JP2020078341A - フィブロイン様タンパク質の製造法 - Google Patents
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Abstract
【課題】フィブロイン様タンパク質の製造法を提供する。【解決手段】フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子を有するエシェリヒア・コリを培地で培養すること、フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子の発現を誘導すること、およびフィブロイン様タンパク質を採取することを含む、フィブロイン様タンパク質の製造法であって、前記発現誘導後の菌体増殖が低減されていることを特徴とする方法により、フィブロイン様タンパク質を製造する。【選択図】図3
Description
本発明は、エシェリヒア・コリを利用した異種発現によるフィブロイン様タンパク質の製造法に関する。
フィブロインは、クモの糸やカイコの糸を構成する繊維状タンパク質である。クモの糸は、鋼鉄の4倍という高い強度と炭素繊維やアラミド繊維を凌ぐ高い靱性を有し、且つ、伸縮性や耐熱性も兼ね備える材料である。そのため、その構成成分であるフィブロインまたはそれに準ずる構造を有する繊維状タンパク質(以下、総称して「フィブロイン様タンパク質」ともいう)の大量生産が望まれている。
フィブロイン様タンパク質の生産については、エシェリヒア・コリを利用した異種発現の報告がある(特許文献1、2)。
エシェリヒア・コリを利用したタンパク質の異種発現において、菌体の比増殖速度が異種タンパク質の比生産速度と相関するという報告がある。しかしながら、例えば、エシェリヒア・コリによるTrpA1タンパク質の比生産速度は比増殖速度が高い程向上するが(非特許文献1)、エシェリヒア・コリによるβ-lactamaseの比生産速度は比増殖速度が高い程低下する(非特許文献2)と報告されている。また、エシェリヒア・コリによるインターフェロンα1の生産量は、グルコース制限による生育速度低下により増大するが、リン酸制限には影響されないとの報告がある(非特許文献3)。また、エシェリヒア・コリによる組換えインターフェロンαの収率は、発現誘導前の比増殖速度が高い程増加するとの報告がある(非特許文献4)。また、エシェリヒア・コリによるヒト成長ホルモン(hGH)の発現量は、リン酸枯渇により2倍に増加との報告がある(非特許文献5)。このように、菌体の比増殖速度や培地成分の制限と、異種タンパク質の比生産速度との間には、一貫した関連性は認められない。
R. Siegel and D. D. Y. Ryu, Biotechnol. Bioeng., 27: 28-33 (1985).
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Bech Jensen, E. and Carlsen, S. Bio technol. Bioeng. 36: 1-11. 1990.
本発明は、効率的なフィブロイン様タンパク質の製造法を提供することを課題とする。
本願発明者らは、鋭意検討の結果、エシェリヒア・コリによるフィブロイン様タンパク質の異種発現の際に、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減することにより、フィブロイン様タンパク質の生産が向上することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下のとおり例示できる。
[1]
フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子を有するエシェリヒア・コリを培地で培養すること、
フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子の発現を誘導すること、および
フィブロイン様タンパク質を採取することを含む、フィブロイン様タンパク質の製造法であって、
前記発現誘導後の菌体増殖が低減されていることを特徴とする、方法。
[2]
前記発現誘導後において、菌体増加割合、菌体増加割合の傾き、および累積比増殖速度から選択される1またはそれ以上が低下している、前記方法。
[3]
前記発現誘導後の期間に生育因子制限下で培養が行われることにより、前記発現誘導後の菌体増殖が低減された、前記方法。
[4]
前記生育因子が、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、ミネラル、および栄養要求性により要求される栄養素から選択される1またはそれ以上の成分である、前記方法。
[5]
前記生育因子が、炭素源、有機窒素源、およびリン酸源から選択される1またはそれ以上の成分である、前記方法。
[6]
培養開始時における前記生育因子の培地中での濃度を低減することにより、生育因子が制限された、前記方法。
[7]
前記発現誘導後の期間における前記生育因子の流加量を低減することにより、生育因子が制限された、前記方法。
[8]
前記発現誘導後の期間に流加される流加培地中の全成分に対する前記生育因子の比率が30%(w/w)未満である、前記方法。
[9]
前記発現誘導後の期間に流加される流加培地中の全成分に対する炭素源の比率が70%(w/w)以上である、前記方法。
[10]
前記発現誘導後の期間に累積比炭素源消費速度が0.35g/g/hr以下となるように培養が行われる、前記方法。
[11]
前記発現誘導前の期間に菌体を十分に増殖させることにより、前記発現誘導後の菌体増殖が低減された、前記方法。
[1]
フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子を有するエシェリヒア・コリを培地で培養すること、
フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子の発現を誘導すること、および
フィブロイン様タンパク質を採取することを含む、フィブロイン様タンパク質の製造法であって、
前記発現誘導後の菌体増殖が低減されていることを特徴とする、方法。
[2]
前記発現誘導後において、菌体増加割合、菌体増加割合の傾き、および累積比増殖速度から選択される1またはそれ以上が低下している、前記方法。
[3]
前記発現誘導後の期間に生育因子制限下で培養が行われることにより、前記発現誘導後の菌体増殖が低減された、前記方法。
[4]
前記生育因子が、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、ミネラル、および栄養要求性により要求される栄養素から選択される1またはそれ以上の成分である、前記方法。
[5]
前記生育因子が、炭素源、有機窒素源、およびリン酸源から選択される1またはそれ以上の成分である、前記方法。
[6]
培養開始時における前記生育因子の培地中での濃度を低減することにより、生育因子が制限された、前記方法。
[7]
前記発現誘導後の期間における前記生育因子の流加量を低減することにより、生育因子が制限された、前記方法。
[8]
前記発現誘導後の期間に流加される流加培地中の全成分に対する前記生育因子の比率が30%(w/w)未満である、前記方法。
[9]
前記発現誘導後の期間に流加される流加培地中の全成分に対する炭素源の比率が70%(w/w)以上である、前記方法。
[10]
前記発現誘導後の期間に累積比炭素源消費速度が0.35g/g/hr以下となるように培養が行われる、前記方法。
[11]
前記発現誘導前の期間に菌体を十分に増殖させることにより、前記発現誘導後の菌体増殖が低減された、前記方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
<1>フィブロイン様タンパク質
本発明において、「フィブロイン様タンパク質」とは、フィブロインおよびそれに準ずる構造を有する繊維状タンパク質の総称である。
本発明において、「フィブロイン様タンパク質」とは、フィブロインおよびそれに準ずる構造を有する繊維状タンパク質の総称である。
「フィブロイン」とは、クモの糸やカイコの糸を構成する繊維状タンパク質である。すなわち、フィブロインとしては、クモのフィブロインやカイコのフィブロインが挙げられる。クモの種類、カイコの種類、糸の種類は、特に制限されない。クモとしては、ニワオニグモ(Araneus diadematus)やアメリカジョロウグモ(Nephila clavipes)が挙げられる。クモのフィブロインとしては、大瓶状腺で産生するしおり糸、枠糸、縦糸のタンパク質(大瓶状腺タンパク質)、小瓶状腺で産生する足場糸のタンパク質(小瓶状腺タンパク質)、鞭状腺で産生する横糸のタンパク質(鞭状腺タンパク質)が挙げられる。クモのフィブロインとして、具体的には、例えば、ニワオニグモの大瓶状腺タンパク質ADF3およびADF4や、アメリカジョロウグモの大瓶状腺タンパク質MaSp1およびMaSp2が挙げられる。カイコとしては、家蚕(Bombyx mori)やエリ蚕(Samia cynthia)が挙げられる。これらフィブロインのアミノ酸配列、及びこれらフィブロインをコードする遺伝子(「フィブロイン遺伝子」ともいう)の塩基配列は、例えば、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等の公用データベースから取得できる。ニワオニグモのADF3(partial;NCBI AAC47010.1 GI:1263287)のアミノ酸配列を配列番号3に示す。すなわち、フィブロイン様タンパク質は、例えば、上記データベースに開示されたフィブロインのアミノ酸配列(例えば配列番号3)を有するタンパク質であってよい。また、フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子(「フィブロイン様タンパク質遺伝子」ともいう)は、例えば、上記データベースに開示されたフィブロイン遺伝子の塩基配列を有する遺伝子であってよい。なお、「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」場合および当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合を包含する。
「フィブロインに準ずる構造を有する繊維状タンパク質」とは、フィブロインが有する反復配列と同様の配列を有する繊維状タンパク質をいう。「フィブロインが有する反復配列と同様の配列」とは、実際にフィブロインが有する配列であってもよく、それと類似する配列であってもよい。フィブロインに準ずる構造を有する繊維状タンパク質としては、WO2012/165476に記載の大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチドや、WO2006/008163に記載の組換えスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。
すなわち、「フィブロインが有する反復配列と同様の配列」としては、下記式Iに示される配列(以下、「反復配列I」ともいう)が挙げられる(WO2012/165476):
REP1−REP2 ・・・(I)
REP1−REP2 ・・・(I)
式I中、REP1は、アラニン及びグリシンから選択される1またはそれ以上のアミノ酸の連続配列からなるアミノ酸配列である。REP1がアラニン及びグリシンの両方を含む場合、アラニン及びグリシンの順番は特に制限されない。例えば、REP1において、アラニンが2残基またはそれ以上連続していてもよく、グリシンが2残基またはそれ以上連続していてもよく、アラニン及びグリシンが交互に並んでいてもよい。REP1の長さは、例えば、2残基以上、3残基以上、4残基以上、または5残基以上であってもよく、20残基以下、16残基以下、12残基以下、または8残基以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。REP1の長さは、例えば、2〜20残基、3〜16残基
、4〜12残基、または5〜8残基であってよい。REP1は、例えば、クモのフィブロインにおいて、繊維内で結晶βシートを形成する結晶領域に相当する。
、4〜12残基、または5〜8残基であってよい。REP1は、例えば、クモのフィブロインにおいて、繊維内で結晶βシートを形成する結晶領域に相当する。
式I中、REP2は、グリシン、セリン、グルタミン、及びアラニンから選択される1またはそれ以上のアミノ酸を含むアミノ酸配列である。REP2において、グリシン、セリン、グルタミン、及びアラニンの合計残基数は、例えば、REP2の総アミノ酸残基数の40%以上、60%以上、または70%以上であってよい。REP2の長さは、例えば、2残基以上、10残基以上、または20残基以上であってもよく、200残基以下、150残基以下、100残基以下、または75残基以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。REP2の長さは、例えば、2〜200残基、10〜150残基、20〜100残基、または20〜75残基であってよい。REP2は、例えば、クモのフィブロインにおいて、柔軟性があり大部分が規則正しい構造を欠いている無定型領域に相当する。
反復配列Iの反復回数は、特に制限されない。反復配列Iの反復回数は、例えば、2以上、5以上、または10以上であってもよく、100以下、50以下、または30以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。REP1およびREP2の構成は、いずれも、各反復において同一であってもよく、そうでなくてもよい。
フィブロインに準ずる構造を有する繊維状タンパク質は、フィブロインが有する反復配列と同様の配列に加えて、例えば、C末端にクモのフィブロインのC末端付近のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有していてもよい。クモのフィブロインのC末端付近のアミノ酸配列としては、例えば、クモのフィブロインのC末端50残基のアミノ酸配列、C末端50残基からC末端20残基を除去したアミノ酸配列、C末端50残基からC末端29残基を除去したアミノ酸配列が挙げられる。クモのフィブロインのC末端付近のアミノ酸配列として、具体的には、例えば、配列番号3に示すニワオニグモのADF3(partial;NCBI AAC47010.1 GI:1263287)の587〜636位(C末端50残基)の配列、587〜616位の配列、587〜607位の配列が挙げられる。
フィブロインが有する反復配列と同様の配列を有し、且つ、C末端にクモのフィブロインのC末端付近のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する繊維状タンパク質として、具体的には、例えば、WO2012/165476A1の配列番号10に記載の塩基配列を有する遺伝子にコードされるタンパク質が挙げられる。同遺伝子の塩基配列を配列番号1に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
フィブロイン様タンパク質は、元の機能が維持されている限り、上記例示したフィブロイン様タンパク質(すなわち、上記例示したフィブロインまたはそれに準ずる構造を有する繊維状タンパク質)のバリアントであってもよい。同様に、フィブロイン様タンパク質遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したフィブロイン様タンパク質遺伝子(すなわち、上記例示したフィブロインまたはそれに準ずる構造を有する繊維状タンパク質をコードする遺伝子)のバリアントであってもよい。なお、このような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示したフィブロイン様タンパク質やそれをコードする遺伝子のホモログや人為的な改変体が挙げられる。
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子やタンパク質のバリアントが、元の遺伝子やタンパク質の機能(活性や性質)に対応する機能(活性や性質)を有することをいう。すなわち、「元の機能が維持されている」とは、フィブロイン様タンパク質にあっては、タンパク質のバリアントが繊維状タンパク質であることをいう。また、「元の機能が維持されている」とは、フィブロイン様タンパク質遺伝子にあっては、遺伝子のバリアントが
、元の機能が維持されたタンパク質(すなわち繊維状タンパク質)をコードすることをいう。「繊維状タンパク質」とは、所定の条件下で繊維状の形態を取るタンパク質をいう。すなわち、繊維状タンパク質は、繊維状の形態で発現するタンパク質であってもよく、発現時には繊維状の形態ではないが繊維状の形態に加工可能なタンパク質であってもよい。繊維状タンパク質は、例えば、封入体として発現し、その後、適当な手法により繊維状の形態に加工可能なタンパク質であってもよい。
、元の機能が維持されたタンパク質(すなわち繊維状タンパク質)をコードすることをいう。「繊維状タンパク質」とは、所定の条件下で繊維状の形態を取るタンパク質をいう。すなわち、繊維状タンパク質は、繊維状の形態で発現するタンパク質であってもよく、発現時には繊維状の形態ではないが繊維状の形態に加工可能なタンパク質であってもよい。繊維状タンパク質は、例えば、封入体として発現し、その後、適当な手法により繊維状の形態に加工可能なタンパク質であってもよい。
フィブロイン様タンパク質のホモログとしては、例えば、上記フィブロイン様タンパク質のアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから取得されるタンパク質が挙げられる。また、上記フィブロイン様タンパク質遺伝子のホモログは、例えば、各種生物の染色体を鋳型にして、上記フィブロイン様タンパク質遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
以下、フィブロイン様タンパク質およびフィブロイン様タンパク質遺伝子の保存的バリアントについて例示する。
フィブロイン様タンパク質は、元の機能が維持されている限り、上記フィブロイン様タンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。なお上記「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個を意味する。
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、タンパク質が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
また、フィブロイン様タンパク質は、元の機能が維持されている限り、上記フィブロイン様タンパク質のアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を指すことがある。
また、フィブロイン様タンパク質は、元の機能が維持されている限り、上記フィブロイン様タンパク質遺伝子の塩基配列から調製され得るプローブ、例えば同塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるタンパク質であってもよい。そのようなプローブは、例えば、同塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、同塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1%
SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件を挙げることができる。また、例えば、プローブとして、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件を挙げることができる。また、例えば、プローブとして、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
フィブロイン様タンパク質は、他のペプチドとの融合タンパク質であってもよい。「他のペプチド」は、所望の性状のフィブロイン様タンパク質が得られる限り、特に制限されない。「他のペプチド」は、その利用目的等の諸条件に応じて適宜選択できる。「他のペプチド」としては、ペプチドタグやプロテアーゼの認識配列が挙げられる。「他のペプチド」は、例えば、フィブロイン様タンパク質のN末端、若しくはC末端、またはその両方に連結されてよい。「他のペプチド」としては、1種のペプチドを用いてもよく、2種またはそれ以上のペプチドを組み合わせて用いてもよい。
ペプチドタグとして、具体的には、Hisタグ、FLAGタグ、GSTタグ、Mycタグ、MBP(maltose binding protein)、CBP(cellulose binding protein)、TRX(Thioredoxin)、GFP(green fluorescent protein)、HRP(horseradish peroxidase)、ALP(Alkaline Phosphatase)、抗体のFc領域が挙げられる。ペプチドタグは、例えば、発現したフィブロイン様タンパク質の検出や精製に利用できる。
プロテアーゼの認識配列として、具体的には、HRV3Cプロテアーゼ認識配列、Factor Xaプロテアーゼ認識配列、proTEVプロテアーゼ認識配列が挙げられる。プロテアーゼの認識配列は、例えば、発現したフィブロイン様タンパク質の切断に利用できる。具体的には、例えば、フィブロイン様タンパク質をペプチドタグとの融合タンパク質として発現させる場合、フィブロイン様タンパク質とペプチドタグの連結部にプロテアーゼの認識配列を導入することにより、発現したフィブロイン様タンパク質からプロテアーゼを利用してペプチドタグを切断し、ペプチドタグを有さないフィブロイン様タンパク質を得ることができる。
そのような融合タンパク質として、具体的には、N末端にHisタグとHRV3Cプロテアーゼ認識配列が付加されたニワオニグモのADF3(配列番号5)が挙げられる。また、配列番号5の融合タンパク質をコードする塩基配列としては、配列番号4の12〜1994位の塩基配列が挙げられる。
フィブロイン様タンパク質遺伝子は、上記例示したフィブロイン様タンパク質遺伝子またはその保存的バリアントの塩基配列において、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。例えば、フィブロイン様タンパク質遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
<2>本発明の細菌
本発明の細菌は、フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子を有するエシェリヒア・コリである。
本発明の細菌は、フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子を有するエシェリヒア・コリである。
本発明の細菌は、フィブロイン様タンパク質遺伝子を有することにより、フィブロイン様タンパク質の生産能を有する。「本発明の細菌がフィブロイン様タンパク質の生産能を有する」とは、例えば、本発明の細菌を培地で培養した際に、フィブロイン様タンパク質を生成し、回収できる程度に培地中および/または菌体内に蓄積することをいう。
エシェリヒア・コリとしては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア・コリに分類されている細菌が挙げられる。エシェリヒア・コリとして、具体的には、例えば、W3110株(ATCC 27325)やMG1655株(ATCC 47076)等のエシェリヒア・コリK-12株;エシェリヒア・コリK5株(ATCC 23506);BL21(DE3)株やそのrecA-株であるBLR(DE3)株等のエシェリヒア・コリB株;およびそれらの派生株が挙げられる。
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、BL21(DE3)株は、例えば、ライフテクノロジーズ社より入手可能である(製品番号C6000-03)。また、BLR(DE3)株は、例えば、メルクミリポア社より入手可能である(製品番号 69053)。
本発明の細菌は、栄養要求性株であってもよい。栄養要求性株は、1種類の栄養要求性を有していてもよく、2またはそれ以上の種類の栄養要求性を有していてもよい。栄養要求性としては、イソロイシン要求性等のアミノ酸要求性や核酸要求性が挙げられる。例えば、エシェリヒア・コリBLR(DE3)株は、イソロイシン要求性を有する(Schmidt M, Romer
L, Strehle M, Scheibel T, Biotechnol Lett 2007, 29(11):1741-1744.)。
L, Strehle M, Scheibel T, Biotechnol Lett 2007, 29(11):1741-1744.)。
フィブロイン様タンパク質遺伝子を有するエシェリヒア・コリは、上記のようなエシェリヒア・コリ株に、同遺伝子を導入することにより取得できる。以下、フィブロイン様タンパク質遺伝子が導入されるおよび導入されたエシェリヒア・コリ株を総称して「宿主」ともいう。
フィブロイン様タンパク質遺伝子は、フィブロイン様タンパク質遺伝子を有する生物からのクローニングにより取得できる。クローニングには、同遺伝子を含むゲノムDNAやcDNA等の核酸を利用できる。また、フィブロイン様タンパク質遺伝子は、化学合成によっても取得できる(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。
また、取得したフィブロイン様タンパク質遺伝子を適宜改変してそのバリアントを取得することもできる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。すなわち、例えば、部位特異的変異法により、コードされるタンパク質の特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入または付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology,
Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))
が挙げられる。
Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))
が挙げられる。
フィブロイン様タンパク質遺伝子を宿主に導入する手法は特に制限されない。宿主において、フィブロイン様タンパク質遺伝子は、当該宿主で機能する誘導可能なプロモーターの制御下で発現するように保持される。宿主において、フィブロイン様タンパク質遺伝子は、プラスミド、コスミド、ファージミドのように染色体外で自律複製するベクター上に存在していてもよく、染色体上に導入されていてもよい。宿主は、フィブロイン様タンパク質遺伝子を1コピーのみ有していてもよく、2またはそれ以上のコピーで有していてもよい。宿主は、1種類のフィブロイン様タンパク質遺伝子のみを有していてもよく、2またはそれ以上の種類のフィブロイン様タンパク質遺伝子を有していてもよい。
フィブロイン様タンパク質遺伝子を発現させるためのプロモーターは、宿主において機能する誘導可能なものであれば特に制限されない。「宿主において機能する誘導可能なプロモーター」とは、宿主において誘導可能なプロモーター活性を有するプロモーターをいう。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。エシェリヒア・コリで機能する誘導可能なプロモーターとしては、lacプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーター、araBADプロモーター、tetAプロモーター、rhaPBADプロモーター、proUプロモーター、cspAプロモーター、λPLプロモーター、λPRプロモーター、phoAプロモーター、pstSプロモーター等の直接的に誘導可能なプロモーターや、T3プロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーター等の間接的に誘導可能なプロモーターが挙げられる。lacプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーターからの遺伝子発現は、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)またはラクトースにより誘導できる。trpプロモーターからの遺伝子発現は、3−β−インドールアクリル酸(IAA)により誘導できる。araBADプロモーターからの遺伝子発現は、L−アラビノースにより誘導できる。tetAプロモーターからの遺伝子発現はアンヒドロテトラサイクリン(Anhydrotetracycline)により誘導できる。rhaPBADプロモーターからの遺伝子発現はL−ラムノース(L-rhamnose)により誘導できる。proUプロモーターからの遺伝子発現は、NaClにより誘導できる。trpプロモーターからの遺伝子発現は、培地中のトリプトファンを欠乏させることによっても誘導できる。cspAプロモーターからの遺伝子発現は、低温条件により誘導できる。λPLプロモーター、λPRプロモーターからの遺伝子発現は、高温条件により誘導できる。phoAプロモーター、pstSプロモーターからの遺伝子発現は、培地中のリン酸を欠乏させることにより誘導できる。T3プロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーターからの遺伝子の転写は、それぞれ、ファージ由来のT3 RNAポリメラーゼ、T5 RNAポリメラーゼ、T7
RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼにより行われる。よって、T3プロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーターからの遺伝子発現は、対応するRNAポリメラーゼを上記のような直接的に誘導可能なプロモーターの制御下で誘導発現することにより、間接的に誘導できる。上記のようなプロモーターは、そのまま用いてもよく、適宜改変して用いてもよい。例えば、各種レポーター遺伝子を用いることにより、上記のような在来のプロモーターの高活性型のものを取得し利用してもよい。例えば、プロモーター領域内の−35、−10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)やpnlp8プロモーター(WO2010/027045)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
RNAポリメラーゼ、SP6 RNAポリメラーゼにより行われる。よって、T3プロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、SP6プロモーターからの遺伝子発現は、対応するRNAポリメラーゼを上記のような直接的に誘導可能なプロモーターの制御下で誘導発現することにより、間接的に誘導できる。上記のようなプロモーターは、そのまま用いてもよく、適宜改変して用いてもよい。例えば、各種レポーター遺伝子を用いることにより、上記のような在来のプロモーターの高活性型のものを取得し利用してもよい。例えば、プロモーター領域内の−35、−10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)やpnlp8プロモーター(WO2010/027045)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
フィブロイン様タンパク質遺伝子は、例えば、同遺伝子を含むベクターを用いて宿主に導入することができる。フィブロイン様タンパク質遺伝子を含むベクターを、フィブロイ
ン様タンパク質遺伝子の組換えDNAともいう。フィブロイン様タンパク質遺伝子の組換えDNAは、例えば、フィブロイン様タンパク質遺伝子を含むDNA断片を宿主で機能するベクターと連結することにより、構築することができる。フィブロイン様タンパク質遺伝子の組換えDNAで宿主を形質転換することにより、同組換えDNAが導入された形質転換体が得られる、すなわち、同遺伝子を宿主に導入することができる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。また、ベクターは、形質転換体を選択するために、抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するための、エシェリヒア・コリで機能する誘導可能なプロモーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。エシェリヒア・コリにおいて自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社より入手可)、pACYC184、pMW219(ニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233‐2(クロンテック社製)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、pCold TF DNA(TaKaRa)、pACYC、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。組換えDNAの構築の際には、例えば、フィブロイン様タンパク質のコード領域を上記のようなプロモーターの下流に結合してからベクターに組み込んでもよく、ベクター上にもともと備わっている上記のようなプロモーターの下流にフィブロイン様タンパク質のコード領域を組み込んでもよい。
ン様タンパク質遺伝子の組換えDNAともいう。フィブロイン様タンパク質遺伝子の組換えDNAは、例えば、フィブロイン様タンパク質遺伝子を含むDNA断片を宿主で機能するベクターと連結することにより、構築することができる。フィブロイン様タンパク質遺伝子の組換えDNAで宿主を形質転換することにより、同組換えDNAが導入された形質転換体が得られる、すなわち、同遺伝子を宿主に導入することができる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。また、ベクターは、形質転換体を選択するために、抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するための、エシェリヒア・コリで機能する誘導可能なプロモーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。エシェリヒア・コリにおいて自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社より入手可)、pACYC184、pMW219(ニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233‐2(クロンテック社製)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、pCold TF DNA(TaKaRa)、pACYC、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。組換えDNAの構築の際には、例えば、フィブロイン様タンパク質のコード領域を上記のようなプロモーターの下流に結合してからベクターに組み込んでもよく、ベクター上にもともと備わっている上記のようなプロモーターの下流にフィブロイン様タンパク質のコード領域を組み込んでもよい。
また、フィブロイン様タンパク質遺伝子は、例えば、宿主の染色体上へ導入することができる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(MillerI, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、本発明の実施に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。染色体への遺伝子の導入の際には、例えば、フィブロイン様タンパク質のコード領域を上記のようなプロモーターの下流に結合してから染色体に組み込んでもよく、染色体上にもともと存在する上記のようなプロモーターの下流にフィブロイン様タンパク質のコード領域を組み込んでもよい。
染色体上に遺伝子が導入されたことは、例えば、同遺伝子の全部又は一部と相補的な塩基配列を有するプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、または同遺伝子の塩基配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCRによって確認できる。
形質転換法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。形質転換法としては、例えば、エシェリヒア・コリ K-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A.,J. Mol.
Biol. 1970, 53, 159-162)、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増
殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E.., 1997. Gene 1: 153-167)などが挙げられる。また、形質転換法としては、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S.and Choen, S.N., 1979. Mol. Gen. Genet. 168: 111-115; Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A. 1978. Nature 274: 398-400; Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. 1978. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 1929-1933)も応用できる。また、形質転換法としては、コリネ型細菌について報告されているような、電気パルス法(特開平2-207791号公報)を利用することもできる。
Biol. 1970, 53, 159-162)、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増
殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E.., 1997. Gene 1: 153-167)などが挙げられる。また、形質転換法としては、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S.and Choen, S.N., 1979. Mol. Gen. Genet. 168: 111-115; Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A. 1978. Nature 274: 398-400; Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. 1978. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 1929-1933)も応用できる。また、形質転換法としては、コリネ型細菌について報告されているような、電気パルス法(特開平2-207791号公報)を利用することもできる。
<3>本発明の方法
本発明の方法は、フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子を有するエシェリヒア・コリ(本発明の細菌)を培地で培養すること、フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子の発現を誘導すること、およびフィブロイン様タンパク質を採取することを含む、フィブロイン様タンパク質の製造法であって、前記発現誘導後の菌体増殖が低減されていることを特徴とする方法である。
本発明の方法は、フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子を有するエシェリヒア・コリ(本発明の細菌)を培地で培養すること、フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子の発現を誘導すること、およびフィブロイン様タンパク質を採取することを含む、フィブロイン様タンパク質の製造法であって、前記発現誘導後の菌体増殖が低減されていることを特徴とする方法である。
すなわち、まず、本発明の細菌の培養を開始する。培養開始後、適当なタイミングでフィブロイン様タンパク質遺伝子の発現を誘導する。発現誘導後、培養をさらに継続し、フィブロイン様タンパク質を培地中および/または菌体内に生成蓄積させる。本発明において、「発現誘導時」とは、当該発現誘導を実施する時点、すなわち、フィブロイン様タンパク質遺伝子の発現を誘導する時点、を意味する。また、培養開始から当該発現誘導までの期間を「発現誘導前の期間」、当該発現誘導から培養終了までの期間を「発現誘導後の期間」ともいう。
発現誘導により、フィブロイン様タンパク質遺伝子の発現量が通常時と比較して上昇する。発現誘導により、フィブロイン様タンパク質遺伝子の発現量は、通常時の少なくとも2倍以上、好ましくは3倍以上、さらに好ましくは4倍以上に上昇されてよい。「通常時」とは、誘導可能でないプロモーターの制御下でフィブロイン様タンパク質遺伝子を発現する条件、あるいは、採用した発現系の構成に応じた発現誘導の条件が満たされていない条件を意味する。「誘導可能でないプロモーターの制御下でフィブロイン様タンパク質遺伝子を発現する条件」としては、フィブロイン様タンパク質遺伝子を、当該遺伝子の本来のプロモーターであって誘導可能でないものの制御下で発現する条件が挙げられる。「採用した発現系の構成に応じた発現誘導条件が満たされていない条件」としては、或る物質の存在により発現が誘導される場合には当該物質が添加されていない条件、或る物質の欠乏により発現が誘導される場合には当該物質が欠乏していない条件、或る温度において発現が誘導される場合には培養系の温度が当該発現が誘導される温度の範囲外である条件が挙げられる。
培養条件は、発現誘導前の期間に本発明の細菌が増殖でき、発現誘導後の期間の菌体増殖が低減され、且つ、発現誘導後の期間にフィブロイン様タンパク質が生成蓄積する限り、特に制限されない。なお、発現誘導後の期間においては、本発明の細菌は増殖してもよく、しなくてもよい。培養条件は、発現誘導前の期間と発現誘導後の期間において同一であってもよく、同一でなくてもよい。培養条件は、菌体増殖を低減する手法の種類等の諸条件に応じて当業者が適宜設定することができる。
「発現誘導前の期間」の長さ、すなわち発現誘導のタイミングは、培養条件等の諸条件に応じて適宜設定することができる。発現誘導は、例えば、培養開始0時間後以降、1時間後以降、2時間後以降、または3時間後以降の時点で実施してもよく、培養開始240
時間後まで、200時間後まで、160時間後まで、120時間後まで、または80時間後までの時点で実施してもよく、それらの組み合わせの時点で実施してもよい。また、発現誘導は、例えば、培養液のOD620が40〜500、40〜400、40〜300、または40〜200となった時点で実施してよい。「発現誘導後の期間」の長さは、培養条件等の諸条件に応じて適宜設定することができる。発現誘導後の培養時間は、例えば、1時間以上、4時間以上、または8時間以上であってもよく、240時間以下、200時間以下、160時間以下、120時間以下、または80時間以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
時間後まで、200時間後まで、160時間後まで、120時間後まで、または80時間後までの時点で実施してもよく、それらの組み合わせの時点で実施してもよい。また、発現誘導は、例えば、培養液のOD620が40〜500、40〜400、40〜300、または40〜200となった時点で実施してよい。「発現誘導後の期間」の長さは、培養条件等の諸条件に応じて適宜設定することができる。発現誘導後の培養時間は、例えば、1時間以上、4時間以上、または8時間以上であってもよく、240時間以下、200時間以下、160時間以下、120時間以下、または80時間以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
発現誘導は、採用した発現系の構成に応じて実施することができる。すなわち、例えば、lacプロモーター、trcプロモーター、またはtacプロモーターを利用する場合はイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)またはラクトースを、trpプロモーターを利用する場合は3−β−インドールアクリル酸(IAA)を、araBADプロモーターを利用する場合はL−アラビノースを、tetAプロモーターを利用する場合はAnhydrotetracyclineを、rhaPBADプロモーターを利用する場合はL-rhamnoseを、proUプロモーターを使用する場合はNaClを、それぞれ培地に添加することにより、フィブロイン様タンパク質の発現を誘導することができる。また、例えば、trpプロモーターを利用する場合は培地中のトリプトファンを欠乏させることによっても、フィブロイン様タンパク質の発現を誘導することができる。また、例えば、cspAプロモーターを利用する場合は、培地の温度を下げる(例えば約15℃まで下げる)ことにより、フィブロイン様タンパク質の発現を誘導することができる。また、λPLプロモーターまたはλPRプロモーターを利用する場合は培地の温度を上げる(例えば42℃まで上げる)ことにより、フィブロイン様タンパク質の発現を誘導することができる。また、例えば、phoAプロモーターまたはpstSプロモーターを利用する場合は培地中のリン酸を欠乏させることにより、フィブロイン様タンパク質の発現を誘導することができる。また、例えば、T3プロモーター、T5プロモーター、T7プロモーター、またはSP6プロモーターを利用する場合は、対応するRNAポリメラーゼの発現を適宜誘導することにより、フィブロイン様タンパク質の発現を誘導することができる。また、例えば、上記のようなプロモーターを適宜改変して用いる場合も、適宜、発現誘導条件を選択することができる。また、発現系の構成によっては、2またはそれ以上の発現誘導条件を組み合わせて利用してもよい。
培地としては、例えば、エシェリヒア・コリ等の細菌の培養に用いられる通常の培地を、そのまま、あるいは適宜改変して、用いることができる。培地としては、例えば、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有する液体培地を用いることができる。培地成分の種類や濃度は、当業者が適宜設定してよい。
炭素源として、具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸類、グリセロール、粗グリセロール、エタノール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、有機酸類以外の炭素源が好ましく、糖類がより好ましく、グルコースが特に好ましい。例えば、全炭素源中のグルコースの比率が、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、90%(w/w)以上、95%(w/w)以上、または100%(w/w)であってよい。
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。窒素源としては、1種の窒素源を
用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
また、生育にアミノ酸等の栄養素を要求する栄養要求性株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。また、抗生物質耐性遺伝子を搭載するベクターを用いて遺伝子を導入した際は、培地に対応する抗生物質を添加するのが好ましい。
培養は、例えば、通気培養または振盪培養により、好気的に行うことができる。酸素濃度は、例えば、飽和溶存酸素濃度の5〜50%、好ましくは飽和溶存酸素濃度の20〜40%となるように制御されてよい。培養温度は、例えば、20〜45℃、25〜40℃、または30〜37℃であってよい。培養中のpHは、例えば、5〜9であってよい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、例えば、炭酸カルシウム、アンモニアガス、アンモニア水等、を使用することができる。培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。なお、培養開始時の培地を、「初発培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系(発酵槽)に供給する培地を、「流加培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系に流加培地を供給することを、「流加」ともいう。また、培養は、前培養と本培養とに分けて行われてもよい。前培養は、例えば、平板培地や液体培地を用いて行ってよい。
本発明において、各培地成分は、初発培地、流加培地、またはその両方に含有されていてよい。初発培地に含有される成分の種類は、流加培地に含有される成分の種類と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、初発培地に含有される各成分の濃度は、流加培地に含有される各成分の濃度と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、含有する成分の種類および/または濃度の異なる2種またはそれ以上の流加培地を用いてもよい。例えば、複数回の流加が間欠的に行われる場合、各流加培地に含有される成分の種類および/または濃度は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。
本発明の方法は、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖が低減されていることを特徴とする。「菌体増殖が低減されている」とは、菌体増殖の程度を示すパラメータが、対照条件と比較して低いことをいい、全く菌体が増殖していない場合を含む。「菌体増殖の程度を示すパラメータ」とは、菌体増加割合(cell growth rate)、菌体増加割合の傾き(cell growth rate slope)、累積比増殖速度(μ cumulative)、またはそれらの組み合わせをいう。「菌体増殖が低減されている」とは、例えば、菌体増殖の程度を
示すパラメータが、対照条件の同パラメータの95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、または50%以下であることであってよい。「菌体増殖が低減されている」とは、例えば、累積比増殖速度が、フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点で、0.070(/h)以下、0.050(/h)以下、0.030(/h)以下、0.025(/h)以下、0.020(/h)以下、または0.015(/h)以下であることであってもよい。「菌体増殖が低減されている」とは、例えば、菌体増加割合の傾きが、フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点で、4.0(%/h)以下、3.5(%/h)以下、3.0(%/h)以下、または2.5(%/h)以下であることであってもよい。「菌体増殖が低減されている」とは、例えば、菌体増加割合が、フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点で、80%以下、70%以下、60%以下、または50%以下であってもよい。「フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点」については後述する。菌体増殖は、発現誘導後の期間の全期間において低減されていてもよく、発現誘導後の期間の一部の期間にのみ低減されていてもよい。「一部の期間」の長さは、フィブロイン様タンパク質の生産が対照条件と比較して向上する限り特に制限されない。「一部の期間」とは、例えば、発現誘導後の期間の全期間の内の、50%以上の期間、70%以上の期間、90%以上の期間、または95%以上の期間であってよい。
示すパラメータが、対照条件の同パラメータの95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、または50%以下であることであってよい。「菌体増殖が低減されている」とは、例えば、累積比増殖速度が、フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点で、0.070(/h)以下、0.050(/h)以下、0.030(/h)以下、0.025(/h)以下、0.020(/h)以下、または0.015(/h)以下であることであってもよい。「菌体増殖が低減されている」とは、例えば、菌体増加割合の傾きが、フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点で、4.0(%/h)以下、3.5(%/h)以下、3.0(%/h)以下、または2.5(%/h)以下であることであってもよい。「菌体増殖が低減されている」とは、例えば、菌体増加割合が、フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点で、80%以下、70%以下、60%以下、または50%以下であってもよい。「フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点」については後述する。菌体増殖は、発現誘導後の期間の全期間において低減されていてもよく、発現誘導後の期間の一部の期間にのみ低減されていてもよい。「一部の期間」の長さは、フィブロイン様タンパク質の生産が対照条件と比較して向上する限り特に制限されない。「一部の期間」とは、例えば、発現誘導後の期間の全期間の内の、50%以上の期間、70%以上の期間、90%以上の期間、または95%以上の期間であってよい。
累積比増殖速度(μcumulative)は下記式により算出される。
累積比増殖速度(/h) = (Xt-X0)/∫Xtdt = ln(Xt/X0)/t
t:誘導開始後の時間(h)
Xt:誘導開始後t時間目の菌体量(g)
X0:誘導開始時の菌体量(g)
∫Xtdt:誘導開始後から誘導開始後t時間目までの積分菌体量(g・h)
累積比増殖速度(/h) = (Xt-X0)/∫Xtdt = ln(Xt/X0)/t
t:誘導開始後の時間(h)
Xt:誘導開始後t時間目の菌体量(g)
X0:誘導開始時の菌体量(g)
∫Xtdt:誘導開始後から誘導開始後t時間目までの積分菌体量(g・h)
菌体増加割合(cell growth rate)は下記式により算出される。
菌体増加割合(%) = (Xt-X0)/X0 × 100
Xt:誘導開始後t時間目の菌体量(g)
X0:誘導開始時の菌体量(g)
菌体増加割合(%) = (Xt-X0)/X0 × 100
Xt:誘導開始後t時間目の菌体量(g)
X0:誘導開始時の菌体量(g)
菌体増加割合の傾き(cell growth rate slope)は下記式により算出される。
菌体増加割合の傾き(%/h) = (Xt-X0)/X0 × 100/t
t:誘導開始後の時間(h)
Xt:誘導開始後t時間目の菌体量(g)
X0:誘導開始時の菌体量(g)
菌体増加割合の傾き(%/h) = (Xt-X0)/X0 × 100/t
t:誘導開始後の時間(h)
Xt:誘導開始後t時間目の菌体量(g)
X0:誘導開始時の菌体量(g)
本発明において、「対照条件」とは、発現誘導後の菌体増殖が低減されていない条件をいう。「対照条件」としては、生育因子制限により発現誘導後の菌体増殖を低減する場合には、実施例1、2、および4に記載の対照条件等の、十分量の生育因子の存在下で好気的に培養を行う条件が挙げられる。また、「対照条件」としては、発現誘導前の期間に菌体を十分に増殖させることにより発現誘導後の菌体増殖を低減する場合には、実施例3に記載の対照条件等の、菌体が十分に増殖する前に発現誘導を行う条件が挙げられる。
「フィブロイン様タンパク質の生産が対照条件と比較して向上する」とは、フィブロイン様タンパク質の生産性を示すパラメータが、対照条件と比較して高いことをいう。「フィブロイン様タンパク質の生産性を示すパラメータ」とは、フィブロイン様タンパク質の培地容量当たりの蓄積量、フィブロイン様タンパク質の菌体重量当たりの蓄積量、フィブロイン様タンパク質の累積生産性、またはそれらの組み合わせをいう。「フィブロイン様タンパク質の生産が対照条件と比較して向上する」とは、例えば、フィブロイン様タンパク質の生産性を示すパラメータが、対照条件の同パラメータの1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、または1.5倍以上であることであってよい。フィブ
ロイン様タンパク質の生産性を示すパラメータは、いずれも、例えば、発現誘導後の期間の所定の時点での値が対照条件と比較して高くてもよく、発現誘導後の期間における最大値が対照条件と比較して高くてもよい。「所定の時点」は、培養条件等の諸条件に応じて適宜設定することができる。「所定の時点」とは、例えば、フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点であってよい。「フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点」とは、例えば、菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質の蓄積量の増加割合が、4〜12時間当たり10%以下となる時点であってよい。また、「フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点」とは、培養条件によっても異なるが、例えば、発現誘導の4時間後、9時間後、14時間後、21.5時間後、30時間後、50時間後、70時間後、または100時間後であってもよい。
ロイン様タンパク質の生産性を示すパラメータは、いずれも、例えば、発現誘導後の期間の所定の時点での値が対照条件と比較して高くてもよく、発現誘導後の期間における最大値が対照条件と比較して高くてもよい。「所定の時点」は、培養条件等の諸条件に応じて適宜設定することができる。「所定の時点」とは、例えば、フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点であってよい。「フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点」とは、例えば、菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質の蓄積量の増加割合が、4〜12時間当たり10%以下となる時点であってよい。また、「フィブロイン様タンパク質の蓄積が停止する時点」とは、培養条件によっても異なるが、例えば、発現誘導の4時間後、9時間後、14時間後、21.5時間後、30時間後、50時間後、70時間後、または100時間後であってもよい。
発現誘導時から所定の時点までのフィブロイン様タンパク質の累積生産性は、下記式により算出される。
累積生産性 = F/V/(T1-T0)
F:フィブロイン様タンパク質の蓄積量(g)
V:培地量(L)
T1:サンプリング時刻(所定の時点)
T0:発現誘導時刻
累積生産性 = F/V/(T1-T0)
F:フィブロイン様タンパク質の蓄積量(g)
V:培地量(L)
T1:サンプリング時刻(所定の時点)
T0:発現誘導時刻
発現誘導後の菌体増殖を低減する手法は特に制限されない。
発現誘導後の菌体増殖は、例えば、発現誘導後の期間に生育因子制限下で培養を行うことにより、低減できる。「生育因子」とは、菌体の生育に必要な成分をいう。生育因子としては、一般的に、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、ミネラルが挙げられる。窒素源としては、例えば、有機窒素源を制限してもよい。また、本発明の細菌が栄養要求性株である場合、生育因子としては、当該栄養要求性により要求される栄養素も挙げられる。そのような栄養素としては、イソロイシン等のアミノ酸類や核酸類が挙げられる。生育因子制限は、例えば、制限する成分以外の必須成分が十分量存在するまたは供給される条件下で実施することができる。すなわち、例えば、炭素源、窒素源、硫黄源、およびミネラルが十分量存在するまたは供給される条件下で、リン酸源を制限することができる。本発明の方法においては、1種の生育因子が制限されてもよく、2種またはそれ以上の生育因子が制限されてもよい。
「生育因子制限」とは、培養系への生育因子の供給が制限されていることをいう。生育因子制限により、培養系中の生育因子濃度は低く維持され得る。すなわち、「生育因子制限」とは、例えば、培地中の生育因子濃度を一定濃度以下に制限することであってよい。「一定濃度」の値は、フィブロイン様タンパク質の生産が対照条件と比較して向上する限り特に制限されない。「一定濃度」の値は、制限する生育因子の種類等の諸条件に応じて適宜設定できる。具体的には、リン酸源を制限する場合、培地中のリン酸源濃度は、KH2PO4量に換算して、例えば、0.5g/L未満、0.3g/L未満、0.2g/L未満、0.1g/L未満、または0(ゼロ)に制限されてよい。生育因子濃度は、発現誘導後の期間の全期間において一定濃度以下に制限されていてもよく、発現誘導後の期間の一部の期間にのみ一定濃度以下に制限されていてもよい。「一部の期間」の長さは、フィブロイン様タンパク質の生産が対照条件と比較して向上する限り特に制限されない。「一部の期間」とは、例えば、発現誘導後の期間の全期間の内の、50%以上の期間、70%以上の期間、90%以上の期間、または95%以上の期間であってよい。生育因子濃度は、発現誘導後の期間を通じて一定であってもよく、一定でなくてもよい。
生育因子制限は、例えば、初発培地中の生育因子の濃度を低減すること、生育因子の流加量を低減すること、またはそれらの組み合わせにより、達成できる。
すなわち、例えば、初発培地中の生育因子の濃度を低減することにより、発現誘導後の期間において生育因子制限を達成できる。なお、「初発培地」を「培養開始時の培地」と読み替えてもよい。「培養開始時の培地」とは、具体的には、植菌直後の培養液であってよい。初発培地中の生育因子濃度は、発現誘導後の期間に生育因子制限を実施できる限り、特に制限されない。初発培地中の生育因子濃度は、一定濃度以下であってもよく、そうでなくてもよい。すなわち、初発培地の生育因子濃度が一定濃度より高いが、培養中に初発培地中の生育因子が消費されることにより生育因子濃度が一定濃度以下となってもよい。初発培地中の生育因子の濃度は、例えば、培養中に枯渇する濃度に設定することができる。培養中に枯渇する濃度で生育因子を含有する初発培地で培養を行うことにより、生育因子の枯渇後の菌体増殖を、生育因子が枯渇しない場合と比較して低減することができる。枯渇のタイミングは、発現誘導後の菌体増殖を低減できる限り特に制限されない。枯渇するタイミングは、発現誘導前であってもよく、発現誘導後であってもよい。枯渇後はそのまま培養を継続することができる。また、枯渇前および/または枯渇後に、生育因子を適宜流加してもよい。生育因子を流加することにより、例えば、枯渇のタイミングを遅延させることや、枯渇後に菌体増殖を再開させることができる。初発培地中の生育因子の濃度は、生育因子の種類や培養条件等の諸条件に応じて適宜設定できる。具体的には、有機窒素源を制限する場合、初発培地中の有機窒素源濃度は、例えば、50g/L以下、30g/L以下、20g/L以下、10g/L以下、5g/L以下、2g/L以下、または1g/L以下であってよい。また、具体的には、リン酸源を制限する場合、初発培地中のリン酸源濃度は、KH2PO4量に換算して、例えば、50g/L以下、30g/L以下、20g/L以下、10g/L以下、5g/L以下、3.5g/L以下、3.0g/L以下、2.5g/L以下、2.0g/L以下、1.5g/L以下、1.0g/L以下、または0.5g/L以下であってよい。このような初発培地中の生育因子の濃度の低減は、いずれの生育因子に適用されてもよいが、例えば、無機リン酸塩等のリン酸源に好適に適用できる。
初発培地中の生育因子濃度を低減することにより生育因子制限を行う場合、発現誘導前の期間および発現誘導後の期間における培養の態様は、発現誘導後の期間に生育因子制限を達成できる限り特に制限されない。すなわち、例えば、発現誘導前の期間および発現誘導後の期間における生育因子の流加の有無や流加の態様は、発現誘導後の期間に生育因子制限を達成できるように適宜設定することができる。具体的には、例えば、発現誘導後の期間に流加培地の流加を行う場合、流加培地中の生育因子濃度や流加培地の流加速度は、後述するような、発現誘導後の期間に生育因子の流加量を低減することにより生育因子制限を行う場合の流加培地中の生育因子濃度や流加培地の流加速度に設定してもよい。
また、例えば、生育因子の流加量を低減することにより、発現誘導後の期間において生育因子制限を達成できる。具体的には、例えば、発現誘導後の期間に流加培地を流加する場合に、発現誘導後の期間における生育因子の流加量を低減することにより、発現誘導後の期間において生育因子制限を達成できる。生育因子の流加量は、発現誘導後の期間に生育因子制限を実施できる限り、特に制限されない。なお、「生育因子の流加量を低減すること」には、生育因子が流加されない場合も含まれる。生育因子の流加量は、発現誘導後の期間の全期間において低減されていてもよく、発現誘導後の期間の一部の期間にのみ低減されていてもよい。「一部の期間」の長さは、フィブロイン様タンパク質の生産が対照条件と比較して向上する限り特に制限されない。「一部の期間」とは、例えば、発現誘導後の期間の全期間の内の、50%以上の期間、70%以上の期間、90%以上の期間、または95%以上の期間であってよい。生育因子の流加量は、流加培地中の生育因子濃度を低減すること、流加培地の流加量を低減すること、またはそれらの組み合わせにより、低減できる。例えば、流加培地中の全成分に対する制限される生育因子以外の成分の比率を高めることで、生育因子の流加量を低減することができる。例えば、有機窒素源やリン酸
源を制限する場合には、制限される生育因子以外の成分としては炭素源が挙げられる。流加培地中の全成分に対する制限される生育因子以外の成分の比率は、例えば、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、95%(w/w)以上、または100%(w/w)であってよい。また、流加培地中の全成分に対する制限される生育因子の比率は、例えば、30%(w/w)未満、20%(w/w)未満、10%(w/w)未満、5%(w/w)未満、または0(ゼロ)であってよい。具体的には、リン酸源を制限する場合、流加培地中の全成分に対するリン酸源の比率は、KH2PO4量に換算して、例えば、2.5%(w/w)未満、1.5%(w/w)未満、1.0%(w/w)未満、0.5%(w/w)未満、または0(ゼロ)であってよい。
源を制限する場合には、制限される生育因子以外の成分としては炭素源が挙げられる。流加培地中の全成分に対する制限される生育因子以外の成分の比率は、例えば、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、95%(w/w)以上、または100%(w/w)であってよい。また、流加培地中の全成分に対する制限される生育因子の比率は、例えば、30%(w/w)未満、20%(w/w)未満、10%(w/w)未満、5%(w/w)未満、または0(ゼロ)であってよい。具体的には、リン酸源を制限する場合、流加培地中の全成分に対するリン酸源の比率は、KH2PO4量に換算して、例えば、2.5%(w/w)未満、1.5%(w/w)未満、1.0%(w/w)未満、0.5%(w/w)未満、または0(ゼロ)であってよい。
流加培地中の生育因子の濃度や流加培地の流加速度は、発現誘導後の累積比炭素源消費速度(ν cumulative)が、例えば、0.35g/g/hr以下、0.30g/g/hr以下、または0.25g/g/hr以下となるように設定されてよい。累積比炭素源消費速度は、炭素源の流加速度(流加培地中の炭素源の濃度と流加培地の流加速度から決定される)と培地中の菌体濃度から算出される。炭素源は、例えば、グルコースであってよい。発現誘導時から所定の時点までの累積比炭素源消費速度は、下記式により算出される。
累積比炭素源消費速度(g/(g・h)) = St/∫Xtdt
t:誘導開始後の時間(h)
St:誘導開始時から誘導開始後t時間目までの炭素源消費量(g)
∫Xtdt:誘導開始時から誘導開始後t時間目までの積分菌体量(g・h)
累積比炭素源消費速度(g/(g・h)) = St/∫Xtdt
t:誘導開始後の時間(h)
St:誘導開始時から誘導開始後t時間目までの炭素源消費量(g)
∫Xtdt:誘導開始時から誘導開始後t時間目までの積分菌体量(g・h)
流加培地の流加は、培地中の生育因子濃度が一定濃度以下に維持されるように行われてもよい。培地中の生育因子濃度を一定濃度以下に維持することは、例えば、培養系への生育因子の供給速度(流加速度)が培養系中の本発明の細菌による生育因子の消費速度よりも低くなるように、流加培地の流加を行うことにより達成できる。
流加培地中の生育因子の濃度や流加培地の流加速度は、いずれも、発現誘導後の期間を通じて一定であってもよく、一定でなくてもよい。
流加培地の流加は、連続的に行われてもよく、間欠的に行われてもよい。流加培地の流加は、培養開始時から開始してもよく、培養途中で開始してもよい。流加培地の流加は、発現誘導前に開始してもよく、発現誘導時に開始してもよく、発現誘導後に開始してもよい。流加培地の流加は、例えば、培地中の生育因子の濃度が一定濃度以下となってから、具体的には、生育因子が枯渇してから、開始してもよい。なお、複数回の流加が間欠的に行われる場合、2回目以降の流加を、その直前の流加停止期において発酵培地中の炭素源が枯渇したときに開始されるように制御することにより、発酵培地中の炭素源濃度を自動的に低レベルに維持することもできる(米国特許5,912,113号明細書)。炭素源の枯渇は、例えば、pHの上昇または溶存酸素濃度の上昇により検出できる(米国特許5,912,113号明細書)。
流加培地の流加は、例えば、生育因子が枯渇しないように、あるいは生育因子が枯渇した状態が継続しないように、行われてよい。しかし、フィブロイン様タンパク質の生産が対照条件と比較して向上する限り、生育因子が枯渇していてもよい。生育因子が枯渇する期間は、生育因子の種類にもよるが、例えば、発現誘導後の期間の全期間であってもよく、発現誘導後の期間の全期間の内の、90%以下の期間、70%以下の期間、50%以下の期間、30%以下の期間、20%以下の期間、10%以下の期間、または5%以下の期間であってもよい。なお、培地中の生育因子濃度が0(ゼロ)であることは、必ずしも、生育因子が枯渇していることを意味しない。すなわち、例えば、培養系への生育因子の流加が継続されているが、流加される生育因子が速やかに消費されることにより、培地中の生育因子濃度が0(ゼロ)で維持されている場合は、生育因子の枯渇には該当しないもの
と想定される。
と想定される。
発現誘導後の期間における生育因子の流加量を低減することにより生育因子制限を行う場合、発現誘導前の期間における培養の態様は、発現誘導後の期間に生育因子制限を達成できる限り特に制限されない。すなわち、例えば、初発培地における生育因子の濃度および発現誘導前の期間における生育因子の流加の有無や流加の態様は、発現誘導後の期間に生育因子制限を達成できるように適宜設定することができる。具体的には、例えば、初発培地における生育因子の濃度を、上記例示したような、初発培地中の生育因子の濃度を低減することにより生育因子制限を行う場合の初発培地中の生育因子の濃度に設定してもよい。
発現誘導後の菌体増殖は、例えば、発現誘導前の期間に菌体を十分に増殖させることによっても、低減できる。「発現誘導前の期間に菌体を十分に増殖させる」とは、例えば、発現誘導時のOD620が、80以上、100以上、120以上、150以上、または200以上であることであってよい。発現誘導前の期間に菌体を十分に増殖させることは、発現誘導前の期間に十分量の炭素源およびその他菌体の増殖に必要な成分を供給して培養を行うことにより、達成できる。炭素源およびその他菌体の増殖に必要な成分は、いずれも、初発培地に十分量含まれていてもよく、十分量流加されてもよく、それらの組み合わせであってもよい。炭素源を流加する場合、流加培地中の炭素源の濃度や流加培地の流加速度は、例えば、炭素源の流加速度(流加培地中の炭素源の濃度と流加培地の流加速度から決定される)が、培養開始時の培養液1Lに対し、1g/hr〜100g/hrとなるように設定されてよい。
上記のような発現誘導後の菌体増殖を低減するための手法は、いずれかを単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
上記のようにして本発明の細菌を培養することにより、培地中および/または菌体内にフィブロイン様タンパク質が蓄積する。フィブロイン様タンパク質は、例えば、菌体内に封入体として蓄積し得る。
フィブロイン様タンパク質の回収および定量は、例えば、異種発現させたタンパク質を回収および定量する既知の方法(例えば、「新生化学実験講座 タンパク質VI 合成及び発現」日本生化学会編、東京化学同人(1992) pp183-184を参照)により行うことができる。
以下、フィブロイン様タンパク質が菌体内に封入体として蓄積する場合の回収および定量の手順について例示する。まず、培養液から菌体を遠心操作にて集菌後、緩衝液で懸濁する。菌体懸濁液を、超音波処理やフレンチプレス等の処理に供し、菌体を破砕する。菌体破砕の前に、菌体懸濁液にリゾチームを終濃度0-200mg/lで添加し、氷中に30分から20時間放置してもよい。次いで、破砕物から、低速遠心分離(6000-15000 rpm, 5-10分、4℃)により、不溶性画分を沈殿として得る。不溶性画分は、必要により、適宜緩衝液で洗浄する。洗浄回数は特に制限されず、例えば、1回、2回、または3回以上であってもよい。不溶性画分を緩衝液で懸濁することにより、フィブロイン様タンパク質の懸濁液が得られる。菌体やフィブロイン様タンパク質の懸濁用の緩衝液としては、フィブロイン様タンパク質の溶解性が低いものを好ましく用いることができる。そのような緩衝液としては、例えば、20mMトリス-塩酸、30 mM NaCl、10 mM EDTAを含む緩衝液や20mMトリス-塩酸、30 mM NaClを含む緩衝液が挙げられる。緩衝液のpHは、例えば、通常4〜12、好ましくは6〜9であってよい。また、不溶性画分をSDS溶液や尿素溶液で溶解することにより、フィブロイン様タンパク質の溶液が得られる。回収されるフィブロイン様タンパク質は、フィブロイン様タンパク質以外に、細菌菌体、培地成分、及び細菌の代謝副産物等の成分を
含んでいてもよい。フィブロイン様タンパク質は、所望の程度に精製されていてよい。フィブロイン様タンパク質の量は、例えば、懸濁液や溶液等のフィブロイン様タンパク質を含むサンプルをSDS-PAGEに供して染色し、目的のフィブロイン様タンパク質の分子量に相当する位置のバンドの強度に基づいて決定することができる。染色は、CBB染色、蛍光染色、銀染色等により行うことができる。定量の際には、濃度既知のタンパク質を標準として利用することができる。そのようなタンパク質としては、例えば、アルブミンや、別途濃度を決定したフィブロイン様タンパク質が挙げられる。
含んでいてもよい。フィブロイン様タンパク質は、所望の程度に精製されていてよい。フィブロイン様タンパク質の量は、例えば、懸濁液や溶液等のフィブロイン様タンパク質を含むサンプルをSDS-PAGEに供して染色し、目的のフィブロイン様タンパク質の分子量に相当する位置のバンドの強度に基づいて決定することができる。染色は、CBB染色、蛍光染色、銀染色等により行うことができる。定量の際には、濃度既知のタンパク質を標準として利用することができる。そのようなタンパク質としては、例えば、アルブミンや、別途濃度を決定したフィブロイン様タンパク質が挙げられる。
上記のようにして得られたフィブロイン様タンパク質は、適宜、繊維化等して利用することができる。フィブロイン様タンパク質の線維化は、例えば、既知の方法により行うことができる。フィブロイン様タンパク質の線維化は、具体的には、例えば、WO2012/165476に記載の大吐糸管しおり糸タンパク質に由来するポリペプチドの繊維化に関する記載を参照して行うことができる。
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明する。
参考例1:フィブロイン様タンパク質生産菌の構築
本実施例(実施例1〜5)でフィブロイン様タンパク質生産に用いた菌株および遺伝子は以下の通りである。
宿主:エシェリヒア・コリBLR(DE3)
ベクター:pET22b(+)
フィブロイン様タンパク質遺伝子:WO2012/165476A1の配列番号10に記載の塩基配列を有する遺伝子
本実施例(実施例1〜5)でフィブロイン様タンパク質生産に用いた菌株および遺伝子は以下の通りである。
宿主:エシェリヒア・コリBLR(DE3)
ベクター:pET22b(+)
フィブロイン様タンパク質遺伝子:WO2012/165476A1の配列番号10に記載の塩基配列を有する遺伝子
上記遺伝子を搭載するpET22b(+)ベクター(WO2012/165476A1)でエシェリヒア・コリBLR(DE3)を形質転換することにより、フィブロイン様タンパク質生産菌を得ることができる。上記遺伝子の塩基配列を配列番号1に、同遺伝子がコードするフィブロイン様タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
参考例2:シード培養液の調製
ジャーファーメンター中の表1に示したシード培養用培地300mlに、フィブロイン様タンパク質生産菌をOD620=0.005となるよう植菌した。OD620は、分光光度計UV-mini1240(島津製作所)で測定した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は1500rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.7で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。12時間後に、シード培養用培地中のグルコースが全て消費された時点で培養を終了し、シード培養液を得た。
ジャーファーメンター中の表1に示したシード培養用培地300mlに、フィブロイン様タンパク質生産菌をOD620=0.005となるよう植菌した。OD620は、分光光度計UV-mini1240(島津製作所)で測定した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は1500rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.7で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。12時間後に、シード培養用培地中のグルコースが全て消費された時点で培養を終了し、シード培養液を得た。
豆濾液とは、大豆タンパク質の加水分解物である。グルコースとMgSO4・7H2OをA区、その他の成分をB区としてストック液を調製した。次いで、A区はそのまま、B区はKOHを用いてpHを6.0とした後、別々に120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。次いで、A区およびB区を混合し、アンピシリンを終濃度100 mg/Lとなるように添加してシード培養用培地とした。
実施例1:有機窒素源量を低減した条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
(1)対照条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を促進するために、発現誘導後に十分量の有機窒素源をフィードする条件にて培養を実施した。実施例1においては、本条件を「対照条件」ともいう。
(1)対照条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を促進するために、発現誘導後に十分量の有機窒素源をフィードする条件にて培養を実施した。実施例1においては、本条件を「対照条件」ともいう。
ジャーファーメンター中の表2に示した生産培地255mlに、参考例2で得られたシード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
グルコースとMgSO4・7H2OをA区、その他の成分をB区としてストック液を調製した。次いで、A区およびB区を、別々に120℃、20分間オートクレーブで滅菌した後混合し、生産培地とした。
培養開始後約2.5時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表3に示した1M IPTG水溶液0.3mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表4に示したフィード液を1時間に3.6mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
120℃、20分間オートクレーブで滅菌して使用した。
グルコースをA区、それ以外の成分をB区としてストック液を調製した。次いで、A区およびB区を、別々に120℃、20分間オートクレーブで滅菌して使用した。
(2)有機窒素源制限条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、発現誘導後にグルコースのみをフィードする条件にて培養を実施した。実施例1においては、本条件を「有機窒素源制限条件」ともいう。
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、発現誘導後にグルコースのみをフィードする条件にて培養を実施した。実施例1においては、本条件を「有機窒素源制限条件」ともいう。
ジャーファーメンター中の表2に示した生産培地255mlに、参考例2で得られたシード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
培養開始後約2.5時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表3に示した1M IPTG水溶液0.3mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表5に示したフィード液を1時間に3.6mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
120℃、20分間オートクレーブで滅菌して使用した。
(3)解析
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
培養液のOD620を参考例2に示した方法で測定した。測定結果を図1に示す。また、IPTG溶液添加後の菌体増殖に関するデータ(菌体量、菌体増加割合、菌体増加割合の傾き、累積比増殖速度)を、それぞれ図2(A)〜(D)に示す。
生産されたフィブロイン様タンパク質を適宜定量した。フィブロイン様タンパク質の生産量に関するデータ(培養液容量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量、菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量、フィブロイン様タンパク質の累積生産性)を、それぞれ図3(A)〜(C)に示す。
IPTG添加14(21.5)時間後の累積比増殖速度は、対照条件では0.031(0.033) /hであったのに対して、有機窒素源制限条件では0.027(0.022) /hと低下した。IPTG添加14(21.5)時間後の菌体増加割合は、対照条件では57.5(102.6)%であったのに対して、有機窒素源制限条件では48.2(62.6)%と低下した。IPTG添加14(21.5)時間後の菌体増加割合の傾きは、対照条件では3.96(4.77)%/hであったのに対して、有機窒素源制限条件では3.32(2.91)%/hと低下した。なお、上記データの表記において、括弧外のデータがIPTG添加14時間後のデータ、括弧内のデータがIPTG添加21.5時間後のデータにそれぞれ対応する(以下、同様)。
IPTG添加後14(21.5)時間後の培養液容量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量は、対照条件では0.44(0.67) g/Lであったのに対して、有機窒素源制限条件では0.65(0.84) g/Lと向上した。IPTG添加後14(21.5)時間後の菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量は、対照条件では1.49(1.86)%であったのに対して、有機窒素源制限条件では2.32(2.86)%と向上した。IPTG添加後14(21.5)時間後のフィブロイン様タンパク質の累積生産性は、対照条件では0.030(0.031) g/L/hrであったのに対して、有機窒素源制限条件では0.045(0.039) g/L/hrと向上した。
以上の結果より、発現誘導後の期間に有機窒素源制限条件で培養を行うことにより、同期間における菌体増殖が低減され、フィブロイン様タンパク質の生産が向上することが明らかとなった。
実施例2:リン酸源量を低減した条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
(1)対照条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後に菌体増殖を継続させるために、十分量のリン酸源(KH2PO4として12 g/L)を流加培地に添加した条件にて培養を実施した。実施例2においては、本条件を「対照条件」ともいう。
(1)対照条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後に菌体増殖を継続させるために、十分量のリン酸源(KH2PO4として12 g/L)を流加培地に添加した条件にて培養を実施した。実施例2においては、本条件を「対照条件」ともいう。
表6に示したシード培養用培地を用い、参考例2に記載した条件にてグルコースが完全に消費されるまで培養を行い、シード培養液を得た。その後、ジャーファーメンター中の表7に示した生産培地227mlに、上記シード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さら
に、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
に、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
グルコースとMgSO4・7H2OをA区、CSL(コーンスティープリカー)をB区、その他の成分をC区としてストック液を調製した。次いで、A区およびC区は、そのまま、別々に120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。B区は硫酸を用いてpHを2に低下させ80℃の加熱処理を60分実施した後、120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。次いで、A区、B区、およびC区を混合し、アンピシリンを終濃度100 mg/Lとなるように添加してシード培養用培地とした。
グルコースとMgSO4・7H2OをA区、CSL(コーンスティープリカー)をB区、その他の成分をC区としてストック液を調製した。次いで、A区およびC区は、そのまま、別々に120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。B区は硫酸を用いてpHを2に低下させ80℃の加熱処理を60分実施した後、120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。次いで、A区、B区、およびC
区を混合し、生産培地とした。
培養開始後約1.0時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表5に示したフィード液を1時間に4mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30〜90mLの範囲で通気した。溶存酸素濃度の維持が困難となった場合は、フィード液の流速を低下させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
培養開始後約8時間目において表5に示したフィード液量が28mLに達した時点で、表3に示した1M(238.3 g/L)IPTG水溶液0.3mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表8に示したフィード液を1時間に4.0mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
グルコースをA区、KH2PO4をB区としてストック液を調製した。次いで、A区およびB区を、別々に120℃、20分間オートクレーブで滅菌して使用した。
(2)リン酸制限条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、流加培地中のリン酸源を無添加とした条件にて培養を実施した。実施例2においては、本条件を「リン酸制限条件」ともいう。
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、流加培地中のリン酸源を無添加とした条件にて培養を実施した。実施例2においては、本条件を「リン酸制限条件」ともいう。
表6に示したシード培養用培地を用い、参考例2に記載した条件にてグルコースが完全に消費されるまで培養を行い、シード培養液を得た。その後、ジャーファーメンター中の表7に示した生産培地227mlに、上記シード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存
酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
培養開始後約1.0時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表5に示したフィード液を1時間に4mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30〜90mLの範囲で通気した。溶存酸素濃度の維持が困難となった場合は、フィード液の流速を低下させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
培養開始後約8時間目において表5に示したフィード液量が28mLに達した時点で、表3に示した1M(238.3 g/L)IPTG水溶液0.3mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表5に示したフィード液を1時間に4.0mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
(3)解析
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
培養液のOD620を参考例2に示した方法で測定した。また、培地中のリン酸濃度をホスファC-テストワコー(和光純薬工業(株))を用いて定法に従い測定した。OD620、リン酸濃度(KH2PO4換算)、およびリン酸総消費量(KH2PO4換算)の測定結果を、それぞれ図4(A)〜(C)に示す。また、IPTG溶液添加後の菌体増殖に関するデータ(菌体量、累積比増殖速度)を、それぞれ図5(A)、(B)に示す。
生産されたフィブロイン様タンパク質を適宜定量した。フィブロイン様タンパク質の生産量に関するデータ(培養液容量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量、菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量、フィブロイン様タンパク質の累積比生産速度)を、それぞれ図6(A)〜(C)に示す。
IPTG添加25時間後(培養開始32.5時間後)のリン酸総消費量は、対照条件では2.05 gであったのに対して、リン酸制限条件では0.90 gと低下した。
IPTG添加25時間後の累積比増殖速度は、対照条件では0.035 /hであったのに対して、リン酸制限条件では0.030 /hと低下した。
IPTG添加25時間後の培養液容量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量は、対照条件では1.61 g/Lであったのに対して、リン酸制限条件では2.32 g/Lと向上した。IPTG添加25時間後の菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量は、対照条件では4.20%であったのに対して、リン酸制限条件では6.94%と向上した。IPTG添加25時間後のフィブロイ
ン様タンパク質の累積生産性は、対照条件では0.072 g/L/hであったのに対して、リン酸制限条件では0.105 g/L/hと向上した。
ン様タンパク質の累積生産性は、対照条件では0.072 g/L/hであったのに対して、リン酸制限条件では0.105 g/L/hと向上した。
以上の結果より、発現誘導後の期間にリン酸制限条件で培養を行うことにより、同期間における菌体増殖が低減され、フィブロイン様タンパク質の生産が向上することが明らかとなった。
実施例3:発現誘導前の菌体増殖を増強した条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
(1)対照条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の条件により培養を実施した。実施例3においては、本条件を「対照条件」ともいう。
(1)対照条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の条件により培養を実施した。実施例3においては、本条件を「対照条件」ともいう。
表9に示したシード培養用培地を用い、参考例2に記載した条件にてグルコースが完全に消費されるまで培養を行い、シード培養液を得た。その後、ジャーファーメンター中の表10に示した生産培地255mlに、上記シード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
グルコースとMgSO4・7H2OをA区、CSL(コーンスティープリカー)をB区、その他の成分をC区としてストック液を調製した。次いで、A区およびC区は、そのまま、別々に120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。B区は硫酸を用いてpHを2に低下させ80℃の加熱処理を60分実施した後、120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。次いで、A区、B区、およびC区を混合し、アンピシリンを終濃度100 mg/Lとなるように添加してシード培養用培地とした。
グルコースとMgSO4・7H2OをA区、CSL(コーンスティープリカー)をB区、その他の成分をC区としてストック液を調製した。次いで、A区およびC区は、そのまま、別々に120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。B区は硫酸を用いてpHを2に低下させ80℃の加熱処理を60分実施した後、120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。次いで、A区、B区、およびC区を混合し、生産培地とした。
培養開始後約4.0時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表3に示した1M IPTG水溶液0.3mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表5に示したフィード液を1時間に3.6mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
(2)発現誘導前の菌体増殖を増強した条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、発現誘導前に十分量のグルコースをフィードして発現誘導前に菌体を十分に生育させた条件にて培養を実施した。実施例3においては、本条件を「発現誘導前の菌体増殖を増強した条件」ともいう。
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、発現誘導前に十分量のグルコースをフィードして発現誘導前に菌体を十分に生育させた条件にて培養を実施した。実施例3においては、本条件を「発現誘導前の菌体増殖を増強した条件」ともいう。
表9に示したシード培養用培地を用い、参考例2に記載した条件にてグルコースが完全に消費されるまで培養を行い、シード培養液を得た。その後、ジャーファーメンター中の表10に示した生産培地255mlに、上記シード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必
要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
培養開始後約4.0時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表5に示したフィード液の添加を開始し、培養を継続した。フィード液の流速は、1時間に10〜40mlの範囲で、平均流速22.5mLとなるよう徐々に増加させた。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30〜90mLの範囲で通気した。溶存酸素濃度の維持が困難となった場合は、フィード液の流速を低下させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
培養開始後約8時間目において表5に示したフィード液量が90mLに達した時点で、表3に示した1M(238.3 g/L)IPTG水溶液1.2mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表5に示したフィード液を1時間に3.6mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
(3)解析
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
培養液のOD620を参考例2に示した方法で測定した。測定結果を図7に示す。また、IPTG溶液添加後の菌体増殖に関するデータ(菌体量、菌体増加割合、菌体増加割合の傾き、累積比増殖速度)を、それぞれ図8(A)〜(D)に示す。
生産されたフィブロイン様タンパク質を適宜定量した。フィブロイン様タンパク質の生産量に関するデータ(培養液容量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量、菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量、フィブロイン様タンパク質の累積生産性)を、それぞれ図9(A)〜(C)に示す。
累積比増殖速度は、対照条件ではIPTG添加20(28)時間後に0.033(0.029) /hであったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加24時間後に0.011 /hと低下した。菌体増加割合は、対照条件ではIPTG添加20(28)時間後に93.1(131.3)%であったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加24時間後に77.1%と低下した。菌体増加割合の傾きは、対照条件ではIPTG添加20(28)時間後に4.66(4.69)%/hであったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加24時間後に3.21%/hと低下した。なお、上記データの表記において、括弧外のデータがIPTG添加20時間後のデータ、括弧内のデータがIPTG添加28時間後のデータにそれぞれ対応する(以下、同様)。
培養液容量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量は、対照条件ではIPTG添加20(28)時間後に1.34(1.36) g/Lであったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加24時間後に2.70 g/Lと向上した。菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄
積量は、対照条件ではIPTG添加20(28)時間後に3.80(3.45)%であったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加24時間後に5.12%と向上した。フィブロイン様タンパク質の累積生産性は、対照条件ではIPTG添加20(28)時間後に0.072(0.054)g/L/hrであったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加24時間後に0.128 g/L/hrと向上した。
積量は、対照条件ではIPTG添加20(28)時間後に3.80(3.45)%であったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加24時間後に5.12%と向上した。フィブロイン様タンパク質の累積生産性は、対照条件ではIPTG添加20(28)時間後に0.072(0.054)g/L/hrであったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加24時間後に0.128 g/L/hrと向上した。
以上の結果より、発現誘導前に菌体を十分に生育させることにより、発現誘導後の期間における菌体増殖が低減され、フィブロイン様タンパク質の生産が向上することが明らかとなった。
実施例4:炭素源量を低減した条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
(1)対照条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後に菌体増殖を継続させるために、炭素源(グルコース)の流加速度を8 mL/hrとした条件にて培養を実施した。実施例4においては、本条件を「対照条件」ともいう。
(1)対照条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後に菌体増殖を継続させるために、炭素源(グルコース)の流加速度を8 mL/hrとした条件にて培養を実施した。実施例4においては、本条件を「対照条件」ともいう。
表1に示したシード培養用培地を用い、参考例2に記載した条件にてグルコースが完全に消費されるまで培養を行い、シード培養液を得た。その後、ジャーファーメンター中の表10に示した生産培地255mlに、上記シード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
培養開始後約4.0時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表3に示した1M(238.3 g/L)IPTG水溶液0.3mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表4に示したフィード液を1時間に8.0mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
(2)炭素源制限条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、炭素源(グルコース)の流加速度を4 mL/hrとした条件にて培養を実施した。実施例4においては、本条件を「炭素源制限条件」ともいう。
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、炭素源(グルコース)の流加速度を4 mL/hrとした条件にて培養を実施した。実施例4においては、本条件を「炭素源制限条件」ともいう。
表1に示したシード培養用培地を用い、参考例2に記載した条件にてグルコースが完全に消費されるまで培養を行い、シード培養液を得た。その後、ジャーファーメンター中の表2に示した生産培地255mlに、上記シード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyP
robe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
robe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
培養開始後約4.0時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表3に示した1M(238.3 g/L)IPTG水溶液0.3mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表4に示したフィード液を1時間に4.0mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
(3)解析
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
培養液のOD620を参考例2に示した方法で測定した。OD620の測定結果を、図10(A)に示す。また、グルコース消費量と累積比グルコース消費速度(ν-cumulative)を、図10(B)、(C)に示す。また、IPTG溶液添加後の菌体増殖に関するデータ(菌体量、累積比増殖速度)を、それぞれ図11(A)、(B)に示す。
生産されたフィブロイン様タンパク質を適宜定量した。フィブロイン様タンパク質の生産量に関するデータ(培養液容量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量、菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量、フィブロイン様タンパク質の累積生産性)を、それぞれ図12(A)〜(C)に示す。
総グルコース消費量は、対照条件ではIPTG添加13.7時間後に47.6 gであったのに対して、炭素源制限条件では24.8 gと低下した。累積比グルコース消費速度は、対照条件でIPTG添加13.7時間後に0.40 g/g/hであったのに対して、炭素源制限条件では0.24 g/g/hと低下した。
IPTG添加13.7時間後の累積比増殖速度は、対照条件では0.071 /hであったのに対して、炭素源制限条件では0.034 /hと低下した。
培養液容量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量は、対照条件ではIPTG添加13.7時間後に0.85 g/Lであったのに対して、炭素源制限条件ではIPTG添加13.7時間後に1.24 g/Lと向上した。菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量は、対照条件ではIPTG添加13.7時間後に2.31%であったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加24時間後に4.35%と向上した。フィブロイン様タンパク質の累積生産性は、対照条件ではIPTG添加13.7時間後に0.070g/L/hrであったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加13.7時間後に0.096 g/L/hrと向上した。
以上の結果より、発現誘導後の期間に炭素源制限条件で培養を行うことにより、同期間における菌体増殖が低減され、フィブロイン様タンパク質の生産が向上することが明らかとなった。
実施例5:要求性アミノ酸(Ile)量を低減した条件でのフィブロイン様タンパク質の生
産
(1)対照条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の条件により培養を実施した。実施例5においては、本条件を「対照条件」ともいう。
産
(1)対照条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の条件により培養を実施した。実施例5においては、本条件を「対照条件」ともいう。
表9に示したシード培養用培地を用い、参考例2に記載した条件にてグルコースが完全に消費されるまで培養を行い、シード培養液を得た。その後、ジャーファーメンター中の表10に示した生産培地255mlに、上記シード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
培養開始後約4.0時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表3に示した1M IPTG水溶液0.3mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表5に示したフィード液を1時間に3.6mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
(2)Ile制限条件でのフィブロイン様タンパク質の生産
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、生産培地(初発培地)中のIle濃度を低減した条件にて培養を実施した。実施例5においては、本条件を「Ile制限条件」ともいう。
以下の手順により、フィブロイン様タンパク質の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、生産培地(初発培地)中のIle濃度を低減した条件にて培養を実施した。実施例5においては、本条件を「Ile制限条件」ともいう。
表9に示したシード培養用培地を用い、参考例2に記載した条件にてグルコースが完全に消費されるまで培養を行い、シード培養液を得た。その後、ジャーファーメンター中の表11に示した生産培地255mlに、上記シード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
グルコースとMgSO4・7H2OをA区、CSL(コーンスティープリカー)をB区、その他の成分をC区としてストック液を調製した。次いで、A区およびC区は、そのまま、別々に120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。B区は硫酸を用いてpHを2に低下させ80℃の加熱処理を60分実施した後、120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。次いで、A区、B区、およびC区を混合し、生産培地とした。
培養開始後約4.0時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表3に示した1M IPTG水溶液0.3mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表5に示したフィード液を1時間に3.6mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
(3)解析
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
培養液のOD620を参考例2に示した方法で測定した。OD620に関するデータを図13に示す。IPTG溶液添加後の菌体増殖に関するデータ(累積比増殖速度)を、表12に示す。
培養液中のIle濃度を以下の手順で測定した。培養液から分離した培養上清を0.2 N HClで100倍希釈し、アミノ酸分析装置LC-8800C(島津製作所)を用いて分析した。測定結果を図14に示す。IPTG溶液添加後のIle総消費量を、表12に示す。
生産されたフィブロイン様タンパク質を適宜定量した。フィブロイン様タンパク質の生産量に関するデータ(培養液容量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量、菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量)を、表12に示す。
IPTG添加24時間後(培養開始28時間後)のIle総消費量は、対照条件では0.244 gであったのに対して、Ile制限条件では0.033 gと低下した。
IPTG添加24時間後の累積比増殖速度は、対照条件では0.033 /hであったのに対して、Ile制限条件では0.020 /hと低下した。
IPTG添加24時間後の菌体重量当たりのフィブロイン様タンパク質蓄積量は、対照条件では3.04%であったのに対して、Ile制限条件では4.79%と向上した。
以上の結果より、発現誘導後の期間にIle制限条件で培養を行うことにより、同期間における菌体増殖が低減され、フィブロイン様タンパク質の生産が向上することが明らかとなった。
実施例6:発現誘導前の菌体増殖を増強した条件での野生型ADF3の生産
(A)野生型ADF3生産菌の構築
本実施例では、フィブロイン様タンパク質として、N末端にHisタグとHRV3Cプロテアーゼ認識配列が付加されたニワオニグモのADF3を生産した。本実施例において、同融合タンパク質を単に「野生型ADF3」ともいう。
(A)野生型ADF3生産菌の構築
本実施例では、フィブロイン様タンパク質として、N末端にHisタグとHRV3Cプロテアーゼ認識配列が付加されたニワオニグモのADF3を生産した。本実施例において、同融合タンパク質を単に「野生型ADF3」ともいう。
野生型ADF3をコードするDNAをin-fusionキットにてpET22b(+)のNdeI-EcoRIサイトに導入し、野生型ADF3の発現プラスミドpET22b-ADF3WTを得た。pET22b-ADF3WTでエシェリヒア・コリBLR(DE3)を形質転換し、野生型ADF3生産菌BLR(DE3)/pET22b-ADF3WTを得た。pET22b-ADF3WTにおける野生型ADF3のコード領域の塩基配列とその周辺配列を配列番号4に示す。配列番号4の12〜1994位が野生型ADF3のコード領域に対応する。また、pET22b-ADF3WTにコードされる野生型ADF3のアミノ酸配列を配列番号5に示す。
(B)野生型ADF3の生産
(1)対照条件での野生型ADF3の生産
以下の条件により培養を実施した。実施例6においては、本条件を「対照条件」ともいう。
(1)対照条件での野生型ADF3の生産
以下の条件により培養を実施した。実施例6においては、本条件を「対照条件」ともいう。
表9に示したシード培養用培地を用い、参考例2に記載した条件にてグルコースが完全に消費されるまで培養を行い、シード培養液を得た。その後、ジャーファーメンター中の表10に示した生産培地255mlに、上記シード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃
に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
培養開始後約4.0時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表3に示した1M IPTG水溶液0.3mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表13に示したフィード液を1時間に2.6mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
120℃、20分間オートクレーブで滅菌した。
(2)発現誘導前の菌体増殖を増強した条件での野生型ADF3の生産
以下の手順により、野生型ADF3の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、発現誘導前に十分量のグルコースをフィードして発現誘導前に菌体を十分に生育させた条件にて培養を実施した。実施例6においては、本条件を「発現誘導前の菌体増殖を増強した条件」ともいう。
以下の手順により、野生型ADF3の発現誘導後の菌体増殖を低減するために、発現誘導前に十分量のグルコースをフィードして発現誘導前に菌体を十分に生育させた条件にて培養を実施した。実施例6においては、本条件を「発現誘導前の菌体増殖を増強した条件」ともいう。
表9に示したシード培養用培地を用い、参考例2に記載した条件にてグルコースが完全に消費されるまで培養を行い、シード培養液を得た。その後、ジャーファーメンター中の表10に示した生産培地255mlに、上記シード培養液45mlを植菌した。培養液温度を37℃に保ち、フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとし、培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養した。培養中、経時的に培養液をサンプリングし、培養液中のグルコース濃度をBF-5(王子計測機器)を用いて測定した。また、培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30mL通気した。
培養開始後約4.0時間目に生産培地中のグルコースが完全に消費された。直後に表13に示したフィード液を1時間に14.6mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(
Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30〜90mLの範囲で通気した。溶存酸素濃度の維持が困難となった場合は、フィード液の流速を低下させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させ、それでも溶存酸素濃度が不足した場合は、さらに、フィルターで除菌した酸素を1分間に30〜90mLの範囲で通気した。溶存酸素濃度の維持が困難となった場合は、フィード液の流速を低下させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
培養開始後約8時間目において表13に示したフィード液の流加量が58mLに達した時点で、表3に示した1M IPTG水溶液1.1mlを添加した。その後、培養温度を30℃に設定し、表13に示したフィード液を1時間に2.6mlの流速で添加を開始し、培養を継続した。フィルターで除菌した空気を1分間に300mL通気し、攪拌速度は700rpmとした。培養中、培養液中の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度センサーOxyProbe(登録商標)Dissolved Oxygen Sensors(Broadley-James社)を用いて測定し、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。溶存酸素濃度を飽和濃度の20%に維持するに当たり、必要により撹拌速度を2000rpmまで増加させた。培養液pHはアンモニアガスを適宜吹き込むことによりpH6.9で一定に制御して培養を継続した。
(3)解析
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
上記(1)および(2)に記載の培養においては、培養途中および培養終了後に適当量の培養液をサンプリングし、以下に示す分析に供した。
培養液のOD620を参考例2に示した方法で測定した。測定結果を図15(A)に示す。また、IPTG溶液添加後の累積比グルコース消費速度(ν-cumulative)を、図15(B)に示す。また、培地中のIle濃度濃度を実施例5に示した方法で測定した。Ile濃度およびIPTG溶液添加後のIle総消費量を、図16(A)、(B)に示す。また、培地中のリン酸濃度を実施例2に示した方法で測定した。リン酸濃度(KH2PO4換算)およびIPTG溶液添加後のリン酸総消費量(KH2PO4換算)を、図16(C)、(D)に示す。また、IPTG溶液添加後の菌体増殖に関するデータ(菌体量、菌体増殖割合、菌体増加割合の傾き、累積比増殖速度)を、図17(A)〜(D)、表14に示す。
生産された野生型ADF3を適宜定量した。野生型ADF3の生産量に関するデータ(培養液容量当たりの野生型ADF3蓄積量、菌体重量当たりの野生型ADF3蓄積量、野生型ADF3累積生産性)を、図18(A)〜(C)、表14に示す。
累積比増殖速度は、対照条件ではIPTG添加42時間後に0.022 /hであったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加38時間後に0.009 /hと低下した。菌体増加割合は、対照条件ではIPTG添加42時間後に163.8%であったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加38時間後に36.3%と低下した。菌体増加割合の傾きは、対照条件ではIPTG添加42時間後に3.78%/hであったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加38時間後に0.96%/hと低下した。
培養液容量当たりの野生型ADF3蓄積量は、対照条件ではIPTG添加42時間後に0.022 g/Lであったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加38時間後に0.055 g/Lと向上した。菌体重量当たりの野生型ADF3蓄積量は、対照条件ではIPTG添加42時間後に0.055%であったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加38時間後に0.100%と向上した。野生型ADF3累積生産性は、対照条件ではIPTG添加42時間後に0.00058g/L/hであったのに対して、発現誘導前の菌体増殖を増強した条件ではIPTG添加38時間後に0.0016g/L/hと向上した。
以上の結果より、発現誘導前に菌体を十分に生育させることにより、発現誘導後の期間
における菌体増殖が低減され、野生型ADF3の生産が向上することが明らかとなった。
における菌体増殖が低減され、野生型ADF3の生産が向上することが明らかとなった。
本発明により、フィブロイン様タンパク質を効率的に製造できる。
<配列表の説明>
配列番号1:実施例1〜5で用いたフィブロイン様タンパク質遺伝子の塩基配列
配列番号2:実施例1〜5で用いたフィブロイン様タンパク質遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列
配列番号3:ニワオニグモのADF3タンパク質(partial)のアミノ酸配列
配列番号4:pET22b-ADF3WTにおける野生型ADF3のコード領域の塩基配列とその周辺配列
配列番号5:pET22b-ADF3WTにコードされる野生型ADF3のアミノ酸配列
配列番号1:実施例1〜5で用いたフィブロイン様タンパク質遺伝子の塩基配列
配列番号2:実施例1〜5で用いたフィブロイン様タンパク質遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列
配列番号3:ニワオニグモのADF3タンパク質(partial)のアミノ酸配列
配列番号4:pET22b-ADF3WTにおける野生型ADF3のコード領域の塩基配列とその周辺配列
配列番号5:pET22b-ADF3WTにコードされる野生型ADF3のアミノ酸配列
Claims (12)
- フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子を有するエシェリヒア・コリを培地で培養すること、
フィブロイン様タンパク質をコードする遺伝子の発現を誘導すること、および
フィブロイン様タンパク質を採取することを含む、フィブロイン様タンパク質の製造法であって、
前記発現誘導後の菌体増殖が低減されていることを特徴とし、
前記発現誘導後の期間に流加培地が流加され、
フィブロイン様タンパク質が、下記(A)または(B)に記載のタンパク質:
(A)フィブロイン;
(B)フィブロインが有する反復配列と同様の配列を有する繊維状タンパク質
であり、
前記フィブロインが有する反復配列と同様の配列が、下記式(I)に示される配列であり:
REP1−REP2 ・・・(I)
前記タンパク質(B)が、前記式(I)に示される配列を2回またはそれ以上の繰り返し数で有し、
各繰り返しにおいて独立に、前記REP1が、アラニン及びグリシンから選択される1またはそれ以上のアミノ酸の連続配列からなる2〜20残基のアミノ酸配列であり、
各繰り返しにおいて独立に、前記REP2が、グリシン、セリン、グルタミン、及びアラニンから選択される1またはそれ以上のアミノ酸を含む2〜200残基のアミノ酸配列であって、グリシン、セリン、グルタミン、及びアラニンの合計残基数がREP2の総アミノ酸残基数の40%以上であるアミノ酸配列である、方法。 - 前記発現誘導後において、菌体増加割合、菌体増加割合の傾き、および累積比増殖速度から選択される1またはそれ以上が低下している、請求項1に記載の方法。
- 前記発現誘導後の期間に生育因子制限下で培養が行われることにより、前記発現誘導後の菌体増殖が低減された、請求項1または2に記載の方法。
- 前記生育因子が、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、ミネラル、および栄養要求性により要求される栄養素から選択される1またはそれ以上の成分である、請求項3に記載の方法。
- 前記生育因子が、炭素源、有機窒素源、およびリン酸源から選択される1またはそれ以上の成分である、請求項3または4に記載の方法。
- 培養開始時における前記生育因子の培地中での濃度を低減することにより、生育因子が制限された、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
- 前記発現誘導後の期間における前記生育因子の流加量を低減することにより、生育因子が制限された、請求項3〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 前記発現誘導後の期間に流加される流加培地中の全成分に対する前記生育因子の比率が30%(w/w)未満である、請求項3〜7のいずれか1項に記載の方法。
- 前記発現誘導後の期間に流加される流加培地中の全成分に対する炭素源の比率が70%(w/w)以上である、請求項3〜8のいずれか1項に記載の方法。
- 前記発現誘導後の期間に累積比炭素源消費速度が0.35g/g/hr以下となるように培養が行われる、請求項3〜9のいずれか1項に記載の方法。
- 前記発現誘導時のOD620が80以上となるように前記発現誘導前の期間に菌体を増殖させることにより、前記発現誘導後の菌体増殖が低減された、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
- 前記発現誘導時のOD620が40〜500である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
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