JP2020164951A - 疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、構造安全性が強く求められる溶接構造物などへ適用される構造用鋼材に関し、主に橋梁などの陸上かつ屋外の大気腐食環境下で用いられ、特に飛来塩分量の多い海上、海岸などの厳しい腐食環境下で使用される構造用鋼材に用いて好適なものである。
ここで、耐候性鋼は、大気暴露環境で使用する場合に、Cu、P、Cr、Niなどの合金元素が濃化した保護性の高いさび層で表面が覆われ、これによって、腐食速度を大きく低下させた鋼材である。このような耐候性鋼を使用した橋梁は、飛来塩分量が少ない環境では、無塗装のまま数十年間の供用に耐え得ることが知られている。
しかし、数百あるいは数千の溶接部にそのような処理を工業的な規模で実施することは施工時間やコストの観点から非現実的である。そのため、新設された溶接構造物は定期的に検査が行われ、疲労き裂が検出された際には、補修を繰り返して構造安全性を保持していくことが行われるが、このような検査や補修の手間、コストは莫大である。
特許文献2には、質量%で、Pを0.03〜0.15%、Cuを0.2〜0.5%含有させた超塗装耐久性鋼材が開示されている。
特許文献3には、質量%で、Cuを0.05〜3.0%、Niを0.05〜6.0%、Tiを0.01〜1.0%含有させた耐久性に優れた塗装鋼材が開示されている。
特許文献4には、質量%で、Cuを0.05〜3.0%、Niを0.05〜6.0%、Tiを0.025〜0.15%含有させた塗膜耐久性に優れた塗装用鋼材が開示されている。
特許文献5には、質量%で、Cuを0.30〜1.00%、Niを1.0〜5.5%含有させた高溶接性高耐候性鋼が開示されている。
特許文献6には、質量%で、Cuを0.05〜1.0%、Niを0.01〜0.5%、Snおよび/またはSbを0.03〜0.50%含有させた海浜耐候性に優れた鋼材が開示されている。
特許文献7には、質量%で、Snを0.03〜0.50%含有させた耐食性およびZ方向の靱性に優れた鋼材の製造方法が開示されている。
特許文献8には、質量%で、Snを0.15〜0.5%含有させた、塩化物を含む乾湿繰り返し環境下で用いられる耐食性に優れた鋼材が開示されている。
特許文献9には、質量%で、Snを0.01〜0.5%含有させた、耐食性に優れた鋼材が開示されている。
特許文献11には、フェライト粒径を1〜3μmに微細化することによって疲労特性を向上する技術が示されている。
特許文献12には、ミクロ組織を硬質部の素地とこの素地に分散した軟質部とで構成し、両者の硬度差がビッカース硬さで150以上であることを特徴とする疲労亀裂進展抑制効果を有する鋼板が記載されている。
また、特許文献3、4および5のように、CuやNiの含有量を過度に増加させると、合金コストの増大を招き、それを避けるために合金量を減少させると飛来塩分量の多い地域では耐候性が不十分になる問題が発生する。さらに、特許文献3および4のようにTiを多量に含有させると、鋼材の靱性の劣化を招く。
加えて、特許文献6〜9のように、Snなどの含有量を過度に増加させると、やはり合金コストの増大を招くとともに、鋼材の靱性の劣化を招く。
・疲労き裂伝播試験条件
応力比:0.1、周波数:20Hz、試験環境:室温大気中
準拠規格:ASTM E647
(ただし、板厚が25mmを超える場合、一方の面から板厚が25mmになるまで減厚して、試験片を採取する。)
また、「塗装耐久性に優れた」とは、鋼材表面に塗膜を形成し、以下の条件の腐食試験を行った際に、塗膜における初期欠陥部からの片側の膨れ幅が6.5mm以下であることを意味する。
・腐食試験条件
塗膜に付与する初期欠陥:幅1mm、長さ40mmの直線のカット
人工海塩の付着量:6.0g/m2
試験時間:1200サイクル(9600時間)
サイクル条件:条件1(温度:60℃、相対湿度:35%、保持時間:3時間)、条件2(温度:40℃、相対湿度:95%、保持時間:3時間)、条件1から条件2および条件2から条件1への各移行時間を1時間とする、合計8時間のサイクル
その結果、適量のWと、適量のCr、Moおよび/またはVとを複合添加すると共に、適切なミクロ組織とすることで塗装耐久性および疲労き裂伝播特性が大幅に向上することを見出した。
(1)Wは、アノード反応に伴って溶出し、地鉄表面近傍さび層中にWO4 2−として存在することで、腐食促進因子である塩化物イオンがさび層を透過して地鉄に到達するのを防止する。
(2)また、鋼材表面にWを含む化合物が沈殿することにより、アノード反応が抑制される。
(3)さらに、Wは、微細さびを形成してさび層を緻密化することにより、腐食因子である塩化物イオンがさび層を透過して地鉄に到達するのを防止する。
(4)加えて、Crは、微細さびを形成させてさび層を緻密化することにより、腐食因子である塩化物イオンがさび層を透過して地鉄に到達するのを防止する。
また、MoおよびVは、アノード反応に伴って溶出し、それぞれ地鉄表面近傍さび層中にMoO4 2−およびVO4 3−として存在することにより、腐食因子である塩化物イオンがさび層を透過して地鉄に到達するのを防止する。さらに、Moは、腐食環境下において鋼材表面にMoを含む化合物が沈殿することでアノード反応を抑制する。
(5)そのため、適量のWと、適量のCr、Moおよび/またはVとを複合添加することにより、靭性の劣化を招くことなく、塗装耐久性の向上を図ることができる。
(6)疲労き裂の進展の停留とき裂経路の屈曲により、疲労き裂伝播特性が向上する。また、硬質相の体積分率によって疲労き裂の進展の停留とき裂経路の屈曲の起こりやすさが変化する。よって、疲労き裂伝播特性を向上させるためには、硬質相の体積分率を制御することが重要である。加えて、Wと、Cr、Moおよび/またはVとを複合添加することにより硬質相が生成しやすくなり、硬質相の体積分率を所望の値としやすくなる。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
1.質量%で、
C:0.020%以上、0.200%以下、
Si:0.05%以上、1.00%以下、
Mn:0.20%以上、2.00%以下、
P:0.003%以上、0.030%以下、
S:0.0001%以上、0.0100%以下、
Al:0.001%以上、0.100%以下および
W:0.005%以上、1.000%以下
を含有するとともに、
Cr、MoおよびVのうちから選ばれる1種または2種以上を、
Cr:2.00%以下、
Mo:0.500%以下および
V:0.200%以下
でかつ、
Cr(%)/10+Mo(%)+V(%)≧0.005%
を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有し、
ミクロ組織が硬質相と軟質相から構成され、該硬質相の体積分率が0.20〜0.80であり、該軟質相におけるフェライトの平均粒径が5〜50μmである、疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材。
ここで、軟質相は、ビッカース硬さが225未満の組織であり、硬質相は、ビッカース硬さが225以上の組織である。
また、Cr(%)、Mo(%)およびV(%)はそれぞれ、鋼材の成分組成におけるCr、MoおよびVの含有量(質量%)である。
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Sn:0.200%以下および
Sb:0.200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、前記1に記載の疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材。
Ti:0.050%以下、
Zr:0.100%以下、
B:0.0050%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下および
REM:0.0100%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、前記1または2に記載の疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材。
記
D値:6×W+4×Cr+2×Mo+3×V ・・・(1)
ただし、式中の元素は、鋼材中の各元素の含有量(質量%)を示す。
そして、本発明の疲労き裂伝播特性および塗装耐久性に優れた構造用鋼材を、橋梁などの屋外の大気腐食環境下、特には飛来塩分量の多い海上や海岸近傍などの厳しい腐食環境下で使用される構造物に対して適用することにより、構造物のメンテナンスコスト、ひいてはライフサイクルコストを大幅に低減することができる。
まず、本発明において鋼の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、鋼の成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
C:0.020%以上、0.200%以下
Cは、鋼材の強度を上昇させ、かつ硬質第二相の体積分率を増加させる元素である。このため、Cは、構造用鋼としての所定の強度を確保するため、0.020%以上含有させる必要がある。一方、C含有量が0.200%を超えると、溶接性および靭性が劣化する。したがって、C含有量は0.020%以上、0.200%以下とする。
Siは、脱酸と強度を確保するため0.05%以上含有させる必要がある。一方、Si含有量が1.00%を超えると、靭性および溶接性が著しく劣化する。したがって、Si含有量は0.05%以上、1.00%以下とする。
Mnは、鋼材の強度を上昇させる元素である。このため、Mnは、構造用鋼としての所定の強度を確保するため、0.20%以上含有させる必要がある。一方、Mn含有量が2.00%を超えると、靭性および溶接性が劣化する。したがって、Mn含有量は0.20%以上、2.00%以下とする。好ましくは0.75%以上、1.80%以下である。
Pは、鋼材の塗装耐久性の向上に寄与する元素である。このような効果を得る観点から、Pは0.003%以上含有させる必要がある。一方、P含有量が0.030%を超えると、溶接性が劣化する。したがって、P含有量は0.003%以上、0.030%以下とする。
Sは、溶接性および靭性を劣化させる元素である。このため、S含有量は0.0100%以下とする必要がある。ただし、S含有量を0.0001%未満にしようとすると、生産コストの増大を招く。したがって、S含有量は0.0001%以上、0.0100%以下とする。
Alは、製鋼時の脱酸に必要な元素である。このような効果を得るため、Alは0.001%以上含有させる必要がある。一方、Al含有量が0.100%を超えると、溶接性に悪影響を及ぼす。したがって、Al含有量は0.001%以上、0.100%以下とする。好ましくは0.005%以上、0.050%未満、より好ましくは、0.010%以上、0.030%未満である。
Wは、疲労き裂伝播特性および塗装耐久性を改善する上で重要な元素である。Wは、アノード反応に伴って溶出し、さび層中にWO4 2−として分布することによって、腐食促進因子の塩化物イオンがさび層を透過して地鉄に到達するのを静電的に防止する。また、鋼材表面にWを含む化合物が沈殿することでアノード反応が抑制される。さらに、Wは、微細さびを形成してさび層を緻密化することにより、腐食因子である塩化物イオンがさび層を透過して地鉄に到達するのを防止する。加えて、Wを添加することで硬質相が生成しやすくなり、所望の硬質相の体積分率が得やすくなる。
これらの効果を十分に得るためには、Wを0.005%以上含有させる必要がある。一方、W含有量が1.000%を超えると、合金コスト上昇を招き、かつ硬質相の体積分率が高くなりすぎ疲労き裂伝播特性が悪化する。したがって、W含有量は0.005%以上、1.000%以下とする。好ましくは0.010%以上、0.700%以下、より好ましくは0.030%以上0.500%以下、さらに好ましくは0.050%以上、0.100%以下である。
Cr、MoおよびVはいずれも、鋼の耐食性の向上に有効に寄与する。すなわち、Crは、微細さびを形成してさび層を緻密化することにより、腐食因子である塩化物イオンがさび層を透過して地鉄に到達するのを防止する。また、MoおよびVは、鋼材のアノード反応に伴って溶出し、地鉄表面近傍のさび層中にMoO4 2−およびVO4 3−として存在することで、腐食促進因子である塩化物イオンがさび層を透過して地鉄に到達するのを防止する。
このような耐食性の向上効果は、Cr(%)/10+Mo(%)+V(%)≧0.005%を満足させることにより得られる。
ここで、Cr(%)、Mo(%)およびV(%)はそれぞれ、鋼材の成分組成におけるCr、MoおよびVの含有量(質量%)である。
また、Mo含有量が0.500%を超えると、合金コストの上昇を招く。したがって、Mo含有量は0.500%以下とする。
さらに、V含有量が0.200%を超えると、上記の耐食性の向上効果が飽和する。したがって、V含有量は0.200%以下とする。
Cu:0.50%以下
Cuは、さび層中のさび粒を微細化することで緻密なさび層を形成し、腐食促進因子である酸素や塩化物イオンの地鉄への透過を抑制する効果を有する。また、Cuを添加することで硬質相が生成しやすくなる。一方、Cu含有量が0.50%を超えると、合金コストの上昇を招く。したがって、Cuを含有する場合、Cu含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.01%以上、0.50%以下、より好ましくは0.03%以上、0.40%以下、さらに好ましくは0.04%以上、0.30%以下、特に好ましくは0.05%以上、0.25%以下である。
Niは、さび層中のさび粒を微細化することで緻密なさび層を形成し、腐食促進因子である酸素や塩化物イオンの地鉄への透過を抑制する効果を有する。また、Niを添加することで硬質相が生成しやすくなる。一方、Ni含有量が0.50%を超えると、合金コストの上昇を招く。したがって、Niを含有する場合、Ni含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.01%以上、0.50%以下、より好ましくは0.03%以上、0.40%以下、さらに好ましくは0.04%以上、0.30%以下、特に好ましくは、0.05%以上、0.15%以下である。
Snは、地鉄表面近傍においてさび層中に存在し、さび粒子を微細化することで腐食促進因子である塩化物イオンがさび層を透過して地鉄に到達するのを防止する。また、Snは、鋼材表面においてアノード反応を抑制する。一方、Sn含有量が0.200%を超えると、鋼の延性や靭性の劣化を招く。したがって、Snを含有する場合、Sn含有量は、0.200%以下とする。好ましくは0.005%以上、0.200%以下、より好ましくは0.010%以上、0.100%以下、さらに好ましくは0.020%以上、0.050%以下である。
Sbは、地鉄表面近傍においてさび層中に存在し、さび粒子を微細化することで腐食促進因子である塩化物イオンがさび層を透過して地鉄に到達するのを防止する。また、Sbは、鋼材表面においてアノード反応を抑制する。一方、Sb含有量が0.200%を超えると、鋼の延性や靭性の劣化を招く。したがって、Sbを含有する場合、Sb含有量は0.200%以下とする。好ましくは0.005%以上、0.200%以下、より好ましくは0.010%以上、0.150%以下、さらに好ましくは0.020%以上、0.100%以下である。
Tiは、強度を高める元素である。一方、Ti含有量が0.050%を超えると、靭性の劣化を招く。したがって、Tiを含有する場合、Ti含有量は0.050%以下とする。好ましくは0.005%以上、0.050%以下である。
Zrは、強度を高める元素である。一方、Zr含有量が0.100%を超えると、その強度向上効果が飽和する。したがって、Zrを含有する場合、Zr含有量は0.100%以下とする。好ましくは0.005%以上、0.100%以下である。
Bは、強度を高める元素である。一方、B含有量が0.0050%を超えると、靭性の劣化を招く。したがって、Bを含有する場合、B含有量は0.0050%以下とする。好ましくは0.0001%以上、0.0050%以下である。
Caは、鋼中のSを固定し、溶接熱影響部の靭性を向上させる元素である。一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、鋼中の介在物の量が増加し、かえって靭性の劣化を招く。したがって、Caを含有する場合、Ca含有量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0001%以上、0.0100%以下である。
Mgは、鋼中のSを固定し、溶接熱影響部の靭性を向上させる元素である。一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、鋼中の介在物の量が増加し、かえって靭性の劣化を招く。したがって、Mgを含有する場合、Mg含有量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0001%以上、0.0100%以下である。
REMは、鋼中のSを固定し、溶接熱影響部の靭性を向上させる元素である。一方、REM含有量が0.0100%を超えると、鋼中の介在物の量が増加し、かえって靭性の劣化を招く。したがって、REMを含有する場合、REM含有量は0.0100%以下とする。好ましくは0.0001%以上、0.0100%以下である。
ただし、式中の各元素は、鋼材中の各元素の含有量(質量%)を示す。
この(1)式は、硬質相の生成しやすさを示す指標である。すなわち、(1)式で示されるD値を0.5以上とすることで、十分な量の硬質相生成することができ、所望の疲労き裂伝播特性を確実に得ることができる。一方、D値を10.0以下とすることで、軟質相の体積分率が過度に低下することを避けられ、所望の疲労き裂伝播特性を確実に得ることができる。したがって、D値は0.5以上、10.0以下を満足させることが有利である。より好ましくは0.6以上、9.0以下の範囲である。
本発明に係る鋼材のミクロ組織は、構成組織を軟質相中に硬質相が分散した複合組織とする。鋼材組織が硬質相単相あるいは軟質相単相の場合には、疲労き裂伝播を遅延することができない。
軟質相中に疲労き裂先端が存在し、その前方に硬質相が存在すると、塑性域の拘束などを通じ、疲労き裂が硬質相を避けて屈曲や分岐し進展するようになる。このようなき裂の屈曲や分岐は、破面粗さ誘起き裂閉口や応力遮蔽効果をもたらして疲労き裂進展駆動力を低下させる。
なお、ビッカース硬さ(HV1)は、試験力を9.807Nとして、JIS Z 2244(2009)に準拠して測定する。
任意の箇所から採取した試料を研磨したサンプルを用いて、3%ナイタール腐食液によりエッチングした圧延方向に平行な断面の板厚1/4位置にて任意の5視野で光学顕微鏡により組織観察を実施する。そして、線分法を用いてフェライトの平均粒径を求める。
なお、軟質相と硬質相の判別は、上記した方法により、各ミクロ組織のビッカース硬さを測定することで実施する。
なお、硬質相の体積分率は、以下のようにして求める。
すなわち、圧延方向に平行な断面の板厚の1/4位置において、光学顕微鏡観察による組織観察を行い、画像処理によって各ミクロ組織の面積率を算出する。ついで、各ミクロ組織からそれぞれ5点を無作為に抽出してビッカース硬さ(HV1)を計測し、ビッカース硬さが225未満の相を軟質相、ビッカース硬さが225以上の相を硬質相に分類する。そして、硬質相に分類したミクロ組織の合計の面積を、観察視野全体の面積で除した値を、硬質相の体積分率とする。
この防食塗膜としては、製品出荷時に、鋼材の表面に、一次防錆用として塗布してもよく、構造物として設置してから塗装してもよい。一次防錆用の塗装としては、例えば、JIS K 5552に規定されるジンクリッチプライマーがあげられる。
ここで、構造物として設置してからの鋼材表面の塗膜としては、例えば、防食下地層、下塗り層、中塗り層および上塗り層をこの順に有する塗膜があげられる。
なお、防食下地層としては、例えば、JIS K 5553で規定される無機ジンクリッチペイント(例えば、関西ペイント株式会社製:SDジンク1500)があげられる。下塗り層としては、例えば、関西ペイント株式会社製:エポマリンHB(K)、中塗り層としては、例えば、関西ペイント株式会社製:セラテクトF中塗り、上塗り層としては、例えば、関西ペイント株式会社製:セラテクトF(K)上塗りがあげられる。また、鋼材表面の塗膜は、プライマー層、下塗り層、中塗り層、上塗り層をこの順に有する塗膜や、防食下地層、下塗り層、上塗り層をこの順に有する塗膜でも良い。
スラブ加熱温度は、適宜決定してよい。ただし、1300℃を超えてスラブを加熱すると、過度のスケール生成による歩留りの低下およびエネルギー消費量の増大を招く。一方、結晶粒の粗大化による靱性の劣化が問題となる。また、1000℃未満でスラブを加熱すると、スラブの変形抵抗が増大し、続く圧延工程における圧延荷重の増大により圧延が困難となる場合がある。したがって、スラブ加熱温度は1000〜1300℃の範囲とする。好ましくは1050〜1250℃の範囲である。より好ましくは1080〜1200℃の範囲である。
また、熱間圧延におけるスラブ加熱温度から850℃までの温度域における圧下率(=([熱間圧延開始前のスラブの厚み]−[850℃における被圧延材の厚み])÷[熱間圧延開始前のスラブの厚み]×100)が25%以上となるように圧延を行う。この圧延によって、オーステナイト粒が再結晶あるいは部分的に再結晶するため、平均粒径が5μmから50μmのフェライトが得られる。
なお、Ar3点は、公知の方法で測定してもよいが、本願では、以下に示す「鉄と鋼 第67巻(1981)p147」に記載される(1)式により、求めた値を用いた。
Ar3点(℃)
=910−310×C−80×Mn−20×Cu−55×Ni−80×Mo
ただし、式中の元素は、鋼材中の含有量(質量%)を示す。
また、Ar3点〜(Ar3点−80℃)から650℃以下400℃以上までの温度域では、冷却速度:5℃/s以上で水冷などにより加速冷却を行ってもよい。ただし、400℃未満の温度域で加速冷却を行うと、鋼材に反りが発生しやすくなり、矯正などによる製造コストの増大が懸念される。よって、加速冷却を行う場合、当該加速冷却の冷却停止温度は、400℃以上とすることが好ましい。
表1に示す成分組成(残部はFeおよび不可避的不純物)を有する鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブ(厚み250mm)としたのち、表2に示す種々の条件で熱間圧延を行い、室温まで冷却して、熱延後の板厚が15〜80mmになる鋼板を得た。なお、加速冷却を行ったNo.2、9、17〜20では、加速冷却終了後、冷却速度が0.1℃/s以上になる空冷を行って、室温まで冷却した。
得られた鋼板に対し、以下に示す条件で腐食試験、組織観察、引張試験および疲労き裂伝播試験を実施した。結果を表3に示す。
上記のようにして得た鋼板から70mm×50mm×5mmの試験片を採取した。この試験片の表面に、表面粗さがISO 25178の Sa 2.5となるようショットブラストを施したのち、アセトン中での超音波脱脂を5分間行い、風乾した。ついで、試験片の片面を塗装面とし、防食下地として無機ジンクリッチペイントとしてSDジンク1500(厚さ:75μm)を塗布し、ついで下塗りとしてエポキシ樹脂塗料としてエポマリンHB(K)(厚さ:120μm)を塗布し、ついで中塗りとしてセラテクトF中塗り塗料(厚さ:30μm)を塗布し、ついで上塗りとしてセラテクトF(K)上塗り塗料(厚さ:25μm)を塗布し、防食下地層、下塗り層、中塗り層および上塗り層からなる塗膜を形成した。なお、試験片の他方の片面と端面は、溶剤型のエポキシ樹脂塗料にてシールし、さらにシリコン系のシール剤にて被覆した。
すなわち、試験片表面の人工海塩の付着量が6.0g/m2となるように、人工海塩を純水で所定の濃度に希釈した溶液をスプレーし、試験片に人工海塩を付着させた。ついで、この試験片を用いて、条件1(温度:60℃、相対湿度:35%、保持時間:3時間)、条件2(温度:40℃、相対湿度:95%、保持時間:3時間)、条件1から条件2および条件2から条件1への各移行時間を1時間とする、合計8時間のサイクルを1サイクルとして、これを1200サイクル繰り返す腐食試験を実施した。なお、人工海塩の付着は、週に1回とした。
そして、腐食試験終了後、塗膜における初期欠陥部からの片側の膨れ幅を測定し、塗装耐久性を評価した。
得られた結果を表3に示す。なお、片側の膨れ幅が6.5mm以下であれば、塗装の耐久性に優れると判断した。
組織観察(光学顕微鏡観察)は、任意の箇所から採取した試料を研磨したサンプルを用いて、3%ナイタール腐食液によりエッチングした圧延方向に平行な断面の板厚の1/4位置にて実施した。組織観察は上述した方法により5視野で実施し、硬質相の体積分率を、それら総視野での平均値として求めた。また、軟質相および硬質相を判別するため、フェライト、マルテンサイト、ベイナイト、焼戻しマルテンサイト、焼戻しベイナイト等のミクロ組織ごとにそれぞれ5点を無作為に抽出してビッカース硬さ(HV1)を計測し、ビッカース硬さが225未満の相を軟質相、ビッカース硬さが225以上の相を硬質相に判別した。
なお、No.15を除き、軟質相に占めるフェライトの面積率は95%以上であった。
得られた鋼板のうち、板厚50mm未満の鋼板は、JIS Z 2241に準拠した1A号あるいは5号引張試験片を用い、全厚の降伏強度または0.2%耐力と、引張強度を評価した。また、板厚50mm以上の鋼板は、JIS Z 2241に準拠した4号引張試験片を用い、板厚1/4位置の降伏強度または0.2%耐力と、引張強度を評価した。試験片本数は各2本とし、その算術平均を当該鋼板の降伏強度あるいは0.2%耐力および引張強度として評価した。
疲労き裂伝播試験は、全厚(板厚25mmを超えるものは25mmtまで片面減厚)のCT試験片を採取し、応力比0.1、周波数20Hz、室温大気中でASTM E647に準拠して行った。なお、当該試験は、き裂を圧延直角方向に進展させる場合と、き裂を圧延方向に進展させる場合のそれぞれで行った。
そして、応力拡大係数範囲(ΔK)で20MPa√m(ここで、mはき裂長さ(単位:メートル)を示す)の時の疲労き裂伝播速度が、圧延直角方向および圧延方向の両方で5.0×10−8m/cycle以下の場合を合格とした。
一方、比較例では、塗膜の膨れ幅が6.5mmを超えていたり、疲労き裂伝播速度が5.0×10−8m/cycleを超えており、十分な塗装耐久性や疲労き裂伝播特性が得られなかった。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.020%以上、0.200%以下、
Si:0.05%以上、1.00%以下、
Mn:0.20%以上、2.00%以下、
P:0.003%以上、0.030%以下、
S:0.0001%以上、0.0100%以下、
Al:0.001%以上、0.100%以下および
W:0.005%以上、1.000%以下
を含有するとともに、
Cr、MoおよびVのうちから選ばれる1種または2種以上を、
Cr:2.00%以下、
Mo:0.500%以下および
V:0.200%以下
でかつ、
Cr(%)/10+Mo(%)+V(%)≧0.005%
を満足するように含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を有し、
ミクロ組織が硬質相と軟質相から構成され、該硬質相の体積分率が0.20〜0.80であり、該軟質相におけるフェライトの平均粒径が5〜50μmである、疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材。
ここで、軟質相は、ビッカース硬さが225未満の組織であり、硬質相は、ビッカース硬さが225以上の組織である。
また、Cr(%)、Mo(%)およびV(%)はそれぞれ、鋼材の成分組成におけるCr、MoおよびVの含有量(質量%)である。 - 前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Sn:0.200%以下および
Sb:0.200%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材。 - 前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ti:0.050%以下、
Zr:0.100%以下、
B:0.0050%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下および
REM:0.0100%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1または2に記載の疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材。 - 下記(1)式で示されるD値が0.5以上、10以下を満たす、請求項1乃至3のいずれかに記載の疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材。
記
D値:6×W+4×Cr+2×Mo+3×V ・・・(1)
ただし、式中の元素は、鋼材中の各元素の含有量(質量%)を示す。 - 表面に塗膜を有する、請求項1乃至4のいずれかに記載の疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材。
- 降伏強度または0.2%耐力が335MPa以上で、かつ、引張強度が490MPa以上である、請求項1乃至5のいずれかに記載の疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブを、1000℃以上1300℃以下に加熱し、ついで、スラブ加熱温度から850℃までの温度域における圧下率:25%以上、仕上げ圧延温度:(Ar3点−40℃)以上の条件で熱間圧延を施したのち、冷却速度:0.1℃/s以上で冷却する、疲労き裂伝播特性と塗装耐久性に優れた構造用鋼材の製造方法。
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JP2007327087A (ja) * | 2006-06-06 | 2007-12-20 | Kobe Steel Ltd | 母材靱性と疲労亀裂進展特性に優れた厚鋼板 |
JP2014001450A (ja) * | 2012-05-23 | 2014-01-09 | Jfe Steel Corp | 耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材 |
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