JP2020029472A - 多結晶yag研磨用スラリー組成物 - Google Patents

多結晶yag研磨用スラリー組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】多結晶YAGを高い研磨精度で効率よく研磨することができる多結晶YAG研磨用スラリーを提供する。【解決手段】本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物は、分散媒と、粒径D50が10nm以下であるナノダイヤモンド粒子を含む。前記ナノダイヤモンド粒子の含有量は、スラリー組成物全量の0.01〜10重量%であることが好ましい。分散媒は極性溶媒であることが好ましい。前記ナノダイヤモンド粒子は爆轟法ナノダイヤモンド粒子であることが好ましい。スラリーのpHは4〜10であることが好ましい。前記ナノダイヤモンド粒子のpH9〜10におけるゼータ電位は、例えば−30mV以下である。【選択図】なし

Description

本発明は、多結晶YAG研磨用スラリー組成物と、当該スラリー組成物を用いた多結晶YAGセラミックスの研磨方法及びレーザー発振用媒体の製造方法に関する。
YAG(Yttrium Aluminum Garnet : Y3Al512)は主に固体用レーザー発振用媒体として、半導体の微細加工、金属加工、医療分野など広範囲の分野で使用されている。YAGは、さらに、耐薬品性、耐プラズマ性、透明度に優れることから光学的用途などにも使用されている。近年、YAG基板の大型化によるYAGレーザー光の高出力化が求められている。YAGには単結晶YAGと多結晶YAGがある。単結晶YAGの製造には高度の技術が必要であり、またサイズにも制限がある。一方、多結晶YAGは、単結晶YAGと比較して量産に適し、低コスト化が可能であるため、高出力用のレーザー媒体として期待されている。しかしながら、多結晶YAGを研磨する際には、研磨工程において結晶粒界が選択的に加工され、粒界に沿って凹んだ部分(粒界段差)が発生するという問題がある。従って、粒界段差のない表面の平滑な多結晶YAGが求められている。
従来、多結晶セラミックスを研磨する方法として、特許文献1には、多結晶セラミックスよりも柔らかい砥粒と、この砥粒よりも硬い砥粒とからなる混合砥粒をセラミックスの被研磨面へ押しつけつつこれらを相対移動させる研磨方法が開示されている。特許文献2には、SiO2、MgO、CeO2の中から選ばれる1種以上の砥粒を用いたメカノケミカル研磨法によって多結晶セラミックスを研磨する多結晶セラミックスの鏡面研磨方法が開示されている。
特許文献3には、不純物濃度が低く気孔体積量の小さいYAG多結晶体をブリネル硬度40以下の定盤と、研磨材としてアルミナまたはアルミナを主成分とした混合砥粒を用いて研磨して算術表面粗さRaが1nm未満でかつ幅5μm以上のキズや直径5μm以上の窪みがなく、多結晶体を構成している単位結晶粒子間の高低差を5nm以下とするYAG多結晶体基板の研磨方法が開示されている。
特開平9−131662号公報 特開2003−117806号公報 特開2010−70401号公報
本発明の目的は、多結晶YAGを高い研磨精度で効率よく研磨することができる多結晶YAG研磨用スラリーを提供することにある。
本発明の他の目的は、結晶粒界段差やスクラッチの発生を抑制しつつ、表面粗さを極めて低い値にすることができる多結晶YAG研磨用スラリーを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、上記のような多結晶YAG研磨用スラリー組成物を用いることにより、性能の高いレーザー発振用媒体を効率よく製造する方法を提供することにある。
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、粒径の小さいナノダイヤモンド粒子を含むスラリー組成物によれば、多結晶YAGを高い研磨精度で効率よく研磨できることなどを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
すなわち、本発明は、分散媒と、粒径D50が10nm以下であるナノダイヤモンド粒子を含む多結晶YAG研磨用スラリー組成物を提供する。
本発明は、また、前記ナノダイヤモンド粒子の含有量がスラリー組成物全量の0.01〜10重量%である前記の多結晶YAG研磨用スラリー組成物を提供する。本発明は、また、前記スラリーのpHが4〜10である前記の研磨用スラリー組成物を提供する。本発明は、また、前記ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位はpH9〜10において−30mV以下である前記の多結晶YAG研磨用スラリー組成物を提供する。
本発明は、また、分散媒が極性溶媒である前記の多結晶YAG研磨用スラリー組成物を提供する。
本発明は、また、前記ナノダイヤモンド粒子が爆轟法ナノダイヤモンド粒子である前記の多結晶YAG研磨用スラリー組成物を提供する。
本発明は、また、前記の多結晶YAG研磨用スラリー組成物を使用して、多結晶YAGセラミックスを研磨する多結晶YAGセラミックスの研磨方法を提供する。
本発明は、更に、前記の多結晶YAG研磨用スラリー組成物を使用して、多結晶YAGセラミックスを研磨する工程を含むレーザー発振用媒体の製造方法を提供する。
本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物は、研磨材の粒子が非常に細かく、多結晶YAGセラミックス基板表面において、研磨材同士の凝集が抑制され高分散状態を保持することができる。そのため、本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物を使用すれば、研磨材の凝集により研磨傷が発生することを抑制して、多結晶YAG基板に優れた平坦性を付与することができる。また、結晶粒界段差(結晶粒界による凹み)の発生を抑制しつつ、スクラッチの無い、表面粗さ(算術平均表面粗さRa、最大高さ粗さRz)が極めて低い多結晶YAG基板を得ることができる。更に、前記研磨材は、高硬度であり多結晶YAG基板を研磨材との相対運動による機械的研磨効果に優れるとともに、多結晶YAG基板表面との化学的反応性が高く化学的研磨効果にも優れるので、非常に細かい研磨材を使用しても良好な研磨速度を発揮することができる。従って、本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物は多結晶YAGを備えたレーザー発振用媒体の製造に好適に用いることができる。
本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物を使用して多結晶YAGセラミックスを研磨する際に用いる研磨装置の一例を示す概略図である。 実施例における加工時間に対する除去量の変化を示すグラフである。 実施例及び比較例における研磨圧力に対する研磨能率を示すグラフである。 実施例及び比較例における研磨時間に対する算術平均粗さRaの変化を示すグラフである。 実施例及び比較例における研磨時間に対する最大高さ粗さRzの変化を示すグラフである。 実施例1における多結晶YAGセラミックスの(a)研磨前(0〜3μmダイヤモンド砥粒により前加工したもの)と(b)研磨後のノマルスキー顕微鏡写真である。 比較例2における非接触3次元表面構造解析顕微鏡により計測した40分研磨後の多結晶YAGセラミックス研磨面の表面粗さ測定の結果を示す写真である。 実施例1における非接触3次元表面構造解析顕微鏡により計測した40分研磨後の多結晶YAGセラミックス研磨面の表面粗さ測定の結果を示す写真である。
[ナノダイヤモンド微粒子]
本発明におけるナノダイヤモンド微粒子(以後、「ND微粒子」と称する場合がある)は、粒径D50(メディアン径)が10nm以下のナノダイヤモンド一次粒子であり、水中にて互いに離隔してコロイド粒子として分散している。ND微粒子の粒径D50は、好ましくは9nm以下、より好ましくは8nm以下、更に好ましくは7nm以下である。尚、ND微粒子の粒径D50の下限は、例えば1nmである。本明細書では、一次粒子の粒径D50は、いわゆる動的光散乱法によって測定される値とする。
また、ND微粒子のいわゆるゼータ電位は、pH6〜10において、例えば−60〜−20mVであり、好ましくは−50〜−30mV、さらに好ましくは−45〜−40mVである。コロイド粒子たるND微粒子のゼータ電位は、極性溶媒中でのND微粒子の分散安定性に影響を与えるところ、上記ゼータ電位は、本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物におけるND微粒子について、多結晶YAG基板上での安定分散化や安定分散状態の維持を図るうえで好適である。本発明におけるナノダイヤモンド粒子のゼータ電位とは、ナノダイヤモンド濃度が0.2重量%で25℃のナノダイヤモンド水分散液におけるナノダイヤモンド粒子について測定される値とする。尚、ナノダイヤモンド水分散液に使用する水は超純水である。
ND微粒子の含む炭素におけるカルボキシル炭素の含有量は、例えば1.0%以上、好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.5%以上、より好ましくは1.7%以上、より好ましくは2.0%以上である。当該カルボキシル炭素の含有量の上限は例えば5.0%である。ナノダイヤモンドは、バルクダイヤモンドと同様に、sp3構造の炭素よりなる基本骨格を有するところ、前記カルボキシル炭素とは、ナノダイヤモンドがその基本骨格に付随して表面に有するカルボキシル基(−COOH)に含まれる炭素を意味する。前記カルボキシル炭素の含有量は、固体13C−NMR分析によって得られる値とする。多結晶YAG研磨用スラリー組成物中のND微粒子は、一次粒子として水中に分散しつつ、上記のカルボキシル炭素の含有量が総じて1.0%以上となる割合で官能基であるカルボキシル基を表面に有する。このような構成は、ND微粒子について水中にて高い分散性を実現するのに適する。
ND微粒子の含む炭素における水酸基結合炭素の含有量は、例えば16.8%以上、好ましくは17.0%以上、より好ましくは18.0%以上、更に好ましくは20.0%以上、特に好ましくは25.0%以上である。当該水酸基結合炭素の含有量の上限は例えば40%である。本発明における水酸基結合炭素とは、ナノダイヤモンドがそのsp3炭素基本骨格に付随して表面に有する水酸基(−OH)の結合する炭素を意味する。前記水酸基結合炭素の含有量は、固体13C−NMR分析によって得られる値とする。多結晶YAG研磨用スラリー組成物中のND微粒子は、一次粒子として水中に分散しつつ、上記の水酸基結合炭素の含有量が総じて16.8%以上となる割合で官能基たる水酸基結合を表面に有する。このような構成は、ND微粒子について水中にて高い分散性を実現するのに適する。
ND微粒子の含む炭素におけるカルボキシル炭素およびカルボニル炭素の合計含有量は、例えば2.0%以上、好ましくは2.2%以上、より好ましくは2.4%以上、更に好ましくは2.7%以上、特に好ましくは2.9%以上、最も好ましくは3.2%以上である。当該合計含有量の上限は例えば8.0%である。
ND微粒子の含む炭素におけるカルボキシル炭素および水酸基結合炭素の合計含有量は、例えば17.8%以上、好ましくは18.0%以上、より好ましくは18.3%、更に好ましくは18.5%以上、特に好ましくは18.8%以上である。当該合計含有量の上限は例えば30.0%である。
ND微粒子の含む炭素におけるカルボキシル炭素、カルボニル炭素、および水酸基結合炭素の合計含有量は、例えば18.8%以上、好ましくは19.0%以上、より好ましくは19.2%、更に好ましくは19.5%以上、特に好ましくは19.7%以上、最も好ましくは20.0%、とりわけ好ましくは20.5%である。当該合計含有量の上限は例えば30.0%である。
ND微粒子の含む炭素におけるアルケニル炭素の含有量は、例えば0.1%以上である。本発明におけるアルケニル炭素とは、ナノダイヤモンドがそのsp3炭素基本骨格に付随して表面に有するアルケニル基に含まれる炭素を意味する。アルケニル炭素の含有量が0.1%以上となる割合で官能基であるアルケニル基を表面に有するという本構成は、ND微粒子について水中にて高い分散性を実現するうえで好ましい場合がある。
ND微粒子の含む炭素における水素結合炭素の含有量は、例えば20.0%以上である。本発明における水素結合炭素とは、ナノダイヤモンドがそのsp3炭素基本骨格に付随して表面に有する水素の結合する炭素を意味する。このような構成は、ND微粒子について水中にて高い分散性を実現するうえで好ましい場合がある。
本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物の一実施形態において、前記スラリー組成物中に分散するND微粒子は、上述の各種炭素含有量で示される例えばカルボキシル基、カルボニル基、水酸基、アルケニル基、および水素を伴う。このような構成は、上述のように、ND微粒子について例えば極性溶媒中にて高い分散性を実現するのに適する。ND微粒子の分散性が高いことは、ND微粒子と他材料とを含有する複合材料の設計において高い自由度を実現するうえで好適であり、ひいては、ナノダイヤモンド粒子含有複合材料を作製するうえで好適である。
上記ND微粒子は、例えば爆轟法によって製造することができる。前記爆轟法には、空冷式爆轟法と水冷式爆轟法が含まれる。本発明においては、なかでも、空冷式爆轟法が水冷式爆轟法よりも一次粒子が小さいナノダイヤモンド粒子を得ることができるうえで好ましく、特に、空冷式大気共存下爆轟法、すなわち空冷式であって大気組成の気体が共存する条件下での爆轟法が、官能基量のより多いナノダイヤモンド粒子を得ることができるうえで好ましい。従って、本発明におけるND微粒子は、爆轟法ナノダイヤモンド粒子、すなわち爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子が好ましく、より好ましくは空冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子であり、特に好ましくは空冷式大気共存下爆轟法ナノダイヤモンド粒子である。
ND微粒子の製造方法は、例えば、生成工程、精製工程、化学的解砕工程、pH調整工程、遠心分離工程を含む。
(生成工程)
生成工程では、空冷式であって大気組成の気体が共存する条件下での爆轟法、すなわち空冷式大気共存下爆轟法によってナノダイヤモンドを生成することが、ダイヤモンド核の成長が抑制され、表面官能基が生成される点で好ましい。空冷式大気共存下爆轟法では、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体が使用爆薬と共存する状態で容器を密閉する。容器は例えば鉄製で、容器の容積は、例えば0.5〜40m3であり、好ましくは2〜30m3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの重量比(TNT/RDX)は、例えば40/60〜60/40の範囲とされる。
生成工程では、次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってナノダイヤモンドが生成する。
生成工程では、次に、室温で24時間放置して、容器およびその内部の温度を降下させる。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上述のようにして生成したナノダイヤモンド粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行って回収する。回収されたナノダイヤモンド粗生成物は、隣接する一次粒子ないし結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体をなす。
(精製工程)
精製工程は、生成工程を経て得られたナノダイヤモンド粗生成物に、水溶媒中で強酸を作用させて酸処理を施す工程である。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物には金属酸化物が含まれやすく、この金属酸化物は、爆轟法に使用される容器等に由来するFe、Co、Ni等の酸化物である。そして、水溶媒中で所定の強酸を作用させることにより、ナノダイヤモンド粗生成物から金属酸化物を溶解・除去することができる(酸処理)。この酸処理において用いられる強酸としては鉱酸が好ましく、例えば、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、および王水が挙げられる。酸処理では、一種類の強酸を用いてもよいし、二種類以上の強酸を用いてもよい。酸処理で使用される強酸の濃度は例えば1〜50重量%である。酸処理温度は例えば70〜150℃である。酸処理時間は例えば0.1〜24時間である。また、酸処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。このような酸処理の後は、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行うことが好ましく、特に沈殿液のpHが例えば2〜3に至るまで水洗を反復して行うことが好ましい。
精製工程は、更に、酸化剤を用いてナノダイヤモンド粗生成物(精製終了前のナノダイヤモンド凝着体)からグラファイトを除去するための酸化処理を施すことが好ましい。爆轟法で得られるナノダイヤモンド粗生成物にはグラファイト(黒鉛)が含まれており、このグラファイトは、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素のうちナノダイヤモンド結晶を形成しなかった炭素に由来する。例えば上記の酸処理を経た後に、所定の酸化剤を作用させることにより、ナノダイヤモンド粗生成物からグラファイトを除去することができる(酸化処理)。この酸化処理に用いられる酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、過塩素酸、及びこれらの塩が挙げられる。酸化処理では、一種類の酸化剤を用いてもよいし、二種類以上の酸化剤を用いてもよい。酸化剤として混酸(特に、硫酸と硝酸との混酸)を使用することは、環境に優しく、且つグラファイトを酸化・除去する作用に優れる点で好ましい。酸化処理で使用される酸化剤の濃度は例えば3〜50重量%である。酸化処理における酸化剤の使用量は、酸化処理に付されるナノダイヤモンド粗生成物100重量部に対して例えば300〜500重量部である。酸化処理温度は例えば100〜200℃である。酸化処理時間は例えば1〜24時間である。酸化処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。また、酸化処理は、グラファイトの除去効率向上の観点から、鉱酸(酸処理で使用の鉱酸と同様の例を挙げることができる)の共存下で行うことが好ましい。酸化処理に鉱酸を用いる場合、鉱酸の濃度は例えば5〜80重量%である。このような酸化処理の後、例えばデカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行うことが好ましく、水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで水洗を反復して行うことが好ましい。
(化学的解砕工程)
以上のような精製工程を経て精製された後であっても、例えば爆轟法ナノダイヤモンドは、一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとることが多く、この凝着体から一次粒子を分離させるために、更に化学的解砕工程を設けて、ナノダイヤモンド凝着体からナノダイヤモンド一次粒子を分離させて解砕を進行させることが好ましい。化学的解砕処理は、例えば、アルカリおよび過酸化水素を作用させることにより行うことができる。前記アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリの濃度は、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.2〜8重量%、更に好ましくは0.5〜5重量%である。過酸化水素の濃度は、好ましくは1〜15重量%、より好ましくは2〜10重量%、更に好ましくは4〜8重量%である。処理温度は例えば40〜95℃であり、処理時間は例えば0.5〜5時間である。また、化学的解砕処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。このような化学的解砕処理の後、デカンテーションによって上澄みが除かれる。
(pH調整工程)
pH調整工程は、上述の化学的解砕処理を経たナノダイヤモンドを含む溶液のpHを後述の遠心分離処理より前に所定のpHに調整するための工程である。本工程では、デカンテーション後の沈殿液にpH調整剤を加えることが好ましい。前記pH調整剤としては、例えば、酢酸、ホウ酸、クエン酸、シュウ酸、リン酸、塩酸等の酸;アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを挙げることができる。ナノダイヤモンドを含む溶液のpHを、例えば2〜13(好ましくは2〜12)に調整することが、ND微粒子を含む多結晶YAG研磨用スラリー組成物のpHを至適範囲(例えば4〜12、好ましくは6〜10)にコントロールすることができる点で好ましい。
(遠心分離工程)
遠心分離工程は、上述の化学的解砕処理を経たナノダイヤモンドを含む溶液を遠心分離処理に付して所定の上清液を得るための工程である。具体的には、まず、上述の化学的解砕工程およびpH調整工程を経たナノダイヤモンド含有液について、遠心分離装置を使用して最初の遠心分離処理を行う。最初の遠心分離処理後の上清液は、淡い黄色透明である場合が多い。そして、遠心分離処理によって生じた沈殿物と上清液とを分けた後、沈殿物に超純水を加えて懸濁し、遠心分離装置を使用して更なる遠心分離処理を行って固液分離を図る。加える超純水の量は、例えば、沈殿物の3〜5倍(体積比)である。遠心分離による固液分離後の沈殿物と上清液との分離、沈殿物に超純水を加えての懸濁、および更なる遠心分離処理という一連の過程を、遠心分離処理後に黒色透明の上清液が得られるまで反復して行う。3回目以降の遠心分離処理で黒色透明の上清液が得られる場合、最初の遠心分離処理と黒色透明の上清液が得られる遠心分離処理との間に行われる遠心分離処理で得られる上清液は、無色透明である場合が多い。本工程の各遠心分離処理における遠心力は例えば15000〜25000×gであり、遠心時間は例えば10〜120分である。以上のようにして得られた黒色透明の上澄み液は、後述の多結晶YAG研磨用スラリー組成物の調製の際にND微粒子の水分散液として使用することができる。また、黒色透明の上清液を分離取得した後に残る沈殿物については、上述の精製工程を経た別の固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)と合せて、或は単独で、上述の化学的解砕工程、pH調整工程、および遠心分離工程の一連の過程に再び供してもよい。
[多結晶YAG研磨用スラリー組成物]
本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物(研磨材組成物)は、分散媒と、粒径D50が10nm以下であるナノダイヤモンド粒子を含む。前記ナノダイヤモンド粒子は、研磨材としての機能を有する物質であり、前記分散媒中に一次粒子として分散していることが好ましい。
本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物は、例えば、分散媒と、粒径D50が10nm以下であるナノダイヤモンド粒子を、1軸または多軸のエクストルーダー、ニーダー、ディソルバー、プラネタリーミキサー等の汎用の混合装置を使用して混合することにより製造することができる。
本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物のpHは、例えば4〜10であり、好ましくは6〜10、特に好ましくは7〜10である。pHを調整することで、含有するナノダイヤモンド粒子のゼータ電位をコントロールすることができる。尚、pHの調整は、pH調整剤(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等)を添加することにより行われる。多結晶YAG研磨用スラリー組成物中のナノダイヤモンド粒子のゼータ電位は、pH9〜10において(pH9〜10の範囲内の何れかの点において)、例えば−30mV以下、好ましくは−40mV以下である。また、前記ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位は、pH9〜10において(pH9〜10の範囲内の何れかの点において)、例えば−60mV以上、好ましくは−50mV以上である。
ND微粒子は、上記製造方法で得られたND粒子を水分散液の状態のままで添加してもよく、水を蒸発乾固させて粉末状態としてから添加してもよい。
前記分散媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、およびN−メチルピロリドン等の極性溶媒を挙げることができる。分散媒としては、一種類の分散媒を用いてもよいし、二種類以上の分散媒を用いてもよい。本発明においては、なかでもND微粒子の分散性の観点からは、水、または、水を50重量%以上含む水系分散媒が好ましい。そして、前記水としては、超純水、イオン交換水、蒸留水、水道水、工業用水等を使用することができる。
分散媒の含有量は、多結晶YAG研磨用スラリー組成物中の固形分濃度が下記範囲となる量であることが、多結晶YAG研磨用スラリー組成物の粘度を研磨に適した範囲に調整することができ、研磨速度を向上させることができる点で好ましい。
ND微粒子の含有量は、多結晶YAG研磨用スラリー組成物全量(100重量%)の例えば0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜10重量%、特に好ましくは0.5〜10重量%である。ND微粒子の含有量が上記範囲を下回ると、研磨速度が低下する傾向がある。
本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物は、研磨材として上記ND微粒子以外にも他の研磨材(例えば、シリカ、アルミナ、セリア、窒化ケイ素、ジルコニア等)を含有していても良いが、多結晶YAG研磨用スラリー組成物に含まれる全研磨材(後述の研磨対象物を研磨する効果を発揮する全ての砥粒)に占めるND微粒子の割合は、例えば60重量%以上、好ましくは80重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。他の研磨材の含有量が過剰となると、本発明の効果が得られにくくなる傾向がある。
本発明における多結晶YAG研磨用スラリー組成物は、上記分散媒と研磨材以外にも必要に応じて他の成分を1種又は2種以上含有していても良い。他の成分としては、例えば、防錆剤、粘度調整剤、界面活性剤、キレート剤、pH調整剤、防腐剤、消泡剤等を挙げることができる。
前記他の成分は本発明の効果を損なわない範囲内で適宜調整して添加することができ、その使用量は、多結晶YAG研磨用スラリー組成物全量(100重量%)の、例えば0.001〜10重量%程度、好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.01〜2重量%である。
従来の多結晶YAG研磨用スラリー組成物では研磨材が凝集しやすく、研磨材の凝集による二次粒子によって多結晶YAG基板表面に研磨傷が発生し、多結晶YAG基板表面に優れた平滑性を付与することが困難であった。更に、研磨傷からクラックが誘発されるという問題や、結晶粒界段差が生じやすいという問題もあった。しかし、本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物は、多結晶YAG基板上において、凝集し難く、分散安定性に優れたND微粒子を研磨材として含有するため、研磨傷の発生を抑制することができ、多結晶YAG基板表面に優れた平滑性を付与することができる。また、クラックの発生や結晶粒界段差の発生を抑制することもできる。
例えば、本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物により多結晶YAG基板表面を研磨して得られる平滑面の表面粗さにおいて、算術平均粗さRaは、例えば0.95nm以下、好ましくは0.85nm以下、より好ましくは0.80nm以下、さらに好ましくは0.70nm以下、特に好ましくは0.65nm以下であり、最大高さ粗さRzは、例えば8.0nm以下、好ましくは7.0nm以下、より好ましくは6.0nm以下、さらに好ましくは5.5nm以下、特に好ましくは5.0nm以下である。算術平均粗さRaの下限値は、例えば0.30nm(特に0.50nm)であり、最大高さ粗さRzの下限値は、例えば3.0nm(特に4.0nm)である。尚、表面粗さは実施例に記載の方法で測定できる。
また、本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物は研磨材として上記ND微粒子を含有するため、高硬度の多結晶YAG基板を高速度で効率よく研磨することができる。
本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物による多結晶YAG基板表面の研磨速度は、例えば0.005μm/分以上、好ましくは0.01μm/分以上、特に好ましくは0.02μm/分以上である。研磨速度の上限は、例えば0.05μm/分である。
また、本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物は、研磨材として高い水分散性を有するND微粒子を含有するため、研磨後は、洗浄することにより、研磨屑と共に研磨材を多結晶YAG基板表面から容易に取り除くことができる。
本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物は上記特性を有するため、レーザー発振用媒体に用いられる多結晶YAGセラミックス基板の表面平坦化加工に好適に使用することができる。
[多結晶YAGセラミックスの研磨方法及びレーザー発振用媒体の製造方法]
本発明の多結晶YAGセラミックスの研磨方法では、上記多結晶YAG研磨用スラリー組成物を使用して、多結晶YAGセラミックスを研磨する。また、本発明のレーザー発振用媒体の製造方法では、上記多結晶YAG研磨用スラリー組成物を使用して、研磨対象物としての多結晶YAGセラミックス基板を研磨する工程を有する。
本発明の多結晶YAGセラミックスの研磨方法及びレーザー発振用媒体の製造方法においては、通常、遊離砥粒による研磨加工が用いられる。遊離砥粒による研磨加工は、工具と工作物との間に砥粒を挟み込み、ある一定の圧力条件下で工具と工作物とを相対運動させ、砥粒切れ刃の先端で工作物をごく微量ずつ削り取ることで精密に仕上げる加工法である。このとき、砥粒は水やその他の研磨液中に遊離した状態で存在する。この加工法では、ラッピングやポリシングが代表的であるが、バフ仕上げ、バレル研磨、超音波加工なども含まれる。ラッピングは乾式と湿式とに分類され、ポリシングはメカニカルポリシングとメカニカルケミカルポリシング(CMP)に分類される。多結晶YAGセラミックス基板の平坦化に使用する研磨機(研磨装置)としては、特に限定されず、例えば、ロータリー型、ベルト型等を使用することができる。また、市販のラップ盤、ポリシング盤を使用できる。
図1は、本発明の多結晶YAGセラミックスの研磨方法及びレーザー発振用媒体の製造方法において用いる研磨装置の一例を示す概略図である。この研磨装置では、鉛直方向を軸に回転可能に設置された研磨定盤1の上部表面に研磨パッド(ポリシャ)2が両面粘着シート(図示せず)により貼付固定されている。多結晶YAG研磨用スラリー組成物7は供給配管8を介して前記研磨パッド2上に供給される。前記研磨パッド2上の所定の位置には、研磨対象物(ワーク;多結晶YAG基板)4の動きを一定の範囲に規制するための円筒状ガイドリング3が配置されている。前記円筒状ガイドリング3は、鉛直方向を軸に回転可能に設置されている。研磨対象物4は平板上の研磨治具5の下部に固定されており、研削治具5の上面には、研磨圧力を調整するための荷重(おもり)6が載せられている。研磨定盤1の外周には、前記スラリー組成物7の外部への流出を抑制するため、枠(例えば、PP製粘着テープなど)(図示せず)が設けられている。研磨定盤1を回転させると研磨定盤1上の一定の場所で研磨対象物4も同方向に自転しながら遊星運動をし、研磨パッド2上に散布された前記ナノダイヤモンド粒子を含むスラリー組成物7の作用により研磨対象物4の表面(研磨パッド2との接触面)が研磨される。
本発明の多結晶YAG研磨用スラリー組成物7の供給量としては、多結晶YAGを効率よく研磨できる範囲で適宜選択でき、研磨定盤の大きさ等によっても異なるが、例えば5〜30mL/分程度である。
研磨パッド2としては、ポリウレタン樹脂等の発泡体(特にエポキシウレタン製パッド)を好適に使用することができる。研磨パッド2の厚みは、例えば0.1〜5mmである。
研磨時の温度は、室温(1〜30℃)が好ましい。研磨圧力は、例えば、1〜20kPa、好ましくは2〜10kPa、より好ましくは3〜8kPaである。研磨定盤1及び研磨対象物4の回転速度としては、例えば20〜500min-1、好ましくは50〜200min-1である。
本発明の多結晶YAGセラミックスの研磨方法及びレーザー発振用媒体の製造方法では、研磨後は洗浄することにより、多結晶YAG基板の表面から研磨材を、研磨屑と共に容易に取り除くことができる。
本発明の多結晶YAGセラミックスの研磨方法及びレーザー発振用媒体の製造方法によれば、多結晶YAG基板の表面を、研磨傷を発生させることなく速やかに平坦化することができ、より信頼性の高いレーザー発振用媒体を提供することができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
調製例1
(生成工程)
まず、ナノダイヤモンド粗生成物を得るための生成工程を行った。具体的には、まず、爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体が使用爆薬と共存する状態で容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は15m3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物0.50kgを使用した。当該爆薬におけるTNTとRDXの重量比(TNT/RDX)は、50/50である。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた。次に、室温での24時間の放置により、容器およびその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているナノダイヤモンド粗生成物(上記爆轟法で生成したナノダイヤモンド粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ナノダイヤモンド粗生成物を回収した。ナノダイヤモンド粗生成物の回収量は0.025kgであった。
(精製工程;酸処理)
次に、上述のような生成工程を複数回行うことによって取得されたナノダイヤモンド粗生成物に対して精製工程の酸処理を行った。具体的には、当該ナノダイヤモンド粗生成物200gに6Lの10重量%塩酸を加えて得られたスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この酸処理における加熱温度は85〜100℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体と煤を含む)の水洗を行った。沈殿液のpHが低pH側から2に至るまで、当該固形分の水洗を反復して行った。
(精製工程;酸化処理)
次に、精製工程の酸化処理を行った。具体的には、デカンテーション後の沈殿液に、5Lの60重量%硫酸水溶液と2Lの60重量%クロム酸水溶液とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で5時間の加熱処理を行った。この酸化処理における加熱温度は120〜140℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、当該固形分の水洗を反復して行った。
(化学的解砕工程)
次に、化学的解砕処理を行った。具体的には、デカンテーション後の沈殿液に、1Lの10重量%水酸化ナトリウム水溶液と1Lの30重量%過酸化水素水溶液とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この化学的解砕処理における加熱温度は50〜105℃である。次に、冷却後、デカンテーションによって上澄みを除いた。
(pH調整工程)
次に、pH調整を行った。具体的には、化学的解砕処理後のデカンテーションによって得られた沈殿液に塩酸を加え、沈殿液のpHを2.5に調整した。このようにして、pHを調整されたスラリーを得た。
(遠心分離工程)
次に、遠心分離処理を行った。具体的には、上述のようにしてpH調整を経たスラリー(ナノダイヤモンド含有液)について、まず、遠心分離装置を使用して最初の遠心分離処理を行った。この遠心分離処理における遠心力は20000×gとし、遠心時間は10分とした。最初の遠心分離処理後の上清液は、少し黄色い透明であった。本工程では、次に、最初の遠心分離処理によって生じた沈殿物と上清液とを分けた後、沈殿物に超純水を加えて懸濁し、遠心分離装置を使用して2回目の遠心分離処理を行って固液分離を図った。加えた超純水の量は、沈殿物の4倍(体積比)とした。2回目の遠心分離処理における遠心力は20000×gとし、遠心時間は60分とした。2回目の遠心分離処理後の上清液は、無色透明であった。本工程では、次に、2回目の遠心分離処理によって生じた沈殿物と上清液とを分けた後、沈殿物に超純水を加えて懸濁し、遠心分離装置を使用して3回目の遠心分離処理を行って固液分離を図った。加えた超純水の量は、沈殿物の4倍(体積比)とした。3回目の遠心分離処理における遠心力は20000×gとし、遠心時間は60分とした。3回目の遠心分離処理後の上清液は、黒色透明であった。この後、固液分離後の沈殿物と上清液との分離、沈殿物に4倍量の超純水を加えての懸濁、および更なる遠心分離処理(遠心力20000×g、遠心時間60分)という一連の過程を、遠心分離処理後に黒色透明の上清液が得られる限り反復して行った。
以上のようにして、黒色透明のナノダイヤモンド水分散液を製造した。上記3回目の遠心分離処理後のナノダイヤモンド水分散液のpHを確認したところ、6であった。本分散液のナノダイヤモンド固形分濃度は1.08重量%であった。本分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子の粒径を動的光散乱法によって測定した結果、粒径D50(メディアン径)は5.41nmであった。本分散液の一部についてナノダイヤモンド濃度0.2重量%への超純水による希釈を行った後に当該ナノダイヤモンド水分散液中のナノダイヤモンド粒子のゼータ電位を測定したところ、−42mV(25℃、pH10)であった。
本分散液を乾固させて得られた乾燥粉体について、X線回析装置(商品名「SmartLab」、リガク社製)を使用して結晶構造解析を行った。その結果、ダイヤモンドの回析ピーク位置、すなわちダイヤモンド結晶の(111)面からの回析ピーク位置に、強い回析ピークが認められ、上述のようにして得られた分散液がナノダイヤモンド水分散液であることを確認した。また、本分散液を乾固させて得られた乾燥粉体について、X線回析装置(商品名「SmartLab」、リガク社製)を使用して小角X線散乱測定を行い、粒径分布解析ソフト(商品名「NANO−Solver」、リガク社製)を使用して、散乱角度1°〜3°の領域についてナノダイヤモンドの一次粒子経を見積もった。この見積もりにおいては、ナノダイヤモンド一次粒子が球形であり且つ粒子密度が3.51g/cm3であるとの仮定をおいた。その結果、本測定で得られるナノダイヤモンド一次粒子の平均粒径は4.240nmであり、一次粒子分布に関する相対標準偏差(RSD:relative standard deviation)は41.4であった。動的光散乱法によって得られた上記D50の値(5.41nm)よりも小さく比較的に小径な一次粒子群が比較的にシャープな分布を示すことが確認された。
本分散液を乾固させて得られた乾燥粉体について、後記の固体13C−NMR分析を行った。その結果、分析対象の試料の13C DD/MAS NMRスペクトルにおいて、ナノダイヤモンドの主成分としてのsp3炭素のピーク、カルボキシル基(−COOH)に含まれる炭素に由来するピーク、カルボニル基(−C=O)に含まれる炭素に由来するピーク、アルケニル基(C=C)に含まれる炭素に由来するピーク、水酸基の結合する炭素(−COH)に由来するピーク、及び水素の結合する炭素(−CH)に由来するピークが観測された。ピークごとに波形分離したうえで算出したこれら各種炭素の組成比は、下記表1に示すとおりであった。
〈固形分濃度〉
ナノダイヤモンド水分散液に関する上記の固形分濃度は、秤量した分散液3〜5gの当該秤量値と、当該秤量分散液から加熱によって水分を蒸発させた後に残留する乾燥物(粉体)について精密天秤によって秤量した秤量値とに基づき、算出した。
〈メディアン径〉
ナノダイヤモンド水分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子に関する上記の粒径D50(メディアン径)は、スペクトリス社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、動的光散乱法(非接触後方散乱法)によって測定した値である。測定に付されたナノダイヤモンド水分散液は、ナノダイヤモンド濃度が0.5〜2.0重量%となるように超純水で希釈した後に、超音波洗浄機による超音波照射を経たものである。
〈ゼータ電位〉
ナノダイヤモンド水分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子に関する上記のゼータ電位は、スペクトリス社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、レーザードップラー式電気泳動法によって測定した値である。測定に付されたナノダイヤモンド水分散液は、ナノダイヤモンド濃度0.2重量%への超純水による希釈を行った後に超音波洗浄機による超音波照射を経たものである。また、測定に付されたナノダイヤモンド水分散液のpHは、pH試験紙(商品名「スリーバンドpH試験紙」、アズワン(株)製)を使用して確認した値である。
〈固体13C-NMR分析〉
固体13C-NMR分析は、固体NMR装置(商品名「CMX-300 Infinity」、Chemagnetics 社製)を使用して行う固体NMR法によって行った。測定法その他の測定に係る条件は以下のとおりである。
測定法:DD/MAS法
測定核周波数:75.188829 MHz(13C核)
スペクトル幅:30.003 kHz
パルス幅:4.2μsec(90°パルス)
パルス繰り返し時間:ACQTM 68.26msec,PD 15sec
観測ポイント:2048(データポイント:8192)
基準物質:ポリジメチルシロキサン(外部基準:1.56ppm)
温度:室温(約22℃)
資料回転数:8.0 kHz
(多結晶YAG研磨用スラリー組成物の調製)
上記で得られたナノダイヤモンド水分散液にイオン交換水を加えて混合し、pH8の多結晶YAG研磨用スラリー組成物(ナノダイヤモンド濃度:1重量%)を得た。本分散液の一部についてナノダイヤモンド濃度0.2重量%への超純水による希釈を行った後に当該ナノダイヤモンド水分散液中のナノダイヤモンド粒子のゼータ電位を測定したところ、−42mV(25℃、pH6)であった。また、多結晶YAG研磨用スラリー組成物におけるナノダイヤモンドの粒径(D50)を前記と同様にして求めたところ、5.41nmであった。
(研磨対象物の前加工)
多結晶YAGセラミックス(神島化学工業社製、大きさ:10mm×10mm×3mm)8個を図1の研磨装置に示されるような研磨治具5の下面に熱可塑性ワックスによりロウ付けし、研磨治具5の上面には荷重6(4.9kPa)を載せた。前記8個の多結晶YAGセラミックスの高さをそろえるため、図1に示されるようなラップ盤(日本エンギス社製、商品名「HYPLEZ RAPPING MACHINE」)による研磨加工を行った(160分間)(前加工1)。
次いで、同研磨装置を用いて、上記研磨処理後の多結晶YAGセラミックス4の研磨加工面を0〜3μmダイヤモンド砥粒(トーメイダイヤ社製、商品名「ダイヤモンドパウダー ミクロンサイズ IRM 0〜3μm」)により研磨した。より具体的には、研磨定盤1の表面に0〜3μmのダイヤモンドを散布し、セラミックス製の円筒状ガイドリング3の内側に、荷重6(4.9kPa)を載せた研磨治具5に固定した研磨処理後の多結晶YAGセラミックス4を研磨加工面を下にして置き、研磨定盤1を回転させ、40分間研磨した(前加工2)。前加工後の研磨面の算術平均粗さRaは3.60nm、最大高さ粗さRzは24.74nmであった。
実施例1
上記前加工処理後の多結晶YAGセラミックスの表面を、さらに図1に示されるような研磨装置[ラップ盤(日本エンギス社製、商品名「HYPLEZ RAPPING MACHINE」)]を用い、ナノダイヤモンドで研磨した。
より具体的には、研磨定盤1の上に、多結晶YAG研磨用スラリー組成物7の保持性のよい研磨パッド[エポキシウレタンパッド(九重電気社製、商品名「エポキシウレタンパッド NGP02」、厚さ0.5mm)]2を両面粘着シートにより貼り付け、その研磨パッド2の表面に上記で調製した多結晶YAG研磨用スラリー組成物7を供給配管8を通して塗布した。セラミックス製の円筒状ガイドリング3の内側に、荷重6を載せた研磨治具5に固定した前記前加工した多結晶YAGセラミックスを置いた。荷重6により研磨圧力を調整した。前記スラリー組成物7の外部への流出を抑制するために、研磨定盤1の外周に枠(PP製粘着テープ)(図示せず)を取り付けてスラリー組成物7を満たした状態で研磨定盤1を回転させ、多結晶YAGセラミックス4を研磨した。研磨定盤1の回転速度は120min-1、回転半径は58mm、周速は43.7m/minである。
実施例1では、研磨圧力4.9kPaの条件で行い、研磨時間を変化させて、研磨量、表面粗さ(算術平均粗さRa、最大高さ粗さRz)を求めた。なお、研磨圧力は、研磨治具5の自重、荷重6の重さ、多結晶YAGセラミックス4の自重の合計を多結晶YAGセラミックス4の表面積で除して計算した。
研磨を行った後、表面写真をノマルスキー微分干渉顕微鏡(Nikon社製、商品名「MM−400」)で撮影し、表面粗さを非接触走査式青色レーザ測定装置(三鷹光器社製、商品名「NH−3UP」)及び3次元表面構造解析顕微鏡(Zygo社製、商品名「New View 6200」)で測定するとともに、多結晶YAGセラミックスの高さをデジタルゲージ(SONY社製、商品名「DE30BR」)で測定して、研磨量を求めた。
その結果、研磨時間40分後の研磨面の算術平均粗さRaは0.61nm、最大高さ粗さRzは4.87nmであった。研磨面にはスクラッチも結晶粒界段差も見られず、極めて良好な表面が得られた(図6、図8参照)。
なお、研磨時間40分の間、研磨量は研磨時間にほぼ比例していた(図2参照)。
比較例1
研磨パッド2上に、上記で調製したナノダイヤモンド含有スラリー組成物を塗布する代わりに、0−1μmダイヤモンド砥粒(トーメイダイヤ社製、商品名「ダイヤモンドパウダー ミクロンサイズ IRM 0〜1μm」)を散布した以外は実施例1と同様にして、前記前加工した多結晶YAGセラミックスを研磨した。
研磨圧力4.9kPaの条件で40分間研磨した結果、40分後の研磨面の算術平均粗さRaは0.73nm、最大高さ粗さRzは9.29nmであった。研磨面にはダイヤモンド砥粒による微細なスクラッチが多数観測された。
比較例2
研磨パッド2上に、上記で調製したナノダイヤモンド含有スラリー組成物の代わりに、コロイダルシリカ(株式会社フジミインコーポレーテッド製、商品名「COMPOL EX−3」)を用いるとともに、前記前加工した多結晶YAGセラミックスの代わりに、前記前加工後に酸化セリウム(トライバッハ インダストリエージー社製、商品面「酸化セリウムパウダー PZ110」)を散布し40分研磨して作製した多結晶YAGセラミックス(研磨前の算術平均粗さRaは0.77nm、最大高さ粗さRzは10.38nm)を用いた以外は実施例1と同様にして多結晶YAGセラミックスを研磨した。
研磨圧力4.9kPaの条件で40分間研磨した結果、40分後の研磨面の算術平均粗さRaは0.86nm、最大高さ粗さRzは6.37nmであった。研磨面には結晶粒界段差(丸い凸)が生じていた(図7参照)。
実施例2
研磨圧力を2.5kPaとした以外は実施例1と同様にして多結晶YAGセラミックスを研磨した。
その結果、研磨時間80分後の研磨面の算術平均粗さRaは0.90nm、最大高さ粗さRzは6.78nmであった。
なお、研磨時間80分の間、研磨量は研磨時間にほぼ比例していた(図2参照)。
実施例3
研磨圧力を9.8kPaとした以外は実施例1と同様にして多結晶YAGセラミックスを研磨した。
その結果、研磨時間40分後の研磨面の算術平均粗さRaは0.83nm、最大高さ粗さRzは6.85nmであった。
なお、研磨時間40分の間、研磨量は研磨時間にほぼ比例していた(図2参照)。また、研磨能率は、研磨圧力が9.8kPaと比較的高い研磨条件になってもPrestonの法則が成り立ち、研磨能率の線形性が保たれていることが分かった(図3参照)。これは、研磨パッドとして用いたエポキシウレタンパッドでは研磨剤の保持性が高いためであると考えられる。
なお、図2に、上記実施例における加工時間に対する除去量の変化を示すグラフを示す。図3に、上記実施例及び比較例における研磨圧力に対する研磨能率を示すグラフを示す。図4に、上記実施例及び比較例における研磨時間に対する算術平均粗さRaの変化を示すグラフを示す。図5に、上記実施例及び比較例における研磨時間に対する最大高さ粗さRzの変化を示すグラフを示す。図6に、上記実施例1における多結晶YAGセラミックスの(a)研磨前(0〜3μmダイヤモンド砥粒により前加工したもの)と(b)研磨後のノマルスキー顕微鏡写真を示す。図7に、上記比較例2(コロイダルシリカ、4.9kPa)における非接触3次元表面構造解析顕微鏡により計測した40分研磨後の多結晶YAGセラミックス研磨面の表面粗さ測定の結果を表す写真を示す。図8に、上記実施例1(ナノダイヤ、4.9kPa)における非接触3次元表面構造解析顕微鏡により計測した40分研磨後の多結晶YAGセラミックス研磨面の表面粗さ測定の結果を表す写真を示す。
1 研磨定盤
2 研磨パッド(ポリシャ)
3 円筒状ガイドリング
4 研磨対象物(ワーク)
5 研磨治具
6 荷重(おもり)
7 多結晶YAG研磨用スラリー組成物
8 供給配管

Claims (8)

  1. 分散媒と、粒径D50が10nm以下であるナノダイヤモンド粒子を含む多結晶YAG研磨用スラリー組成物。
  2. 前記ナノダイヤモンド粒子の含有量がスラリー組成物全量の0.01〜10重量%である請求項1記載の多結晶YAG研磨用スラリー組成物。
  3. スラリーのpHが4〜10である請求項1記載の研磨用スラリー組成物。
  4. 前記ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位は、pH9〜10において−30mV以下である請求項1又は3に記載の多結晶YAG研磨用スラリー組成物。
  5. 分散媒が極性溶媒である請求項1〜4の何れか1項に記載の多結晶YAG研磨用スラリー組成物。
  6. 前記ナノダイヤモンド粒子が爆轟法ナノダイヤモンド粒子である請求項1〜5の何れか1項に記載の多結晶YAG研磨用スラリー組成物。
  7. 請求項1〜6の何れか1項に記載の多結晶YAG研磨用スラリー組成物を使用して、多結晶YAGセラミックスを研磨する多結晶YAGセラミックスの研磨方法。
  8. 請求項1〜6の何れか1項に記載の多結晶YAG研磨用スラリー組成物を使用して、多結晶YAGセラミックスを研磨する工程を含むレーザー発振用媒体の製造方法。
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