JP2020037734A - 母材と溶接熱影響部の靭性に優れかつ音響異方性の小さい高強度低降伏比厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
C :0.11〜0.18質量%、
Si:0.10〜0.50質量%、
Mn:1.00〜1.50質量%、
P :0質量%超、0.020質量%以下、
S :0質量%超、0.005質量%以下、
Al:0.005〜0.060質量%、
Nb:0〜0.004質量%、
Ti:0.005〜0.020質量%、
B :0〜0.0003質量%、
Ca:0.0003〜0.0060質量%、および
N :0.0010〜0.0100質量%
を満たし、残部が鉄および不可避的不純物である厚鋼鈑であって、
下記式(1)で表される炭素当量Ceqが0.32〜0.38質量%、
下記式(2)で表される溶接熱影響部靭性指標fHAZが0.46質量%以下、
下記式(3)で表される溶接割れ感受性組成PCMが0.15〜0.24質量%であり、
鋼組織が、
フェライトからなる軟質相と、ベイナイト、パーライト、およびマルテンサイトのうちの1以上を合計で80面積%以上含む硬質相とからなり、
全組織に占めるフェライトの分率が50〜80面積%、
フェライトのアスペクト比が2.0以下、
全組織に占める島状マルテンサイト(MA)の分率が1面積%以下、
平均結晶粒径が12.0〜22.0μm、および
結晶粒径の標準偏差σが13.0μm以下
を満たす、母材と溶接熱影響部の靭性に優れかつ音響異方性の小さい高強度低降伏比厚鋼板である。
Ceq(質量%)=[C]+[Mn]/6+[Si]/24+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 …(1)
式(1)中の[C]、[Mn]、[Si]、[Ni]、[Cr]、[Mo]および[V]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Si、Ni、Cr、MoおよびVの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
fHAZ(質量%)=[C]+[Mn]/8+6×([P]+[S])+12×[N]−4×[Ti] …(2)
式(2)中の[C]、[Mn]、[P]、[S]、[N]および[Ti]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、P、S、NおよびTiの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。またTiの含有量が0.005質量%以下の場合、[Ti]=0質量%とする。
PCM(質量%)=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5[B] …(3)
式(3)中の[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]および[B]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、VおよびBの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
Cu:0質量%超、0.50質量%以下、
Ni:0質量%超、0.50質量%以下、
Cr:0質量%超、0.50質量%以下、
Mo:0質量%超、0.50質量%以下、
V:0質量%超、0.1質量%以下、および、
REM:0質量%超、0.1質量%以下よりなる群から選択される1種以上の元素を含む態様1に記載の高強度低降伏比厚鋼板である。
態様1または2に記載の成分組成を有する鋼片を、1000〜1200℃に加熱してから、熱間圧延を、平均温度が900〜820℃の温度域での累積圧下率:10〜50%、平均温度が820℃未満の未再結晶γ域での累積圧下率:5%以下の条件で行い、熱間圧延後、730℃以上の冷却開始温度から、平均冷却速度5〜30℃/sで、350〜650℃の冷却停止温度まで冷却する、母材と溶接熱影響部の靭性に優れかつ音響異方性の小さい高強度低降伏比厚鋼板の製造方法である。
態様1または2に記載の成分組成を有する鋼片を、1000〜1200℃に加熱してから、熱間圧延を、平均温度が900〜820℃の温度域での累積圧下率:10〜70%、平均温度が820℃未満の未再結晶γ域での累積圧下率:5%以下の条件で行い、熱間圧延後、仕上圧延温度〜(仕上圧延温度−150℃)の冷却開始温度から、室温までを、平均冷却速度5.0℃/s未満で冷却し、
次いで熱間圧延材を、720〜850℃に再加熱してから焼入れを行い、その後、400〜700℃で焼戻しを行う、母材と溶接熱影響部の靭性に優れかつ音響異方性の小さい高強度低降伏比厚鋼板の製造方法である。
本発明の鋼板の上記特性(1)〜(4)について以下に詳述する。これらの特性を兼備することで、例えば建築構造物用として、地震発生時における安全性と信頼性のより高い鋼板を提供できる。
鋼板を冷間加工し、例えば角形鋼管とする際、角形鋼管の角部は加工硬化に伴い靭性が劣化する。一般的に角形鋼管の角部の曲率半径は、tを鋼管の板厚(mm)としたときに3.5t±0.5tであり、曲率半径が小さい場合でも0℃で高靭性を安定的に確保するには、鋼板としてvE−60℃(平均)≧70J、vE−60℃(最小値)≧49J、およびvTrs≦−60℃を満たすことが要求される。これらの測定方法は後述する実施例に記載の通りである。
(1-1)鋼組織において、平均結晶粒径の上限を設定すると共に、結晶粒径の標準偏差σを一定以下に抑えることが有効である。またそのためには、製造工程における熱間圧延で、平均温度が900〜820℃の温度域での累積圧下率を一定以上とすることが有効である。
(1-2)更に鋼組織において、島状マルテンサイト(MA、Martensite−Austenite constituent)の分率を一定以下に抑えることが有効であり、そのためには製造工程で、加速冷却の冷却停止温度を一定以上とすることが有効である。
建築分野等では構造物について溶接部の健全性を保証することが必要である。溶接部の健全性は超音波探傷を用いて確認する。超音波探傷により溶接部の欠陥位置を正確に特定するため、JIS Z 3060に規定されているように、圧延方向Lと圧延直角方向Cの横波音速比が1.020以下に抑えられていることが要求される。
地震発生時における安全性を高め得る490MPa級低降伏比厚鋼板として、JIS規格であるSN490Bと同等の強度特性が要求される。具体的には、降伏強度YPまたは0.2%YSが325〜445MPa、引張強度TSが490〜610MPaを満たした上で、低降伏比(YR:降伏強度/引張強度)≦80%を満たすことが要求される。
(3-1)フェライトの分率を一定範囲内とすることが有効であり、そのためには製造工程で、熱間圧延後に、所定の冷却停止温度まで加速冷却を行うか、または、熱間圧延後に空冷等の比較的遅い冷却を行った後、二相域温度まで再加熱して焼入れと焼戻しを行うことが有効である。
(3-2)更に、平均結晶粒径を一定以上に大きくすることが有効であり、そのためには製造工程の熱間圧延において、再結晶γ域中の所定温度域で累積圧下率を一定以下とし、かつ未再結晶γ域での累積圧下率を極力抑えることが有効であることを見出した。
溶接施工により形成される溶接熱影響部(HAZ)には一般的に脆化組織が生成し、地震時に脆性破壊が生じることが懸念される。HAZ靭性の向上には一般的に、溶接熱影響部靭性指標fHAZ、炭素当量Ceq、および溶接割れ感受性組成PCMの低減が有効であることが知られている。本発明においても良好なHAZ靭性確保のため、Ceq≦0.38質量%、fHAZ≦0.46質量%、およびPCM≦0.24質量%を満たすことを前提とする。
本発明の厚鋼板の鋼組織は、フェライトからなる軟質相と、ベイナイト、パーライト、およびマルテンサイトのうちの1以上を合計で80面積%以上含む硬質相からなり、
全組織に占めるフェライトの分率が50〜80面積%、
フェライトのアスペクト比が2.0以下、
全組織に占める島状マルテンサイト(MA)の分率が1面積%以下、
平均結晶粒径が12.0〜22.0μm、および
結晶粒径の標準偏差σが13.0μm以下を満たす。
本発明では、後記する各成分の範囲を満たした上で、式(1)〜(3)で示されるパラメータとして、炭素当量Ceq、溶接熱影響部靭性指標fHAZ、溶接割れ感受性組成PCMも下記範囲内とする必要がある。以下、各パラメータについて説明する。
Ceq(質量%)=[C]+[Mn]/6+[Si]/24+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 …(1)
式(1)中の[C]、[Mn]、[Si]、[Ni]、[Cr]、[Mo]および[V]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Si、Ni、Cr、MoおよびVの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
fHAZ(質量%)=[C]+[Mn]/8+6×([P]+[S])+12×[N]−4×[Ti] …(2)
式(2)中の[C]、[Mn]、[P]、[S]、[N]および[Ti]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、P、S、NおよびTiの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。またTiの含有量が0.005質量%以下の場合、[Ti]=0質量%とする。
PCM(質量%)=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5[B] …(3)
式(3)中の[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]および[B]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、VおよびBの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
Cは、母材及び溶接部の強度を確保するため、0.11質量%以上含有させることが必要である。C量は、好ましくは0.12質量%以上である。但し、C量が多すぎると、母材及び溶接熱影響部の靭性を低下させるとともに溶接性を劣化させるので、その上限を0.18質量%とする。C量は、好ましくは0.16質量%以下である。
Siは脱酸のために鋼に含有される。そのため、Si量の下限を0.10質量%とする。Si量は、好ましくは0.20質量%以上、より好ましくは0.25質量%以上である。但し、多すぎると溶接性およびHAZ靭性が劣化するので、Si量の上限を0.50質量%とする。Si量は好ましくは0.45質量%以下である。
Mnは、母材及び溶接部の強度、靭性を確保するために不可欠である。そのために下限を1.00質量%とした。Mn量は、好ましくは1.10質量%以上である。但し、Mnが多すぎるとHAZ靭性を劣化させ、また、スラブの中心偏析を助長し、溶接性を劣化させる。よってMn量の上限を1.50質量%とする。Mn量は、好ましくは1.40質量%以下、より好ましくは1.30質量%以下である。
Pは不純物元素であり、母材とHAZの良好な材質を確保するには、P量を0.020質量%以下に低減する必要がある。P量は、好ましくは0.015質量%以下、より好ましくは0.010質量%以下である。工業上、P量を0質量%にすることは困難であることから、P量の下限は0質量%超である。
Sは不純物元素である。Sを低減させることによってMnSが低減し、母材及びHAZの板厚方向材質を向上させることができる。この観点から、S量を0.005質量%以下とする。S量は好ましくは0.003質量%以下である。工業上、S量を0質量%にすることは困難であることから、S量の下限は0質量%超である。
Alは、脱酸を担い、O(酸素)を低減して鋼の清浄度を高めるための必須元素である。その効果を安定して確実に発揮させるため、Al量を0.005質量%以上とする必要がある。Al量は、好ましく0.010質量%以上、より好ましくは0.020質量%以上である。しかしながら、多量に含有すると母材靭性及び溶接部の靭性の低下を招くため、Al量の上限を0.060質量%とする。Al量は、好ましくは0.050質量%以下、より好ましくは0.040質量%以下である。
Nbを多く添加すると、HAZ中に島状マルテンサイトが生成しやすくなり、HAZ靭性が大きく低下する。またNbを多く添加することで、未再結晶γ域が高温側へ引き上げられ、YRや音響異方性の上昇を招く。よってNb量は、0.004質量%以下に抑える。Nb量は、好ましくは0.003質量%以下、より好ましくは0.002質量%以下であり、最も好ましくは0質量%である。
Tiは、HAZ組織の微細化に有効なTi系酸化物およびTiNを形成する元素である。また、鋼板の製造過程における1350℃以下のスラブ加熱時に、Ti系酸化物に加えてTiNも最大限に活用することにより、強力なピンニング効果を発現させ、γ粒の粗大化を抑制する。これらの効果を発揮させるには、Ti量を0.005質量%以上とする必要がある。Ti量は好ましくは0.008質量%以上である。一方、Ti量の上限は、過剰のTiCの析出によるHAZ脆化を防止するため、0.020質量%とする。Ti量は、好ましくは0.018質量%以下、より好ましくは0.015質量%以下である。
Bは、焼入性を高め、強度を得るために添加する場合もあるが、490MPa級の鋼板では必ずしも必要ではない。B量が0.0003質量%を超えると、同じ鋼種の厚鋼板を大量生産した際に、母材やHAZで固溶B量の変動が増加しやすく、製品ごとの材質ばらつきが大きくなる。よって、Bを添加する場合でも、0.0003質量%を上限とする。
Caは、MnSの球状化に寄与し、母材靭性や板厚方向の延性の改善に有効な元素である。このような効果を発揮させるため、Ca量を0.0003質量%以上とする。Ca量は、好ましくは0.0010質量%以上である。しかしながら、Ca量が0.0060質量%を超えて過剰になると、介在物が粗大化し、母材靭性が劣化する。よってCa量は0.0060質量%以下とする。Ca量は、好ましくは0.0040質量%以下、より好ましくは0.0030質量%以下である。
Nは、TiNを形成してHAZ靭性を向上させるために必須の元素である。十分な量のTiNを確保するため下限を0.0010質量%とした。N量は、好ましくは0.0020質量%以上である。一方、固溶NによるHAZの脆化を防止するため、N量は0.0100質量%以下とする。N量は、好ましくは0.0080質量%以下、より好ましくは0.0060質量%以下である。
次に本発明に係る高強度低降伏比厚鋼板の製造方法について説明する。本発明者らは、所定の成分組成を有する鋼片に、後述する条件の熱間圧延を行い、熱間圧延後に加速冷却を行うか、熱間圧延後に空冷し、その後に再加熱して二相域温度から焼入れし、焼戻しを行うことによって、上述の所望の鋼組織を得ることができ、その結果、上述した所望の特性を有する厚鋼板が得られることを見出した。
(製造方法I)
前記成分組成を満たす鋼片を、1000〜1200℃に加熱してから、熱間圧延を、平均温度が900〜820℃の温度域での累積圧下率:10〜50%、平均温度が820℃未満の未再結晶γ域での累積圧下率:5%以下の条件で行い、熱間圧延後、730℃以上の冷却開始温度から、平均冷却速度5〜30℃/sで、350〜650℃の冷却停止温度まで冷却する。
(製造方法II)
前記製造方法Iの冷却の後、更に500〜700℃で焼戻しを行う。
(製造方法III)
前記成分組成を満たす鋼片を、1000〜1200℃に加熱してから、熱間圧延を、平均温度が900〜820℃の温度域での累積圧下率:10〜70%、平均温度が820℃未満の未再結晶γ域での累積圧下率:5%以下の条件で行い、熱間圧延後、仕上圧延温度〜(仕上圧延温度−150℃)の冷却開始温度から、室温までを、平均冷却速度5.0℃/s未満で冷却し、次いで熱間圧延材を、720〜850℃に再加熱してから焼入れを行い、その後、400〜700℃で焼戻しを行う。
鋼片を加熱時に、加熱温度が低いと、元素が固溶し難く、圧延やその後の熱処理で所望の組織が得られ難くなる。そのため加熱温度は1000℃以上とした。好ましくは1050℃以上である。一方、加熱温度が高すぎると、γが粗大となってしまい、焼入れ性が高くなり軟質相の確保が難しくなる。よって、加熱温度は1200℃以下とする。好ましくは1150℃以下である。
[平均温度が820℃未満の未再結晶γ域での累積圧下率:5%以下]
従来技術では、鋼組織の制御として、未再結晶γ域での圧下率と、再結晶γ域での圧下率のみを制御していた。これに対して本発明では、再結晶γ域において更に温度の上下限値を規定し、その温度域での圧下率の上下限値を設定している。つまり、従来技術よりも圧延条件を厳格に管理することによって、上記組織を達成できることを見出した。
900〜820℃の温度域での累積圧下率=(H1−H2)/H1×100
未再結晶γ域での累積圧下率=(H3−t)/H3×100
上記において、H1は900〜820℃の温度域での圧延開始時の板厚、H2は900〜820℃の温度域での圧延終了時の板厚、H3は未再結晶γ域での圧延開始時の板厚、tは仕上厚さであり、いずれも単位はmmである。
[冷却停止温度:350〜650℃]
熱間圧延後は、730℃以上の冷却開始温度から、平均冷却速度5〜30℃/sで、350〜650℃の冷却停止温度まで冷却を行う。この冷却によって、フェライトの分率を50〜80面積%の範囲内とすることができ、その結果、高強度かつ低YRを実現することができる。フェライトの分率を抑えて高強度を確保するため、製造方法Iでは平均冷却速度を5℃/s以上とする。前記平均冷却速度は、好ましくは10℃/s以上、より好ましくは15℃/s以上である。一方、平均冷却速度が速すぎると、フェライトが不足し、硬質相が過剰になり、強度が必要以上に高まり、降伏比も高くなる。前記平均冷却速度は、好ましくは28℃/s以下、より好ましくは25.0℃/s以下である。
[平均温度が820℃未満の未再結晶γ域での累積圧下率:5%以下]
平均温度が900〜820℃の温度域での累積圧下率を10%以上とすることによって、平均結晶粒径を22.0μm以下、かつ結晶粒径の標準偏差σを13.0μm以下と結晶粒を均一かつ微細にすることができる。その結果、低温での母材靭性を確保することができる。前記900〜820℃の温度域での累積圧下率は、好ましくは15.0%以上、より好ましくは20.0%以上である。一方、900〜820℃の温度域での累積圧下率を70%以下とし、かつ平均温度が820℃未満の未再結晶γ域での累積圧下率を、5%以下に抑えることによって、平均結晶粒径を12.0μm以上とすることができ、その結果、高強度かつ低YR、特に低YRを実現することができる。また、前記未再結晶γ域での累積圧下率を5%以下に抑えることによって、フェライトのアスペクト比を2.0以下とすることができ、その結果、音響異方性を低減できる。前記900〜820℃の温度域での累積圧下率は、好ましくは60%以下である。また、前記未再結晶γ域での累積圧下率は、好ましくは2%以下であり、最も好ましくは0%である。
熱間圧延後、仕上圧延温度〜(仕上圧延温度−150℃)の冷却開始温度から、室温までを、平均冷却速度5.0℃/s未満で冷却する。前記冷却として空冷が挙げられる。なお、平均冷却速度の下限は、高い降伏強度を容易に確保する観点からは、0.5℃/s以上とすることが好ましい。
焼入れ温度は二相域の温度に該当する。焼入れ温度が低いと、逆変態分率が不足し、硬質相の分率が不足して高強度を達成できない。よって、焼入れ温度は720℃以上とする。好ましくは750℃以上である。一方、焼入れ温度が高いと、逆変態分率は増加するが、硬質相となる部分の成分濃縮が不足し、硬質相の硬さが低下する。よって、焼入れ温度は850℃以下とする。好ましくは840℃以下である。また、焼入れ温度での保持時間が少ないと、元素が濃縮し難く硬さを確保できない。よって、焼入れ加熱時間は5分以上とすることが好ましい。より好ましくは10分以上である。一方、焼入れ加熱時間が長いと、生産性が低下するため60分以下とすることが好ましい。
前記二相域温度からの焼入れ後は、400〜700℃で焼戻しを行う。焼戻し温度が低温では、硬質相が硬くなりすぎて強度が必要以上に高くなる。よって、焼戻し温度の下限は、400℃以上とする。焼戻し温度は、450℃以上とすることが好ましい。一方、焼戻し温度が高温になると、硬質相の硬さが低下し、強度不足となりやすく、軟質相と硬質相の硬さ比が低下して降伏比が上昇する。よって焼戻し温度は、700℃以下とする。焼戻し温度は、600℃以下とすることが好ましい。また、焼戻しの効果を得るため、焼戻し時間は5分以上とすることが好ましい。より好ましくは10分以上である。一方、生産性の観点から、焼戻し時間は60分以下とすることが好ましい。
〔フェライトの分率、フェライトのアスペクト比〕
圧延方向に平行でかつ鋼板表面に対して垂直な板厚断面を観察できるよう上記鋼板からサンプルを採取した。前記断面を研磨し、ナイタール腐食を行ってフェライトからなる軟質相を現出させた。板厚の1/4位置を、光学顕微鏡を用いて観察倍率400倍で組織を撮影し、軟質相であるフェライトの分率を求めた。更に、軟質相であるフェライトの圧延方向と板厚方向の粒径を測定し、それらの比からフェライトのアスペクト比を算出した。なお本発明では、全組織から前記軟質相であるフェライトの分率を差し引いた値を、硬質相の分率とした。この硬質相は、ベイナイト、パーライト、およびマルテンサイトのうちの1以上を合計で80面積%以上含むことを確認した。
圧延方向に平行でかつ鋼板表面に対して垂直な板厚断面を研磨し、板厚の1/4位置にて、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction、電子線後方散乱回折)法による測定装置(EDAX社製OIMシステム)を用い、測定領域:200μm×200μm、測定ステップ:0.5μm間隔の条件で行って、全組織の結晶粒径の平均値と、該結晶粒径の標準偏差σを算出した。
圧延方向に平行でかつ鋼板表面に対して垂直な板厚断面を観察できるよう上記鋼板からサンプルを採取した。前記断面を研磨し、レペラ試薬でエッチングしてMA相を現出させた。そして板厚の1/4位置を、光学顕微鏡を用い、倍率1000倍で組織を撮影してMAの分率を算出した。
全厚から圧延方向と垂直に平型引張試験片(JIS1A号またはJIS5号試験片と同じ)を採取して、JIS Z 2241の要領で引張試験を行い、降伏強度YPまたは0.2%YSと引張強度TSを測定し、降伏比YRを求めた。そして降伏強度YPまたは0.2%YSが325〜445MPa、引張強度TSが490〜610MPa、かつ降伏比YRが80%以下の場合を、高強度かつ低降伏比を示すと評価した。
板厚の1/4部位において試験片の長手方向がL方向、即ち圧延方向となるように、JIS4号試験片を3本採取した。そして、JIS Z 2242に規定の方法でVノッチシャルピー衝撃試験を実施した。本発明では、低温靭性の指標として、試験温度:−60℃で上記試験片3本のエネルギー値を測定した。また上記衝撃試験を行って、試験温度と脆性破面率の関係を示す曲線から、脆性破面遷移温度を求めた。そして、上記試験片3本のエネルギー値の最小値が49J以上、すなわち上記試験片3本のエネルギー値がいずれも49J以上であると共に、平均値が70J以上であり、かつ上記脆性破面遷移温度vTrsが−60℃以下を満たす場合を、母材が優れた低温靭性を安定して発揮すると評価した。
JIS Z 3060に規定の通り、横波の振動方向を主圧延方向(L方向)に一致させたときの横波音速値VLと、L方向に垂直な方向(C方向)に一致させたときの横波音速値VCを測定し、横波音速比VL/VCを求めた。そして、該音速比が1.020以下の場合を音響異方性が小さいと評価した。これらの結果を表3に示す。
Claims (6)
- 成分組成が、
C :0.11〜0.18質量%、
Si:0.10〜0.50質量%、
Mn:1.00〜1.50質量%、
P :0質量%超、0.020質量%以下、
S :0質量%超、0.005質量%以下、
Al:0.005〜0.060質量%、
Nb:0〜0.004質量%、
Ti:0.005〜0.020質量%、
B :0〜0.0003質量%、
Ca:0.0003〜0.0060質量%、および
N :0.0010〜0.0100質量%
を満たし、残部が鉄および不可避的不純物である厚鋼鈑であって、
下記式(1)で表される炭素当量Ceqが0.32〜0.38質量%、
下記式(2)で表される溶接熱影響部靭性指標fHAZが0.46質量%以下、
下記式(3)で表される溶接割れ感受性組成PCMが0.15〜0.24質量%であり、
鋼組織が、
フェライトからなる軟質相と、ベイナイト、パーライト、およびマルテンサイトのうちの1以上を合計で80面積%以上含む硬質相とからなり、
全組織に占めるフェライトの分率が50〜80面積%、
フェライトのアスペクト比が2.0以下、
全組織に占める島状マルテンサイト(MA)の分率が1面積%以下、
平均結晶粒径が12.0〜22.0μm、および
結晶粒径の標準偏差σが13.0μm以下
を満たす、母材と溶接熱影響部の靭性に優れかつ音響異方性の小さい高強度低降伏比厚鋼板。
Ceq(質量%)=[C]+[Mn]/6+[Si]/24+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 …(1)
式(1)中の[C]、[Mn]、[Si]、[Ni]、[Cr]、[Mo]および[V]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、Si、Ni、Cr、MoおよびVの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。
fHAZ(質量%)=[C]+[Mn]/8+6×([P]+[S])+12×[N]−4×[Ti] …(2)
式(2)中の[C]、[Mn]、[P]、[S]、[N]および[Ti]は、それぞれ、質量%で示したC、Mn、P、S、NおよびTiの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。またTiの含有量が0.005質量%以下の場合、[Ti]=0質量%とする。
PCM(質量%)=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5[B] …(3)
式(3)中の[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]および[B]は、それぞれ、質量%で示したC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、VおよびBの含有量を示し、含まない元素はゼロとする。 - 更に、
Cu:0質量%超、0.50質量%以下、
Ni:0質量%超、0.50質量%以下、
Cr:0質量%超、0.50質量%以下、
Mo:0質量%超、0.50質量%以下、
V:0質量%超、0.1質量%以下、および、
REM:0質量%超、0.1質量%以下よりなる群から選択される1種以上の元素を含む請求項1に記載の高強度低降伏比厚鋼板。 - 冷間成形角形鋼管用である請求項1または2に記載の高強度低降伏比厚鋼板。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の高強度低降伏比厚鋼板を製造する方法であって、
請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼片を、1000〜1200℃に加熱してから、熱間圧延を、平均温度が900〜820℃の温度域での累積圧下率:10〜50%、平均温度が820℃未満の未再結晶γ域での累積圧下率:5%以下の条件で行い、熱間圧延後、730℃以上の冷却開始温度から、平均冷却速度5〜30℃/sで、350〜650℃の冷却停止温度まで冷却する、母材と溶接熱影響部の靭性に優れかつ音響異方性の小さい高強度低降伏比厚鋼板の製造方法。 - 前記冷却後に、500〜700℃で焼戻しを行う請求項4に記載の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の高強度低降伏比厚鋼板を製造する方法であって、
請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼片を、1000〜1200℃に加熱してから、熱間圧延を、平均温度が900〜820℃の温度域での累積圧下率:10〜70%、平均温度が820℃未満の未再結晶γ域での累積圧下率:5%以下の条件で行い、熱間圧延後、仕上圧延温度〜(仕上圧延温度−150℃)の冷却開始温度から、室温までを、平均冷却速度5.0℃/s未満で冷却し、
次いで熱間圧延材を、720〜850℃に再加熱してから焼入れを行い、その後、400〜700℃で焼戻しを行う、母材と溶接熱影響部の靭性に優れかつ音響異方性の小さい高強度低降伏比厚鋼板の製造方法。
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