JP2020059888A - 溶融めっき線およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】Zn、Alを含むめっき層を有し、アルカリ耐食性と加工性に優れた溶融めっき線とその製造方法を提供する。【解決手段】鋼線の表面にZnとAlを含むめっき層と、その上層の、CeとMgとを含む皮膜と、を備え、前記めっき層は、5.0質量%以上15.0質量%以下のAlを含み、残部がZnおよび不純物からなり、平均粒径が0.5μm以上10μm以下であるAl初晶を有し、前記皮膜中に含まれるCe(at%)とMg(at%)の比であるCe/Mgが、1以上15以下であり、前記皮膜の厚さは、50nm以上500nm以下である、溶融めっき線とその製造方法。溶融めっき前処理として、純亜鉛めっき(電解、溶融)をしてもよい。【選択図】図2

Description

本発明は、溶融めっき線およびその製造方法に関するものである。
熱間圧延線材を素材として製造される溶融めっき線は、熱間圧延後の線材表面の酸化膜を除去した後、ダイスやロールによる塑性加工により縮径させて、めっき前処理工程で酸洗やフラックス処理等による表面の活性処理後、溶融金属の浴に浸漬させ、線表面に金属のめっき層を生成させる溶融めっき処理を経て製造される。
溶融めっきの主な目的は鋼材の耐食性の改善であり、亜鉛(Zn)、亜鉛-アルミニウム(Zn−Al)合金などのめっき層を線等の表面に形成させ、亜鉛の犠牲防食作用により鉄の腐食を抑制するとともに、表面に緻密な腐食生成物を形成させて、この腐食生成物が有する保護作用により耐食性を改善するものである。上記溶融金属を用いて形成されるめっき層が厚いほど耐食性は改善される。また、めっき層の主たる成分であるZnがアルミと合金化することによっても耐食性は改善される。しかし、腐食環境によっては、線材表面に溶融めっきを施しても耐食性の改善効果が得られないことがある。
めっき線の耐食性の評価方法としては、使用環境下に長期間晒される暴露試験が最も実体に即した方法であるが、このような暴露試験では、腐食の進行に時間が掛かり、試験期間が長くなるという課題がある。そこで、促進試験として、JIS Z 2371記載の塩水噴霧試験、あるいはJASO(日本自動車技術会規格)の複合サイクル試験を実施することにより耐食性が評価されることが多い。上記の促進試験は、5%NaCl溶液をpH7.0前後に調整した中性環境下で実施される腐食試験である。しかし、めっき線が使用される環境は、必ずしも中性環境下のみではなく、pHが8を超えるアルカリ環境下で使用されるケースもある。pHが8を超えるアルカリ環境下では、Alの孔食により、Znめっきに比べAlを含む合金めっきの腐食が促進されることがある。
また、水溶液を噴霧する方法ではなく、水溶液中に浸漬する方法でめっき線の耐食性を評価する場合は、浸漬時間が短い条件ではめっき表面に腐食生成物の保護被膜が形成されにくいため、Znめっきと比較して、Zn−Al合金めっきの耐食性の改善効果は十分に得られないことがあった。
めっき線の耐食性を改善するために、従来からめっき表面の化成処理が検討され、めっき表面に皮膜を形成させて耐食性を改善する技術が提案されている。
たとえば、以下の特許文献1には、Zn系めっき鋼板の表面に、Mg換算で5〜3000mg/mのMgの酸化物、および/または、水酸化物を含む皮膜を形成させることが提案されている。また、以下の特許文献2には、Zn―Al合金めっきの保護層として、CeOのナノ粒子を含み、厚さが20〜2000nmの皮膜を形成させる技術が提案されている。また、以下の特許文献3にはZnを含むめっき層の上に、マグネシウムに換算して10〜5000mg/mのマグネシウム酸化物および水酸化物が付着した皮膜を形成することが提案されている。
特開2004−18960号公報 特表2005−513258号公報 特開平4−246193号公報
しかし、上記特許文献1〜3に開示された皮膜を用いた場合であっても、pHが8を超えるアルカリ環境下での耐食性は十分では無かった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、溶融Zn系めっき線がpH8を超えるアルカリ環境下でも良好な耐食性が得られ、かつめっき線の加工性に優れた皮膜を有する溶融めっき線およびその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために、Zn、Alを含むめっき線をアルカリ水溶液に浸漬した腐食環境下でのめっきの腐食挙動を詳細に調査したところ、めっき層に存在するAl初晶が優先腐食して孔食状に浸食されること、及び、めっき層のAl初晶の組織が粗大化したものほど腐食が進行するという知見を得た。
そこで、本発明者は、アルカリ環境下での溶融めっき線の腐食を抑制するために、めっき表面における金属皮膜の形成効果について検討を行ったところ、MgとCeを含む複合皮膜がめっき表面に形成されることで、めっき層の腐食が抑制されることを見出した。
更に、本発明者は、めっき層の組織、複合皮膜の組成、複合皮膜厚さが適正に制御されることにより、めっき線の加工性が確保できることを見いだし、本発明を完成させた。かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)鋼線の表面にZnとAlを含むめっき層と、前記めっき層の上層に、CeとMgとを含む皮膜と、を備え、前記めっき層は、5.0質量%以上15.0質量%以下のAlを含み、残部がZnおよび不純物からなり、平均粒径が0.5μm以上10μm以下であるAl初晶を有し、前記皮膜中のCeの原子濃度%とMgの原子濃度%の比であるCe/Mgが、1以上15以下であり、前記皮膜の厚さは、50nm以上500nm以下である、溶融めっき線。
(2)(1)に記載の溶融めっき線の製造方法であって、鋼線の表面に、電気Znめっきまたは溶融ZnめっきによりZnめっき層を形成させる1次めっきを施し、1次めっき後の前記鋼線を、5.0質量%以上15.0質量%以下のAlを含み、残部がZnおよび不純物からなる溶融金属浴である2次めっき浴に浸漬させ、前記2次めっき浴からの引き上げ後10〜30℃/秒の冷却速度で0.8秒以上5秒以下の時間冷却後、50〜300℃/秒の冷却速度で急冷し、その後連続してCeイオンとMgイオンを含む水溶液に浸漬させる、溶融めっき線の製造方法。
本発明の溶融めっき線は、pHが8を超えるアルカリ環境下でも良好な耐食性が得られると共に、皮膜処理後に巻き付け加工を行っても、めっき層に割れや剥離が発生せず、良好な加工性を有する溶融めっき線であり、産業上の貢献が極めて顕著である。
アルカリ環境下における腐食時間と、皮膜成分を変更して製造された溶融めっき線の腐食減量の関係を示すグラフ図である。 アルカリ環境下における腐食性に対する皮膜中Ce/Mgの影響を示すグラフ図である。 本発明の実施形態に係る溶融めっき線の製造工程の概要を説明するための説明図である。 オージェ電子分光法による皮膜の深さ方向の元素プロファイルの一例を示すグラフ図である。
本発明の実施形態に係る溶融めっき線は、以下で詳述するように、ZnとAlとを含むめっき層を有する。本発明の実施形態に係るZnとAlを含むめっき層の組織は、凝固の初期に、Al濃度が高い相とZn相が共晶凝固してAl初晶として生成し、その後、Zn相がAl初晶を取り巻くように凝固することで形成される。
アルカリ環境下では、Al初晶が孔食状に腐食する。また、このAl初晶が粗大析出することで、孔食が促進され、めっき層の腐食が進行する。ZnとAlを含む溶融金属が高温域から急冷されると、Al初晶が微細かつ均一に分散した凝固組織が得られる。Al初晶が微細分散析出しためっき組織では、アルカリ環境下で優先的に腐食するAl初晶がめっき層の全体に分散しているため、めっき層全体としては孔食が抑制され、耐食性が改善される。
本発明では、さらに、ZnとAlを含むめっき層の上に、CeとMgを含む複合皮膜が形成される。Ceは、アルカリ環境下でも安定で、バリヤ効果を有する元素であるため、Al初晶の腐食が抑制される。さらにCeは、Mgと複合化して皮膜を形成させることで、めっき層の腐食を抑制する効果を有する。
図1に、皮膜成分を変更して製造されたZn−10質量%Alめっき線のアルカリ環境下での腐食減量の経時変化を示す。腐食試験は、5%NaCl水溶液にNaOHを添加して、pHを12.5に調整した溶液に上記めっき線を浸漬して行った。めっき層の腐食減量は時間経過毎にめっき線を取り出し、水洗後、常温で200g/lのクロム酸に10分浸漬させ、腐食生成物を除去し、質量変化から単位面積当たりの質量減少を求めて、耐食性を評価した。その結果、Ce−Mg複合皮膜の形成により、めっき層の腐食が抑制され、該皮膜のCeとMgの濃度比率が適正に制御されることで、より腐食が抑制されることを見出した。
本発明においては、めっき組織、皮膜性状が適正に制御されることで、耐食性のみではなく、めっき線の加工性も確保でき、アルカリ環境下での耐食性とともに、加工性も良好なめっき線およびその製造を可能とするものである。以下、本発明の実施形態について説明する。
<被めっき線>
本発明の溶融めっき線は、被めっき線の表面に所定のめっき層を有している。被めっき線は、特に限定されず、例えば、JIS G 3505の軟鋼線材、JIS G 3506の硬鋼線材、及びJIS G 3502のピアノ線材等で規定された成分からなる熱間圧延材等を素材として、適宜冷間加工等が施された線材を使用することができる。
<めっき層>
本実施形態に係るめっき層は、前処理として被めっき線に電気Znめっき処理もしくは溶融Znめっき処理が施される1次めっきと、1次めっき後にZnおよびAlを含む溶融金属により溶融めっきが施される2次めっきとを経ることで形成される。
1次めっきが溶融Znめっきであると、Znめっき層と共に、溶融Znと被めっき線のFeが反応してFeとZnからなる合金層も界面に形成される。この合金層は二次めっきでも溶融せず、Zn、Fe、Alを含む合金層となり、合金層の外方に2次めっきの溶融金属が凝固しためっき層となる。
一方、1次めっきが電気Znめっきであると、1次めっきで形成されたZn層は2次めっき浴で溶融消失するため、地鉄とめっき層との界面にはFeを含む合金層は形成されず、めっき層は、地鉄の表面に2次めっきの溶融金属が凝固した組織からなるめっき層となる。
本発明のめっきの特徴は、2次めっきの溶融金属が凝固したZnとAlを含む表面のめっき層の組成及び組織にある。本発明のめっき層の組成は、例えば、ヘキサメチレンテトラミン2.5gを塩酸500gに溶解し、その溶液を純水で1lに希釈した試験液にめっき線を浸漬し、めっき層を溶解除去した溶解液を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置でZnとAlを定量分析し、求めることが出来る。
めっき組織は、めっき線の断面を研磨し、めっき層を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで確認できる。
<めっき層組成>
以下で説明するめっき層の組成において、「%」との表記は、特に断らない限りは質量%を意味する。なお、めっき層の組成割合は、Zn及びAlの合計量を100%として算出する。
本実施形態に係るめっき層は、5.0質量%以上15.0質量%以下のAlを含み、残部がZnおよび不純物からなる。
(Al:5.0%以上15.0%以下)
めっき層中のAlは、めっき線がアルカリ水溶液に浸漬された場合、優先的に腐食する一方で、めっき表面に生成する腐食生成物を安定化させ、腐食を抑制する効果がある。しかし、Alの含有量が5.0%未満では、腐食生成物を安定化する効果は小さくなり、耐食性の改善効果が得難くなる。一方、Alが15.0%を超えて含まれる場合、初晶比率が増加し、アルカリ耐食性が低下すると共に、めっき浴の融点が高くなり、めっき表面の酸化が進行し易くなる。したがって、Alの含有量は、5.0%以上15.0%以下とする。Alの含有量は、好ましくは7.0%以上12.0%以下である。
めっき層の組成は、先立って説明したように、ヘキサメチレンテトラミン2.5gを塩酸500gに溶解し、その溶液を純水で1lに希釈した試験液にめっき線を浸漬し、めっき層を溶解した溶解液をICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置でZnとAlを定量分析し、ZnとAlの合計量を100%としてAl濃度を求めることが出来る。
ここまで、めっき層の組成について詳細に説明した。以下、めっき層の組織について詳細に説明する。
<めっき層組織>
(Al初晶の平均粒径:0.5μm以上10μm以下)
Al初晶は、めっき浴の平均組成より濃度が高いAlを含む組織であり、Zn、Alを含む溶融金属の凝固初期に生成する相である。
このAl初晶は、冷却開始温度によりその形態が大きく異なり、Al初晶析出開始後、高温域から急冷すると、微細かつめっき層全体に均一に分散する。一方、Al初晶析出開始後、低温度域までゆっくり冷却すると、Al初晶は粗大な結晶に成長して凝固する。
このAl初晶は、アルカリ環境下では優先腐食するため、Al初晶が粗大化した組織では短時間でめっき層の腐食が進行する。Al初晶の粒径(平均粒径)が10μmより大きい場合、腐食が急激に進行することがあるため、Al初晶を10μm以下に調整することで、アルカリ環境下での腐食の進行が抑制される。一方、Al初晶の粒径が0.5μm未満の場合は、Al初晶と周囲のZn相の間で電気化学セルが形成され易くなり、耐食性が低下するため、Al初晶の結晶粒径は0.5μm以上であることが重要である。また、Al初晶の粒径が0.5μm未満の場合は、めっき線を巻き付け加工したときに、めっき層の亀裂が微細初晶組織を直線的に進展し、大きな亀裂が発生することがある。Al初晶の粒径は、好ましくは1〜5μmである。なお、Al初晶の粒径とは、画像解析により得られる円相当直径である。
めっき層のAl初晶の粒径は、次のようにして求めることが出来る。めっき層断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、エネルギー分散型X線分析(EDS)を用いて、2次めっきの凝固組織をAlとZnについてマッピング分析を行う。マッピング分析において、Zn相の中にAlが濃化している領域(即ち、めっき組成のAl濃度よりも高いAl濃度である領域)をAl初晶領域と判断する。マッピングデータを画像処理により2値化し、周囲のZn相により区切られたAl濃化領域をAl初晶粒子として抽出し、画像解析によりそれぞれの単一粒子と同じ面積の円に換算した円の直径を、Al初晶の粒子径として求めることが出来る。めっき層中のAl初晶の平均粒子径は抽出した初晶粒子径を平均して求める。
めっき付着量は、特に限定されないが、Znの犠牲防食による耐食性が確保されるためには、付着量は300g/m以上のめっき付着量であることが好ましい。なお、めっき付着量の上限は特に制限されないが、めっき層の加工性を考慮すると、450g/m以下であることが望ましい。
めっき付着量は、めっき層の溶解前後の質量変化から求められ、JIS H 0401(1999)「溶融亜鉛めっき試験方法」に準じて測定される。付着量の測定は間接法により、めっき線を300mm長さに切断し、試験片とし、ヘキサメチレンテトラミン2.5gを塩酸500gに溶解し、その溶液を純水で1lに希釈した試験液に試験片を浸漬し、めっき層を除去する。めっき層を除去する前の試験片質量W1(g)、めっき層を除去した後の試験片質量W2(g)、めっき層を除去した後の試験片の線径d(mm)を求め、以下の式から付着量(g/m)を求める。
付着量=(W1−W2)/W2×d×1960 式(1)
ここで、上式の導出方法について説明する。めっき付着量は、付着量=(W−W)×10/Sで求められる(式(2)とする)。Sは、線材の表面積(mm)であり、S=π×d×lで算出される(式(3)とする)。lは、線材の長さである。一方、めっき除去後の試験片質量W2は、W2=π×(d/4)×l×ρでとなる(式(4)とする)。ρはFeの密度(g/cm)である。式(3)及び式(4)により、SはW2を用いて表すと、S=4×W2/(d×ρ)となる(式(5)とする)。かかる式(5)を式(2)に代入し、ρを7.84g/cmとして計算すると式(1)が得られる。
<CeとMgを含む皮膜>
以下、めっき層の上に形成されるCeとMgを含む複合皮膜について説明する。以下において、CeとMgを含む複合皮膜を、単に「皮膜」と記載することもある。
(皮膜中のCeとMgの原子濃度%の比Ce/Mg:1以上15以下)
めっき層の表面にCeとMgを含む皮膜が形成されることで、アルカリ環境下での耐食性が改善される。Ceは、アルカリ環境下でも安定であり、バリヤ効果によりめっき層中のAl初晶の孔食を抑制する効果がある。Mgは、Al初晶に優先して溶解するため、特に初期の腐食を抑制する効果がある。
図2に、アルカリ環境での腐食と皮膜中Ce/Mgの関係を示す。腐食試験は、5%NaCl水溶液にNaOHを添加して、pHを12.5に調整したアルカリ水溶液にめっき線を浸漬して行った。アルカリ水溶液に150h浸漬後、めっき線を取り出し、水洗後、常温で200g/lのクロム酸に10分浸漬させ、腐食生成物を除去し、質量変化から単位面積当たりの質量減少を求め、腐食減量とした。皮膜中のCeとMgの原子濃度%を測定し、その濃度比のCe/Mg(以降、単に「濃度比Ce/Mg」と略記する。)と皮膜が形成されていない線の腐食減量を100とした相対腐食減量をアルカリ腐食指数として示した。この結果から明らかなように、Ce/Mgが1以上の場合に、アルカリ腐食指数は著しく低下しており、耐食性が向上した。したがって、皮膜による腐食抑制効果を発揮させるためには、濃度比Ce/Mgは1以上であることが重要である。
一方で、濃度比Ce/Mgが15より大きくなると、めっき層のAl初晶の腐食抑制効果が得られ難くなり、腐食量が増加する傾向がある。したがって、皮膜の濃度比Ce/Mgは15以下とする。より好ましくは、皮膜の濃度比Ce/Mgは、2以上10以下とする。
皮膜組成は、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)の表面分析法を用いて、皮膜の最表面から内部方向にアルゴンでスパッタリングしながら皮膜層を除去しつつ、皮膜厚さ方向のCe、Mg、Znの濃度分布を分析するデプスプロファイルから求めることが出来る。測定領域はを80×80μmとし、SiO換算のスパッタレートは10nm/minで、10nm毎にZn、Ce、Mgの原子濃度%を測定した。分析結果の一例を図4に示す。Znの濃度は表層から内側になるにつれて増加し、皮膜組成であるCe、Mgは減少している。皮膜の領域は、10nm当たりのZn濃度変化が1原子%以上増加する領域と定義する。皮膜が除去された一定の深さ以降は、Zn−Alのめっき層となるため、Zn濃度変化は10nm当たり1原子%以下となる。皮膜領域のCe、Mgの分析値(原子濃度%もしくはat%と表示)それぞれの平均値から濃度比Ce/Mgを求めることができる。
(皮膜厚さ:50nm以上500nm以下)
CeとMgを含む皮膜は酸化物及び水酸化物からなる皮膜であり、この皮膜が過剰に厚くなると、皮膜に割れが発生して耐食性改善効果が得難くなると共に、皮膜処理後の加工で、割れがめっき層にまで進展して、めっき層の剥離が生じることがある。このため、皮膜厚さは500nmを上限とする。一方、皮膜厚さが50nm未満では耐食性改善効果が得られないことがあるため、皮膜厚さの下限は50nmとする。皮膜厚さは、好ましくは、100nm以上400nm以下である。
皮膜厚さは、前述のように、AESによるデプスプロファイルから求めることができる。
ここまで、皮膜について詳細に説明した。続いて、本実施形態に係る溶融めっき線の製造方法について説明する。
<製造方法>
被めっき線1は、熱間圧延線材の表面に生成したスケール(酸化鉄)を酸洗やメカニカルデスケーリングにより除去し、リン酸亜鉛被膜処理あるいは石灰被膜処理等を実施した後、ダイスによる伸線やロールによる冷間加工で目標の線経に調整し、素線として得られる。この素線(被めっき線1)に対して、必要に応じて熱処理装置(図示せず)にて熱処理を実施した後にZn−Al溶融めっきを行う。
溶融めっき線の製造工程の一例を説明するための概略構成図を図に示す。溶融めっき線は、被めっき線1に対して1次めっき浴を備える前処理装置2にて前処理を施し、2次めっき浴3で2次めっき溶融金属を付着させ、徐冷装置4で徐冷し、急冷装置5で急冷したのちに、皮膜処理槽7でめっき層表面に皮膜を形成させることで製造される。一次めっきは溶融Znめっきの他に、電気亜鉛めっきを施しても良い。
1次めっき処理と2次めっきである溶融めっき処理は、被めっき線1を連続して通材させて、それぞれのめっき浴に浸漬させても良いし、1次めっき処理後の被めっき線1を一旦巻き取った後に再度はらい出して、2次めっき浴に浸漬させても良い。
めっき層の組織は、2次めっき浴3から引き上げられた後の被めっき線1の冷却条件を制御することで調整可能である。Alを5〜15質量%含む溶融Znめっきは2次めっき浴3からの引き上げ後、めっき層の表面温度が高温状態で急冷するほど微細組織が形成される。本発明のAl初晶の平均粒径が10μm以下の組織を得るために、被めっき線1がZn−Alの溶融金属である2次めっき浴3から引き出された後、図3に示す徐冷装置4を通過させ5秒以内に図3に示す急冷装置5を用いて急冷する。2次めっき浴3から引き出された後の被めっき線1の急冷方法としては、水冷とすることが好ましい。しかし、被めっき線1に付着した溶融めっき(2次めっき)表面に凝固層が形成される前に2次めっき後の被めっき線1が水冷されると、めっき表面の肌が乱れ、製品品位が低下するため、めっき層表面が凝固し始めてから水冷することが重要である。このため2次めっき浴3から引き上げ後、図3に示す徐冷装置4を通過させ、0.8秒以上5秒以下冷却させた後に急冷装置5を用いて急冷する。このときの徐冷装置4での冷却速度は、10℃/秒以上、30℃/秒以下である。徐冷時間が0.8秒未満や冷却速度が10℃/秒未満では表面に十分な凝固層が形成されず、徐冷時間が5秒超や冷却速度が30℃/秒超では表面凝固層形成効果が飽和する。
図3に示す急冷装置5での冷却速度は、冷却方法により制御することができ、例えば、水冷による方法を用いた場合には、冷却水量、冷却時間(水冷長さ)等を調整することで冷却速度を制御可能である。また、急冷装置5に備えられる冷却ノズル(図示せず)に2流体ノズル、気水ノズル、水膜ノズル等のノズルを用いる方法でも冷却速度を制御できる場合がある。本発明の冷却方法は上記方法に制限されず、各種の冷却方法が適用可能である。急冷装置5での冷却速度は、50℃/秒以上、300℃/秒以下の冷却速度である。冷却速度が50℃/秒未満ではAl初晶の微細化が進まず、300℃/秒超では冷却設備のコストが多大となる。
(皮膜処理)
本発明のCeとMgを含む皮膜は、2次めっき後、冷却された溶融めっき線6がCeイオンとMgイオンを含む溶液が収納された皮膜処理槽7に浸漬されることで形成される。めっき層表面の酸化が進行してしまうと、皮膜処理性が低下するために、2次めっき後の被めっき線1が、冷却後に連続してCeとMgを含む処理液に浸漬されることで、CeとMgを含む皮膜が効率よく形成される。
皮膜処理液として用いられるCeイオン及びMgイオンを含む溶液は、Ce及びMgのそれぞれの塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、その他の塩等の水溶性の薬剤を水に溶解させることで製造可能である。かかる皮膜処理液は、皮膜処理液の安定性、めっき表面のCeおよびMgの成膜速度の観点から、好ましくは、Ceイオン濃度が0.03mol/l以上0.1mol/l以下の範囲であり、Mgイオンの濃度が0.1mol/l以上0.2mol/l以下の範囲であり、CeとMgの合計濃度が0.1mol/l以上0.3mol/l以下の範囲において、水溶液中のCeイオン及びMgイオンのイオン濃度の比率を調整することで、皮膜のCe/Mgは調整可能である。
このとき、皮膜処理液の温度が高いほど皮膜が短時間で形成されることから、皮膜処理液温度を50℃以上とするのが好ましく、より好ましくは、皮膜処理液温度を80℃以上とすることが好ましい。また、皮膜処理液温度は、沸騰しない範囲で高温とすることが好ましいため、95℃を上限とするのが好ましい。
以上説明したように、本実施形態のめっき層の組成及び組織が制御され、めっき層表面にCeとMgを含む適正組成及び付着量の皮膜が形成されることで、pH8以上のアルカリ環境下で、良好な耐食性が得られ、かつ曲げ加工や伸線加工を行った場合でもめっき層の亀裂発生や剥離が発生せず、耐食性と加工性が良好な溶融めっき線を得ることができる。
また、めっきされる被めっき線1の鋼組成、強度等の特性は特に制限されず、質量%で、C:0.01〜1.2%、Si:0.01〜1.5%、Mn:0.01〜2.0%を含む鋼材、これらの鋼材にCr:0.5%以下を含む鋼材、さらにTi、B、Al、Cu、Mo、Sn等を含む鋼材などが適用可能である。
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、必ずしも本実施例に記載の方法に限定されるものではない。
線径が5.5mmの熱間圧延線材の鋼材の成分を表1に示す。なお、表1に記載した成分の残部はFeおよび不純物である。この熱間圧延線材を素材として、被めっき線とするために乾式伸線を実施した。上記熱間圧延線材を酸洗でスケールを除去した後に石灰被膜処理を行い、ステアリン酸ナトリウムを主体とした乾式潤滑剤を用いて、1パスの減面率が16%〜24%となるような条件で、3.5mmまで伸線加工した。
Figure 2020059888
伸線加工後、前処理装置2を使用して、表2に示した伸線加工された各供試材に対して1次めっきを施した。具体的には、供試材No.1〜7、No.14、15、17、18、及びNo.20〜22対して溶融Znめっきを施し、供試材No.8〜13、No.19及び23〜25に対して電気Znめっきを施した。
1次めっきとして、被めっき線1の表面に電気Znめっきを施した場合の溶融めっき線6の製造工程は次の通りである。まず、前処理装置2にて、伸線材(被めっき線1)をアルカリ溶液で脱脂して伸線材(被めっき線1)表面に付着している伸線潤滑剤を除去後、必要により熱処理を実施した。次いで、被めっき線1を酸洗した後、めっき厚さが2μmとなるように電気Znめっきを行った。この1次めっきを施した被めっき線1を、一旦巻取り、もしくは連続して、Zn、Alを含む450℃に加熱した溶融金属(2次めっき浴3)に浸漬させた。そして、2次めっき浴3から垂直に引き上げ直後から徐冷装置4を通過させ、表2に示した徐冷速度、徐冷時間経過後に、急冷装置5にてめっきが付着した被めっき線1を表2に示した急冷速度で急冷し、溶融めっき線6を製造した。このプロセスで製造した溶融めっき線6は、地鉄とめっき層界面にFe−Al−Znを含む合金層を有しないものであった。
1次めっきとして、線(被めっき線1)表面に溶融Znめっきを施した場合の溶融めっき線6の製造工程は次の通りである。伸線材(被めっき線1)をアルカリ溶液で脱脂して伸線材(被めっき線1)表面に付着している伸線潤滑剤を除去後、必要により熱処理を実施した。次いで、被めっき線1を酸洗した後、450℃に加熱した溶融Znからなる1次めっき浴に浸漬させ、被めっき線1の表面に溶融Znめっき層を形成させた。なお、このときの1次めっき浴は、Alを含有するものではない。続いて、被めっき線1に付着した溶融Znをワイピングしてめっき層の厚さを調整した。この時、1次溶融めっきで、地鉄界面にZnとFeを含む合金層が形成され、めっき浴に浸漬している時間により合金層の厚さが変化する。続いて、上記のようにして1次めっきを施した被めっき線1を、一旦巻取り、もしくは連続して、Zn、Alおよび不純物を含む450℃に加熱した溶融金属(2次めっき浴3)に浸漬させた。そして、2次めっき浴3から垂直に引き上げ直後から徐冷装置4を通過させ、表2に示した徐冷速度、徐冷時間経過後に、急冷装置5にてめっきが付着した被めっき線1を表2に示した急冷速度で急冷し、溶融めっき線6を製造した。このプロセスで製造した溶融めっき線6は、地鉄とめっき層界面に2〜10μmの厚さのFe−Al−Znを含む合金層が形成されたものであった。
このとき、めっき層のAl初晶の大きさは、2次めっき浴3であるZnとAlとを含む溶融金属のAl濃度並びに、2次めっき浴3から引き上げた後の徐冷速度、徐冷時間及び急冷速度を変えることで調整した。
めっき付着量は通線速度で調整し、1次めっきと2次めっきの合計付着量が300〜350g/mとなるように溶融めっき線6を製造した。
溶融めっき線6の皮膜処理は、めっき冷却後、連続して塩化マグネシウム0.1〜0.2mol/l、塩化セリウム0.03〜0.1mol/lの範囲で、CeイオンとMgイオンの合計の濃度が0.1〜0.3mol/lの範囲となるように、Ce、Mg濃度比率を変え、80℃に加熱した溶液中を通してめっき線の表面に皮膜を形成させた。皮膜厚さは、皮膜処理液のCe、Mg濃度と皮膜処理槽7への通材時間を変え、皮膜処理槽7から搬出したところで皮膜をブロワで乾燥させて調整した。
めっき層のAl濃度は、めっき線を300mm切断し、ヘキサメチレンテトラミン2.5gを塩酸500gに溶解し、その溶液を純水で1lに希釈した試験液に浸漬し、めっき層を溶解させ、溶解液をICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析装置でZnとAlを定量分析し、ZnとAlの合計量を100%としてAl濃度を求めた。
Al初晶の粒径は、めっき層断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、エネルギー分散型X線分析(EDS)を用いて、2次めっきの凝固組織をAlとZn元素のマッピング分析を行った。マッピング分析において、Alが濃化している領域(即ち、めっき組成のAl濃度よりも高いAl濃度である領域)をAl初晶領域として、Al初晶の粒径は、周囲のZn相により区切られたAl濃化領域を粒子として抽出し、画像解析によりそれぞれの粒子と同じ面積の円に換算して直径として初晶の粒子径を求めた。
皮膜厚さ及び皮膜の濃度比Ce/Mgは、オージェ電子分光分析(AES)により、皮膜表層から深さ方向の分析を行い、求めた。具体的には、測定領域80μm×80μmとし、アルゴンによりスパッタリングを行い、SiO換算したスパッタレート10nm/minで、10nm毎にCe、Mg、Znの原子濃度%を測定し、これを繰り返し、深さ方向の濃度分布を求め、デプスプロファイルを測定した。デプスプロファイル結果から、10nmの深さ当たりのZn濃度変化が1原子%以上の領域を皮膜厚さとし、皮膜部分のCe、Mgの原子濃度%のそれぞれの平均値からCe/Mg比を決定した。
以上のようにして、以下の表2に示すNo.1〜No.16の本発明好適例の供試材を作製した。また、比較例としてNo17〜No.25の供試材を作製し、これらの供試材に対して、耐食性、及び巻き付け加工性を評価した。
溶融めっき線6の耐食性は、5%NaCl水溶液をNaOHでpHを12.5に調整したアルカリ水溶液を使用し、このアルカリ水溶液に溶融めっき線6を150時間浸漬させたときの腐食減量で評価した。詳細には、Zn−10%Alめっきを施し、皮膜が形成されていない供試材No.17を基準材とし、その腐食減量を100として耐食性指数を求め、腐食減量が基準材に対して50%以下の場合は、耐食性改善効果があると判断した。
溶融めっき線6の加工性は、溶融めっき線6の直径の4倍の外径を有する線の外周に、溶融めっき線を5回以上巻き付け、巻き付けた溶融めっき線の亀裂発生状況を外観観察により評価した。かかる溶融めっき線6の表面に亀裂が確認されない場合は良好と判断して○とし、表面に亀裂が確認された場合は不良と判断して×とした。
表2に、本発明と比較例のめっき線の特性評価結果を示す。
Figure 2020059888
比較例のNo.17(基準材)は、めっき組成、Al初晶のめっき性状は本発明の範囲内であるが、皮膜が形成されていない、Zn−10%Alめっき線である。No.17は、アルカリ耐食性評価の基準となるものである。
本発明の実施例であるNo.1〜No.16は、鋼材の成分に関わらず、耐食性指数は50%以下であり、いずれも基準材(No.17)に比べ、アルカリ耐食性に優れており、溶融めっき線の巻き付け加工割れが発生しないものであった。
比較例のNo.18は、徐冷時間が5秒以上で、急冷を行わなかったため、めっき初晶が粗大化し、かつ皮膜を形成していないため、アルカリ耐食性が低下し、加工性も低下した例である。
No.19は、皮膜を有するためアルカリ耐食性は改善されるものの徐冷時間が0.5秒と短いため、めっき層のAl初晶が0.3μmと微細であり、アルカリ耐食性の改善効果が小さく、加工性も低下した例である。
No.20は、皮膜のCe/Mgが0.8と低く、本発明例と比較してアルカリ耐食性が低下した例である。No.21は、皮膜のCe/Mgが17と高く、アルカリ耐食性の向上効果が小さかった例である。
No.22は、皮膜が40nmと薄く、耐食性改善効果が得られなかった例である。
No.23は、皮膜が540nmと厚く、皮膜に割れが発生し、さらにめっき層にまで割れが進展し、巻き付け加工性低下した例である。
No.24は、めっき層中のAlが4.0%と低く、耐食性の改善効果が得られなかった例である。めっき層中のAl含有量が低いため、腐食生成物を安定化する効果が小さくなったためであると考えられる。
No.25は、徐冷時間が6秒と長く、かつAl含有量が17%と多いためAl初晶が粗大化し、本発明例と比較してアルカリ耐食性が低下し、さらに巻き付け加工性が低下した例である。
本発明の溶融めっき線は、めっき層の加工性と耐食性が良好であり、各種用途への適用が可能となるため、産業上の利用可能性が極めて高い。
1 被めっき線
2 前処理装置
3 2次めっき浴
4 徐冷装置
5 急冷装置
6 溶融めっき線
7 皮膜処理槽

Claims (2)

  1. 鋼線の表面にZnとAlを含むめっき層と、
    前記めっき層の上層に、CeとMgとを含む皮膜と、
    を備え、
    前記めっき層は、5.0質量%以上15.0質量%以下のAlを含み、残部がZnおよび不純物からなり、平均粒径が0.5μm以上10μm以下であるAl初晶を有し、
    前記皮膜中のCeの原子濃度%とMgの原子濃度%の比であるCe/Mgが、1以上15以下であり、前記皮膜の厚さは、50nm以上500nm以下である、溶融めっき線。
  2. 請求項1に記載の溶融めっき線の製造方法であって、
    鋼線の表面に、電気Znめっきまたは溶融ZnめっきによりZnめっき層を形成させる1次めっきを施し、1次めっき後の前記鋼線を、5.0質量%以上15.0質量%以下のAlを含み、残部がZnおよび不純物からなる溶融金属浴である2次めっき浴に浸漬させ、前記2次めっき浴からの引き上げ後10〜30℃/秒の冷却速度で0.8秒以上5秒以下の時間冷却後、50〜300℃/秒の冷却速度で急冷し、その後連続してCeイオンとMgイオンを含む水溶液に浸漬させる、溶融めっき線の製造方法。
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