JP2020023604A - 水系顔料分散体 - Google Patents

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Abstract

【課題】低吸水性印刷媒体に印刷した際においても、定着性及び印刷画質に優れる印刷物を得ることができる水系顔料分散体、該水系顔料分散体を含有する水系インク、該水系インクを用いたインクジェット印刷方法及びインクセットを提供する。【解決手段】[1]顔料AをポリマーBで水系媒体に分散させた水系顔料分散体であって、顔料Aが、C.I.ピグメント・レッド176及びキナクリドン顔料を含有する水系顔料分散体、[2]前記[1]の水系顔料分散体と、水溶性有機溶剤Cとを含有する水系インク、[3]前記[2]の水系インクを用いて、低吸水性印刷媒体にインクジェット記録方式により画像を形成するインクジェット印刷方法、及び[4]マゼンタインクが前記[2]の水系インクであるインクセットである。【選択図】なし

Description

本発明は、水系顔料分散体、該水系顔料分散体を含有する水系インク、該水系インクを用いたインクジェット印刷方法及びインクセットに関する。
商品包装印刷や広告等に用いられるラベル印刷等の商業印刷や産業印刷の分野では、コート紙等の低吸水性印刷媒体、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、NY(ナイロン)等の非吸水性印刷媒体に対して、インクジェット記録方式やフレキソ印刷方式、さらにはグラビア印刷方式での印刷が行われ、環境負荷の低減、省エネルギー、安全性等の観点から、水系インクを用いることが求められている。
また、印刷物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料を用いる水系インクが主流となってきている。
例えば、特許文献1には、発色性、彩度等のバランスが良好なインク組成物として、着色剤としてC.I.ピグメント・レッド(以下、「PR」ともいう)150及びキナクリドン顔料と水とを含有する着色剤分散液、及び該着色剤分散液と水溶性有機溶剤とを含有するインク組成物が記載されている。そして、実施例では、PR150とキナクリドン顔料としてPR122とを用いたインクが記載されている。
特許文献2には、鮮明で高彩度な色相を呈する顔料組成物として、該顔料組成物を製造する工程において、キナクリドン顔料を得る脱水縮合反応中にモノアゾ顔料を添加することにより得られるキナクリドン顔料とモノアゾ顔料からなる顔料組成物が記載されている。そして、実施例では、キナクリドン顔料としてPR122とモノアゾ顔料としてPR269とを用いた赤色顔料組成物、該赤色顔料組成物から作成したインクジェットインキのインクが記載されている。
特許文献3には、キナクリドン顔料と特定の式で表される少なくとも1種のアゾ化合物を含むアゾ顔料を含有するインクジェット用マゼンタインクが記載されている。そして、実施例では、キナクリドン顔料としてPR282とアゾ顔料としてPR150又はPR269を用いたマゼンタインクが記載されている。
特許文献4には、マゼンタ顔料混合物を含有するマゼンタインクが記載され、該マゼンタ顔料混合物が、特定の一般式で表されるキナクリドン顔料と、特定の一般式で表されるアゾ顔料とを含むことが記載されている。そして、実施例では、キナクリドン顔料としてPR282とアゾ顔料としてPR150とを用いたマゼンタインクと、キナクリドン顔料としてC.I.ピグメント・バイオレット(以下、「PV」ともいう)19及びPR122とアゾ顔料としてPR150とを用いたマゼンタインクが記載されている。
特許文献5には、輝度の高い着色硬化膜を形成する着色組成物として、着色剤、バインダー樹脂及び重合性化合物を含有する着色組成物であって、着色剤がPV19及び赤色着色剤を含む着色組成物が記載されている。そして、実施例ではPV19と赤色着色剤としてPR149、PR166、PR177、PR208、PR214、PR242、PR254、又はPR264を用いた着色剤組成物が記載されている。
特許文献6には、被記録材料に対して適正な色調のマゼンタ色を再現し得る、色相の鮮明性等に優れた色相を描くことが可能なインクジェット記録用マゼンタ色水系インクとして、着色成分が2,9−ジメチルキナクリドン顔料と他の赤色顔料の少なくとも1種との混合物またはこれらの固溶体顔料であるインクジェット記録用マゼンタ色水系インクが記載されている。そして、実施例では、PR122と、他の顔料としてPR177、PR5、PR254、PR209、又はPV19とを用いた混合物又は固溶体顔料、及びこれらを用いたインクジェット記録用マゼンタ色水系インクが記載されている。
国際公開第2014/156569号 特開2016−74749号公報 米国特許出願公開2017/0022383号明細書 米国特許出願公開2017/0183523号明細書 特開2016−147977号公報 特開2001−2962号公報
しかしながら、商業印刷や産業印刷で用いられる印刷媒体は低吸水性又は非吸水性であり、水系インクが印刷媒体内部に浸透しないため、水系インク中に含まれる顔料粒子は印刷媒体の表面上に残留するが、その際、顔料粒子が凝集等を起こす結果、印刷表面に凹凸が生じやすい。そのため、従来の水系インクでは低吸水性又は非吸水性印刷媒体に印刷した際の定着性及び印刷画質が十分でなく、これらの改善が求められている。
本発明は、低吸水性印刷媒体に印刷した際においても、定着性及び印刷画質に優れる印刷物を得ることができる水系顔料分散体、該水系顔料分散体を含有する水系インク、該水系インクを用いたインクジェット印刷方法及びインクセットを提供することを課題とする。
なお、本明細書において、「低吸水性」とは、水及び/又はインクの低吸水性及び非吸水性を含む概念であり、低吸水性は、純水の吸水性で評価することができる。より具体的には、印刷媒体と純水との接触時間100m秒における該印刷媒体の吸水量が、0g/m以上10g/m以下であることを意味する。なお、前記吸水量は、実施例に記載の方法により測定される。
本発明者は、PR176とキナクリドン顔料とを組み合わせ、これらの顔料をポリマーで分散させることにより、低吸水性印刷媒体に印刷した際においても、定着性及び印刷画質に優れる印刷物を得ることができることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]〜[4]を提供する。
[1]顔料AをポリマーBで水系媒体に分散させた水系顔料分散体であって、
該顔料Aが、C.I.ピグメント・レッド176及びキナクリドン顔料を含有する、水系顔料分散体。
[2]前記[1]に記載の水系顔料分散体と、水溶性有機溶剤Cとを含有する、水系インク。
[3]前記[2]に記載の水系インクを用いて、低吸水性印刷媒体にインクジェット記録方式により画像を形成する、インクジェット印刷方法。
[4]少なくともマゼンタインク、イエローインク、及びシアンインクを含むインクセットであって、
該マゼンタインクが前記[2]に記載の水系インクである、インクセット。
なお、本発明において、「水系」とは、媒体中で水が最大割合を占めていることを意味する。また、「画像を形成する」とは、文字や画像を形成する印刷、印字を含む概念であり、「印刷物」とは、文字や画像が形成された印刷物、印字物を含む概念である。
本発明によれば、低吸水性印刷媒体に印刷した際においても、定着性及び印刷画質に優れる印刷物を得ることができる水系顔料分散体、該水系顔料分散体を含有する水系インク、該水系インクを用いたインクジェット印刷方法及びインクセットを提供することができる。
[水系顔料分散体]
本発明の水系顔料分散体(以下、単に「顔料分散体」ともいう)は、顔料AをポリマーBで水系媒体に分散させた水系顔料分散体であって、該顔料Aが、C.I.ピグメント・レッド176(PR176)及びキナクリドン顔料を含有する。
顔料分散体は、好ましくは、顔料Aに含まれる各顔料をポリマーBで水系媒体に分散させた粒子を含有するものである。ここで、該粒子の形態は特に制限はなく、少なくとも顔料Aに含まれる各顔料とポリマーBにより粒子が形成されていればよい。例えば、ポリマーBに顔料が内包された粒子形態、ポリマーB中に顔料が均一に分散された粒子形態、ポリマーBの粒子表面に顔料が露出された粒子形態等が含まれ、これらの混合物も含まれる。
本発明の顔料分散体は、定着性及び印刷画質に優れる印刷物を得ることができるため、フレキソ印刷インキ用、グラビア印刷インキ用、又はインクジェット印刷インク用の水系顔料分散体として好適に用いることができる。特にインクジェット印刷インク用水系顔料分散体として用いることが好ましい。
本発明の顔料分散体は、水系インクに用いることにより、低吸水性印刷媒体に印刷した際においても、定着性及び印刷画質に優れる印刷物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
低吸水性印刷媒体に画像を形成すると、水系インクが印刷媒体内部に浸透せず、水系インク中に含まれる顔料粒子は印刷媒体の表面上に残留する。この時、水が揮発してインクが濃縮され、顔料の分散安定性が低下する。そのため、2種以上の顔料を含有する従来の水系インクでは、印刷媒体上で異種顔料間のヘテロ凝集が起こり易い。一方、本発明では、ベンズイミダゾロン骨格を有するナフトール系モノアゾ顔料であるPR176とキナクリドン顔料を含有する顔料AをポリマーBで水系媒体に分散させる。PR176がベンズイミダゾロン骨格を有することで、ナフトール系モノアゾ顔料本来の発色性を損なうことなく、顔料の分散安定性が向上するためか、キナクリドン顔料との印刷媒体上でのヘテロ凝集が抑制され、平滑なインク被膜を形成することができるため、定着性及び印刷画質が向上すると考えられる。
<顔料A>
顔料Aは、ポリマーBで水系媒体に分散されてなり、C.I.ピグメント・レッド176(PR176)及びキナクリドン顔料を含有する。
PR176は、下記式(1)で表される、ベンズイミダゾロン骨格とモノアゾナフトール骨格とを含むアゾ顔料である。
PR176の市販品としては、クラリアントケミカルズ株式会社製のNovoperm Carmine HF3C(商品名)等が挙げられる。
キナクリドン顔料は、キナクリドン骨格を有するものであれば特に制限はなく、定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは下記一般式(2)で表される化合物である。
前記式(2)中、R1及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上4以下のアルキル基又はアルコキシ基を示す。
前記式(2)で表されるキナクリドン顔料としては、例えば、無置換キナクリドン、2,9−ジメチルキナクリドン、2,9−ジクロロキナクリドン、2,9−ジメトキシキナクリドン、3,10−ジメチルキナクリドン、3,10−ジクロロキナクリドン、3,10−ジメトキシキナクリドン、4,11−ジメチルキナクリドン、4,11−ジクロロキナクリドン、4,11−ジメトキシキナクリドン等が挙げられる。また、無置換キナクリドンは、α型、β型、γ型のいずれも用いることができる。なお、キナクリドン顔料は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
キナクリドン顔料は、定着性及び印刷画質の観点から、カラーインデックスでマゼンタ、レッド及びバイオレットに分類される赤系顔料であることが好ましい。具体的には、PR122、PR202、PR209、PR282、PV19等が挙げられる。中でも、好ましくは、PR122、PR202、PR282及びPV19から選択される少なくとも1種の顔料(a)を含むことが好ましい。
キナクリドン顔料中の顔料(a)の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より更に好ましくは100質量%である。
キナクリドン顔料としては、固溶体顔料も好適に用いることができる。該固溶体顔料としては、無置換キナクリドンと、無置換キナクリドンのベンゼン環上の任意の2つの水素原子が水素原子以外の基で置換された構造を有するキナクリドン(以下、「ジ置換キナクリドン」ともいう)との組み合わせが好ましく、無置換キナクリドンとジメチル置換キナクリドンとの組み合わせ、無置換キナクリドンとジクロロ置換キナクリドンとの組み合わせがより好ましい。具体的な組合わせとしては、無置換キナクリドン(PV19)と2,9−ジメチルキナクリドン(PR122)との組み合わせ、無置換キナクリドン(PV19)と2,9−ジクロロキナクリドン(PR202)との組み合わせ等が挙げられる。中でも、定着性を向上させる観点から、無置換キナクリドン(PV19)と2,9−ジメチルキナクリドン(PR122)との組み合わせが好ましい。
前記固溶体顔料における無置換キナクリドンとジ置換キナクリドンとの質量比[無置換キナクリドン/ジ置換キナクリドン]は、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90であり、そして、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下である。
キナクリドン顔料の市販品としては、DIC株式会社製の「FASTOGEN SUPER MAGENTA」シリーズ、「QUINDO MAGENTA」シリーズ、「FASTOGEN SUPER RED」シリーズ、「QUINDO VIOLET19 228-1119」;BASF社製の「Cinquasia Magenta」シリーズ、「Cinquasia Violet」シリーズ等が挙げられる。
PR176とキナクリドン顔料との質量比[PR176/キナクリドン顔料]は、好ましくは3/97以上、より好ましくは5/95以上、更に好ましくは10/90以上、より更に好ましくは20/80以上であり、そして、好ましくは80/20以下、より好ましくは70/30以下、更に好ましくは60/40以下、より更に好ましくは50/50以下、より更に好ましくは40/60以下である。
顔料Aは、本発明の効果を阻害しない範囲で、更にPR176及びキナクリドン顔料以外の他の顔料を含んでもよい。他の顔料としては、例えば、PR5、PR48:3、PR57:1、PR146,PR150、PR177,PR185、PR254、PR269等が挙げられる。
顔料A中のPR176及びキナクリドン顔料の合計含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より更に好ましくは100質量%である。
<ポリマーB>
ポリマーBは、少なくとも顔料分散能を有するものであればよい。
顔料分散体中でのポリマーBの存在形態は、顔料Aに含まれる各顔料にポリマーBが吸着している形態、顔料Aに含まれる各顔料をポリマーBが含有している顔料内包(カプセル)形態、及び顔料Aに含まれる各顔料にポリマーBが吸着していない形態がある。顔料の分散安定性の観点から、本発明においては顔料Aに含まれる各顔料をポリマーBが含有する形態、即ち顔料含有ポリマー粒子の形態が好ましく、顔料Aに含まれる各顔料をポリマーBが含有している顔料内包形態がより好ましい。
ポリマーBは、顔料の分散安定性の観点から、酸基を有するものが好ましく、該酸基のうち少なくとも一部が中和剤で中和されていることがより好ましい。これにより、中和後に発現する電荷反発力が大きくなり、低吸水性印刷媒体に印刷した際の異種顔料粒子間におけるヘテロ凝集の抑制に寄与し得ると考えられる。
該酸基としては、カルボキシ基(−COOM)、スルホン酸基(−SO3M)、リン酸基(−OPO32)等の解離して水素イオンが放出されることにより酸性を呈する基、又はそれらの解離したイオン形(−COO-、−SO3 -、−OPO3 2-、−OPO3 -M)等が挙げられる。上記化学式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを示す。これらの中でも、顔料の分散安定性、並びに定着性及び印刷画質の観点から、カルボキシ基(−COOM)が好ましい。
ポリマーBの酸価は、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは70mgKOH/g以上、更に好ましくは100mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは300mgKOH/g以下、より好ましくは270mgKOH/g以下、更に好ましくは250mgKOH/g以下である。酸価が前記の範囲であれば、酸基及びその中和された酸基の量は十分であり、顔料の分散安定性が確保される。またポリマーBと水系媒体の親和性と、ポリマーBと顔料との相互作用とのバランスの点からも好ましい。
ポリマーBの酸価は、構成するモノマーの質量比から算出することができる。また、適当な有機溶剤(例えば、MEK)にポリマーBを溶解又は膨潤させて滴定する方法でも求めることができる。
ポリマーBの分子中に含まれる酸基は、酸基を有するモノマー(b−1)によりポリマー骨格に導入されてなるものが好ましい。すなわち、ポリマーBは、酸基を有するモノマー(b−1)由来の構成単位を含有するものが好ましい。ポリマーBとしては、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂等が挙げられる。中でも、ビニル系樹脂が好ましく、酸基を有するモノマー(b−1)(以下、「(b−1)成分」ともいう)と、疎水性モノマー(b−2)(以下、「(b−2)成分」ともいう)とを含む原料モノマー(以下、単に「原料モノマー」ともいう)を共重合させてなるビニル系樹脂がより好ましい。該ビニル系樹脂は、(b−1)成分由来の構成単位と(b−2)成分由来の構成単位とを含有する。該ビニル系樹脂は、更にマクロモノマー(b−3)(以下、「(b−3)成分」ともいう)由来の構成単位及び/又はノニオン性モノマー(b−4)(以下、「(b−4)成分」ともいう)由来の構成単位を含有してもよい。
〔酸基を有するモノマー(b−1)〕
酸基を有するモノマー(b−1)は、顔料の分散安定性を向上させ、定着性及び印刷画質を向上させる観点から、前記ビニル系樹脂のモノマー成分として用いられることが好ましい。
酸基を有するモノマー(b−1)としては、前述の酸基を有するものが挙げられる。中でも、カルボン酸モノマーが好ましい。
該カルボン酸モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられるが、好ましくは(メタ)アクリル酸である。
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる少なくとも1種を意味する。
〔疎水性モノマー(b−2)〕
疎水性モノマー(b−2)は、ポリマーの顔料への吸着性を向上させ、顔料の分散安定性を向上させる観点、並びに定着性及び印刷画質を向上させる観点から、前記ビニル系樹脂のモノマー成分として用いられることが好ましい。
本明細書において「疎水性」とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。疎水性モノマー(b−2)の前記溶解量は、ポリマーの顔料への吸着性の観点から、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。
疎水性モノマー(b−2)は、好ましくは脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート及び芳香族基含有モノマーから選ばれる少なくとも1種である。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とはアクリレート及びメタクリレートから選ばれる少なくとも1種である。
脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレートは、好ましくは炭素数1以上22以下の脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有するものである。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート;イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の分岐鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、より好ましくは炭素数1以上10以下のアルキル基を有するものである。
芳香族基含有モノマーは、好ましくは、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニルモノマーであり、より好ましくはスチレン系モノマー及び芳香族基含有(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種である。芳香族基含有モノマーの分子量は、500未満が好ましい。
スチレン系モノマーは、好ましくは、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼンから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはスチレン及びα−メチルスチレンから選ばれる少なくとも1種である。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートは、好ましくはフェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェノキシエチル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはベンジル(メタ)アクリレートである。
〔マクロモノマー(b−3)〕
マクロモノマー(b−3)は、片末端に重合性官能基を有する数平均分子量500以上100,000以下の化合物であり、顔料の分散安定性を向上させる観点から、前記ビニル系樹脂のモノマー成分として用いることができる。片末端に存在する重合性官能基としては、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基が好ましく、メタクリロイルオキシ基がより好ましい。
マクロモノマー(b−3)の数平均分子量は1,000以上10,000以下が好ましい。なお、数平均分子量は、溶媒として1mmol/Lのドデシルジメチルアミンを含有するクロロホルムを用いたゲル浸透クロマトグラフィー法により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定される。
マクロモノマー(b−3)としては、顔料の分散安定性の観点から、芳香族基含有モノマー系マクロモノマー及びシリコーン系マクロモノマーが好ましく、芳香族基含有モノマー系マクロモノマーがより好ましい。
芳香族基含有モノマー系マクロモノマーを構成する芳香族基含有モノマーとしては、疎水性モノマー(b−2)で記載した芳香族基含有モノマーが挙げられ、スチレン及びベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレンがより好ましい。
商業的に入手しうるスチレン系マクロモノマーの具体例としては、AS−6(S)、AN−6(S)、HS−6(S)(東亞合成株式会社の商品名)等が挙げられる。
シリコーン系マクロモノマーとしては、片末端に重合性官能基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
〔ノニオン性モノマー(b−4)〕
ノニオン性モノマー(b−4)は、顔料の分散安定性の観点から、前記ビニル系樹脂のモノマー成分として用いることができる。
ノニオン性モノマー(b−4)としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコール(n=2〜30、nはオキシプロピレン基の平均付加モル数を示す。以下のnは当該オキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(n=1〜30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1〜30、その中のエチレングリコール:n=1〜29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、ポリプロピレングリコール(n=2〜30)(メタ)アクリレート、アルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートが好ましい。
商業的に入手しうるノニオン性モノマー(b−4)の具体例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルM−20G、同40G、同90G、同230G等、日油株式会社のブレンマーPE−90、同200、同350等、PME−100、同200、同400等、PP−500、同800、同1000等、AP−150、同400、同550等、50PEP−300、50POEP−800B、43PAPE−600B等が挙げられる。
前記(b−1)〜(b−4)成分の各成分は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
以上のとおり、本発明に係るポリマーBは、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上の酸基を有するモノマー(b−1)由来の構成単位と、脂肪族アルコール由来の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート及び芳香族基含有モノマーから選ばれる1種以上の疎水性モノマー(b−2)由来の構成単位とを含有するビニル系樹脂であることが好ましく、更にマクロモノマー(b−3)由来の構成単位、及びノニオン性モノマー(b−4)由来の構成単位を含有するビニル系樹脂であってもよい。
(原料モノマー中又はビニル系樹脂中における各成分又は構成単位の含有量)
前記ビニル系樹脂製造時における、(b−1)及び(b−2)成分の原料モノマー中における含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又は前記ビニル系樹脂中における(b−1)及び(b−2)成分に由来する構成単位の含有量は、顔料の分散安定性の観点から、次のとおりである。
(b−1)成分の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
(b−2)成分の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
(b−1)成分と(b−2)成分との質量比[(b−1)成分/(b−2)成分]は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.2以上、より更に好ましくは0.3以上であり、そして、好ましくは2.3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下、より更に好ましくは0.5以下である。
(ビニル系樹脂の製造)
ビニル系樹脂は、原料モノマーを塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
溶液重合法で用いる溶媒に特に制限はないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、炭素数3以上5以下のケトン類、エーテル類、酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、メタノール、エタノール、アセトン、メチルエチルケトン、又はこれらの1種以上と水との混合溶媒が好ましく、メチルエチルケトン又はそれと水との混合溶媒が好ましい。
重合の際には、重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることができる。
重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、tert−ブチルペルオキシオクトエート、ベンゾイルパーオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、原料モノマー1モルあたり、好ましくは0.001モル以上5モル以下、より好ましくは0.01モル以上2モル以下である。
重合連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の連鎖移動剤を用いることができる。
また、重合モノマーの連鎖の様式に制限はなく、ランダム、ブロック、グラフト等のいずれの重合様式でもよい。
好ましい重合条件は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるが、通常、重合温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは80℃以下である。重合時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、そして、好ましくは20時間以下、より好ましくは10時間以下である。また、重合雰囲気は、好ましくは窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気である。
重合反応の終了後、反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成したポリマーを単離することができる。また、得られたポリマーは、再沈澱、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
本発明で用いられるポリマーBの数平均分子量は、好ましくは2,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは7,000以上であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは30,000以下、より更に好ましくは20,000以下である。ポリマーBの数平均分子量が前記の範囲であれば、顔料への吸着力が十分であり分散安定性を発現することができる。
なお、前記数平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
(水系顔料分散体の製造)
本発明の水系顔料分散体(顔料分散体)は、顔料Aに含まれる各顔料を種類ごとにポリマーBで分散処理した後、得られた各顔料の水系分散液Pを互いに混合する方法1、顔料AをポリマーBで分散処理する方法2等により製造することができる。中でも、顔料の分散安定性の観点から、方法1が好ましい。
方法1について、顔料Aに含まれる各顔料を「顔料n」として以下に説明する。
〔方法1〕
方法1は、下記工程1−1〜工程1−3を含む方法より行うことが好ましい。
工程1−1:ポリマーB、有機溶媒、顔料n、及び水を含有する顔料混合物(i)(以下、「顔料混合物(i)」ともいう)を分散処理して、分散液pを得る工程
工程1−2:工程1−1で得られた分散液pから有機溶媒を除去して、顔料nを含有するポリマー粒子(以下、「顔料(n)含有ポリマー粒子」ともいう)の水系分散液Pを得る工程
工程1−3:工程1−2で得られた水系分散液Pを互いに混合して、顔料分散体を得る工程
(工程1−1)
工程1−1は、ポリマーB、有機溶媒、顔料n、及び水を含有する顔料混合物(i)を分散処理して、分散液pを得る工程である。
工程1−1では、まず、ポリマーBを有機溶媒に溶解させ、次に顔料n、水、及び必要に応じて中和剤、界面活性剤等を、得られた有機溶媒溶液に加えて混合し、水中油型の分散液pを得る方法が好ましい。ポリマーBの有機溶媒溶液に加える順序に制限はないが、水、中和剤、顔料の順に加えることが好ましい。
ポリマーBを溶解させる有機溶媒に制限はないが、炭素数1以上3以下の脂肪族アルコール、炭素数3以上8以下のケトン類、エーテル類、エステル類等が好ましく、顔料への濡れ性、ポリマーBの溶解性、及びポリマーBの顔料への吸着性を向上させる観点から、炭素数4以上8以下のケトンがより好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが更に好ましく、メチルエチルケトンがより更に好ましい。ポリマーBを溶液重合法で合成した場合には、重合で用いた溶媒をそのまま用いてもよい。
(中和)
ポリマーBの酸基の一部は、顔料の分散安定性、並びに定着性及び印刷画質の観点から、中和剤を用いて中和されることが好ましい。中和する場合は、pHが7以上11以下になるように中和することが好ましい。
中和剤としては、アルカリ金属水酸化物、アンモニア等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられる。中和剤は、顔料の分散安定性、並びに定着性及び印刷画質の観点から、アルカリ金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましい。また、ポリマーBを予め中和しておいてもよい。
中和剤は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、中和剤水溶液として用いることが好ましい。中和剤水溶液の濃度は、前記と同様の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
中和剤の使用当量は、顔料の分散安定性、並びに定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。
ここで中和剤の使用当量は、次式によって求めることができる。中和剤の使用当量が100モル%以下の場合、中和度と同義である。中和剤の使用当量が100モル%を超える場合には、中和剤がポリマーBの酸基に対して過剰であることを意味し、この時のポリマーBの中和度は100モル%とみなす。
中和剤の使用当量(モル%)=〔{中和剤の添加質量(g)/中和剤の当量}/[{ポリマーBの酸価(mgKOH/g)×ポリマーBの質量(g)}/(56×1,000)]〕×100
(顔料混合物(i)中の各成分の含有量)
顔料混合物(i)中の各成分の含有量は、顔料の分散安定性、並びに定着性及び印刷画質の観点から、以下のとおりである。
顔料混合物(i)中の顔料nの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
顔料混合物(i)中のポリマーBの含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
顔料混合物(i)中の有機溶媒の含有量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
顔料混合物(i)中の水の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下である。
顔料混合物(i)中の顔料nとポリマーBとの合計量に対する顔料nの質量比[顔料n/(顔料n+ポリマーB)]は、顔料の分散安定性、並びに定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.7以上であり、そして、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.85以下である。
顔料混合物(i)の混合方法に特に制限はなく、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。中でも高速撹拌混合装置が好ましい。
混合温度は、好ましくは0℃以上であり、そして、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは25℃以下である。
混合時間は、好ましくは0.5時間以上であり、そして、好ましくは30時間以下、より好ましくは10時間以下、更に好ましくは5時間以下、より更に好ましく3時間以下である。
顔料混合物(i)に剪断応力を与える手段としては、例えば、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー(Microfluidic社製)等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの装置は複数を組み合わせることもできる。これらの中では、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料を所望の粒径になるように制御することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは150MPa以上であり、そして、好ましくは300MPa以下、より好ましくは250MPa以下である。
また、パス回数は、好ましくは3以上、より好ましくは7以上であり、そして、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
(工程1−2)
工程1−2は、工程1−1で得られた分散液pから、公知の方法で有機溶媒を除去して、顔料(n)含有ポリマー粒子の水系分散液P(以下、「分散液P」ともいう)を得る工程である。工程1−2により、PR176を含有するポリマー粒子の分散液PI、及びキナクリドン顔料を含有するポリマー粒子の分散液PIIが少なくとも得られる。顔料Aが更にPR176及びキナクリドン顔料以外の他の顔料を含有する場合には、更に他の顔料を含有するポリマー粒子の分散液PIIIも得られる。
得られた分散液P中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
分散液Pの不揮発成分濃度(固形分濃度)は、顔料の分散安定性を向上させる観点及び水系インクの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。分散液Pの固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
分散液Pの全固形分に対する顔料nの質量比[顔料n/(分散液Pの全固形分)]は、顔料の分散安定性、並びに定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.7以上であり、そして、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.85以下である。
分散液P中の顔料(n)含有ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、定着性及び印刷画質を向上させる観点、更にインクジェット印刷用水系顔料分散体として用いる場合には水系インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは70nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
分散液P中の顔料(n)含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
(工程1−3)
工程1−3は、工程1−2で得られた分散液Pを互いに混合して、顔料分散体を得る工程である。工程1−3における混合方法は特に制限はなく、少なくとも、PR176を含有するポリマー粒子の分散液PI及びキナクリドン顔料を含有するポリマー粒子の分散液PIIを互いに混合する。
また、本発明の顔料分散体には、乾燥防止のために保湿剤としてグリセリンやトリエチレングリコール等を1質量%以上10質量%以下含有してもよいし、防黴剤等の添加剤を含有してもよい。該添加剤は顔料を分散するときに配合してもよいし、顔料の分散後に配合してもよい。
〔方法2〕
方法2は、顔料AをポリマーBで分散処理する方法であり、下記工程2−1〜工程2−2を含む方法より行うことが好ましい。
工程2−1:ポリマーB、有機溶媒、顔料A、及び水を含有する顔料混合物(ii)(以下、「顔料混合物(ii)」ともいう)を分散処理して、分散液dを得る工程
工程2−2:工程2−1で得られた分散液dから有機溶媒を除去して、顔料Aを含有するポリマー粒子(顔料(A)含有ポリマー粒子)の水系顔料分散体を得る工程
工程2−1における分散処理方法等は、前述の工程1−1において顔料nに代えて顔料Aを用いた以外は同様の方法で分散処理することができる。また、工程2−2における有機溶媒の除去等は前述の工程1−2における方法と同様である。
顔料分散体の固形分濃度の好ましい態様は、分散液Pの好ましい態様と同じである。
顔料分散体の全固形分に対する顔料Aの質量比[顔料A/(顔料分散体の全固形分)]は、顔料の分散安定性、並びに定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.7以上であり、そして、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.85以下である。
顔料分散体中の顔料(A)含有ポリマー粒子の平均粒径は、粗大粒子を低減し、定着性及び印刷画質を向上させる観点、更にインクジェット印刷用水系顔料分散体として用いる場合には水系インクの吐出安定性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは70nm以上であり、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
顔料分散体中の顔料(A)含有ポリマー粒子の平均粒径は、実施例に記載の顔料(n)含有ポリマー粒子の平均粒径の測定方法と同様の方法により測定される。
また、後述する水系インク中の顔料(A)含有ポリマー粒子の平均粒径は、顔料分散体中の平均粒径と同じであることが好ましい。水系インク中の顔料(A)含有ポリマー粒子の好ましい平均粒径の態様は、顔料分散体中の平均粒径の好ましい態様と同じである。
[水系インク]
本発明の顔料分散体は、水系インク(以下、「水系インク」又は「インク」ともいう)に用いることが好ましい。これにより、低吸水性印刷媒体に印刷した際においても、定着性及び印刷画質に優れる印刷物を得ることができる。水系インクは、定着性及び印刷画質を向上させる観点から、顔料分散体と、水溶性有機溶剤C(以下、「有機溶剤C」ともいう)とを含有することが好ましい。水溶性有機溶剤Cにおける「水溶性」とは、水と任意の割合で混合できる性質を意味する。
(水溶性有機溶剤C)
有機溶剤Cの沸点は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは240℃以下、より好ましくは230℃以下である。有機溶剤Cとして2種以上の有機溶剤を併用する場合には、有機溶剤Cの沸点は各有機溶剤の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値である。
有機溶剤Cとしては、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられる。中でも、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましい。また、多価アルコールと多価アルコールアルキルエーテルとを併用してもよい。
なお、多価アルコールを用いる場合には、多価アルコールの概念に含まれる複数を混合して用いることもできる。同様に、多価アルコールアルキルエーテルを用いる場合には、多価アルコールアルキルエーテルの概念に含まれる複数を混合して用いることもできる。
前記多価アルコールとしては、エチレングリコール(沸点197℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール(沸点210℃)、2−メチル−1,3−プロパンジオール(沸点214℃)、1,2−ブタンジオール(沸点192℃)、1,3−ブタンジオール(沸点208℃)、1,4−ブタンジオール(沸点230℃)、2,3−ブタンジオール(沸点180℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(沸点203℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点242℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(沸点196℃)、1,2−ヘキサンジオール(沸点223℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(沸点178℃)、1,2,4−ブタントリオール(沸点190℃)、1,2,3−ブタントリオール(沸点175℃)、ペトリオール(沸点216℃)等が挙げられる。また、ジエチレングリコール(沸点244℃)、ポリエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール(沸点250℃)、トリエチレングリコール(沸点285℃)、トリプロピレングリコール(沸点273℃)、グリセリン(沸点290℃)等を用いることもできる。沸点が240℃を超える化合物を用いる場合は、沸点が240℃未満の化合物と組み合わせて用いることが好ましい。
前記多価アルコールアルキルエーテルとしては、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテル、トリアルキレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。具体的には、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点122℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点278℃)、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点160℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点158℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点133℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点190℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点227℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点243℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点276℃)等が挙げられる。沸点が240℃を超える化合物を用いる場合には、沸点が240℃未満の化合物と組み合わせて用いることが好ましい。
有機溶剤Cは、定着性及び印刷画質の観点から、より好ましくは多価アルコールを含み、更に好ましくは炭素数3以上6以下のアルカンジオールを含むものである。
有機溶剤C中の多価アルコールの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
水系インクは、定着性及び印刷画質の観点から、更に顔料を含有しないポリマー粒子の水分散体を含有してもよい。顔料を含有しないポリマー粒子の水分散体は定着助剤として機能することができる。
顔料を含有しないポリマー粒子を構成するポリマーとしては、ポリウレタン樹脂及びポリエステル樹脂等の縮合系樹脂;アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂及びアクリルシリコーン系樹脂等のビニル系樹脂が挙げられる。顔料を含有しないポリマー粒子の水分散体は、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
水系インクは、前述の顔料分散体に、好ましくは有機溶剤Cを、更に必要に応じて、水系インクに通常用いられる保湿剤、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加し、フィルター等による濾過処理を行うことにより得ることができる。また、顔料分散体が、前記方法1により得られる場合には、顔料Aに含まれる各顔料nの水系分散液Pを配合して水系インクを得てもよい。
水系インクの各成分の含有量、インク物性は以下のとおりである。
(顔料Aの含有量)
水系インク中の顔料Aの含有量は、印刷濃度の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、印刷時のインク粘度を低くし、定着性及び印刷画質を向上させる観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく7質量%以下である。
水系インクにおけるPR176とキナクリドン顔料との質量比[PR176/キナクリドン顔料]の好ましい範囲は、前述の水系顔料分散体の好ましい範囲と同様である。
(顔料AとポリマーBとの合計含有量)
水系インク中の顔料AとポリマーBとの合計含有量は、定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
(水溶性有機溶剤Cの含有量)
水系インク中の有機溶剤Cの含有量は、定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは48質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましく43質量%以下である。
(水の含有量)
水系インク中の水の含有量は、定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
(質量比[顔料A/(水系インクの全固形分)])
水系インクの全固形分に対する顔料Aの質量比[顔料A/(水系インクの全固形分)]は、定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.4以上、更に好ましくは0.6以上であり、そして、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.85以下である。
(水系インク物性)
水系インクの32℃の粘度は、定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。水系インクの粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
水系インクの20℃のpHは、顔料の分散安定性の観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。水系インクの20℃のpHは、実施例に記載の方法で測定できる。
[インクジェット印刷方法]
水系インクは、フレキソ印刷インキ用、グラビア印刷インキ用、又はインクジェット印刷インク用として好適に用いることができ、特にインクジェット印刷インク用として用いることが好ましい。水系インクを用いた印刷方法としては、水系インクを公知のインクジェット記録装置に装填し、印刷媒体にインクジェット記録方式により画像を形成する方法が好ましい。インクジェット記録装置としてはサーマル式及びピエゾ式があるが、定着性及び印刷画質の観点から、ピエゾ式が好ましい。
(印刷媒体)
用いることができる印刷媒体としては、普通紙、コート紙、樹脂フィルムが挙げられる。コート紙としては、汎用光沢紙、多色フォームグロス紙等が挙げられる。樹脂フィルムとしては、好ましくはポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム、及びポリエチレンフィルムから選ばれる少なくとも1種である。当該樹脂フィルムは、コロナ処理された基材を用いてもよい。
一般的に入手できる樹脂フィルムとしては、例えば、ルミラーT60(東レ株式会社製、ポリエステル)、PVC80B P(リンテック株式会社製、塩化ビニル)、DGS−210WH(ローランドディージー株式会社製、塩化ビニル)、透明塩ビRE−137(株式会社ミマキエンジニアリング製、塩化ビニル)、カイナスKEE70CA(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、ユポSG90 PAT1(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、FOR、FOA(いずれもフタムラ化学株式会社製、ポリプロピレン)、ボニールRX(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ナイロン)、エンブレムONBC(ユニチカ株式会社製、ナイロン)等が挙げられる。
印刷媒体は、定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは低吸水性印刷媒体である。
低吸水性印刷媒体の純水との接触時間100m秒における吸水量は、定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは1g/m以上、より好ましくは2g/m以上であり、そして、好ましくは8g/m以下、より好ましくは6g/m以下である。該吸水量は、自動走査吸液計を用いて、実施例に記載の方法により測定することができる。
前記インクジェット印刷方法においては、インクジェット記録方式により、インク液滴を印刷媒体上に吐出して印刷した後、印刷媒体上に着弾したインク液滴を乾燥する工程を含むことが好ましい。
乾燥工程においては、印刷画質の向上の観点から、印刷媒体表面温度は、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、そして、熱による印刷媒体の変形抑制とエネルギー低減の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは85℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
[インクセット]
前記水系インクは、少なくともマゼンタインクを含む2種以上のインクからなるインクセットの該マゼンタインクに用いることが好ましい。これにより、定着性及び印刷画質に優れる印刷物を得ることができる。前記水系インクをマゼンタインクとして用いる場合、顔料Aの色相はマゼンタである。
該印刷物は多次色であってもよい。多次色の印刷物を得る方法としては、印刷媒体上で、2種以上の異なる色相のインクのドットを重ねて画像を形成する方法、2種以上の異なる色相のインクのドットを並列に付着させて画像を形成する方法等が挙げられる。
インクセットは、2色インクセット、3色インクセット、4色インクセット、5色インクセット、6色インクセット、7色インクセット以上のいずれであってもよいが、減法混色の3原色であるマゼンタインク、イエローインク、及びシアンインクを含み、該マゼンタインクが前記水系インクであるものが好ましい。該マゼンタインクと、イエローインク及びシアンインクから選ばれる少なくとも1種とを組み合わせることにより、二次色の画像を形成することができる。例えば、マゼンタインクとイエローインクとを組み合わせれば、レッドの二次色の画像を形成することができる。マゼンタインクとシアンインクとを組み合わせれば、ブルーの二次色の画像を形成することができる。また、マゼンタインク、イエローインク及びシアンインクが重なったコンポジットブラックでのブラックの画像を形成することもできる。
インクセットに用いられるイエローインク及びシアンインクは特に制限はなく、公知の顔料を用いたものであればよい。イエローインクに用いる顔料Yとしては、例えば、C.I.ピグメント・イエロー(以下、「PY」ともいう)74、PY150、PY151、PY155等が挙げられる。シアンインクに用いる顔料Cとしては、例えば、C.I.ピグメントブルー(以下、「PB」ともいう)15:3、PB15:4等が挙げられる。これらの顔料は、顔料Aと同様にポリマーBで水系媒体に分散されたものであることが好ましい。
インクセットにおいて、例えばレッドの印刷物を得る場合、マゼンタインク及びイエローインクにそれぞれ含まれる顔料Aと顔料Yの質量比[顔料A/顔料Y]は、定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは10/90以上、より好ましくは25/75以上、更に好ましくは40/60以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは75/25以下、更に好ましくは60/40以下である。
インクセットにおいて、例えばブルーの印刷物を得る場合、マゼンタインク及びシアンインクにそれぞれ含まれる顔料Aと顔料Cの質量比[顔料A/顔料C]は、定着性及び印刷画質の観点から、好ましくは10/90以上、より好ましくは30/70以上、更に好ましくは50/50以上であり、そして、好ましくは90/10以下、より好ましくは80/20以下、更に好ましくは70/30以下である。
以下の調製例、製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
(1)数平均分子量の測定
N,N−ジメチルホルムアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製、高速液体クロマトグラフィー用)に、リン酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬特級)及びリチウムブロマイド(東京化成工業株式会社製、試薬)をそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質として分子量が既知の単分散ポリスチレンを用いて測定した。
(2)顔料(n)含有ポリマー粒子の平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELSZ−1000」(大塚電子株式会社製)を用いてキュムラント解析を行い測定した。測定する粒子の濃度が5×10-3%(固形分濃度換算)になるように水で希釈した分散液を用いた。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度165°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。得られたキュムラント平均粒径を分散液Pに含まれる顔料(n)含有ポリマー粒子の平均粒径とした。
(3)固形分濃度の測定
30mlのポリプロピレン製容器(φ=40mm、高さ=30mm)にデシケーター中で恒量化した硫酸ナトリウム10.0gを量り取り、そこへサンプル約1.0gを添加して、混合させた後、正確に秤量し、105℃、−0.08MPa(ゲージ圧)の環境下にて2時間維持して、揮発分を除去し、更にデシケーター内で更に15分間放置し、質量を測定した。揮発分除去後のサンプルの質量を固形分として、添加したサンプルの質量で除して固形分濃度とした。
(4)pHの測定
pH電極「6337−10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F−71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、20℃におけるpHを測定した。
(5)印刷媒体と純水との接触時間100m秒における印刷媒体の吸水量
自動走査吸液計「KM500win」(熊谷理機工業株式会社製)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下にて、純水の接触時間100m秒における転移量を測定し、100m秒の吸水量とした。測定条件を以下に示す。
「Spiral Method」
Contact Time(秒):0.010〜1.0
Pitch(mm):7
Length Per Sampling(degree):86.29
Start Radius(mm):20
End Radius(mm):60
Min Contact Time(m秒):10
Max Cintact Time(m秒):1,000
Sampling Pattern(1〜50):50
Number of Sampling Points(>0):19
「Square Head」
Slit Span(mm):1
Slit Width(mm):5
<ポリマーBの調製>
調製例1
アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)61.5部、ベンジルアクリレート(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)138.5部を混合し、原料モノマー1を調製した。反応容器内に、メチルエチルケトン(以下、「MEK」ともいう)30部及び2−メルカプトエタノール(重合連鎖移動剤)0.3部、原料モノマー1の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、原料モノマー1の残り、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK60部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:V−65、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル))2.2部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の原料モノマー1を撹拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、カルボキシ基を有するポリマー(B1)(数平均分子量:14,000、酸価240mgKOH/g)の溶液を得た。
調製例2
調製例1において、表1に示すようにアクリル酸、ベンジルアクリレートの原料モノマーの割合を変更した以外は、調製例1と同様の手順でポリマー(B2)の溶液を得た。結果を表1に示す。
<分散液Pの製造>
製造例1
調製例1で得られたポリマー(B1)の溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー(B1)25部をMEK78.6部と混合し、更に5N水酸化ナトリウム水溶液(濃度16.9%、富士フイルム和光純薬株式会社製、容量滴定用)12.7部を加え、ポリマー(B1)のカルボキシ基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が50%になるように中和した(中和度50モル%)。更にイオン交換水400部を加え、その中に顔料(C.I.ピグメント・レッド176、クラリアントケミカルズ株式会社製、商品名:Novoperm Carmine HF3C)100部を加え、ディスパー(淺田鉄工株式会社製、商品名:ウルトラディスパー)を用いて、20℃でディスパー翼を7,000rpmで回転させる条件で60分間撹拌して顔料混合物(i−1)を得た。
得られた顔料混合物(i−1)をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で200MPaの圧力で10パス分散処理した。得られた分散液p1にイオン交換水250部を加え、撹拌した後、減圧下、60℃でMEKを完全に除去し、更に一部の水を除去し、5μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去することにより、固形分濃度が20%の分散液PI−1を得た。分散液PI−1についてpH及び顔料(PR176)含有ポリマー粒子の平均粒径の測定を行った。結果を表2に示す。
製造例2
製造例1において、調製例1で得られたポリマー(B1)の溶液の代わりに、調製例2で得られたポリマー(B2)の溶液を減圧乾燥させて得られたポリマー(B2)とした以外は、製造例1と同様の手順で分散液PI−2を得た。分散液PI−2についてpH及び顔料(PR176)含有ポリマー粒子の平均粒径の測定を行った。結果を表2に示す。
製造例3〜7及び比較製造例1〜3
製造例1において表2に示す顔料に代えた以外は、製造例1と同様の手順で分散液PII−1〜PII−3、PY−1、PC−1、及びPI’−1〜PI’−3を得た。これらの分散液のpH及び顔料(n)含有ポリマー粒子の平均粒径の測定を行った。結果を表2に示す。
なお、表2中の各顔料の詳細は以下のとおりである。
PR176:Novoperm Carmine HF3C(クラリアントケミカルズ株式会社製)
PR122/PV19:Inkjet Magenta E-02(クラリアントケミカルズ株式会社製、PR122/PV19の固溶体)
PR282: Cinquasia Magenta L 4400(BASF社製)
PV19/PR202: Cinquasia Magenta D 4500 J(BASF社製、PV19/PR202の固溶体)
PY74:ファストエロー7423(山陽色素株式会社製)
PB15:3:FASTOGEN BLUE TGR-SD(DIC株式会社製)
PR150:FUJI FAST CARMIME 522-1D(冨士色素株式会社製)
PR146:FUJI FAST CARMIME 550(冨士色素株式会社製)
PR269:Toner Magenta F8B(クラリアントケミカルズ株式会社製)
<水系顔料分散体の製造>
実施例1−1
上記で得られた分散液PI−1(固形分濃度20%)3.1部(顔料0.5部)と、分散液PII−1(固形分濃度20%)28.1部(顔料4.5部)とを混合して、顔料分散体I−1を得た。
実施例1−2〜1−7、比較例1−1〜1−5
実施例1−1において、表3に示す配合組成とした以外は、実施例1−1と同様の操作を行って、顔料分散体I−2〜I−7及びIC−1〜IC−5を得た。
<水系インクとその評価>
実施例2−1
(インクの製造)
実施例1−1で得られた顔料分散体I−1、1,3−プロパンンジオール(富士フイルム和光純薬株式会社製)30部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(富士フイルム和光純薬株式会社製)10部、アセチレン系界面活性剤サーフィノール440(エボニックインダストリーズ社製)0.5部を加え、イオン交換水を加えて、全量が100部になるよう計量した。マグネチックスターラーで撹拌してよく混合し、1.2μmのフィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、富士フイルム株式会社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジで濾過して、インクを得た。
(インクジェット印刷方法による印刷物の作製)
上記で得られたインクを、ピエゾ方式インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EM−930C)のヘッドに充填し、コート紙(王子製紙株式会社製、商品名:OKトップコート+、接触時間100m秒における吸水量:4.9g/m)、にベタ画像を印刷した(印刷条件=用紙種類:普通紙、モード設定:ファイン)。60℃の乾燥機にて10分乾燥後、更に室温25℃、相対湿度50%の環境室にて1日静置することで、印刷物を作製した。
実施例2−2〜2−9、比較例2−1〜2−5
実施例2−1において、表4に示す配合組成とした以外は、実施例2−1と同様の操作を行って、各インク及び各印刷物を得た。
〔定着性の評価〕
重さ460gのステンレス製おもりの底面(1インチ×1インチ)に、普通紙(XEROX社製、商品名:XEROX 4200)を両面テープで貼り付けた。
次いで、普通紙を貼付したおもりを、上記の方法で得られた印刷物の印刷面上に該印刷面と前記おもり底面に貼付された普通紙とが接触するように置いて、ベタ画像に対し、4インチの幅で10回往復擦過した。その後、前記おもり底面に貼付された普通紙の光学濃度を、分光光度計(グレタグマクベス社製、型番:SpectroEye)を用いて任意の5箇所を測定し(測定条件=観測光源:D65、観測視野:2度、濃度基準:DIN)、その平均値を求めた。該光学濃度の平均値が低いほど定着性に優れる。該光学濃度の平均値が0.05以下であれば十分な定着性が得られ、実用に供することができる。
〔彩度(C)の評価〕
上記の方法で得られた印刷物に対し、分光光度計(グレタグマクベス社製、型番:SpectroEye)を測定モードLに設定し(測定条件=観測光源:D65、観測視野:2度)、任意の5箇所についてaの値及びbの値を測定して平均値を求めた。その平均値から、下記式により彩度を求めた。
彩度とは、色の鮮やかさの程度を表す尺度であり、等しい明るさの無彩色からの距離で表す。ここでは、彩度を、下記式で示すように、L表色系(ここで、Lは明度、aは赤−緑方向の色度、bは黄−青方向の色度を示す。)で、中心(aが共に0の位置:無彩色)からの距離で表す。彩度の値が大きいほど、印刷画質が優れる。
彩度(C)=[(a2+(b2]1/2
表4から、実施例のインクは、定着性及び印刷画質に優れる印刷物が得られることが分かる。一方、比較例のインクは、PR176とキナクリドン顔料を組み合わせて用いていないため、実施例のインクと比べて定着性及び印刷画質のいずれかが劣っているか、又はこれらのいずれもが劣っていることが分かる。
<インクセットとその評価>
実施例3−1、比較例3−1〜3−2
(インクセットの調製)
実施例2−1において、表5に示す配合組成とした以外は実施例2−1と同様の操作を行って得られるイエローインク、シアンインク及びマゼンタインクを組み合わせて、インクセットを得た。
(インクセット印刷物の作製)
上記の方法で得られたインクセットを、ピエゾ方式インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EM−930C)のヘッドに充填した。カラーチャート画像をコート紙(王子製紙株式会社製、商品名:OKトップコート+、接触時間100m秒における吸水量:4.9g/m)に印刷した(印刷条件=用紙種類:普通紙、モード設定:ファイン)。60℃の乾燥機にて10分乾燥後、更に室温25℃、相対湿度50%の環境室にて1日静置することで、インクセット印刷物を作製した。
〔二次色定着性の評価〕
上記の方法で得られたインクセット印刷物のレッド印刷面(マゼンタとイエローの二次色)、及びブルー印刷面(マゼンタとシアンの二次色)の定着性を以下の評価基準で評価した。
重さ460gのステンレス製おもりの底面(1インチ×1インチ)に、普通紙(XEROX社製、商品名:XEROX 4200)を両面テープで貼り付けた。 次いで、普通紙を貼付したおもりを、上記の方法で得られた二次色の印刷物の印刷面上に該印刷面と前記おもり底面に貼付された普通紙とが接触するように置いて、ベタ画像に対し、4インチの幅で10回往復擦過した。擦過後の二次色の定着性を目視にて以下の評価基準で評価した。
(評価基準)
A:印刷面が剥離せず、印刷面の周りが汚れない。
B:印刷面が僅かに剥離し、印刷面の周りが僅かに汚れる。
C:印刷面が剥離し、印刷面の周りが汚れる。
〔インクセット印刷物の印刷画質の評価〕
上記の方法で得られたインクセット印刷物の色相を、分光光度計(グレタグマクベス社製、型番:SpectroEye)を用いてLを測定し、枚葉印刷用ジャパンカラー2007によって定められている色再現領域と比較し、印刷画質を以下の評価基準で評価した。
(評価基準)
A:ジャパンカラーと同等の色再現領域である。
B:ジャパンカラーに僅かに満たない色再現領域である。
C:ジャパンカラーに満たない色再現領域である。
表5から、実施例3−1のインクセットは、二次色の定着性及び印刷画質に優れる印刷物が得られることが分かる。一方、マゼンタインクの顔料としてキナクリドン顔料のみを用いた比較例3−1は、二次色の定着性及び印刷画質がいずれも実施例3−1より劣っていることがわかる。また、マゼンタインクの顔料としてPR176のみを用いた比較例3−2は二次色の定着性は実施例3−1と同等であったが、印刷画質が実施例3−1より劣っていることがわかる。
本発明の水系顔料分散体は、定着性及び印刷画質に優れる印刷物が得られるため、フレキソ印刷インキ用、グラビア印刷インキ用、又はインクジェット印刷インク用の水系顔料分散体として好適に用いることができる。

Claims (8)

  1. 顔料AをポリマーBで水系媒体に分散させた水系顔料分散体であって、
    該顔料Aが、C.I.ピグメント・レッド176及びキナクリドン顔料を含有する、水系顔料分散体。
  2. C.I.ピグメント・レッド176とキナクリドン顔料との質量比[C.I.ピグメント・レッド176/キナクリドン顔料]が3/97以上80/20以下である、請求項1に記載の水系顔料分散体。
  3. キナクリドン顔料が、C.I.ピグメント・レッド122、C.I.ピグメント・レッド202、C.I.ピグメント・レッド282及びC.I.ピグメント・バイオレット19から選択される少なくとも1種の顔料(a)を含む、請求項1又は2に記載の水系顔料分散体。
  4. ポリマーBが酸基を有するモノマー(b−1)由来の構成単位を含有し、該ポリマーBの酸価が50mgKOH/g以上300mgKOH/g以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の水系顔料分散体。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の水系顔料分散体と、水溶性有機溶剤Cとを含有する、水系インク。
  6. 水溶性有機溶剤Cが炭素数3以上6以下のアルカンジオールを含む、請求項5に記載の水系インク。
  7. 請求項5又は6に記載の水系インクを用いて、低吸水性印刷媒体にインクジェット記録方式により画像を形成する、インクジェット印刷方法。
  8. 少なくともマゼンタインク、イエローインク、及びシアンインクを含むインクセットであって、
    該マゼンタインクが請求項5又は6に記載の水系インクである、インクセット。
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