JP2020132803A - 物質固定化剤、及び当該物質固定化剤を用いた物質固定化方法 - Google Patents
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Abstract
Description
基体上にタンパク質や核酸を固定化する方法の1つとして、特許文献1に記載の物質固定化剤を用いた基体上への物質の固定化方法が知られている。
特許文献1には、有機分子、生体分子、ウイルス、及び細菌等の基体に固定化すべき物質と、物質固定化剤と、を含む水溶液又は水懸濁液を基体に塗布して光照射することによって、当該物質と物質固定化剤とが共有結合し、当該物質が基体上に固定化されることが記載されている。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その課題は、光反応性基を有しかつより水溶性の高いポリマーを含む新規物質固定化剤、及び、当該物質固定化剤を用いた物質固定化方法等を提供することである。
1) 基体上に物質を固定化するための水溶性ポリマーを含む物質固定化剤であって、
前記水溶性ポリマーが、ポリオキシエチレン構造を含む主鎖を有し、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する、物質固定化剤。
2) 上記水溶性ポリマーは、繰り返し単位として、式(1)に示す構造、及び、式(2)に示す構造を含んでいる、1)に記載の物質固定化剤。
−(CH2−CHR1−O)−・・・・(1)
−(CH2−CHR2−O)−・・・・(2)
式(1)において、R1は、光反応性基を含む基であり、式(2)において、R2は、両性イオン性基、アミド基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基、又は水素原子であり、式(1)及び(2)中に示す主鎖を構成する炭素原子に結合した水素原子は互いに独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、および炭素数1〜4のハロアルキル基から成る群から選択される置換基で置換されていてもよい。
3) R1は−R3R4であり、R3は主鎖に炭素原子を含むリンカーであり、R4はアジド基またはジアジリニル基である、2)に記載の物質固定化剤。
4) R3は主鎖に炭素原子と複素原子とを含むリンカーである、3)に記載の物質固定化剤。
5) R3は、エーテル基、アミド基、アルキレン基、及び、これらの組合せを含む化学構造を有するリンカーである、3)に記載の物質固定化剤。
6) R2は、式(2−1)に示す構造、又は、式(2−2)に示す構造を含んでいる、2)〜5)のいずれかに記載の物質固定化剤。
−C(O)−R5・・・(2−1)
−C(O)−OR5・・・(2−2)
式(2−1)及び(2−2)において、R5は、両性イオン性基、アミド基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基である。
7) 前記水溶性ポリマーの分子量が500以上500万以下である、1)〜6)のいずれかに記載の物質固定化剤。
8) 基体に固定化する物質が、ポリペプチド、多糖類、核酸、脂質並びに細胞及びその構成要素から成る群から選ばれる、1)〜7)のいずれかに記載の物質固定化剤。
9) 基体に固定化すべき物質と、1)〜8)のいずれかに記載の物質固定化剤とを含む水溶液又は水懸濁液を前記基体に塗布し、光照射することを含む、基体上への物質の固定化方法。
10) 基体に固定化する物質が、ポリペプチド、多糖類、核酸、脂質並びに細胞及びその構成要素から成る群から選ばれる、9)に記載の方法。
11) 1)〜8)のいずれかに記載の物質固定化剤が塗布された基体。
本発明の一実施形態に係る物質固定化剤は、基体上に物質を固定化するための水溶性ポリマーを含む物質固定化剤であって、前記水溶性ポリマーが、ポリオキシエチレン構造を含む主鎖を有し、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する。一例として、前記水溶性ポリマーが分子全体として電気的に中性なポリマーから成る。
本明細書において、「分子全体として電気的に中性」とは、中性付近のpH(pH6〜8)の水溶液中で電離してイオンになる基を有さないか、又は有していても陽イオンになるものと陰イオンになるものを有していて、その電荷の合計が実質的に0になることを意味する。ここで「実質的に」とは、電荷の合計が0になるか、又は0にはならないとしても本発明の効果に悪影響を与えない程度に小さいことを意味する。
水溶性ポリマー1分子当りの光反応性基の数は、2個以上であれば、特に限定されるものではないが、水溶性ポリマー全体に対して光反応性基の含有量は、10モル%以上が好ましく、10モル%を超えることがより好ましく、15モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。本明細書において、「水溶性ポリマー全体に対する光反応性基の含有量(モル%)」は、水溶性ポリマーを構成する繰り返し単位の総数に対する、光反応性基を有する繰り返し単位の数の割合を百分率で示したものである。光反応性基は、水溶性ポリマーの主鎖に直接結合していてもよいが、任意のスペーサー構造を介して水溶性ポリマーの主鎖に結合されていてもよく、通常、後者の方が、製造が容易である等の観点で好ましい。
上記水溶性ポリマーの主鎖は、繰り返し単位として、式(1)に示す構造、及び、式(2)に示す構造を含んでいることが好ましい。
−(CH2−CHR1−O)−・・・・(1)
−(CH2−CHR2−O)−・・・・(2)
式(1)において、R1は、光反応性基を含む基であり、
式(2)において、R2は、両性イオン性基、アミド基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基、又は水素原子であり、
式(1)及び(2)中に示す主鎖を構成する炭素原子に結合した水素原子は互いに独立して、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、炭素数1〜4のアルキル基、及び炭素数1〜4のハロアルキル基(ハロゲン原子の例示は上記と同じ)からなる群から選択される置換基で置換されていてもよい。
なお、以下で、ハロゲン原子、及び、炭素数1〜4のハロアルキル基は、特に断りの無い限り、同じ定義である。
式(1)において、R1は、光反応性基を含む基である。光反応性基としては、例えば、アジド基、アセチル基、ベンゾイル基、ジアゾ基、ジアジリン基、ケトン基、及びキノン基等が挙げられる。R1としては、アセチル基、ベンゾイル基、アジド基(−N3を有する基)及びジアリジニル基(ジアジリン基:二重結合した2つの窒素原子に1つの炭素原子が結合して形成された三員環構造を有し、当該炭素原子が結合の腕を持つ基。)から選択される光反応性基を含む基が好ましく、アジド基及びジアリジニル基から選択される光反応性基を含む基がより好ましく、芳香族アジド基及び芳香族ジアリジニル基から選択される光反応性基を含む基がより好ましい。芳香族アジド基及び芳香族ジアリジニル基としては、例えば、置換又は非置換のフェニルアジド基、及び、置換又は非置換のフェニルジアリジニル基が挙げられる。上記の通り、式(1)中の水素原子(R1が有する水素原子であってもよい)は、置換基で置換されていてもよい。置換基の例として、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、及び炭素数1〜4のハロアルキル基が挙げられる。
より具体的な一例では、R3は、エーテル基(−(CH2)n1−O−(CH2)n2−)、アミド基(−NH−C(O)−)、アルキレン基、及び、これらの組合せを含む化学構造を有するリンカーである。R3は、例えば、*−NH−C(O)−;*−C(O)−NH−(CH2)n−NH−C(O)−;*−(CH2)n1−O−(CH2)n2−;等が挙げられる。なお、*はR4との結合である。ここで、n、n1、及びn2は互いに独立に、例えば1〜5の整数であり、1〜3又は1〜2の整数である。水素原子は互いに独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、及び炭素数1〜4のハロアルキル基からなる群から選択される置換基で置換されていてもよい。
R2は、両性イオン性基、アミド基(−NH−C(O)−)、ポリオキシアルキレン基(好ましくはポリオキシエチレン基)、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基、又は水素原子である。式(2)中の水素原子(R2が有する水素原子であってもよい)は、置換基で置換されていてもよい。置換基の例として、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、及び炭素数1〜4のハロアルキル基が挙げられる。なお、上記のアミド基がラクタム環の一部を構成しており、当該ラクタム環がその窒素原子において式(2)中の炭素原子と結合している場合は、アミド基の水素原子は存在しない。これらの基は、1)親水性の向上と、2)生物由来試料等の非特異的な吸着の抑制と、に寄与し得る。水溶性官能基の例として、スルホン酸基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等が挙げられる。
R2(非特異相互作用抑制基)は、水溶性ポリマーの主鎖に直接結合していてもよいが、任意のスペーサー構造を介して水溶性ポリマーの主鎖に結合されていてもよく、通常、後者の方が、製造が容易である等の観点で好ましい。
R2は、窒素を含む複素環構造を含んでいてもよい。窒素を含む複素環構造としては、例えば、イミダゾール環、ピロリドン環、ピロール環、ピリジン環、ピリミジン環、及び、ラクタム環(γラクタム環、δラクタム環等)等が挙げられる。
−C(O)−R5・・・(2−1)
−C(O)−OR5・・・(2−2)
式(2−1)及び(2−2)において、R5は、上記した両性イオン性基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、又は、水溶性官能基である。ポリオキシアルキレン基は特に好ましくはポリオキシエチレン基(−(C2H4O)n−H)である。nは、例えば、1以上の整数であり、好ましくは10〜1000、分子量で数百〜数万である。
・組合せの例示<1>: 式(1)において、R1は−R3R4であり、R3は主鎖に炭素原子を含むリンカーであり、R4はアジド基またはジアジリニル基であり、式(2)において、R2は、両性イオン性基、アミド基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基、又は水素原子である。
・組合せの例示<2>: 式(1)において、R1は−R3R4であり、R3は主鎖に炭素原子を含むリンカーであり、R4はアジド基またはジアジリニル基であり、式(2)において、R2は、式(2−1)に示す構造、又は、式(2−2)に示す構造を含み、R5は、両性イオン性基、アミド基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基である。
・組合せの例示<3>: 式(1)において、R1は−R3R4であり、R3は主鎖に炭素原子と複素原子とを含むリンカーであり、式(2)において、R2は、両性イオン性基、アミド基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基、又は水素原子である。
・組合せの例示<4>: 式(1)において、R1は−R3R4であり、R3は主鎖に炭素原子と複素原子とを含むリンカーであり、式(2)において、R2は、式(2−1)に示す構造、又は、式(2−2)に示す構造を含み、R5は、両性イオン性基、イミダゾール基、アミド基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基である。
・組合せの例示<5>: 式(1)において、R1は−R3R4であり、R3はエーテル基、アミド基、アルキレン基、及び、これらの組合せを含む化学構造を有するリンカーであり、式(2)において、R2は、両性イオン性基、アミド基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基、又は水素原子である。
・組合せの例示<6>: 式(1)において、R1は−R3R4であり、R3はエーテル基、アミド基、アルキレン基、及び、これらの組合せを含む化学構造を有するリンカーであり、式(2)において、R2は、式(2−1)に示す構造、又は、式(2−2)に示す構造を含み、R5は、両性イオン性基、アミド基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基である。
式(2)に示す構造の繰り返し単位の数は、式(1)に示す構造の繰り返し単位の数よりも大きいことが好ましい。非特異吸着が効果的に防止できる点で、式(1)に示す構造の繰り返し単位の数は、5〜50が好ましく、10〜40がより好ましく、20〜30がさらに好ましい。また、式(2)に示す構造の繰り返し単位の数は、50〜200が好ましく、75〜175がより好ましく、100〜150がさらに好ましい。
本発明の一実施形態に係る物質固定化剤に用いる水溶性ポリマーは、例えば、以下の方法によって製造することができる。
用いる反応溶媒、反応触媒、反応温度、及び、反応時間等、水溶性ポリマーの製造方法に関しては、実施例の記載、及び、エポキシ開環重合の一般的な条件等も参照することができる。
本発明の一実施形態に係るに係る物質固定化剤を用いて固定化される物質は、特に限定されないが、ポリペプチド(糖タンパク質及びリポタンパク質を包含する)、多糖類、核酸、脂質並びに細胞(動物細胞、植物細胞、微生物細胞等)及びその構成要素(核、ミトコンドリア等の細胞内小器官、細胞膜や単位膜等の膜等を包含する)を例示することができる。また、当該物質として、アレルゲン、自己抗原等の抗原、ウイルス等を例示できる。本発明の一実施形態に係るに係る物質固定化剤に含まれる光反応性基は、光を照射することにより窒素分子が離脱すると共に窒素ラジカルが生じ、この窒素ラジカルは、アミノ基やカルボキシル基等の官能基のみならず、有機化合物を構成する炭素原子とも結合することが可能であるので、ほとんどの有機物を配向性なく固定化することが可能である。
基体としては、少なくともその表面が、上記光反応性基と結合し得る物質から成るものであれば特に限定されず、マイクロプレート等で広く用いられているポリスチレンをはじめ、ポリエチレンテレフタレート、ABS樹脂、ポリカーボネートやポリプロピレン等の有機物から成るものを例示することができる。ガラス板にシランカップリング剤をコーティングしたもの等も用いることができる。また、基体の形態は何ら限定されるものではなく、マイクロアレイ用基板のような板状のものや、ビーズ状、繊維状のもの等を用いることができる。さらに、板に設けられた穴や溝、例えば、マイクロプレートのウェル等も用いることができる。本発明の一実施形態に係る物質固定化剤は、これらのうち、特にマイクロアレイ用に適している。
本発明の一実施形態に係る物質の固定化方法(以下、「物質固定化方法」と略記する場合がある)は、基体に固定化すべき物質と、上記水溶性ポリマー又は上記物質固定化剤とを含む水溶液又は水懸濁液を基体に塗布し、光照射することを含む。
水溶液又は水懸濁液中の水溶性ポリマーの濃度(重量基準)は、特に限定されないが、例えば、0.005%〜10%程度であり、好ましくは0.05%〜5%程度である。また、固定化すべき物質の濃度(重量基準)は、通常、用いる水溶性ポリマーの10倍〜200倍程度であり、好ましくは20倍〜100倍程度である。
物質固定化方法では、光反応性基により生じるラジカルを利用して結合反応を行うので、固定化すべき物質の特定の部位と結合するのではなく、ランダムな部位と結合する。したがって、活性部位が結合に供されて活性を喪失する分子も当然出てくると考えられる。一方、活性部位に影響を与えない部位で結合する分子も当然存在するので、物質固定化方法によれば、従来、適当な置換基が活性部位又はその近傍にあるために、共有結合で固定化することが困難であった物質であっても、全体として活性を喪失させることなく、共有結合により基体に固定化することができる。
本発明の一実施形態に係る基体は、上記物質固定化剤が塗布されている。塗布された物質固定化剤上に固定化すべき物質を配置し、光照射することによって、固定化すべき物質を基体に固定化することができる。
アジ化ナトリウム、4−(ヒドロキシメチル)フェニルボロン酸、エピクロロヒドリン、酢酸エチル、メタノール、炭酸水素ナトリウム、ベンゼン、50wt%水酸化ナトリウム、及び硫酸銅(II)は、富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。エチレンオキシド(1.2mol/Lトルエン溶液)は、受領した物を使用した。
(1)4−ヒドロキシメチルアジドベンゼンの合成
アジ化ナトリウム(3.9g、60mmol)、4−(ヒドロキシメチル)フェニルボロン酸(7.6g、50mmol)、及び硫酸銅(II)(800mg、5mmol)に、メタノール(300mL)を加えて、室温において24時間攪拌した。反応後、固形物をろ過による除去後、メタノールを減圧留去した。酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム溶液で抽出し、有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水後、溶媒を完全に除去し、薄黄色の固体を得た(収率:40%)。4−ヒドロキシメチルアジドベンゼンの合成スキームを以下に示す。また、得られた4−ヒドロキシメチルアジドベンゼンの1H NMRによる測定結果を図1に示す。
エピクロロヒドリン(3.7g、40mmol)、4−ヒドロキシメチルアジドベンゼン(3.0g、15mmol)を50wt%水酸化ナトリウム(10mL)とベンゼン(10mL)に溶解した。溶液を4℃に冷却後、層間移動触媒としてテトラブチルアンモニウムブロミド(4mmol)を添加し、室温で72時間撹拌した。反応後、酢酸エチルと炭酸水素ナトリウム溶液で抽出し、有機層を回収した。有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水後、溶媒を完全に除去し、黄褐色の液体を得た(収率:76%)。4−グリシジルオキシアジドベンゼンの合成スキームを以下に示す。また、得られた4−グリシジルオキシアジドベンゼンの1H NMRによる測定結果を図2に示す。
4−グリシジルオキシアジドベンゼン(20mg、0.1mmol)、メチルトリフェニルホスホニウムブロミド(18mg、0.05mmol)を30mLのナスフラスコで6時間減圧乾燥した。乾燥後、フラスコ内をアルゴン雰囲気に置換した。ナスフラスコを−50℃のメタノールに静置し、ガスタイトシリンジを利用して、エチレンオキシド(EO)(1.2mol/Lトルエン溶液)を5mL添加した。続いて、トリイソブチルアルミニウム(1.0mol/Lトルエン溶液)をガスタイトシリンジで500μL添加した。添加後、フラスコを室温に戻し、遮光下で18時間撹拌した。反応後、トルエンを除去し、アセトンに溶解した。この溶液を大過剰量のヘキサンに滴下して、沈殿精製により固体を回収した(150mg)。ポリ(4−アジドフェニルグリシジルエーテル−エチレンオキシド)共重合体の合成スキームを以下に示す。なお、右側に示す反応生成物中のCO(イタリック体)とは、その左側に示す繰り返し単位と、右側に示す繰り返し単位とからなる共重合体を意味する。
上記で作成した水溶性ポリマーの水溶性を、従来のポリマー(特許第4630817号の実施例8に開示されるポリマー)と比較した。従来のポリマーは、ビニル基をラジカル重合した主鎖と、フェニルアジド基等の光反応性基とを持つ。比較結果を表2に示す。
表2中、「○」はポリマーが水に溶解したことを示し、「△」は一部のポリマーが溶けずに残ったことを示し、「×」はポリマーが水に溶けなかったことを示す。表2中、「フェニルアジド基仕込み量」は、水溶性ポリマーを構成する繰り返し単位の総数に対する、光反応性基であるフェニルアジド基を有する繰り返し単位の数の割合(mol%)である。
エポキシ基を開環重合した主鎖を有する実施例のポリマーは、フェニルアジド基の含有量が10mol%にしても水に溶解し、15mol%にしても水に溶解した。また、フェニルアジド基の含有量が20mol%でもポリマーの一部が水に溶解した。
(1)基板の調製
実施例1で得られた水溶性ポリマー(フェニルアジド基の仕込み量は15mol%)をプラスチック基材にコーティングした。比較例として、ガラス基板や、Arrayit社のエポキシ型基板SME2(市販品)をそのまま用いた。次に、アレルゲンとなるヤケヒョウヒダニ、ミルク、ネコ、エビの抽出物(1.5mg/mL)をPBSに溶解し、1.0wt%でポリマーをコーティングした基材にマイクロアレイした。乾燥後、光照射し、固定化することによって基板を調製した。
アレルギー陽性血清(100μL)を加え、8分間浸漬した。PBSで6回洗浄し、その後アルカリフォスファターゼ結合抗体を加え、4分間浸漬した。浸漬後洗浄し、ダイナライト(化学発光基質、Molecular Probes社)を加え、60秒後に撮影した。得られた画像を解析ソフトにより数値化することによって、発光量を測定した。測定結果を表3に示す。表3は、従来のアレルギー検査で用いられるCAP法で得られた値(CAP値)と発光量を示す。また、図3は、CAP値と発光量との相関関係を示すグラフである。表3及び図3中、「ポリマー被覆基材」は、実施例1で得られたポリマー(フェニルアジド基の仕込み量は15mol%)を被覆した基材である。
(1)基板の調製
実施例1で得られたポリマー(フェニルアジド基の仕込み量は15mol%)をプラスチック基材にコーティングした。比較例として、ガラス基板や、Arrayit社のエポキシ型基板SME2(市販品)をそのまま用いた。次に、不活性化した麻疹、風疹、ムンプス、水痘のウイルス(1.5mg/mL)をPBSに溶解し、コーティングした基材に図4のようにマイクロアレイした。乾燥後、光照射し、固定化することによって基板を調製した。
血清(100μL)を加え、8分間浸漬した。PBSで6回洗浄し、その後ストレプトアビジン結合アルカリフォスファターゼ(Promega社)を加え、3分間浸漬した。浸漬後洗浄し、ダイナライト(化学発光基質、Molecular Probes社)を加え、60秒後に撮影した。得られた画像を解析ソフトにより数値化することによって、発光量を測定した。測定結果を図5に示す。
図5の(A)は、実施例1で得られたポリマーを被覆した基材、(B)はガラス基板、(C)はSME2基板を使用したときの結果を示す。
Claims (11)
- 基体上に物質を固定化するための水溶性ポリマーを含む物質固定化剤であって、
前記水溶性ポリマーが、ポリオキシエチレン構造を含む主鎖を有し、1分子中に少なくとも2個の光反応性基を有する、物質固定化剤。
- 前記水溶性ポリマーは、繰り返し単位として、式(1)に示す構造、及び、式(2)に示す構造を含んでいる、請求項1に記載の物質固定化剤。
−(CH2−CHR1−O)−・・・・(1)
−(CH2−CHR2−O)−・・・・(2)
式(1)において、R1は、光反応性基を含む基であり、
式(2)において、R2は、両性イオン性基、アミド基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基、及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基、又は水素原子であり、
式(1)及び(2)中に示す主鎖を構成する炭素原子に結合した水素原子は互いに独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、および炭素数1〜4のハロアルキル基から成る群から選択される置換基で置換されていてもよい。 - R1は−R3R4であり、
R3は主鎖に炭素原子を含むリンカーであり、
R4はアジド基またはジアジリニル基である、請求項2に記載の物質固定化剤。 - R3は主鎖に炭素原子と複素原子とを含むリンカーである、請求項3に記載の物質固定化剤。
- R3は、エーテル基、アミド基、アルキレン基、及び、これらの組合せを含む化学構造を有するリンカーである、請求項3に記載の物質固定化剤。
- R2は、式(2−1)に示す構造、又は、式(2−2)に示す構造を含んでいる、請求項2〜5のいずれか1項に記載の物質固定化剤。
−C(O)−R5・・・(2−1)
−C(O)−OR5・・・(2−2)
式(2−1)及び(2−2)において、R5は、両性イオン性基、アミド基、イミダゾール基、ポリオキシアルキレン基、水溶性官能基及びこれらの組合せを含む化学構造を有する基である。 - 前記水溶性ポリマーの分子量が500以上500万以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の物質固定化剤。
- 基体に固定化する物質が、ポリペプチド、多糖類、核酸、脂質並びに細胞及びその構成要素から成る群から選ばれる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の物質固定化剤。
- 基体に固定化すべき物質と、請求項1〜8のいずれか1項に記載の物質固定化剤とを含む水溶液又は水懸濁液を前記基体に塗布し、光照射することを含む、基体上への物質の固定化方法。
- 基体に固定化する物質が、ポリペプチド、多糖類、核酸、脂質並びに細胞及びその構成要素から成る群から選ばれる、請求項9に記載の方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の物質固定化剤が塗布された基体。
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