JP2012198062A - 基板表面に核酸を固定する方法及び核酸が固定された基板 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、アミノ基を用いることなく、固定効率が良く、固定化工程が簡素であり、且つ、固定化核酸が供される系に含まれる試薬によって分解されにくいリンカーを形成することができる、核酸の固定法及び、その方法を用いて得られる核酸が固定された基板を提供する。
【解決手段】表面にチオール基を有する基板表面において、二価の有機基Rを介して2つのマレイミド環を有するリンカー試薬、及び前記基板表面に固定すべき核酸であってチオール基を有する核酸が共存する反応系を構築し、前記反応系において、前記基板表面のチオール基と前記リンカー試薬の一方のマレイミド環との間、及び前記リンカー試薬の他方のマレイミド環と前記核酸のチオール基との間にスルフィド結合を生成することによって、前記リンカー試薬を介して前記核酸が固定された基板を得る、核酸の固定方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、基板表面に核酸を固定する方法及び核酸が固定された基板に関する。本発明の核酸が固定された基板は、生化学分野において、例えば合成時解読法(SBS;Sequencing by Synthesis)を用いたDNAシーケンスなどに有用に用いられる。
基板表面に核酸を固定化する方法として、以下の方法が知られている。
1.アミノ基を用いた鋳型DNAの固定法
非特許文献1(Celine Adessi et. al., Solid Phase DNA amplification : charactarisation of primer attachment and amplification mechanisms., Nucleic Acids Research., Nucleic Acids Research, 2000, Vol.28, No.20)においては、シランカップリング剤を用いて基板をアミノ基で表面処理し、基板表面のアミン基とオリゴDNAの5’リン酸基とをEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)によって結合させる方法が用いられている。或いは、基板表面のアミノ基とオリゴDNAのSH基とをMBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)又はSIAB(N−スクシンイミジル(4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート)によって結合させる方法が用いられている。
非特許文献2(HALLIWELL C M et. al., A Factorial Analysis of Silanization Conditions for the Immobilization of Oligonucleotides on Glass Surfaces., Anal Chem, Vol.73, No.11, Page.2476-2483 (2001.06.01))においては、基板をチオール基で表面処理し、基板表面のチオール基とオリゴDNAのアミノ基とを、マレイミドとNHSとを有するリンカーを介して結合させる方法が用いられている。
2.ヘテロリンカーを用いた鋳型DNAの固定法
非特許文献3(WANG Yayun et. al., Immobilization and hybridization of oligonucleotides on maleimido-terminated self-assembled monolayers., Anal Biochem, Vol.344, No.2, Page.216-223 (2005.09.15))においては、ガラス基板表面にマレイミド末端を有するSAM(自己組織化単分子膜)を形成し、基板表面上のSAM末端におけるマレイミドと核酸のチオール基とを結合させる方法が用いられている。
3.PEG(ポリエチレングリコール)を用いた鋳型DNAの固定法
非特許文献4(CHA T-W et. al., Immobilization of oligonucleotides on poly(ethylene glycol) brush-coated Si surfaces. Anal Biochem, Vol.311, No.1, Page.27-32 (2002.12.01))においては、基板表面上に高密度のポリエチレングリコール(PEG)分子の刷毛様形状グラフトを形成し、基板表面上のグラフト末端における水酸基にヘテロ二官能基橋かけ剤としてのp−マレイミドフェニルイソシアン酸を結合させ、その後、ヘテロ二官能基橋かけ剤に由来するマレイミジル基と核酸のチオール基とを結合させる方法が用いられている。
4.ジスルフィド結合を用いた鋳型DNAの固定法
非特許文献5(CHEUNG M K L et. al., 5'-Thiolated Oligonucleotides on (3-Mercaptopropyl)trimethoxysilane -Mica: Surface Topography and Coverage. Langmuir, Vol.19, No.14, Page.5846-5850 (2003.07.08))においては、基板をチオール基で表面処理し、基板表面のチオール基とDNAのチオール基とをジスルフィド結合によって結合させる方法が用いられている。
Celine Adessi et. al., Solid Phase DNA amplification : charactarisation of primer attachment and amplification mechanisms., Nucleic Acids Research., Nucleic Acids Research, 2000, Vol.28, No.20 HALLIWELL C M et. al., A Factorial Analysis of Silanization Conditions for the Immobilization of Oligonucleotides on Glass Surfaces., Anal Chem, Vol.73, No.11, Page.2476-2483 (2001.06.01) WANG Yayun et. al., Immobilization and hybridization of oligonucleotides on maleimido-terminated self-assembled monolayers., Anal Biochem, Vol.344, No.2, Page.216-223 (2005.09.15) CHA T-W et. al., Immobilization of oligonucleotides on poly(ethylene glycol) brush-coated Si surfaces. Anal Biochem, Vol.311, No.1, Page.27-32 (2002.12.01) CHEUNG M K L et. al., 5'-Thiolated Oligonucleotides on (3-Mercaptopropyl)trimethoxysilane -Mica: Surface Topography and Coverage. Langmuir, Vol.19, No.14, Page.5846-5850 (2003.07.08)
非特許文献1及び2に記載のアミノ基を用いたDNAの固定法においては、蛍光ラベルdNTPの非特異的吸着が多く、ノイズ成分となる点で問題がある。
非特許文献3に記載のヘテロリンカーを用いたDNAの固定法においては、DNAの固定効率が低い点で問題がある。より具体的には、マレイミドが分解しやすい性質を有しているため、ガラス基板表面へSAMを形成する時点で分解するものが多く、このため、DNAのSAMにおける反応点が少なくなる点で問題がある。
非特許文献4に記載のPEGを用いたDNAの固定法においては、DNAの固定化のための工程が多い点で問題がある。
非特許文献5に記載のジスルフィド結合を用いたDNAの固定法においては、リンカーであるジスルフィド結合が切れやすい点で問題がある。より具体的には、固定化DNAが供される系において、一般的にDTTやメルカプトエタノールといった試薬を退色対策やタンパク質の安定性確保のために共存させることが多く、これらの試薬によってリンカーであるジスルフィド結合が切れやすい点で問題がある。
本発明の目的は、アミノ基を用いることなく、固定効率が良く、固定化工程が簡素であり、且つ、固定化核酸が供される系に含まれる試薬によって分解されにくいリンカーを形成することができる、核酸の固定法及び、その方法を用いて得られる核酸が固定された基板を提供することにある。
本発明者らは、鋭意検討の結果、2つのマレイミド環を有するリンカーを核酸固定化に用いることによって、上記本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の発明を有する。
(1)
表面にチオール基を有する基板(基板−SH)表面において、下記一般式(I):
(式中、Rは二価の有機基を表す。)
で示される2個のマレイミド環(MAL)を有するリンカー試薬(MAL−R−MAL)、及び前記基板表面に固定すべき核酸であってチオール基を有する核酸(核酸−SH)が共存する反応系を構築し、前記反応系において、前記基板(基板−SH)表面のチオール基と前記リンカー試薬(MAL−R−MAL)の一方のマレイミド環との間、及び前記リンカー試薬(MAL−R−MAL)の他方のマレイミド環と前記核酸(基板−SH)のチオール基との間にスルフィド結合を生成することによって、前記リンカー試薬を介して前記核酸が固定された基板(基板−S−MAL−R−MAL−S−核酸)を得る、核酸の固定方法。
前記反応系を、前記リンカー試薬(MAL−R−MAL)及び前記チオール基を有する核酸(核酸−SH)の混合物を前記チオール基を有する基板(基板−SH)に接触させることによって構築する、(1)に記載の固定方法。
(2)
前記リンカー試薬(MAL−R−MAL)の前記有機基Rが、アルキレングリコール基、ポリアルキレングリコール基、アルキレン基からなる群から選ばれる二価基を含む、(1)に記載の固定方法。
(3)
前記チオール基を有する核酸(核酸−SH)において、前記チオール基は、核酸の3’末端又は5’末端に結合している、(1)又は(2)に記載の固定方法。
(4)
前記核酸が、光学的に検出可能である場合にその60%以上が光学的分解可能となる密度で固定されている、(1)〜(3)のいずれかに記載の固定方法。
核酸が光学的分解可能とは、核酸の光学的検出において、核酸を一分子ずつ独立して認識することができることをいう。
(5)
前記核酸が、核酸分子全体が前記基板表面から200nmの範囲内に存在可能となるように固定される、(1)〜(4)のいずれかに記載の固定方法。
(6)
(1)〜(5)のいずれかに記載の方法によって得られる、前記リンカー試薬を介して前記核酸が固定された基板(基板−S−MAL−R−MAL−S−核酸)。
本発明によって、アミノ基を用いることなく、固定効率が良く、固定化工程が簡素であり、且つ、核酸が固定された基板が供される系に含まれうる試薬によって分解されにくいリンカーを形成することができる、核酸の固定法、及びその方法を用いて得られる核酸が固定された基板を提供することができる。
より具体的には、本発明の方法によって得られる基板表面にはアミノ基が存在しないため、例えばSBS法においてノイズを生じさせる蛍光ラベル標識dNTPの非特異吸着が少なくなる。このため、本発明の核酸が固定された基板を光学的検出のために用いる場合において高いSN比を得ることができる。また、本発明の方法では基板及びリンカー試薬間の反応とリンカー試薬及び核酸間の反応とを一工程で行うため、リンカー試薬のマレイミド環の活性が不所望に落ちない状態で、少ない工程で核酸の固定を行うことができる。このため、固定化効率が良く、且つ、固定化工程が簡素となる。さらに、本発明の方法においては、固定化のための結合にジスルフィド結合を採用していない。このため、例えばDTTやメルカプトエタノールなど、核酸が固定された基板が供される系に含まれうる試薬によってリンカーが分解されにくい。
本発明の方法を模式的に示したものである。 実施例で用いられた、基板表面にリンカー試薬及び固定すべき核酸を供給するための送液システムに含まれる流路付きPDMS1を示す。図2(i)におけるX−X断面図を図2(ii)に示す。 図2の流路付きPDMS1を用いた、基板表面にリンカー試薬及び固定すべき核酸を供給するための送液システム2を示す。 実施例1で行われた、固定すべきCy5付きDNAハイブリッドの基板表面への固定化の態様を模式的に示したものである。 実施例1において、基板表面へ固定されたCy5付きDNAハイブリッドを、Cy5検出によってTIRF観察したネガ画像を示す。TIRF画像のサイズは100μm×100μmである。 実施例2で行われた、固定すべきDNAハイブリッドの基板表面への固定化の態様(i)及び(ii)と、Cy5ラベル化ヌクレオチドを用いた伸長反応(iii)とを模式的に示したものである。 実施例2において、伸長したCy5ラベル化ヌクレオチドを、Cy5検出によってTIRF観察したネガ画像を示す。それぞれのTIRF画像のサイズは100μm×100μmである。 実施例3において行われた、アミノ基を有する基板表面とチオール基を有する基板表面とにおける蛍光ラベル化dNTPの吸着量の比較を行ったものである。 実験例1において行われた、アミノ基(非処理)を有する基板表面とコハク酸によるアミノ基キャップ処理が行われた基板表面とにおけるAlexa488-NHSの固定量の比較を行ったものである。
本発明においては、図1に示すように、固定化すべき核酸をチオール体(核酸−SH)として用意し、チオール基を有する基板(基板−SH)表面において、リンカー試薬(MAL−R−MAL)及び核酸(核酸−SH)が共存する反応系を構築する。この反応系において、基板(基板−SH)表面のチオール基とリンカー試薬(MAL−R−MAL)の一方のマレイミド環との間、及びリンカー試薬(MAL−R−MAL)の他方のマレイミド環と核酸(基板−SH)のチオール基との間にスルフィド結合を生成する。これによって、リンカーを介して基板に固定された核酸(基板−S−MAL−R−MAL−S−核酸)を得る。
[1.基板]
本発明における基板としては、表面にチオール基を有しているものであれば、特に限定されるものではない。
[1−1.基板の材質]
基板の材質としては特に限定されるものではないが、光を透過させる材質から構成されるものが好ましく用いられる。例えば、シリコーン、ガラス、石英ガラス、石英などのケイ素含有基材や、ポリカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルなどの樹脂基材など、高い光透過率を有する材質から構成される基板を好適に用いることができる。
また、核酸合成反応液より高い屈折率を有し、且つ、基板と反応液との界面でレーザーを全反射させたときに、反応液側にエバネッセント場を生じることができるような材質から構成される基板であることが好ましい場合がある。さらには液浸顕微鏡を用いて基板裏側から観察を行う場合、顕微鏡用スリップガラス基材から構成される基板であることが特に好ましい。
[1−2.表面チオール基]
表面にチオール基を有する基板は、チオール基によって表面が修飾処理された基板でありうる。このような基板の作成法は特に限定されるものではなく、チオール基修飾すべき基板の表面態様(例えば、基板そのものに修飾する場合は基板の材質、予め表面修飾された基板において表面修飾基をさらに修飾する場合は表面修飾基)に応じ、適切なチオール基含有表面処理試薬を用いて、当業者によって適宜選択される。チオール基含有表面修飾試薬は、基板材質と親和性又は反応性を有する加水分解基と、チオール基とを有しているものであり、具体例として、チオール基含有シランカップリング剤が好ましく挙げられる。より具体的には、チオール基含有トリアルコキシシラン、好ましくはメルカプトアルキルトリアルコキシシランが挙げられる。例えば、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシランなどが用いられる。このようなチオール基含有表面修飾試薬は、一種又は複数種を用いることができる。
チオール基含有表面修飾試薬の使用量は基板の材質の種類によって異なりうる場合があり、特に限定されるものではなく、当業者が適宜決定する事ができる。例えば、水、バッファー(シランカップリング剤の反応速度と脱水縮合とを調節するために、例えばPH4.0〜5.5に調整されたものが用いられうる。好ましくは酢酸バッファーなど。)又は有機溶媒(例えば、アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、キシレンなど)中、0.001〜5体積%、好ましくは0.005〜0.05体積%の濃度で使用することができる。このような濃度で調製された溶液は、基板表面1mm当たり0.5〜50μl、好ましくは5〜20μlの量で用いることができる。
チオール基による基板表面の修飾処理は、上記のチオール基含有表面修飾試薬は、基板表面に接触させ、10〜60℃、好ましくは20〜40℃で10〜1200分、好ましくは30〜90分静置することによって行うことができる。さらにオーブンで80〜120℃、好ましくは100〜110℃、10〜1200分好ましくは30〜90分ベークすることが望ましい。
[2.リンカー試薬]
リンカー試薬は、二価の有機基(R)を介して2つのマレイミド環(MAL)を有する。具体的には、下記一般式(I)で示される分子構造を有する。
式中、Rは二価の有機基を示す。リンカー試薬の分子構造は、簡易的にMAL−R−MALと表記することができる。二価の有機基Rとしては特に限定されないが、アルキレングリコール基、ポリアルキレングリコール基、アルキレン基からなる群から選ばれる二価基を含みうる。
アルキレングリコール基としては特に限定されないが、例えば、エチレングリコール基、プロピレングリコール基、1,3−プロパンジオール基、1,4−ブタンジオール基が挙げられる。同様に、ポリアルキレングリコール基としても特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール基、ポリプロピレングリコール基、ポリ1,3−プロパンジオール基、ポリ1,4−ブタンジオール基が挙げられる。ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール基は、それぞれ、エチレングリコール単位及びプロピレングリコール単位を1〜24個、好ましくは3〜16個有しうる。ポリ1,3−プロパンジオール基は、1,3−プロパンジオール単位を1〜24個、好ましくは3〜16個有しうる。ポリ1,4−プロブタンジオール基は、1,4−ブタンジオール単位を1〜24個、好ましくは3〜16個有しうる。
アルキレン基は、炭素数1〜100、好ましくは10〜20でありうる。
リンカー試薬は、上記の基を1種又は複数種含みうる。
リンカー試薬は、分子設計の観点から適宜上記以外の基を有することができる。すなわち、リンカー試薬は、その分子設計の際に上記有機基を与える化合物とマレイミド環を与える化合物との間で生じうるいかなる基を含んでよい。このような基は、当業者が適宜決定する事ができる。例えば、アミド基やエステル基などから選ばれる1種又は複数種の基が挙げられる。
リンカー試薬は、通常、適切な溶媒に溶解されて用いられる。適切な溶媒の例としては、アセトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
リンカー試薬は、チオール基修飾された基板表面における、固定すべき核酸及びリンカー試薬が共存する反応系に供されたときに、反応系中(すなわち基板表面における固定すべき核酸、リンカー試薬及び溶媒の混合物中)0.01〜100μM、好ましくは1〜10μMの濃度となるように調製されることが好ましい。上記濃度を上回ると、例えば反応系中の核酸の量が過度に多い場合などに、基板表面の固定核酸の密度が不所望に高くなることがあり、上記範囲を下回ると、核酸が十分に固定できなくなる傾向にある。
[3.固定すべき核酸]
核酸は、基板に固定されるために、チオール基を有する。チオール基は、核酸の3’末端又は5’末端に結合しうる。固定すべき核酸がチオール基を有するように処理する方法は、当業者によって適宜選択される。例えば、核酸をチオール基含有ヌクレオチドで標識する方法が挙げられる。より具体的には、核酸の3’末端をチオール化する方法の例として、3' EndTag DNA Labeling System (20 reactions)(Vector社製)に含まれるチオール基含有ヌクレオチドSH-GTPとTerminal transferaseとを用いてDNAの3’末端を選択的に標識する方法が挙げられる。また、核酸の5’末端をチオール化する方法の例として、5' EndTag Nucleic Acid Labeling System (10 reactions)(Vector社製)に含まれるチオール基含有ヌクレオチドATPγSとT4 polynucleotide kinaseとを用いてDNAの5’末端を選択的に標識する方法が挙げられる。
核酸は、構造的観点からは、主として核酸塩基、五炭糖及びリン酸基から構成されるヌクレオチド残基がホスホジエステル結合により連結したポリマー又はオリゴマーであり、DNA、RNAに限らず、それらポリヌクレオチドのアナログ(ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドにおける原子又は原子団が別の原子または原子団に置換された構造を持つ、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドとは別の物質)であってもよい。
また、配列由来の観点からは、天然核酸に由来するもの、人為的に変更されたもの又は合成配列、及びそれらの混合が許容される。より具体的には、ヒトを含む様々な生物、及びウイルス及び細菌を含む様々な微生物の染色体、ゲノム、cDNA、それらの断片などが挙げられる。
核酸の態様としては、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。また、異なる長さの複数本の一本鎖核酸がハイブリダイズすることによって、一本鎖部分と二本鎖部分との両方の部分を有するハイブリッドであってもよい。このようなハイブリッドの一例として挙げられるものが、プライマーがハイブリダイズした鋳型核酸である。しかしながらこれに限られることなく、核酸の態様は、基板への固定後における使用目的に応じて、当業者が適宜決定することができる。
核酸の長さとしても、特に限定されるものではなく、基板への固定後における使用態様に応じて、当業者が適宜決定することができる。例えば、基板表面に固定された核酸の蛍光標識体又は基板表面に固定された核酸にハイブリダイズした蛍光標識ヌクレオチドに由来する蛍光シグナルを、全反射蛍光励起によって検出する場合には、基板表面に固定された核酸分子が、基板表面からエバネッセント場を生じる範囲(例えば基板表面から200nm程度)内に存在することができる長さであることが好ましい。このような場合の核酸は、200nm以内の長さを有する者であってもよいし、200nmを超えるものであってもよい。例えば、基板に固定された後、基板表面と略平行に液体流を発生させることによって、核酸分子が基板近傍に引き伸ばされ、エバネッセント場を生じる範囲に200nmを超える長さの核酸分子全体が存在することができる場合があるためである。
核酸は、チオール基修飾された基板表面における、固定すべき核酸及びリンカー試薬が共存する反応系に供されたときに、反応系中(すなわち基板表面における固定すべき核酸、リンカー試薬及び溶媒の混合物中)0.01〜100μM、好ましくは1〜10μMの濃度となるように調製されることが好ましい。上記範囲を上回ると、例えば反応系に共存するリンカー試薬の量が過度に多い場合などに、基板表面の固定核酸の密度が不所望に高くなることがあり、上記範囲を下回ると、核酸が十分に固定できなくなる傾向にある。
[4.核酸の固定方法]
本発明においては、核酸を基板表面に固定させるための反応系中に、表面にチオール基を有する基板(基板−SH)、リンカー試薬(MAL−R−MAL)及びチオール基含有核酸(核酸−SH)を共存させる。
このような反応系においては、リンカー試薬のマレイミド環の活性を不所望に落とすことなく、1つの工程内でリンカー試薬の2つのマレイミド環の両方が、それぞれ、チオール基含有核酸及びチオール基を有する基板とスルフィド結合を生じる。すなわち、本発明においては、リンカー試薬の2つのマレイミド環が2つの完全に異なった工程のそれぞれにおいて1つずつスルフィド結合を生じることを除外する。そのような要件を満たす限りにおいて、チオール基含有核酸、リンカー試薬、及び基板が互いに接触するタイミングに最小限のタイムラグがあることも許容する。
例えば、上記反応系の構築のために、チオール基含有核酸とリンカー試薬とを予め混合物として調製し、その混合物を基板表面に接触させてもよい。この場合、基板表面に接触する直前の混合物内でチオール基含有核酸とリンカー試薬との間にすでにスルフィド結合が生じていることを許容する。
また例えば、リンカー試薬とチオール基含有核酸とを最小限のタイムラグをもって基板に接触させてもよい。この場合においては、リンカー試薬が基板に接触するタイミングよりチオール基含有核酸が基板に接触するタイミングが早いほうが、反応効率の観点から好ましい。
基板とリンカー試薬との間のスルフィド結合、及びリンカー試薬と核酸との間のスルフィド結合の形成のために必要な反応条件は特に限定されないが、例えば、4〜80℃、1〜120分である。
上述のように、核酸固定を実現するスルフィド結合が形成され、リンカー試薬を介して核酸が固定された基板(基板−S−MAL−R−MAL−S−核酸)を得ることができる。
なお、基板上において核酸を固定する場所は、特に限定されない。すなわち、基板表面全体に核酸を固定してもよいし、基板表面の特定の領域に核酸を固定してもよい
前者の場合は、基板表面全体に核酸及びリンカー試薬を接触させればよい。
後者の場合、核酸を固定する所望の領域のみに核酸を固定するために、その領域のみに固定すべき核酸及びリンカー試薬を接触させることができるような方法を用いる。
例えば、核酸を固定化すべき基板表面の領域に相当する流路が、核酸及びリンカー試薬の供給口と排出口とともに形成された部材を用い、この部材を、流路側が基板表面に接するように基板と張り合わせる。核酸及びリンカー試薬を供給口から供給し、排出口から排出させると、流路を通る間に基板表面の所望の領域と接触することによって、核酸がその領域へ固定される。
また、例えば、基板表面に核酸を固定すべき領域を物理的に規定することができる。具体的には、基板表面に窪みや物理的障壁による区画を、流路やスポットとして形成すことによって、核酸を固定すべき領域として設けることができる。そのような領域に核酸及びリンカー試薬を供給することによって、核酸がその領域へ固定される。
さらに例えば、より単純に、基板表面に核酸及びリンカー試薬を滴下することによって、滴下された領域に核酸が固定されるようにしてもよい。
[5.核酸分子の固定化密度]
核酸分子の固定化密度としては特に限定されず、核酸分子が固定された基板の使用態様などに応じて、当業者が適宜決定することができる。例えば、固定された核酸1分子に由来するシグナルを光学分解可能な密度でありうる。光学分解可能とは、光学的手段によって、核酸分子を一分子として判別することが可能であることをいう。本発明における光学分解可能な密度においては、必ずしも固定された核酸分子の全てがそれぞれ単独で(一分子として)判別されなくてもよく、一部の分子が重なって判別不可能であることを許容する。一分子として判別可能な核酸分子の割合(一分子存在比)は、固定された核酸分子のうちの60%以上であればよい。(なお、60%は、観測可能な光点が均一に存在しポアソン分布に従って分子が存在している場合の一分子存在比に相当する。光点がさらにまばらであれば、一分子存在比はさらに高くなる。)
光学分解可能な密度は、ソフトウェアの解析能等によって異なるため特に限定されるものではない。このような密度は、観測系の構成条件によって大きく変わりうるものであり、当業者によって適宜選択されるものである。
例えば、100倍の倍率観察で、約1,024×1,024pixel・1pixelのサイズが13μm×13μmである典型的な撮像素子で観測し、光点が9pixel×9pixelに1個であれば分解観測しうる場合、分子存在がポアソン分布に従うと1mm当たり最大6,574,622分子の密度で核酸を固定することができる。
観測系の解像度が高くさらに少ないpixel領域である場合、又は画素サイズが小さく全pixel数が多数存在し分解観測可能である場合、光学可能な密度はより大きくなる。例えば、画素サイズが6.5μm・画素数が4倍である撮像素子を用い、上記条件と同様に光点が9pixel×9pixelに1個であれば分解観測しうる場合、1mm当たり26,298,488分子の密度で核酸を固定することができる。
このような所望の密度で核酸を固定化するためには、基板上のチオール基の密度(又はチオール基含有表面処理試薬の量)、リンカー試薬の量、及び核酸の量を当業者が適宜調整すればよい。
[6.基板の使用方法]
本発明によって得られる基板の使用方法は特に限定されず、核酸が固定された基板の公知の使用法のいかなるものにも適用することができる。
本発明は、基板表面に固定された核酸を鋳型とした核酸合成に使用することができる。特に、基板表面に固定された核酸の配列解析を行う場合に有用である。具体的には、基板表面に固定された核酸を鋳型とし、蛍光標識(通常、dNTPの塩基ごとに異なる蛍光が付されている)されたdNTPを基質とした核酸合成を行い、基質が核酸ポリメラーゼに取り込まれた順番に蛍光を検出することによって、核酸配列を決定する事ができる。この場合、蛍光検出には、全反射蛍光顕微鏡システムを用いることができる。このシステムの使用においては、対物レンズ照明やプリズム照明を用いることができる。このシステムの具体的な使用方法については、例えば、New High Throughput Technologies for DNA Sequencing and Genomics, Volume 2などの記載に基づいて当業者が容易に実施することができる。
また、本発明は、特定の核酸の検出法に使用することができる。このような方法においては、基板表面に固定された核酸の塩基配列が、解析対象となる検体に含まれる核酸配列とが相補的である場合に、検体中の核酸が特異的に基板に結合することを利用する。より具体的には、DNAマイクロアレイ、RNAマイクロアレイ、DNAチップ、RNAチップとして用いることができる。
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下において、%で表される濃度は、体積を基準とした量である。
[実施例1]ガラス基板表面へのDNA固定
1.ガラス基板の洗浄
以下の手順でガラス基板の洗浄を行った。
0.2M KOH水溶液中にガラスを浸し超音波洗浄を15分間x 1回
純水にガラスを浸し超音波洗浄を15分間 x 2回
0.2M KOH水溶液中にガラスを浸し超音波洗浄を15分間x 1回
純水にガラスを浸し超音波洗浄を15分間 x 3回
最後に、スピナーを用いてガラスを乾燥させた。
2.SH基によるガラス表面処理
アセトン中に0.01%の濃度でMPS(mercaptopropyl trimethoxysilane) を溶解させ、0.01% MPSアセトン溶液を調製した。0.01% MPS溶液に上記工程1で洗浄したガラスを浸し、1時間、20〜23℃の常温で静置した。その後、100mLのアセトンで3回洗浄し、スピナーで乾燥させた。
3.PDMS(ポリジメチルシロキサン)流路の作成
以下、図2及び図3を参照して説明する。図2及び図3中、イタリック文字はサイズ(単位:mm)を表す。図2(i)におけるX−X断面図を図2(ii)に示す。以下において、上下は図2(ii)を基準にいうものとする。
図2は、流路が設けられたPDMS1を示す。15mm x 30mm x 高さ2mmのPDMS板11の下面に高さ50μm、長さ20mmの流路12を形成し、さらにその両端から略垂直に内径2mmの流路13を形成することによって、上面に2個のリザーバRを貫通穴として設けた。
図3は、図2の流路付きPDMS1を用いた送液システム2を示す。流路付きPDMS1の底面に上記工程2の処理を行ったガラス基板14を図3に示すように貼り付けた。リザーバRのそれぞれにジョイント15(テフロン(登録商標)チューブ:内径1mm,外径2mm)をはめ、いずれのジョイントにもシリコンチューブ16(TYGONR-3603:内径0.79mm,外径2.38mm)を接続した。一方のシリコンチューブはシリンジポンプ(図示せず)に接続し、他方のシリコンチューブはバルブ18(6チャンネル)を介してタンク17(100mLビーカー)に接続した。タンク17には、PEG−DNA混合液を収容している。ここで、PEG−DNA混合液は、下記構造式(II)に示されるリンカー試薬(Bis-MAL-dPEG3 TM (Quanta 製) 1μM)とチオール基含有核酸(鋳型用ssDNAと基板固定用ssDNAとプライマー用ssDNAとのハイブリッド1μM)とを、バッファー(PBS buffer pH8.0)と共に混合することにより調製した液である。
・鋳型用ssDNA(1)
鎖長:74mer
配列:AAAATTAATAACGTTCGGGCAAAGGATTTAATACGAGTTGTCGAATTGTTTGTAAAGTCTAATACTTCTAAATC(配列番号1)
・基板固定用ssDNA(2)
鎖長:30mer
Tm:69℃
配列:TAAATCCTTTGCCCGAACGTTATTAATTTT(-SH)(配列番号2)
なお、この配列においては、3’末端のチミンにチオール基が結合している。
・プライマー用ssDNA(3)
鎖長:30mer
Tm:58℃
配列:(Cy5-)GATTTAGAAGTATTAGACTTTACAAACAAT(配列番号3)
なお、この配列においては、5’末端のグアニンがCy5でラベルされている。
上記鋳型用ssDNA(1)、基板固定用ssDNA(2)、及びプライマー用ssDNA(3)のハイブリッドは、0.5mL用エッペンチューブ内でPBS buffer pH8.0 中に上記3種のssDNAを混合し、95℃(5分)及び54℃(15分)の加熱条件に供した後、氷上で保存することによって得た。
シリンジポンプでタンク内のPEG−DNA混合液を吸引することによって、PEG−DNA混合液の送液を行った。これにより、流路内において、ガラス表面が、送液されてきたPEG−DNA混合液に晒され、ガラス表面のチオール基と混合液中のDNAハイブリッドとが、Bis-MAL-dPEGを介して結合した。この際の反応条件は、常温で20分間であった。図4に、DNAハイブリッドの基板表面への結合を模式的に示す。図4において、便宜上、鋳型用ssDNA(1)のハイブリダイズされていない領域における3’末端部分の2塩基(AG)のみを具体的に表記している。また、Bis-MAL-dPEG分子及びBis-MAL-dPEGリンカーは構造を簡略化して表記しており、マレイミド環をMAL、主鎖であるポリエチレングリコール含有鎖は折れ線によって示している。
ガラス基板表面に固定されたDNAハイブリッドにおけるssDNA(3)にラベルされているCy5をTIRF観察した結果を図5に示す。図5のTIRF画像のサイズは100μm×100μmである。ガラス基板表面には38700本のDNAテンプレートが固定されている。DNA同士は互いに平均5μm離れるような密度で固定されており、最も近い位置に結合しているDNA同士は、それらが相互して合成に支障する程には接近していない。
[実施例2]基板上におけるDNA合成
プライマー用ssDNA(3)の代わりに、Cy5がラベル化されておらずssDNA(3)と同じ配列を有するssDNA(3’)をプライマーとして用いたことを除いて、上記工程3と同じ操作を行い、DNAを基板表面に固定化させた。図6(i)及び(ii)に、DNAハイブリッドの基板表面への結合を模式的に示す。図6において、便宜上、鋳型用ssDNA(1)のハイブリダイズされていない領域における3’末端部分の2塩基(AG)のみを具体的に表記している。また、Bis-MAL-dPEG分子及びBis-MAL-dPEGリンカーは構造を簡略化して表記しており、マレイミド環をMAL、主鎖であるポリエチレングリコール含有鎖は折れ線によって示している。
基板表面へ固定化されたDNAを、Cy5ラベル化ヌクレオチドを用いた核酸合成反応に供した(図6(iii))。核酸合成反応においては、核酸ポリメラーゼとしてSequenase Ver2.0(NEB社製)を用い、伸長させる塩基は1塩基とした。Cy5ラベル化ヌクレオチドとしては、1mMのCy5-dUTP、5mMのCy5-dUTP、1mMのCy5-dATP、又は5mMのCy5-dATPを用いた。鋳型用ssDNA(1)における合成開始位置の塩基はAであるから、理論上、Cy5としてCy5-dUTPを用いると伸長鎖を形成し、Cy5としてCy5-dATPを用いると伸長鎖を形成しないことになる。
以下に、Sequenase Ver 2.0の反応条件を示す。
[Sequenase Ver 2.0の反応条件]
100nM Cy5dUTP
40mM Tris HCl pH7.6
50mM NaCl
1mM 又は 5mM MnCl2
0.67units Sequenase / μL
容量10μL
温度37℃
反応時間10分
伸長反応を行い、リンス後、TIRF観察を行った。その結果を図7に示す。図7において、それぞれのTIRF画像のサイズは100μm×100μmである。
ここで、Cy5-dATPを反応させたときの蛍光強度は、主に非特異吸着由来とみなすことができるため、Cy5-dUTPの蛍光強度とCy5-dATPの蛍光強度との差は、合成されたdUTPの量となる。Mn濃度が1mMの時、Cy5-dUTPの蛍光強度はCy5-dATPの蛍光強度と差が無く、従って活性は見られなかった。Mn濃度が5mMの時、両者の蛍光強度を比較すると、Cy5-dUTPの蛍光強度がCy5-dATPの蛍光強度の2倍であった。Cy5-dUTPが合成された量(240箇所)と基板表面の固定されたDNA templateの量(光量からの換算値38,700本)とから、0.6%の合成効率で基板上の合成が行われたことを確認した。
なお、試験管内で、Sequenase Ver 2.0(NEB社製)を用いることにより5mM Mnイオンを含む溶液中でCy5-dUTPが伸長されることは、本発明者らによって確認されている。
[実施例3]アミノ基とチオール基とに対する蛍光ラベル化dNTP吸着量の比較
本実施例では、アミノ基(比較用)とチオール基とに対する蛍光ラベル化dNTP吸着量の比較を行った。
1.ガラス表面処理
実施例1と同じ方法で、0.01%MPS(メルカプトプロピルトリメトキシシラン)で表面処理したガラス基板と、0.1%MPSアセトン溶液で表面処理したガラス基板とを用意した。
別途、比較用として、以下のアミノ基表面処理及びアミノ基のキャップ処理を行ったガラス基板を用意した。
まず、アミノ酸表面処理として、0.04%APS(アミノプロピルトリエトキシシラン)アセトン溶液に、洗浄済み(実施例1の工程1の方法による)ガラスを浸し、1時間、20〜23℃の常温で静置した。その後、100mLのアセトンで3回洗浄し、スピナーで乾燥させた。
次に、アミノ基のキャップ処理として、10mM コハク酸水溶液に、表面処理を行ったガラスを浸し、1.5時間、20〜23℃の常温で反応させた。これによって、表面に固定されたアミノ基をコハク酸でキャップし、蛍光ラベルdNTPの吸着防止を図った。
2.蛍光dNTP吸着実験
アミノ基を有する基板表面とチオール基を有する基板表面とにおける蛍光ラベル化dNTPの吸着量の比較を行った。
0.9μM Cy3.5-dCTPをバッファーに溶解し、ガラス表面に10μL滴下した。ガラス表面をカバーガラスで覆い、5分間静置し、純水でリンスした。その後、ガラス表面に吸着したCy3.5-dCTPの蛍光量をTIRF観察した。リファレンスとしてCy3.5-dCTPを吸着させなかった生ガラス基板についても同様の操作を行った。その結果を図8に示す。
図8が示すように、0.01%MPS処理した基板においては、リファレンスと同様に吸着がほとんど観察されなかった。0.1%MPS処理した基板においては、若干の吸着が観察された。しかしその吸着の程度は、アミノ基にコハク酸でキャップした基板における場合の2.7%程度ときわめて低いことが確認できた。
なお、後述の実験例1で確認したとおり、アミノ基に対してコハク酸処理を行うと71%のアミノ基がキャップされた。すなわち、コハク酸処理を行った基板表面においては、29%のアミノ基はキャップされずに露出している。
つまり、0.04%APS処理し且つキャップ処理されていない基板(すなわちアミノ基処理された基板)にCy3.5-dCTPを吸着させると、吸着の程度を蛍光強度/Count/Pixel・200msに換算すると、38,906,159(=11,282,786×100/29)程度となる。従って、0.04%APS処理し且つコハク酸処理していない基板(すなわちアミノ基処理された基板)に対する0.1%MPS処理した基板(すなわちチオール基処理された基板)の吸着量は、0.8%(=308,522×100/38,906,159)程度とさらに低くなると予想される。さらに、シランカップリング剤の濃度が同じであれば、チオール基はアミノ基に対して吸着量は0.3%(=0.8×0.04/0.1)程度に過ぎない計算になる。
[実験例1]アミノ基のキャップ効果の確認実験
アミノ基(非処理)を有するガラス基板表面とコハク酸によるアミノ基キャップ処理が行われたガラス基板表面における固定量の比較を行った。
5μM Alexa488-NHS(AlexaFluor 488 succinimidyl ester/インビトロジェン製)をバッファーに溶解し、それぞれのガラス基板表面に10μL滴下した。ガラス表面上の液滴をカバーガラスで覆い5分間静置した後、純水でリンスした。その後、それぞれのガラス表面をTIRF観察した。Alexa488-NHSの固定量を比較した結果を図9に示す。図9が示すように、ガラス表面のアミノ基に対してコハク酸処理を行うと、71%のアミノ基がキャップされていることを確認した。
配列番1〜3は、合成オリゴヌクレオチドである。

Claims (6)

  1. 表面にチオール基を有する基板表面において、下記一般式(I):

    (式中、Rは二価の有機基を表す。)
    で示される2個のマレイミド環を有するリンカー試薬、及び前記基板表面に固定すべき核酸であってチオール基を有する核酸が共存する反応系を構築し、前記反応系において、前記基板表面のチオール基と前記リンカー試薬の一方のマレイミド環との間、及び前記リンカー試薬の他方のマレイミド環と前記核酸のチオール基との間にスルフィド結合を生成することによって、前記リンカー試薬を介して前記核酸が固定された基板を得る、核酸の固定方法。
  2. 前記リンカー試薬の前記有機基が、アルキレングリコール基、ポリアルキレングリコール基、アルキレン基からなる群から選ばれる二価基を含む、請求項1に記載の固定方法。
  3. 前記チオール基を有する核酸において、前記チオール基は、核酸の3’末端又は5’末端に結合している、請求項1又は2に記載の固定方法。
  4. 前記核酸が、光学的に検出可能である場合にその60%以上が光学的分解可能となる密度で固定されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の固定方法。
  5. 前記核酸が、核酸分子全体が前記基板表面から200nmの範囲内に存在可能となるように固定される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の固定方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の固定方法によって得られる、前記リンカー試薬を介して前記核酸が固定された基板。
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