本発明の実施形態について、各図面を参照しながら以下に説明する。なお以下の説明における身長方向(前後方向)、左右方向、および上下方向(通常、掛布団の厚み方向に相当する)は、各図に示すとおりである。身長方向は、掛布団を普通に使用する使用者の身長の方向に一致し、便宜的に、使用者の足側から頭側へ向かう方向を前方とする。掛布団は、使用者の上側に掛けて使用される布団である。
1.第1実施形態
まず本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る掛布団1の平面図である。また図2は、図1に示すA−A’断面についての断面図である。掛布団1は、上方視により、身長方向を長手方向とする矩形状(前後に伸びる辺と左右に伸びる辺を有する矩形状)に形成されている。
掛布団1は、使用者の上半身を覆う位置において左右方向へ真直ぐ伸びるように設けられた2本の胸部通気路(第1胸部通気路2および第2胸部通気路3)を備えている。より具体的に説明すると、各胸部通気路2、3は、概ね使用者の胸部を覆う位置において、掛布団1の左側縁の近傍から右側縁の近傍に至るまで伸びており、身長方向へ所定の間隔を開けて設けられている。
掛布団1は、図2に示すように下側(使用者の身体側)に位置する略直方体形状の第1保温部材20と、その上面に重ねて設けられる略直方体形状の第2保温部材30を用いて形成されている。このように掛布団1は、第1保温部材20と第2保温部材30が厚み方向(上下方向)に積層されている。
第1保温部材20と第2保温部材30は、それらの外縁部で縫合されることにより一体化されている。2本の胸部通気路2、3は、第1保温部材20と第2保温部材30との間に形成されている。2本の胸部通気路2、3については、後ほど詳しく説明する。なお第1保温部材20と第2保温部材30を一体化する手段としては、他の手段が採用されても良い。
第1保温部材20は、保温性を付与する第1充填材21と、それを収容する袋状の第1収納部材22を有する。第1充填材21は、アクリレート系繊維を20重量%含み、螺旋状3孔中空ポリエステル繊維を30重量%含み、微細ポリエステル繊維を50重量%含む。第1保温部材20は、第1収納部材22にアクリレート系繊維を含む第1充填材21を収納して形成されている。
本発明において、アクリレート系繊維とは、吸湿性を高めるためにアクリル繊維を原料にした高分子に極性の高いイオン性基(カルボン酸塩)を導入することによって得られるものであって、温度が20℃で湿度が65%の環境下における水分率が30%以上50%以下の吸湿性繊維のことを示す。アクリレート系繊維は、例えば以下の方法により製造することができる。
アクリロニトリルとアクリル酸メチルからなるアクリロニトリル系重合体をロダンソーダ水溶液に溶解した紡糸原液を、湿式紡糸、水洗、延伸、捲縮、および熱処理して原料繊維を得た後、この原料繊維に水加ヒドラジン水溶液を加えて架橋処理する。得られた架橋繊維を水洗し、水酸化ナトリウム水溶液でニトリル基をカルボン酸基に加水分解し、硝酸水溶液でカルボン酸基を酸型に変換して水洗する。その後、繊維を水酸化ナトリウム水溶液で処理することにより、酸型カルボン酸基の一部をカルボン酸塩(ナトリウム塩)に変換する。このようにしてアクリレート系繊維が製造され得る。
また、市販されているアクリレート系繊維としては、例えば、東邦テキスタイル社製のサンバーナ(登録商標)、Pyrotex(登録商標)、および、東洋紡社製エクス(商品名)が挙げられる。極性の高いイオン性基を有するアクリレート系繊維は、水蒸気を吸着(吸湿)する際に大きな吸着熱を生成することから、水蒸気はエネルギー的に安定化した状態でアクリレート系繊維表面に吸着水として保持される。エネルギー的に見れば、水の蒸発熱が2442kJ/kgであるのに対して、吸着熱は約1200kJ/kgになるので、水蒸気をトラップする能力が高い。
その結果、アクリレート系繊維は高い吸湿性を有し、湿度の高い状態においては掛布団内の水蒸気を吸着水として素早く吸着して、掛布団内の湿度を下げることができる。アクリレート系繊維の20℃かつ65%RH(湿度65%)の環境下における水分率が30%未満であると、掛布団内の湿度を低減する効果は十分に得られにくく、逆に水分率が50%を超えると乾燥させにくくなる。そのため、アクリレート系繊維の温度20℃かつ湿度65%の環境下における水分率は、30%以上かつ50%以下であることが好ましい。なお、繊維の水分率は以下の方法で求められる。
水分率測定用サンプルとして約1gの繊維を温度20℃かつ湿度65%の環境条件下で12時間放置して調湿し、調湿後の繊維の重さを測定して得られる値を吸湿繊維質量Wa(g)とする。次に、調湿後の繊維を105℃の熱風乾燥機中で12時間放置して乾燥させ、乾燥後の繊維の重さを測定して得られる値を乾燥繊維質量Wb(g)とし、下記の(1)式を用いて水分率Wr(%)を算出し、その値を繊維の水分率とする。
Wr=(Wa−Wb)/Wa×100 ・・・(1)
このようにして繊維の水分率が求められる。
第1充填材21に含まれるアクリレート系繊維の含有率は、10重量%未満では十分な吸湿性が得られにくく、30重量%を超えると乾燥させ難くなることから、10重量%〜30重量%の範囲内であることが好ましい。アクリレート系繊維の太さについては特に制限はないが、1dtex未満では強度が低下しやすくなり、4dtexを超えると表面積が小さくなり、十分な吸湿性が得られ難くなる傾向がある。そのため、単糸繊度が1dtex〜4dtex(繊維直径に換算すると約10μm〜20μm)の範囲内であることが好ましい。
本発明において、螺旋状3孔中空ポリエステル繊維は、単糸繊度としては4dtex〜10dtex(繊維直径に換算すると約20μm〜30μm)の螺旋状の3孔中空構造を有するポリエステル繊維である。螺旋状3孔中空ポリエステル繊維は、保温性とともに圧縮に対して優れた弾性を有する。市販されている螺旋状3孔中空ポリエステル繊維としては、例えば、帝人社製のフィルケア(登録商標)が挙げられる。
螺旋状3孔中空ポリエステル繊維の太さについては、単糸繊度が4dtex未満であると十分な反発力が得られにくくなり、単糸繊度が10dtexを超えると十分な保温性が得られにくくなるので、単糸繊度として4dtex〜10dtexの範囲内であることが好ましい。第1充填材21に含まれる螺旋状3孔中空ポリエステル繊維の含有率については、20重量%未満では十分な弾力が得られにくく、70重量%を超えるとアクリレート系繊維を含む他の繊維の含有率を必然的に減らす必要が生じることから、20重量%〜70重量%の範囲内であることが好ましい。
微細ポリエステル繊維は、単糸繊度0.4dtex〜1dtex(繊維直径に換算すると約6μm〜10μm)のポリエステル繊維であり、デッドエア効果(暖かい空気を逃がさない効果)が高く、高い保温性が得られる。市販されている微細ポリエステル繊維としては、例えば、帝人社製のフワリーヌ(登録商標)が挙げられる。
微細ポリエステル繊維の太さについては、単糸繊度が0.4dtex未満であると空気の流れが小さくなりすぎて水蒸気の拡散性が損なわれやすくなり、単糸繊度が1dtexを超えると保温性向上効果が低減する。そのため、水蒸気の拡散性と保温性向上効果を高めるという観点においては、単糸繊度が0.4dtex〜1dtexの範囲内であることが好ましい。
第1収納部材22に使用する生地については特に制限はないが、一般的な綿やポリエステル製の織物等が使用でき、フラジール法で測定される通気度が1〜10cm3/cm2・sであるものが使用できる。通気度が1cm3/cm2・s未満になると、透湿性が低下する傾向が高まり、通気度が10cm3/cm2・sを超えると、充填剤が飛び出しやすくなる傾向があるので、通気度は透湿性や充填剤が飛び出し防止を考慮して設計すればよい。なお、フラジール法で測定される通気度測定方法はJIS L 1096の一般織物試験方法等で規定されており、通気度は以下の方法で求められる。
試験片となる生地を取り付けた後、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が125Paの圧力を示すように空気の吸い込みファンを調整する。そして、試験片の表裏両面の圧力差を一定に保った時の垂直形気圧計が示す圧力と、使用した空気孔の種類とから試験片を通過する空気量(cm3/cm2・s)を求め、その値を通気度とする。このようにして通気度が求められる。
なお、本実施形態においては図示していないが、第1収納部材22内部で第1充填材21が偏らないように、第1収納部材22の上面生地22aと下面生地22bどうしを部分的に縫合してもよい。縫合により保温性が損なわれないように、縫合線の形が直径3〜5cmの範囲内の円形となるように部分的に縫合するのが好ましく、隣接する縫合線の間隔は30〜70cmの範囲内であることが好ましい。
第2保温部材30は、保温性を付与する第2充填材31と、それを収容する袋状の第2収納部材32を有する。第2保温部材は、第2充填材31を第2収納部材32に収納して形成されている。本実施形態において、第2充填材31は、螺旋状3孔中空ポリエステル繊維100重量%で構成されている。螺旋状3孔中空ポリエステル繊維の太さとしては、単糸繊度が4dtex未満であると十分な反発力が得られにくくなり、単糸繊度が10dtexを超えると十分な保温性が得られにくくなるので、単糸繊度は4dtex〜10dtexの範囲内であることが好ましい。
第2充填材31として、螺旋状3孔中空ポリエステル繊維以外に他の繊維を混ぜたものを使用してもよい。但しその場合であっても、後述する筒状空間を形成するために必要な弾力を得るために、螺旋状3孔中空ポリエステル繊維を50重量%以上使用することが好ましい。
第2収納部材32に使用する生地としては特に制限はないが、一般的な綿やポリエステル製の織物等が使用でき、フラジール法で測定される通気度が1〜10cm3/cm2・sのものが使用できる。通気度が1cm3/cm2・s未満になると、透湿性が低下する傾向が高まり、通気度が10cm3/cm2・sを超えると、充填剤が飛び出しやすくなる傾向があるので、通気度は透湿性や充填剤が飛び出し防止を考慮して設計すればよい。
第2収納部材32内部で第2充填材31が偏らないように、第2収納部材32の上面生地32aと下面生地32bが、第1左右方向縫合線33と第2左右方向縫合線34の位置で縫合されている。図1および図2に示すとおり、これらの縫合線33、34は、掛布団1の前側寄りの位置(使用者の上半身を覆う位置)において、左右方向へ真直ぐ伸びている。
これらの縫合線33、34に沿った上面生地32aと下面生地32bの縫合(第2収納部材32の厚み方向両側の生地同士の縫合)、および、第2充填材31の弾力作用によって、下面生地32bに2本の略V字状の溝(各縫合線33、34を底部とする溝)が形成される。図2に示すように、第2保温部材30の下に第1保温部材20が配置されているため、これら2本の略V字状の溝は第1収納部材22の上面生地22aに覆われており、これにより2本の筒状空間が形成されている。
第1左右方向縫合線33に対応する当該筒状空間が第1胸部通気路2となっており、第2左右方向縫合線34に対応する当該筒状空間が第2胸部通気路3となっている。本実施形態においては、第1左右方向縫合線33および第2左右方向縫合線34は直線状に伸びているが、円弧状またはサインカーブのような曲線状に伸びるようにしてもよい。なお上記のように、各縫合線33、34における縫合は、第2収納部材32内部で第2充填材31が偏らないようにする役割と、各胸部通気路2、3を形成する役割の両方を兼ねており、当該縫合によって、第2充填材31の偏りの抑制と各胸部通気路2、3の形成が効率よく実現されている。
以上に説明したとおり、掛布団1は、第1保温部材20と第2保温部材30を厚み方向に積層した掛布団であって、第1保温部材20は、第1収納部材22にアクリレート系繊維を含む第1充填材21を収納して形成されている。また、第1保温部材20から排出された気体を通す胸部通気路2、3(本発明に係る第1通気路の一形態)が、第1保温部材20と第2保温部材30の間において伸びるように形成されている。
掛布団1は、身体側に位置する第1保温部材20と外気側に位置する第2保温部材30を厚み方向に積層した構造であることから、高い保温性を確保することが可能である。また掛布団1は、第1保温部材20に設けた第1充填材21が吸湿性の高いアクリレート系繊維を含むことから、発汗により皮膚から蒸発した水蒸気がアクリレート系繊維に速やかに吸着される。そのため、入眠直後の多量の発汗時においても、掛布団1内の湿度が過度に高まるのを防止できる。
更に掛布団1においては、第1保温部材20と第2保温部材30の間に、胸部通気路2、3が設けられている。そのため、局所的に発汗量が多くなる使用者の胸部付近から発生した水蒸気(汗等の水分)が、胸部付近に位置するアクリレート系繊維表面に吸着水として一旦吸着された後、発汗時や発汗停止時に胸部通気路2、3内に進入し、水蒸気として胸部通気路2、3内を拡散する。当該拡散した水蒸気は、第2保温部材30を通過して外部(寝室内の空間等)に排出されるため、アクリレート系繊維表面に吸着水が蓄積して掛布団1が湿った感じになるのを抑えることができる。
本実施形態では、アクリレート系繊維表面に一旦吸着された水分が胸部通気路2、3内で主に左右方向に拡散するため、このような通気路を設けていない場合に比べて当該水分の偏り(特に左右方向での偏り)が抑えられ、その結果、水蒸気が第2保温部材30を通過して外部へ排出され易くなっている。なお本実施形態では胸部通気路2、3の筒状空間の左右両端は開口しておらず、胸部通気路2、3は、第1保温部材20と第2保温部材30に囲まれた閉空間となっている。但し、これらの筒状空間の左右の両端または一端を外部に開口させ、胸部通気路2、3内を拡散した水蒸気を、第2保温部材30を通過させて外部に排出させるだけでなく、この開口部を介して外部に排出させるようにしても良い。
2.第2実施形態
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る掛布団は、縫合線の位置が異なる点を除き、基本的に第1実施形態に係る掛布団1と同様の構成である。以下の説明では、第1実施形態と異なる点の説明に重点を置き、第1実施形態と共通する点については説明を省略することがある。
図3は、第2実施形態に係る掛布団100の平面図である。掛布団100は、使用者の上半身(より具体的には胸部)を被覆する位置において設けられた2本の胸部通気路(第1胸部通気路2および第2胸部通気路3)と、身長方向へ伸びるように設けられた2本の側部通気路(第1側部通気路4および第2側部通気路5)と、を備える掛布団である。なお側部通気路も、胸部通気路と同様の原理により形成されている。
各通気路2〜5は、第1実施形態の場合と同様に、第2収納部材32の上面生地32aと下面生地32bが図3に示す各縫合線33〜36の位置で縫合されることにより形成されている。すなわち、第1胸部通気路2は、第1左右方向縫合線33の位置で縫合がなされることにより形成され、第2胸部通気路3は、第2左右方向縫合線34の位置で縫合がなされることにより形成されている。また、第1側部通気路4は、第1身長方向縫合線35の位置で縫合がなされることにより形成され、第2側部通気路5は、第2身長方向縫合線36の位置で縫合がなされることにより形成されている。
第1および第2左右方向縫合線33、34は、使用者の上半身(より具体的には胸部)を覆う位置において、左右方向へ伸びる円弧状(左右方向中央部が後側へ撓むように湾曲した円弧状)に形成されている。第2左右方向縫合線34は、第1左右方向縫合線33の後側に所定の間隔を設けて配置されている。第1側部通気路4は、掛布団100の左側寄りの位置において、第2左右方向縫合線34の近傍(掛布団100の前寄りの位置)から掛布団1の下端に至るまで身長方向に伸びている。第2側部通気路5は、掛布団100の右側寄りの位置において、第2左右方向縫合線34の近傍(掛布団100の前寄りの位置)から掛布団1の下端に至るまで身長方向に伸びている。
本実施形態の掛布団100においては、第1保温部材20と第2保温部材30の間に、胸部通気路2、3に加えて、身長方向に伸びる側部通気路4、5(本発明に係る第2通気路の一形態)が設けられている。そのため、発汗量が多くなる使用者の胸部付近から発生した水蒸気(汗等の水分)が、胸部付近に位置するアクリレート系繊維表面に吸着水として一旦吸着された後、発汗時や発汗停止時に胸部通気路2、3内、或いは側部通気路4、5内に進入する。胸部通気路2、3内に進入した水分は、水蒸気として胸部通気路2、3内を拡散し、第2保温部材30を通過して外部(寝室内の空間等)に排出される。また、各側部通気路4、5内に進入した水分は、水蒸気として各側部通気路4、5内を通って下側に拡散し、第2保温部材30を通過して外部に排出される。上半身から離れた下側へも水蒸気を拡散させることにより、水蒸気の偏りがより一層抑えられ、水蒸気を効果的に排出することが可能となる。これにより、アクリレート系繊維表面に吸着水が蓄積して掛布団100が湿った感じになるのを極力抑えることができる。
なお、各側部通気路4、5の下端は閉じられていても良いが、外部に開口させていても良い。開口させている場合には、この開口部を介して各側部通気路4、5と外部との換気が可能である。これにより、各側部通気路4、5内を通って下側に拡散した水蒸気を、第2保温部材30を通過させて外部に排出させるだけでなく、この開口部を介して外部に排出させることも可能である。
3.第3実施形態
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態に係る掛布団は、筒状空間内部に通風性を有する通風性弾性部材を使用している点を除き、基本的に第1実施形態に係る掛布団1と同様の構成である。以下の説明では、第1実施形態と異なる点の説明に重点を置き、第1実施形態と共通する点については説明を省略することがある。
図4は、第3実施形態に係る掛布団200の平面図であり、図5は、図4に示すB−B’断面についての断面図である。また図6は、図5に示す通気性弾性部材として使用できるダブルラッセル生地の一例の外観(写真)を表している。図6(a)は、ダブルラッセル生地の表面の外観を表しており、図6(b)は、ダブルラッセル生地の切断面近傍の外観をより拡大して表している。
掛布団200は、使用者の上半身(より具体的には胸部)を被覆する位置において左右方向へ伸びる2本の胸部通気路2、3を備える掛布団である。第1胸部通気路2は第1左右方向縫合線33の位置において、第2胸部通気路3は第2左右方向縫合線34の位置において、それぞれ第1保温部材20と第2保温部材30との間に形成されている。
2本の胸部通気路2、3内部の筒状空間それぞれには、第2収納部材32の下面生地32bに密着するように、通風性弾性部材6が配設されている。本実施形態の例における通風性弾性部材6は、筒状空間の内壁となっている下面生地32bの形状に合うように、右方視点(図5の視点)により略V字状に形成されており、筒状空間の内壁を形成する下面生地32bに縫合して配設されている。このように通風性弾性部材6は、下面生地32bにより形成された筒状空間の内壁を全体的に補強するように配置されている。
通風性弾性部材6は、生地面の垂直方向(生地の厚み方向)に通風性を有するとともに、生地面内部においても全方向に通風性を有する。そのため、通風性弾性部材6を上記のように配設しても、水蒸気の移動は極力阻害されないようになっている。また、通風性弾性部材6は下面生地32bに比べて十分に高い弾性を有しており、変形すると元の形状に戻ろうとする特性を有する。通風性弾性部材6としては、全方向に通風性を有するクッション体であれば特に制限はないが、例えば、図6に示すような厚みが5mm〜20mmの範囲内のダブルラッセル生地が好適である。このようなダブルラッセル生地は、下面生地32bへの縫合により筒状空間内に固定するのが好ましい。
上記のとおり本実施形態では、2本の胸部通気路2、3の筒状空間内部に、生地の面方向および法線方向に通風性を有する通風性弾性部材6が配設されている。これにより、使用者の寝返り動作等によって、掛布団200が局所的に圧縮されたり途中で折り曲げられたりした場合であっても、筒状空間が途中で閉塞することを極力防ぐことが可能である。
4.第4実施形態
次に、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態に係る掛布団は、換気装置と接続可能な接続口が設けられている点、および縫合線の位置が異なる点を除き、基本的に第1実施形態に係る掛布団1と同様の構成である。以下の説明では、第1実施形態と異なる点の説明に重点を置き、第1実施形態と共通する点については説明を省略することがある。
図7は、第4実施形態に係る掛布団300の断面図であり、図8は、図7に示すC−C’断面の矢視図である。掛布団300は、使用者の上半身を被覆する位置において左右方向へ伸びるように設けた2本の胸部通気路2、3と、2本の側部通気路4、5を備える掛布団である。2本の胸部通気路2、3は、概ね使用者の胸部を覆う位置において左右方向へ真直ぐ伸びており、身長方向へ所定の間隔を開けて設けられている。
第1側部通気路4は、掛布団300の左側寄りの位置において、掛布団1の上側寄りの位置から下端に至るまで身長方向に伸びている。第2側部通気路5は、掛布団100の右側寄りの位置において、掛布団1の上側寄りの位置から下端に至るまで身長方向に伸びている。また、第1側部通気路4は2本の胸部通気路2、3の左端に連接しており、第2側部通気路5は2本の胸部通気路2、3の右端に連接している。これにより、各通気路2〜5は、気体が自由に通ることができるように繋がっている。
また、各側部通気路4、5の身長方向下端には、換気装置に接続可能な接続口7が設けられている。換気装置としては、接続口7へ接続した状態において、空気の送出または吸引によって、各側部通気路4、5内部の空気を換気することのできる各種の装置が使用できる。使用できる換気装置の一例としては、例えば、図7および図8に示す換気装置400が挙げられる。
換気装置400は、回転して空気の流れを発生させるファン401と、ファン401に接続された2本の通風パイプ402と、通風パイプ402それぞれに接続された2個の接続管403と、を備える。更に換気装置400は、2個の接続管403の中に各々配設される2個の温湿度センサ404と、これらの温湿度センサ404に各々接続された電気配線405と、温湿度センサ404の検知情報(温度および湿度の情報)を用いてファン401の駆動制御を行う制御装置406を備える。
換気装置400は、2個の接続管403を掛布団300の接続口7に各々接続することにより、各側部通気路4、5内部に空気を送って(あるいは、各側部通気路4、5内部の空気を排気して)、各側部通気路4、5と各胸部通気路2、3の空気を換気することが可能である。上記のとおり、本実施形態に係る掛布団300は、接続口7を設けたことにより換気装置400と接続可能である。掛布団300と換気装置400をセットで利用することにより、換気装置400を用いて各通気路2〜5の内部を換気して、掛布団300内の水蒸気を効果的に排出することができる。
なお、換気装置400に設けた制御装置406は、各通気路2〜5の温度や湿度が適正化されるように、温湿度センサ404の検知情報に基づいてファン401を駆動させることが好ましい。一例として、制御装置406は、検知された温度および湿度の少なくとも一方が所定値を超えているときにファン401を駆動するようにしてもよい。
5.性能評価
本発明の実施例として実施例1および実施例2の掛布団を得た上で、これらの実施例に係る掛布団について、比較例との比較による性能評価を実施した。以下、各実施例と比較例の形態、および評価方法と評価結果についてより詳細に説明する。
(1)実施例1の形態
実施例1に係る掛布団について、第1収納部材22としては通気度が1cm3/cm2・sの綿生地からなる身長方向長さが200cm、左右方向の長さが100cmの袋状の織物を使用した。第1充填材21としては、200gのアクリレート系繊維と、300gの螺旋状3孔中空ポリエステル繊維と、500gの微細ポリエステル繊維とを混合させた1000gの混合繊維を使用した。第1収納部材22に第1充填材21を充填して、厚さ5.2cmの第1保温部材20を作成した。
なお、アクリレート系繊維としては、単糸繊度が3.6dtexであり、20℃で湿度65%における水分率が41%である、東邦テキスタイル社製サンバーナ(登録商標)を採用した。螺旋状3孔中空ポリエステル繊維としては、単糸繊度が6.6dtexである、帝人社製フィルケア(登録商標)を採用した。微細ポリエステル繊維としては、単糸繊度が0.9dtexである帝人社製フワリーヌ(登録商標)を採用した。
第2収納部材32としては、通気度が1cm3/cm2・sの綿生地からなる身長方向長さが200cm、左右方向の長さが100cmの袋状の織物を使用した。第2充填材31としては、1200gの螺旋状3孔中空ポリエステル繊維(単糸繊度が6.6dtexである、帝人社製フィルケア(登録商標))を使用した。第2収納部材32に第2充填材31を充填した後、図1に示す掛布団1と同じ構造となるように縫製し、厚さ7.6cmの第2保温部材30を作成した。
上記のようにして作成した第1保温部材20と第2保温部材30を、上下に重ね合わせて外縁部を縫合することにより、胸部通気路2、3の高さ(厚み方向寸法)が3.5cm、および、胸部通気路2、3の幅が6.2cmである掛布団が、実施例1の掛布団として得られた。
(2)実施例2の形態
実施例2に係る掛布団は、図3に示す掛布団100と同じ構造となるように縫製する点を除いて、実施例1の掛布団と同じ方法で作成した。このようにして、胸部通気路2、3の高さが3.5cm、胸部通気路2、3の幅が6.2cm、側部通気路4、5の高さが3.5cm、および、側部通気路4、5の幅が6.2cmである掛布団が、実施例2の掛布団として得られた。
(3)比較例の形態
図1に示す掛布団1において胸部通気路2、3を省略したものを、比較例に係る掛布団として作成した。当該比較例に係る掛布団は、胸部通気路2、3を設けない点を除いて実施例1と同じ方法で作成されている。
(4)評価方法
上述した実施例1、実施例2、および比較例の掛布団それぞれを用いて、入眠から30分後と5時間後における掛布団内の温湿度を測定した。測定中は、敷布団の上で仰臥位で寝ている人が、掛布団を掛けた状態となるようにした。測定時の睡眠環境として、温度が18℃かつ湿度が50%で一定になるように、空調機で温湿度を調整した。また何れの掛布団を用いた場合にも、敷布団として、身長方向の長さが2mかつ左右方向の長さが1mである袋状のポリエステル生地内部に、保温材としてポリエステル繊維3kgを封入した厚さ5cmの敷布団を使用した。
掛布団内の温湿度の測定は、仰臥位において胸と接触する掛布団の生地に、10cm間隔で5個の温湿度センサを貼り付けて、入眠後の温湿度を測定することにより行った。また、これら5個の温湿度センサにより得られた温湿度データの中で、最も高い数値のものを測定値として採用した。また、掛布団のジメジメ感(人が感じる湿気の度合)の判定は、入眠から8時間後の起床時に掛布団を触った際に、湿気を感じるか否かで判定し、湿気を感じなかった場合を「良い」、湿気を若干感じた場合を「やや良い」、湿気を感じた場合を「悪い」とした。
(5)評価結果
以上の評価方法によって掛布団の性能評価を行った結果を、下記の表1に示す。
表1に示すように、比較例の掛布団については掛布団内の湿度が過度に高まってしまい、ジメジメ感により使い心地が悪いという結果が得られた。一方、胸部通気路と側部通気路の少なくとも一方を設けた掛布団(実施例1と実施例2の掛布団)については、掛布団内の湿度が過度に高まるのを防ぐことができ、掛布団のジメジメ感が抑えられて使い心地が良いという結果が得られた。
6.総括
本発明の各実施形態に係る掛布団は、第1保温部材の上に第2保温部材を設けて積層構造とした掛布団であって、第1保温部材20は、第1収納部材22にアクリレート系繊維を含む第1充填材21を収納して形成されており、第1保温部材20から進入した気体を通す通気路が、第1保温部材20と第2保温部材30の間において伸びるように形成されている。
当該掛布団は、使用者の身体側に位置する第1保温部材20と外気側に位置する第2保温部材30の積層構造としたため、高い保温性を確保することができる。更に、身体側に位置する第1充填材21に吸湿性の高いアクリレート系繊維を含むことから、発汗により皮膚から蒸発した水蒸気がアクリレート系繊維に速やかに吸着されるため、入眠直後の多量の発汗時においても掛布団内の湿度が過度に高まるのを防ぐことができる。
また更に、第1保温部材20と第2保温部材30の間に通気路を設けたことから、使用者の発汗により生じた水蒸気が、アクリレート系繊維表面に吸着水として一旦吸着された後、通気路に進入して水蒸気となって拡散する。通気路内で拡散した水蒸気は、第2保温部材30を通過して外部に排出されたり、通気路に開口を設けた場合には当該開口から外部に排出されたりするので、アクリレート系繊維表面に吸着水が蓄積して掛布団が湿った感じになるのを抑えることができる。
また各実施形態の掛布団は、上記の通気路として、使用者の胸部を覆う位置において略左右方向に伸びている胸部通気路2、3、および略身長方向に伸びている側部通気路4、5の少なくとも一方を含んでおり、湿気を効果的に除去することが可能となっている。なお、通気路の形態はこれらの形態に限定されるものではなく、配置される位置、長さ、伸びる方向等は、製品仕様その他の事情に応じて適宜変更可能である。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の構成は上記実施形態に限られず、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。