本発明は、新規なカカオポリフェノール含有血圧上昇抑制用組成物に関し、さらに詳細には、乳たんぱく質をさらに含むカカオポリフェノール含有血圧上昇抑制用組成物に関する。
カカオマスに含まれるカカオポリフェノールは血圧低下、動脈硬化のリスク低減、善玉コレステロールの増強および認知症予防等の作用を有することが知られている。例えば、カカオポリフェノールを多く含む高カカオマス含有量のチョコレートを高血圧患者に摂取させると、体重およびBMIには影響を与えずに血圧を低下させることが知られている(非特許文献1)。
チョコレートは、一般的にカカオマスおよびココアバターを原料とし、必要により糖類、乳製品、食用油脂および香料等を配合して製造される。高カカオマス含有チョコレートにおいても種々の原料を用いた製品を開発することにより消費者の選択の幅を広げることが望まれる。
Grassi, D. et al., Hypertension 46, 398-405 (2005)
本発明者らは今般、カカオポリフェノールと乳タンパク質との混合物を高血圧自然発症ラットに与えたところ、乳タンパク質の種類によってはカカオポリフェノールの収縮期血圧の上昇に対する抑制作用が阻害されることを見出した。本発明者らはまた、乳タンパク質としてホエイタンパク質を摂取させた場合には、カカオポリフェノールの収縮期血圧の上昇に対する抑制作用が阻害されないことを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
本発明は、新規なカカオポリフェノール含有血圧上昇抑制用組成物およびカカオポリフェノール含有血圧上昇抑制剤を提供することを目的とする。
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]カカオポリフェノール含有血圧上昇抑制用組成物およびカカオポリフェノール含有血圧上昇抑制剤であって、乳タンパク質としてホエイタンパク質をさらに含んでなることを特徴とする、組成物および用剤(以下、それぞれ「本発明の組成物」および「本発明の用剤」ということがある)。
[2]組成物中のカカオポリフェノール含有量が、0.1質量%以上である、上記[1]に記載の組成物および用剤。
[3]組成物中のホエイタンパク質含有量が、0.1質量%以上である、上記[1]または[2]に記載の組成物および用剤。
[4]組成物中のカカオポリフェノールに対するホエイタンパク質の質量比(ホエイタンパク質/カカオポリフェノール)が、0.01〜7である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[5]組成物中のホエイタンパク質に対するカゼインの質量比(カゼイン/ホエイタンパク質)が、0〜0.5である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[6]脂質(例えば、カカオ由来の脂質および/または植物油脂)をさらに含んでなる、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[7]組成物中のカカオポリフェノールに対する脂質の質量比(脂質/カカオポリフェノール)が、0〜80である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[8]カカオポリフェノールをカカオマスの形態で含有してなる、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[9]組成物中のカカオマス含有量が、60質量%以上である、上記[8]に記載の組成物および用剤。
[10]組成物中のカカオマスに対するホエイタンパク質の質量比(ホエイタンパク質/カカオマス)が、0.01〜0.2である、上記[8]または[9]に記載の組成物および用剤。
[11]油脂加工食品である、上記[1]〜[10]のいずれかに記載の組成物および用剤。
[12]油脂加工食品が、チョコレート(好ましくはミルクチョコレート)である、上記[11]に記載の組成物および用剤。
本発明の組成物および用剤に含まれるポリフェノールおよびホエイタンパク質は、長年食品の原料として使用されてきた成分である。従って、本発明の組成物は、血圧上昇抑制効果を奏するとともに、長期間にわたって継続的に摂取しても副作用の懸念がなく、安全性が高い点において有利である。また、ホエイタンパク質は乳の風味を有する乳固形分であるため、本発明によれば、血圧上昇抑制効果を維持しつつ、乳の風味が付与された高カカオマス含有油脂加工食品(特に、高カカオマス含有ミルクチョコレート)を提供できる点でも有利である。
図1は、高血圧自然発症ラットにおけるカカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合溶液摂取群、乳タンパク質濃縮物溶液摂取群および乳タンパク質濃縮物が配合されたカカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合溶液摂取群の収縮期血圧を、溶媒(水)摂取群(対照群)との対比で示したグラフである。収縮期血圧は平均±標準偏差(SD)で表記した。*はp<0.05 vs. 対照群(Dunnett検定)を示す。
図2は、高血圧自然発症ラットにおけるカカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合溶液摂取群、ホエイタンパク質濃縮物溶液摂取群およびホエイタンパク質濃縮物が配合されたカカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合溶液摂取群の収縮期血圧を、溶媒(水)摂取群(対照群)との対比で示したグラフである。収縮期血圧は平均±標準偏差(SD)で表記した。*はp<0.05 vs. 対照群(Dunnett検定)を示す。
図3は、高血圧自然発症ラットにおけるカカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合溶液摂取群、ホエイタンパク質濃縮物溶液摂取群およびホエイタンパク質濃縮物(低用量または高用量)が配合されたカカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合溶液摂取群の収縮期血圧を、溶媒(水)摂取群(対照群)との対比で示したグラフである。収縮期血圧は平均±標準偏差(SD)で表記した。*はp<0.05 vs. 対照群(Dunnett検定)を示す。
図4は、高血圧自然発症ラットにおけるカカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合溶液摂取群、ホエイタンパク質濃縮物溶液摂取群およびホエイタンパク質濃縮物(低用量、中用量または高用量)が配合されたカカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合溶液摂取群の収縮期血圧を、溶媒(水)摂取群(対照群)との対比で示したグラフである。収縮期血圧は平均±標準偏差(SD)で表記した。*はp<0.05 vs. 対照群(Dunnett検定)を示す。
発明の具体的説明
本発明の組成物および用剤は、カカオポリフェノールを血圧上昇抑制の有効成分として含有してなるものである。ここで「カカオポリフェノール」は、カカオに含まれるポリフェノールを意味する。従って、典型的には、カカオの植物体またはその加工品から抽出(粗抽出を含む)あるいは精製(粗精製を含む)したカカオのポリフェノールを、本発明に使用することができるが、化学合成法によって調製したポリフェノールをカカオポリフェノールの一部または全部として使用してもよい。ここで、カカオポリフェノールとしては、例えば、カテキン等の単量体や、カテキン等が重合してなるプロシアニジン、タンニン等のオリゴマー(二量体以上)が挙げられる。本発明においてはまた、カカオポリフェノールを含有する加工品(例えば、カカオマス、脱脂カカオマス、ココアパウダー、カカオ豆粉砕品等のカカオ豆加工品)をカカオポリフェノールとして本発明の組成物および用剤に含有させることができる。本発明の組成物および用剤においてはまた、上記の様々な形態のカカオポリフェノールを単独あるいは組み合わせて使用することができる。
本発明において、カカオポリフェノールの原料や、カカオポリフェノールを含有する加工品となりうるカカオの植物体またはその加工品としては、カカオ樹皮、カカオ葉、カカオ豆、カカオシェル、カカオマス、脱脂カカオマス、ココアパウダー等、植物体の各種部位またはカカオ豆加工品を挙げることができる。カカオマスは、カカオ豆を磨砕したものであり、脱脂カカオマスは、カカオマスから油脂を除去することにより得ることができる。油脂の除去方法は特に制限されず、圧搾等の公知の方法に従って行うことができる。脱脂カカオマスを粉砕すればココアパウダーとなる。また、カカオの植物体またはその加工品を原料としてカカオポリフェノールの抽出を行う場合は、抽出効率の観点から、磨砕、粉砕等の微粒化処理が施されているカカオマスやココアパウダーを用いるのが好ましい。なお、本発明においては、カカオの植物体には、意図してないしは意図せずに、カカオの植物体以外の物も含めることができる。また、カカオの植物体またはその加工品を原料として抽出を行う際にも、意図してないしは意図せずに、カカオの植物体以外の物も含めることができる。さらに、カカオマスまたはココアパウダーにも、意図してないしは意図せずに、カカオの植物体以外の物も含めることができる。
カカオの植物体またはその加工品を原料とするカカオポリフェノールの抽出方法は公知であり、例えば、特開2009−183229号公報や特開2011−93807号公報の記載に従ってカカオポリフェノール含有組成物を調製することができる。抽出溶媒は、特に限定されるものではないが、水またはエタノール等のアルコールを用いることが好ましい。また、カカオの植物体またはその加工品を原料とするカカオポリフェノールの精製方法は、合成吸着剤、イオン交換樹脂、限外ろ過、活性白土処理等の公知の方法を使用することができ、特に限定されるものではない。
カカオポリフェノールを効率よく投与ないし摂取させるためには、カカオポリフェノールを高濃度で含む組成物を本発明に用いることが好ましく、この場合には、公知の方法(例えば、特開2009−183229号公報に記載の方法)に従って得られたカカオポリフェノール濃縮組成物を本発明に使用することができる。例えば、カカオポリフェノール抽出物を本発明の組成物および用剤に使用する場合、総ポリフェノール量が40%以上のものを用いることができ、好ましくは総ポリフェノール量が69.8%以上のものである。
本発明の組成物および用剤におけるカカオポリフェノールの含有量は、その目的、用途、形態、剤型、症状、体重等に応じて任意に定めることができ、本発明はこれに限定されないが、その含有量は総ポリフェノール量として、全体量に対して以下のように定めることができる。すなわち、本発明の組成物および用剤におけるカカオポリフェノールの含有量の下限値は0.1質量%とすることができ、好ましくは0.5質量%、より好ましくは0.8質量%、さらに好ましくは1質量%、特に好ましくは2質量%である。また、上記含有量の上限値は99質量%とすることができ、好ましくは70質量%、より好ましくは60質量%、さらに好ましくは50質量%、特に好ましくは5質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、0.1〜99質量%(好ましくは0.5〜70質量%、より好ましくは0.8〜60質量%、さらに好ましくは1〜50質量%、特に好ましくは2〜5質量%)とすることができる。
本発明において総ポリフェノール量は、プルシアンブルー法により測定することができる。例えば、Martin L. Price and Larry G. Butler, J. Agric Food Chem., Vol. 25, No.6, 1268-1273,1977に記載の方法に従い、市販のエピカテキンを標準物質として算出することができる。また、カカオポリフェノールの各成分の含量は市販のエピカテキンを標準物質として用いて、高速液体クロマトグラフィ法(HPLC法)により測定することができる。
本発明において「ホエイ」とは、乳から脂肪、カゼイン、脂溶性ビタミンなどを除去した際に残留する水溶性成分(乳清)を意味し、例えば、ナチュラルチーズやレンネットカゼインを製造した際に副産物として得られるチーズホエイおよびレンネットホエイ(スイートホエイとも呼ばれる)や、発酵乳やクワルクなどを製造した際に得られるカゼインホエイ、酸ホエイおよびクワルクホエイが挙げられる。
本発明において「ホエイタンパク質」とは、ホエイに含まれるタンパク質成分であり、代表的な成分として、α−ラクトアルブミン(α−La)、β−ラクトグロブリン(β−Lg)、免疫グロブリンおよびラクトフェリンが挙げられる。本発明においては、上記成分の一部および全部をホエイタンパク質として用いることができる。本発明においてはまた、ホエイの原液(甘性ホエイ、酸ホエイなど)、その濃縮物、その乾燥物(ホエイ粉など)およびその凍結物をホエイタンパク質として用いることができる。本発明においてはさらに、脱塩ホエイ、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)およびホエイタンパク質精製物(WPI)をホエイタンパク質として用いることができる。
本発明において使用されるホエイタンパク質は、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)であることが好ましい。ホエイタンパク質濃縮物(WPC)は、一般的に、固形分の約25%以上がホエイタンパク質であるものの総称である。ホエイから乳糖や塩類などを低減し、ホエイタンパク質を相対的に増強して、固形分の約25%〜約80%にすることにより得ることができる。特に、乳タンパク質を乾燥質量として15%〜80%(固形分換算)で含むWPCは、タンパク質濃縮ホエイパウダーとして、乳製品に定義されている(乳等省令の一部改正平成10年3月30日)。本発明において使用されるホエイタンパク質濃縮物は、好ましくはホエイタンパク質濃縮物中の固形分の80%以上がタンパク質であるものである。
ホエイタンパク質濃縮物(WPC)の製造方法としては、ホエイを膜分離した後に濃縮して製造する方法が挙げられ、濃縮とともに乾燥する工程を含んでいてもよい。濃縮処理は、一般的な装置や方法を用いることができ、例えば真空蒸発缶(エバポレーター)、真空釜、薄膜垂直上昇管状型濃縮機、薄膜垂直下降管状型濃縮機、プレート型濃縮機等を用いて、減圧下で加熱する方法を用いることができる。また、乾燥処理は、一般的な装置や方法を用いることができ、例えば、噴霧乾燥(スプレードライヤー)法、ドラム乾燥法、凍結真空乾燥(フリーズドライヤー)法、真空(減圧)乾燥法等を用いることができる。
本発明の組成物および用剤における本発明のホエイタンパク質の含有量(固形分換算)は、血圧上昇抑制効果を阻害しない限り任意に定めることができる。例えば、本発明の組成物および用剤におけるホエイタンパク質の含有量の下限値は、本発明の組成物および用剤に乳の風味を付与する観点から、全体量に対して0.1質量%とすることができ、好ましくは1質量%、より好ましくは2質量%である。また、上記含有量の上限値は、全体量に対して30質量%とすることができ、好ましくは20質量%、より好ましくは15質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、0.1〜30質量%(好ましくは1〜20質量%、より好ましくは2〜15質量%)とすることができる。なお、本発明において「固形分」とは、水分を除いた成分を意味する。
本発明においてホエイタンパク質の含有量は、組成物等に含まれるホエイタンパク質の量で表され、例えば、電気泳動法による分析により測定することができる。
本発明の組成物および用剤において、カカオポリフェノールに対するホエイタンパク質の質量比(固形分換算)(ホエイタンパク質/カカオポリフェノール)は、例えば、0.01〜7とすることができ、好ましくは0.1〜6.5であり、さらに好ましくは1〜6または1〜5である。なお、本発明においてホエイタンパク質に関する質量比は、ホエイタンパク質の含有量に基づいて算出される。
本発明の組成物および用剤は、血圧上昇抑制効果を阻害しない限りにおいて、ホエイタンパク質以外の乳タンパク質を含んでいてもよい。ホエイタンパク質以外の乳タンパク質としてはカゼインタンパク質が挙げられる。
本発明の組成物および用剤におけるホエイタンパク質以外の乳タンパク質(例えばカゼインタンパク質)の含有量(固形分換算)は、血圧上昇抑制効果を阻害しない限り任意に定めることができる。例えば、本発明の組成物および用剤におけるカゼインタンパク質の含有量の下限値は、全体量に対して0質量%、0.1質量%または0.5質量%とすることができる。また、上記含有量の上限値は、全体量に対して7質量%、5質量%、3質量%または1質量%とすることができる。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、0〜7質量%または0〜5質量%とすることができる。また、本発明の組成物および用剤に含まれるホエイタンパク質に対するカゼインタンパク質の質量比(固形分換算)(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質)は、例えば、0〜0.5とすることができ、好ましくは0〜0.1または0〜0.05である。
本発明の組成物および用剤は、その好ましい態様において、乳タンパク質として実質的にホエイタンパク質のみを含んでなるものとすることができる。
本発明の組成物および用剤は、脂質をさらに含んでいてもよい。該脂質の由来は血圧上昇抑制効果を阻害しない限り特に制限されないが、カカオ由来の脂質や食品製造に使用される植物油脂を用いることができる。ここで、カカオ由来の脂質としては、カカオの植物体またはその加工品から抽出(粗抽出を含む)あるいは精製(粗精製を含む)したカカオ由来の脂質が挙げられ、典型的には、カカオマスやカカオ豆から脱脂して得られた脂質(すなわち、ココアバター)が挙げられる。本発明において、脂質の原料となりうるカカオの植物体またはその加工品としては、典型的には、カカオ豆およびカカオマスが挙げられる。なお、後述のように本発明の組成物および用剤はカカオポリフェノールをカカオマスの形態で含有していてもよく、本発明においては、カカオマスに含まれる脂質(ココアバター)も上記「脂質」として取り扱うものとする。
本発明の組成物および用剤における脂質の含有量(固形分換算)は、血圧上昇抑制効果を阻害しない限り任意に定めることができる。例えば、本発明の組成物および用剤における脂質の含有量の下限値は、全体量に対して0質量%とすることができ、好ましくは0.1質量%、より好ましくは1質量%、さらに好ましくは10質量%である。また、上記含有量の上限値は、全体量に対して80質量%とすることができ、好ましくは70質量%、より好ましくは60質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、0〜80質量%(好ましくは0.1〜70質量%、より好ましくは10〜60質量%)とすることができる。
本発明において脂質の含有量は、組成物等に含まれる脂質の量で表され、例えば、平成29年9月1日付消食表第407号「「食品表示基準について」の一部改正について」の「別添栄養成分等の分析方法等」の2 脂質、(4)酸分解法の記載に従って測定することができる。
本発明の組成物および用剤においてカカオポリフェノールに対する脂質の質量比(固形分換算)(脂質/カカオポリフェノール)は、例えば、0〜80とすることができ、好ましくは0.05〜70であり、より好ましくは0.4〜60であり、さらに好ましくは1〜30であり、特に好ましくは5〜25である。なお、本発明において脂質に関する質量比は、脂質の含有量に基づいて算出される。
本発明の組成物および用剤は、カカオポリフェノールをカカオマスの形態で含有していてもよい。すなわち、本発明によれば、ホエイタンパク質とカカオマスと場合によっては脂質とを含んでなる、血圧上昇抑制用組成物および血圧上昇抑制剤が提供される。
上記の場合、本発明の組成物および用剤におけるカカオマスの含有量(固形分換算)は、所望のカカオポリフェノール含有量となる限り、特に限定されるものではないが、例えば、以下のように定めることができる。すなわち、本発明の組成物におけるカカオマスの含有量の下限値は、全体量に対して1質量%とすることができ、好ましくは15質量%、より好ましくは60質量%である。また、上記含有量の上限値は、全体量に対して99質量%とすることができ、好ましくは98質量%、より好ましくは97質量%である。これらの下限値および上限値はそれぞれ任意に組み合わせることができ、上記含有量の範囲は、例えば、1〜99質量%(好ましくは15〜98質量%、より好ましくは60〜97質量%)とすることができる。
本発明の組成物および用剤におけるカカオマスに対するホエイタンパク質の質量比(固形分換算)(ホエイタンパク質/カカオマス)は、例えば、0.001〜0.20とすることができ、好ましくは0.02〜0.19であり、より好ましくは0.03〜0.15である。
本発明の組成物および用剤におけるカカオマスに対する添加油脂の質量比(固形分換算)(添加油脂/カカオマス)は、例えば、0〜0.3することができ、好ましくは0.01〜0.2であり、より好ましくは0.05〜0.1であり、さらに好ましくは0.06〜0.09である。
本発明に使用するカカオマスは、カカオポリフェノールおよび脂質(例えばココアバター)を含有する限り、特に限定されるものではないが、総ポリフェノール量が1質量%以上(好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは2.8質量%以上)のものとすることができ、また、脂質の含有量が40質量%以上(好ましくは50質量%以上)のものとすることができる。
後記実施例に示される通り、カカオポリフェノールおよびホエイタンパク質を含む組成物は、高血圧自然発症ラットにおいて収縮期血圧の上昇を有意に抑制した。従って、本発明によれば、カカオポリフェノール(あるいはカカオポリフェノールを含む食品素材)をホエイタンパク質と組み合わせて、収縮期血圧上昇の抑制に用いることができる。ここで、「血圧上昇」とは、経日的に上昇する収縮期血圧をいう。また、「血圧上昇抑制」は、前述の血圧上昇の傾向を抑制することをいい、コントロール群に対して血圧上昇の程度が有意に抑制された場合に、血圧上昇を抑制したと判定することができる。
血圧上昇は、高血圧症、血栓症、動脈硬化症、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞等の疾患および状態の原因となりうる(例えば、高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)https://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014v1_1.pdf参照)。従って、本発明の組成物および用剤は、血圧上昇に起因する疾患および状態(例えば、高血圧症、血栓症、動脈硬化症、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞)の発症および/または進展のリスク低減に用いることができる。
本発明の組成物および用剤は、医薬品(例えば、医薬組成物)、医薬部外品、飲食品、飼料等の形態で提供することができ、後記の記載に従い、実施することができる。
本発明の組成物および用剤は、ヒトおよび非ヒト動物に経口投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。
本発明の組成物および用剤は、本発明の組成物および用剤の形状に応じて、経口投与以外の投与経路(例えば、経管投与、経鼻管投与、経腸等)でヒトおよび非ヒト動物に投与することができる。例えば、本発明の組成物および用剤を、カカオポリフェノールおよびホエイタンパク質を含む粘性を有する液状の組成物、あるいは、カカオポリフェノールおよびホエイタンパク質を含む半固形状の組成物とすることで、咀嚼や嚥下の機能が低下し、経口摂取ないしは経口投与ができないヒトおよび非ヒト動物に対しても投与することができる。本発明の組成物および用剤を経口以外の経路で摂取させるか、或いは投与することにより、咀嚼や嚥下の機能が加齢等により低下したとしても、これらのヒトおよび非ヒト動物に対する治療、予防および改善効果が期待できる。
本発明の組成物および用剤は、ヒトおよび非ヒト動物に経口摂取させることができる。カカオポリフェノールおよびホエイタンパク質を経口摂取させる場合には、これらは単離、精製または粗精製された形態のものであっても、これらを含む食品あるいは食品の原料の形態であってもよい。また、本発明の組成物および用剤は、ヒトおよび非ヒト動物に経口摂取させるにあたり、常温の状態、温かい状態、冷たい状態等から任意に選択することができる。例えば、チョコレートのような体温付近で流動化する組成物であって、カカオポリフェノールを含む半固形状の組成物とすることで、咀嚼や嚥下の機能が低下し、経口摂取ないしは経口投与ができないヒトおよび非ヒト動物に対しても摂取させることができる。
本発明の組成物および用剤を食品として提供する場合には、カカオポリフェノールをホエイタンパク質と組み合わせて食品に含有させることができ、該食品はカカオポリフェノールを有効量含有した食品である。ここで、カカオポリフェノールを「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に後述するような範囲でカカオポリフェノールが摂取されるような含有量をいう。また「食品」とは、健康食品、機能性食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品)を含む意味で用いられる。
「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であっても、半液体やゲル状の形態であっても、固形状の形態であってもよい。例えば、チョコレートのような、カカオポリフェノールを含む半固形状の組成物とすることで、咀嚼や嚥下の機能が低下し、経口摂取ないしは経口投与ができないヒトおよび非ヒト動物に対しても摂取させることができる。
本発明の組成物および用剤は、カカオポリフェノールおよびホエイタンパク質を、日常摂取する食品やサプリメントとして摂取する食品に含有させて提供することができる。本発明で提供される食品としては、その形態や形状に特に制限はないが、好ましくは、カカオ豆を主原料とする食品が挙げられ、より好ましくは、油脂加工組成物であり、より一層好ましくはチョコレート等の油脂加工食品である。本発明の組成物および用剤は、乳固形分であるホエイタンパク質を含むものであることから、本発明で提供される油脂加工食品としては、特に好ましくはミルクチョコレートが挙げられる。例えば、チョコレートのような、カカオポリフェノールを含む半固形状の組成物とすることで、咀嚼や嚥下の機能が低下し、経口摂取ないしは経口投与ができないヒトおよび非ヒト動物に対しても摂取させることができる。
前記の通り、カカオポリフェノールを効率よく摂取させるためにはカカオポリフェノールを高濃度で含む組成物を本発明に使用することができる。従って、カカオ豆を主原料とする食品およびサプリメントは、例えば、カカオポリフェノールを高濃度で含むものであることが好ましく、より好ましくはカカオポリフェノールを高濃度で含む油脂加工組成物であり、より一層好ましくはカカオポリフェノールを高濃度で含むチョコレートである。カカオポリフェノールを高濃度で含む油脂加工組成物(特に、チョコレート)は、カカオポリフェノール含有量が高いカカオ由来原料(例えば、カカオマス、脱脂カカオマス、ココアパウダー、カカオ豆粉砕品)および/またはカカオポリフェノール抽出物を原料として使用することにより製造することができる。本発明においては、カカオポリフェノールを高濃度で含有する、いわゆる高カカオチョコレートを本発明の組成物および用剤として用いることができ、この場合の高カカオチョコレートは、例えば、総ポリフェノール量が0.5%以上(好ましくは2%以上)であり、かつ、カカオ分が55%以上(好ましくは70%以上)であるものである。
ここで、食品およびサプリメント中のカカオポリフェノールの含有量はカカオポリフェノールの摂取が可能である限り特に限定されるものではないが、カカオポリフェノールの効率的な摂取の観点から、チョコレート等の油脂加工組成物中の含有量は組成物の固形分当たり、例えば、総ポリフェノール量として0.1〜99質量%(好ましくは0.5〜70質量%、より好ましくは0.8〜60質量%、さらに好ましくは1〜50質量%、特に好ましくは2〜5質量%)とすることができる。また、食品およびサプリメント中のホエイタンパク質の含有量は、カカオポリフェノールの血圧上昇抑制効果を阻害しないように定めることができ、チョコレート等の油脂加工組成物中のホエイタンパク質の含有量は組成物の固形分当たり、例えば、0.1〜30質量%とすることができ、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは2〜15質量%である。
本発明で提供される食品としては、チョコレートのようにカカオ豆を主原料とする食品等の油脂加工食品が挙げられる。ここで、油脂加工食品は、カカオマス、ココアパウダー、ココアバター、油脂等を使用して加工した油脂性菓子を含む意味で用いられる。本発明でいう油脂性菓子とは、日本国公正取引委員会認定のルールであるチョコレート類の表示に関する公正競争規約でいうチョコレート、準チョコレート、チョコレート製品に限定されるものでなく、前記ルールに該当しないテンパータイプ、ノンテンパータイプのファットクリームや、カカオ代用脂を使用したチョコレート等、あらゆる種類の油脂性菓子を含
む意味で用いられる。本発明において、油脂性菓子の調製は、カカオポリフェノール(あるいはカカオポリフェノールを含む食品素材)およびホエイタンパク質を配合すること以外は、常法に従って行うことができる。例えば、油脂性菓子の原料を混合した後、ロールミルによるレファイニング(微細化)工程、コンチング工程、必要に応じてテンパリング工程、成型工程、エージング工程等を経て本発明の油脂性菓子を製造することができる。
本発明で提供される食品は、有効成分であるカカオポリフェノール(あるいはカカオポリフェノールを含む食品素材)をホエイタンパク質と組み合わせて含有させることができる食品であれば、油脂加工食品に特に限定されない。例えば、パン類、ビスケット類、麺類、クラッカー、栄養補給バー等の澱粉系食品;キャンディー類、ガム類、グミ、スナック等の各種菓子類;牛乳、加工乳、アイスクリーム類、発酵乳(ヨーグルト等)、乳飲料、チーズ類、バター類、クリーム類等の乳および乳製品;プリン、ゼリー、ババロア、ムース等のデザート類;非アルコール飲料、アルコール飲料等の飲料類;ハム、ソーセージ等の畜肉加工品;カマボコ、竹輪、魚肉ソーセージ等の魚肉加工品;ジャム、ピューレ等の果実加工品;ルウ、ソース等の調味料類等が挙げられる。カカオポリフェノールおよび脂質は、各食品の特性、目的に応じ、適当な製造工程の段階で適宜配合することができる。
本発明の医薬品および食品は、食品として古くから利用されてきたカカオ豆に含まれるポリフェノールとホエイタンパク質を利用することから、それを必要とする哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いることができる。カカオポリフェノールとホエイタンパク質の投与量または摂取量は、受容者の性別、年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与経路並びに組み合わせる薬剤等に依存して決定できる。
例えば、カカオポリフェノールを食品として経口摂取させる場合、成人1日当たり(固形分換算)、カカオポリフェノールを10〜2000mg(好ましくは25〜1800mg、より好ましくは100〜1500mg、さらに好ましくは125〜1100mg、特に好ましくは500〜1000mg)の範囲となるようにして、摂取させることができる。また、カカオポリフェノールはカカオマスの形態で経口摂取させてもよく、この場合、成人1日当たり(固形分換算)、カカオマス5〜30g(好ましくは10〜25g)の範囲となるようにして摂取させることができる。本発明においては、カカオポリフェノールとホエイタンパク質をチョコレート等の油脂加工食品の形態で経口摂取させてもよく、カカオ分70%以上で、かつ、総ポリフェノール量2%以上の高カカオチョコレートを経口摂取させる場合には、成人1日当たり4〜40g(好ましくは20〜30g)を摂取させることができる。上記のいずれの場合において、カカオポリフェノールまたはカカオマスと組み合わせて摂取させるホエイタンパク質の摂取量は、摂取させるカカオポリフェノールの量に対して特定比率となるように決定することができる。なお、上記の本発明のカカオポリフェノール等の摂取量並びに下記摂取期間等は、本発明の組成物を非治療目的および治療目的のいずれで使用する場合にも適用があり、治療目的の場合には摂取は投与に読み替えることができる。
本発明の組成物および用剤は、他の経口摂取できる組成物や用剤と併用することに制限はない。例えば、血圧上昇の抑制や、血圧上昇に起因する疾患の発症および/または進展のリスク低減が期待できる素材や組成物と併用することで、血圧上昇の抑制効果や、血圧上昇に起因する疾患の発症および/または進展のリスク低減効果をさらに高めることができる。
本発明の組成物および用剤は、血圧上昇の抑制に有効な1日分あるいは数日分(好ましくは1〜3日分)の摂取量のカカオポリフェノールを含んでなる組成物で提供することができる。この場合、本発明の組成物および用剤は、1日分あるいは数日分の有効摂取量を摂取できるように包装されていてもよく、1日分あるいは数日分の有効摂取量が摂取できる限り、包装形態は一包装であっても、複数包装であってもよい。包装形態で提供する場合、摂取者が1日分の有効摂取量を理解できるように摂取量に関する記載が包装になされているか、または当該記載がなされた文書を一緒に提供することが望ましい。また、1日分あるいは数日分の有効摂取量を複数包装で提供する場合には、摂取の便宜上、1日分あるいは数日分の有効摂取量の複数包装をセットで提供することもできる。例えば、血圧上昇の抑制に有効な摂取量のカカオポリフェノールを含んでなる本発明の組成物を複数個に小分けした上で包装し(複数包装)、複数個の本発明の組成物(1日分あるいは数日分の有効摂取量に相当)をまとめて提供する場合には、その複数包装形態の本発明の組成物を箱等の紙容器やパウチ包装等でさらに包装してもよい。
本発明の組成物および用剤を提供するための包装形態は一定量を規定する形態であれば特に限定されず、例えば、包装紙、袋、ソフトバック、パウチ包装(例えば、ピロー包装)、紙容器(例えば、箱)、缶、ボトル、カプセル等の収容可能な容器等が挙げられる。
本発明の組成物および用剤は単回投与または単回摂取によりその効果を発揮することができるが、その効果をよりよく発揮させるために、投与および摂取期間は2日以上の継続的な投与または摂取とすることができ、好ましくは4日以上または1週間以上の継続的な投与または摂取である。ここで、「継続的に」とは、毎日投与あるいは2日に1回の投与を続けることを意味する。本発明の組成物および用剤を包装形態で提供する場合には、継続的摂取のために一定期間(例えば、数日間または1週間)の有効摂取量をセットで提供してもよい。
本発明の食品には、血圧上昇抑制作用を有する旨の表示が付されてもよい。この場合、消費者に理解しやすい表示とするため、本発明の食品には、例えば、以下の一部又は全部の表示が付されてもよい。
・高めの血圧の緩和に
・血圧の上昇を穏やかにする
・血圧が高めの方に
・血圧が気になる方に
・高めの血圧を穏やかに低下させる
本発明の別の面によれば、有効量のカカオポリフェノールおよびホエイタンパク質を、それを必要としている対象に摂取させるか、あるいは投与することを含んでなる、血圧上昇抑制方法が提供される。摂取または投与対象は、ヒトを含む哺乳動物であり、好ましくはヒトである。本発明の方法は、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。
本発明のさらにまた別の面によれば、血圧上昇抑制用組成物または血圧上昇抑制剤の製造のための、カカオポリフェノールの使用であって、ホエイタンパク質と組み合わせての使用が提供される。本発明によればまた、血圧上昇抑制のための、あるいは、血圧上昇抑制剤としての、カカオポリフェノールの使用であって、ホエイタンパク質と組み合わせての使用が提供される。本発明の使用は、本発明の組成物および用剤に関する記載に従って実施することができる。
本発明の使用および本発明の方法は、ヒトおよび非ヒト動物への使用のうち、治療的使用と非治療的使用のいずれもが意図される。ここで、「非治療的」とはヒトを手術、治療または診断する行為(すなわち、ヒトに対する医療行為)を含まないことを意味し、具体的には、医師または医師の指示を受けた者がヒトに対して手術、治療または診断を行う方法を含まないことを意味する。
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、実施例中の「質量%」および「質量比」はいずれも固形分換算に基づく値である。
例1:カカオポリフェノールの血圧上昇抑制効果に対する各種乳タンパク質の影響
例1では、各種乳タンパク質(ホエイタンパク質および乳タンパク質濃縮物(MPC))がカカオポリフェノールの血圧上昇抑制効果に与える影響について調べた。
11週齢の雄性高血圧自然発症ラット(SHR/Izm、日本エスエルシー社より入手)48匹を1週間馴化飼育した。試験期間は6日間(試験0、1、2、3、4、5日目)として、試験溶液を試験0日目〜試験4日目の5日間投与した。馴化飼育後、12週齢時点(試験0日目)における収縮期(最高)血圧(systolic blood pressure、以下、「SBP」ということがある。)を測定した。具体的には、非侵襲で血圧を測定する非観血式血圧測定法により非観血式血圧測定機器(MK−2000ST、室町器械社製、以下同様)を用いてテールカフ方式で測定した。安定状態で測定された5回のSBP値のうち最小値および最大値を除いた3回の測定値の平均値を個体のSBP値とした。血圧測定時間帯は特定群に偏ることなく、均等になるように割り振った。SBP値および体重が均等になるように試験0日目に8群(n=6)に分け、いずれの群も平均SBP値が180mmHg以上(高血圧を発症した状態とみなされる)であることを確認した上で試験を開始した。試験群ごとに3匹ずつ均等に群飼いし、飼料(AIN−93M、オリエンタル酵母工業社製)と飲水は自由摂取とし、個体ごとの体重を試験期間中毎日測定した。また、試験5日目にSBP値を測定した。
試験溶液は、カカオマス(カカオポリフェノール0.3質量%、ココアバター55質量%含有)、添加油脂(ココアバター)、乳タンパク質濃縮物(タンパク質含量75.2質量%、脂質含量2質量%)、ホエイタンパク質濃縮物(タンパク質含量80.5質量%、脂質含量4.3質量%)を用いて調製した。乳タンパク質濃縮物におけるタンパク質の構成は、カゼインの含有率が約80質量%で、ホエイタンパク質の含有率が約20質量%であった。
試験0日目〜試験4日目の5日間、それぞれの群に表1に示す試験溶液または溶媒(水)を1日1回5日間、強制経口投与した。試験溶液は、各区サンプルを15mL/kg・体重となるよう水に溶かして投与した。対照区は水を15mL/kg・体重投与した。表1に、試験溶液の配合内訳(カカオマス、添加油脂(ココアバター)、乳タンパク質原料)、試験溶液の成分値(試験溶液中のポリフェノール量、乳タンパク質量および脂質量(カカオマス、添加油脂および乳タンパク質原料に由来する脂質の合計値))並びに投与量を示した。添加油脂はココアバターを用いた。
A群においてカカオマス:添加油脂(質量比)を1:0.08とし、C、E群においてカカオマス:添加油脂:乳タンパク質(質量比)を1:0.08:0.1とした。A群においてカカオポリフェノール:脂質(質量比)は1:21、C郡およびE群においてカカオポリフェノール:脂質:乳タンパク質(質量比)は1:21:3.3であった。なお、例1における乳タンパク質量はタンパク質含量に基づいて算出した。
各群の収縮期血圧(SBP値)は図1および図2に示される通りであった。対照群、C群およびE群において投与物質に由来しない発育不良による低体重または高血圧発症不良(偽陽性の疑い)を示した個体が試験5日目の測定で見られたためデータ解析から除外して、個体数は対照群(n=5)、C群(n=4)、E群(n=5)、その他の群(n=6)となった。対照群(陰性対照)とカカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合物を投与したA群(陽性対照)についてStudent’s t−testにより系の成立を確認した(例2および例3において同様)。体重は試験期間中通じて群間差はなく被験物質の連続経口投与は体重に影響を与えなかった(データ示さず)。カカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合物を投与したA群では対照群と比較して経日的に誘導される血圧上昇が有意に抑制された(p<0.05 vs. 対照群、Dunnet多重比較)。一方、乳タンパク質濃縮物(B群)またはホエイタンパク質濃縮物(D群)を単独投与しても血圧上昇に対する抑制効果は見られなかった。さらに、カカオマスと添加油脂(ココアバター)へ乳タンパク質濃縮物を添加したC群では血圧上昇に対する抑制効果が見られなかったが、カカオマスと添加油脂(ココアバター)へホエイタンパク質濃縮物を添加したE群ではA群と同様に経日的に誘導される血圧上昇が有意に抑制された(p<0.05 vs. 対照群、Dunnet多重比較)。
以上の結果から、カカオマスの血圧上昇に対する抑制効果は、乳タンパク質濃縮物の添加により阻害されることが確認された。一方、カカオマスの血圧上昇に対する抑制効果は、ホエイタンパク質の添加により阻害されず、ホエイタンパク質濃縮物、カカオマスおよび添加油脂(ココアバター)の混合物は血圧上昇に対する抑制効果を有することが確認された。
例2:カカオポリフェノールの血圧上昇抑制効果に対するホエイタンパク質用量の影響(1)
例2では、ホエイタンパク質用量がカカオポリフェノールの血圧上昇抑制効果に与える影響について調べた。
28匹のラットを4群(n=7)に分け、それぞれの群に表2に示す試験溶液または溶媒(水)を投与した以外は、例1と同様にして試験を実施した。試験溶液の配合内訳(カカオマス、添加油脂(ココアバター)および乳タンパク質原料(ホエイタンパク質濃縮物))、試験溶液の成分値(試験溶液中のポリフェノール量、ホエイタンパク質量および脂質量(カカオマス、添加油脂およびホエイタンパク質濃縮物に由来する脂質の合計値))並びに投与量は表2に示す通りであった。
F群においてカカオマス:添加油脂(質量比)を1:0.08とし、G群においてカカオマス:添加油脂:ホエイタンパク質(質量比)を1:0.08:0.03とし、H群においてカカオマス:添加油脂:ホエイタンパク質(質量比)を1:0.07:0.21とした。F群においてカカオポリフェノール:脂質(質量比)は1:21、G群においてカカオポリフェノール:脂質:ホエイタンパク質(質量比)は1:21:1、H群においてカカオポリフェノール:脂質:ホエイタンパク質(質量比)は1:21:7.1であった。なお、例2におけるホエイタンパク質量はタンパク質含量に基づいて算出した。
各群の収縮期血圧(SBP値)は図3に示される通りであった。H群において高血圧発症不良を示した個体が見られたためデータ解析から除外して、個体数はH群(n=6)、その他の群(n=7)となった。体重は試験期間中通じて群間差はなく被験物質の連続経口投与は体重に影響を与えなかった(データ示さず)。カカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合物を投与したF群では対照群と比較して経日的に誘導される血圧上昇が有意に抑制された(p<0.05 vs. 対照群、Dunnet多重比較)。また、カカオマスと添加油脂(ココアバター)へホエイタンパク質濃縮物を低用量で添加したG群ではF群と同様に血圧上昇が有意に抑制された(p<0.05 vs. 対照群、Dunnet多重比較)。一方、カカオマスと添加油脂(ココアバター)へホエイタンパク質濃縮物を高用量で添加したH群では血圧上昇に対する抑制効果が見られなかった。以上の結果から、ホエイタンパク質濃縮物、カカオマスおよび添加油脂(ココアバター)の混合物は血圧上昇に対する抑制効果を有すること、ホエイタンパク質の用量が該抑制効果に影響を与えることが確認された。
例3:カカオポリフェノールの血圧上昇抑制効果に対するホエイタンパク質用量の影響(2)
例3では、ホエイタンパク質用量がカカオポリフェノールの血圧上昇抑制効果に与える影響について調べた。
35匹のラットを5群(n=7)に分け、それぞれの群に表3に示す試験溶液または溶媒(水)を投与した以外は、例1と同様にして試験を実施した。試験溶液の配合内訳(カカオマス、添加油脂(ココアバター)および乳タンパク質原料(ホエイタンパク質濃縮物))、試験溶液の成分値(試験溶液中のポリフェノール量、ホエイタンパク質量および脂質量(カカオマス、添加油脂およびホエイタンパク質濃縮物に由来する脂質の合計値))並びに投与量は表3に示す通りであった。
I群においてカカオマス:添加油脂(質量比)を1:0.08とし、J群においてカカオマス:添加油脂:ホエイタンパク質(質量比)を1:0.08:0.03とし、K群においてカカオマス:添加油脂:ホエイタンパク質(質量比)を1:0.07:0.09とし、L群においてカカオマス:添加油脂:ホエイタンパク質(質量比)を1:0.07:0.15とした。I群においてカカオポリフェノール:脂質(質量比)は1:21、J群においてカカオポリフェノール:脂質:ホエイタンパク質(質量比)は1:21:1、K群においてカカオポリフェノール:脂質:ホエイタンパク質(質量比)は1:21:3.1、L群においてカカオポリフェノール:脂質:ホエイタンパク質(質量比)は1:21:5.1であった。なお、例3におけるホエイタンパク質量はタンパク質含量に基づいて算出した。
各群の収縮期血圧(SBP値)は図4に示される通りであった。対照群およびL群において高血圧発症不良を示した個体が見られたためデータ解析から除外して、個体数は対照群(n=6)、L群(n=6)、その他の群(n=7)となった。体重は試験期間中通じて群間差はなく被験物質の連続経口投与は体重に影響を与えなかった(データ示さず)。カカオマスと添加油脂(ココアバター)の混合物を投与したI群では対照群と比較して経日的に誘導される血圧上昇が有意に抑制された(p<0.05 vs. 対照群、Dunnet多重比較)。また、カカオマスと添加油脂(ココアバター)へホエイタンパク質濃縮物を低用量、中用量または高用量で添加した群(J、K、L群)ではI群と同様に血圧上昇が有意に抑制された(p<0.05 vs. 対照群、Dunnet多重比較)。以上の結果から、所定量のホエイタンパク質の添加はカカオマスの血圧上昇に対する抑制効果を阻害しないことが確認された。