JP2020066828A - 微細繊維状セルロース含有組成物およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
一般に、微細繊維状セルロースは、分散液として得られるが、該分散液を加熱すると着色するという問題があった。加熱時に着色が発生すると、微細繊維状セルロースを工業的に利用する際に、とくに熱加工により成形する際などには、製品が着色してしまうという問題がある。
特許文献1には、加熱時に着色しないアニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法を提供することを目的として、下記工程(A)〜(C)を含むアニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法が記載されている。
工程(A)セルロース原料を化学変性してアニオン変性セルロースを得る工程
工程(B)水、アルカリ化剤、(A)で得られたアニオン変性セルロースを、水:アルカリ化剤:アニオン変性セルロース=100:0.01〜10:0.01〜10(質量部)の比率で混合した後、0〜40℃の条件下で10分〜10時間撹拌する工程(アルカリ処理する工程)、および
(C)前記アルカリ処理したアニオン変性セルロースを解繊して、セルロースナノファイバーを得る工程
本発明は、加熱時の黄変が抑制された微細繊維状セルロース含有組成物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、以下の<1>〜<10>に関する。
<1> 繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースと、プロテアーゼまたはプロテアーゼに由来するタンパク質とを含有する、微細繊維状セルロース含有組成物。
<2> 前記微細繊維状セルロースがイオン性置換基を有し、該イオン性置換基の含有量が、微細繊維状セルロースに対して、0.60mmol/g以上である、<1>に記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<3> 前記イオン性置換基が、カルボキシメチル基、スルホン酸基、スルホン酸基に由来する基、リン酸基、リン酸基に由来する基、カルボキシ基、およびカルボキシ基に由来する基から選択される少なくとも1つである、<2>に記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<4> 加熱時のイエローインデックスの変化が、30以下である、<1>〜<3>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<5> スラリー状である、<1>〜<4>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<6> パウダー状である、<1>〜<3>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<7> シート状である、<1>〜<3>のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
<8> 溶媒中の繊維状セルロースを解繊して、微細繊維状セルロースを含有する分散液を得る工程、および前記微細繊維状セルロースを含有する分散液にプロテアーゼを添加する工程をこの順で有する、微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。
<9> 繊維状セルロースがイオン性置換基を有する、<8>に記載の微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。
<10> 微細繊維状セルロース1mgに対するプロテアーゼの添加量が0.001単位以上10単位以下である、<8>または<9>に記載の微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物は、繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースと、プロテアーゼまたはプロテアーゼに由来するタンパク質とを含有する。
従来、微細繊維状セルロース含有組成物を加熱すると、黄変するという問題があった。
本発明者らは、鋭意検討することにより、微細繊維状セルロースを含有する分散液を、プロテアーゼで処理することにより、加熱時の黄変が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記の効果が得られる詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように推定される。微細繊維状セルロース含有組成物の黄変は、セルロース原料が微量ながら含有するタンパク質が関与しており、また、保存中に何らかの原因でタンパク質が混入した場合にも、そのようなタンパク質が黄変に関与すると考えられる。本発明では、微細繊維状セルロース含有分散液を、プロテアーゼで処理することにより、黄変の原因となるタンパク質が分解され、加熱による黄変が抑制されたものと考えられる。
なお、プロテアーゼは、失活させる必要はないが、微細繊維状セルロース含有組成物を加熱処理等することにより、処理後に失活し、プロテアーゼに由来するタンパク質となっていてもよい。また、添加するプロテアーゼおよびこれが失活したプロテアーゼに由来するタンパク質は、いずれもタンパク質であるが、添加量が極微量であり、微細セルロース含有組成物の加熱による黄変への影響は軽微であると考えられる。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物は、微細繊維状セルロースを含有し、該微細繊維状セルロースは、繊維幅が1,000nm以下の繊維状セルロースである。なお、繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば1000nm以下である。微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることがとくに好ましい。微細繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、微細繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
また、分散液を低粘度化してとくにハンドリング性を向上させたい場合は、250以上400以下としてもよい。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
ここで、「イオン性置換基」とは、イオン性の基を意味する。したがって、たとえば、微細繊維状セルロースがイオン性の基としてカルボキシ基を有する場合、セルロースの有する水酸基を酸化してカルボキシ基とした場合であっても、イオン性置換基を有するものである。
なお、微細繊維状セルロースには、イオン性置換基を導入する処理が行われていなくてもよい。
また、Rの主鎖を構成する炭素原子数はとくに限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
また、リン酸基は、たとえば、亜リン酸基(ホスホン酸基)であってもよく、リン酸基に由来する基は、亜リン酸基の塩、亜リン酸エステル基などであってもよい。
ここで、単位mmol/gにおける分母は、イオン性置換基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量を示す。
微細繊維状セルロースに対するイオン性置換基の導入量は、たとえば伝導度滴定法により測定することができる。伝導度滴定法による測定では、得られた微細繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながら伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定する。
微細繊維状セルロースに対するリン酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、微細繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図1に示すような滴定曲線を得る。図1に示すように、最初は急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このように、滴定曲線には、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。このため、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。したがって、上記で得られた滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リン酸基導入量(mmol/g)となる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
リン酸基量(C型)=リン酸基量(酸型)/{1+(W−1)×A/1000}
A[mmol/g]:繊維状セルロースが有するリン酸基由来の総アニオン量(リン酸基の強酸性基量と弱酸性基量を足した値)
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
微細繊維状セルロースに対するカルボキシ基の導入量は、たとえば次のように測定される。
まず、微細繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図2に示すような滴定曲線を得る。なお、必要に応じて、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。滴定曲線は、図2に示すように、電気伝導度が減少した後、伝導度の増分(傾き)がほぼ一定となるまでの第1領域と、その後に伝導度の増分(傾き)が増加する第2領域に区分される。なお、第1領域、第2領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。そして、滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象の微細繊維状セルロース含有スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、カルボキシ基の導入量(mmol/g)となる。
すなわち、下記計算式によって算出する。
カルボキシ基量(C型)=カルボキシ基量(酸型)/{1+(W−1)×(カルボキシ基量(酸型))/1000}
W:陽イオンCの1価あたりの式量(たとえば、Naは23、Alは9)
(セルロースを含む繊維原料)
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料(以下、単に「繊維原料」ともいう。)から製造される。
セルロースを含む繊維原料としては、とくに限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
また、セルロースを含む繊維原料に代えて、その一部として、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
〔リン酸基導入工程〕
セルロース繊維にリン酸基を導入する工程(リン酸基導入工程)について以下に説明する。
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リン酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)をセルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リン酸基導入繊維が得られることとなる。
化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、とくに水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、とくに限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、とくに限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分および化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、たとえば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
カルボキシ基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、オゾン酸化やフェントン法による酸化、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物もしくはその誘導体、またはカルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物もしくはその誘導体によって処理することにより行われる。
カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物としては、とくに限定されないが、たとえば無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。また、カルボン酸由来の基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては、とくに限定されないが、たとえばジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等のカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が、アルキル基、フェニル基等の置換基により置換されたものが挙げられる。
また、TEMPO酸化処理は、その処理をpHが10以上11以下の条件で行ってもよい。このような処理は、アルカリTEMPO酸化処理ともいう。アルカリTEMPO酸化処理は、たとえば繊維原料としてのパルプに対し、触媒としてTEMPO等のニトロキシラジカルと、共触媒として臭化ナトリウムと、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを添加することにより行うことができる。
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてイオン性置換基等の置換基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒により置換基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基等の置換基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、とくに限定されないが、たとえばアルカリ溶液中に、置換基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、とくに限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性置換基等の置換基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、繊維原料に対して酸処理を行ってもよい。たとえば、置換基導入工程、酸処理、アルカリ処理および解繊処理をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、とくに限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中に繊維原料を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、とくに限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、とくに限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることがとくに好ましい。
イオン性置換基等の置換基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。
解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、とくに限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物は、プロテアーゼまたはプロテアーゼに由来するタンパク質を含有する。なお、本発明において、微細繊維状セルロース含有組成物は、プロテアーゼおよびプロテアーゼに由来するタンパク質の双方を含有していてもよい。
ここで、「プロテアーゼに由来するタンパク質」とは、プロテアーゼが、熱、光、酸、塩基等により失活し、プロテアーゼ活性を失った状態のタンパク質を意味する。すなわち、本発明の微細繊維状セルロース含有組成物は、微細繊維状セルロース分散液を、プロテアーゼ処理するものであり、プロテアーゼ処理した後に、プロテアーゼを失活させる必要はないが、その後の処理により、プロテアーゼが失活した、プロテアーゼに由来するタンパク質を含有する場合も含むものである。
プロテアーゼの基質としては、カゼイン、ヘモグロビン、フィブリンなどが使用できる。
本発明において使用するプロテアーゼの至適pHは、プロテアーゼによる処理の容易性から、好ましくは3以上12以下であり、より好ましくは4以上11以下、さらに好ましくは5以上10以下である。
また、本発明において使用するプロテアーゼの至適温度は、プロテアーゼによる処理の容易性および微細繊維状セルロース含有組成物の加熱による劣化を抑制する観点から、好ましくは10℃以上80℃以下、より好ましくは15℃以上70℃以下、さらに好ましくは20℃以上60℃以下である。
なお、Uは、酵素の国際単位であり、1分間に1μmolの基質を生成物に転換する酵素活性の量で定義される。
本発明において、微細繊維状セルロース含有組成物は、微細繊維状セルロースと、プロテアーゼまたはプロテアーゼに由来するタンパク質と含有し、さらに、前記以外の、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、たとえば水溶性高分子、および界面活性剤を挙げることができる。
水溶性高分子としては、たとえばカルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、およびポリアクリルアミドなどに例示される合成水溶性高分子;キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、およびペクチンなどに例示される増粘多糖類;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、およびヒロドキシエチルセルロースなどに例示されるセルロース誘導体;カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、およびアミロースなどに例示されるデンプン類;グリセリン、ジグリセリン、およびポリグリセリンなどに例示されるグリセリン類;ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。
微細繊維状セルロース含有組成物中における水溶性高分子の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。一方で、微細繊維状セルロース含有組成物中における水溶性高分子の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース100質量部に対して、500質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることがさらに好ましい。水溶性高分子の含有量を上述の範囲とすることにより、微細繊維状セルロースが有する特性と、水溶性高分子の有する特性の双方を発現させることができる。
微細繊維状セルロース含有組成物中における界面活性剤の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。一方で、微細繊維状セルロース含有組成物中における界面活性剤の含有量は、たとえば微細繊維状セルロース100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、2質量部以下であることがさらに好ましい。界面活性剤の含有量を上述の範囲とすることにより、微細繊維状セルロースが有する特性と、界面活性剤の有する特性の双方を発現させることができる。
微細繊維状セルロース含有組成物は、微細繊維状セルロース、水溶性高分子、および界面活性剤の他、たとえば有機イオン、カップリング剤、無機層状化合物、無機化合物、レベリング剤、防腐剤、消泡剤、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線防御剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、分散剤、および架橋剤から選択される1種または2種以上を含んでもよい。
本実施形態においては、たとえばヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM−150)を用いて測定を行うことができる。また、光路長1cmのガラスセルとしては、たとえば光路長1cmの液体用ガラスセル(株式会社藤原製作所製、MG−40、逆光路)を用いることができる。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
なお、上記のヘーズ測定時の溶媒は、少なくとも水を含有することが好ましく、溶媒全体に占める水の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、とくに好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
なお、微細繊維状セルロース含有組成物を、透明性が必要とされない用途に使用する場合には、ヘーズは、たとえば30%以上であってもよく、60%以上であってもよく、90%以上であってもよい。
本実施形態においては、前記全光透過率は、たとえばヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM−150)を用いて測定を行うことができる。また、光路長1cmのガラスセルとしては、たとえば光路長1cmの液体用ガラスセル(株式会社藤原製作所製、MG−40、逆光路)を用いることができる。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
なお、上記の全光透過率測定時の溶媒は、少なくとも水を含有することが好ましく、溶媒全体に占める水の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、とくに好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
なお、微細繊維状セルロース含有組成物を、透明性が必要とされない用途に使用する場合には、透過率は、たとえば60%以下であってもよく、30%以下であってもよく、10%以下であってもよい。
ここで、上記粘度の測定には、たとえばB型粘度計であるBLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVTを用いることができる。測定条件は、たとえば液温23℃にて、粘度計の回転数は3rpmにて測定を行い、測定開始から3分のときの粘度値を当該分散液の粘度とする。
なお、上記の粘度測定時の溶媒は、少なくとも水を含有することが好ましく、溶媒全体に占める水の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、とくに好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
イオン性置換基としてリン酸基が導入されている微細繊維状セルロースを含有する微細繊維状セルロースの方が低粘度化しやすい理由としては、以下のように推察される。解繊処理時に使用する高圧ホモジナイザーは、初期のパスでは、セルロース繊維を解繊し、細くするが、繊維幅が3〜4nmまで解繊が進んだ後のパスでは、短繊維化をもたらす。イオン性基としてリン酸基が導入されていると、カルボキシ基が導入されている場合に比べて、速やかに解繊が進むため、短繊維化が早く生じ、一定以上のパスで比較した場合には、リン酸基が導入されている場合の方が、粘度が低くなると考えられる。
ここで、微細繊維状セルロース含有組成物のイエローインデックスは、微細繊維状セルロースがスラリー状である場合には、固形分0.2質量%に希釈し、JIS K 7373:2006に準拠して測定する。なお、微細セルロース含有組成物を希釈後、24時間以上経過してから、95℃にて1時間加温することで、加熱を行い、加熱前後のイエローインデックスの変化を測定する。
なお、上記のイエローインデックス測定時の溶媒は、少なくとも水を含有することが好ましく、溶媒全体に占める水の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、とくに好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
また、微細繊維状セルロース含有組成物がシート状である場合には、シート状である微細繊維状セルロース含有組成物を200℃4時間加熱し、JIS K 7373:2006に準拠し、加熱前後のイエローインデックスの変化を測定する。
さらに、微細繊維状セルロース含有組成物がパウダー状である場合には、粉末を坪量が3000g/m2となるように、錠剤成形圧縮機(BRE−30、株式会社前川試験機製作所製)を用いて、面圧600MPaで1分間プレス成形し、黄色度測定用ペレットを得る。得られたペレットを200℃で4時間加熱し、ペレットの加熱前後の黄色度を分光測色計(Spectroeye、Gretag Macbeth社製)を用いて、ASTM E313に準拠して、反射光測定により測定する。
(スラリー状)
微細繊維状セルロース含有組成物がスラリーである場合、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、微細繊維状セルロースが有する特性が発揮されやすくなる。
微細繊維状セルロース含有組成物がスラリーであり、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる溶媒が水である場合、該溶媒の含有量は、微細繊維状セルロース含有物の全質量に対して好ましくは60質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは97質量%以上であり、そして好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.7質量%以下、さらに好ましくは99.5質量%以下である。溶媒の含有量を上記範囲とすることにより、好適な粘度とすることができる。
微細繊維状セルロース含有組成物が固形状物またはゲル状物である場合、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、たとえば微細繊維状セルロース含有組成物の全質量に対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることがとくに好ましい。また、微細繊維状セルロース含有組成物が固形状物またはゲル状物である場合、微細繊維状セルロース含有組成物に含まれる微細繊維状セルロースの含有量の上限値は、とくに限定されないが、たとえば99.5質量%とすることができる。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、よりハンドリング性に優れた微細繊維状セルロース含有組成物を得ることができる。
また、微細繊維状セルロース含有組成物が固形状物またはゲル状物である場合、微細繊維状セルロース含有組成物は、たとえば後述する濃縮工程において用いられる濃縮剤を含んでいてもよい。たとえば濃縮剤が金属成分である場合、微細繊維状セルロース含有組成物中における金属成分の含有量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.15質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることがとくに好ましい。また、濃縮剤が金属成分である場合、微細繊維状セルロース含有組成物中における金属成分の含有量の下限値は、とくに限定されないが、たとえば0.0001質量%とすることができる。金属成分の含有量を上記範囲とすることにより、水など所定の分散媒への再分散性に優れた微細繊維状セルロース含有組成物を得ることができる。
本発明において、微細繊維状セルロース含有組成物は、シート状であってもよい。
本実施形態においては、たとえば上述した液状物である微細繊維状セルロース含有組成物を用いて、後述のシート化工程を実施することにより、シートを得ることができる。
シート中における微細繊維状セルロースの含有量は、たとえばシートの全質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることがとくに好ましい。一方で、シート中における微細繊維状セルロースの含有量の上限値は、とくに限定されず、シートの全質量に対して100質量%であってもよく、95質量%であってもよい。
とくに機械的強度に優れたシートを得る観点からは、シート中における微細繊維状セルロースの含有量は、たとえば60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがとくに好ましい。
また、水溶性高分子などの他の材料をシート中に多く含ませる観点からは、シート中における微細繊維状セルロースの含有量は、たとえば50質量%以下であることが好ましい。
シート中における水溶性高分子の含有量は、たとえばシートの全質量に対して、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、透明性や機械的特性に優れたシートを得ることができる。一方で、シート中における水溶性高分子の含有量は、たとえばシートの全質量に対して99.5質量%以下とすることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
シートは、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、たとえば上述したものを用いることができる。
シート中における溶媒の含有量は、たとえばシートの全質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、シートに柔軟性を付与することができる。一方で、シート中における溶媒の含有量は、たとえばシートの全質量に対して25質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。これにより、可とう性の良好なシートを得ることができる。
シート中における水の含有量は、たとえば以下の手順で算出することができる。まず、100mm角のシートを温度23℃、相対湿度50%の条件下で24時間調湿した後、シートの質量W0を測定する。次いで、このシートを105℃の恒温乾燥機にて16時間乾燥させた後、シートの質量W1を測定する。測定した質量から、下記式(1)にしたがってシート中における溶媒の含有量を算出する。
シート中における水の含有量=100×(1−W1/W0) 式(1)
ここで、シートの引張弾性率は、たとえばJIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した値である。引張弾性率を測定する際には、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを測定用の試験片とし、23℃、相対湿度50%の条件下で測定を行う。
シートのヘーズは、たとえば2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。一方で、シートのヘーズの下限値は、とくに限定されず、たとえば0%であってもよい。ここで、シートのヘーズは、たとえばJIS K 7136:2006に準拠し、ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM−150)を用いて測定される値である。
シートの全光線透過率は、たとえば85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、91%以上であることがさらに好ましい。一方で、シートの全光線透過率の上限値は、とくに限定されず、たとえば100%であってもよい。ここで、シートの全光線透過率は、たとえばJIS K 7361:1997に準拠し、ヘーズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製、HM−150)を用いて測定される値である。
シートの坪量は、とくに限定されないが、たとえば10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましく、30g/m2以上であることがさらに好ましい。また、シートの坪量は、とくに限定されないが、たとえば100g/m2以下であることが好ましく、80g/m2以下であることがより好ましい。ここで、シートの坪量は、たとえばJIS P 8124に準拠し、算出することができる。
シートの密度は、とくに限定されないが、たとえば0.1g/cm3以上であることが好ましく、0.5g/cm3以上であることがより好ましく、1.0g/cm3以上であることがさらに好ましい。また、シートの密度は、とくに限定されないが、たとえば5.0g/cm3以下であることが好ましく、3.0g/cm3以下であることがより好ましい。ここで、シートの密度は、50mm角のシートを23℃、50%RH条件下で24時間調湿した後、シートの厚みおよび質量を測定することにより算出することができる。
本発明において、上述した微細繊維状セルロース含有組成物は、以下の工程1および工程2をこの順で有する方法により製造することが好ましい。
工程1:溶媒中の繊維状セルロースを解繊して、微細繊維状セルロースを含有する分散液を得る工程、および
工程2:前記微細繊維状セルロースを含有する分散液にプロテアーゼを添加する工程
なお、本発明において、工程2で添加するプロテアーゼは、上述したようにエンドペプチダーゼであることが好ましい。また、添加する酵素の量は、微細繊維状セルロース含有組成物の黄変を抑制する観点から、微細繊維状セルロース1mgに対して、好ましくは0.001U以上、より好ましくは0.005U以上、さらに好ましくは0.01U以上であり、そして、経済性およびタンパク質であるプロテアーゼの過度な添加を抑制する観点から、好ましくは10U以下、より好ましくは1U以下、さらに好ましくは0.5U以下である。
プロテアーゼを添加する分散液のpHは、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上であり、そして、好ましくは12以下、より好ましくは11以下、さらに好ましくは10以下である。
また、工程2においてプロテアーゼでの処理時の分散液の温度は、酵素の至適温度にも依存するが、たとえば、高い酵素活性を得る観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは60℃以下である。
工程2におけるプロテアーゼでの処理時間は、温度および酵素の添加量等により適宜選択すればよいが、好ましくは3分以上、より好ましくは10分以上、さらに好ましくは15分以上である。なお、上述したように、プロテアーゼは失活処理する必要がなく、処理時間の上限はとくに限定されない。
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700mL)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調製し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて4回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(A)を得た。
また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmであった。なお、後述する測定方法で測定されるリン酸基量(強酸性基量)は、1.45mmol/gだった。
微細繊維状セルロースのリン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した微細繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社製、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理することで行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離した。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。リン酸基量(mmol/g)は、計測結果のうち図1に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
原料パルプとして、王子製紙株式会社製の針葉樹クラフトパルプ(未乾燥)を使用した。この原料パルプに対してアルカリTEMPO酸化処理を次のようにして行った。
まず、乾燥質量100質量部相当の上記原料パルプと、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して3.8mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上10.5以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
これにより得られたTEMPO酸化パルプについて、後述する測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.30mmol/gだった。
また、得られたTEMPO酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたTEMPO酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(株式会社スギノマシン製、スターバースト)で200MPaの圧力にて4回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(B)を得た。
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmであった。なお、後述する測定方法で測定されるカルボキシ基量は、1.30mmol/gであった。
微細繊維状セルロースのカルボキシ基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した微細繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社製、コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理することで行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離した。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。カルボキシ基量(mmol/g)は、計測結果のうち図2に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
微細繊維状セルロースの繊維幅を下記の方法で測定した。
湿式微粒化装置にて処理をして得られた上記微細繊維状セルロース分散液の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JEOL−2000EX)により観察した。
微細繊維状セルロース分散液(A)の固形分濃度を2質量%に調整した。この分散液に、微細繊維状セルロース1mgあたり、プロテアーゼが0.01Uとなるように添加し、撹拌することで、微細繊維状セルロースとプロテアーゼとを含む組成物を得た。
実施例1において、プロテアーゼの添加量を微細繊維状セルロース1mgあたり0.5Uとなるように変更した以外は全て実施例1と同様の方法で試験した。
実施例1において、リン酸化パルプから製造した微細繊維状セルロース分散液(A)の代わりに、TEMPO酸化パルプから製造した微細繊維状セルロース分散液(B)を使用した。それ以外は全て実施例1と同様の方法で試験した。
実施例1によって得られる微細繊維状セルロース分散液とプロテアーゼからなる組成物を、塗布量が3750g/m2となるようにフィルムアプリケーターを用いてポリカーボネート板に塗布し、100℃で1時間程度乾燥させた。その結果、坪量75g/m2、厚み50μmの、微細繊維状セルロースとプロテアーゼからなるシートを得た。
実施例1において、プロテアーゼを添加しなかった。それ以外は全て実施例1と同様の方法で試験した。
実施例3において、プロテアーゼを添加しなかった。それ以外は全て実施例1と同様の方法で試験した。
実施例4において、実施例1によって得られる微細繊維状セルロース分散液とプロテアーゼからなる組成物の代わりに、比較例1で得られる微細繊維状セルロース分散液を用いて、膜を得た。それ以外は全て実施例4と同様の方法で試験した。
微細繊維状セルロース分散液の粘度は、次のように測定した。まず、微細繊維状セルロース分散液を固形分濃度が0.4質量%となるようにイオン交換水により希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌した。測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。次いで、これにより得られた分散液の粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定した。測定条件は、回転速度3rpmとし、測定開始から3分後の粘度値を当該分散液の粘度とした。また、測定時の分散液の液温は23℃であった。
セルロース繊維の比粘度および重合度は、Tappi T230に従い測定した。すなわち、測定対象のセルロース繊維を分散媒に分散させて測定した粘度(η1(単位;cP)とする)、および分散媒体のみで測定したブランク粘度(η0(単位;cP)とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η](単位;mL/g))を下記式にしたがって測定した。
ηsp=(η1/η0)−1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時のセルロース繊維の濃度(g/mL)を示す。
さらに、下記式からセルロース繊維の重合度(DP)を算出した。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で固形分濃度が0.2質量%となるように希釈し、マグネチックスターラーを用いて適宜撹拌して調整した。その後、希釈液を光路長1cmの液体用ガラスセル(株式会社藤原製作所製、MC−40、逆光路)に入れ、JIS K 7373:2006に準拠して測定し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)で測定した。また、加熱前後の黄色度変化ΔYIは次式によって求めた。
ΔYI =YI2−YI1
ここで、YI1は製造直後の微細繊維状セルロース分散液の黄色度、YI2は実施例および比較例に記載の微細繊維状セルロース分散液組成物を調製し、少なくとも24時間経過させてから95℃で1時間加温した後の黄色度を示す。
JIS K 7373:2006に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いてシートの加熱前後の黄色度を測定した。なお、加熱後の黄色度は、200℃で4時間真空乾燥したシートの黄色度とした。また、黄色度の変化量としてΔYIを下記の式より算出した。
ΔYI=YI4−YI3
ここで、YI3は加熱前のシートの黄色度、YI4は加熱後のシートの黄色度を表す。
実施例1〜3では、ΔYIが30以下であった。一方、プロテアーゼを添加しなかった比較例1および2では、ΔYIの数値が30を超過した。これは、微細繊維状セルロースに混入しているタンパク質が要因と考えられる。
また、実施例4では、実施例1により得た微細繊維状セルロースとプロテアーゼからなる組成物を原料とし、これを乾燥させることで、微細繊維状セルロースを含有するシートを得た。シートの加熱前後でYIを測定しΔYIを求めたところ、ΔYIは30以下にとどまっていた。
比較例1の微細繊維状セルロースを原料とし、これを用いて膜を作製しYIを測定したものが比較例3である。比較例3は、ΔYIが30を超えてしまった。比較例1と同様、微細繊維状セルロースに混入したタンパク質が着色の原因と考えられる。
また、実施例1のリン酸基が導入された微細繊維状セルロースの水分散液の粘度は11,100mPa・sであったのに対し、実施例3のTEMPO酸化によるカルボキシ基が導入された微細繊維状セルロースの水分散液の粘度は17,450mPa・sであり、リン酸基が導入された実施例1の方が、低粘度であった。この理由としては、高圧ホモジナイザーは、初期のパスではセルロース繊維を解繊するが、3〜4nmまで解繊が進んだ後のパスでは短繊維化をもたらす。リン酸基が導入された繊維状セルロースは、TEMPO酸化され、カルボキシ基が導入された繊維状セルロースよりも速やかに解繊が進むので、短繊維化が早く起こり、一定数以上のパス(この場合は4パス)で比較すると、リン酸基が導入された繊維状セルロースの水分散液の方が、粘度が低くなったと考えられる。
本発明はこうした課題を解決するものであり、発色の良さや外観がとくに重視されるインク、化粧品、食品、電子デバイス類のスクリーンといった、様々な用途への利用が期待できる。
Claims (10)
- 繊維幅が1,000nm以下の微細繊維状セルロースと、プロテアーゼまたはプロテアーゼに由来するタンパク質とを含有する、
微細繊維状セルロース含有組成物。 - 前記微細繊維状セルロースがイオン性置換基を有し、該イオン性置換基の含有量が、微細繊維状セルロースに対して、0.60mmol/g以上である、請求項1に記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
- 前記イオン性置換基が、カルボキシメチル基、スルホン酸基、スルホン酸基に由来する基、リン酸基、リン酸基に由来する基、カルボキシ基、およびカルボキシ基に由来する基から選択される少なくとも1つである、請求項2に記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
- 加熱時のイエローインデックスの変化が、30以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
- スラリー状である、請求項1〜4のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
- パウダー状である、請求項1〜4のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
- シート状である、請求項1〜4のいずれかに記載の微細繊維状セルロース含有組成物。
- 溶媒中の繊維状セルロースを解繊して、微細繊維状セルロースを含有する分散液を得る工程、および
前記微細繊維状セルロースを含有する分散液にプロテアーゼを添加する工程をこの順で有する、
微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。 - 繊維状セルロースがイオン性置換基を有する、請求項8に記載の微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。
- 微細繊維状セルロース1mgに対するプロテアーゼの添加量が0.001U以上10U以下である、請求項8または9に記載の微細繊維状セルロース含有組成物の製造方法。
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