以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る移動式クレーンについて説明する。
[移動式クレーン]
図1は、実施形態に係る移動式クレーン10を示す側面図であり、吊り作業時の姿勢を示しており、起伏部材が起立状態にあるときの図である。図2は、図1の移動式クレーン10の機能的構成を示すブロック図である。なお、図面に示される「上」、「下」、「前」、「後」、「右」、「左」などの方向は、本発明の実施形態に係る移動式クレーンの構造及び起伏方法を説明するために便宜上示すものであり、移動式クレーンの移動方向や使用態様などを限定するものではない。また、本実施形態では、例えば図3に示すように、前後方向の一方の方向を第1方向D1とし、前後方向の他方の方向を第2方向D2とする。
図1に示すように、クレーン10は、自走可能な下部走行体11と、この下部走行体11上に軸回りに旋回可能に搭載された上部旋回体12と、起伏部材と、マスト20と、上部旋回体12の後部に積載されたカウンタウエイト13と、複数の支持部材80と、複数のひずみ検出部90と、コントローラ100(図2参照)と、報知装置110と、を備えている。本実施形態では、前記起伏部材は、ブーム14と、ジブ17と、上部ストラット22と、下部ストラット21と、を含む。
ブーム14は、上部旋回体12に回動可能でかつ着脱可能に取り付けられている。図1に示されるブーム14は、いわゆるラチス型のブーム本体15と、基端部14Aと、先端部14Bとを有する。
ブーム本体15は、基端側部材15Aと、一又は複数(図例では2個)の中間部材15B,15Cと、先端側部材15Dとで構成される。前記基端側部材15Aは、上部旋回体12の前部に起伏方向に回動可能となるように連結される。前記中間部材15B,15Cは、その順に前記基端側部材15Aの先端に着脱可能に連結される。前記先端側部材15Dは前記中間部材15Cの先端に着脱可能に連結される。なお、中間部材15B,15Cは省略することが可能である。
ジブ17は、ブーム14の先端部に回動可能でかつ着脱可能に取り付けられている。ジブ17は、図例ではラチス型の構造を有する。ジブ17の基端部17Aは、ブーム14の先端部14Bに回動可能に連結されている。ジブ17の回動中心軸は、上部旋回体12に対するブーム本体15の回動中心軸と平行である。図1に示すように、ジブ17の先端部17Bは、当該先端部17Bが地面に接するときにジブ17を支えるとともに地面上で回転可能なローラ17Rを備えている。
上部ストラット22及び下部ストラット21は、ジブ17を回動させるために設けられている。上部ストラット22は、ブーム14の先端部14Bに回動可能に取り付けられている。下部ストラット21は、上部ストラット22の後方又は下方の位置でブーム14の先端部14Bに回動可能に取り付けられている。上部ストラット22及び下部ストラット21は、ブーム14の先端部14Bから着脱可能に構成されている。
上部旋回体12上には左右一対のバックストップ23が設けられる。これらのバックストップ23は、ブーム14が図1に示される起立姿勢まで到達した時点で当該ブーム14の基端側部材15Aの左右両側部に当接し、この当接によって、前記ブーム14が強風等で後方に煽られるのを規制する。
下部ストラット21は、ブーム14の先端部14Bからブーム起立側(図1では左側)に張り出す姿勢で保持される。この姿勢を保持する手段として、当該下部ストラット21とブーム14との間に左右一対のバックストップ25及び左右一対のストラットガイライン26が介在する。バックストップ25は、先端側部材15Dと下部ストラット21の中間部位との間に介在し、下部ストラット21を下から支える。ガイライン26は下部ストラット21の先端部21Bと基端側部材15Aとを結ぶように張設され、その張力によって下部ストラット21の位置を規制する。
上部ストラット22は、ジブ17と連動して回動するようにこのジブ17と連結される。具体的に、上部ストラット22の先端部22Bとジブ17の先端部17Bとを結ぶように左右一対のジブガイライン28が張設される。従って、この上部ストラット22の回動駆動によってジブ17も回動駆動される。
マスト20は、基端部20A及び回動端部20Bを有する。マスト20の基端部20Aが上部旋回体12に回動可能に連結される。マスト20の回動軸は、ブーム14の回動軸と平行でかつ当該ブーム14の回動軸のすぐ後方に位置している。すなわち、このマスト20はブーム14の起伏方向と同方向に回動可能である。一方、このマスト20の回動端部20Bは左右一対のブーム用ガイライン24を介してブーム14の先端部14Bに連結される。この連結は、マスト20の回動とブーム14の回動とを連携させる。
クレーン10には、各種ウインチが搭載される。具体的には、ブーム14を起伏させるためのブーム起伏用ウインチ30と、ジブ17を起伏方向に回動させるためのジブ起伏用ウインチ32と、吊り荷の巻上げ及び巻下げを行うための主巻用ウインチ34及び補巻用ウインチ36とが搭載される。
ブーム起伏用ウインチ30は、ブーム起伏用ロープ38の巻取り及び繰出しを行う。そして、この巻取り及び繰出しによりマスト20が回動するようにブーム起伏用ロープ38が配索される。具体的に、マスト20の回動端部20B及び上部旋回体12の後端部にはそれぞれ複数のシーブが幅方向に配列されたシーブブロック40,42が設けられ、ブーム起伏用ウインチ30から引き出されたブーム起伏用ロープ38がシーブブロック40,42間に掛け渡される。従って、ブーム起伏用ウインチ30がブーム起伏用ロープ38の巻取りや繰出しを行うことにより、両シーブブロック40,42間の距離が変化し、これによってマスト20さらにはこれと連動するブーム14が起伏方向に回動する。
ジブ起伏用ウインチ32は、ジブ起伏用ロープ44の巻取り及び繰出しを行う。そして、この巻取りや繰出しによって上部ストラット22が回動するようにジブ起伏用ロープ44が配索される。具体的には、下部ストラット21の長手方向中間部にはガイドシーブ46が設けられるとともに、この下部ストラット21の先端部21B及び上部ストラット22の先端部22Bにそれぞれ複数のシーブが幅方向に配列されたスプレッダ47,48(シーブブロック)が設けられる。ジブ起伏用ウインチ32から引き出されたジブ起伏用ロープ44はガイドシーブ46に掛けられ、かつ、スプレッダ47,48間に掛け渡される。従って、ジブ起伏用ウインチ32によるジブ起伏用ロープ44の巻取りや繰出しは、両スプレッダ47,48間の距離を変え、上部ストラット22さらにはこれと連動するジブ17を起伏方向に回動させる。
主巻用ウインチ34は、主巻ロープ50による吊り荷の巻上げ及び巻下げを行う。この主巻について、下部ストラット21の基端部21Aの近傍部位、上部ストラット22の基端部22Aの近傍部位及びジブ17の先端部17Bには、それぞれ主巻用ガイドシーブ52,53,54が回転可能に設けられている。さらに、主巻用ガイドシーブ54に隣接する位置(ジブ17の先端部17B)には、ジブポイントシーブ56が設けられている。主巻用ウインチ34から引き出された主巻ロープ50は、主巻用ガイドシーブ52,53,54に順に掛けられ、かつ、ジブポイントシーブ56と、吊荷用の主フック57に設けられたフックシーブ58と、の間に掛け渡される。従って、主巻用ウインチ34が主巻ロープ50の巻取りや繰出しを行うと、両シーブ56,58間の距離が変わって主フック57の巻上げ及び巻下げが行われる。
同様にして、補巻用ウインチ36は、補巻ロープ60による吊り荷の巻上げ及び巻下げを行う。この補巻については、主巻用ガイドシーブ52,53,54とそれぞれ同軸に補巻用ガイドシーブ62,63,64が回転可能に設けられている。補巻用ガイドシーブ64に隣接する位置(ジブ17の先端部17B)には、ローラ17R(補助シーブ)が回転可能に設けられている。当該補助シーブには、補巻ロープ60をかけ回される。すなわち、補巻用ウインチ36から引き出された補巻ロープ60は、補巻用ガイドシーブ62,63,64に順に掛けられ、かつ、当該補助シーブから垂下される。従って、補巻用ウインチ36が補巻ロープ60の巻取りや繰出しを行うと、補巻ロープ60の末端に連結された図略の吊荷用の補フックが巻上げられ、又は巻下げられる。
図2に示す報知装置110は、ひずみ検出部90により出力される検出信号に基づいたクレーン10における前後のバランスに関する情報をオペレータに対して報知するための装置である。報知装置110は、例えば、音を発するための発音部、光を発するための発光部及び文字、図形などを表示するための表示部の少なくとも1つを有している。報知装置110は、オペレータが認識しやすい場所、具体的には例えば上部旋回体12のキャブ12Aなどに配置される。
前記発音部は、聴覚を通じてオペレータが認識できる音を発する機能を有する。例えば、前記発音部は、図略の警報ブザー、スピーカーなどを有する。前記発光部は、視覚を通じてオペレータが認識できる光を発する機能を有する。例えば、前記発光部は、図略の表示灯、回転灯、信号灯などを有する。前記表示部は、視覚を通じてオペレータが認識できる文字、図形などを表示する機能を有する。例えば、前記表示部は、図略のディスプレイを有する。
コントローラ100は、中央処理装置(CPU)、種々の制御プログラムを記憶するROM、CPUの作業領域として使用されるRAMなどから構成される。図2に示すように、コントローラ100は、演算部101と、報知制御部102と、を機能として備える。演算部101は、ひずみ検出部90により出力される検出信号に基づいてクレーン10が第1方向D1に倒れようとする方向のモーメントを演算するためのものである。報知制御部102は、報知装置110を制御して、ひずみ検出部90により出力される検出信号に基づいたクレーン10における前後のバランスに関する情報をオペレータに報知するためのものである。
[下部走行体]
図3は、本実施形態に係る移動式クレーン10の下部走行体11と、当該下部走行体11のクローラ走行装置3に設けられた支持部材80とを示す平面図である。図4は、当該下部走行体11と支持部材80とを示す側面図であり、支持部材80を使用しているときの状態を示している。
図3及び図4に示すように、下部走行体11は、クローラ式であり、一対のクローラ走行装置3,3と、上部旋回体12が取り付けられる旋回ベアリング2aと、一対のクローラ走行装置3,3を連結するとともに旋回ベアリング2aを支持するフレーム2と、を備える。前記一対のクローラ走行装置3,3は、左右方向に間隔をおいて配置された第1のクローラ走行装置3と第2のクローラ走行装置3とにより構成される。
フレーム2は、当該旋回ベアリング2aの下方において当該旋回ベアリング2aを支持するカーボディ2dと、カーボディ2dの前方において左右方向に延びる前部アクスル2bと、カーボディ2dの後方において左右方向に延びる後部アクスル2cと、を有する。前部アクスル2bの一端(右端)と後部アクスル2cの一端(右端)には第1のクローラ走行装置3が取付けられており、前部アクスル2bの他端(左端)と後部アクスル2cの他端(左端)には第2のクローラ走行装置3が取付けられている。
第1のクローラ走行装置3と第2のクローラ走行装置3は、複数の構成部材の配置が左右逆向きである以外は同様の構造を有する。各クローラ走行装置3は、前後方向にそれぞれ延びる形状を有する。各クローラ走行装置3は、クローラフレーム1と、一対のホイール4a,4c(第1ホイール4a及び第2ホイール4c)と、駆動機構4bと、クローラ7と、複数の上部ローラ5と、複数の下部ローラ6とを有する。
駆動機構4bは、不図示の油圧式モータ(走行モータ)と、走行減速機とを含む。クローラ7は、多数のシューが連結されて構成されている。クローラ7は、前記一対のホイール4a,4cの間に架け渡されることにより一対のホイール4a,4cに無端状(輪状)に支持されて周回移動可能に構成された部材である。本実施形態では、第1ホイール4aは、ドライブタンブラ4aによって構成され、第2ホイール4cは、アイドラ4cによって構成されている。
図6に示すように、クローラフレーム1は、前後方向に延びる形状を有する。クローラフレーム1は、フレーム本体1Aと、タンブラブラケット1Bとを含む。
フレーム本体1Aは、前後方向に延びる形状を有する。フレーム本体1Aは、当該フレーム本体1Aの長手方向に延びる上板部111と、当該上板部111に対して下方に間隔をおいて配置されるとともに前記長手方向に延びる下板部112と、上板部111及び下板部112を接続する側板部113と、を有する。
タンブラブラケット1Bは、フレーム本体1Aの先端部に接続された基端部を有し、当該基端部から前後方向の第1方向D1に延びている。タンブラブラケット1Bの基端部は、フレーム本体1Aの先端部に例えば溶接などの接合手段を用いて接合されている。タンブラブラケット1Bは、ドライブタンブラ4a及び駆動機構4bを支持している。
ドライブタンブラ4aは、その回転軸CB回りに回転可能にタンブラブラケット1Bに支持されている。ドライブタンブラ4aは、前記走行モータから前記走行減速機に伝わった回転力によって回転してクローラ7を駆動するホイールである。アイドラ4cは、クローラフレーム1の基端部(フレーム本体1Aの基端部)において回転可能に支持されている。アイドラ4cは、ドライブタンブラ4aに対して前後方向の反対側においてクローラ7を案内するホイールである。
複数の上部ローラ5は、クローラフレーム1の上部においてそれぞれ回転可能に支持されている。複数の上部ローラ5は、ドライブタンブラ4aとアイドラ4cとの間において前後方向に間隔をおいて配置されてクローラ7を案内する。
複数の下部ローラ6は、クローラフレーム1の下部においてそれぞれ回転可能に支持されている。複数の下部ローラ6は、ドライブタンブラ4aとアイドラ4cとの間において前後方向に間隔をおいて配置されてクローラ7を案内する。
[支持部材]
図3に示すように、本実施形態では、前記複数の支持部材80は、第1のクローラ走行装置3に設けられた右側の支持部材80及び左側の支持部材80と、第2のクローラ走行装置3に設けられた右側の支持部材80及び左側の支持部材80とを含む。
図3及び図4に示すように、各支持部材80は、ビーム81と、脚部82とを含む。ビーム81は、クローラフレーム1に支持される基端部8Aと、前後方向の位置が前記基端部8Aよりも第1方向D1にある先端部8Bとを有する。本実施形態では、各ビーム81は、図3に示す平面視において直線状に延びている。
各ビーム81の基端部8Aはクローラフレーム1に取り付けられており、各ビーム81は第1方向D1に対して傾斜する方向に延びている。具体的には、各ビーム81の基端部8Aは、クローラフレーム1のフレーム本体1Aのうち、前部アクスル2bに対して第1方向D1にはずれた部位に取り付けられている。
より具体的には、右側の支持部材80におけるビーム81の基端部8Aは、クローラフレーム1のフレーム本体1Aの右側部に取り付けられており、当該ビーム81は、前記右側部から第1方向D1に対して右に傾斜した方向(右斜め前方)に延びている。左側の支持部材80におけるビーム81の基端部8Aは、クローラフレーム1のフレーム本体1Aの左側部に取り付けられており、当該ビーム81は、前記左側部から第1方向D1に対して左に傾斜した方向(左斜め前方)に延びている。
脚部82は、ビーム81の先端部8Bに支持されるとともに当該先端部8Bから下方に延びて下端部85が地面に接するように構成されている。本実施形態では、脚部82は油圧シリンダによって構成されている。具体的には、脚部82は、ビーム81の先端部8Bに支持されるとともに前記先端部8Bから下方に延びるシリンダ本体83と、シリンダ本体83に対して上下方向にスライド移動可能なロッド84とを含む。
各支持部材80における脚部82は、ドライブタンブラ4aの回転軸CBに対して第1方向D1にはずれた位置にある。ここで、「脚部82がドライブタンブラ4a(第1ホイール)の回転軸CBに対して第1方向D1にはずれた位置にある」とは、脚部82の中心軸CCがドライブタンブラ4a(第1ホイール)の回転軸CBに対して第1方向D1にはずれた位置にあることをいう。本実施形態では、脚部82の中心軸CCは、上下方向に延びる油圧シリンダの中心軸CC(ロッド84の中心軸CC)である。
右側の支持部材80における脚部82(具体的には、脚部82の中心軸CC)は、クローラフレーム1よりも右に位置し、左側の支持部材80における脚部82(具体的には、脚部82の中心軸CC)は、クローラフレーム1よりも左に位置している。
図5は、図3に示す下部走行体11のクローラ走行装置3に設けられた支持部材80のビーム81をV−V線において切断したときの断面図である。図5に示すように、各支持部材のビーム81は、当該ビーム81の長手方向に直交する断面が閉断面となる構造を有する。図3〜図5に示すように、ビーム81は、ビーム81の長手方向に延びる上板部811と、当該上板部811に対して下方に間隔をおいて配置されるとともに前記長手方向に延びる下板部812と、前記長手方向にそれぞれ延びる一対の側板部813,814と、を有する。一方の側板部813は、上板部811と下板部812の右端部同士を接続しており、他方の側板部814は、上板部811と下板部812の右端部同士を接続している。より具体的には、ビーム81は、第2上板部815をさらに有する。第2上板部815は、上板部811と脚部82との間に位置し、上板部811と脚部82とを接続している。第2上板部815はビーム81の先端部8Bに向かうにつれて下方に傾斜するように配置されている。
ビーム81の基端部8Aには、クローラフレーム1にビーム81を取り付けるための被取付部が設けられている。本実施形態では、当該被取付部は、上板部811の基端部に設けられた貫通孔811aと、下板部812の基端部に設けられた貫通孔812aとによって構成される。一方、クローラフレーム1のフレーム本体1Aには、取付部が設けられている。当該取付部は、フレーム本体1Aの上板部111に設けられた貫通孔111aと、下板部112に設けられた貫通孔112aとによって構成される。前記被取付部を構成する貫通孔811a、812aと、前記取付部を構成する貫通孔111a,112aとの位置を合わせた状態でこれらの貫通孔に上下方向に延びるピン86が挿通されている。これにより、ビーム81がクローラフレーム1に対してピン86回りに回動可能に取り付けられている。
本実施形態では、各支持部材80はクローラフレーム1に対して着脱可能に構成されている。すなわち、上述したピン86を前記貫通孔から取り外すことにより、各支持部材80をクローラフレーム1から取り外すことができる。
図6は、下部走行体11の前部と支持部材80とを示す側面図であり、図7は、下部走行体11の前部と支持部材80とを示す平面図である。図6及び図7は、支持部材80を使用していないときの状態を示している。
本実施形態では、図3及び図4に示すようにクレーン10の組立作業及び分解作業において当該支持部材80が使用されるときには、各支持部材80は、クローラフレーム1のフレーム本体1Aから斜め前方に延びるように配置される。その一方で、支持部材80が使用されないときには、各支持部材80は、図6及び図7に示すようにクローラフレーム1のフレーム本体1Aに設けられた収容空間に収容することができる。
具体的には、本実施形態では、前記収容空間は、上板部811、下板部112及び側板部113によって区画された凹部によって形成されている。脚部82は、ビーム81の先端部8Bに連結部材87によって連結されている。連結部材87にはピン87aが設けられている。脚部82は、当該ピン87a回りに回動可能に連結部材87に取り付けられている。各支持部材80を収容する際には、脚部82の下端部85をロッド84から取り外し、脚部82をピン87a回りに回動させた状態でビーム81をピン86回りに回動させる。これにより、ビーム81及び脚部82が前記収容空間に収容される。
[ひずみ検出部]
ひずみ検出部90は、クレーン10の組立作業及び分解作業においてブーム14を安全に起立動作及び倒伏動作させるために必要な情報を検出するためのものである。具体的には、ひずみ検出部90は、支持部材80のビーム81に生じるひずみを検出するためのものである。ひずみ検出部90は、支持部材80のビーム81に生じるひずみであってクレーン10を第1方向D1に倒す向きのモーメントに対応するひずみを検出可能に構成されている。前記起立動作は、地面に対するブーム14の傾斜角度を大きくする動作であり、前記倒伏動作は、前記傾斜角度を小さくする動作である。
本実施形態では、クレーン10は、複数のひずみ検出部90を備える。具体的には、クレーン10は、4つの支持部材80に設けられた4つのひずみ検出部90を備える。したがって、各支持部材80のビーム81に生じるひずみを検出することができる。なお、本実施形態では、4つのひずみ検出部90は、同じ構造を有し、対応するクローラフレーム1に設けられる位置も図3に示すように同じであるので、以下では主に一つのひずみ検出部90について詳細に説明する。
本実施形態では、ひずみ検出部90は、支持部材80におけるビーム81のうち、クローラフレーム1に支持されるビーム81の基端部8Aと、当該ビーム81の長手方向の中央との間の部位に生じるひずみを検出可能に構成されている。ただし、ひずみ検出部90は、支持部材80におけるビーム81のうち、脚部82を支持する先端部8Bと、ビーム81の長手方向の中央との間の部位に生じるひずみを検出可能に構成されていてもよく、ビーム81の長手方向の中央に生じるひずみを検出可能に構成されていてもよい。
ひずみ検出部90は、ビーム81のうち、ひずみが生じやすい部位に設けられるのが好ましい。これにより、モーメントに起因して生じるビーム81のひずみを感度よく検出することができる。ひずみが生じやすい部位としては、例えば、ビーム81とクローラフレーム1の接続部又は当該接続部に隣接する隣接部、ビーム81と脚部82の接続部又は当該接続部に隣接する隣接部を挙げることができる。
ひずみ検出部90は、ビーム81のひずみを検出するための1つ又は複数のデバイスによって構成される。当該デバイスとしては、例えば金属ひずみゲージ、半導体ひずみゲージなどのひずみゲージを用いることができる。ひずみゲージは、ビーム81の表面に貼り付けるなどの方法により取り付けられる。ただし、ひずみ検出部90を構成するデバイスは、ひずみゲージに限られず、ビーム81のひずみを検出できる他のデバイスを用いることもできる。前記他のデバイスとしては、例えばピン型ロードセルなどのロードセルを例示できる。
金属ひずみゲージは、例えば薄い絶縁体上にジグザグ形状にレイアウトされた金属の抵抗体(金属箔)が取り付けられた構造を有し、当該抵抗体の変形に伴う電気抵抗の変化を検出する。測定された電気抵抗の変化はビーム81のひずみ量に換算される。半導体ひずみゲージは、例えば半導体の電気抵抗率が応力により変化するピエゾ抵抗効果を利用したひずみゲージである。
図5に示すように、本実施形態では、ひずみ検出部90は、複数のひずみゲージ(図例では、第1ひずみゲージ90A,第2ひずみゲージ90B)によって構成されている。第1ひずみゲージ90Aは、ビーム81の上部を構成する上板部811に設けられ、第2ひずみゲージ90Bは、ビーム81の下部を構成する下板部812に設けられている。これらのひずみゲージ90A,90Bにより、ビーム81の上部に生じるひずみとビーム81の下部に生じるひずみを検出することができる。
本実施形態では、第1ひずみゲージ90Aは、ビーム81の上板部811における幅方向の中央に設けられているが、これに限られず、幅方向の中央から当該幅方向の一方にずれた位置に設けられていてもよい。同様に、第2ひずみゲージ90Bは、ビーム81の下板部812における幅方向の中央に設けられているが、これに限られず、幅方向の中央から当該幅方向の一方にずれた位置に設けられていてもよい。本実施形態では、各ひずみゲージは、ビーム81の外面に取り付けられているが、ビーム81の内面に取り付けられていてもよい。
ひずみ検出部90は、クレーン10の前記起立動作及び前記倒伏動作において支持部材80のビーム81に生じるひずみを検出し、ひずみ検出部90によって出力された検出信号は、図2に示すコントローラ100に入力される。そして、演算部101は、当該検出信号に基づいてクレーン10が第1方向D1に倒れようとする方向のモーメントを演算する。報知制御部102は、演算されたモーメントに関する情報(クレーン10における前後のバランスに関する情報)が音、光、文字、図形などによりオペレータに報知されるように報知装置110を制御する。
[組立作業及び分解作業]
次に、本実施形態に係るクレーン10の組立作業及び分解作業について説明する。図8〜図13は、図1の移動式クレーンの組立作業時又は分解作業時の姿勢を概略的に示す側面図である。図8は、起伏部材が倒伏状態にあるときの図であり、図9及び図10は、ブーム14に対するジブ17の相対角度が大きい状態で起伏部材が起立動作又は倒伏動作をするときの図である。図11は、モーメントのつり合い位置が転倒支点に近づいた状態を示す図である。図12及び図13は、ブーム14に対するジブ17の相対角度が小さい状態で起伏部材が起立動作又は倒伏動作をするときの図である。
なお、図8〜図13においては、クレーン10が受けるモーメントの説明をする上で必要な構成要素のみを図示し、一部の構成要素の図示を省略している。また、以下のモーメントの説明では、クローラフレーム1に支持部材80を取り付けていない状態でクレーン10に作用するモーメントについて説明する。
図10及び図13に示すように、クレーン10では、旋回中心Cを基準としたときに、ブーム14及びジブ17を含む起伏部材が第1方向D1に延びており、第1方向D1とは反対の第2方向D2にカウンタウエイト13が配置されている。以下では、クレーン10に作用するモーメントについては、主として、上部旋回体12の旋回中心Cを基準として説明する。
当該クレーン10が第1方向D1に倒れようとするモーメント(以下、モーメントMtという。)は、主として起伏部材の重量と姿勢に起因して発生するモーメント(以下、第1モーメントMfという。)と、主としてカウンタウエイト13の重量と上部旋回体12の一部の重量に起因して発生するモーメント(以下、第2モーメントMbという。)と、により決まると考えることができる。すなわち、モーメントMtは、第1モーメントMfから第2モーメントMbを引くことにより得られる(Mt=Mf−Mb)。
図10及び図13に示すように、カウンタウエイト13の積載量及び旋回中心Cからの距離を変更しない場合には第2モーメントMbに係る重心位置Gbがほぼ変わらないため、第2モーメントMbはほぼ一定である。すなわち、主としてカウンタウエイト13の重量が多くの割合を占める重量(旋回中心Cより第2方向D2の部分の重量)をWbとするとき、第2モーメントMbは、重量Wbと旋回中心Cから重心位置Gbまでの距離Lbとの積により表される(Mb=Wb×Lb)。
一方、ブーム14及びジブ17を含む起伏部材の姿勢によって旋回中心Cから起伏部材の重心位置Gfまでの距離L(例えば図10に示す距離L1、図13に示す距離L2など)が変わるため、第1モーメントMfは起伏部材の姿勢に応じて変動する。当該重心位置Gfは、主に、地面に対するブーム14の傾斜角度と、ブーム14に対するジブ17の相対角度と、により決まる。すなわち、起伏部材の重量をWatとするとき、第1モーメントMfは、重量Watと旋回中心Cから重心位置Gfまでの距離L(例えば距離L1、距離L2など)との積により表される(Mf=Wat×L)。
例えば図13に示すように、地面に対するブーム14の傾斜角度が比較的大きくなるまで上部旋回体12に対してブーム14がある程度起立した状態で、かつ、ブーム14に対するジブ17の相対角度が比較的小さい状態(相対角度θ2)においては、旋回中心C周りの第1モーメントMfと第2モーメントMbがほぼ等しくなる場合がある。この略均等状態では、前記モーメントMtはほぼゼロになる。そして、クレーン10の重量は、クローラ7の前後方向の全体にわたって概ね均等に受け持たれることになる。
上記の略均等状態と比較して、例えば図10に示すように、地面に対するブーム14の傾斜角度が比較的小さくなるまで上部旋回体12に対してブーム14がある程度倒伏した状態で、かつ、ブーム14に対するジブ17の相対角度が比較的大きい状態(相対角度θ1)においては、起伏部材の重心位置Gfが第1方向D1に移動するので、旋回中心C周りの第1モーメントMfが大きくなる。このようにモーメントが第1方向D1に偏った偏り状態では、モーメントMtは、前記略均等状態よりも大きい正の値となる(Mt=Mf−Mb>0)。
ここで、モーメントを計算するためのモーメントの中心を旋回中心Cから前後方向に移動させ、その移動後の中心位置を基準として前後のモーメントを計算したときに、前後のモーメントが同じ大きさとなる位置を「モーメントのつり合い位置」と定義する。また、図10、図11及び図13に示すように、クローラフレーム1のうち、前後方向の位置がドライブタンブラ4aの回転軸CBに対応する部位Sを転倒支点Sと称する。当該転倒支点Sは、クローラフレーム1に支持部材80を設けていない場合であって、クレーン10が転倒すると仮定した場合における支点となる位置である。
上述の略均等状態(例えば図13に示す状態)では、モーメントのつり合い位置P1は旋回中心Cの位置にほぼ一致する。一方、前記偏り状態(例えば図10に示す状態)では、モーメントのつり合い位置P2は旋回中心Cから第1方向D1に移動する。図10に示すようにモーメントMtが正の値となり、モーメントのつり合い位置が旋回中心Cから第1方向D1にある位置P2に移動したとしても、直ちにクレーン10が転倒するわけではない。すなわち、前記偏り状態は、モーメントMtによりクレーン10が第1方向D1に倒れようとするのを下部走行体11のクローラフレーム1が抵抗している状態である。
図10に示すような偏り状態では、モーメントのつり合い位置P2においてモーメントMtがゼロ(Mt=0)になっている。この偏り状態においてクローラフレーム1に作用する曲げモーメントは、主に、つり合い位置P2から転倒支点Sまでの部分に作用する。このように偏り状態では、クローラフレーム1の全体ではなくクローラフレーム1の先端部(つり合い位置P2から転倒支点Sまでの部分)がモーメントMtに抗しており、クローラフレーム1の先端部の曲げ剛性によってクレーン10の転倒が妨げられて姿勢が維持されている。
例えば図11に示すように、起伏部材の重心位置Gfが図13に示す位置よりもさらに第1方向D1に移動してクレーン10が転倒する直前の状態では、モーメントのつり合い位置P3が転倒支点Sとほぼ一致する。この転倒直前状態では、一対のクローラフレーム1の先端部のそれぞれがモーメントMtのほぼ全てを受けることになる。なお、図11中の円形の矢印Mrは、クローラフレーム1の先端部が前記モーメントMtに抗している状態を示している。
したがって、図10に示す略均等状態、図13に示す偏り状態、図11に示す転倒直前状態などの種々の状態に応じて、クローラフレーム1の先端部にはひずみが生じることになる。
そこで、本実施形態に係るクレーン10は、上述したように複数の支持部材80を備え、各支持部材80は、その脚部82がドライブタンブラ4aの回転軸CBに対して第1方向D1にはずれた位置にあるように構成されている。これにより、ひずみ検出部90は、図10に示す略均等状態、図13に示す偏り状態、図11に示す転倒直前状態などの種々の状態に応じた支持部材80のビーム81に生じるひずみを感度よく検出することができる。そして、検出されたひずみに基づいてクローラフレーム1の先端部が受けるモーメントを求めることができれば、クレーン10が取り得る種々の状態を判定できる。よって、本実施形態では、クレーン10の前後方向のバランスがどのような状態にあるかについての指標を得ることができる。
本実施形態では、上述したように、オペレータが煩雑な作業を行わなくても、ひずみ検出部90によって検出される支持部材80のビーム81に生じるひずみが得られる。検出された当該ひずみは、クレーン10が安全に起立動作及び倒伏動作するために利用される。具体的には次の通りである。
クレーン10を組み立てる組立作業においては、図8に示すように、ブーム14及びジブ17は、地面GRに略平行な姿勢で倒伏された状態(倒伏状態)で上部旋回体12に対して取り付けられる。そして、前記吊り作業を行う際には、地面GRに対するブーム14の傾斜角度が次第に大きくなる起立動作によってブーム14の姿勢が前記倒伏状態から前記起立状態(図1に示す状態)に変えられる。
上記のように倒伏状態から起立状態に起伏部材を変位させる場合、まず、ジブ17の先端部17Bに設けられたローラ17Rが地面GRに接した状態でブーム14の傾斜角度を次第に大きくする。この動作においてはブーム14に対するジブ17の相対角度が次第に小さくなる。
例えば図9に示すように前記相対角度が角度θ1となった時点で、図10に示すように相対角度を角度θ1に維持した状態でブーム14の傾斜角度をさらに大きくすると、ジブ17の先端部17Bのローラ17Rは地面GRから離れるので、クレーン10には、モーメントMfが作用する。
このとき、コントローラ100の報知制御部102が報知装置110を制御することにより、ひずみ検出部90により出力される検出信号に基づいたクレーン10における前後のバランスに関する情報が報知装置110を介してオペレータに報知される。これにより、オペレータは、クレーン10における前後のバランスに関する情報を、報知装置110を通じて得ることができる。例えば図10に示すクレーン10の状態が不安定状態であることをオペレータが認識すると、オペレータは、ブーム14の傾斜角度を再び小さくして例えば図9に示すようにジブ17の先端部17Bのローラ17Rを接地させる。そして、オペレータは、ジブ17の先端部17Bに設けられたローラ17Rが地面GRに接した状態でブーム14の傾斜角度を次第に大きくする。この動作においてはブーム14に対するジブ17の相対角度が次第に小さくなる(例えば図12に示す状態)。
例えば図12に示すように前記相対角度が角度θ2となった時点で、図13に示すように相対角度を角度θ2に維持した状態でブーム14の傾斜角度をさらに大きくすると、ジブ17の先端部17Bのローラ17Rは地面GRから離れるので、クレーン10には、モーメントMfが作用する。このときのモーメントつり合い位置P1は、旋回中心Cに近い位置にあるので、クレーン10の起伏部材を安全に起立動作させることができる。
なお、クレーン10を分解する分解作業は、上述した組立作業の動作の逆の動作をさせることによって安全に行われる。
[モーメントの演算方法]
以下、クローラフレーム1の先端部に作用するモーメントの演算方法について具体的に説明する。
上述した図5に示すように、本実施形態では、支持部材80のビーム81は閉断面構造を有する。起伏部材が前記起立動作及び前記倒伏動作をするときにビーム81が上下方向の曲げ荷重を受けてビーム81に曲げ変形が生じると、ビーム81における中立面(中立軸)よりも上部は圧縮されて縮み、中立面よりも下部は引っ張られて伸びる。
そして、ビーム81の上部及び下部のひずみは、中立面からの距離に比例して大きくなる。図5に示すような閉断面構造においてビーム81の上板部811及び下板部812は中立面からの距離が大きい位置にあるので、上板部811及び下板部812では大きなひずみ(曲げ応力)が発生する。したがって、本実施形態のように、ひずみ検出部90の第1ひずみゲージ90A及び第2ひずみゲージ90Bが上板部811及び下板部812に設けられることにより、前記モーメントに対応するひずみの値として大きな値を検出することができる。このことは、ひずみの検出精度を高くすることを可能にする。
ここで、上板部811に発生するひずみをε1とし、下板部812に発生するひずみをε2とする。また、ビーム81における中立面から第1ひずみゲージ90Aまでの距離をr1とし、前記中立面から第2ひずみゲージ90Bまでの距離をr2とする。また、ひずみを計測する断面の断面2次モーメントをIとし、縦弾性係数をEとする。また、ビーム81において曲げモーメントのみにより生じる応力のうち、上側の応力をσmtとし、下側の応力をσmcとする。
なお、ビーム81における曲げ変形の中立面(中立軸)は、当該ビーム81において上下方向の中央に位置するとは限らない。このため、上記の上側応力σmtと下側応力σmcは異なる場合がある。かかる場合、上側応力σmtと下側応力σmcの比(σmt:σmc)は、中立面からの距離の比(r1:r2)と同じである(σmt:σmc=r1:r2)。また、ビーム81はその長手方向に圧縮力σn(軸力)を受けている場合がある。以上の前提を考慮したモーメントの演算方法は次の通りである。
図14は、ビーム81におけるひずみの計測対象の断面に生じる応力分布を模式的に示した図である。図14に示すように、当該応力分布は、曲げモーメントによる応力(σmt,σmc)と、上述した圧縮力σnとの和により得られる。
したがって、モーメントMを求めるために必要な曲げ応力σmtを求める式は次式(1)となる。
E×ε1−E×ε2=(σmt+σn)−(−σmc+σn)=σmt+σmc=σmt(1+r2/r1) ・・・(1)
上記式(1)より、次式(2)が得られる。
σmt=E(ε1−ε2)/(1+r2/r1) ・・・(2)
よって、ビーム81に負荷されているモーメントMは、次式(3)の通りとなる。
M=E×σmt×I/r1 ・・・(3)
クレーン10は、一対のクローラフレーム1を備え、各クローラフレーム1には一対の支持部材80が設けられているため、転倒モーメントMtは、右側のクローラフレーム1に設けられた一対の支持部材80のビーム81のひずみから得られるモーメントをMRとし、左側のクローラフレーム1に設けられた一対の支持部材80のビーム81のひずみから得られるモーメントをMLとすると、次式(4)の通りとなる。
Mt=MR+ML ・・・(4)
なお、モーメントMRは、右側のクローラフレーム1に設けられた一方の支持部材80のビーム81のひずみから得られるモーメントMR1と、他方の支持部材80のビーム81のひずみから得られるモーメントMR2との和である(MR=MR1+MR2)。同様に、モーメントMLは、左側のクローラフレーム1に設けられた一方の支持部材80のビーム81のひずみから得られるモーメントML1と、他方の支持部材80のビーム81のひずみから得られるモーメントML2との和である(ML=ML1+ML2)。
以上のようにして演算されるモーメントMtは、上述したコントローラ100の演算部101がひずみ検出部90から入力される検出信号に基づいて演算する。これにより、クレーン10の転倒原因となるモーメントMtが得られる。ひずみ検出部90による検出の頻度及び演算部101による演算の頻度は、特に限定されない。ひずみ検出部90による検出及び演算部101による演算は、例えば予め設定された時間毎に行われてもよく、連続的に(常時)行われてもよい。
なお、上述した圧縮力σn(軸力)を考慮しなくてもよい場合には、モーメントMは、次式(5)の通りとなる。
M=E×I(|ε1/r1|+|ε2/r2|)/2 ・・・(5)
[変形例]
次に前記実施形態の変形例について説明する。当該変形例は、支持部材80のビーム81が互いに取り付け及び取り外しが可能な複数の部材によって構成されている点が前記実施形態と相違している。なお、当該相違点以外の構成については、変形例に係るクレーン10は前記実施形態と同様である。
図15は、前記実施形態の変形例1に係るクレーン10の下部走行体11と、当該下部走行体11のクローラ走行装置3に設けられた支持部材80とを示す平面図である。図16及び図17は、前記実施形態の変形例1に係るクレーン10におけるクローラフレーム1と、当該クローラフレーム1に取り付けられた支持部材80とを示す斜視図である。図18及び図19は、図16に示すクローラフレーム1と支持部材80とを示す側面図である。図16及び図18は、当該支持部材80のビーム81の一部が取付部から取り外された状態を示す図であり、図17及び図19は、当該支持部材80のビーム81の一部が前記取付部に取り付けられた状態を示す図である。
図16に示すように、変形例1に係るクレーン10では、支持部材80のビーム81は、ビーム81の基端部8Aを含む第1部材81Aと、ビーム81の先端部8Bを含む第2部材81Bとによって構成されている。第1部材81Aと第2部材81Bとは互いに取り付け及び取り外しが可能である。また、当該変形例1では、第1部材81Aから取り外された第2部材81Bは、下部走行体11の前部アクスル2b及び後部アクスル2cに設けられたトランスリフタ70を構成する部材として用いることができる。
図16に示すように、第1部材81Aは、クローラフレーム1のフレーム本体1Aに取り付けられている。第1部材81Aは、上板部811Aと、当該上板部811Aに対して下方に間隔をおいて配置される下板部812Aと、一対の側板部813A,814Aと、を有する。一方の側板部813Aは、上板部811Aと下板部812Aの右端部同士を接続しており、他方の側板部814Aは、上板部811Aと下板部812Aの右端部同士を接続している。
図16及び図18に示すように、第1部材81Aの基端部8Aには、クローラフレーム1に第1部材81Aを取り付けるための被接続部が設けられている。当該被接続部は、上板部811Aの基端部に設けられた貫通孔と、下板部812Aの基端部に設けられた貫通孔とによって構成される。一方、クローラフレーム1のフレーム本体1Aには、接続部が設けられている。当該接続部は、フレーム本体1Aの上板部111に設けられた貫通孔と、下板部112に設けられた貫通孔とによって構成される。前記被接続部を構成する前記貫通孔と、前記接続部を構成する前記貫通孔との位置を合わせた状態でこれらの貫通孔に上下方向に延びるピン86Aが挿通されている。これにより、第1部材81Aがクローラフレーム1に対してピン86A回りに回動可能に取り付けられている。
第1部材81Aにはひずみ検出部90が設けられている。具体的に、第1部材81Aは、前記実施形態と同様に、例えば図5に示すような閉断面構造を有する。そして、当該閉断面を構成する第1部材81Aの上板部811Aには、第1ひずみゲージ90Aが設けられ、当該閉断面を構成する第1部材81Aの下板部812Aには、第2ひずみゲージ90Bが設けられている。なお、ひずみ検出部90は、第2部材81Bに設けられていてもよい。
第1部材81Aの一対の側板部813A,814Aは、前記被接続部とは反対側に取付部を有する。当該取付部は、第2部材81Bを第1部材81Aに取り付けるための部分である。当該取付部は、一対のフック部88A と、当該フック部88Aの下方に設けられた一対の下部貫通孔89Aとによって構成されている。
第2部材81Bは、上板部811Bと、当該上板部811Bに対して下方に間隔をおいて配置される下板部812Bと、一対の側板部813B,814Bと、を有する。一方の側板部813Bは、上板部811Bと下板部812Bの右端部同士を接続しており、他方の側板部814Bは、上板部811Bと下板部812Bの右端部同士を接続している。第2部材81Bは、前記実施形態と同様に、例えば図5に示すような閉断面構造を有する。
第1部材81Aの上板部811Aと第2部材81Bの上板部811Bは、ビーム81の上板部811を構成し、第1部材81Aの下板部812Aと第2部材81Bの下板部812Bは、ビーム81の下板部812を構成している。第1部材81Aの一方の側板部813Aと第2部材81Bの一方の側板部813Bは、ビーム81の一方の側板部813を構成し、第1部材81Aの他方の側板部814Aと第2部材81Bの他方の側板部814Bは、ビーム81の他方の側板部814を構成している。
第2部材81Bの先端部は、脚部82を支持している。脚部82は、第2部材81Bの先端部に連結部材87Aによって連結されている。
第2部材81Bの一対の側板部813B,814Bは、第2部材81Bの先端部とは反対側に被取付部を有する。当該被取付部は、第1部材81Aの前記取付部に係合可能に構成されている。当該被取付部は、一対の上部貫通孔88Bと、当該上部貫通孔88Bの下方に設けられた一対の下部貫通孔89Bと、これらの貫通孔に挿通される一対のピンとによって構成されている。上部貫通孔88Bには予めピンが挿入されて固定されている。
図16及び図17に示すように、第2部材81Bにおける上部貫通孔88Bに配置されたピンを第1部材81Aにおけるフック部88Aに係合されるとともに、第2部材81Bにおける下部貫通孔89Bの位置を第1部材81Aにおける下部貫通孔89Aの位置に合わせた状態でこれらの貫通孔にピンを挿入することにより、第1部材81Aに対して第2部材81Bを取り付けることができる。なお、第1部材81Aから第2部材81Bを取り外す際には、上述した作業の逆の作業が行われる。
第1部材81Aから第2部材81Bが取り外された場合、第1部材81Aは、図15において破線で示すように、ピン86A回りに回動されてクローラフレーム1のフレーム本体1Aに設けられた前記収容空間に収容される。
第1部材81Aから取り外された第2部材81Bは、下部走行体11の前部アクスル2b及び後部アクスル2cに設けられたトランスリフタ70を構成する部材として用いることができる。具体的に、前部アクスル2bには、支持部材80の第1部材81Aと同様の構造を有する一対の基端部材70Aが前部アクスル2bに対して回動可能に設けられており、後部アクスル2cには、支持部材80の第1部材81Aと同様の構造を有する一対の基端部材70Aが後部アクスル2cに対して回動可能に設けられている。第1部材81Aから取り外された第2部材81Bは、トランスリフタ80の基端部材70Aに取り付けられることにより、トランスリフタ70の一部を構成することができる。
図17及び図19に示す具体例では、第1部材81Aに第2部材81Bが取り付けられた状態において、第1部材81Aの上板部811Aと第2部材81Bの上板部811Bとは、水平方向に並び、かつ、互いに接している。したがって、クレーン10が第1方向D1に倒れようとする方向のモーメントが発生し、当該モーメントに起因して支持部材80の脚部が地面から上向きの反力を受けたときに、第1部材81A及び第2部材81Bにおいて効果的にひずみを生じさせることができる。
図20は、前記実施形態の変形例2を模式的に示す斜視図である。図20に示す変形例2では、ビーム81は、ひずみゲージ(ひずみ検出部)を取り付けるための測定支台200(変形部材)をさらに有する。測定支台200は、前後方向においてブーム14の先端部14Bがブーム14の基端部14Aよりも第1方向D1にはずれた位置に配置された状態で、ビーム81に生じるひずみを検出可能な位置に配置されている。測定支台200は、このような位置に配置されていればよいので、測定支台200を配置する部位は特に限定されない。
また、変形例2では、ビーム81は、図20に示すように、ビーム81の長手方向に直交する方向に延びるとともに前記長手方向(前方)に向いた表面を有する補強板816を有する。そして、図20に示す変形例2では、測定支台200は、ビーム81の補強板816と上板部811とにまたがるように設けられている。言い換えると、測定支台200は、補強板816と上板部811とによって形成される角部に配置されている。
測定支台200は、第1面200Aと、第2面200Bと、保持面200Cと、を有する。第1面200Aは、補強板816に対向して配置されて当該補強板816に接続された面である。第2面200Bは、上板部811に対向して配置されて当該上板部811に接続された面である。保持面200Cは、第1面200Aの端縁と第2面200Bの端縁とを接続するとともに、ひずみゲージ90Aを保持する面である。図20に示す具体例では、保持面200Cは、前方に向かうにつれて上方に位置するように傾斜するとともにひずみゲージ90Aを保持する傾斜面を有する。図20に示す具体例では、当該傾斜面は、円弧状の湾曲面(凹曲面)からなるが、平面からなるものであってもよく、凸曲面からなるものであってもよい。また、図20に示す具体例では、測定支台200は略L字形状を有するが、測定支台200の形状は略L字形状に限られない。
また、測定支台200は、上記のように補強板816と上板部811とによって形成される角部に配置されるだけでなく、補強板816と下板部812とによって形成される角部にも配置されている。そして、起伏部材が前記起立動作及び前記倒伏動作をすることにより、ビーム81に曲げモーメントが付加されて当該ビーム81が曲げ変形を受ける。これにより、上側の測定支台200の保持面200Cは、引っ張られて伸びる方向にひずみを生じる。また、下側の測定支台の保持面は、圧縮されて縮む方向にひずみを生じる。よって、保持面200Cに沿ってひずみゲージを設置することで曲げモーメントを算出するためのひずみを求めることができる。保持面200Cが円弧状の湾曲面である場合、円弧の曲率半径を変えることで、ひずみの大きさを調整することができる。
[その他の変形例]
以上、本発明の実施形態に係るクレーン10について説明したが、本発明は上述の形態に限定されるものではない。
例えば、前記実施形態では、例えば図3に示すように、前後方向において、クローラフレーム1の中央からタンブラブラケット1Bに向かう方向を第1方向D1とし、クローラフレーム1の中央からアイドラ4cに向かう方向を第2方向D2としたが、これに限られず、第1方向D1が前後方向においてクローラフレーム1の中央からアイドラ4cに向かう方向であり、第2方向D2が前後方向においてクローラフレーム1の中央からタンブラブラケット1Bに向かう方向であってもよい。
前記実施形態では、複数の支持部材80のそれぞれにひずみ検出部90が設けられていたが、これに限られず、複数の支持部材80の一部にのみひずみ検出部90が設けられていてもよい。
前記実施形態では、ひずみ検出部90は、複数のひずみゲージによって構成されていたが、1つのひずみゲージによって構成されていてもよい。
前記実施形態では、脚部82は、シリンダ本体83と、シリンダ本体83に対して上下方向にスライド移動可能なロッド84とを含む油圧シリンダによって構成されていたが、これに限られず、モーメントに起因する反力を受けてビーム81にひずみを生じさせることができるものであれば、他の部材が用いられてもよい。
前記実施形態では、ビーム81の少なくとも一部は、当該少なくとも一部が取り付けられている取付部に対して着脱可能に構成されていたが、これに限られず、前記取付部に対して着脱できないように固定されていてもよい。
前記実施形態では、起伏部材がジブ17を含んでいたが、本発明は、ジブを有していないクレーンにも適用できる。
前記実施形態では、支持部材80のビーム81は、例えば図5に示すように長手方向に直交する断面が閉断面となる構造を有しているが、これに限られず、例えば長手方向に直交する断面がI断面となる構造を有していてもよい。
また、前記実施形態に係るクレーン10は、当該クレーン10の組立作業及び分解作業において起伏部材を安全に起立動作及び倒伏動作させるために必要な情報を検出可能なひずみ検出部90を備えているが、当該ひずみ検出部90により検出される前記情報を、組立作業及び分解作業以外の作業である吊り作業において、起伏部材を安全に起立動作及び倒伏動作させるために用いることもできる。具体的には、ひずみ検出部90は、支持部材80のビーム81に生じるひずみを検出する。そして、検出されるビーム81のひずみは、吊り作業において、クレーン10の前後のバランスがとれた安定状態、第1方向D1への転倒に近づいている不安定状態などのクレーン10の状態を判定する(推測する)ための指標になる。したがって、吊り作業において、ひずみ検出部90によって検出されるひずみが起伏部材を起立動作及び倒伏動作させるための指標として用いられることにより、吊り作業の安全性が向上する。