本発明は、がん疾患の免疫療法の分野に関し、特に、がん疾患の治療的/治癒的処置におけるT細胞リダイレクティング多機能抗体及び免疫チェックポイントモジュレーターの適用に関する。
腫瘍学における免疫療法は着実に成長している分野である。これは、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ,Bristol Myers Squibb)、オプジーボ(登録商標)(ニボルマブ,Bristol Myers Squibb)及びキイトルーダ(登録商標)(ペンブロリズマブ,Merck)の最近の承認によって証明されている。これらのモノクローナル抗体(mAb)は、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA−4)又はプログラム細胞死タンパク質1(PD−1)の何れかに対するものである。第三の深く探求されたがん標的は、プログラム死リガンド1(PD−L1)である。全てのこれらの標的は、Tリンパ球に対する負の重要な制御因子、いわゆる阻害性免疫チェックポイント分子であるという共通点を有する。免疫チェックポイントは、免疫応答を開始するために活性化される(刺激性又は共刺激性チェックポイント分子)又は不活性化される(阻害性チェックポイント分子)必要がある、特に所定の免疫細胞上の、免疫系の分子である。免疫チェックポイントの多くは、特異的受容体とリガンド対間の相互作用によって制御される。しばしば、がんは、免疫系による攻撃を避けるために、これらのチェックポイントを使用して免疫系から自身を防御する。
PD−1受容体は、活性化されたT細胞と他の免疫細胞、例えばB細胞の表面上に発現される。そのリガンド(PD−L1及びPD−L2)は、樹状細胞又はマクロファージなどの抗原提示細胞と他の免疫細胞の表面上に発現される。PD−L1又はPD−L2のPD1への結合は、T細胞においてシグナルを誘導し、これがT細胞を本質的にスイッチオフし又はそれを阻害する。非病態下では、この相互作用はT細胞が体内の他の細胞を攻撃するのを防ぐ。しかし、がん細胞はしばしばこの系を利用し、その表面上に高レベルのPD−L1を発現する。これにより、がん細胞は、PD−1を発現するT細胞をスイッチオフすることができ、よって、抗がん免疫応答を抑制することができる。PD1及び/又はそのリガンドの阻害剤、例えばPD1又はそのリガンドに対する阻害/アンタゴニストモノクローナル抗体は、がん細胞に対する免疫応答をブーストさせることができ、よってがんの治療に有望である。現在承認されているPD1に対する阻害/アンタゴニストモノクローナル抗体の例には、オプジーボ(登録商標)(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)及びキイトルーダ(登録商標)(ペンブロリズマブ;Merck)が含まれる。現在、第II相及び/又は第III相臨床段階にあるPD1経路の他の阻害剤には、ピジリズマブ(PD1を阻害するmAb;CureTech/Medivation)、デュルバルマブ(PD−L1を阻害するmAb;MedImmune/AstraZeneca)、アベルマブ(PD−L1を阻害するmAb;Merck Serono/Pfizer)及びアテゾリマブ(PD−L1を阻害するmAb;Roche)が含まれる。
もう一つの承認された免疫チェックポイントモジュレーターであるヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)は、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA−4)に対する阻害/アンタゴニストモノクローナル抗体である。CTLA4はまた活性化されたT細胞の表面上に発現され、そのリガンドは、プロフェッショナル抗原提示細胞の表面上に発現される。CTLA−4は、主にリンパ節において免疫応答の初期のT細胞増殖を制御すると考えられ、制御性T細胞の機能に影響を及ぼす。現在、第II相臨床段階にあるCTLA−4の他の阻害剤は、例えば、トレメリムマブ(MedImmune/AstraZeneca)である。
活性化T細胞上のCTLA−4に対する天然リガンドB7.1及びB7.2並びにPD−1に対するPD−L1/PD−L2の結合は、T細胞受容体(TCR)又は共刺激受容体CD28によって媒介される正のシグナルを阻害し、それにより免疫学的過剰反応を回避する自然の機構としてT細胞応答の抑制を導く。集中的な研究及び臨床開発により、mAbによる免疫チェックポイント分子の遮断が、がんと戦うために利用できる持続性のT細胞活性化を導くことが明らかになった。従って、免疫チェックポイントの抗体媒介性遮断は、腫瘍反応性T細胞機能をブーストさせる効果的なアプローチである。
免疫チェックポイント阻害(遮断)抗体は、免疫系のむしろ非特異的な活性化を介して作用するので、それらを他のがん治療レジメンと組み合わせる多数のアプローチが存在する。腫瘍量を低減させるために、免疫チェックポイント阻害(遮断)抗体が化学療法と併用されている。そのようなアプローチの欠点は、強い化学療法剤が免疫系の機能にネガティブに影響し、免疫治療薬の有効性を低下させることである。別法では、免疫チェックポイント阻害(遮断)抗体を他の免疫チェックポイント阻害剤と組み合わせる。一例はヤーボイ(登録商標)とオプジーボ(登録商標)の併用療法であり、これはBRAF V600野生型、切除不能又は転移性メラノーマ患者の治療に対して2015年にFDAによって承認されている。加えて、非小細胞肺がんにおけるデュルバルマブとトレメリムマブの併用に関する第1b相治験の成功が最近報告された(Antonia, Scott等, 2016, Safety and antitumour activity of durvalumab plus tremelimumab in non-small cell lung cancer: a multicentre, phase 1b study; Lancet Oncol. 2016 Feb 5. pii: S1470-2045(15)00544-6. doi: 10.1016/S1470-2045(15)00544-6. [Epub出版前])。
しかし、欠点は、副作用の有意な増加である(Tsai及びDaud. Nivolumab plus Ipilimumab in the treatment of advanced melanoma. Journal of Hematology & Oncology (2015) 8:123)。 更に、チェックポイントモジュレーター同士の組み合わせは、特に腫瘍特異的抗原を標的としないため、内因性腫瘍特異的免疫を標的とするだけである。
上記に鑑みると、がん疾患の治療に使用するための改善された免疫療法が必要である。従って、上で概説したがんの現在の免疫療法の欠点を克服し、がんに罹患している患者の生存を改善し、副作用のリスクが低い、がん疾患の治療に使用される新規な組み合わせを提供することが本発明の目的である。
この目的は、以下と添付の特許請求の範囲に記載された主題事項によって達成される。
本発明を以下に詳細に説明するが、本発明は、ここに記載の特定の方法、プロトコル及び試薬に限定されない(それらは変わる可能性があるため)ことを理解されたい。ここで使用される用語は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定するものではないこともまた理解されたい。他に定義されない限り、ここで使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
以下、本発明の要素について説明する。これらの要素は特定の実施態様と共に列挙されるが、更なる実施態様を作成するためにそれらを任意の方法かつ任意の数で組み合わせることができることを理解されたい。様々に記載された実施例及び好ましい実施態様は、本発明を、明示的に記載された実施態様のみに限定すると解釈されるべきではない。この記載は、明示的に記載された実施態様を任意の数の開示された要素及び/又は好ましい要素と組み合わせる実施態様をサポートし包含すると理解されるべきである。更に、この出願の全ての記載された要素のあらゆる順列及び組み合わせは、文脈からそうでないことが示されていない限り、本出願の記載によって開示されたと考えられるべきである。
この明細書と続く特許請求の範囲を通して、文脈が他の意味を必要としない限り、「含む(comprise)」という用語と「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形語は、記載された部材、整数又は工程を含んでいることを意味するが、任意の他の記載されていない部材、整数又は工程を除外するものではないことが理解される。「からなる(consist of)」という用語は、「含む(comprise)」という用語の特定の実施態様であり、あらゆる他の記載されていない部材、整数又は抗体が除外される。本発明の文脈において、「含む(comprise)」という用語は、「からなる(consist of)」という用語を包含する。従って、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」並びに「からなる(consisting)」を包含し、例えばXを「含む」組成物は排他的にXからなっていてもよいし、又は例えばX+Yなどの何か更なるものを含んでいてもよい。
本発明を記載する文脈(特に特許請求の範囲の文脈)で使用される「a」及び「an」及び「the」と類似の言及は、ここで別の意味が示されていない限り又は文脈から明らかに矛盾していない限り、単数と複数の両方を包含するものと解釈されるべきである。ここでの値の範囲の記載は、その範囲内に入る各々別個の値に個々に言及する簡単な方法となることが単に意図される。ここで他の意味が示されない限り、それぞれ個々の値は、それがここに個別に記載されているかのように明細書に組み込まれる。明細書の如何なる言葉も、本発明の実施に不可欠な任意の請求項非記載の要素を示していると解釈されるべきではない。
「実質的に」という語は、「完全に」を排除するものではなく、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まないものであってもよい。必要な場合、「実質的に」という語は本発明の定義から省略されうる。
数値xに関する「約」という用語は、x±10%を意味する。
[がん疾患の治療的処置における使用のための組み合わせ]
第一の態様では、本発明は、がん疾患の治療的処置における使用のための、
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと
(ii)(単離された)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片であって、
(a)T細胞表面抗原に対する特異性;
(b)がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性;及び
(c)ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位
を含み、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIに対してより高い親和性で結合する抗体又はその抗原結合断片と
の組み合わせを提供する。
免疫チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体(trAb)の組み合わせは、幾つかの独特で補完的な免疫療法を組み合わせた新規な抗がん治療アプローチである:
先ず、ネガティブの副作用が低減される。阻害性免疫チェックポイント分子の遮断は、大腸炎、下痢、肺炎、肝炎などの重篤な自己免疫疾患を引き起こしうるT細胞の強力で非特異的な活性化をもたらす。T細胞リダイレクティング多機能抗体との組み合わせは、活性化されたT細胞を健康な組織から離して腫瘍部位に運ぶ。これにより、自己免疫反応が阻害され又は低減されうる。
加えて、T細胞リダイレクティング多機能抗体のFc受容体結合部位は、活性化Fc受容体を介して樹状細胞(DC)又はマクロファージなどのアクセサリー細胞を補充し、刺激する。これらの細胞は、T細胞への更なる刺激をもたらし、腫瘍細胞片を取り上げ、腫瘍由来ペプチドを免疫系に提示する。従って、T細胞リダイレクティング多機能抗体は、T細胞依存性腫瘍破壊を導くだけでなく、長く続く腫瘍特異的免疫記憶を誘導する。
更に、治療効果が持続性のT細胞活性化によって改善される。本発明者等は、T細胞リダイレクティング多機能抗体によるT細胞の活性化に、免疫チェックポイント分子の発現の増加が伴い、これが、次には、活性化されたT細胞をダウンレギュレートすることを見出した。従って、チェックポイント阻害剤遮断抗体の組み合わせ使用は、多機能T細胞リダイレクティング抗体の直接的な抗腫瘍効果に有利な、持続性の延長されたT細胞活性化をもたらす。
従って、本発明者等によって見出されたように、本発明に係る使用のための組み合わせは、(i)免疫チェックポイントモジュレーター単独及び/又は(ii)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片単独によって誘導されるT細胞活性化と比較して、特に持続性のT細胞活性化を媒介する。
要約すると、T細胞リダイレクティング多機能抗体の免疫チェックポイントモジュレーターとの組み合わせは、単一薬物の治療的抗腫瘍効果をかなり増大させる(図1)。更に、その組み合わせは免疫チェックポイントモジュレーターの実質的なネガティブな副作用を低減させることさえできる。
次に、本発明に係る使用のための組み合わせの構成要素、すなわち、免疫チェックポイントモジュレーターと、T細胞表面抗原に対する特異性、がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性並びにヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を含むT細胞リダイレクティング多機能抗体と、その好ましい実施態様を詳細に説明する。更に、がん疾患の治療的処置における使用とその好ましい実施態様もまた以下に詳細に記載される。(i)本発明に係る使用のための組み合わせの好ましい実施態様は、免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい実施態様を含み;(ii)本発明に係る使用のための組み合わせの好ましい実施態様は、T細胞表面抗原に対する特異性、がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性及びヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を含むT細胞リダイレクティング多機能抗体の好ましい実施態様を含み;及び(iii)本発明に係る使用のための組み合わせの好ましい実施態様は、がん疾患の治療的処置における使用の好ましい実施態様を含むことが理解される。本発明に係る使用のための組み合わせのより好ましい実施態様は、(i)免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい実施態様と、T細胞表面抗原に対する特異性、がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性及びヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を含むT細胞リダイレクティング多機能抗体の好ましい実施態様を;又は(ii)T細胞表面抗原に対する特異性、がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性及びヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を含むT細胞リダイレクティング多機能抗体の好ましい実施態様と、がん疾患の治療的処置における使用の好ましい実施態様を;又は(iii)免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい実施態様と、がん疾患の治療的処置における使用の好ましい実施態様を含む。最も好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせの実施態様は、(i)免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい実施態様;(ii)T細胞表面抗原に対する特異性、がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性及びヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を含むT細胞リダイレクティング多機能抗体の好ましい実施態様;及び(iii)がん疾患の治療的処置における使用の好ましい実施態様を含む。
免疫チェックポイントモジュレーター及びT細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)が別個の標的に向けられることが、本発明に係る使用のための組み合わせにおいて一般に好ましいことが理解される。言い換えると、T細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)は、好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせの免疫チェックポイントモジュレーターと同じ免疫チェックポイント分子(又はそのリガンド)を標的とする特異性又は結合部位を含まない。再び言い換えれば、免疫チェックポイントモジュレーターは、好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせのT細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)によって標的とされる、免疫チェックポイント分子(又はそのリガンド)を調節しない。
[T細胞リダイレクティング多機能抗体]
ここで(すなわち本出願を通して)使用される場合、「抗体」という用語は、限定されないが、本発明の特徴的な性質が保持されている限り、全抗体、抗体断片、ヒト抗体、キメラ抗体、組換え抗体、ヒト化抗体、合成抗体、化学的に修飾された抗体及び遺伝子操作された抗体(変異体又は変異抗体)を含む抗体、好ましくはモノクローナル抗体の様々な形態を包含する。抗体の好ましい例には、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ミニボディ、ドメイン抗体、合成抗体、抗体模倣物、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体融合物、抗体コンジュゲート、単鎖抗体、抗体誘導体、抗体アナログ及びその断片がそれぞれ含まれる。組換え抗体、特に組換えモノクローナル抗体がより好ましい。更に、抗体は、多鎖抗体、すなわち単鎖抗体とは異なり一本を超える鎖を含む抗体であることがまた好ましい。更に、抗体又は抗原結合断片は、完全に又は部分的にヒト由来であってもヒト化されていてもよい。抗体のヒト化は、当該技術分野で知られている(例えば、Shalaby等, J. Exp. Med. 175 (1992), 217;Mocikat等, Transplantation 57 (1994), 405を参照)。好ましくは、少なくとも(6つの)CDR(相補性決定領域)及び/又はフレームワーク領域、より好ましくは可変領域は、ヒト由来及び/又はヒト化型である。別の定義が示されない限り、「抗体」という用語は、二本の全長重鎖及び二本の全長軽鎖を含む抗体に加えて、その誘導体、変異体、及び断片をまた含む。幾つかの例では、「抗体」はより少ない鎖を含む場合がある。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。ここでは、「モノクローナル」抗体(mAb又はmoAb)は、幾つかの異なる免疫細胞から作製されるポリクローナル抗体とは対照的に、全て唯一の親細胞のクローンである同一の免疫細胞によって作製される抗体として理解される。一般に、特定の物質に特異的に結合するモノクローナル抗体を産生することが可能である。
ここで使用される「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する抗体を含むことが意図される。ヒト抗体は、最新技術において周知である(van Dijk, M. A.,及びvan de Winkel, J. G., Curr. Opin. Chem. Biol. 5 (2001) 368-374)。ヒト抗体は、内在性免疫グロブリン産生の非存在下で、完全レパートリー又はヒト抗体の選択物を免疫化時に産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)において産生させることもまたできる。そのような生殖細胞系列変異マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入は、抗原チャレンジでヒト抗体の産生をもたらすであろう(例えば、Jakobovits, A.等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 2551-2555;Jakobovits, A.等, Nature 362 (1993) 255-258;Bruggemann, M.等, Year Immunol. 7 (1993) 3340を参照)。ヒト抗体はまたファージディスプレイライブラリーにおいて産生されうる(Hoogenboom, H. R.及びWinter, G., J. Mol. Biol. 227 (1992) 381-388;Marks, J. D.等, J. Mol. Biol. 222 (1991) 581-597)。Cole等及びBoerner等の技法がまたヒトモノクローナル抗体の調製に利用可能である(Cole等, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, p. 77 (1985);及びBoerner, P.等, J. Immunol. 147 (1991) 86-95)。ここで使用される「ヒト抗体」という用語はまた例えば可変領域及び/又はFc領域において修飾されて、本発明に係る特性を生じる抗体を含む。
ここで使用される場合、「組換え抗体」という用語は、天然には生じない全ての抗体、特に組換え手段によって調製され、発現され、作製され又は単離される抗体、例えばCHO細胞のような宿主細胞又は動物(例えば、マウス)から単離される抗体、又は宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される抗体を含むことが意図される。そのような組換え抗体は、天然に生じる抗体と比較して、再編成された形態の可変領域及び定常領域を有する。
ここで使用される場合、「抗原結合断片」、「断片」及び「抗体断片」という用語は、互換的に使用され、本発明に係る使用のための抗体の特異的結合活性、特にT細胞表面抗原に対する特異性、がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性、及びヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を保持する本発明の抗体の任意の断片を意味する。抗体断片の例には、限定されないが、sc(単鎖)抗体、scFv−Fc、scFv−CH3、scDiabody−CH3、Diabody−CH3、ミニボディ、scFv−KIH、Fab−scFv−Fc、scDiabody−Fc、Diabody−Fc、及びタンデムscFv−Fc(例えば、Spiess C., Zhai Q.及びCarter P.J. (2015) Molecular Immunology 67: 95-106に記載)が含まれる。本発明の抗体の断片は、ペプシン又はパパインのような酵素での消化及び/又は化学的還元によるジスルフィド結合の切断を含む方法によって抗体から得ることができる。あるいは、抗体の断片は、重鎖及び/又は軽鎖の配列の一部のクローニング及び発現によって得ることができる。本発明はまた本発明の抗体の重鎖及び軽鎖に由来するCH3領域を含む単鎖Fv断片(scFv)もまた包含する。例えば、本発明は、本発明の抗体由来のCDRを含むscFv−CH3又はscFv−Fcを含む。また含まれるのは、重鎖又は軽鎖単量体及び二量体、単一ドメイン重鎖抗体、単一ドメイン軽鎖抗体、並びに単鎖抗体、例えば重鎖及び軽鎖可変ドメインがペプチドリンカーによって連結された単鎖Fvである。本発明の抗体断片は、典型的には多価であり、上記のような様々な構造で含まれうる。例えば、scFv分子は、3価の「トリアボディ」又は4価の「テトラボディ」を作製するように合成されうる。scFv分子は、好ましくはFc領域のドメインを含む。特許請求の範囲を含む明細書は、ある場所では、抗体の抗原結合断片、抗体断片、変異体及び/又は誘導体に明示的に言及している場合があるが、「抗体」又は「本発明の抗体」という用語は、抗体の全てのカテゴリー、すなわち、抗体の抗原結合断片、抗体断片、変異体及び誘導体を含む。
本発明に係る使用のための抗体又はその断片は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその断片である。
ここで使用される場合、「T細胞リダイレクティング」抗体又はその断片は、T細胞表面抗原に対する特異性並びにがん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性の両方を提供する抗体又はその断片である。これにより、抗体又はその断片が、T細胞をがん細胞にリダイレクトさせることが可能になる。従って、「T細胞表面抗原に対する特異性」とは、特に、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、T細胞表面抗原のエピトープを認識するパラトープを含むことを意味する。換言すれば、「T細胞表面抗原に対する特異性」という語句は、特に、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片がT細胞表面抗原の結合部位を含むことを意味する。従って、「がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性」とは、特に、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、がん及び/又は腫瘍関連抗原のエピトープを認識するパラトープを含むことを意味する。換言すれば、「がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性」という語句は、特に、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、がん及び/又は腫瘍関連抗原のための結合部位を含むことを意味する。
重要なことに、ただ一つの単一特異性を示す一般的な(「通常の」)抗体とは対照的に、T細胞リダイレクティング抗体は、少なくとも二つの異なるエピトープ、すなわちがん/腫瘍細胞上の一つのエピトープとT細胞上の一つのエピトープに結合することができ、これにより、T細胞をがん/腫瘍細胞に「リダイレクトし」、T細胞媒介性の細胞死滅をもたらす。従って、本発明に係る使用のためのT細胞リダイレクティング抗体は、T細胞リダイレクティング特性を示す、すなわち、抗体は、典型的には、アネルギー状態にある腫瘍特異的T細胞を再活性化し及び/又はT細胞を所望の抗原に向けることができる(抗体のがん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性によって提供される)。
ここで使用される場合、「多機能」抗体又はその断片は、複数の別個の結合部位と同時に相互作用することができる抗体又はその断片である。本発明に係る使用のための抗体又はその断片は、(少なくとも)(a)T細胞表面抗原に対する特異性、(b)がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性、及び(c)ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を含むので、「多機能」抗体又はその断片は、少なくとも「三機能」抗体又はその断片である。「三機能」とは、抗体又はその断片が三つの別個の結合部位と同時に相互作用することができることを意味する。
上記のように、T細胞リダイレクティング多機能抗体は、腫瘍関連抗原(TAA)特異的結合アーム、T細胞上に発現されるCD3などのT細胞表面抗原に特異的な第二の結合アーム、及びマクロファージ、樹状細胞(DC)又はナチュラルキラー(NK)細胞などのアクセサリー細胞上に存在するFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのような活性化Fcγ受容体に特に優先的に結合するヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を含む。如何なる理論にも束縛されるものではないが、本発明者等は、腫瘍治療においてT細胞リダイレクティング多機能抗体の次の作用態様を想定している(Lindhofer H, Hess J, Ruf P. Trifunctional Triomab(登録商標)antibodies for cancer therapy. In: Kontermann RE (編), Bispecific antibodies. Springer, Berlin, 2011, p. 289-312):この作用態様における最初の重要な工程は、CD3のようなT細胞表面抗原とのTAAの二重特異性抗体媒介架橋を介した腫瘍へのT細胞のリダイレクションであると考えられる。T細胞受容体複合体の成分としてのCD3などのT細胞表面抗原の抗体媒介結合は、主要組織適合複合体(MHC)非依存的様式でT細胞を活性化する強力な第一の刺激であり、TNF−aとIFN−gの分泌を伴う。しかしながら、T細胞の生理学的活性化は第二のシグナルを必要とする。オプソニン化されたT細胞及び腫瘍細胞並びに炎症性サイトカインによって誘引されて、FcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII陽性免疫細胞が、T細胞リダイレクティング多機能抗体のFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII結合部位を介して更に結合する。異なる免疫細胞型のクラスターが腫瘍細胞で形成される。
腫瘍細胞、T細胞、及びFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII陽性アクセサリー免疫細胞からなるこの三細胞複合体形成は、幾つかの重要な結果を示唆している:第一に、アクセサリー免疫細胞とT細胞の相互刺激がある。T細胞とCD14陽性単球のT細胞リダイレクティング多機能抗体誘発性相互作用は、CD83、CD86、及びCD40のアップレギュレーションをもたらす(Riechelmann H,Wiesneth M, Schauwecker P, Reinhardt P, Gronau S, Schmitt A, Schroen C, Atz J, Schmitt M (2007) Adoptive therapy of head and neck squamous cell carcinoma with antibody coated immune cells: a pilot clinical trial. Cancer Immunol Immunother 56:1397-1406;Stanglmaier M, Faltin M, Ruf P, Bodenhausen A, Schroder P, Lindhofer H (2008) Bi20 (FBTA05), a novel trifunctional bispecific antibody (anti-CD20 _ anti-CD3), mediates efficient killing of B-cell lymphoma cells even with very low CD20 expression levels. Int J Cancer 123:1181-1189;Zeidler R, Mysliwietz J, Csanady M, Walz A, Ziegler I, Schmitt B, Wollenberg B, Lindhofer H (2000) The Fc-region of a new class of intact bispecific antibody mediates activation of accessory cells and NK cells and induces direct phagocytosis of tumour cells. Br J Cancer 83:261-266)。従って、T細胞は、CD40/CD40L又はCD80−CD86/CD28相互作用の形態で第二の共刺激シグナルを受ける。結果として、それらは、IL−2の高分泌及び増殖マーカーKi−67の検出を伴う強力な増殖を特徴として、大いに生理学的に活性化される。加えて、T細胞活性化マーカーCD25及びCD69がアップレギュレートされる(Riechelmann H,Wiesneth M, Schauwecker P, Reinhardt P, Gronau S, Schmitt A, Schroen C, Atz J, Schmitt M (2007) Adoptive therapy of head and neck squamous cell carcinoma with antibody coated immune cells: a pilot clinical trial. Cancer Immunol Immunother 56:1397-1406)。逆に、アクセサリー免疫細胞は、T細胞との相互作用及びFcgR架橋によって刺激される。この刺激は、主にアクセサリー細胞によって分泌されるIL−6及びIL−12などの高レベルの炎症性サイトカインが測定されるときに現れる。更に、アクセサリー細胞とT細胞との間のクロストークが、Th1バイアスサイトカイン、特にIL−2及びIFN−gの放出によって示される。最後に、標的化腫瘍細胞が、同種異系の設定並びに自己ヒトエクスビボ系において示されるように(Gronau SS, Schmitt M, Thess B, Reinhardt P, Wiesneth M, Schmitt A, Riechelmann H (2005) Trifunctional bispecific antibody-induced tumor cell lysis of squamous cell carcinomas of the upper aerodigestive tract. Head Neck 27:376-382)、異なるタイプの免疫エフェクター細胞の協奏攻撃によって効率的に破壊される。壊死及びアポトーシス腫瘍細胞及び粒子は貪食され(Riesenberg R, Buchner A, Pohla H, Lindhofer H (2001) Lysis of prostate carcinoma cells by trifunctional bispecific antibodies (alpha EpCAM _ alpha CD3). J Histochem Cytochem 49:911-917; Zeidler R, Mysliwietz J, Csanady M, Walz A, Ziegler I, Schmitt B, Wollenberg B, Lindhofer H (2000) The Fc-region of a new class of intact bispecific antibody mediates activation of accessory cells and NK cells and induces direct phagocytosis of tumour cells. Br J Cancer 83:261-266)、抗腫瘍免疫化のための理想的な必要条件である刺激性の状況においてプロフェッショナル抗原提示細胞によって処理され提示されうる。
驚くべきことに本発明者等によって見出されたように、ここで定義されるT細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)は、CTLA−4などの免疫チェックポイント分子の発現の増加を誘導する(実施例2、図2参照)。従って、本発明に係る使用のための組み合わせにおいて、T細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)が、CTLA−4のような免疫チェックポイント分子の発現の増加を誘導することが好ましい。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、三機能抗体又はその三機能抗原結合断片、特に二重特異性三機能抗体又はその二重特異性三機能抗原結合性断片である。
本発明の文脈において、「三機能」抗体(trAb)は、特に、T細胞と、特にアクセサリー免疫細胞、例えばマクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、及び/又は他のFcγRI−、FcγRIIa−及び/又はFcγRIII−発現細胞を、例えば、それらのFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII結合部位によって標的化されたがん/腫瘍に同時に補充し活性化する特定のクラスの二重特異性抗体として理解される。よって、三機能二重特異性抗体は、二つの抗原結合部位(すなわち二つのパラトープ)を有する。典型的には、これら二つの抗原結合部位(パラトープ)は、抗体ががん/腫瘍細胞(がん/腫瘍細胞表面抗原)及びT細胞(T細胞表面抗原)に結合することを可能にする。同時に、例えば、それらのFc部分、特にそれらのFcγ受容体結合部位を介して、陽性アクセサリー細胞、例えば単球/マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞又は他のFcγ受容体発現細胞が補充される。これらの異なるクラスのエフェクター細胞の同時活性化は、食作用及びパーフォリン媒介細胞傷害性のような様々な機構による腫瘍細胞の効率的な死滅をもたらす。典型的には、三機能抗体の正味の効果は、T細胞と特にFcγ受容体陽性アクセサリー細胞を腫瘍細胞に関連付け、腫瘍細胞の破壊をもたらすことである。
三機能抗体は、特に、(i)抗体依存性細胞媒介性細胞傷害、(ii)T細胞媒介性細胞死滅、及び(iii)抗腫瘍免疫の誘導によって、腫瘍細胞の除去を誘起する。対照的に、第一の作用態様のみが、一般的な(モノクローナル及び単一特異性)抗体によって実際に実行される。更に、一般的な抗体とは対照的に、三機能抗体はより高い細胞傷害可能性を有し、比較的弱く発現される抗原に結合さえする。従って、三機能抗体は、一般的な抗体と比較して腫瘍細胞の除去において、等価な用量で、より強力(1000倍を超える)である。
一般に、本発明に係る使用のためのT細胞リダイレクティング多機能抗体は、多重特異性抗体である。ここで使用される場合、「多重特異性」という用語は、例えば異なる抗原上の、例えばT細胞表面抗原上及びがん/腫瘍抗原上の、少なくとも二つの異なるエピトープに結合する能力を指す。従って、「二重特異性」、「三重特異性」、「四重特異性」などの用語は、抗体が結合することができる異なるエピトープの数を指す。例えば、一般的な単一特異性IgG型抗体は、二つの同一のエピトープ結合部位(パラトープ)を有し、従って、同一のエピトープにのみ結合することができる(異なるエピトープには結合できない)。対照的に、多重特異性抗体は、少なくとも二つの異なるタイプのパラトープを有し、従って、少なくとも二つの異なるエピトープに結合することができる。ここで使用される場合、「パラトープ」とは抗体のエピトープ結合部位を指す。更に、単一「特異性」は、単一抗体における一つ、二つ、三つ又はそれ以上の同一のパラトープを意味しうる(一つの単一抗体分子における実際のパラトープ数は「価数」と呼ばれる)。例えば、単一天然IgG抗体は、二つの同一のパラトープを有するので、単一特異性で二価である。従って、多重特異性抗体は、少なくとも二つの(異なる)パラトープを含む。従って、「多重特異性抗体」という用語は、一つを超えるパラトープを有し二つ以上の異なるエピトープに結合する能力を有する抗体を指す。「多重特異性抗体」という用語は、特に二重特異性抗体を含むが、典型的には、特に三つ以上の異なるエピトープに結合するタンパク質、例えば抗体、スカフォールド、すなわち三つ以上のパラトープを有する抗体を含む。
特に、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、二つ以上のパラトープを含み得、幾つかのパラトープは、抗体の全てのパラトープが少なくとも二つの異なるタイプのパラトープに属するように同一であり得、従って、抗体は少なくとも二つの特異性を有する。例えば、本発明に係る多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、それぞれの二つのパラトープが同一である(すなわち同じ特異性を有する)四つのパラトープを含み得、従って、抗体又はその断片は二重特異性で四価である(二つの特異性のそれぞれに対して二つの同一のパラトープ)。従って、「一特異性」とは、特に、同じ特異性を示す一又は複数のパラトープを指し(これは典型的にはそのような一又は複数のパラトープが同一であることを意味する)、従って、「二特異性」は、それらが二の特異性のみを意味する限り、二、三、四、五、六又はそれ以上のパラトープによって実現されうる。最も好ましくは、多重特異性抗体は、(少なくとも二つの)特異性のそれぞれについて一つの単一パラトープを含み、すなわち、多重特異性抗体は、合計で少なくとも二つのパラトープを含む。例えば、二重特異性抗体は、二つの特異性のそれぞれについて一つの単一パラトープを含み、すなわち、抗体は合計で二つのパラトープを含む。また、抗体が二つの特異性のそれぞれについて二つの(同一の)パラトープを含む、すなわち抗体が合計で四つのパラトープを含むことも好ましい。好ましくは、抗体は、二つの特異性のそれぞれについて三つの(同一の)パラトープを含む、すなわち、抗体は合計で六つのパラトープを含む。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、二重特異性抗体又はその二重特異性抗原結合断片である。
本発明の文脈において、二重特異性抗体(BiAb)は、(厳密に)二つの特異性を含む。これらは、多重特異性抗体及びその抗原結合断片の最も好ましいタイプである。本発明の文脈における二重特異性抗体は、例えば、Spiess C., Zhai Q.及びCarter P.J. (2015) Molecular Immunology 67: 95-106に記載されているように、FcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII結合部位を含む任意の二重特異性抗体フォーマットでありうる。例えば、BiAbは、全抗体、例えば全IgG様抗体、又は全抗体ではないが抗体特性を保持しているその断片でありうる。これらは小さい組換えフォーマット、例えばタンデム単一鎖可変断片分子(taFv)、ダイアボディ(Db)、単鎖ダイアボディ(scDb)、及びこれらの様々な他の誘導体(例えば、Byrne H.等 (2013) Trends Biotech, 31 (11): 621-632を参照(図2が様々な二重特異性抗体フォーマットを示す))。幾つかのBiAbフォーマットは、疾患過程において重要な役割を果たす標的細胞に対してエフェクター細胞をリダイレクトしうる。例えば、幾つかのBiAbフォーマットは、エフェクター細胞を腫瘍細胞に再標的化することができ、様々なBiAbコンストラクトが、例えば、エフェクター細胞の表面上のFc受容体に結合してそれを誘発することによって、又はT細胞受容体(TCR)複合体に結合することによって、免疫系の細胞を再標的化するようにデザインされた。
好ましくは、多重特異性、特に二重特異性抗体、又はその抗原結合断片は、少なくとも二価であり、すなわち少なくとも二つのパラトープを有する。より好ましくは、多重特異性、特に二重特異性抗体、又はその抗原結合断片は、二価、三価、四価、又は六価である。更により好ましくは、多重特異性、特に二重特異性抗体、又はその抗原結合性断片は、二価又は四価である。最も好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、二重特異性二価抗体、すなわち二つのパラトープを有する抗体であり;一方はT細胞表面抗原を認識し、他方はがん及び/又は腫瘍関連抗原を認識する。
「多重」特異性、例えば、二重特異性、三重特異性、四重特異性等々という用語とは対照的に、多「機能」、例えば三機能等々という用語は、より一般的な意味での別個の結合部位の数を意味し、すなわち、それらは任意の結合部位(エピトープに結合するもののみではない)を含む。従って、例えば、FcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII結合部位は、多「機能」、例えば三機能等々のカテゴリーに対して「数える」のであって、多重「特異性性」、例えば、二重特異性、三重特異性、四重特異性等々のカテゴリーに対してではない。例えば、三機能抗体は、単一、二重又は三重特異性でありうるが、(抗体が二つの特異性とFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII結合部位を有する)本発明の文脈において、三機能抗体は典型的には二重特異性である。
ここで使用される場合、「抗原」という用語は、適応免疫応答の受容体に対する標的、特に抗体、T細胞受容体、及び/又はB細胞受容体に対する標的となる任意の構造的物質を意味する。「抗原決定基」としてもまた知られる「エピトープ」は、免疫系によって、特に抗体、T細胞受容体、及び/又はB細胞受容体によって認識される抗原の部分(又は断片)である。従って、一つの抗原は少なくとも一つのエピトープを有し、すなわち、単一の抗原が一又は複数のエピトープを有する。抗原は、(i)ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質、(ii)多糖類、(iii)脂質、(iv)リポタンパク質又はリポペプチド、(v)糖脂質、(vi)核酸、又は(vii)低分子薬物又は毒素でありうる。従って、抗原は、ペプチド、タンパク質、多糖類、脂質、リポタンパク質と糖脂質を含むそれらの組み合わせ、核酸(例えば、DNA、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、デコイDNA、プラスミド)、又は低分子薬物(例えば、シクロスポリンA、パクリタキセル、ドキソルビシン、メトトレキサート、5−アミノレブリン酸)、又はそれらの任意の組み合わせでありうる。好ましくは、抗原は、(i)ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質、(ii)多糖類、(iii)脂質、(iv)リポタンパク質又はリポペプチド及び(v)糖脂質から選択され;より好ましくは、抗原は、ペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質である。
[T細胞表面抗原]
ここで使用される場合、「T細胞表面抗原(のエピトープ)」とは、T細胞表面関連抗原又はT細胞表面特異的抗原(「T細胞表面マーカー」としても知られている)(由来のエピトープ)を指す。これらは、特に、T細胞に特異的な「CD」(表面抗原分類)分子である。CD分子は、白血球の同定及び特徴付けに有用な細胞表面マーカーである。CD命名法は1982年に開始されたHLDA(ヒト白血球分化抗原)ワークショップを通じて開発され、維持されている。所定のCD分子がT細胞上に見出されるかどうか(従って、本発明の文脈におけるT細胞表面抗原を表すか)は、例えば、当業者に知られている様々なソース、例えばhttp://www.ebioscience.com/resources/human−cd−chart.htm、BD Bioscienceの「Human and Mouse CD Marker Handbook」(https://www.bdbiosciences.com/documents/cd_marker_handbook.pdfで検索可能)、又はwww.hcdm.org.から検索できる。従って、T細胞表面抗原の例には、例えば、BD Bioscienceの「Human and Mouse CD Marker Handbook」(https://www.bdbiosciences.com/documents/cd_marker_handbook.pdfで検索可能)又は「CDマーカーチャート」の他のソースにおいてT細胞に対して陽性に示された(ヒト)CDマーカーが含まれる。
好ましくは、T細胞表面抗原は、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L及びCD44からなる群から選択される。これは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、CD3、CD2、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L及び/又はCD44から選択されるT細胞表面抗原のエピトープを好ましくは認識する(これに結合することができる)パラトープを含むことを意味する。前記特異性は、好ましくはT細胞の補充を促進する。そこで、CDは、上述のように、「表面抗原分類」(cluster of differentiation)(cluster of designation又はclassification determinant)の略語である。一般に、これは細胞の免疫表現型検査のための標的を提供する細胞表面分子の同定及び研究に使用されるプロトコルとして知られている。生理学的には、CD分子は多くの様式で作用することができ、しばしば細胞にとって重要な受容体又はリガンド(受容体を活性化する分子)として作用する。シグナルカスケードが通常開始され、細胞の挙動を変化させる(細胞シグナル伝達を参照)。幾つかのCDタンパク質は、細胞シグナル伝達において役割を果たさないが、細胞接着などの他の機能を有する。現在、ヒトのCDは364まで番号が付けられている。本発明はT細胞関連CD分子に言及する。
好ましくは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片が特異性を有するT細胞表面抗原はCD28ではない。より好ましくは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又は抗原結合断片は、CD28に対して何ら特異性/結合部位を含まない。
より好ましくは、T細胞表面抗原はCD2又はCD3であり、最も好ましくはT細胞表面抗原はCD3である。これは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、より好ましくはCD2又はCD3のエピトープを認識するパラトープを含み、最も好ましくは本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、CD3のエピトープを認識するパラトープを含むことを意味する。CD3(表面抗原分類3)は、細胞傷害性T細胞を活性化するのを助けるT細胞共受容体である。CD3は、典型的にはタンパク質複合体からなり、四つの異なる鎖から構成される。哺乳動物では、複合体はCD3γ鎖、CD3δ鎖、及び2本のCD3ε鎖を含む。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)として知られる分子及びζ鎖(ゼータ鎖)と結合し、Tリンパ球において活性化シグナルを生じる。TCR、ζ鎖、及びCD3分子は共にTCR複合体を構成する。
[がん及び/又は腫瘍関連抗原]
ここで使用される場合、「がん及び/又は腫瘍関連抗原(のエピトープ)」とは、がん関連抗原、がん特異的抗原、腫瘍関連抗原及び/又は腫瘍特異的抗原(のエピトープ)である。そのようなエピトープ/抗原は、典型的には、所定の種類のがん/腫瘍に特異的であるか、又は関連する。適切ながん/腫瘍エピトープ及び抗原は、例えば、がん/腫瘍エピトープデータベース、例えば、van der Bruggen P, Stroobant V, Vigneron N, Van den Eynde B. Peptide database: T cell-defined tumor antigens. Cancer Immun 2013; URL: http://www.cancerimmunity.org/peptide/(ヒト腫瘍抗原がその発現パターンに基づいて主要な4群に分類されている);又はデータベース「Tantigen」(TANTIGEN version 1.0, Dec 1, 2009; developed by Bioinformatics Core at Cancer Vaccine Center, Dana-Farber Cancer Institute; URL: http://cvc.dfci.harvard.edu/tadb/)から検索されうる。本発明の文脈において有用ながん関連抗原、特に腫瘍関連抗原又は組織特異的抗原の特定の例には、限定されないが次の抗原が含まれる:Epha2、Epha4、PCDGF、HAAH、メソテリン;EPCAM;NY−ESO−1、糖タンパク質MUC1及びNIUC10ムチンp5(特に突然変異型)、EGFR;がん抗原125(CA125)、上皮性糖タンパク質40(EGP40)(Kievit等, 1997, Int. J. Cancer 71: 237-245)、扁平上皮細胞癌抗原(SCC)(Lozza等, 1997 Anticancer Res. 17: 525-529)、カテプシンE(Mota等, 1997, Am. J Pathol. 150: 1223-1229)、CDC27(タンパク質の変異型を含む)、抗原トリオースリン酸イソメラーゼ、707−AP、A60マイコバクテリア抗原(Macs等, 1996, J. Cancer Res. Clin. Oncol. 122: 296-300)、AFP、アルファ(v)ベータ(3)−インテグリン、ART−4、ASC、BAGE、β−カテニン/m、BCL−2、bcr−abl、bcr−abl p190、bcr−abl p210、BRCA−1、BRCA−2、CA19−9(Tolliver及びO'Brien, 1997, South Med. J. 90: 89-90;Tsuruta等, 1997 Urol. Int. 58: 20-24)、CA125、CALLA、CAMEL、炭酸脱水酵素、CAP−1、CASP−8、CDC27/m、CDK−4/m、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30 CD33、CD37、CD38、CD40、CD41、CD44v3、CD44v6、CD47、CD52、CD138、CEA(Huang等, Exper Rev. Vaccines (2002)1:49-63)、c−erb−2、CT9、CT10、Cyp−B、Dek−cain、DAM−6(MAGE−B2)、DAM−10(MAGE−B1)、EphA2(Zantek等, Cell Growth Differ. (1999) 10:629-38; Carles-Kinch等, Cancer Res. (2002) 62:2840-7)、EphA4(Cheng等, 2002, Cytokine Growth Factor Rev. 13:75-85)、腫瘍関連Thomsen−Friedenreich抗原(Dahlenborg等, 1997, Int. J Cancer 70: 63-71)、ELF2M、ETV6−AML1、G250、GAGE−1、GAGE−2、GAGE−3、GAGE−4、GAGE−5、GAGE−6、GAGE−7B、GAGE−8、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GnT−V、GM1、GM2、GM3、gp100(Zajac等, 1997, Int. J Cancer 71: 491-496)、GT1b、GT3、GQ1、HAGE、HER2/neu、HLA、HLA−DR、HLA−A*0201−R170I、HPV−E7、HSP−27、HSP−70、HSP70−2M、HSP−72、HSP−90、HST−2、hTERT、hTRT、iCE、アポトーシス阻害剤、例えばサバイビン、KH−1腺癌抗原(Deshpande及びDanishefsky, 1997, Nature 387: 164-166)、KIAA0205、K−ras、LAGE、LAGE−1、LDLR/FUT、ルイスY抗原、MAGE−1、MAGE−2、MAGE−3、MAGE−6、MAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A6、MAGE−A10、MAGE−A12、MAGE−B5、MAGE−B6、MAGE−C2、MAGE−C3、MAGE D、MART−1、MART−1/メラン−A(Kawakami及びRosenberg, 1997, Int. Rev. Immunol. 14: 173-192)、MC1R、MCSP、MDM−2、MHCII、mTOR、ミオシン/m、MUC1、MUC2、MUM−1、MUM−2、MUM−3、ネオ−ポリAポリメラーゼ、NA88−A、NFX2、NY−ESO−1、NY−ESO−1a(CAG−3)、PAGE−4、PAP、プロテイナーゼ3(Molldrem等, Blood (1996) 88:2450-7;Molldrem等, Blood (1997) 90:2529-34)、P15、p53、p97、p190、Pgp、PIK3CA、Pm1/RARα、PRAME、プロテオグリカン、PSA、PSM、PSMA、RAGE、RAS、RCAS1、RU1、RU2、SAGE、SART−1、SART−2、SART−3、SP17、SPAS−1、SSX2、SSX4 TEL/AML1、TPI/m、チロシナーゼ、TARP、テロメラーゼ、TRP−1(gp75)、TRP−2、TRP−2/INT2、VEGF、WT−1、Wue抗原、細胞表面標的GC182、GT468又はGT512、及びNY−ESO−1及びLAGE−1遺伝子由来の選択的に翻訳されたNY−ESO−ORF2及びCAMELタンパク質。
より好ましくは、がん及び/又は腫瘍関連抗原は、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、プロテオグリカン、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、アルファ(v)ベータ(3)−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、炭酸脱水酵素、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30 CD33、CD37、CD38、CD40、CD41、CD47、CD52、CD138、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GT1b、GT3、GQ1、NY−ESO−1、NFX2、SSX2、SSX4、Trp2、gp100、チロシナーゼ、MUC−1、テロメラーゼ、サバイビン、p53、CA125、Wue抗原、ルイスY抗原、HSP−27、HSP−70、HSP−72、HSP−90、HSP−90、Pgp、MCSP、EphA2、及び細胞表面標的GC182、GT468又はGT512からなる群から選択される。これは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、好ましくは、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、プロテオグリカン、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、アルファ(v)ベータ(3)−インテグリン、HLA、HLA−DR、ASC、炭酸脱水酵素、CD1、CD2、CD4、CD6、CD7、CD8、CD11、CD13、CD14、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD30 CD33、CD37、CD38、CD40、CD41、CD47、CD52、CD138、c−erb−2、CALLA、MHCII、CD44v3、CD44v6、p97、GM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD2、GD3、GT1b、GT3、GQ1、NY−ESO−1、NFX2、SSX2、SSX4、Trp2、gp100、チロシナーゼ、MUC−1、テロメラーゼ、サバイビン、p53、CA125、Wue抗原、ルイスY抗原、HSP−27、HSP−70、HSP−72、HSP−90、HSP−90、Pgp、MCSP、EphA2、及び細胞表面標的GC182、GT468又はGT512からなる群から選択されるがん及び/又は腫瘍関連抗原のエピトープを認識する(に結合することができる)パラトープを含むことを意味する。
特に好ましくは、がん及び/又は腫瘍関連抗原は、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、CD20、CD30、CD33及びCD38からなる群から選択され、より好ましくは、がん及び/又は腫瘍関連抗原は、EpCAM、HER2/neu、CEA、GD2、CD19、CD20、CD30、CD33及びCD38からなる群から選択され、更により好ましくは、がん及び/腫瘍関連抗原は、EpCAM、HER2/neu、GD2及びCD20からなる群から選択され、最も好ましくは、がん及び/又は腫瘍関連抗原はEpCAMである。これは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、CD20、CD30、CD33及びCD38のエピトープを好ましくは認識するパラトープを含み、より好ましくは本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、EpCAM、HER2/neu、CEA、GD2、CD19、CD20又はCD33のエピトープを認識するパラトープを含み;更により好ましくは本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、EpCAM、HER2/neu、GD2又はCD20のエピトープを認識するパラトープを含み;最も好ましくは本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片が、EpCAM又はGD2のエピトープを認識するパラトープを含むことを意味する。
T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片が特異性を有するがん及び/又は腫瘍関連抗原がPD−L1ではないことがまた好ましい。より好ましくは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片は、PD−L1に対する特異性/結合部位を含まない。より一般的には、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片が特異性を有するがん及び/又は腫瘍関連抗原が免疫チェックポイント分子及び/又はそのリガンドではないことが更により好ましい。最も好ましくは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又は抗原結合断片は、免疫チェックポイント分子及び/又はそのリガンドに対する特異性/結合部位を含まない。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片によって認識されるがん及び/又は腫瘍関連抗原(又はそれぞれその上のエピトープ)はEpCAMである。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片によって認識されるがん及び/又は腫瘍関連抗原(又はそれぞれその上のエピトープ)はGD2である。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片によって認識されるがん及び/又は腫瘍関連抗原(又はそれぞれその上のエピトープ)はHer2/neuである。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片によって認識されるがん及び/又は腫瘍関連抗原(又はそれぞれその上のエピトープ)はGD3である。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片によって認識されるがん及び/又は腫瘍関連抗原(又はそれぞれその上のエピトープ)はCD20である。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片によって認識されるがん及び/又は腫瘍関連抗原(又はそれぞれその上のエピトープ)はCD19である。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片によって認識されるがん及び/又は腫瘍関連抗原(又はそれぞれその上のエピトープ)はCD30である。あるいは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片によって認識されるがん及び/又は腫瘍関連抗原(又はそれぞれその上のエピトープ)はCEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA又はRASである。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、(i)その第一の特異性、例えばその第一パラトープによって、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L及びCD44、好ましくはCD2又はCD3、より好ましくはCD3からなる群から選択されるT細胞表面抗原のエピトープと;(ii)その第二の特異性、例えばその第二パラトープによって、好ましくは腫瘍抗原EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、CD20、CD30、CD33及びCD38からなる群から選択されるがん及び/又は腫瘍関連抗原とに結合する。
より好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、(i)その第一の特異性、例えばその第一パラトープによって、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD8、CD28、CD40L及びCD44、好ましくはCD2又はCD3、より好ましくはCD3からなる群から選択されるT細胞表面抗原のエピトープと;(ii)その第二の特異性、例えばその第二パラトープによって、好ましくは腫瘍抗原EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、CD20、CD30、CD33及びCD38からなる群から選択されるがん及び/又は腫瘍関連抗原とに結合する。
本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、好ましくは、その第一の特異性、例えば第一パラトープによって、T細胞表面抗原、好ましくはCD3のエピトープに、かつその第二の特異性、例えば第二パラトープによって、腫瘍抗原EpCAM、HER2/neu、CEA、MAGE、VEGF、EGFR、mTOR、PIK3CA、RAS、GD2、CD19、CD20、CD30、CD33及びCD38からなる群から選択されるがん及び/又は腫瘍関連抗原に又はガングリオシドGM1、GM2、GM3、GD1a、GD1b、GD3、GT1b、GT3又はGQ1に結合する。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合性断片は、CD3に対する第一の特異性と、EpCAM、HER2/neu、CEA、GD2、CD19、CD20及びCD33からなる群から選択されるがん及び/又は腫瘍関連抗原に対する第二の特異性を含む。
T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片が特異性を有するがん及び/又は腫瘍関連抗原がCD19でないことがまた好ましい。より好ましくは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又は抗原結合断片は、CD19に対する特異性/結合部位を含まない。
T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片が特異性を有するがん及び/又は腫瘍関連抗原がCD20でないことがまた好ましい。より好ましくは、T細胞を方向転換する多機能抗体又は抗原結合性断片は、CD20に対する特異性/結合部位を含まない。
T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片が特異性を有するがん及び/又は腫瘍関連抗原がCEAでないことがまた好ましい。より好ましくは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又は抗原結合断片は、CEAに対する特異性/結合部位を含まない。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、EpCAMに対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗EpCAM)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、GD2に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗GD2)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、Her2/neuに対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗Her2/neu)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、GD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗GD3)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、CD20に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗CD20)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、CD19に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗CD19)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、CEAに対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗CEA)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、MAGEに対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗MAGE)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、VEGFに対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗VEGF)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、EGFRに対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗EGFR)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、mTORに対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗mTOR)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、PIK3CAに対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗PIK3CA)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、RASに対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗RAS)。
あるいは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、CD30に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗CD30)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、CD33に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗CD33)。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CD3に対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープと、アルボウイルスEタンパク質エピトープに対する一つの特異性、好ましくは一つのパラトープを含みうる(抗CD3×抗アルボウイルスEタンパク質)。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、抗EpCAM×抗CD3、抗GD2×抗CD3、抗CD20×抗CD3、抗HER2/neu×抗CD3、及び抗CD19×抗CD3から選択される二つの特異性を含む。より好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、抗EpCAM×抗CD3、抗GD2×抗CD3、及び抗HER2/neu×抗CD3から選択される二つの特異性を含む。更により好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、抗EpCAM×抗CD3及び抗GD2×抗CD3から選択される二つの特異性を含む。
[ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位]
本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を含む。より好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIIaのための結合部位を含む。ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位、例えばFc領域は、多機能抗体がFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIを発現する細胞、例えばFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII陽性アクセサリー細胞、例えば、マクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、並びに他のFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII発現細胞を更に補充することを可能にする。多機能抗体は、少なくとも二重特異性(又は多重特異性)抗体であるので、好ましくは、(i)T細胞及び(ii)FcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII発現細胞、例えばアクセサリー免疫細胞、例えば単球/マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞又は他のFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII発現細胞を、(iii)標的がん/腫瘍細胞に同時に補充し活性化することができる。これらの異なるクラスのエフェクター細胞の同時活性化は、例えば、食作用及びパーフォリン媒介細胞傷害性のような様々な機構による腫瘍細胞の効率的な死滅をもたらす。典型的には、FcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII結合部位を含む好ましい多機能抗体の正味の効果は、T細胞とFc受容体陽性細胞とを標的細胞、例えば腫瘍細胞に連結させ、腫瘍細胞の破壊をもたらすことである。多機能抗体は、(i)抗体依存性細胞媒介性細胞傷害、(ii)T細胞媒介性細胞死滅、及び(iii)抗腫瘍免疫の誘導によって腫瘍細胞の除去を誘起する。
一般に、Fcγ受容体(FcγR)は、IgGに対するFc受容体のファミリーである。全てのFcγ受容体(FcγR)は免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、オプソニン化(マークされた)微生物の食作用を誘導する最も重要なFc受容体である。このファミリーには幾つかのメンバーが含まれる:ヒトにおけるFcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32A)、FcγRIIb(CD32B)、FcγRIIIa(CD16a)、及びFcγRIIIb(CD16b)とマウスにおけるFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、及びFcγRIV。FcγRファミリーの複雑さは、様々な親和性と特異性で異なったFcγ受容体に結合するヒト(IgG1−IgG4)及びマウス(IgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG3)における4種の異なるIgGサブクラスの存在に反映されている(概説には、Nimmerjahn F.及びRavetch J.V., 2008, Fcγ receptors as regulators of immune responses, Nat Rev Immunol 8: 34-47を参照)。伝統的には、FcγRファミリーは、特異的IgGサブクラスに対する受容体の親和性のレベル及びそれが誘発するシグナル伝達経路のタイプ、すなわちそれが阻害性であるか活性化性であるかに従って分類される。FcγRIIbはマウス及びヒトにおいて保存されており、唯一の既知の抑制性FcγRである;それはその細胞質領域に含まれる免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)を介して抑制シグナルを伝達する。ヒトGPIアンカーFcγRIIIbを除く他の全てのFcγRは、それらの細胞質領域に含まれるITAMを介してシグナル伝達経路を活性化する。FcγRIaは、マウス及びヒトにおける唯一の既知の高親和性FcγRである。他の全てのFcγRは、低ないし中マイクロモル範囲の100−1000倍低い親和性を有し、より広いIgGサブクラス特異性を示す。抑制性FcγRIIbは、最も広く発現されるFcγRであり、NK細胞及びT細胞を除いて実質的に全ての白血球上に存在する。最後に、IgG1の活性が抑制性FcγRIIbによって負に調節されることが実証された。従って、抑制性FcγRIIbはIgG応答に対して「調節性」機能を奏すると推定される。
ヒトFcγRIIa(免疫グロブリンG(IgG)Fc受容体IIa;CD32a)は、IgGに対する低親和性受容体であり、マクロファージ、好中球、好酸球、血小板及び樹状細胞上に発現される。FcγRIIaは、リガンド結合時に活性化シグナルを送達し、細胞溶解、食作用、脱顆粒及びサイトカイン産生を含む炎症反応の開始をもたらす。ヒトFcγRIIaの二つの遺伝的に決定された構造的に異なるアロタイプ、すなわちFcγRIIa−R131及びFcγRIIa−H131対立遺伝子の産物が知られている。FcγRIIa応答は、FcγRIIb(CD32b)などの共発現された抑制性受容体からのシグナルによって調節され得、シグナルの強さは、活性化受容体及び抑制性受容体の発現比に依存する。
本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を含み、ここで抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIに対して、より高い親和性で結合する。これは、抗体又はその抗原結合断片がFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIの一つのみに結合する場合(すなわち、(i)抗体又はその抗原結合断片はFcγRIに結合するがFcγRIIa又はFcγRIIIには結合しない;(ii)抗体又はその抗原結合断片はFcγRIIaに結合するがFcγRI又はFcγRIIIには結合しない;又は(iii)抗体又はその抗原結合断片はFcγRIIIに結合するがFcγRI又はFcγRIIaには結合しない場合)、抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのうちの一つに対して、より高い親和性で結合することを意味する。しかし、抗体又はその抗原結合断片がFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIの1を超えるものに結合する場合(すなわち、(i)抗体又はその抗原結合断片はFcγRI及びFcγRIIaに結合するがFcγRIIIには結合しない;(ii)抗体又はその抗原結合断片はFcγRIIa及びFcγRIIIに結合するがFcγRIには結合しない;(iii)抗体又はその抗原結合断片はFcγRI及びFcγRIIIに結合するがFcγRIIaには結合しない;又は(iv)抗体又はその抗原結合断片はFcγRI、FcγRIIa及びFcγRIIIに結合する場合)、抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIの一つに対して、より高い親和性で結合すれば十分である。しかしながら、より好ましくは、抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのうちの二つに対して、より高い親和性で結合する。最も好ましくは、抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIの三つ全てに対して、より高い親和性で結合する。特に、(i)抗体又はその抗原結合断片は、最も好ましくは、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIの各々に対して、より高い親和性で結合し、及び/又は(ii)抗体又はその抗原結合断片は、最も好ましくは、ヒトFcγRIIbに対してよりも、抗体又はその抗原結合断片が結合部位を含むヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIの各々に対して、より高い親和性で結合する。
一般に、ヒトFcγRI、FcγRIIa及びFcγRIIIはFc受容体を活性化するが、ヒトFcγRIIbは抑制性Fc受容体である。従って、上記のように、ヒトFcγRIIbに対してよりも高い親和性でヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIに対して結合する抗体又はその抗原結合断片は、抑制性Fc受容体よりもむしろ活性化Fc受容体に結合し、よって活性化/阻害比を活性化側にシフトさせ、抑制性FcγRIIbの調節効果を低下させる。従って、食作用及び直接死滅が増加する。
ここで使用される場合、「ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRIIaに対してより高い親和性」とは、特に、FcγRIIaへの結合についての所定の抗体又はその断片のEC50(半数結合シグナル効果濃度)が、FcγRIIbへの結合についての同一の抗体又はその断片のEC50よりも低いことを意味する。換言すれば、より低い濃度の抗体(又はその断片)が、FcγRIIbへの半数結合よりもFcγRIIaへの半数結合に必要とされる。例えば、FcγRIIa/FcγRIIb比(これは、抗体がヒトFcγRIIbに対してよりも高い親和性でヒトFcγRIIaに結合する場合、>1)は、EC50(FcγRIIb)/EC50(FcγRIIa)によって決定されうる。EC50値は、例えば、標準的酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定されうる。あるいは、抗体又はその断片の結合親和性は、例えばRichards JO, Karki S, Lazar GA, Chen H, Dang W, Desjarlais JR (2008) Optimization of antibody binding to FcgammaRIIa enhances macrophage phagocytosis of tumor cells. Mol Cancer Ther 7:2517-2527)に記載されているような、表面プラズモン共鳴測定によってもまた決定されうる。一般に、FcγRIIa及びFcγRIIbに対する抗体又はその断片の結合親和性は、当業者に知られている様々な方法によって決定されうる。しかし、所定の抗体又はその断片の、FcγRIIa及びFcγRIIbに対する結合親和性は、特に、FcγRIIa及びFcγRIIb結合親和性を決定するために同じ方法を使用することによって得られる。
これは、特に、FcγRIへの結合についての所定の抗体又はその断片のEC50(半数結合シグナル効果濃度)が、FcγRIIbへの結合についての同一の抗体又はその断片のEC50よりも低いことを意味する、「ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRIに対してより高い親和性」に対しても同様に適用される。換言すれば、より低い濃度の抗体(又はその断片)が、FcγRIIbへの半数結合よりもFcγRIへの半数結合に必要とされる。例えば、FcγRI/FcγRIIb比(これは、抗体がヒトFcγRIIbに対してよりも高い親和性でヒトFcγRIに結合する場合、>1)は、EC50(FcγRIIb)/EC50(FcγRI)によって決定されうる。EC50値は、例えば、標準的酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定されうる。あるいは、抗体又はその断片の結合親和性は、例えばRichards JO, Karki S, Lazar GA, Chen H, Dang W, Desjarlais JR (2008) Optimization of antibody binding to FcgammaRIIa enhances macrophage phagocytosis of tumor cells. Mol Cancer Ther 7:2517-2527)に記載されているような、表面プラズモン共鳴測定によってもまた決定されうる。一般に、FcγRI及びFcγRIIbに対する抗体又はその断片の結合親和性は、当業者に知られている様々な方法によって決定されうる。しかし、所定の抗体又はその断片の、FcγRI及びFcγRIIbに対する結合親和性は、特に、FcγRI及びFcγRIIb結合親和性を決定するために同じ方法を使用することによって得られる。
これは、特に、FcγRIIIへの結合についての所定の抗体又はその断片のEC50(半数結合シグナル効果濃度)が、FcγRIIbへの結合についての同一の抗体又はその断片のEC50よりも低いことを意味する、「ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRIIIに対してより高い親和性」に対しても同様に適用される。換言すれば、より低い濃度の抗体(又はその断片)が、FcγRIIbへの半数結合よりもFcγRIIIへの半数結合に必要とされる。例えば、FcγRIII/FcγRIIb比(これは、抗体がヒトFcγRIIbに対してよりも高い親和性でヒトFcγRIIIに結合する場合、>1)は、EC50(FcγRIIb)/EC50(FcγRIII)によって決定されうる。EC50値は、例えば、標準的酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定されうる。あるいは、抗体又はその断片の結合親和性は、例えばRichards JO, Karki S, Lazar GA, Chen H, Dang W, Desjarlais JR (2008) Optimization of antibody binding to FcgammaRIIa enhances macrophage phagocytosis of tumor cells. Mol Cancer Ther 7:2517-2527)に記載されているような、表面プラズモン共鳴測定によってもまた決定されうる。一般に、FcγRIII及びFcγRIIbに対する抗体又はその断片の結合親和性は、当業者に知られている様々な方法によって決定されうる。しかし、所定の抗体又はその断片の、FcγRIII及びFcγRIIbに対する結合親和性は、特に、FcγRIII及びFcγRIIb結合親和性を決定するために同じ方法を使用することによって得られる。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIのための結合部位を含み、抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRIに対してより高い親和性で結合する。本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγIIIのための結合部位を含み、抗体又はその抗原結合断片はヒトFcγRIIbに対してよりヒトFcγRIIIに対してより高い親和性で結合することがまた好ましい。最も好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIIaのための結合部位を含み、抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRIIaに対してより高い親和性で結合する。
特に、改善されたFcγRIIa/FcγRIIb結合比は、抗体依存性細胞貪食を強く増加させ(ADCP; Richards JO, Karki S, Lazar GA, Chen H, Dang W, Desjarlais JR (2008) Optimization of antibody binding to FcgammaRIIa enhances macrophage phagocytosis of tumor cells. Mol Cancer Ther 7:2517-2527)、腫瘍免疫の誘導に正の効果を伴うDCの活性化及び成熟に有利に作用する(Boruchov AM, Heller G, Veri MC, Bonvini E, Ravetch JV, Young JW (2005) Activating and inhibitory IgG Fc receptors on human DCs mediate opposing functions. J Clin Invest 115:2914-2923; Kalergis AM, Ravetch JV (2002) Inducing tumor immunity through the selective engagement of activating Fcgamma receptors on dendritic cells. J Exp Med 195:1653-1659)。特に、Richards等(2008)は、ヒトFcγRIIbに対してよりも高い親和性でヒトFcγRIIaに結合する抗体が、マクロファージによる抗体被覆標的細胞の増強された食作用を媒介することを示した(Richards JO, Karki S, Lazar GA, Chen H, Dang W, Desjarlais JR (2008) Optimization of antibody binding to FcgammaRIIa enhances macrophage phagocytosis of tumor cells. Mol Cancer Ther 7:2517-2527)。従って、ヒトFcγRIIbに対してよりも高い親和性でヒトFcγRIIaに結合する、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、腫瘍細胞の増強されたマクロファージ食作用を惹起させる。好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRIIbに対するよりもヒトFcγRIIaのR131型に、より高い親和性で結合する。
ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRIIaに対してより高い親和性を有する例示的な抗体は、当該技術分野で知られている。例えば、Richards等(2008)は、FcγRIIa/FcγRIIb比のかなりの増加を導く、G236A置換を含むIgG1の変異体を記載している(Richards JO, Karki S, Lazar GA, Chen H, Dang W, Desjarlais JR (2008) Optimization of antibody binding to FcgammaRIIa enhances macrophage phagocytosis of tumor cells. Mol Cancer Ther 7:2517-2527)。更に、Lindhofer等(2011)は、高FcγRIIa/FcγRIIb比をまた示し(Lindhofer H, Hess J, Ruf P. Trifunctional TriomabR antibodies for cancer therapy. In: Kontermann RE (編), Bispecific antibodies. Springer, Berlin, 2011, p. 289-312)、よってマクロファージによる抗体被覆標的細胞の貪食作用の増強と腫瘍細胞の直接死滅の増加を示す、マウスIgG2a/ラットIgG2b Fc領域を有するトリオマブ(Triomab(登録商標))抗体を記載している。
単にFcγRI、FcγRIIa又はFcγRIII結合部位が十分であるが、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片はFc部分、特にFc領域を含むことが好ましい。
ここで使用される場合、「Fc部分」という用語は、パパイン切断部位の直ぐ上流のヒンジ領域で始まり、免疫グロブリン重鎖のC末端で終わる免疫グロブリン重鎖の部分に由来する配列を指す。特に、「Fc部分」は、FcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位を含む。好ましくは、「Fc部分」はFcγRIIaのための結合部位を含む。しかしながら、Fc部分がFc受容体への結合とは異なる機能性、例えば補体系のタンパク質への結合を媒介しうることがまた好ましい。この場合、FcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII結合部位が、Fc部分と離れて抗体中に存在しうる。従って、「Fc部分」は、完全なFc領域又はその一部(例えば、ドメイン)でありうる。好ましくは、「Fc部分」は完全なFc領域の完全な機能性を媒介し、例えばFc受容体結合性と、場合によっては補体系由来のタンパク質への結合性を含む。従って、本発明に従って使用される抗体は、好ましくは完全なFc領域を含み、完全なFc領域は、少なくともヒンジドメイン、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む。Fc部分はまた天然に生じるFc領域と比較して一又は複数のアミノ酸の挿入、欠失、又は置換を含んでいてもよい。例えば、ヒンジドメイン、CH2ドメイン又はCH3ドメイン(又はその一部)の少なくとも一つが欠失されていてもよい。例えば、Fc部分は、(i)CH2ドメイン(又はその一部)に融合されたヒンジドメイン(又はその一部)、(ii)CH3ドメイン(又はその一部)に融合されたヒンジドメイン(又はその一部)、(iii)CH3ドメイン(又はその一部)に融合されたCH2ドメイン(又はその一部)、(iv)ヒンジドメイン(又はその一部)、(v)CH2ドメイン(又はその一部)、又は(vi)CH3ドメイン又はその一部を含むか、又はこれらからなっていてもよい。好ましくは、Fc部分はG236A置換を含む。
好ましくは、抗体又はその断片のFc部分/Fc領域は、好ましくは少なくともFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII、より好ましくは少なくともFcγRIIaを発現するFc受容体陽性細胞に結合する。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体(又はその断片)におけるヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位(特にFc部分)はマウスIgG2a/ラットIgG2bである。これは、ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIへの結合に寄与する抗体(又はその断片)の部分がマウスIgG2a及び/又はラットIgG2b配列であることを意味する。特に、抗体(又はその断片)は、マウスIgG2a及び/又はラットIgG2bのヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位(特にFc部分)を含む。マウスIgG2a及びラットIgG2bが、ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位(特にFc部分)を含むことは、ヒトにおける使用が認可されているよく知られている抗体、例えばカツマキソマブがマウスIgG2a/ラットIgG2bのFc部分を含むので、当業者にはよく知られている。従って、例えばここに記載の異種抗体によって提供されるように、両方の組み合わせ((i)マウスIgG2aの、ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位、特にFc部分と(ii)ラットIgG2bの、ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位、特にFc部分)が好ましい。最も好ましくは、抗体又はその断片は、マウスIgG2a/ラットIgG2b Fc領域を含む。これは、特に、抗体のFc領域が、(i)マウスIgG2a Fc領域鎖と(ii)ラットIgG2b Fc領域鎖からなることを意味する。特に、抗体の一方の(重)鎖はマウスIgG2a重鎖のFc領域を含み、抗体の他方の(重)鎖はラットIgG2b重鎖のFc領域を含み、両方が一緒になってここに記載の抗体のFc領域(「マウスIgG2a/ラットIgG2b Fc領域」と称する)を形成する。このような抗体は、活性化FcγRIIaに対しては選択的に増強された結合を示すが、その阻害性対応物であるFcγRIIbに対しては示さない(Lindhofer H, Hess J, Ruf P. Trifunctional Triomab(登録商標) antibodies for cancer therapy. In: Kontermann RE (編), Bispecific antibodies. Springer, Berlin, 2011, p. 289-312)。
[抗体フォーマット]
本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、上記のような少なくとも二つの特異性と上記のようなFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIII結合部位を含んでいる限り、任意の抗体フォーマットのものでありうる。特に、多機能抗体は好ましくは全IgG又はIgG様分子のような「全」抗体を包含するが、本発明の文脈における抗原結合断片は、好ましくは、小さい組換えフォーマット、例えばタンデム単鎖可変断片分子(taFv)、ダイアボディ(Db)、単鎖ダイアボディ(scDb)及びこれらの様々な他の誘導体(Byrne H.等 (2013) Trends Biotech, 31 (11): 621-632、図2が様々な二重特異性抗体フォーマットを示す;Weidle U.H.等 (2013) Cancer Genomics and Proteomics 10: 1-18、特に図1;及びChan, A.C. and Carter, P.J. (2010) Nat Rev Immu 10: 301-316、特に図3に記載)を指す。好ましい例には、限定されないが、トリオマブ及びクアドローマ抗体が含まれる。
従って、本発明に係る使用のための抗体又はスカフォールド構造又はその抗原結合断片は、トリオマブ;ハイブリッドハイブリドーマ(クアドローマ);多重特異性アンチカリンプラットフォーム(Pieris);ダイアボディ;単鎖ダイアボディ;タンデム単鎖Fv断片;TandAb、三重特異性Ab(Affimed)(105〜110kDa);Darts(二重親和性リターゲティング;Macrogenics);多機能組換え抗体誘導体(110kDa);ドックアンドロックプラットフォーム;ノブ・イントゥ・ホール(KIH)プラットフォーム;ヒト化二重特異性IgG抗体(REGN1979)(Regeneron);Mab2二重特異性抗体(F−Star);DVD−Ig=二重可変ドメイン免疫グロブリン(Abbvie);カッパ−ラムダボディ;TBTI=四価二重特異性タンデムIg;及びCrossMabを含む群から選択されうる。
本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、CrossMabを含む二重特異性IgG様抗体(BsIgG);DAF(ツー・イン・ワン);DAF(フォー・イン・ワン);DutaMab;DT−IgG;ノブ・イン・ホール共通LC;ノブ・イン・ホール・アセンブリ;電荷対(Charge pair);Fab−アーム交換;SEEDbody;トリオマブ;LUZ−Y;Fcab;κλ−ボディ;及び直交Fabから選択されうる。これらの二重特異性抗体フォーマットは、例えば、Spiess C., Zhai Q.及びCarter P.J. (2015) Molecular Immunology 67: 95-106、特に図1と対応する説明、例えばp95〜101に示され記載されている。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、DVD−IgG;IgG(H)−scFv;scFv−(H)IgG;IgG(L)−scFv;scFV−(L)IgG;IgG(L,H)−Fv;IgG(H)−V;V(H)−IgG;IgG(L)−V;V(L)−IgG;KIH IgG−scFab;2scFv−IgG;IgG−2scFv;scFv4−Ig;scFv4−Ig;Zybody;及びDVI−IgG(フォー・イン・ワン)を含む更なる抗原結合部分を有するIgG付加(IgG−appended)抗体から選択されうる。これらの二重特異性抗体フォーマットは、例えば、Spiess C., Zhai Q.及びCarter P.J. (2015) Molecular Immunology 67: 95-106、特に図1と対応する説明、例えばp95〜101に示され記載されている。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、scDiabody−CH3;ダイアボディ−CH3;ミニボディ;TriBiミニボディ;scFv−CH3 KIH;scFv−KIH;Fab−scFv−Fc;四価HCAb;scDiabody−Fc;ダイアボディ−Fc;タンデムscFv−Fc;及びイントラボディを含む二重特異性抗体断片から選択されうる。これらの二重特異性抗体フォーマットは、例えば、Spiess C., Zhai Q.及びCarter P.J. (2015) Molecular Immunology 67: 95-106、特に図1と対応する説明、例えばp95〜101に示され記載されている。
特に、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、IgG−IgG及びCov−X−Bodyを含む二重特異性抗体コンジュゲートから選択されうる。これらの二重特異性抗体フォーマットは、例えば、Spiess C., Zhai Q.及びCarter P.J. (2015) Molecular Immunology 67: 95-106、特に図1と対応する説明、例えばp95〜101に示され記載されている。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、二重特異性三機能抗体である。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、IgG様フォーマット(IgGに基づく、「IgGタイプ」とも呼ばれる)を有し、ここでIgG様フォーマットを有する抗体は通常二つの重鎖と二つの軽鎖を含む。一般に、免疫グロブリンG(IgG)は抗体の一タイプとして知られている。ここでは、四つのペプチド鎖−抗体モノマーに典型的なY字型に配置された二つの同一の重鎖と二つの同一の軽鎖からなるタンパク質複合体として理解される。各IgGは、典型的には二つの抗原結合部位を有し、これは異なっていても同一であってもよい。ヒトにおける血清抗体の約75%であり、IgGは、循環中に見出される最も一般的なタイプの抗体である。生理学的には、IgG分子はプラズマB細胞によって生成され、放出される。
IgG様フォーマットを有する抗体の例は、クアドローマ及び様々なIgG−scFvフォーマット(Byrne H.等 (2013) Trends Biotech, 31 (11): 621-632;図2A〜Eを参照)を含み、好ましくは二つの異なるハイブリドーマの融合によって生成されるクアドローマが好ましい。IgGクラス内において、抗体は、好ましくはIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブクラスに基づくことができ、IgG1クラス(また「IgG1型」とも呼ばれる)又はIgG2(「IgG2型」とも呼ばれる)に基づく抗体が好ましい。本発明に係る使用のための多機能抗体又は抗原結合断片は、あるいは任意の免疫グロブリンクラス(例えば、IgA、IgG、IgMなど)及びサブクラス(例えば、IgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4など)に基づいてもよい。
好ましい二重特異性IgG様抗体フォーマットは、例えば、ハイブリッドハイブリドーマ(クアドローマ)、共通の軽鎖を有するノブ・イントゥ・ホール、様々なIgG−scFvフォーマット、様々なscFv−IgGフォーマット、ツー・イン・ワンIgG、2重VドメインIgG、IgG−V、及びV−IgGを含み、これらは、例えば、Chan, A.C.及びCarter, P.J. (2010) Nat Rev Immu 10: 301-316の図3cに示され、前記論文に記載されている。更に好ましい二重特異性IgG様抗体フォーマットには、例えば、DAF、CrossMab、IgG−dsscFv、DVD、IgG−dsFV、IgG−scFab、scFab−dsscFv及びFv2−Fcが含まれ、これらは、Weidle U.H.等 (2013) Cancer Genomics and Proteomics 10: 1 - 18の図1Aに示され、前記論文に記載されている。更に好ましい二重特異性IgG様抗体フォーマットには、例えば、Spiess C., Zhai Q.及びCarter P.J. (2015) Molecular Immunology 67: 95-106、特に図1と対応する説明、例えばp95〜101に示され記載されたような、DAF(ツー・イン・ワン);DAF(フォー・イン・ワン);DutaMab;DT−IgG;ノブ・イン・ホール・アセンブリ;電荷対;Fab−アーム交換;SEEDbody;トリオマブ;LUZ−Y;Fcab;κλ−ボディ;直交Fab;DVD−IgG;IgG(H)−scFv;scFv−(H)IgG;IgG(L)−scFv;scFV−(L)IgG;IgG(L,H)−Fv;IgG(H)−V;V(H)−IgG;IgG(L)−V;V(L)−IgG;KIH IgG−scFab;2scFv−IgG;IgG−2scFv;scFv4−Ig;scFv4−Ig;Zybody;及びDVI−IgG(フォー・イン・ワン)が含まれる。
一般に、抗体の産生方法は当該分野で知られている。ヒト、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ又はヒツジなどの哺乳動物由来のモノクローナル抗体は、例えば、Kohler及びMilstein(Nature 256 (1975), 495)、Harlow 及びLane(Antibodies, A Laboratory Manual (1988), Cold Spring Harbor)又はGalfie (Meth. Enzymol. 73 (1981), 3)又はDE19531346に記載されている一般的な方法によって産生されうる。特に、本発明に係る使用のための多機能抗体又はその抗原結合断片は、三通りの主な方法によって製造することができる:(i)化学的架橋を含む化学的結合;(ii)二つの異なるハイブリドーマ細胞株の融合(例えば、Milstein等, Nature 305 (1983), 537に記載);又は(iii)組換えDNA技術を含む遺伝的アプローチ(例えば、Kurucz等, J. Immunol. 154 (1995), 4576;Holliger等, Proc. Natl. Acad. Sc. USA 90 (1993), 6444に記載)。
好ましくは、抗体は、二つの異なるハイブリドーマ細胞株の融合によって得ることができる(例えば、Milstein等, Nature 305 (1983), 537に記載)。そこでは、所望の特異性の一つを有する抗体をそれぞれが産生する異なるハイブリドーマ細胞株が融合され、異種抗体集団を産生する細胞クローン(「クアドローマ」)のなかで所望の多機能抗体を分泌するクアドローマ(すなわち「ハイブリッド−ハイブリドーマ」)が同定され、単離されうる。
代替アプローチには、二つの異なるmAb及び/又はより小さい抗体断片の化学的結合が含まれる。二つの異なる抗体又は抗体断片を連結する酸化的再結合方略は、複数の天然ジスルフィド結合の再酸化の間に副反応があるため非効率的であることが分かった。化学的結合のための現在の方法は、ホモ又はヘテロ二官能性架橋試薬の使用に焦点が当てられている。
組換えDNA技術は、遺伝子の人為的操作により、最も多岐にわたる多機能抗体を産生しており、抗体産生のための最も多様なアプローチである(Byrne H.等 (2013) Trends Biotech, 31 (11): 621-632を参照)。従って、多機能抗体は、特に、組換えDNA技術又は(ハイブリッド)ハイブリドーマ技術によって得られる。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、異種抗体又は異種抗体断片である。ここで使用される場合、「異種」という用語は、抗体又はその抗原結合断片が、別個の免疫グロブリンサブクラス(例えば、ヒトにおけるIgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4;例えば、マウス及びラットにおけるIgG1、IgG2a、IgG2b、及びIgG3)及び/又は別個の起源(種)のものである。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ラット及び/又はマウスに由来する重鎖を含む。ラット及び/又はマウスに「由来する」とは、特に、重鎖のCH3部分の抗体のアミノ酸配列、好ましくは重鎖のFc領域の抗体のアミノ酸配列が、ラット及び/又はマウス免疫グロブリン重鎖のCH3部分又はFc領域と、それぞれ少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、更により好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは100%の配列同一性を共有することを意味する。
従って、ラット及び/又はマウスに「由来する」抗体は、また、ラット及び/又はマウス免疫グロブリン重鎖とそれらの全長にわたって少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、更により好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは100%の配列同一性を共有する重鎖を含む抗体を含む。更に、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ラット及び/又はマウス抗体又は抗原結合断片であることがまた好ましい。これは、抗体又は抗原結合断片に含まれる全ての重鎖及び軽鎖が、ラット及び/又はマウス免疫グロブリン重鎖又は軽鎖と、それぞれ、少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、更により好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは100%の配列同一性を共有することを意味する。
しかしながら、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、好ましくはヒト対象における使用のためであるので、(ヒト)T細胞表面抗原に対する特異性と(ヒト)がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性を確保するために、重鎖(及び軽鎖)可変領域の少なくとも三つのCDR(相補性決定領域)及び/又はフレームワーク領域がヒト起源又はヒト化型であることが好ましい。従って、本発明に係る使用のための好ましい抗体又はその抗原結合断片は、(i)ラット及び/又はマウス免疫グロブリン重鎖のそれぞれのCH3部分又はFc領域と少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、更により好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは100%の配列同一性を共有するCH3部分、好ましくはFc領域を有する重鎖を含み;かつ(ii)重鎖可変領域の少なくとも三つのCDR(相補性決定領域)及び/又はフレームワーク領域がヒト由来又はヒト化型である。より好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片の重鎖の両方は、(i)ラット及び/又はマウス免疫グロブリン重鎖のそれぞれのCH3部分又はFc領域と少なくとも95%、好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも98%、更により好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは100%の配列同一性を共有するCH3部分、好ましくはFc領域を有し;かつ(ii)重鎖可変領域の少なくとも三つのCDR(相補性決定領域)及び/又はフレームワーク領域がヒト由来又はヒト化型である。加えて、軽鎖可変領域の少なくとも三つのCDR(相補性決定領域)及び/又はフレームワーク領域もまた好ましくはヒト由来又はヒト化型である。
抗体がラット/マウス抗体又はその抗原結合断片であることが特に好ましい。ここで使用される場合、「ラット/マウス抗体」という用語は、
(a)重鎖可変領域の三つのCDR及び/又はフレームワーク領域がヒト起源又はヒト化型である点でのみラット(重)鎖と異なる(重)鎖(すなわち、CDR及び/又はフレームワーク領域以外の全ての配列がラット(重)鎖配列である);及び
(b)重鎖可変領域の三つのCDR及び/又はフレームワーク領域がヒト由来であるか又はヒト化型である点でのみマウス(重)鎖と異なる(重)鎖(すなわち、CDR及び/又はフレームワーク領域以外の全ての配列がマウス(重)鎖配列である)
を含む抗体を指す。
最も好ましくは、抗体は、マウスIgG2a/ラットIgG2b抗体、又はその抗原結合断片である。ここで使用される場合、「マウスIgG2a/ラットIgG2b抗体」という用語は、
(a)重鎖可変領域の三つのCDR及び/又はフレームワーク領域がヒト起源又はヒト化型である点でのみラットIgG2b(重)鎖と異なる(重)鎖(すなわち、CDR及び/又はフレームワーク領域以外の全ての配列がラットIgG2b(重)鎖配列である);及び
(b)重鎖可変領域の三つのCDR及び/又はフレームワーク領域がヒト起源又はヒト化型である点でのみマウスIgG2a(重)鎖と異なる(重)鎖(すなわち、CDR及び/又はフレームワーク領域以外の全ての配列がマウスIgG2a(重)鎖配列である)
を含む抗体を指す。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、次のアイソタイプ組み合わせの一又は複数から選択される(ここで、各アイソタイプ/組み合わせは、特に、少なくともCDR及び/又はフレームワーク領域、好ましくは可変領域が、好ましくは、ヒト起源であるか又はヒト化型である−アイソタイプがラット/マウスのみを指す場合でさえも):
− ラット−IgG2b/マウス−IgG2a、
− ラット−IgG2b/マウス−IgG2b、
− ラット−IgG2b/マウス−IgG3、
− ラット−IgG2b/ヒト−IgG1、
− ラット−IgG2b/ヒト−IgG2、
− ラット−IgG2b/ヒト−IgG3[オリエンタルアロタイプG3m(st)=プロテインAへの結合]、
− ラット−IgG2b/ヒト−IgG4、
− ラット−IgG2b/ラット−IgG2c、
− マウス−IgG2a/ヒト−IgG3[白人アロタイプG3m(b+g)=プロテインAに結合せず、次に*で標識]、
− マウスIgG2a/マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒトIgG3*−[CH2−CH3]、
− マウスIgG2a/ラット−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒトIgG3*−[CH2−CH3]、
− マウスIgG2a/ヒト−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG3*−[CH2−CH3]、
− マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1/ラット−[VH−CH1,VL−CL]−ヒトIgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG3*−[CH2−CH3]、
− マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG4/ラット−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG4−[ヒンジ]−ヒト−IgG4[CH2のN末端領域]−ヒト−IgG3*[CH2のC末端領域:>アミノ酸位置251]−ヒト−IgG3*[CH3]、
− ラット−IgG2b/マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ−CH2−CH3]、
− ラット−IgG2b/マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG2−[ヒンジ−CH2−CH3]、
− ラット−IgG2b/マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG3−[ヒンジ−CH2−CH3,オリエンタルアロタイプ]、
− ラット−IgG2b/マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG4−[ヒンジ−CH2−CH3]、
− ヒト−IgG1/ヒト−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG3*[CH2−CH3]、
− ヒト−IgG1/ラット−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG4[CH2のN末端領域]−ヒト−IgG3*[CH2のC末端領域:>アミノ酸位置251]−ヒト−IgG3*[CH3]、
− ヒト−IgG1/マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG4[CH2のN末端領域]−ヒト−IgG3*[CH2のC末端領域:>アミノ酸位置251]−ヒト−IgG3*[CH3]、
− ヒト−IgG1/ラット−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG2[CH2のN末端領域]−ヒト−IgG3*[CH2のC末端領域:>アミノ酸位置251]−ヒト−IgG3*[CH3]、
− ヒト−IgG1/マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG2[CH2のN−末端領域]−ヒト−IgG3*[CH2のC末端領域:>アミノ酸位置251]−ヒト−IgG3*[CH3]、
− ヒト−IgG1/ラット−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG3*−[CH2−CH3]、
− ヒト−IgG1/マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG3*−[CH2−CH3]、
− ヒト−IgG2/ヒト−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG2−[ヒンジ]−ヒト−IgG3*−[CH2−CH3]、
− ヒト−IgG4/ヒト−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG4−[ヒンジ]−ヒト−IgG3*−[CH2−CH3]、
− ヒト−IgG4/ヒト−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG4−[ヒンジ]−ヒト−IgG4[CH2のN末端領域]−ヒト−IgG3*[CH2のC末端領域:>アミノ酸位置251]−ヒト−IgG3*[CH3]、
− マウス−IgG2b/ラット−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG3*−[CH2−CH3]、
− マウス−IgG2b/ヒト−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG3*[CH2−CH3]、
− マウス−IgG2b/マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒト−IgG3*−[CH2−CH3]、
− マウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG4/ラット−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG4−[ヒンジ]−ヒト−IgG4−[CH2]−ヒト−IgG3*CH3]、
− ヒト−IgG1/ラット[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1[ヒンジ]−ヒト−IgG4[CH2]−ヒト−IgG3*[CH3]、
− ヒト−IgG1/マウス[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1[ヒンジ]−ヒト−IgG4−[CH2]−ヒト−IgG3*[CH3]、及び
− ヒト−IgG4/ヒト[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG4−[ヒンジ]−ヒト−IgG4−[CH2]−ヒトIgG3*−[CH3]。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγIIのための結合部位、特にFc領域を含むIgG型(「IgG様」とも呼ばれる)抗体である。より好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位、特にFc領域を含む異種ラット/マウス抗体である三機能二重特異性抗体である。それにより、マウスIgG2a及びラットIgG2bのサブクラスの組み合わせを有する抗体が好ましい。ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位、特にFc領域を含み、マウスIgG2a及びラットIgG2bサブクラスからなる重鎖を有し、各々が好ましくはそのそれぞれの軽鎖を有する異種ラット/マウス抗体が特に好ましい。
ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位、特にFc領域を含み、マウスIgG2a及びラットIgG2bサブクラスからなる重鎖を有する抗体について、特にトリオマブフォーマットの抗体について、そのような抗体がヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRIIaに対してより高い親和性で結合し、かなり改善されたFcγRIIa/FcγRIIb結合比を示すことが示された(Lindhofer H, Hess J, Ruf P. Trifunctional Triomab(登録商標) antibodies for cancer therapy. In: Kontermann RE (編), Bispecific antibodies. Springer, Berlin, 2011, p. 289-312)。従って、そのような抗体は、マクロファージによる抗体被覆腫瘍細胞の貪食作用の増強及び腫瘍細胞の直接的死滅の増加をもたらす。従って、そのような抗体が特に好ましい。
一般に、本発明に係る使用のための多機能抗体はそのFc領域における次のアイソタイプの組み合わせの一つを好ましくは示す:ラット−IgG2b/マウス−IgG2a、ラット−IgG2b/マウス−IgG2b、ラット−IgG2b/ヒト−IgG1、又はマウス−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1/ラット−[VH−CH1,VL−CL]−ヒト−IgG1−[ヒンジ]−ヒトIgG3*−[CH2−CH3](ここで、*=白人アロタイプG3m(b+g)=プロテインAに結合なし)。
最も好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、トリオマブフォーマットである。トリオマブは、CD3に対する特異性とがん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性とを有する三機能の二重特異性IgG様抗体である。これらのキメラは、親マウスIgG2aとラットIgG2bアイソタイプに由来する、各々が一つの軽鎖と一つの重鎖を有する二つの半抗体からなる。従って、トリオマブのFc領域はマウスIgG2a/ラットIgG2bである。
好ましくは、本発明に係る使用のための抗体又はその抗原結合断片は、カツマキソマブ(抗CD3×抗EpCAM)、FBTA05/リンホマン(lymphomun)(抗CD3×抗CD20)、エルツマキソマブ(ertumaxomab)(抗CD3×抗HER2/neu)、及び/又はエクトマン(ektomun)(抗CD3×抗GD2)であり、好ましくは、抗体は、カツマキソマブ及び/又はエクトマンである。
三機能二重特異性抗体の最も好ましい例は、カツマキソマブ(レモバブ(Removab)(登録商標))(抗EpCAM×抗CD3)である。レモバブ(登録商標)はEMAによって2009年に悪性腹水の治療のために承認された(Linke等 Catumaxomab - clinical development and future directions. (2010) mAbs 2:2)。三機能二重特異性抗体の更に好ましい例には、(i)FBTA05(「リンホマン」とも呼ばれる)、三機能抗CD3×抗CD20抗体、(ii)エルツマキソマブ,三機能抗CD3×抗HER2抗体、(iii)エクトマン,三機能抗CD3×抗GD2抗体、及び(iv)TRBs02,ヒトメラノーマに特異的な三機能抗体(Ruf等 (2004) Int J Cancer, 108: 725-732)が含まれる。
[免疫チェックポイントモジュレーター]
ここで使用される場合(すなわち、本明細書を通して)、「免疫チェックポイントモジュレーター」(「チェックポイントモジュレーター」とも呼ばれる)という用語は、一又は複数のチェックポイント分子の機能を調節する(例えば、完全に又は部分的に減少させ、阻害し、妨害し、活性化し、刺激し、増加させ、強化し又は支持する)分子又は化合物を指す。従って、免疫チェックポイントモジュレーターは、「免疫チェックポイント阻害剤」(「チェックポイント阻害剤」又は「阻害剤」とも呼ばれる)又は「免疫チェックポイント活性化剤」(「チェックポイント活性化剤」又は「活性化剤」とも呼ばれる)でありうる。「免疫チェックポイント阻害剤」(「チェックポイント阻害剤」又は「阻害剤」とも呼ばれる)は、一又は複数のチェックポイント分子の機能を完全に又は部分的に減少させ、阻害し、妨害し、又は負に調節する。「免疫チェックポイント活性化剤」(「チェックポイント活性化剤」又は「活性化剤」とも呼ばれる)は、一又は複数のチェックポイント分子の機能を完全に又は部分的に活性化し、刺激し、増加させ、強化し、支持し、又は正に調節する。免疫チェックポイントモジュレーターは、典型的には、(i)自己寛容及び/又は(ii)免疫応答の振幅及び/又は持続時間を調節することができる。好ましくは、本発明に従って使用される免疫チェックポイントモジュレーターは、一又は複数のヒトチェックポイント分子の機能を調節し、従って、「ヒトチェックポイントモジュレーター」である。好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターは、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR、ICOS、A2AR、B7−H3、B7−H4、BTLA(CD272)、CD40、CTLA−4、IDO、KIR、LAG3、PD−1、PD−L1、PD−L2、TIM−3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、GITR、TNFR及び/又はFasR/DcR3から選択される一又は複数の免疫チェックポイント分子の活性化剤又は阻害剤;又はその一又は複数のリガンドの活性化剤又は阻害剤である。
チェックポイント分子(「免疫チェックポイント分子」又は「免疫チェックポイント」とも呼ばれる)は、典型的には免疫経路に関与し、例えばT細胞活性化、T細胞増殖及び/又はT細胞機能を調節する分子、例えばタンパク質である。従って、チェックポイントモジュレーターによって調節される(例えば、完全に又は部分的に減少させられ、阻害され、妨害され、活性化され、刺激され、増加させられ、強化され、又は支持される)免疫チェックポイント分子の機能は、典型的には、T細胞活性化、T細胞増殖及び/又はT細胞機能(の調節)である。よって、免疫チェックポイント分子は、自己寛容及び生理学的免疫応答の持続時間及び振幅を調節し維持する。免疫チェックポイント分子の多くは、B7:CD28ファミリー又は腫瘍壊死因子受容体(TNFR)スーパーファミリーに属し、特異的リガンドに結合することにより、細胞質ドメインに補充されるシグナル伝達分子を活性化する(Suzuki Suzuki等, 2016:Current status of immunotherapy. Japanese Journal of Clinical Oncology, 2016: doi: 10.1093/jjco/hyv201 [Epub出版前];特に表1を参照)。
B7:CD28ファミリーは、CTLA−4−B7−1/B7−2経路とPD−1−B7−H1(PDL1)/B7−DC(PD−L2)経路を含む免疫チェックポイント研究における最も頻繁に標的化される経路を含む。このファミリーの別のメンバーはICOS−ICOSL/B7−H2である。そのファミリーの更なるメンバーには、CD28、B7−H3及びB7−H4が含まれる。
CD28は、ほぼ全てのヒトCD4+T細胞上と全てのCD8T細胞の約半分上に恒常的に発現される。その二つのリガンドと結合するのは、樹状細胞上に発現されるCD80(B7−1)及びCD86(B7−2)であり、T細胞増殖を促す。共刺激チェックポイント分子CD28は、同じリガンドCD80及びCD86について阻害性チェックポイント分子CTLA4と競合する(Buchbinder E. I.及びDesai A., 2016: CTLA-4 and PD-1 Pathways - Similarities, Differences and Implications of Their Inhibition; American Journal of Clinical Oncology, 39(1): 98-106を参照)。
細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA4;CD152としても知られる)は、B7に対する結合親和性が更に高いCD28ホモログである。CTLA−4のリガンドは、CD28と同様に、CD80(B7−1)及びCD86(B7−2)である。しかし、CD28とは異なり、CTLA4のB7への結合は刺激性シグナルを生成しないが、通常はCD28によって提供される共刺激性シグナルを妨げる。更に、B7へのCTLA4結合は、CD28:B7及びTCR:MHC結合の刺激性シグナルに対抗する阻害性シグナルを生成するとさえ仮定されている。CTLA−4は、典型的にはリンパ節において、ナイーブT細胞活性化の初期段階で潜在的自己反応性T細胞を停止させるので、阻害性免疫チェックポイントの「リーダー」と考えられている(Buchbinder E. I.及びDesai A., 2016: CTLA-4 and PD-1 Pathways: Similarities, Differences and Implications of Their Inhibition; American Journal of Clinical Oncology, 39(1): 98-106)。CTLA4の好ましいチェックポイント阻害剤には、モノクローナル抗体ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ(Ipilimumab);Bristol Myers Squibb)及びトレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)が含まれる。更に好ましいCTLA−4阻害剤には、国際公開第2001/014424号、国際公開第2004/035607号、米国特許出願公開第2005/0201994号及び欧州特許第1212422B1号に開示された抗CTLA4抗体が含まれる。更なる好ましいCTLA−4抗体は、米国特許第5811097号、米国特許第5855887号、米国特許第6051227号、米国特許第6984720号、国際公開第01/14424号、国際公開第00/37504号、米国特許出願公開第2002/0039581号及び米国特許出願公開第2002/086014号に記載されている。本発明の文脈において使用されうる他の好ましい抗CTLA−4抗体には、例えば、国際公開第98/42752号;米国特許第6682736号及び米国特許第6207156号;Hurwitz等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95(17):10067-10071 (1998);Camacho等, J. Clin. Oncology, 22(145):Abstract No. 2505 (2004) (抗体CP-675206);Mokyr等, Cancer Res., 58:5301-5304 (1998)、米国特許第5977318号、米国特許第6682736号、米国特許第7109003号、及び米国特許第7132281号に記載されているものが含まれる。本発明の文脈において、CTLA−4は特に好ましいチェックポイント分子である。
プログラム死1受容体(PD1)はPD−L1(B7−H1及びCD274としても知られている)とPD−L2(B7−DC及びCD273としても知られる)の二つのリガンドを有する。PD1経路は、主に末梢組織において、免疫応答の後期段階で、以前に活性化されたT細胞を調節する。従って、PD1を標的とする利点は、それが腫瘍微小環境における免疫機能を回復させることができることである。PD1経路の好ましい阻害剤には、オプジーボ(登録商標)(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)、キイトルーダ(登録商標)(ペンブロリズマブ;Merck)、デュルバルマブ(MedImmune/AstraZeneca)、MEDI4736(AstraZeneca;国際公開第2011/066389A1号を参照)、アテゾリズマブ(Atezolizumab)(MPDL3280A,Roche/Genentech;米国特許第8217149B2号を参照)、ピディリズマブ (CT−011;CureTech)、MEDI0680(AMP−514;AstraZeneca)、アベルマブ(Merck)、MSB−0010718C(Merck)、PDR001(Novartis)、BMS−936559(Bristol Myers Squibb)、REGN2810(Regeneron Pharmaceuticals)、MIH1(Affymetrix)、AMP−224(Amplimmune,GSK)、BGB−A317(BeiGene)及びランブロリズマブ(例えば国際公開第2008/156712号;Hamid等, 2013; N. Engl. J. Med. 369: 134-144にhPD109Aとそのヒト化誘導体h409All、h409A16及びh409A17として開示)が含まれる。
誘導性T細胞共刺激因子(ICOS;CD278としても知られている)は、活性化T細胞上に発現される。そのリガンドは、主にB細胞及び樹状細胞に発現されるICOSL(B7−H2;CD275)である。その分子は、T細胞エフェクター機能において重要であるようである。
B7−H3(CD276としても知られている)は、元々は共刺激性分子であると理解されていたが、今では共阻害性とみなされている。B7−H3の好ましいチェックポイント阻害剤は、Fc最適化モノクローナル抗体エノブリツズマブ(Enoblituzumab)(MGA271;MacroGenics;米国特許出願公開第2012/0294796A1号参照)である。
B7−H4(VTCN1としても知られる)は、腫瘍細胞及び腫瘍関連マクロファージによって発現され、腫瘍エスケープに役割を果たす。好ましいB7−H4阻害剤は、Dangaj, D.等, 2013; Cancer Research 73(15): 4820-9及びJenessa B. Smith等, 2014: B7-H4の表1及び各記載に婦人科がんのための免疫療法の潜在的標的として記載された抗体である。B7−H4阻害剤の他の好ましい例には、例えば、国際公開第2013/025779A1号及び国際公開第2013/067492A1号に開示されているヒトB7−H4又は米国特許出願公開第2012/0177645号に開示されているようなB7−H4の可溶性組換え型に対する抗体が含まれる。
TNFスーパーファミリーは、特に、29のサイトカイン受容体に結合する19のタンパク質−リガンドを含む。それらは、アポトーシス、炎症又は細胞生存のような多くの生理学的応答に関与している(Croft, M., C.A. Benedict,及びC.F. Ware, Clinical targeting of the TNF and TNFR superfamilies. Nat Rev Drug Discov, 2013.12(2): p. 147-68)。次のチェックポイント分子/経路ががん適応症に好ましい:TNFRSF4(OX40/0X40L)、TNFRSFS(CD40L/CD40)、TNFRSF7(CD27/CD70)、TNFRSF8(CD30/CD30L)、TNFRSF9(4−1BB/4−1BBL)、TNFRSF10(TRAILR/TRAIL))、TNFRSF12(FN14/TWEAK)、TNFRSF13(BAFFRTACI/APRIL−BAFF)及びTNFRSF18(GITR/GITRL)。更に好ましいチェックポイント分子/経路には、Fasリガンド及びTNFRSF1(TNFα/TNFR)が含まれる。更に、Bリンパ球及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)/ヘルペスウイルス進入メディエーター(HVEM)経路が、CTLA−4遮断と同様に、免疫応答を増強するために好ましい。従って、本発明の文脈において、TNFRSF4(OX40/OX40L)、TNFRSFS(CD40L/CD40)、TNFRSF7(CD27/CD70)、、TNFRSF9(4−1BB/4−1BBL)、TNFRSF18(GITR/GITRL)、FasR/DcR3/Fasリガンド、TNFRSF1(TNFα/TNFR)、BTLA/HVEM及びCTLA4から選択される一又は複数のチェックポイント分子を調節する、そのようなチェックポイントモジュレーターが、がんの治療及び/又は予防における使用のために好ましい。
OX40(CD134又はTNFRSF4としても知られる)は、エフェクター及びメモリーT細胞の増殖を促進するが、T調節細胞の分化及び活性を抑制し、サイトカイン産生を調節することもまたできる。OX40のリガンドはOX40L(TNFSF4又はCD252としても知られる)である。OX40は、T細胞受容体結合後に一過性に発現され、炎症性病変内の最も最近の抗原活性化T細胞上でのみアップレギュレートされる。OX40の好ましいチェックポイントモジュレーターには、MEDI6469(MedImmune/AstraZeneca)、MEDI6383(MedImmune/AstraZeneca)、MEDI0562(MedImmune/AstraZeneca)、MOXR0916(RG7888;Roche/Genentech)及びGSK3174998(GSK)が含まれる。
CD40(TNFRSF5としても知られる)は、抗原提示細胞を含む様々な免疫系細胞によって発現される。そのリガンドは、CD154又はTNFSF5としても知られているCD40Lであり、活性化CD4+T細胞の表面上に一過性に発現される。CD40シグナル伝達は樹状細胞を「ライセンス化して」成熟させ、それによってT細胞の活性化及び分化を誘発する。しかしながら、CD40はまた腫瘍細胞によって発現されうる。従って、がん患者におけるCD40の刺激/活性化は、有益又は有害でありうる。従って、この免疫チェックポイントの刺激性及び阻害性モジュレーターが開発された(Sufia Butt Hassan, Jesper Freddie Sorensen, Barbara Nicola Olsen and Anders Elm Pedersen, 2014: Anti-CD40-mediated cancer immunotherapy: an update of recent and ongoing clinical trials, Immunopharmacology and Immunotoxicology, 36:2, 96-104)。CD40チェックポイントモジュレーターの好ましい例には、(i)Sufia Butt Hassan, Jesper Freddie Sorensen, Barbara Nicola Olsen and Anders Elm Pedersen, 2014: Anti-CD40-mediated cancer immunotherapy: an update of recent and ongoing clinical trials, Immunopharmacology and Immunotoxicology, 36:2, 96-104に記載されたアゴニスト抗CD抗体、例えばダセツズマブ(SGN−40)、CP−870893、FGK4.5/FGK45及びFGK115、好ましくはダセツズマブ、及び(ii)Sufia Butt Hassan, Jesper Freddie Sorensen, Barbara Nicola Olsen and Anders Elm Pedersen, 2014: Anti-CD40-mediated cancer immunotherapy: an update of recent and ongoing clinical trials, Immunopharmacology and Immunotoxicology, 36:2, 96-104に記載されたアンタゴニスト抗CD抗体、例えばルカツムマブ(HCD122,CHIR−12.12)が含まれる。CD40の更に好ましい免疫チェックポイントモジュレーターは、SEA−CD40(Seattle Genetics)、ADC−1013(Alligator Biosciences)、APX005M(Apexigen Inc)及びRO7009789(Roche)を含む。
CD27(TNFRSF7としても知られている)は、ナイーブT細胞の抗原特異的な増殖を支持し、T細胞記憶の生成において重要な役割を果たす。CD27は、またB細胞の記憶マーカーでもある。リンパ球及び樹状細胞上のそのリガンドであるCD70(TNFSF7又はCD27Lとしても知られている)の一過性の利用可能性は、CD27の活性を調節する。更に、CD27共刺激は、Th17エフェクター細胞機能を抑制することが知られている。CD27の好ましい免疫チェックポイントモジュレーターは、バルリルマブ(Celldex)である。CD70の好ましい免疫チェックポイントモジュレーターには、ARGX−110(arGEN−X)及びSGN−CD70A(Seattle Genetics)が含まれる。
CD137(4−1BB又はTNFRSF9としても知られる)は、腫瘍壊死因子(TNF)受容体ファミリーのメンバーであり、活性化T細胞の共刺激活性と益々関連している。特に、CD137シグナル伝達(TNFSF9又は4−1BBLとしても知られているそのリガンドCD137Lを介して)はT細胞増殖をもたらし、T細胞、特にCD8+T細胞を活性化誘導細胞死から保護する。CD137の好ましいチェックポイントモジュレーターには、PF−05082566(Pfizer)及びウレルマブ(BMS)が含まれる。
グルココルチコイド誘発TNFRファミリー関連遺伝子(GITR,TNFRSF18としても知られている)は、Treg増殖を含むT細胞増殖を促す。GITRのリガンド(GITRL,TNFSF18)は、抗原提示細胞上に主に発現される。GITRに対する抗体は、Treg系統の安定性の喪失を通して抗腫瘍応答を促進することが示されている。GITRの好ましいチェックポイントモジュレーターには、BMS−986156(Bristol Myers Squibb)、TRX518(GITR Inc)及びMK−4166(Merck)が含まれる。
調節される別の好ましいチェックポイント分子はBTLAである。B及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA;CD272としても知られている)は、特にCD8+T細胞によって発現され、BTLAの表面発現は、ヒトCD8+T細胞のナイーブからエフェクター細胞表現型への分化の間に徐々にダウンレギュレートされる。しかしながら、腫瘍特異的ヒトCD8+T細胞は高レベルのBTLAを発現する。BTLA発現はT細胞の活性化の間に誘導され、BTLAはTh1細胞上に発現されたままであり、Th2細胞上には発現されない。PD1及びCTLA4と同様に、BTLAはB7ホモログB7H4と相互作用する。しかし、PD−1及びCTLA−4とは異なり、BTLAは、細胞表面受容体のB7ファミリーだけでなく、腫瘍壊死ファミリーレセプター(TNF−R)との相互作用を介してT細胞阻害を示す。BTLAは、ヘルペスウイルス進入メディエーター(HVEM;ヘルペスウイルス侵入メディエーター、CD270としても知られる)としても知られている腫瘍壊死因子(受容体)スーパーファミリー,メンバー14(TNFRSF14)のリガンドである。BTLA−HVEM複合体は、T細胞免疫応答を負に調節する。好ましいBTLA阻害剤は、Alison Crawford 及びE. John Wherry, 2009: Editorial: Therapeutic potential of targeting BTLA. Journal of Leukocyte Biology 86: 5-8の表1に記載の抗体、特にそのヒト抗体である。ヒトBTLAとそのリガンドとの相互作用を遮断する、この文脈の他の好ましい抗体は、国際公開第2011/014438号に開示されており、例えば、国際公開第2011/014438号に記載されている「4C7」である。
別のチェックポイント分子ファミリーは、主要組織適合複合体(MHC)分子の二つの主要なクラス(MHCクラスI及びクラスII)に関連するチェックポイント分子を含む。このファミリーには、クラスIに対するキラーIg様受容体(KIR)及びクラスIIに対するリンパ球活性化遺伝子3(LAG−3)が含まれる。
キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)は、ナチュラルキラー細胞上のMHCクラスI分子の受容体である。KIRの例示的阻害剤は、モノクローナル抗体リリルマブ(IPH2102;Innate Pharma/BMS;米国特許第8119775B2号及びBenson等, 2012, Blood 120:4324-4333参照)である。
リンパ球活性化遺伝子−3(CD223としても知られているLAG3)シグナル伝達は、Tregsに対する作用並びにCD8+T細胞に対する直接的効果による免疫応答の抑制をもたらす。LAG3阻害剤の好ましい例は、抗LAG3モノクローナル抗体BMS−986016(Bristol−Myers Squibb)である。LAG3阻害剤の他の好ましい例には、国際公開第2009/044273A2号及びBrignon等, 2009, Clin. Cancer Res. 15: 6225-6231に開示されているLAG525(Novartis)、IMP321(Immutep)及びLAG3−Ig並びにヒトLAG3を遮断するマウス又はヒト化抗体(例えば、国際公開第2008/132601A1号に記載のIMP701)、又はヒトLAG3を遮断する完全ヒト抗体(欧州特許出願公開第2320940A2号に開示されているようなもの)が含まれる。
別のチェックポイント分子経路は、TIM−3/GAL9経路である。T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3(TIM−3、HAVcr−2としても知られる)は、活性化ヒトCD4+T細胞上に発現され、Th1及びTh17サイトカインを調節する。TIM−3は、そのリガンドであるガレクチン−9(GAL9)との相互作用時に細胞死を誘発することにより、Th1/Tc1機能の負の制御因子として作用する。TIM−3は、Tヘルパー1型特異的細胞表面分子であり、末梢性寛容の誘導を調節している。最近の研究は、TIM−3抗体が抗腫瘍免疫を有意に増強できることを確かに実証している(Ngiow, S.F.等, Anti-TIM3 antibody promotes T cell IFN-gammamediated antitumor immunity and suppresses established tumors. Cancer Res, 2011. 71(10): p. 3540-51)。TIM−3阻害剤の好ましい例としては、ヒトTIM3を標的とする抗体(例えば国際公開第2013/006490A2号に開示)又は特にJones等, 2008, J Exp Med. 205 (12): 2763-79によって開示されている抗ヒトTIM3遮断抗体F38−2E2が含まれる。
CEACAM1(癌胎児性抗原関連細胞接着分子1)は更なるチェックポイント分子である(Huang, Y.H.等, CEACAM1 regulates TIM-3-mediated tolerance and exhaustion. Nature, 2015. 517(7534): p. 386-90;Gray-Owen, S.D.及びR.S. Blumberg, CEACAM1: contact-dependent control of immunity. Nat Rev Immunol, 2006. 6(6): p. 433-46)。CEACAM1の好ましいチェックポイントモジュレーターは、CM−24(cCAM Biotherapeutics)である。
別の免疫チェックポイント分子はGARPであり、これは腫瘍が患者の免疫系を逃れる能力において役割を果たす。現在臨床治験において、候補薬(ARGX−115)は興味深い効果を発揮していると思われる。従って、ARGX−115は好ましいGARPチェックポイントモジュレーターである。
更に、様々な研究グループが、ホスファチジルセリン(「PS」とも呼ばれる)の別のチェックポイント分子ががん治療の標的とされうることを実証した(Creelan, B.C., Update on immune checkpoint inhibitors in lung cancer. Cancer Control, 2014. 21(1): p. 80-9;Yin, Y.等, Phosphatidylserine-targeting antibody induces Ml macrophage polarization and promotes myeloid-derived suppressor cell differentiation. Cancer Immunol Res, 2013. 1(4): p. 256-68)。ホスファチジルセリン(PS)の好ましいチェックポイントモジュレーターはバビツキシマブ(Peregrine)である。
もう一つのチェックポイント経路はCSF1/CSF1Rである(Zhu, Y.等, CSF1/CSF1R Blockade Reprograms Tumor-Infiltrating Macrophages and Improves Response to T-cell Checkpoint Immunotherapy in Pancreatic Cancer Models. Cancer Research, 2014. 74(18): p. 5057-5069)。CSF1Rの好ましいチェックポイントモジュレーターには、FPA008(FivePrime)、IMC−CS4(Eli−Lilly)、PLX3397(Plexxicon)及びRO5509554(Roche)が含まれる。
更に、CD94/NKG2Aナチュラルキラー細胞受容体は、子宮頸癌(Sheu, B.C.等, Up-regulation of inhibitory natural killer receptors CD94/NKG2A with suppressed intracellular perforin expression of tumor infiltrating CD8+ T lymphocytes in human cervical carcinoma. Cancer Res, 2005. 65(7): p. 2921-9)及び白血病(Tanaka, J.等, Cytolytic activity against primary leukemic cells by inhibitory NK cell receptor (CD94/NKG2A)-expressing T cells expanded from various sources of blood mononuclear cells. Leukemia, 2005. 19(3): p. 486-9)におけるその役割について評価されている。NKG2Aの好ましいチェックポイントモジュレーターはIPH2201(Innate Pharma)である。
別の好ましいチェックポイント分子は、キヌレニン経路由来のインドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ酵素であるIDOである(Ball, H.J.等, Indoleamine 2,3-dioxygenase-2; a new enzyme in the kynurenine pathway. Int J Biochem Cell Biol, 2009. 41(3): p. 467-71)。インドールアミン2,3−ジオキシゲナーゼ(IDO)は、免疫抑制特性を有するトリプトファン異化酵素である。IDOは、T細胞及びNK細胞を抑制し、Treg及び骨髄系由来サプレッサー細胞を生成及び活性化し、腫瘍血管新生を促進することが知られている。IDO1は、多くのがんにおいて過剰発現され、腫瘍細胞が免疫系から逃れることを可能にし(Liu, X.等, Selective inhibition of ID01 effectively regulates mediators of antitumor immunity. Blood, 2010. 115(17): p. 3520-30;Ino, K.等, Inverse correlation between tumoral indoleamine 2,3-dioxygenase expression and tumor-infiltrating lymphocytes in endometrial cancer: its association with disease progression and survival. Clin Cancer Res, 2008. 14(8): p. 2310-7)、局所炎症により誘導された場合に慢性腫瘍進行を促進する(Muller, A.J.等, Chronic inflammation that facilitates tumor progression creates local immune suppression by inducing indoleamine 2,3 dioxygenase. Proc Natl Acad Sci US A, 2008. 105(44): p. 17073-8)ことが示されている。好ましいIDO阻害剤には、エキシグアミンA,エパカドスタット(INCB024360;InCyte)、インドキシモド(NewLink Genetics)、NLG919(NewLink Genetics/Genentech)、GDC−0919(NewLink Genetics/Genentech)、F001287(Flexus Biosciences/BMS)及び低分子、例えば、1−メチル−トリプトファン、特に1−メチル−[D]−トリプトファン及びSheridan C., 2015: IDO inhibitors move center stage in immune-oncology; Nature Biotechnology 33: 321-322の表1に挙げられているIDO阻害剤が含まれる。
調節される別の好ましい免疫チェックポイント分子は、またキヌレニン代謝経路のメンバーのTDO(トリプトファン−2,3−ジオキシゲナーゼ)である。幾つかの研究は既に、がん免疫及び自己免疫におけるTDOの関心を証明している(Garber, K., Evading immunity: new enzyme implicated in cancer. J Natl Cancer Inst, 2012. 104(5): p. 349-52;Platten, M., W. Wick, 及びB.J. Van den Eynde, Tryptophan catabolism in cancer: beyond !DO and tryptophan depletion. Cancer Res, 2012. 72(21): p. 5435-40;Platten, M.等, Cancer Immunotherapy by Targeting IDOl/TDO and Their Downstream Effectors. Front Immunol, 2014. 5: p. 673)。
調節される別の好ましい免疫チェックポイント分子はA2ARである。アデノシンA2A受容体(A2AR)は、腫瘍微小環境が典型的には比較的高い濃度のアデノシンを有し、これがA2ARを活性化するので、がん療法における重要なチェックポイントとみなされる。そのようなシグナル伝達は、免疫微小環境において負の免疫フィードバックループを提供する(概説については、Robert D. Leone等, 2015: A2aR antagonists: Next generation checkpoint blockade for cancer immunotherapy. Computational and Structural Biotechnology Journal 13: 265-272を参照)。好ましいA2AR阻害剤には、イストラデフィリン、PBS−509、ST1535、ST4206、トザデナント、V81444、プレラデナント、ビパデナント、SCH58261、SYN115、ZM241365及びFSPTPが含まれる。
調節される別の好ましい免疫チェックポイント分子はVISTAである。T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA;C10orf54としても知られている)は、造血細胞上で主に発現され、腫瘍内の白血球上のVISTAの一貫した発現により、広範囲の固形腫瘍にわたってVISTA遮断が効果的になりうる。好ましいVISTA阻害剤は、最近、第1相臨床試験に入った抗VISTA抗体であるJNJ−61610588(ImmuNext)である。
別の免疫チェックポイント分子はCD122である。CD122は、インターロイキン−2受容体ベータサブユニットである。CD122は、CD8+エフェクターT細胞の増殖を増加させる。
チェックポイント分子の最も好ましい例には、CTLA4とそのリガンドCD80及びCD86並びにPD1とそのリガンドPD−L1及びPD−L2を含む「CTLA4経路」及び「PD1経路」が含まれる(CTLA4及びPD−1経路についての更なる詳細並びに更なる参加体は、 Buchbinder E. I. and Desai A., 2016: CTLA-4 and PD-1 Pathways - Similarities, Differences and Implications of Their Inhibition; American Journal of Clinical Oncology, 39(1): 98-106に記載されている)。より一般的には、チェックポイント分子の好ましい例には、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR、ICOS、A2AR、B7−H3、B7−H4、BTLA、CD40、CTLA−4、IDO、KIR、LAG3、PD−1、TIM−3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、GITR、TNFR及び/又はFasR/DcR3並びに特にそのリガンドが含まれる。
しかしながら、免疫チェックポイントモジュレーターが抗CD28抗体ではないことがまた好ましいことがある。より好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターはCD28に対してではない(すなわち、CD28は、好ましくは、ここで定義される免疫チェックポイントモジュレーターの標的ではない)。
更に、免疫チェックポイントモジュレーターはPD−1の阻害剤でないことが好ましい場合もある。より好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターは、PD−1経路(PD−1自体に加えて、そのリガンドPD−L1及びPD−L2も含む「PD−1軸」とも呼ばれる)の阻害剤/アンタゴニストではない。
免疫チェックポイント分子は、T細胞応答の共刺激性又は阻害性相互作用の原因となる。従って、チェックポイント分子は、(i)(共)刺激性チェックポイント分子と(ii)阻害性チェックポイント分子とに分けることができる。典型的には、(共)刺激性チェックポイント分子は、抗原刺激によって誘導されるT細胞受容体(TCR)シグナル伝達と協調して正に作用し、阻害性チェックポイント分子はTCRシグナル伝達を負に調節する。(共)刺激性チェックポイント分子の例には、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR及びICOSが含まれる。阻害性チェックポイント分子の例には、CTLA4並びにそのリガンドPD−L1及びPD−L2と共にPD1;及びA2AR、B7−H3、B7−H4、BTLA、IDO、KIR、LAG3、TIM−3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR及びFasR/DcR3が含まれる。
好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターは、(共)刺激性チェックポイント分子の活性化剤又は阻害性チェックポイント分子の阻害剤又はそれらの組み合わせである。従って、免疫チェックポイントモジュレーターは、より好ましくは(i)CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR及び/又はICOSの活性化剤、又は(ii)A2AR、B7−H3、B7−H4、BTLA、CD40、CTLA−4、IDO、KIR、LAG3、PD−1、PDL−1、PD−L2、TIM−3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR及び/又はFasR/DcR3の阻害剤である。
上記のように、多くのCD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR、ICOS、A2AR、B7−H3、B7−H4、CTLA−4、PD1、PDL−1、PD−L2、IDO、LAG−3、BTLA、TIM3、VISTA、KIR、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR及び/又はFasR/DcR3モジュレーター(阻害剤/活性化剤)が知られており、それらの幾つかは既に臨床治験にあるか又は承認さえされている。これらの既知の免疫チェックポイントモジュレーターに基づいて、代替の免疫チェックポイントモジュレーターが(近い)将来に開発されうる。特に、好ましい免疫チェックポイント分子の既知のモジュレーターをそのまま使用することができ、又はそのアナログ、特に抗体のキメラ化、ヒト化又はヒト型を使用することができる。
より好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターは、阻害性チェックポイント分子の阻害剤である(しかし、好ましくは、刺激性チェックポイント分子の阻害剤ではない)。従って、免疫チェックポイントモジュレーターは、更により好ましくは、A2AR、B7−H3、B7−H4、BTLA、CTLA−4、IDO、KIR、LAG3、PD−1、TIM−3、VISTA、CEACAM1、GARP、PS、CSF1R、CD94/NKG2A、TDO、TNFR及び/又はDcR3又はそれらのリガンドの阻害剤である。
また、免疫チェックポイントモジュレーターが、刺激性又は共刺激性チェックポイント分子の活性化剤であることが好ましい(しかし、好ましくは、阻害性チェックポイント分子の活性化剤ではない)。従って、免疫チェックポイントモジュレーターは、より好ましくは、CD27、CD28、CD40、CD122、CD137、OX40、GITR及び/又はICOS又はそのリガンドの活性化剤である。
免疫チェックポイントモジュレーターはCTLA−4、PD−1、PD−L1及び/又はPD−L2の阻害剤であることがより好ましく、更により好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターはCTLA−4、PD−1及び/又はPD−L1の阻害剤であり、最も好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターはCTLA−4及び/又はPD−1の阻害剤である。CTLA−4の阻害剤が特に好ましい。
従って、チェックポイントモジュレーターは、CTLA−4経路及び/又はPD−1経路の既知の阻害剤から選択されうる。CTLA−4経路及びPD−1経路の好ましい阻害剤には、モノクローナル抗体ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)及びトレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)並びにオプジーボ(登録商標)(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)、キイトルーダ(登録商標)(ペンブロリズマブ;Merck)、デュルバルマブ(MedImmune/AstraZeneca)、MEDI4736(AstraZeneca;国際公開第2011/066389A1号参照)、MPDL3280A(Roche/Genentech;米国特許第8217149B2号参照)、ピディリズマブ(CT−011;CureTech)、MEDI0680(AMP−514;AstraZeneca)、MSB−0010718C(Merck)、MIH1(Affymetrix)及びランブロリズマブ(例えば、国際公開第2008/156712号にhPD109A及びそのヒト化誘導体h409All、h409A16及びh409A17として開示;Hamid等, 2013; N. Engl. J. Med. 369: 134-144)が含まれる。より好ましいチェックポイント阻害剤には、CTLA-4阻害剤ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)及びトレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)及び/又はPD−1阻害剤オプジーボ(登録商標(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)、キイトルーダ(登録商標)(ペンブロリズマブ;Merck)、ピディリズマブ(CT−011;CureTech)、MEDI0680(AMP−514;AstraZeneca)、AMP−224及びランブロリズマブ(例えば、国際公開第2008/156712号にhPD109A及びそのヒト化誘導体h409All、h409A16及びh409A17として開示;Hamid等, 2013; N. Engl. J. Med. 369: 134-144)が含まれる。
本発明の文脈では、1を超える免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)が使用されるのが好ましく、特に少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10の別個の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)が使用され、好ましくは2、3、4又は5の別個の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)が使用され、より好ましくは2、3又は4の別個の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)が使用され、更により好ましくは2又は3の別個の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)が使用され、最も好ましくは2の別個の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)が使用される。従って、「別個の」免疫チェックポイントモジュレーター(例えばチェックポイント阻害剤)とは、特にそれらが異なるチェックポイント分子経路を調節する(例えば阻害する)ことを意味する。
好ましくは、PD−1経路の阻害剤はCTLA−4経路の阻害剤と組み合わされる。例えば、上記のように、ニボルマブ(抗PD1)とイピリムマブ(抗CTLA4)を用いた併用療法は、BRAF V600野生型で、切除不能又は転移性のメラノーマ患者の治療のために2015年にFDAによって承認された。加えて、非小細胞肺がんにおけるデュルバルマブ(抗PD−L1)とトレメリムマブ(抗CTLA4)の併用に関する第1b相試験の成功が最近報告された(Antonia, Scott等, 2016, Safety and antitumour activity of durvalumab plus tremelimumab in non-small cell lung cancer: a multicentre, phase 1b study; Lancet Oncol. 2016 Feb 5. pii: S1470-2045(15)00544-6. doi: 10.1016/S1470-2045(15)00544-6. [Epub出版前])。従って、PD−1経路及びCTLA−4経路の免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい組み合わせは、(i)ニボルマブ(抗PD1)とイピリムマブ(抗CTLA4)又は(ii)デュルバルマブ(MEDI4736;抗PD−L1)とトレメリムマブ(抗CTLA4)である。それらの組み合わせ、例えば、ニボルマブ(抗PD1)とトレメリムマブ(抗CTLA4)又はデュルバルマブ(MEDI4736;抗PD−L1)とイピリムマブ(抗CTLA4)もまた好ましい。
本発明の文脈における少なくとも二つの別個の免疫チェックポイントモジュレーターの他の好ましい組み合わせは、(i)KIR阻害剤とCTLA−4阻害剤の組み合わせ、例えばリリルマブ/イピリムマブ;(ii)KIR阻害剤とPD−1経路の阻害剤、例えばPD−1阻害剤の組み合わせ、例えばリリルマブ/ニボルマブ;(iii)例えばWoo等, 2012, Cancer Res. 72: 917-27又はButler N. S.等, 2011, Nat Immunol. 13: 188-95に記載されているような、LAG3阻害剤とPD−1経路の阻害剤、例えばPD−1阻害剤又はPDL−1阻害剤の組み合わせで、そのような組み合わせの好ましい例には、ノビルマブ(Novilumab)/BMS−986016及びPDR001/LAG525が含まれる;(iv)例えば、Fu等, 2011, Cancer Res. 71: 5445-54に記載されているような、ICOSを標的とするチェックポイントモジュレーターとCTLA−4の阻害剤の組み合わせ;(v)Curran等, 2011, PLoS One 6(4): el 9499に記載されているような、4−1BBを調節するチェックポイントモジュレーターとCTLA−4の阻害剤の組み合わせ;(vi)PD1及びCD27を標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばノビルマブ/バルリルマブ及びアテゾリズマブ/バルリルマブ;(vii)OX40及びCTLA−4を標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばMEDI6469/トレメリムマブ;(viii)OX40及びPD−1を標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばMEDI6469/MEDI4736、MOXR0916/MPDL3280A、MEDI6383/MEDI4736及びGSK3174998/ペンブロリズマブ;(ix)PD−1及び4−1BBを標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばノビルマブ/ウレルマブ、ペンブロリズマブ/PF−05082566及びアベルマブ/PF−05082566;(x)PD−1及びIDOを標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばイピリムマブ/インドキシモド、ペンブロリズマブ/INCB024360、MEDI4736/INCB024360、MPDL3280A/GDC−0919及びアテゾリズマブ/INCB024360;(xi)PD−1及びCSF1Rを標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばペンブロリズマブ/PLX3397、ノビルマブ/FPA008及びMPDL3280A/RO5509554;(xii)PD−1及びGITRを標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばノビルマブ/BMS−986156及びペンブロリズマブ/MK−4166;(xiii)PD−1及びCD40を標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばMPDL3280A/RO7009789;(xiv)PD−1及びB7−H3を標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばペンブロリズマブ/MGA271;(xv)CTLA−4及びB7−H3を標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばイピリムマブ/MGA271及び(xvi)KIR及び4−1BBを標的とするチェックポイントモジュレーターの組み合わせ、例えばリリルマブ/ウレルマブから選択される組み合わせを含みうる。
最も好ましくは、本発明に係る使用のための免疫チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその断片の組み合わせは、少なくとも(α)CTLA−4の阻害剤と(β)PD−1、PD−L1及び/又はPD−L2の阻害剤、好ましくは少なくとも(α)CTLA−4の阻害剤と(β)PD−1の阻害剤を含む。そのような好ましい組み合わせの例には、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とオプジーボ(登録商標)(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)の組み合わせ、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とキイトルーダ(登録商標)(ペンブロリズマブ;Merck)の組み合わせ、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とデュルバルマブ(MedImmune/AstraZeneca)の組み合わせ、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とMEDI4736(AstraZeneca;国際公開第2011/066389A1号参照)の組み合わせ、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とMPDL3280A(Roche/Genentech;米国特許第8217149B2号参照)の組み合わせ、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とピディリズマブ(CT−011;CureTech)の組み合わせ、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とMEDI0680(AMP−514;AstraZeneca)の組み合わせ、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とMSB−0010718C(Merck)の組み合わせ、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とMIH1(Affymetrix)の組み合わせ、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とAMP−224の組み合わせ、ヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)とランブロリズマブの組み合わせ、トレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)とオプジーボ(登録商標)(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)の組み合わせ、トレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)とキイトルーダ(登録商標)(ペンブロリズマブ;Merck)の組み合わせ、トレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)とデュルバルマブ(MedImmune/AstraZeneca)の組み合わせ、トレメリムマブ Pfizer/MedImmune)とMEDI4736(AstraZeneca;国際公開第2011/066389A1号参照)の組み合わせ、トレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)とMPDL3280A(Roche/Genentech;米国特許第8217149B2号参照)の組み合わせ、トレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)とピディリズマブ(CT−011;CureTech)の組み合わせ、トレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)とMEDI0680(AMP−514;AstraZeneca)の組み合わせ、トレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)とMSB−0010718C(Merck)の組み合わせ、トレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)とMIH1(Affymetrix)の組み合わせ、トレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)とAMP−224の組み合わせ、及びトレメリムマブ(Pfizer/MedImmune)とランブロリズマブの組み合わせが含まれる。
本発明の文脈では、同じチェックポイント経路の1を超える免疫チェックポイントモジュレーター(例えばチェックポイント阻害剤)が使用されるのがまた好ましく、特に同じチェックポイント経路の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9又は10の免疫チェックポイントモジュレーター(例えばチェックポイント阻害剤)が使用され、好ましくは同じチェックポイント経路の2、3、4又は5の免疫チェックポイントモジュレーター(例えばチェックポイント阻害剤)が使用され、より好ましくは同じチェックポイント経路の2、3又は4の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)が使用され、更により好ましくは同じチェックポイント経路の2又は3の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)が使用され、最も好ましくは同じチェックポイント経路の2の免疫チェックポイントモジュレーター(例えば、チェックポイント阻害剤)が使用される。調節される好ましいチェックポイント経路は、PD−1経路又はCTLA−4経路である。例えば、MEDI4736とMEDI0680の組み合わせを使用して、PD−1経路を調節し、特にPD−1経路を阻害することができる。
本発明の文脈では、免疫チェックポイントモジュレーターは、上記の一又は複数のチェックポイント分子の機能を完全に又は部分的に低減し、阻害し、妨害し、活性化し、刺激し、増加させ、強化し又は支持する限り、任意の種類の分子又は薬剤でありうる。特に、免疫チェックポイントモジュレーターは、チェックポイントタンパク質のような一又は複数のチェックポイント分子に、又はその前駆体に、例えばDNAレベル又はRNAレベルで結合し、上記のような一又は複数のチェックポイント分子の機能を調節する(例えば、完全に又は部分的に低減し、阻害し、妨害し、活性化し、刺激し、増加させ、強化し、又は支持する)。好ましい免疫チェックポイントモジュレーターは、オリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、リボザイム、アンチセンスRNA分子、免疫毒素、低分子阻害剤及び抗体又はその抗原結合断片(例えば、チェックポイント分子遮断抗体又は抗体断片、アンタゴニスト抗体又は抗体断片又はアゴニスト抗体又は抗体断片)である。
好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターはオリゴヌクレオチドである。そのようなオリゴヌクレオチドは、好ましくは、タンパク質発現を減少させるため、特にチェックポイントタンパク質、例えば、上記のチェックポイント受容体又はリガンドの発現を減少させるために使用される。オリゴヌクレオチドは、典型的には2〜50ヌクレオチド、好ましくは3〜40ヌクレオチド、より好ましくは4〜30ヌクレオチド、更により好ましくは5〜25ヌクレオチド、例えば4、5、6、7、8、9又は10ヌクレオチドを含む短いDNA又はRNA分子である。オリゴヌクレオチドは、通常、固相化学合成によって実験室において作製される。オリゴヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖であってもよいが、本発明の文脈では、オリゴヌクレオチドは好ましくは一本鎖である。より好ましくは、チェックポイントモジュレーターオリゴヌクレオチドは、アンチセンス−オリゴヌクレオチドである。アンチセンス−オリゴヌクレオチドは、選択された配列、特にチェックポイントタンパク質のDNA又はRNA配列(又はその断片)から選択される配列に相補的なDNA又はRNAの一本鎖である。アンチセンスRNAは、典型的には、mRNAに結合することにより、例えばチェックポイントタンパク質のmRNAのメッセンジャーRNA鎖のタンパク質翻訳を防止するために使用される。アンチセンスDNAは、典型的には、特異的な相補的(コーディング又はノンコーディング)RNAを標的とするために使用される。結合が生じる場合、そのようなDNA/RNAハイブリッドは、酵素RNアーゼHによって分解されうる。更に、モルホリノ−アンチセンスオリゴヌクレオチドを、脊椎動物における遺伝子ノックダウンのために使用することができる。例えば、Kryczek等, 2006(Kryczek I, Zou L, Rodriguez P, Zhu G, Wei S, Mottram P, et al. B7-H4 expression identifies a novel suppressive macrophage population in human ovarian carcinoma. J Exp Med. 2006; 203:871-81)は、マクロファージにおけるB7−H4発現を特異的に遮断し、腫瘍関連抗原(TAA)特異的T細胞を有するマウスにおけるT細胞増殖の増加及び腫瘍体積の減少をもたらすB7−H4特異的モルホリノを設計した。
好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターはsiRNAである。低分子(short)干渉RNA又はサイレンシングRNAとしても知られている低分子(small)干渉RNA(siRNA)は、典型的には20〜25塩基対の長さの二本鎖RNA分子のクラスである。RNA干渉(RNAi)経路において、siRNAは、相補的ヌクレオチド配列を持つ、チェックポイントタンパク質をコードする遺伝子のような特異的遺伝子の発現を妨害する。siRNAは、転写後にmRNAが分解され、翻訳されないようにすることによって機能する。外因性siRNAのトランスフェクションは遺伝子ノックダウンに使用されうるが、その効果は、特に急速に分裂する細胞において、一過性であるに過ぎない。これは、例えば、RNA修飾によって又はsiRNAのための発現ベクターを使用することによって克服することができる。siRNA配列はまた二本のストランド間に短いループを導入するように改変されうる。得られた転写産物は、その通常の方法でDicerによって機能的siRNAにプロセシングされうる低分子(short)ヘアピンRNA(shRNA(shRNA、また「低分子(small)ヘアピンRNA」)である。shRNAは、比較的低い分解速度及び代謝回転速度を有する点で、RNAiの有益なメディエーターである。従って、免疫チェックポイントモジュレーターは好ましくはshRNAである。shRNAは、典型的には発現ベクター、例えばプラスミド又はウイルス又は細菌ベクターの使用を必要とする。
好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターは免疫毒素である。免疫毒素は、毒素に結合したがん細胞などの所定の細胞上の抗原を典型的に標的とする標的化部分(抗体など)を含むキメラタンパク質である。本発明の文脈では、チェックポイント分子を標的とする標的化部分を含む免疫毒素が好ましい。免疫毒素が抗原、例えばチェックポイント分子を担持する細胞に結合する場合、免疫毒素はエンドサイトーシスによって取り込まれ、ついで毒素が細胞を死滅させることができる。免疫毒素は、好ましくは、毒素(の断片)に連結された(修飾された)抗体又は抗体断片を含む。連結については、方法は当該分野でよく知られている。免疫毒素の標的部分は、典型的には、特定の細胞型を標的とする抗体のFab部分を含む。毒素は、通常、免疫毒素の標的部分が毒素を標的細胞上の抗原に向けるように天然結合ドメインが除去された細菌又は植物タンパク質に由来するタンパク質のような細胞傷害性である。しかし、免疫毒素は、成長因子などの抗体又は抗体断片以外の標的化部分もまた含みうる。例えば、毒素と成長因子を含む組換え融合タンパク質は、組換え免疫毒素とも称される。
好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターは低分子薬物(「低分子阻害剤」とも呼ばれる)である。低分子薬物は、典型的には生物学的プロセス(の調節)と相互作用する低分子量(最大900ダルトン)の有機化合物である。本発明の文脈において、免疫チェックポイントモジュレーターである低分子薬物は、上記の一又は複数のチェックポイント分子の機能を完全に又は部分的に低下させ、阻害し、妨害し、又は負に調節する、分子量が900ダルトン以下の有機化合物である。900ダルトンの分子量上限は、細胞膜を急速に拡散し、経口バイオアベイラビリティーの可能性を許容する。より好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターである低分子薬物の分子量は500ダルトン以下である。例えば、当該分野で知られている様々なA2ARアンタゴニストが500ダルトン未満の分子量を有する有機化合物である。
最も好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターは、抗体又はその抗原結合断片である。そのような免疫チェックポイントモジュレーター抗体又はその抗原結合断片は、特に、免疫チェックポイント受容体に結合する抗体又はその抗原結合断片あるいは免疫チェックポイント受容体リガンドに結合する抗体を含む。好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーター抗体又はその抗原結合断片は、免疫チェックポイント受容体又は免疫チェックポイント受容体リガンドのアゴニスト又はアンタゴニストである。抗体型チェックポイントモジュレーターの例には、上記のように現在承認されている免疫チェックポイントモジュレーター、すなわちヤーボイ(登録商標)(イピリムマブ;Bristol Myers Squibb)、オプジーボ(登録商標)(ニボルマブ;Bristol Myers Squibb)及びキイトルーダ(登録商標)(ペンブロリズマブ;Merck)及び上に記載の更なるチェックポイント受容体抗体又は抗チェックポイントリガンド抗体である。
好ましくは、本発明に従って使用される組み合わせにおける免疫チェックポイントモジュレーターは、PD−1経路、特にPD−1、PD−L1又はPD−L2を部分的又は完全に遮断することができる抗体又は抗原結合断片(例えば、それらはPD−1経路の部分的又は完全なアンタゴニストでありうる)であり、より好ましくは抗体はPD−1を部分的に又は完全に遮断することができる(例えば、それらはPD−1の部分的又は完全なアンタゴニストでありうる)。そのような抗体又は抗原結合断片には、抗PD−1抗体、ヒト抗PD−1抗体、マウス抗PD−1抗体、哺乳動物抗PD−1抗体、ヒト化抗PD−1抗体、モノクローナル抗PD−1抗体、ポリクローナル抗PD−1抗体、キメラ抗PD−1抗体、抗PD−L1抗体、抗PD−L2抗体、抗PD−1アドネクチン、抗PD−1ドメイン抗体、単鎖抗PD−1断片、重鎖抗PD−1断片、及び軽鎖抗PD−1断片が含まれる。例えば、抗PD−1抗体は、抗原結合断片であってもよい。好ましくは、抗PD−1抗体は、ヒトPD−1に結合し、(ヒト)PD−1の活性を部分的又は完全に遮断することができ(例えば、それらはPD−1の部分的アンタゴニスト又は完全なアンタゴニストでありうる)、特にPD−1を発現する免疫細胞の機能を解放する。
好ましくは、本発明に従って使用される組み合わせにおける免疫チェックポイントモジュレーターは、CTLA−4経路を部分的又は完全にブロックすることができる抗体又は抗原結合断片である(例えば、それらはCTLA−4経路の部分的又は完全なアンタゴニストでありうる)。そのような抗体又は抗原結合断片には、抗CTLA4抗体、ヒト抗CTLA4抗体、マウス抗CTLA4抗体、哺乳動物抗CTLA4抗体、ヒト化抗CTLA4抗体、モノクローナル抗CTLA4抗体、ポリクローナル抗CTLA4抗体、キメラ抗CTLA4抗体、MDX−010(イピリムマブ)、トレメリムマブ、抗CD28抗体、抗CTLA4アドネクチン、抗CTLA4ドメイン抗体、単鎖抗CTLA4断片、重鎖抗CTLA4断片、及び軽鎖抗CTLA4断片が含まれる。例えば、抗CTLA4抗体は、抗原結合断片であってもよい。好ましくは、抗CTLA4抗体は、ヒトCTLA4に結合し、CTLA4の活性を部分的に又は完全に遮断することができ(例えば、それらはCTLA−4の部分的又は完全なアンタゴニストでありうる)、それによりCTLA4を発現する免疫細胞の機能を特に解放する。
[好ましい免疫チェックポイントモジュレーターと好ましいT細胞リダイレクティング多機能抗体の好ましい組み合わせ]
上記のように、本発明に係る使用のための好ましい組み合わせは、ここに記載の好ましい免疫チェックポイントモジュレーターを含む。更に、本発明に係る使用のための好ましい組み合わせは、T細胞表面抗原に対する(好ましい)特異性、がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する(好ましい)特異性、及びヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための(好ましい)結合部位を含む、ここに記載の好ましいT細胞リダイレクティング多機能抗体又は抗原結合断片を含む。
本発明に係る使用のためのより好ましい組み合わせは、(i)ここに記載の好ましい免疫チェックポイントモジュレーター、及び(ii)T細胞表面抗原に対する(好ましい)特異性、がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する(好ましい)特異性、及びヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIの(好ましい)結合部位を含む、ここに記載の好ましいT細胞リダイレクティング多機能抗体又は抗原結合断片を含む。次に、本発明に係る使用のための好ましい組み合わせの好ましい実施態様が記載される。
本発明に係る使用のための好ましい組み合わせにおいて、T細胞リダイレクティング多機能抗体は、三機能二重特異性IgG型抗体であり、
a)T細胞表面抗原に対する特異性は、(ヒト)CD3に対する特異性(結合部位)であり;
b)がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性は、EpCAM、HER2/neu、GD2又はCD20に対する特異性(結合部位)であり;かつ
c)ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIの結合部位は、マウスIgG2a/ラットIgG2b Fc領域である。
より好ましくは、T細胞リダイレクティング多機能抗体は、カツマキソマブ及び/又はエクトマブ(ektomab)である。
本発明に係る使用のための組み合わせにおいて、免疫チェックポイントモジュレーターがCTLA−4、PD−1、PD−L1及び/又はPD−L2の阻害剤であることがまた好ましく、より好ましくは免疫チェックポイントモジュレーターがCTLA−4及び/又はPD−1の阻害剤である。最も好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターは、CTLA−4の阻害剤である。
例えば、本発明に係る使用のための好ましい組み合わせは、
− a)(ヒト)CD3に対する特異性(結合部位);
b)EpCAM、HER2/neu、GD2、又はCD20に対する特異性(結合部位);及び
c)マウスIgG2a/ラットIgG2b Fc領域
を有する三機能二重特異性IgG型抗体と、
− CTLA−4、PD−L1、PD−L2及び/又はPD−1の阻害剤、好ましくはCTLA−4及び/又はPD−1の阻害剤
を含む。
本発明に係る使用のための好ましい組み合わせは、
− a)(ヒト)CD3に対する特異性(結合部位);
b)EpCAM、HER2/neu、又はGD2に対する特異性(結合部位);及び
c)マウスIgG2a/ラットIgG2b Fc領域
を有する三機能二重特異性IgG型抗体と、
− CTLA−4、PD−L1、PD−L2及び/又はPD−1の阻害剤、好ましくはCTLA−4及び/又はPD−1の阻害剤
を含む。
最も好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせは、(i)カツマキソマブ又はエクトマブと(ii)CTLA−4の阻害剤とを含む。
[がん疾患の治療的処置における使用]
ここに記載の免疫チェックポイントモジュレーターと、ここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片との組み合わせは、がん疾患の治療的処置における使用のためのものである。
ここに記載の免疫チェックポイントモジュレーターと、ここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片とのかかる組み合わせは、本実施例によって示されるように、特に治療的環境下において、チェックポイントモジュレーターの有効性を惹起させ又は増強することができる。
ここで使用される場合、「治療的処置」とは、疾患の発症後の処置をいう。特に、「治療的処置」には、疾患の発症前に適用される予防的措置は含まれない。疾患の発症にはしばしば疾患の症状が伴うので、ヒト又は動物の対象は、診断後に又は対象が所定の疾患に罹患しているという少なくとも(強い)前提の下にしばしば「治療的に」処置される。治療的処置は、特に、(i)疾患(状態)を寛解させ、改善し、又は治癒すること、又は(ii)疾患の進行を阻害し又は遅延させること(例えば、がん患者の平均生存時間を増加させることによる)を目的とする。しかしながら、疾患の発症の予防は、典型的には、治療的処置によって達成することはできない。
ここに記載の組み合わせは、がん疾患の治療的処置のための(医薬の調製のための)使用のためのものである。本発明の文脈において使用される「疾患」という用語は、全てがヒト又は動物の体の又は正常な機能を損なうその部分の一つの異常な状態を反映し、典型的には徴候と症状を識別することによって明らかにされ、ヒト又は動物の寿命又は生活の質を低下させる点で、「障害」及び「状態」(医学的状態)という用語と、一般に同義であることが意図され、互換的に使用される。
がん疾患は、特に、身体の他の部分に侵入し又は広がる可能性がある、異常な細胞増殖を伴う疾患群である。がん性細胞/組織は典型的には6つのがんの特徴を示す、すなわち、(i)適切なシグナルが存在しない細胞増殖及び分裂;(ii)反対のシグナルが与えられても継続的な増殖及び分裂;(iii)プログラム細胞死の回避;(iv)無限数の細胞分裂;(v)血管構築の促進;及び(vi)組織の浸潤及び転移の形成である。
がん疾患には、アポトーシスの欠陥によって引き起こされる疾患が含まれる。がんは、固形腫瘍、血液がん、又はリンパ腺がんでありうる。特に、がんは、良性、悪性及び/又は転移性でありうる。
好ましくは、がん疾患の治療的処置において、本発明に係る使用のための組み合わせは、腫瘍(又は転移)の進行する/更なる増殖を阻害し/遅延させるか、又は腫瘍のサイズ(又は転移の数)を減少させるか、又は腫瘍の再発及び/又は転移を防止する。
がん疾患の好ましい例は、好ましくは、聴神経線維腫症、肛門癌、星細胞腫、基底細胞腫、ベーチェット症候群、膀胱がん、芽細胞腫、骨がん、脳転移、脳腫瘍、脳がん(神経膠芽腫)、乳がん(乳癌)、バーキットリンパ腫、カルチノイド、子宮頸がん、結腸癌、結腸直腸がん、体癌(corpus carcinoma)、頭蓋咽頭腫、CUP症候群、子宮内膜癌、胆嚢がん、泌尿生殖器のがんを含む生殖器腫瘍、神経膠芽細胞腫、神経膠腫、頭頸部腫瘍、肝細胞腫、組織球性リンパ腫、ホジキン症候群又はリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫、下垂体腫瘍、小腸腫瘍及び胃腸腫瘍を含む腸がん、カポジ肉腫、腎臓がん、腎臓癌、喉頭がん(laryngeal cancer)又は喉頭がん(larynx cancer)、急性骨髄性白血病(AML)、赤白血病、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)及び慢性リンパ性白血病(CLL)を含む白血病、眼蓋腫瘍、肝臓がん、肝臓転移、肺癌(=肺がん=気管支癌)、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌、及び肺腺癌、リンパ腫、リンパ腺がん、悪性メラノーマ、乳癌(=乳がん)、髄芽細胞腫、メラノーマ、髄膜腫、菌状息肉腫、新生物疾患神経鞘腫、食道がん、食道癌(=食道がん)、乏突起神経膠腫、卵巣がん(=卵巣癌)、卵巣癌、膵臓癌(=膵臓がん)、陰茎がん(penile cancer)、陰茎がん(penis cancer)、咽頭がん、下垂体腫瘍、形質細胞腫、前立腺がん(前立腺腫瘍)、直腸癌、直腸腫瘍、腎がん、腎癌、網膜芽細胞腫、肉腫、シュネーベルガー病、基底細胞及び扁平細胞癌並びに乾癬を含む皮膚がん、例えばメラノーマ又は非メラノーマ皮膚がん、尋常性天疱瘡、軟部組織腫瘍、棘細胞がん、胃がん、精巣がん、咽喉がん、胸腺腫、甲状腺癌、舌がん、尿道がん、子宮がん、膣がん、様々なウイルス誘発腫瘍、例えばパピローマウイルス誘発癌(例えば、子宮頸癌=子宮頸がん)、腺癌、ヘルペスウイルス誘発腫瘍(例えば、バーキットリンパ腫、EBV誘発B細胞リンパ腫、子宮頸癌)、B型肝炎誘発腫瘍(肝細胞癌)、HTLV−1及びHTLV−2誘発リンパ腫、外陰部がん、いぼ状態又は病変等々から選択される。
ここに記載の免疫チェックポイントモジュレーターとここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその断片との組み合わせで治療されるがんの更に好ましい例には、脳がん、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、腎臓がん、メラノーマ、腸癌、肺癌、頭頸部扁平細胞癌、ホジキンリンパ腫、慢性骨髄性白血病、結腸直腸癌、胃癌、子宮内膜癌、骨髄性白血病、肺扁平上皮癌、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、膀胱腫瘍、前骨髄球性白血病、非小細胞肺癌、形質細胞腫、及び肉腫が含まれる。
より好ましくは、がん疾患は、肺がん、胃がん、卵巣がん、乳がん、メラノーマ、前立腺がん、頭頸部扁平上皮癌、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、膀胱腫瘍、形質細胞腫及び/又は肉腫から選択される。
一般に、ここに記載の免疫チェックポイントモジュレーターとここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその断片との「組み合わせ」とは、ここに記載の免疫チェックポイントモジュレーターによる治療が、ここに記載されているように、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその断片と併用されることを意味する。換言すれば、一成分(チェックポイントモジュレーター又はT細胞リダイレクティング多機能抗体)が、例えば、他の成分(チェックポイントモジュレーター又はT細胞リダイレクティング多機能抗体の他方)と同じ日に投与されなくても、その治療スケジュールは絡み合っている。これは、本発明の文脈における「組み合わせ」は、特に、他の成分(チェックポイントモジュレーター又はT細胞リダイレクティング多機能抗体の他方)を用いた治療が終了した後の一成分(チェックポイントモジュレーター又はT細胞リダイレクティング多機能抗体)による治療の開始を含まないことを意味する。より一般的には、チェックポイントモジュレーター及びT細胞リダイレクティング多機能抗体の「絡み合った」治療スケジュール、従ってチェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体との組み合わせは、
(i)T細胞リダイレクティング多機能抗体の最初の投与(従って、T細胞リダイレクティング多機能抗体を用いた完全な治療)が開始される前の1週間を超えて(好ましくは3日間を超えて、より好ましくは2日間を超えて、更により好ましくは1日間を超えて)チェックポイントモジュレーターの全ての投与(従って、完全なチェックポイントモジュレーター療法)が完了するわけではない;又は
(ii)チェックポイントモジュレーターの最初の投与(従って、チェックポイントモジュレーターを用いた完全な治療)が開始される前の1週間を超えて(好ましくは3日間を超えて、より好ましくは2日間を超えて、更により好ましくは1日間を超えて)T細胞リダイレクティング多機能抗体の全ての投与(従って、T細胞リダイレクティング多機能抗体を用いた完全治療)が完了するわけではない
ことを意味する。
例えば、本発明に係る使用のためのここに記載の免疫チェックポイントモジュレーターとここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体との組み合わせにおいて、一方の成分(チェックポイントモジュレーター又はT細胞リダイレクティング多機能抗体)が一週に一回投与され得、他方の成分(チェックポイントモジュレーター又はT細胞リダイレクティング多機能抗体の他方)が一ヶ月に一回投与されうる。本発明の意味における「組み合わせ」をこの例において達成するために、毎月投与される成分は、また毎週投与される他の成分が投与される同じ週に少なくとも一回投与されることになる。
上に概説したように、本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーター及び/又はT細胞リダイレクティング多機能抗体の投与は、複数の連続投与、例えば、複数回の注射を必要としうる。従って、投与は少なくとも二回、例えば一次免疫注射として一回と、後で追加免疫注射として繰り返すことができる。
特に、本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーター及び/又はT細胞リダイレクティング多機能抗体は、反復して又は連続的に投与されうる。本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーター及び/又はT細胞リダイレクティング多機能抗体は、少なくとも1、2、3又は4週間;2、3、4、5、6、8、10、又は12ヶ月;又は2年、3年、4年又は5年の期間の間、反復して又は連続的に投与されうる。例えば、本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターは、1日2回、1日1回、2日毎、3日毎、1週間に1回、2週間毎、3週間毎、1ヶ月に1回又は2ヶ月に1回投与されうる。例えば、本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体は、1日2回、1日1回、2日毎、3日毎、1週間に1回、2週間毎、3週間毎、1ヶ月に1回又は2ヶ月に1回投与されうる。
好ましくは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片は、漸増する投薬レジメンに従って投与される。一般に、「漸増する投薬レジメン」とは、初回用量(すなわち、例えば一般に又は1回の単一治療サイクルに関連して、抗体の最初の投与の単回用量)が、最終用量(すなわち、例えば一般に又は1回の単一治療サイクルに関連して、抗体の最終投与の単回用量)より少ない、抗体の反復投与を指す。特に、抗体の投薬量は、漸増する投薬レジメンの反復抗体投与にわたって増加する。特に、漸増する投薬レジメンは、増加する形で投与され、すなわち最も低い用量レベルで始まり、次のより高い用量レベルが続き、場合によっては次のより高い用量レベルが続く等々である、二つ以上の別個の「用量レベル」を含む。「用量レベル」という用語は、抗体の所定の用量/量を指す。例えば、「10μg」の用量レベルは、10μgの抗体の単回用量が、次のより高い用量レベル(例えば、50μgの抗体の単回用量)が開始するまで一回又は繰り返して(例えば二又は三回)投与されることを意味する。従って、各用量レベルでは、一又は複数の(例えば、二又は三の)単回用量が投与されうる。1を超える単回用量が(単回)用量レベルで投与される場合、これは、(その用量レベルの)単回用量が同じであること、すなわち(単回)用量レベルの各単回用量で投与される抗体の量が同じであることを意味する。従って、漸増する投薬レジメンでは、初回の用量、すなわち最初の抗体投与を除いて、各単回抗体投与において、投与される単回用量は、(次のより高い用量レベルに入るための)前の抗体投与のものよりも高いか、又は(「実際の」用量レベルを維持するため)先の抗体投与のものと同じである。従って、「先の投与」という用語は、問題の(抗体)投与の直前の(抗体)投与を指す。例えば、第三(抗体)投与の場合、「先の投与」は第二(抗体)投与であるが、第一(抗体)投与ではない;又は第四(抗体)投与の場合、「先の投与」は第三(抗体)投与であるが、第一(抗体)投与又は第二(抗体)投与ではない。例えば、漸増する投薬レジメンにおいて(i)初回用量は最も低い用量であり、その後の各(抗体)投与では、単回用量はそれぞれの先の(抗体)投与におけるよりも高くてもよく、一回のみの単回用量が各用量レベルで投与され;あるいは(ii)(抗体の)投与の一又は複数(しかし全てではない)では、単回用量は(1を超える単回容量が一又は複数の用量レベルにおいて、例えば各用量レベルにおいて投与されるように)先のそれぞれの(抗体)投与と同じでありうる。
好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせは、一又は複数の治療サイクルで投与される。本発明の文脈において、治療サイクルは、その間に休止期間を有する規則的なスケジュールで繰り返されうる一又は複数の治療のコースである。例えば、本発明に係る使用のための組み合わせは、一治療サイクルで投与され得(例えば、一回の単回用量又は反復用量)で投与され得、その後、がん又は腫瘍が再発するかどうかが観察されうる。特に、がん/腫瘍が再発する場合、更なる治療サイクルが実施されうる。しかし、更なる処置サイクルがまた予防対策として実施されうる。特に、一治療サイクル内の2回の治療間(例えば、抗体の2回の単回用量の間及び/又はチェックポイントモジュレーターの2回の単回用量の間)の間隔は、好ましくは1ヶ月(31日)を超えず、より好ましくは3週間を超えない一方、一治療サイクルの終わりと次の治療サイクルの開始の間の間隔(特に、抗体及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの投与に関連する)は、好ましくは少なくとも1ヶ月、好ましくは少なくとも2ヶ月、より好ましくは少なくとも3ヶ月、更により好ましくは少なくとも4ヶ月、最も好ましくは少なくとも6ヶ月である。言い換えれば、一治療サイクル内の(抗体及び/又はチェックポイントモジュレーターの)二回の治療/投与間の間隔は、好ましくは1ヶ月未満(例えば、2又は3週間を超えない)である一方、2回の治療サイクル(抗体及び/又はチェックポイントモジュレーターの投与に関する)は、好ましくは1ヶ月を超える(例えば、少なくとも2ヶ月又は3ヶ月)。
好ましくは、一治療サイクルは、抗体及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの(i)1回の単回投与又は(ii)1回の初回投与(最初の投与)と一又は複数のその後の投与を含む。患者は、一回の単回又は様々な治療サイクルを受けることができる。各治療サイクルは、典型的には2〜28、好ましくは2〜20、より好ましくは3〜10、更により好ましくは5〜8、例えば6又は7の抗体及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの単回投与から構成される。
好ましくは、一治療サイクルは、一又は複数の用量レベルを含む。換言すれば、一治療サイクルは、(i)同じ単回用量の繰り返しの投与(単一の単回用量レベル)又は(ii)一又は複数の漸増する単回用量の投与(各用量レベルでは、上述のように一又は複数の単回用量が投与されうる)を含むのが好ましい。後者の場合、初期用量レベル(第一回投与の用量の投与)に続く用量レベルは、典型的には、初期用量レベルよりも高い。特に、初回用量レベルは、好ましくは、一回の単回投与のみを含み得、すなわち、最も低い用量は、治療/治療サイクルの初め(第一回目の投与)に一回のみ投与される。この場合、一又は複数の次の投与の単回用量は、初回用量よりも高い。
言い換えれば、(初期用量から開始して最終用量で終わる)治療サイクル内で、各単一投与の単回用量(初期用量を除く)は、投与された先の用量よりも少なくはない、すなわちそれぞれその後の用量は先の用量と等しいか又はそれより高い。より好ましくは、治療サイクルは、上述の漸増する投薬レジメンに従う。更により好ましくは、1を超える治療サイクルが適用される場合、各治療サイクルは、上述のように漸増する投与レジメンに従う。それにより、各治療サイクルの投薬レジメンは、同じであっても異なっていてもよい。上述のように、漸増投薬量レジメンのように、以前の投与量と等しい投与量(すなわち、1回(単回)投与量レベル内で1回以上の単回投与の投与)を含むこともできる。例えば、最初の用量のみがより低くてもよく、その後に投与される全ての単一用量は同じであってもよい(そして、最初の用量よりも高い)か、又は最初の用量がより低くてもよい.2回目の投与の単回用量は、続いて投与される全ての単回用量よりも低いが、その後に投与される全ての単一用量は、好ましくは同じである(及び最初の用量及び第2の用量よりも高い)。従って、初回投与後に投与される単回用量の1つ以上が、先の投与の単回用量よりも多いことが好ましい。
治療サイクルの最終用量(レベル)は、一治療サイクル内に投与されるべき抗体の最も高い単回用量;すなわち、治療サイクルの最大単回用量を典型的には反映する。特に、治療サイクルの終わりに、最大単回用量を反映する一、二、三、四、五又はそれ以上の単回用量が投与されうる。
一般に、用量漸増のための指針は、安全性を保ち急速な自然増加を維持しながら、患者を治療用量以下に曝すことを避けることである。好ましくは、一回の同じ治療サイクル内で、先の用量よりも少ない単回用量はない。
典型的には、単一処置サイクルは、抗体及び/又は免疫チェックポイント阻害剤の少なくとも最初の投与と第二回の投与を含む。好ましい実施態様では、単一処置サイクルは、抗体及び/又は免疫チェックポイント阻害剤の初回投与、第二投与、第三投与、第四投与、第五投与及び好ましくは第六投与を含みうる。単一処置サイクル内で、抗体及び/又は免疫チェックポイント阻害剤のその後の投与は、好ましくは、前投与の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は21日後に適用され得、好ましくは続く投与は前の投与の2〜15日後に適用され、より好ましくは、前の投与の2〜10日後に適用され、更により好ましくは、前の投与の3〜8日後に適用される。
本発明に係る使用のためのここに記載の免疫チェックポイントモジュレーターとここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体の組み合わせにおいて、免疫チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体は、好ましくはほぼ同時に投与される。
ここで使用される場合、「ほぼ同時に」とは、特に同時投与か、又は免疫チェックポイントモジュレーターの投与直後にT細胞リダイレクティング多機能抗体が投与されるか、又はT細胞リダイレクティング多機能抗体の投与直後に免疫チェックポイントモジュレーターが投与されることを意味する。当業者であれば、「直後」は第二回の投与を準備するのに必要な時間、特に第二回の投与のための位置の露出と消毒並びに「投与機器」(例えば、シリンジ、ポンプ等々)の適当な準備に必要な時間を含んでいることは分かる。同時投与は、チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体の投与期間が重複している場合、又は例えば一方の成分(チェックポイントモジュレーター又はT細胞リダイレクティング多機能抗体)がより長い時間、例えば30分、1時間、2時間又はそれ以上、例えば点滴によって投与され、他方の成分(チェックポイントモジュレーター又はT細胞リダイレクティング多機能抗体)がそのような長い時間内のある時間に投与される場合をまた含む。ほぼ同時の免疫チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体の投与は、異なる投与経路及び/又は異なる投与部位が使用される場合、特に好ましい。
本発明に係る使用のためのここに記載の免疫チェックポイントモジュレーターとここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体の組み合わせにおいて、免疫チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体が逐次的に投与されることがまた好ましい。例えば、免疫チェックポイントモジュレーターは、好ましくは、T細胞リダイレクティング多機能抗体の前に投与される。免疫チェックポイントモジュレーターがT細胞リダイレクティング多機能抗体の後に投与されることもまた好ましい。
逐次投与では、第一成分(チェックポイントモジュレーター又はT細胞リダイレクティング多機能抗体)の投与と第二成分(チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体の他方)の投与との間の時間間隔は、好ましくは1週間以内、より好ましくは3日以内、更により好ましくは2日以内であり、最も好ましくは24時間以内が第一成分(チェックポイントモジュレーター又はT細胞リダイレクティング多機能抗体)の投与と第二成分(チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体の他方)の投与との間のである。チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体が、同じ日に投与されることが特に好ましく、第一成分(T細胞リダイレクティング多機能抗体のチェックポイントモジュレーター)の投与と第二成分(チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体の他方)の投与の間の時間は好ましくは6時間以内、より好ましくは3時間以内、更により好ましくは2時間以内、最も好ましくは1時間以内である。
しかし、免疫チェックポイントモジュレーターが、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の後に投与されることが特に好ましい。より好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーターは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の後、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、更により好ましくは少なくとも24時間、更により好ましくは少なくとも36時間、最も好ましくは少なくとも48時間に投与される。言い換えれば、好ましい実施態様では、(最初に投与される)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の投与と(抗体の後に投与される)免疫チェックポイントモジュレーターの投与の間隔は、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、更により好ましくは少なくとも24時間、更により好ましくは少なくとも36時間、最も好ましくは少なくとも48時間である。例えば、(処置サイクルにおいて又は一般に)免疫チェックポイントモジュレーターの最初の投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の後、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、更により好ましくは少なくとも24時間、更により多く好ましくは少なくとも36時間、最も好ましくは少なくとも48時間に適用される。別の例として、(処置サイクルにおいて又は一般に)免疫チェックポイントモジュレーターの最終投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の最終投与後、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、更により好ましくは少なくとも24時間、より好ましくは少なくとも36時間、最も好ましくは少なくとも48時間に適用される。最も好ましくは、(処置サイクルにおいて又は一般に)免疫チェックポイントモジュレーターの各投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の各投与後、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、更により好ましくは少なくとも24時間、更に好ましくはの少なくとも36時間、最も好ましくは少なくとも48時間に適用される。従って、(治療サイクルにおいて又は一般に)(i)免疫チェックポイントモジュレーターの最初の投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片の最初の投与後、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、更により好ましくは少なくとも24時間、更により好ましくは少なくとも36時間、最も好ましくは少なくとも48時間に適用され、かつ(ii)免疫の最終投与チェックポイントモジュレーターの最終投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片の最終投与後、少なくとも6時間、好ましくは少なくとも12時間、より好ましくは少なくとも18時間、更により好ましくは少なくとも24時間、更により好ましくは少なくとも36時間、最も好ましくは少なくとも48時間に適用される。
また、免疫チェックポイントモジュレーターは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の後、96時間以内、好ましくは84時間以内、より好ましくは72時間以内、最も好ましくは60時間以内に投与されることが好ましい。換言すれば、好ましい実施態様では、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の投与(最初に投与される)と免疫チェックポイントモジュレーターの投与(抗体の後に投与される)の間の間隔は、96時間以内、好ましくは84時間以内、より好ましくは72時間以内、最も好ましくは60時間以内である。例えば、(処置サイクルにおいて又は一般に)免疫チェックポイントモジュレーターの最初の投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の最初の投与後、96時間以内、好ましくは84時間以内、より好ましくは72時間以内、最も好ましくは60時間以内に適用される。別の例として、(治療サイクルにおいて又は一般に)免疫チェックポイントモジュレーターの最終投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の最終投与後、96時間以内、好ましくは84時間以内、より好ましくは72時間以内、及び最も好ましくは60時間以内に適用される。最も好ましくは、(処置サイクルにおいて又は一般に)免疫チェックポイントモジュレーターの各投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の各投与後、96時間以内、好ましくは84時間以内、より好ましくは72時間以内、最も好ましくは60時間以内に適用される。従って、(治療サイクルにおいて又は一般に)(i)免疫チェックポイントモジュレーターの最初の投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の最初の投与後、96時間以内、好ましくは84時間以内、より好ましくは72時間以内、最も好ましくは60時間以内に適用され、かつ(ii)免疫チェックポイントモジュレーターの最終投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片の最終投与後、96時間以内、好ましくは84時間以内、より好ましくは72時間以内、最も好ましくは60時間以内に適用されることが特に好ましい。
最も好ましくは、(処置サイクルにおいて又は一般に)(i)免疫チェックポイントモジュレーターの最初の投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片の投与後、12〜96時間、好ましくは24〜84時間、より好ましくは36〜72時間、最も好ましくは48〜60時間で適用され、及び/又は(ii)免疫チェックポイントモジュレーターの最終投与は、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片の最終投与後、12〜96時間、好ましくは24〜84時間、より好ましくは36〜72時間、最も好ましくは48〜60時間で適用される。
本発明者等は、驚くべきことに、ここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体によるT細胞活性化後の免疫チェックポイント分子の発現の増加を見出した。本出願の実施例2に示されるように、ここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体によるT細胞活性化は、免疫チェックポイント分子、特に上記のように阻害性免疫チェックポイントの「リーダー」と考えられるCTLA−4の発現を増加させ、抗体投与後48〜72時間でピークに達した。これらの知見に鑑みると、がん及び腫瘍疾患の治療において重要である、ここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体のT細胞活性化は、免疫チェックポイント分子の発現が増加するか又はピークにさえなるときに免疫チェックポイントモジュレーターがその作用を発揮するならば、特に延長されうる。上記の好ましい投与順序(最初に抗体、その後に免疫チェックポイントモジュレーター)と時間間隔はこれらの知見に基づいており、T細胞の活性化の延長、よってがん及び/又は腫瘍疾患の治療において効力の増加をもたらすと予想される投与スケジュールを表す。
好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターと本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体は、治療的有効量で投与される。ここで使用される「治療的に有効な量」は、治療されている疾患又は状態の症状の緩和に又は疾患の進行を阻害し又は遅延させるのに十分な量である。言い換えれば、「治療的に有効な量」は、疾患又は障害の正の改変を有意に誘導するのに十分なT細胞リダイレクティング多機能抗体及び/又はチェックポイントモジュレーターの量、すなわち、組織、系、動物又はヒトにおいて求められている生物学的又は医薬的応答を誘発するT細胞リダイレクティング多機能抗体及び/又はチェックポイントモジュレーターの量を意味する。その用語はまた疾患の進行を減少させ、特に腫瘍増殖を低減させ又は阻害し、それによって求められている(免疫)応答を誘発するのに十分なT細胞リダイレクティング多機能抗体及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの量(「阻害有効量」)をまた含む。しかしながら、同時に、「治療的に有効な量」は、好ましくは重篤な副作用を回避するのに、すなわち、利益とリスクの間の合理的な関係を可能にするのに十分少ない。これら限界の決定は典型的には合理的な医学的判断の範囲内にある。T細胞リダイレクティング多機能抗体及び/又はチェックポイントモジュレーターの「治療的に有効な量」は、更に、治療される特定のがん状態及び治療される患者の年齢及び身体状態、体重、一般的健康、性別、食事、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、特定の成分(チェックポイントモジュレーター及びT細胞リダイレクティング多機能抗体)の活性、状態の重篤度、治療期間、付随する治療法の性質、使用される特定の薬学的に許容される担体の性質、及び主治医の知識と経験内の類似の要因に関連して変わるであろう。
従って、個体へ単回又は複数回用量として投与される投薬量は、薬物動態特性、対象の状態及び特徴(性別、年齢、体重、健康、サイズ)、症状の程度、併用治療、治療頻度及び所望される効果を含む様々な要因に依存して変わる。
好ましくは、がん治療では、本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体の治療的に有効な単回用量は、約0.001mg〜10mg、好ましくは約0.01mg〜5mg、より好ましくは1注射当たり約0.1mg〜2mg、又は1注射当たり約1nmol〜1mmol、特に1注射当たり10nmol〜100μmol、好ましくは1注射当たり0.1μmol〜10μmolである。本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体の治療的に有効な用量が(体重1kg当たり)、特にがん治療の場合では、約0.01μg/kg〜100μg/kg、好ましくは約0.1μg/kg〜50μg/kg、より好ましくは約1μg/kg〜25μg/kg、更により好ましくは約2μg/kg〜20μg/kg、最も好ましくは約2.5μg/kg〜5μg/kgである。
より好ましくは、ここに記載のT細胞リダイレクティング性多機能抗体又はその抗原結合性断片は、0.1〜5000mgの範囲の単回用量、好ましくは1〜1000μgの範囲の単回用量、より好ましくは2μg〜750μgの範囲の単回用量、更により好ましくは3μg〜700μgの範囲の単回用量、なおより好ましくは5μg〜600μgの範囲の単回用量、最も好ましくは10μg〜500μgの範囲の単回用量で投与される。
本発明の文脈において、「単回用量」(又は「各用量」)は、一投与時に一人の患者に投与される個々の用量である。
最も好ましくは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片は、1mg以下、好ましくは0.9mg以下、より好ましくは0.8mg以下、更により好ましくは0.75mg以下、なおより好ましくは0.6mg以下、最も好ましくは0.5mg以下の単回用量で投与される。
好ましくは、抗体又はその抗原結合断片の初期用量は、0.5〜200μg、好ましくは1〜150μg、より好ましくは2〜100μg、最も好ましくは5〜70μgの範囲である。初回用量は、最初の投与の単回用量、好ましくは1回の治療サイクルの最低用量である。
好ましくは、抗体又はその抗原結合断片の最初のその後の用量レベルは、好ましくは1.1〜10.0倍、より好ましくは1.2〜5.0倍、更に好ましくは1.5〜3.0倍、初期用量レベル(初期用量として投与される量)を超え、場合によっては、第二回目の後続用量レベルとその後の各用量レベルは、1.1〜10.0倍、好ましくは1.5〜5.0倍、初期用量レベル(初期投与量として投与)を超える。
抗体又はその抗原結合断片の最大用量(治療サイクル内)は、好ましくは、25μg〜1000μg、好ましくは50μg〜750μg、より好ましくは75μg〜500μgの範囲から選択される。
好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターの治療的に有効な用量は、(体重1kg当たり)、特にがん治療では、約0.01mg/kg〜100mg/kg、好ましくは約0.05mg/kg〜50mg/kg、より好ましくは約0.1mg/kg〜25mg/kg、更により好ましくは約0.5mg/kg〜15mg/kg、最も好ましくは約1mg/kg〜10mg/kgである。
本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体と本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターは、様々な投与経路によって、例えば、全身的又は局所的に投与されうる。全身投与のための経路には、一般に、例えば、皮下、静脈内、筋肉内、動脈内、皮内及び腹腔内経路及び/又は鼻腔内投与経路を含む、経皮、経口及び非経口経路が含まれる。局所投与のための経路には、一般に、例えば、外用投与経路が含まれるが、腫瘍内投与のような苦痛部位への直接投与も含まれる。
好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体と本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターは非経口投与経路によって投与される。より好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体と本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターは、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、鼻腔内、又は結節内経路によって投与される。更により好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体と本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターは、静脈内及び/又は皮下に投与される。
好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体と本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターは、同じ投与経路によって、好ましくは同じ非経口投与経路によって、より好ましくは静脈内又は皮下に投与される。
しかしながら、本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体と本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターは、別個の投与経路によって、好ましくは別個の非経口投与経路によって投与されることがまた好ましく、より好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターが静脈内投与され、本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体が、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、又は結節内経路によって投与され、好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体が、皮下投与される。
本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体と、本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターは、同じ組成物又は別個の組成物で提供されうる。
好ましくは、本発明に係る使用のための組み合わせに含められるT細胞リダイレクティング多機能抗体と、本発明に係る使用のための組み合わせに含められる免疫チェックポイントモジュレーターは、別個の組成物で提供される。従って、異なる他の成分、例えば異なるビヒクルを、T細胞リダイレクティング多機能抗体とチェックポイントモジュレーターのために使用することができる。更に、T細胞リダイレクティング多機能抗体と免疫チェックポイントモジュレーターは、異なる投与経路によって投与することができ、用量(特に用量の関係)を実際の必要性に応じて調整することができる。
しかし、免疫チェックポイントモジュレーター及びT細胞リダイレクティング多機能抗体が同じ組成物で提供されることがまた好ましい。免疫チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体の両方を含むそのような組成物は、以下により詳細に記載される(「本発明に係る組成物」)。
組成物が免疫チェックポイントモジュレーターのみ(T細胞リダイレクティング多機能抗体は含まない)、T細胞リダイレクティング多機能抗体のみ(チェックポイントモジュレーターは含まない)又はその両方を含むかどうかにかかわらず、そのような組成物は薬学的組成物でありうる。
特に、免疫チェックポイントモジュレーターのみ(T細胞リダイレクティング多機能抗体は含まない)、T細胞リダイレクティング多機能抗体のみ(チェックポイントモジュレーターは含まない)又はその両方を含むそのような組成物は、好ましくは、薬学的に許容される担体及び/又はビヒクル、又は任意の賦形剤、緩衝液、安定剤、又は当業者によく知られた他の物質を場合によっては含む(薬学的)組成物である。
本発明の文脈において、薬学的に許容される担体は、典型的には、薬学的組成物の液体又は非液体の基剤を含む。ここで使用される「適合性のある」という用語は、薬学的組成物のこれらの構成成分が、典型的な使用条件下で薬学的組成物の薬学的効果を実質的に低減させる相互作用が起こらないような形で、上記の抗体又はその抗原結合断片と混合することができることを意味する。薬学的に許容される担体及びビヒクルは、もちろん、それらを治療される対象への投与に適したものにするために、十分に高い純度と十分に低い毒性を有していなければならない。
好ましくは、薬学的組成物は、凍結乾燥粉末の形態又は液体組成物、好ましくは水溶液の形態である。従って、本発明の薬学的組成物は、乾燥した凍結乾燥粉末として又はより好ましくは溶液(ビヒクルに溶解)で提供されうる。製造者により凍結乾燥粉末として提供される場合、それは投与の直前に適切な溶液(水溶液;例えば、場合によってはPBSなどの緩衝化された、注射用水又は生理食塩水)に通常溶解される。液体医薬のバイアルは、単回使用又は複数回使用用でありうる。
別の好ましい実施態様では、チェックポイントモジュレーター、T細胞リダイレクティング多機能抗体、及び/又は(その一方又は両方を含む)薬学的組成物は凍結乾燥されない。従って、チェックポイントモジュレーター、T細胞リダイレクティング多機能抗体及び/又は(その一方又は両方を含む)薬学的組成物は、凍結乾燥されるのではなく、溶液、好ましくは水溶液、より好ましくは水性緩衝液で提供されることが好ましい。
従って、薬学的組成物が液体形態で提供されることが特に好ましい。従って、薬学的に許容される担体は、典型的には、一又は複数の(適合性のある)薬学的に許容される液体担体を含むであろう。(適合性のある)薬学的に許容される液体担体の例は、発熱物質を含まない水、等張性生理食塩水又は緩衝化(水)溶液、例えばクエン酸緩衝溶液;ポリオール、例えばポリプロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール;アルギン酸、PLGAのような更なる無機又は有機ポリマーを、好ましくは本活性薬剤に徐放性効果をもたらすために含む。好ましくは、液体薬学的組成物において、担体は、発熱物質を含まない水、等張性生理食塩水又は緩衝化(水)溶液、例えば、リン酸、クエン酸等の緩衝溶液でありうる。特に薬学的組成物の注入又は滴下のために、水又は好ましくは緩衝液、より好ましくはクエン酸緩衝液などの水性緩衝液を使用することができる。
従って、薬学的組成物は、緩衝液、好ましくは有機酸緩衝液(すなわち、有機酸に基づく緩衝液)、例えばクエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液及び酒石酸緩衝液を含むことが好ましく、より好ましくは、薬学的組成物はクエン酸緩衝液を含む。よって、有機酸緩衝液は、好ましくは、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酒石酸緩衝液、及びリン酸−クエン酸緩衝液からなる群から選択され、より好ましくは、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液及び酒石酸緩衝液からなる群から選択される。緩衝液がクエン酸緩衝液であることが特に好ましい。一般に、緩衝液は、ナトリウム塩、好ましくは少なくとも30mMのナトリウム塩、カルシウム塩、好ましくは少なくとも0.05mMのカルシウム塩、及び/又は場合によってはカリウム塩、好ましくは少なくとも1mMのカリウム塩を(また)含みうる。ナトリウム、カルシウム及び/又はカリウム塩は、それらのハロゲン化物の形態、例えば塩化物、ヨウ化物、又は臭化物、それらの水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、又は硫酸塩等々の形態で存在していてもよい。限定するものではないが、ナトリウム塩の例には例えばNaCl、NaI、NaBr、Na2CO3、NaHCO3、Na2SO4が含まれ、任意のカリウム塩の例には例えばKCl、KI、KBr、K2CO3、KHCO3、K2SO4が含まれ、カルシウム塩の例には、例えばCaCl2、CaI2、CaBr2、CaCO3、CaSO4、Ca(OH)2が含まれる。更に、前記カチオンの有機アニオンが緩衝液中に含められてもよい。
薬学的組成物はまた生理食塩水(0.9%NaCl)、乳酸リンゲル液又はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を含みうる。例えば、薬学的組成物は、上記の有機酸緩衝液、好ましくはクエン酸緩衝液のような適当な緩衝液中の抗体又はその抗原結合断片の原液として提供することができ、投与直前にその原液を生理食塩水(0.9%NaCl)、乳酸リンゲル液又はPBSで希釈して、投与される抗体濃度を達成してもよい。
更に、治療される対象への投与に適した、一又は複数の適合性のある固体又は液体充填剤又は希釈剤又はカプセル化化合物をまた薬学的組成物に使用することもできる。薬学的組成物に含められうる化合物の更なる例には、糖、例えば、ラクトース、グルコース及びスクロース;デンプン、例えばトウモロコシデンプン又はジャガイモデンプン;セルロースとその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロース;トラガント末;麦芽;ゼラチン;獣脂;固体流動促進剤、例えばステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム;硫酸カルシウム;植物油、例えば、落花生油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びカカオ脂;ポリオール、例えばポリプロピレングリコール、グリセロール、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール;アルギン酸が含まれる。また、必要に応じて、保存料、安定剤、抗酸化剤及び/又は他の添加剤を含めることができる。従って、薬学的組成物は、Tween(登録商標)80又はTween(登録商標)20のような安定化剤も含みうる。場合によっては、ここに記載の抗体又はその抗原結合断片に徐放性を付与する賦形剤もまた薬学的組成物に含めることができる。
好ましい実施態様では、薬学的組成物は、(i)ここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片又はここに記載の免疫チェックポイントモジュレーター;(ii)ここに記載の緩衝液;及び場合によっては(iii)注射用水、生理食塩水及び/又はPBSに加えて、更なる成分を含まない。
ここに記載の組成物、特に薬学的組成物は、反復投与による送達に適合させることができる。
組成物、特に薬学的組成物の文脈で、又はそれらの調製の文脈で有用な更なる材料並びに製剤処理技術等々は、“Part 5 of Remington’s “The Science and Practice of Pharmacy”, 22版, 2012, University of the Sciences in Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins”に記載されている。
処置される対象は、好ましくはヒト又は非ヒト動物、特に哺乳動物又はヒトである。より好ましくは、治療される対象は好ましくはヒトである。好ましくは、対象はがんと診断された患者である。例えば、若年(15歳未満)又は高齢(60歳以上)の患者を本発明に従って治療することができる。高齢の患者にとっては、医師を必要とする経路によって薬物を投与することが特に有利であり、それによってコンプライアンスが保証される。同時に、投与は好ましくは無痛でなければならない。
一般に、好ましくは免疫抑制治療を受けていないがん疾患を有する患者が、年齢に関係なく、本発明に係るT細胞リダイレクティング多機能抗体と免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせの使用により特に利益を得ることができる。
[グルココルチコイドとの併用]
好ましくは、ここに記載の本発明に係る使用のための組み合わせは、
(iii)グルココルチコイド
を更に含む。
換言すれば、本発明に係る好ましい組み合わせは、がん疾患の治療的処置における使用のために、
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと
(ii)(単離された)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片であって
(a)T細胞表面抗原に対する特異性;
(b)がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性;及び
(c)ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位
を含み、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIに対してより高い親和性で結合する抗体又はその抗原結合断片と
(iii)グルココルチコイドと
を含む。
上記の免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい実施態様、上記のT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片の好ましい実施態様、並びに上記の組み合わせ又はその使用の好ましい実施態様(例えば、調製物、処置される疾患、投与等々に関する)は、従って、グルココルチコイドを更に含む本発明に係る組み合わせに適用されることが理解される。
グルココルチコイド(GC)は、グルココルチコイド受容体に結合するコルチコステロイドの一クラスである。GCは、炎症の軽減などの免疫機能の所定の態様を減少させる免疫系におけるフィードバック機構の一部である。GCはがん細胞における異常な機序の幾つかを妨害することはよく知られており、よってGCは所定のタイプのがん(例えば、GCがリンパ球増殖に抑制効果を発揮するリンパ腫や白血病など)を治療するために高用量で使用されるが、本発明の文脈においては、グルココルチコイドは、がん又は腫瘍疾患自体を治療するために投与されるのではなく、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片、及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの有害な副作用を低減させるためである。従って、本発明の文脈では、グルココルチコイドは、(i)がんのスタンドアロン処置としてでも、又は(ii)C−MOPP(シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジン及びプレドニゾン)、CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニゾン)、m−BACOD(メトトレキサート、ブレオマイシン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、デキサメタゾン及びロイコボリン)及びMACOP−B(メトトレキセート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾン、ブレオマイシン及びロイコボリン)のようながんを治療するための化学療法レジメンの一部として投与されるものでもない。特に、本発明に係る組み合わせは、好ましくは、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジン、ドキソルビシン、メトトレキサート、及びブレオマイシンなどの(更なる)化学療法剤を含まない。更に、本発明に係る組み合わせで治療されるがん疾患は、特に、本発明に係る組み合わせがグルココルチコイドを含む場合、リンパ腫及び/又は白血病を含まない場合がある。換言すれば、好ましくは、リンパ腫及び/又は白血病以外のがん疾患は、特にそれがグルココルチコイドを含む場合、本発明に係る組み合わせで治療されうる。
好ましくは、グルココルチコイドは、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コルチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン及びブデノシド(budenoside)からなる群から選択される。
最も好ましくは、グルココルチコイドはデキサメタゾンである。デキサメタゾンは非常に強いグルココルチコイド活性を示すが、ミネラロコルチコイド活性は本質的に存在しない。従って、デキサメタゾンは非常に強力なグルココルチコイドである。更に、デキサメタゾンは、長期持続性効果(生物学的半減期36〜54時間)を有するグルココルチコイドであり、よって長期持続性又は連続的なグルココルチコイド活性を必要とする治療に特に適している。多くの他の用途の中でも、デキサメタゾンは、心不全又は筋緊張亢進を患う患者にも特に適している。また、デキサメタゾンの強力な消炎及び免疫抑制(抗アレルギー)活性が治療上重要である。更に、デキサメタゾンのi.v.注射後、数分以内に最大血漿濃度に達することは好都合である。
好ましくは、グルココルチコイドは、静脈内(i.v.)又は経口(p.o.)投与される。
グルココルチコイドの用量は、典型的には、使用されるグルココルチコイドのタイプに応じて選択される。デキサメタゾンの場合、単回投与量は、好ましくは1〜100mg、より好ましくは2〜80mg、更により好ましくは5〜70mg、最も好ましくは10〜50mg、例えば10mg、20mg又は40mg、特に好ましくは10又は20mgである。プレドニゾロン又はプレドニゾンの場合、用量は、典型的には、その効力が低いために高くなる。例えば、プレドニゾロン又はプレドニゾンの単回用量は、好ましくは50〜500mgの範囲、より好ましくは100〜400mgの範囲、更により好ましくは150〜300mgの範囲、最も好ましくは200〜250mgの範囲である。当業者であれば、様々なグルココルチコイドのよく知られたグルココルチコイド効力に基づいて、他のグルココルチコイドについて同様の用量範囲を容易に想起することができる。例えば、ベタメタゾンはデキサメタゾンと本質的に同じグルココルチコイド活性を示し、従って本質的に同じ用量で投与される一方、例えばプレドニリデンはプレドニゾン及びプレドニゾロンと本質的に同じグルココルチコイド活性を示し、従って本質的に同じ用量で投与されるであろう。
一般に、グルココルチコイドは、T細胞リダイレクティング多機能抗体、又はその抗原結合断片、及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの前に;T細胞リダイレクティング多機能抗体、又はその抗原結合断片、及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターとほぼ同時に;又はT細胞リダイレクティング多機能抗体、又はその抗原結合断片、及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの後に、投与されうる。好ましくは、グルココルチコイドは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片の投与前、及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの投与前に投与される。従って、グルココルチコイドは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片の投与前の6時間以内、好ましくは5時間以内、より好ましくは4時間以内、更により好ましくは3時間以内、更により好ましくは2時間以内、最も好ましくは1時間以内に、及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの投与前の6時間以内、好ましくは5時間以内、より好ましくは4時間以内、更により好ましくは3時間以内、更により好ましくは2時間以内、最も好ましくは1時間以内に、投与されることが好ましい。
例えば、上記のようなT細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)及び免疫チェックポイントモジュレーターの投与の好ましい実施態様と組み合わせて、特に好ましい実施態様では、最初にグルココルチコイドが投与され、これに、例えばグルココルチコイド投与後の1又は2時間以内に投与されうるT細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)が続き、その後、免疫チェックポイントモジュレーターが、T細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合性断片)の投与の、例えば少なくとも6時間後、好ましくは少なくとも12時間後、より好ましくは少なくとも24時間後、更により好ましくは少なくとも36時間後及び最も好ましくは少なくとも48時間後に投与される。場合によっては、グルココルチコイドは、従って、免疫チェックポイントモジュレーターの投与前に、例えば免疫チェックポイントモジュレーターの投与前の1又は2時間以内に投与されうる。
T細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの反復投与を必要とする処置スケジュールでは、グルココルチコイドは、好ましくは、少なくとも抗体/チェックポイントモジュレーターの用量が増加される前に(例えば、漸増する投薬レジメンにおける各用量レベルの初回投与時に)投与される。より好ましくは、グルココルチコイドは、T細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの各投与の前に投与される。従って、投与スケジュールの上記の特に好ましい実施態様は、好ましくは、例えばT細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)及び/又は免疫チェックポイントモジュレーターの初回及び/又は最終投与を含む、各抗体/チェックポイントモジュレーター投与に適用される。
また、グルココルチコイドは、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片とほぼ同時に投与され、及び/又はグルココルチコイドは、免疫チェックポイントモジュレーターとほぼ同時に投与されることが好ましい。それにより、「ほぼ同時に」という語句は、(本出願を通じて当てはまる)上で定義されたものと同じ意味を有する。
[本発明に係る使用のためのキット]
更なる態様では、本発明はまた、特にヒト対象における、がん疾患の治療的処置における使用のための、
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと
(ii)(単離された)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片であって
(a)T細胞表面抗原に対する特異性;
(b)がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性;及び
(c)ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位
を含み、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIに対してより高い親和性で結合する抗体又はその抗原結合断片と
を含むキット、特にキットオブパーツを提供する。
特に、本発明に係る使用のためのそのようなキットは、(i)(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記の免疫チェックポイントモジュレーターと(ii)(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のT細胞リダイレクティング多機能抗体とを含む。更に、そのようなキットは、特に上記のようなヒト対象における、上記のようながん疾患の治療的処置における使用のためのものである。換言すれば、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のような免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい実施態様もまた本発明のキットにおいて好ましい。従って、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のようなT細胞リダイレクティング多機能抗体の好ましい実施態様もまた本発明に係るキットにおいて好ましい。更に、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のようながん疾患の治療的処置における使用の好ましい実施態様はまた本発明のキットにとって好ましい。
例えば、免疫チェックポイントモジュレーター及び/又はT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片は、上記のように、同じ組成物又は別個の組成物で提供されうる。
更に、上記のようなT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片の好ましい単回用量に基づいて、T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合性断片は、好ましくは本発明に係るキットに単回用量で提供され、ここで、各単回用量は1mgを超えず、好ましくは各単回用量は0.9mgを超えず、より好ましくは各単回用量は0.8mgを超えず、更により好ましくは各単回用量は0.75mgを超えず、最も好ましくは各単回用量は0.5mgを超えない。
加えて、本発明に係るキットは、好ましくは、
(iii)グルココルチコイド
を含む。再びこれに関連して、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のグルココルチコイドの好ましい実施態様もまた本発明に係るキットに好ましい。例えば、グルココルチコイドは、好ましくは、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コルチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン及びブデノシドからなる群から選択され、最も好ましくはグルココルチコイドは上記のデキサメタゾンである。
キットの様々な成分は一又は複数の容器に包装されうる。上記の成分は、凍結乾燥形態又は乾燥形態で提供されうるか、又は適切な緩衝液中に溶解されうる。例えば、キットは、上記のような免疫チェックポイントモジュレーターを含む(薬学的)組成物と上記のようなT細胞リダイレクティング多機能抗体を含む(薬学的)組成物とを含み得、例えば各組成物を別々の容器に含む。キットはまた上記のように、免疫チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体の両方を含む(薬学的)組成物を含みうる。
キットは、例えば、上記の成分の保存及び/又は再構成のための緩衝液、洗浄溶液等々を含む追加の試薬をまた含みうる。
加えて、本発明に係るキットオブパーツは、場合によっては使用説明書を含みうる。好ましくは、キットは、免疫チェックポイントモジュレーターとT細胞リダイレクティング多機能抗体との組み合わせを使用することにより、ここに記載のがん疾患を治療するための指示を含む添付文書又はラベルを更に含む。場合によっては、組み合わせ(よってキットの添付文書又はラベルの指示)は、(iii)上記のようなグルココルチコイドを更に含みうる。特に、上記のような本発明に係る組み合わせを使用するための指示は、上記の投与レジメン、特にその好ましい実施態様を含みうる。
[本発明に係る使用のための組成物]
更なる態様では、本発明はまた
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと
(ii)(単離された)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片であって
(a)T細胞表面抗原に対する特異性;
(b)がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性;及び
(c)ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位
を含み、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIに対してより高い親和性で結合する抗体又はその抗原結合断片と
を含む組成物を提供する。
特に、本発明に係るそのような組成物は、(i)(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記の免疫チェックポイントモジュレーターと(ii)(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のT細胞リダイレクティング多機能抗体とを含む。言い換えれば、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記の免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい実施態様もまた本発明に係る組成物において好ましい。従って、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のT細胞リダイレクティング多機能抗体の好ましい実施態様もまた本発明に係る組成物において好ましい。
更に、上記のような免疫チェックポイントモジュレーターと上記のようなT細胞リダイレクティング多機能抗体を含む組成物及びそのような組成物の好ましい実施態様は(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈において)上に記載の通りである。同じ説明、特に組成物について上に記載したものと同じ好ましい実施態様が、ここに記載の組成物に従って適用されることが理解される。
例えば、本発明に係る組成物は、好ましくは、
(iii)グルココルチコイド
を含む。これに関連して、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のグルココルチコイドの好ましい実施態様もまた本発明に係る組成物に好ましい。例えば、グルココルチコイドは、好ましくは、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コルチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン及びブデノシドからなる群から選択され、最も好ましくはグルココルチコイドは上記のデキサメタゾンである。
好ましくは、組成物は、医薬における使用のためのものであり、より好ましくは、組成物は、特にヒト対象における、がん疾患の治療的処置における使用のためのものである。従って、そのような組成物は、特に上記のようなヒト対象において、上記のようながん疾患の治療的処置に使用するためのものである。換言すれば、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のようながん疾患の治療的処置における使用の好ましい実施態様もまた本発明に係る組成物にとって好ましい。
従って、組成物は好ましくは薬学的に許容される担体を含む。そのような薬学的に許容される担体の好ましい例は上記の通りである。
(薬学的)組成物が、がん疾患に罹患している対象、好ましくはヒト対象を治療するための方法において使用されることもまた好ましい。
[本発明に係る方法及び併用療法]
更なる態様では、本発明は、それを必要とする対象においてがんを治療的に処置し、又は抗腫瘍応答を開始させ、増強しもしくは延長する方法であって、
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと
(ii)(単離された)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片であって
(a)T細胞表面抗原に対する特異性;
(b)がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性;及び
(c)ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位
を含み、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIに対してより高い親和性で結合する抗体又はその抗原結合断片と
を対象に投与することを含む方法を提供する。
特に、本発明に係るそのような方法は、(i)(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈において)上記のような免疫チェックポイントモジュレーターと(ii)(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈において)上記のようなT細胞リダイレクティング多機能抗体の投与を含む。更に、そのような方法は、特に上記のようなヒト対象における、上記のようながん疾患の治療的処置に有用である。換言すれば、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のような免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい実施態様が本発明に係る方法においてもまた好ましい。従って、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のようなT細胞リダイレクティング多機能抗体の好ましい実施態様もまた本発明に係る方法において好ましい。更に、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈において)上記のようながん疾患の治療的処置における使用の好ましい実施態様もまた本発明に係る方法にとって好ましい。
例えば、免疫チェックポイントモジュレーター及び/又はT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片は、上記のように同じ組成物で又は異なる組成物で提供されうる。別の例として、本発明に係る方法は、好ましくは、対象に、
(iii)グルココルチコイド
を投与することを含む。これに関連して、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上述のグルココルチコイドの好ましい実施態様もまた、本発明に係る方法に好ましい。例えば、グルココルチコイドは、好ましくは、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コルチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン及びブデノシドからなる群から選択され、最も好ましくはグルココルチコイドは上記のデキサメタゾンである。
好ましくは、対象は、がんと診断されたヒト対象である。
更に、本発明に係る組み合わせの文脈における上記した投与レジメンの好ましい実施態様もまた、本発明に係る方法に適用される。従って、(i)免疫チェックポイントモジュレーター、及び/又は(ii)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片、及び/又は場合によっては(iii)グルココルチコイドが、好ましくは上記のように投与される。
更なる態様では、本発明はまた対象におけるT細胞活性化を延長する方法であって、対象に、
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと
(ii)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片であって
(a)T細胞表面抗原に対する特異性;
(b)がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性;及び
(c)ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位
を含み、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIに対してより高い親和性で結合する抗体又はその抗原結合断片と
の組み合わせを対象に投与することを含む方法を提供する。
驚くべきことに本発明者等によって見出されたように、ここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)は、CTLA−4などの免疫チェックポイント分子の発現増加を誘導する(実施例2、図2参照)。すなわち、本出願の実施例2に示されるように、ここに記載されるT細胞リダイレクティング多機能抗体によるT細胞活性化は、免疫チェックポイント分子、特に上述のように阻害性免疫チェックポイントの「リーダー」と考えられるCTLA−4の発現を増加させた。一般に、ここに記載のT細胞リダイレクティング多機能抗体のT細胞活性化は、がん及び腫瘍疾患の治療において極めて重要である。CTLA−4のような免疫チェックポイント分子は、特にそれらの発現の増加のために、T細胞活性化に対抗する。従って、免疫チェックポイントモジュレーターの投与は、(免疫チェックポイントモジュレーターなしでは)抗体媒介性T細胞活性化を終結させる(又は少なくとも減少させる)であろう、免疫チェックポイント分子の発現の増加に対抗するので、T細胞リダイレクティング多機能抗体(又はその抗原結合断片)のT細胞活性化を延長する。
特に、本発明に係るそのような方法は、(i)(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のような免疫チェックポイントモジュレーターと(ii)(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のようなT細胞リダイレクティング多機能抗体と、場合によっては(iii)(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のようなグルココルチコイドとの投与を含む。換言すれば、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のような免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい実施態様もまた本発明に係る方法において好ましい。従って、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のようなT細胞リダイレクティング多機能抗体の好ましい実施態様もまた本発明に係る方法において好ましい。更に、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のようながん疾患の治療的処置における使用の好ましい実施態様はまた(例えば、好ましい投与レジメンを含む)本発明に係る方法に対して好ましい。
更なる態様では、本発明はまたがんを治療的に処置するための併用療法を提供し、ここで、併用療法は、
(i)免疫チェックポイントモジュレーターと
(ii)(単離された)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片であって
(a)T細胞表面抗原に対する特異性;
(b)がん及び/又は腫瘍関連抗原に対する特異性;及び
(c)ヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIのための結合部位
を含み、ヒトFcγRIIbに対してよりもヒトFcγRI、FcγRIIa及び/又はFcγRIIIに対してより高い親和性で結合する抗体又はその抗原結合断片と
の投与を含む。
そのような併用療法の好ましい実施態様は、上記のT細胞リダイレクティング多機能抗体の好ましい実施態様、上記のチェックポイントモジュレーターの実施態様、及び/又は(より一般的には)本発明に係る使用のための組み合わせの好ましい実施態様である。本発明に係るキット及び本発明に係る(薬学的)組成物は、本発明に係る方法及び/又は併用療法に使用されうる。
例えば、免疫チェックポイントモジュレーター及び/又はT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片は、上記のように同じ組成物で又は別個の組成物で提供されうる。別の例として、本発明に係る併用療法は、好ましくは、対象に、
(iii)グルココルチコイド
を投与することを含む。
これに関連してまた、(本発明に係る使用のための組み合わせの文脈における)上記のグルココルチコイドの好ましい実施態様もまた本発明に係る併用療法に好ましい。例えば、グルココルチコイドは、好ましくは、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、酢酸コルチゾン、プレドニリデン、デフラザコート、クロプレドノール、フルオコルトロン及びブデノシドからなる群から選択され、最も好ましくはグルココルチコイドは上記のようにデキサメタゾンである。
そのような併用療法で治療される対象は、本発明に係る使用のための組み合わせについて記載されたものと同じである。好ましくは、免疫チェックポイントモジュレーター及びT細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片は、ヒト対象に投与される。
更に、本発明に係る組み合わせの文脈において上記の投与レジメンの好ましい実施態様もまた本発明に係る併用療法に適用される。従って、(i)免疫チェックポイントモジュレーター、及び/又は(ii)T細胞リダイレクティング多機能抗体又はその抗原結合断片、及び/又は場合によっては(iii)グルココルチコイドは、好ましくは上記のように投与される。