以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
<微細化セルロース/ポリマー複合粒子>
まず、本発明の実施形態に係る塗工用組成物に含まれる微細化セルロース/ポリマー粒子の複合粒子5について説明する。図1はセルロースナノファイバー(以下、CNFもしくは微細化セルロースとも称する)1を用いたO/W型ピッカリングエマルションと、エマルション内部の重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴を固体化することで得られる複合粒子5の概略図である。
複合粒子5は、少なくとも一種類のポリマー粒子3を含み、ポリマー粒子3の表面に、微細化セルロース1により構成された被覆層を有し、ポリマー粒子3と微細化セルロース1とが結合して不可分の状態にある複合粒子である。
図1に示すように、分散液4に分散した重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2(図中においては、単にモノマー液滴と記載。以下、液滴とも称する)の界面に微細化セルロース1が吸着することによって、O/W型ピッカリングエマルションが安定化し、安定化状態を維持したままエマルション内部の液滴2を固体化することによって、エマルションを鋳型とした複合粒子5が作製される。
さらに、複合粒子5には機能性を有する顔料(図示せず)が含まれる。顔料を含む方法としては、本発明形態を逸脱しない限りにおいて何れの方法を用いても構わないが、重合性モノマーに予め混合しておくことができる。或いは、ポリマー原料に混ぜておくことにより、顔料を含んだ複合粒子5が作製される。
ここで言う「不可分」とは、複合粒子5を含む分散液を遠心分離処理して上澄みを除去し、さらに溶媒を加えて再分散することで複合粒子5を精製・洗浄する操作、あるいはメンブレンフィルターを用いたろ過洗浄によって繰り返し溶媒による洗浄する操作を繰り返した後であっても、微細化セルロース1とポリマー粒子3とが分離せず、微細化セルロース1によるポリマー粒子3の被覆状態が保たれることを意味する。被覆状態の確認は走査型電子顕微鏡による複合粒子5の表面観察により確認することができる。複合粒子5において微細化セルロース1とポリマー粒子3の結合メカニズムについては定かではないが、複合粒子5が微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作成されるため、エマルション内部の液滴2に微細化セルロース1が接触した状態で液滴2の固体化が進むために、物理的に微細化セルロース1が固体化する液滴2に固定化されて、最終的にポリマー粒子3と微細化セルロース1とが不可分な状態に至ると推察される。
ここで、O/W型エマルションは、水中油滴型(Oil−in−Water)とも言われ、水を連続相とし、その中に油が油滴(油粒子)として分散しているものである。
また、複合粒子5は微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作製されるため、複合粒子5の形状はO/W型エマルションに由来した球状となることが特徴である。詳細には、球状のポリマー粒子3の表面に微細化セルロース1からなる被覆層が比較的均一な厚みで形成された様態となる。被覆層の平均厚みは、複合粒子5を包埋樹脂で固定したものをミクロトームで切削して走査型電子顕微鏡観察を行い、画像中の複合粒子5の断面像における被覆層の厚みを画像上で100箇所ランダムに測定し、平均値を取ることで算出できる。また、複合粒子5は比較的揃った厚みの被覆層で均一に被覆されていることが特徴であり、具体的には上述した被覆層の厚みの値の変動係数は0.5以下となることが好ましく、0.4以下となることがより好ましい。
なお、本実施形態における微細化セルロース1は特に限定されないが、結晶表面にイオン性官能基を有しており、当該イオン性官能基の含有量が、セルロース1g当たり0.1mmol以上5.0mmol以下であることが好ましい。
さらに、微細化セルロース1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、微細化セルロース1は繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。また、微細化セルロース1の結晶構造は、セルロースI型であることが好ましい。
<複合粒子の製造方法>
次に、本実施形態の塗工用組成物に含まれる複合粒子の製造方法について説明する。本実施形態に係る複合粒子5の製造方法は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロースの分散液を得る工程(第1工程)と、微細化セルロースの分散液中において重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2の表面を微細化セルロース1で被覆し、エマルションとして安定化させる工程(第2工程)と、該液滴2を固体化して微細化セルロース1でポリマー粒子3が被覆された複合粒子5を得る工程(第3工程)とを具備する。
上記製造方法により得られた複合粒子5は分散体として得られる。さらに溶媒を除去することにより乾燥固形物として得られる。溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば遠心分離法やろ過法によって余剰の水分を除去し、さらにオーブンでの熱乾燥や風乾することで乾燥固形物として得ることができる。この際、得られる乾燥固形物は膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。この理由としては定かではないが、通常微細化セルロース分散体から溶媒を除去すると、微細化セルロース同士が強固に凝集、膜化することが知られている。一方、複合粒子5を含む分散液の場合、微細化セルロース1が表面に固定化された球状の複合粒子であるため、溶媒を除去しても微細化セルロース1同士が凝集することなく、複合粒子間の点と点で接するのみであるため、その乾燥固形物は肌理細やかな粉体として得られると考えられる。このように本発明の複合粒子は肌理細やかな粉体として利用可能である。乾燥粉体として得られた複合粒子5は溶媒に再分散することも容易であり、再分散後も複合粒子5の表面に結合された微細化セルロース1に由来した分散安定性を示す。この際、用いる微細化セルロース1の結晶表面にイオン性官能基が導入されていると、複合粒子の表面にイオン性官能基が選択的に配置されることになり、浸透圧効果により複合粒子間に溶媒が侵入しやすくなり分散安定性がより向上するため好ましい。
以下に、各工程について、詳細に説明する。
(第1工程)
第1工程はセルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース分散液を得る工程である。まず、各種セルロース原料を溶媒中に分散し、懸濁液とする。懸濁液中のセルロース原料の濃度としては0.1%以上10%未満が好ましい。0.1%未満であると、溶媒過多となり生産性を損なうため好ましくない。10%以上になると、セルロース原料の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘し、均一な解繊処理が困難となるため好ましくない。懸濁液作製に用いる溶媒としては、水を50%以上含むことが好ましい。懸濁液中の水の割合が50%未満になると、後述するセルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース分散液を得る工程において、微細化セルロース1の分散が阻害される。また、水以外に含まれる溶媒としては親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒については特に制限はないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。必要に応じて、セルロースや生成する微細化セルロース1の分散性を上げるために、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
続いて、懸濁液に物理的解繊処理を施して、セルロース原料を微細化する。物理的解繊処理の方法としては特に限定されないが、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などの機械的処理が挙げられる。このような物理的解繊処理を行うことで、懸濁液中のセルロースが微細化され、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロース1の分散液を得ることができる。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、得られる微細化セルロース1の数平均短軸径および数平均長軸径を調整することができる。
上記のようにして、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化された微細化セルロース1の分散体(微細化セルロース分散液)が得られる。得られた分散体は、そのまま、または希釈、濃縮等を行って、後述するO/W型エマルションの安定化剤として用いることができる。
また、微細化セルロース分散体は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、セルロースおよびpH調整に用いた成分以外の他の成分を含有してもよい。上記他の成分としては、特に限定されず、複合粒子5の用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、顔料、染料、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物等が挙げられる。
通常、微細化セルロース1は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であるため、本実施形態の製造方法に用いる微細化セルロース1としては、以下に示す範囲にある繊維形状のものが好ましい。すなわち、微細化セルロース1の形状としては、繊維状であることが好ましい。また、繊維状の微細化セルロース1は、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下であればよく、好ましくは2nm以上500nm以下であればよい。ここで、数平均短軸径が1nm未満では高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造をとることができず、エマルションの安定化と、エマルションを鋳型とした重合反応とを実施することができない。一方、1000nmを超えると、エマルションを安定化させるにはサイズが大きくなり過ぎるため、得られる複合粒子5のサイズや形状を制御することが困難となる。また、数平均長軸径においては特に制限はないが、好ましくは数平均短軸径の5倍以上であればよい。数平均長軸径が数平均短軸径の5倍未満であると、複合粒子5のサイズや形状を十分に制御することができないために好ましくない。
なお、微細化セルロース繊維の数平均短軸径は、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。一方、微細化セルロース繊維の数平均長軸径は、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求められる。
微細化セルロース1の原料として用いることができるセルロースの種類や結晶構造も特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。さらには、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースも用いることができる。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ、など、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることができる。精製および微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
さらに微細化セルロース原料は化学改質されていることが好ましい。より具体的には、微細化セルロース原料の結晶表面にイオン性官能基が導入されていることが好ましい。セルロース結晶表面にイオン性官能基が導入されていることによって浸透圧効果でセルロース結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化が進行しやすくなるためである。
セルロースの結晶表面に導入されるイオン性官能基の種類や導入方法は特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基が好ましい。
セルロースの繊維表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行ってもよい。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。さらには、水系の比較的温和な条件で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPOをはじめとするN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。カルボキシ基導入部位の選択性および環境負荷低減のためにはN−オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。
ここで、N−オキシル化合物としては、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシラジカル)、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、等が挙げられる。そのなかでも、反応性が高いTEMPOが好ましい。N−オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01〜5.0質量%程度である。
N−オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば木材系天然セルロースを水中に分散させ、N−オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N−オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N−オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、上記オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
共酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。上記共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1〜200質量%程度である。
また、N−オキシル化合物および共酸化剤とともに、臭化物およびヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。このような化合物としては、臭化ナトリウムまたは臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1〜50質量%程度である。
酸化反応の反応温度は、4〜80℃が好ましく、10〜70℃がより好ましい。4℃未満であると、試薬の反応性が低下し反応時間が長くなってしまう。80℃を超えると副反応が促進して試料が低分子化して高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造が崩壊し、O/W型エマルションの安定化剤として用いることができない。
また、酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分〜5時間程度である。
酸化反応時の反応系のpHは特に限定されないが、9〜11が好ましい。pHが9以上であると反応を効率良く進めることができる。pHが11を超えると副反応が進行し、試料の分解が促進されてしまうおそれがある。また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9〜11に保つことが好ましい。反応系のpHを9〜11に保つ方法としては、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
N−オキシル化合物による酸化反応は、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上記の範囲内に保つことが好ましい。添加するアルコールとしては、反応をすばやく終了させるためメタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性などから、エタノールが特に好ましい。
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよいが、N−オキシル化合物等の触媒、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。酸化セルロースの回収は、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。酸化セルロースの洗浄に用いる洗浄液としては純水が好ましい。
得られたTEMPO酸化セルロースに対し解繊処理を行うと、3nmの均一な繊維幅を有するセルロースシングルナノファイバー(CSNF)が得られる。CSNFを複合粒子5の微細化セルロース1の原料として用いると、その均一な構造に由来して、得られるO/W型エマルションの粒径も均一になりやすい。
以上のように、本実施形態で用いられるCSNFは、セルロース原料を酸化する工程と、微細化して分散液化する工程と、によって得ることができる。また、CSNFに導入するカルボキシ基の含有量としては、0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましく、この範囲であれば塗工用組成物として用いた際、複合粒子の高い分散安定性が発揮される。ここで、カルボキシ基量が0.1mmol/g未満であると、セルロースミクロフィブリル間に浸透圧効果による溶媒進入作用が働かないため、セルロースを微細化して均一に分散させることは難しい。また、5.0mmol/gを超えると化学処理に伴う副反応によりセルロースミクロフィブリルが低分子化するため、高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造をとることができず、O/W型エマルションの安定化剤として用いることができない。
(第2工程)
第2工程は、微細化セルロースの分散液中において重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2の表面を微細化セルロース1で被覆して、エマルションとして安定化させる工程である。
具体的には第1工程で得られた微細化セルロース分散液に重合性モノマーおよび/または溶融ポリマーを添加し、さらに前記重合性モノマーおよび/または溶融ポリマーを微細化セルロース分散液中に液滴2として分散させ、さらに前記液滴2の表面を微細化セルロース1によって被覆し、微細化セルロース1によって安定化されたO/W型エマルションを作製する工程である。
O/W型エマルションを作製する方法としては特に限定されないが、一般的な乳化処理、例えば各種ホモジナイザー処理や機械攪拌処理を用いることができ、具体的には高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、万能ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ペイントシェイカーなどの機械的処理が挙げられる。また、複数の機械的処理を組み合わせて用いてもよい。
例えば超音波ホモジナイザーを用いる場合、第1工程にて得られた微細化セルロース分散液に対し重合性モノマーおよび/または溶融ポリマーを添加して混合溶媒とし、混合溶媒に超音波ホモジナイザーの先端を挿入して超音波処理を実施する。超音波ホモジナイザーの処理条件としては特に限定されないが、例えば周波数は20kHz以上が一般的であり、出力は10W/cm2以上が一般的である。処理時間についても特に限定されないが、通常10秒から1時間程度である。
上記超音波処理により、微細化セルロース分散液中に重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2が分散してエマルション化が進行し、さらにモノマー液滴2と微細化セルロース分散液の液/液界面に選択的に微細化セルロース1が吸着することで、前記液滴2が微細化セルロース1で被覆されO/W型エマルションとして安定した構造を形成する。このように、液/液界面に固体物が吸着して安定化したエマルションは、学術的には「ピッカリングエマルション」と呼称されている。前述のように微細化セルロース繊維によってピッカリングエマルションが形成されるメカニズムは定かではないが、セルロースはその分子構造において水酸基に由来する親水性サイトと炭化水素基に由来する疎水性サイトとを有することから両親媒性を示すため、両親媒性に由来して疎水性モノマーと親水性溶媒の液/液界面に吸着すると考えられる。
O/W型エマルション構造は、光学顕微鏡観察により確認することができる。O/W型エマルションの粒径サイズは特に限定されないが、通常0.1μm〜1000μm程度である。
O/W型エマルション構造において、液滴2の表層に形成された微細化セルロース層の厚みは特に限定されないが、通常3nm〜1000nm程度である。微細化セルロース層の厚みは、例えばクライオTEMを用いて計測することができる。
第2工程で用いることができる重合性モノマーの種類としては、ポリマーの単量体であって、その構造中に重合性の官能基を有し、常温で液体であって、水と相溶せず、重合反応によってポリマー(高分子重合体)を形成できるものであれば特に限定されない。重合性モノマーは少なくとも一つの重合性官能基を有する。重合性官能基を一つ有する重合性モノマーは単官能モノマーとも称する。また、重合性官能基を二つ以上有する重合性モノマーは多官能モノマーとも称する。重合性モノマーの種類としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマーなどが挙げられる。また、エポキシ基やオキセタン構造などの環状エーテル構造を有する重合性モノマー(例えばε−カプロラクトン等、)を用いることも可能である。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」の表記は、「アクリル」と「メタクリル」の両方を含むことを示し、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」と「メタクリレート」との両方を含むことを示す。
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−アダマンタンおよびアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ−ルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2−ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε−カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
単官能のビニル系モノマーとしては例えば、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、芳香族ビニル系、特にスチレンおよびスチレン系モノマーなど、常温で水と相溶しない液体が好ましい。
単官能ビニル系モノマーのうち(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
また、単官能芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロペニルトルエン、イソブチルトルエン、tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレンなどが挙げられる。
多官能のビニル系モノマーとしてはジビニルベンゼンなどの不飽和結合を有する多官能基が挙げられる。常温で水と相溶しない液体が好ましい。
例えば多官能性ビニル系モノマーとしては、具体的には、(1)ジビニルベンゼン、1,2,4−トリビニルベンゼン、1,3,5−トリビニルベンゼン等のジビニル類、(2)エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−プロピレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート類、(3)トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート類、(4)エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ジプロピレングリコールジアクリレート、1,4−ジブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキシレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2−ビス(4−アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート類、(5)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチロールエタントリアクリレート等のトリアクリレート類、(6)テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のテトラアクリレート類、(7)その他に、例えばテトラメチレンビス(エチルフマレート)、ヘキサメチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートが挙げられる。
例えば官能性スチレン系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。
また、これらの他にも重合性の官能基を少なくとも1つ以上有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができ、特にその材料を限定しない。
上記重合性モノマーは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
第2工程において用いることができる微細化セルロース繊維分散液と重合性モノマーの重量比については特に限定されないが、微細化セルロース繊維分散液100質量部に対し、重合性モノマーが1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。重合性モノマーが1質量部未満となると複合粒子5の収量が低下するため好ましくなく、50質量部を超えると重合性モノマー液滴2を微細化セルロース1で均一に被覆することが困難となり好ましくない。
また、重合性モノマーには予め重合開始剤が含まれていてもよい。一般的な重合開始剤としては有機過酸化物やアゾ重合開始剤などのラジカル開始剤が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えばパーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステルなどが挙げられる。
アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル−2,2−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2−アゾビス(2−メチルブチルアミド)、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビス(2−メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、2,2−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
第2工程において予め重合開始剤が含まれた状態の重合性モノマーを用いれば、O/W型エマルションを形成した際にエマルション粒子内部の重合性モノマー液滴2中に重合開始剤が含まれるため、後述の第3工程においてエマルション内部のモノマーを重合させて固体化する際に重合反応が進行しやすくなる。
第2工程において用いることができる重合性モノマーと重合開始剤の重量比については特に限定されないが、通常、重合性モノマー100質量部に対し、重合性開始剤が0.1質量部以上であることが好ましい。重合性モノマーが0.1質量部未満となると重合反応が充分に進行せずに複合粒子5の収量が低下するため好ましくない。
また、第2工程で用いることができる液滴2としては、既存ポリマーを各種溶媒に溶解させた、溶解ポリマー液滴を用いることも可能である。例えば既存のポリマーを微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒で溶解させて溶解液とし、該溶解液を前述のように超音波ホモジナイザー等による機械処理を加えながらCNF分散液に添加することによって、CNF分散液中でポリマー液滴2をO/W型エマルションとして安定化することが好ましい。
具体的なポリマーとしては、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースアセテート誘導体、キチン、キトサン等の多糖類、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル類、ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリヒドロキシブチレート類、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等の脂肪族ポリエステル類、ポリアミノ酸類、ポリエステルポリカーボネート類、ロジン等の天然樹脂等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
また、前記ポリマーを溶解させる溶媒としては、微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒が好ましい。水への溶解度が高い場合、溶解ポリマー液滴層から水相へ溶媒が容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる。一方で、水への溶解性がない溶媒の場合、溶解ポリマー液滴相から溶媒が微細化セルロース分散液相に移動することができないため、複合粒子を得ることができない。具体的には、20℃における水1Lへの溶解量が500g以下が好ましく、300g以下であることがより好ましい。また、前記溶媒は沸点が90℃以下が好ましい。沸点が90℃より高い場合、前記溶媒よりも先に微細化セルロース分散液が蒸発してしまい複合粒子を得ることができない。用いることができる溶媒として、具体的にはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが挙げられる。
さらに、第2工程においては溶媒を用いずにポリマーそのものを溶融させた溶融ポリマー液滴2を用いることも可能である。例えば常温で固体のポリマーを溶融させて液体とし、該溶融液を前述のように超音波ホモジナイザー等による機械処理を加えながら、ポリマーの溶融状態を維持可能な温度にまで加熱されたCNF分散液に添加することによって、CNF分散液中でポリマー液滴2をO/W型エマルションとして安定化することが好ましい。
第2工程で用いることができる溶融ポリマー液滴としては、微細化セルロース水分散液への溶解性が低いものが好ましい。水への溶解度が高い場合、溶融ポリマー液滴層から水相へポリマーが容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる。また、前記ポリマー液滴は沸点が90℃以下であるものが好ましい。沸点が90℃より高い場合、微細化セルロース分散液中の水が蒸発してしまい、エマルション化が困難となる。なお、溶融ポリマー液滴としては、ポリマー構造を有しているか否かに限らず、室温において固体であり、加熱等において流動性のある液体として存在するものであれば用いることができる。具体的には、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ステアリルステアレート、ステアリン酸バチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸セチル、ジステアリン酸エチレングリコール、ベヘニルアルコール、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、炭化水素ワックス、脂肪酸アルキルエステル、ポリオール脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとワックスの混合物、脂肪酸エステルの混合物、グリセリンモノパルミテート(/ステアリン酸モノグリセライド)、グリセリンモノ・ジステアレート(/グリセリンステアレート)、グリセリンモノアセトモノステアレート(/グリセリン脂肪酸エステル)、コハク酸脂肪族モノグリセライド(/グリセリン脂肪酸エステル)、クエン酸飽和脂肪族モノグリセライド、ソルビタンモノステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタントリベヘネート、プロピレングリコールモノベヘネート(/プロピレングリコール脂肪酸エステル)、アジピン酸ペンタエリスリトールポリマーのステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ステアリルシトレート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、超淡色ロジン、ロジン含有ジオール、超淡色ロジン金属塩、水素化石油樹脂、ロジンエステル、水素化ロジンエステル、特殊ロジンエステル、ノボラック、結晶性ポリαオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル類、ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリヒドロキシブチレート類、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等の脂肪族ポリエステル類、ポリアミノ酸類、ポリエステルポリカーボネート類、ロジン等の天然樹脂等を用いることができる。
前記重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴には、機能性を有する顔料を含むことが好ましい。含まれる顔料としては一種類でもよく、異なる2種類以上の顔料を含んでも構わない。顔料に種類には特に限定はなく、防錆顔料、白色顔料、体質顔料、着色顔料、真珠顔料などを用いることができる。顔料の具体例としては、クロム酸亜鉛、亜鉛丹、リン酸亜鉛などの防錆顔料や、酸化チタン、塩基性硫酸鉛、塩基性ケイ酸鉛、亜鉛華、硫化亜鉛、三酸化アンチモン、カルシウム複合物等の白色顔料や、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナホワイト、シリカ、珪藻土、カオリン、タルク、有機ベントナラ、ホワイトカーボン等の体質顔料や、カーボンブラック、黄鉛、モリブデン赤、ベンガラ、黄色酸化鉄、酸化チタン、鉄黒、黄土、シェナ、アンバー、緑土、マルスバイオレッド、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、カドミボンイエロー、群青、紺青等の着色顔料や、マイカ、塩基性炭酸塩、ジルコニア、魚鱗箔などが挙げられる。その他、中空シリカゲルやセラミックから成る断熱・耐熱顔料、シリコンからなる潤滑性顔料、プラチナや銀から成る抗菌顔料、ダイヤモンドから成る熱伝導顔料、脱臭ゼオライトから成る脱臭顔料、アルミナやマグネタ糸から成る熱輻射顔料、セラミックスから成る耐磨耗顔料、アルミ等の金属から成る高輝度顔料などの特定の機能性顔料などが挙げられる。
複合粒子5に含まれる顔料の含有量としては、複合粒子全体に対する重量比率が5%以上80%以下であることが好ましい。顔料の割合が少なすぎると、顔料の機能性を十分得にくく、多すぎると顔料が複合粒子から脱落してしまったり、複合粒子の形態が十分に維持できなくなったりする可能性がある。
重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2に予め顔料が含まれることにより、後述の第3工程においてエマルション内部のモノマーを重合させて固体化されることにより顔料が複合粒子5内部で固定化される。このため、以降の工程において顔料が複合粒子から脱落したり、顔料同士が凝集して機能発現を低下させたりすることを抑制することができ、目的に応じた機能発現が可能となる。
重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴2に顔料を含有させる方法としては特に限定されないが、重合性モノマーを用いる場合、重合性モノマーに顔料を直接混合させてもよく、予め顔料を溶媒に分散させた後に混合させても良い。既存ポリマーを各種溶媒を用いて溶解させた、溶解ポリマー液滴を用いる場合、顔料を予めポリマーを溶解させる溶媒中に分散させておいてもよく、ポリマーを溶解させる溶媒と異なる溶媒に分散させた後に混合してもよく、溶解ポリマー中に混合してよい。また、溶媒を用いずにポリマーそのものを溶融させた溶融ポリマー液滴を用いる場合、顔料を予め溶媒中に分散させておき溶融ポリマー液滴に混合してもよく、溶媒を用いずに溶融ポリマー液滴に直接混合させてもよい。いずれの溶媒を用いる場合にも、ポリマー粒子3内部から除去されることが好ましい。
また、前記重合性モノマー液滴および/またはポリマー液滴には予め重合開始剤以外の他の機能性成分が含まれていてもよい。具体的には磁性体、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、等が挙げられる。重合性モノマーに、予め重合開始剤以外の他の機能性成分が含まれている場合、複合粒子5として形成した際の粒子内部に上述の機能性成分を含有させることができ、用途に応じた機能発現が可能となる。
さらに、前記重合性モノマーおよび溶解・溶融ポリマーを併用して用いて液滴2を形成し、エマルション化することも可能である。また、本複合粒子のコアとなるポリマー種として生分解性樹脂を選択した場合、得られる複合粒子は内部コアの生分解性樹脂および外部シェルのCNFで構成されることにより、生分解性材料を有する環境調和性の高い複合粒子として提供することも可能である。
(第3工程)
第3工程は、前記重合性モノマー液滴2および/またはポリマー液滴2を固体化して微細化セルロース1でポリマー粒子3が被覆された複合粒子5を得る工程である。
前記重合性モノマー液滴2を固体化する方法については特に限定されず、用いた重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜選択可能であるが、例えば懸濁重合法が挙げられる。
具体的な懸濁重合の方法についても特に限定されず、公知の方法を用いて実施することができる。例えば第2工程で作製された、重合開始剤を含むモノマー液滴2が微細化セルロース1によって被覆され安定化したO/W型エマルションを攪拌しながら加熱することによって実施することができる。攪拌の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、具体的にはディスパーや攪拌子を用いることができる。また、攪拌せずに加熱処理のみでもよい。また、加熱時の温度条件については重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、20度以上150度以下が好ましい。20度未満であると重合の反応速度が低下するため好ましくなく、150度を超えると微細化セルロース1が変性する可能性があるため好ましくない。重合反応に供する時間は重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、通常1時間〜24時間程度である。また、重合反応は電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施してもよい。また、電磁波以外にも電子線などの粒子線を用いても良い。重合反応において酸素阻害が生じる場合、反応系内の雰囲気を不活性ガスに置換したり、微細セルロース1の水分散液中の酸素を除去したりして用いても良い。
また、前記ポリマー液滴2を固体化する方法については特に限定されない。例えば溶媒を用いた溶解ポリマー液滴を用いる場合、CNF分散液中でO/W型エマルションを形成した後、前述のように水への溶解性の低い溶媒が経時的に水相へと拡散して行くことで、溶解ポリマーが析出して粒子として固体化させることができる。また、例えばポリマーを加熱して液体化した溶融ポリマー液滴を用いる場合、CNF分散液中でO/W型エマルションを形成した後、該エマルションを冷却することにより溶融ポリマー液滴を粒子として固体化することができる。
上述の工程を経て、ポリマー粒子3が微細化セルロース1によって被覆された球状の複合粒子5を作製することができる。
なお、液滴2の固体化処理終了直後の状態は、複合粒子5の分散液中に多量の水と複合粒子5の被覆層に形成に寄与していない遊離した微細化セルロース1が混在した状態となっている。そのため、作製した複合粒子5を回収・精製する必要があり、回収・精製方法としては、遠心分離による洗浄またはろ過洗浄が好ましい。遠心分離による洗浄方法としては公知の方法を用いることができ、具体的には遠心分離によって複合粒子5を沈降させて上澄みを除去し、水・メタノール混合溶媒に再分散する操作を繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を除去して複合粒子5を回収することができる。ろ過洗浄についても公知の方法を用いることができ、例えば孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて水とメタノールで吸引ろ過を繰り返し、最終的にメンブレンフィルター上に残留したペーストからさらに残留溶媒を除去して複合粒子5を回収することができる。
残留溶媒の除去方法は特に限定されず、風乾やオーブンなどの簡便な熱乾燥にて実施することが可能である。こうして得られた複合粒子5を含む乾燥固形物は上述のように膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。
得られた複合粒子5から成る粉体は、表面に結合した微細化セルロース1に由来した特性を有している。そのため、公知の種々のセルロース改質方法を用いて改質しても構わない。例えば、微細化セルロースの結晶表面にイオン性官能基を有する場合、末端アミノ化ポリエチレングリコール鎖を導入する方法や、4級アルキルアンモニウム塩を導入する方法を用いて疎水化変換することが可能である。このように疎水化処理することにより、クロロホルムやトルエンなどの低極性有機溶媒中でも高い分散安定性を示す。
なお、本発明における塗工用組成物の形態は、前記複合粒子5を含む組成物であれば特に限定されるものではない。
<塗工用組成物の製造方法>
本実施形態の塗工用組成物としては、前記複合粒子5を含む液状またはペースト状の塗工用組成物として提供することができる。本実施形態の複合粒子5を含む塗工用組成物は、複合粒子5のほか、樹脂と分散媒を含むことが好ましい。
塗工用組成物に含まれる樹脂としては、なんら制限はなく、例えばアクリル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、ブロックイソシアネート、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられる。また、これらのディスパージョン、エマルション、ミクロゲル等の形態を有していても構わない。さらに、重合性モノマーや重合性オリゴマーなど重合体を形成しうる化合物や架橋剤等により架橋構造を形成しうる化合物を含んでも構わない。
分散媒としては、複合粒子5が凝集したり変質したりしない限り、任意の溶媒を用いることができる。例えば、水、メタノールやエタノール等のアルコール類、酢酸やプロピオン酸等の炭化水素類、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトンやMEKなどのケトン類、塩化メチレンやクロロホルムなどのハロゲン類などが挙げられ、これらは単独でもよく、若しくは二種類以上併せて用いてもよい。
本発明の塗工用組成物には、必要に応じて本発明の効果を妨げない範囲において任意の成分を含むことができる。
任意の成分としては、粘度調整剤、防腐剤、香料、可塑剤、消泡剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、硬化剤、触媒、界面活性剤、帯電防止剤、湿潤剤、皮張り防止剤、レべリング剤などが挙げられる。
塗工用組成物における複合粒子5の含有量としては、塗工用組成物全体に対する重量比率が5%以上50%以下が好ましい。含有量が少なすぎると複合粒子を混合する効果が発揮されず、多すぎると塗膜から複合粒子の脱落が発生する可能性がある。
本塗工用組成物の塗工方法としては、任意の方法を用いることができる。例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、ディップコーター、スプレーコーター、電着、インクジェット印刷等が挙げられる。
塗工用組成物を塗工する基材としては、特に制約はなく、例えば樹脂フィルム、ガラス、セメント、紙、メッシュ、不織布、布、セメント、皮革等が挙げられる。
(本実施形態の効果)
本実施形態に係る複合粒子5を含む塗工用組成物は、複合粒子5の表面の微細化セルロース1に由来して良好な分散安定性を有する、新規な塗工用組成物を提供することができる。
また、良好な分散安定性に起因して複合粒子及び顔料が均一に分布した塗膜を提供することができる。
また、本実施形態に係る複合粒子5は、様々な重合性モノマーおよび/またはポリマーを用いて形成できるので、各種の分野における機能性材料として用いられるマイクロサイズオーダーのマイクロ粒子としても利用できる。複合粒子5は、例えば、充填材、スペーサー、研磨剤等に利用でき、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、染料等の機能性材料を取込ませることも可能である。本実施形態によれば、分散安定性に優れたマイクロ粒子を提供できる。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、重量%(w/w%)を示す。
<実施例1>
(第1工程:セルロースナノファイバー分散液を得る工程)
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPOを0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロースの重量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.50mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプを得た。
(酸化パルプのカルボキシ基量測定)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプおよび再酸化パルプを固形分重量で0.1g量りとり、1%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを2.5とした。その後0.5M水酸化ナトリウム水溶液を用いた電導度滴定法により、カルボキシ基量(mmol/g)を求めた。結果は1.6mmol/gであった。
(酸化パルプの解繊処理)
上記TEMPO酸化で得た酸化パルプ1gを99gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間微細化処理し、CSNF濃度1%のCSNF水分散液を得た。CSNF分散液を光路長1cmの石英セルに入れ、分光光度計(島津製作所社製、「UV−3600」)を用いて分光透過スペクトルの測定を行った結果を図2に示す。図2から明らかなように、CSNF水分散液は高い透明性を示した。また、CSNF水分散液に含まれるCSNFの数平均短軸径は3nm、数平均長軸径は1110nmであった。さらに、レオメーターを用いて定常粘弾性測定を行った結果を図3に示す。図3から明らかなように、CSNF分散液はチキソトロピック性を示した。
(第2工程:O/W型エマルションを作製する工程)
次に、重合性モノマーであるジビニルベンゼン(以下、DVBとも称する。)10gに対し、重合開始剤である2、2−アゾビス−2、4−ジメチルバレロニトリル(以下、ADVNとも称する。)を1g溶解させた。さらに顔料として酸化チタン(石原産業社製、TTO−55(C))5gを加えてスターラーで撹拌した。得られたDVB/ADVN/酸化チタン混合溶液全量を、CSNF濃度1%のCSNF分散液40gに対し添加したところ、DVB/ADVN/酸化チタン混合溶液とCSNF分散液はそれぞれ透明性の高い状態で2層に分離した。
次に、上記2層分離した状態の混合液における上層の液面から超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、1〜数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
(第3工程:重合反応によりCNFで被覆された複合粒子5を得る工程)
O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理後に上記分散液を室温まで冷却した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。得られた分散液に対し、遠心力75,000gで5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水とメタノールで繰り返し洗浄した。こうして得られた精製・回収物を1%濃度で再分散させ、粒度分布計(NANOTRAC UPA−EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価したところ平均粒径2.1μmであった。次に精製・回収物を風乾し、さらに室温25度にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、肌理細やかな乾燥粉体(複合粒子5)を得た。
乾燥粉体として得た複合粒子5と水性樹脂分散体としてウレタンディスパージョン(日華化学社製、HW171、固形分濃度35%)を加え、重量比にて、複合粒子:樹脂:分散媒=9:32:59となるように調製し、スターラーで撹拌して塗工用組成物を得た。分散媒としては、水性樹脂分散体の分散媒である水に加え、必要に応じて水を添加した。
得られた塗工用組成物をバーコーターを用いて75μmのPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)に塗工し、室温で5日間静置させて乾燥させ、50μm厚の塗膜を得た。
(走査型電子顕微鏡による形状観察)
得られた乾燥粉体を走査型電子顕微鏡にて観察した結果を図4および図5に示す。図4から明らかなように、O/W型エマルション液滴を鋳型として重合反応を実施したことにより、エマルション液滴の形状に由来した、球状の複合粒子5が無数に形成していることが確認され、さらに図5に示されるように、その表面は幅数nmのCNFによって均一に被覆されていることが確認された。また、ろ過洗浄によって繰り返し洗浄したにも拘らず、複合粒子5の表面は等しく均一にCNF1によって被覆されていることから、本発明の複合粒子5において、複合粒子内部のモノマーとCNFは結合しており、不可分の状態にあることが示された。
(塗工用組成物中の顔料の分散安定性評価)
得られた塗工用組成物をスクリュー瓶管に取り、3時間静置させた際に全量の高さに対して複合粒子が存在する層の高さを測り、「分散安定性=複合粒子が存在する層の高さ/全量の高さ×100」として%で示した。実施例1では、24時間静置後も複合粒子の分離は見られず、分散安定性は100%であった。
(塗工用組成物を用いた塗膜の均一性)
得られた塗膜について、複合粒子や顔料の分布の均一性を◎、○、△で目視評価した。◎:複合粒子や顔料が均一に分布している。○:複合粒子や顔料の一部が凝集している。△:複合粒子や顔料の大部分が凝集している。
<実施例2>
実施例1において、TEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた特許文献2に従いカルボキシメチル化(以下、CM化とも称する。)処理を行って得られたCM化CNF分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で複合粒子5および塗工用組成物を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例3>
実施例1において、TEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた非特許文献1に従いリン酸エステル化処理を行って得られたリン酸エステル化CNF分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で複合粒子5および塗工用組成物を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例4>
実施例1において、DVBの代わりにジエチレングリコールジアクリレート(日立化成社製、FA−222A)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で複合粒子5および塗工用組成物を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例5>
実施例1の第2工程において、DVBと重合開始剤の代わりに、ポリカプロラクトン(UCC社製、TONE)の10%アセトン分散液を用いた。第3工程において、O/W型エマルション分散液をウォーターバス中で処理する代わりに、エマルション分散液の10倍量の水に投入して分散媒であるアセトンの拡散と溶解状態のポリカプロラクトンの固体化を促して複合体を形成した以外は、実施例1と同様の条件で複合粒子5および塗工用組成物を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例6>
実施例5の第2工程において、ポリカプロラクトンのアセトン分散液を用いず、予め80℃に加熱したCSNF分散液中で溶融させたポリカプロラクトンを用いたこと以外は、実施例5と同様の条件で複合粒子5および塗工用組成物を作製し、同様に各種評価を実施した。
<比較例1>
実施例1の第2工程から第3工程に至る複合粒子5形成過程において、顔料である酸化チタンを混合せず、塗工用組成物に直接混合した以外は、実施例1と同様の条件で複合粒子5および塗工用組成物を作製し、同様に各種評価を実施した。
<比較例2>
実施例1において、TEMPO酸化で得た酸化パルプを用いたCSNF分散液の代わりに機械処理によって得られた機械解繊CNF(スギノマシン社製、BiNFi−s WFo)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で複合粒子5および塗工用組成物を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例7>
実施例1の第3工程を経た複合粒子5について、先行技術文献として挙げた特許文献2に従い複合粒子5に被覆された微細セルロースを水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液で処理して疎水化した。塗工用組成物の調製として疎水化処理した複合粒子をウレタンディスパージョンに代えて光硬化性樹脂(新中村工業社製、UA122P)と光硬化性樹脂に対して5%重量相当の光重合開始剤(BASF社製、イルガキュア184)を加え、分散媒である水に代えてメチルエチルケトン(MEK)を用いた。さらに得られた塗工用組成物を塗工した後、室温乾燥させずに塗膜を100℃のオーブンにて2分間乾燥させた後、高圧水銀灯により250mJ/cm2の紫外線を照射した他は、実施例1と同様の条件で複合粒子5および塗工用組成物を作製し、同様に各種評価を実施した。
<実施例8>
実施例7の疎水化処理を実施しなかった他は、実施例7と同様の条件で複合粒子5および塗工用組成物を作製し、同様に各種評価を実施した。
<比較例3>
実施例7の第2工程から第3工程に至る複合粒子5形成過程において、顔料である酸化チタンを混合せず、塗工用組成物に直接混合した以外は、実施例7と同様の条件で複合粒子5および塗工用組成物を作製し、同様に各種評価を実施した。
以下の実施例および比較例の組成について表1にまとめ、評価結果について表2にまとめて掲載した。
表2の実施例1〜6の評価結果において明らかなように、複合粒子5を構成する液滴2の組成や微細化セルロース1の種類に依らず、塗工用組成物における複合粒子および顔料は高い分散安定性を示した。さらに、実施例7の評価結果において明らかなように、複合粒子の表面に結合した親水性のCNFを疎水化することにより疎水性の塗液中において分散安定性が向上することが示された。一方、顔料を複合粒子に含有せず、塗工用組成物に直接加えた比較例1および3においては塗液の状態で顔料が凝集し、塗工後においても目視で凝集が確認された。また、複合粒子形成において粗大なCNFを用いた比較例2においては、粉体化した複合粒子5が凝集しており、均一な塗液を調製することが出来なかった。以上の結果より、本発明の複合粒子5を含む塗液が、塗工用組成物として有用であることが示された。