JP2019524916A - 非水溶性添加剤を含有する水性インクジェットインク - Google Patents

Abstract

本開示は、着色剤としての顔料と、ポリマー分散剤と、ポリマーバインダーと、非水溶性添加剤とを含有する水性インクジェットインクに関する。インクは、紙及び繊維製品上への印刷のための改善された特性を示す。

Description

本出願は、米国特許法第１１９条の下、２０１６年６月２４日付けで出願された米国仮特許出願第６２／３５４２９１号明細書に基づく優先権を主張する。

本開示は、顔料と、顔料を分散させるための分散剤と、ポリマーバインダーと、非水溶性添加剤とを含有する水性インクに関する。本開示は、更に、繊維製品及び紙基材の上への前記インクの印刷にも関する。

インクジェット印刷のようなデジタル印刷法は、小規模オフィス／ホームオフィス用の従来のデスクトップ印刷以外の市場で益々重要になってきている。デジタル印刷法は、繊維製品の印刷において支持を得ており、スクリーン印刷などの従来の印刷法よりも多くの潜在的な利点を有している。デジタル印刷は、スクリーンの作製に関連する製版費用をなくし、コスト効率のよい短時間での製造を潜在的に可能にし得る。デジタル印刷は、スクリーン印刷法で実際に達成できない色調勾配及び無限パターン繰り返しサイズなどの視覚効果を更に可能にする。

インクジェット印刷、特には顔料インクでの繊維製品のインクジェット印刷の欠点は、インクジェット印刷された生地が特に摩耗によって色落ちし易く、そのため耐久性が乏しいことである。更に、インクジェット印刷のもう１つの欠点は、インクジェット印刷された生地が繊維製品に必要とされる洗濯条件に耐えられないことである。印刷された色はしばしば洗濯によって薄くなり、また洗濯中に望ましくないことには色が洗濯中の他の生地や洗濯機の部品に移る場合がある。

米国特許第８１８７３７２号明細書には、セルロースと結合して紙のカールを低減するためのヒドロキシル基を有する少なくとも１種の非水溶性有機材料を含有する、インクジェット油／水エマルジョンインクが開示されている。

米国特許第８０８４５１６号明細書には、印刷された画像の光沢及びインクの保存安定性を改善するために、架橋したポリマー顔料分散液の中に組み込まれた非水溶性有機化合物を含有する水系インクが開示されている。

良好な洗濯堅牢度を得るために、印刷後の加熱及び加圧処理などの様々な方法が開発されてきた。しかしながら、これらは多くの場合長時間かつ同時の加熱／加圧処理を必要とする。

インクのインクジェット印刷後の改善された膜形成のみならず、繊維製品上にインクジェット印刷された画像の改善された耐久性も必要とされている。本開示は、顔料と、ポリマー分散剤と、ポリマーバインダーと、非水溶性添加剤とを含有するインク組成物を提供することによってこの要求を満たす。

ある実施形態は、水性ビヒクルと、顔料と、ポリマー分散剤と、ポリマーバインダーと、非水溶性添加剤とを含有する水性インクジェットインクであって、前記ポリマー分散剤と前記ポリマーバインダーが異なるポリマーであり、前記添加剤が、前記ポリマー分散剤と前記ポリマーバインダーにより分散され、水１００ｇ中に５ｇ未満の水への溶解度を有し、式Ｉ：

（式中、Ｗ¹はＯＲ³又はＣＯＯＨであり；Ｗ²はＯＲ³、ＣＯＯＨ、ＳＯ₃Ｈ、又はＮＨ₂であり；Ｒ¹は、Ｈ又はＣ₁〜Ｃ₂₀の直鎖アルキルであり、Ｒ²はＣ₁〜Ｃ₂₀の直鎖アルキル、Ｃ₃〜Ｃ₂₀の分岐アルキル、Ｃ₆〜₄₀のアリール、又はＣ₆〜₄₀の置換アリールであり、各Ｒ³は独立してＨ、Ｃ₃〜₂₀の分岐アルキル、又はＣ₃〜Ｃ₂₀の置換分岐アルキルであり；各Ｒ⁴は独立してＨ、Ｃ₁〜₂₀の直鎖アルキル、又はＣ₃〜₂₀の分岐アルキルであり；各Ｒ⁵は、独立してＨ又はＣ₁〜₂₀の直鎖アルキルである）
の構造を有する１種以上の分子を含む、水性インクジェットインクを提供する。

別の実施形態は、添加剤がインクの総重量を基準として８重量％未満の量で存在することを提供する。

別の実施形態は、インクが繊維製品基材上に印刷されることを提供する。

別の実施形態は、顔料が繊維製品基材上に印刷されるインク用の白色顔料であることを提供する。

別の実施形態は、繊維製品基材が多価カチオンを含むことを提供する。

別の実施形態は、紙基材の上に印刷されることを提供する。

別の実施形態は、顔料が紙基材の上に印刷されるインク用のシアン顔料であることを提供する。

別の実施形態は、分散剤がポリウレタンであることを提供する。

別の実施形態は、分散剤がアクリルポリマーであることを提供する。

別の実施形態は、Ｒ¹がＨであることを提供する。

別の実施形態は、Ｒ²がＣ₁〜Ｃ₂₀のアルキルであることを提供する。

別の実施形態は、Ｗ¹及びＷ²がＯＲ³であることを提供する。

別の実施形態は、各Ｒ³がＨであることを提供する。

別の実施形態は、各Ｒ³がＣ₃〜Ｃ₂₀の置換分岐アルキルであることを提供する。

別の実施形態は、各Ｒ³が−Ｃ（Ｏ）ＣＨ（ＣＨ₃）₂であることを提供する。

別の実施形態は、Ｒ²がＣ₃〜Ｃ₂₀の分岐アルキルであることを提供する。

また別の実施形態は、Ｒ²が−ＣＨ（ＣＨ₃）₂であることを提供する。

本実施形態のこれら及び他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明を読むことで当業者により容易に理解されるであろう。明確化のために別々の実施形態として前述又は後述される開示された実施形態の特定の特徴は、単一の実施形態の中での組み合わせでも提供され得る。反対に、単一の実施形態に関連して記載される開示される実施形態の様々な特徴は、別々に又は任意の部分的な組み合わせでも提供され得る。

特に明記又は定義しない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されている意味を有する。

特に明記しない限り、全てのパーセント、部、比率等は、重量基準である。

量、濃度、又は他の値若しくはパラメーターが、範囲、好ましい範囲、又は上側の好ましい値と下側の好ましい値の列挙として与えられる場合、これは、範囲が別個に開示されているか否かに関わらず、任意の範囲の上限又は好ましい値と任意の範囲の下限又は好ましい値との任意の対から形成された全ての範囲を具体的に開示していると理解されるべきである。ある範囲の数値が本明細書において列挙されている場合、特に明記しない限り、その範囲は、その終点並びにその範囲内の全ての整数及び分数を包含することが意図される。

「約」という用語が値又は範囲の端点を表すのに使用される場合、その開示は、言及される具体的な値又は端点を含むと理解されるべきである。

本明細書において使用される「含む」は、言及されている明言された特徴、整数、工程、又は構成要素の存在を規定するものとして解釈されるべきであるが、１つ以上の特徴、整数、工程、又は構成要素、又はそれらの群が存在すること又はそれらを付加することは除外されない。更に、用語「含む」は、用語「から本質的になる」及び「からなる」によって包含される例を含むことが意図される。同様に、用語「から本質的になる」は、用語「からなる」によって包含される例を含むことが意図される。

本明細書において使用される「分散」という用語は、１つの相が、バルク物質全体に分布している微細粒子（多くの場合はコロイドサイズの範囲で）からなる２相系を意味し、粒子は分散相又は内相であり、バルク物質は連続相又は外相である。バルク系は多くの場合水系である。

本明細書において使用される「顔料粒子の分散液」という用語は、通常はインク及び塗料において使用される、ポリマーにより分散された顔料の安定な分散液である。

本明細書において使用される「水系顔料分散液」という用語は、ポリマー分散剤を使用した顔料の水性分散液である。

本明細書において使用される「分散剤」という用語は、多くの場合コロイドサイズである極めて微細な固体粒子の一様な且つ最大の分離を促進するために懸濁媒体に加えられる界面活性剤を意味する。顔料については、分散剤は、最も多くの場合ポリマー分散剤であり、分散剤及び顔料は分散機を使用して混ぜ合わされる。

本明細書において使用される「構造化ポリマー」という用語は、互いに組成が異なるセグメントからなるポリマーを意味する。例としては、ジブロック、トリブロック、グラフト、及び星形のポリマーが挙げられる。

本明細書において使用される「ランダムポリマー」という用語は、最初のモノマー組成とほぼ同じモノマーのモル比でポリマー中でランダムな形で分布しているモノマーからなるポリマーを意味する。

本明細書において使用される「分散性粒子」という用語は、ポリマー分散剤を含む分散剤により分散され得る粒子である。

本明細書において使用される「安定な分散液」という用語は、分散液を室温で少なくとも１週間保存した場合に粒子サイズの成長が１０％未満の粒子サイズ成長であり凝集がない粒子の分散を意味する。

本明細書において使用される「顔料」という用語は、別の物質又は混合物に色を付与する、通常は粉末形態である任意の物質を意味する。分散染料、白色顔料、及び黒色顔料はこの定義に含まれる。

本明細書において使用される「Ｐ／Ｄ」という用語は、最初の分散配合物における顔料対分散剤の重量比を意味する。

本明細書において使用される「周囲条件」という用語は、環境条件を意味し、これは多くの場合おおよそ１気圧、約５０％の相対湿度、及び約２５℃である。

本明細書において使用される「架橋」という用語は、一方の化学物質が少なくとも三置換である、少なくとも２種の異なる化学物質の反応性基間での化学反応を意味する。

本明細書において使用される「エマルジョン」という用語は、少ない割合の乳化剤と呼ばれる物質によって懸濁液の中に保持されている２種以上の非混和性液体の安定な混合物を意味する。

本明細書において使用される「非イオン性」という用語は、少なくとも４つのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド基が存在するエチレンオキシド及び／又はプロピレンオキシド由来のオリゴマー又はポリマーを意味する。

本明細書において使用される「バインダー」という用語は、インクジェットインクの中の膜形成成分を意味する。このバインダーは、インクを処方する際に通常添加される。

本明細書において使用される「ＨＳＤ」という用語は、高速分散（Ｈｉｇｈ Ｓｐｅｅｄ Ｄｉｓｐｅｒｓｉｎｇ）を意味する。

本明細書において使用される「ＯＤ」という用語は、光学密度を意味する。

本明細書において使用される「光沢」という用語は、印刷表面からの反射光の観察を意味し、通常は印刷基材は光沢紙である。

本明細書において使用される「耐スミア性」という用語は、蛍光マーカーで線を引いた際に画像がぼやけることに対する耐性を指す。

本明細書において使用される「ＳＤＰ」という用語は、自己分散可能な、自己分散型の、又は自己分散した顔料を意味する。

本明細書において使用される「水性ビヒクル」という用語は、水、又は水と少なくとも１種の水溶性有機溶媒（共溶媒）との混合物を指す。

本明細書において使用される「イオン化可能な基」という用語は、潜在的なイオン性基を意味する。

本明細書において使用される「実質的に」という用語は、相当な程度、ほとんど全てであることを意味する。

本明細書において使用される「Ｍｎ」という用語は、通常はダルトンで報告される数平均分子量を意味する。

本明細書において使用される「Ｍｗ」という用語は、通常はダルトンで報告される重量平均分子量を意味する。

本明細書において使用される「Ｄ５０」という用語は、粒子の５０％がそれより小さい粒子サイズを意味し、「Ｄ９５」は粒子の９５％がそれより小さい粒子サイズを意味する。

本明細書において使用される「ｃＰ」という用語は、粘度単位であるセンチポアズを意味する。

本明細書において使用される「ＡＮ」という用語は、固体ポリマー１グラム当たりのｍｇ ＫＯＨである酸価を意味する。

本明細書において使用される「中和剤」という用語は、イオン化可能な基をより多くの親水性イオン性（塩）基へと変換するために有用な全ての種類の薬剤を包含することを意味する。

本明細書において使用される「ＰＵＤ」という用語は、本明細書に記載のポリウレタン分散液を意味する。

本明細書において使用される「分岐アルキル」という用語は、１つ以上のアルキル基で置換されたアルキルを意味する。

本明細書において使用される「置換アルキル」という用語は、１つ以上のＯＨ、Ｃｌ、Ｂｒ、又はエーテル基で置換されたアルキルを意味する。

本明細書において使用される「置換アリール」という用語は、１つ以上のアルキル、ＯＨ、Ｃｌ、Ｂｒ、又はエーテル基で置換されたアリールを意味する。

本明細書において使用される「Ｂｙｋ（登録商標）３４８」という用語は、Ａｉｒ Ｐｒｏｄｕｃｔｓ（Ａｌｌｅｎｔｏｗｎ，ＰＡ）から入手した非イオン性界面活性剤を指す。

本明細書において使用される「ＳＭＡ（登録商標）ＥＦ−４０」という用語は、Ｃｒａｙ Ｖａｌｌｅｙ（Ｅｘｔｏｎ，ＰＡ）から入手したスチレンマレイン酸無水物コポリマーを指す。

本明細書において使用される「Ｔｅｘａｎｏｌエステルアルコール」という用語は、Ａｌｄｒｉｃｈ（Ｍｉｌｗａｕｋｅｅ，ＷＩ）から入手した２，２，４−トリメチル−１，３−ペンタンジオールモノイソブチレート異性体混合物を指す。

特に明記しない限り、上述の化学物質は、Ａｌｄｒｉｃｈ（Ｍｉｌｗａｕｋｅｅ，ＷＩ）又は他の同様の研究用薬品の供給業者から入手した。

更に、文脈上特にそうでないとの明記がない限り、単数形での言及は複数形も含み得る（例えば、「１つの（ａ及びａｎ）」は、１つ又は１つ以上を意味し得る）。

非水溶性添加剤
顔料系インクジェットインクは、典型的には水溶性又は水分散性のポリマー分散剤で安定化された顔料分散液を用いて処方される。インクが繊維製品上に印刷された際の印刷画像の耐久性及び耐水性を改善するために、インク配合物にポリマーバインダーが添加される。現行の衣類直接印刷（ｄｉｒｅｃｔ−ｔｏ−ｇａｒｍｅｎｔ（ＤＴＧ））用白色インクの限界は、良好な耐水性を得るために印刷された衣類を熱と圧力の両方の下で数分間加圧しなければならないことである。圧力なしで熱だけをかけると、不十分な耐水性が観察され、印刷画像に割れが生じ、数回の洗濯及び乾燥のサイクルの後に剥がれ易くなる場合がある。この問題を解決する目的で、インクジェットインクの膜形成を改善するために異なる添加剤を使用して実験が行われた。驚くべきことには、特定の非水溶性添加剤が、ポリマーバインダーと顔料粒子との融着を助け、圧力なしの熱のみの処理で印刷後に繊維製品上に強い膜を形成できることが見出された。インクの中にそのような添加剤が存在すると、光沢を有する媒体上に印刷された後の印刷画像の光沢が改善され得ることも見出された。これらの添加剤は顔料とポリマーバインダーとの相溶性を改善することができ、結果として一貫性及びレベリング性が向上したインク膜が得られ、ひいては印刷画像のより優れた耐久性及び光沢がもたらされると推測される。非水溶性添加剤は、水１００ｇ中に５ｇ未満の水への溶解度を有しており、式Ｉ：

（式中、Ｗ¹はＯＲ³又はＣＯＯＨであり；Ｗ²はＯＲ³、ＣＯＯＨ、ＳＯ₃Ｈ、又はＮＨ₂であり；Ｒ¹は、Ｈ又はＣ₁〜Ｃ₂₀の直鎖アルキルであり、Ｒ²はＣ₁〜Ｃ₂₀の直鎖アルキルであり、Ｃ₃〜Ｃ₂₀は分岐のアルキルであり、Ｃ₆〜Ｃ₄₀はアリール又はＣ₆〜Ｃ_40の置換アリールであり、各Ｒ³は独立してＨ、Ｃ₃〜Ｃ₂₀の分岐アルキル、又はＣ₃〜Ｃ₂₀の置換分岐アルキルであり；各Ｒ⁴は独立してＨ、Ｃ₁〜Ｃ₂₀の直鎖アルキル、又はＣ₃〜Ｃ₂₀の分岐アルキルであり；各Ｒ⁵は、独立してＨ又はＣ₁〜Ｃ₂₀の直鎖アルキルである）
の構造を有する１種以上の分子を含む。

非水溶性添加剤の沸点は、典型的には２５０℃より大きい。インク中の添加剤の量は、典型的にはインクの総重量を基準として０．１重量％〜８重量％である。

顔料
本発明における使用に適した顔料は、水性インクジェットインクのために当該技術分野で広く周知のものである。典型的には、顔料は、ポリマー分散剤又は界面活性剤などの分散剤によって安定化されて、ビヒクル中での顔料の安定な分散を生成する。代表的な市販の乾燥顔料は、米国特許第５，０８５，６９８号明細書に列挙されている。分散染料は本明細書で使用される水性インクに不溶性であることから、これも顔料とみなされる。近年、いわゆる「自己分散型」又は「自己分散した」顔料（以下、「ＳＤＰ」）が開発された。その名前が示すように、ＳＤＰは分散剤なしで水中に分散可能である。

ポリマー分散剤により安定化された顔料は、顔料が分散された後に架橋されたこれらの分散剤も有し得る。これらの架橋方法の例は、米国特許第６，２６２，１５２号明細書に記載されている。

様々な有機及び無機顔料が、単独で及び組み合わせで、インクを製造するために選択され得る。本明細書で使用される用語「顔料」は、不溶性着色剤を意味する。顔料粒子は、インクジェット印刷装置を通るインクが特には噴射ノズルで自由流動できるように十分小さく、顔料分散液は通常約１０ミクロン〜約５０ミクロンの範囲の直径を有する。粒子サイズは、顔料の分散安定性にも影響を与え、これはインクの寿命を通して重要である。微粒子のブラウン運動は粒子の凝集の防止に役立つ。最大の色強度及び光沢のために小さい粒子を使用することも望ましい。有用な粒子サイズの範囲は、典型的には約０．００５ミクロン〜約１５ミクロンである。好ましくは、顔料の粒子サイズは約０．００５〜約５ミクロン、最も好ましくは約０．００５〜約１ミクロンの範囲であるべきである。動的光散乱によって測定される平均粒子サイズは、好ましくは約５００ｎｍ未満、より好ましくは約３００ｎｍ未満である。

ポリマーにより分散された顔料は、分散プロセスが完了した後に架橋したポリマー分散剤を有し得る。この場合、顔料は、架橋成分の添加により互いに架橋されたそのポリマー分散剤を有すると考えられる。この架橋のタイプは、米国特許第６，２６２，１５２号明細書に記載されている。

選択された顔料は、乾燥形態又は湿潤形態で使用され得る。例えば、顔料は、通常、水性媒体中で製造され、得られた顔料は、水で湿った状態のプレスケーキとして得られる。プレスケーキの形態では、顔料は、乾燥形態にあるほどには凝集していない。そのため、水で湿ったプレスケーキの形態の顔料は、乾燥形態の顔料としてのインクを調製する方法におけるような多くの解膠を必要としない。

ポリマー分散剤
ポリマー分散剤は、特に顔料がインクジェットインクのために使用される場合に、これらの顔料を分散させるために典型的に使用されるものである。これらの分散剤の例としては、ポリウレタン及びアクリル／アクリレートコポリマーが挙げられる。ポリマーはランダムであっても構造化されていてもよい。ポリマー分散剤は、２０００〜１５０００ダルトンの数平均分子量を有する。任意選択的には、分子量は２０００〜９０００ダルトンである。

構造化されたポリマー分散剤は水溶性であってもよく、また２５℃で水１００ｇ当たり少なくとも１０ｇのポリマーの溶解度を有していてもよい。溶解度はその中和形態で測定される。

ランダムな及び構造化されたポリマーの分散剤のサブセットは、分散剤による安定化がほとんど又は全く立体安定化を伴わずイオンによるものである、イオン的に安定化された分散剤である。これらのイオン性ポリマー分散剤は、米国特許出願公開第２００５００９０５９９号明細書に記載されている。

顔料のためのポリマー分散剤は、ランダムポリマーと構造化ポリマーのいずれであってもよい。ポリマー分散剤は、疎水性モノマーと親水性モノマーとのコポリマーであってもよい。疎水性モノマーはアクリレートであり、親水性モノマーはアクリルである。あるいは、ポリマー分散剤はポリウレタンであってもよい。

典型的なランダムポリマー分散剤は、米国特許第４，５９７，７９４号明細書に記載されている。

「構造化ポリマー」は、ブロック、分岐、グラフト、又は星形構造を有するポリマーを意味し得る。構造化ポリマーの例としては、米国特許第５，０８５，６９８号明細書に開示されるものなどのＡＢ又はＢＡＢブロックコポリマー；欧州特許第０５５６６４９号明細書に開示されるものなどのＡＢＣブロックコポリマー；及び米国特許第５，２３１，１３１号明細書に開示されるものなどのグラフトポリマーが挙げられる。

使用することができる他のポリマー分散剤は、例えば、米国特許第６，１１７，９２１号明細書、米国特許第６，２６２，１５２号明細書、米国特許第６，３０６，９９４号明細書、及び米国特許第６，４３３，１１７号明細書に記載されている。

本発明における使用に好適なポリマー分散剤は、通常疎水性と親水性のモノマーの両方を含む。ランダムポリマー中で使用される疎水性モノマーのいくつかの例は、メチルメタクリレート、ｎ−ブチルメタクリレート、２−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、２−フェニルエチルメタクリレート、及び対応するアクリレートである。親水性モノマーの例は、メタクリル酸、アクリル酸、ジメチルアミノエチル（メタ）アクリレート、及びこれらの塩である。ジメチルアミノエチル（メタ）アクリレートの四級塩も使用することができる。

一般的にいうと、疎水性領域は吸収性セグメントを含む部分であり、これは分散を生じさせるために顔料表面と相互作用する分散剤のセグメント又は機能である。親水性セグメントは、安定化させるために溶質混合物中での相互作用によって分散液を安定させるセグメントである。この安定化は立体的安定化又はイオン的安定化として特徴付けられる。これらの現象は、Ｈ ＳｐｉｎｅｌｌｉによるＡｄｖ．Ｍａｔｅｒ，１９９８，１０，ｎｏ．１５，１２１５〜１２１８ぺージの中に記述されている。上述したイオンにより安定化されたポリマー分散剤は、立体的安定化があったとしてもわずかである。ポリマー分散剤は分散プロセスの開始前に中和されてもよい。すなわち、溶媒混合物とポリマー分散剤との最初の混合物は適切な量の中和剤を有する。あるいは、中和剤は、分散プロセス中に極性溶媒と共に添加されてもよい。追加的な選択肢は、最初の混合物中でポリマー分散剤を部分的に中和し、極性溶媒中に追加の中和剤を添加することである。最終混合物中でのポリマー分散剤の中和量は、最大約１００％の中和であり、好ましくは最大約９０％の中和である。

中和剤は、アルカリ金属の水酸化物、アミン等であってもよい。中和剤の例としては、有機塩基（モノ−、ジ、トリ−メチルアミン、モルホリン、ｎ−メチルモルホリン等）；アルコールアミン（ジメチルエタノールアミン（ＤＭＥＡ）、メチルジエタノールアミン、モノ−、ジ、及びトリ−エタノールアミン等）；ピリジン；水酸化アンモニウム；テトラアルキルアンモニウム塩（水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等）：アルカリ金属（リチウム、ナトリウム、及びカリウム等）；などが挙げられる。好ましい中和剤としては、ジメチルエタノールアミン、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムが挙げられ、サーマルインクジェットプリンタにおいて使用されるインクのためには水酸化カリウムが特に好ましい。

ポリウレタンポリマー分散剤は、イソシアネート化合物、イソシアネート反応性化合物、及びイオン性置換基を有するイソシアネート又はイソシアネート反応性化合物から調製される。このイオン性置換基は、ポリウレタン分散剤中に存在することで水溶液中でこれを安定化させる。多くの場合、これらのポリウレタン分散剤は、過剰のイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーとして調製される。その場合、鎖を終結させるイソシアネート反応性基が添加されることでポリウレタン分散剤が得られる。ポリウレタンのイオン性成分は、イオン性置換基の供給源に応じて、酸基又はアミン基として測定した場合、最低１０ミリ当量／ｇから最高９０ミリ当量／ｇまでであってもよい。イオン性成分は、分散剤としてのその使用の前に少なくとも部分的に中和される。これらのポリウレタンの分子量範囲は２０００〜９５００ダルトンである。

顔料粒子の分散液
二酸化チタン分散液の調製は、米国特許出願公開第２００７００６０６７０号明細書の中で見ることができ、これは完全に記載されているかのように参照により本明細書に組み込まれる。

ポリマーにより分散される顔料の分散工程は、超音波処理機、メディアミル、水平型少量粉砕機、磨砕機中で、あるいは、液体ジェット相互作用チャンバー内の複数のノズルに少なくとも５，０００ｐｓｉの液体圧力で混合物を通過させることで水性キャリア媒体（マイクロフルイダイザー）中に顔料粒子を均一に分散させることにより行うことができる。メディアミルのための媒体は、ジルコニア、ＹＴＺ、及びナイロンなどの市販の媒体から選択される。０．３ミクロンより大きい粒子が一般的に使用されるものの、媒体は約０．１ミクロン程度まで小さくてもよい。これらの様々な分散プロセスは、米国特許第５，０２２，５９２号明細書、米国特許第５，０２６，４２７号明細書、米国特許第５，８９１，２３１号明細書、米国特許第５，６７９，１３８号明細書、米国特許第５，９７６，２３２号明細書、米国特許出願公開第２００３００８９２７７号明細書、によって例示されるように、当該技術分野において広い意味で周知である。媒体ミル、及び液体ジェット相互作用チャンバー内の複数のノズルに少なくとも５，０００ｐｓｉの液体圧力で混合物を通過させることが好ましい。このプロセスに必要とされる混合強度は、通常分散プロセスに関連する混合であり、より控えめな混合プロセスの乱流混合ではない。

分散装置の組み合わせを使用してもよい。溶媒混合物、粒子、及びポリマー分散剤を高速分散機（ＨＳＤ）中で混合し、続いてメディアミル又はマイクロフルイダイザー中で粉砕することがより好都合な場合がある。極性溶媒の添加は、処理のＨＳＤ部分の間に行われてもよく、その後粉砕はメディアミルの中で継続される。

粒子分散液の最終用途は、粒子分散混合物からの溶媒の除去を必要とする場合がある。溶媒は、蒸留プロセス、限外濾過又は他の簡便な手段によって除去することができる。これらの溶媒除去方法のいずれもプロセスの中に組み込むことができる。分散装置と溶媒除去が組み合わされてもよく、また分散プロセス中及び極性溶媒の添加中に溶媒が除去されてもよい。

分散プロセスの進行を監視するための１つの方法は、粒子サイズを測定し、混合物の最終的なＤ５０についての目標値を設定することである。インクジェットインクに使用される典型的な顔料については、Ｄ５０の目標値は１２５ｎｍ以下、好ましくは１００ｎｍ未満である。Ｄ９５及び２０４ｎｍより小さい粒子も、顔料分散液用の試験基準として使用することができる。

このプロセスによる分散のために、様々な有機及び無機顔料を、単独で又は組み合わせて選択することができる。分散された顔料は、塗料、インク、及び特にはインクジェットインクにおいて使用することができる。本明細書において使用される「顔料」という用語は、不溶性着色剤を意味し、本出願においては分散染料を含む。顔料粒子は、特に通常約１０ミクロン〜約５０ミクロンの範囲の直径を有する噴射ノズルで、インクジェット印刷装置をインクが自由に通って流れることができる程度に十分に小さい。粒径は、顔料の分散安定性にも影響を及ぼし、これはインクの寿命を通して重要である。微小粒子のブラウン運動は、粒子の凝集の防止に役立つ。最大の色強度及び光沢のために小さい粒子を使用することも望ましい。

分散顔料は、分散プロセスの後、濾過、限外濾過、又は分散顔料の精製のために使用される他の方法によって精製することができる。

顔料を分散した後のポリマー分散剤の後修飾
ポリマー分散剤は、これがインクジェットインクの中に組み込まれる前に、顔料分散液の調製後に架橋されてもよい。

架橋のためには、ポリマー分散剤は、アセトアセトキシ、酸、アミン、エポキシ、ヒドロキシル、ブロックイソシアネート、及びこれらの混合物からなる群から選択される架橋部位で置換される。その後、架橋剤が添加され、ポリマー分散剤の架橋が生じる。架橋剤は、アセトアセトキシ、酸、アミン、無水物、エポキシ、ヒドロキシル、イソシアネート、ブロックイソシアネート、及びこれらの混合物からなる群から選択される。ポリマー分散剤の架橋は、顔料が分散された後に行われる。架橋工程の後、限外濾過などの精製プロセスにより過剰のポリマーを除去することができる。

架橋部位／架橋剤の対の具体的な例は、ヒドロキシル／イソシアネート及び酸／エポキシである。

ポリマーバインダー
バインダーは、インク配合物に任意選択的に添加することができるポリマー化合物又はポリマー化合物の混合物である。バインダーは例えば印刷された材料により大きな耐久性を与えるなど、最終的に印刷された材料に特性を付与することができる。インクジェットインクにおけるバインダーとして使用される典型的なポリマーとしては、ポリウレタン分散液及びポリウレタン溶液、アクリル、スチレンアクリル、スチレンブタジエン、スチレンブタジエンアクリロニトリル、ネオプレン、エチレンアクリル酸、エチレン酢酸ビニルエマルジョン、ラテックスなどが挙げられる。バインダーは、溶液であってもよく、又はカルボン酸、硫黄含有酸、アミン基、及び他の類似のイオン性基などのイオン性置換基を有することによってエマルジョンとして安定化されてもよい。

バインダーは、単独で、又は他のバインダーと組み合わせて使用することができる。典型的には、バインダーはポリウレタンである。任意選択的なポリウレタンバインダーは、インクジェットインク中で使用された場合に印刷された画像の耐久性を向上させる適度な量の架橋を有するものである。

バインダーは、典型的にはインクの総重量を基準として少なくとも０．２重量％の量でインクの中に存在する。この量は、１〜１５重量％であってもよい。

バインダーは、通常、他の成分と共にインクを調製するための顔料分散液に添加される。いくつかのポリマーはバインダーと分散剤の両方として機能できるものの、多くのバインダーは顔料分散液を形成するために顔料を分散させる分散剤とは異なる。本開示のバインダーと分散剤は異なるポリマーである。

水性ビヒクル
ビヒクルは、着色剤のための担体である。「水性ビヒクル」とは、水と、１−アルキル−２−ピリドンと、任意選択的な追加の水溶性有機溶媒とからなるビヒクルを指す。適切な混合物の選択は、望ましい表面張力及び粘度、選択した着色剤、及びインクが上に印刷されることになる基材との適合性などの具体的な用途の要件に依存する。

水溶性有機溶媒の例としては、アルコール、ケトン、ケト−アルコール、エーテル、及びその他（チオジグリコール、スルホラン、１，３−ジメチル−２−イミダゾリジノン、及びカプロラクタム等）；エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、及びヘキシレングリコールなどのグリコール；ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等などのオキシエチレン又はオキシプロピレンの付加ポリマー；グリセロール及び１，２，６−ヘキサントリオールなどのトリオール；エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル；ジエチレングリコールジメチル若しくはジエチルエーテルなどの多価アルコールの低級ジアルキルエーテルが挙げられる。

水性ビヒクルは、典型的には３０重量％〜９５重量％（水性ビヒクルの重量を基準として）の水を含む。

他の成分
インクジェットインクは、当該技術分野で周知の他の成分を含み得る。例えば、アニオン性、非イオン性、カチオン性、又は両性の界面活性剤を使用することができる。水性インクでは、界面活性剤は、典型的にはインクの総重量基準で約０．０１〜約５％、好ましくは約０．２〜約２％の量で存在する。

インク組成物の詰まり防止特性を改善するために、米国特許第５２７２２０１号明細書（完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる）の中に例示されているものなどの共溶媒が含まれていてもよい。

微生物の増殖を阻害するために殺生物剤が使用されてもよい。

重金属不純物の有害作用を排除するために、ＥＤＴＡなどの金属イオン封鎖剤も含まれていてもよい。

成分の割合
上述した成分は、上で概略的に述べたように、また当業者に一般的に認識されるように、望ましいインク特性を得るために様々な割合及び組み合わせで組み合わせてインクを製造することができる。具体的な最終用途向けにインクを最適化するために、幾らかの実験が必要な場合があるものの、そのような最適化は、一般的には当該技術分野の通常の技術の範囲内である。

インク中のビヒクルの量は、典型的には約７０重量％〜約９９．４重量％の範囲であり、より典型的には約８０重量％〜約９９重量％である。顔料は、通常最大１５重量％、より典型的には０．５重量％〜約１２重量％、任意選択的には３重量％〜１０重量％の量で存在する。ポリマーバインダーは、通常１〜１０重量％の量で存在する。パーセンテージはインクの総重量の重量パーセンテートである。

インク特性
噴射速度、液滴の分離長さ、液滴サイズ、及び流れ安定性は、インクの表面張力及び粘度に非常に影響を受ける。インクジェット印刷システムでの使用に適したインクジェットインクは、２５℃で約２０ダイン／ｃｍ〜約７０ダイン／ｃｍ、より好ましくは約２５〜約４０ダイン／ｃｍの範囲の表面張力を有する必要がある。粘度は、２５℃で好ましくは約１ｃＰ〜約３０ｃＰ、より好ましくは約２〜約２０ｃＰの範囲である。インクは、広範囲の噴射条件、すなわちペンの駆動周波数並びにノズルの形状及びサイズに適合する物理的性質を有する。

インクは長期間にわたり優れた貯蔵安定性を有する必要がある。好ましくは、本発明のインクは、粘度又は粒子サイズを実質的に増加させることなく、密閉容器内で長期間（例えば７０℃で７日間）高温に耐えることができる。

更に、インクは、それが接触するインクジェット印刷装置のパーツを腐食してはならず、またこれは本質的に無臭且つ無毒である必要がある。

本発明のインクは、耐洗濯堅牢度の有益な耐久特性を得ることができる。

インクセット
「インクセット」という用語は、インクジェットプリンターが備えられて噴出する全ての個々のインク又はその他の流体を意味する。

本発明によるインクセットは、紙基材の上に印刷される場合に、好ましくは少なくとも３つの異なる色のインク（ＣＭＹ等）、又は少なくとも４つの異なる色のインク（例えばＣＭＹＫ等）を含み、その中の少なくとも１つのインクが上述した水性インクジェットインクである。本発明によるインクセットは、繊維製品の上に印刷される場合、好ましくは少なくとも白色インクと３つの異なる色のインク（ＣＭＹ等）、又は少なくとも白色インクと４つの異なる色のインク（ＣＭＹＫ等）を含み、その中の少なくとも１つのインクが上述した水性インクジェットインクである。

インクセットの他のインクも水性インクであることが好ましく、着色剤としての染料、顔料、又はこれらの組み合わせを含有していてもよい。こうしたその他のインクは、一般的な意味において当業者に周知である。

好ましくは、インクジェットインクセットの全てのインクが上述した本発明のインクジェットインクである。

典型的な１つ以上のＣＭＹＫの色に加えて、本発明のインクセットは、橙色インク、緑色インク、紫色インク、赤色インク、及び／又は青色インク、並びに濃い色と薄い色（薄いシアン及び薄いマゼンタ等）のインクの組み合わせなどの異なる色のインクを含む、１つ以上の「色域拡大（ｇａｍｕｔ−ｅｘｐａｎｄｉｎｇ）」インクを更に含んでいてもよい。

本発明のインク及びインクセットの特に好ましい用途は、繊維製品のインクジェット印刷である。繊維製品としては、限定するものではないが、綿、羊毛、絹、ナイロン、ポリエステル等、及びこれらの混合物が挙げられる。繊維製品の完成形態としては、限定するものではないが、生地、衣類、Ｔシャツ、調度品（カーペット及び室内装飾用生地等）などが挙げられる。更に、考慮される繊維質繊維製品材料は、特に、限定するものではないが、綿、麻、及び大麻などの天然繊維質材料、並びにビスコース及びリヨセルなどの再生繊維質材料などのヒドロキシル基含有繊維質材料である。更なる繊維質材料としては、羊毛、絹、ポリビニル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アラミド、ポリプロピレン及びポリウレタンが挙げられる。前記繊維質材料は、好ましくはシート状の繊維織物生地、編生地、又はウェブの形態である。

繊維製品材料は、例えばデジタル印刷前に無機塩溶液で前処理することができる。好ましい前処理は、「Ｆａｂｒｉｃ Ｐｒｅｔｒｅａｔｍｅｎｔ ｆｏｒ Ｉｎｋｊｅｔ Ｐｒｉｎｔｉｎｇ」という表題の米国特許出願公開第２００７／００５６１１８号明細書に開示されている多価カチオン塩水溶液であり、この開示は、完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。

好ましい前処理は、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、又は硝酸カルシウム四水和物などの多価カチオン塩の溶液である。２０重量％の硝酸カルシウム四水和物溶液を効果的に使用することができる。処理条件は、前処理溶液を塗布するために、噴霧、浸漬、パディングなどの任意の手段を利用することができる。

好ましくは、前処理溶液は、生地１００ｇ当たり約０．２０〜約７．５ｇの多価カチオン（カルシウム）塩、より好ましくは生地１００ｇ当たり約０．６０〜約６．０ｇの多価カチオン（カルシウム）塩、更に好ましくは生地１００ｇ当たり約０．７５〜約５．０ｇの多価カチオン（カルシウム）塩を噴霧することにより生地に塗布される。

印刷された繊維製品は、任意選択的には、米国特許出願公開第２００３０１６０８５１号明細書（この開示は完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる）に開示されているように熱及び／又は圧力で後処理されてもよい。

上限温度は、印刷されている具体的な生地の耐性によって規定される。下限温度は、望みのレベルの耐久性を達成するために必要とされる熱の量によって決定される。通常、融着温度は少なくとも約８０℃、好ましくは少なくとも約１４０℃、更に好ましくは少なくとも約１５０℃、最も好ましくは少なくとも約１６０℃である。

改善された耐久性を得るために必要とされる融着圧力はかなり控えめになり得る。そのため、圧力は、約３ｐｓｉｇ、好ましくは少なくとも約５ｐｓｉｇ、より好ましくは少なくとも約８ｐｓｉｇ、最も好ましくは少なくとも約１０ｐｓｉｇであってもよい。約３０ｐｓｉ以上の融着圧力は、耐久性にそれ以上の利益を与えないようであるものの、そのような圧力は排除されない。

融着の継続時間（印刷された繊維製品が望みの温度で加圧下にある時間の量）は特に重要であると考えられてはいない。融着操作の大部分の時間は、通常、印刷を望みの温度まで上げることを含む。印刷が完全に温度に至った後、加圧下の時間は短くてもよい（秒）。

白色インクは、デジタル印刷された画像を繊維製品の上にのせる前に画像の背景として、及び／又は画像の一部として、デジタル印刷することができる。背景として印刷される場合、白色インクは画像の着色を強化することができる。着色されている繊維製品の場合、予め白い背景をデジタル印刷することが特に有用な場合がある。好ましい白色インクは、「Ａｑｕｅｏｕｓ Ｉｎｋｊｅｔ Ｉｎｋｓ」という表題の米国特許出願公開第２００７／００６０６７０号明細書に開示されており、この開示は、完全に記載されているかのようにあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。

繊維製品に印刷される場合、白色インクは別の利点も与え得る。繊維製品に印刷される場合、インクはしばしば繊維製品の中に滲んで不明瞭な境界を生じさせる。デザインに対して小さな、知覚できない境界線を印刷して明確な境界線があるように見せるために、白色インクを使用することができる。

繊維製品へのデジタル印刷を成功させるための基準としては、明るい典型的な着色、適切な手触り、洗濯堅牢度の良好な耐久性、及び印刷画像の色落ちが挙げられる。本発明のインクは、それ自体で又はインクセット内で使用される場合に、これらの利点を付与する助けとなる。

本発明を以降の実施例により更に詳しく説明するが、これらに限定されるものではない。

白色インクの調製
実施例で使用したインクは、インクジェット技術分野における標準的な手順に従って製造した。成分量は最終的なインクの重量％である。ポリマーバインダー及び着色剤は固形分基準で示されている。インク−１及びインク−２を製造するために、米国特許出願公開第２００７００６０６７０号明細書に記載されているＴｉＯ２顔料分散液を使用した。インク−１及びインク−２におけるポリウレタンポリマーバインダーとして、米国特許第９２５５２０７号明細書に記載されているポリウレタンＰＵＤ ＥＸ２を使用した。

インク調製の例として、インクビヒクルを調製し、撹拌しながら水性ポリウレタンバインダーに添加した。均一な混合物が得られるまで撹拌した後、溶液を二酸化チタン分散スラリーに添加し、再び均一になるまで混合した。最後に非水溶性添加剤を上の混合物に添加し、更に３時間又は良好なインク混合物が得られるまで撹拌した。下の表１に列挙されている成分を用いて白色インクであるインク−１及びインク−２を調製した。

印刷及び洗濯堅牢度の試験
Ｍ＆Ｒ社（Ｒｏｓｅｌｌｅ，ＩＬ）のＭ−ＬＩＮＫ衣類直接（Ｄｉｒｅｃｔ−ｔｏ−Ｇａｒｍｅｎｔ）プリンタを用いてＧｉｌｄａｎ厚手綿１００％の黒色Ｔシャツに、インク−１及びインク−２を使用してベタ白色画像を印刷した。印刷する前に、シャツにＤｕＰｏｎｔ Ａｒｔｉｓｔｒｉ Ｐ５００１前処理溶液を噴霧し、その後Ｇｅｏｒｇｅ Ｋｎｉｇｈｔ Ｄｉｇｉｔａｌ Ｓｗｉｎｇ Ａｗａｙ ＤＫ２０Ｓヒートプレスを使用して１６５℃で３０秒間、中程度の圧力で加圧して乾燥させた。印刷後、完成したシャツを、Ｂｒｏｗｎ Ｄｉｇｉｔａｌ（Ｗｙｏｍｉｎｇ，ＭＩ）のＤｒａｇｏｎＡｉｒ（商標）Ｔシャツ硬化システム、ＤＡＧ３６１１型を用いて乾燥させた。２枚の同じシャツに同じインクを印刷した後、３００°Ｆで７分間及び３２０°Ｆで１０分間、それぞれ硬化させた。

印刷画像の洗濯堅牢度を測定するために、Ｔシャツを１０サイクル洗濯した。ベタ白色画像の色特性を測定し、洗濯の前後で比較した。洗濯の悪影響を目立たせるために、力をかけて画像を元のサイズの１５０％まで引き延ばしながら色特性を測定した。比色測定は、Ｓｐｅｃｔｒａ Ｍａｔｃｈソフトウェアを用いたＭｉｎｏｌｔａ分光光度計ＣＭ−３６００ｄを使用して行った。光学密度（ＯＤ）を記録した。ＯＤが大きいほど白さが少ないことを示す。下の表２の結果は、非水溶性添加剤を含むインク−２で印刷された画像が１０サイクルの洗濯後に色特性の変化をほとんど又は全く伴わずに改善された洗濯堅牢度の結果を与えることを示した。比較例のインク１で印刷された画像のＯＤは、白色インク膜の割れのために洗濯後に著しく増加し、許容できない耐洗濯性を示した。

シアンインクの調製
実施例で使用したシアンインクは、インクジェット技術分野における標準的な手順に従って製造した。成分量は最終的なインクの重量％である。ポリマーバインダー及び着色剤は固形分基準で示されている。米国特許出願公開第２０１５０２１８３９７号明細書に記載されているシアン顔料分散液を使用して、インク−３、インク−４、インク−５、及びインク−６を製造した。インクに添加する前に、ＳＭＡ（登録商標）ＥＦ−４０バインダーを加水分解し、水酸化カリウム水混合物中の２０％分散液として溶解させた。

インク調製の例として、インクビヒクルを調製し、撹拌しながらＳＭＡ（登録商標）ＥＦ−４０ポリマー分散液に添加した。均一な混合物が得られるまで撹拌した後、溶液をシアン顔料分散液に添加し、再び均一になるまで混合した。最後に非水溶性添加剤を上の混合物に添加し、更に３時間又は良好なインク混合物が得られるまで撹拌した。インク−３〜インク−６の成分は下の表３に列挙されている。

印刷及び試験手法
カラー印刷用のインクジェットインクセットは、典型的にはシアン、マゼンタ、及びイエローの色を含む。顔料をインクの着色剤として使用する場合、印刷された画像からの鏡面反射光は、複数の事例では、顔料の屈折率の大きい波長依存性に起因するブロンズ効果と呼ばれる顔料の固有の色とは異なる色調を有する。ブロンズ現象は全ての色の顔料インクについて起こり得るものの、これは通常はシアン顔料で、特には銅フタロシアニンシアン顔料が光沢媒体上に印刷される場合でより顕著である。この特定の顔料の赤色波長（６００〜７００ｎｍ）での高い屈折率は、光沢のある印刷上での鏡面反射光によって現れ、そのため赤みを帯びた色調を示して画質を著しく損なう。

ブロンズ現象は、インクビヒクルの浸透／蒸発後に印刷上に残っている非顔料インク部分の平均屈折率を高めるためにポリマーバインダーを高屈折率のインク中に組み込むことによって低減することができる。しかし、バインダーと顔料との間の非相溶性、並びに不均一な膜形成及び不十分なインクレベリングの結果としてのより強い光散乱のために、光沢は低下する傾向がある。驚くべきことには、非水溶性添加剤を添加すると、低下したブロンズ効果を維持しながらも画像の光沢度を改善することができる。

シアンインクは、「最高写真画質」印刷モードに設定したＥＰＳＯＮ Ｂ３１０Ｎプリンタを使用して、ＥＰＳＯＮプレミアムフォト光沢（ＥＰＰＧ）紙に印刷した。ブロンズ現象を評価するための試験パターンは、１００％の被覆率を有するベタシアンブロック印刷であった。Ｘ−ｒｉｔｅ（Ｇｒａｎｄ Ｒａｐｉｄｓ，ＭＩ）ＳＰ６４ポータブル積分球分光光度計を使用して、４００ｎｍ〜７００ｎｍからの２つの反射率曲線、鏡面反射を含むもの（ＳＰＩＮ）と鏡面反射を除外したもの（ＳＰＥＸ）を収集した。ブロンズ効果は、最小のＳＰＩＮ−ＳＰＥＸ反射率により正規化した６４０ｎｍでのＳＰＩＮ−ＳＰＥＸ反射率の差であるブロンズ現象測定値に基づいて評価した。ブロンズ現象測定値が大きいほどブロンズ現象がひどいことを示す。光沢を評価するための試験パターンは、１００％の面積充填率での１インチ×１インチのカラーブロックから構成した。光沢は２０°の角度で測定した。光沢測定は、Ｂｙｋ−Ｇａｒｄｎｅｒ Ｍｉｃｒｏ−ＴＲＩ光沢測定装置を用いて行った。印刷結果は下の表４にまとめられている。

表４中で示されているように、ポリマーバインダーなしのインク−３は著しいブロンズ効果を有していた。ポリマーバインダーを含むインク−４は、光沢を犠牲にして低減されたブロンズ現象を有していた。ポリマーバインダーと非水溶性添加剤とを含むインク−５及びインク−６は、光沢媒体上でのブロンズ現象をより少なく維持しながらも光沢低下を軽減することができた。

Claims (20)

1. 水性ビヒクルと、顔料と、ポリマー分散剤と、ポリマーバインダーと、非水溶性添加剤とを含有する水性インクジェットインクであって、前記ポリマー分散剤と前記ポリマーバインダーが異なるポリマーであり、前記添加剤が、前記ポリマー分散剤と前記ポリマーバインダーにより分散され、水１００ｇ中に５ｇ未満の水への溶解度を示し、式Ｉ：
   

   

   （式中、Ｗ¹はＯＲ³又はＣＯＯＨであり；Ｗ²はＯＲ³、ＣＯＯＨ、ＳＯ₃Ｈ、又はＮＨ₂であり；Ｒ¹は、Ｈ又はＣ₁〜Ｃ₂₀の直鎖アルキルであり、Ｒ²はＣ₁〜Ｃ₂₀の直鎖アルキル、Ｃ₃〜Ｃ₂₀の分岐アルキル、Ｃ₆〜Ｃ₄₀のアリール、又はＣ₆〜Ｃ₄₀の置換アリールであり、各Ｒ³は独立してＨ、Ｃ₃〜Ｃ₂₀の分岐アルキル、又はＣ₃〜Ｃ₂₀の置換分岐アルキルであり；各Ｒ⁴は独立してＨ、Ｃ₁〜Ｃ₂₀の直鎖アルキル、又はＣ₃〜Ｃ₂₀の分岐アルキルであり；各Ｒ⁵は、独立してＨ又はＣ₁〜Ｃ₂₀の直鎖アルキルである）
   の構造を有する１種以上の分子を含む、水性インクジェットインク。
2. 前記添加剤が前記インクの総重量を基準として８重量％未満の量で存在する、請求項１に記載のインク。
3. 前記インクが繊維製品基材上に印刷される、請求項１に記載のインク。
4. 前記顔料が白色顔料である、請求項３に記載のインク。
5. 前記繊維製品基材が多価カチオンを含む、請求項３に記載のインク。
6. 前記インクが紙基材の上に印刷される、請求項１に記載のインク。
7. 前記顔料がシアン顔料である、請求項６に記載のインク。
8. 前記分散剤がポリウレタンである、請求項１に記載のインク。
9. 前記分散剤がアクリルポリマーである、請求項１に記載のインク。
10. Ｒ¹がＨである、請求項１に記載のインク。
11. Ｒ²がＣ₁〜Ｃ₂₀アルキルである、請求項１０に記載のインク。
12. Ｗ¹及びＷ²がＯＲ³である、請求項１１に記載のインク。
13. 各Ｒ³がＨである、請求項１２に記載のインク。
14. 各Ｒ³がＣ₃〜Ｃ₂₀の置換分岐アルキルである、請求項１２に記載のインク。
15. 各Ｒ³が−Ｃ（Ｏ）ＣＨ（ＣＨ₃）₂である、請求項１４に記載のインク。
16. Ｒ²がＣ₃〜Ｃ₂₀分岐アルキルである、請求項１０に記載のインク。
17. Ｒ²が−ＣＨ（ＣＨ₃）₂である、請求項１６に記載のインク。
18. Ｗ¹及びＷ²がＯＲ³である、請求項１７に記載のインク。
19. 各Ｒ³がＨである、請求項１８に記載のインク。
20. 各Ｒ³が−Ｃ（Ｏ）ＣＨ（ＣＨ₃）₂である、請求項１９に記載のインク。