JP7396552B1 - 熱延鋼板、角形鋼管およびそれらの製造方法並びに建築構造物 - Google Patents

熱延鋼板、角形鋼管およびそれらの製造方法並びに建築構造物 Download PDF

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Abstract

強度および低温靱性に優れた低降伏比熱延鋼板を提供する。所定の成分組成を有し、板厚中心部の鋼組織が、フェライトである主相と、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率が6~25%、上部ベイナイトの面積率が5%以下である第二相とを有し、隣り合う結晶の方位差が15°以上の境界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、板厚中心部において、主相と第二相とを含む鋼組織の平均結晶粒径を10.0~30.0μmとし、かかる平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率を35%以上とし、さらに、短径に対する長径の比(長径)/(短径)が3.0以上の結晶粒の個数を30個/mm2以下とする。

Description

本発明は、角形鋼管に用いる低降伏比の熱延鋼板、および、該熱延鋼板を素材とし冷間でロール成形により製造され低降伏比と低温靱性を具備する角形鋼管(角コラム)、並びにそれらの製造方法に関する。特に、本発明は、大型建築物の建築構造部材に好適に用いられる角形鋼管に関する。また、本発明は、かかる角形鋼管を用いた建築構造物に関する。
近年、例えば工場、倉庫、商業施設などの大型建築物(以下、「建築物」と称する)に用いられる建築構造部材は、軽量化による施工コスト削減のため、高強度化が進んでいる。
特に、建築物の柱材として用いられる平板部と角部とを有する角形鋼管(角コラム)は、平板部に高い強度が求められると同時に、耐震性の観点から、優れた靱性を備えることが求められている。
角形鋼管は、一般に熱延鋼板(熱延鋼帯)または厚鋼板を素材とし、この素材を冷間で成形することにより製造される。冷間で成形する方法としては、冷間でプレス曲げ成形する方法あるいは冷間でロール成形する方法がある。
素材を、プレス曲げ成形して製造する角形鋼管(以下、「プレス成形角形鋼管」と称する場合もある)は、厚鋼板を冷間でプレス曲げ成形して断面形状をロの字型(四角形状)あるいはコの字型(U字形状)とし、これらをサブマージアーク溶接により接合して製造する。
一方、素材を、ロール成形して製造する角形鋼管(以下、「ロール成形角形鋼管」と称する場合もある)は、熱延鋼板を冷間でロール成形して円筒状のオープン管とし、その突合せ部分を電縫溶接して丸形鋼管を製造する。その後、丸形鋼管の上下左右に配置されたロールにより、円筒状の丸形鋼管に対して管軸方向に数%の絞りを加えた後、角形に成形して角形鋼管を製造する。
ロール成形角形鋼管の製造方法は、プレス成形角形鋼管の製造方法と比較して生産性が高く、短期間での製造が可能であるという利点がある。
ところが、プレス成形角形鋼管は、平板部に冷間成形が加わらず、角部が冷間成形されるため、角部のみが加工硬化する。これに対し、ロール成形角形鋼管では、特に、角形鋼管に成形する前段となる円筒状に冷間成形する際に、鋼管全周にわたって管軸方向に大きな加工ひずみが導入される。そのため、ロール成形角形鋼管は角部だけでなく平板部においても管軸方向の降伏比が高く、靱性が低いという問題があった。
加えて、ロール成形角形鋼管は、肉厚が大きいほどロール成形時の加工硬化が大きくなるため、降伏比はより高くなり、靱性はより低下する。そのため、特に、厚肉のロール成形角形鋼管を製造する場合には、ロール成形による降伏比の上昇および靱性の低下に耐えうるような素材を選択する必要がある。
このような要求に対し、例えば、特許文献1では、重量%で、Cを0.20%以下含有し、さらにMn:0.40~0.90%、Nb:0.005~0.040%およびTi:0.005~0.050%のうち1種または2種を含有する鋼素材を、未再結晶温度域における圧下率55%以上、圧延終了温度730~830℃、巻取温度550℃以下の熱延によりコイルとする熱延工程により得られた熱延コイルを成形し溶接により電縫鋼管としたのち、冷間加工で角形鋼管とするに際し、鋼管成形工程における外周長絞りを板厚の3倍以下とすることで、降伏比が90%以下で試験温度0℃におけるシャルピー吸収エネルギーが27J以上である角形鋼管が提案されている。
特許文献2では、質量%で、C:0.07~0.18%、Mn:0.3~1.5%を含む鋼を、加熱温度:1100~1300℃に加熱したのち、粗圧延終了温度:1150~950℃とする粗圧延と仕上圧延開始温度:1100~850℃、仕上圧延終了温度:900~750℃とする仕上圧延を施したあと、表面温度で冷却停止温度が550℃以上となるように冷却する一次冷却と、3~15s間空冷する二次冷却と、板厚中央部温度で750~650℃の温度域の平均冷却速度が4~15℃/sとなる冷却速度で650℃以下まで冷却する三次冷却とを施し、鋼組織に含まれる第二相頻度の値を0.20~0.42とすることによって厚肉熱延鋼板を得て、該厚肉熱延鋼板を冷間成形することにより、80%以下の低降伏比を示し試験温度:0℃でシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが150J以上の機械的特性を具備する角形鋼管が提案されている。
特許文献3では、質量%で、C:0.07~0.18%、Mn:0.3~1.5%を含む鋼を、加熱温度:1100~1300℃に加熱したのち、次いで粗圧延終了温度:1150~950℃とする粗圧延と仕上圧延開始温度:1100~850℃、仕上圧延終了温度:900~750℃とする仕上圧延を施したあと、表面温度で750~650℃の温度域の平均冷却速度が20℃/s以下、板厚中心部温度が650℃に到達するまでの時間が35s以内でかつ板厚中心部の750~650℃の温度域の平均冷却速度が4~15℃/sとなるように、500~650℃の巻取温度まで冷却することで得られた厚肉熱延鋼板を素材として、冷間成形することにより、80%以下の低降伏比を示し試験温度:0℃でシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが150J以上の機械的特性を具備する角形鋼管が提案されている。
特許文献4では、質量%で、C:0.07~0.20%、Mn:0.3~2.0%、P:0.03%以下、S:0.015%以下、Al:0.01~0.06%、N:0.006%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼を、加熱温度:1100~1300℃に加熱した後、粗圧延終了温度:1150~950℃とする粗圧延と仕上圧延開始温度:1100~850℃、仕上圧延終了温度:900~750℃とする仕上圧延を施したあと、板厚中心温度で冷却開始から冷却停止までの平均冷却速度が4~25℃/sとなる冷却速度で冷却停止温度:580℃以下まで冷却を施し、冷却開始から10s間である初期冷却工程において0.2s以上3.0s未満の放冷工程を1回以上有し、その後、巻取温度:580℃以下で巻取りを行ったあと、放冷することで板厚中心部の鋼組織が、フェライトからなる主相と、パーライト、擬似パーライトおよび上部ベイナイトから選択された1種または2種以上からなる面積率が8~20%である第二相とを有し、主相と第二相とを含む鋼組織の平均結晶粒径が7~20μmであり、板厚表裏面の鋼組織が、フェライト単相またはベイニティックフェライト単相であり、平均結晶粒径が2~20μmであり、90%以下の低降伏比を示し、試験温度:0℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが27J以上の機械的特性を具備する角形鋼管が提案されている。
特開平9-87743号公報 特開2012-153963号公報 特開2012-132088号公報 国際公開第2018/110152号
ここで、前記ロール成形角形鋼管は、前述の通り、その肉厚が大きくなるほど、加えて、辺の長さが小さくなるほど、角形鋼管に導入される加工歪が増加し、降伏比の上昇および靭性の低下の度合いがより大きくなる。
そのため、素材となる熱延鋼板には、成形時の降伏比の上昇を抑制する鋼組織と、大きな加工歪による靭性の悪化に耐えうる優れた低温靭性とが要求される。
しかしながら、前述した特許文献1~3で開示された方法で製造される角形鋼管では、特に肉厚が25mmを超えると、降伏比が高くなり過ぎて、降伏比90%以下を満足できないという課題がある。
また、特許文献4に記載の技術によって低降伏比および高靱性を得るためには、板厚表裏面の鋼組織をフェライト単相またはベイニティックフェライト単相にする必要が有り、このような鋼組織を得るためには冷却工程中に放冷工程を設ける必要があり、すなわち追加の工程が必要となるため、製造工程が複雑になるという課題がある。
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであって、降伏強度および引張強度が高く、降伏比が低く、管軸方向および管周方向の低温靭性並びに加工硬化性に優れた角形鋼管に用いることができる熱延鋼板を、その熱延鋼板を用いた角形鋼管およびそれらの製造方法並びにその角形鋼管を用いた建築構造物と共に提供することを目的とする。
ここで、本発明における熱延鋼板について、(1)降伏比が低いこと、(2)降伏強度が高いこと、(3)引張強度が高いこととは、いずれも引張方向が圧延方向と平行になるように採取したJIS5号引張試験片を用い、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠した引張試験による結果が、順に、(1)降伏比が0.75以下であること、(2)降伏強度が250MPa以上であること、(3)引張強度が400MPa以上であること、である。
また、加工硬化性とは、均一伸び(引張試験の最高荷重点における塑性伸び)を評価する指標であり、JIS Z 2253(2011)により規定される加工硬化指数n3-7が0.20以上であることを指す。すなわち、熱延鋼板の加工硬化指数n3-7が0.20に満たないと、角形鋼管に製造した際、角形鋼管の平板部の均一伸びが減少して耐震性が低下し、角形鋼管の平板部の降伏比が0.90を超える場合がある。
さらに、低温靭性に優れるとは、JIS Z 2242(2018)の規定に準拠し、板厚tのt/2位置(板厚中心)において、試験片長手方向が圧延方向と平行となるように採取したVノッチ標準試験片を用い、試験温度:-80℃、-60℃、-40℃、-20℃、0℃のそれぞれでシャルピー衝撃試験を行い、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーが100J以上、延性-脆性遷移温度が-20℃以下であることを指す。
加えて、本発明において、低降伏比角形鋼管とは、引張方向が管軸方向と平行になるように、採取したJIS5号引張試験片を用い、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠した引張試験による結果が、平板部における降伏強度が295MPa以上であって、平板部における引張強度が400MPa以上であり、平板部における降伏比が0.90以下であること、平板部における均一伸びが5.0%以上、並びに、管外面から肉厚tの1/4t位置において、試験片長手方向が管軸方向と平行となるように、角形鋼管の平板部から採取したVノッチ標準試験片を用いて、JIS Z 2242(2018)の規定に準拠したシャルピー衝撃試験を、試験温度:-60℃、-40℃、-20℃、0℃で行い、平板部における管軸方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーが60J以上であって、平板部の延性-脆性遷移温度が-10℃以下である角形鋼管を指す。
また、本発明において、より優れた低降伏比角形鋼管とは、JIS Z 2242(2018)の規定に準拠し、管外面から肉厚tのt/4位置において、試験片長手方向が管周方向と平行となるように採取したVノッチ標準試験片を用い、平板部における管軸方向および管周方向の―20℃におけるシャルピー吸収エネルギーをそれぞれ測定し、管軸方向に対する管周方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比Pが0.5~1.2である角形鋼管を指す。
ただし、P=(管周方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー)/(管軸方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー)
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、以下の知見(1)~(3)を得た。
(1)熱延鋼板が、本発明で目的とする降伏強度および引張強度を満足するためには、Cの含有量を0.07質量%以上とすることおよび、熱延鋼板の板厚中心部における主相をフェライトとすることが必要である。
(2)熱延鋼板が、本発明で目的とする低温靱性と降伏比を得るためには、上記(1)に記載の主相に加えて、板厚中心部において、パーライト、擬似パーライトおよび上部ベイナイトのうちの1種または2種以上で構成された第二相を有し、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率を6~25%、上部ベイナイトの面積率を5%以下とし、板厚中心部において、隣り合う結晶の方位差が15°以上の境界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、主相と第二相とを含むかかる結晶粒の平均結晶粒径を10.0~30.0μmの範囲とし、前記結晶粒のかかる平均結晶粒径の±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率を35%以上とし、さらに、前記結晶粒のうち、長径と短径の比(=(長径)/(短径))が3.0以上の結晶粒の個数密度を30個/mm以下とすることが必要である。
(3)上記(1)および(2)に記載の鋼組織を得るためには、成分組成を適切な範囲に調整した上で、特にMnおよびSiの含有量を特定の範囲に制御すること、さらに熱間圧延工程における粗圧延終了後に所定時間経過した後に仕上圧延を開始することに加え、巻取り後に所定の温度範囲を所定時間保つことが必要である。
本発明は、かかる知見に基づいて、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
1.熱延鋼板であって、
質量%で、
C:0.07%以上0.20%以下、
Si:0.40%以下、
Mn:0.20%以上1.00%以下、
P:0.100%以下、
S:0.050%以下、
Al:0.005%以上0.100%以下および
N:0.0100%以下
を含み、残部がFeおよび不可避的不純物であって、かつ、MnおよびSiの含有量が以下の式(1)を満足する成分組成を有し、
板厚中心部の鋼組織が、フェライトである主相と、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率が6~25%であって上部ベイナイトの面積率が5%以下である第二相とを有し、
前記板厚中心部の鋼組織において、隣り合う結晶の方位差が15°以上の境界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、かかる結晶粒の平均結晶粒径が10.0~30.0μmであって、前記結晶粒のうち、かかる平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率が35%以上であり、さらに、前記結晶粒のうち、短径に対する長径の比である(長径)/(短径)が3.0以上である結晶粒の個数密度が30個/mm以下である、熱延鋼板。
1.0≦%Mn/%Si≦3.5 ・・・(1)
ここで、%Mn、%Siは各元素の鋼板中の含有量(質量%)である。
2.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Nb:0.005%以上0.020%以下、
Ti:0.005%以上0.020%以下、
V:0.01%以上0.10%以下、
Cr:0.01%以上0.50%以下、
Mo:0.01%以上0.50%以下、
Cu:0.01%以上0.30%以下、
Ni:0.01%以上0.30%以下、
Ca:0.0005%以上0.0100%以下および
B:0.0003%以上0.0100%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含む、前記1に記載の熱延鋼板。
3.板厚が12mm以上である、前記1または2に記載の熱延鋼板。
4.前記1または2に記載の成分組成を有する鋼素材を、加熱温度:1100℃以上1300℃以下に加熱し、
次いで、熱間圧延として、粗圧延終了温度:850℃以上1150℃以下とする粗圧延を施し、かかる粗圧延の終了後15s以上経過したのちに仕上圧延を開始し、仕上圧延終了温度:750℃以上850℃以下とし、かつ熱間圧延工程全体で930℃以下での合計圧下率:40%以上59%以下とする前記熱間圧延を行い、
次いで、前記熱間圧延で得られた素材鋼板に対して、板厚中心の平均冷却速度Vc(℃/s)が以下の式(2)を満足し、板厚中心の冷却停止温度:550℃以上680℃以下である冷却を行い、
次いで、前記素材鋼板について、板厚中心温度:550℃以上680℃以下で巻取りを行い、
次いで、前記巻取りで得られた巻取り鋼板について、400℃から300℃の温度範囲で1.0h以上10.0h以下の間滞留させる第2冷却を行う、熱延鋼板の製造方法。
4≦Vc≦20 ・・・(2)
5.前記1~3のいずれか1つに記載の熱延鋼板を素材とする角形鋼管。
6.前記5に記載の角形鋼管であって、管軸方向に対する管周方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比Pが0.5~1.2の範囲である角形鋼管。
ただし、P=(管周方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー)/(管軸方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー)
7.前記4に記載の熱延鋼板の製造方法で得られた熱延鋼板を、冷間でロール成形することにより角形鋼管とする角形鋼管の製造方法。
8.前記5または6に記載の角形鋼管を柱材として備える建築構造物。
本発明によれば、低降伏比角形鋼管に用いることができ、降伏強度および引張強度が高く、降伏比が低く、低温靭性および加工硬化性に優れた熱延鋼板を得る技術が提供される。
さらに、本発明の角形鋼管を柱材として使用した建築構造物は、従来の冷間成形して製造される角形鋼管を使用した建築構造物と比べて、より優れた耐震性能を得ることができる。
巻取り後の鋼板の温度測定位置を示す概略図である。 本発明の角形鋼管を使用した建築構造物の一例を模式的に示す斜視図である。 実施例で行った平板部引張試験に供する試験片の採取位置を示す概略図である。 実施例で行ったシャルピー衝撃試験に供する試験片の採取位置を示す概略図である。
以下、本発明について説明する。
<低降伏比熱延鋼板>
本発明の低降伏比角形鋼管(以下、単に「角形鋼管」ともいう)に用いる低降伏比熱延鋼板(以下、単に「熱延鋼板」ともいう)は、質量%で、C:0.07%以上0.20%以下、Si:0.40%以下、Mn:0.20%以上1.00%以下、P:0.100%以下、S:0.050%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、およびN:0.0100%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物であって、かつMnおよびSiの含有量が以下の式(1)を満足する成分組成を有する。また、上記熱延鋼板は、板厚中心部の鋼組織が、フェライトである主相と、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率が6~25%、上部ベイナイトの面積率が5%以下である第二相とを有する。また、上記熱延鋼板は、前記板厚中心部の鋼組織において、隣り合う結晶の方位差が15°以上の境界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、かかる結晶粒の平均結晶粒径が10.0~30.0μmであって、前記結晶粒のうち、かかる平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率が35%以上であり、さらに、前記結晶粒のうち、短径に対する長径の比である(長径)/(短径)が3.0以上である結晶粒の個数密度が30個/mm以下であることを特徴とするものである。なお、本発明の「熱延鋼板」には、熱延鋼板、熱延鋼帯を含むものとする。
1.0≦%Mn/%Si≦3.5 ・・・(1)
ここで、%Mn、%Siは各元素の鋼板中の含有量(質量%)である。
以下に、本発明の熱延鋼板の成分組成について説明する。なお、特に断りがない限り、鋼組成を示す「%」は「質量%」である。
C:0.07%以上0.20%以下
Cは、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素である。また、Cは、第二相の一つであるパーライトおよび擬似パーライトの形成に寄与する元素である。本発明で目的とする強度および降伏比を確保するためには、0.07%以上のCを含有することが必要である。一方、C含有量が0.20%を超えると、硬質相の割合が高くなって靱性が低下するだけでなく、降伏比が0.90を超えてしまい、所望の降伏比が得られなくなる。また、溶接性も悪化する。このため、C含有量は0.07%以上0.20%以下とする。C含有量は、好ましくは0.08%以上である。また、C含有量は、好ましくは0.18%以下であり、より好ましくは0.17%以下である。
Si:0.40%以下
Siは、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素である。Siの下限は特に規定しない(通常は0%超えである)が、このような効果を得るためには、0.01%以上のSiを含有することが望ましい。Si含有量は、より望ましくは0.05%以上である。一方、Si含有量が0.40%を超えると、電縫溶接部に酸化物が生成しやすくなり、溶接部特性が低下する。また、電縫溶接部以外の母材部の靱性も低下する。このため、Si含有量は0.40%以下とする。好ましくは0.37%以下であり、より好ましくは0.35%以下である。
Mn:0.20%以上1.00%以下
Mnは、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素である。また、Mnは、フェライト変態開始温度を低下させることで組織の微細化に寄与する元素である。本発明で目的とする強度および組織を確保するためには、0.20%以上のMnを含有することが必要である。一方、Mn含有量が1.00%を超えると、ベイナイトの生成量が多くなりすぎることで降伏比が0.90を超え、所望の降伏比が得られなくなる。また、Mn含有量が1.00%を超えると、中心偏析部の硬度が上昇し、溶接時に割れの原因となる可能性が有る。このため、Mn含有量は0.20%以上1.00%以下とする。Mn含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.30%以上である。また、Mn含有量は、好ましくは0.95%以下であり、より一層好ましくは0.90%以下である。
P:0.100%以下
Pは、粒界に偏析し材料の不均質を招くため、できるだけ低減することが好ましいが、0.100%の含有量までは許容できる。このため、P含有量は0.100%以下とする。P含有量は、好ましくは0.030%以下であり、より好ましくは0.020%以下である。特にPの下限は規定しない(通常は0%超えである)が、過度の低減は製錬コストの高騰を招くため、Pは、0.002%以上とすることが好ましい。
S:0.050%以下
Sは、鋼中では通常、MnSとして存在するが、MnSは、熱間圧延工程で薄く延伸され、延性に悪影響を及ぼす。このため、本発明ではSをできるだけ低減することが好ましいが、0.050%の含有量までは許容できる。このため、S含有量は0.050%以下とする。S含有量は、好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下であり、より一層好ましくは0.008%以下である。なお、特にSの下限は規定しない(通常は0%超えである)が、過度の低減は製錬コストの高騰を招くため、Sは0.0002%以上とすることが好ましい。
Al:0.005%以上0.100%以下
Alは、強力な脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためには、0.005%以上のAlを含有することが必要である。一方、Al含有量が0.100%を超えると溶接性が悪化するとともに、アルミナ系介在物が多くなり、表面性状が悪化する。また溶接部の靱性も低下する。このため、Al含有量は0.005%以上0.100%以下とする。Al含有量は、好ましくは0.010%以上であり、より好ましくは0.015%以上である。また、Al含有量は、好ましくは0.070%以下であり、より好ましくは0.050%以下である。
N:0.0100%以下
Nは、転位の運動を強固に固着することで靭性を低下させる作用を有する元素である。本発明では、Nはできるだけ低減することが望ましいが、Nの含有量は0.0100%までは許容できる。このため、N含有量は0.0100%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0080%以下であり、より好ましくは0.0040%以下であり、より一層好ましくは0.0035%以下である。なお、Nの下限は特に規定しない(通常は0%超えである)が、過度の低減は製錬コストの高騰を招くため、N含有量は0.0010%以上とすることが好ましく、0.0015%以上とすることがより好ましい。
1.0≦%Mn/%Si≦3.5
ここで、上記式中の%Mn、%Siは各元素の鋼板中の含有量(質量%)である。
本発明では、MnおよびSiの含有量を前記した範囲とし、さらに1.0≦%Mn/%Si≦3.5の関係を満足することが必要である。
本関係式を満足することで、後述するような、パーライトおよび/または擬似パーライトの面積率が6~25%、上部ベイナイトの面積率が5%以下である第二相を有した鋼組織を得ることが可能となり、本発明で目的とする強度、降伏比、シャルピー吸収エネルギー、延性-脆性遷移温度を得ることができる。%Mn/%Siの値は、好ましくは、1.2以上であり、より好ましくは1.4以上である。また、%Mn/%Siの値は、好ましくは、3.2以下であり、より好ましくは3.0以下である。
上記成分組成において、残部はFeおよび不可避的不純物である。ただし、本発明の効果を損なわない範囲において、Oを0.005%以下含有することを拒むものではない。なお、かかるOは、酸化物としてのOを含むトータル酸素のことを指す。
また、本発明では、後述する任意元素となるNb、Ti、V、Cr、Mo、Cu、Ni、CaおよびBについて、Nb:0.005%未満、Ti:0.005%未満、V:0.01%未満、Cr:0.01%未満、Mo:0.01%未満、Cu:0.01%未満、Ni:0.01%未満、Ca:0.0005%未満およびB:0.0003%未満となる範囲は、いずれも不可避的不純物に含まれるものとする。
上記の成分が本発明における熱延鋼板の基本の成分組成である。上記した成分組成で本発明で目的とする特性は得られるが、当該成分組成は、必要に応じて以下の元素を含むことができる。
具体的には、Nb:0.005%以上0.020%以下、Ti:0.005%以上0.020%以下、V:0.01%以上0.10%以下、Cr:0.01%以上0.50%以下、Mo:0.01%以上0.50%以下、Cu:0.01%以上0.30%以下、Ni:0.01%以上0.30%以下、Ca:0.0005%以上0.0100%以下およびB:0.0003%以上0.0100%以下のうちから選んだ1種または2種以上である。
Nb:0.005%以上0.020%以下、Ti:0.005%以上0.020%以下
NbおよびTiは、鋼中で微細な炭化物、窒化物を形成し、析出強化を通じて鋼の強度向上に寄与する元素である。このような効果を得るため、Nbを含有する場合は、0.005%以上とすることが好ましい。また、Tiを含有する場合は、0.005%以上とすることが好ましい。一方、Nb、Tiのそれぞれについて、0.020%を超える含有は、粗大な炭化物、窒化物が形成され、靱性の低下を招くおそれがある。
このため、Nbを含有する場合は、0.020%以下の範囲とし、Tiを含有する場合は、0.020%以下の範囲とする。Nb、Tiのそれぞれの含有量について、より好ましくは0.007%以上であり、さらに好ましくは0.009%以上である。また、Nb、Tiのそれぞれの含有量について、好ましくは0.018%以下であり、好ましくは0.016%以下である。
V:0.01%以上0.10%以下、Cr:0.01%以上0.50%以下、Mo:0.01%以上0.50%以下
V、Cr、Moは、鋼の焼入れ性を高め、鋼の強度を上昇させる元素であり、必要に応じて含有することができる。上記した効果を得るため、V、Cr、Moを含有する場合には、それぞれV:0.01%以上、Cr:0.01%以上、Mo:0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくは、それぞれV:0.02%以上、Cr:0.10%以上、Mo:0.10%以上である。
一方、過度の含有は、靱性の低下および溶接性の悪化を招くおそれがある。よって、V、Cr、Moを含有する場合には、それぞれV:0.10%以下、Cr:0.50%以下、Mo:0.50%以下とする。好ましくは、それぞれV:0.08%以下、Cr:0.40%以下、Mo:0.40%以下である。
Cu:0.01%以上0.30%以下、Ni:0.01%以上0.30%以下
Cu、Niは、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素であり、必要に応じて含有することができる。上記した効果を得るため、Cu、Niを含有する場合には、それぞれCu:0.01%以上、Ni:0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくは、Cu:0.10%以上、Ni:0.10%以上である。一方、過度の含有は、靱性の低下および溶接性の悪化を招くおそれがある。よって、Cu、Niを含有する場合には、それぞれCu:0.30%以下、Ni:0.30%以下とする。好ましくは、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下である。
Ca:0.0005%以上0.0100%以下
Caは、熱間圧延工程で薄く延伸されるMnS等の硫化物を球状化することで鋼の靱性向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有することができる。このような効果を得るため、Caを含有する場合は、0.0005%以上とすることが好ましい。より好ましくは、Ca含有量は0.0010%以上である。一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、鋼中にCa酸化物クラスターが形成され、靱性が悪化する場合がある。このため、Caを含有する場合は、0.0100%以下とする。好ましくは、Ca含有量は0.0050%以下である。
B:0.0003%以上0.0100%以下
Bは、フェライト変態開始温度を低下させることで組織の微細化に寄与する元素である。このような効果を得るため、Bを含有する場合は、0.0003%以上とすることが好ましい。より好ましくは、B含有量は0.0005%以上である。一方、B含有量が0.0100%を超えると、降伏比が上昇する場合がある。このため、Bを含有する場合は、0.0100%以下とする。好ましくは、B含有量は0.0050%以下である。
次に、本発明の熱延鋼板の鋼組織を限定した理由について説明する。
本発明の熱延鋼板は、板厚中心部の鋼組織が、フェライトである主相と、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率が6~25%、上部ベイナイトの面積率が5%以下である第二相とを有し、前記板厚中心部の鋼組織において、隣り合う結晶の方位差が15°以上の境界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、かかる結晶粒の平均結晶粒径が10.0~30.0μmであって、前記結晶粒のうち、かかる平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率が35%以上であり、さらに、前記結晶粒のうち、短径に対する長径の比である(長径)/(短径)が3.0以上である結晶粒の個数密度が30個/mm以下である。
なお、本発明において、結晶粒径とは、対象となる結晶粒と面積が等しい円の直径(円相当径)とする。
フェライト(主相)
フェライトは軟質な組織であり、所望の降伏強度および低降伏比を得るため、本発明において主相とする。なお、「主相」とは、面積率が50%以上であることを指す。フェライトの面積率が50%未満であると、降伏応力が過度に大きくなり、また加工硬化指数が小さくなり、所望の降伏比が得られない場合がある。また、上述した降伏応力及び降伏比の観点から、フェライトの面積率は好ましくは70%以上であり、より好ましくは72%以上である。一方、フェライトの面積率が94%を超えると強度が低下し、所望の降伏強度および引張強度が得られない場合がある。そのため、フェライトは面積率で94%以下であり、好ましくは、フェライトは面積率で92%以下である。
パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率:6~25%、上部ベイナイトの面積率:5%以下(第二相)
パーライトおよび擬似パーライトは硬質な組織であり、鋼の強度を上昇させ、また低降伏比を得るために最も重要な鋼組織である。本発明で目的とする降伏強度、引張強度、降伏比を得るためには、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率を6%以上とすることが必要である。好ましくは7%以上であり、より好ましくは9%以上である。一方、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率が25%を超えると靱性が悪化する場合がある。そのため、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率は25%以下であることが必要である。好ましくは23%以下であり、より好ましくは21%以下である。
なお、上記擬似パーライトの面積率は5%以上であることが好ましい。擬似パーライトが面積率で5%以上存在すると、角形鋼管を製造した時に降伏比が低く抑えられるため、より優れた耐震性が得られる。一方、上記擬似パーライトの面積率を15%超えとするためには、熱間圧延における冷却工程でパーライトが生成する温度範囲を急冷する必要があり、製造条件が限定される。そのため、上記擬似パーライトの面積率は15%以下が好ましい。
また、上部ベイナイトは、フェライトとパーライトの中間的な硬さを有する組織であり、鋼の強度を上昇させる。しかしながら、上部ベイナイトの面積率が5%を超えると、本発明で目的とする低降伏比が得られない。そのため、上部ベイナイトの面積率が5%以下であることが必要である。好ましくは4%以下である。上部ベイナイトは0%であってもよい。
なお、本発明では、前記主相および前記第二相以外の組織は、オーステナイトおよびマルテンサイトである。
また、フェライト、パーライト、擬似パーライト、上部ベイナイトの面積率は、後述する方法で測定することができる。
板厚中心部の鋼組織において、隣り合う結晶の方位差が15°以上の境界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、かかる結晶粒の平均結晶粒径が10.0~30.0μmであって、前記結晶粒のうち、かかる平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率が35%以上であり、さらに、前記結晶粒のうち、短径に対する長径の比である(長径)/(短径)が3.0以上である結晶粒の個数密度が30個/mm以下
本発明の鋼組織は、本発明で目的とする低降伏比、降伏強度、および引張強度を得るために、軟質組織と硬質組織とを混合させた鋼(以下、「複合組織鋼」と称する)とする。
ところが、かかる複合組織鋼は、単一組織鋼と比較して靱性が悪い。そこで、本発明では、上記の機械的特性と優れた靱性とを両立するため、結晶方位差が15°以上の境界によって囲まれた領域を結晶粒としたとき、鋼板の板厚中心部において、主相と第二相を含む鋼組織の結晶粒径、粗大な結晶粒の面積率、および伸長した結晶粒の個数密度を規定する。
前記結晶粒の平均結晶粒径(平均円相当径)が10.0μm未満であると、降伏比が増加して本発明で目的とする降伏比が得られない。一方、前記平均結晶粒径が30.0μmを超えると、靱性が悪化する。そのため、主相と第二相とを含む鋼組織の平均結晶粒径は、10.0~30.0μmの範囲であることが必要である。上記平均結晶粒径は、好ましくは11.0μm以上であり、より好ましくは12.5μm以上である。また、上記平均結晶粒径は28.0μm以下が好ましく、より好ましくは26.0μm以下である。
ここで、本発明者らの検討中、平均結晶粒径が10.0~30.0μmの範囲内であっても、本発明で目的とする降伏比およびシャルピー吸収エネルギーを得られない場合があった。そこで、本発明者らがさらに検討した結果、本発明で目的とする靱性および降伏比を得るためには、前記平均結晶粒径の±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率および伸長した結晶粒の個数密度が極めて重要であることが分かった。
具体的には、鋼板の板厚中心部において、上記面積率が35%以上、かつ、短径に対する長径の比である(長径)/(短径)が3.0以上の結晶粒の個数密度が30個/mm以下の組織であることが必要である。
結晶方位差、平均結晶粒径、および平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率は、いずれもSEM/EBSD法によって測定することが可能である。なお、本発明では、後述する方法で測定することができる。
上記した成分組成および鋼組織を満足することにより、本発明の目的とする強度、降伏比および靱性(-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー、延性-脆性遷移温度)を有した熱延鋼板を得ることが可能となる。
すなわち、本発明の熱延鋼板では、降伏強度を250MPa以上、引張強度を400MPa以上、降伏比を0.75以下、塑性ひずみ3~7%における加工硬化指数を0.20以上、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーを100J以上、延性-脆性遷移温度を-20℃以下とすることができる。
そして、かかる熱延鋼板を用いることで、後述の角形鋼管を得ることを可能にする。
なお、本発明の熱延鋼板は、板厚が12mm以上であることが好ましく、板厚を12~32mmの範囲とすることがより好ましい。
次に、本発明の熱延鋼板の製造方法として、本発明の一実施形態に係る熱延鋼板の製造方法を説明する。
本発明の熱延鋼板の製造方法は、例えば、まず、前記した成分組成を有する鋼素材を、加熱温度:1100℃以上1300℃以下に加熱する(加熱工程)。次いで、熱間圧延として、粗圧延終了温度:850℃以上1150℃以下とする粗圧延を施し、かかる粗圧延の終了後15s以上経過したのちに仕上圧延を開始し、仕上圧延終了温度:750℃以上850℃以下とし、かつ熱間圧延工程全体で930℃以下での合計圧下率:40%以上59%以下とする熱間圧延を行う(熱間圧延工程)。次いで、上記熱間圧延で得られた素材鋼板に対して、板厚中心の平均冷却速度Vc(℃/s)が以下の式(2)を満足し、板厚中心の冷却停止温度:550℃以上680℃以下である冷却を行う(冷却工程)。次いで、前記素材鋼板について、板厚中心温度:550℃以上680℃以下で巻取りを行う(巻取工程)。次いで、上記巻取工程で得られた巻取り鋼板について、400℃から300℃の温度範囲で1.0h以上10.0h以下の間滞留させる第2冷却を行う(第2冷却工程)。これにより、本発明の熱延鋼板が得られる。
4≦Vc≦20 ・・・(2)
以下に、熱延鋼板の製造方法をさらに具体的に記載する。なお、以下の製造方法の説明において、温度に関する「℃」表示は、特に断らない限り、鋼素材や鋼板(熱延板、素材鋼板、熱延鋼板)(以下、鋼板等ともいう)の表面温度とする。これらの表面温度は、放射温度計等で測定することができる。また、鋼板等の板厚中心の温度は、鋼板等の断面内の温度分布を伝熱解析により計算し、その結果を鋼板等の表面温度によって補正することで求めることができる。
本発明において、鋼素材(鋼スラブ)の溶製方法は特に限定されず、転炉、電気炉、真空溶解炉等の公知の溶製方法のいずれもが適合する。鋳造方法も特に限定されないが、連続鋳造法等の公知の鋳造方法により、所望寸法に製造される。なお、連続鋳造法に代えて、造塊-分塊圧延法を適用しても何ら問題はない。溶鋼にはさらに、取鍋精錬等の二次精錬を施してもよい。
次いで、加熱工程として、得られた鋼素材(鋼スラブ)を、加熱温度:1100℃以上1300℃以下に加熱する。次いで、熱間圧延工程として、粗圧延終了温度:850℃以上1150℃以下とする粗圧延を施し、かかる粗圧延の終了後15s以上経過したのちに仕上圧延を開始し、仕上圧延終了温度:750℃以上850℃以下とし、かつ、熱間圧延工程全体で930℃以下での合計圧下率:40%以上59%以下とする熱間圧延を行い、熱延鋼板用の素材鋼板を得る。
加熱温度:1100℃以上1300℃以下
加熱工程において、加熱温度が1100℃未満である場合、被圧延材の変形抵抗が大きくなり圧延が困難となる。一方、加熱温度が1300℃を超えると、オーステナイト粒が粗大化し、後の圧延(粗圧延、仕上圧延)において微細なオーステナイト粒が得られず、本発明で目的とする熱延鋼板の鋼組織の平均結晶粒径を確保することが困難となる。また、粗大なベイナイトの生成を抑制することが困難となり、平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率を、本発明で目的とする範囲に制御することが難しい。このため、加熱工程における加熱温度は、1100℃以上1300℃以下とする。より好ましくは1120℃以上である。また、加熱工程における加熱温度は、より好ましくは1280℃以下である。
なお、本発明では、鋼スラブ(スラブ)を製造した後、一旦室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、室温まで冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入する、直送圧延の省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
粗圧延終了温度:850℃以上1150℃以下
熱間圧延工程において、粗圧延終了温度が850℃未満である場合、後の仕上圧延中に鋼板表面温度がフェライト変態開始温度以下になり、多量のフェライトが生成し、パーライトおよび擬似パーライトの面積率が減少するため、本発明で目的とする低降伏比角形鋼管を得ることが困難になる。一方、粗圧延終了温度が1150℃を超えると、オーステナイト未再結晶温度域での圧下量が不足し、微細なオーステナイト粒が得られない。その結果、本発明で目的とする熱延鋼板の鋼組織が得られずに、鋼板の板厚中心部において、隣り合う結晶の方位差が15°以上の境界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、かかる結晶粒の平均結晶粒径が10.0~30.0μmであり、かつ、かかる結晶粒のうち短径に対する長径の比(長径)/(短径)が3.0以上の個数密度が30個/mm以下であり、平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒が面積率で35%以上の鋼組織を得ることが困難となる。また、粗大なベイナイトの生成を抑制することが困難となる。このため、粗圧延終了温度は、850℃以上1150℃以下とする。好ましくは860℃以上であり、より好ましくは870℃以上である。また、粗圧延終了温度は、好ましくは1100℃以下であり、より好ましくは1050℃以下である。
粗圧延終了後から仕上圧延開始までの経過時間:15s以上
熱間圧延工程において、粗圧延終了後から仕上圧延開始までの時間が15s未満の場合、オーステナイトの結晶粒径にバラつきが大きくなり、本発明で目的とする、鋼板の板厚中心部において、平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率を35%以上とすることが困難になる。また、後述する管軸方向に対する管周方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比P(以下、「エネルギーの比P」という)が0.5~1.2を有する低降伏比角形鋼管を得ることが困難になる。上記時間は、好ましくは18s以上であり、より好ましくは20s以上である。粗圧延終了から仕上圧延開始までの時間に上限は特に規定しないが、生産性の観点から300s以下が好ましく、より好ましくは280s以下である。
仕上圧延終了温度:750℃以上850℃以下
熱間圧延工程において、仕上圧延終了温度が750℃未満である場合、仕上圧延中に鋼板表面温度がフェライト変態開始温度以下になり、圧延方向に伸長したフェライトが形成され、加工性が低下する可能性が有る。一方、仕上圧延終了温度が850℃を超えると、オーステナイト未再結晶温度域での圧下量が不足し、微細なオーステナイト粒が得られない。その結果、結晶粒が粗大になり、本発明で目的とする強度の確保が困難となる。また、粗大なベイナイトの生成を抑制することが困難となる。このため、仕上圧延終了温度は、750℃以上850℃以下とする。仕上圧延終了温度は、好ましくは770℃以上であり、より好ましくは780℃以上である。また、仕上圧延終了温度は、好ましくは830℃以下であり、より好ましくは820℃以下である。
930℃以下の合計圧下率:40%以上59%以下
本発明では、前記粗圧延および前記仕上圧延を行う熱間圧延工程において、オーステナイト中のサブグレインを微細化することで、続く冷却工程、巻取工程で生成するフェライト、ベイナイトを微細化し、本発明で目的とする強度および靱性を有する熱延鋼板の鋼組織を得る。熱間圧延工程においてオーステナイト中のサブグレインを微細化するためには、オーステナイト未再結晶温度域での圧下率を高くし、十分な加工ひずみを導入する必要がある。しかしながら、合計圧下率が59%を超えると、長径と短径の比が大きな結晶粒が生成し易く、靱性の低下を招く。そのため、本発明では、930℃以下の合計圧下率を59%以下とした。好ましくは57%以下であり、より好ましくは55%以下である。一方、930℃以下の合計圧下率が40%未満になると、フェライトやベイナイトの結晶粒径が大きくなり、靱性の低下を招く。そのため、930℃以下の合計圧下率は40%以上とした。好ましくは42%以上であり、より好ましくは45%以上である。
なお、圧下率の合計を930℃以下で規定したのは、圧延工程において、930℃超ではオーステナイトが再結晶し、圧延により導入された転位が消失してしまい、微細化したオーステナイトが得られないためである。
上記した合計圧下率とは、930℃以下の温度域における各圧延パスの圧下率の合計を指す。
本発明では、加熱した鋼素材(スラブ)を熱間圧延するに際し、前記した粗圧延および仕上圧延の両方にまたがって930℃以下の合計圧下率を40%以上59%以下とする熱間圧延としてよい。あるいは、仕上圧延のみで930℃以下の合計圧下率を40%以上59%以下としてもよい。すなわち、仕上圧延のみで930℃以下の合計圧下率を40%以上59%以下とすることができない場合には、粗圧延の途中で、鋼素材(スラブ)を冷却して温度を930℃以下とした後、粗圧延および仕上圧延の両方における930℃以下の圧下率の合計が40%以上59%以下となるように圧延すればよい。
熱間圧延工程後、冷却工程として、熱延鋼板用の素材鋼板(以下単に素材鋼板とも記す。熱延板ともいう。)に冷却を施す。この冷却工程では、板厚中心の平均冷却速度Vc(℃/s)が以下の式(2)を満足し、板厚中心の冷却停止温度:550℃以上680℃以下である条件で冷却する。
4≦Vc≦20 ・・・(2)
板厚中心の平均冷却速度Vc:4℃/s以上20℃/s以下
冷却工程において、板厚中心の平均冷却速度Vcが4℃/s未満では、フェライトの核生成頻度が減少し、フェライト粒が粗大化するため、所望の強度を得られない。一方で、上記平均冷却速度Vcが20℃/sを超えると、多量の上部ベイナイトが生成し、本発明で目的とする降伏比が得られない。平均冷却速度Vcは、好ましくは6℃/s以上であり、より好ましくは8℃/s以上である。また、好ましくは18℃/s以下であり、より好ましくは16℃/s以下である。
本発明では、結晶粒径が粗大になることを抑制する観点から、仕上圧延終了後直ちに冷却を開始することが好ましい。
板厚中心の冷却停止温度:550℃以上680℃以下
冷却工程において、板厚中心の冷却停止温度が550℃未満では、冷却中に素材鋼板の長さ方向および/または幅方向で温度ムラが生じやすく、機械的特性にバラつきが生じる可能性が有る。一方で、板厚中心の冷却停止温度が680℃を超えると、フェライト粒が粗大化し、所望の結晶粒径が得られない。なお、板厚中心の冷却停止温度は、好ましくは560℃以上であり、より好ましくは580℃以上である。また、好ましくは660℃以下であり、より好ましくは650℃以下である。
本発明において、板厚中心の平均冷却速度Vc(℃/s)は、板厚中心における冷却開始から冷却停止までの温度域における平均冷却速度である。また、上記平均冷却速度は、((冷却前の素材鋼板の温度-冷却後の素材鋼板の温度)/冷却時間)で求められる値であり、伝熱解析によって得られた素材鋼板断面内の温度分布から算出することができる。
冷却方法は、ノズルからの水の噴射等の水冷や、冷却ガスの噴射による冷却等が挙げられる。
冷却工程においては、素材鋼板(熱延板)の両面が同条件で冷却されるように、素材鋼板両面に冷却操作(処理)を施すことが好ましい。また、上記した冷却速度を得るために、冷却水または冷却ガスの量や圧力、噴射時間・角度および素材鋼板の搬送速度等を調整することができる。特に、本発明で規定した冷却速度が得られるように、あらかじめ伝熱解析を行って素材鋼板の冷却処理の条件を決定したのち、この条件を製造条件に反映させることができる。
上記冷却工程後に、巻取工程として、素材鋼板を巻取る。この巻取工程では、鋼板組織の観点より、素材鋼板の板厚中心温度(巻取温度):550℃以上680℃以下で巻取りを行う。巻取温度が550℃未満では、鋼板表面に多量の上部ベイナイトが生成し、面積率が5%を超える場合がある。一方、巻取温度が680℃超えでは、フェライト粒が粗大化するとともに、所望の結晶粒径が得られない。巻取温度は、好ましくは570℃以上であり、より好ましくは580℃以上である。また、巻取温度は、好ましくは660℃以下であり、より好ましくは650℃以下である。
上記巻取工程後に、上記巻取工程で得られた巻取り鋼板を冷却する第2冷却工程を施す。この第2冷却工程では、上記巻取工程で得られた巻取り鋼板について、400℃から300℃の温度範囲で1.0h以上10.0h以下の時間滞留させる。400℃から300℃の温度範囲の滞留時間が1.0h未満では、所望の加工硬化指数が得られず、所望の降伏比および靱性が得られない。400℃から300℃の温度範囲の滞留時間が10.0hを超えると、所望の降伏強度および引張強度が得られない場合がある。400℃から300℃の温度範囲の滞留時間は、好ましくは1.5h以上であり、より好ましくは2.0h以上である。400℃から300℃の温度範囲の滞留時間は、好ましくは9.0h以下であり、より好ましくは8.5h以下である。
なお、素材鋼板の厚み、幅、長さ等によって巻取り後の鋼板(巻取り鋼板)の温度がどのように変化するか変わる。そのため、第2冷却工程では、事前に伝熱解析を行って巻取り後の鋼板の温度変化を計算し、400℃から300℃の温度範囲の滞留時間が本発明の範囲内になるように、断熱材等で鋼板の周囲を覆う保温処理または冷却水や冷却ガス等で鋼板を冷却することが好ましい。300℃未満の温度範囲では鋼組織や強度等の特性がほとんど変化しないため、300℃から常温までの冷却は、急冷または放冷する等、どのような冷却を行っても構わない。
また、巻取り後の鋼板(巻取り鋼板)は、場所によって温度にバラつきがあるため、図1に示すように、巻取り後の鋼板(最終的には熱延鋼板)の側面の温度を3か所(符号10。巻取り後の鋼板の外面、内面、中央)について測定し、その平均値を算出して巻取り鋼板の温度とした。なお、巻取り鋼板の温度を20分毎に測定し、400℃から300℃の滞留時間を算出した。巻取り鋼板の温度は、放射温度計等の非接触型の温度計または熱電対等の接触式の温度計で測定することができる。
<低降伏比角形鋼管>
本発明の低降伏比角形鋼管は、上記低降伏比熱延鋼板をその素材としたものである。
低降伏比角形鋼管は、管軸方向で、平板部において、降伏強さ:295MPa以上、引張強さ:400MPa以上で、0.90以下の低降伏比を示すだけでなく、均一伸び:5.0%以上、試験温度:-20℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが60J以上、エネルギーの比Pが0.5~1.2、延性-脆性遷移温度が-10℃以下となる低温靭性を具備するものとすることができる。
さらに、管軸方向だけでなく、管周方向にも優れた低温靱性を有するため、例えば、気温が氷点下になるような寒冷地等の低温環境下における建築物の構造部材として好適に使用することができる。
低降伏比角形鋼管は、造管工程において、熱延鋼板をロール成形により円筒状のオープン管とし、その突合せ部分を電縫溶接して丸形鋼管を製造する。その後、丸形鋼管に対して上下左右に配置されたロールにより、管軸方向に数%の絞りを加え、角形状に成形して角形鋼管を得る。
なお、本発明において、円筒状とは、熱延鋼板をロール成形により円形に成形して得られる形状であり、熱延鋼板端部が電縫溶接されていない状態を意味する。
コイル状の低降伏比熱延鋼板を、冷間でロールを用いたロール成形法により円形に成形して丸形鋼管を製造した後に、ロールを用いたロール成形法により丸形を角形に成形して角形鋼管を製造する。
かように丸形鋼管へのロール成形を冷間で行うと、管軸方向および管周方向に大きな加工歪が導入されるため、管軸方向および管周方向の降伏比が上昇しやすく、靭性が低下しやすいという問題があるが、本発明の低降伏比角形鋼管においては、上記低降伏比熱延鋼板を素材としているため、降伏比の上昇等が抑制されて、例えば12mm以上の厚肉のものであっても、低降伏比を具備することができる。
また、後述するように、本発明の角形鋼管は-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比Pが0.5~1.2であり、管軸方向および管周方向において優れた低温靱性を具備するものとすることができるが、このような靱性を得るため、本発明で規定した成分組成を満足することに加えて、粗圧延終了後に15s以上経過したのちに仕上圧延を開始することが必要である。粗圧延終了後に15s以上経過したのちに仕上圧延を開始することで、板幅方向と板長手方向(圧延方向)の鋼組織の差が小さい熱延鋼板が得られ、該熱延鋼板をロール成形することで、上記した-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比Pが0.5~1.2である低降伏比角形鋼管が得られる。
上記した方法で-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比Pが0.5~1.2である低降伏比角形鋼管を製造することが可能であるが、さらに安定的に製造するため、ロール成形で丸形鋼管を製造したのち、熱処理を施し、その後角形に成形して角形鋼管を製造してもよい。かような熱処理を施すことで管周方向の靱性が向上し、本発明で目的とする-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比Pが0.5~1.2である角形鋼管がより有利に得られる。
かかる熱処理の熱処理温度は100℃以上550℃以下が好ましい。熱処理温度が100℃未満では靱性が向上しない一方で、熱処理温度が550℃超では鋼組織が粗大化して強度と靱性が劣化する。熱処理温度は、より好ましくは150℃以上である。また、熱処理温度は、より好ましくは500℃以下である。熱処理時間は30秒以上が好ましく、より好ましくは1分以上である。上限は特に規定しないが、熱処理費用を抑える観点から、10分以下が好ましく、より好ましくは、5分以下である。
かかる角形鋼管を熱処理する方法は問わないが、可燃性ガスの燃焼や電熱ヒーターによる加熱、IH(誘導加熱)による加熱等、公知の熱処理設備(加熱設備)を用いることができる。
なお、本発明における角形鋼管には、各々の辺長がすべて等しい(長辺長さと短辺長さの比(長辺長さ/短辺長さ)が1.0の)角形鋼管に限られず、かかる比が1.0超の角形鋼管も含まれる。ただし、かかる比が2.5を超えると、長辺側で局部座屈が生じやすくなり管軸方向の圧縮強度が低下する。そのため、かかる比は、1.0以上2.5以下の範囲とするのが好ましい。かかる比は、より好ましくは1.0以上2.0以下である。
かくして本発明の角形鋼管が製造される。本発明によれば、平板部の機械的特性に優れる角形鋼管が得られる。より具体的に、本発明によれば、平板部の降伏強度が295MPa以上、平板部の引張強度が400MPa以上、平板部の降伏比が0.90以下、均一伸び:5.0%以上、平板部の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーが60J以上、平板部の延性-脆性遷移温度が-10℃以下、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比Pが0.5~1.2である角形鋼管が得られる。
また、本発明の角形鋼管は延性-脆性遷移温度が0℃未満であり、管軸方向だけでなく管周方向の靱性にも優れるため、気温または室温が氷点下になるような寒冷地の建築物の構造部材として好適に使用することができ、巨大地震が発生した場合でも建築構造物が倒壊し難く、優れた耐震性を確保することができる。
<建築構造物>
図2は、本発明の建築構造物の一例を示す模式図である。
本発明の建築構造物は、前述した本発明の角形鋼管(低降伏比角形鋼管)1を柱材として備える。符号4、5、6、7は、順に大梁、小梁、ダイアフラム、間柱を示す。
本発明の角形鋼管は、前述したように、平板部の機械的特性に優れる。そのため、この角形鋼管を柱材として使用した本発明の建築構造物は、優れた耐震性能を発揮する。
以下、実施例に基づいてさらに本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
表1に示す成分組成を有する溶鋼を鋳造して、スラブを得た。得られたスラブを表2に示す条件の加熱工程、熱間圧延工程、冷却工程、巻取工程、巻取工程後の第2冷却工程を行って、熱延鋼板を得た。表1中、ハイフン(-)は、その含有量が0(ゼロ)または不純物に相当することを意味する。
Figure 0007396552000001
Figure 0007396552000002
その後、以下に示す造管工程を行った。
すなわち、前記熱延鋼板を、ロール成形により円筒状に成形し、その突合せ部分を電縫溶接して丸形鋼管を製造した。その後、丸形鋼管の上下左右に配置したロールにより角形状(管軸方向垂直断面視で正方形状)に成形し、角部および平板部を有し、後述する表4に示す辺長(mm)および肉厚(mm)のロール成形角形鋼管を得た。
なお、前記した熱延鋼板から試験片を採取して、以下に示す組織観察、引張試験、シャルピー衝撃試験を実施した。
[組織観察]
組織観察用の試験片は、板厚1/2tの位置(t:板厚)を含み板厚1/2t位置から厚み方向にそれぞれ5mmの範囲を含むように熱延鋼板の幅中央部から採取した。観察面が熱間圧延時の圧延方向の断面となるようにし、研磨した後、ナイタール腐食して作製した。
組織観察は、光学顕微鏡(倍率:1000倍)または走査型電子顕微鏡(SEM、倍率:1000倍)を用いて、熱延鋼板の板厚1/2t位置から厚み方向に±1mmの範囲における組織を観察し、撮像した。得られた光学顕微鏡像およびSEM像から、フェライト、パーライト、擬似パーライト、上部ベイナイトの面積率を求めた。
各組織の面積率は、5視野で観察を行い、各視野で得られた値の平均値として算出した。ここでは、組織観察により得られた面積率を、各組織の面積率とした。
ここで、フェライトは拡散変態による生成物のことであり、転位密度が低くほぼ回復した組織を呈する。ポリゴナルフェライトおよび擬ポリゴナルフェライトがこれに含まれる。パーライトはセメンタイトとフェライトが層状に並んだ組織であり、擬似パーライトはフェライト中に点列状に並んだセメンタイトが確認される組織である。また、上部ベイナイトは転位密度が高いラス状のフェライトとセメンタイトの複相組織である。上記の形状の他に、フェライトは白色、パーライトは黒色、擬似パーライトは黒色または灰色、上部ベイナイトは白色または灰色であることから判別した。
また、平均結晶粒径(平均円相当径)は、板厚t/2位置を含み板厚t/2位置から厚み方向に±1mmの範囲(本発明において板厚中心部を意味する)を対象にして、SEM/EBSD法を用いて測定した。測定領域は500μm×1000μm(=0.5mm)、測定ステップサイズは0.5μmとした。結晶粒径は、隣接する結晶粒の間の方位差を求め、方位差が15°以上の境界を結晶粒界として測定した。得られた結晶粒界から各結晶粒の粒径(円相当径)を算出し、その算術平均を求めて、平均結晶粒径(平均円相当径)とした。また、平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積の総和を算出し、測定領域の面積(0.5mm)で除することで、平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率を算出した。
結晶粒の長径と短径はJIS R 1670(2006)に記載の方法で測定し、短径に対する長径の比である(長径)/(短径)を算出した。短径に対する長径の比である(長径)/(短径)が3.0以上の結晶粒の数を測定し、測定領域の面積(0.5mm)で除することで、短径に対する長径の比である(長径)/(短径)が3.0以上の結晶粒の個数(個/mm)を算出した。なお、結晶粒径解析および結晶粒の個数の測定においては、結晶粒径が2.0μm未満のものは測定ノイズとして解析対象から除外した。
[引張試験]
得られた熱延鋼板から、引張方向が圧延方向と平行になるように、JIS5号引張試験片を採取した。採取した引張試験片について、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠して引張試験を実施し、降伏強度YS、引張強度TSを測定し、(降伏強度)/(引張強度)で定義される降伏比を算出した。なお、試験片本数は各2本とし、それらの平均値を算出してYS、TS、降伏比を求めた。また、塑性ひずみ3~7%の加工硬化指数は、JIS Z 2253(2011)に記載の方法(2点法)で算出した。
[シャルピー衝撃試験]
得られた熱延鋼板の板厚tの1/2t位置(板厚中心)において、試験片長手方向が圧延方向と平行となるように採取した、JIS Z 2242(2018)の規定に準拠したVノッチ標準試験片を用いた。JIS Z 2242(2018)の規定に準拠して、試験温度:-80℃、-60℃、-40℃、-20℃、0℃でシャルピー衝撃試験を実施した。なお、試験片本数は各試験温度で3本とし、延性-脆性遷移温度および吸収エネルギーの平均値(J)を求めた。
得られた結果を表3に示す。
Figure 0007396552000003
また、得られた角形鋼管(ロール成形角形鋼管)から試験片を採取して、以下に示す引張試験、シャルピー衝撃試験を実施した。
[引張試験]
図3は、平板部の引張試験片の採取位置を示す概略図である。
引張試験片は、図3のXに示すように、引張方向が管軸方向と平行になるように、角形鋼管1の平板部からJIS5号引張試験片を採取した。採取した引張試験片について、JIS Z 2241(2011)の規定に準拠して引張試験を実施し、降伏強度YS、引張強度TSを測定し、(降伏強度)/(引張強度)で定義される降伏比を算出した。また、最高荷重点における塑性伸び(均一伸び)も測定した(JIS Z 2241(2011)のA)。なお、平板部の引張試験片は、角形鋼管の溶接部(図3のW)を12時方向としたときの3時の辺部における、平板部の幅中央部の位置(図3のX)から採取した。なお、試験片本数は各2本とし、それらの平均値を算出してYS、TS、降伏比を求めた。
[シャルピー衝撃試験]
図4は、シャルピー試験片の採取位置を示す概略図である。
シャルピー衝撃試験は、図4のYに示すように、角形鋼管1の管外面から肉厚tの1/4t位置において、試験片長手方向が管軸方向と平行となるように、角形鋼管1の平板部から採取した、JIS Z 2242(2018)の規定に準拠したVノッチ標準試験片を用いた。JIS Z 2242(2018)の規定に準拠して、試験温度:-60℃、-40℃、-20℃、0℃でシャルピー衝撃試験を実施した。なお、試験片本数は各試験温度で3本とし、延性-脆性遷移温度および吸収エネルギーの平均値(J)を求めた。
また、管周方向のシャルピー吸収エネルギーを測定するため、図4のZに示すように、角形鋼管1の管外面から肉厚tの1/4t位置において、試験片長手方向が管周方向と平行となるように、角形鋼管1の平板部から採取した、JIS Z 2242(2018)の規定に準拠したVノッチ標準試験片を用いた。JIS Z 2242(2018)の規定に準拠して、試験温度:-20℃でシャルピー衝撃試験を実施した。なお、試験片本数は3本とし、吸収エネルギーの平均値(J)を求めた。また、管軸方向に対する管周方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比Pを求めた。
得られた結果を表4に併記する。
Figure 0007396552000004
表3、4中、鋼板No.1~20は本発明例であり、鋼板No.21~49は比較例である。表4の鋼板No.は、同じ番号の表3の鋼板を用いて製造した角形鋼管であることを意味する。例えば、表4の鋼板No.1は、表3の鋼板No.1より製造した角形鋼管である。
表3に示したように、本発明例の熱延鋼板は、いずれも板厚中心部における鋼組織が、フェライトである主相と合計の面積率が6~25%のパーライトおよび擬似パーライト、面積率5%以下の上部ベイナイト(第二相)を含み、かつ方位差15°以上の境界によって囲まれる領域を結晶粒としたとき、板厚中心部の鋼組織において、主相と第二相を含む鋼組織の平均結晶粒径が10.0~30.0μm、前記結晶粒のうち、平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率が35%以上、短径に対する長径の比である(長径)/(短径)が3.0以上である結晶粒の個数密度が30個/mm以下であった。
さらに、降伏強度が250MPa以上、引張強度が400MPa以上、降伏比が0.75以下、塑性ひずみ3~7%における加工硬化指数n3-7が0.20以上、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーが100J以上、延性-脆性遷移温度が-20℃以下であった。
また、表4に示したように、本発明例の熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、いずれも平板部における降伏強度が295MPa以上、平板部における引張強度が400MPa以上、平板部における降伏比が0.90以下、平板部における均一伸びが5.0%以上、平板部の-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギーが60J以上、エネルギーの比Pが0.5以上1.2以下、平板部の延性-脆性遷移温度が-10℃以下であった。
これに対し、比較例のNo.21(鋼U)は、Mn/Si=0.8であり、本発明の範囲外となっているため、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率が6%未満となり、塑性ひずみ3~7%における加工硬化指数等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、均一伸びが低下し、さらに降伏比等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.22(鋼V)は、Mn/Si=14.7であり、本発明の範囲外となっているため、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率が25%超となり、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.23(鋼W)は、Cの含有量が本発明の範囲を下回っているため、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率が本発明の範囲外となり、降伏強度、引張強度が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、降伏強度、引張強度が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.24(鋼X)は、Cの含有量が本発明の範囲を上回っているため、第二相の面積率が本発明の範囲外となり、降伏比および-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.25(鋼Y)は、Siの含有量が本発明の範囲を上回っているため、擬似パーライトの面積率が過度に増加し、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.26(鋼Z)は、Mnの含有量が本発明の範囲を上回っているため、上部ベイナイトの量が増加し過ぎて、降伏比等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、降伏比等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.27(鋼AA)は、Nbの含有量が本発明の範囲を上回っているため、上部ベイナイトの量が過度に増加した。その結果、長径と短径の比が3.0以上の結晶粒の個数密度が本発明の範囲外となり、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギーおよび延性-脆性遷移温度が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.28(鋼AB)は、Tiの含有量が本発明の範囲を上回っているため、上部ベイナイトの量の過度な増加、および、粗大な炭化物や窒化物の形成が生じたと考えられる。その結果、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギーおよび延性-脆性遷移温度が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.29(鋼AC)は、Vの含有量が本発明の範囲を上回っているため、上部ベイナイトの量が本発明の範囲外となった。その結果、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギーおよび延性-脆性遷移温度が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.30(鋼AD)は、Crの含有量が本発明の範囲を上回っているため、上部ベイナイトの量が本発明の範囲外となった。その結果、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギーおよび延性-脆性遷移温度が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.31(鋼AE)は、Moの含有量が本発明の範囲を上回っているため、上部ベイナイトの量が本発明の範囲外となった。その結果、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギーおよび延性-脆性遷移温度が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.32(鋼AF)は、Cuの含有量が本発明の範囲を上回っているため、Cuが粗大に析出したと考えられる。その結果、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギーおよび延性-脆性遷移温度が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.33(鋼AG)は、Mnの含有量が本発明の範囲を下回り、Niの含有量が本発明の範囲を上回っているため、上部ベイナイトの量が本発明の範囲外となった。その結果、延性-脆性遷移温度等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギーおよび延性-脆性遷移温度が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.34(鋼AH)は、Caの含有量が本発明の範囲を上回っているため、Ca酸化物クラスターが形成されたと考えられる。その結果、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーが所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギーおよび延性-脆性遷移温度が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.35(鋼AI)は、Bの含有量が本発明の範囲を上回っているため、上部ベイナイトの量が本発明の範囲外となり、平板部の降伏比等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、降伏比等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.36(鋼T)は、スラブ加熱温度が本発明の範囲を上回っており、結晶粒が粗大化し、平均結晶粒径および平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率が、本発明の範囲外となった。その結果、降伏強度、引張強度および-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、降伏強度や、引張強度等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.37(鋼T)は、仕上圧延終了温度が本発明の範囲を上回っているため、930℃以下での合計圧下率が本発明の範囲を下回り、粗大な上部ベイナイトの生成を抑制できず、平均結晶粒径が本発明の範囲外となった。その結果、降伏強度、引張強度および-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、降伏強度や、引張強度等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.38(鋼T)は、930℃以下での合計圧下率が本発明の範囲を上回っているため、圧延方向に伸長した粗大な上部ベイナイトが生成し、平均結晶粒径が本発明の範囲を下回り、長径/短径の比が3.0以上の結晶粒の個数密度が本発明の範囲外となった。その結果、延性-脆性遷移温度等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギーおよび延性-脆性遷移温度が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.39(鋼T)は、板厚中心の平均冷却速度が本発明の範囲を上回っているため、上部ベイナイトの面積率が5%超となり、本発明の範囲外となった。その結果、降伏比が所望の値に達せず、塑性ひずみ3~7%における加工硬化指数が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、均一伸びが5.0%未満となり、さらに降伏比等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.40(鋼T)は、粗圧延終了から仕上圧延開始までの時間が本発明の範囲を下回っているため、平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率等が本発明の範囲外となった。その結果、熱延鋼板、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管共に、降伏比が所望の値に達しなかった。また、熱延鋼板の塑性ひずみ3~7%における加工硬化指数が所望の値に達しなかったので、角形鋼管の均一伸びが5.0%未満となった。
比較例のNo.41(鋼T)は、冷却停止温度および巻取温度が本発明の範囲を下回っているため、上部ベイナイトの面積率および平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率等が本発明の範囲外となった。その結果、熱延鋼板、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管共に、降伏比が所望の値に達しなかった。また、熱延鋼板の塑性ひずみ3~7%における加工硬化指数が所望の値に達しなかったので、角形鋼管の均一伸びが5.0%未満となった。
比較例のNo.42(鋼T)は、板厚中心の平均冷却速度が低く、また、冷却停止温度および巻取温度が本発明の範囲を上回っているため、平均結晶粒径が本発明の範囲外となった。その結果、降伏強度、引張強度および-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、降伏強度や、引張強度等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.43(鋼T)は、400℃から300℃の温度範囲の滞留時間が本発明の範囲を下回っているため、上部ベイナイトの面積率が5%超となり、塑性ひずみ3~7%における加工硬化指数、降伏比および-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.44(鋼T)は、400℃から300℃の温度範囲の滞留時間が本発明の範囲を上回っているため、平均結晶粒径が本発明の範囲外となり、降伏強度および引張強度が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管もまた、降伏強度および引張強度が所望の値に達していなかった。
比較例のNo.45(鋼T)は、粗圧延終了温度が本発明の範囲を上回っているため、短径に対する長径の比(長径)/(短径)が3.0以上の結晶粒の個数密度が本発明の範囲外となった。その結果、延性-脆性遷移温度が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、延性-脆性遷移温度等が所望の値に達していなかった。
比較例のNo.46(鋼T)は、粗圧延終了温度および仕上圧延終了温度が本発明の範囲を下回っているため、多量のフェライトが生成してパーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率が6%未満となり、塑性ひずみ3~7%における加工硬化指数等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、均一伸びが5.0%未満となり、さらに引張強度、降伏比が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.47(鋼T)は、スラブ加熱温度が本発明の範囲を下回っているため、被圧延材の変形抵抗が大きくなり圧延が困難で、粗圧延の途中で圧延を中断した。そのため、熱延鋼板および角形鋼管を製造することができなかった。
比較例のNo.48(鋼T)は、仕上圧延終了温度が本発明の範囲を下回っているため、圧延方向に伸長したフェライトが形成された。その結果、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しなかった。
比較例のNo.49(鋼T)は、平均冷却速度が本発明の範囲を下回っているため、フェライトが粗大化して平均粒径が30.0μm超となった。その結果、降伏強度、引張強度、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーが所望の値に達しない熱延鋼板となった。また、かかる熱延鋼板を用いて製造した角形鋼管は、-20℃における管軸方向のシャルピー吸収エネルギー等が所望の値に達しなかった。
1 角形鋼管
4 大梁
5 小梁
6 ダイアフラム
7 間柱
10 熱延鋼板の温度測定位置

Claims (13)

  1. 熱延鋼板であって、
    質量%で、
    C:0.07%以上0.20%以下、
    Si:0.40%以下、
    Mn:0.20%以上1.00%以下、
    P:0.100%以下、
    S:0.050%以下、
    Al:0.005%以上0.100%以下および
    N:0.0100%以下
    を含み、残部がFeおよび不可避的不純物であって、かつ、MnおよびSiの含有量が以下の式(1)を満足する成分組成を有し、
    板厚中心部の鋼組織が、フェライトである主相と、パーライトおよび擬似パーライトの合計の面積率が6~25%であって上部ベイナイトの面積率が5%以下である第二相とを有し、
    前記板厚中心部の鋼組織において、隣り合う結晶の方位差が15°以上の境界で囲まれた領域を結晶粒としたとき、かかる結晶粒の平均結晶粒径が10.0~30.0μmであって、前記結晶粒のうち、かかる平均結晶粒径±5.0μm以内の結晶粒径を有する結晶粒の面積率が35%以上であり、さらに、前記結晶粒のうち、短径に対する長径の比である(長径)/(短径)が3.0以上である結晶粒の個数密度が30個/mm以下である、熱延鋼板。
    1.0≦%Mn/%Si≦3.5 ・・・(1)
    ここで、%Mn、%Siは各元素の鋼板中の含有量(質量%)である。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Nb:0.005%以上0.020%以下、
    Ti:0.005%以上0.020%以下、
    V:0.01%以上0.10%以下、
    Cr:0.01%以上0.50%以下、
    Mo:0.01%以上0.50%以下、
    Cu:0.01%以上0.30%以下、
    Ni:0.01%以上0.30%以下、
    Ca:0.0005%以上0.0100%以下および
    B:0.0003%以上0.0100%以下
    のうちから選んだ1種または2種以上を含む、請求項1に記載の熱延鋼板。
  3. 板厚が12mm以上である、請求項1または請求項2に記載の熱延鋼板。
  4. 請求項1または請求項2に記載の熱延鋼板の製造方法であって、
    請求項1または請求項2に記載の成分組成を有する鋼素材を、加熱温度:1100℃以上1300℃以下に加熱し、
    次いで、熱間圧延として、粗圧延終了温度:850℃以上1150℃以下とする粗圧延を施し、かかる粗圧延の終了後15s以上経過したのちに仕上圧延を開始し、仕上圧延終了温度:750℃以上850℃以下とし、かつ熱間圧延工程全体で930℃以下での合計圧下率:40%以上59%以下とする前記熱間圧延を行い、
    次いで、前記熱間圧延で得られた素材鋼板に対して、板厚中心の平均冷却速度Vc(℃/s)が以下の式(2)を満足し、板厚中心の冷却停止温度:550℃以上680℃以下である冷却を行い、
    次いで、前記素材鋼板について、板厚中心温度:550℃以上680℃以下で巻取りを行い、
    次いで、前記巻取りで得られた巻取り鋼板について、400℃から300℃の温度範囲で1.0h以上10.0h以下の間滞留させる第2冷却を行う、熱延鋼板の製造方法。
    4≦Vc≦20 ・・・(2)
  5. 請求項1または請求項2に記載の熱延鋼板を素材とする角形鋼管。
  6. 請求項3に記載の熱延鋼板を素材とする角形鋼管。
  7. 請求項5に記載の角形鋼管であって、管軸方向に対する管周方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比Pが0.5~1.2の範囲である角形鋼管。
    ただし、P=(管周方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー)/(管軸方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー)
  8. 請求項6に記載の角形鋼管であって、管軸方向に対する管周方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーの比Pが0.5~1.2の範囲である角形鋼管。
    ただし、P=(管周方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー)/(管軸方向の-20℃におけるシャルピー吸収エネルギー)
  9. 請求項4に記載の熱延鋼板の製造方法で得られた熱延鋼板を、冷間でロール成形することにより角形鋼管とする角形鋼管の製造方法。
  10. 請求項5に記載の角形鋼管を柱材として備える建築構造物。
  11. 請求項6に記載の角形鋼管を柱材として備える建築構造物。
  12. 請求項7に記載の角形鋼管を柱材として備える建築構造物。
  13. 請求項8に記載の角形鋼管を柱材として備える建築構造物。
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