JP2016011439A - 冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板、冷間プレス成形角形鋼管、及び溶接継手 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】鋼成分(質量%)から計算される炭素当量Ceqが0.33%以上0.43%以下、溶接割れ感受性組成PCMが0.15%以上0.24%以下、溶接熱影響部靭性指標fHAZが0.30%以上0.47%以下の組成を有し、降伏強さが325〜505MPa、引張強さが490〜670MPa、降伏比が80%以下、一様伸びが13%以上であり、2mmVノッチシャルピー値が、−40℃で90J/cm2以上でしかも−10℃で180J/cm2以上であることを特徴とする。
【選択図】図4
Description
図1において、角形鋼管からなる上下一対の垂直な柱11の間に、同じく角形鋼管からなるサイコロ(タイコと称されることもある)13が配置され、かつ各柱11の端部とサイコロ13との間に、鋼板からなるダイアフラム12が水平に介挿されて、それぞれの間が溶接接合される。さらに例えばH形鋼からなる梁14の端部が、ダイアフラム12の周縁部に溶接接合される。
図2において、柱11となる角形鋼管20の端部にレ形開先21が形成され、その開先21が、鋼板からなるダイアフラム12の板面に、MAG溶接によって積層溶接(多層溶接)され、溶接継手部22が形成されている。なお符号15は、裏当て金であり、また符号23は溶接継手部22の溶接金属(溶金)を示し、符号24は、角形鋼管20の側の溶接熱影響部(以下「HAZ部」という)を示し、更に符号25は、HAZ部24よりも角形鋼管20の母材側の部分(母材部)を示す。
ただし、一般にHAZ部は熱影響により破壊靭性が低下しているため、脆性破壊が発生する恐れがある。溶接金属とHAZ部との境界位置付近に発生した初期の延性亀裂により、亀裂先端には応力集中に起因する脆性亀裂の発生駆動力が作用する。ここでHAZ部の破壊靭性が低ければ、HAZ部の脆性亀裂発生抵抗が不足し、延性亀裂が、その発生後、ただちに脆性亀裂に転化してHAZ部に沿って進展して最終破壊に至り、母材部が十分な塑性変形性能を発揮しないことが危惧される。
地震時に柱梁接合部で大きな曲げモーメントが発生した際には、図4の(a)に示すように、先ず溶接金属23と角形鋼管20のHAZ部24との境界位置(溶接止端部)26の位置で亀裂27が発生する。そしてこの亀裂27は、HAZ靭性が高い場合、図4の(b)に示すようにHAZ部24から延性破壊として母材部25に伝播し、さらに母材靭性が高い場合、その延性亀裂は、母材部内を裏面に向って厚み方向に進展する。このとき、母材部にはネッキングが生じ、図4の(c)に示すように、上記の母材部25内の延性亀裂27がネッキング部分(薄くなった部分)28に達することによって最終破壊に至るが、前述のように一様伸びを大きく設定しておくことによって、早期のネッキングの発生が防止され、その結果、早期に最終破壊に至ることが防止されるのである。ここで、地震による大きな水平力が発生する際には、水平力の方向によっては、冷間プレス成形時に塑性加工を受けた角部に大きな曲げモーメントが発生する場合があるが、角部の鋼管長さ方向の一様伸びが4%以上であれば、早期に最終破壊に至ることを確実かつ安定して抑制し得ることを見い出した。
したがって本発明の各態様は、次の通りである。
鋼成分(質量%)から計算される炭素当量Ceqが0.33%以上0.43%以下、溶接割れ感受性組成PCMが0.15%以上0.24%以下、溶接熱影響部靭性指標fHAZが0.30%以上0.47%以下の組成を有する鋼からなり、
鋼板元厚での引張試験における降伏強さが325〜505MPa、引張強さが490〜670MPa、降伏比が80%以下、鋼板元厚ままでの鋼板表裏面から採取した2mmVノッチシャルピー値が、−40℃で90J/cm2以上でしかも−10℃で180J/cm2以上である、
ことを特徴とする冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板。
但し炭素当量Ceq、溶接割れ感受性組成PCM、溶接熱影響部靭性指標fHAZは、それぞれ次の通り定義される値である。
Ceq(%)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
PCM(%)=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B
fHAZ(%)=C+Mn/8+6×(P+S)12×N−4×Ti
(但しNはトータル窒素、またTiは、Ti≦0.005%のとき、Ti=0とする。)
板厚方向断面の1/4板厚位置で光学顕微鏡により観察した金属組織が、フェライト及び残部第2相からなり、かつフェライトの分率が30%以上で、かつ第2相がベイナイト及び/又はパーライトからなり、しかもフェライトの円相当平均直径が12μm以下であることを特徴とするものである。
前記鋼が、質量%で、C:0.06〜0.16%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.90〜2.00%、P:0.015%以下、S:0.006%以下、Al:0.005〜0.060%、Ti:0.005〜0.025%、N:0.001〜0.006%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とするものである。
前記鋼が、質量%で、さらにCa:0.0005〜0.005%を含有し、かつCa/Sの質量比が0.15以上であることを特徴とするものである。
前記鋼が、質量%で、さらにNb:0.005〜0.030%を含有することを特徴とするものである。
前記鋼が、Cu、Ni、Cr、Moのうちのいずれか1種以上を、質量%で、それぞれ0.04%以下、合計0.10%以下含有することを特徴とするものである。
板厚が9〜60mmの範囲内であることを特徴とするものである。
すなわち本発明の第8の態様の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板は、前記第1〜第7のいずれかの態様の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板を元板とした冷間プレス成形角形鋼管であって、
元板の板厚t(mm)が9〜60mmの範囲内にあり、
かつ角部の外曲げ半径(mm)が2.0t〜4.0tの範囲内であり、
さらに角部の曲げ外側表面の直下から角形鋼管の長さ方向に沿って採取した2mmVノッチシャルピー試験片によるシャルピー値が、−10℃で90J/cm2以上であることを特徴とするものである。
角部における角形鋼管長さ方向の一様伸びが4%以上であることを特徴とするものである。
すなわち本発明の第10の態様の溶接継手は、前記第8、第9のいずれかの態様の冷間プレス成形角形鋼管の端部を、鋼板からなるダイアフラムの板面に溶接してなる溶接継手であって、
前記角形鋼管の端部にレ形開先が形成されて、平均入熱7〜40kJ/cmによって角形鋼管のレ形開先とダイアフラムの板面との間が多層溶接によって溶接されており、
前記角形鋼管における角部の外面側溶接熱影響部の2mmVノッチシャルピー値が、0℃で90J/cm2以上であることを特徴とするものである。
本発明の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板は、基本的には、その板の製造に、加工熱処理法、すなわち、いわゆるTMCP(Thermo Mechanical Control Process)を適用して得られた厚鋼板であることが望ましい。ここで、加工熱処理法(TMCP)は、連続鋳造スラブを熱間圧延温度に加熱するための加熱工程、粗圧延及び仕上げ圧延からなる多パスの熱間圧延工程、ホットレベラーによる平坦化工程、さらに必要に応じて適用される水冷などによる冷却工程に至る一連の工程において、各工程での条件、とりわけ熱間圧延工程で各パス温度及び圧下率を適切に制御する制御圧延を行うとともに、冷却工程での冷却開始温度、冷却速度、冷却停止温度などを適切に制御する制御圧延を行ない、これによって鋼板の金属組織及び結晶粒の粒径を適切に制御する技術である。そして本発明の場合、後に改めて説明するように、加工熱処理法(TMCP)の諸条件を適切に制御することにより、望ましくは、板厚方向断面の1/4板厚位置で光学顕微鏡により観察した金属組織が、フェライト及び残部第2相からなり、かつフェライトの分率が30%以上で、かつ第2相がベイナイト及び/又はパーライトからなり、しかもフェライトの円相当平均直径を12μm以下とした鋼板を得ることが可能となる。
炭素当量Ceqは、次の(1)式で定義される値である。
Ceq(%)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
・・・(1)
ここで、炭素当量Ceqは、その値が大きいほど高強度化を図ることができるが、0.33%未満の低炭素当量では、鋼板の製造に加工熱処理法(TMCP)を適用しても、最大厚60mmで鉄骨構造用の柱(コラム)に使用される角形鋼管の原板として求められる降伏強さYS、引張強さTSを安定的に確保することが困難となる。一方、0.43%を超える高炭素当量では、母材やHAZ部の硬化、マルテンサイト生成の危険性が高まり、そのため母材靭性およびHAZ靭性を高水準で安定して確保することが困難になる。そこで、炭素当量Ceqは、0.33〜0.43%の範囲内に限定した。
溶接割れ感受性組成PCMは、次の(2)式で定義される値である。
PCM(%)=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B ・・・(2)
溶接割れ感受性組成PCMが0.15%未満の低PCM成分の鋼板では、炭素当量Ceqが0.33%未満の場合と同様に、鋼板の製造に加工熱処理法(TMCP)を適用しても、最大厚60mmで鉄骨構造用の柱(コラム)に使用される角形鋼管の原板として求められる降伏強さYS、引張強さTSを安定的に確保することが困難となる。一方、0.24%超の高PCM成分の鋼では、母材やHAZの硬化、マルテンサイト生成の危険性が高まり、そのため母材靭性およびHAZ靭性を高水準で安定して確保することが困難になる。そこで、このため、0.15〜0.24%に限定した。なおPCMは、好ましくは、0.23%以下とする。
溶接熱影響部靭性指標fHAZは、次の(3)式で定義される値である。
fHAZ(%)=C+Mn/8+6×(P+S)12×N−4×Ti ・・・(3)
但し(3)において、Nはトータル窒素であり、またTiは、Ti≦0.005%のときは、Ti=0とする。
溶接熱影響部靭性指標fHAZは、当業者においては広く知られている多層盛り溶接継手靭性(HAZ靭性)の目安を与える指標であって、C、Mn等、Ceq、PCMを高めて焼入性を高める元素が多いほど、また、後述する不純物元素であるP、Sが多いほど、fHAZの値は高くなる。したがって、一般的に言えば、fHAZの値が低いほど、HAZ靭性にとっては有利となる。
またfHAZの値は、鉄骨構造体の柱(コラム)として用いられる角形鋼管として、母材強度の確保や経済性との兼ね合いからも適切に設定する必要がある。本発明で対象とする角形鋼管に要求される強度を安定して確保し、さらに不純物低減の負荷増による経済合理性を勘案し、本発明者らの蓄積してきた膨大なHAZ靭性評価試験結果から、必要強度とともに、第10の態様に記載した様な、角形鋼管(コラム)と通しダイアフラムの入熱7〜40kJ/cmで90J/cm2以上を満足し得る範囲として、0.30〜0.47%の範囲内にfHAZの値を限定した。
なお、本発明の角形鋼管用厚鋼板では、板厚が9〜60mmで、降伏強さ325〜505MPa、引張強さ490〜670MPaが要求されることを考慮すれば、すべての板厚で安定して強度を確保するためには、fHAZの値が0.30%以上であることが好ましく、そこでfHAZの値は、0.30〜0.47%の範囲内と規定した。
鋼板元厚での引張試験における降伏強さは、325〜505MPaの範囲内、引張強さは490〜670MPaの範囲内、降伏比は80%以下とする。ここで、これらの強度(降伏強さ及び引張強さ)、降伏比は、本発明の厚鋼板を冷間プレス成形及びシーム溶接して得られた角形鋼管を、鉄骨構造の柱(コラム)として用いた場合のコラムとしての必要な強度、降伏比の範囲として定めている。降伏強さが325MPa未満、引張強さが490MPa未満では、コラム用の角形鋼管として、本発明で目標とする強度を満足し得ず、一方、降伏強さが505MPa超、引張強さが670MPa超の場合は、第1の態様として記載した条件を満足し得ない場合がある。
なおここで、上記の降伏強さ、引張強さ、降伏比は、JIS5号試験片によって引張試験を行った場合の値として規定している。
鋼板の一様伸びは、板の冷間加工性に大きな影響を与え、一様伸びが13%未満では、例えば第8の態様として記載したように、板厚t(9〜60mm)に対して外曲げ半径(mm)が2.0t〜4.0tとなるような角部を冷間でプレス加工することが困難となるおそれがある。そこで鋼板の一様伸びは13%以上に限定した。なおここで、一様伸びも、前記と同様に、JIS5号試験片によって引張試験を行った場合の値として規定している。なお、鋼板の一様伸びは、13%以上の条件を満たす範囲内でも、特に15%以上、更には17%以上であることが好ましい。なおまた、鋼板の一様伸びの上限は特に規定しないが、一般には、30%程度以下である。またここで、上記の一様伸びの値は、前記同様にJIS5号試験片によって引張試験を行った場合の値として規定している。
従来の一般的な鋼板においては、衝撃吸収エネルギーの指標として2mmVノッチシャルピー値は、通常は0℃での試験による値として規定しているが、本発明では、2mmVノッチシャルピー値は、より低温でしかも2段階(−40℃及び−10℃)での値として規定している。このように従来の一般的な0℃より低温でしかも2段階の値で規制することにより、優れた母材靭性を、従来よりも高水準でかつ安定して確保することができる。
ここで、−40℃での2mmVノッチシャルピー値が90J/cm2以上の条件と、−10℃での2mmVノッチシャルピー値が180J/cm2以上の条件のいずれか一方でも満たされない場合には、本発明で目標とする高水準の母材靭性を安定して確保することができない。
さらに本発明の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板においては、第2の態様として記載したように、板厚方向断面の1/4板厚位置で光学顕微鏡により観察した金属組織が、フェライト及び残部第2相からなり、かつフェライトの分率が30%以上で、かつ第2相がベイナイト及び/又はパーライトからなり、しかもフェライトの円相当平均直径が12μm以下であるという、主相をフェライトとする微細組織とすることが好ましい。
このような組織は、前述のような加工熱処理法(TMCP)の条件、とりわけ制御圧延と制御冷却の条件を適切に制御することによって得ることができる。例えば、熱間圧延を比較的低温で終了させることによって、圧延中にオーステナイト組織から再結晶を生起させてフェライトの結晶を生じさせ、更に圧延終了後の冷却過程の制御によってフェライトの成長、粗大化を抑制することによって、上記の条件を満たす組織を得ることができる。
上記のように組織条件を定めた理由は次の通りである。
本発明の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板においては、その金属組織の条件として、第2の態様として記載したように、板厚方向断面の1/4板厚位置で光学顕微鏡により観察した金属組織が、フェライト及び残部第2相からなり、かつフェライトの分率が30%以上で、かつ第2相がベイナイト及び/又はパーライトからなることが好ましい。すなわち、鋼板の金属組織は、母材の強度、降伏比、靭性及び伸び(冷間加工性)に大きな影響を与える。特に軟質相であるフェライトは、降伏比を低い値にするために寄与する。フェライト分率が30%未満では、母材の降伏比を80%以下とすることが困難となる。フェライト(30%以上)に対する残部の第2相は、ベイナイト及び/又はパーライトであればよい。
なおフェライト分率の上限は特に規定しないが、前述のように鋼板の降伏比を80%以下とするためには、フェライト分率は80%以下とすることが好ましい。
このような金属組織は、次に説明するフェライト粒径の条件とともに、厚鋼板製造時の加工熱処理法(TMCP)の条件を適切に制御することによって得ることができる。
さらに本発明の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板においては、その金属組織中のフェライトの結晶粒径条件として、円相当平均直径が12μm以下であることが必要である。すなわち、鋼板金属組織の結晶粒径は、母材靭性に影響を与え、平均結晶粒径が小さいほど、母材靭性は良好となる。一方、結晶粒径は、強度、特に降伏強さにも影響を与える。そこで本発明では、一般にトレードオフの関係にある強度(降伏強さ)と靭性の関係を高いレベルで両立させるため、フェライトの円相当平均直径は、平均で12μm以下と規定した。なおフェライトの円相当平均直径の下限は特に規定しないが、一般には5μm程度以上である。
本発明の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板の具体的成分組成は、要は、炭素当量Ceq、溶接割れ感受性組成PCM、および溶接熱影響部靭性指標fHAZが、前述の範囲内となるように定めればよいが、通常は、第3の態様に記載したように、質量%で、C:0.06〜0.16%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.90〜2.00%、P:0.015%以下、S:0.006%以下、Al:0.005〜0.060%、Ti:0.005〜0.025%、N:0.001〜0.006%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の成分組成とすることが好ましい。以下にこれらの各元素の好ましい範囲の理由を説明する。
Cは、強度向上のために重要な元素である。低温加熱、低温圧延を徹底した加工熱処理法(TMCP)を適用して製造した厚鋼板において、所定の強度を安定確保するためには、0.06%以上のCを含有させる必要がある。好ましくは、Cを0.07%以上、もしくは0.08%以上含有させることにより、より安定して強度を高めることができる。しかしながら、良好なHAZ靭性を安定確保するためには、Cを0.16%以下に抑える必要がある。なおC量は、0.15%以下、もしくは0.14%以下に制限することが、より好ましい。
Siは脱酸作用を有するが、強力な脱酸元素であるAlが十分に含有されている場合には、Siは本来不要である。ただし、必要以上にSi量を下げることは、むしろ製鋼工程の負荷を高めることになるため、Si量の下限を0.05%とした。一方、Siは靭性に悪影響をおよぼすマルテンサイト生成を助長するため、HAZ靭性の観点からSi量を極力低くすることが好ましく、その観点からSiは0.50%以下に抑える必要がある。なおSi量は、0.20%以下、あるいは0.16%以下、更には0.13%以下に制限することが好ましい。
Mnは強度向上に有効な元素であり、経済的に強度を確保するためにMnが添加される。ここで、炭素当量Ceqの値として0.33%以上を得るためには、C量及びSi量との関係から、0.90%以上のMn含有量が必要である。ただし、2.00%を超えてMnを含有させれば、スラブの中心偏析の有害性が顕著となるに加え、HAZ硬化とマルテンサイト生成助長を介して、靭性を劣化させるため、2.00%を上限とした。なお、強度を確保するためには、Mnを1.0%以上とすることが好ましい。一方、HAZ硬化とマルテンサイト生成を抑制する観点からは、Mnは1.8%以下、あるいは1.6%以下、更には1.5%以下に制限することが好ましい。
Pは不純物元素であり、粒界偏析しやすいこともあって、延靭性を劣化させることが知られている。このため、母材靭性およびHAZ靭性を安定的に高位に確保するために、0.015%以下に制限することとした。
Sも、Pと同様に不純物元素であり、圧延で延伸化して靭性や耐ラメラテア性に悪影響をおよぼすMnSの生成を抑制するため、0.006%以下に抑える必要がある。より一層の靭性向上のためには、S量を0.004%以下、更には0.003%以下に制限することが好ましい。
Alは、脱酸を担い、O(酸素)を低減して鋼の清浄度を高めるための必須元素であり、その効果を安定して確実に発揮させるため、0.005%以上とする必要がある。しかしながら、Alが0.060%を超えれば、アルミナ系粗大酸化物がクラスター化する傾向を強め、製鋼ノズルの詰りが発生したり、破壊起点としての有害性が顕在化するため、0.060%を上限とした。なお、Al量の上限は0.05%以下、0.04%以下に制限することが、より好ましい。
Tiは、母材およびHAZ靭性向上のために有用である。すなわち、TiはNと結合してTiNとしてスラブ中に微細析出して、加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑え、圧延組織を細粒化するために有効に機能し、また鋼板中に存在する微細TiNは、溶接時にHAZ組織を細粒化する効果を示す。これらの効果を得るためには、Tiは0.005%以上が必要である。しかしながらTi量が多過ぎれば、TiCを形成して低温靭性や溶接性を劣化させるから、0.025%以下とする必要がある。なおTiは、0.015%以下に制限することがより好ましい。
Nは不可避的不純物として鋼中に含まれるものであるが、Tiと結合してTiNを形成し、前述のような鋼の性質の向上をもたらす。また第5の態様として記載したようにNbを添加する場合、NはNbと結合して炭窒化物を形成し、強度を増加させることにも寄与する。しかしながら、N量の増加はHAZ靭性、溶接性にきわめて有害であり、そこで本発明においては、N量は0.006%以下に規制することとした。
S量によっては、上述したMnSの形態を制御するために、Caを添加することが好ましい。Caの形態制御効果を発揮させるためには、最低0.0005%のCaを添加することが好ましい。しかしながら、Caの過剰な添加は、鋼の清浄度を逆に悪化させるため、上限を0.005%に制限することが好ましい。なお、MnSの形態制御には、これらのCa量の上下限とともに、CaとSとの化学量論比も適正に制御する必要があり、確実な形態制御効果を発揮させるためには、Ca/Sの比を0.15以上とすることが好ましい。
Nbの添加は、オーステナイトの未再結晶温度を上昇させ、熱間圧延時の制御圧延の効果を最大限に発揮するのに加え、溶接や切断時の熱影響部の軟化を防止する上での有効な元素であり、これらの効果を発揮させるためには、0.005%以上のNbの添加が必要である。また、Nbは、析出硬化として、強度向上にも寄与する。しかしながら、過剰なNbの添加は、HAZ靭性劣化を招くことから、Nbの上限は0.030%とした。
Cu、Ni、Cr、Moの適正な添加は、鋼の性質を高めることも多いが、これらは稀少金属でもあり、経済性を考慮すれば、意図的に添加しないことが望ましい。建築構造物の柱(コラム)としての角形鋼管においては、その経済性が重視され、そこで本発明においては、これら元素は、それぞれスクラップ等から不可避的に混入するコンタミレベルである0.04%以下、総量でも0.10%以下に抑えることが望ましい。
本発明の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板の厚みは、第7の態様として記載したように、9〜60mmの範囲内であることが好ましい。板厚が9mm未満では、鉄骨構造体の構造部材として十分な強度を確保しにくくなり、一方60mmを越えれば、冷間プレス成形によって板厚t(mm)に対し外曲げ半径(mm)4.0t以下を確保することが困難となるおそれがある。
以上のような冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板を製造する方法は特に限定されないが、既に述べたように加工熱処理法(TMCP)を適用することが望ましく、適切に条件設定して適切に制御管理された加工熱処理法により、前述のような金属組織、性能を有する厚鋼板を確実かつ安定して製造することができる。
ここで、TMCPを適用した具体的な製造条件は特に限定されないが、通常は、連続鋳造によって得られたスラブを、必要に応じて面削した後、熱間圧延前の加熱として、例えば1100〜1250℃程度に加熱し、熱間粗圧延を、上がり温度850〜1000℃程度で行い、更に仕上げ圧延を、上がり温度700〜850℃程度、各パス圧下率3〜15%程度、パス数10〜30程度で行い、その後、必要に応じてレベラーにより平坦化した後、制御冷却として、冷却開始温度600〜800℃程度で、冷却速度0.1〜30℃/sec、冷却停止温度200〜600℃での水冷もしくは非水冷による冷却を行うことが好ましい。
さらに本発明では、上述のような冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板を用いた冷間プレス成形角形鋼管の態様についても、第8〜第10の態様において規定している。これらについて次に説明する。
角形鋼管の角部の外曲げ半径は、元板の板厚t(9〜60mm)に対し、2.0t〜4.0tの範囲内とし、更に角部の靭性(衝撃吸収エネルギー)の指標として、角部の外面表層直下から鋼管長さ方向に採取した2mmVノッチシャルピー値が、−10℃で90J/cm2以上であることを、第8の態様で規定している。
これは上記の角部の外曲げ半径は、従来の一般的なコラムとしての角形鋼管と同様である。
また地震による大きな水平力が発生する際には、水平力の方向によっては、角部に大きな曲げモーメントが発生する場合があるが、角部は冷間プレス加工時に大きな加工硬化が生じる箇所であり、その角部の−10℃シャルピー値を90J/cm2以上とすることによって、角部の靭性を高いレベルで確保することができる。
なお、上述のように角部は冷間プレス成形によって加工硬化を受けた部分であり、その他の部分(辺部)よりも靭性は低くなっているのが通常である。したがって角部の−10℃シャルピー値を90J/cm2以上に設定すれば、当然のことながら、辺部はそれ以上のシャルピー値を確保することができる。
角形鋼管の角部における一様伸びは、角形鋼管における長さ方向(元板圧延方向)の値として、4%以上であることを第9の態様で規定している。
ここで、角形鋼管の角部の一様伸びが4%以上であれば、地震などによる急激な衝撃が加わった際の角部のネッキングによる早期の局部的厚み減少を抑え、これにより上記のような母材側に進展した延性破壊による亀裂が裏面に達して最終破壊に至ることを遅れさせることができ、したがって鉄骨構造体の信頼性、安全性を充分に高め得ることが、本発明者等の実験により確認されている。
この試験結果から、角部の一様伸びが4%以上である角形鋼管は、非特許文献2で提案されている、柱の塑性化を許容した設計で柱部材に要求される変形性能(累積塑性変形倍率28)を上回る十分な性能を有していることが確認できた。また最終破壊形式が破断となった本発明の試験体においては、HAZ部付近において延性亀裂が発生し、その後母材側に伝播し、母材内を延性破壊として進展した。その際、母材にはネッキングが生じたが、十分な一様伸びを有していることにより、ネッキング発生に起因する早期の局部的厚み減少を抑え、延性破壊による亀裂が裏面に達し、最終破壊に至ることが確認された。
なお、前記したように角部は冷間プレス成形によって加工硬化を受けた部分であり、その他の部分(辺部)よりも一様伸びは小さく低くなっているのが通常である。したがって角部の一様伸びを4%以上に設定すれば、当然のことながら、辺部はそれ以上の一様伸びが確保されていることになる。
角形鋼管の製造方法は、要は前述のような厚鋼板を用いて、冷間プレス成形によって断面ロ状もしくはコ状に成形し、サブマージアーク溶接などによって角形閉断面とすればよく、従来公知の方法、条件を適用すればよい。
さらに本発明では、第10の態様として記載したように、前述の冷間プレス成形角形鋼管を、鉄骨構造体の柱(コラム)としてダイアフラム(一般には通しダイアフラム)に溶接した溶接継手をも規定している。
この溶接継手は、前述の冷間プレス成形角形鋼管の端部を、鋼板からなるダイアフラムの板面に溶接してなる溶接継手であって、角形鋼管の端部にレ形開先が形成されて、平均入熱7〜40kJ/cmによって角形鋼管のレ形開先とダイアフラムの板面との間が多層溶接によって溶接されており、かつ角形鋼管における角部の外面側溶接熱影響部(HAZ部)の2mmVノッチシャルピー値が、0℃で90J/cm2以上であることを規定している。
ダイアフラムの材質は特に限定されるものではなく、従来から鉄骨構造体に使用されているものと同様な鋼板であればよい。例えば、従来のBCP325及び385N/mm2級コラムの規格のものであればよい。一般には、JISのSN490C、大臣認定規格の385N/mm2級厚板の板厚方向絞り規定のあるものなどが対象となる。
溶接継手形成のための溶接条件も特に限定されるものではなく、基本的には、従来のBCP325などと同様であればよい。すなわち、一般には、溶接電流は、溶接位置が辺部、角部のいずれの場合も200〜400A、溶接電圧は辺部、角部のいずれも22〜40V、溶接速度は辺部、角部のいずれも15〜60cm/min、入熱量は辺部で40kJ/cm以下、角部で30kJ/cm以下、パス間温度は半自動溶接の場合の辺部で350℃以下、半自動溶接の場合の角部、全自動溶接の場合の辺部および角部で250℃以下とすればよい。また、通しダイアフラムとコラムとの完全溶け込み溶接としての多層溶接における積層条件も、一般的な建築鉄骨製作管理に用いられるJASS6に準拠した積層法で溶接施工すればよい。
得られた溶接継手の角形鋼管側の角部の外面側溶接熱影響部の0℃での2mmVノッチシャルピー値(HAZ vE0)を調べた。シャルピー衝撃試験の試験方法および試験片採取位置は、角形鋼管の角部についてのシャルピー衝撃試験と同様である。
その試験結果(HAZ vE0)を、表10〜12中に示す。
12 ダイアフラム
14 梁
20 角形鋼管
20A 角部
22 溶接継手部
23 溶接金属
24 HAZ部(溶接熱影響部)
25 母材部
27 亀裂
Claims (10)
- 鋼成分(質量%)から計算される炭素当量Ceqが0.33%以上0.43%以下、溶接割れ感受性組成PCMが0.15%以上0.24%以下、溶接熱影響部靭性指標fHAZが0.30%以上0.47%以下の組成を有する鋼からなり、
鋼板元厚での引張試験における降伏強さが325〜505MPa、引張強さが490〜670MPa、降伏比が80%以下、鋼板元厚ままでの一様伸びが13%以上であり、
鋼板表裏面から採取した2mmVノッチシャルピー値が、−40℃で90J/cm2以上でしかも−10℃で180J/cm2以上である
ことを特徴とする冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板。
但し炭素当量Ceq、溶接割れ感受性組成PCM、溶接熱影響部靭性指標fHAZは、それぞれ次の通り定義される値である。
Ceq(%)=C+Mn/6+Si/24+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
PCM(%)=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B
fHAZ(%)=C+Mn/8+6×(P+S)+12×N−4×Ti
(但しNはトータル窒素、Ti≦0.005%のとき、Ti=0とする。) - 請求項1に記載の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板において、
板厚方向断面の1/4板厚位置で光学顕微鏡により観察した金属組織が、フェライト及び残部第2相からなり、かつフェライトの分率が30%以上で、かつ第2相がベイナイト及び/又はパーライトからなり、しかもフェライトの円相当平均直径が12μm以下であることを特徴とする冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板。 - 請求項1、請求項2のいずれかの請求項に記載の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板において、
前記鋼が、質量%で、C:0.06〜0.16%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.90〜2.00%、P:0.015%以下、S:0.006%以下、Al:0.005〜0.060%、Ti:0.005〜0.025%、N:0.001〜0.006%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板。 - 請求項3に記載の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板において、
前記鋼が、質量%で、さらにCa:0.0005〜0.005%を含有し、かつCa/Sの質量比が0.15以上であることを特徴とする冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板。 - 請求項3、請求項4のいずれかの請求項に記載の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板において、
前記鋼が、質量%で、さらにNb:0.005〜0.030%を含有することを特徴とする冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板。 - 請求項3〜請求項5のいずれかの請求項に記載の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板において、
前記鋼が、Cu、Ni、Cr、Moのうちのいずれか1種以上を、質量%で、それぞれ0.04%以下、合計0.10%以下含有することを特徴とする冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板。 - 請求項1〜請求項6のいずれかの請求項に記載の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板において、
板厚が9〜60mmの範囲内であることを特徴とする冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板。 - 請求項1〜請求項7のいずれかの請求項に記載の冷間プレス成形角形鋼管用厚鋼板を元板とした冷間プレス成形角形鋼管であって、
元板の板厚t(mm)が9〜60mmの範囲内にあり、
かつ角部の外曲げ半径(mm)が2.0t〜4.0tの範囲内であり、
さらに角部の曲げ外側表面直下から鋼管長さ方向に沿って採取した2mmVノッチシャルピー試験片によるシャルピー値が、−10℃で90J/cm2以上であることを特徴とする冷間プレス成形角形鋼管。 - 請求項8に記載の冷間プレス成形角形鋼管において、
角部における角形鋼管長さ方向の一様伸びが4%以上であることを特徴とする冷間プレス成形角形鋼管。 - 請求項8、請求項9のいずれかの請求項に記載の冷間プレス成形角形鋼管の端部を、鋼板からなるダイアフラムの板面に溶接してなる溶接継手であって、
前記角形鋼管の端部にレ形開先が形成されて、平均入熱7〜40kJ/cmによって角形鋼管のレ形開先とダイアフラムの板面との間が多層溶接によって溶接されており、
前記角形鋼管における角部の外面側溶接熱影響部の2mmVノッチシャルピー値が、0℃で90J/cm2以上であることを特徴とする溶接継手。
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