次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は、本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
本形態の繊維状セルロースの製造方法は、セルロース繊維をカルバメート化する工程と、セルロース繊維を繊維状セルロースに解繊する工程と、を有し、前記カルバメート化する工程は、セルロース繊維と、尿素及び尿素の誘導体の少なくともいずれか一方の薬剤とを混合する混合工程と、混合工程後にセルロース繊維を加熱する加熱工程と、を有し、前記混合工程は、セルロース繊維に前記薬剤を添加する工程と、セルロース繊維と添加された前記薬剤を混ぜ合わせる工程とを有して、行う。以下、詳細に説明する。
(繊維状セルロース)
本形態の方法においては、原料パルプ(セルロース原料)を解繊して繊維状セルロースを得る。繊維状セルロースの平均繊維幅は特に限定されない。しかしながら、平均繊維幅が0.1~19μmのマイクロ繊維セルロース(ミクロフィブリル化セルロース)となるように解繊するのがより好ましい。平均繊維幅が上記範囲であるマイクロ繊維セルロースは、複合化に用いられる樹脂を補強する効果を備え、同マイクロ繊維セルロースを材料に製造された複合樹脂の強度は著しく向上する。マイクロ繊維セルロースは、より平均繊維幅が小さい微細繊維、すなわちセルロースナノファイバーよりもカルバメート基で変性する(カルバメート化)のが容易である。カルバメート化は、解繊前のセルロース繊維であっても、解繊されて得られたマイクロ繊維セルロースやセルロースナノファイバーであっても、行うことができるが、混ぜ合わせる工程においては、繊維がある程度、塊状状態である方が混ぜ合わせが容易であることから、解繊前のセルロース繊維をカルバメート化するのがより好ましい。
なお、本形態においては、平均繊維幅(径)が0.1~19μmの繊維状セルロースを、マイクロ繊維セルロース、あるいはミクロフィブリル化セルロース、あるいはMFCという。
本形態において、マイクロ繊維セルロースは、セルロースナノファイバーよりも平均繊維径(幅)の太い繊維を意味する。具体的には、平均繊維径が、例えば0.1~19μm、好ましくは0.2~15μm、より好ましくは0.5超~10μmである。マイクロ繊維セルロースの平均繊維径が0.1μm未満だと、もはやセルロースナノファイバーの同等物といえ、樹脂の強度(特に曲げ弾性率)の向上効果が十分に発揮されないおそれがある。また、解繊に多くの時間と大きなネルギーを要することとなり不経済である。さらに、繊維をスラリー状にしたとき脱水性が悪化する。脱水性の悪化は、繊維の乾燥物を得たいときに乾燥に大きなエネルギーが必要になるし、過大なエネルギーの付与は、繊維を傷める原因となり、樹脂の強度を向上する効果が奏されないおそれがある。特に、平均繊維径が50nm以下になると、熱分解温度が著しく低下するため、耐熱性が低下し、樹脂との混練に不向きなものとなる。他方、マイクロ繊維セルロースの平均繊維径が19μmを超えると、もはやパルプとの差がほとんどなく、補強効果が得られなくなるおそれがある。
本形態において微細繊維(マイクロ繊維セルロース及びセルロースナノファイバー)の平均繊維径の測定方法は、次のとおりである。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%の微細繊維の水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて3,000倍~30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。具体的には、観察画像に二本の対角線を引き、対角線の交点を通過する直線を任意に三本引く。さらに、この三本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。そして、計測値の中位径を平均繊維径とする。
前述したようにマイクロ繊維セルロースは、セルロース原料を解繊(微細化)することで得ることができる。原料パルプとしては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ・バガス・綿・麻・じん皮繊維等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。なお、以上の各種原料は、例えば、セルロース系パウダーなどと言われる粉砕物(粉状物)の状態等であってもよい。ただし、不純物の混入を可及的に避けるために、原料パルプとしては、木材パルプを使用するのが好ましい。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
広葉樹クラフトパルプは、広葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹半晒クラフトパルプ等を用いることができる。針葉樹クラフトパルプは、針葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹半晒クラフトパルプを用いることができる。
機械パルプは、特に限定なく使用することができるが、例えば、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、漂白サーモメカニカルパルプ(BTMP)等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
セルロース繊維(原料パルプ)は、解繊するに先立って化学的手法によって前処理することができる。化学的手法による前処理としては、例えば、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。これらの処理のうち特に酵素処理は繊維が傷まず好ましい。酵素処理に加えて酸処理、アルカリ処理、及び酸化処理の中から選択された1又は2以上の処理を施すと、解繊が容易になされ好ましい。
前処理は、セルロース繊維(原料パルプ)の解繊を容易にする処理であり、セルロース繊維のカルバメート化する工程の前に行ってもよいし、カルバメート化する工程の後に前処理を行って、その後解繊する工程を行ってもよい。
以下、酵素処理について詳細に説明する。
酵素処理に使用する酵素としては、セルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましく、両方を併用するのがより好ましい。これらの酵素を使用すると、セルロース原料の解繊がより容易になる。なお、セルラーゼ系酵素は、水共存下でセルロースの分解を惹き起こす。また、ヘミセルラーゼ系酵素は、水共存下でヘミセルロースの分解を惹き起こす。
セルラーゼ系酵素としては、例えば、トリコデルマ(Trichoderma、糸状菌)属、アクレモニウム(Acremonium、糸状菌)属、アスペルギルス(Aspergillus、糸状菌)属、ファネロケエテ(Phanerochaete、担子菌)属、トラメテス(Trametes、担子菌)属、フーミコラ(Humicola、糸状菌)属、バチルス(Bacillus、細菌)属、スエヒロタケ(Schizophyllum、担子菌)属、ストレプトミセス(Streptomyces、細菌)属、シュードモナス(Pseudomonas、細菌)属などが産生する酵素を使用することができる。これらのセルラーゼ系酵素は、試薬や市販品として購入可能である。市販品としては、例えば、セルロイシンT2(エイチピィアイ社製)、メイセラ-ゼ(明治製菓社製)、ノボザイム188(ノボザイム社製)、マルティフェクトCX10L(ジェネンコア社製)、セルラーゼ系酵素GC220(ジェネンコア社製)等を例示することができる。
また、セルラーゼ系酵素としては、EG(エンドグルカナーゼ)及びCBH(セロビオハイドロラーゼ)を使用することもできる。EG及びCBHは、それぞれを単体で使用しても、混合して使用してもよい。また、ヘミセルラーゼ系酵素と混合して使用してもよい。
ヘミセルラーゼ系酵素としては、例えば、キシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、アラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)等を使用することができる。また、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼも使用することができる。
ヘミセルロースは、植物細胞壁のセルロースミクロフィブリル間にあるペクチン類を除いた多糖類である。ヘミセルロースは多種多様で木材の種類や細胞壁の壁層間でも異なる。針葉樹の2次壁では、グルコマンナンが主成分であり、広葉樹の2次壁では4-O-メチルグルクロノキシランが主成分である。そこで、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)から微細繊維を得る場合は、マンナーゼを使用するのが好ましい。また、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)から微細繊維を得る場合は、キシラナーゼを使用するのが好ましい。
セルロース繊維に対する酵素の添加量は、例えば、酵素の種類、原料となる木材の種類(針葉樹か広葉樹か)、機械パルプの種類等によって決まる。ただし、セルロース原料100質量部に対する酵素の添加量は、好ましくは0.1~3質量部、より好ましくは0.3~2.5質量部、特に好ましくは0.5~2質量部である。酵素の添加量が0.1質量部を下回ると、酵素の添加による効果が十分に得られないおそれがある。他方、酵素の添加量が3質量%を上回ると、セルロースが糖化され、セルロース繊維の収率が低下するおそれがある。また、添加量の増量に見合う効果の向上を認めることができないとの問題もある。
酵素としてセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、酵素反応の反応性の観点から、弱酸性領域(pH=3.0~6.9)であるのが好ましい。他方、酵素としてヘミセルラーゼ系酵素を使用する場合、酵素処理時のpHは、弱アルカリ性領域(pH=7.1~10.0)であるのが好ましい。
酵素処理時の温度は、酵素としてセルラーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素のいずれを使用する場合においても、好ましくは30~70℃、より好ましくは35~65℃、特に好ましくは40~60℃である。酵素処理時の温度が30℃以上であれば、酵素活性が活発化し易くなり、短時間で酵素処理が完結する。他方、酵素処理時の温度が70℃以下であれば、酵素の失活を防止することができる。
酵素処理の時間は、例えば、酵素の種類、酵素処理の温度、酵素処理時のpH等によって決まる。ただし、一般的な酵素処理の時間は、0.5~24時間である。
酵素処理した後には、酵素を失活させるのが好ましい。酵素を失活させる方法としては、例えば、アルカリ水溶液(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH11以上)を添加する方法、80~100℃の熱水を添加する方法等が存在する。
次に、アルカリ処理の方法について説明する。
解繊に先立ってアルカリ処理すると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの水酸基が一部解離し、分子がアニオン化することで分子内及び分子間水素結合が弱まり、解繊におけるセルロース原料の分散が促進される。
アルカリ処理に使用するアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム等の有機アルカリ等を使用することができる。ただし、製造コストの観点からは、水酸化ナトリウムを使用するのが好ましい。
以上解繊に先立つ前処理の一例を示したが、前処理を施すと、マイクロ繊維セルロースの保水度を低く、結晶化度を高くすることができ、かつ均質性を高くすることができる。マイクロ繊維セルロースの保水度が低いと脱水し易くなり、セルロース繊維スラリーの脱水性が向上する。また、前処理をすると、パルプが持つヘミセルロースやセルロースの非晶領域が分解される。非晶領域が分解されると、解繊のエネルギーを低減することができ、解繊されたマイクロ繊維セルロースの均一性や分散性を向上することができる。ただし、前処理は、マイクロ繊維セルロースのアスペクト比を低下させるため、樹脂の補強材として使用する場合には、過度の前処理を避けるのが好ましい。
(離解工程)
セルロース繊維は解繊するに先立って、離解してもよい。離解工程は、繊維同士が凝集してシート形状等となっているパルプ(セルロース繊維)を独立した繊維に分散させる工程であり、離解装置によって行うことができる。離解装置としては、ハンドミキサー、タブ式パルバー、ドラム式パルパー、家庭用ミキサー等を例示できる。
(解繊する工程)
セルロース繊維の解繊は、例えば、ビーター、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、単軸混練機、多軸混練機、ニーダーリファイナー、ジェットミル等を使用してセルロース繊維を叩解することによって行うことができる。特に、リファイナーやジェットミルを使用して行うと繊維の損傷が抑制でき、繊維が均質なものになるので好ましい。
セルロース繊維を解繊して得るマイクロ繊維セルロースの平均繊維長(単繊維の長さの平均)は、好ましくは0.10~2.00mm、より好ましくは0.12~1.50mm、特に好ましくは0.15~1.00である。平均繊維長が0.10mmを下回ると、繊維同士の三次元ネットワークを形成できず、複合樹脂の曲げ弾性率等が低下するおそれがあり、補強効果が向上しないとされる可能性がある。他方、平均繊維長が2.00mmを上回ると、原料パルプと変わらない長さのため補強効果が不十分となるおそれがある。
また、本形態に用いる原料であるパルプ(セルロース繊維)の平均繊維長は、好ましくは1.0~5.0mm、より好ましくは1.2~4.5mm、特に好ましくは1.5~4.0mmである。平均繊維長が1.0mmを下回ると、当該セルロース繊維を解繊して得たマイクロ繊維セルロースによる樹脂の補強効果が十分に得られないおそれがある。他方、平均繊維長が5.0mmを上回ると、セルロース繊維相互の解繊にかかるエネルギーが大きく、製造コストの面で不利となるおそれがある。
さらに、セルロース繊維の解繊は、平均繊維長比が30未満となるように行うのが好ましく、2~20となるように行うのがより好ましく、1.5~10となるように行うのが特に好ましい。平均繊維長比が30以上になると、繊維への機械的せん断が過多となり、繊維へのダメージが多くなる。したがって、繊維が短くなり過ぎたり、繊維自体の強度が低下したりし、結果、樹脂と複合化した際の樹脂補強効果が発現しなくなるおそれがある。
本形態において、平均繊維長比とは、解繊前におけるセルロース繊維の平均繊維長を解繊後におけるセルロース繊維の平均繊維長で除した値(解繊前の平均繊維長/解繊後の平均繊維長)である。
セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
本形態においてセルロース繊維の平均繊維長は、バルメット社製の繊維分析計「FS5」によって測定した値である。なお、以下で説明するファイン率(Fine率)についても同様である。
本形態に用いる原料であるパルプ(セルロース繊維)の大きさの平均は、平均体積で表すと、好ましくは8×10-5~1×10-2mm3、より好ましくは1×10-4~1×70-3mm3、さらに好ましくは3×10-4~5×10-3mm3であるとよい。セルロース繊維の平均体積が8×10-5mm3を下回ると、混ぜ合わせる工程で、セルロース繊維が相互に接触する頻度が少なかったり、押し付け合わされなかったり(押圧されにくかったり)するので、セルロース繊維の内部への薬剤の浸透がしにくくなる。他方、セルロース繊維の平均体積が1×10-2mm3を上回ると、混ぜ合わせる工程で、セルロース繊維に加わる圧力に偏りが生じるので、薬剤の浸透にムラが生じ、解繊されたマイクロ繊維セルロースが均質なものとならないおそれがある。
解繊して得たマイクロ繊維セルロースのファイン率は、30%以上であるのが好ましく、35~99%であるのがより好ましく、40~95%であるのが特に好ましい。ファイン率が30%以上であると、均質な繊維の割合が多く、複合樹脂の破壊が進行し難くなる。ただし、ファイン率が99%を超えると、曲げ弾性率が不十分になる可能性がある。
以上はマイクロ繊維セルロース、つまり解繊後のセルロース繊維のファイン率であるが、解繊前のセルロース繊維のファイン率も所定の範囲内としておくとより好ましいものとなる。具体的には、解繊前のセルロース繊維のファイン率が、1%以上であるのが好ましく、3~20%であるのがより好ましく、5~18%であるのが特に好ましい。解繊前のセルロース繊維のファイン率が上記範囲内であれば、マイクロ繊維セルロースのファイン率が30%以上になるように解繊したとしても繊維のダメージが少なく、樹脂の補強効果が向上すると考えられる。
ファイン率の調整は、酵素処理等の前処理によって行うことができる。ただし、特に酵素処理する場合は、繊維内の結合状態が部分的に破壊されてしまい、樹脂の補強効果が低下する場合がある。よって、酵素の添加率は、少なくした方がよく、例えば2質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましく、0.5質量%以下であるのが特に好ましい。また、酵素処理しない(添加量0質量%)のも1つの選択枠である。
本形態において「ファイン率」とは、繊維長が0.2mm以下であるパルプ繊維の質量基準の割合をいう。
マイクロ繊維セルロースのアスペクト比は、好ましくは2~15,000、より好ましくは10~10,000である。アスペクト比が2を下回ると、三次元ネットワークを十分に構築することができないため、たとえ平均繊維長が0.10mm以上であるとしても、補強効果が不十分となるおそれがある。他方、アスペクト比が15,000を上回ると、マイクロ繊維セルロース相互の絡み合いが多くなり、樹脂中での分散が不十分となるおそれがある。
本形態においてアスペクト比とは、平均繊維長を平均繊維幅で除した値である。アスペクト比が大きいほど引っかかりが生じる箇所が多くなるため補強効果が上がるが、他方で引っかかりが多くなる分、樹脂の延性が低下するものと考えられる。
マイクロ繊維セルロースのフィブリル化率は、好ましくは1~30%、より好ましくは1.5~20%、特に好ましくは2~15%である。フィブリル化率が30%を上回ると、単位面積当たりのマイクロ繊維セルロースと水分子との結合が多く、脱水が困難になる可能性がある。他方、フィブリル化率が1%を下回ると、フィブリルは、水分子との結合量が少なく、水素結合によって形成される三次元ネットワークが強硬なものとならなくなるおそれがある。
本形態においてフィブリル化率とは、セルロース繊維をJIS-P-8220:2012「パルプ-離解方法」に準拠して離解し、得られた離解パルプをFiberLab.(Kajaani社)を用いて測定した値をいう。
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、特に好ましくは60%以上であるとよい。結晶化度が50%を下回ると、繊維自体の強度が低下して、樹脂の強度を向上することができなくなるおそれがある。また、結晶化度が50%を下回ると、カルバメート化されたマイクロ繊維セルロースの耐熱性が不十分になるおそれがある。結晶化度が低いと外部から加えられた熱によってただちにマイクロ繊維セルロースの熱分解反応が進んでしまう。他方、マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下である。結晶化度が95%を上回ると、セルロース分子内及びセルロース分子間での水素結合の量が多くなり、分散性が劣るようになる。
マイクロ繊維セルロースの結晶化度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、微細化処理で任意に調整可能である。
本形態において結晶化度は、JIS K 0131(1996)に準拠して測定した値である。
マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度は、好ましくは2cps以上、より好ましくは4cps以上である。マイクロ繊維セルロースのパルプ粘度が2cpsを下回ると、マイクロ繊維セルロースの分散性が悪化するおそれがある。
本形態においてパルプ粘度は、TAPPI T 230に準拠して測定した値である。
マイクロ繊維セルロースのフリーネスは、好ましくは500ml以下、より好ましくは300ml以下、特に好ましくは100ml以下であり、また、下限は特に限定されず、好ましくは10ml以上であるとよい。マイクロ繊維セルロースのフリーネスが500mlを上回ると、樹脂の強度向上効果が十分に得られなくなるおそれがある。
本形態においてフリーネスは、JIS P8121-2(2012)に準拠して測定した値である。
マイクロ繊維セルロースのゼータ電位は、好ましくは-150~20mV、より好ましくは-100~0mV、特に好ましくは-80~-10mVである。ゼータ電位が-150mVを下回ると、樹脂との相溶性が著しく低下し補強効果が不十分となるおそれがある。他方、ゼータ電位が20mVを上回ると、分散安定性が低下するおそれがある。
マイクロ繊維セルロースの保水度は、好ましくは80~400%、より好ましくは90~350%、特に好ましくは100~300%である。保水度が80%を下回ると、原料パルプの保水度と変わらず、補強効果が不十分となるおそれがある。他方、保水度が400%を上回ると、乾燥し難いものとなる。マイクロ繊維セルロースの保水度は、マイクロ繊維セルロースにおけるカルバメート基の置換率が高いほど、低くなる傾向にあるので、当該置換率を調節することで、保水度を所望の値にすることができる。
マイクロ繊維セルロースの保水度は、例えば、原料パルプの選定、前処理、解繊等で任意に調整可能である。
本形態において保水度は、JAPAN TAPPI No.26(2000)に準拠して測定した値である。
本形態のマイクロ繊維セルロースは、カルバメート基を有する。カルバメート化されたマイクロ繊維セルロースは、例えば、原料であるセルロース繊維がカルバメート化され、解繊されてマイクロ繊維セルロースとなったものであってもよいし、マイクロ繊維セルロースがカルバメート化されて、カルバメート化されたマイクロ繊維セルロースとなったものであってもよい。
カルバメート基を有する(すなわち、カルバメート化された)とは、セルロース繊維又はマイクロ繊維セルロースにカルバメート基(カルバミン酸のエステル)が導入された、を意味する。カルバメート基は、-O-CO-NH-で表される基であり、例えば、-O-CO-NH2、-O-CONHR、-O-CO-NR2等で表わされる基を挙げることができる。カルバメート基は、下記の構造式(1)で示すことができる。
ここでRは、それぞれ独立して、飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基の少なくともいずれかである。
飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1~10の直鎖状のアルキル基を挙げることができる。飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルキル基を挙げることができる。飽和環状炭化水素基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基等のシクロアルキル基を挙げることができる。不飽和直鎖状炭化水素基としては、例えば、エテニル基、プロペン-1-イル基、プロペン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルケニル基、エチニル基、プロピン-1-イル基、プロピン-3-イル基等の炭素数2~10の直鎖状のアルキニル基等を挙げることができる。不飽和分岐鎖状炭化水素基としては、例えば、プロペン-2-イル基、ブテン-2-イル基、ブテン-3-イル基等の炭素数3~10の分岐鎖状アルケニル基、ブチン-3-イル基等の炭素数4~10の分岐鎖状アルキニル基等を挙げることができる。芳香族基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等を挙げることができる。誘導基としては、例えば、上記飽和直鎖状炭化水素基、飽和分岐鎖状炭化水素基、飽和環状炭化水素基、不飽和直鎖状炭化水素基、不飽和分岐鎖状炭化水素基及び芳香族基が有する1又は複数の水素原子が、置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ハロゲン原子等。)で置換された基を挙げることができる。
カルバメート基を有する(カルバメート基が導入された)マイクロ繊維セルロースは、極性基たるヒドロキシ基の一部又は全部が、相対的に非極性基であるカルバメート基に置換されている。カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースは、単体としてカルバメート化されていないマイクロ繊維セルロースよりも非極性的であり、すなわち疎水的であるので、疎水性の性質を有する樹脂等との反発が弱い。したがって、樹脂に混ぜたカルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースは、相互に凝集し難く、分散性よく、樹脂に付着する。また、カルバメート基を有するマイクロ繊維セルロースのスラリーは、粘性が低く、ハンドリング性が良い。
マイクロ繊維セルロース(又はセルロース繊維)のヒドロキシ基に対するカルバメート基の置換率(マイクロ繊維セルロース1gに対する置換されたカルバメート基のmmol比)は、好ましくは1~2mmol/g、より好ましくは1.1~1.9mmol/g、特に好ましくは1.2~1.8mmol/gである。置換率を1.0mmol/g以上にすると、カルバメート基を導入した効果、特に樹脂の曲げ弾性率の向上効果が確実に奏せられる。これは、置換率が1.0mmol/g以上であるマイクロ繊維セルロースは、疎水性を有するので樹脂との反発が弱く、樹脂に対して適度に分散するので、製造される複合樹脂単体において、局所的な強度の強弱が生じにくく、均質なものとなると考えられる。他方、カルバメート基の置換率が2mmol/gを超えると、複合樹脂の強度が低下する。これは、マイクロ繊維セルロースは、水素結合により強硬な三次元ネットワークが形成されるものであるが、カルバメート基の置換率が高すぎると、三次元ネットワーク形成に寄与するヒドロキシ基が相対的に減少するので、三次元ネットワークを強硬に形成することが困難になることによるものと考えられる。
本形態においてカルバメート基の置換率(mmol/g)とは、カルバメート基を有するセルロース繊維1gあたりに含まれるカルバメート基の物質量をいう。カルバメート基の置換率は、カルバメート化したパルプ内に存在するN原子をケルダール法によって測定し、単位重量当たりのカルバメート化率を算出する。また、セルロースは、無水グルコースを構造単位とする重合体であり、一構造単位当たり3つのヒドロキシ基を有する。
(カルバメート化)
マイクロ繊維セルロース(解繊前にカルバメート化する場合は、セルロース原料。以下、同様であり、単に「セルロース繊維」ともいう。)にカルバメート基を導入する(カルバメート化)方法については、セルロース原料をカルバメート化してから微細化する方法と、セルロース原料を微細化してからカルバメート化する方法とがある。しかしながら、先にカルバメート化を行い、その後に、解繊をする方が好ましい。解繊する前のセルロース原料は脱水効率が高く、カルバメート化に伴う加熱によってセルロース原料が解繊され易い状態になるためである。
セルロース繊維をカルバメート化する工程は、混合工程と加熱工程に区分でき、混合工程はさらに添加工程のみからなる工程と、添加工程と混ぜ合わせる工程からなる工程に細分できる。また、カルバメート化は、混合工程を行い、離解工程及び/又は解繊工程を経て、加熱工程を行ってもよい。
カルバメート化する工程では、有機溶剤を加えて行うこともできるし、加えないで行うこともできる。有機溶剤を加える場合は、セルロース繊維のカルボキシ基との反応性を有しない有機溶剤を用いるとよい。有機溶剤としては、例えば、シクロヘキサン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸系溶媒、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶媒を挙げることができる。しかしながら、有機溶剤を加えると、反応系における薬剤の濃度が薄まり、反応物質たるセルロース繊維と薬剤との遭遇率が低下し、カルバメート基の置換率低下を招く場合があるため、カルバメート化する工程は、有機溶剤を添加しないで行う方が望ましい。
(混合工程)
混合工程は、セルロース繊維に薬剤を混合する工程である。容器、袋、槽等の容れ物にセルロース原料(セルロース繊維)と薬剤を入れ、セルロース繊維と薬剤を混ぜ合わせる工程からなる。
(添加工程)
添加工程はセルロース繊維に薬剤を添加する工程である。セルロース繊維を入れた容れ物に薬剤の全量を一度に添加してもよいし、いくつかに分けて少量ずつ添加してもよい。
添加工程では、セルロース繊維1gあたりの前記薬剤の添加量を10g以下、より好ましくは5g以下、さらに好ましく1g以下とするとよい。本形態は、混ぜ合わせる工程を有するので上記添加量でカルバメート化が促進される。また、当該添加量は、下限を0.05g、より好ましくは0.1gとするとよい。当該添加率が0.01gあれば、本形態は、カルバメート化の置換率に優れたものとなる。
(混ぜ合わせる工程)
混ぜ合わせる工程はセルロース繊維と添加された薬剤を混ぜ合わせる工程である。混ぜ合わせる工程で、セルロース繊維の表面及び内部に薬剤を浸透させる。混ぜ合わせることによって、セルロース繊維表面に薬剤が付着し、薬剤が付着したセルロース繊維が相互に接触したり、擦れたり、押し当てられたりする過程で、表面の薬剤が徐々にセルロース繊維内部に浸透していくようになる。薬剤が十分にセルロース繊維内部に浸透したかは、例えば混ぜ合わせる工程を行ったセルロース繊維を水相に投入して、沈降度合いを測定することで評価することができる。薬剤、例えば尿素は水よりも比重が大きいので、混ぜ合わせる工程を行ったセルロース繊維は、当該工程を行わないセルロース繊維よりも速く沈降する。なお、混ぜ合わせる工程を行ったセルロース繊維を水等ですすいだとしても、繊維表面に付着する薬剤は流れ落ち易いが、繊維内部にまで浸透した薬剤は流れ落ちにくい。
混ぜ合わせる工程は、水に混合工程を行って得たセルロース繊維を離解させて調製した0.2質量%の離解液を、均一な濃度にした後、静置させた場合に、離解したセルロース繊維の界面の沈降率が、静置10分後に60%未満、好ましくは59%以下、より好ましくは58%以下となるように、行うことができる。沈降率は次の数式で求めることができる。
[数1]
(沈降率(%))={(離解液の水嵩)-(離解液の液面から離解液中のセルロース繊維界面までの深さ)}/(離解液の水嵩)×100
上記静置後10分後の沈降率が60%以上だと、セルロースの繊維内部への薬剤の浸透が十分ではない。というのも、薬剤、特に尿素等は水に対して比重が大きく、薬剤の浸透が不十分なセルロース繊維ほど、水中で沈降し難い。繊維内部に薬剤が十分に浸透したセルロース繊維であれば、相対的に比重の大きな薬剤を多く含むので水中で沈降し易いものとなる。沈降率は、JIS M 0201:1974(選炭廃水試験方法)に準拠して測定したものであり、容器にスラリーを一定量投入して一定時間静置し、単位時間あたりの沈降界面の変化量から求めることができる。また、沈降速度についてもJIS M 0201:1974に準拠して測定でき、容器にスラリーを一定量投入して一定時間静置し、単位時間あたりの沈降界面の変化量から求めることができる。なお、離解液の水嵩とは、離解液を沈降率測定用の容器に入れた場合の、離解液の液面から底面までの深さをいう。
混合工程は、(1)当該混合工程が、セルロース繊維に前記薬剤を添加する工程と、セルロース繊維と添加された前記薬剤を混ぜ合わせる工程とからなる場合は、沈降率が静置10分後に60%未満、好ましくは59%以下、より好ましくは58%以下となり、(2)当該混合工程が、セルロース繊維に前記薬剤を添加する工程のみからなる場合は、前記沈降率が、静置10分後に60%以上、より好ましくは63%以上、さらに好ましくは65%以上となる、ように行ってもよい。このとき、当該(1)の場合の沈降率を「Pmix+」と表し、当該(2)の場合の沈降率を「Pmix-」と表す。
また、[沈降率(Pmix+)]-[沈降率(Pmix-)](すなわち、沈降率差)が、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上となるように混合工程を行うと、セルロース繊維は内部に薬剤が十分に浸透されたものとなっており、カルバメート基の置換効率の向上化がなされているので、望ましい。
また、沈降速度についても、セルロースの繊維内部への薬剤の浸透が十分になされたセルロース繊維の方が、薬剤の浸透が不十分な(混ぜ合わせる工程を行わないで製造された)セルロース繊維よりも大きいものとなる。これは、比重の大きな薬剤がセルロース繊維の繊維内部に浸透したことでセルロース繊維全体としても比重が増加したことによるものと考えられる。なお、沈降速度(d(%)/dt)とは、単位時間あたりの沈降率の変化量である。
セルロースの繊維内部への薬剤の浸透が十分になされたセルロース繊維とは、薬剤の浸透の程度により厳密な定義は難しいが、例えば、セルロース繊維1gに対して、薬剤が好ましくは0.5mmol以上、より好ましくは1.0mmol以上、さらに好ましくは1.5mmol以上含むものをいうことができる。セルロースの繊維内部への薬剤の浸透が十分になされたか否か(すなわち浸透度合)は、例えば次の数式で評価することができる。
[数2]
(浸透度合)=(薬剤を含むセルロース繊維の質量g)-(乾燥したセルロース繊維の質量g)
ここで、薬剤を含むセルロース繊維の質量とは、混合工程を経たセルロース繊維を乾燥(105℃、1時間)させた後の質量をいう。薬剤の質量gと薬剤の物質量mmolは適宜換算して求める。
混ぜ合わせる工程を行わないで製造されたセルロース繊維は、沈降が相対的にし難く、またセルロース繊維と薬剤との反応転化率も低いものとなる。
混合工程のうちの添加工程と混ぜ合わせる工程とを行って得たセルロース繊維を水に投入して固形分濃度を0.2質量%としたセルロース繊維液を800rpmで離解させたときに、離解が完了するまでに要する時間が、好ましくは15分以下、より好ましくは12分以下、さらに好ましくは10分以下となるように、混ぜ合わせる工程を行うとよい。当該離解が完了するまでに要する時間が15分を上回ると、セルロース繊維の内部に薬剤が十分に浸透していないおそれがある。他方、上記(2)混合工程が、セルロース繊維に前記薬剤を添加する工程のみからなる場合によって得たセルロース繊維を、水に投入して固形分濃度を0.2質量%としたセルロース繊維液を800rpmで離解させたときに、離解が完了するまでに要する時間は、20分以上となる。
混ぜ合わせる方法は、特に限定されないが、一例に次のように行うことができる。コンクリートミキサーやモルタルミキサー等の混合ミキサー、撹拌翼や回流機が備わる円筒タンクにセルロース繊維と薬剤を投入して、混ぜ合わせる方法とすることができる。また、少量行う場合には、容器にセルロース繊維と薬剤を投入して、ハンドミキサー等の混合ミキサーで混ぜ合わせたり、袋にセルロース繊維と薬剤を入れて袋の外側から、漬物を漬ける際に具材を揉んだり捏ねたりするように、混ぜ合わせたりする方法とすることができる。
セルロース繊維と薬剤を混ぜ合わせる時間は、特に限定されないが、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上、さらに好ましくは10分以上とすると薬剤がセルロース繊維内部に十分に浸透するのでよい。また、当該混ぜ合わせる時間は、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下、さらに好ましくは6時間以下であればよい。24時間超混ぜ合わせても、それに見合う効果が奏されない。混ぜ合わせる際の回転速度は、特に限定されないが、下限を好ましくは1rpm以上、より好ましくは10rpm以上とするとよく、さらに好ましくは100rpm以上とするとよく、上限を好ましくは100000rpm以下、より好ましくは10000rpm以下とするとよい。
混ぜ合わせる工程で用いる薬剤は、尿素又は尿素の誘導体(以下、単に「尿素等」ともいう。)を挙げることができる。尿素や尿素の誘導体としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、尿素の水素原子をアルキル基で置換した化合物等を使用することができる。これらの尿素又は尿素の誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。
セルロース繊維に対する尿素等の混合質量比(尿素等/セルロース繊維)の下限は、好ましくは10/100以上、より好ましくは20/100以上である。他方、上限は、好ましくは300/100以下、より好ましくは200/100以下である。混合質量比を10/100以上にすることで、カルバメート化の効率が向上する。他方、混合質量比が200/100を上回っても、カルバメート化は頭打ちになる。
(分散媒)
混ぜ合わせる工程は、セルロース繊維と薬剤のみで行うことができるが、液媒体である分散媒をさらに添加してもよい。分散媒としては、通常、水を用いるとよい。また、アルコール、エーテル等の他の液媒体や、水と他の分散媒との混合物を用いてもよい。
混ぜ合わせる工程においては、例えば、分散媒にセルロース繊維及び尿素等を添加しても、尿素等の水溶液にセルロース繊維を添加しても、セルロース繊維を含むスラリーに尿素等を添加してもよい。さらに、セルロース繊維と尿素等とを含む分散液には、その他の成分が含まれていてもよい。セルロース繊維と尿素等に分散媒を添加して分散液の状態にした場合は、セルロース繊維1gあたり分散媒を99g以下、より好ましくは66g以下、さらに好ましくは49g以下添加して混ぜ合わせる工程を行うとよく、0.1g以上、より好ましくは1g以上、さらに好ましくは2g以上添加して混ぜ合わせる工程を行うとよい。セルロース繊維1gあたりの分散媒の量が99gを上回ると、分散液全体に占めるセルロース繊維の量が少ないため、セルロース繊維全体に万遍に薬剤が付着し難く、解繊が一様になされないおそれがある。また、セルロース繊維1gあたりの分散媒の量が0.1gを下回ると、分散媒を添加する効果が望めないおそれがある。
(乾燥工程)
混合工程の次は加熱工程に移行するが、混合工程と加熱工程の間に乾燥工程を挿入することもできる。乾燥工程は、混合工程において得られたセルロース繊維及び尿素等を含む分散液から分散媒を除去する工程であり、除去工程ということもできる。分散媒を除去することで、これに続く加熱処理において効率的に尿素等を反応させることができる。なお、乾燥工程を行っても、薬剤は繊維の表面及び内部に残る。
分散媒の除去は、加熱によって分散媒を揮発させることで行うのが好ましい。この方法によると、尿素等の成分をほぼ残したまま分散媒のみを効率的に除去することができる。
乾燥工程における設定温度は、分散媒が水である場合は、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、特に好ましくは90℃以上であるとよい。設定温度を50℃以上にすることで効率的に分散媒を揮発させる(除去する)ことができる。他方、設定温度の上限は、好ましくは120℃、より好ましくは100℃である。加熱温度が120℃を上回ると、分散媒と尿素が化学反応し、セルロース繊維と尿素との反応転化率が低下するおそれがある。
乾燥工程にかける乾燥時間は、分散液の固形分濃度等に応じて適宜調節することができる。具体的には、乾燥時間は、例えば24時間以下、好ましくは20時間以下、より好ましくは18時間以下、特に好ましくは16時間以下である。他方、分散媒を除去するため最低でも6時間は乾燥させたほうがよい。乾燥時間が上記範囲であれば、分散媒のほぼ全量がセルロース繊維から除去され、かつ長時間の乾燥による繊維の熱変性を確実に抑えることができる。
以上のように、加熱工程に先立って、乾燥工程を設けると好適である。特にこの乾燥工程においては、加熱工程に供せられるセルロース繊維の水分率が10%以下となるように、好ましくは0~9%となるように、より好ましくは0~8%となるように乾燥を行うと好適である。加熱工程に先立ってセルロース繊維の水分率が10%以下となるように乾燥を行っておくことで、カルバメート基の置換率を容易に1mmol/g以上とすることができるようになる。加熱工程に先立って乾燥工程を行っておくことで、カルバメート基の置換効率が向上する利点がある。
(加熱工程)
加熱工程は、混合工程(又は乾燥工程)後にセルロース繊維と薬剤(尿素等)との混合物を加熱する工程である。加熱工程では、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部又は全部が尿素等と化学反応してカルバメート基に置換される。反応過程は、およそ次のとおりとなる。尿素等は加熱されると下記の反応式(1)に示すようにイソシアン酸及びアンモニアに分解される。イソシアン酸はとても反応性が高く不安定であり、例えば、下記の反応式(2)に示すようにセルロースのカルボキシ基がカルバメート基に置換される。
NH2-CO-NH2 → H-N=C=O + NH3 …(1)
Cell-OH + H-N=C=O → Cell-O-CO-NH2 …(2)
本態様の加熱工程に供されるセルロース繊維は、繊維表面及び内部に、薬剤が付着し、浸透している分、セルロース繊維内のヒドロキシ基と薬剤との反応部位が多く、相対的に多くの薬剤がヒドロキシ基と反応すると考えられる。また、乾燥工程を経たセルロース繊維は、水分が蒸発しているが、薬剤が表面及び内部に残存しているので、薬剤が残存している箇所においては、薬剤によって水素結合が弱まっている。そのため、当該セルロース繊維は、カルバメート化の置換効率に優れ、また、離解や解繊が容易に起こり易いものとなっている。薬剤によって水素結合を弱める作用については、水素結合を形成する水分子の一部が尿素分子に置き換わっていることによるものと考えられる。
加熱工程では、混合物を加熱する温度(加熱温度)を、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、特に好ましくは尿素の融点(約134℃)以上、さらに好ましくは140℃以上、最も好ましくは150℃以上とするとよい。加熱する温度が120℃を下回ると、上記置換反応が促進されにくい。一方、加熱する温度は、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下であるとよい。加熱温度が200℃を上回ると、セルロース繊維が分解したり熱変性したりして、樹脂の補強効果が不十分となるおそれがある。
加熱工程における加熱時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上、特に好ましくは30分であるとよい。加熱時間が1分を下回ると化学反応が完結しないおそれがある。他方、加熱時間は、好ましくは15時間以下、より好ましくは10時間以下、特に好ましくは5時間以下であるとよい。15時間加熱すれば化学反応が完結するので、その時間を超えて加熱するのは利点がない。
以上のように、乾燥工程と加熱工程とでは、温度及び時間の条件が主に異なる。乾燥工程はセルロース繊維に付着する分散媒を気化して飛ばすのが主目的であるため、低温で、かつ長時間処理を行う。加熱工程は、セルロース繊維が劣化しない範囲で化学反応を促進させるのが主目的であるため、高温で、かつ短時間処理を行う。乾燥工程は省略してもよいが、行ったほうがよりよい。乾燥しない状態で加熱工程を行うと、高温状態に晒された水や蒸気が、セルロースを構成するグルコースが結合しているアセタール結合を解裂させ、繊維を傷める場合がある。また、セルロース繊維のカルバメート化に用いられるべき尿素等が、セルロース繊維に付着する水分と化学反応して消費してしまい、尿素のさらなる添加が必要になる場合がある。
加熱工程においては、反応温度及び反応時間の他に、pHを調整することも化学反応が促進され好ましい。pHは、好ましくはpH9以上、より好ましくはpH9~13、特に好ましくはpH10~12のアルカリ性条件であるとよい。又は、pH7以下、好ましくはpH3~7、特に好ましくはpH4~7の酸性条件又は中性条件であるとよい。ただし、pH7超~8の弱アルカリ性条件であると、セルロース繊維の平均繊維長が短くなり、樹脂の補強効果に劣る可能性がある。これに対し、pH9以上のアルカリ性条件であると、セルロース繊維の反応性が高まり、尿素等への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース繊維の平均繊維長を十分に確保することができる。他方、pH7以下の酸性条件であると、尿素等からイソシアン酸及びアンモニアに分解する反応が進み、セルロース繊維への反応が促進され、効率良くカルバメート化反応するため、セルロース繊維の平均繊維長を十分に確保することができる。ただし、酸性条件であるとセルロースの一部が酸加水分解する場合があるため、アルカリ性条件で加熱処理する方が好ましい。pHの調整は、混合物に酸性化合物(例えば、酢酸、クエン酸等。)やアルカリ性化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等。)を添加すること等によって行うことができる。
加熱工程において加熱する装置としては、例えば、熱風乾燥機、抄紙機、ドライパルプマシン等を使用することができる。
加熱工程後の混合物は、次工程に供するために洗浄してもよい。この洗浄は、水等で行えばよい。この洗浄によって残留している未反応の尿素等や副生成物等を除去することができる。ただし、前述したように解繊及びカルバメート化はいずれをも先に行うことができるが、前記洗浄を行う場合は、解繊後にカルバメート化するよりも、カルバメート化後に解繊する方が好ましい。これは、セルロース繊維を解繊すると、保水性(度)が上がって脱水しづらくなることや、繊維が微細化されていると乾燥した際に不可逆的に凝集し易くなること等による。なお、例えば、パルプの保水度が100%であるとすると、解繊後のマイクロ繊維セルロースの保水度は300%程度にもなる。
(スラリー)
マイクロ繊維セルロースは、水系媒体中に分散させて分散液(スラリー)にしておくと保管、取り扱いが容易にでき好ましい。水系媒体は、全量が水であるのが特に好ましいが、一部が水と相溶性を有する液体である水系媒体を使用することができる。液体としては、炭素数3以下の低級アルコール類等を使用することができる。
スラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1~10.0質量%、より好ましくは0.5~5.0質量%にしておくとよい。固形分濃度が0.1質量%を下回ると、複合樹脂の製造にスラリーを多量に用意することになり、煩雑であるし、脱水や乾燥する際に過大なエネルギーが必要となるおそれがある。他方、固形分濃度が10.0質量%を上回ると、スラリー自体の流動性が低下してしまい、均一に混合できなくなり使い勝手がよくない。
(酸変性樹脂)
マイクロ繊維セルロースは、好ましくは酸変性樹脂と混合する。酸変性樹脂を混合すると、酸基がカルバメート基の一部又は全部とイオン結合する。このイオン結合により、樹脂の補強効果が向上する。
酸変性樹脂としては、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂、酸変性エポキシ樹脂、酸変性スチレン系エラストマー樹脂等を使用することができる。ただし、酸変性ポリオレフィン樹脂を使用するのが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分とポリオレフィン成分との共重合体である。
ポリオレフィン成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等のアルケンの重合体の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には、プロピレンの重合体であるポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
不飽和カルボン酸成分としては、例えば、無水マレイン酸類、無水フタル酸類、無水イタコン酸類、無水シトラコン酸類、無水クエン酸類等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、好適には、無水マレイン酸類を使用するのが好ましい。つまり、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
酸変性樹脂の混合量は、マイクロ繊維セルロース100質量部に対して、好ましくは0.1~1,000質量部、より好ましくは1~500質量部、特に好ましくは10~200質量部である。特に酸変性樹脂が無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂である場合は、好ましくは1~200質量部、より好ましくは10~100質量部である。酸性変性樹脂の混合量が0.1質量部を下回ると強度の向上が十分ではない。他方、混合量が1,000質量部を上回ると、過剰となり強度が低下する傾向となる。
無水マレイン酸変性ポリプロピレンの重量平均分子量は、例えば1,000~100,000、好ましくは3,000~50,000である。
また、無水マレイン酸変性ポリプロピレンの酸価は、0.5mgKOH/g以上、100mgKOH/g以下が好ましく、1mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下がより好ましい。
さらに、酸変性樹脂のMFR(メルトフローレート)が2000g/10分(190℃/2.16kg)以下であるのが好ましく、1500g/10分以下であるのがより好ましく、500g/10分以下であるのが特に好ましい。MFRが2000g/10分を上回ると、セルロース繊維の分散性が低下する可能性がある。
なお、酸価の測定は、JIS-K2501に準拠し、水酸化カリウムで滴定する。また、MFRの測定は、JIS-K7210に準拠し、190℃で2.16kgの荷重を載せ、10分間に流れ出る試料の重量で決める。
(分散剤)
本形態のマイクロ繊維セルロースは、好ましくは分散剤と混合しておくとよい。マイクロ繊維セルロースに分散剤が混在していると、マイクロ繊維セルロースが相互に凝集し難くなる。これは、分散剤がマイクロ繊維セルロース相互の水素結合を阻害する働きがあるからである。分散剤の混在により、マイクロ繊維セルロース及び樹脂の混練に際して、樹脂に対するマイクロ繊維セルロースの分散性が向上する。また、分散剤はマイクロ繊維セルロース及び樹脂の相溶性を向上させる役割も有する。
分散剤としては、芳香族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物、脂肪族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物が好ましい。
芳香族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物としては、例えば、アニリン類、トルイジン類、トリメチルアニリン類、アニシジン類、チラミン類、ヒスタミン類、トリプタミン類、フェノール類、ジブチルヒドロキシトルエン類、ビスフェノールA類、クレゾール類、オイゲノール類、没食子酸類、グアイアコール類、ピクリン酸類、フェノールフタレイン類、セロトニン類、ドーパミン類、アドレナリン類、ノルアドレナリン類、チモール類、チロシン類、サリチル酸類、サリチル酸メチル類、アニスアルコール類、サリチルアルコール類、シナピルアルコール類、ジフェニドール類、ジフェニルメタノール類、シンナミルアルコール類、スコポラミン類、トリプトフォール類、バニリルアルコール類、3-フェニル‐1-プロパノール類、フェネチルアルコール類、フェノキシエタノール類、ベラトリルアルコール類、ベンジルアルコール類、ベンゾイン類、マンデル酸類、マンデロニトリル類、安息香酸類、フタル酸類、イソフタル酸類、テレフタル酸類、メリト酸類、ケイ皮酸類などが挙げられる。
脂肪族類にアミン基及び/又は水酸基を有する化合物としては、例えば、カプリルアルコール類、2-エチルヘキサノール類、ペラルゴンアルコール類、カプリンアルコール類、ウンデシルアルコール類、ラウリルアルコール類、トリデシルアルコール類、ミリスチルアルコール類、ペンタデシルアルコール類、セタノール類、ステアリルアルコール類、エライジルアルコール類、オレイルアルコール類、リノレイルアルコール類、メチルアミン類、ジメチルアミン類、トリメチルアミン類、エチルアミン類、ジエチルアミン類、エチレンジアミン類、トリエタノールアミン類、N,N-ジイソプロピルエチルアミン類、テトラメチルエチレンジアミン類、ヘキサメチレンジアミン類、スペルミジン類、スペルミン類、アマンタジン類、ギ酸類、酢酸類、プロピオン酸類、酪酸類、吉草酸類、カプロン酸類、エナント酸類、カプリル酸類、ペラルゴン酸類、カプリン酸類、ラウリン酸類、ミリスチン酸類、パルミチン酸類、マルガリン酸類、ステアリン酸類、オレイン酸類、リノール酸類、リノレン酸類、アラキドン酸類、エイコサペンタエン酸類、ドコサヘキサエン酸類、ソルビン酸類などが挙げられる。
分散剤の混合量は、マイクロ繊維セルロース100質量部に対して、好ましくは0.1~1,000質量部、より好ましくは1~500質量部、特に好ましくは10~200質量部である。分散剤の混合量が0.1質量部を下回ると、分散剤を加えた効果が弱く、樹脂の強度向上が十分になされないおそれがある。他方、混合量が1,000質量部を上回ると、過剰な分散剤によってマイクロ繊維セルロースの分散性が低下するおそれがある。
前述した酸変性樹脂は酸基とマイクロ繊維セルロースのカルバメート基とがイオン結合することで相溶性を向上し、もって補強効果を上げるためのものであり、分子量が大きいため混練用の樹脂とともに分散しやすい。分散剤は、マイクロ繊維セルロース間のヒドロキシ基相互に介在して凝集を防ぐものであり、また、分子量が酸変性樹脂に比べ小さいため、酸変性樹脂が入り込めないようなマイクロ繊維セルロース間の狭いスペースに入ることができ、マイクロ繊維セルロースの分散性を向上する役割を果たす。したがって、上記酸変性樹脂の分子量は、分散剤の分子量の2~2,000倍、好ましくは5~1,000倍であると好適である。
(粉末)
本形態のマイクロ繊維セルロースは、粉末と混合しておくと好適である。粉末と混合しておくことで、マイクロ繊維セルロースは凝集化が抑制され、樹脂の補強性を発揮できる形態とすることができる。マイクロ繊維セルロースは、樹脂と複合化するまでは、含有水分率を所定の範囲に調節しておくとよく、当該範囲を超えると水系媒体を除去する過程で、マイクロ繊維セルロースが相互に水素結合して凝集化してしまい、樹脂との分散性が悪化して、樹脂を補強する効果を十分に発揮できなくなる可能性がある。
用いる粉末は、マイクロ繊維セルロースとの反応性に乏しいものであるとよい。反応性に乏しいとは、化学的な反応、例えば共有結合、イオン結合、金属結合、水素結合、ファンデルワールス力による結合が促進し難い、ということを意味する。また、粉末とマイクロ繊維セルロースとが化学反応する際の活性化エネルギーが100kJ/molを超える粉末、ということもできる。
粉末は、無機性粉末や樹脂粉末を選択して用いることができるが、好ましくは無機性のものが良い。無機性粉末であれば、セルロースの繊維が有するカルボキシ基を水酸化物イオンへ解離させ難いので、反応抑制効果があり、好ましい。特に無機粉末であると、操業上有利である。というのも、繊維状セルロース含有物の含有水分率の調節手法としては、例えば、熱源である金属ドラムに、繊維状セルロースと粉末の混合液を直接あてて、乾燥する手法や、熱源に当該混合液を直接触れさせずに加温する手法等を、含有水分率の調製手法として挙げることができる。しかしながら、樹脂粉末を使用すると、加温した金属板(例えば、ヤンキードライヤー、シリンダードライヤー等。)に接触させて乾燥した際に、金属板表面に皮膜ができ熱伝導が悪化し、乾燥効率が著しく低下する懸念があり、無機性粉末であれば。このような問題が生じ難い。
粉末の平均粒子径は、1~10,000μmが好ましく、10~5,000μmがより好ましく、100~1,000μmが特に好ましい。平均粒子径が10,000μmを超えると、セルロースの繊維相互の間隙に入って凝集を阻害する効果が損なわれるおそれがある。平均粒子径が1μm未満であると、セルロースの繊維に対して粉末の粒子径が小さ過ぎ、セルロースの繊維相互の凝集化を阻害する効果が発揮されないおそれがある。
樹脂粉末は、物理的にセルロースの繊維相互の隙間に介在することで水素結合を阻害し、マイクロ繊維セルロースの分散性を向上する役割がある。一方で前述した酸変性樹脂は、酸基とマイクロ繊維セルロースのカルバメート基とをイオン結合することで相溶性を向上して補強効果を上げるものである。分散剤がマイクロ繊維セルロース相互の水素結合を阻害する作用は同じであるが、樹脂粉末は粒子径がマイクロオーダーであるため、物理的に介在して水素結合を抑制するものである。樹脂粉末は、分散性が分散剤に比べ低いものの、樹脂粉末自身が溶融してマトリックス化するため、物性低下に寄与しない。一方、分散剤は、粒子径が分子レベルであり、極めて小さいためマイクロ繊維セルロースを覆うようにして水素結合を阻害し、マイクロ繊維セルロースの分散性を向上する効果は高い。しかしながら、樹脂中に残り、物性低下をもたらす可能性がある。
粉末の平均粒子径は、粉体をそのまま又は水分散体の状態で粒度分布測定装置(例えば株式会社堀場製作所のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器)を用いて測定される体積基準粒度分布から算出される中位径である。
無機粉末としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族~第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。具体的には、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレー、ワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、シリカゲル、乾式シリカ、コロイダルシリカ、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン、ガラスファイバー等を例示することができる。これらの無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよいし、製紙スラッジ中の無機物を再生したいわゆる再生填料等であってもよい。
製紙用の填料や顔料として好適に使用される炭酸カルシウム、タルク、ホワイトカーボン、クレー、焼成クレー、二酸化チタン、水酸化アルミニウム及び再生填料等の中から選択される少なくとも1種以上の無機粉末を使用するのが好ましく、炭酸カルシウム、タルク、クレーの中からから選択される少なくとも1種以上を使用するのがより好ましく、軽質炭酸カルシウム及び重質炭酸カルシウムの少なくともいずれか一方を使用するのが特に好ましい。炭酸カルシウム、タルク、クレーは、樹脂等のマトリックスとの複合化が容易であり、汎用的な無機材料であるため、用途の制限が生じることが少ない等のメリットがある。さらに、炭酸カルシウムは特に好ましい。軽質炭酸カルシウムの粉末は、サイズや形状を所望に制御でき、セルロース繊維のサイズや形状に合わせて、間隙に入り込むよう成形して、セルロース繊維相互の凝集を抑制する効果を生じ易くすることができる。また、重質炭酸カルシウムは、不定形であるので、スラリー中に様々なサイズの繊維が存在する場合でも、乾燥工程時に水系媒体が除去されて繊維が凝集する過程において、間隙に入り込んでセルロース繊維相互の凝集を抑制することができる。
樹脂粉末に用いる樹脂は、特に限定されずに種々のものを用いることができるが、複合樹脂を得る際に使用する樹脂と同様のものを使用すると、一つの樹脂で用途を選択でき好ましい。
粉末の混合比は、繊維状セルロース(マイクロ繊維セルロース)1質量部に対して、好ましくは0.01~99質量部、より好ましくは0.05~19質量部、特に好ましくは0.1~9質量部である。繊維状セルロースに対する粉末の混合比が0.01質量部を下回ると、粉末が不足し、セルロース繊維の間隙に入って凝集抑制する作用が不十分となるおそれがある。当該混合比が99質量部を上回ると、繊維が粉末に埋もれてしまい、繊維状セルロースと樹脂の混錬工程に支障をきたすおそれがある。
粉末として例示した無機粉末及び樹脂粉末は双方を併用することもできる。無機粉末及び樹脂粉末を併用すると、無機粉体と樹脂粉末のどちらか一方が凝集する条件で混合した場合でも無機粉末及び樹脂粉末の双方を混合しておくことで、凝集化を防ぐ効果が発揮される。一般的に、粒子径が小さい粉末は相対的に表面積が大きく重力作用のほかに分子間力の作用を受け、凝集化し易い傾向にあるが、無機粉末及び樹脂粉末を併用すると、粒子径が小さい粉末相互の凝集化が抑制される。この観点より、無機粉末及び樹脂粉末を併用する場合、無機粉末の平均粒子径:樹脂粉末の平均粒子径の比は、1:0.1~1:10000が好ましく、1:1~1:1000がより好ましい。
(製造方法)
樹脂との混練に供される、繊維状セルロース(マイクロ繊維セルロース)及び酸変性樹脂、分散剤、粉末等の混合物は、含有水分率を18%未満とする乾燥体としておくとよい。この乾燥体は、好ましくは粉砕して粉状物にする。粉状物の形態にすると、樹脂と混練して得られる繊維状セルロース複合樹脂の着色が低減される。一般にセルロース繊維と樹脂から複合樹脂を製造すると、複合樹脂が黄色味がかった色彩を呈する。しかしながら、当該粉状物から製造された複合樹脂は、樹脂の本来の色彩に近い色彩を呈する。また、粉状物の形態であれば、容易に乾燥し、樹脂との混練に際して繊維状セルロースを敢えて乾燥させる必要がなく、混錬の熱効率が良い。混合物に粉末や、分散剤が混合されている場合は、当該混合物を乾燥したとしても、繊維状セルロース(マイクロ繊維セルロース)が再分散しなくなるおそれが低い。
混合物を乾燥して乾燥体とする場合は、乾燥させる前に脱水して脱水物にするとよい。この脱水は、脱水装置を用いて行うことができる。脱水装置としては、例えば、ベルトプレス、スクリュープレス、フィルタープレス、ツインロール、ツインワイヤーフォーマ、バルブレスフィルタ、センターディスクフィルタ、膜処理、遠心分離機等を挙げることができる。
混合物、あるいは脱水物の乾燥は、乾燥装置を用いて行うことができる。乾燥装置としては、例えば、ロータリーキルン乾燥、円板式乾燥、気流式乾燥、媒体流動乾燥、スプレー乾燥、ドラム乾燥、スクリューコンベア乾燥、パドル式乾燥、一軸混練乾燥、多軸混練乾燥、真空乾燥、攪拌乾燥等を挙げることができる。
前述の粉状物とする場合の粉砕は、粉砕装置を用いて行うことができる。粉砕装置としては、例えば、ビーズミル、ニーダー、ディスパー、ツイストミル、カットミル、ハンマーミル等を挙げることができる。
粉状物は、平均粒子径が好ましくは10,000μm以下、より好ましくは10~5,000μm、特に好ましくは100~1,000μmであるとよい。平均粒子径が10,000μmを上回ると、容易な乾燥がなされないおそれがある。他方、平均粒子径の下限は厳密に定める必要はないが、例えば、平均粒子径が1μmを下回るものにすることは、大きなエネルギーが必要になるため、経済的でない。
粉状物の平均粒子径の制御は、分級装置(フィルター、サイクロン等)を使用した分級によることができる。
混合物(粉状物)の嵩比重は、好ましくは0.03~1.0、より好ましくは0.04~0.9、特に好ましくは0.05~0.8であるとよい。嵩比重が1.0を超えると繊維状セルロース相互の水素結合により強固な凝集がなされ、樹脂中で分散させることが困難となる。他方、嵩比重が0.03を下回ると、混錬工程で混合物と繊維状セルロースとに重力による分離作用が働き、優れた分散性が保たれず、補強効果に優れる複合樹脂や、補強効果に乏しい複合樹脂等が製造され、均質な製品にならないおそれがある。
嵩比重は、JIS K7365に準じて測定した値である。
混合物(繊維状セルロース含有物)の含有水分率は、好ましくは18%未満、より好ましくは0~17%、特に好ましくは0~16%である。含有水分率が18%以上になると、繊維状セルロース複合樹脂は、着色したものとなるおそれがある。特にカルバメート基の置換率を1mmol/g以上とする場合においては、着色を低減することができない可能性がある。
着色を低減するには、例えばセルロースの一構成物質であるヘミセルロース等(着色原因物質)を低分子化して水溶化し、カルバメート化パルプの洗浄工程で着色原因物質を除去する手法を採り得る。着色原因物質がマイクロ繊維セルロースに残留していると、混錬工程の際に、樹脂と着色原因物質とが接触して着色が顕著になってしまう。
含有水分率は、定温乾燥機を用いて、試料を105℃で6時間以上保持し質量の変動が認められなくなった時点の質量を乾燥後質量とし、下記式にて算出した値である。
含有水分率(%)=[(乾燥前質量-乾燥後質量)÷乾燥前質量]×100
(混練工程)
以上のようにして得た繊維状セルロース含有物(樹脂の補強材)は、樹脂と混練し、繊維状セルロース複合樹脂を得る。この混練は、例えば、ペレット状の樹脂と補強材とを混ぜ合わす方法によることのほか、樹脂をまず溶融し、この溶融物の中に補強材を添加するという方法によることもできる。なお、酸変性樹脂や分散剤等は、この段階で添加することもできる。
混練工程には、例えば、単軸混練機、又は二軸以上の多軸混練機、ミキシングロール、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、スクリュープレス、ディスパーザー等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。これらの中では、二軸以上の多軸混練機を使用することが好ましい。二軸以上の多軸混練機を2機以上、並列又は直列にして、使用しても良い。
混練工程の温度は、樹脂のガラス転移点以上であるとよく、樹脂の種類によって異なるが、80~280℃とするのが好ましく、90~260℃とするのがより好ましく、100~240℃とするのが特に好ましい。
樹脂としては、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン、脂肪族ポリエステル樹脂や芳香族ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリスチレン、メタアクリレート、アクリレート等のポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
ただし、ポリオレフィン及びポリエステル樹脂の少なくともいずれか一方を使用するのが好ましい。また、ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンを使用するのが好ましい。さらに、ポリエステル樹脂としては、脂肪族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等を例示することができ、芳香族ポリエステル樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート等を例示することができるが、生分解性を有するポリエステル樹脂(単に「生分解性樹脂」ともいう。)を使用するのが好ましい。
生分解性樹脂としては、例えば、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル、カプロラクトン系脂肪族ポリエステル、二塩基酸ポリエステル等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3-ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体や、これらのヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種を用いた共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。ただし、ポリ乳酸、乳酸と乳酸を除く上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリカプロラクトン、上記ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体を使用するのが好ましく、ポリ乳酸を使用するのが特に好ましい。この乳酸としては、例えば、L-乳酸やD-乳酸等を使用することができ、これらの乳酸を単独で使用しても、2種以上を選択して使用してもよい。
カプロラクトン系脂肪族ポリエステルとしては、例えば、ポリカプロラクトンの単独重合体や、ポリカプロラクトン等と上記ヒドロキシカルボン酸との共重合体等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
二塩基酸ポリエステルとしては、例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
生分解性樹脂は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂等を使用することができる。これらの樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
樹脂には、無機充填剤が含有されていてもよく、無機充填剤としては、例えば、Fe、Na、K、Cu、Mg、Ca、Zn、Ba、Al、Ti、ケイ素元素等の周期律表第I族~第VIII族中の金属元素の単体、酸化物、水酸化物、炭素塩、硫酸塩、ケイ酸塩、亜硫酸塩、これらの化合物よりなる各種粘土鉱物等を例示することができる。
具体的には、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、酸化亜鉛、シリカ、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、ほう酸アルミニウム、アルミナ、酸化鉄、チタン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレーワラストナイト、ガラスビーズ、ガラスパウダー、珪砂、硅石、石英粉、珪藻土、ホワイトカーボン、ガラスファイバー等を例示することができる。これらの無機充填剤は、複数が含有されていてもよい。また、古紙パルプに含まれるものであってもよい。
繊維状セルロース(マイクロ繊維セルロース)と樹脂との配合比は、好ましくは繊維状セルロース:樹脂=1~99質量%:99~1質量%、より好ましくは5~95質量%:95~5質量%、さらに好ましくは10~90質量%:90~10質量%であるとよい。繊維状セルロースの割合が上記配合比の範囲よりも低いと、繊維状セルロースが少ないので、複合樹脂中の樹脂間をつなぐ繊維状セルロースが相互に形成する三次元ネットワークの強度が弱く、樹脂の補強効果に乏しいものとなる。他方、繊維状セルロースの割合が上記配合率の範囲よりも高いと、繊維状セルロースが樹脂の補強効果を有しているとしても、樹脂本来に備わる強度が発揮されず、複合樹脂としたときに所望の強度が備わったものとならないおそれがある。
なお、最終的に得られる複合樹脂に含まれる繊維状セルロース及び樹脂の含有割合は、通常、繊維状セルロース及び樹脂の上記配合比と同じとなる。
マイクロ繊維セルロース及び樹脂の溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)の差は、マイクロ繊維セルロースのSPMFC値、樹脂のSPPOL値とすると、SP値の差=SPMFC値-SPPOL値とすることができる。SP値の差は10~0.1が好ましく、8~0.5がより好ましく、5~1が特に好ましい。SP値の差が10を超えると、樹脂中におけるマイクロ繊維セルロースの分散性が不十分であり、補強効果を得ることはできない可能性がある。他方、SP値の差が0.1未満であるとマイクロ繊維セルロースが樹脂に溶解してしまい、フィラーとして機能せず、補強効果が得られない。樹脂(溶媒)のSPPOL値とマイクロ繊維セルロース(溶質)のSPMFC値の差が小さい程、補強効果が大きいといえる。
なお、溶解パラメータ(cal/cm3)1/2(SP値)とは、溶媒-溶質間に作用する分子間力を表す尺度であり、SP値が近い溶媒と溶質であるほど、溶解度が増す。
(成形工程)
繊維状セルロース含有物及び樹脂の混練物は、必要により再度混練する等した後、所望の形状に成形することができる。この成形の大きさや厚さ、形状等は、特に限定されず、例えば、シート状、ペレット状、粉末状、繊維状等とすることができる。
成形工程を行う際の温度は、樹脂のガラス転移点以上であるとよく、樹脂の種類によって異なるが、例えば90~260℃、好ましくは100~240℃であると十分な混練がなされよい。
混練物の成形は、例えば、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等により行うことができる。また、混練物を紡糸して繊維状にし、植物材料等と混繊してマット形状、ボード形状とすることもできる。混繊は、例えば、エアーレイにより同時堆積させる方法等によることができる。混練物を成形する装置としては、例えば、射出成形機、吹込成形機、中空成形機、ブロー成形機、圧縮成形機、押出成形機、真空成形機、圧空成形機等の中から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
植物材料等として混繊するものの例としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、各種針葉樹(スギ及びヒノキ等)、広葉樹及び綿花などの各種植物体から得られた植物材料に由来する繊維を挙げることができる。
以上の成形は、混練に続いて行うことも、混練物をいったん冷却し、破砕機等を使用してチップ化した後、このチップを押出成形機や射出成形機等の成形機に投入して行うこともできる。もちろん、成形は、本発明の必須の要件ではない。
次に、本発明の実施例を説明する。実施例で用いた針葉樹晒クラフトパルプのシートは、パルプ分散液から水分を除去して、固形分濃度50%程度、100~2000g/m2程度のシート形状としたものを、5×5cm程度に切り取ったものであり、体積が8~20cm3からなるものである。
実施例に用いる試験例は以下の手順で調製した。
[試験例1]
(1)容器に針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)のシートを入れ、尿素、クエン酸、水を添加して混ぜ合わせ、混合液を得た。混合量は、表1に記載する量とした。混ぜ合わせ方は、混合ミキサー(家庭用ミキサー バイタミックス社製 ブレンダーバイタプレップ3)を混合液内に入れて、3000rpm、10分間混ぜ合わせる方法とした。
(2)上記(1)の操作後、混合液から液分を除去して、残留物を取り出し乾燥させて乾燥物を得た。乾燥の方法は、恒温装置内で105℃、3時間、残留物を放置する方法とした。
(3)乾燥物を加熱した後、室温まで放冷して変性セルロース繊維(試験例1)を得た。加熱の方法は、恒温装置内で140℃、3時間、当該乾燥物を放置する方法とした。
[試験例2]
(1)容器に針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)のシートを入れ、尿素、クエン酸、水を添加して混合液とし、10分間放置した。混合量は、表1に記載する量とした。
(2)上記(1)の操作後、混合液から液分を除去して、残留物を取り出し乾燥させて乾燥物を得た。乾燥の方法は、恒温装置内で105℃、3時間、残留物を放置する方法とした。
(3)乾燥物を加熱した後、室温まで放冷して変性セルロース繊維(試験例2)を得た。加熱方法は、恒温装置内で140℃、3時間、当該乾燥物を放置する方法とした。
(置換率比較試験)
試験操作、手順は次のとおりである。
上記のとおりに調製した試験例についてFTIR測定を行った。FTIR測定は、測定機器「Thermo社製、型番NICOLET iS10」で行った。
測定で得られたC=Oの吸収スペクトル透過率(%C=O)とO-Hの吸収スペクトル透過率(%O-H)の比(%C=O)/(%O-H)を算出して、カルバメート基の置換率(mmol/g)を求めた。置換率比較試験の結果については、置換率は、試験例1が1.29mmol/g、試験例2が0.95mmol/gであった。
(離解試験)
以下のとおり、試験例を調製した。
[試験例3]
(1)容器に、固形分濃度50質量%の針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)のシート9gを入れ、25%尿素水9g、クエン酸0.005mg、水90gを添加して混合液とし、この混合液を混ぜ合わせた。混ぜ合わせ方は、混合液内に混合ミキサー(家庭用ミキサー バイタミックス社製 ブレンダーバイタプレップ3)を入れて、3000rpm、10分間混ぜ合わせる方法とした。
(2)上記(1)の操作後、混合液から液分を除去して、残留物を取り出し乾燥させてセルロース繊維(試験例3)を得た。乾燥の方法は、恒温装置内で105℃、3時間、当該残留物を放置する方法とした。
[試験例4]
(1)容器に、固形分濃度50質量%の針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)のシート9gを入れ、25%尿素水9g、クエン酸0.005mg、水90gを添加して混合液とし、この混合液を10分間静置した。
(2)上記(1)の操作後、混合液から液分を除去して、残留物を取り出し乾燥させてセルロース繊維(試験例4)を得た。乾燥の方法は、恒温装置内で105℃、3時間、当該残留物を放置する方法とした。
上記得られたセルロース繊維(試験例3又は試験例4)0.1gを、水50gが入った容器に投入して、回転数800rpmで撹拌して離解が完了するまでの経過時間を測定した。離解は、分散液中に存在する長径5mm以上の凝集物が1個未満となったことをもって完了と判断した。結果を表2に示す。上記容器は、三宝化成社製、クリヤ広口瓶(透明)を用いた。
試験例3は、尿素がセルロース繊維の内部に浸透して、セルロース繊維相互の水素結合が尿素によって阻害され弱まり、水分子が繊維内部に入り込んだことによって、離解し易くなったものと考えられる。
(沈降率試験)
上記、離解試験で調製したセルロース繊維(試験例3又は試験例4)0.1gを、水50gが入った容器に投入して、回転数1500rpmで10分間撹拌して完全に離解させて離解液にした。この離解液の濃度を均一にした後、静置して、時間経過に伴う離解液の液面からセルロース繊維の界面までの深さを測定して、沈降率を算出した。結果を表3に示す。ここで、沈降率は、次の算式[数1]により求めた。上記容器は、三宝化成社製、クリヤ広口瓶(透明)を用いた。
[数1]
(沈降率(%))={(離解液の水嵩)-(離解液の液面から離解液中のセルロース繊維界面までの深さ)}/(離解液の水嵩)×100
尿素が、繊維内部にまで浸透し、離解した後も繊維内部に残留しているので、試験例3の方が沈降しやすかった。
(曲げ強度試験)
[試験例5]~[試験例9]
(1)容器に針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)のシートを入れ、尿素、クエン酸、水を添加して混ぜ合わせ、混合液を得た。混合量は、表4に記載する量とした。混ぜ合わせ方は、混合ミキサー(家庭用ミキサー バイタミックス社製 ブレンダーバイタプレップ3)を混合液内に入れて、3000rpm、10分間混ぜ合わせる方法とした。
(2)上記(1)の操作後、混合液から液分を除去して、残留物を取り出し乾燥させて乾燥物を得た。乾燥の方法は、恒温装置内で105℃、3時間、残留物を放置する方法とした。
(3)乾燥物を加熱した後、室温まで放冷してセルロース繊維を得た。加熱の方法は、恒温装置内で140℃、3時間、当該乾燥物を放置する方法とした。なお、得られたセルロース繊維は蒸留水で希釈攪拌して、脱水洗浄を2回繰り返した後に、蒸留水を加えて固形分濃度3%となるように調製し、セルロース繊維の水分散体を得た。
(4)セルロース繊維の水分散体を平均繊維幅が16μmになるように解繊して、固形分濃度3%の繊維状セルロースの水分散体を得た。なお、得られた繊維状セルロースの水分散体を脱水した後、105℃で3時間乾燥させたものについてカルバメート化率を測定した。
(5)繊維状セルロースの水分散体とポリプロピレン樹脂の粉末(ノバテックPP MA3)と、無水マレイン酸変性ポリプロピレンを10:85:5の乾燥重量比で配合して、105℃で加熱乾燥して乾燥物を得た。これを180℃、200rpmの条件で二軸混練機にて混練し、混練物を得た。
(6)混練物を180℃で成形して直方体状の繊維状セルロース複合樹脂(試験例5~試験例9)を得た。繊維状セルロース複合樹脂の寸法は、長さ59mm×幅9.6mm×厚み3.8mmとした。
(7)繊維状セルロース複合樹脂について、曲げ弾性率をJIS K7171:2008に準拠して測定した。
測定した曲げ弾性率を次のように評価した。試験例X(Xは6、7、8、9のいずれか)の曲げ弾性率を、試験例5の曲げ弾性率で除して算出された曲げ弾性率比、すなわち試験例Xの曲げ弾性率比が、
1.1以下であるものを「△」、
1.1超~1.2未満であるものを「〇」、
1.2以上であるものを「◎」とした。
カルバメート化率が1~2mmol/gである繊維状セルロース複合樹脂、例えば試験例7、試験例8は、カルバメート化していない繊維状セルロース複合樹脂である試験例5よりも曲げ弾性率が向上されており、好ましい強度を備えたものとなっている。