JP2020077730A - 圧粉磁心 - Google Patents
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Abstract
Description
特許文献1では、軟磁性金属粒子の粒子間を高抵抗軟磁性物質で構成した複合軟磁性材料が開示されている。この文献には、複合軟磁性材料における軟磁性金属粒子の断面積比率等を特定の範囲とすることで、実用となる磁界で十分に磁束密度Bmが高くなり、コアロスPcvが良くなる旨の記載がある。
また、特許文献2には、表面にフェライト原料が付着した軟磁性金属粒子を加圧成形して成形体とし、この成形体を熱処理(焼鈍)する技術が開示されている。この文献には、熱処理により、軟磁性金属粒子の表面にフェライト膜が形成され、比抵抗及び磁束密度が向上する旨の記載がある。
また、特許文献3には、フェライト結晶粒からなるフェライト膜で被覆した軟磁性金属粒子が開示されている。この文献では、フェライト結晶粒により、フェライト膜の強度が向上するから、圧粉成形時の高い応力をかけてもフェライト膜の破損が抑制される旨の記載がある。
しかし、上記のいずれの技術を適用しても、透磁率及び抵抗率のバランスは必ずしも十分とは言えず、両者をバランスよく向上させる新たな技術が切望されていた。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、透磁率及び抵抗率をバランスよく向上させることを目的とする。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
前記鉄基軟磁性粒子の平均粒子径は、2.0μm以上100μm以下であり、
前記鉄基軟磁性粒子の平均粒子径をDaμmとした場合に、前記圧粉磁心の断面構造を10Daμm×10Daμmの正方形の第1視野で観察した際に、前記第1視野を画する正方形の一辺上で、フェライトが存在する場所を始点として、正方形の一辺と対向する辺までフェライトが連続して形成され、互いに相違する5以上の連続層を有し、
前記連続層の、前記一辺から前記対向する辺までの経路の平均長さが11.5Daμm以上であり、
前記連続層には、P、Si、及びAlからなる群より選択される1種以上が含有されていることを特徴とする圧粉磁心。
前記第3視野中に欠けることなく観察でき、かつ長軸が最大である前記鉄基軟磁性粒子を特定粒子とし、
前記鉄基軟磁性粒子のうち、前記特定粒子の隣りの前記鉄基軟磁性粒子を隣接粒子Pn(但し、nは1以上の整数)とし、
前記特定粒子の長軸を直径とした円の中心をC0とし、前記隣接粒子Pnの長軸を直径とした円の中心をCn(但し、nは1以上の整数)とした場合に、
前記C0と前記Cn(但し、nは1以上の整数)を結ぶ直線が、前記特定粒子の外縁と交わる点An(但し、nは1以上の整数)と、前記隣接粒子Pnの外縁と交わる点Bn(但し、nは1以上の整数)とを求め、前記点Anと前記点Bnとの距離を、前記特定粒子と前記隣接粒子Pnの粒子間距離と定義し、
n=1のときの前記粒子間距離が、20nm〜1000nmである、又は、
前記特定粒子と各々の前記隣接粒子Pn(但し、nは2以上の整数)との前記粒子間距離を求め、それらを平均した平均粒子間距離が、20nm〜1000nmであり、
前記隣接粒子Pn(但し、nは1以上の整数)のうちの少なくとも1つについて、前記点Anと前記点Bnとを結ぶ線分AnBnは、前記連続層を横断しており、
前記線分AnBnを3等分した中央に位置する線分Fn(但し、nは1以上の整数)の部位に存在する前記連続層は、3等分した残りの線分Gn(但し、nは1以上の整数)及び線分Hn(但し、nは1以上の整数)の部位に存在する前記連続層よりも、炭素、アルカリ金属、及びSiの少なくとも1つの元素濃度が高くなっていることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の圧粉磁心。
前記圧粉磁心の断面構造を10Daμm×10Daμmの正方形の第4視野で観察した場合に、フェライトで取り囲まれた状態で存在する気孔の面積割合は、前記第4視野の5%以下であることを特徴とする〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
上記〔2〕の発明によれば、圧粉磁心の透磁率が更に向上する。
上記〔3〕の発明によれば、連続層(フェライト層)の中央1/3の部分には結合剤として使用しているバインダー分が残存しており、連続層は接着剤としても発揮する。また、このような高濃度部分があることで、抵抗値変化率が小さくなる。
上記〔4〕の発明によれば、充填性が向上して圧粉磁心を高密度化できる。その結果、圧粉磁心の透磁率、及び抵抗率が向上し、抵抗値変化率がより小さくなる。
圧粉磁心1は、図1の右図(断面図)に示すように、複数の鉄基軟磁性粒子3を有する。フェライト6は、後述する連続層21(21A,21B,21C,21D,21E)を形成している。なお、図1におけるハッチング(平行線)は、鉄基軟磁性粒子3を示している。また、図1等の点描は、フェライト6を示している。なお、点描で示される圧粉磁心1におけるフェライト6は、0.1重量%以下のバインダー由来の成分を含有していてもよい。
圧粉磁心1は、図2に示す、表面にフェライト5を有する鉄基軟磁性粒子3である複合粒子7から構成されている。複数の複合粒子7をプレス成形すると、図1に示す圧粉磁心1となる。
本実施形態では、鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径は、2.0μm以上100μm以下である。
そして、圧粉磁心1は、鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径をDaμmとし、圧粉磁心1の断面構造を10Daμm×10Daμmの正方形の第1視野で観察した際に、次の構成とされている。すなわち、第1視野を画する正方形の一辺11上で、フェライト6が存在する場所を始点Sとして、正方形の一辺11と対向する辺13までフェライト6が連続して形成され、互いに相違する5以上の連続層21を有する。これら連続層21の、一辺11から対向する辺13までの経路の平均長さは、11.5Daμm以上である。連続層21には、P、Si、及びAlからなる群より選択される1種以上が含有されている。
以下、本発明の圧粉磁心1の実施形態を詳細に説明する。
図1は、圧粉磁心1を、その軸方向に沿って切断した断面を示している。
鉄基軟磁性粒子3としては、軟磁性である純鉄、鉄基合金の粒子を幅広く用いることができる。鉄基合金としては、Fe−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al合金、Ni−Fe合金、Fe−Co合金、Fe基アモルファス合金等を好適に用いることができる。特に、組成中にCrやAlを含む合金は、表面に金属酸化物層を形成しているため、より好ましい。CrやAlを含まない金属を用いる場合には、予めめっき処理等により金属表面にCrやAlの層を形成させる必要がある。
Fe−Si−Cr合金を用いる場合には、例えば、Si:0.1〜10質量%、Cr:0.1〜10質量%、残部:Fe及び不可避的不純物の組成の合金とすることができる。
鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径は、2.0μm以上100μm以下であり、5.0μm以上80μm以下が好ましく、10μm以上60μm以下がより好ましい。鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径は、使用する周波数帯域によって適宜変更することができる。特に100kHzを超える高周波帯域での使用を想定した場合は5μm以上60μm以下であることがより好ましい。なお、鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径は、圧粉磁心1の断面をFE−SEM JSM−6330Fによって観察した粒子面積から面積円相当径を算出し、平均粒子径とした。
金属酸化物層を構成する金属酸化物は特に限定されない。例えば、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、及び酸化タングステンからなる群より選ばれた1種以上の金属酸化物が好ましい。特に、金属酸化物に、酸化クロム及び酸化アルミニウムのうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。これらの好ましい金属酸化物を用いることで、上述の金属原子の拡散が効果的に抑制される。
なお、鉄基軟磁性粒子3として、Fe−Si−Cr合金の粒子を用いた場合には、金属原子拡散の抑制効果を有する金属酸化物層を容易に形成することができる。すなわち、Fe−Si−Cr合金中のCrが酸化することにより鉄基軟磁性粒子3の外縁部に金属酸化物層が形成される。
また、金属酸化物層の厚みは、特に限定されない。厚みは、好ましくは1nm〜20nmとすることができる。なお、金属酸化物層の厚みは、XPS(X線光電子分光法)を用いて測定できる。
(2.1)フェライト6の構成
本実施形態の圧粉磁心1には、フェライト6(軟磁性フェライト)が連続して形成された連続層21が形成されている。
フェライト6の材料は、特に限定されない。フェライト6の材料は、マグネタイト、Niフェライト、Znフェライト、Mnフェライト、Ni−Znフェライト、Mn−Znフェライト、及びNi−Zn−Cuフェライトからなる群より選ばれた1種以上が好ましい。更には電気抵抗率が104Ω・cm以上のフェライトを用いることが好ましい。そのため、Niフェライト、Znフェライト、Mnフェライト、Ni−Znフェライト、Mn−Znフェライト、及びNi−Zn−Cuフェライトからなる群より選ばれた1種以上がより好ましい。
フェライト6としては、例えば、下記式〔1〕又は〔2〕の軟磁性フェライトを好適に用いることができる。
〔1〕 Fe3O4
〔2〕 Mx−Zny−Fe(3−x−y)O4
(但し、式中、Mは、Ni又はMnであり、0≦x≦1、0≦y≦1である。)
本実施形態の圧粉磁心1では、フェライト6が連続して形成された連続層21は、次の第1〜3要件を全て満たしている。
なお、第1〜3要件は、圧粉磁心1の断面構造を観察した際に、後述する10Daμm×10Daμmの正方形の視野を複数観察して、そのうちの少なくとも1つの視野において満たしていればよい。
まず、第1要件を説明する。図1の右図は、圧粉磁心1の断面構造を観察した際の、10Daμm×10Daμmの正方形の第1視野を模式図に示している。ここで、「10Daμm」とは、鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径Daμmの10倍を意味する(以下、同様である)。例えば、鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径が10μmの場合には、10Daμm=10×10μm=100μmを意味する。このように、第1視野の一辺の長さは、鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径と比例関係にある。
第1視野を画する正方形の一辺11上で、フェライト6が存在する場所を始点Sとする。一辺11上の始点Sから、正方形の一辺11と対向する辺13までフェライト6が連続しているところを辿っていくと、互いに相違する5以上ルート(経路)が存在していることが第1要件である。すなわち、互いに相違する5以上の連続層21が存在していることが第1要件である。なお、途中で、分岐点にさしかかったときには、対向する辺13に辿り着くために最短となるルートを選択する。また、互いに相違するルートは5以上であれば、ルート数の上限値はないが、通常の上限値は30である。
図1は、一辺11上の5つの異なる始点S1,S2,S3,S4,S5から始まり、それぞれ異なる終点E1,E2,E3,E4,E5で終わる5つの相違する連続層21A,21B,21C,21D,21Eが存在する例を示している。
この第1要件を満たすと、圧粉磁心1内に多くの連続層21が存在することになり、隣り合う鉄基軟磁性粒子3同士が、フェライト6によって、効果的に絶縁され耐電圧特性が高くなる。また、フェライト6の連続層21が、鉄基軟磁性粒子3同士を結着させて、圧粉磁心1の機械的強度が向上する。
次に、第2要件を説明する。第2要件は、連続層21の、一辺11から対向する辺13までの経路の平均長さが11.5Daμm以上という要件である。例えば、鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径が10μmの場合には、11.5Daμm=11.5×10μm=115μmであるから、この要件は、115μm以上を意味する。
連続層21の経路の平均長さは12.0Daμm以上がより好ましく、12.5Daμm以上が更に好ましい。連続層21の経路の平均長さの上限値は、15Daμmである。
図1の例では、この第2要件は、連続層21A,21B,21C,21D,21Eの経路の平均長さが11.5Daμm以上という要件となる。
この第2要件を満たすと、連続層21の平均長さが、第1視野の一辺の長さ10Daμmよりも長くなる。すなわち、連続層21は、一辺11から対向する辺13までの経路までの間で、蛇行していることになる。連続層21が直線状の場合と比べて、連続層21が蛇行していると、連続層21が鉄基軟磁性粒子3に接触する面積が多くなる。よって、フェライト6の連続層21による、鉄基軟磁性粒子3同士の結着効果が高くなる。また、この要件を満たすと、連続層21が鉄基軟磁性粒子3間に蛇行してより多く入り込むことに繋がるから、鉄基軟磁性粒子3同士が、効果的に絶縁され耐電圧特性が高くなる。
なお、連続層21の平均長さは、後述するプレス成形時のプレス圧力等によって制御される。プレス圧力を500MPa以上とすることで粒子が入り組み、蛇行した構造になる。
次に、第3要件を説明する。第3要件は、連続層21には、P(リン)、Si(ケイ素)、及びAl(アルミニウム)からなる群より選択される1種以上が含有されているという要件である。
この第3要件を満たすと、連続層21の鉄基軟磁性粒子3への結着性が高くなるから、鉄基軟磁性粒子3同士をより強固に結着させて、圧粉磁心1の強度が向上する。
連続層21において、特定元素の元素濃度は、次の要件を満たすことが好ましい。
この特定元素の元素濃度について図4,5を参照して説明する。
図4に模式的に示されるように、圧粉磁心1の断面構造を10Daμm×10Daμmの正方形の第3視野で観察した場合に、第3視野中に欠けることなく観察でき、かつ長軸が最大である鉄基軟磁性粒子3を特定粒子31とする。また、鉄基軟磁性粒子3のうち、特定粒子31の隣りの鉄基軟磁性粒子3を隣接粒子Pn(図4の場合には、P1,P2,P3,P4,P5,P6,P7,P8)とする。そして、特定粒子31の長軸を直径とした円の中心をC0とし、隣接粒子Pnの長軸を直径とした円の中心をCn(C1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8)として、C0とCnを結ぶ直線を引く。直線が、特定粒子31の外縁と交わる点Anと、隣接粒子Pnの外縁と交わる点Bnとを求め、点Anと点Bnとの距離を、特定粒子31と隣接粒子Pnの粒子間距離Lnと定義する。図5では、特定粒子31と隣接粒子P1の粒子間距離L1が例示されている。
この際、n=1のときの粒子間距離L1は、20nm〜1000nmが好ましく、25nm〜600nmがより好ましく、30nm〜300nmが更に好ましい。
nが2以上の整数のときは、特定粒子31と各々の隣接粒子Pnとの粒子間距離Lnをそれぞれ求め、それらを平均した平均粒子間距離は、20nm〜1000nmが好ましく、25nm〜600nmがより好ましく、30nm〜300nmが更に好ましい。
隣接粒子Pn(但し、nは1以上の整数)のうちの少なくとも1つについて、点Anと点Bnとを結ぶ線分AnBnは、連続層21を横断している。図4,5では、隣接粒子P1に着目して、点A1と点B1とを結ぶ線分A1B1が、連続層21を横断している例を示している。
隣接粒子Pn(但し、nは1以上の整数)のうちの少なくとも1つについて、線分AnBnを3等分した中央に位置する線分Fnの部位に存在する連続層21は、3等分した残りの線分Gn及び線分Hnの部位に存在する連続層21よりも、炭素、アルカリ金属(Li(リチウム),Na(ナトリウム),K(カリウム)等)、及びSiの少なくとも1つの元素濃度が高くなっていることが元素濃度の要件(「特定の濃度要件」ともいう)である。図4,5では、隣接粒子P1に着目して、線分A1B1を3等分した中央に位置する線分F1の部位に存在する連続層21が、3等分した残りの線分G1及び線分H1の部位に存在する連続層21よりも、炭素、アルカリ金属,Na,K等)、及びSiの少なくとも1つの元素濃度が高くなっている例を示している。
この(2.2.4)の欄に記載した要件を満たすと、連続層21の鉄基軟磁性粒子3への結着性が高くなるから、鉄基軟磁性粒子3同士をより強固に結着させて、圧粉磁心1の強度が向上する。
なお、中央に位置する線分Fnの部位に存在する連続層21における特定元素の元素濃度が高くなっていることの確認は、TOF−SIMSによる測定で行うことができる。
また、線分Fnの部位に存在する連続層21における元素濃度が一定でない場合には、線分Fnの部位に存在する連続層21の平均濃度を採用する。同様に、線分Gn、線分Hnの部位に存在する連続層21における元素濃度が一定でない場合には、線分Gn、線分Hnの部位にそれぞれ存在する連続層21の平均濃度を採用する。
なお、この欄に記載された元素濃度の要件は、圧粉磁心1の断面構造を観察した際に、10Daμm×10Daμmの正方形の視野を複数観察して、そのうちの少なくとも1つの視野において満たしていればよい。
上記説明では、隣接粒子P1に着目して、線分A1B1が連続層21を横断しており、かつ、A1B1を3等分した中央に位置する線分F1の部位に存在する連続層21が特定の濃度要件を満たしている例を示した。この例に限定されず、隣接粒子Pnのいずれか1つに着目した場合に、線分AnBnが連続層21を横断しており、かつ、AnBnを3等分した中央に位置する線分Fnの部位に存在する連続層21が特定の濃度要件を満たしていれば、(2.2.4)の欄に記載した要件を満たしていることになる。
連続層21を構成するフェライト6は、既述のように複合粒子7のフェライト5に由来している。複合粒子7のフェライト5の形成方法は、特に限定されない。ここでは、その形成方法の一例を説明する。
例えば、金属酸化物層が表面に存在する鉄基軟磁性粒子3を超音波励起フェライトめっき装置を用いてめっき反応させる。この反応は、水溶液中でFe2+→Fe3+の酸化反応を利用し、めっき溶液中の金属イオンと水分子を反応させることでスピネル型フェライトを基板や粒子等の表面に堆積させる手法である。この手法では、めっき条件、めっき時間の調整により、金属酸化物層の表面をフェライト5によって被覆することができる。なお、めっき時間の調整によってフェライト5の厚さを調整することができる。
通常、被めっき物に酸化クロムや酸化アルミニウムといった金属酸化物層が存在する場合、めっきの反応速度が著しく低下するため、フェライト5を形成させることはできない。金属酸化物層の表面に徽密に(例えば金属酸化物層の表面の80%以上を)被覆するためには、めっき液のpHを細かく調整する必要がある。被覆するフェライト5のpH−酸化還元電位図において、フェライト生成条件の高pH側にめっき液のpHを調節する必要がある。この条件はめっきするフェライト5の組成によって変化するが、例えばMn−ZnフェライトではpH=10〜11が好ましく、Ni−ZnフェライトではpH=11〜12が好ましい。
3Fe2++4H2O→Fe3O4+8H++2e−
フェライト5により被覆された鉄基軟磁性粒子3の製造方法の一例を以下に示す。水に金属イオンが含まれた反応液を用意する。水に酸化剤が溶解した酸化液を用意する。金属酸化物層を表面に有する鉄基軟磁性粒子3を所定のpHに調製した緩衝液中に分散させる。そして、超音波を印加しながら、鉄基軟磁性粒子3が分散した緩衝溶液に、反応液及び酸化液を滴下すると、金属酸化物層の上にフェライト5が形成される。緩衝液のpHは、Ni−Znフェライトの場合には、上述のように、好ましくは11〜12である。緩衝液の種類は特に限定されない。
なお、鉄基軟磁性粒子3の表面に、フェライト5が形成するメカニズムは解明されていないが以下のように推測される。具体的には、鉄基軟磁性粒子3の表面の水酸基から反応が開始し、フェライト5の形成が始まるものと推測される。
このようにして、フェライト5により被覆された鉄基軟磁性粒子3を製造することができる。この鉄基軟磁性粒子3をプレス成形し、焼鈍することによって、フェライトを備えた圧粉磁心1が製造される。
なお、反応時間等で鉄基軟磁性粒子3に被覆するフェライト5量を制御できる。そして、被覆するフェライト5の量を制御することで、圧粉磁心1内のフェライト6からなる連続層21の厚みを調整できる。鉄基軟磁性粒子3の表面にフェライト5を形成する反応時間は、好ましくは、1分以上60分以下であり、より好ましくは1分以上25分以下である。使用する鉄基軟磁性粒子3の組成によって反応速度が異なるため、反応時間は鉄基軟磁性粒子3の種類に応じて適宜変更すればよい。
(1)プレス成形
圧粉磁心1の形状を作るためには、通常、プレス成形が用いられる。プレス成形の際の成形圧は500MPa〜2000MPaが好ましく、高密度の成形体を得るためには高圧でプレスした方がよい。また、プレス成形時に50℃〜200℃の範囲で金型を加熱してもよい。金型を加熱することで鉄基軟磁性粒子3が塑性変形しやすくなり、高密度の成形体を得る事ができる。他方、200℃を超える温度でのプレス成形は、鉄基軟磁性粒子3の酸化が問題となりあまり好ましくない。
上記で得られた成形体について、プレス成形の際に加えられた歪みを開放するため、焼鈍することが好ましい。焼鈍温度は、500℃以上であることが好ましい。また、焼鈍雰囲気は、アルゴンや窒素等の不活性雰囲気や、水素等の還元雰囲気が好ましく、真空中で焼鈍してもよい。焼鈍の条件は、使用する鉄基軟磁性粒子3やフェライト5の種類によって適宜変更される。
圧粉磁心1の断面構造を10Daμm×10Daμmの正方形の第2視野で観察した場合に、フェライトで取り囲まれた状態で存在する気孔35の面積割合は、第2視野の10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることが更に好ましい。この範囲では、気孔35が少なく、圧粉磁心1の透磁率が更に向上する。
図3は、第2視野を示している。図3では、気孔35が観察される様子が模式的に示されている。
なお、気孔35の面積割合は、画像処理等によって算出できる。
また、この欄に記載された気孔35の面積割合の要件は、圧粉磁心1の断面構造を観察した際に、10Daμm×10Daμmの正方形の視野を複数観察して、そのうちの少なくとも1つの視野において満たしていればよい。
鉄基軟磁性粒子3のアスペクト比は、1.25以上2.5以下であり、かつ、圧粉磁心1の断面構造を10Daμm×10Daμmの正方形の第4視野で観察した場合に、フェライト6で取り囲まれた状態で存在する気孔35の面積割合は、第4視野の5%以下であることが好ましい。この範囲では、充填性が向上して圧粉磁心1を高密度化でき、その結果、圧粉磁心1の透磁率が向上する。
鉄基軟磁性粒子3のアスペクト比は、1.30以上2.3以下であることがより好ましく、1.35以上2.1以下であることが更に好ましい。第4視野で観察した場合に、フェライト6で取り囲まれた状態で存在する気孔35の面積割合は、第4視野の4%以下であることがより好ましく、3%以下であることが更に好ましい。
図6は、第4視野を示しており、気孔35が観察されている様子が模式的に記載されている。
鉄基軟磁性粒子3のアスペクト比は、FE−SEMによって測定できる。また、気孔35の面積割合は、SEM画像の画像処理等によって算出できる。
また、この欄に記載された気孔35の面積割合の要件は、圧粉磁心1の断面構造を観察した際に、10Daμm×10Daμmの正方形の視野を複数観察して、そのうちの少なくとも1つの視野において満たしていればよい。
本実施形態の圧粉磁心1は、耐電圧特性が良好で、強度が高い。更に、この構成によれば、圧粉磁心1の透磁率が向上し、かつ圧粉磁心1の電気抵抗が上昇する。
第2視野で観察した場合に、所定の気孔35の面積割合が、第2視野の10%以下である場合は、圧粉磁心1の透磁率が更に向上する。
連続層21における線分AnBnを3等分した中央に位置する線分Fnの部位に存在する連続層21が、3等分した残りの線分Gn及び線分Hnの部位に存在する連続層21よりも、特定の元素濃度が高くなっている場合には、以下の効果を有する。すなわち、この場合には、連続層21の線分Fnの部位は結合剤として使用しているバインダー分が残存しており、接着剤としての効果を発揮する。このように、高濃度部分があることにより抵抗値変動が小さくなる。
鉄基軟磁性粒子3のアスペクト比が、1.25以上2.5以下であり、かつ、圧粉磁心1の断面構造を第4視野で観察した場合に、所定の気孔35の面積割合が、第4視野の5%以下であると、充填性が向上して圧粉磁心1を高密度化でき、その結果、圧粉磁心1の透磁率が向上する。
なお、実験例1〜23は実施例であり、実験例24〜31は比較例である。
表において、実験例を「no.」を用いて示す。また、表において「24*」のように、「*」が付されている場合には、比較例であることを示している。
(1)実験例1(no.1)
鉄基軟磁性粒子(原料粉末)には、水アトマイズ法によって作製したFe−5.5質量%Si−4.0質量%Cr粒子(平均粒子径:10μm)を使用した。
鉄基軟磁性粒子10gを100mlの酢酸カリウム水溶液に分散させ、水酸化カリウムによってpH=11に調整した。また、純水100mlに所定量の塩化ニッケル、塩化鉄(II)を添加し、十分に溶解させた後、反応液とした。同様に純水100mlに酸化剤としての亜硝酸カリウムを加えて酸化液とした。
得られためっき溶液(鉄基軟磁性粒子3が分散された溶液)に窒素を流しながら、めっき溶液を70℃に加熱した。めっき溶液を撹拌しながら、めっき溶液に反応液と酸化液を滴下してフェライト膜を形成させた。反応は25分間行い、鉄基軟磁性粒子は、純水で洗浄した後、磁石にて回収した。この後、鉄基軟磁性粒子を乾燥させ、粉砕と篩通しを行った。このようにして、フェライトにより被覆された鉄基軟磁性粒子(複合粒子)を得た。
得られた複合粒子に0.3wt%の割合で、水に分散させたアルミナゾルを添加し、ボルテックスミキサーで10分間混合した。この後、複合粒子を乾燥させ、粉砕と篩通しを行って、アルミナゾルを被覆した複合粒子を得た。
成形は得られた複合粒子を、金型に充填し、1600MPaの圧力でトロイダル形状(外径:8mm,内径:4.5mm,高さ:1mm)にプレス成形を行った。得られたプレス体を、Ar雰囲気下にて700℃15分の熱処理を行い、実験例1に係る圧粉磁心とした。
実験例2〜31では、実験例1の「Fe−5.5質量%Si−4.0質量%Cr粒子」、「塩化ニッケル、塩化鉄(II)」、「アルミナゾル」に代えて、表1,2に記載された「鉄基軟磁性粒子」、「反応液に溶解させた塩」、及び「成形の際に使用した添加剤(バインダー)」を用いた。これらを用いたこと以外は、実験例1と同様にして圧粉磁心を得た。
なお、表1には、実験例1における「鉄基軟磁性粒子」、「反応液に溶解させた塩」、及び「成形の際に使用した添加剤(バインダー)」も記載されている。また、表において、「↑」の記号は、直上と同じであることを示している。
(1)FE−SEM観察
焼鈍後の圧粉磁心の断面観察を行った。圧粉磁心をダイシング装置(切断装置)で半分に切断し、エポキシ樹脂中で硬化させ、ダイシング切断面を鏡面加工することによって評価サンプルを得た。評価サンプルをFE−SEMにより観察した。
鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径を求めるに際しては、100μm×100μmの正方形の視野を用いて行った。観察された鉄基軟磁性粒子3の粒子面積から面積円相当径を算出し、平均粒子径とした。
鉄基軟磁性粒子3のアスペクト比は、上記FE−SEMによる観察から求めた。観察は、鉄基軟磁性粒子3の平均粒子径(表では「粒子径」と記載している)をDaμmとして、10Daμm×10Daμmの正方形の視野で行った。例えば、鉄基軟磁性粒子の平均粒径が10μmの場合には、100μm×100μmの正方形の視野を採用した。
アスペクト比は圧粉磁心の断面観察から算出した。断面画像にて確認できる鉄基軟磁性粒子3の長辺と短辺の比から計算した。これを30個の粒子に対して行い、平均値をアスペクト比とした。
フェライト膜の組成は、上記視野内に観察されるフェライト膜についてTOF−SIMSを用いて測定した。フェライト膜に含有される元素と、その濃度は、TOF−SIMSを用いて測定した。
フェライト膜の厚みは、圧粉磁心1の断面をFE−SEMを用いて観察することにより求めた。なお、この際、上記10Daμm×10Daμmの正方形の視野のうちの5μm×5μmの正方形の視野を拡大して観察した。
連続層の本数は、上記10Daμm×10Daμmの正方形の視野を用いて、「(2.2.1)第1要件」に記載の方法で数えた。観察された各連続層の経路の長さを求め、それらの平均を計算して平均長さとした。
連続層の特定部位において、特定元素の元素濃度が高濃度となっていることは、「(2.2.4)連続層21における特定部位の特定元素濃度等の要件」に記載の方法で、3等分した中央の線分Fn、残りの線分Gn及び線分Hnを特定して、TOF−SIMSを用いて求めた。なお、特定元素の元素濃度の測定においては、上記10Daμm×10Daμmの正方形の視野のうちで、線分Fn、線分Gn及び線分Hnが全て含まれる3Da×3Daの正方形の視野を切り出し、拡大して観察した。
圧粉磁心の気孔の面積割合は、上記10Daμm×10Daμmの正方形の視野を用いて、「3.圧粉磁心1の気孔の面積割合」に記載の方法で求めた。このようにして求めた気孔の面積割合を「気孔率(%)」として表示する。
本試験における視野を用いた観察では、同一の視野を用いた。すなわち、圧粉磁心の断面構造の同一場所を、全ての測定で共通採用した。
(2.1)複素透磁率
圧粉磁心の複素透磁率(単に「透磁率」ともいう)の測定は、アジレントテクノロジー製インピーダンスアナライザE−4991Aを使用し、周波数1MHz〜1GHzの範囲で測定した。透磁率の値は、10MHzにおける値で比較した。
圧粉磁心の電気抵抗率(単に「抵抗率」ともいう)について、三菱ケミカルアナリテック製ロレスターGXを用いて4端芯法にて測定した。抵抗率の変化は、印加電流1μAの条件で、印加電圧1Vと90Vにおける抵抗率から算出した。具体的には、印加電圧1Vの抵抗率を基準(100%)とし、この基準と比較した印加電圧90Vの抵抗率の変化割合を求めた。抵抗変化率は、小さい方が望ましい。
評価結果を表3,4に示す。
なお、表3,4においては、フェライト膜の含有元素が示されている。フェライト膜は連続層を構成しているから、フェライト膜の含有元素は、連続層にも当然に含まれていることになる。すなわち、表3,4におけるフェライト膜の含有元素は、連続層の含有元素を意味している。
また、表3,4において、「高濃度」の欄は次の事項を意味する。この欄の「○」は、上記(2.2.4)の欄で説明した、線分Fnの部位に存在する連続層が、線分Gn及び線分Hnの部位に存在する連続層よりも、炭素、アルカリ金属、及びSiの少なくとも1つの元素濃度が高くなっていることを意味する。他方、この欄の「×」は、線分Fnの部位に存在する連続層と、線分Gn及び線分Hnの部位に存在する連続層とは、炭素、アルカリ金属、及びSiの元素濃度が同じであることを意味する。
これに対して、比較例である実験例24〜31は以下の要件を満たしていない。
実験例24では、第2要件及び第3要件を満たしてない。
実験例25では、第1要件及び第2要件を満たしてない。
実験例26では、第1要件及び第2要件を満たしてない。
実験例27では、第1要件を満たしてない。
実験例28では、第1要件を満たしてない。
実験例29では、第1要件、第2要件及び第4要件を満たしてない。
実験例30では、第1要件及び第4要件を満たしてない。
実験例31では、第4要件を満たしてない。
比較例である実験例24〜31は、透磁率及び抵抗率の少なくとも一方が悪く、性能バランスが良くなかった。詳細に説明すると、以下の通りである。
実験例24では、抵抗率は良いものの、透磁率が悪かった。
実験例25では、透磁率及び抵抗率が共に悪かった。
実験例26では、透磁率及び抵抗率が共に悪かった。
実験例27では、透磁率及び抵抗率が共に悪かった。
実験例28では、抵抗率は良いものの、透磁率が悪かった。
実験例29では、抵抗率は良いものの、透磁率が悪かった。
実験例30では、透磁率は良いものの、抵抗率が悪かった。
実験例31では、透磁率は良いものの、抵抗率が悪かった。
本実施例の圧粉磁心は、透磁率及び抵抗率のバランスがよい。
なお、本発明では、圧粉磁心の断面構造の同一場所を、第1〜4の視野のうちの2以上の視野に共通して採用できる。また、視野毎に、互いに相違する場所を採用してもよい。
3 …鉄基軟磁性粒子
5 …フェライト
6 …フェライト
7 …複合粒子
11 …一辺
13 …対向する辺
21 …連続層
31 …特定粒子
Pn(P1〜P8)…隣接粒子
35 …気孔
S(S1〜S5) …始点
E(E1〜E5) …終点
Ln …粒子間距離
Claims (4)
- 複数の鉄基軟磁性粒子と、前記鉄基軟磁性粒子の表面に形成されるフェライトとを有する圧粉磁心であって、
前記鉄基軟磁性粒子の平均粒子径は、2.0μm以上100μm以下であり、
前記鉄基軟磁性粒子の平均粒子径をDaμmとした場合に、前記圧粉磁心の断面構造を10Daμm×10Daμmの正方形の第1視野で観察した際に、前記第1視野を画する正方形の一辺上で、フェライトが存在する場所を始点として、正方形の一辺と対向する辺までフェライトが連続して形成され、互いに相違する5以上の連続層を有し、
前記連続層の、前記一辺から前記対向する辺までの経路の平均長さが11.5Daμm以上であり、
前記連続層には、P、Si、及びAlからなる群より選択される1種以上が含有されていることを特徴とする圧粉磁心。 - 前記圧粉磁心の断面構造を10Daμm×10Daμmの正方形の第2視野で観察した場合に、フェライトで取り囲まれた状態で存在する気孔の面積割合は、前記第2視野の10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
- 前記圧粉磁心の断面構造を10Daμm×10Daμmの正方形の第3視野で観察した場合に、
前記第3視野中に欠けることなく観察でき、かつ長軸が最大である前記鉄基軟磁性粒子を特定粒子とし、
前記鉄基軟磁性粒子のうち、前記特定粒子の隣りの前記鉄基軟磁性粒子を隣接粒子Pn(但し、nは1以上の整数)とし、
前記特定粒子の長軸を直径とした円の中心をC0とし、前記隣接粒子Pnの長軸を直径とした円の中心をCn(但し、nは1以上の整数)とした場合に、
前記C0と前記Cn(但し、nは1以上の整数)を結ぶ直線が、前記特定粒子の外縁と交わる点An(但し、nは1以上の整数)と、前記隣接粒子Pnの外縁と交わる点Bn(但し、nは1以上の整数)とを求め、前記点Anと前記点Bnとの距離を、前記特定粒子と前記隣接粒子Pnの粒子間距離と定義し、
n=1のときの前記粒子間距離が、20nm〜1000nmである、又は、
前記特定粒子と各々の前記隣接粒子Pn(但し、nは2以上の整数)との前記粒子間距離を求め、それらを平均した平均粒子間距離が、20nm〜1000nmであり、
前記隣接粒子Pn(但し、nは1以上の整数)のうちの少なくとも1つについて、前記点Anと前記点Bnとを結ぶ線分AnBnは、前記連続層を横断しており、
前記線分AnBnを3等分した中央に位置する線分Fn(但し、nは1以上の整数)の部位に存在する前記連続層は、3等分した残りの線分Gn(但し、nは1以上の整数)及び線分Hn(但し、nは1以上の整数)の部位に存在する前記連続層よりも、炭素、アルカリ金属、及びSiの少なくとも1つの元素濃度が高くなっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心。 - 前記鉄基軟磁性粒子のアスペクト比は、1.25以上2.5以下であり、
前記圧粉磁心の断面構造を10Daμm×10Daμmの正方形の第4視野で観察した場合に、フェライトで取り囲まれた状態で存在する気孔の面積割合は、前記第4視野の5%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
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