群2(ここでは水平式の摩擦部材1B)は、摩擦面22に平行な種々の方向に剪断変形させることができるが、例えば図7(b)・(c)では、ほぼ90度異なる二方向に剪断変形した様子を図示している。ここで本図中の矢印は、剪断変形の方向を示している。このように上記のような摩擦部材1Bであれば、地震等の外力の方向に追従して自由に剪断変形させることができる。
この構造では、摩擦要素体21に発生する摩擦抵抗が上記重量に比例するものとなる。その結果、構造物Sに対する制振効果が構造物Sの重量いかんによらず一定になる。これにより、例えば不整形建物における建物荷重の場所的偏在、あるいは改築や積雪による積載荷重の時間的変動が生じても、摩擦部材1で自動的に対応することができる。
また地震による建物への力は、建物の重量に比例する。従って、振動減衰部材に要求される減衰力は、建物の重量に左右されるが、上記圧接構造M1(構造物Sの重量で摩擦要素群2を加圧する構造)を有した摩擦部材1の摩擦抵抗は、建物の重量が大きいほど大きくなる。そのため、このような摩擦部材1を摩擦ダンパーとして、建物の重量に合わせてバランスよく配置することが可能になる。しかも、工事後に建物の重量が変わっても、変更後の重量に適合するように減衰力が自動的に変化する点も長所である。
このようなブロック化により、摩擦機能は変わらず、運搬、施工・設置に極めて便利となる。またブロック化した摩擦部材1bは、同じ規格のものを垂直式にも水平式にも組み合わせて設置することができ、部材がユニバーサル化される。
なお、ブロック化された摩擦部材1bを建物に設置するにあたっては、例えばナット33の締め付けトルクを調整して、摩擦抵抗の異なる摩擦部材1bを適宜混合設置することができ、これにより実際の剪断変形時に摩擦抵抗の小さい摩擦部材1bから作動させることができる。従って、小さい力でも摩擦抵抗が発生しはじめ、且つ大きい外力にも対応できる摩擦部材1を実現することができる。
振動に対する各種の構造物Sの挙動や、構造物Sに付加する様々な要素部材の効果を研究するために、種々の実験が行われており、とりわけ実物大の構造物Sで実験することが有効である。ここで上記積層柱5は、純粋な弾性体として形成され、且つこの弾性係数は、ネジ部32に螺合させたナット33の締め付けトルクによって、任意に設定することができる。そのため構造物Sの柱をこの積層柱5で形成するとともに、壁を純粋な塑性剛体(例えば本発明の摩擦部材1)で構成し、更にこの壁についても、その特性を任意に設定可能とすることにより、上記実験における条件を整えることができ、構造物Sの諸要素や制振部材に関するデータを正確に取得することができる。
1A 摩擦部材(垂直式の摩擦部材)
1B 摩擦部材(水平式の摩擦部材)
1b 摩擦部材(ブロック化された摩擦部材)
2 摩擦要素群
21 摩擦要素体
22 摩擦面
23 端部材
24 貫通用孔
3 貫体
31 本体部
32 ネジ部
33 ナット
3A 弾性体
3B 貫通体
41 固定部材
42 ボルト
43 ナット
44 固定手段
5 積層柱
51 積層板
M1 圧接構造
M2 剪断変形許容構造
S 構造物
C 柱(既設の柱)
B 横架材(既設の横架材)
互いに直交する二つの軸を第1軸と第2軸とし、
第2軸に平行な複数の摩擦要素体を、第1軸方向に接触状態で連設して成る摩擦要素群と、
この摩擦要素群を連設方向たる第1軸方向において適宜の圧力で加圧して成る圧接構造と、
前記摩擦要素体の連設状態を維持しながら摩擦要素群の剪断変形を許容する剪断変形許容構造とを具え、
前記摩擦要素群が、摩擦要素体の摩擦面と直交方向または平行な方向に剪断変形した際、各摩擦要素体が連設状態を維持したまま接触面たる摩擦面において相対的に変位し、互いに擦れ合って摩擦抵抗を発生する構成であり、
前記第1軸は垂直軸(Y軸)であり、且つ前記第2軸は水平軸(X軸)であり、更に前記摩擦要素群は、摩擦要素体を垂直方向に積層するように並べて設けられ、且つまた摩擦要素群の剪断変形は、摩擦要素体の摩擦面に平行な方向の剪断変形であり、
なお且つ前記摩擦要素群は、構造物の荷重を受けるように構造物の下側に設けられ、前記圧接構造は、構造物の重量で摩擦要素群を加圧する構造であることを特徴として成るものである。
前記請求項1記載の摩擦部材を、構造物の荷重を受けるように下側に設けたことを特徴として成るものである。
前記構造物は、摩擦部材の他に柱を具えて成り、
この柱は、複数の板材たる積層材を垂直方向に積層し、この内部を、少なくとも先端部にネジ部を有した貫体を貫通させ、貫通後、当該ネジ部にナットを螺合させて、前記積層した複数の積層材を上下方向から締め付けるものであり、このナットの締め付けトルクによって柱の弾性を任意に設定可能とする積層柱であることを特徴として成るものである。
まず請求項1記載の発明によれば、摩擦部材は、変形の際、摩擦要素群が剪断変形するため(曲げ変形しないため)弾性化しない。このため変形時に外部から摩擦部材に入力されるエネルギーは、摩擦部材に蓄積されず、全て摩擦抵抗によって摩擦熱に変換される。従って摩擦部材を建物の横架材(既存の横架材)に連結しておけば、塑性剛性の構造体が形成でき、塑性剛体として建物の剛性を担う。
また摩擦部材は、外力により変形(剪断変形)しても元の形に戻り、元通りの塑性剛性を保持することができる。つまり摩擦部材は、疲労損傷することなく、反復変形を繰り返すものである。そのため摩擦部材を建物の横架材や柱に連結すると、振動を減衰させる制振部材としても機能する。一方、このような摩擦部材に対し、土壁・プラスターボード・木製合板などの壁は、限界を越えた変形(塑性変形)をすると、元の形に戻ることも、元通りの剛性を保持することもできない。
また、摩擦要素群の内部は、摩擦要素体で埋め尽くされており、全ての摩擦要素体が、摩擦面として摩擦抵抗を発生するため、設置容積当たりの摩擦抵抗の総量が非常に大きなものとなる。また、摩擦部材は、非常に大きな抵抗総量を建物等に付加でき、大きな剛性と減衰力を建物等に付加することができる。
また、摩擦部材は、受ける剪断変形が大きいほど、摩擦抵抗が大きくなり、この特性を利用して、建物等の変形制限部材として機能させることができる。
また、摩擦要素体は、形や構造がシンプルに形成でき、摩擦部材全体として安価に、且つ容易に製作することができる。
また地震による建物への力は、建物の重量に比例する。従って、振動減衰部材に要求される減衰力は、建物の重量に影響されるが、摩擦部材の摩擦抵抗は、建物の重量が大きいほど大きくなる。ところが本発明によれば、圧接構造は、摩擦部材を設置する対象構造物の重量を摩擦要素群(摩擦要素体)に付与する構造であるため、摩擦要素体に発生する摩擦抵抗が上記重量に比例する。その結果、構造物に対する制振効果が構造物の重量いかんによらず一定になる。これにより、例えば不整形建物における建物荷重の場所的偏在、改築や積雪による積載荷重の時間的変動が生じても、摩擦部材で自動的に対応できる点で効果を奏する。そのため、このような摩擦部材を摩擦ダンパーとして、建物の重量に合わせてバランスよく配置することが可能になる。しかも、工事後に建物の重量が変わっても、変更後の重量に適合するように自動的に減衰力が変化する点も長所である。
振動に対する各種の構造物の挙動や、構造物に付加する様々な要素部材の効果を研究するために、種々の実験が行われており、とりわけ実物大の構造物で実験することが有効である。ここで積層柱は、純粋な弾性体として形成され、且つこの積層柱は、ネジ部に螺合させるナットのトルク(締め付けトルク)によって、弾性係数を任意に設定することができる。そのため構造物の柱をこの積層柱で形成するとともに、壁を純粋な塑性剛体で構成し、更にこの壁についても、その特性を任意に設定可能とすることにより、上記実験における条件を整えることができ、構造物の諸要素や制振部材に関するデータを正確に取得することができる。
一方、摩擦部材1の連設形態としては、このような垂直式の他、例えば上記図2に示すように、第1軸が垂直軸(Y軸)に設定され、且つ第2軸が水平軸(X軸)に設定されたものも挙げられる。この形態は各摩擦要素体21を横置き状に積層(連設)して行くことに因み、本明細書では「水平式」と称するものである。ここで上記記載の「縦」とは垂直方向(上下方向)を指し、「横」とは、「縦」に直交する水平方向を意味する。以下、摩擦部材1の代表例となる上記二種の摩擦部材1について更に説明する。なお、垂直式と水平式を区別する場合には、末尾符号A、Bを付して区別するものとする。具体的には垂直式の摩擦部材を1A、水平式の摩擦部材を1Bとする。
ただし、本発明に包含される摩擦部材1は、水平式の摩擦部材1Bであり、垂直式の摩擦部材1Aすなわち図1に示す構成例は、本発明に関連する参考例となる。また、水平式の摩擦部材1Bであっても、このものが建物等の構造物Sの下側に設けられ、構造物Sの重量で摩擦要素群2が加圧される摩擦部材1Bが本発明の摩擦部材1となる。
以下、垂直式の摩擦部材1Aと、水平式の摩擦部材1Bとについて説明する。
垂直式の摩擦部材1Aは、上述したように縦置き姿勢の複数の摩擦要素体21が水平方向に連続して接触するように設けられて、摩擦要素群2を構成する。すなわち摩擦要素群2は、上記図1に示すように、初期設置状態では(変位を生じない常態にあっては)、隣接する摩擦要素体21が、互いの摩擦面22を当接させるように設けられる(連設状態)。また、このような設置態様を採るため、摩擦要素体21は、規則正しく並べて配設されるものであり、このような状態を整列状態と称することがある。
また、この摩擦要素群2には、少なくとも本体部31の先端側にネジ部32を有する貫体3が、水平方向(摩擦面22に直交する方向)に貫通状態に設けられる。そして貫通後に当該ネジ部32にナット33が螺合され、これにより摩擦要素体21は、適宜の圧接状態で取り付けられる(摩擦面22同士を圧接し合うように取り付けられる)。すなわち、ここではナット33を具えた貫体3によって圧接構造M1が実現されている。なお、図1の構成例では、貫体3としてボルトを図示しているが、貫体3は必ずしもボルトで形成される必要はない。
ここで図中符号24は、摩擦要素体21に開口された貫通用孔であり、これは貫体3を通すための孔である。この貫通用孔24は、当然ながら貫体3(本体部31)よりも大きいサイズに形成されるものであり、貫体3の断面の大きさと、貫通用孔24の大きさとの差が大きいと、剪断変形時、摩擦要素体21の相対変位量に偏差をもたらすが、摩擦抵抗の大きさには影響しない。
建物等の構造物Sは、地震エネルギーを受けると揺れ、構造材である上下の横架材Bが、平行に相対変位する(逆方向に平行移動する)。ここで図1の構成例では柱状の端部材23が、横架材Bに連結されているため、この横架材Bの相対変位に連動して、図1(b)に示すように、端部材23も傾斜する。次いで、端部材23の傾斜により、この端部材23に押されるようにして、摩擦要素群2も全体的に傾斜し、剪断変形する。具体的には図中に示す変位A・変位Bの剪断変形を交互に行う。
より詳細には、摩擦要素群2は、摩擦要素体21の摩擦面22と直交方向(水平方向)に剪断変形するものであり、この際、各摩擦要素体21が互いの連設状態を維持したまま接触面たる摩擦面22において相対的に変位し、相互に擦れ合って摩擦抵抗を発生する。そして、この摩擦熱によって地震エネルギーを吸収するものである。
また、変位Bの剪断変形は、摩擦要素群2の上部が図中の左方向に平行移動するような剪断変形(傾斜変形)であり、傾斜した個々の摩擦要素体21は、拡大図に示すように、端面(ここでは上端面)がずれるような擦れ合いを生じる。
なお変位に付したA・Bの符号は、変位(摩擦要素体21の移動態様)を区別するために便宜的に付した符号であり、必ずしもこの順番で変位が起こるものではない。このため常態→変位B→常態→変位A→常態→変位B→・・・という反復も当然あり得る。
なお、高い剛性を有する端部材23としては、一例として図3(a)の(i)・(ii)に示すように、H形鋼(I形鋼)やC字の溝形鋼(いわゆるCチャン)の適用も可能である。
剪断変形許容構造M2は、上下の横架材Bが相対変位したとき、摩擦要素群2が連設状態を維持しながら剪断変形し得るようにする構造であり、図1の構成例では主としてナット33を含めた貫体3が、この作用を担っている。このため摩擦要素群2は、剪断変形を受けてもバラバラに分散してしまうことや分離してしまうことがないものである。なおナット33の締め付けトルクを小さくすると(弱く締め込むと)、摩擦要素体21同士の圧接力が弱まり、摩擦抵抗としても小さくなる。また、ナット33の締め付けトルクを小さくした場合には、摩擦要素群2の剪断変形が生じ易くなる(小さい外力でも剪断変形が起こる)。一方、ナット33の締め付けトルクを大きくすると(強く締め込むと)、摩擦要素体21同士の圧接力が強まり、摩擦抵抗としても大きくなる。また、この場合、摩擦要素群2の剪断変形が生じ難くなる(小さい外力では剪断変形が起こり難くなる)。このように図1の構成例では、ナット33を含む貫体3が、圧接構造M1のみならず剪断変形許容構造M2にも大きく関与する構造となっている。
因みに、剛性の高い端部材23を用いた場合であっても、この端部材23を上下の横架材Bに対し全ての接合点で剛接合(接合部が変形しない接合)してしまうと、横架材Bが相対変位した場合、端部材23自体が曲がってしまい(傾斜せず)、摩擦要素群2に剪断変形が伝達できないため、端部材23の少なくとも一カ所を横架材Bに対しピン接合することが必要であり、このようなことも剪断変形許容構造M2に包含される。
また、貫体3は剪断変形時に上下方向に移動するものであり、この移動によって摩擦要素群2は、各摩擦要素体21の変位が均等化される。つまり貫体3は、各摩擦要素体21の変位を均等化する機能(構造)も有しており、本明細書ではこれを変位均等化構造(または変位均等化機能)と称することがある。このように貫体3は、種々の機能(作用)を兼ね具える。
また図1の構成例では、ボルト頭部やナット33を端部材23の端面から突出した状態でネジ止めした状態を示しているが、例えば図1(b)の部分図に示すように、ボルト頭部やナット33は、端部材23の内部に収めることも可能である。
更に図1の構成例では、貫体3は二本設けていたが、この数は例えば摩擦要素群2の高さ寸法等によって適宜変更可能であり、三本以上用いることも可能である。ただし貫体3が一本だけでは、摩擦要素体21の連設状態を維持できないことが考えられるので(特に剪断変形時)、一基の摩擦要素群2に対し貫体3は、少なくとも二本用いることが好ましい。
因みに、上記のように摩擦面22を噛み合い構造とした場合には、この噛み合い構造によって個々の摩擦要素体21の連設状態が維持されるため(噛み合い構造が連設維持構造として機能し、剪断変形許容構造M2を実現するため)、貫体3は必ずしも必要ではない。ただし、貫体3を省略した場合には、他の圧接構造M1、例えば前述したような弾性体3Aを併用する必要がある(上記図3(d)参照)。
なお、ナット33を含めた貫体3や上記噛み合い構造以外の連設維持構造としては、整列状態の摩擦要素体21を収納するケーシングやケージ等も考えられる。
ここで本図中の左側の柱材は、建物に設けられた既設の柱Cであり、図中右側の柱材は、曲がり梁に合わせた新設の柱(または端部材23)である。こここで新設の柱(または端部材23)の上下は、下横架材Bと曲がり梁とに対して、例えば図示のようなL字金具を適用した固定部材41で強固に接合することが可能である。
すなわち地震によって建物等の構造物Sは適宜の加速度を受け、剪断変形するものである。この際、地震の加速度が建物等の構造物Sに与える力と、摩擦部材1A(摩擦要素群2)の抵抗値とが釣り合うときがある。このことは貫体3が変形限定機能として作用することを意味する。もちろん圧接構造M1として、ゴム素材やスプリングで形成された弾性体3Aを使用した場合には、このような変形限定機能は発生しない。
摩擦係数は、特定の周期成分にだけ作用するのではなく、全ての周期成分に作用するため、摩擦部材1Aの剛性は低下する。このため摩擦部材1Aは、作動時より静止時の方が、1〜2割ほど剛性が大きい。
一方、摩擦部材1Aは、剪断変形しても、地震による外力が復元力となり元の形に戻るため、疲労損傷することなく、反復変形を繰り返すことができる。そして、反復変形によって摩擦抵抗を発生する。そのため摩擦部材1Aは、上記横架材Bまたは柱Cに連結すると、建物(構造物S)の振動に連動し、反復変形を繰り返して摩擦抵抗を発生し、振動減衰部材として構造物Sの振動を減衰させるのである。
すなわち摩擦部材1Aに水平方向の剪断力が加わるとき、上下の端部が横架材Bにピン接合されていれば、各摩擦要素体21の下端部から上端部まで相対変位し、その結果として外力の全てが摩擦抵抗によって熱エネルギーに変換される。しかし、いずれか一方の端部が、横架材Bに剛接合されていれば、摩擦要素群2の1/2が弾性変形する。そのため、摩擦抵抗の大きさは1/2になる。残りの1/2は、弾性エネルギーとなって摩擦要素群2に蓄積される。
上下とも横架材Bに剛接合されていれば、全ての摩擦要素群2が同一形状に変形するため相対変位しない。よって摩擦抵抗は発生しない。全ての仕事が弾性エネルギーとなって摩擦要素群2に蓄積される。
因みに、後述する水平式の摩擦部材1Bにおいては、このような問題は発生しない。ただし、水平式の摩擦部材1Bであっても、例えば摩擦要素群2を貫通する貫体3自体が、剪断変形時に弾性変形すれば、当該部材には弾性エネルギーが蓄積される。
水平式の摩擦部材1Bは、上記図2に示すように、横置き姿勢の複数の摩擦要素体21を上下方向に連続して接触するように設けて、摩擦要素群2を構成する。すなわち摩擦要素群2は、各摩擦要素体21が下方から上方に積み上げられるように積層されて成る。この水平式においても、各摩擦要素体21は、上下方向において隣接する互いの摩擦面22同士を当接させるように設けられる(連設状態)。またこのような設置態様であるため、摩擦要素体21は、上下方向に規則正しく並べて配設されるものである(整列状態)。
また、図2に示す構成例の摩擦要素群2にも、垂直式の摩擦部材1Aと同様に、少なくとも本体部31の先端側にネジ部32を有した貫体3が貫通状態に設けられる。すなわち図2に示す構成例の水平式の摩擦部材1Bにおいては、貫体3は、摩擦要素体21の摩擦面22に直交する垂直方向に設けられる。もちろん貫通後には、ネジ部32にナット33が螺合されるものであり、これにより摩擦要素体21は、適宜の力で加圧した状態に取り付けられる(摩擦面22同士を圧接し合うように取り付けられる)。このように図2に示す構成例においてもナット33を有する貫体3が、圧接構造M1を担うものである。
また図2(b)は、この水平式の摩擦部材1Bを、建物等の構造物Sに取り付けた様子(一例)であり、下側の端部材23として建物における下の横架材Bを利用して摩擦部材1Bを取り付けている。一方、上側の端部材23は、建物の構造材である既存の柱C(または新たに設けた柱)に対しスライド自在(垂直方向のスライド)に連結している。これは、上側の端部材23が、摩擦要素群2の剪断変形によって上下方向(垂直方向)に移動するためである。また、摩擦要素群2は、建物の二本の既設柱C(または新たに設けた二本の柱)の間に、当接状態で設置されている。
そして、摩擦要素群2が、摩擦要素体21の摩擦面22と平行な方向(水平方向)に剪断変形した際、各摩擦要素体21が連設状態を維持したまま接触面たる摩擦面22において相対的に変位し、互いに擦れ合って摩擦抵抗を発生する。この際、摩擦熱を発して地震のエネルギーを吸収するものである。
なお、図2(b)において摩擦要素群2を左右両側から挟むように設けられる柱材を新たに設ける場合には、横架材Bの相対変位を、摩擦要素群2に伝えるための剛性が必要である。これは、上述したように、柱材の剛性が小さいと地震の揺れによって柱材自体が曲がってしまい、横架材Bの変位を摩擦要素群2に伝達することができないためである。
変位Aの剪断変形は、摩擦要素群2の上部の摩擦要素体21が図中の右方向に平行移動するような剪断変形である。この際、各摩擦要素体21は、例えば図2(b)の部分図に示すように、個々の摩擦要素体21が、傾倒する既設柱C(または新設柱)に押されるようにして平行に相対変位する。なお摩擦要素群2には、上記のように貫体3が差し込まれており、このため個々の摩擦要素体21は、同じ変位量ずつ図中の右方向に平行変位する。そして、各摩擦要素体21は、互いに接触した摩擦面22で擦れ合いが生じ、摩擦熱を発する。
因みに、図2(b)の部分図は、剪断変形を受けた際に傾倒する既設柱C(または新設柱)の傾斜角度が誇張して図示されており、またこれに伴い各摩擦要素体21の変位量(摺動量)も誇張して示されている。
また、ここでも摩擦要素群2の剪断変形は、変位Aから始まるものではなく、変位Bから始まることもある。
ここで、上記図5(a)では、摩擦要素群2を貫通する貫通体3Bを別途設けており、更にこの貫通体3Bを上下の横架材Bに差し込むように連結することで、横架材Bの相対変位を摩擦要素群2に伝達するようにしている。
なお、上記ボルト42は、例えば上の横架材Bにナット43を埋設しておき、このナット43にボルト42を螺合状態に設けることができる。
因みに、図5(b)の構成例でも摩擦部材1Bは、摩擦要素群2を挟む左右の既設柱C(または新設柱)と、間隔をあけて設けており、このため摩擦要素群2を貫通する貫通体3Bを上下の横架材Bに差し込むように設け、剪断変形の際、横架材Bの相対変位を摩擦部材1Bに伝達するようにしている。
もちろん、弾性体3Aは、摩擦要素群2の上部に設けるだけでなく、摩擦要素群2の途中に組み込むように設けることも可能であり、その場合には、摩擦部材1B(摩擦要素群2)を上下の横架材Bの間に設置し易くなるものである。
なお、上記図6(a)の構成例では、摩擦要素群2を貫く貫体3が上下の横架材Bも貫通するように形成されており、剪断変形を生じた場合には、この貫体3によって横架材Bの相対変位が摩擦部材1Bに伝達されるため、上下の横架材Bをつなぐ柱材は、必ずしも設ける必要はない。このため本図でも当該柱材を排除した形態で図示している。
因みに、例えば建物(構造物S)の構造体として、たすき掛け状にブレースが設けられていれば、上記摩擦部材1Bを、このブレース間に設けることも考えられる。この場合、このブレースが、整列状態の摩擦要素体21を収納するケージの作用を担うのであれば(一対のブレースが連設維持構造を担うのであれば)、上記噛み合い構造も省略することができる。
この場合、上記図6(c)に示すように、摩擦要素群2を貫く貫通体3Bが上下の横架材Bを貫通していなくても(ここでは貫通体3Bを棒や板の想定で図示)、剪断変形の際の横架材Bの相対変位を摩擦要素群2に伝達できるものである。
因みに、図6(c)の構成例では、上の横架材Bが受ける構造物Sの荷重が、摩擦部材1Bに作用するため(当該荷重で摩擦部材1Bを押圧するため)、当該荷重が圧接構造M1となる。
具体的には、一例として図7(a)に示すように、例えば偏平な板材(ここでは平面視正方形状の板材を図示)を摩擦要素体21とし、この摩擦要素体21を複数枚、積層して摩擦要素群2を構成する。また摩擦要素群2には、摩擦要素体21を貫くように、例えば四本の貫体3を貫通させ、更にそのネジ部32をナット33で締め付け、圧接構造M1を実現する。
このように構成した摩擦要素群2(ここでは水平式の摩擦部材1B)は、摩擦面22に平行な種々の方向に剪断変形させることができるが、例えば図7(b)・(c)では、ほぼ90度異なる二方向に剪断変形した様子を図示している。ここで本図中の矢印は、剪断変形の方向を示している。このように上記のような摩擦部材1Bであれば、地震等の外力の方向に追従して自由に剪断変形させることができる。
この構造では、摩擦要素体21に発生する摩擦抵抗が上記重量に比例するものとなる。その結果、構造物Sに対する制振効果が構造物Sの重量いかんによらず一定になる。これにより、例えば不整形建物における建物荷重の場所的偏在、あるいは改築や積雪による積載荷重の時間的変動が生じても、摩擦部材1で自動的に対応することができる。
また地震による建物への力は、建物の重量に比例する。従って、振動減衰部材に要求される減衰力は、建物の重量に左右されるが、上記圧接構造M1(構造物Sの重量で摩擦要素群2を加圧する構造)を有した摩擦部材1の摩擦抵抗は、建物の重量が大きいほど大きくなる。そのため、このような摩擦部材1を摩擦ダンパーとして、建物の重量に合わせてバランスよく配置することが可能になる。しかも、工事後に建物の重量が変わっても、変更後の重量に適合するように減衰力が自動的に変化する点も長所である。
このようなブロック化により、摩擦機能は変わらず、運搬、施工・設置に極めて便利となる。またブロック化した摩擦部材1bは、同じ規格のものを垂直式にも水平式にも組み合わせて設置することができ、部材がユニバーサル化される。
なお、ブロック化された摩擦部材1bを建物に設置するにあたっては、例えばナット33の締め付けトルクを調整して、摩擦抵抗の異なる摩擦部材1bを適宜混合設置することができ、これにより実際の剪断変形時に摩擦抵抗の小さい摩擦部材1bから作動させることができる。従って、小さい力でも摩擦抵抗が発生しはじめ、且つ大きい外力にも対応できる摩擦部材1を実現することができる。
振動に対する各種の構造物Sの挙動や、構造物Sに付加する様々な要素部材の効果を研究するために、種々の実験が行われており、とりわけ実物大の構造物Sで実験することが有効である。ここで上記積層柱5は、純粋な弾性体として形成され、且つこの弾性係数は、ネジ部32に螺合させたナット33の締め付けトルクによって、任意に設定することができる。そのため構造物Sの柱をこの積層柱5で形成するとともに、壁を純粋な塑性剛体(例えば上述した摩擦部材1)で構成し、更にこの壁についても、その特性を任意に設定可能とすることにより、上記実験における条件を整えることができ、構造物Sの諸要素や制振部材に関するデータを正確に取得することができる。
1A 摩擦部材(垂直式の摩擦部材)
1B 摩擦部材(水平式の摩擦部材)
1b 摩擦部材(ブロック化された摩擦部材)
2 摩擦要素群
21 摩擦要素体
22 摩擦面
23 端部材
24 貫通用孔
3 貫体
31 本体部
32 ネジ部
33 ナット
3A 弾性体
3B 貫通体
41 固定部材
42 ボルト
43 ナット
44 固定手段
5 積層柱
51 積層板
M1 圧接構造
M2 剪断変形許容構造
S 構造物
C 柱(既設の柱)
B 横架材(既設の横架材)
Claims (7)
- 互いに直交する二つの軸を第1軸と第2軸とし、
第2軸に平行な複数の摩擦要素体を、第1軸方向に接触状態で連設して成る摩擦要素群と、
この摩擦要素群を連設方向たる第1軸方向において適宜の圧力で加圧して成る圧接構造と、
前記摩擦要素体の連設状態を維持しながら摩擦要素群の剪断変形を許容する剪断変形許容構造とを具え、
前記摩擦要素群が、摩擦要素体の摩擦面と直交方向または平行な方向に剪断変形した際、各摩擦要素体が連設状態を維持したまま接触面たる摩擦面において相対的に変位し、互いに擦れ合って摩擦抵抗を発生する構成であることを特徴とする摩擦部材。
- 前記摩擦要素群には、少なくとも先端部にネジ部を有する貫体が、摩擦要素体の連設方向たる第1軸方向に貫通されて成り、貫通後、当該ネジ部にナットが螺合されて、前記圧接構造が実現されることを特徴とする請求項1記載の摩擦部材。
- 前記第1軸は水平軸(X軸)であり、且つ前記第2軸は垂直軸(Y軸)であり、更に前記摩擦要素群は、摩擦要素体を水平方向に連続して並べるように設けられ、且つまた摩擦要素群の剪断変形は、摩擦要素体の摩擦面に直交する方向の剪断変形であることを特徴とする請求項1または2記載の摩擦部材。
- 前記第1軸は垂直軸(Y軸)であり、且つ前記第2軸は水平軸(X軸)であり、更に前記摩擦要素群は、摩擦要素体を垂直方向に積層するように並べて設けられ、且つまた摩擦要素群の剪断変形は、摩擦要素体の摩擦面に平行な方向の剪断変形であることを特徴とする請求項1または2記載の摩擦部材。
- 前記摩擦要素群は、構造物の荷重を受けるように構造物の下側に設けられ、前記圧接構造は、構造物の重量で摩擦要素群を加圧する構造であることを特徴とする請求項4記載の摩擦部材。
- 前記請求項1〜5のいずれか1項記載の摩擦部材を具えたことを特徴とする構造物。
- 前記摩擦部材には、
複数の板材を垂直方向に積層し、この内部を、少なくとも先端部にネジ部を有した貫体を貫通させ、貫通後、当該ネジ部にナットを螺合させて、前記積層した複数の板材を上下方向から締め付けるようにした積層柱を、併せて設けるようにしたことを特徴とする請求項6記載の構造物。
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