JP2023163358A - 蛍光色素吸着繊維、蛍光色素吸着複合粒子、成形体、蛍光色素吸着繊維の製造方法及び蛍光色素吸着複合粒子の製造方法 - Google Patents

蛍光色素吸着繊維、蛍光色素吸着複合粒子、成形体、蛍光色素吸着繊維の製造方法及び蛍光色素吸着複合粒子の製造方法 Download PDF

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佑美 大林
Yumi OBAYASHI
靖史 薮原
Yasushi Yabuhara
由美 中山
Yumi Nakayama
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【課題】蛍光色素は、会合や凝集により安定した蛍光発光を示すことができず、蛍光発光波長が変化することがある。また、溶媒への溶解性によっては使用できない場合がある。上記事情を踏まえ、本発明は、安定した蛍光発光を有する蛍光色素吸着繊維、蛍光色素吸着複合粒子、成形体、蛍光色素吸着繊維の製造方法及び蛍光色素吸着複合粒子の製造方法を目的とする。【解決手段】イオン性官能基を有するイオン変性繊維2と、蛍光色素3と、を有し、イオン性官能基2の全部又は一部が、蛍光色素3と結合する反応により変性されている、蛍光色素吸着繊維1。【選択図】図1

Description

本発明は、蛍光色素吸着繊維、蛍光色素吸着複合粒子、成形体、蛍光色素吸着繊維の製造方法及び蛍光色素吸着複合粒子の製造方法に関する。
蛍光色素は、免疫測定や偽造防止用途に使用される。
例えば、非特許文献1には、アクリジンオレンジを用いて癌細胞を染色し、蛍光分光光度法で核酸とアクリジンオレンジとの複合体の蛍光スペクトルを分析することが提案されている。
山片重房(1970)、アクリジンオレンジ染色細胞の螢光分光学的分析、日本臨床細胞学会雑誌、9巻、2号、p164-169
しかしながら、非特許文献1に記載の蛍光色素であるアクリジンオレンジは、単分子では短波長の緑色の蛍光発光を示すが、色素分子同士が会合すると長波長の赤色の発光を示す。このように、蛍光色素は、会合や凝集により安定した蛍光発光を示すことができず、蛍光発光波長が変化することがある。また、溶媒への溶解性によっては使用できない場合があった。
上記事情を踏まえ、本発明は、安定した蛍光発光を有する蛍光色素吸着繊維、蛍光色素吸着複合粒子、成形体、蛍光色素吸着繊維の製造方法及び蛍光色素吸着複合粒子の製造方法を目的とする。
さらに、本発明は、水に対する分散性をより高められる蛍光色素吸着複合粒子及び蛍光色素吸着複合粒子の製造方法をさらなる目的とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、蛍光色素をイオン変性繊維に吸着(結合)させた蛍光色素吸着繊維とすることにより、蛍光色素が安定的に蛍光発光できることを見出した。さらに、蛍光色素吸着繊維をコア粒子の表面に一体化させることで、液媒体に対する分散性を高められることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]イオン性官能基を有するイオン変性繊維と、
蛍光色素と、を有し、
前記イオン性官能基の全部又は一部が、前記蛍光色素と結合する反応により変性されている、蛍光色素吸着繊維。
[2]前記イオン性官能基の含有量が、蛍光色素吸着繊維の乾燥質量に対して0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下である、[1]に記載の蛍光色素吸着繊維。
[3]前記蛍光色素の結合量が、蛍光色素吸着繊維の乾燥質量に対して0.01mmol/g以上3.0mmol/g以下である、[1]又は[2]に記載の蛍光色素吸着繊維。
[4]前記イオン変性繊維における繊維が、セルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーから選ばれる1種以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の蛍光色素吸着繊維。
[5]前記イオン性官能基が、カルボキシ基、リン酸基及びスルホ基から選ばれる1種以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の蛍光色素吸着繊維。
[6]前記蛍光色素が、アニオン性の色素又はカチオン性の色素を有する、[1]~[5]のいずれかに記載の蛍光色素吸着繊維。
[7]前記蛍光色素が、シアニン骨格、キサンテン骨格、オキサジン骨格、アクリジン骨格、ジフェニルメタン骨格、チアゾール骨格、インドール骨格、エチジウム骨格及びプロピジウム骨格から選ばれる1種以上を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の蛍光色素吸着繊維。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の蛍光色素吸着繊維と、少なくとも1種のポリマーを含むコア粒子と、を有する蛍光色素吸着複合粒子であって、
前記蛍光色素吸着繊維が、前記コア粒子の表面に結合されている、蛍光色素吸着複合粒子。
[9]イオン性官能基の含有量が、蛍光色素吸着複合粒子の乾燥質量に対して0.01μmol/g以上100μmol/g以下である、[8]に記載の蛍光色素吸着複合粒子。
[10]固形分率が80質量%以上である、[8]又は[9]に記載の蛍光色素吸着複合粒子。
[11]蛍光色素の結合量が、蛍光色素吸着複合粒子の乾燥質量に対して0.1μmol/g以上100μmol/g以下である、[8]~[10]のいずれかに記載の蛍光色素吸着複合粒子。
[12]前記ポリマーが少なくとも一部にベンゼン環構造を有する、[8]~[11]のいずれかに記載の蛍光色素吸着複合粒子。
[13]前記ポリマーが生分解性ポリマーである、[8]~[12]のいずれかに記載の蛍光色素吸着複合粒子。
[14]平均粒径が0.05μm以上1000μm以下である、[8]~[13]のいずれかに記載の蛍光色素吸着複合粒子。
[15]前記コア粒子が蛍光発光を有する、[8]~[14]のいずれかに記載の蛍光色素吸着複合粒子。
[16][1]~[7]のいずれかに記載の蛍光色素吸着繊維及び[8]~[15]のいずれかに記載の蛍光色素吸着複合粒子から選ばれる1種以上を含む、成形体。
[17]溶媒中で繊維原料にイオン性官能基を導入してイオン変性繊維分散液を得る工程と、
前記イオン変性繊維分散液に蛍光色素を含む蛍光色素含有溶液を添加して前記蛍光色素を前記イオン性官能基の全部又は一部に結合させる工程と、
を有する、蛍光色素吸着繊維の製造方法。
[18]溶媒中で繊維原料にイオン性官能基を導入してイオン変性繊維分散液を得る工程と、
前記イオン変性繊維分散液にコア粒子前駆体を含む液滴を添加し、前記液滴の表面をイオン変性繊維で被覆する工程と、
前記コア粒子前駆体を固体化して、コア粒子の表面を前記イオン変性繊維で被覆した複合粒子を得る工程と、
前記複合粒子に蛍光色素を含む蛍光色素含有溶液を含浸させて、前記複合粒子に前記蛍光色素を結合させる工程と、
を有する、蛍光色素吸着複合粒子の製造方法。
本発明の蛍光色素吸着繊維、蛍光色素吸着複合粒子、成形体、蛍光色素吸着繊維の製造方法及び蛍光色素吸着複合粒子の製造方法によれば、安定した蛍光発光を有する。
本発明の一実施形態に係る蛍光色素吸着繊維を示す概略図である。 本発明の一実施形態に係る蛍光色素吸着繊維の製造方法を説明する図である。 本発明の一実施形態に係る蛍光色素吸着複合粒子を示す概略図である。 本発明の一実施形態に係る蛍光色素吸着複合粒子の製造方法を説明する図である。 実施例1で得られたセルロースナノファイバーの水分散液について分光透過スペクトルを測定した結果を示すグラフである。 実施例1で得られたセルロースナノファイバーの水分散液に対し、レオメーターを用いて定常粘弾性測定を行った結果を示すグラフである。 実施例1で得られた複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果を示す図(SEM画像)である。 実施例1で得られた複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって高倍率で観察した結果を示す図(SEM画像)である。 実施例1で得られた蛍光色素吸着複合粒子を蛍光顕微鏡にて観察した結果を示す図である。 比較例10の粒子を蛍光顕微鏡にて観察した結果を示す図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下に説明する各図において、相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
≪蛍光色素吸着繊維≫
本発明の蛍光色素吸着繊維は、イオン性官能基を有するイオン変性繊維と、蛍光色素と、を有し、イオン性官能基の全部又は一部が、前記蛍光色素と結合する反応により変性されている。
蛍光色素は、イオン変性繊維のイオン性官能基と対となって、イオン結合によって吸着している。イオン性官能基のうち、蛍光色素が吸着している官能基は、蛍光色素と結合する反応により変性されている。
ここで、「変性されている」とは、イオン性官能基が電気的に中性になっていることをいう。
図1に示すように、本実施形態の蛍光色素吸着繊維1は、イオン変性繊維2のイオン性官能基に蛍光色素3が吸着している。
<イオン変性繊維>
本実施形態のイオン変性繊維2は、イオン性官能基を有する繊維である。イオン変性繊維2の材質は、特に限定されず、有機物であってもよく、無機物であってもよい。有機物としては、有機高分子(有機ポリマー)を用いることができ、有機ポリマーとしては、例えば、アクリル系ポリマー、エポキシ系ポリマー、エステル系ポリマー、アミノ系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素系ポリマー、ウレタン系ポリマー等が挙げられる。
有機高分子は、天然高分子であってもよく、合成高分子であってもよい。
天然高分子としては、例えば、植物が生産する多糖(セルロース、デンプン、アルギン酸等)、動物が生産する多糖(キチン、キトサン、ヒアルロン酸等)、タンパク質(コラーゲン、ゼラチン、アルブミン等)、微生物が生産するポリエステル(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート))、多糖(ヒアルロン酸等)等が挙げられる。
合成高分子としては、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリオール、ポリカーボネート等が挙げられる。
脂肪酸ポリエステルとしては、例えば、グリコール-ジカルボン酸重縮合系(ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等)、ポリラクチド類(ポリグリコール酸、ポリ乳酸等)、ポリラクトン類(β-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等)、その他(ポリブチレンテレフタレート、アジペート等)が挙げられる。
ポリオールとしては、例えば、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
ポリカーボネートとしては、例えば、ポリエステルカーボネート等が挙げられる。
特に限定されないが、有機ポリマーは生分解性ポリマーであることが好ましい。
生分解性ポリマーとしては、上述した天然高分子のほか、ポリ酸無水物、ポリシアノアクリレート、ポリオルソエステル等が挙げられる。
生分解性ポリマーの中でも、天然高分子であるセルロースやキチン、キトサンを用いることが好ましい。セルロースやキチン、キトサンは、均一にイオン性官能基を導入することができるため、均一に蛍光色素3を吸着させることができ、安定した蛍光発光を示すことができる。
無機高分子(無機ポリマー)は、炭素以外の元素を主鎖とする高分子化合物である。無機高分子としては、例えば、二酸化ケイ素、ポリシロキサン、ポリフォスファゼン、ポリシラン等が挙げられる。
イオン変性繊維2の数平均短軸径は特に限定されないが、1nm以上1mm以下であることが好ましい。イオン変性繊維2の数平均長軸径は特に限定されないが、1nm以上50mm以下であることが好ましい。
中でも、イオン変性繊維2は、セルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。セルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーから選ばれる1種以上は、繊維表面に均一にイオン性官能基を導入することができるため、蛍光色素3が均一に吸着し、安定して蛍光発光を示すことができる。
イオン変性繊維2の数平均短軸径及び数平均長軸径は、実施例に記載する方法により求められる。
セルロースナノファイバー(CNF)は、セルロース、セルロース誘導体からなる数平均短軸径が1nm以上1000nm以下のファイバーである。
セルロースナノファイバーは、木材等から得られるセルロース原料を極細繊維に粉砕して得ることができる微細繊維であり、安全で生分解性を有する。
キチンナノファイバー(キチンNF)は、キチン及びキトサンから選ばれる1種以上、キチン及びキトサンから選ばれる1種以上の誘導体からなる数平均短軸径が1nm以上1000nm以下のファイバーである。
キチンナノファイバーは、カニ殻等から採取したキチン及びキトサンから選ばれる1種以上の原料を極細繊維に粉砕して得ることができる微細繊維であり、安全で生分解性を有し、抗菌性を有する。
このため、安全性確認が不要であることから、特に、食品、医療、薬剤、パーソナルケア等、体内に取り込んで使用される用途における応用展開が格段に容易になる。
イオン変性繊維2は、イオン性官能基として、カチオン性官能基、アニオン性官能基、又はこれらの両方を有する。イオン性官能基を有することで、蛍光色素3の凝集や会合を抑制した状態でイオン変性繊維2に吸着させることができる。特に、イオン変性繊維2の原料となる繊維原料の結晶表面のみにイオン性官能基を有すると、蛍光色素3の分子同士の距離が保たれ、安定した蛍光発光を示す。
イオン変性繊維2がアニオン性官能基を有する場合、カチオン性の蛍光色素を吸着することができる。イオン変性繊維2がカチオン性の官能基を有する場合、アニオン性の蛍光色素を吸着することができる。
また、イオン変性繊維2は、イオン性官能基を有することにより、後述する蛍光色素吸着複合粒子10の作製において、エマルションを安定化することができ、粒子径の均一な蛍光色素吸着複合粒子10を効率よく得ることができる。
アニオン性官能基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホ基等が挙げられる。中でも、カルボキシ基やリン酸基が好ましく、セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基がより好ましい。
中でもTEMPO酸化によって選択的に繊維原料の結晶表面にカルボキシ基を導入したセルロースシングルナノファイバー(以下CSNF、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、TEMPO酸化CNFとも称する)を用いることが好ましい。
TEMPO酸化CNFは、繊維原料の結晶表面のC6位の水酸基(OH基)が選択的に酸化されているため、結晶表面のOH基のみが酸化され、カルボキシ基同士の距離が一定である。このため、蛍光色素3の分子間の距離を均一にすることができ、安定した蛍光発光を示す。
イオン性官能基の含有量は、蛍光色素吸着繊維1の乾燥質量1g当たり0.1mmol以上5.0mmol以下が好ましく、0.1mmol以上4.0mmol以下がより好ましく、0.5mmol以上3.0mmol以下がさらに好ましい。イオン性官能基の含有量が上記下限値以上であると、蛍光色素3の吸着量を高められ、蛍光発光の強度をより高められる。イオン性官能基の含有量が上記上限値以下であると、剛直な繊維構造を保つことができ、蛍光色素3の分子同士の凝集を抑制でき、蛍光発光が変化することを抑制できる。
ここで、蛍光色素吸着繊維1の乾燥質量は、蛍光色素吸着繊維1を温度120℃で1時間乾燥させた後の質量を意味する。
イオン性官能基の含有量は、電気伝導度滴定により求められる。
イオン変性繊維2は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、イオン変性繊維2は繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。
数平均短軸径が上記下限値以上であると、剛直な繊維構造をとることができ、蛍光色素3の分子同士の会合あるいは凝集を抑制でき、特徴的な蛍光発光を示すことが可能となる。数平均短軸径が上記上限値以下であると、イオン変性繊維2の凹凸を小さくすることができ、後述する蛍光色素吸着複合粒子の表面の凹凸を小さくできる。
数平均長軸径においては特に制限はないが、数平均短軸径の5倍以上が好ましい。数平均長軸径が上記下限値以上であると、後述する複合粒子及び蛍光色素吸着複合粒子のサイズや形状の制御をより容易にできる。
イオン変性繊維2がセルロースナノファイバーの場合、蛍光色素吸着繊維1の強度や加熱時の寸法安定性の観点から、セルロースナノファイバーの結晶構造は、セルロースI型が好ましい。
セルロースナノファイバーの結晶化度は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。セルロースナノファイバーの結晶化度が上記下限値以上であると、イオン変性繊維2の強度や加熱時の寸法安定性が保たれるため、蛍光色素吸着繊維1を含むシート等の成形体の長期安定性が良好となる。
セルロースナノファイバーの結晶化度は、試料水平型回転対陰極式多目的X線回折装置(XRD)により求めることができる。
<蛍光色素>
蛍光色素は、蛍光発光を示す色素であり、励起光により紫外光や可視光、赤外光といった光エネルギーを吸収して励起状態になり、基底状態に戻る際に蛍光を発する。
本実施形態の蛍光色素3は、イオン変性繊維2にイオン吸着する蛍光色素であり、カチオン性或いはアニオン性の蛍光色素であることが好ましい。特に限定されないが、イオン変性繊維2の分散液に蛍光色素3を添加、混合して蛍光色素3を吸着させるため、蛍光色素3は親水性溶媒に溶解することが好ましい。
蛍光色素3の骨格としては、例えば、シアニン(HITCI等)、キサンテン(ローダミン6G、ローダミンB等)、オキサジン(ナイルブルー等)、クマリン(4-MU等)、キノリン(カルボスチリル165等)、スチルベン(スチルベン1等)、オキサゾール(POPOP等)、パラオリゴフェニレン(p-トリフェニル等)、アクリジン(アクリジン、アクリジンオレンジ等)、ジアリルメタン(オーラミン等)、チアゾール(チオフラビンT等)、インドール(DAPI二塩酸塩)、エチジウム(エチジウムブロマイド等)、プロピジウム(臭化プロピジウム等)、テトラピロール(クロロフィル等)、ジピロメテン(BODIPY等)、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ペリレン等を用いることができる。
中でも、親水性溶媒への溶解性から、シアニン骨格、キサンテン骨格、オキサジン骨格、アクリジン骨格、ジアリルメタン骨格(ジフェニルメタン骨格)、チアゾール骨格、インドール骨格、エチジウム骨格、プロピジウム骨格を有する色素を用いることが好ましい。
また、キサンテン骨格、オキサジン骨格、アクリジン骨格、チアゾール骨格、インドール骨格、エチジウム骨格、プロピジウム骨格を有する色素は会合しやすいため、イオン変性繊維2に吸着させることで会合抑制効果を発揮しやすい。
カチオン性の蛍光色素としては、例えば、ローダミン6G、ローダミンB、ローダミン123、ナイルブルー、アクリジンオレンジ、オーラミン、DAPI二塩酸塩、エチジウムブロマイド、臭化エチジウム等が挙げられる。
アニオン性の蛍光色素としては、例えば、インジゴカルミン、メロシアニンI、メロシアニン540、ピラニン、フルオレセイン等が挙げられる。
なお、蛍光色素3は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、会合や凝集を抑制できる範囲で、カチオン性の蛍光色素とアニオン性の蛍光色素とを併用してもよい。
蛍光色素吸着繊維1に吸着する蛍光色素3の骨格は、赤外分光法(IR)、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC/MS)等の方法で分析することができる。
蛍光色素3の励起光の波長(励起波長)は特に限定されないが、紫外光(UV)、可視光、赤外光における任意の波長の光で励起すればよい。蛍光色素3の発光波長も特に限定されず、UV、可視光、赤外光の発光を示すことが好ましい。
蛍光色素3に由来する蛍光発光は、例えば、蛍光顕微鏡観察、蛍光スペクトル測定装置にて評価することができる。
蛍光顕微鏡観察においては、例えば、実体顕微鏡システムSZX16(オリンパス(株)製)にて、下地を黒とし、接眼レンズ×1(1倍)、対物レンズ×10(10倍)にて観察する。蛍光観察は、SZX2-FGFP(GFPフィルター)、SZX2-FUV(UVフィルター)を用いて評価することができる。GFPフィルター条件では100から255、UVフィルター条件では0から125の色調範囲で観察し、外部の蛍光灯の光が入らないように紙等で実体顕微鏡システムを覆いながら評価する。蛍光色素吸着繊維1の観察は、スライドガラスに試料を乗せて評価することができる。
蛍光スペクトル測定は、ファイバー式の小型光学分光器USB2000+(OceanOptics社製)を用いて評価することができる。スライドガラス上に蛍光色素吸着繊維1の試料を乗せ、光源を照射した際の蛍光スペクトルを測定する。光源として、実体顕微鏡システムSZX16(オリンパス社製)のGFPフィルターを通した光源を用いることができる。
通常、蛍光色素3は会合や凝集により蛍光波長の変化や蛍光強度の低下が起こる。蛍光色素3をイオン変性繊維2に吸着することで色素の会合が抑制され、蛍光発光波長の長波長化を抑制できる。
例えば、10μMのローダミン6Gの水溶液の極大蛍光波長は560nmであるのに対し、蛍光色素固体試薬単体の極大蛍光波長は、蛍光色素の会合により670nmと長波長になる。蛍光色素3がイオン変性繊維2に着すると、蛍光色素3の会合や凝集が抑制され、蛍光波長の長波長化を防ぐことができ、極大蛍光波長は580nmとなる。
本実施形態の蛍光色素吸着繊維1の蛍光色素3由来の極大蛍光波長λ1、色素固体単体の極大蛍光波長をλ2、10μMの蛍光色素3の水溶液の極大蛍光波長をλ3とすると、『50nm≦(λ2-λ1)』となることが好ましい。色素固体単体では、蛍光色素3の会合や凝集が起こりやすい。蛍光色素吸着繊維1において、蛍光色素3の会合や凝集をより抑制できることから、(λ2-λ1)が上記下限値以上となることが好ましい。
また、極大蛍光波長の関係式は、『-100nm≦(λ3-λ1)≦100nm』であることが好ましい。10μMの蛍光色素水溶液中では、蛍光色素3が単分子で存在している。蛍光色素吸着繊維1において、蛍光色素3の会合をより抑制できることから、(λ3-λ1)が上記数値範囲内となることが好ましい。
試料から蛍光色素3由来のλ1を算出する方法としては、蛍光色素3を吸着した試料の蛍光強度の値から、蛍光色素3を吸着していない試料の蛍光強度の値を減じる方法が挙げられる。
蛍光色素吸着繊維1における蛍光色素3の吸着量(結合量)は、特に限定されないが、蛍光色素吸着繊維1の乾燥質量に対して、0.01mol/g以上3.0mmol/g以下が好ましく、0.1mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましい。蛍光色素3の結合量が上記下限値以上であると、充分な蛍光発光を示すことができる。蛍光色素3の結合量が上記上限値以下であると、蛍光色素3の分子の分子間の距離を適度に維持でき、会合あるいは凝集を抑制でき、蛍光発光のシフトや蛍光発光が弱くなることを抑制できる。
蛍光色素3の結合量は、次の方法で求められる。
蛍光色素吸着繊維1を酸性水溶液又はアルカリ性水溶液に浸漬させて吸着していた蛍光色素3を脱離させる。脱離した蛍光色素3の量を吸光度から求める。吸光度から求めた蛍光色素3の量を、吸着していた蛍光色素3の量(蛍光色素3の結合量)とする。
例えば、イオン性官能基がアニオン性官能基であれば、pH2.0以下の塩酸に蛍光色素吸着繊維1を0.1質量%添加して攪拌しながら1時間以上放置する。その後、固体成分と液体成分とを分離する。分離した液体成分の吸光度を測定し、酸により脱離した蛍光色素3の量を求める。酸により脱離した蛍光色素3の量を、蛍光色素3の吸着量とする。
酸により脱離した蛍光色素3の量は、以下の手順で求められる。
純水をリファレンスとして、濃度既知の蛍光色素3の水溶液の吸光度を測定し、下記式(i)で表されるランベルトベールの法則から、蛍光色素3のモル吸光係数を算出する。
A=-log10(I/I)=εcl ・・・(i)
式(i)において、Aは吸光度、Iは媒質に入射する前の光の強度(放射照度)、Iは長さlの媒質を透過した後の光の強度、εはモル吸光係数、cは媒質のモル濃度を表す。
分離した液体成分の吸光度Aと、蛍光色素3のモル吸光係数εとから、分離した液体成分における蛍光色素3のモル濃度c、すなわち、酸により脱離した蛍光色素3の量が求められる。
イオン変性繊維2のイオン性官能基に対する蛍光色素3の吸着量(吸着率)は、特に限定されないが、イオン性官能基量を100mol%とすると、0.1mol%以上95mol%以下が好ましく、1mol%以上90mol%がより好ましく、2mol%以上50mol%以下がさらに好ましい。イオン性官能基に対する蛍光色素3の吸着率が上記下限値以上であると、充分な蛍光発光を示すことができる。イオン性官能基に対する蛍光色素3の吸着率が上記上限値以下であると、蛍光色素3の分子の分子間の距離を適度に維持でき、会合あるいは凝集を抑制でき、蛍光発光のシフトや蛍光発光が弱くなることを抑制できる。
イオン性官能基に対する蛍光色素3の吸着率は、蛍光色素3の結合量をイオン性官能基の含有量で除することにより求められる。
≪蛍光色素吸着繊維の製造方法≫
本実施形態の蛍光色素吸着繊維1は、図2に示す製造方法で製造することができる。
図2に示すように、本実施形態の蛍光色素吸着繊維1の製造方法は、第1工程と、第1-2工程とを有する。
第1工程は、図2(a)に示すように、親水性溶媒7中で繊維原料にイオン性官能基を導入してイオン変性繊維2の分散液を得る工程である。
<第1工程>
第1工程は、溶媒中で繊維原料にイオン性官能基を導入したイオン変性繊維2を分散させて分散液を得る工程である。
繊維原料としては、セルロース原料や、キチン及びキトサンから選ばれる1種以上の原料(以下、「キチン/キトサン原料」ともいう。)を用いることができる。
セルロース原料として用いることができるセルロースの種類や結晶構造は、特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。さらには、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースを用いることもできる。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ等、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることができる。木材系天然セルロースとしては、精製及び微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
キチン/キトサン原料としては、例えば、カニ、エビ等の甲殻類や昆虫、クモ等、節足動物や、イカの腱のように動物の体を支え、守るための直鎖状の構造多糖が挙げられる。キチン/キトサン原料は、結晶性があり(分子が規則的に並んでいる部分がある)、一部はタンパク質と結合している。キチンは、N-アセチルグルコサミンを主な構成糖とした多糖である。キチン/キトサン原料を単離、精製すると、100%がN-アセチルグルコサミンからなる精製キチンはほとんどなく、一部はグルコサミンを構成成分として含んだキチン及びキトサンから選ばれる1種以上が得られる。
例えば、乾燥状態のタラバガニの殻を5mm程度に砕いた原料や、湿潤状態のヤリイカの軟甲を1cm程度に砕いた原料をキチン/キトサン原料として用いることができる。
キチン/キトサン原料は予め精製することが好ましい。
セルロース原料やキチン/キトサン原料から、セルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーから選ばれる1種以を製造することができる。
まず、繊維原料を溶媒中に分散し、懸濁液とする。懸濁液中の繊維原料の濃度としては0.1質量%以上10質量%未満が好ましい。懸濁液中の繊維原料の濃度が上記下限値以上であると、溶媒過多となり生産性を損なうことを抑制できる。懸濁液中の繊維原料の濃度が上記上限値未満であると、後述する複合粒子8及び蛍光色素吸着複合粒子10の粒子径を均一にしやすい。加えて、懸濁液中の繊維原料の濃度が上記上限値未満であると、微細繊維を得る場合、繊維原料の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘することを抑制でき、均一な解繊処理をより容易に行うことができる。
懸濁液作製に用いる溶媒としては、親水性溶媒7を用いることが好ましい。
親水性溶媒7としては特に限定されず、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
懸濁液としては、水を50質量%以上含むことが好ましい。懸濁液中の水の割合が50質量%以上であると、後述する、微細繊維原料を溶媒中で解繊して微細繊維分散液を得る工程において、微細繊維の分散が阻害されることを抑制できる。また、水以外に含まれる溶媒としては前述の親水性溶媒7が好ましい。
第1工程では、必要に応じて、繊維原料、及び生成する微細繊維の分散性を上げるために、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、有機アルカリ水溶液等が挙げられる。有機アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液等が挙げられる。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、pHを調整しやすく、コスト面で優れることから、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
イオン変性繊維2は化学改質によりイオン性官能基が導入されている。より具体的には、繊維原料の結晶表面にイオン性官能基が導入されていることが好ましい。
繊維原料の結晶表面にイオン性官能基が導入されていると、エマルション安定性が良好となり、後述する複合粒子8及び蛍光色素吸着複合粒子10の粒子径を均一にしやすい。また、複合粒子8の表面に存在するイオン変性繊維2のイオン性官能基を介して蛍光色素3を吸着させることができる。
さらに、繊維原料の結晶表面にイオン性官能基が導入されていると、浸透圧効果で繊維原料の結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、繊維原料の微細化が進行しやすく、微細繊維を効率的に得ることができる。
繊維原料の結晶表面に導入されるイオン性官能基の種類は特に限定されない。イオン性官能基を有することで、イオン変性繊維2にイオン結合により蛍光色素3が配位するため、蛍光色素3の分子同士の会合や凝集を抑制することができる。
イオン性官能基としては、アニオン性官能基やカチオン性官能基が挙げられる。
アニオン性官能基の種類や導入方法は特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基が好ましい。繊維原料がセルロース原料の場合、セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基が好ましい。
カチオン性官能基の種類や導入方法も特に限定されない。カチオン性官能基としては、例えば、アミノ基、オニウム基、ヒドラジニウム基、ホスホニウム基、オキソニウム基、スルホニウム基、ジアゼニウム基、ジアゾニウム基等が挙げられる。例えば、アミノ基を導入する方法として、キチン/キトサン原料を精製して部分脱アセチル化処理によりアミノ基を導入する方法が挙げられる。
イオン性官能基の導入量は、特に限定されないが、エマルション安定性の観点からイオン変性繊維2の乾燥質量1gあたり、0.02mmol/g以上が好ましく、0.2mmol/g以上がより好ましい。また、イオン性官能基の導入量は、イオン変性繊維2の乾燥質量1gあたり、3.0mmol/g以下が好ましく、2.5mmol/g以下がより好ましく、2.0mmol/g以下がさらに好ましい。
ここで、イオン変性繊維2の乾燥質量は、イオン変性繊維2を温度120℃で1時間乾燥させた後の質量を意味する。
イオン性官能基の導入量は、電気伝導度滴定により求められる。
繊維原料の結晶表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行う方法が挙げられる。また、オートクレーブ中で、ガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースとを直接反応させて、カルボキシ基を導入してもよい。さらには、水系の比較的温和な条件下で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い化合物としては、例えば、TEMPOをはじめとするN-オキシル化合物等が挙げられる。
カルボキシ基導入部位の選択性及び環境負荷低減のためには、N-オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。N-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法においては、結晶表面に存在するC6位の水酸基が選択的に酸化されるため、カルボキシ基が規則正しく導入される。
N-オキシル化合物としては、例えば、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル等が挙げられる。その中でも、反応性が高いTEMPOが好ましい。
N-オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01質量%以上5.0質量%以下が好ましい。
N-オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば、木材系天然セルロースを水中に分散させ、N-オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N-オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N-オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、上記オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
温和な条件としては、例えば、温度20~60℃で反応を行う条件が挙げられる。
共酸化剤としては、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物等、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜ハロゲン酸又はそれらの塩が好ましく、次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。
共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~200質量%程度である。
N-オキシル化合物及び共酸化剤とともに、臭化物及びヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応をより円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。このような化合物としては、例えば、臭化ナトリウム、臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。
上記化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~50質量%程度である。
酸化反応の反応温度は、4℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上70℃以下がより好ましい。酸化反応の反応温度が上記下限値以上であると、試薬の反応性を高められ、反応時間を短くすることができる。酸化反応の反応温度が上記上限値以下であると、副反応を抑制でき、高結晶性の剛直なセルロースナノファイバーの繊維構造を維持できる。
酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分以上5時間以下である。
酸化反応時の反応系のpHは特に限定されないが、9以上11以下が好ましい。pHが9以上であると反応を効率良く進めることができる。pHが11以下であると、副反応を抑制でき、繊維原料の分解を抑制できる。
また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基等が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9以上11以下に保つことが好ましい。反応系のpHを9以上11以下に保つ方法としては、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、有機アルカリ水溶液等が挙げられる。有機アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液等が挙げられる。アルカリ水溶液としては、pHを調整しやすく、コスト面で優れることから水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
N-オキシル化合物による酸化反応は、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上記の範囲内に保つことが好ましい。
添加するアルコールとしては、反応を素早く終了させるため、メタノール、エタノール、プロパノール等の低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性等から、エタノールがより好ましい。
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよいが、N-オキシル化合物等の着色、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。
酸化セルロースの回収は、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。
酸化処理後のセルロースの回収方法としては、例えば、(a)カルボキシル基が塩を形成したままろ別する方法、(b)反応液に酸を添加して系内を酸性下に調整し、カルボン酸としてろ別する方法、(c)有機溶媒を添加して凝集させた後にろ別する方法等が挙げられる。
その中でも、ハンドリング性や回収効率、廃液処理の観点から、(b)カルボン酸として回収する方法が好適である。また、後述する対イオン置換工程において、対イオンを置換する場合、対イオンとして金属イオンを含有しない方が副生成物の生成を抑制でき、置換効率に優れるため、(b)カルボン酸として回収する方法が好ましい。
酸化反応後のセルロース中の金属イオン含有量は、様々な分析方法で調べることができ、例えば、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素分析によって簡易的に調べることができる。塩を形成したままろ別する方法を用いて回収した場合、金属イオンの含有率が5wt%以上であるのに対し、カルボン酸としてからろ別する方法により回収した場合、金属イオンの含有率が1wt%以下となる。
さらに、回収したセルロースは洗浄を繰り返すことにより精製でき、触媒や副生成物を除去することができる。このとき、塩酸等を用いてpH3以下の酸性条件に調整した洗浄液で洗浄を繰り返した後に、純水で洗浄を繰り返すことにより、残存する金属イオン及び塩類の量を低減することができる。
次に、対イオン置換工程としては、カルボキシ基を導入したセルロースの懸濁液にアルカリを添加することにより実施される。アルカリの添加量としては、セルロースに導入されたカルボキシ基に対して0.8当量以上2当量以下であることが好ましい。特に、1当量以上1.8当量以下であると、過剰量のアルカリを添加することなく対イオンを交換できるため、より好ましい。ここで、0.8当量未満でもセルロースをある程度分散させることは可能だが、分散処理により長時間、高エネルギーを要し、得られる繊維の繊維径も本実施形態のものより大きくなり、分散体の均質性が低下する。一方、2当量を超えると、過剰量のアルカリによる分解や分散媒への親和性が低下する場合があり好ましくない。
対イオン置換工程においては、セルロースの懸濁液のpHを、アルカリを用いてpH4以上pH12以下の範囲に調整することが好ましい。特に、pHをpH7以上pH12以下のアルカリ性とし、添加したアルカリとカルボン酸塩を形成する。これにより、カルボキシ基同士の荷電反発が起こりやすくなるため、分散性が向上しセルロースナノファイバー分散体が得られやすくなる。ここで、pH4未満でも機械的分散処理によりセルロースを分散させることは可能であるが、アルカリの添加量が過少である場合と同様の理由により分散体の均質性が低下する。一方、pH12を超えると分散処理中に酸化セルロースのピーリング反応やアルカリ加水分解による低分子量化や、末端アルデヒドや二重結合形成に伴い分散体の黄変が促進されるため、力学強度や均質性が低下する。
懸濁液のpHを調整するアルカリは、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、オニウム化合物及びアミンから選ばれる1種以上(以下、「オニウム化合物/アミン」ともいう。)等の水溶液を用いることができる。
オニウム化合物/アミンを用いることで、後述するエマルション液滴の安定性を制御することができ、複合粒子を高収率にて得ることができる。
本実施形態におけるオニウム化合物は、下記構造式(1)に示すカチオン構造を有する。
Figure 2023163358000002
構造式(1)中、Mは窒素原子、リン原子、硫黄原子のいずれかであり、R1、R2、R3、及びR4は、水素原子、炭化水素基、ヘテロ原子を含む炭化水素基のいずれかである。
例えば、Mが窒素原子であり、R1、R2、R3及びR4がいずれも水素原子の場合、オニウム化合物はアンモニウムイオンである。R1、R2、R3、R4のうち3つが水素原子の場合は第1級アミン、2つの場合は第2級アミン、1つの場合は第3級アミン、0個の場合は第4級アミンとなり、いずれも本実施形態におけるオニウム化合物である。
へテロ原子を含む炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルキレン基、オキシアルキレン基、アラルキル基、アリール基、芳香族基等を例示できる。R1、R2、R3、及びR4が環を形成していてもよい。
構造式(1)において、Mが窒素原子である、第4級アンモニウム化合物(第4級アンモニウム塩)としては、例えば、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラブチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジラウリルジメチルクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、ココナットアミン等が挙げられる。
特に、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリドを用いることで、抗菌性を付与できるため、好ましい。
構造式(1)において、Mがリン原子である、第4級ホスホニウム化合物(第4級ホスホニウム塩)としては、例えば、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルホスホニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルホスホニウムヒドロキシド等が挙げられる。
オニウム化合物のカチオン構造の対イオンは特に限定されないが、金属イオンの混入に伴う悪影響や分散媒への分散性等を考慮すると、水酸化物イオンが対イオンであることが好ましい。オニウム化合物に加えて、アルカリ金属やアルカリ土類金属等の金属塩を含む無機アルカリが添加されてもよい。
本実施形態における第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンは、それぞれ下記構造式(2)、(3)、(4)に示す構造を有する。なお、これらがイオン化しアンモニウムイオンとなった際の構造は、それぞれ(2)’、(3)’、(4)’となる。
Figure 2023163358000003
上記構造式中、R~Rは、炭化水素基、ヘテロ原子を含む炭化水素基のいずれかである。
第1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、へキシルアミン、2-エチルへキシルアミン、n-オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。
第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン等が挙げられる。
第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリへキシルアミン等が挙げられる。
アニオン性を有するセルロース原料とオニウム化合物/アミンとを用いて得られた懸濁液は、金属イオンを対イオンとする無機アルカリを用いた場合よりも低エネルギー、短時間で分散処理を行うことができ、かつ最終的に得られる分散液の均質性も高い。これは、オニウム化合物/アミンを用いた方が、セルロース原料が有するアニオン性部位の対イオンのイオン径が大きいため、分散媒中で微細化セルロース繊維同士を引き離す効果がより大きいためと考えられる。さらに、分散液としてオニウム化合物/アミンを含むと、無機アルカリと比べて分散液の粘度とチキソ性を低下させることができ、分散処理のしやすさとその後のハンドリングにおいて有利になる。さらに、オニウム化合物/アミンとイオン結合により相互作用したイオン変性繊維2は、オニウムイオン及びアンモニウムイオンから選ばれる1種以上のイオンに基づく立体斥力又は疎水化作用によって親水性が低下する。これにより後述の第2工程(工程2)において液状のコア粒子前駆体のエマルション液滴への親和性が高まり、液滴の安定性が向上する。
オニウムイオン及びアンモニウムイオンから選ばれる1種以上のイオンがカウンターカチオンとして結合した酸化セルロースを解繊することで、オニウムカチオン及びアミンから選ばれる1種以上がカウンターカチオンとして結合した微細なイオン変性繊維2を得ることができる。オニウムカチオン及びアミンから選ばれる1種以上がカウンターカチオンとして結合した微細なイオン変性繊維2は、エマルション安定性が高く、コア粒子前駆体の種類によらず、安定したO/W型ピッカリングエマルションを形成でき、多様なコア樹脂において粒子径の均一な複合粒子を高収率で得ることができる。
また、オニウム化合物がイオン化した状態を、オニウムイオン又はオニウムカチオンと記載する。また、ここで言うアミンとは、一部又は全部がイオン化したアンモニウムイオンを含むものとする。なお、これ以降、オニウムカチオン及びアミンから選ばれる1種以上、及びオニウムカチオン及びアンモニウムイオンから選ばれる1種以上のイオンのいずれかを、それぞれ「オニウムカチオン(又は、オニウムイオン)/アミン」、「オニウムカチオン(又は、オニウムイオン)/アンモニウムイオン」とも記載することとする。
イオン変性繊維2におけるオニウムイオン/アンモニウムイオンの平均結合量は、エマルション安定性の観点からイオン変性繊維2の乾燥質量1gあたり、0.02mmol/g以上が好ましく、0.2mmol/g以上がより好ましい。また、イオン変性繊維2におけるオニウムイオン/アンモニウムイオンの平均結合量は、3mmol/g以下が好ましく、2.5mmol/g以下がより好ましく、2mmol/g以下がさらに好ましい。任意の2種以上のオニウムイオン/アンモニウムイオンが同時にイオン変性繊維2に結合してもよく、この場合、オニウムイオン/アンモニウムイオンの平均結合量は、導入されている修飾基の合計量が前記範囲内であることが好ましい。オニウムイオン/アンモニウムイオンの平均結合量(mmol/g)は公知の方法で測定できる。例えば、滴定やIR測定等により算出できる。
イオン変性繊維2が、オニウムイオン/アンモニウムイオンが結合することによって、表面の一部が疎水化されている場合、イオン変性繊維2を用いて作製した膜の、水に対する接触角は、特に限定されないが、45°以上が好ましく、50°以上がより好ましい。接触角は、例えば、イオン変性繊維2の0.5質量%の水分散液を5cm×5cmの容器に流し入れ、温度30℃湿度80%で乾燥させた後、さらに窒素雰囲気下で乾燥させた膜に2μlの純水を滴下して、接触角計(協和界面科学社製、PCA-1)を用いて測定できる。
イオン変性繊維2のアニオン性官能基の対イオンとして、オニウムイオン/アンモニウムイオン以外のカチオン性物質が対イオンとして結合していても構わない。カチオン性物質としては、特に限定されないが、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属や、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属等の金属イオンが挙げられる。アニオン性官能基の対イオンは、イオン変性繊維2の分散安定性の観点から、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属の金属イオンであることが好ましい。
オニウムイオン/アンモニウムイオン以外のカチオン性物質の結合当量は、イオン変性繊維2の分散安定性やエマルション安定性の観点から、繊維原料の乾燥質量1gあたり、0.02mmol/g以上が好ましく、0.2mmol/g以上がより好ましい。また、オニウムイオン/アンモニウムイオン以外のカチオン性物質の結合当量は、3mmol/g以下が好ましく、2.5mmol/g以下がより好ましく、2mmol/g以下がさらに好ましい。任意の2種以上のカチオン性物質が同時にイオン変性繊維2に導入されていてもよい。カチオン性物質の平均結合量(mmol/g)は公知の方法で測定できる。例えば、カチオン性物質が金属イオンの場合、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法や、蛍光X線分析法、ICP発光分光分析による元素分析等でカチオン性物質の平均結合量を測定できる。
イオン変性繊維2は微細繊維であることが好ましい。微細繊維の分散液を得る方法として、溶媒中で繊維原料にイオン性官能基を導入したイオン変性繊維2を解繊して微細繊維の分散液を得ることができる。繊維原料を解繊してからイオン性官能基を導入しても構わない。
懸濁液に物理的解繊処理を施して、繊維原料あるいはイオン変性繊維2を微細化する方法としては、特に限定されないが、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突等の機械的処理が挙げられる。このような物理的解繊処理を行うことで、前記親水性溶媒7を溶媒としたセルロース原料の懸濁液中のセルロースが微細化され、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロースの分散液を得ることができる。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、得られる微細繊維の数平均短軸径及び数平均長軸径を調整することができる。
上記のようにして、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化された微細繊維の分散体(微細繊維分散液)が得られる。得られた分散体は、そのまま、又は希釈、濃縮等を行って、後述するO/W型エマルションの安定化剤として用いることができる。
イオン変性繊維2の分散体は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、イオン変性繊維2及びpH調整に用いた成分以外の他の成分を含有してもよい。上記他の成分としては、特に限定されず、蛍光色素吸着繊維1の用途等に応じて、公知の添加剤の中から適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機シラン化合物又はその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、消泡剤、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、安定剤、磁性材料、配向促進剤、可塑剤、架橋剤、医薬品、農薬、香料、接着剤、酵素、着色剤、消臭剤、金属、金属酸化物、無機酸化物、防腐剤、抗菌剤、天然抽出物、界面活性剤等が挙げられる。
<第1-2工程>
第1-2工程は、図2(b)に示すように、イオン変性繊維分散液に蛍光色素3を含む蛍光色素含有溶液を添加して、蛍光色素3をイオン性官能基の全部又は一部に結合させる工程である。
より具体的には、第1工程で得られたイオン変性繊維2の分散液中に、蛍光色素3を添加して混合し、イオン変性繊維2に蛍光色素3をイオン結合により吸着させる工程である。
蛍光色素3をイオン性官能基の全部又は一部に結合させる方法としては、特に限定されないが、例えば、蛍光色素3を溶媒に予め溶解させた蛍光色素溶解液をイオン変性繊維2の分散液に添加して攪拌する方法が挙げられる。
蛍光色素3を吸着させる際のイオン性繊維2の分散液の温度は5℃以上50℃以下であることが好ましい。
蛍光色素3を結合させる際には、イオン変性繊維2のイオン性官能基の対イオンを予め取り除くことで効率よく蛍光色素3を吸着させることができる。具体的には、イオン性官能基がアニオン性官能基である場合、塩酸等の酸を用いてpHを酸性にした後、余剰な塩を取り除いてから蛍光色素3を吸着させることが好ましい。特に限定されないが、例えば、イオン変性繊維2の分散液を乾燥させて、シート等の成形体とした後、塩酸に含浸し、純水や希薄な酸にて複数回洗浄することで対イオンを取り除くことができる。アニオン性官能基がカルボキシ基の場合、カルボキシ基をCOOからCOOHの酸型にすることで、効率よく蛍光色素3をカルボキシ基に吸着させることができる。
イオン性官能基がカチオン性である場合、アルカリを用いてpHをアルカリ性にした後、余剰な塩を取り除いてから蛍光色素3を吸着させることができる。
蛍光色素3を吸着させる際のイオン変性繊維2の分散液の固形分濃度は、特に限定されないが、イオン変性繊維2の分散液の総質量に対して、0.01質量%以上40質量%以下が好ましい。イオン変性繊維2の固形分濃度が上記下限値以上であると、蛍光色素吸着繊維1の作製効率をより高められる。イオン変性繊維2の固形分濃度が上記上限値以下であると、攪拌しやすく、蛍光色素3を均一に吸着させやすい。
ここで、イオン変性繊維2の分散液の固形分濃度は、イオン変性繊維2の乾燥質量をイオン変性繊維2の分散液の総質量で除することにより求められる。
蛍光色素溶解液中の蛍光色素3の濃度は、特に限定されないが、1μM以上1M以下が好ましい。蛍光色素3の濃度が上記下限値以上であると、イオン変性繊維2への蛍光色素3の吸着効率をより高められる。蛍光色素3の濃度が上記上限値以下であると、蛍光色素3の溶解性をより高められ、イオン変性繊維2に蛍光色素3を均一に吸着させやすい。
蛍光色素3のイオン変性繊維2への添加量(イオン変性繊維2の分散液に添加する際の蛍光色素3の濃度)は、特に限定されないが、0.1μM以上500mM以下が好ましい。蛍光色素3のイオン変性繊維2への添加量が上記下限値以上であると、イオン変性繊維2への蛍光色素3の吸着効率をより高められる。蛍光色素3のイオン変性繊維2への添加量が上記上限値以下であると、蛍光色素3の溶解性をより高められ、イオン変性繊維2に蛍光色素3を均一に吸着させやすい。
イオン変性繊維2に対する蛍光色素3の吸着量は、特に限定されないが、イオン変性繊維2の乾燥質量1gに対して、0.01mol/g以上3.0mmol/g以下が好ましく、0.1mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましい。蛍光色素3の吸着量が上記下限値以上であると、充分な蛍光発光を示すことができる。蛍光色素3の吸着量が上記上限値以下であると、蛍光色素3の分子の分子間の距離を適度に維持でき、会合あるいは凝集を抑制でき、蛍光発光のシフトや蛍光発光が弱くなることを抑制できる。
イオン変性繊維2のイオン性官能基に対する蛍光色素3の吸着量は、特に限定されないが、イオン性官能基量100mоl%に対して、0.1mоl%以上95mоl%以下が好ましく、1mоl%以上90mоl%以下がより好ましい。イオン変性繊維2のイオン性官能基に対する蛍光色素3の吸着量が上記下限値以上であると、充分な蛍光発光を示すことができる。イオン変性繊維2のイオン性官能基に対する蛍光色素3の吸着量が上記上限値以下であると、蛍光色素3の分子の分子間の距離を適度に維持でき、会合あるいは凝集を抑制でき、蛍光発光のシフトや蛍光発光が弱くなることを抑制できる。
以上の第1工程及び第1-2工程によれば、イオン変性繊維2に蛍光色素3を吸着させた蛍光色素吸着繊維1を得ることができる。
≪蛍光色素吸着複合粒子≫
本発明の蛍光色素吸着複合粒子は、本発明の蛍光色素吸着繊維と、少なくとも1種のポリマーを含むコア粒子と、を有する。
本発明の蛍光色素吸着複合粒子は、蛍光色素吸着繊維が、コア粒子の表面に結合されている。
以下、図面を参照して、本実施形態の蛍光色素吸着複合粒子について詳細に説明する。
図3に示すように、本実施形態の蛍光色素吸着複合粒子10は、蛍光色素吸着繊維1と、少なくとも1種のポリマーを含有する材料で形成されたコア粒子4と、を有し、蛍光色素吸着繊維1は、コア粒子4の表面に結合されている。
本実施形態の蛍光色素吸着複合粒子10は、イオン変性繊維2がコア粒子4の表面を覆う被覆層(繊維層)20として形成されている。
複合粒子8は、コア粒子4と、コア粒子4の表面に結合されて不可分の状態にあるイオン変性繊維2とを有する。
ここで、複合粒子8は、蛍光色素吸着複合粒子10に、蛍光色素3を吸着させる前の粒子を意味する。
蛍光色素吸着繊維1(イオン変性繊維2)は、コア粒子4の表面に結合されて不可分の状態にある。ここで言う「不可分」とは、複合粒子8又は蛍光色素吸着複合粒子10を含む分散液を遠心分離処理して上澄みを除去し、さらに溶媒を加えて再分散することで複合粒子8及び蛍光色素吸着複合粒子10を精製、洗浄する操作、あるいはメンブレンフィルターを用いたろ過洗浄によって繰り返し溶媒による洗浄する操作を繰り返した後であっても、コア粒子4とイオン変性繊維2とが分離せず、イオン変性繊維2によるコア粒子4の被覆状態が保たれることを意味する。被覆状態の確認は走査型電子顕微鏡による複合粒子8又は蛍光色素吸着複合粒子10の表面観察により確認することができる。複合粒子8において、イオン変性繊維2とコア粒子4の結合メカニズムについては定かではないが、複合粒子8がイオン変性繊維2によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作製されるためであると考えられる。これは、エマルションの液滴内部のコア粒子前駆体にイオン変性繊維2が接触した状態で、コア粒子前駆体を固体化してコア粒子4とするために、物理的にイオン変性繊維2がコア粒子4表面に固定化されて、最終的にコア粒子4とイオン変性繊維2とが不可分な状態に至ると推察される。
イオン変性繊維2に蛍光色素3が吸着した蛍光色素吸着繊維1と、コア粒子4とは、同様のメカニズムで不可分な状態に至ると考えられる。
ここで、O/W型エマルションは、水中油滴型(Oil-in-Water)とも言われ、水を連続相とし、その中に油が油滴(油粒子)として分散しているものである。
特に限定されないが、イオン変性繊維2によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として複合粒子8を作製すると、O/W型エマルションが安定化されるため、O/W型エマルションに由来した真球状の複合粒子8を得ることができる。詳細には、真球状のコア粒子4の表面にイオン変性繊維2からなる被覆層20が比較的均一な厚みで形成された様態となることが好ましい。
蛍光色素吸着複合粒子10の粒径は光学顕微鏡観察により確認できる。100箇所ランダムに測定し、粒子の直径の平均値を取ることで平均粒径を算出できる。蛍光色素吸着複合粒子10の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.05μm以上1000μm以下が好ましく、0.5μm以上50μm以下がより好ましく、1μm以上30μm以下がさらに好ましい。
複合粒子8の平均粒径は、蛍光色素吸着複合粒子10の平均粒径と同様である。
本実施形態の蛍光色素吸着複合粒子10は、球状であり、特に真球状であることが好ましい。イオン変性繊維2により安定したO/W型ピッカリングエマルションが形成し、これにより真球状の蛍光色素吸着複合粒子10を得ることができる。蛍光色素吸着複合粒子10が真球状であると、凝集が抑制され、樹脂への分散性が良好となる。真球度の指標は、画像分析型粒度分布計による円形度から評価することができる。蛍光色素吸着複合粒子10の円形度は、0.6以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましい。蛍光色素吸着複合粒子10の円形度が上記下限値以上であると、滑らかな使用感を得られやすい。平均円形度は、画像分析型粒度分布計にて測定した1000個以上の粒子の円形度の平均値として算出することができる。その平均円形度を上記真球度の指標とすることが好ましい。なお、画像上における蛍光色素吸着複合粒子10の面積をS、周囲長をLとしたとき、円形度は、「円形度=4πS/L」の式で算出でき、円形度が1に近いほど真球度が高くなる。
複合粒子8の形状、円形度及び真球度は、蛍光色素吸着複合粒子10の形状、円形度及び真球度と同様である。
蛍光色素吸着複合粒子10は、剛直な繊維であるイオン変性繊維2に被覆されるため、圧壊強度の平均値が100MPa以上であることが好ましい。圧壊強度は、JIS R 1639-5:2007(ファインセラミックス-か(顆)粒特性の測定方法-第5部:単一か粒圧壊強さ)に基づき、圧壊試験にて測定すればよい。
圧壊強度の評価は、例えば、次のように行うことができる。微小圧縮試験機MCT-510にて20μmの平坦圧縮端子を用い、試料台に蛍光色素吸着複合粒子10を散布し、圧壊試験を行う。圧壊試験は、最大試験力19.6mN、負荷速度0.2231mN/sの条件にて行うことができる。N=10にて実施して圧壊強度の平均値を算出する。圧壊強度の算出には以下の式を用いる。
圧壊強度は「σ=α×P/(π×d)」で表すことができる。
ここで、σ:圧壊強さ(Pa)、α:係数、P:圧壊試験力(N)、d:蛍光色素吸着複合粒子10の粒径(m)、である。
αとしては、値が最大となる位置の値「2.8」を用いることができる。
複合粒子8の圧壊強度は、蛍光色素吸着複合粒子10の圧壊強度と同様である。
蛍光色素吸着複合粒子10は、圧縮試験において10%変位強度の平均値が、5MPa以上が好ましく、10MPa以上がより好ましく、20MPa以上がさらに好ましい。
10%変位強度は、粒子径に対して10%変位(圧縮)した時点での強度のことであり、JIS Z8844:2019(微小粒子の破壊強度及び変形強度の測定方法)に記載の方法で測定できる。
10%変位強度は、粒子径に対して10%変位(圧縮)した時点での強度(10%変位強度)を圧壊試験の圧壊強度と同様の式を用いて求めることができる。微小圧縮試験機MCT-510にて20μmの平坦圧縮端子を用い、試料台に蛍光色素吸着複合粒子10を散布し、最大試験力19.6mN、負荷速度0.2231mN/sの条件にて行うことができる。N=10にて実施して10%変位強度の平均値を求める。
複合粒子8の10%変位強度の平均値は、蛍光色素吸着複合粒子10の10%変位強度の平均値と同様である。
分散安定性の観点から、イオン変性繊維2は、コア粒子4の表面に被覆層20を形成することが好ましい。この場合、被覆層20はイオン変性繊維2で構成される。被覆層20は、コア粒子4の表面の全面を覆うことが好ましいが、必ずしも全面を覆わなくてもよい。
被覆層20の平均厚みは、特に限定されないが、例えば、0.1nm以上1000nm以下が好ましく、0.5nm以上500nm以下がより好ましく、1.0nm以上200nm以下がさらに好ましい。被覆層20の平均厚みが上記下限値以上であると、安定したピッカリングエマルションを形成しやすく、粒径のばらつきを抑制できる。加えて、被覆層20の平均厚みが上記下限値以上であると、蛍光色素3を吸着しやすい。
ここで、「ピッカリングエマルション」とは、液/液界面に吸着した固体粒子によって安定化されたエマルションをいう。
被覆層20の平均厚みは、走査型電子顕微鏡観察を行うことにより、求められる。具体的には、複合粒子8又は蛍光色素吸着複合粒子10を包埋樹脂で固定したものをミクロトームで切削して走査型電子顕微鏡観察を行う。走査型電子顕微鏡観察を行った画像中の複合粒子8又は蛍光色素吸着複合粒子10の断面像における被覆層20の厚みを画像上で100箇所ランダムに測定し、平均値を取ることで算出できる。
複合粒子8又は蛍光色素吸着複合粒子10は、比較的揃った厚みの被覆層20で均一に被覆されていることが好ましい。被覆層20の厚みが均一であると分散安定性が高く、蛍光色素3を吸着しやすい。
被覆層20の厚みの均一さは、厚みの標準偏差を平均厚みで除した変動係数で評価できる。被覆層20の厚みの変動係数は、0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましい。
蛍光色素吸着複合粒子10の表面に存在するイオン性官能基(イオン性官能基の含有量)は、蛍光色素吸着複合粒子10の乾燥質量1g当たり0.01μmol以上100.0μmol以下が好ましく、0.05μmol以上50.0μmol以下がより好ましい。蛍光色素吸着複合粒子10の表面に存在するイオン性官能基が上記下限値以上であると、粒度分布が均一な蛍光色素吸着複合粒子10が得られやすい。加えて、蛍光色素吸着複合粒子10の表面に存在するイオン性官能基が上記下限値以上であると、蛍光色素吸着複合粒子10の分散性をより高められ、蛍光色素吸着複合粒子10の蛍光発光強度をより高められる。
複合粒子8のイオン性官能基の含有量は、蛍光色素吸着複合粒子10のイオン性官能基の含有量と同様である。
蛍光色素吸着複合粒子10のイオン性官能基の含有量は、複合粒子8の分散液を用いて、電気伝導度滴定により測定することができる。イオン交換水99gに1gの複合粒子8を均一に分散させた後、塩酸を添加してpHを2.0以下として1時間程度攪拌する。そこに、自動滴定装置(商品名:AUT-701、東亜ディーケーケー社製)を用いて、1mmol/L水酸化ナトリウム水溶液を0.05mL/30秒で注入し、1分毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続ける。得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウムの滴定量を求め、イオン性官能基の含有量を算出する。
複合粒子8の表面に吸着する蛍光色素3の量(蛍光色素3の吸着量)は、複合粒子8の乾燥質量1g当たり0.01μmol以上100.0μmol以下が好ましく、0.05μmol以上50.0μmol以下がより好ましい。蛍光色素3の吸着量が上記下限値以上であると、充分な蛍光発光を示すことができる。蛍光色素3の吸着量が上記上限値以下であると、蛍光色素3の分子間同士の会合や凝集を抑制でき、蛍光発光波長の変化を抑制できる。
蛍光色素3の結合量は、次の方法で求められる。蛍光色素吸着複合粒子10を酸性溶液又はアルカリ溶液に浸漬させて吸着していた蛍光色素3を脱離させる。脱離した蛍光色素3の量を吸光度から求める。吸光度から求めた蛍光色素3の量を、吸着していた蛍光色素3の量(蛍光色素3の結合量)とする。
例えば、イオン性官能基がアニオン性官能基であれば、pH2.0以下の塩酸に蛍光色素吸着複合粒子10を1質量%添加して攪拌しながら1時間以上放置する。その後、遠心分離あるいは、ろ過により固体成分と液体成分とに分離する。分離した液体成分の吸光度を測定し、酸により脱離した蛍光色素3の量を求める。酸により脱離した蛍光色素3の量を、蛍光色素3の吸着量とする。
酸により脱離した蛍光色素3の量は、以下の手順で求められる。
純水をリファレンスとして、濃度既知の蛍光色素3の水溶液の吸光度を測定し、下記式(i)で表されるランベルトベールの法則から、蛍光色素3のモル吸光係数を算出する。
A=-log10(I/I)=εcl ・・・(i)
式(i)において、Aは吸光度、Iは媒質に入射する前の光の強度(放射照度)、Iは長さlの媒質を透過した後の光の強度、εはモル吸光係数、cは媒質のモル濃度を表す。
分離した液体成分の吸光度Aと、蛍光色素3のモル吸光係数εとから、分離した液体成分における蛍光色素3のモル濃度c、すなわち、酸により脱離した蛍光色素3の量が求められる。
蛍光色素吸着複合粒子10の固形分率は、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、100質量%であってもよい。蛍光色素吸着複合粒子10の固形分率が上記下限値以上であると、輸送コストを下げることができ、疎水性樹脂への分散性が良好となる。
蛍光色素吸着複合粒子10の固形分率は、蛍光色素吸着複合粒子10を温度120℃で1時間乾燥させた後の質量を、乾燥させる前の質量で除することにより求められる。
蛍光色素吸着複合粒子10におけるイオン変性繊維2は、蛍光色素吸着繊維1におけるイオン変性繊維2と同様である。
蛍光色素吸着複合粒子10における蛍光色素3は、蛍光色素吸着繊維1における蛍光色素3と同様である。
本実施形態の複合粒子8は、イオン性官能基を有するイオン変性繊維2でコア粒子4の表面が被覆されている。このため、安定したエマルションを形成することができ、粒子径のばらつきが小さく、真球状で分散性をより良好にできる。
また、イオン変性繊維2は、イオン性官能基を有するため、蛍光色素3を吸着できる。
<コア粒子>
コア粒子4は、少なくとも1種のポリマーを含む。ポリマーは、有機ポリマーであってもよく、無機ポリマーであってもよい。ポリマーは、公知のポリマーを用いることができ、重合性モノマーを公知の方法で重合させたポリマーでもよい。ポリマーとしては、例えば、アクリル系ポリマー、エポキシ系ポリマー、エステル系ポリマー、アミノ系ポリマー、シリコーン系ポリマー、フッ素系ポリマー、ウレタン系ポリマー等が挙げられる。
中でも、コア粒子4に含まれるポリマーが、ベンゼン環構造を有することが好ましい。ベンゼン環構造を有するポリマーは蛍光発光を有するため、蛍光色素3と共にコア粒子4が発光し、特徴的な発光を示すことができる。
コア粒子4に含まれるポリマーは、生分解性ポリマーであることが好ましい。生分解性とは、土壌や海水中等の地球環境において分解して消滅するポリマー、又は生体内で分解して消滅するポリマーのことである。一般的に、土壌や海水中では微生物がもつ酵素によりポリマーが分解されるのに対し、生体内では酵素を必要とせず、物理化学的な加水分解により分解される。
ポリマーの分解は、ポリマーが低分子化又は水溶性化して形態を消失することである。ポリマーの分解は、特に限定されないが、主鎖、側鎖、架橋点の加水分解や、主鎖の酸化分解により起こる。
生分解性ポリマーとしては、天然由来の天然高分子、あるいは合成高分子が挙げられる。
天然高分子としては、例えば、植物が生産する多糖(セルロース、デンプン、アルギン酸等)、動物が生産する多糖(キチン、キトサン、ヒアルロン酸等)、タンパク質(コラーゲン、ゼラチン、アルブミン等)、微生物が生産するポリエステル(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート))、多糖(ヒアルロン酸等)等が挙げられる。
合成高分子としては、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリオール、ポリカーボネート等が挙げられる。
脂肪酸ポリエステルとしては、例えば、グリコール-ジカルボン酸重縮合系(ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等)、ポリラクチド類(ポリグリコール酸、ポリ乳酸等)、ポリラクトン類(β-カプロラクトン、ε-カプロラクトン等)、その他(ポリブチレンテレフタレート、アジペート等)が挙げられる。
ポリオールとしては、例えば、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
ポリカーボネートとしては、例えば、ポリエステルカーボネート等が挙げられる。
その他、ポリ酸無水物、ポリシアノアクリレート、ポリオルソエステル、ポリフォスファゼン等も生分解性の合成高分子である。
コア粒子4は、ポリマー以外に機能性成分等他の成分を含んでもよい。例えば、着色剤、吸油剤、光遮蔽剤(紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等)、抗菌剤、酸化防止剤、制汗剤、消泡剤、帯電防止剤、結合剤、漂白剤、キレート剤、脱臭成分、芳香剤、香料、防虫剤、防腐剤、天然抽出物、pH調整剤、油脂やロウ類をはじめとする油性原料、界面活性剤、無機質粒子(酸化チタン、シリカ、クレー等)、等が挙げられる。
上記機能性成分は固体、気体、液体のいずれの形態であってもよい。機能性成分の蛍光色素吸着複合粒子10中の含有率は、特に限定されず、蛍光色素吸着複合粒子10が安定して形態を保つことができる範囲であることが好ましい。機能性成分の含有率は、蛍光色素吸着複合粒子10を100質量部とすると、機能性成分は0.001質量部以上80質量部以下であることが好ましい。
中でも、機能性成分は、蛍光色素であることが好ましい。コア粒子4に蛍光色素を含むことにより、蛍光色素吸着複合粒子10の表面の蛍光色素3と共に蛍光発光を示すため、特徴的な発光を示すことができ、偽造防止用途として適する。蛍光色素は蛍光発光を示すものであれば、特に限定されないが、後述するコア粒子前駆体に溶解、あるいは分散することが好ましい。コア粒子前駆体に溶解、分散することで、効率よく蛍光色素をコア粒子4に内包させることができる。なお、蛍光色素は、蛍光色素3と同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。
コア粒子4の平均粒径は、蛍光色素吸着複合粒子10の平均粒径から、被覆層20の平均厚みを減じることにより求められる。
≪蛍光色素吸着複合粒子の製造方法≫
本発明の蛍光色素吸着複合粒子の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、化学的調製法や物理化学的調製法を用いて、ポリマーを含有する材料で形成されたコア粒子と、コア粒子の表面に結合されたイオン変性繊維を有する複合粒子を製造する。前記複合粒子の表面のイオン変性繊維に蛍光色素を吸着させることで蛍光色素吸着複合粒子を製造できる。
化学的調製法としては、重合性モノマーから重合過程で粒子形成を行う重合造粒法(乳化重合法、懸濁重合法、シード重合法、放射線重合法等)が挙げられる。
物理化学的調製法としては、微小液滴化したポリマー溶液から粒子形成を行う分散造粒法(スプレードライ法、液中硬化法、溶媒蒸発法、相分離法、溶媒分散冷却法等)が挙げられる。
例えば、イオン変性繊維を用いたO/W型ピッカリングエマルションを形成させ、液滴内部のコア粒子前駆体を固体化させ、コア粒子の表面にイオン変性繊維が被覆された繊維被覆粒子(以下、「複合粒子」ともいう)を作製することで、コア粒子とイオン変性繊維とが結合して不可分の状態にある複合粒子を得ることができる。イオン変性繊維を用いることで界面活性剤等の添加物を用いることなく、安定した液滴を形成するため、粒子径分布の小さい真球状の複合粒子を得ることができる。
また、複合粒子の表面に存在するイオン変性繊維が微細繊維であることで、親水性で、比表面積が高く、分散性が良好になるため、蛍光色素が複合粒子の表面に効率よく吸着し、蛍光色素が脱落しにくくなる。
コア粒子前駆体は、固体化してコア粒子を形成するものであればよく、例えば、重合性モノマー、溶融ポリマー、溶解ポリマー等が挙げられる。
コア粒子前駆体の固体化の方法は特に限定されず、重合性モノマーを重合する、溶融ポリマーを凝固させる、溶解ポリマーから溶媒を除去する、ことにより、コア粒子前駆体を固体化することができる。
以下、本実施形態の蛍光色素吸着複合粒子10の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態の蛍光色素吸着複合粒子10は、図4に示す製造方法で製造することができる。図4に示すように、本実施形態の蛍光色素吸着複合粒子10の製造方法は、第1工程と第2工程と第3工程と第3-2工程とを有する。
<第1工程>
第1工程は、図4(a)に示すように、親水性溶媒7中で繊維原料にイオン性官能基を導入してイオン変性繊維2の分散液を得る工程である。
第1工程は、蛍光色素吸着繊維1の製造方法における第1工程と同じであるため、説明を省略する。
<第2工程>
第2工程は、図4(b)に示すように、イオン変性繊維2の分散液に、コア粒子前駆体を含む液滴6を添加し、分散させ、液滴6の表面をイオン変性繊維2で被覆する工程である。
本実施形態の製造方法は、第2工程を有することで、コア粒子前駆体を含む液滴6の表面をイオン変性繊維2で被覆し、エマルションとして安定化させることができる。
具体的には、第1工程で得られたイオン変性繊維2の分散液に、コア粒子前駆体含有液を添加し、イオン変性繊維2の分散液中に液滴6として分散させ、液滴6の表面をイオン変性繊維2によって被覆し、イオン変性繊維2によって安定化されたO/W型エマルションを作製する。イオン変性繊維2によって安定化されたO/W型エマルションをエマルション液と呼ぶ。
O/W型エマルションを作製する方法としては特に限定されないが、一般的な乳化処理、例えば、各種ホモジナイザー処理や機械攪拌処理を用いることができる。具体的には、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、万能ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ペイントシェイカー等の機械的処理が挙げられる。また、複数の機械的処理を組み合わせて用いてもよい。
例えば、超音波ホモジナイザーを用いる場合、イオン変性繊維2の分散液に対しコア粒子前駆体含有液を添加して混合溶媒とし、混合溶媒に超音波ホモジナイザーの先端を挿入して超音波処理を実施する。超音波ホモジナイザーの処理条件としては特に限定されないが、例えば、周波数は20kHz以上が好ましく、出力は10W/cm以上が好ましい。処理時間については特に限定されず、例えば、10秒間から1時間程度が好ましい。
上記超音波処理により、イオン変性繊維2の分散液中にコア粒子前駆体を含む液滴6が分散してエマルション化が進行する。さらに、液滴6とイオン変性繊維2の分散液との液/液界面に選択的にイオン変性繊維2が吸着することで、液滴6がイオン変性繊維2で被覆されO/W型エマルションとして安定した構造を形成する。このように、液/液界面に固体物が吸着して安定化したエマルションは、学術的には「ピッカリングエマルション」と呼称されている。前述のようにイオン変性繊維2によってピッカリングエマルションが形成されるメカニズムは定かではない。しかし、セルロースは、その分子構造において水酸基に由来する親水性サイトと炭化水素基に由来する疎水性サイトとを有することから、両親媒性を示すため、両親媒性に由来して疎水性モノマーと親水性溶媒との液/液界面にイオン変性繊維2が吸着すると考えられる。
O/W型エマルション構造は、光学顕微鏡観察により確認することができる。O/W型エマルションの粒径は特に限定されないが、平均粒径が0.05μm以上1000μm以下であることが好ましい。平均粒径は、ランダムに100個のエマルションの直径を測定し、平均値を取ることで算出できる。
O/W型エマルション構造において、液滴6の表面に形成された被覆層20(繊維層)の厚みは特に限定されないが、例えば、3nm以上1000nm以下が好ましい。エマルション構造における粒径は、特に限定されないが、第3工程において得られる蛍光色素吸着複合粒子10の粒径と同程度となる。被覆層20の厚みは、例えば、クライオTEMを用いて測定することができる。
第2工程において、イオン変性繊維2の分散液とコア粒子前駆体含有液との質量比については特に限定されないが、イオン変性繊維2の分散液100質量部に対し、コア粒子前駆体含有液が1質量部以上50質量部以下であることが好ましい。コア粒子前駆体含有液の質量が上記下限値以上であると、複合粒子8及び蛍光色素吸着複合粒子10の収量が向上する。コア粒子前駆体含有液の質量が上記上限値以下であると、液滴6をイオン変性繊維2で均一に被覆しやすくなり、粒径制御をより容易にできる。加えて、コア粒子前駆体含有液の質量が上記上限値以下であると、蛍光色素3を吸着しやすくなる。
コア粒子前駆体含有液は、コア粒子前駆体を含有し、O/W型エマルションを形成できればよく、O/W型エマルションを安定的に形成するためには、疎水性であることが好ましい。また、コア粒子前駆体は、化学的な変化あるいは物理化学的な変化により固体化してコア粒子4を形成する前駆体である。コア粒子前駆体は、特に限定されないが、液滴6を安定して形成できるものであれば特に限定されない。コア粒子前駆体としては、例えば、重合性モノマー(モノマー)、溶融ポリマー、溶解ポリマーを用いることができる。
第2工程で用いることができる重合性モノマーの種類としては、ポリマーの単量体であって、その構造中に重合性の官能基を有し、常温で液体であって、水と相溶せず、重合反応によってポリマー(高分子重合体)を形成できるものであれば特に限定されない。重合性モノマーは少なくとも一つの重合性官能基を有する。重合性官能基を一つ有する重合性モノマーは単官能モノマーとも称する。また、重合性官能基を二つ以上有する重合性モノマーは多官能モノマーとも称する。重合性モノマーの種類としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマー等が挙げられる。また、エポキシ基やオキセタン構造等の環状エーテル構造を有する重合性モノマー(例えばε-カプロラクトン等)を用いることも可能である。中でも、ベンゼン環構造を有するモノマーを用いると、コア粒子4が蛍光を示すため、好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」と「メタクリレート」との一方又は両方を含むことを示す。
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-アダマンタン及びアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレート等のアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
単官能のビニル系モノマーとしては、例えば、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、芳香族ビニル系(特にスチレン及びスチレン系)モノマー等、常温で水と相溶しない液体のモノマーが好ましい。
単官能ビニル系モノマーのうち(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、単官能芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロペニルトルエン、イソブチルトルエン、tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。
多官能のビニル系モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン等の不飽和結合を有する多官能基が挙げられる。常温で水と相溶しない液体が好ましい。
多官能性ビニル系モノマーとしては、具体的には、
(1)ジビニルベンゼン、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼン等のジビニル類、
(2)エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-プロピレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート類、
(3)トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート類、
(4)エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ジプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ジブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキシレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2-ビス(4-アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート類、
(5)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチロールエタントリアクリレート等のトリアクリレート類、
(6)テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のテトラアクリレート類、
(7)その他に、例えば、テトラメチレンビス(エチルフマレート)、ヘキサメチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
官能性スチレン系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。
官能性スチレンモノマーは、ベンゼン環構造を有し、蛍光を示すコア粒子4を得られるため、特に好ましい。
また、これらの他にも重合性の官能基を少なくとも1つ有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができ、特にその材料は限定されない。
上記重合性モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
また、重合性モノマーに重合開始剤を添加してもよい。一般的な重合開始剤としては有機過酸化物やアゾ重合開始剤等のラジカル開始剤が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等が挙げられる。
アゾ重合開始剤としては、例えば、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
第2工程において、重合性モノマー及び重合開始剤を含んだコア粒子前駆体含有液を用いれば、O/W型エマルションの液滴6中に重合開始剤が含まれるため、後述の第3工程において、液滴6内部のモノマーを重合させる際に重合反応が進行しやすくなる。
第2工程における重合性モノマーと重合開始剤との質量比は、特に限定されないが、例えば、重合性モノマー100質量部に対し、重合性開始剤が0.1質量部以上であることが好ましい。重合性モノマーの質量が上記下限値以上であると、重合反応が充分に進行し、複合粒子8、さらには、蛍光色素吸着複合粒子10の収量をより高められる。
コア粒子前駆体含有液は、溶媒を含んでいてもよい。エマルションを安定化させる観点から、溶媒としては、有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソホロン、セロソルブアセテート、イソホロン、ソルベッソ(登録商標)100、トリクレン(トリクロロエチレン)、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、イソオクタン、ノナン等を用いることができる。
第2工程における重合性モノマーと溶媒との質量比は、特に限定されないが、例えば、重合性モノマー100質量部に対し、溶媒が80質量部以下であることが好ましい。
溶解ポリマーを得るためのポリマーは、親水性溶媒7に溶解しにくいことが好ましい。ポリマーが親水性溶媒7に溶解すると、安定したエマルションを形成することができない。
溶解ポリマーを得るためのポリマーとしては、以下のものが例示できる。セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースアセテート誘導体、キチン、キトサン等の多糖類、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類。ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル類。ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類。ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリヒドロキシブチレート類。ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等の脂肪族ポリエステル類。ポリアミノ酸類、ポリエステルポリカーボネート類、ロジン等の天然樹脂等。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記ポリマーを溶媒に溶解させることで溶解ポリマーを得ることができる。上記ポリマーを溶解させる溶媒としては、イオン変性繊維2の分散液への相溶性が低い溶媒を用いることが好ましい。親水性溶媒7への溶解度が高い場合、溶媒が液滴6相から親水性溶媒7相へ容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる。また、溶媒は沸点が90℃以下であるものが好ましい。沸点が90℃より高い場合、溶媒よりも先にイオン変性繊維2の分散液の親水性溶媒7が蒸発してしまい、蛍光色素吸着複合粒子10を得ることが困難となる。上記ポリマーを溶解させる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、イソホロン、セロソルブアセテート、イソホロン、ソルベッソ(登録商標)100、トリクレン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、イソオクタン、ノナン等を用いることができる。
上記ポリマーと上記ポリマーを溶解させる溶媒との質量比は、特に限定されず、例えば、上記ポリマー100質量部に対して、上記溶媒の質量は、0.005質量部以上100質量部以下が好ましく、0.1質量部以上80質量部以下がより好ましい。
溶融ポリマーを得る方法としては、例えば、常温で固体のポリマーを溶融させて液体とする方法が挙げられる。溶融ポリマーは、前述の超音波ホモジナイザー等による機械処理を加えながら、溶融状態を維持可能な温度にまで加熱されたイオン変性繊維2の分散液に添加することによって、分散液中で溶融ポリマー液滴をO/W型エマルションとして安定化することが好ましい。
溶融ポリマーとしては、イオン変性繊維2の親水性溶媒7への溶解性が低いものが好ましい。親水性溶媒7への溶解度が高い場合、溶融ポリマー液滴6相から親水性溶媒7相へポリマーが容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる。また、溶融ポリマーは融点が90℃以下であることが好ましい。融点が90℃より高い場合、イオン変性繊維2の分散液中の親水性溶媒7が蒸発してしまい、エマルション化が困難となる。
溶融ポリマーに用いるポリマーとしては、例えば、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ステアリルステアレート、ステアリン酸バチル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸セチル、ジステアリン酸エチレングリコール、ベヘニルアルコール、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、炭化水素ワックス、脂肪酸アルキルエステル、ポリオール脂肪酸エステル、脂肪酸エステルとワックスとの混合物、脂肪酸エステルの混合物、グリセリンモノパルミテート(ステアリン酸モノグリセライド)、グリセリンモノ・ジステアレート(グリセリンステアレート)、グリセリンモノアセトモノステアレート(グリセリン脂肪酸エステル)、コハク酸脂肪族モノグリセライド(グリセリン脂肪酸エステル)、クエン酸飽和脂肪族モノグリセライド、ソルビタンモノステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタントリベヘネート、プロピレングリコールモノベヘネート(プロピレングリコール脂肪酸エステル)、アジピン酸ペンタエリスリトールポリマーのステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート、ステアリルシトレート、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、超淡色ロジン、ロジン含有ジオール、超淡色ロジン金属塩、水素化石油樹脂、ロジンエステル、水素化ロジンエステル、特殊ロジンエステル、ノボラック、結晶性ポリαオレフィン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールエステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリ乳酸、乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリ乳酸類;ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の二塩基酸ポリエステル類;ポリカプロラクトン、カプロラクトンとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリカプロラクトン類;ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートとヒドロキシカルボン酸との共重合体等のポリヒドロキシブチレート類;ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ酪酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体等の脂肪族ポリエステル類;ポリアミノ酸類、ポリエステルポリカーボネート類、ロジン等の天然樹脂等を用いることができる。
液滴6には、予め重合開始剤以外の機能性成分が含まれていてもよい。具体的には、着色剤、蛍光色素、吸油剤、光遮蔽剤(紫外線吸収剤、紫外線散乱剤等)、抗菌剤、酸化防止剤、制汗剤、消泡剤、帯電防止剤、結合剤、漂白剤、キレート剤、脱臭剤、芳香剤、香料、ふけ防止活性物質、皮膚軟化剤、防虫剤、防腐剤、天然抽出物、美容成分、pH調整剤、ビタミン、アミノ酸、ホルモン、油脂やロウ類をはじめとする油性原料、界面活性剤、無機質粒子(酸化チタン、シリカ、クレー等)、酵素、等が挙げられる。
重合性モノマーに、予め重合開始剤以外の他の機能性成分が含まれている場合、蛍光色素吸着複合粒子10として形成した際のコア粒子4内部に上述の機能性成分を含有させることができ、用途に応じた機能発現が可能となる。
中でも、蛍光色素を含むことが好ましい。蛍光色素吸着複合粒子10のコア粒子4内部に蛍光色素が含まれることにより、蛍光色素吸着複合粒子10の表面の蛍光色素3の発光と共にコア粒子4の蛍光発光により、特徴的な蛍光発光を示すことができる。なお、蛍光色素は、蛍光色素3と同じ種類であってもよく、異なる種類であってもよい。
機能性成分は、液滴6へ溶解又は分散しやすく、親水性溶媒7に溶解又は分散しにくいことが好ましい。機能性成分を液滴6に溶解又は分散することにより、O/W型エマルションを形成した際にエマルションの液滴6中に機能性成分を内包しやすく、機能性成分を内包する蛍光色素吸着複合粒子10を効率的に得ることができる。また、内包する機能性成分の量を増やすことが可能である。
コア粒子前駆体として、重合性モノマー、溶解ポリマー及び溶融ポリマーを併用して液滴6を形成し、エマルション化することも可能である。また、蛍光色素吸着複合粒子10のコア粒子4のポリマー種として生分解性ポリマー(樹脂)を選択した場合、得られる蛍光色素吸着複合粒子10は生分解性ポリマーからなるコア粒子4及びイオン変性繊維2で構成されることにより、生分解性材料を有する環境調和性の高い蛍光色素吸着複合粒子10として提供することも可能である。
<第3工程>
第3工程は、図4(c)に示すように、液滴6内部のコア粒子前駆体を固体化して、コア粒子4の表面をイオン変性繊維2で被覆した複合粒子8を得る工程である。
コア粒子前駆体を固体化させる方法については特に限定されない。コア粒子前駆体として重合性モノマーを用いた場合、重合性モノマーを重合することによりポリマー化することで、固体化できる。コア粒子前駆体として溶解ポリマーを用いた場合、液滴6内部の溶媒を親水性溶媒7に拡散させる方法や、溶媒を蒸発させる方法により溶媒を除去し、ポリマーを固体化できる。コア粒子前駆体として溶融ポリマーを用いた場合、溶融ポリマーを冷却して凝固させて固体化させることができる。
例えば、コア粒子前駆体として重合性モノマー、さらに重合開始剤を含む液滴6がイオン変性繊維2によって被覆され安定化したO/W型エマルションを、攪拌しながら加熱して重合性モノマーを重合し、コア粒子前駆体を固体化する。攪拌の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。具体的には、ディスパーや攪拌子を用いることができる。また、攪拌せずに加熱処理のみでもよい。
加熱時の温度条件については、重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、20℃以上150℃以下が好ましい。加熱時の温度が20℃未満であると重合の反応速度が低下するため好ましくなく、150℃を超えるとイオン変性繊維2が変性する可能性があるため好ましくない。重合反応に供する時間は、重合性モノマーの種類及び重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、通常1時間~24時間程度である。また、重合反応は電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施してもよい。また、電磁波以外にも電子線等の粒子線を用いてもよい。
溶解ポリマーの溶媒を蒸発させる方法としては、具体的には、加熱及び減圧乾燥の一方又は双方により溶媒を蒸発させ、除去する方法が挙げられる。溶媒の沸点が水より低いと、溶媒を選択的に除去することが可能である。特に限定されないが、減圧条件下で加熱することにより効率的に溶媒を除去することができる。加熱温度は20℃以上100℃以下が好ましく、圧力は600mmHg以上750mmHg以下が好ましい。
溶解ポリマーの溶媒を拡散させる方法としては、具体的には、O/W型エマルション液にさらに溶媒や塩の添加により液滴6内部の溶媒を拡散させる方法が挙げられる。親水性溶媒7への溶解性の低い溶媒が経時的に親水性溶媒7相へと拡散して行くことで、溶解ポリマーが析出して粒子として固体化させることができる。
溶融ポリマーを凝固させる方法としては、O/W型エマルション液を冷却することで、溶融ポリマーを凝固させる方法が挙げられる。
上述の工程を経て、コア粒子4がイオン変性繊維2によって被覆された複合粒子8を作製することができる。なお、複合粒子8の生成直後の状態は、複合粒子8の分散液中に多量の水と被覆層20に形成に寄与していない遊離したイオン変性繊維2が混在した状態となっている。
そのため、複合粒子8を回収、精製することが好ましい。回収、精製方法としては、遠心分離による洗浄又はろ過洗浄が好ましい。また、残留溶媒を除去してもよい。
遠心分離による洗浄方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には、遠心分離によって複合粒子8を沈降させて上澄みを除去し、水や水/メタノール混合溶媒に再分散する操作を繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を除去して複合粒子8を回収することができる。ろ過洗浄についても公知の方法を用いることができる。例えば、孔径0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンフィルターを用いて水とメタノールで吸引ろ過を繰り返し、最終的にメンブレンフィルター上に残留したペーストからさらに残留溶媒を除去して複合粒子8を回収することができる。
塩酸等の酸性溶液やアルカリ溶液を用いて複合粒子8を含浸、洗浄することが好ましい。複合粒子8を酸性溶液やアルカリ溶液に含浸、洗浄することで、イオン変性繊維2の対イオンを除去することができる。例えば、酸性溶液で洗浄することにより、アニオン性官能基の対イオンを洗浄し、酸型とすることができる。アニオン性官能基がカルボキシ基であった場合、例えば、pH2.0の塩酸に含浸し、洗浄することでカルボキシ基を塩型(COONa)から酸型(COOH)に置換することができる。イオン性官能基の対イオンを除去することで、複合粒子8に蛍光色素3を吸着しやすくできる。
残留溶媒の除去方法は特に限定されず、風乾やオーブン等による熱乾燥にて実施することが可能である。こうして得られた複合粒子8を含む乾燥固形物は、膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。
<第3-2工程>
第3-2工程は、図4(d)に示すように、複合粒子8に蛍光色素3を含む蛍光色素含有溶液を含浸させて、複合粒子8に蛍光色素3を結合させる工程である。この工程により、蛍光色素吸着複合粒子10(コア粒子4の表面にイオン変性繊維2が被覆され、その表面に蛍光色素3が吸着した粒子)が得られる。
具体的には、第3工程で得られた複合粒子8の分散液中に、蛍光色素3を添加して混合し、複合粒子8に蛍光色素3をイオン結合により吸着させる。
複合粒子8の分散液に蛍光色素3を添加する方法としては、特に限定されないが、予め蛍光色素3を溶媒に溶解させた蛍光色素溶解液を、複合粒子8の分散液に添加して攪拌する方法が挙げられる。蛍光色素3を吸着させる際の複合粒子8の分散液の温度は、5℃以上50℃以下であることが好ましい。
蛍光色素3を結合させる際には、予め複合粒子8のイオン性官能基の対イオンを取り除くことで効率よく蛍光色素3を吸着させることができる。具体的には、イオン性官能基がアニオン性官能基である場合、塩酸等の酸を用いてpHを酸性にした後、余剰な塩を取り除いてから蛍光色素3を吸着させることが好ましい。
特に限定されないが、例えば、複合粒子8をpH2.0の塩酸に含浸後、純水や希薄な酸にて複数回洗浄することで対イオンを取り除くことができる。アニオン性官能基がカルボキシ基であった場合、カルボキシ基をCOOからCOOHの酸型にすることで、効率よく蛍光色素3をカルボキシ基に吸着させることができる。
イオン性官能基がカチオン性であった場合、アルカリを用いてpHをアルカリ性にした後、余剰な塩を取り除いてから蛍光色素3を吸着させることができる。
蛍光色素3を結合させる際の複合粒子8の分散液(複合粒子分散液)における複合粒子8の固形分濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましい。複合粒子8の固形分濃度が上記下限値以上であると、蛍光色素3の吸着効率をより高められる。複合粒子8の固形分濃度が上記上限値以下であると、攪拌しやすく、蛍光色素3を均一に吸着させやすい。
蛍光色素溶解液中の蛍光色素3の濃度は、特に限定されないが、例えば、1μM以上1M以下が好ましい。蛍光色素3の濃度が上記下限値以上であると、複合粒子8の表面のイオン変性繊維2への蛍光色素3の吸着効率をより高められる。蛍光色素3の濃度が上記上限値以下であると、蛍光色素3の溶解性を高められ、複合粒子8の表面のイオン変性繊維2に蛍光色素3を均一に吸着させやすい。
蛍光色素3の複合粒子分散液への添加濃度は、特に限定されないが、例えば、0.1μM以上500mM以下が好ましい。蛍光色素3の添加濃度が上記下限値以上であると、複合粒子8の表面のイオン変性繊維2への蛍光色素3の吸着効率をより高められる。蛍光色素3の添加濃度が上記上限値以下であると、蛍光色素3の溶解性を高められ、複合粒子8の表面のイオン変性繊維2に蛍光色素3を均一に吸着させやすい。
複合粒子8に吸着する蛍光色素3の吸着量は、複合粒子8の乾燥質量1g当たり0.01μmol以上100.0μmol以下が好ましく、0.05μmol以上50.0μmol以下がより好ましい。蛍光色素3の吸着量が上記下限値以上であると、充分な蛍光発光強度が得られる。蛍光色素3の吸着量が上記上限値以下であると、蛍光色素3の分子間同士の会合や凝集を抑制でき、蛍光発光波長の変化を抑制できる。
複合粒子8のイオン性官能基に対する蛍光色素3のイオン吸着量は、特に限定されないが、イオン性官能基量を100mol%とすると、例えば、0.1mol%以上95mol%以下が好ましく、1mol%以上90mol%がより好ましい。蛍光色素3の吸着量が上記下限値以上であると、充分な蛍光発光を示すことができる。蛍光色素3の吸着量が上記上限値以下であると、蛍光色素3の分子間距離を維持でき、蛍光色素3の会合や凝集を抑制でき、蛍光発光が弱くなることや蛍光発光波長のシフトを抑制できる。
なお、複合粒子8に存在するイオン性官能基量は電気伝導度滴定により評価することができる。蛍光色素吸着複合粒子10への蛍光色素3のイオン吸着量は、複合粒子8を酸やアルカリに浸漬して蛍光色素3を脱離させ、吸光度を測定することにより、脱離した蛍光色素3の量を算出して評価することができる。
特に限定されないが、蛍光色素吸着複合粒子10を回収し、精製することが好ましい。回収、精製方法としては、遠心分離による洗浄又はろ過洗浄が好ましい。遠心分離やろ過洗浄により、蛍光色素吸着複合粒子10を回収、精製することで、吸着しなかった余剰な蛍光色素3を取り除くことができる。
遠心分離やろ過に用いる洗浄液のpHは、蛍光色素3とイオン変性繊維2とのイオン結合に影響を与えない範囲であることが好ましい。例えば、イオン変性繊維2のイオン性官能基がカルボキシ基である場合、pHが4.0以上8.0以下であることが好ましい。pHが4.0未満であるとカルボキシ基がCOOH(酸型)となり、蛍光色素3とイオン変性繊維2がイオン結合しにくくなってしまうことがある。洗浄液としては、純水やリン酸緩衝液を用いることができる。
遠心分離による洗浄方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には、遠心分離によって蛍光色素吸着複合粒子10を沈降させて上澄みを除去し、必要に応じて水や緩衝液に再分散させ、再度遠心分離を繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を除去して蛍光色素吸着複合粒子10を回収することができる。
ろ過洗浄についても公知の方法を用いることができる。例えば、孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)メンブレンフィルターを用いて蛍光色素吸着複合粒子10を回収し、必要に応じて水や緩衝液等を用いて洗浄し、最終的にメンブレンフィルター上に残留したペーストからさらに残留溶媒を除去して、蛍光色素吸着複合粒子10を回収することができる。
≪成形体≫
本発明の成形体は、本発明の蛍光色素吸着繊維及び本発明の蛍光色素吸着複合粒子から選ばれる1種以上を含む。
成形体としては、特に限定されず、例えば、フィルム状の成形体、シート状の成形体、カード状の成形体、ブロック状の成形体等が挙げられる。
本発明の成形体の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
例えば、本発明の蛍光色素吸着繊維及び本発明の蛍光色素吸着複合粒子から選ばれる1種以上を含む樹脂を、押出成形、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧空成形、プレス成形等により成形して、成形体を得る方法が挙げられる。
樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂等、公知の樹脂を用いることができる。
例えば、蛍光色素吸着繊維1を単独で用い、シート状の成形体にしてもよい。
また、蛍光色素吸着繊維1及び蛍光色素吸着複合粒子10から選ばれる1種以上を樹脂や紙と混合して成形してもよく、塗工により樹脂や紙等の基材に、蛍光色素吸着繊維1及び蛍光色素吸着複合粒子10から選ばれる1種以上を含む層を形成することもできる。
本発明の蛍光色素吸着繊維によれば、蛍光色素分子間の会合や凝集を抑制し、蛍光色素の脱離を抑制することができる。このため、安定した蛍光発光を有する。その結果、安定した蛍光波長と蛍光発光強度を保つことができる。
例えば、微細繊維の実用化に向けては、得られる微細繊維の分散液の固形分濃度が0.1~5質量%程度と低くなってしまうことが課題となっている。このため、微細繊維の分散体を輸送しようとする場合、大量の溶媒を輸送するに等しいため輸送費の高騰を招き、事業性が著しく損なわれるという問題(溶媒過多の問題)がある。
本発明の蛍光色素吸着複合粒子によれば、微細繊維を固体のまま輸送することができ、大量の溶媒に分散させる必要が無いため、セルロースナノファイバーやキチンナノファイバーを含む微細繊維の溶媒過多の問題を解決できる。加えて、簡便な方法で製造可能な新たな様態の微細繊維を有する蛍光色素吸着複合粒子を提供できる。
コア粒子が蛍光発光をする場合、コア粒子及び表面の蛍光色素による2種類の蛍光発光を有する蛍光色素吸着複合粒子及びその製造方法を提供できる。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成は本実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
また、上述の実施形態において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。
[実施例1]
<第1工程:セルロースナノファイバー水分散液を得る工程>
(木材セルロースのTEMPO酸化)
針葉樹クラフトパルプ70gを蒸留水3500gに懸濁し、蒸留水350gにTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)を0.7g、臭化ナトリウムを7g溶解させた溶液を加え、20℃まで冷却した。ここに2mol/L、密度1.15g/mLの次亜塩素酸ナトリウム水溶液450gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。系内の温度は常に20℃に保ち、反応中のpHの低下は0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加することでpH10に保ち続けた。セルロース(針葉樹クラフトパルプ)の質量に対して、水酸化ナトリウムの添加量の合計が3.0mmol/gに達した時点で、約100mLのエタノールを添加し反応を停止させた。その後、ガラスフィルターを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプ(酸化セルロース)を得た。
(酸化セルロースの解繊処理)
上記TEMPO酸化で得た酸化セルロース0.5gを99.5gの蒸留水に分散させ、ジューサーミキサーで30分間微細化処理し、濃度0.5%のセルロースナノファイバー水分散液を得た。
<セルロースナノファイバーの評価>
得られた酸化セルロース、セルロースナノファイバーについて、カルボキシ基量、結晶化度、短軸の数平均軸径(数平均短軸径)、長軸の数平均軸径(数平均長軸径)、光線透過率及びレオロジーの測定や算出を次のように行った。
(カルボキシ基量の測定)
分散処理前の酸化セルロースについて、カルボキシ基量を以下の方法にて算出した。
酸化セルロースの乾燥質量換算0.2gをビーカーに採り、イオン交換水80mLを添加した。そこに、0.01mol/L塩化ナトリウム水溶液5mLを加え、攪拌しながら、0.1mol/L塩酸を加えて、全体がpH2.8となるように調整した。
そこに、自動滴定装置(商品名:AUT-701、東亜ディーケーケー社製)を用いて、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を0.05mL/30秒で注入し、30秒毎の電導度とpH値を測定し、pH11まで測定を続けた。
得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウムの滴定量を求め、カルボキシ基の含有量(カルボキシ基量)を算出した。結果を表1に示す。
(結晶化度の算出)
TEMPO酸化セルロースの結晶化度を以下の方法にて算出した。
TEMPO酸化セルロースについて、試料水平型多目的X線回折装置(商品名:UltimaIII、Rigaku社製)を用い、X線出力:(40kV、40mA)の条件で、5°≦2θ≦35°の範囲でX線回折パターンを測定した。得られるX線回折パターンはセルロースI型結晶構造に由来するものであるため、下記の式(I)を用い、以下に示す手法により、TEMPO酸化セルロースの結晶化度を算出した。結果を表1に示す。
結晶化度(%)=〔(I22.6-I18.5)/I22.6〕×100・・・(I)
ただし、I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。
(セルロースナノファイバーの短軸及び長軸の数平均軸径の算出)
セルロースナノファイバーの短軸及び長軸の数平均軸径を以下の方法にて算出した。
まず、セルロースナノファイバー水分散液を0.001%となるように希釈した後、マイカ板上に20μLずつキャストして風乾した。乾燥後に原子間力顕微鏡(商品名:AFM5400L、日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、DFMモードでセルロースナノファイバーの形状を観察した。
セルロースナノファイバーの短軸の数平均軸径(数平均短軸径)は、原子間力顕微鏡による観察画像から100本の繊維の短軸径(繊維幅)を測定し、その平均値として求めた。セルロースナノファイバーの長軸の数平均軸径(数平均長軸径)は、原子間力顕微鏡による観察画像から100本の繊維の長軸径(繊維長)を測定し、その平均値として求めた。結果を表1に示す。
(セルロースナノファイバー水分散液の光線透過率の測定)
セルロースナノファイバー0.5質量%の水分散液について、以下の方法にて光線透過率(透過率)を測定した。
石英製のサンプルセルの一方にはリファレンスとして水を入れ、もう一方には気泡が混入しないようにセルロースナノファイバー水分散液を入れた。光路長1cmにおける波長220nmから800nmまでの光線透過率を分光光度計(商品名:NRS-1000、日本分光社製)にて測定した。結果を図5に示す。また、波長660nmにおける光線透過率を表1に示す。
(レオロジー測定)
セルロースナノファイバー0.5質量%の分散液のレオロジーをレオメーター(商品名:AR2000ex、ティー・エイ・インスツルメント社製)傾斜角1°のコーンプレートにて測定した。
測定部を25℃に温度調整し、せん断速度を0.01s-1から1000s-1まで連続的に変化させ、せん断粘度を測定した。その結果を図6に示す。また、せん断速度が10s-1のとき及び100s-1のときのせん断粘度を表1に示す。
Figure 2023163358000004
図5に示すように、セルロースナノファイバー水分散液は高い透明性を示した。また、セルロースナノファイバー水分散液に含まれるセルロースナノファイバー(TEMPO酸化CNF)の数平均短軸径は3nm、数平均長軸径は831nmであった。
図6に示すように、セルロースナノファイバー水分散液は、せん断速度を上げると、せん断粘度が低下した。この結果から明らかなように、セルロースナノファイバー水分散液はチキソトロピック性を示した。
<第2工程:O/W型エマルションを作製する工程>
次に、重合性モノマーであるジビニルベンゼン(以下、DVBとも称する。)10gに対し、重合開始剤である2、2-アゾビス-2、4-ジメチルバレロニトリル(以下、ADVNとも称する。)1gを溶解させて、重合性モノマー混合液を得た。前記重合性モノマー混合液全量を、セルロースナノファイバー水分散液40gに対して添加したところ、重合性モノマー混合液とセルロースナノファイバー水分散液はそれぞれ2相に分離した。
次に、上記2相に分離した状態の混合液における上相の液面から超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
<第3工程:コア粒子前駆体を固体化する工程>
第2工程で得られたO/W型エマルション分散液の全量を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理後に上記分散液を室温(25℃)まで冷却した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。
(洗浄工程)
得られた分散液に対し、遠心力75,000(×g)で遠心分離によって5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径1.0μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水とメタノールで交互に2回ずつ洗浄した(ろ過洗浄)。
(酸洗浄工程)
ろ過洗浄後の沈降物を0.01M(pH2.0)の塩酸に分散させ、1時間撹拌した。その後、孔径0.45μmのPTFEメンブレンフィルターによりろ過し、純水で3回洗浄して、カルボキシ基が酸型(-COOH)の精製・回収物を得た。
(乾燥工程)
酸洗浄後の精製・回収物を1%濃度で再分散させ、粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社製)を用いて粒径を評価した。次に精製・回収物を風乾し、さらに室温25℃にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、肌理細やかな白色の乾燥粉体(複合粒子)を得た。
(走査型電子顕微鏡による形状観察)
得られた乾燥粉体を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。そのSEM画像を図7に示す。O/W型エマルション液滴を鋳型として重合反応を実施したことにより、エマルション液滴の形状に由来した、真球状の粒子が無数に形成していることが確認された。
さらに、図8(a)、図8(b)に示すように、複合粒子の表面は、幅数nmのセルロースナノファイバーによって均一に被覆されていることが確認された。ろ過洗浄によって繰り返し洗浄したにも拘らず、粒子の表面は等しく均一にセルロースナノファイバーによって被覆され、コア粒子とセルロースナノファイバーとは結合しており、不可分の状態にあることが示された。
(分散性の評価)
乾燥粉体を1質量%の濃度で純水に添加し、攪拌子で24時間攪拌して再分散させたところ、容易に再分散し、目視で凝集も見られなかった。また、粒度分布計を用いて粒径を評価したところ、平均粒径は乾燥前と同程度であり、粒度分布計のデータにおいても凝集を示すようなシグナルは存在しなかった。
以上のことから、複合粒子8はその表面がセルロースナノファイバーで被覆されているにもかかわらず、乾燥によって膜化することなく粉体として得られ、かつ再分散性も良好であることが示された。
<第3-2工程:蛍光色素吸着工程>
10mMのアクリジンオレンジ(AO)(富士フイルム和光純薬社製)の水溶液5mLに、0.1gの複合粒子を添加して攪拌した後、一晩放置した。その後、孔径0.45μmのPTFEメンブレンフィルターにてろ過することより粒子を分離した。
(洗浄工程及び乾燥工程)
0.01Mのリン酸緩衝液(pH7.0)5.0mlを添加して粒子を分散させ、メンブレンフィルターによりろ過する工程を4回繰り返し(洗浄工程)、余剰の蛍光色素を取り除き、室温(25℃)で乾燥させた(乾燥工程)。このように、洗浄工程、乾燥工程を経て、複合粒子8の表面に蛍光色素3が吸着した、蛍光色素吸着複合粒子10を得た。
(蛍光観察)
得られた蛍光色素吸着複合粒子10を実体顕微鏡システムSZX16(オリンパス社製)にて、下地を黒とし、接眼レンズ×1(1倍)、対物レンズ×10(10倍)にて試料をスライドガラスに試料を乗せて蛍光観察した。蛍光観察は、GFPフィルター(励起:450nm~500nm、発光:500nm~)、UVフィルター(励起:300nm~400nm、発光:400nm~)を用いて観察し、外部の蛍光灯の光が入らないように紙で実体顕微鏡システムを覆いながら評価した。GFPフィルター条件ではヒストグラム100~255の色調範囲で観察し、UVフィルターではヒストグラム0~125の色調範囲で観察した。結果を図9に示す。
図9(a)に示すように、蛍光色素吸着色素10は、GFPフィルター条件にてAOに由来する緑色発光が確認できた。また、図9(b)に示すように、UVフィルター条件にて、コア粒子4のベンゼン環に由来する青い蛍光発光を確認できた。
(発光波長の評価)
蛍光スペクトル測定装置にて試料の蛍光スペクトルを測定した。実体顕微鏡システムSZX16(オリンパス社製)のGFPフィルターを通した光源をスライドガラスに乗せた試料に照射し、ファイバー式の小型光学分光器USB2000+(OceanOptics社製)を用いて蛍光スペクトルを測定した。実体顕微鏡システムの下地を黒とし、外部の蛍光灯の光が入らないように暗幕カーテンで実体顕微鏡システムを覆いながら評価した。
試料(蛍光色素吸着複合粒子10)の蛍光色素由来の極大蛍光波長をλ1、蛍光色素固体試薬由来の極大蛍光波長をλ2、蛍光色素水溶液の極大蛍光波長をλ3とする。試料(蛍光色素吸着複合粒子10)から蛍光色素由来のλ1を算出する方法としては、蛍光色素3を吸着した試料(蛍光色素吸着複合粒子10)の蛍光強度の値から、蛍光色素3を吸着していない試料(複合粒子8)の蛍光強度の値を減じて算出した。その結果、10μMの蛍光色素水溶液の極大蛍光波長λ3は530nmであり、低濃度の蛍光色素水溶液では短波長の蛍光を示したのに対し、蛍光色素固体試薬の極大蛍光波長λ2は700nmと長波長であり、蛍光色素分子同士が会合していることが示唆された。一方で、試料(蛍光色素吸着複合粒子10)の蛍光色素由来の極大蛍光波長λ1は550nmであり、『50nm≦(λ2-λ1)』、『-100nm≦(λ3-λ1)≦100nm』となった。この結果は、蛍光色素吸着複合粒子10の蛍光色素由来の蛍光は、10μMの蛍光色素水溶液の蛍光発光と同様に短波長であり、蛍光色素の会合や凝集を抑制できていることを示す。
[実施例2]
実施例1において、TEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた特許文献2に従いカルボキシメチル化(以下、CM化とも称する。)処理を行って得られたCM化CNF分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子10を作製した。
CM化CNFの結晶化度は50%以上であった。
[実施例3]
実施例1において、TEMPO酸化の代わりに、先行技術文献として挙げた非特許文献1に従いリン酸エステル化処理を行って得られたリン酸エステル化CNF分散液を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子10を作製した。
リン酸エステル化CNFの結晶化度は50%以上であった。
[実施例4~7]
TEMPO酸化パルプを塩酸で洗浄してカルボキシ基を酸型(-COOH)とした後、カルボキシ基と等モル量のテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)を添加し、対イオンをテトラブチルアンモニウム(TBA)イオンとしてから解繊した点と、ジビニルベンゼン(DVB)に代えて、以下のモノマー・オリゴマーをコア粒子前駆体とした点を除き、実施例1と同様の手順で実施例4から実施例7にかかる蛍光色素吸着複合粒子10を作製した。
・実施例4:単官能性アクリレートであるイソボニルメタクリレート(IB-X)。
・実施例5:単官能性アクリレートであるイソボニルアクリレート(IB-XA)。
・実施例6:単官能性ビニルモノマーであるp-メチルスチレン(p-MeSt)。
・実施例7:二官能性ウレタンアクリレートオリゴマー(UA4200)。
[実施例8]
<第1工程:セルロースナノファイバー水分散液を得る工程>
実施例1と同様の条件でセルロースナノファイバー水分散液を得た。
<第2工程:O/W型エマルションを作製する工程>
次に、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL、富士フイルム和光純薬社製)10gを200gの酢酸エチルに溶解して溶解ポリマーを調製した。
溶解ポリマー全量を、0.5質量%のセルロースナノファイバー水分散液500gに対し添加したところ、溶解ポリマーとセルロースナノファイバー水分散液とは、それぞれ2相に分離した。
次に、上記2相に分離した状態の混合液における上層の液面から超音波ホモジナイザーを用いて実施例1の第2工程と同様に超音波ホモジナイザー処理した。光学顕微鏡にて1~数十μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
<第3工程:コア粒子前駆体を固体化する工程>
上記O/W型エマルション液を700mmHgの減圧条件下で、40℃で3時間減圧乾燥して酢酸エチルを完全に揮発させた。酢酸エチルの揮発前後で分散液の外観に変化はなかった。
得られた分散液を実施例1と同様の条件で洗浄及び酸洗浄したところ、1~数十μm程度の粒子径の球状の複合粒子8が得られた。実施例1と同様の条件で回収物を乾燥したところ、白色の肌理細やかな乾燥粉体を得た。
<第3-2工程:蛍光色素吸着工程>
実施例1と同様の条件で蛍光色素を吸着させた。
(洗浄工程及び乾燥工程)
実施例1と同様の条件で粒子を洗浄し、乾燥して、蛍光色素吸着複合粒子10を作製した。
[実施例9]
実施例1において、AO水溶液の代わりにローダミン6G(Rh6G)(東京化成工業社製)水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子10を作製した。
[実施例10]
実施例1において、AO水溶液の代わりに4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)(Sigma aldrich社製)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子10を作製した。
[実施例11]
実施例1において、AO水溶液の代わりにチオフラビンT(TT)(東京化成工業社製)を用いた以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子10を作製した。
[実施例12]
実施例1において、第1工程においてTEMPO酸化パルプを解繊せずに、TEMPO酸化パルプを塩酸に浸漬し、純水で3回洗浄してカルボキシ基を酸型(-COOH)とした後、第2工程、第3工程を行わず、第3-2工程において複合粒子の代わりにTEMPO酸化パルプ乾燥質量0.05gを0.1mMのAO水溶液5mLに添加して攪拌した以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着繊維1を作製した。
[実施例13]
実施例1において、第2工程、第3工程を行わず、第1工程において得られたセルロースナノファイバーの分散液をプラスチックケースにキャストし、30℃で乾燥させてセルロースナノファイバーフィルムを得た。このフィルムを塩酸に浸漬し、純水で3回洗浄してカルボキシ基を酸型(-COOH)とした後、第3-2工程において複合粒子の代わりに乾燥質量0.05gのセルロースナノファイバーフィルムを0.1mMのAO水溶液5mLに添加して攪拌した以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着繊維1の成形体を作製した。
[実施例14]
実施例12において、TEMPO酸化の代わりに、国際公開第2014/088072号の記載に従いカルボキシメチル化(以下、CM化とも称する。)処理を行って得られたCM化パルプを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着繊維1を作製した。
[実施例15]
実施例12において、TEMPO酸化の代わりに、非特許文献(Noguchi Y, Homma I, Matsubara Y. Complete nanofibrillation of cellulose prepared by phosphorylation. Cellulose. 2017;24:1295.10.1007/s10570-017-1191-3)の記載に従いリン酸エステル化処理を行って得られたリン酸エステル化パルプを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着繊維1を作製した。
[実施例16]
実施例12において、AO水溶液の代わりにRh6Gの水溶液を用いた以外は、実施例12と同様の条件で蛍光色素吸着繊維1を作製した。
[実施例17]
実施例12において、AO水溶液の代わりにDAPIの水溶液を用いた以外は、実施例12と同様の条件で蛍光色素吸着繊維1を作製した。
[実施例18]
実施例12において、AO水溶液の代わりにTTの水溶液を用いた以外は、実施例12と同様の条件で蛍光色素吸着繊維1を作製した。
[実施例19]
実施例1において、酸洗浄工程を行わなかった以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子10を作製した。
[実施例20]
実施例19において、TEMPO酸化の代わりに、特開2010-180309号公報の記載に従う方法で得られたキチンナノファイバー(以下、キチンNFとも称する)分散液を用い、AO水溶液の代わりにピラニン(Py)(富士フイルム和光純薬社製)の水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の条件で蛍光色素吸着複合粒子10を作製した。
キチンNFの結晶化度は50%以上であった。
上述の実施例1~20について、以下の各評価を実施した。
[比較例1]
AOの固体試薬単体(固体、富士フイルム和光純薬社製)について、以下の各評価を実施した。
[比較例2]
Rh6Gの固体試薬単体(固体、東京化成工業社製)について、以下の各評価を実施した。
[比較例3]
実施例1において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりに純水を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で粒子の作製を試み、以下の各評価を実施した。
[比較例4]
実施例1において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりにポリビニルアルコール(PVA)水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で粒子の作製を試み、以下の各評価を実施した。
[比較例5]
実施例1において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりにカルボキシメチルセルロース(以下、CMCとも称する。)水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で粒子の作製を試み、以下の各評価を実施した。
[比較例6]
実施例4において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりにCMC水分散液を用いたこと以外は、実施例4と同様の条件で粒子の作製を試み、以下の各評価を実施した。
[比較例7]
市販のスチレン-ジビニルベンゼン共重合マイクロビーズ(粒子径4.5μm、テクノケミカル社製)と球状銀微粒子(粒子径10nm、Sigma aldrich社製)の混合物乾燥粉体(従来のポリマー粒子)について、実施例1と同様に以下の各評価を実施した。
[比較例8]
実施例13において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりにポリビニルアルコール(PVA)水溶液を用いたこと以外は、実施例13と同様の条件で成形体の作製を試み、以下の各評価を実施した。
[比較例9]
実施例13において、TEMPO酸化CNF分散液の代わりにカルボキシメチルセルロース(以下、CMCとも称する。)水溶液を用いたこと以外は、実施例13と同様の条件で成形体の作製を試み、以下の各評価を実施した。
[比較例10]
実施例1において得られた蛍光色素吸着複合粒子10を0.01Mの塩酸(pH2.0)15mlに浸漬して1時間放置後、ろ過により粒子を回収し、乾燥した以外は、実施例1と同様の条件で以下の各評価を実施した。
<評価方法>
(複合粒子の作製可否評価)
各例で得られた乾燥粉体を走査型電子顕微鏡にて観察した。複合粒子の作製可否は、走査型電子顕微鏡による形状観察により、下記評価基準に基づいて判断した。
《評価基準》
○:真球状の粒子が得られ、最大粒子径が1000μm以下であり、かつ、粒子の表面にセルロースナノファイバーが被覆されている。
×:上記のすべての要件を満たす粒子が得られない。
(分散性の評価)
各例で得られた乾燥粉体を1質量%の濃度で純水に添加し、攪拌子で24時間攪拌して分散させ、目視で凝集物の有無を確認した。分散性を下記評価基準に基づいて評価した。
《評価基準》
○:凝集物が無い。
×:凝集物がある。
(蛍光発光強度の評価)
各例で得られた乾燥粉体又は吸着に使用した色素固体試薬(以下、「試料」ともいう)を蛍光顕微鏡にて観察した。実体顕微鏡システムSZX16(オリンパス社製)にて、下地を黒とし、接眼レンズ×1(1倍)、対物レンズ×10(10倍)にてスライドガラスに載せた試料の蛍光観察を行った。蛍光観察は、GFPフィルター(励起:450nm~500nm、発光:500nm~)又はUVフィルター(励起:300nm~400nm、発光:400nm~)を用いて行い、外部の蛍光灯の光が入らないように紙で実体顕微鏡システムを覆って評価した。GFPフィルター条件ではヒストグラム100~255の色調範囲で観察し、UVフィルターではヒストグラム0~125の色調範囲で、露出時間1000msの条件で観察した。蛍光発光の有無を確認し、蛍光発光強度を下記評価基準に基づいて評価した。
《評価基準》
○:蛍光発光がある。
×:蛍光発光が無い。
(蛍光波長の評価)
各例の試料の蛍光スペクトルを、蛍光スペクトル測定装置にて測定した。実体顕微鏡システムSZX16(オリンパス社製)のGFPフィルターを通した光源をスライドガラスに載せた試料に照射し、ファイバー式の小型光学分光器USB2000+(OceanOptics社製)を用いて蛍光スペクトルを測定した。実体顕微鏡システムの下地を黒とし、外部の蛍光灯の光が入らないように暗幕カーテンで実体顕微鏡システムを覆いながら蛍光スペクトルを測定した。
測定した試料の蛍光色素由来の極大蛍光波長をλ1、蛍光色素固体試薬単体の極大蛍光波長をλ2、10μMの蛍光色素水溶液の極大蛍光波長をλ3とした。試料から蛍光色素由来のλ1を算出する際は、蛍光色素を吸着した試料の蛍光強度の値から、蛍光色素を吸着していない試料の蛍光強度の値を減じて算出した。各試料の(λ2-λ1)、(λ3-λ1)をそれぞれ算出し、下記式(II)及び下記式(III)の関係を満たすか確認した。蛍光波長を下記評価基準に基づいて評価した。
50nm≦(λ2-λ1) ・・・(II)
-100nm≦λ3-λ1≦100nm ・・・(III)
《評価基準》
○:式(II)及び式(III)の関係を満たす。
×:式(II)又は式(III)の関係を満たさない。
以上の各例の試料の作製に用いた原料等を表2にまとめて示す。表2中、「対イオン」は、セルロースナノファイバーのカルボキシ基の対イオンを示す。表2中、斜線は、その成分を含有しないことを示す。
Figure 2023163358000005
上記<評価方法>の評価結果を表3にまとめて示す。表3中、斜線は、その評価を実施しなかったことを示す。
Figure 2023163358000006
表3に示すように、本発明を適用した実施例1では、DVBモノマーの重合物をコア粒子とする粒子径の均一な真球状の複合粒子を作製できた。この複合粒子は、TEMPO酸化CNF(イオン変性繊維)で被覆されており、分散性が良好であった。この複合粒子に蛍光色素であるAOを吸着させたところ、図9(a)に示すように、GFPフィルター条件にて蛍光発光を確認でき、充分な蛍光発光強度であり、緑色の蛍光発光を示した。
また、図9(b)に示すように、UVフィルター条件にて蛍光発光を観察したところ、コア粒子のベンゼン環由来の青色の蛍光発光が確認された。実施例1の試料の蛍光スペクトルを測定した結果、蛍光色素由来の極大蛍光波長(λ1)は600nm以下であった。
一方、比較例1のAO固体試薬単体の蛍光スペクトルを測定したところ、極大蛍光波長(λ2)は700nmであり、AO固体試薬単体に対して、実施例1の試料の極大蛍光波長は50nm以上短波長であった。また、10μMのAO水溶液の極大蛍光波長(λ3)は530nmであり、実施例1の試料の極大蛍光波長との差は100nm以下であり、実施例1においては、蛍光色素の会合や凝集が抑制できていることが示唆された。
比較例10では、実施例1の蛍光色素吸着粒子を酸で洗浄したところ、図10(a)に示すように、GFPフィルター条件では蛍光発光が確認できなくなった。酸で洗浄することによりイオン変性繊維の表面のカルボキシ基が酸型(-COOH型)となり、AOが脱離することにより、蛍光発光が見られなくなったと考えられる。
実施例12のように、イオン変性繊維であるTEMPO酸化パルプにAOを吸着させたところ、実施例1と同様に、充分な蛍光発光強度であり、緑色の蛍光発光を確認できた。蛍光スペクトルを測定したところ、実施例12の試料のAO由来の極大蛍光波長(λ1)は、AO固体試薬単体に対して50nm以上短波長であり、10μMのAO水溶液の極大蛍光波長(λ3)との差は100nm以下であった。
実施例2~11は、イオン変性繊維の種類(TEMPO酸化CNF、CM化CNF、リン酸エステル化CNF)によらず、粒子径の均一な真球状の複合粒子を作製できた。この複合粒子のコア粒子は、各種モノマーの重合物や生分解性ポリマーを含むものであった。この複合粒子の表面は、イオン変性繊維で被覆されていた。この複合粒子に蛍光色素を吸着させると、イオン変性繊維やコア粒子、蛍光色素の種類によらず、分散性が良好であった。
さらに、イオン変性繊維やコア粒子、蛍光色素の種類によらず、蛍光色素の会合や凝集が抑制され、充分な蛍光発光強度を有し、蛍光発光のシフトを抑制した蛍光色素吸着複合粒子を得ることができた。
実施例12~18は、イオン変性繊維や蛍光色素の種類によらず、蛍光色素の会合や凝集が抑制され、充分な蛍光発光強度を有し、蛍光発光のシフトを抑制した蛍光色素吸着繊維を得ることができた。
実施例19のように、酸洗浄を行わなくても蛍光色素を吸着させることができた。この複合粒子においても、分散性が良好であり、充分な蛍光発光強度を有し、蛍光発光のシフトを抑制できた。
実施例20のように、チキンNFにおいても、粒子径の均一な真球状の複合粒子を作製でき、アニオン性の蛍光色素を吸着させることができた。この蛍光色素吸着複合粒子は、分散性が良好であり、また、蛍光色素の会合や凝集が抑制され、充分な蛍光発光強度を有し、蛍光発光のシフトを抑制できた。
これに対して、イオン変性繊維を含有しない比較例1~2は、充分な蛍光発光を示したが、蛍光色素の会合により、極大蛍光波長(λ1)は、10μMの色素水溶液の極大蛍光波長(λ3)に対して100nm以上長波長であった。
イオン変性繊維を含有しない比較例3~6は、最大粒子径が1000μm以下で、かつ、真球状の複合粒子は得られなかった。
イオン変性繊維を含有しない比較例3及び比較例7、イオン性官能基を有しておらず、繊維状でないポリマーを用いた比較例4及び比較例8は、イオン変性繊維が存在しないため、蛍光色素が吸着しにくく、蛍光発光を検出できなかった。
イオン性官能基を有するが、繊維状でないポリマーを用いた比較例5~6、及び比較例9は、蛍光発光を確認できたが、その極大蛍光波長は10μMの色素水溶液に対して100nm以上長波長にシフトしており、蛍光色素が会合していることが示唆された。
本発明の蛍光色素吸着繊維及び蛍光色素吸着複合粒子によれば、蛍光色素の会合や凝集を防ぐことにより、蛍光色素分子本来の蛍光発光を安定して発揮することが可能である。このため、蛍光色素吸着繊維及び蛍光色素吸着複合粒子から選ばれる1種以上を含む成形体を、偽造防止等のセキュリティ部材等として使用できる。
本発明の蛍光色素吸着複合粒子によれば、セルロースナノファイバーの溶媒過多の問題を解決すると共に、簡便な方法で製造可能な新たな様態の微細繊維を有する蛍光色素吸着複合粒子を提供することができる。セルロースナノファイバーは生分解性ポリマーであるセルロースから構成される。よって、コア粒子も生分解性ポリマーを含む材料で構成することにより、環境への負荷を低減し、マイクロプラスチック問題を解決し得る蛍光色素吸着複合粒子を提供することができる。
また、イオン変性繊維を用いることで界面活性剤等の添加物を用いることなく、安定した液滴を形成するため、粒子径分布の小さい真球状の蛍光色素吸着複合粒子を得ることができる。
1 蛍光色素吸着繊維
2 イオン変性繊維
3 蛍光色素
4 コア粒子
6 液滴
7 親水性溶媒
8 複合粒子
10 蛍光色素吸着複合粒子
20 被覆層(繊維層)

Claims (18)

  1. イオン性官能基を有するイオン変性繊維と、
    蛍光色素と、を有し、
    前記イオン性官能基の全部又は一部が、前記蛍光色素と結合する反応により変性されている、蛍光色素吸着繊維。
  2. 前記イオン性官能基の含有量が、蛍光色素吸着繊維の乾燥質量に対して0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下である、請求項1に記載の蛍光色素吸着繊維。
  3. 前記蛍光色素の結合量が、蛍光色素吸着繊維の乾燥質量に対して0.01mmol/g以上3.0mmol/g以下である、請求項1又は2に記載の蛍光色素吸着繊維。
  4. 前記イオン変性繊維における繊維が、セルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の蛍光色素吸着繊維。
  5. 前記イオン性官能基が、カルボキシ基、リン酸基及びスルホ基から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の蛍光色素吸着繊維。
  6. 前記蛍光色素が、アニオン性の色素又はカチオン性の色素を有する、請求項1又は2に記載の蛍光色素吸着繊維。
  7. 前記蛍光色素が、シアニン骨格、キサンテン骨格、オキサジン骨格、アクリジン骨格、ジフェニルメタン骨格、チアゾール骨格、インドール骨格、エチジウム骨格及びプロピジウム骨格から選ばれる1種以上を有する、請求項1又は2に記載の蛍光色素吸着繊維。
  8. 請求項1又は2に記載の蛍光色素吸着繊維と、少なくとも1種のポリマーを含むコア粒子と、を有する蛍光色素吸着複合粒子であって、
    前記蛍光色素吸着繊維が、前記コア粒子の表面に結合されている、蛍光色素吸着複合粒子。
  9. イオン性官能基の含有量が、蛍光色素吸着複合粒子の乾燥質量に対して0.01μmol/g以上100μmol/g以下である、請求項8に記載の蛍光色素吸着複合粒子。
  10. 固形分率が80質量%以上である、請求項8に記載の蛍光色素吸着複合粒子。
  11. 蛍光色素の結合量が、蛍光色素吸着複合粒子の乾燥質量に対して0.1μmol/g以上100μmol/g以下である、請求項8に記載の蛍光色素吸着複合粒子。
  12. 前記ポリマーが少なくとも一部にベンゼン環構造を有する、請求項8に記載の蛍光色素吸着複合粒子。
  13. 前記ポリマーが生分解性ポリマーである、請求項8に記載の蛍光色素吸着複合粒子。
  14. 平均粒径が0.05μm以上1000μm以下である、請求項8に記載の蛍光色素吸着複合粒子。
  15. 前記コア粒子が蛍光発光を有する、請求項8に記載の蛍光色素吸着複合粒子。
  16. 請求項1に記載の蛍光色素吸着繊維及び請求項8に記載の蛍光色素吸着複合粒子から選ばれる1種以上を含む、成形体。
  17. 溶媒中で繊維原料にイオン性官能基を導入してイオン変性繊維分散液を得る工程と、
    前記イオン変性繊維分散液に蛍光色素を含む蛍光色素含有溶液を添加して前記蛍光色素を前記イオン性官能基の全部又は一部に結合させる工程と、
    を有する、蛍光色素吸着繊維の製造方法。
  18. 溶媒中で繊維原料にイオン性官能基を導入してイオン変性繊維分散液を得る工程と、
    前記イオン変性繊維分散液にコア粒子前駆体を含む液滴を添加し、前記液滴の表面をイオン変性繊維で被覆する工程と、
    前記コア粒子前駆体を固体化して、コア粒子の表面を前記イオン変性繊維で被覆した複合粒子を得る工程と、
    前記複合粒子に蛍光色素を含む蛍光色素含有溶液を含浸させて、前記複合粒子に前記蛍光色素を結合させる工程と、
    を有する、蛍光色素吸着複合粒子の製造方法。
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