JP2020002483A - マスク用シート及びマスク - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、優れた消臭効果を発揮するマスクを提供することを課題とする。【解決手段】本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するシート状体を含む、マスク用シートに関する。また、本発明は、該マスク用シートから構成されるマスク本体と、マスク本体に連結され、マスク本体を着用者の顔面下部に固定するための固定部と、を有するマスクに関する。【選択図】図4

Description

本発明は、マスク用シート及びマスクに関する。
従来、不織布等を複数層となるように積層したマスク本体に耳紐等を取り付けた使い捨てマスクが知られている。このような使い捨てマスクは、例えば、インフルエンザ等のウイルスの感染を防止するために使用されている。また、花粉や粉塵が多く存在する環境下では、粉塵等の吸入を防止するために使い捨てマスクが使用されることがある。さらに、使い捨てマスクは、食品製造工場や、排水処理施設、ネイルサロンといった特定の臭気物質が発生する現場においても使用されており、その使用態様は多岐にわたる。
例えば、特許文献1には、細菌やウイルスが装着者の気管支に侵入するのを防止するために用いられる多層式マスクが開示されている。特許文献1の多層式マスクは、大気浮遊物等を吸収するスパンボンド不織布からなる最外層と、静電気を帯電したメルトブローン不織布からなる第1中間層と、銀イオンおよびゼオライトからなる無機抗菌剤を含有したメルトブローン不織布からなる第2中間層と、前記鼻口部の乾燥を防止可能な保湿性を有するスパンボンド不織布からなる最内層とを積層して構成された薄型4層構造を有している。
また、特許文献2には、内側不織布シートと、外側不織布シートと、香料含有不織布シートを有するマスク本体部を備えるマスクが開示されている。ここでは、香料から発生する香りが着用者の鼻孔粘膜に達することで、着用者の息苦しさが軽減されるとされている。
国際公開第2009/130799号 特開2014−054509号公報
上述したように、種々の工夫が施されたマスクが開発されている。しかしながら、上述したマスクにおいては、製造工程や輸送工程において、各種抗菌剤や香料等の機能性物質が不織布の繊維間に捕捉されずに脱落したり、機能性物質が意図せずに飛散したりすることが懸念される。このような場合、粉舞した機能性物質を着用者等が意図せずに吸引することがあるため、問題となる。また、各種剤が脱落することでマスクに求められる機能が十分に発揮されないため問題となる。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、機能性物質の捕捉性に優れた機能性マスクを提供することを目的として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、マスク本体を構成するマスク用シートに繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有させることにより、機能性物質の捕捉性に優れた機能性マスクが得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するシート状体を含む、マスク用シート。
[2] 繊維状セルロースは、アニオン基を有する[1]に記載のマスク用シート。
[3] 繊維状セルロースは、リン酸基またはリン酸基に由来する置換基を有する[1]又は[2]に記載のマスク用シート。
[4] 繊維状セルロースは、Ag、Au、Pt、Pd、Cu及びZnから選択される少なくとも1種の金属成分を担持する[1]〜[3]のいずれかに記載のマスク用シート。
[5] シート状体は、多層構造のシート状体である[1]〜[4]のいずれかに記載のマスク用シート。
[6] シート状体は、消臭層を含み、
消臭層が、繊維状セルロースを含む[5]に記載のマスク用シート。
[7] 消臭層は、天然繊維、合成繊維及び再生繊維から選択される少なくとも1種をさらに含む[6]に記載のマスク用シート。
[8] シート状体は、不織布層を2層以上含み、
不織布層の間に消臭層が配される[6]又は[7]に記載のマスク用シート。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載のマスク用シートから構成されるマスク本体と、
マスク本体に連結され、マスク本体を着用者の顔面下部に固定するための固定部と、
を有するマスク。
[10] マスク本体は、プリーツ状の立体形状を形成し得る折り目を有する[9]に記載のマスク。
[11] マスク本体の上端部は、マスク着用者の鼻部の形状に適合するように変形可能なノーズフィット部材を備える[9]又は[10]に記載のマスク。
本発明によれば、機能性物質の捕捉性に優れた機能性マスクを得ることができる。
図1は、本発明のマスク用シートの層構成を説明する概念図である。 図2は、本発明のマスク用シートの層構成を説明する概念図である。 図3は、リン酸基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。 図4は、本発明のマスクの構造を説明する平面図である。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(マスク用シート)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するシート状体を含む、マスク用シートに関する。マスク用シートは、シート状体からなるシートであってもよく、シート状体に加えて他の構成部材を含むシートであってもよい。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースのことを、微細繊維状セルロースともいう。
本発明のマスク用シートは上記構成を有するものであるため、機能性物質の捕捉性に優れている。具体的には、シート状体は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するため、機能性物質等の微粒子を繊維間で捕捉したり、繊維上に担持したりすることができる。これにより、機能性物質の脱落等が抑制され、マスク用シートは求められる機能を十分に発揮することができる。
機能性物質としては、例えば、消臭効果を発揮し得る物質(消臭物質)や、芳香性物質、抗菌性物質、ウイルスを不活性化する作用を有する物質、保湿作用を有する物質等を挙げることができる。中でも、本発明のマスク用シートは、消臭効果を発揮し得る物質(消臭物質)を含むことが好ましく、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースがこのような消臭物質を担持することが好ましい。消臭効果を発揮し得る物質としては、例えば、Ag、Au、Pt、Pd、Cu及びZnから選択される少なくとも1種の金属成分を挙げることができ、このような金属成分は、Ag、Cu及びZnから選択される少なくとも1種であることが好ましく、Agであることが特に好ましい。なお、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース自体も消臭効果を発揮するものである。
本発明のマスク用シートは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するため、保湿性にも優れている。例えば、使用時にマスク用シートに含有させた水分や、着用者の吐息等から捕捉した水分を除放することで、保湿機能を発揮することもできる。
さらに、本発明のマスク用シートは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するため、花粉や粉塵等の微粒子を捕捉することもできる。このように、本発明のマスク用シートは、集塵機能も発揮することができる。
シート状体は、単層のシート状体であってもよいが、多層構造のシート状体であることが好ましい。この場合、シート状体は2層以上の層構造を有するものであることが好ましく、3層以上の層構造を有するものであることがより好ましい。なお、層数の上限は特に限定されるものではないが、例えば、10層とすることができる。シート状体は、消臭層を含むことが好ましく、この消臭層に繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースが含まれることが好ましい。
シート状体が多層構造のシート状体である場合、シート状体は複数シートの積層体であることが好ましい。この場合、複数のシートのいずれか1枚が消臭シートであることが好ましく、消臭シートに繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースが含まれることが好ましい。なお、シート状体が複数シートの積層体である場合、複数のシートの少なくとも一部を接合することでシート状体を構成することが好ましい。
本明細書において、シート状体が複数シートの積層体である場合、消臭層は消臭シートと同義である。
消臭層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むことが好ましい。消臭層はこのような微細繊維状セルロースからなる層であってもよいが、他の繊維を含む層であることが好ましい。他の繊維としては、天然繊維、合成繊維及び再生繊維から選択される少なくとも1種を挙げることができる。天然繊維としては、パルプ、綿、羊毛、絹等を挙げることができる。合成繊維としては、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、ナイロン繊維、アクリル樹脂繊維等を挙げることができる。再生繊維としては、レーヨン繊維、アセテート繊維等を挙げることができる。中でも、消臭層は、他の繊維として合成繊維及び再生繊維を含むことが好ましく、例えば、ポリエステル繊維及びレーヨン繊維の組み合わせを例示することができる。なお、消臭層に含まれる合成繊維と再生繊維の質量比は、9:1〜1:2であることが好ましく、4:1〜3:4であることがより好ましい。
消臭層は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、上述した他の繊維に加えて、さらに他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、バインダー成分等を挙げることができる。バインダー成分としては、熱可塑性樹脂や澱粉等を挙げることができる。また、バインダー成分としては、水溶性高分子を挙げることができ、具体的には、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリアクリルアミド等を挙げることができる。
消臭層の坪量は、10〜80g/mであることが好ましく、15〜50g/mであることがより好ましく、20〜35g/mであることがさらに好ましい。消臭層の坪量を上記範囲内とすることにより、より効果的に消臭機能を発揮することができる。
図1は、本発明のマスク用シートの層構成を説明する概念図である。図1に示されるように、マスク用シート10は、不織布層を2層以上含むものであることが好ましく、例えば、肌非接触面側に不織布シート2と、肌接触面側に不織布シート8を含むものであることが好ましい。そして、消臭層が不織布層の間に配されることが好ましい。すなわち、消臭シート6が不織布シート2と不織布シート8の間に配されることが好ましい。なお、消臭シート6も不織布シートであってもよい。
不織布シートとしては、例えば、スパンボンド(SB)不織布、ポイントボンド(PB)不織布、スパンレース(SL)不織布、エアスルー(AT)不織布からなるシートを用いることができる。
マスク用シート10は、消臭シート6の他にさらに機能性層を備えていてもよく、例えば、機能性層として形状維持シート、微粒子ブロックシート、紫外線カットシートを挙げることができる。形状維持シートは、マスク本体が立体形状を保持するためのシートであることが好ましく、樹脂からなるメッシュ状のシートであることが好ましい。マスク用シート10が形状維持シートを備えることにより、後述するマスク本体にプリーツを構成し、プリーツ形状を展開した後に形成される立体形状を長時間維持することができる。また、微粒子ブロック層は、塵埃、細菌、ウイルス、花粉等を捕集する機能を有するフィルターシートであることが好ましい。このような微粒子ブロック層は捕集機能を有する物質を吸着させた樹脂等のシートであってもよく、捕集機能を有する不織布シートであってもよい。マスク用シート10においては、例えば、肌非接触面側から、不織布シート2、機能性シート4、消臭シート6及び不織布シート8をこの順で積層した構成とすることができる。
なお、図2は、本発明のマスク用シートの他の層構成を説明する概念図である。図2に示されるように、マスク用シート10は、肌非接触面側から、不織布シート2、消臭シート6、機能性シート4及び不織布シート8をこの順で積層した構成としてもよい。
(微細繊維状セルロース)
シート状体は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)を含む。
繊維状セルロースの平均繊維幅は、2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることがとくに好ましい。繊維状セルロースの平均繊維幅を2nm以上とすることにより、セルロース分子として水に溶解することを抑制し、繊維状セルロースによる強度や剛性、寸法安定性の向上という効果をより発現しやすくすることができる。なお、繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
繊維状セルロースの繊維長は、とくに限定されないが、たとえば0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.1μm以上800μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、とくに限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを水分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
本実施形態における繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。とくに、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
本実施形態における繊維状セルロースは、アニオン基を有することが好ましい。アニオン基としては、たとえばリン酸基またはリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基またはカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、およびスルホン基またはスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基およびカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることがとくに好ましい。
リン酸基は、たとえばリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−POで表される基である。リン酸基に由来する置換基には、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれる。なお、リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として繊維状セルロースに含まれていてもよい。
リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。
Figure 2020002483
式(1)中、a、b及びnは自然数である(ただし、a=b×mである)。α,α,・・・,α及びα’のうちa個がOであり、残りはR,ORのいずれかである。なお、各αn及びα’の全てがOであっても構わない。Rは、各々、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、不飽和−環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。
飽和−直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、又はn−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロピル基、又はt−ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−分岐鎖状炭化水素基としては、i−プロペニル基、又は3−ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和−環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシル基、ヒドロキシル基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リン酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
繊維状セルロースに対するアニオン基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることがとくに好ましい。また、繊維状セルロースに対するアニオン基の導入量は、たとえば繊維状セルロース1g(質量)あたり3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。アニオン基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。
ここで、単位mmol/gは、アニオン基の対イオンが水素イオン(H)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量を示す。
繊維状セルロースに対するアニオン基の導入量は、たとえば伝導度滴定法により測定することができる。伝導度滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながら伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定する。
図3は、リン酸基を有する繊維状セルロースに対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリン酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。まず、繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。次いで、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を観察し、図3に示すような滴定曲線を得る。図1に示すように、最初は急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このように、滴定曲線には、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。このため、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。したがって、上記で得られた滴定曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リン酸基導入量(mmol/g)となる。
<微細繊維状セルロースの製造工程>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、とくに限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、とくに限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、とくに限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
<リン酸基導入工程>
微細繊維状セルロースがリン酸基を有する場合、微細繊維状セルロースの製造工程は、リン酸基導入工程を含む。リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と反応することで、リン酸基を導入できる化合物から選択される少なくとも1種の化合物(以下、「化合物A」ともいう)を、セルロースを含む繊維原料に作用させる工程である。この工程により、リン酸基導入繊維が得られることとなる。
本実施形態に係るリン酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。一方で、化合物Bが存在しない状態において、セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応を行ってもよい。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、とくに限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、とくに限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン酸もしくはその塩、脱水縮合リン酸もしくはその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸または脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、またはリン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、またはリン酸二水素アンモニウムがより好ましい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
本実施態様で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、および1−エチル尿素などが挙げられる。
反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、とくに限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リン酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料に対して加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、たとえば50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば攪拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いることができる。
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一にリン酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラを生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
加熱処理の時間は、たとえば繊維原料から実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、2回以上繰り返して行うこともできる。2回以上のリン酸基導入工程を行うことにより、繊維原料に対して多くのリン酸基を導入することができる。本実施形態においては、好ましい態様の一例として、リン酸基導入工程を2回行う場合が挙げられる。
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてリン酸基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶剤によりリン酸基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、とくに限定されない。
<アルカリ処理工程(中和工程)>
微細繊維状セルロースを製造する場合、アニオン基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶剤のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶剤などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるリン酸基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばリン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、リン酸基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶剤により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったリン酸基導入繊維を水や有機溶剤により洗浄することが好ましい。
<解繊処理>
アニオン基導入繊維を解繊処理工程で解繊処理することにより、微細繊維状セルロースが得られる。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
解繊処理工程においては、たとえばリン酸基導入繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶剤などの有機溶剤から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶剤としては、とくに限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、リン酸基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのリン酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
(金属成分)
微細繊維状セルロースは、Ag、Au、Pt、Pd、Cu及びZnから選択される少なくとも1種の金属成分を担持するものであることが好ましい。このような金属成分は、Ag、Cu及びZnから選択される少なくとも1種であることが好ましく、Agであることが特に好ましい。上述した金属成分は、例えば、リン酸基を有する微細繊維状セルロースに含まれるリン酸基と、配位結合、水素結合、またはイオン結合することで担持される。このような結合の状態は、たとえばX線光電子分光分析もしくは赤外分光分析により解析できる。
微細繊維状セルロース1g当たりに含まれる金属イオンの含有量は、1.0〜100mgであることが好ましく、5.0〜80mgであることがより好ましい。
<金属成分の担持>
微細繊維状セルロースに金属成分を担持させる方法としては、リン酸基を有する微細繊維状セルロースに対して金属化合物水溶液を接触させる方法を挙げることができる。例えば、リン酸基を有する微細繊維状セルロースの分散液に対して金属化合物の水溶液を添加してもよく、リン酸基を有する微細繊維状セルロースを含む繊維層に対して金属化合物の水溶液を滴下して含浸させてもよい。金属化合物の水溶液としては、たとえば金属塩または有機金属化合物の水溶液を用いることができる。金属塩としては、たとえば金属成分の錯体(錯イオン)、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、および酢酸塩が含まれる。なお、金属塩は水溶性であることが好ましい。
金属化合物水溶液の濃度は特に限定されないが、リン酸基を有する微細繊維状セルロース100質量部に対して10質量部以上80質量部以下が好ましく、30質量部以上60質量部以下がより好ましい。金属化合物を接触させる時間は適宜調整してよい。接触させる際の温度は特に限定されないが20℃以上40℃以下が好ましい。また、接触させる際の液のpHは2.5以上pH13以下が好ましい。
リン酸基を有する微細繊維状セルロースに対して金属化合物水溶液を接触させた後には、リン酸基を有する微細繊維状セルロースに結合した金属化合物を還元する工程を設けてもよい。これにより、還元されて得られた金属粒子などの金属成分がリン酸化セルロース繊維の表面に担持されることとなる。還元反応は、公知の方法で行ってよいが、金属化合物を還元しつつ、金属化合物とリン酸基との結合を開裂しないように行うことが好ましい。本実施形態においては、たとえば水素による気相還元法、および水素化ホウ素ナトリウム水溶液などの還元剤を用いた液相還元法により還元処理を行うことができる。気相還元における時間、温度等の条件は適宜調整されるが、たとえば50℃以上60℃以下で1時間以上3時間以下程度反応させることができる。液相還元における反応温度は、たとえば4℃以上40℃以下が好ましく、室温がより好ましい。なお、本実施形態においては、金属化合物を還元する当該処理を実施しなくともよい。
また、リン酸基を有する微細繊維状セルロースに対して金属化合物水溶液を接触させた後には、洗浄工程が設けられてもよい。例えば、金属化合物水溶液として硝酸塩水溶液を用いた場合、洗浄工程を設けることにより硝酸イオン等の除去を行うことができる。
(任意成分)
マスク用シートは、上述した成分に加えて任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、微細繊維状セルロースに担持されていない金属化合物や無機化合物等を挙げることができる。任意成分としては、たとえば、二酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化鉄(FeO)、酸化イットリウム(Y)、3酸化インジウム(InO)、酸化マグネシウム(MgO)、二酸化チタン(TiO)、二酸化セリウム(CeO)、四酸化三マンガン(Mn)、五酸化ニオブ(Nb)、炭化珪素(SiC)、炭化ホウ素(BC)、窒化アルミニウム(AlN)、ホウ化チタン(TiB)、ゼオライト、ハイドロキシアパタイト、およびシリカに金属ナノ粒子が結合したナノプラチナ−シリカ粒子等を挙げることができる。上記金属ナノ粒子としては、たとえば金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、白金、ルテニウム、亜鉛、パナジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムなどが挙げられる。
(マスク)
本発明は、上述したマスク用シートから構成されるマスク本体と、マスク本体に連結され、マスク本体を着用者の顔面下部に固定するための固定部と、を有するマスクに関する。本発明のマスクは、上述したマスク用シートから構成されるマスク本体を有するため、機能性物質が十分に捕捉され得る機能性マスクである。特に、本発明のマスクは、消臭効果を発揮するマスクであることが好ましい。
図4は、本発明のマスクの構造を説明する平面図であり、マスク本体12を肌非接触面側から見た平面図である。図4に示されているように、本発明のマスク100は、マスク本体12と、固定部30を有する。マスク本体12は、表面と裏面を有しており、裏面は、マスク100を着用時に着用者の顔面側に配される面である。
マスク本体12は、上述したマスク用シートから構成されるものであり、複数のシートが積層された構成であることが好ましい。そして、複数のシートは少なくとも一部で接合されていることが好ましい。具体的には、複数のシートは図4に示されているような複数の溶着部15によって接合されることが好ましい。なお、溶着部15の溶着は、マスク本体12に後述するような折り山(襞山)を形成した後に行われる。
マスク本体12は、プリーツ状の立体形状を形成し得る折り目を有するものであることが好ましい。このような折り目は、マスク本体12に襞状に形成され、両側端部が接合されることによって端部で形状を保持する。すなわち、両側端部の接合部で折り目の展開が阻止され、両側端部領域の間に位置する中間領域において、装着時に折り目が展開されることで、マスク本体12のプリーツが広げられ立体形状が形成される。なお、非装着時にはプリーツが閉じてかさばらない平面状とすることができる。
固定部30は、ループ状もしくは紐状の伸縮性材料から構成されることが好ましい。伸縮性材料としては、ゴム糸と綿の交織帯や、樹脂フィラメントの交編ネット、伸縮性の不織布等を挙げることができる。固定部30は、このような伸縮性材料から形成される紐状部材であることが好ましい。固定部30は、マスク本体12の左右両側にそれぞれ設けられることが好ましく、固定部30は耳紐であることが好ましい。また、マスク本体12の左右両側をそれぞれ始点と終点とした一連のループ状部材であってもよく、着用者の頭部に掛けるヘッドバンドであってもよい。固定部30は、マスク本体12の側端部の所定の位置に溶着されることで、マスク本体12に固定される。図4においては、固定部30は、マスク本体12の側端部の上端及び下端領域の溶着領域18に溶着されている。溶着領域18では、固定部30を強固に固定する必要があるため、多数の溶着部や網目状の連続した溶着部が形成されることが好ましい。
マスク本体12の上端部は、ノーズフィット部材28を備えることが好ましい。ノーズフィット部材28は、マスク着用者の鼻部の形状に適合するように変形可能な部材である。ノーズフィット部材28としては、例えば、樹脂製の板状もしくは棒状の部材を用いることが好ましい。また、ノーズフィット部材28として金属テープ等を用いてもよい。
ノーズフィット部材28は、マスク本体12の上端部の左右方向に延びるように、埋め込まれていることが好ましい。また、ノーズフィット部材28が上端部の所定位置に配設された後は、上下方向及び左右方向の移動が制限されることが好ましい。このため、上端部のノーズフィット部材28の周囲には溶着部23が形成される。具体的には、図4に示されているように、ノーズフィット部材28の上方及び下方に溶着部23aがそれぞれライン状となるように間欠的に形成され、さらに、ノーズフィット部材28の左右方向にはノーズフィット部材28を挟んで2箇所の溶着部23bが形成されることが好ましい。このようにノーズフィット部材28の周縁を囲むように溶着部23aと溶着部23bを設けることにより、ノーズフィット部材28の移動を制限することができる。
マスク本体12の下端部は溶着部25で固定されることが好ましい。これにより、マスク本体の四辺が固定されることとなるため、消臭効果等がより発揮されやすくなる。
上下端及び左右の側端部の溶着や、固定部30を溶着する方法としては、ミシン糸等による縫合、ホットメルト接着剤等による接着、ヒートシール、超音波溶着等の方法を挙げることができる。中でも、超音波溶着の方法を採用することが好ましい。溶着を行う面積や間隔は固定をする各部材や固定強度に応じて適宜調整することができる。
(マスク用シート及びマスクの製造方法)
マスク用シートの製造方法は、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーを含む消臭シートを得る工程を含むことが好ましい。
<消臭シートの作製>
消臭シートの製造工程は、基材に、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーを噴霧する工程を含むことが好ましい。この場合、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーを、乾燥後の固形分量が0.1g/m以上となるように噴霧することが好ましく、0.5g/m以上となるように噴霧することがより好ましく、1g/m以上となるように噴霧することがさらに好ましく、2g/m以上となるように噴霧することが特に好ましい。なお、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーの噴霧量の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、50g/mとなるように噴霧することが好ましい。なお、噴霧に供される金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーの固形分濃度は、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
また、消臭シートの製造工程は、基材に、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーを塗布(塗工)する工程を含んでもよく、基材を、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーに含浸する工程を含んでもよい。
上記工程(噴霧、塗工又は含浸工程)の後には、乾燥工程を設けることが好ましく、乾燥の方法は特に限定されない。乾燥工程は、例えば、23℃、相対湿度50%の環境下に1時間以上静置することで行うことができる。
なお、消臭シートの製造工程は、金属成分を担持した微細繊維状セルロース含有スラリーをシート状に加工する工程を含んでもよい。微細繊維状セルロース含有スラリーをシート状に加工する工程としては、塗工工程や抄紙工程を挙げることができる。この場合、消臭シートは、基材を含まない微細繊維状セルロースシートであってもよい。
消臭シートが基材を含む場合は、基材は、天然繊維、合成繊維及び再生繊維から選択される少なくとも1種を主成分として含むシートであることが好ましい。中でも、基材は、合成繊維及び再生繊維を含むことが好ましく、例えば、ポリエステル繊維及びレーヨン繊維の組み合わせを例示することができる。なお、基材に含まれる合成繊維と再生繊維の質量比は、9:1〜1:2であることが好ましく、4:1〜3:4であることがより好ましい。
<マスク用シートの作製>
マスク用シートを作製する工程は、消臭シートと、必要に応じて他の層を積層する工程を含むことが好ましい。例えば、図1に示したような層構成を有するマスク用シートを製造する場合、不織布シート2、機能性シート4、消臭シート6及び不織布シート8をこの順で積層する工程を含むことが好ましい。各種シートを積層した後には、シートの端部領域を溶着する工程を設けてもよい。
また、マスク用シートを作製する工程では、各種シートを積層した後に、後述するようなプリーツ加工工程が設けられてもよい。
<マスクの作製>
マスクの製造方法は、上述したマスク用シートから構成されるマスク本体に、マスク本体を着用者の顔面下部に固定するための固定部(耳紐)を固定する工程を含むことが好ましい。
固定部を固定する工程の前には、マスク本体にプリーツ加工を施してもよい。なお、マスク用シートに予めプリーツ加工が施されている場合は、該工程を省略してもよく、プリーツ構造を有さないマスク本体を用いることもできる。
プリーツ加工は、例えば、図4に示したような折り返し構造が形成されるようにマスク本体を折りたたむことでなされる。マスク本体を折りたたんだ後は、マスク本体の両側端部となる位置が折りたたまれた状態で固定されるように溶着を行う。このような溶着工程では、折り込み部の端部が固定されるように溶着する。このような溶着工程は、立体形状維持機能用溶着処理工程ともいう。溶着する方法としては、ミシン糸等による縫合、ホットメルト接着剤等による接着、ヒートシール、超音波溶着等の方法を挙げることができる。中でも、超音波溶着の方法を採用することが好ましい。
なお、固定部を固定する工程の前には、必要に応じてノーズフィット部材を挿入する工程や、他の機能性シートや部材を配設する工程等が設けられてもよい。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
(実施例1)
<微細繊維状セルロースの作製>
[リン酸化]
原料パルプとして、王子製紙製の針葉樹クラフトパルプ(固形分93質量%、坪量208g/mシート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を使用した。この原料パルプに対してリン酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を添加して、リン酸二水素アンモニウム45質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
次いで、得られたリン酸化パルプに対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、リン酸化パルプ100g(絶乾質量)に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
洗浄後のリン酸化パルプに対して、さらに上記リン酸化処理、上記洗浄処理をこの順に1回ずつ行った。
[中和処理]
次いで、洗浄後のリン酸化パルプに対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリン酸化パルプを10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリン酸化パルプスラリーを得た。次いで、当該リン酸化パルプスラリーを脱水して、中和処理が施されたリン酸化パルプを得た。
次いで、中和処理後のリン酸化パルプに対して、上記洗浄処理を行った。
これにより得られたリン酸化パルプに対しFT−IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1230cm−1付近にリン酸基に基づく吸収が観察され、パルプにリン酸基が付加されていることが確認された。
また、得られたリン酸化パルプを供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
[解繊処理]
得られたリン酸化パルプにイオン交換水を添加し、固形分濃度が2質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、スターバースト)で200MPaの圧力にて2回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(1)を得た。X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3〜5nmであった。なお、後述する測定方法で測定されるリン酸基量(強酸性基量)は、0.98mmol/gだった。
[繊維幅の測定]
微細繊維状セルロースの繊維幅は下記の方法で測定した。
湿式微粒化装置にて処理をして得られた微細繊維状セルロース分散液(1)の上澄み液を、微細繊維状セルロースの濃度が0.01質量%以上0.1質量%以下となるように水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。これを乾燥した後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−2000EX)により観察した。
[リン酸基量の測定]
微細繊維状セルロースのリン酸基量は、対象となる微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液(1)をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を、30秒に1回、50μLずつ加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測することにより行った。リン酸基量(mmol/g)は、計測結果のうち図3に示す第1領域に相当する領域において必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して算出した。
[イオン交換処理及び金属イオン担持]
得られた微細繊維状セルロース分散液(1)をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理を行った。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%の微細繊維状セルロース分散液に体積比で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024:オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。次いで、硝酸銀(I)をリン酸基導入量の2倍等量となるように添加し、30分攪拌を行い、金属成分として銀イオンを担持した微細繊維状セルロース含有スラリーを得た。
[洗浄及びスラリーの調製]
次いで、得られたスラリーの濾過洗浄を行い、系内に残留する硝酸イオンの除去を実施した。具体的には、ガラスフィルターの上に1.0μm孔径のPTFE製メンブランフィルターを載せ、フィルターをIPAで湿らせた後、スラリーを注ぎ、減圧度−0.09MPa(絶対真空度10kPa)にて減圧濾過を実施した。PTFE製メンブランフィルターの上に、銀イオンを担持した微細繊維状セルロースの堆積物が形成されたことを確認した後、元のスラリーと同量の水を注ぎ、減圧濾過する工程を2度繰り返した。得られた銀イオンを担持した微細繊維状セルロースの堆積物をイオン交換水で含有量が1.0質量%となるように希釈し、銀イオンを担持した洗浄済みの微細繊維状セルロース含有スラリーを得た。
<消臭シートの作製>
基材として、ポリエステルとレーヨンの質量配合比が80/20であり、坪量が25g/mである不織布を用いた。金属イオンとして銀イオンを担持した洗浄済みの微細繊維状セルロース含有スラリーを乾燥後の固形分量が5g/mとなるよう、基材上にスプレーで満遍なく噴霧し、静置して自然乾燥を行った。
<マスク用シートの作製>
口元用不織布シー、消臭シート、微粒子ブロックシート及び表面不織布シーをこの順で積層し、縦17cm、横17cmの大きさにカットし、プリーツ形成後の大きさが縦9cm、横17cmとなるようにプリーツ加工を施し、各シートの端部領域を溶着して、マスク用シートを作製した。次いで、マスク用シート(マスク本体)の両側端部に耳紐を溶着により取り付け、マスク本体と固定部(耳紐)を有するマスクを作製した。
(実施例2)
銀イオンを担持した洗浄済みの微細繊維状セルロース含有スラリーを、乾燥後の固形分量が10g/mとなるように噴霧した以外は実施例1と同様にしてマスク用シート及びマスクを作製した。
(実施例3)
銀イオンを担持した洗浄済みの微細繊維状セルロース含有スラリーを、乾燥後の固形分量が2g/mとなるように噴霧した以外は実施例1と同様にしてマスク用シート及びマスクを作製した。
(比較例1)
銀イオンを担持した洗浄済みの微細繊維状セルロース含有スラリーを塗布しなかった以外は実施例1と同様にしてマスク用シート及びマスクを作製した。
(評価)
(臭気)
臭気を発するアンモニア水をビーカーに入れ、臭気発生源とした。実施例及び比較例で作製したマスクを装着した被験者10人の口元から5cmの距離に、アンモニア水を入れたビーカーの開口部を配置し、アンモニア臭の感じ方について、以下の5段階で評価した。表1には、10人の評点の平均値を記載した。
5:アンモニア臭を全く感じなかった
4:アンモニア臭をほとんど感じなかった
3:アンモニア臭をやや感じた
2:アンモニア臭を感じた
1:アンモニア臭を強く感じた
Figure 2020002483
微細繊維状セルロースを含有するマスク本体を有する実施例のマスクは、アンモニア臭を通さず、消臭効果を発揮することがわかった。
2 不織布シート
4 機能性シート
6 消臭シート
8 不織布シート
10 マスク用シート
12 マスク本体
15 溶着部
18 溶着領域
23 溶着部
25 溶着部
28 ノーズフィット部材
30 固定部
100 マスク

Claims (11)

  1. 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含有するシート状体を含む、マスク用シート。
  2. 前記繊維状セルロースは、アニオン基を有する請求項1に記載のマスク用シート。
  3. 前記繊維状セルロースは、リン酸基またはリン酸基に由来する置換基を有する請求項1又は2に記載のマスク用シート。
  4. 前記繊維状セルロースは、Ag、Au、Pt、Pd、Cu及びZnから選択される少なくとも1種の金属成分を担持する請求項1〜3のいずれか1項に記載のマスク用シート。
  5. 前記シート状体は、多層構造のシート状体である請求項1〜4のいずれか1項に記載のマスク用シート。
  6. 前記シート状体は、消臭層を含み、
    前記消臭層が、前記繊維状セルロースを含む請求項5に記載のマスク用シート。
  7. 前記消臭層は、天然繊維、合成繊維及び再生繊維から選択される少なくとも1種をさらに含む請求項6に記載のマスク用シート。
  8. 前記シート状体は、不織布層を2層以上含み、
    不織布層の間に前記消臭層が配される請求項6又は7に記載のマスク用シート。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のマスク用シートから構成されるマスク本体と、
    前記マスク本体に連結され、前記マスク本体を着用者の顔面下部に固定するための固定部と、
    を有するマスク。
  10. 前記マスク本体は、プリーツ状の立体形状を形成し得る折り目を有する請求項9に記載のマスク。
  11. 前記マスク本体の上端部は、マスク着用者の鼻部の形状に適合するように変形可能なノーズフィット部材を備える請求項9又は10に記載のマスク。
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