JP2004115589A - 水性インク組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明は、少なくとも、水性媒体と、分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な自己分散型顔料と、最低造膜温度が30〜60℃の範囲内である樹脂と、25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤、とを含んでなることを特徴とする水性インク組成物を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は水性インク組成物に関する。特に普通紙、再生紙あるいはコート紙に対して高い印字品質と高い光学濃度(O.D.値)を有し、しかも定着性が良好な水性インク組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の記録媒体に付着させて印刷を行う印刷方法である。インクとしては、一般に各種の水溶性染料を水または水と水溶性有機溶剤とに溶解させたものが使用されている。このような水溶性染料を含むインクにより形成された画像は耐水性や耐光性に劣ることが一般に指摘されている。
【0003】
これに対して、顔料を水性媒体に分散させて得られたインクは、耐水性及び耐光性に優れる。例えば、カーボンブラックを界面活性剤や高分子分散剤で分散した水性顔料インクが提案されている。しかしながらこれらのインクでは、記録物の印字濃度を上げる為に着色剤のインク含有量を増やすと、それに伴いインク粘度も急激に増加してしまう場合があった。またカーボンブラックをインク中に安定に分散させるためには過剰の界面活性剤または高分子分散剤が必要であり、気泡発生や消泡性低下を原因とする印字安定性の悪化を引き起こす場合があった。
【0004】
これらの課題を解決するために、カーボンブラック表面に一定量以上の表面活性水素あるいはその塩を導入して、界面活性剤や高分子分散剤等の分散剤がなくてもカーボンブラック単独で水系溶媒に分散させることができる、表面改質カーボンブラック分散液や、カーボンブラック表面にスルホン酸基を導入する方法が開示されている。さらに、上述の表面改質カーボンブラックとグリコールエーテル類を含むインクジェットインクが提案されている(例えば、特許文献1参照)。上記のような分散剤を必要としない、いわゆる自己分散型顔料は、着色剤としてインクに用いた場合、画像のO.D.値(光学濃度)が高くなる、またインク中の粘度を適正な範囲に合わせやすいため取扱いが容易である、分散剤と種々の添加溶媒との相溶性を考慮する必要がない、等の特徴により種々開発されている。その表面にはカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン基、アンモニウム基等の親水性官能基が、直接あるいはアルキル基、アリール基等を介して間接に結合してなる。
【0005】
一方で、顔料を着色剤とするインクによる画像は一般に定着性が劣るという課題がある。すなわち、顔料を着色剤とするインクにより得られた画像は、着色剤成分が記録媒体表面近くに残りやすい。よって、着色剤の記録媒体表面への定着が十分でないと、画像を指で擦った場合に画像が汚れる、あるいは、マーカーペン等で画像をマーキングした場合に画像が汚れるなどの指触性および耐擦過性において十分な印字が得られない。着色剤の記録媒体への定着性を改善するため、インク組成物に樹脂を添加する提案がなされている。この樹脂は結着剤として着色剤を強固に記録媒体上に固定するものと考えられる。
【0006】
樹脂を含んだインク組成物としては、顔料と樹脂エマルジョンとを水に分散させたインク、水不溶性エマルジョン分散液中に顔料を分散させるインク、特定の造膜温度を有するエマルジョンを使用するインク、高分子分散剤と水溶性有機溶剤とを用いた水性分散系顔料インク等の提案がなされている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、コア部とそれを取り囲むシェル部とからなるコア・シェル型の樹脂粒子をインクジェット記録用インクに用いる検討もなされている。例えば、平均粒径0.1μm以下の(メタ)アクリル酸エステル類、ビニルエステル類、スチレン類、オレフィン類の単独重合または共重合で得られたコアポリマーと、フッ素ポリマーとからなるシェルポリマーで構成された2層構造を持つポリマー微粒子を用いた画像記録用インクや、水性インクセットの成分としてコアがスチレンージビニルベンゼンコポリマー等の高架橋を有するポリマーで、シェル部が表面変性可能な構造を有する有機微粒子を用いるという提案がされている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
また、1分子中に重合性二重結合を含有する基を2個以上有する架橋性モノマーを5重量%以上、かつ親水基を有する親水性モノマーを2重量%以上含有する重合性モノマーを重合して得られた微粒子の利用が提案されている。
【0009】
また、分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な顔料とグリコールエーテル類と室温以下の造膜温度を有する水溶性エマルジョンを含有するインクジェット記録用インクが提案され、記録物の耐擦性が得られると記載されている(特許文献4参照)。また、分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な顔料と、アクリル酸及び/またはメタクリル酸を主成分としたコア・シェル型構造でシェル部にアクリル酸およびメタクリル酸のカルボキシル基を表面に有する樹脂からなる水溶性エマルジョンと、アセチレングリコール系界面活性剤と、水溶性有機溶剤と水とからなるインクジェット記録用インクが提案されている(特許文献5参照)。また、無機材料を主成分として表面酸化処理によって分散可能な水溶性顔料と水性樹脂エマルジョンあるいは水性ディスパージョンと25℃において固体の有機添加剤と水とを含んでなるインクジェット記録用インクが提案されている(特許文献6参照)。また、水溶性顔料と特定の浸透剤とコア・シェル構造でシェル部が架橋された樹脂からなる水溶性エマルジョンを含有するインクジェット記録用インクが提案されている(特許文献7参照)。また、実質的に界面活性剤を含まない自己分散型の顔料とそれと同一極性の電荷を有する実質的に界面活性剤を含まない、ガラス転移温度が35℃以上で最低造膜温度が20℃以下の自己分散型樹脂エマルジョンを含有するインクジェット記録用インクが提案されている(特許文献8参照)。
【0010】
しかしながらこれらのエマルジョンを含有するインクは、記録画像の定着性を発現するためには一般に室温以下で造膜する必要があるが、エマルジョンの取扱いが困難である、インクとしての安定性がエマルジョンがない場合と比べて劣る、等の課題を有する場合があった。
【0011】
【特許文献1】
特開平10−95941号公報
【特許文献2】
特開平1−217088号公報
【特許文献3】
特開平3−299234号公報
【特許文献4】
再公表特許WO98/21284号公報
【特許文献5】
特開平10−287837号公報
【特許文献6】
特開平10−292141号公報
【特許文献7】
特開平11−80639号公報
【特許文献8】
特開2000−351931号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、O.D.値が高く、しかも定着性(耐擦過性)が良好であり、かつ信頼性の優れる水性インク組成物を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討の結果、自己分散型顔料と、室温以上の造膜温度を有する樹脂と、25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤とを含んでなる水性インク組成物が、前記課題を解決し得るとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。すなわち本発明の構成は以下の通りである。
【0014】
(1)少なくとも、水性媒体と、分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な自己分散型顔料と、最低造膜温度が30〜60℃の範囲内である樹脂と、25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤、とを含んでなることを特徴とする水性インク組成物。
【0015】
(2)前記有機溶剤が、前記樹脂に対して0.1〜30重量%含まれることを特徴とする前記(1)に記載の水性インク組成物。
【0016】
(3)前記樹脂が、水性インク組成物全量に対して0.1〜10重量%含まれることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の水性インク組成物。
【0017】
(4)前記樹脂がアクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)の何れかに記載の水性インク組成物。
【0018】
(5)前記樹脂が、水性エマルジョンの形態で水に分散しうる樹脂微粒子であることを特徴とする前記(1)〜(4)の何れかに記載の水性インク組成物。
【0019】
(6)前記自己分散型顔料が、水性インク組成物全量に対して1〜30重量%含まれることを特徴とする前記(1)〜(5)の何れかに記載の水性インク組成物。
【0020】
(7)インクジェット記録方法に用いられることを特徴とする前記(1)〜(6)の何れかに記載の水性インク組成物。
【0021】
(8)前記(1)〜(7)の何れかに記載の水性インク組成物を記録媒体に付着させて印字を行う記録方法。
【0022】
(9)前記(1)〜(7)の何れかに記載の水性インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
【0023】
(10)前記(8)または(9)に記載の記録方法によって記録が行われた記録物。
【0024】
(11)前記(1)〜(7)の何れかに記載の水性インク組成物を具備してなることを特徴とするインクジェット記録装置。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の水性インク組成物を、その好ましい実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
本発明の水性インク組成物は、少なくとも、水性媒体と、分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な自己分散型顔料と、最低造膜温度が30〜60℃の範囲内である樹脂と、25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤、とを含んでなることを特徴とする。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0027】
(分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な自己分散型顔料)
本発明における分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な自己分散型顔料は、着色剤として水性インク組成物中に含有されるものであり、顔料表面に多数の親水性官能基および/またはその塩(以降、分散性付与基という)を、直接またはアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させたもので、分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解することが可能な顔料である。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解」とは、顔料が前述のような分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能な最小粒子径で安定に存在している状態をいう。ここで「分散可能な最小粒子径」とは、分散時間を増してもそれ以上小さくならない顔料の粒子径をいう。
【0028】
前記自己分散型顔料を色材として含有するインクは、通常の顔料を分散させるために含有させる前述のような分散剤を含む必要が無いため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんど無く吐出安定性に優れるインクが調製しやすい。また分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるので、顔料をより多く含有することが可能となり印字濃度を十分に高めることが可能になる、等取り扱いが容易である。
【0029】
前記自己分散型顔料の表面に結合される分散性付与基としては、−COOH、−CO、−OH、−SO3H、−PO3H2及び第4級アンモニウム並びにそれらの塩が例示できる。また前記自己分散型顔料の原料となる顔料としては、例えばカーボンブラックやカラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルー、ピグメントブラック等の顔料の他、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系等の顔料が例示できる。また、黄色4号、5号、205号、401号;橙色228号、405号;青色1号、404号等の有機顔料や、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クローム等の無機顔料を用いることも出来る。
【0030】
前記自己分散型顔料は、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、前記分散性付与基または前記分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。前記物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また前記化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
【0031】
また前記自己分散型顔料としては市販品を利用することも可能であり、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キャボット社製)等が例示できる。
【0032】
前記自己分散型顔料は、インクの保存安定性やノズルの目詰まり防止等の観点から、その平均粒径が1〜300nmの範囲であることが好ましく、10〜200nmの範囲であることがより好ましい。
【0033】
また前記自己分散型顔料は、好ましくは1〜30重量%の範囲、より好ましくは1〜15重量%の範囲で本発明のインク中に含有される。含有量が1重量%未満では印字濃度が不充分である場合があり、また30重量%よりも大きいとインク粘度が大きくなり、またノズルの目詰まりを起こす等の不具合が生じる場合がある。
【0034】
<最低造膜温度が30〜60℃の範囲内である樹脂>
本発明の水性インク組成物は、最低造膜温度が30〜60℃の範囲である樹脂を含有する。ここで最低造膜温度とは、樹脂を水に溶解または分散させて得られた水溶液または水性分散液をアルミニウム等の金属板の上に薄く流延し、温度を上げていったときに透明な連続フィルムの形成される最低の温度をいう。最低造膜温度以下の温度領域では白色粉末状となる。最低造膜温度は、市販の測定装置、例えば「造膜温度試験装置」((株)井元製作所)、「TP−801 FTテスター」(テスター産業(株))等を用いて測定することができる。本発明の水性インク組成物に含有される樹脂の最低造膜温度は30〜60℃の範囲であるため、室温においては造膜しない。このため樹脂の取り扱いが容易であり、かつ水性インク組成物として高い安定性を確保することができる。しかし後で詳述する水への溶解性が低い有機溶剤と組み合わせて用いることで、記録媒体上での定着性を確保することができる。
【0035】
これらの樹脂としては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂からなる群より選択される1種または2種以上であることが好ましい。これらの樹脂はホモポリマーとして使用されても良く、またコポリマーして使用されても良い。
【0036】
本発明の態様において、前記樹脂は水性エマルジョンの形態で水に分散し得る樹脂微粒子であることが好ましい。ここで「水性エマルジョンの形態で水に分散し得る樹脂微粒子」とは、実質的に水不溶性の樹脂を水中で微粒子状に分散してなる形態を言い、一般にエマルジョン、ディスパージョン、ラテックスあるいはサスペンションと呼ばれるものを含む。
【0037】
本発明においては樹脂微粒子として単粒子構造のものを利用することができる。一方、本発明においてはコア部とそれを囲むシェル部とからなるコア・シェル構造を有する樹脂微粒子を利用することも可能である。本発明において「コア・シェル構造」とは、「組成の異なる2種以上のポリマーが粒子中に相分離して存在する形態」を意味する。従って、シェル部がコア部を完全に被覆している形態のみならず、コア部の一部を被覆しているものであっても良い。また、シェル部ポリマーの一部がコア粒子内にドメインなどを形成しているものであっても良い。さらに、コア部とシェル部の中間にさらにもう一層以上、組成の異なる層を含む3層以上の多層構造を持つものであっても良い。
【0038】
本発明において用いられる樹脂微粒子は、公知の乳化重合によって得ることができる。すなわち、不飽和ビニル単量体(不飽和ビニルモノマー)を重合触媒および乳化剤を存在させた水中において乳化重合することによって得ることができる。
【0039】
不飽和ビニル単量体としては、一般的に乳化重合で使用されるアクリル酸エステル単量体類、メタクリル酸エステル単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルエステル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ハロゲン化単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類等が挙げられる。
【0040】
さらに、具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート等のアクリル酸エステル類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;および酢酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物類;塩化ビニリデン、塩化ビニル等のハロゲン化単量体類;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル単量体類;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、クロロプレン等のジエン類;ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニル単量体類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマール酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミドおよびN,N’−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類;2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、および2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有単量体類が挙げられる。
【0041】
また本発明にあっては、上記モノマー由来の分子として、重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体によって架橋された構造を有するものを使用することができる。重合可能な二重結合を二つ以上有する架橋性単量体の例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロピロキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンが挙げられ、これらを単独または2種以上混合して使用する事ができる。
【0042】
また、コア・シェル構造の樹脂微粒子は、公知の手法により、一般的には多段階の乳化重合などによって製造される。例えば、特開平4−76004号公報で開示されている方法によって製造することができる。重合に用いられる不飽和ビニル単量体の例としては、上記したものが同様に挙げられる。
【0043】
また、上記のコア部へのエポキシ基の導入は、エポキシ基を有する不飽和ビニル単量体として、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等を他の不飽和ビニル単量体と共重合する方法、あるいは一種以上の不飽和ビニル単量体を重合してコア粒子を調製する際にエポキシ化合物を同時に添加し、複合化させる方法を挙げることができる。重合の容易さや重合安定性等の点から前者の方法が好ましい。
【0044】
また、乳化重合の際に使用される重合開始剤、乳化剤、分子量調整剤は常法に準じて使用する。
【0045】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いられるものと同様のものが用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過酸化ジブチル、過酢酸、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロキシパーオキシド、パラメンタンヒドロキシパーオキシド等が挙げられる。特に、前述の如く、重合反応を水中で行う場合には、水溶性の重合開始剤が好ましい。
【0046】
乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤または両性界面活性剤として用いられているもの、およびこれらの混合物が挙げられ、これらを単独または2種以上混合して使用する事ができる。
【0047】
樹脂微粒子を乳化重合で製造する場合、特にアニオン性の樹脂微粒子から構成されるポリマーエマルジョンを乳化重合で製造する場合においては、樹脂微粒子表面にはカルボキシル基やスルホン酸基のような負の極性基が存在するためpHが酸性側に傾き、粘度上昇や凝集が起こりやすい。そこで通常は塩基性物質による中和が行われる。この塩基性物質としては、アンモニア、有機アミン類、無機水酸化物等を用いることができる。ポリマーエマルジョンおよび水性インク組成物の長期保存安定性、吐出安定性の観点から、この中でも特に一価の無機水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム)が好ましい。上記中和剤の添加量は、ポリマーエマルジョンのpHが7.5〜9.5の範囲、好ましくは7.5〜8.5の範囲となるように適宜決定される。
【0048】
本発明において、上記樹脂微粒子は微粒子粉末としてインク組成物中の他の成分と混合されても良いが、樹脂微粒子を水媒体に分散させ、ポリマーエマルジョンの形態とした後、インク組成物の他の成分と混合されることがより好ましい。
【0049】
インク組成物の長期保存安定性、吐出安定性の観点から、本発明に好ましい樹脂微粒子の粒径は5〜400nmの範囲であり、より好ましくは50〜200nmの範囲である。
【0050】
本発明において、上記樹脂は水性インク組成物全量に対して0.1〜30重量%の範囲で含まれることが好ましく、0.3〜15重量%の範囲で含まれることがより好ましい。0.1重量%未満であるときには所望される定着性が不充分である場合があり、30重量%よりも多いときには急激な粘度上昇、吐出不安定等の不具合が発生する恐れがある。
【0051】
<25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤>
本発明の水性インク組成物は、25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤を含んでなる。上述した、本発明で使用する樹脂は最低造膜温度が30〜60℃の範囲であるため、これだけでは室温で造膜せずに定着性に寄与しない。しかし上記25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤と併せて使用することで室温でも造膜して定着性が発現する。このような機能をもつ有機溶剤を一般に成膜助剤または造膜助剤と呼ぶことがあり、その機能は以下のように推定されている。すなわち、水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤は水性インク組成物中ではより疎水性の強い上記樹脂のドメイン中に取りこまれる形で存在するものと考えられる。樹脂として、水性エマルジョンの形態で水媒体中に分散している樹脂微粒子を使用する場合には、樹脂微粒子をある程度膨潤させるように取りこまれる。この為、インク組成物としては全体として安定に存在し、保存安定性、吐出安定性が大きく劣化することはない。このインク組成物を紙などの記録媒体上に付着させて印字を行った場合、取りこまれていた上記有機溶剤が蒸発し、または記録媒体中へ浸透することで樹脂ドメインから放出され、それがトリガーとなって樹脂が造膜する。
【0052】
本発明において使用できる25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤としては、一般に成膜助剤または造膜助剤と呼ばれる溶剤を使用でき、具体的には、2,2,4−トリメチルー1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ベンジルアルコール、ジブチルフタレート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等が例示できる。これらの有機溶剤は単独で用いても良く、複数種類の有機溶剤を混合して用いても良い。また構造異性体を有する場合には単体として用いても良く、混合物として用いても良い。
【0053】
本発明の態様においては、前記25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤の添加量は、前記樹脂に対して0.1〜30重量%の範囲であることが好ましく、0.1〜20重量%の範囲であることがより好ましい。組み合わせて使用する樹脂の種類にも依るが、前記添加量が0.1重量%未満であるときには所望される、樹脂の造膜を促す効果が発現しにくい場合があり、30重量%よりも大きいときは、樹脂に取りこまれない多量の残溶剤が水媒体中に遊離する場合があり、インク組成物の保存安定性、吐出安定性が劣化する恐れがある。
【0054】
<水性媒体>
本発明の水性インク組成物は水性媒体を含んでなる。水性媒体とは、水と水溶性有機化合物の混合物または水を意味する。
【0055】
本発明のインク組成物に含有される水は主溶媒であり、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることが好ましい。特に紫外線照射または過酸化水素添加等により滅菌処理した水を用いることが、カビやバクテリアの発生を防止してインク組成物の長期保存を可能にする点で好ましい。水は好ましくは10〜90重量%の範囲、より好ましくは30〜80重量%の範囲で本発明のインク組成物中に含有される。
【0056】
本発明においては上記水溶性有機化合物として、吸水性および/または保水性を有する高沸点有機溶剤を使用することができる。これによりインク組成物に保水性と湿潤性が付与されて耐目詰まり性等を向上することが可能である。本発明において使用できる吸水性/保水性高沸点有機溶剤としては、一般に水性インク組成物に使用されるものをそのまま利用することが可能であり、より具体的には、グリセリン、トリメチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレンフリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテンー1,4−ジオール、2−エチルー1,3−ヘキサンジオール、2−メチルー2,4−ペンタンジオール、N−メチルー2−ピロリドン、1,3−ジメチルー2−イミダゾリジノン、2−ピロリドン等が例示できる。
【0057】
本発明においては上記水溶性有機化合物として、固体湿潤剤を使用することができる。本発明において固体湿潤剤とは、保水機能を有し、25℃で固体の水溶性化合物を意味する。本発明において使用できる固体湿潤剤としては、一般に水性インク組成物に使用されるものをそのまま利用することが可能であり、より具体的には、糖類、糖アルコール類、ヒアルロン酸類、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、尿素類である。糖の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類および四糖類を含む)および多糖類があげられ、好ましくはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などがあげられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、アルギン酸、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖(例えば、糖アルコール)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸、アミノ酸、チオ糖など)があげられる。特に糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられる。ヒアルロン酸塩は、ヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液(分子量350000)として市販されているものを使用することができる。
【0058】
本発明においては上記水溶性有機化合物として、浸透剤を使用することができる。本発明において、浸透剤とは浸透性を向上させる添加剤を意味する。浸透剤を使用することで、水性溶媒が記録媒体に対して素早く浸透し、画像の滲みが少ない記録物を得ることができる。本発明に使用される浸透剤としては、1,2−アルキルジオール類、グリコールエーテル類および一般的に使用される界面活性剤等が好ましく、これらは単独または2種以上混合して使用することができる。2種以上を混合して使用することによって、より好ましい浸透性を得ることができる場合がある。本発明に用いられるさらに具体的な浸透剤を以下に示す。1,2−アルキルジオール類は、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等から選択される。グリコールエーテル類は、ジアルキレングリコールモノブチルエーテル、ジアルキレングリコールモノペンチルエーテル、ジアルキレングリコールモノヘキシルエーテル、トリアルキレングリコールモノブチルエーテル、トリアルキレングリコールモノペンチルエーテル、トリアルキレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラアルキレングリコールモノブチルエーテル、テトラアルキレングリコールモノペンチルエーテル、テトラアルキレングリコールモノヘキシルエーテル等から選択される。さらに具体的には、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノペンチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノペンチルエーテル、テトラエチレングリコールモノヘキシルエーテル等から選択される。一般的に使用される界面活性剤としてはアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤およびノニオン性界面活性剤から選択できるが、発泡・起泡の少ないインク組成物を得るという観点からノニオン性界面活性剤が特に好ましい。ノニオン性界面活性剤のさらなる具体例として、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系、ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系、ジメチルポリシロキサン等のシリコン系界面活性剤、その他フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。上記ノニオン性界面活性剤の中でも特にアセチレングリコール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤が発泡も少なく、また優れた消泡性能を有する点で好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤およびアセチレンアルコール系界面活性剤の更なる具体例としては、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3オールなどが挙げられるが、市販品で入手も可能で、例えば、エアープロダクツ社のサーフィノール104、82、465、485、TGや日信化学社製のオルフィンSTG、オルフィンE1010等が挙げられる。
【0059】
上記水溶性有機化合物の添加量は、インク組成物の粘度等の物性、所望される湿潤効果、浸透効果等を考慮して適宜決定される。
【0060】
<その他の添加剤>
本発明の水性インク組成物には必要に応じて、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐・防カビ剤等を添加することが出来る。
【0061】
pH調整剤としては、pHを特定の範囲内に設定する目的で従来水性インク組成物に用いられているものを利用することが出来る。具体的には、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン等のアミン類等を用いることが出来る。pH緩衝剤としては、pHを特定の範囲内に維持する目的で従来水性インク組成物に用いられているものを利用することが出来る。具体的には、コリジン、イミダゾール、燐酸、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ほう酸等を用いることが出来る。
【0062】
酸化防止剤・紫外線吸収剤としては、アロハネート、メチルアロハネートなどのアロハネート類、ビウレット、ジメチルビウレット、テトラメチルビウレットなどのビウレット類など、L−アスコルビン酸およびその塩等、チバガイギー社製のTinuvin328、900、1130、384、292、123、144、622、770、292、Irgacor252、153、Irganox1010、1076、1035、MD1024など、あるいはランタニドの酸化物等が用いられる。
【0063】
防腐剤・防かび剤としては、例えば安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2−ジベンジソチアゾリン−3−オン(Avecia社のプロキセルCRL、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルXL−2、プロキセルTN)などの中から選ぶことができる。
【0064】
本発明の水性インク組成物は従来公知の装置、例えばボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミル等を使用して、従来のインクと同様に調製することができる。調製に際しては、ノズルの目詰まり防止の観点から粗大粒子を除去することが好ましい。粗大粒子の除去は、例えば前記各成分を混合して得られたインクをメンブランフィルターやメッシュフィルター等のフィルターを用いて濾過し、好ましくは10μm以上、より好ましくは5μm以上の粒子を除去することにより行われる。
【0065】
本発明の水性インク組成物はペン等の筆記具類、スタンプ等に好適に使用することができるが、インクジェット記録用インクとしてさらに好適に使用できる。本発明においてインクジェット記録とは、インク組成物を微細なノズルより液滴として吐出して、その液滴を記録媒体に付着させる方式を意味する。具体的なインクジェット記録方式を以下に説明する。
【0066】
第一の方法としては、静電吸引方式があり、この方式はノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印可し、ノズルからインクを液滴状で連続的に噴射させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する方式、あるいはインク滴を偏向することなく印刷情報信号に対応して噴射させる方式である。
【0067】
第二の方法としては、小型ポンプでインク液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的にインク滴を噴射させる方式である。噴射したインク滴は噴射と同時に帯電させ、インク滴が偏向電極間を飛翔する間に印刷情報信号を偏向電極に与えて記録する。
【0068】
第三の方法は圧電素子を用いる方式であり、インク液に圧電素子で圧力と印刷情報信号を同時に加え、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0069】
第四の方式は熱エネルギーの作用によりインク液を急激に体積膨張させる方式であり、インク液を印刷情報信号に従って微小電極で加熱発泡させ、インク滴を噴射・記録させる方式である。
【0070】
以上のいずれの方式も本発明のインクを用いたインクジェット記録方法に使用することができる。
【0071】
本発明の記録物は、少なくとも上記水性インク組成物を用いて記録が行われたものである。この記録物は、本発明のインクを用いることにより印字品質が良好で、O.D.値が高く、しかも定着性が良好な優れた品質を示す。
【0072】
本発明のインクジェット記録装置は、インクの液滴を吐出し、前記液滴を記録媒体に付着させて記録を行うインクジェット記録装置であって、インクとして上記構成の水性インク組成物を少なくとも用いるものである。本発明においては、上述のインクジェット記録方式のいずれを採用した記録装置であっても使用することができる。
【0073】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
<自己分散型顔料の調製>
(顔料分散液1の調製)
市販の酸性カーボンブラックであるカラーブラックS170(商品名:デグサ・ヒュルス社製)100gを水1kgに混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて粉砕した。この粉砕原液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度 12%)1400gを滴下して、ボールミルで粉砕しながら5時間反応させ、さらに攪拌しながら4時間煮沸して湿式酸化を行った。得られた分散原液をガラス繊維ろ紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水5kgに再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩および精製し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで濃縮して顔料分散液1を調製した。
【0075】
(顔料分散液2の調製)
市販の酸性カーボンブラックであるMA8(商品名:三菱化学社製)100gを水500gに混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて粉砕した。この粉砕原液に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度 12%)500gを滴下して、攪拌しながら10時間煮沸して湿式酸化を行った。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水5kgに再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩および精製し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで濃縮して顔料分散液2を調製した。
【0076】
(顔料分散液3の調製)
市販の酸性カーボンブラックであるMA8(商品名:三菱化学社製)100g、水溶性樹脂分散剤であるジョンクリルJ62(商品名:ジョンソンポリマー社製)150g、水酸化ナトリウム6g、水250gを混合して、ジルコニアビーズによるボールミルにて10時間分散した。得られた分散原液をガラス繊維濾紙GA−100(商品名:アドバンテック東洋社製)で濾過して、さらに水で洗浄した。得られたウェットケーキを水5kgに再分散して、逆浸透膜により電導度が2mS/cmになるまで脱塩および精製し、さらに顔料濃度が15重量%になるまで濃縮して顔料分散液3を調製した。
【0077】
<樹脂の調製>
樹脂微粒子を分散粒子とする樹脂分散液を下記の方法によって調製した。
【0078】
(樹脂分散液1の調製)
イオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3g、アクリルアミド20g、スチレン500g、ブチルアクリレート410g、メタクリル酸30gおよびエチレングリコールジメタクリレート2gを攪拌して混合し、乳化物Aを調製した。また、攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gおよびラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予め調製した乳化物Aを連続的に4時間かけて反応容器内に滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して、固形分40重量%、pH8.0に調整し、樹脂分散液1を得た。得られた樹脂分散液1の最低造膜温度を後述する方法で測定したところ38℃であった。
【0079】
(樹脂分散液2の調製)
イオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3g、アクリルアミド20g、スチレン615g、ブチルアクリレート295g、メタクリル酸30gを攪拌して混合し、乳化物Bを調製した。また、攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gおよびラウリル硫酸ナトリウム1gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予め調製した乳化物Bを連続的に4時間かけて反応容器内に滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液とを添加して、固形分40重量%、pH8.0に調整し、樹脂分散液2を得た。得られた樹脂分散液2の最低造膜温度を後述する方法で測定したところ47℃であった。
【0080】
(樹脂分散液3の調製)
イオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3g、アクリルアミド20g、メチルメタクリレート810g、ブチルアクリレート235gおよびメタクリル酸30gを攪拌して混合し、乳化物Cを調製した。また、攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gおよびラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予め調製した乳化物Bを連続的に4時間かけて反応容器内に滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水とアンモニア水とを添加して、固形分40重量%、pH8.0に調整し、樹脂分散液3を得た。得られた樹脂分散液3の最低造膜温度を後述する方法で測定したところ66℃であった。
【0081】
(樹脂分散液4の調製)
イオン交換水450g、ラウリル硫酸ナトリウム3g、アクリルアミド20g、スチレン300g、ブチルアクリレート640gおよびメタクリル酸30gを攪拌して混合し、乳化物Dを調製した。また、攪拌機、還流コンデンサー、滴下装置および温度計を備えた反応容器に、イオン交換水900gおよびラウリル硫酸ナトリウム3gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム4gを添加し、溶解後、予め調製した乳化物Bを連続的に4時間かけて反応容器内に滴下した。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と5%水酸化ナトリウム水溶液とを添加して、固形分40重量%、pH8.0に調整し、樹脂分散液4を得た。得られた樹脂分散液4の最低造膜温度を後述する方法で測定したところ0℃以下であった。
【0082】
(最低造膜温度の測定方法)
最低造膜温度測定装置を用いて測定した。アルミニウム製の試料板上の温度勾配が平衡に達したところで、上記樹脂分散液を薄く延ばして乾燥させた。乾燥終了後に試料板上を観察したとき、最低造膜温度以上の温度領域では透明な連続フィルムが形成されるが、最低造膜温度以下の温度領域では白色粉末状となる。この境界の温度を最低造膜温度として測定した。
【0083】
<水性インク組成物の調製>
表1、表2(実施例の水性インク組成物)または表3(比較例の水性インク組成物)に示す割合で各成分を混合し、室温にて2時間攪拌した後、孔径約5μmのステンレス製フィルターにて濾過して、実施例1〜10および比較例1〜5の各水性インク組成物を調製した。ただし表1〜表3中に示す添加量は全て重量%濃度として表わされており、また顔料分散液および樹脂分散液の添加量はそれぞれ固形分濃度で表わされている。またイオン交換水の「残量」とは、インク全量が100部となるようにイオン交換水を加えることを意味する。なお、表中の略号はそれぞれ以下の内容を示す。
【0084】
溶剤1:2,2,4−トリメチルー1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート
溶剤2:ベンジルアルコール
Gly:グリセリン(保湿剤)
TEG:トリエチレングリコール(保湿剤)
TEGmBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(浸透剤)
OE1010:Olfine E1010(浸透剤、商品名:日信化学工業社製)
TEA:トリエタノールアミン(pH調整剤)
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
<水性インク組成物の評価試験>
表1〜表3で調製した実施例1〜10および比較例1〜5の水性インク組成物について、下記の評価試験を行った。
【0089】
(評価1: O.D.値)
調製した各インク組成物を、圧電素子式オンデマンド型インクジェット記録装置であるEM−930C(商品名:セイコーエプソン社製)に充填し、普通紙−きれいモードにて文字およびべた印刷を行った。記録媒体として、中性普通紙としてゼロックスP、ゼロックス4024(以上、商品名:富士ゼロックス社製)、酸性普通紙としてEPP(商品名:セイコーエプソン社製)、再製紙としてゼロックスR(商品名:富士ゼロックス社製)の4種類の紙を用い、記録物を得た。印刷後、記録物を一般環境で1時間放置した後、グレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いてべた部分のO.D.値を測定した。測定した結果を以下の基準に基づいて判定した。
【0090】
A;O.D.値が1.3以上である場合
B;O.D.値が1.2以上1.3未満である場合
C;O.D.値が1.1以上1.2未満である場合
D;O.D.値が1.1未満である場合
【0091】
(評価2: 耐擦過性)
評価1と同様に印刷を行い、記録物を得た。印刷後、記録物を一般環境で24時間放置した後、イエロー水性蛍光ペンZEBRAPEN2(商品名:ゼブラ社製)を用いて、印刷文字部分を20g/mm2の圧力で擦った。擦った部分の汚れ具合を目視にて観察し、結果を以下の基準に基づいて判定した。
【0092】
A;同一部分を2回擦っても全く汚れが生じない場合
B;1回の擦りでは汚れが生じないが、2回の擦りでは汚れが生じる場合
C;1回の擦りで若干の汚れが生じる場合
D;1回の擦りで著しい汚れが生じる場合
【0093】
(評価3 吐出安定性)
調製した各インク組成物を上述のインクジェット記録装置EM−930Cに充填して、一般環境においてべたおよび罫線の含まれるパターンを連続印刷した。印刷中にノズルの抜けやインクの飛行曲がり等による印字の乱れがあった場合は、記録装置に付属の復帰動作(クリーニング)を都度行った。連続100ページ内に必要とされた上記クリーニングの回数を計測し、結果を以下の基準に基づいて判定した。
【0094】
A;クリーニングを必要としなかった場合
B;3回未満のクリーニングを必要とした場合
C;3回以上5回未満のクリーニングを必要とした場合
D;5回以上のクリーニングを必要とした場合
以上の評価判定結果を表4にまとめる。
【0095】
【表4】
【0096】
【発明の効果】
表4から明らかなように、本発明による実施例1〜10の水性インク組成物は、O.D.値が高く、耐擦過性も優れており、かつ吐出安定性も良好である。中でも25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤(溶剤1または溶剤2)の添加量が樹脂に対して0.1〜30重量%の範囲であり、また樹脂添加量が水性インク組成物全量に対して0.1〜10重量%の範囲であり、また自己分散型顔料の添加量が水性インク組成物全量に対して1〜30重量%の範囲である実施例1〜7の水性インク組成物は、それぞれの添加量が上記範囲外である実施例8〜10の水性インク組成物よりもさらに良好な結果を与えた。
【0097】
これに対して、25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤(溶剤1または溶剤2)の添加量を含まない比較例1、比較例2の水性インク組成物、および樹脂の最低造膜温度が60℃よりも大である樹脂分散液3を使用した比較例3の水性インク組成物は耐擦過性に劣る結果となった。また樹脂の最低造膜温度が30℃未満である樹脂分散液4を使用した比較例4の水性インク組成物はO.D.値も低く、吐出安定性も劣る結果となった。さらに着色剤として分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な自己分散型顔料ではなく、樹脂分散タイプの顔料分散液3を使用した比較例5の水性インク組成物はO.D.値が劣る結果となった。
【0098】
すなわち本発明によれば、O.D.値が高く、耐擦過性が良好であり、さらに吐出安定性の良好な水性インク組成物、および記録方法、記録物、記録装置が提供される。
Claims (11)
- 少なくとも、水性媒体と、分散剤なしに水に分散および/または溶解が可能な自己分散型顔料と、最低造膜温度が30〜60℃の範囲内である樹脂と、25℃における水に対する溶解度が10重量%以下である有機溶剤、とを含んでなることを特徴とする水性インク組成物。
- 前記有機溶剤が、前記樹脂に対して0.1〜30重量%含まれることを特徴とする請求項1に記載の水性インク組成物。
- 前記樹脂が、水性インク組成物全量に対して0.1〜10重量%含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の水性インク組成物。
- 前記樹脂がアクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂からなる群より選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水性インク組成物。
- 前記樹脂が、水性エマルジョンの形態で水に分散しうる樹脂微粒子であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の水性インク組成物。
- 前記自己分散型顔料が、水性インク組成物全量に対して1〜30重量%含まれることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の水性インク組成物。
- インクジェット記録方法に用いられることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の水性インク組成物。
- 請求項1〜7の何れかに記載の水性インク組成物を記録媒体に付着させて印字を行う記録方法。
- 請求項1〜7の何れかに記載の水性インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
- 請求項8または9に記載の記録方法によって記録が行われた記録物。
- 請求項1〜7の何れかに記載の水性インク組成物を具備してなることを特徴とするインクジェット記録装置。
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