JP2020161789A - R−t−b系焼結磁石 - Google Patents

R−t−b系焼結磁石 Download PDF

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Abstract

【課題】Tbの使用量を低減しつつ、高いBrと高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石を提供する。【解決手段】R−T−B系焼結磁石の製造方法は、R1−T−B系焼結磁石素材を準備する工程と、R2−Ga合金を準備する工程と、R1−T−B系焼結磁石素材表面の少なくとも一部にR2−Ga合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上950℃以下の温度で第一の熱処理を実施することにより、R2及びGaを磁石素材内部に拡散させる拡散工程と、第一の熱処理が実施されたR−T−B系焼結磁石に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上750℃以下の温度で、且つ、第一の熱処温度よりも低い温度で第二の熱処理を実施する工程と、を含む。残留磁束密度(Br)が1.47T以上、保磁力(HcJ)が1900kA/m以上で、且つ、Tbを含有し、Tbの含有量が0.35mass%以下である。【選択図】図2

Description

本発明はR−T−B系焼結磁石に関する。
R−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素のうち少なくとも一種であり、Tは主にFeであり、Bは硼素である)は永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車用(EV、HV、PHVなど)モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品などに使用されている。
R−T−B系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。主相であるR14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料であり、R−T−B系焼結磁石の特性の根幹をなしている。
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」という)が低下するため不可逆熱減磁が起こるという問題がある。そのため、特に電気自動車用モータに使用されるR−T−B系焼結磁石では、高温下でも高いHcJを有する、すなわち室温においてより高いHcJを有することが要求されている。
国際公開第2007/102391号 国際公開第2018/143230号
14B型化合物相中の軽希土類元素RL(主にNd、Pr)を重希土類元素RH(主にTb、Dy)で置換すると、HcJが向上することが知られている。しかし、HcJが向上する一方、R14B型化合物相の飽和磁化が低下するために残留磁束密度B(以下、単に「B」という)が低下してしまうという問題がある。また、特にTbは、もともと資源量が少ないうえ産出地が限定されている等の理由から、供給が不安定であり、価格変動するなどの問題を有している。そのため、Tbをできるだけ使用せず(使用量をできるだけ少なくして)、Bの低下を抑制しつつ、高いHcJを得ることが求められている。
特許文献1には、R−T−B系合金の焼結磁石の表面にRHを供給しつつ、RHを焼結磁石の内部に拡散させることが記載されている。特許文献1に記載の方法は、R−T−B系焼結磁石の表面から内部にRHを拡散させてHcJ向上に効果的な主相結晶粒の外殻部にのみRHを濃化させることにより、Bの低下を抑制しつつ、高いHcJを得ることができる。
特許文献2には、R−T−B系焼結素材表面から粒界を通じて磁石内部にRHと共にRLおよびGaを拡散させることが記載されている。特許文献2に記載の方法により、RHの磁石内部への拡散を大幅に進行させることができRHの使用量を低減しつつ、極めて高いHcJを得ることができる。
しかし、近年特に電気自動車用モータなどにおいてRH、その中でも特にTbの使用量を低減しつつ、更に高いBと高いHcJを得ることが求められている。
本開示の様々な実施形態は、Tbの使用量を低減しつつ、高いBと高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石の製造方法を提供する。
本開示のR−T−B系焼結磁石は、例示的な実施形態において、残留磁束密度(Br)が1.47T以上、保磁力(HcJ)が1900kA/m以上で、且つ、Tbを含有し、Tbの含有量が0.35mass%以下である。
ある実施形態において、RL(RLは軽希土類元素のうち少なくとも一種であり、NdおよびPrを必ず含む)を含有し、RLの含有量(mass%)を[RL]、酸素の含有量(mass%)を[酸素]とするとき、26.5mass%≦([RL])−6×[酸素]≦28.8mass%である。
ある実施形態において、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度が漸減する部分を含む。
ある実施形態において、磁石表面から磁石内部に向かってPr濃度が漸減する部分を含む。
ある実施形態において、磁石表面から磁石内部に向かってGa濃度が漸減する部分を含む。
ある実施形態において、Tb含有量が0.30mass%以下である。
ある実施形態において、酸素の含有量(mass%)を[酸素]とするとき、0.01mass%≦[酸素]≦0.15mass%である。
本開示の実施形態によれば、Tbの使用量を低減しつつ、高いBと高いHcJを有するR−T−B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
R−T−B系焼結磁石の一部を拡大して模式的に示す断面図である。 図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。 本開示によるR−T−B系焼結磁石の製造方法における工程の例を示すフローチャートである。
まず、本開示によるR−T−B系焼結磁石の基本構造について説明をする。R−T−B系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR14B化合物粒子からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
図1Aは、R−T−B系焼結磁石の一部を拡大して模試的に示す断面図であり、図1Bは図1Aの破線矩形領域内を更に拡大して模式的に示す断面図である。図1Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。図1Aおよび図1Bに示されるように、R−T−B系焼結磁石は、主としてR14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、図1Bに示されるように、2つのR14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つのR14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。典型的な主相結晶粒径は磁石断面の円相当径の平均値で3μm以上10μm以下である。主相12であるR14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料である。したがって、R−T−B系焼結磁石では、主相12であるR14B化合物の存在比率を高めることによってBを向上させることができる。R14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。
上述したように、例えば特許文献2では、R−T−B系焼結素材表面(本開示ではR1−T−B系焼結磁石素材表面)から粒界を通じて磁石内部にRH(例えばTb)と共にRL(特にPr)およびGaを拡散させている。これによりTbの磁石内部への拡散を大幅に進行させて極めて高いHcJが得られている。しかし、本発明者は検討の結果、PrおよびGaを磁石内部へ拡散させることで、二粒子粒界相の幅が広がり、これにより主相の体積比率が低下してBの低下を招いてしまう場合があることがわかった。そこで本発明者はさらに検討の結果、Tbの拡散を大幅に進行させて高いHcJを得るためにはPrおよびGaの拡散は有効なものの、PrおよびGaの拡散量は必要最小限にする必要があると考えた。また、PrおよびGaはR1−T−B系焼結磁石表面から粒界を通じて拡散されることから、R1−T−B系焼結磁石素材における粒界を制御(粒界の量や大きさ)することで磁石内部へのPrおよびGaの拡散量を制御できるのではないかと想定した。これらの知見をもとに検討した結果、R1−T−B系焼結磁石素材に含有されるRLL(RLLは軽希土類元素のうち少なくとも一種であり、Ndを必ず含む)と酸素量を調整することでRLLの含有量(mass%)を[RLL]、酸素の含有量(mass%)を[酸素]とするとき、26.3mass%≦[RLL]−6×[酸素]≦28.6mass%の範囲とした上で、R1−T−B系焼結磁石素材に対してTbと共にPrおよびGaを拡散させると、PrおよびGaが磁石内部に過剰に拡散されず、かつ、Tbの拡散を大幅に進行させることができることを見出した。
これにより得られるR−T−B系焼結磁石は、残留磁束密度(B)が1.47T以上、保磁力(HcJ)が1900kA/m以上で、且つ、Tb含有量が0.35mass%以下(好ましくはTbの含有量が0.30mass%以下)と、Tbの使用量を低減しつつ、極めて高いBと高いHcJを有することができる。また、この時のR−T−B系焼結磁石(拡散後)におけるRL(RLは軽希土類元素のうち少なくとも一種であり、NdおよびPrを必ず含む)の量は、RLの含有量(mass%)を[RL]、酸素の含有量(mass%)を[酸素]とするとき、26.5mass%≦[RL]−6×[酸素]≦28.8mass%の範囲となる。
なお、R−T−B系焼結磁石における、BおよびHcJの磁気特性は、磁石全体の磁気特性を意味しており、例えば、B−Hトレーサにより測定することができる。磁石が大きく、磁石全体の磁気特性を測定することができない場合は、例えば、磁石の角部(端部)を7mm角(7mm×7mm×7mm)程度に加工してB−Hトレーサにより測定してもよい。さらに、磁石が小さい場合は、複数の磁石を重ね合わせて7mm角程度とし、B−Hトレーサにより測定してもよい。また、前記Tb含有量、前記RLの含有量および前記酸素の含有量は、磁石全体の組成(平均組成)を示しており、Tb及びRLの含有量は、磁石全体を例えば、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定することができる。また、酸素含有量は、例えば、ガス融解−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定することができる。
(R−T−B系焼結磁石)
本開示のR−T−B系焼結磁石は、Tbを含有し、Tbの含有量が0.35mass%以下(好ましくは0.30mass%以下)である。さらに本開示のR−T−B系焼結磁石は、磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度が漸減する部分を含み、磁石表面から磁石内部に向かってPr濃度が漸減する部分を含み、磁石表面から磁石内部にむかってGa濃度が漸減する部分を含む。磁石表面から磁石内部にTb、PrおよびGa濃度が漸減する部分を含むということは、Tb、PrおよびGaが磁石表面から磁石内部に拡散された状態にあることを意味している。「磁石表面から磁石内部にTb、PrおよびGa濃度が漸減する部分を含む」は、例えば、R−T−B系焼結磁石の任意の断面における磁石表面から磁石中央付近までをエネルギー分散型X線分光方法(EDX)により線分析(ライン分析)することにより確認することができる。Tb、PrおよびGa濃度は、測定部位が主相結晶粒(R14B化合物粒子)や粒界であったり、拡散前のR1−T−B系焼結磁石素材や拡散時に生じるTb、PrおよびGaを含む化合物の種類や有無により局所的にはTb、PrおよびGaの濃度はそれぞれ下がったり、上がったりする場合がある。しかしながら、全体的なTb、PrおよびGaの濃度はそれぞれ磁石内部に行くに従い漸減して(徐々に濃度が低くなって)いく。よって局所的に濃度が下がったり、上がったりしていたとしても、磁石表面から磁石内部へ少なくとも200μmの深さにおいて全体的にTb、PrおよびGa量がそれぞれ漸減していれば、本開示の「磁石表面から磁石内部にTb、PrおよびGa濃度が漸減する部分を含む」とする。
さらに、本開示のR−T−B系焼結磁石は、RL(RLは軽希土類元素のうち少なくとも一種であり、NdおよびPrの少なくとも一方を必ず含む)を含有し、RLの含有量(mass%)を[RL]、酸素の含有量(mass%)を[酸素]とするとき、26.5mass%≦[RL]−6×[酸素]≦28.8mass%を満たす。以下、「[RL]−6×[酸素]」のことをR´という場合がある。前記R´が26.5mass%未満であると、Tb、PrおよびGaが磁石表面から磁石内部に拡散されにくくなり、HcJが低下する可能性があり、28.8mass%を超えると、Tb、PrおよびGaが磁石表面から磁石内部に過剰に拡散されてBが低下する可能性がある。好ましくは、前記R´は、27.0mass%以上28.0mass%以下(27.0mass%≦[RL]−6×[酸素]≦28.0mass%)である。より高いBと高いHcJを有することができる。また、前記RLの含有量(mass%)は、R全体の含有量の90mass%以上である。RLの含有量がR全体の含有量の90mass%未満であると、Bが低下する可能性がある。
このような特徴をもつ本開示のR−T−B系焼結磁石は、残留磁束密度(B)が1.47T以上、保磁力(HcJ)が1900kA/m以上であり、Tbの使用量を低減しつつ、非常に高いBと高いHcJを有している。
R−T−B系焼結磁石は例えば、以下の組成を有する。
R:26.8mass%以上31.5mass%以下(Rは、希土類元素のうち少なくとも一種であり、TbおよびRLを含有し、RLの含有量は、R全体の含有量の90mass%以上である)、
B:0.80mass%以上1.20mass%以下、
M:0.05mass%以上1.0mass%以下(Mは、Ga、Cu、ZnおよびSiからなる群から選択された少なくとも一種である)、
M1:0mass%以上2.0mass%以下(M1は、Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種)
残部T(TはFe又はFeとCo)、および不可避的不純物からなる。
なお、RLは軽希土類元素であり、NdおよびPrを必ず含む。また、RLにおけるNdおよびPrの含有量は、RL全体の含有量の90mass%以上であることが好ましい。軽希土類元素は、La、Ce、Nd、Pr、Pm、Sm、Euなどが挙げられる。また、不可避的不純物としてO(酸素)、N(窒素)、C(炭素)などが挙げられるが、より高いBとHcJを得るには、酸素の含有量(mass%)を[酸素]とするとき、0.01mass%≦[酸素]≦0.15mass%であることが好ましい。
また、好ましくは、このR−T−B系焼結磁石は、Tの含有量(mass%)を[T]、Bの含有量(mass%)を[B]とするとき、下記式(1)を満足する。
[T]/55.85>14×[B]/10.8 (1)
この式(1)を満足するということは、Bの含有量がR14B化合物の化学量論組成比よりも少ない、すなわち、主相(R14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないことを意味している。式(1)を満足することにより、より高いHcJを得ることができる。
本開示のR−T−B系焼結磁石は、例えば、図2に示すように、R1−T−B系焼結磁石素材を準備する工程S10とR2−Ga合金を準備する工程S20と、R1−T−B系焼結磁石素材表面の少なくとも一部にR2−Ga合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上950℃以下の温度で第一の熱処理を実施することにより、R2およびGaを磁石素材内部に拡散させる拡散工程S30と、第一の熱処理が実施されたR−T−B系焼結磁石に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上750℃以下の温度で、かつ前記第一の熱処温度よりも低い温度で第二の熱処理を実施する工程S40と、を含む。以下、説明する。
なお。本開示において、拡散前および拡散中のR−T−B系焼結磁石を「R1−T−B系焼結磁石素材」といい、拡散後のR−T−B系焼結磁石を単に「R−T−B系焼結磁石」という。
(R1−T−B系焼結磁石素材を準備する工程)
まず、R1−T−B系焼結磁石素材の組成について説明する。
本開示のR1−T−B系焼結磁石素材において特徴的な点は、R1−T−B系焼結磁石素材に含有されるRLL(RLLは軽希土類元素のうち少なくとも一種であり、Ndを必ず含む)および酸素量を調整することである。具体的には、RLLの含有量(mass%)を[RLL]、酸素の含有量(mass%)を[酸素]とするとき、26.3mass%≦[RLL]−6×[酸素]≦28.6mass%の範囲とする。このようなR1−T−B系焼結磁石素材に対して、後述する拡散工程を行うことにより、R1−T−B系焼結磁石素材内部にPrおよびGaが磁石内部に過剰に拡散されず、かつ、Tbの拡散を大幅に進行させることができる。
R1−T−B系焼結磁石素材は例えば以下の組成を有する。
R1:26.6mass%以上31.3mass%以下(R1は、希土類元素のうち少なくとも一種であり、RLLを含有し、RLLの含有量は、R1全体の含有量の90mass%以上である)、
B:0.80mass%以上1.20mass%以下、
M:0mass%以上1.0mass%以下(Mは、Ga、Cu、ZnおよびSiからなる群から選択された少なくとも一種である)、
M1:0mass%以上2.0mass%以下(M1は、Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種)
残部T(TはFe又はFeとCo)、および不可避的不純物からなる。
なお、RLLは軽希土類元素であり、Ndを必含む。また、RLLにおけるNdの含有量は、RLL全体の80mass%以上であることが好ましい。軽希土類元素は、La、Ce、Nd、Pr、Pm、Sm、Euなどが挙げられる。また、不可避的不純物としてO(酸素)、N(窒素)、C(炭素)などが挙げられるが、より高いBとHcJを得るには、酸素の含有量(mass%)を[酸素]とするとき、0.01mass%≦[酸素]≦0.15mass%であることが好ましい。
好ましくは、このR1−T−B系焼結磁石素材は、Tの含有量(mass%)を[T]、Bの含有量(mass%)を[B]とするとき、下記式(1)を満足する。
[T]/55.85>14×[B]/10.8 (1)
この式(1)を満足するということは、Bの含有量がR14B化合物の化学量論組成比よりも少ない、すなわち、主相(R14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないことを意味している。式(1)を満足することにより、より高いHcJを得ることができる。
次にR1−T−B系焼結磁石素材の準備方法について説明する。R1−T−B系焼結磁石素材は、Nd−Fe−B系焼結磁石に代表される一般的なR−T−B系焼結磁石の製造方法を用いて準備することができる。一例を挙げると、ストリップキャスト法等で作製された原料合金を、ジェットミルなどを用いて3μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で成形し、900℃以上1100℃以下の温度で焼結することにより準備することができる。
原料合金の粉砕粒径(気流分散式レーザー回折法による測定で得られる体積中心値=D50)が3μm未満では粉砕粉を作製するのが非常に困難であり、生産効率が大幅に低下するため好ましくない。一方、粉砕粒径が10μmを超えると最終的に得られるR−T−B系焼結磁石の結晶粒径が大きくなり過ぎ、高いHcJを得ることが困難となるため好ましくない。R1−T−B系焼結磁石素材は、前記の各条件を満たしていれば、一種類の原料合金(単一原料合金)から作製してもよいし、二種類以上の原料合金を用いてそれらを混合する方法(ブレンド法)によって作製してもよい。
(R2-Ga合金を準備する工程)
まず、R2-Ga合金の組成について説明する。
R2-Ga合金におけるR2は希土類元素のうち少なくとも二種であり、TbおよびPrを必ず含む。好ましくは、R2がR2-Ga合金全体の65mass%以上97mass%以下であり、GaはR2-Ga合金全体の3mass%以上35mass%以下である。R2におけるTbの含有量はR2-Ga合金全体の3mass%以上24mass以下であることが好ましい。また、R2におけるPrの含有量はR2-Ga合金全体の65mass%以上86mass%以下が好ましい。また、Gaの50mass%以下をCuおよびSnの少なくとも一方で置換することができる。R2-Ga合金は不可避的不純物を含んでいても良い。なお、本開示における「Gaの50%以下をCuで置換することができる」とは、R2-Ga合金中のGaの含有量(mass%)を100%とし、そのうち50%をCuで置換できることを意味する。好ましくは、R2-Ga合金のPrの含有量は、R2全体の50mass%以上であり、更に好ましくは、R2はPrとTbのみからなる。Prを含有することにより粒界相中の拡散が進みやすくなるため、Tbをさらに効率よく拡散することが可能となり、より高いHcJを得ることができる。
R2-Ga合金の形状およびサイズは、特に限定されず、任意である。R2-Ga合金は、フィルム、箔、粉末、ブロック、粒子などの形状をとり得る。
次にR2−Ga合金の準備方法について説明する。
R2-Ga合金は、一般的なR−T−B系焼結磁石の製造方法において採用されている原料合金の作製方法、例えば、金型鋳造法やストリップキャスト法や単ロール超急冷法(メルトスピニング法)やアトマイズ法などを用いて準備することができる。また、R2-Ga合金は、前記によって得られた合金をピンミルなどの公知の粉砕手段によって粉砕されたものであってもよい。
(拡散工程)
前記によって準備したR1−T−B系焼結磁石素材表面の少なくとも一部に、前記R2-Ga合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上950℃以下の温度で第一の熱処理を実施することにより、R2およびGaを磁石素材内部に拡散させる拡散工程を行う。これにより、R2-Ga合金からTb、PrおよびGaを含む液相が生成し、その液相がR1−T−B系焼結磁石素材中の粒界を経由して焼結素材表面から内部に拡散導入される。この時、R1−T−B系焼結磁石素材に含有されるRHの含有量を0.05mass%以上0.35mass%以下という極めて微量な範囲で増加させることが好ましい。これにより、極めて高いHcJ向上効果を得ることができる。R1−T−B系焼結磁石素材に含有されるTbの含有量を0.05mass%以上0.35mass%以下増加させるためには、R2-Ga合金の量、処理時の加熱温度、粒子径(R2-Ga合金が粒子状の場合)、処理時間等の各種条件を調整してよい。これらのなかでも、R2-Ga合金の量および処理時の加熱温度を調整することにより比較的容易にRHの導入量(増加量)を制御できる。念のために言及するが、本明細書において、「Tbの含有量を0.05mass%以上0.35mass%以下増加させる」とは、mass%で示される含有量において、その数値が0.05以上0.35以下増加することを意味する。例えば、拡散工程前のR1−T−B系焼結磁石素材のTbの含有量が0.50mass%であり拡散工程後のR−T−B系焼結磁石のTbの含有量が0.60mass%であった場合は、拡散工程によりTbの含有量を0.10mass%増加させたことになる。なお、TbおよびDyの少なくとも一方の含有量(RH量)を0.05mass%以上0.35mass%以下増加しているかどうかは、拡散工程前におけるR1−T−B系焼結磁石素材および拡散工程後のR−T−B系焼結磁石(又は第二の熱処理後のR−T−B系焼結磁石)全体におけるTbの含有量をそれぞれ測定して拡散前後でどのくらいTbの含有量が増加したかを求めることにより確認することができる。また、拡散後のR−T−B系焼結磁石表面に(又は第二の熱処理後のR−T−B系焼結磁石表面)R2-Ga合金の濃化部が存在する場合は、前記濃化部を切削加工等により取り除いてからRH量を測定する。
第一の熱処理温度が700℃未満であると、Tb、PrおよびGaを含む液相量が少なすぎて高いHcJを得ることが出来ない。一方、950℃を超えるとHcJが低下する可能性がある。好ましくは、850℃以上950℃以下である。より高いHcJを得ることができる。また、好ましくは、第一の熱処理(700℃以上950℃以下)が実施されたR−T−B系焼結磁石を前記第一の熱処理を実施した温度から5℃/分以上の冷却速度で300℃まで冷却した方が好ましい。より高いHcJを得ることができる。さらに好ましくは、300℃までの冷却速度は15℃/分以上である。
第一の熱処理は、R1−T−B系焼結磁石素材表面に、任意形状のR2-Ga合金を配置し、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。例えば、R1−T−B系焼結磁石素材表面をR2-Ga合金の粉末層で覆い、第一の熱処理を行うことができる。例えば、R2-Ga合金を分散媒中に分散させたスラリーをR1−T−B系焼結磁石素材表面に塗布した後、分散媒を蒸発させR2-Ga合金とR1−T−B系焼結磁石素材とを接触させてもよい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、アルデヒドおよびケトンを例示できる。また、RHは、R2-Ga合金からだけでなく、R2-Ga合金と共にRHのフッ化物、酸化物、酸フッ化物等をR−T−B系焼結磁石表面に配置することによりRHを導入してもよい。すなわち、RHと共にRLおよびGaを同時に拡散させることができればその方法は特に問わない。RHのフッ化物、酸化物、酸フッ化物としては、例えば、TbF、DyF、Tb、Dy、TbOF、DyOFが挙げられる。
またR2-Ga合金は、R2-Ga合金の少なくとも一部がR1−T−B系焼結磁石素材の少なくとも一部に接触していれば、その配置位置は特に問わないが、好ましくは、R2-Ga合金は、少なくともR1−T−B系焼結磁石素材の配向方向に対して垂直な表面に接触させるように配置する。より効率よくR2やGaを含む液相を磁石表面から内部に拡散導入させることができる。この場合、R1−T−B系焼結磁石素材の配向方向のみにR2-Ga合金を接触させても、R1−T−B系焼結磁石素材の全面にR2-Ga合金を接触させてもよい。
(第二の熱処理を実施する工程)
第一の熱処理が実施されたR1−T−B系焼結磁石素材に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上750℃以下で、かつ、前記第一の熱処理を実施する工程で実施した温度よりも低い温度で熱処理を行う。本開示においてこの熱処理を第二の熱処理という。第二の熱処理を行うことにより、高いHcJを得ることができる。第二の熱処理が第一の熱処理よりも高い温度であったり、第二の熱処理の温度が450℃未満および750℃を超える場合は、高いHcJを得られない可能性がある。
実験例1
R1−T−B系焼結磁石素材がおよそ表1のNo.A〜Gに示す組成となるように各元素の原料を秤量し、ストリップキャスティング法により合金を作製した。得られた各合金を水素粉砕法により粗粉砕し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100mass%に対して0.04mass%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粉砕粒径D50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。前記微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100mass%に対して0.05mass%添加、混合した後磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体を、真空中、1060℃以上1090℃以下(サンプル毎に焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)で4時間焼結し、R1−T−B系焼結磁石素材を得た。得られたR1−T−B系焼結磁石素材の密度は7.5Mg/m以上であった。得られたR1−T−B系焼結磁石素材の成分の結果を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。また、O(酸素)含有量は、ガス融解−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した。なお、各成分は、R1−T−B系焼結磁石素材全体の成分(磁石全体の平均組成)の結果である。以下、R2−Ga合金及びR−T−B系焼結磁石の成分の結果も同様である。また、R1−T−B系焼結磁石素材における[RLL]−6×[酸素]の値を表1に示す。なお、No.FおよびNo.G以外の実験例(No.A〜E)は、いずれも本開示の好ましい範囲内(26.3mass%≦[RLL]−6×[酸素]≦28.6mass%)であった。
Figure 2020161789
R2−Ga合金がおよそ表2のNo.aに示す組成となるように各元素の原料を秤量しそれらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金を、乳鉢を用いてアルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き425μmの篩を通過させ、R2−Ga合金を準備した。得られたR2−Ga合金の組成を表2に示す。尚、表2における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。
Figure 2020161789
表1のNo.A〜GのR1−T−B系焼結磁石素材を切断、研削加工し、7.4mm×7.4mm×7.4mmの立方体とした。次に、No.A〜GのR1−T−B系焼結磁石素材の全面にR1−T−B系焼結磁石素材を表3に示す拡散条件で散布した。表2のNo.3は、No.BのR1−T−B系焼結磁石素材100mass%に対してR2−Ga合金(No.a)を2mass%散布したことを示している。また、No.3は、同じ拡散工程を2回行っていることを示している。よって、No.3は、合計4mass%散布したことになる。No.1〜2、No.4〜10も同様に記載している。拡散工程は、50Paに制御した減圧アルゴン中で、900℃で4時間第一の熱処理を行った後室温まで冷却を行った。これにより、第一の熱処理が実施されたR−T−B系焼結磁石を得た。更に、第一の熱処理が実施されたR−T−B系焼結磁石に対して、50Paに制御した減圧アルゴン中で、480℃で3時間第二の熱処理を行った後室温まで冷却を行いR−T−B系焼結磁石(No.1〜10)を作製した。得られたR−T−B系焼結磁石におけるTb量、RL(本実施例の場合はNd+Pr)、酸素量およびR´([RL]−6×[酸素])を表3に示す。また、得られたR−T−B系焼結磁石に機械加工を施し、サンプルを7mm×7mm×7mmに加工し、BHトレーサにより測定した。測定結果を表3に示す。また、No.1〜10の磁石断面における磁石表面から磁石中央部付近までをEDXにより線分析(ライン分析)をおこなった所、全てのサンプルで、Tb、PrおよびGa濃度がそれぞれ磁石表面から磁石中央部に漸減している(徐々に濃度が低くなっている)ことを確認した。
Figure 2020161789
表3に示すように、本発明例は、いずれもBが1.47T以上、HcJが1900kA/m以上の高いBと高いHcJが得られている。これに対し、R´が本開示の範囲からはずれているNo.9および10の比較例は、いずれもBが1.47T以上、HcJが1900kA/m以上の高いBと高いHcJが得られていない。
実施例2
R1−T−B系焼結磁石素材がおよそ表4のNo.H〜Pに示す組成となるように各元素の原料を秤量した以外は実施例1と同様にしてR1−T−B系焼結磁石を作製した。得られたR1−T−B系焼結磁石素材の成分の結果を表4に示す。
Figure 2020161789
R2−Ga合金がおよそ表5のNo.bおよびcに示す組成となるように各元素の原料を秤量した以外は実施例1と同様にしてR2−Ga合金を準備した。得られたR2−Ga合金の組成を表5に示す。
Figure 2020161789
表4のNo.H〜PのR1−T−B系焼結磁石素材を切断、研削加工し、7.4mm×7.4mm×7.4mmの立方体とし、実施例1と同様な方法で、表6に示す拡散条件で散布した。なお、No.H〜PのR1−T−B系焼結磁石素材に対してはNo.bのR2−Ga合金を散布し、No.HのR1−T−B系焼結磁石素材に対してはNo.cのR2−Ga合金を散布した。さらに拡散工程(第一の熱処理)および第二の熱処理も実施例1と同様におこない、R−T−B系焼結磁石(No.11〜20)を得た。得られたR−T−B系焼結磁石におけるTb量、RL、酸素量およびR´([RL]−6×[酸素])を表6に示す。また、得られたR−T−B系焼結磁石に機械加工を施し、サンプルを7mm×7mm×7mmに加工し、BHトレーサにより測定した。測定結果を表6に示す。また、No.11〜20の磁石断面における磁石表面から磁石中央部付近までをEDXにより線分析(ライン分析)をおこなった所、全てのサンプルで、Tb、PrおよびGa濃度がそれぞれ磁石表面から磁石中央部に漸減している(徐々に濃度が低くなっている)ことを確認した。
Figure 2020161789
表6に示すように、本発明例は、いずれもBが1.47T以上、HcJが1900kA/m以上の高いBと高いHcJが得られている。
本開示によれば、高残留磁束密度、高保磁力のR−T−B系焼結磁石を作製することができる。本開示の焼結磁石は、高温下に晒されるハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に好適である。
12・・・R14B化合物からなる主相、14・・・粒界相、14a・・・二粒子粒界相、14b・・・粒界三重点

Claims (7)

  1. 残留磁束密度(B)が1.47T以上、保磁力(HcJ)が1900kA/m以上で、且つ、Tbを含有し、Tbの含有量が0.35mass%以下であるR−T−B系焼結磁石。
  2. RL(RLは軽希土類元素のうち少なくとも一種であり、NdおよびPrを必ず含む)を含有し、RLの含有量(mass%)を[RL]、酸素の含有量(mass%)を[酸素]とするとき、
    26.5mass%≦([RL])−6×[酸素]≦28.8mass%である、請求項1に記載のR−T−B系焼結磁石。
  3. 磁石表面から磁石内部に向かってTb濃度が漸減する部分を含む、請求項1または2に記載のR−T−B系焼結磁石。
  4. 磁石表面から磁石内部に向かってPr濃度が漸減する部分を含む、請求項1から3のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石。
  5. 磁石表面から磁石内部に向かってGa濃度が漸減する部分を含む、請求項1から4のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石。
  6. Tb含有量が0.30mass%以下である、請求項1から5のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石。
  7. 酸素の含有量(mass%)を[酸素]とするとき、
    0.01mass%≦[酸素]≦0.15mass%である、請求項1から6のいずれかに記載のR−T−B系焼結磁石。
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