以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のゴム材料のシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)では、ゴム材料の破壊現象が、コンピュータを用いてシミュレーション(計算)される。
図1は、ゴム材料のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c、及び、ディスプレイ装置1dを含んでいる。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
本実施形態のゴム材料は、第1高分子成分と第2高分子成分とを少なくとも含んでいる。第1高分子成分及び第2高分子成分としては、例えば、天然ゴム、ブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、又は、スチレンブタジエンゴム等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。
第1高分子成分及び第2高分子成分は、例えば、上記の高分子成分の中から、互いに異なる高分子成分がそれぞれ選択される。本実施形態では、予め定められた物性値について差異を有するように、第1高分子成分及び第2高分子成分がそれぞれ選択される。物性値については、特に限定されない。本実施形態の物性値には、耐変形性を示す弾性率(ヤング率)が含まれる。本実施形態において、第1高分子成分がブタジエンゴムであり、第2高分子成分がスチレンブタジエンゴムである場合が例示される。
本実施形態のゴム材料には、架橋剤が含まれている。架橋剤としては、硫黄である場合が例示される。
図2は、ゴム材料のシミュレーション方法及び製造方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、ゴム材料モデルが入力される(ゴム材料モデル入力工程S1)。図3は、ゴム材料モデル入力工程S1の処理手順の一例を示すフローチャートである。図4は、第1高分子鎖モデル3、第2高分子鎖モデル4、及び、架橋剤粒子モデル5が配置されたセル15の一例を示す概念図である。図5は、第1高分子鎖モデル3及び架橋剤粒子モデル5の一例を示す概念図である。図4は、一つの第1高分子鎖モデル3、一つの第2高分子鎖モデル4、及び、2つの架橋剤粒子モデル5を代表して示している。
本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、先ず、図4及び図5に示されるように、第1高分子成分(本実施形態では、ブタジエンゴム)の分子鎖構造を、複数の第1粗視化粒子7を用いて表現した第1高分子鎖モデル3が、コンピュータ1に入力される(工程S11)。本実施形態の第1高分子鎖モデル3は、粗視化モデル(本実施形態では、Kremer-Grestモデル)として定義されている。本実施形態の第1高分子鎖モデル3は、複数の第1粗視化粒子7と、隣接する第1粗視化粒子7、7間を結合する第1結合鎖モデル8とを含んで構成されている。
第1粗視化粒子7は、第1高分子成分(本実施形態では、ブタジエンゴム)の分子鎖のモノマー(図示省略)又はモノマーの一部分をなす構造単位を置換したものである。これにより、第1高分子鎖モデル3には、複数個(例えば、10〜5000個)の第1粗視化粒子7が設定される。第1粗視化粒子7は、後述の分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。このため、第1粗視化粒子7には、例えば、質量、体積、粒子径D1、又は、電荷などのパラメータが定義される。
本実施形態の第1結合鎖モデル8は、第1粗視化粒子7、7間に、伸びきり長が設定された第3相互作用ポテンシャルP3によって定義される。本実施形態の第3相互作用ポテンシャルP3は、下記式(2)の非調和ポテンシャルUch(r)によって定義される。
ここで、各定数及び変数は、次のとおりである。
r:粒子モデル間の距離
k:粒子モデル間のばね定数
R0:伸びきり長
なお、距離r、及び、伸びきり長R0は、第1粗視化粒子7の中心7c(図5に示す)の座標に基づいて設定される。
非調和ポテンシャルUch(r)の各定数及び各変数については、例えば、論文1( Kurt Kremer & Gary S. Grest 著 「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 15 April 1990)に基づいて適宜設定される。これにより、工程S11では、第1粗視化粒子7が伸縮自在に拘束された直鎖状の第1高分子鎖モデル3を定義することができる。第1高分子鎖モデル3は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、図4に示されるように、第2高分子成分(本実施形態では、スチレンブタジエンゴム)の分子鎖構造を、複数の第2粗視化粒子11を用いて表現した第2高分子鎖モデル4が、コンピュータ1に入力される(工程S12)。本実施形態の第2高分子鎖モデル4は、第1高分子鎖モデル3と同様に、粗視化モデルとして定義されている。本実施形態の第2高分子鎖モデル4は、複数の第2粗視化粒子11と、隣接する第2粗視化粒子11、11間を結合する第2結合鎖モデル12とを含んで構成されている。
第2粗視化粒子11は、第2高分子成分(本実施形態では、スチレンブタジエンゴム)の分子鎖のモノマー(図示省略)又はモノマーの一部分をなす構造単位を置換したものである。これにより、第2高分子鎖モデル4には、複数個(例えば、10〜5000個)の第2粗視化粒子11が設定される。第2粗視化粒子11は、後述の分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。このため、第2粗視化粒子11には、第1粗視化粒子7と同様のパラメータが定義される。
第2結合鎖モデル12は、第2粗視化粒子11、11間に、伸びきり長が設定された第4相互作用ポテンシャルP4によって定義される。本実施形態の第4相互作用ポテンシャルP4は、上記式(2)の非調和ポテンシャルUch(r)によって定義される。非調和ポテンシャルUch(r)の各定数及び各変数については、第1高分子鎖モデル3の各定数及び各変数と同様に設定される。これにより、工程S12では、第2粗視化粒子11が伸縮自在に拘束された直鎖状の第2高分子鎖モデル4を定義することができる。第2高分子鎖モデル4は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1は、図4及び図5に示されるように、架橋剤をモデル化した架橋剤粒子モデル5が、コンピュータ1に入力される(工程S13)。本実施形態の架橋剤粒子モデル5は、一つの独立した粒子モデルとして設定される。架橋剤粒子モデル5は、分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。このため、架橋剤粒子モデル5には、例えば、質量、体積、粒子径D2、又は、電荷などのパラメータが定義される。
架橋剤粒子モデル5の粒子径D2については、適宜設定することができる。本実施形態の粒子径D2は、第1粗視化粒子7及び第2粗視化粒子11の粒子径D1と同一に設定されている。架橋剤粒子モデル5は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、図4に示されるように、セル15が、コンピュータ1に入力される(工程S14)。本実施形態のセル15は、解析対象のゴム材料の一部に対応する仮想空間である。セル15は、互いに向き合う三対の平面15a、15bを有する直方体として定義されている。各平面15a、15bには、周期境界条件が定義されている。このようなセル15は、例えば、一方の平面15aから出て行った第1高分子鎖モデル3、第2高分子鎖モデル4、及び、架橋剤粒子モデル5の一部が、反対側の平面15bから入ってくるように計算することができる。したがって、一方の平面15aと、反対側の平面15bとが連続している(繋がっている)ものとして取り扱うことができる。
セル15の一辺の各長さL1a、L1b及びL1cは、適宜設定することができる。本実施形態の長さL1a、L1b及びL1cは、第1高分子鎖モデル3、及び、第2高分子鎖モデル4の拡がりを示す量である慣性半径(図示省略)の2倍以上が望ましい。これにより、セル15は、分子動力学計算において、周期境界条件による自己のイメージとの衝突の発生を防ぐことができるため、第1高分子鎖モデル3、及び、第2高分子鎖モデル4の空間的拡がりを適切に計算することができる。また、セル15の大きさは、例えば1気圧で安定な体積に設定される。これにより、セル15は、解析対象のゴム材料の少なくとも一部の体積を定義することができる。セル15は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、コンピュータ1が、解析対象のゴム材料に含まれる成分(第1高分子成分、第2高分子成分、及び、架橋剤)の分布を求める(分布計算工程S15)。図6は、分布計算工程S15の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の分布計算工程S15では、先ず、第1高分子成分、第2高分子成分、及び、架橋剤のχパラメータが求められる(工程S61)。χパラメータは、Flory-Huggins理論に基づくものであり、第1高分子成分、第2高分子成分、及び、架橋剤の相溶性を表すものである。χパラメータの値が小さいほど、良溶媒であることを示している。第1高分子成分と第2高分子成分とによって形成される界面は、相溶性が高い(即ち、χパラメータが小さい)ほど、互いに混じり合った混合状態になりやすい。逆に、相溶性が低い(χパラメータが大きい)ほど、第1高分子成分及び第2高分子成分が互いに混じり合い難くなり、相分離した界面が形成される。
本実施形態の工程S61では、ブタジエンゴム間の第1χパラメータ、スチレンブタジエンゴム間の第2χパラメータ、ブタジエンゴムとスチレンブタジエンゴムとの間の第3χパラメータが求められる。さらに、工程S61では、架橋剤間の第4χパラメータ、ブタジエンゴムと架橋剤との間の第5χパラメータ、及び、スチレンブタジエンゴムと架橋剤との間の第6χパラメータが求められる。各χパラメータは、従来と同様に、(株)JSOL社製のソフトマテリアル総合シミュレーター(J−OCTA)に含まれるSUSHIモデラを用いて、原子団寄与法、モンテカルロ法、分子動力学法、又は、QSPR法に基づいて計算することができる。各χパラメータは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の分布計算工程S15では、解析対象のゴム材料に含まれる成分(第1高分子成分、第2高分子成分、及び、架橋剤)の分布が求められる(工程S62)。本実施形態では、第1高分子成分、第2高分子成分、及び、架橋剤の配置のエントロピーを考慮した静的なSCF法( Self-Consistent Field Method )を用いて、ゴム材料に含まれる第1高分子成分(ブタジエンゴム)の分布、第2高分子成分(スチレンブタジエンゴム)の分布、及び、架橋剤の分布がそれぞれ求められる。SCF法は、例えば、(株)JSOL社製のソフトマテリアル総合シミュレーター(J−OCTA)に含まれるSUSHIを用いて計算することができる。
SCF法の入力値としては、第1高分子成分(ブタジエンゴム)の分子量、第2高分子成分(スチレンブタジエンゴム)の分子量、架橋剤の分子量、及び、χパラメータ(本実施形態では、第1χパラメータ〜第6χパラメータ)が用いられる。これにより、工程S62では、解析対象のゴム材料に含まれる第1高分子成分(ブタジエンゴム)の分布(濃度分布)、第2高分子成分(スチレンブタジエンゴム)の分布(濃度分布)、及び、架橋剤の分布(濃度分布)がそれぞれ求められる。図7は、第1高分子成分の分布、第2高分子成分の分布、及び、架橋剤の分布の一例を示すグラフである。このグラフでは、第1高分子成分、第2高分子成分及び架橋剤の体積分率と、それらのゴム材料での空間位置との関係を示している。ゴム材料に含まれる成分の分布は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、第1高分子成分、第2高分子成分及び架橋剤の分布に基づいて、コンピュータ1が、第1高分子鎖モデル3、第2高分子鎖モデル4、及び、架橋剤粒子モデル5をセル15内に配置する(工程S16)。本実施形態の工程S16では、DBMC法(Density Biased Monte Carlo)を用いて、複数の第1高分子鎖モデル3、複数の第2高分子鎖モデル4、及び、複数の架橋剤粒子モデル5が、セル15内に配置される。DBMC法は、例えば、上記したソフトマテリアル総合シミュレーター(J−OCTA)に含まれるCOGNACを用いて計算することができる。
DBMC法の入力値としては、工程S62で求められた第1高分子成分(ブタジエンゴム)の分布(濃度分布)、第2高分子成分(スチレンブタジエンゴム)の分布(濃度分布)、及び、架橋剤の分布(濃度分布)が用いられる。これにより、本実施形態の工程S16では、解析対象のゴム材料に含まれる第1高分子成分の分布、第2高分子成分の分布、及び、架橋剤の分布(図7に示す)に基づいて、複数の第1高分子鎖モデル3、複数の第2高分子鎖モデル4、及び、複数の架橋剤粒子モデル5を、セル15内に配置することができる。図8は、高分子成分の分布に基づいて第1高分子鎖モデル3、及び、第2高分子鎖モデル4が配置されたセル15を部分的に拡大した概念図である。図8において、図4に示した架橋剤粒子モデル5、第1結合鎖モデル8及び第2結合鎖モデル12を省略するとともに、第2高分子鎖モデル4を着色して表示している。
図8に示されるように、工程S16では、図7に示した各高分子成分の分布に基づいて、複数の第1高分子鎖モデル3(ブタジエンゴム)と、複数の第2高分子鎖モデル4(スチレンブタジエンゴム)との界面構造が作成されたゴム材料モデル16が定義される。
次に、本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、図4に示されるように、第1高分子鎖モデル3の第1粗視化粒子7、及び、第2高分子鎖モデル4の第2粗視化粒子11に、引力及び斥力が作用する相互作用ポテンシャルが定義される(工程S17)。本実施形態の相互作用ポテンシャルは、一対の第1高分子鎖モデル3、3の第1粗視化粒子7、7間に定義される第5相互作用ポテンシャルP5(図示省略)、一対の第2高分子鎖モデル4、4の第2粗視化粒子11、11間に定義される第6相互作用ポテンシャルP6(図示省略)、及び、第1高分子鎖モデル3の第1粗視化粒子7と第2高分子鎖モデル4の第2粗視化粒子11との間に定義される第7相互作用ポテンシャルP7を含んでいる。第5相互作用ポテンシャルP5〜第7相互作用ポテンシャルP7は、例えば、下記式(1)のLJポテンシャルULJ ij(r)で定義することができる。
ここで、
rij:粒子間の距離
rij,cut:カットオフ距離
εij:強度パラメータ
σij:粒子の直径に相当
なお、距離rij、カットオフ距離rij,cut、及び、粒子の直径に相当するσijは、第1粗視化粒子7の中心7c(図5に示す)の座標に基づいて定義される。
第5相互作用ポテンシャルP5〜第7相互作用ポテンシャルP7の各定数及び各変数については、例えば、論文2(Ali Makke, Michel Perez, Olivier Lame and Jean-Louis Barrat著、 「Mechanical testing of glassy and rubbery polymers in numerical simulations: Role of boundary conditions in tensile stress experiments 」J. Chem. Phys. vol.131, 014904 (2009))に基づいて適宜設定される。なお、第5相互作用ポテンシャルP5〜第7相互作用ポテンシャルP7の各強度パラメータεijについては、適宜設定することができる。強度パラメータεijは、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムのχパラメータと相関がある。したがって、第5相互作用ポテンシャルP5〜第7相互作用ポテンシャルP7の各強度パラメータεijは、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムのχパラメータに基づいて同定されるのが望ましい。本実施形態の第5相互作用ポテンシャルP5〜第7相互作用ポテンシャルP7の各強度パラメータεijには、例えば、1.0に設定される。第5相互作用ポテンシャルP5〜第7相互作用ポテンシャルP7は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、架橋剤粒子モデル5に、引力及び斥力が作用する相互作用ポテンシャルが定義される(工程S18)。本実施形態の相互作用ポテンシャルは、一対の架橋剤粒子モデル5、5間に定義される第8相互作用ポテンシャルP8、架橋剤粒子モデル5と第1高分子鎖モデル3の第1粗視化粒子7との間に定義される第9相互作用ポテンシャルP9、及び、架橋剤粒子モデル5と第2高分子鎖モデル4の第2粗視化粒子11との間に定義される第10相互作用ポテンシャルP10を含んでいる。第8相互作用ポテンシャルP8〜第10相互作用ポテンシャルP10は、例えば、上記式(1)のLJポテンシャルULJ ij(r)を用いて定義することができる。
第8相互作用ポテンシャルP8〜第10相互作用ポテンシャルP10の強度パラメータεijについては、適宜設定することができる。強度パラメータεijは、架橋剤のχパラメータと相関がある。従って、強度パラメータεijは、架橋剤のχパラメータに基づいて同定されるのが望ましい。第8相互作用ポテンシャルP8〜第10相互作用ポテンシャルP10は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、コンピュータ1が、分子動力学計算に基づいて、第1高分子鎖モデル3及び第2高分子鎖モデル4を対象に構造緩和を計算する(工程S19)。本実施形態の分子動力学計算では、例えば、セル15について所定の時間、第1高分子鎖モデル3の第1粗視化粒子7、及び、第2高分子鎖モデル4の第2粗視化粒子11が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻での第1粗視化粒子7及び第2粗視化粒子11の動きが、単位時間ステップ毎に追跡される。
分子動力学計算では、セル15において、圧力及び温度が一定、又は体積及び温度が一定に保たれる。これにより、工程S19では、実際のゴム材料の分子運動に近似させて、第1高分子鎖モデル3、及び、第2高分子鎖モデル4の初期配置を精度よく緩和することができる。本実施形態では、第1高分子鎖モデル3、及び、第2高分子鎖モデル4の初期配置が十分に緩和されるまで行われる。構造緩和の計算は、例えば、上記J−OCTAに含まれるCOGNACを用いて処理することができる。
本実施形態の工程S19では、第1粗視化粒子7、7間に定義される第3相互作用ポテンシャルP3(図5に示す)、及び、第2粗視化粒子11、11間に定義される第4相互作用ポテンシャルP4(図5に示す)が、非調和ポテンシャルUch(r)として定義されている。これにより、工程S19では、第1粗視化粒子7、7間、及び、第2粗視化粒子11、11間で、柔軟に伸縮することができるため、構造緩和をスムーズに行うことができる。さらに、本実施形態の第3相互作用ポテンシャルP3及び第4相互作用ポテンシャルP4の各定数及び各変数には、同一のものが採用されている。このため、セル15において、第1高分子鎖モデル3の配置、及び、第2高分子鎖モデル4の配置に偏りが生じるのを防ぐことができる。
本実施形態の工程S19では、架橋剤粒子モデル5を対象とした構造緩和が計算されていない。これにより、架橋剤粒子モデル5は、セル15において、実際の架橋剤の分布を維持することができる。
次に、本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1は、コンピュータ1が、隣接する分子鎖モデル(第1高分子鎖モデル3又は第2高分子鎖モデル4)について、一対の粗視化粒子(第1粗視化粒子7又は第2粗視化粒子11)を連結する(工程S20)。本実施形態の工程S20では、一対の粗視化粒子(第1粗視化粒子7又は第2粗視化粒子11)を、架橋剤粒子モデル5を介して連結している。図9(a)、(b)は、一対の粗視化粒子を連結する工程の一例を説明する概念図である。
図9(a)、(b)に示されるように、工程S20では、架橋剤粒子モデル5の位置から予め定められた範囲R(図9(a)に示す)内に存在する一対の粗視化粒子(本例では、第1粗視化粒子7、7)を連結している。範囲Rについては、適宜設定することができる。本実施形態の範囲Rは、例えば、架橋剤粒子モデル5の中心5cからの半径rdが、0.8σ以内の領域に設定されている。
工程S20では、図9(b)に示されるように、一対の粗視化粒子(本例では、第1粗視化粒子7、7)が、架橋剤粒子モデル5を介して連結される。本実施形態では、一方の粗視化粒子(第1粗視化粒子7又は第2粗視化粒子11)と架橋剤粒子モデル5との間、及び、他方の粗視化粒子(第1粗視化粒子7又は第2粗視化粒子11)と架橋剤粒子モデル5との間が、第3結合鎖モデル18を介して接続される。
第3結合鎖モデル18は、第11相互作用ポテンシャルP11によって設定される。本実施形態の第11相互作用ポテンシャルP11は、上記式(2)の非調和ポテンシャルUch(r)によって定義される。また、上記式(2)において、第11相互作用ポテンシャルP11の定数及び変数は、例えば、図4に示した第3相互作用ポテンシャルP3及び第4相互作用ポテンシャルP4の定数又は変数と同様に定義されうる。
このように、工程S20では、隣接する高分子鎖モデル(本実施形態では、第1高分子鎖モデル3又は第2高分子鎖モデル4)の一対の粗視化粒子(本実施形態では、第1粗視化粒子7又は第2粗視化粒子11)が、架橋剤粒子モデル5を介して連結される。これにより、解析対象の架橋されたゴム材料を再現したゴム材料モデル16(図4に示す)を作成することができる。ゴム材料モデル16は、コンピュータ1に記憶される。
図4に示されるように、第1高分子鎖モデル3及び第2高分子鎖モデル4について、第1粗視化粒子7、7間に定義される第3相互作用ポテンシャルP3、及び、第2粗視化粒子11、11間に定義される第4相互作用ポテンシャルP4は、非調和ポテンシャルUch(r)によって定義されている。さらに、第3相互作用ポテンシャルP3及び第4相互作用ポテンシャルP4の各定数及び各変数には、同一の値が設定されている。このため、第1高分子鎖モデル3及び第2高分子鎖モデル4は、第1高分子成分及び第2高分子成分の物性値の差異が考慮されていない。したがって、工程S11〜工程S20を経て作成された相分離界面(即ち、第1高分子成分及び第2高分子成分が互いに分離した界面)のゴム材料モデル16は、例えば、後述の変形(引張試験)の計算に用いられると、上記非特許文献1と同様に、第1高分子鎖モデル3が配置された領域と、第2高分子鎖モデル4が配置された領域との界面で破壊が生じる現象が計算される。
しかしながら、第1高分子成分及び第2高分子成分を含む相分離した実際のゴム材料を変形させると、第1高分子成分及び第2高分子成分のうち、耐変形性を示す物性値(例えば、弾性率)が相対的に小さい第1高分子成分又は第2高分子成分の一方(本実施形態では、第1高分子成分)内で破壊が観察される。
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、第1高分子成分及び第2高分子成分の物性値の差異を考慮して、第1粗視化粒子7、7間の相互作用、及び、第2粗視化粒子11、11間の相互作用を互いに異なるものとして定義することが、第1高分子成分及び第2高分子成分を含む実際のゴム材料の破壊特性を評価する上で有効であることを知見した。
このような知見に基づいて、本実施形態のシミュレーション方法(ゴム材料モデル入力工程S1)では、第1高分子成分と第2高分子成分との物性値の差異に基づいて、第2粗視化粒子11、11間の相互作用を定義するための第2相互作用ポテンシャルP2を、第1粗視化粒子7、7間の相互作用を定義するための第1相互作用ポテンシャルP1とは異なるものとして定義している。
本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、第1粗視化粒子7、7間の相互作用を定義するための第1相互作用ポテンシャルP1(図4に示す)が定義される(工程S21)。第1相互作用ポテンシャルP1は、相互作用の強さの定義するための強度パラメータεijを含み、上記式(1)のLJポテンシャルによって定義される。本実施形態の工程S21では、上記式(2)で定義された第1粗視化粒子7、7間の第3相互作用ポテンシャルP3(図4に示す)を無効にし、上記式(1)で定義される第1相互作用ポテンシャルP1(図4に示す)が定義される。
第1相互作用ポテンシャルP1の各定数及び各変数については、例えば、上記論文2に基づいて適宜設定される。本実施形態の第1相互作用ポテンシャルP1の強度パラメータεijは、1.0に設定される。第1相互作用ポテンシャルP1は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、第2粗視化粒子11、11間の相互作用を定義するための第2相互作用ポテンシャルP2(図4に示す)が定義される(第2相互作用定義工程S22)。第2相互作用ポテンシャルP2は、相互作用の強さの定義するための強度パラメータεijを含み、上記式(1)のLJポテンシャルによって定義される。第2相互作用定義工程S22では、第1高分子成分と第2高分子成分との物性値の差異に基づいて、第1相互作用ポテンシャルP1(図4に示す)とは異なるものとして、第2相互作用ポテンシャルP2を定義している。図10は、第2相互作用定義工程S22の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第2相互作用定義工程S22では、先ず、上記式(2)で定義された第2粗視化粒子11、11間の第4相互作用ポテンシャルP4(図4に示す)を無効にする工程S31、及び、第2粗視化粒子11、11間に、上記式(1)で定義される第2相互作用ポテンシャルP2(図4に示す)を定義する工程S32が実施される。
本実施形態の工程S32において、第2相互作用ポテンシャルP2の各定数及び各変数については、例えば、上記論文2に基づいて適宜設定される。なお、強度パラメータεijは、後述の強度パラメータ定義工程S33において、第1相互作用ポテンシャルP1とは異なる強度パラメータεijが定義される。
次に、本実施形態の第2相互作用定義工程S22では、第2相互作用ポテンシャルP2に、第1相互作用ポテンシャルP1とは異なる強度パラメータεijが定義される(強度パラメータ定義工程S33)。図11は、強度パラメータ定義工程S33の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の強度パラメータ定義工程S33では、先ず、予め定められた複数種類の強度パラメータεij毎に、物性値を計算する(物性値計算工程S41)。図12は、物性値計算工程S41の処理手順の一例を示すフローチャートである。図13は、高分子鎖モデル17が配置されたセル21の一例を示す概念図である。
本実施形態の物性値計算工程S41では、先ず、図13に示されるように、物性値を計算するための高分子鎖モデル17が、コンピュータ1に入力される(工程S51)。高分子鎖モデル17は、図4に示した第1高分子鎖モデル3及び第2高分子鎖モデル4と同様に、複数の粗視化粒子19と、隣接する粗視化粒子19、19間を結合する結合鎖モデル20とを含んで構成されている。高分子鎖モデル17には、図4に示した第1高分子鎖モデル3又は第2高分子鎖モデル4がそのまま用いられてもよいし、第1高分子鎖モデル3及び第2高分子鎖モデル4とは独立して定義されてもよい。
粗視化粒子19は、後述の分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。このため、粗視化粒子19には、図4に示した第1粗視化粒子7及び第2粗視化粒子11と同様のパラメータが定義される。
結合鎖モデル20は、粗視化粒子19、19間に設定される第15相互作用ポテンシャルP15によって定義される。第15相互作用ポテンシャルP15は、図4に示した第1相互作用ポテンシャルP1及び第2相互作用ポテンシャルP2と同様に、上記式(1)のLJポテンシャルによって定義される。第15相互作用ポテンシャルP15の各定数及び各変数については、例えば、強度パラメータεijを除いて、例えば、第1相互作用ポテンシャルP1及び第2相互作用ポテンシャルP2と同一のものを設定することができる。高分子鎖モデル17は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の物性値計算工程S41では、セル21が、コンピュータ1に入力される(工程S52)。本実施形態のセル21は、図4に示したゴム材料モデル16のセル15とは独立して定義される。セル21は、ゴム材料モデル16のセル15と同一の大きさに設定されても良いし、異なる大きさに設定されてもよい。セル21は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の物性値計算工程S41では、複数の高分子鎖モデル17がセル21内に配置され(工程S53)、高分子鎖モデル17の粗視化粒子19に、引力及び斥力が作用する第16相互作用ポテンシャルP16が定義される(工程S54)。本実施形態の第16相互作用ポテンシャルP16は、一対の高分子鎖モデル17、17の粗視化粒子19、19間にそれぞれ定義される。第16相互作用ポテンシャルP16は、第5相互作用ポテンシャルP5〜第7相互作用ポテンシャルP7(図4に示す)と同様に、上記式(1)のLJポテンシャルULJ ij(r)で定義することができる。
第16相互作用ポテンシャルP16の各定数及び各変数については、例えば、上記論文2に基づいて適宜設定される。本実施形態の第16相互作用ポテンシャルP16の強度パラメータεijは、1.0に設定される。第16相互作用ポテンシャルP16は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の物性値計算工程S41では、コンピュータ1が、分子動力学計算に基づいて、高分子鎖モデル17を対象に構造緩和を計算する(工程S55)。分子動力学計算については、上述のとおりである。本実施形態では、高分子鎖モデル17の初期配置が十分に緩和されるまで行われる。これにより、単一の高分子成分を含むゴム材料をモデル化したゴム材料モデル(以下、単に「単一ゴム材料モデル」ということがある。)22が定義される
次に、本実施形態の物性値計算工程S41は、コンピュータ1が、予め定められた複数種類の強度パラメータεij毎に、物性値を計算する(工程S56)。工程S56では、高分子鎖モデル17の第15相互作用ポテンシャルP15に設定される複数種類の強度パラメータεij毎に、単一ゴム材料モデル22の伸長計算をして、物性値が計算される。
複数種類の強度パラメータεijについては、例えば、第1高分子成分と第2高分子成分との物性値の差異に基づいて、適宜設定することができる。強度パラメータεijの一例としては、第1高分子成分と第2高分子成分との物性値に差異が無い状態の強度パラメータεij(例えば、1.0)から、第1高分子成分と第2高分子成分との物性値の差異が大きくなる強度パラメータεij(例えば、2.4)の間で複数設定(例えば、εij=1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、及び、2.4)されるのが望ましい。なお、強度パラメータεijは、このような態様に限定されない。
工程S56では、先ず、複数種類の強度パラメータεijから選択された一つの強度パラメータεijが、高分子鎖モデル17の第15相互作用ポテンシャルP15に定義される。次に、工程S56では、単軸引張り試験に基づいて、単一ゴム材料モデル22を一方向に(例えば、Y軸方向に0%〜50%)伸長させる変形シミュレーションが実施され、その物性値(本実施形態では、弾性率)が計算される。変形シミュレーションについては、後述のゴム材料モデル16を用いたゴム材料のシミュレーション方法と同様の手順で行うことができる。
工程S56において、物性値の計算は、設定された複数の強度パラメータεij毎に実施される。図14は、強度パラメータεij毎に計算された応力−歪み曲線の一例を示すグラフである。図14では、強度パラメータεijが1.0、1.6、及び、2.4のみを代表して示している。図15は、物性値の差異(ヤング率の比E/E1.0)と、強度パラメータεijとの関係を示すグラフである。ヤング率の比E/E1.0は、強度パラメータεij=1.0のヤング率E1.0と他の強度パラメータεijのヤング率Eとの割合を示している。複数種類の強度パラメータεij毎に計算された物性値は、コンピュータ1に記憶される。
次に、図11に示されるように、本実施形態の強度パラメータ定義工程S33は、物性値の差異に基づいて、複数種類の強度パラメータεij(例えば、εij=1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.2、及び、2.4)から、第2相互作用ポテンシャルP2の強度パラメータεijを選択する(工程S42)。工程S42では、先ず、実際の第1高分子成分と第2高分子成分との物性値の差異が求められる。物性値(弾性率)の差異としては、第1高分子成分のヤング率E1と第2高分子成分のヤング率E2との比E2/E1が求められる。第1高分子成分のヤング率E1と第2高分子成分のヤング率E2は、例えば、JISK6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に記載の試験方法に準拠して引張特性を求め、歪みに対して応力が直線的に変化する範囲(即ち、線形応答が得られた範囲)内の引張応力と、これに対応する歪みとの比から求めることができる。
次に、本実施形態の工程S42では、図15のグラフにおいて、実際の第1高分子成分と第2高分子成分との物性値の差異(ヤング率の比E2/E1)に対応する強度パラメータεijが選択される。図15のグラフにおいて、例えば、物性値の差異(ヤング率の比E2/E1)が2.5の場合、強度パラメータεij=2.0が選択される。
次に、本実施形態の強度パラメータ定義工程S33では、第2相互作用ポテンシャルP2(図4に示す)に、選択された強度パラメータ(本例では、εij=2.0)が定義される(工程S43)。強度パラメータεij=2.0は、第1相互作用ポテンシャルP1(図4に示す)の強度パラメータεij=1.0とは異なるものである。これにより、第2相互作用定義工程S22では、第2相互作用ポテンシャルP2を、第1高分子成分と第2高分子成分との物性値の差異(本実施形態では、ヤング率の比E2/E1)に基づいて、第1相互作用ポテンシャルP1とは異なるものとして定義することができる。したがって、本実施形態のシミュレーション方法(ゴム材料モデル入力工程S1)は、第1高分子成分と第2高分子成分との物性値の差異を考慮することが可能なゴム材料モデル16(図4に示す)を作成することができる。ゴム材料モデル16は、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、第2相互作用定義工程S22の後に、コンピュータ1が、分子動力学計算に基づいて、図4に示した第1高分子鎖モデル3及び第2高分子鎖モデル4を対象に構造緩和を計算するのが望ましい。これにより、第2相互作用定義工程S22で設定される第2相互作用ポテンシャルP2の変化によって、分子同士の凝集度合い、セル21のサイズ、セル21内の密度(即ち、セル21内の粒子数/セル21のサイズ)が変化しても、新たな第2相互作用ポテンシャルP2に基づいて平衡化された構造を作成することができるため、セル21を適切な密度にすることができる。本実施形態では、NPT(N:粒子数、P:圧力、T:温度)一定の条件下で構造緩和が行われるのが望ましく、また、セル15の圧力がゼロ(又は、ゼロに近い任意の値)になるように、構造緩和が計算されるのが望ましい。これにより、ポテンシャルの異なる構造間で初期応力が異なることを避けることができ、界面状態の異なる構造間での応力比較が可能になる。
本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、架橋剤をモデル化した架橋剤粒子モデル5が、セル15に配置されたが、このような態様に限定されない。本実施形態のゴム材料モデル入力工程S1では、架橋剤粒子モデル5(図4及び図5に示す)を省略してもよい。この場合、工程S20では、架橋剤粒子モデル5を介さずに、一対の粗視化粒子(第1粗視化粒子7又は第2粗視化粒子11)を連結するのが望ましい。また、ゴム材料に配合される充填剤(フィラー)をモデル化したフィラーモデル(図示省略)が、セル15に配置されてもよい。これにより、充填剤が配合されたゴム材料を再現したゴム材料モデル16を作成することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、図4に示したゴム材料モデル16の変形を計算(以下、単に、「変形計算」ということがある。)する(工程S2)。ゴム材料モデル16の変形計算としては、例えば、引張変形や圧縮変形など適宜選択することができる。本実施形態の変形計算は、引張変形が行われる。
工程S2では、Y軸方向において、ゴム材料モデル16の一端16a及び他端16bを離間させて、ゴム材料モデル16の引張変形が計算される。本実施形態では、例えば、特開2016−81297号公報に記載の方法と同様に、分子動力学計算の単位時間(MDステップ)あたりの歪が10−5以上の速度V1で、ゴム材料モデル16をアフィン変形に基づいて引張変形させている。また、工程S2では、第1高分子鎖モデル3、第2高分子鎖モデル4、及び、架橋剤粒子モデル5の熱運動(分子運動)が計算される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、ゴム材料モデル16の応力が計算される(工程S3)。工程S3では、工程S2で与えられた歪に基づいて、ゴム材料モデル16の応力が単位時間毎に計算される。さらに、工程S3では、ゴム材料モデル16の引張変形によって計算される第1粗視化粒子7、第2粗視化粒子11、及び、架橋剤粒子モデル5の動きが、単位時間毎に追跡される。図16(A)は、ゴム材料モデル(歪:0.0)を示す図である。図16(B)は、ゴム材料モデル(歪:0.12)を示す図である。図16(C)は、ゴム材料モデル(歪:0.30)を示す図である。図16(D)は、ゴム材料モデル(歪:0.60)を示す図である。
工程S3では、ゴム材料モデル16に与えられた歪、各相互作用ポテンシャル及び運動方程式に基づいて、第1高分子鎖モデル3、第2高分子鎖モデル4、及び、架橋剤粒子モデル5の熱運動が計算される。これらの熱運動が計算されることにより、セル15には、第1高分子鎖モデル3、第2高分子鎖モデル4、及び、架橋剤粒子モデル5(図示省略)が存在しない小領域が形成される。このような小領域は、ゴム材料モデル16に形成された空孔(ボイド)24として定義される。
図16(A)〜(D)に示されるように、本実施形態の変形計算では、第2高分子鎖モデル4よりも小さい強度パラメータεijが定義された第1高分子鎖モデル3において、破壊が生じる(空孔24が生じる)現象が計算された。これは、実際のゴム材料の破壊現象に合致している。したがって、本実施形態のシミュレーション方法では、ゴム材料モデル入力工程S1で作成されたゴム材料モデル16が、変形計算を行うシミュレーションに用いられることにより、第1高分子成分と第2高分子成分とを含むゴム材料の破壊特性を、精度良く評価することができる。ゴム材料モデル16の応力、第1高分子鎖モデル3、第2高分子鎖モデル4、及び、架橋剤粒子モデル5の各座標値は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、ゴム材料モデル16の変形の計算結果に基づいて、ゴム材料の性能が評価される(工程S4)。本実施形態の工程S4では、例えば、ゴム材料モデル16の変形結果に基づいて計算される応力−歪み曲線や、空孔(ボイド)24の成長曲線等に基づいて、ゴム材料の強度が評価される。
本実施形態では、ゴム材料の性能(変形の計算結果)が良好であると評価された場合(工程S4において、「Y」)、ゴム材料モデル16に基づいて、ゴム材料が製造される(工程S5)。一方、ゴム材料の性能が良好でないと判断された場合(工程S4において、「N」)、ゴム材料の諸条件を変更し(工程S6)、かつ、図3に示した手順に基づいて、ゴム材料モデル16を再作成して(工程S7)、及び、工程S1〜工程S4が再度実施される。このように、本実施形態のシミュレーション方法、及び、製造方法では、ゴム材料の性能が良好になるまで、ゴム材料の諸条件が変更されるため、良好な強度(破壊特性)を有するゴム材料を、効率よく製造することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
予め定められた物性値について差異を有する第1高分子成分と第2高分子成分とを少なくとも含むゴム材料の数値解析用のゴム材料モデルが作成された(実施例、比較例)。
実施例及び比較例では、第1高分子成分の分子鎖構造を複数の第1粗視化粒子を用いて表現した第1高分子鎖モデル、及び、第2高分子成分の分子鎖構造を複数の第2粗視化粒子を用いて表現した第2高分子鎖モデルが、コンピュータに入力された。第1高分子鎖モデルには、第1粗視化粒子間の相互作用を定義するための第1相互作用ポテンシャルが定義された。第2高分子鎖モデルには、第2粗視化粒子間の相互作用を定義するための第2相互作用ポテンシャルが定義された。さらに、実施例及び比較例では、架橋剤をモデル化した架橋剤粒子モデルが、コンピュータに入力された。
そして、実施例及び比較例では、図7に示した第1高分子成分の分布、第2高分子成分の分布、及び、架橋剤の分布に基づいて、第1高分子鎖モデル、第2高分子鎖モデル、及び、架橋剤粒子モデルがセル内に配置され、ゴム材料モデルが作成された。
実施例の第2相互作用ポテンシャルは、図11に示した強度パラメータ定義工程の処理手順にしたがい、第1高分子成分と第2高分子成分との物性値の差異に基づいて、第1相互作用ポテンシャルとは異なるものとして定義された。一方、比較例の第2相互作用ポテンシャルは、物性値の差異を考慮せずに、第1相互作用ポテンシャルと同一のものが採用された。そして、実施例及び比較例のゴム材料モデルの引張変形が計算された。共通仕様は、次のとおりである。
第1、第2高分子鎖モデル:
第1、第2粗視化粒子の個数(鎖長):200個
各本数:40本
第3、第4相互作用ポテンシャル:
粒子モデル間のばね定数k:30[ε/σ2]
伸びきり長R0:1[σ]
架橋剤粒子モデル:229個
セル:
体積:16229[σ3]
実施例の密度:0.94[/σ3]
比較例の密度:0.87[/σ3]
架橋密度:0.01[σ3]
第5〜第10相互作用ポテンシャル:
カットオフ距離rij,cut:2.5[σ]
強度パラメータεij:1.0[ε]
第11相互作用ポテンシャル:
粒子モデル間のばね定数k:30[ε/σ2]
伸びきり長R0:1[σ]
強度パラメータ定義工程:
高分子鎖モデル:
粗視化粒子の個数(鎖長):200個
分子数:40本
第15相互作用ポテンシャル:
粒子モデル間のばね定数k:30[ε/σ2]
伸びきり長R0:1[σ]
強度パラメータε:1.0、1.2、1.4、1.6、
1.8、2.0、2.2、2.4[ε]
第16相互作用ポテンシャル:
カットオフ距離rij,cut:2.5[σ]
強度パラメータεij:1.0[ε]
粒子の直径に相当σij:1[σ]
第1相互作用ポテンシャル:
強度パラメータεij:1[ε]
カットオフ距離rij,cut:2.5[σ]
粒子の直径に相当σij:1[σ]
第2相互作用ポテンシャル:
強度パラメータεij(実施例):2[ε]
強度パラメータεij(比較例):1[ε]
カットオフ距離rij,cut:2.5[σ]
粒子の直径に相当σij:1[σ]
計算条件:
時間刻み(単位時間):0.006[τ]
合計時間:6000[τ]
ひずみ速度:0.0001[1/τ]
最大歪み:0.6
ポアソン比:0
図17(A)は、比較例のゴム材料モデル(歪:0.0)を示す図である。図17(B)は、比較例のゴム材料モデル(歪:0.12)を示す図である。図17(C)は、比較例のゴム材料モデル(歪:0.30)を示す図である。図17(D)は、比較例のゴム材料モデル(歪:0.60)を示す図である。比較例では、主として、第1高分子鎖モデル3が配置された領域と、第2高分子鎖モデル4が配置された領域との界面で破壊が生じる現象が計算され、実際のゴム材料の破壊現象に合致しなかった。
一方、実施例では、図16(A)〜(D)に示されるように、第2高分子鎖モデル4よりも小さい強度パラメータεijが定義された第1高分子鎖モデル3が配置された領域において、破壊が生じる(空孔24が生じる)現象が計算されており、実際のゴム材料の破壊現象に合致した。
図18は、実施例のゴム材料モデル、及び、比較例のゴム材料モデルの応力−歪み曲線を示すグラフである。実施例は、比較例に比べて、ヤング率が大きく計算された。これは、実際のゴム材料のヤング率の傾向に近似している。
このように、実施例のゴム材料モデルは、変形計算を行うシミュレーションに用いられることにより、第1高分子成分と第2高分子成分とを含むゴム材料の破壊特性を、精度良く評価できることを確認できた。