本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
本開示の実施形態は、従来の中空導波管もしくはリッジ導波路を利用した導波路装置、またはアンテナ装置の改良を提供する。まず、リッジ導波路を利用した導波路装置の基本構成を説明する。
前述の特許文献2および非特許文献1等に開示されているリッジ導波路は、人工磁気導体として機能するワッフルアイアン構造中に設けられている。このような人工磁気導体を本開示に基づいて利用するリッジ導波路(以下、WRG:Waffle−iron Ridge waveGuideと称する場合がある。)は、マイクロ波またはミリ波帯において、損失の低いアンテナ給電路を実現できる。
図1は、このような導波路装置が備える基本構成の限定的ではない例を模式的に示す斜視図である。図1では、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。図示されている導波路装置100は、対向して平行に配置されたプレート状の第1の導電部材110および第2の導電部材120を備えている。第2の導電部材120には複数の導電性ロッド124が配列されている。
なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
図2Aは、導波路装置100のXZ面に平行な断面の構成を模式的に示す図である。図2Aに示されるように、導電部材110は、導電部材120に対向する側に導電性表面110aを有している。導電性表面110aは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に直交する平面(XY面に平行な平面)に沿って二次元的に拡がっている。この例における導電性表面110aは平滑な平面であるが、後述するように、導電性表面110aは平面である必要は無い。
図3は、わかりやすさのため、導電部材110と導電部材120との間隔を極端に離した状態にある導波路装置100を模式的に示す斜視図である。現実の導波路装置100では、図1および図2Aに示したように、導電部材110と導電部材120との間隔は狭く、導電部材110は、導電部材120の全ての導電性ロッド124を覆うように配置されている。
再び図2Aを参照する。導電部材120上に配列された複数の導電性ロッド124は、それぞれ、導電性表面110aに対向する先端部124aを有している。図示されている例において、複数の導電性ロッド124の先端部124aは同一平面上にある。この平面は人工磁気導体の表面125を形成している。導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも上面および側面に沿って拡がる導電層があればよい。この導電層はロッド状構造物の表層に位置してもよいが、表層が絶縁塗装または樹脂層からなり、ロッド状構造物の表面には導電層が存在していなくてもよい。また、導電部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。導電部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面が導電体によって電気的に接続されていればよい。言い換えると、導電部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、導電部材110の導電性表面110aに対向する凹凸状の導電層を有していればよい。
導電部材120上には、複数の導電性ロッド124の間にリッジ状の導波部材122が配置されている。より詳細には、導波部材122の両側にそれぞれ人工磁気導体が位置しており、導波部材122は両側の人工磁気導体によって挟まれている。図3からわかるように、この例における導波部材122は、導電部材120に支持され、Y方向に直線的に延びている。図示されている例において、導波部材122は、導電性ロッド124の高さおよび幅と同一の高さおよび幅を有している。後述するように、導波部材122の高さおよび幅は、導電性ロッド124の高さおよび幅とは異なる値を有していてもよい。導波部材122は、導電性ロッド124とは異なり、導電性表面110aに沿って電磁波を案内する方向(この例ではY方向)に延びている。導波部材122も、全体が導電性を有している必要は無く、導電部材110の導電性表面110aに対向する導電性の導波面122aを有していればよい。導電部材120、複数の導電性ロッド124、および導波部材122は、連続した単一構造体の一部であってもよい。さらに、導電部材110も、この単一構造体の一部であってもよい。
導波部材122の両側において、各人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間は、特定周波数帯域内の周波数を有する電磁波を伝搬させない。そのような周波数帯域は「禁止帯域」と呼ばれる。導波路装置100内を伝搬する電磁波(以下、「信号波」と称することがある。)の周波数(以下、「動作周波数」と称することがある。)が禁止帯域に含まれるように人工磁気導体は設計される。禁止帯域は、導電性ロッド124の高さ、すなわち、隣接する複数の導電性ロッド124の間に形成される溝の深さ、導電性ロッド124の幅、配置間隔、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間隙の大きさによって調整され得る。
次に、図4を参照しながら、各部材の寸法、形状、配置等の例を説明する。
図4は、図2Aに示す構造における各部材の寸法の範囲の例を示す図である。本明細書において、導電部材110の導電性表面110aと導波部材122の導波面122aとの間の導波路を伝搬する電磁波(信号波)の自由空間における波長の代表値(例えば、動作周波数帯域の中心周波数に対応する中心波長)をλ0とする。また、動作周波数帯域における最高周波数の電磁波の自由空間における波長をλmとする。各導電性ロッド124のうち、導電部材120に接している方の端の部分を「基部」と称する。図4に示すように、各導電性ロッド124は、先端部124aと基部124bとを有する。各部材の寸法、形状、配置等の例は、以下のとおりである。
(1)導電性ロッドの幅
導電性ロッド124の幅(X方向およびY方向のサイズ)は、λm/2未満に設定され得る。この範囲内であれば、X方向およびY方向における最低次の共振の発生を防ぐことができる。なお、XおよびY方向だけでなくXY断面の対角方向でも共振が起こる可能性があるため、導電性ロッド124のXY断面の対角線の長さもλm/2未満であることが好ましい。ロッドの幅および対角線の長さの下限値は、工法的に作製できる最小の長さであり、特に限定されない。
(2)導電性ロッドの基部から導電部材110の導電性表面までの距離
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電性ロッド124の高さよりも長く、かつλm/2未満に設定され得る。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの間において共振が生じ、信号波の閉じ込め効果が失われる。
導電性ロッド124の基部124bから導電部材110の導電性表面110aまでの距離は、導電部材110と導電部材120との間隔に相当する。例えば導波路をミリ波帯である76.5±0.5GHzの信号波が伝搬する場合、信号波の波長は、3.8923mmから3.9435mmの範囲内である。したがって、この場合、λmは3.8923mmとなるので、導電部材110と導電部材120との間隔は、3.8923mmの半分よりも小さく設定され得る。導電部材110と導電部材120とが、このような狭い間隔を実現するように対向して配置されていれば、導電部材110と導電部材120とが厳密に平行である必要はない。また、導電部材110と導電部材120との間隔がλm/2未満であれば、導電部材110および/または導電部材120の全体または一部が曲面形状を有していても良い。他方、導電部材110、120の平面形状(XY面に垂直に投影した領域の形状)および平面サイズ(XY面に垂直に投影した領域のサイズ)は、用途に応じて任意に設計され得る。
図2Aで示される例において、導電性表面120aは平面であるが、本開示の実施形態はこれに限られない。例えば、図2Bに示すように、導電性表面120aは断面がU字またはV字に近い形状である面の底部であっても良い。導電性ロッド124または導波部材122が、基部に向かって幅が拡大する形状をもつ場合に、導電性表面120aはこのような構造になる。このような構造であっても、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離が波長λmの半分よりも短ければ、図2Bに示す装置は、本開示の実施形態における導波路装置として機能し得る。
(3)導電性ロッドの先端部から導電性表面までの距離L2
導電性ロッド124の先端部124aから導電性表面110aまでの距離L2は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間を電磁波が往復する伝搬モードが生じ、電磁波を閉じ込められなくなるからである。なお、複数の導電性ロッド124のうち、少なくとも導波部材122と隣り合うものについては、先端が導電性表面110aとは電気的には接触していない状態にある。ここで、導電性ロッドの先端が導電性表面に電気的に接触していない状態とは、先端と導電性表面との間に空隙がある状態、あるいは、導電性ロッドの先端と導電性表面との少なくとも一方に絶縁層が存在し、導電性ロッドの先端と導電性表面とが絶縁層を介して接触している状態、のいずれかを指す。
(4)導電性ロッドの配列および形状
複数の導電性ロッド124のうちの隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間は、例えばλm/2未満の幅を有する。隣接する2つの導電性ロッド124の間の隙間の幅は、当該2つの導電性ロッド124の一方の表面(側面)から他方の表面(側面)までの最短距離によって定義される。このロッド間の隙間の幅は、ロッド間の領域で最低次の共振が起こらないように決定される。共振が生じる条件は、導電性ロッド124の高さ、隣接する2つの導電性ロッド間の距離、および導電性ロッド124の先端部124aと導電性表面110aとの間の空隙の容量の組み合わせによって決まる。よって、ロッド間の隙間の幅は、他の設計パラメータに依存して適宜決定される。ロッド間の隙間の幅には明確な下限はないが、製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、例えばλm/16以上であり得る。なお、隙間の幅は一定である必要はない。λm/2未満であれば、導電性ロッド124の間の隙間は様々な幅を有していてもよい。
複数の導電性ロッド124の配列は、人工磁気導体としての機能を発揮する限り、図示されている例に限定されない。複数の導電性ロッド124は、直交する行および列状に並んでいる必要は無く、行および列は90度以外の角度で交差していても良い。複数の導電性ロッド124は、行または列に沿って直線上に配列されている必要は無く、単純な規則性を示さずに分散して配置されていても良い。各導電性ロッド124の形状およびサイズも、導電部材120上の位置に応じて変化していて良い。
複数の導電性ロッド124の先端部124aが形成する人工磁気導体の表面125は、厳密に平面である必要は無く、微細な凹凸を有する平面または曲面であってもよい。すなわち、各導電性ロッド124の高さが一様である必要はなく、導電性ロッド124の配列が人工磁気導体として機能し得る範囲内で個々の導電性ロッド124は多様性を持ち得る。
導電性ロッド124は、図示されている角柱形状に限らず、例えば円筒状の形状を有していてもよい。さらに、導電性ロッド124は単純な柱状の形状を有している必要はない。人工磁気導体は、導電性ロッド124の配列以外の構造によっても実現することができ、多様な人工磁気導体を本開示の導波路装置に利用することができる。なお、導電性ロッド124の先端部124aの形状が角柱形状である場合は、その対角線の長さはλm/2未満であることが好ましい。楕円形状であるときは、長軸の長さがλm/2未満であることが好ましい。先端部124aがさらに他の形状をとる場合でも、その差し渡し寸法は一番長い部分でもλm/2未満であることが好ましい。
導電性ロッド124の高さ、すなわち、基部124bから先端部124aまでの長さは、導電性表面110aと導電性表面120aとの間の距離(λm/2未満)よりも短い値、例えば、λ0/4に設定され得る。
(5)導波面の幅
導波部材122の導波面122aの幅、すなわち、導波部材122が延びる方向に直交する方向における導波面122aのサイズは、λm/2未満(例えばλ0/8)に設定され得る。導波面122aの幅がλm/2以上になると、幅方向で共振が起こり、共振が起こるとWRGは単純な伝送線路としては動作しなくなるからである。
(6)導波部材の高さ
導波部材122の高さ(図示される例ではZ方向のサイズ)は、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導電性ロッド124の基部124bと導電性表面110aとの距離がλm/2以上となるからである。同様に、導電性ロッド124(特に、導波部材122に隣接する導電性ロッド124)の高さについても、λm/2未満に設定される。
(7)導波面と導電性表面との間の距離L1
導波部材122の導波面122aと導電性表面110aとの間の距離L1については、λm/2未満に設定される。当該距離がλm/2以上の場合、導波面122aと導電性表面110aとの間で共振が起こり、導波路として機能しなくなるからである。ある例では、当該距離はλm/4以下である。製造の容易さを確保するために、ミリ波帯の電磁波を伝搬させる場合には、距離L1を、例えばλm/16以上とすることが好ましい。
導電性表面110aと導波面122aとの距離L1の下限、および導電性表面110aと導電性ロッド124の先端部124aとの距離L2の下限は、機械工作の精度と、上下の2つの導電部材110、120を一定の距離に保つように組み立てる際の精度とに依存する。プレス工法またはインジェクション工法を用いた場合、上記距離の現実的な下限は50マイクロメートル(μm)程度である。MEMS(Micro−Electro−Mechanical System)技術を用いて例えばテラヘルツ領域の製品を作る場合には、上記距離の下限は、2〜3μm程度である。
上記の構成を有する導波路装置100によれば、動作周波数の信号波は、人工磁気導体の表面125と導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬することはできず、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間の空間を伝搬する。このような導波路構造における導波部材122の幅は、中空導波管とは異なり、伝搬すべき電磁波の半波長以上の幅を有する必要はない。また、導電部材110と導電部材120とを厚さ方向(YZ面に平行)に延びる金属壁によって接続する必要もない。
図5Aは、導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙における幅の狭い空間を伝搬する電磁波を模式的に示している。図5Aにおける3本の矢印は、伝搬する電磁波の電界の向きを模式的に示している。伝搬する電磁波の電界は、導電部材110の導電性表面110aおよび導波面122aに対して垂直である。
導波部材122の両側には、それぞれ、複数の導電性ロッド124によって形成された人工磁気導体が配置されている。電磁波は導波部材122の導波面122aと導電部材110の導電性表面110aとの間隙を伝搬する。図5Aは、模式的であり、電磁波が現実に作る電磁界の大きさを正確には示していない。導波面122a上の空間を伝搬する電磁波(電磁界)の一部は、導波面122aの幅によって区画される空間から外側(人工磁気導体が存在する側)に横方向に拡がっていてもよい。この例では、電磁波は、図5Aの紙面に垂直な方向(Y方向)に伝搬する。このような導波部材122は、Y方向に直線的に延びている必要は無く、不図示の屈曲部および/または分岐部を有し得る。電磁波は導波部材122の導波面122aに沿って伝搬するため、屈曲部では伝搬方向が変わり、分岐部では伝搬方向が複数の方向に分岐する。
図5Aの導波路構造では、伝搬する電磁波の両側に、中空導波管では不可欠の金属壁(電気壁)が存在していない。このため、この例における導波路構造では、伝搬する電磁波が作る電磁界モードの境界条件に「金属壁(電気壁)による拘束条件」が含まれず、導波面122aの幅(X方向のサイズ)は、電磁波の波長の半分未満である。
図5Bは、参考のため、中空導波管130の断面を模式的に示している。図5Bには、中空導波管130の内部空間132に形成される電磁界モード(TE10)の電界の向きが矢印によって模式的に表されている。矢印の長さは電界の強さに対応している。中空導波管130の内部空間132の幅は、波長の半分よりも広く設定されなければならない。すなわち、中空導波管130の内部空間132の幅は、伝搬する電磁波の波長の半分よりも小さく設定され得ない。
図5Cは、導電部材120上に2個の導波部材122が設けられている形態を示す断面図である。このように隣接する2個の導波部材122の間には、複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置されている。より正確には、各導波部材122の両側に複数の導電性ロッド124によって形成される人工磁気導体が配置され、各導波部材122が独立した電磁波の伝搬を実現することが可能である。
図5Dは、参考のため、2つの中空導波管130を並べて配置した導波路装置の断面を模式的に示している。2つの中空導波管130は、相互に電気的に絶縁されている。電磁波が伝搬する空間の周囲が、中空導波管130を構成する金属壁で覆われている必要がある。このため、電磁波が伝搬する内部空間132の間隔を、金属壁の2枚の厚さの合計よりも短縮することはできない。金属壁の2枚の厚さの合計は、通常、伝搬する電磁波の波長の半分よりも長い。したがって、中空導波管130の配列間隔(中心間隔)を、伝搬する電磁波の波長よりも短くすることは困難である。特に、電磁波の波長が10mm以下となるミリ波帯、あるいはそれ以下の波長の電磁波を扱う場合は、波長に比して十分に薄い金属壁を形成することが難しくなる。このため、商業的に現実的なコストで実現することが困難になる。
これに対して、人工磁気導体を備える導波路装置100は、導波部材122を近接させた構造を容易に実現することができる。このため、複数のアンテナ素子が近接して配置されたアレーアンテナ装置への給電に好適に用いられ得る。
本開示では、主に人工磁気導体を備えるリッジ導波路を用いた例を説明するが、一部の実施形態では、従来の中空導波管を利用することができる。そのような実施形態については、実施形態2の変形例として後述する。
次に、上記のような導波路構造を利用したスロットアレーアンテナ装置の構成例を説明する。「スロットアレーアンテナ装置」とは、アンテナ素子として複数のスロットを備えたアレーアンテナ装置を意味する。以下の説明では、スロットアレーアンテナ装置を単にアレーアンテナ装置と称することがある。
図6は、スロットアレーアンテナ装置300の構成例の一部を模式的に示す斜視図である。図7は、このスロットアレーアンテナ装置300におけるX方向に並ぶ2つのスロット112の中心を通るXZ面に平行な断面の一部を模式的に示す図である。このスロットアレーアンテナ装置300においては、第1の導電部材110が、X方向およびY方向に配列された複数のスロット112を有している。この例では、複数のスロット112は2つのスロット列を含む。各スロット列は、Y方向に等間隔に並ぶ6個のスロット112を含んでいる。第2の導電部材120には、2つの導波部材122が設けられている。各導波部材122は、1つのスロット列に対向する導電性の導波面122aを有する。2つの導波部材122の間の領域、および2つの導波部材122の外側の領域には、複数の導電性ロッド124が配置されている。これらの導電性ロッド124は、人工磁気導体を形成する。
各導波部材122と導電性表面110aとの間の導波路には、不図示の送信回路から電磁波が供給される。この例では、Y方向におけるスロット112の中心間隔は、導波路を伝搬する電磁波の波長と同じ値に設計される。このため、Y方向に並ぶ6個のスロット112から、位相の揃った電磁波が放射される。
図5Cを参照して説明したように、このような構造を有するスロットアレーアンテナ装置300によれば、従来の中空導波管を用いた導波路構造と比較して、2つの導波部材122の間隔を狭くすることができる。
図8は、隣接する2つの導波部材122の間に1列のロッドが配列されたスロットアレーアンテナ装置300の構成を模式的に示す斜視図である。図9は、このスロットアレーアンテナ装置300におけるX方向に並ぶ3つのスロット112の中心を通るXZ面に平行な断面の一部を模式的に示す図である。
図8の構成では、図6の構成と比較して、隣接する2つの導波部材122の間の導電性ロッド124の列数が少ない(すなわち、1列)。このため、複数の導波部材122の相互の間隔、およびX方向のスロット間隔を短縮し、X方向において、スロットアレーアンテナ装置300のグレーティングローブの発生する方位を、中心方向から離すことができる。周知のように、アンテナ素子の配列間隔(即ち、隣接する2つのアンテナ素子の中心間隔)が、使用する電磁波の波長の半分よりも大きくなると、アンテナの可視領域内にグレーティングローブが現れる。アンテナ素子の配列間隔がさらに広がると、グレーティングローブの生じる方位が主ローブの方位に近づく。グレーティングローブの利得は、セカンドローブの利得よりも高く、主ローブの利得と同等である。このため、グレーティングローブの発生は、レーダの誤検知および通信アンテナの効率の低下を招く。そこで、図8の構成例では、隣り合う2つの導波部材122の間の導電性ロッド124の列数を1列にして、X方向のスロット間隔を短縮している。これにより、グレーティングローブの影響をさらに低減できる。
以下、スロットアレーアンテナ装置300の構成をより詳細に説明する。
スロットアレーアンテナ装置300は、対向して平行に配置されたプレート状の第1の導電部材110および第2の導電部材120を備えている。第1の導電部材110は、第1の方向(Y方向)および第1の方向に交差(この例では直交)する第2の方向(X方向)に沿って配列された複数のスロット112を有している。第2の導電部材120には複数の導電性ロッド124が配列されている。
第1の導電部材110における導電性表面110aは、導電性ロッド124の軸方向(Z方向)に直交する平面(XY面に平行な平面)に沿って二次元的に拡がっている。この例における導電性表面110aは平滑な平面であるが、後述するように、導電性表面110aは、必ずしも平滑な平面である必要はなく、湾曲していたり、微細な凹凸を有したりしていてもよい。複数の導電性ロッド124および複数の導波部材122は、第2の導電性表面120aに接続されている。
図10は、わかりやすさのため、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔を極端に離した状態にあるスロットアレーアンテナ装置300を模式的に示す斜視図である。現実のスロットアレーアンテナ装置300では、図8および図9に示すように、第1の導電部材110と第2の導電部材120との間隔は狭く、第1の導電部材110は、第2の導電部材120の導電性ロッド124を覆うように配置される。
図10に示されている各導波部材122の導波面122aは、Y方向に延びるストライプ形状(「ストリップ形状」と称することもある。)を有する。各導波面122aは平坦であり、一定の幅(X方向のサイズ)を有する。ただし、本開示はこのような例に限定されず、導波面122aの一部に、高さまたは幅が他の部分とは異なる部分を有していてもよい。そのような部分を意図的に設けることにより、導波路の特性インピーダンスを変化させ、導波路内の電磁波の伝搬波長を変化させたり、各スロット112の位置での励振状態を調整したりすることができる。なお、本明細書において「ストライプ形状」とは、縞(stripes)の形状を意味するのではなく、単一のストライプ(a stripe)の形状を意味
する。一方向に直線的に延びる形状だけでなく、途中で曲がったり、分岐したりする形状も「ストライプ形状」に含まれる。導波面122a上に高さまたは幅の変化する部分が設けられている場合も、導波面122aの法線方向から見て一方向に沿って延びる部分を含む形状であれば、「ストライプ形状」に該当する。
導電性ロッド124は、その全体が導電性を有している必要はなく、ロッド状構造物の少なくとも上面および側面に沿って広がる導電層があればよい。この導電層はロッド状構造物の表層に位置してもよいが、表層が絶縁塗装または樹脂層からなり、ロッド状構造物の表面には導電層が存在していない状態であってもよい。また、第2の導電部材120は、複数の導電性ロッド124を支持して外側の人工磁気導体を実現できれば、その全体が導電性を有している必要はない。第2の導電部材120の表面のうち、複数の導電性ロッド124が配列されている側の面120aが導電性を有し、隣接する複数の導電性ロッド124の表面が電気的に接続されていればよい。また、第2の導電部材120の導電性を有する層は、絶縁塗装や樹脂層で覆われていてもよい。言い換えると、第2の導電部材120および複数の導電性ロッド124の組み合わせの全体は、第1の導電部材110の導電性表面110aに対向する凹凸状の導電層を有していればよい。
この例では、第1の導電部材110の全体が導電性の材料で構成され、各スロット112は、第1の導電部材110に設けられた開口である。しかし、スロット112はこのような構造に限定されない。例えば、第1の導電部材110が内部の誘電体層と表面の導電層とを含む構成では、導電層にのみ開口が設けられ、誘電体層には開口が設けられていない構造であってもスロットとして機能する。
第1の導電部材110と各導波部材122との間の導波路は、両端が開放される。。図8から図10には示されていないが、各導波部材122の両端に近接してチョーク構造が設けられ得る。チョーク構造は、典型的には、長さがおよそλ0/8の付加的な伝送線路と、その付加的な伝送線路の端部に配置される深さがおよそλ0/4である複数の溝、または高さがおよそλ0/4である導電性のロッドの列から構成され、入射波と反射波との間に約180°(π)の位相差を与える。これにより、導波部材122の両端から電磁波が漏洩することを抑制できる。このようなチョーク構造は、第2の導電部材120上に限らず、第1の導電部材110に設けられていてもよい。
チョーク構造における付加的な伝送線路の長さはλr/4が良いと考えられていた。ここでλrは伝送線路上での信号波の波長である。しかし、本発明者らは、チョーク構造における付加的な伝送線路の長さがλr/4よりも短い場合において、電磁波の漏洩を抑制し、良好に機能し得ることを見出している。実際には、付加的な伝送線路の長さは、λr/4よりも短いλ0/4以下とする事がより好ましい。本開示のある実施形態において、付加的な伝送線路の長さは、λ0/16以上λ0/4未満に設定され得る。そのような構成の例は実施形態3として後述する。
図示されていないが、スロットアレーアンテナ装置300における導波構造は、不図示の送信回路または受信回路(すなわち電子回路)に接続されるポート(開口部)を有する。ポートは、例えば図10に示す各導波部材122の一端または中間の位置(例えば中央部)に設けられ得る。ポートを介して送信回路から送られてきた信号波は、導波部材122上の導波路を伝搬し、各スロット112から放射される。一方、各スロット112から導波路に導入された電磁波は、ポートを介して受信回路まで伝搬する。第2の導電部材120の裏側に、送信回路または受信回路に接続された他の導波路を備えた構造体(本明細書において「分配層」または「給電層」と称することがある。)が設けられていてもよい。その場合、ポートは、分配層または給電層における導波路と導波部材122上の導波路とを繋ぐ役割を担う。
この例では、X方向に隣接する2つのスロット112が等位相で励振される。そのために、送信回路からそれらの2つのスロット112までの伝送距離が一致するように給電路が構成されている。より好ましくは、それらの2つのスロット112は、等位相かつ等振幅で励振される。さらに、Y方向に隣接する2つのスロット112の中心間の距離は、導波路中での波長λgに一致するように設計される。これにより、全てのスロット112から等位相の電磁波が放射されるため、高い利得の送信アンテナを実現することができる。
なお、Y方向に隣接する2つのスロットの中心間隔を波長λgとは異なる値にしてもよい。そのようにすることにより、複数のスロット112の位置で位相差が生じるため、放射される電磁波が強め合う方位を正面方向からYZ面内の他の方位にずらすことができる。また、X方向において隣接する2つのスロット112は、厳密に等位相で励振されなくてもよい。用途によっては、π/4未満の位相差であれば許容される。
このような、複数のスロット112が平板状の導電部材110に二次元的に設けられたアレーアンテナ装置は、フラットパネルアレーアンテナ装置とも呼ばれる。用途によっては、X方向に並ぶ複数のスロット列の長さ(スロット列の両端のスロットの間の距離)が互いに異なっていても良い。X方向に隣り合う2つの列の間で、各スロットのY方向の位置をずらした千鳥状の(staggered)配列を採用してもよい。また、用途によっては複数のスロット列および複数の導波部材は、平行ではなく角度を持たせて配置された部分を有していてもよい。各導波部材122の導波面122aが、Y方向に並ぶ全てのスロット112に対向している形態に限らず、各導波面122aは、Y方向に並ぶ複数のスロットのうちの少なくとも1つのスロットに対向していればよい。
図8から図11に示す例では、各スロットは、X方向に長く、Y方向に短い矩形に近い平面形状を有している。各スロットのX方向のサイズ(長さ)をL、Y方向のサイズ(幅)をWとすると、LおよびWは、高次モードの振動が起こらず、かつ、スロットのインピーダンスが小さくなり過ぎない値に設定される。例えば、Lはλ0/2<L<λ0の範囲内に設定される。Wは、λ0/2未満であり得る。なお、高次モードを積極的に利用することを目的に、Lをλ0より大きくすることもあり得る。
図12は、スロット112毎にホーン114を有するスロットアレーアンテナ装置300aの構造の一部を模式的に示す斜視図である。このスロットアレーアンテナ装置300aは、二次元的に配列された複数のスロット112および複数のホーン114を有する第1の導電部材110と、複数の導波部材122Uおよび複数の導電性ロッド124Uが配列された第2の導電部材120とを備える。第1の導電部材110における複数のスロット112は、第1の導電部材110の導電性表面110aに沿った第1の方向(Y方向)および第1の方向に交差(この例では直交)する第2の方向(X方向)に配列されている。図12では、簡単のため、導波部材122Uの各々の端部または中央に配置され得るポートおよびチョーク構造の記載は省略されている。
図13Aは、図12に示す20個のスロットが5行4列に配列されたアレーアンテナ装置300aを+Z方向からみた上面図である。図13Bは、図13AのC−C線断面図である。このアレーアンテナ装置300aにおける第1の導電部材110は、複数のスロット112にそれぞれ対応して配置された複数のホーン114を備えている。複数のホーン114の各々は、スロット112を囲む4つの導電壁を有している。このようなホーン114により、指向特性を向上させることができる。
図示されるアレーアンテナ装置300aにおいては、スロット112に直接的に結合する導波部材122Uを備える第1の導波路装置100aと、第1の導波路装置100aの導波部材122Uに結合する他の導波部材122Lを備える第2の導波路装置100bとが積層されている。第2の導波路装置100bの導波部材122Lおよび導電性ロッド124Lは、第3の導電部材140上に配置されている。第2の導波路装置100bは、基本的には、第1の導波路装置100aの構成と同様の構成を備えている。
図13Aに示すように、導電部材110は、第1の方向(Y方向)および第1の方向に直交する第2の方向(X方向)に配列された複数のスロット112を備える。各導波部材122Uの導波面122aは、Y方向に延びており、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ4つのスロットに対向している。この例では導電部材110は、5行4列に配列された20個のスロット112を有しているが、スロット112の数はこの例に限定されない。各導波部材122Uは、複数のスロット112のうち、Y方向に並んだ全てのスロットに対向している例に限らず、Y方向に隣接する少なくとも2つのスロットに対向していればよい。隣接する2つの導波面122aの中心間隔は、例えば波長λ0よりも短く設定され、より好ましくは、波長λ0/2よりも短く設定される。
図13Cは、第1の導波路装置100aにおける導波部材122Uの平面レイアウトを示す図である。図13Dは、第2の導波路装置100bにおける導波部材122Lの平面レイアウトを示す図である。これらの図から明らかなように、第1の導波路装置100aにおける導波部材122Uは直線状に延びており、分岐部も屈曲部も有していない。一方、第2の導波路装置100bにおける導波部材122Lは分岐部および屈曲部の両方を有している。第2の導波路装置100bにおける「第2の導電部材120」と「第3の導電部材140」との組み合わせは、第1の導波路装置100aにおける「第1の導電部材110」と「第2の導電部材120」との組み合わせに相当する。
第1の導波路装置100aにおける導波部材122Uは、第2の導電部材120が有するポート(開口部)145Uを通じて第2の導波路装置100bにおける導波部材122Lに結合する。言い換えると、第2の導波路装置100bの導波部材122Lを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第1の導波路装置100aの導波部材122Uに達し、第1の導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬することができる。このとき、各スロット112は、導波路を伝搬してきた電磁波を空間に向けて放射するアンテナ素子(放射素子)として機能する。反対に、空間を伝搬してきた電磁波がスロット112に入射すると、その電磁波はスロット112の直下に位置する第1の導波路装置100aの導波部材122Uに結合し、第1の導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬する。第1の導波路装置100aの導波部材122Uを伝搬してきた電磁波は、ポート145Uを通って第2の導波路装置100bの導波部材122Lに達し、第2の導波路装置100bの導波部材122Lを伝搬することも可能である。第2の導波路装置100bの導波部材122Lは、第3の導電部材140のポート145Lを介して、外部にある導波路装置または高周波回路(電子回路)に結合され得る。図13Dには、一例として、ポート145Lに接続された電子回路310が示されている。電子回路310は、特定の位置に限定されず、任意の位置に配置されていてよい。電子回路310は、例えば、第3の導電部材140の背面側(図13Bにおける下側)の回路基板に配置され得る。そのような電子回路は、マイクロ波集積回路であり、例えば、ミリ波を生成または受信するMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)であり得る。
図13Aに示される第1の導電部材110を「放射層」と呼ぶことができる。また、図13Cに示される第2の導電部材120、導波部材122U、および導電性ロッド124Uの全体を「励振層」と呼び、図13Dに示される第3の導電部材140、導波部材122L、および導電性ロッド124Lの全体を「分配層」と呼んでも良い。また「励振層」と「分配層」とをまとめて「給電層」と呼んでも良い。「放射層」、「励振層」および「分配層」は、それぞれ、一枚の金属プレートを加工することによって量産され得る。放射層、励振層、分配層、および分配層の背面側に設けられる電子回路は、モジュール化された1つの製品として製造され得る。
この例におけるアレーアンテナ装置では、図13Bからわかるように、プレート状の放射層、励振層および分配層が積層されているため、全体としてフラットかつ低姿勢(low profile)のフラットパネルアンテナが実現している。例えば、図13Bに示す断面構成を持つ積層構造体の高さ(厚さ)を10mm以下にすることができる。
図13Dに示される導波部材122Lによれば、第3の導電部材140のポート145Lから第2の導電部材120の各ポート145U(図13C参照)までの、導波部材122Lに沿って測った導波路に沿った距離が、全て等しい。このため、第3の導電部材140のポート145Lから、導波部材122Lに入力された信号波は、第2導波部材122UのY方向における中央に配置された4つのポート145Uのそれぞれに同じ位相で到達する。その結果、第2の導電部材120上に配置された4個の導波部材122Uは、同位相で励振され得る。
なお、用途によっては、アンテナ素子として機能する全てのスロット112が同位相で電磁波を放射する必要はない。図13Dに示される構成において、第3の導電部材140のポート145Lから第2の導電部材120の複数のポート145U(図13C参照)までの導波路に沿った距離が、それぞれの間で異なっていてもよい。励振層および分配層(給電層に含まれる各層)における導波部材122のネットワークパターンは任意であり、図示される形態に限定されない。
電子回路310は、図13Cおよび図13Dに示すポート145U、145Lを介して各導波部材122U上の導波路に接続されている。電子回路310から出力された信号波は、分配層で分岐した上で、複数の導波部材122U上を伝搬し、複数のスロット112まで到達する。X方向に隣接する2つのスロット112の位置で信号波の位相を同一にするために、例えば電子回路310からX方向に隣接する2つのスロット112までの導波路の長さの合計が実質的に等しくなるように設計され得る。
次に、ホーン114の変形例を説明する。ホーン114は、図12に示すものに限定されず、様々な構造のものを利用できる。
図14Aは、変形例における複数のホーン114の構造を示す上面図である。図14Bは、図14AにおけるB−B線断面図である。本変形例における複数のホーン114は、第1の導電部材110の導電性表面110aの反対側の表面において、Y方向に配列されている。各ホーン114は、Y方向に沿って延びる一対の第1導電壁114aと、X方向に沿って延びる一対の第2導電壁114bとを有する。一対の第1導電壁114aおよび一対の第2導電壁114bは、複数のスロット112のうち、X方向に配列された複数(この例では5個)のスロット112を取り囲んでいる。第2導電壁114bのX方向の長さは、第1導電壁114aのY方向の長さよりも長い。一対の第2導電壁114bは、階段形状を有している。ここで「階段形状」とは、段差を有する形状を意味し、ステップ形状と呼ぶこともできる。このようなホーンでは、一対の第2導電壁114bのY方向の間隔は、第1の導電性表面110aから離れるほど拡大する。このような階段形状にすることにより、製造が容易になるという利点がある。なお、一対の第2導電壁114bは必ずしも階段形状を有する必要はない。例えば、図15に示すスロットアレーアンテナ装置300cのように、傾斜した平面状の側壁を有するホーン114を用いてもよい。このようなホーンにおいても、一対の第2導電壁114bのY方向の間隔は、第1の導電性表面110aから離れるほど拡大する。
本発明者らは、上記のようなアレーアンテナ装置または導波路装置の性能を高めるため、以下のことが有効であることを見出した。
(1)励振層の導波路と分配層の導波路とを結合するポート145Uでの信号波の不要な反射を抑制する。
(2)ホーンの中心間距離をスロットの中心間距離とは異なるようにしてアンテナアレイの指向性の最適化および/または設計自由度の向上を図る。この改良は、前述のWRGの構造を利用したホーンアンテナアレイに限らず、中空導波管の構造を利用したホーンアンテナアレイにも適用できる。
(3)従来とは異なるチョーク構造により、ポートを介して電磁波を伝搬させる際に不要な反射を抑制する。
(4)複数の分岐部を有する導波部材の形状を調整してアレーアンテナの励振振幅の面内分布を制御する。
(5)複数の分岐部を有する導波部材の形状を調整して伝搬損失を低減する。
(6)MMICなどの電子回路と導波路装置とを結合する中空導波管の性能を向上させる。
(7)導波部材122U、122Lの配置間隔に応じたロッドの新しい配列パターンを提供する。
以下、本開示の実施形態によるアレーアンテナ装置の具体的な構成例を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明においては、同一または類似する構成要素には、同一の参照符号を付している。
(実施形態1)
<アレーアンテナ装置>
まず、図16を参照して、本開示におけるアレーアンテナ装置の第1の実施形態を説明する。図16は、本実施形態における導波部材122U、122Lに沿ったアレーアンテナ装置の断面を模式的に示している。本開示において、便宜上、アレーアンテナ装置から放射される電磁波、またはアレーアンテナ装置に入射する電磁波が伝搬する自由空間が位置する側を「正面側」と称し、その反対の側を「背面側」と称する。本開示において、「第1(の)〜」、「第2(の)〜」などの用語は、部材、装置、部品、部分、層、領域等を区別するためにのみ用いられ、限定的な意味を何等有しない。
図16に示されるように、本実施形態のアレーアンテナ装置は、各々が概略的に薄板形状を有する第1導電部材110、第2導電部材120、および第3導電部材140が適切な空隙を形成して積層された構成を有している。図16は、アレーアンテナ装置の主要部を示しており、図示されているアレーアンテナ装置の背面側にMMICなど電子部品が搭載される。また、そのような電子部品と図示されているアレーアンテナ装置との間に、他の導波路を形成する薄板形状の導電部材を更に備えていても良い。
本実施形態において、第1導電部材110は、正面側の第1導電性表面110bおよび背面側の第2導電性表面110aを有しており、かつ、複数のスロット112−1、112−2、112−3、112−4、112−5、112−6を備えている。これらのスロットを総称してスロット112と表記する場合がある。図16では、6個のスロット112が記載されているが、本実施形態におけるスロット112の個数は、この数に限定されない。第1導電部材110の第1導電性表面110bは、それぞれがスロット112につながる複数のホーン114を規定する形状を有している。
第2導電部材120は、第1導電部材110の背面側に位置している。第2導電部材120は、第1導電部材110の第2導電性表面110aに対向する正面側の第3導電性表面120a、および背面側の第4導電性表面120bを有し、第1導波部材122Uを支持している。第1導波部材122Uは、第2導電性表面110aに対向するストライプ形状の導電性の導波面122aを有し、第2導電性表面110aに沿って直線状に延びている。直線状に延びる第1導波部材122Uの両側(図16における手前側および奥側)には、第2導電部材120の第3導電性表面120a上に設けられた人工磁気導体が位置している。図16に示される断面には、人工磁気導体を構成するロッドが位置していないため、図16には人工磁気導体が記載されていない。第1導波部材122Uの端部にはチョーク構造150が設けられている。チョーク構造150は、第1導波部材122Uの端部から電磁波(信号波)が漏洩することを抑制する。
第1導電部材110の第2導電性表面110a、第1導波部材122Uの導波面122a、および人工磁気導体(図16において不図示)により、第2導電性表面110aと導波面122aとの間隙に導波路が規定される。この導波路は、第1導電部材110のスロット112に連通し、電磁気的に結合する。
第2導電性表面110aから導波面122aまでの距離および導波面122aの幅の少なくとも一方を、第1導波部材122Uが延びる方向に沿って適切に変動させると、この導波路を伝搬する信号波の波長を短縮することができる。第2導電性表面110aから導波面122aまでの距離および導波面122aの幅の両方が第1導波部材122Uの延びる方向に沿って一定であるときの信号波の中心波長をλrとする。同じ周波数の信号波が真空中を伝搬するときの信号波の中心波長は、前述のとおり、λ0である。このとき、λr>λ0の関係が成立する。しかし、例えば第1導波部材122Uの導波面122aに凹凸を形成して第2導電性表面110aから導波面122aまでの距離を適切に変動させたり、導波面122aの幅を適切に変動させたりすることにより、そのような導波路を伝搬する信号波の中心波長をλrよりも短縮することができる。
第2導電部材120は、第3導電性表面120aから第4導電性表面120bまで貫通するポート145Uを有している。ポート145Uは、第4導電性表面120bから、第2導電性表面110aと導波面122aとの間の導波路に連通している。本明細書において、ポートが「導電性表面から導波路(即ち、他の導電性表面によって規定される導波路)に連通する」とは、当該ポートの開口面の法線方向からみたとき、ポートの内壁の位置と、当該導波路を規定する導波部材の端部の側面(端面)の位置とが整合(実質的に一致)していることを意味する。
複数のスロット112のうちの隣り合う第1のスロット112−1および第2のスロット112−2は、ポート145Uの中心に対して対称な位置に配置されている。図示されている例においては、6個のスロット112が全体としてポート145Uの中心に対して対称な位置に配置されている。隣り合う2個のスロット112の中心間距離は、いずれも、導波路を伝搬する信号波の波長(周波数変調によって波長が変動する場合には中心波長)に等しく設定されている。これは、各スロット112に、等位相で信号波を供給するためである。目的とするアレーアンテナの特性によっては、各スロットに供給される信号波の位相を意図的に異ならせる設計が必要になることもある。そのような場合は、隣り合う2個のスロット112の中心間距離は、導波路を伝搬する信号波の波長からやや異なる長さが選択されることもある。
第3導電部材140は、第2導電部材120の背面側に位置している。第3導電部材140は、第2導電部材120の第4導電性表面120bに対向する正面側の第5導電性表面140a、および背面側の第6導電性表面140bを有し、第2導波部材122Lを支持している。第2導波部材122Lは、第4導電性表面120bに対向する導電性の導波面122aを有し、第4導電性表面120bに沿って延びている。
第2導波部材122Lの両側にも、第3導電部材140の第5導電性表面140aに設けられた人工磁気導体が位置している。第2導電部材120の第4導電性表面120b、第2導波部材120Lの導波面122a、および、この人工磁気導体(図16において不図示)により、第4導電性表面120bと第2導波部材122Lの導波面122aとの間隙に導波路が規定される。第2導波部材122Lの一端に近接してチョーク構造150が設けられている。第2導波部材122Lは、不図示の屈曲部を有しており、導波路は不図示の位置にある他のポートを介して外部の電子回路に結合する。
本実施形態では、第1導波部材122Uが、ポート145Uに隣接する一対のインピーダンス整合構造123を有している。インピーダンス整合構造123の詳細については後述する。
図16において、ミリ波などの信号波が伝搬する方向の例が太い矢印で示されている。この例は受信時の例である。ホーン114およびスロット112を介して、アレーアンテナ装置に入射したミリ波などの電磁波(信号波)は、第1導電部材110の導電性表面110aと導波部材122Uの導波面122aとの間の導波路を伝搬し、ポート145Uを通って、第2導電部材120の導電性表面120bと導波部材122Lの導波面122aとの間の導波路を伝搬する。逆に、送信時には、導波部材122Lに沿って伝搬した電磁波が、ポート145Uを通過して導波部材122Uに沿って伝搬しながら複数のスロット112を励振する。
<ポートのインピーダンス整合構造>
ポート145UのZ軸に垂直な断面は、種々の形状を有し得る。本実施形態におけるポート145Uの中心軸(本実施形態ではZ軸に平行)に垂直な断面は、図17に示されるように、H型形状である。「H型形状」とは、アルファベットの「H」のように、ほぼ平行な2つの縦部と、2つの縦部の中央部を結ぶ横部とを有する形状を意味する。図17は、本実施形態における第2導電部材120の一部を示す平面図である。第2導電部材120は複数のポート145Uと、各ポート145Uに接続する第1導波部材122Uを有しているが、図17には、簡単のため、1個のポート145Uと、そのポート145Uに接続された第1導波部材122Uの一部が示されている。図18は、導波部材122Uとポート145Uとの結合部分を示す斜視図である。
図17および図18を参照しながら、インピーダンス整合構造123の詳細を説明する。
本実施形態における一対のインピーダンス整合構造123のそれぞれは、ポート145Uに隣接する平坦部123aと、平坦部123aに隣接する凹部123bとを含む。
インピーダンス整合構造123の導波部材122Uが延びる方向における長さ(La+Lb)は、λr/2程度である。平坦部123aの導波部材122Uが延びる方向における長さLaはλr/4よりも長い。凹部123bの導波部材122Uが延びる方向における長さLbは平坦部123aの長さLaよりも短い。長さLbは、典型的には、λr/4よりも短く設定される。
再び図16を参照する。本実施形態では、ポート145Uに最も近い第1および第2のスロット112−1、112−2の中心間距離はλrに等しい。ポート145Uに最も近いスロット112−1、112−2は、導波面122aに垂直な方向から見たとき、インピーダンス整合構造123の少なくとも一部(図示されている例では、凹部123bの一部)と重なっている。
前述したように、第2導電性表面110aから導波面122aまでの距離、および導波面122aの幅の少なくとも一方を導波路に沿って変動させると、導波路を伝搬する信号波の中心波長をλ0よりも短くすることができる。導波路を伝搬する信号波の中心波長をこのように短縮した場合、第1のスロット112−1の中心から第3のスロット112−3の中心までの距離を、第1のスロット112−1の中心から第2のスロット112−2の中心までの距離よりも短くすることができる。なお、第1のスロット112−1の中心から第3のスロット112−3の中心までの距離、および、第3のスロット112−3の中心から第5のスロット112−5の中心までの距離は、いずれも、導波路を伝搬する信号波の導波路内における波長に等しく設定されている。同様に、第2のスロット112−2の中心から第4のスロット112−4の中心までの距離、および、第4のスロット112−4の中心から第6のスロット112−6の中心までの距離も、それぞれ、導波路を伝搬する信号波の導波路内における波長に等しく設定される。
図19は、波長短縮のための凹凸が設けられた第1導波部材122Uの例を示す斜視図である。図19には、このような凹凸の一部である1個の凹部122bが例示されている。複数の凹部122bを第1導波部材122Uの適切な位置に設けることにより、導波路を伝搬する信号波の波長を短縮することができる。このような導波部材の具体的構成例は、特願2015−217657およびPCT/JP2016/083622に開示されている。ここに、特願2015−217657およびPCT/JP2016/083622の開示内容の全体を援用する。
図20は、インピーダンス整合構造123の変形例を示す斜視図である。この例において、インピーダンス整合構造123の平坦部123aの長さLaは、λr/4よりも短く、凹部123bの長さLbにほぼ等しい。このような構成を採用すると、平坦部123aの高さを、導波部材122Uの高さよりも大きくする必要があり、平坦部123aと第1導電部材110の第2導電性表面110aとの間隔が短くなる。この間隔(設計値)が短くなると、製造ばらつきによって間隔の大きさが設計値から変動したときにアンテナ性能のばらつきに及ぼす影響が大きくなる。なお、図20に示すようなインピーダンス整合構造123は、ポート145Uに最も近い2個のスロットである第1のスロット112−1と第2のスロット112−2との間の中心間距離がλ0よりも小さく設定された形態においてインピーダンス整合の機能を充分に発揮することが確認されている。
本実施形態における第1のスロット112−1と第2のスロット112−2との間の中心間距離は、λrに等しい。このため、図20に示されるインピーダンス整合構造123を採用することなく、図18、図19などに例示されているインピーダンス整合構造123を採用することが好ましい。
(実施形態1の変形例)
次に、図21Aから図21Cを参照して、ポート145Uにおけるインピーダンス整合構造の他の例を説明する。
図示されているポート145Uは、第1導波部材122Uを第1部分122−1と第2部分122−2とに空間的に分離する位置にある。第1部分122−1の一端と第2部分122−2の一端とがポート145Uを介して対向している。ポート145Uの内壁の一部は、第1導波部材122Uの第1部分122−1の一端に接続している。ポート145Uの内壁の対向する他の一部は、第1導波部材122Uの第2部分122−2の一端に接続している。
図21Aに示される例において、第1導波部材122Uの第1部分122−1の一端および第2部分122−2の一端は、インピーダンス整合のための凸部123cを有している。第1導波部材122Uの第1部分122−1の一端および第2部分122−2の一端における対向する2つの端面で規定される間隙を、「導波部材間隙」と呼ぶことにする。図21Aに示す例では、対向する一対の凸部123cの間の領域は、その間隙の大きさが、導波部材122Uの第1部分122−1に接続するポート145Uの内壁の部分と、導波部材122Uの第2部分122−2に接続するポート145Uの内壁の他の部分との間隙の大きさよりも小さい。本開示においては、このような部分を「狭幅部」と呼ぶ。本発明者らの解析によれば、導波部材間隙が狭幅部を有することにより、インピーダンスの整合度が向上することが確認されている。
この例では、ポート145Uの中心軸に直交するポート145Uの断面はH型形状を有しているが、後述するように他の形状を有していてもよい。ポート145Uの中心軸とは、ポート145Uの開口の中心を通り、当該開口が形成する面に垂直な直線を意味する。
この例における一対の凸部123cの間の狭幅部は、導波部材122Uの導波面122aにまで達している。狭幅部の位置および大きさは、図21Aに示す構成に限定されず、要求される性能に応じて適宜設定される。例えば、図21Bに示すように、一対の凸部123cの間の狭幅部は、ポート145Uの内部にまで達していてもよい。
図21Cに示される例において、第1導波部材122Uの第1部分122−1の一端および第2部分122−2の一端は、ポートにおける反射抑制のための凹部123dを有している。この例においては、第1導波部材122Uの第1部分122−1の一端および第2部分122−2の一端における対向する2つの端面で規定される導波部材間隙は、その大きさが、導波部材122Uの第1部分122−1に接続する内壁の部分と、導波部材122Uの第2部分122−2に接続する内壁の他の部分との間の間隙の大きさよりも大きい広幅部を含む。
このような凸部123cまたは凹部123dを含む構造は、第1導波部材122Uの第1部分122−1の一端および第2部分122−2の一端の少なくとも一方に設けられていればよい。また、凸部123cおよび凹部123dの一方が第1導波部材122Uの第1部分122−1の一端に設けられ、他方が第2部分122−2の一端に設けられていてもよい。また、第1導波部材122Uの第1部分122−1の一端に凸部123cおよび凹部123dの両方が設けられたり、第1導波部材122Uの第2部分122−2の一端に凸部123cおよび凹部123dの両方が設けられたりしてもよい。図21Aから図21Cに示す例では、第1導波部材122Uの第1部分122−1の一端および第2部分122−2の一端のそれぞれに、凸部123cまたは凹部123dが1つだけ設けられているが、そのような例に限定されない。第1部分122−1の一端および第2部分122−2の一端のそれぞれに、階段状に複数個の凸部123cまたは凹部123dを設けてもよい。複数個の凸部123cまたは凹部123dを適切に形成することにより、信号波の反射をより効果的に抑制し得る。
図18に示したインピーダンス整合構造123を図21Aから図21Cのいずれかの構造に組み合わせてもよい。
図22Aは、ポート145Uの形状の例を示す平面図である。H型形状のポート145a、I型形状のポート145b、Z型形状のポート145c、C型形状のポート145dが図示されている。図から明らかなように、I型形状のポート145bは、X軸方向のサイズが最も大きくなる。H型形状のポート145aは、X軸に関して対称であるが、Z型形状のポート145cおよびC型形状のポート145dは、X軸に関して非対称である。本実施形態におけるアレーアンテナ装置では、他の形状を排除しないが、H型形状のポート145aが好適に用いられる。
図22Aに示すポート145Uの多様な形状は、スロット112にも採用することが可能である。スロット112は、図13Aに示されるような長方形の形状(I型形状)以外の形状、例えばH型形状を有していてもよい。
以下、図22Bを参照しながら、ポートまたはスロットの断面形状の例をより詳細に説明する。以下の説明では、ポートおよびスロットをまとめて「貫通孔」と称することがある。本開示の実施形態におけるいずれのポートまたはスロットについても、以下の変形が可能である。
図22Bにおける(a)は、楕円形状の貫通孔1400aの例を示している。図中において矢印で示す、貫通孔1400aの長半径Laは、高次の共振が起こらず、かつ、インピーダンスが小さくなり過ぎないように設定される。より具体的には、Laは、動作周波数帯域の中心周波数に対応する自由空間中での波長をλoとして、λo/4<L<λo/2に設定され得る。
図22Bにおける(b)は、一対の縦部分113Lおよび一対の縦部分113Lを繋ぐ横部分113Tを有する形状(本明細書において「H型形状」と称する。)を有する貫通孔1400bの例を示している。横部分113Tは、一対の縦部分113Lにほぼ垂直であり、一対の縦部分113Lのほぼ中央部同士を繋いでいる。このようなH型形状の貫通孔1400bでも、高次の共振が起こらず、かつ、インピーダンスが小さくなり過ぎないように、その形状およびサイズが決定される。横部分113Tの中心線g2と横部分113Tに垂直なH型形状全体の中心線h2との交点と、中心線g2と縦部分113Lの中心線k2との交点との間の距離をLbとする。中心線g2と中心線k2との交点と、縦部分113Lの端部との距離をWbとする。LbとWbとの和は、λo/2<Lb+Wb<λoを満たすように設定される。距離Wbを相対的に長くすることにより、距離Lbを相対的に短くすることができる。これによりH型形状のX方向の幅を例えばλo/2未満にでき、横部分113Tの長さ方向におけるスロット間隔を短縮することができる。
図22Bにおける(c)は、横部分113Tおよび横部分113Tの両端から延びる一対の縦部分113Lを有する貫通孔1400cの例を示している。一対の縦部分113Lの横部分113Tから延びる方向は横部分113Tにほぼ垂直であり、互いに逆である。横部分113Tの中心線g3と横部分113Tに垂直な全体形状の中心線h3との交点と、中心線g3と縦部分113Lの中心線k3との交点との間の距離をLcとする。中心線g3と中心線k3との交点と、縦部分113Lの端部との距離をWcとする。LcとWcとの和は、λo/2<Lc+Wc<λoを満たすように設定される。距離Wcを相対的に長くすることにより、距離Lcを相対的に短くすることができる。これにより、図22Bにおける(c)の全体形状のX方向の幅を、例えばλo/2未満にでき、横部分113Tの長さ方向の間隔を短縮することができる。
図22Bにおける(d)は、横部分113Tおよび横部分113Tの両端から横部分113Tに垂直な同じ方向に延びる一対の縦部分113Lを有する貫通孔1400dの例を示している。このような形状を、本明細書では「U字形状」と称することがある。なお、図22Bにおける(d)に示す形状は、H字形状の上半分の形状と考えることもできる。横部分113Tの中心線g4と横部分113Tに垂直なU字形状全体の中心線h4との交点と、中心線g4と縦部分113Lの中心線k4との交点との間の距離をLdとする。中心線g4と中心線k4との交点と、縦部分113Lの端部との距離をWdとする。LdとWdとの和は、λo/2<Ld+Wd<λoを満たすように設定される。距離Wdを相対的に長くすることにより、距離Ldを相対的に短くすることができる。これにより、U形状のX方向の幅を、例えばλo/2未満にでき、横部分113Tの長さ方向の間隔を短縮することができる。
(実施形態2)
本実施形態では、形状が非対称のホーンを用いることにより、隣り合う2つのスロットの中心間距離よりも隣り合う2つのホーンの開口の中心間距離(位相中心の距離)を短くする、または長くすることができる。例えば、導波部材に沿った方向に関して、スロットの中心間距離はλr程度であるが、ホーン開口の中心間距離はλ0よりも短くすることができる。これにより、構成要素をより自由に配置することが可能になる。
従来、複数のホーンアンテナを含むアンテナアレイにおいては、例えば特許文献1に開示されているように、全てのホーンが同一方向を向いて配置されることが一般的であった。また、アレイを構成する個々のホーンの形状は、全て同一であることが一般的であった。そのような構成では、ホーンの開口の配置間隔と、ホーンの基部におけるスロットの配置間隔とが等しくなる。各ホーンの基部に信号波を供給または受信するための導波路が接続される場合、その接続部の配置間隔もホーンの開口の配置間隔と等しくなる。このため、従来の構成では、ホーンの開口および導波路の配置に制約があった。
本実施形態では、一列に並ぶ複数のホーンのうちの少なくとも1つのホーンが、ホーンの開口面およびE面の両方に垂直な平面に対して非対称な形状を有する。これにより、隣り合う2つのホーンの開口中心間の距離と、それらのホーンに連通する2つのスロットの中心間の距離とを異なるようにすることが可能である。その結果、ホーンの開口および導波路の配置をより自由に設計することができるようになった。
本実施形態における導波路は、これまでに説明したワッフルアイアンリッジ導波路(WRG)に限らず、中空導波管であってもよい。以下、まずWRGを用いた例を説明し、その後、中空導波管を用いた例を説明する。
図23A、図23B、および図23Cは、それぞれ、本実施形態におけるアレーアンテナ装置(本明細書において、「アンテナアレイ」と称することもある。)の構成の例を模式的に示す断面図である。アレーアンテナ装置は、一方向に沿って並ぶ複数のホーン114を有する。各ホーンの基部には、スロットが開口している。
本実施形態におけるアンテナアレイは、正面側の第1導電性表面110bおよび背面側の第2導電性表面110aを有する導電部材110を備える。導電部材110は、第1の方向に沿って並ぶ複数のスロット112を有する。導電部材110の第1導電性表面110bは、複数のスロット112にそれぞれ連通する複数のホーン114を規定する形状を有する。複数のスロット112の各々のE面は、同一平面上または実質的に平行な複数の平面上にある。「実質的に平行な複数の平面」とは、厳密に平行な複数の平面を意味しない。本開示において、複数の平面が互いになす角度が、±π/32の範囲内であれば、それらの平面は実質的に平行であるものとする。この条件は、±5.63度とも表現できる。実質的に平行な複数の平面を、「方位が一様な複数の平面」と表現することもある。図23Aから図23Cの各例では、全てのスロット112のE面が同一平面上にある。スロット112のE面は、スロット112の中央部に形成される電界ベクトルを含む平面であり、スロット112の中心を通り、第2導電性表面110aにほぼ垂直である。図23Aから図23Cは、それぞれのアンテナアレイをE面で切断したときの切断面(本明細書において、「E面断面」と称することがある。)を示している。
本実施形態においては、複数のホーン114に含まれる少なくとも1つのホーンのE面断面において、当該E面と当該ホーンに連通するスロットの縁との2つの交点の一方から、当該E面と当該ホーンの開口面の縁との2つの交点の一方までの、当該ホーンの内壁面に沿った長さが、当該E面と当該スロットの縁との交点の他方から当該E面と当該ホーンの開口面の縁との交点の他方までの前記内壁面に沿った長さよりも長い。すなわち、当該ホーンの内壁面は、スロットの中心を通り開口面およびE面に垂直な平面に対して非対称な形状を有する。
一方、そのホーンに隣り合う他のホーンは、前述のホーンとは異なる非対称形状、または対称形状を有する。ある例において、隣り合う2つのホーンの一方においては開口中心がスロットの中心よりも第1の方向にシフトしており、他方においては開口中心がスロットの中心よりも第1の方向の逆方向にシフトしている。したがって、これらの隣り合う2つのホーンにおいて、スロットの中心とホーンの開口面の中心とを通る軸の方向は平行にはならず、異なる。このような構造により、隣り合う2つのスロットの中心間距離と、それらのスロットにそれぞれ連通する2つのホーンの開口中心間の距離とが異なるようにすることができる。
スロットの間隔は、導波路を伝搬する電磁波の波長によって制約される。従来のホーン構造を採用した場合には、ホーンの開口中心の間隔をスロットの中心間隔に合せる必要があった。本実施形態によれば、そのような制約を除くことができるため、より自由に構成要素を配置することができる。
図23Aの例では、第1導波部材122Uには凹凸が設けられておらず、その上の導波路を伝搬する信号波の中心波長は、λrである。隣り合う2個のスロット112の中心間距離Sdは、いずれも、λrに設定されている。隣り合う2個のホーン114の開口中心間距離Hdは、いずれも、隣り合う2個のスロット112の中心間距離Sdよりも小さい。
図23Bの例では、第1導波部材122Uには波長短縮のための凹凸が設けられ、かつ、ポート145Uに接続する部分には、前述したインピーダンス整合構造123が設けられている。波長短縮のための凹凸により、凹凸が形成された導波路を伝搬する信号波の中心波長λgは、λrよりも短縮されている。隣り合う2個のスロット112の中心間距離Sdは、凹凸が形成された導波路を伝搬する信号波の中心波長λgに一致している。ポート145Uに最も近い一対のスロット112の中心間距離Sdoはλr程度に維持しつつ、他の隣り合う2個のスロット112の中心間距離Sdはλrよりも短い。
図23Cの例では、波長短縮のための凹凸の効果を高めることにより、図23Bの例に比べて、導波路を伝搬する信号波の中心波長を更に短縮している。この例においても、隣り合う2個のスロット112の中心間距離Sdは、凹凸が形成された導波路を伝搬する信号波の中心波長λgに一致している。ただし、ポート145Uに最も近い一対のスロット112の中心間距離Sdoはλr程度に維持されている。
以下、図24から図28を参照して、本実施形態におけるアレーアンテナ装置の構成例をより詳細に説明する。
図24は、本実施形態におけるアレーアンテナ装置の断面を模式的に示す図である。図16を参照して説明した第1の実施形態におけるアレーアンテナ装置との相違点のひとつは、第1導電部材110の形状の差異、具体的には、ホーン114の形状の差異にある。
図25は、図24のアレーアンテナ装置における第1導電部材110の正面側にある第1導電性表面110bの平面形状、並びに、第1導電部材110のA−A線断面およびB−B線断面を示している。なお、参考のため、破線によって第2導電部材120の形状も示している。
図26は、図24のアレーアンテナ装置の第2導電部材120の正面側にある第3導電性表面120aの平面形状、並びに、第2導電部材120のA−A線断面およびB−B線断面を示している。参考のため、破線によって第1導電部材110の形状も示している。
これらの図面から分かるように、本実施形態のアレーアンテナ装置では、すべてのスロット112が、ポート145Uに対して対称な位置に配置されている。また、第1導電部材110の第1導電性表面110bは、それぞれがスロット112につながる複数のホーン114を規定する形状を有している。図24に示されるように、複数のホーン114のうちの隣り合う2個のホーン114の開口中心間の距離は、第2導電性表面110aにおける第1のスロット112−1の中心から第2のスロット112−2の中心までの距離よりも短い。
複数のホーン114のそれぞれは、スロット112の中心を通って第2導電性表面110aおよび導波路の両方に直交する平面(図24の例では、XZ面に平行)に関して非対称な形状を有している。「導波路に直交する」とは、導波路が延びる方向(すなわち、導波部材122Uが延びるY方向)に直交することを意味する。この非対称な形状においては、各ホーン114において、基部のスロット112の中心とホーンの開口の中心を通る直線は、第2導電性表面110aとは直交しない。それら直線は、スロット112の中心から前面に向けて離れるに従ってポート145Uのある側へと近づく方向に傾いており、かつホーン114がポート145Uから離れた位置にある程、その直線の傾きは大きい。
本実施形態では、図24において、第1のスロット112−1よりも左側、および第2のスロット112−2よりも右側の領域においては、第2導電性表面110aから導波面112aまでの距離が導波路に沿って変動し、導波路を伝搬する信号波の導波路内における波長はλrよりも短縮されて、λgとなっている。また、第2導電性表面110aにおいて、第1のスロット112−1の中心から第3のスロット112−3の中心までの距離は、波長λgに等しく設定されている。
図27は、図24のアレーアンテナ装置の第3導電部材140の正面側にある第5導電性表面140aの平面形状、並びに、第3導電部材140のA−A線断面およびB−B線断面を示している。本実施形態のアレーアンテナは、ミリ波を送信する送信用アンテナであり、図27に例示される第2導波部材122Lは、図26に示される4個のポート145Uを同位相で励振するための4ポートディバイダとして機能する。
第2導電部材120の第4導電性表面120bと第2導波部材122Lの導波面122aとの間の導波路は、第3導電部材140のポート145Lを介して、例えば図28に示される第4導電部材160上の導波路に結合する。図28に例示される第4導電部材160は、第3導波部材122Xと、その両側に配列された複数の導電性のロッド124Xとを支持している。複数のロッド124Xは人工磁気導体を構成しており、第3導波部材122Xの導波面と第3導電部材140の第6導電性表面140bとの間の空隙に導波路を形成する。
図27の例では、第2導波部材122Lにおける各屈曲部(図27において、点線の丸で囲まれている部分)には、凹部が形成されている。これらの凹部は、各屈曲部において信号波の不要な反射を抑制するために設けられている。各屈曲部における凹部は、必要に応じて設ければよい。
4ポートディバイダとして機能する第2導波部材122L、ポート145L、および、方形導波管165の構造の詳細については後述する。
(実施形態2の変形例1)
図29は、実施形態2におけるアレーアンテナ装置の変形例における第1導電部材110の正面側の形状を示す平面図である。図30は、この第1導電部材110の正面側の形状を示す斜視図である。図31は、この変形例における第2導電部材120の正面側の形状を示す斜視図である。
この変形例では、図29および図30に示されるように、ホーン114が段差を有する壁面によって構成されている。5列のホーンアレイのそれぞれは、一列に並んだ6個のホーン114を含んでいる。各列における6個のホーン114に入射した信号波は、各ホーン114につながるスロット112を通って図31に示される導波部材122U上を伝搬し、更にポート145Uを通って背面側の導波路(不図示)に入力される。なお、図31に記載されている導波部材122Uには、第1の実施形態について説明したインピーダンス整合構造123が設けられている。このようなインピーダンス整合構造123が設けられていなくてもよい。
この変形例では、ホーン114の偶数番目の列が奇数番目の列に比べて導波部材122Uの延びる方向に沿ってシフトしている。シフト量は、導波部材の延びる方向に沿って隣り合う2個のホーン114の開口中心間距離の半分程度である。このようなスタガー配列を採用することにより、水平方向だけでなく、上下方向においても、受信波の到来方位を検知することが可能になる。
この変形例においても、複数のスロット112は、ポート145Uに対して対称な位置に配置されている。各列において隣り合う2個のホーンの開口中心間の距離は、ポート145Uに最も近い一対のスロットの中心間の距離よりも短く設定されている。複数のホーン114のうち、各列の両端に位置するホーン以外のホーンは、スロット112の中心を通って導波路が延びる方向に直交する平面に関して非対称な形状を有している。この変形例では、各ホーン列において両端に位置する2つのホーン114については、上記平面に対して対称な形状を有し、基部のスロット112の中心とホーンの開口の中心とを通る直線が、第2導電性表面110aにほぼ直交する。それ以外の4つのホーン114については、ホーン114の基部のスロット112の中心とホーンの開口の中心とを通る直線は、スロット112の中心から前面に向けて離れるに従ってポート145Uのある側へと近づく方向に傾いている。これらの4つのホーン114については、ホーン114がポート145Uから離れた位置にある程、その直線の傾きは小さい。
図32Aは、図29におけるA−A線断面(E面断面)の構造を示す図である。この例においては、各列の6個のホーン114のうち、ポート145Uに対して−Y側にある3つのホーンを、ポート145Uに近いものから順に、第1のホーン114A、第2のホーン114B、第3のホーン114Cとする。同様に、ポート145Uに対して+Y側にある3つのホーンを、ポート145Uに近いものから順に、第4のホーン114D、第5のホーン114E、第6のホーン114Fとする。第1から第6のホーン114A、114B、114C、114D、114E、114Fは、第1から第6のスロット112A、112B、112C、112D、112E、112Fにそれぞれ連通する。ホーン列の両端に位置する第3のホーン114Cおよび第6のホーン114Fは、それぞれのE面および開口面の両方に垂直な平面に対して対称な形状を有する。それ以外のホーン114A、114B、114D、114Eは、それぞれのE面および開口面の両方に垂直な平面に対して非対称な形状を有する。いずれのホーンも、当該ホーンの中心を通るE面に対しては対称な形状を有する。各ホーン114の内壁面は段差を有するが、近似的には角錐形状を有する。よって、このようなホーン114も角錐ホーンと称することがある。各ホーン114は、角錐ホーンに限らず、後述するように直方体(立方体を含む)形状の内部空洞を有するボックスホーンであってもよい。
第4から第6のホーン114D、114E、114Fは、それぞれ、第1から第3のホーン114A、114B、114Cを、第1のホーン114Aと第4のホーン114Dとの間の中心点を通りE面に垂直な面について反転した形状を有する。スロット112の中心とホーン114の開口面の中心(本明細書において「開口中心」とも呼ぶ。)とを通る軸(図32Aにおける破線)は、両端の2つのホーン114C、114Fでは導電部材110の第2導電性表面110aに垂直であり、ホーン列の中心に近いホーンほど内向きになる。言い換えれば、スロットの中心とホーンの開口中心とを通る軸と、第2導電性表面110aの法線とのなす角度は、ホーン列の中心に近いホーンほど大きい。
図32Bは、複数のホーン114のうちの第1および第2のホーン114A、114Bの部分を拡大して示す図である。このアンテナアレイは、中心周波数f0の周波数帯域の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられる。当該中心周波数f0の電磁波の自由空間波長をλ0とする。第1のホーン114AのE面断面において、E面と第1のスロット112Aの縁との2つの交点の一方114AcからE面と第1のホーン114Aの開口面の縁との2つの交点の一方114Aaまでの第1のホーン114Aの内壁面に沿った長さと、E面と第1のスロット112Aの縁との交点の他方114AdからE面と第1のホーン114Aの開口面の縁との交点の他方114Abまでの当該内壁面に沿った長さとの差は、例えば、λ0/32以上λ0/4以下に設定され得る。第2のホーン114B、第4のホーン114D、第5のホーン114Eについても同様の条件を満たしていてもよい。このような寸法の範囲を満たすことにより、指向性の調節をより好適に行うことができる。なお、図32Bの例において、E面とスロット112Aの縁との交点の他方114Adを含む内壁面は、ホーン114Aの内壁面に段差を有することなく繋がっている。このような構造であっても、E面とスロット112Aの縁との交点の他方114Acを含む内壁面とホーン114Aの内壁面との間に段差がある場合、第2導電性表面110aからの距離がE面と縁との交点の一方114Acと同じである部位を交点の他方114Adとする。本実施形態における複数のホーン114の各々の開口面の、E面に沿った幅Waは、例えばλ0よりも小さい値に設定され得る。各ホーン114の内壁面の長さの差および開口面の幅に関する上記の条件を満足することにより、ホーン114の各々の開口面と基部の配置の自由度を確保しつつ、アンテナアレイの指向特性の低下を回避する事が出来る。例えば、後述するように、主ローブの強度に対してサイドローブの強度を−20dBi以下に低減したアレイも得られている。
図30からわかるように、各ホーン114の内壁面は、その開口面に垂直な方向から見たときに、そのホーン114に連通するスロット112の中央部に向かって突出する一対の突出部115を有する。一対の突出部115は、階段状に複数対設けられている。このような突出部115を設けることにより、ホーン114の動作可能な周波数帯域を拡大することができる。なお、各ホーンの内壁面は階段状である必要はない。連続した傾斜面であっても良い。同様に、突出部も階段状に限られず、連続した表面を有する凸条であっても良い。このような突出部は、複数のホーン114の一部にのみ設けられていてもよい。各ホーン114は、一対の突出部ではなく、1つの突出部を有していてもよい。少なくとも1つのホーン114における少なくとも1つの内壁面に突出部が設けられていれば、そのホーン114について上記の効果を得ることができる。
図32Aに示すように、第1導電部材110の第1導電性表面110bは、複数のホーン114によって構成される列の一端または両端に位置するホーン114の開口面の縁に接続して拡がる平坦面を有する。図32Aの構成における両端のホーン114C、114Fの内壁面には、第1導電性表面110bにおける平坦面が接続されている。このような平坦面が開口面の片側に近接して存在することにより、ホーン114C、114Fから放射される電磁波(ビーム)が平坦面の側に傾く。その結果、ホーン114C、114Fを傾斜させた場合と類似する効果が得られる。この平坦面の位置および面積等を調節することにより、アンテナアレイの指向性を調節することができる。
図32Cは、本実施形態における隣り合って並ぶ3つのホーン114A、114B、114Cから放射される電磁波の方位を模式的に示す図である。図32Cにおいて、2本の実線は、第1のホーン114Aから放射される電磁波の主ローブの広がりを示している。2本の破線は、第2のホーン114Bから放射される電磁波の主ローブの広がりを示している。2本の点線は、第3のホーン114Cから放射される電磁波の主ローブの広がりを示している。3本の1点鎖線は、それぞれの主ローブの中心軸を示している。
図32Cに示すように、本実施形態においては、スロット112A、112B、112Cに電磁波が供給されたとき、ホーン114A、114B、114Cからそれぞれ放射される3つの主ローブは互いに重なる。3つの主ローブの中心軸の方位は互いに異なる。3つの主ローブの中心軸の方位の差は、各主ローブの幅よりも小さい。3つの主ローブの中心軸の方位の差とは、3つの中心軸のうちの任意の2つの中心軸のなす角度のうち、最大の角度を意味する。主ローブの幅は、主ローブの広がり角を意味する。図32Cには示されていない他のホーン114D、114E、114Fについても同様の放射特性を有する。本実施形態においては、各ホーン114の形状を調節することにより、上記の条件を満たす範囲で、主ローブの方位を調節することができる。
本発明者らは、このような構造のホーンアンテナアレイを用いることにより、電磁波の放射時に、サイドローブの影響を低減でき、好適な放射が可能であることを見出した。以下、1列のアンテナアレイの構成を例に、この効果を説明する。
図33Aは、1列のアンテナアレイの構成例を示す平面図である。このアンテナアレイの構成は、図29に示すアンテナアレイの1つの列の構成と同じである。本発明者らは、図33Aに示すアンテナアレイから放射される電磁波の強度分布をシミュレーションによって計算し、本実施形態の効果を確認した。
図33Bは、本シミュレーションにおいて用いた導電部材110、120の構造および寸法を示す断面図である。送受信する電磁波の周波数は76.5GHzである。中央のポート145Uを介して図の下方から給電し、左右に分けて各々3つのアンテナ素子に給電した。中央の2つのホーン114の基部のスロット112の中心間隔は4mmである。それ以外の外側のホーンの基部のスロット112の中心間隔は狭く、2.75mmである。ホーン114の開口中心間の距離は、全て3mmである。また、各スロット112の下側の開口から各ホーン114の開口面までの距離を各放射器の高さと呼ぶとき、この高さは3.50mmである。周波数76.5GHzにおける電磁波の自由空間波長λ0は3.92mmであり、各放射器の高さは自由空間波長よりも小さい。また、ホーン114の開口中心間の距離も自由空間波長よりも小さい。この例では、中央の2つのホーン114の基部の間に4mmの間隔を確保することで、この部分の導波部材112Uの長さを他の領域よりも延ばしている。この結果、ポート145Uから導波路が左右に分かれる分岐部における整合が改善し、反射が低減される。
図33Cは、この例におけるシミュレーション結果を示すグラフである。図33Cのグラフは、放射される電磁波の電界強度の角度分布を示している。横軸はE面内における正面方向からの角度θを示し、縦軸は電界強度(単位:dBi)を示している。図示されるように、主ローブのレベルに対して、サイドローブのレベルを22.8dBi程度低くすることができた。
本発明者らは、比較のため、図33Dに示すように、6個のホーン114の形状が全て対称形状である構成についても同じ条件でシミュレーションを行った。この構成における各ホーン114の形状は、図33Aに示す両端に位置する2つのホーン114の形状と同じである。
図33Eは、図33Dに示す例におけるシミュレーション結果を示す図である。この例では、主ローブのレベルに対して、サイドローブのレベルの低減が13.3dBi程度に留まる。この結果から、本実施形態の優位性が確認できた。
本実施形態におけるアンテナアレイは、各列につき6個のスロット112およびホーン114を有しているが、各列のスロット112およびホーン114の個数は2個以上であれば任意である。列の個数についても、5列に限らず、1列以上の任意の列数であってよい。
1つの列における複数のスロット112の配列方向である第1の方向は、各スロット112のE面に平行な方向である必要はない。図34Aおよび図34Bは、複数のスロット112の配列方向がE面と交差する方向である例を示す平面図である。このような構成であっても、スロットアンテナアレイとして機能する。
図34Cは、アンテナアレイの他の例を示す図である。この例では、導電部材110がホーンごとに分離されている。この例のように、導電部材110は分離された複数の部分から構成されていてもよい。この場合、ホーンごとに位置または向きを調節して所望のアンテナ特性を得てもよい。
(実施形態2の変形例2)
前述の非対称なホーンを有するアンテナアレイは、リッジ導波路を利用したアンテナ装置だけでなく、中空導波管を利用したアンテナ装置にも適用することができる。以下、そのような構成の例を説明する。
図35Aは、中空導波管を利用したアンテナアレイの構成例を示す平面図である。図35Bは、図35AにおけるB−B線断面を示す図である。図35Cは、図35AにおけるC−C線断面を示す図である。
この例におけるアンテナアレイの導電部材110は、4つのスロット112および4つのホーン114を備えている。4つのホーン114のうち、両端の2つのホーン114は対称形状を有し、内側の2つのホーン114は非対称形状を有する。いずれのホーン114も角錐形状を有する。
図35Bに示すように、アンテナアレイは、さらに、中空導波管192を有する導電部材190を備えている。複数のスロット112は、中空導波管192に接続されている。中空導波管192は、幹部192aと、幹部から少なくとも1つの分岐部を介して分岐した複数の枝部192bを有している。図35Bの例では、中空導波管192は、1本の幹部192aから2つの分岐部を介して分岐した4つの枝部192bを有している。複数の枝部192bの末端が、複数のスロット112にそれぞれ接続されている。中空導波管192の幹部192aは、MMICなどの電子回路に接続される。送信時には幹部192aに電子回路から信号波が供給される。その信号波は、複数の枝部192bに分かれて伝搬し、複数のスロット112を励振する。
図35Bに示す寸法の一例は、以下の通りである。送受信する電磁波の周波数は76.5GHzであり、自由空間波長λ0は3.92mmである。隣り合う2つのホーン114の開口中心間距離Hdは、例えば3.0mm(およそ0.77λ0)である。非対称な内側の2つのホーン114のそれぞれのE面断面において、E面とスロット112の縁との2つの交点の一方からE面とホーン114の開口面の縁との2つの交点の一方までの内壁面に沿った長さと、E面とスロット112の縁との他方の交点からE面とホーン114の開口面の縁との他方の交点までの内壁面に沿った長さとの差S1は、例えば0.39mm(およそ0.10λ0)である。各ホーン114の開口面の第1の方向における幅Aは、例えば2.5mm(およそ0.64λ0)である。各ホーン114の基部から開口面までの距離Lは、例えば3.0mm(およそ0.77λ0)である。これらの寸法とは異なる寸法を採用してもよい。
導電部材110、190は、複数のボルト116によって互いに固定されている。複数のホーン114の形状の少なくとも一部を非対称にすることにより、例えばボルト116によって中空導波管192の構造が制約される場合でも、所望の放射特性または受信特性を実現し易い。
図35Dは、他の変形例を示す断面図である。この例では、導電部材110の少なくとも一部は、中空導波管192の側面として機能する。複数のホーン114は、中空導波管192の側面に設けられている。この例における中空導波管192は、スロット112の配列方向に沿って延びている。中空導波管192の一端に供給された信号波は、中空導波管192を伝搬し、複数のスロット112を励振する。この場合、複数のスロット112の間隔は一定ではないため、等位相からずれた条件で複数のスロット112は励振される。このようなアンテナアレイにおいても、本実施形態の効果を得ることができる。
図36Aは、さらに他の変形例を示す平面図である。図36Bは、図36AにおけるB−B線断面を示す図である。この例における各ホーン114は、直方体または立方体の内部空洞を有するボックスホーンである。各ホーン114の内壁面は、スロット112に連通する底面と、底面に垂直な側面とを有する。各ホーン114のE面断面において、スロット112の中心の位置は、ホーン114の開口面の中心から内側または外側にシフトしている。
複数のスロット112は、導電部材110、190によって形成される中空導波管192に接続される。導電部材110の底面は、中空導波管192の側面の一部としても機能する。
この例における寸法の一例は、以下のとおりである。隣り合う2つのホーン114の開口中心間距離Hdは、例えば3.0mm(およそ0.77λ0)である。各ホーン114のE面断面において、E面とスロット112の縁との2つの交点の一方からE面とホーン114の開口面の縁との2つの交点の一方までの直線距離と、E面とスロット112の縁との他方の交点からE面とホーン114の開口面の縁との他方の交点までの直線距離との差S2は、例えば0.39mm(およそ0.10λ0)である。各ホーン114の開口面の第1の方向における幅Aは、例えば2.5mm(およそ0.64λ0)である。各ホーン114の基部から開口面までの距離Lは、例えば3.0mm(およそ0.77λ0)である。これらの寸法とは異なる寸法を採用してもよい。
以上の中空導波管を用いた例においては、全てのスロットが1つの中空導波管に接続されていなくてもよい。複数のスロットの一部が他の一部とは異なる中空導波管に接続されていてもよい。
(実施形態3)
実施形態3は、ポートの近傍のチョーク構造を工夫することにより、ポートにおける信号波の反射を抑制する技術に関する。
従来のチョーク構造は、例えば特許文献1に開示されているように、長さがおよそλr/4の付加的なリッジ(以下、「チョークリッジ」と称することがある。)を含む。チョークリッジの長さがλr/4から外れると、チョーク構造としての機能を損なうと考えられてきた。
しかし、本発明者らは、チョークリッジの長さをλr/4よりも短くした場合でも、チョーク構造として十分に機能すること、および、λr/4よりも短い方が好適である場合も多いことを見出した。より好ましくは、λ0/4以下である。λ0はλrよりも10%程度小さい事が多いため、λ0/4もλr/4よりも10%程度小さい。この知見に基づき、本実施形態の導波路装置では、チョークリッジの長さをλ0/4以下にしている。
本実施形態におけるチョーク構造は、ポートに隣接する位置に設けられた導電性のリッジ(チョークリッジ)と、当該リッジの、ポートから遠い側の一端に対して間隙を空けて導電性表面上に配置された1本以上の導電性のロッドとを含む。チョークリッジは、ポートによって分断された導波部材の一部であると考えてもよい。チョークリッジの長さは、例えばλ0/16以上λ0/4以下に設定され得る。
本実施形態ではさらに、チョーク構造の近傍におけるリッジまたはポートの一部に切り欠きを設けたり、テーパーを設けたりすることにより、信号波の反射を抑制することができる。以下、図27の構成を例に、上記のようなチョーク構造を備える導波路装置の例を説明する。
図37Aは、図27に示されるような第3導電部材140のポート145Lにおけるインピーダンス整合構造の一例を示す斜視図である。
本実施形態における第3導電部材140は、第2導波部材122Lの一端に隣接する位置に配置されたポート145Lを有する。ポート145Lを介して第2導波部材122Lの前記一端に対向する位置には、チョーク構造150が配置されている。
図37Bは、図37Aに示されるポート145Lおよびチョーク構造150の断面を模式的に示す図である。図37Bに示されるように、ポート145Lは、第3導電部材140における正面側の第5導電性表面140aから背面側の第6導電性表面140bまで貫通している。
本実施形態におけるチョーク構造150は、ポート145Lに隣接する第1部分150aと、第1部分150aに隣接する第2部分150bとを有している。第1部分150aは、チョーク構造150の一端の切り欠きによって構成されている。この切り欠きにより、第1部分150aから第2導電部材120の第4導電性表面120bまでの間隔(距離)は、第2部分150bから第2導電部材120の第4導電性表面120bまでの間隔(距離)よりもλ/4程度長く、インピーダンス整合構造が実現している。この例では、第1部分150aから第2導電部材120の第4導電性表面120bまでの間隔(距離)が、第3導電部材140の第5導電性表面140aから第2導電部材120の第4導電性表面120bまでの間隔(距離)に等しい。
このようなインピーダンス整合構造がチョーク構造150の側に設けられていることにより、信号波がポート145Lを通過するとき、ポート145Lでの不要な反射が抑制される。その結果、信号波が効率的に導波部材122Lの導波面122aと第4導電性表面120bとの間の導波路に結合することができる。
図37Bに示す例では、チョーク構造150は、ポート145Lに隣接する位置に設けられたチョークリッジ152と、チョークリッジ152の、ポート145Lから遠い側の一端に対して間隙を空けて導電性表面140a上に配置された一本以上の導電性のロッド154とを含む。チョークリッジ152は、第1部分150aと第2部分150bとを含む。図37Bの例では、第1部分150aの上面は導電性表面140aと同じ高さのレベルにあるが、この部分もチョークリッジ152に含める。チョークリッジ152の長さLrは、例えばλ0/4以下に設定され得る。ロッド154は、導波部材122Lの両側に拡がる人工磁気導体を構成する導電性ロッド124と同じ寸法を有していてもよいし、異なる寸法を有していてもよい。
(実施形態3の変形例)
図38Aは、実施形態3の変形例におけるインピーダンス整合構造を示す斜視図であり、図38Bは、断面図である。この変形例では、チョーク構造150を構成する構造物の形状が図37Aおよび図37Bの形態における形状と異なる。また、第1部分150aから第2導電部材120の第4導電性表面120bまでの間隔(距離)が、第3導電部材140の第5導電性表面140aから第2導電部材120の第4導電性表面120bまでの間隔(距離)よりも短い。さらに、導波部材122Lから第1部分150aを見たとき、第1部分150aの奥行きが伸び、それに伴って第2部分150bが短くなっている。
図39Aは、実施形態3の他の変形例におけるインピーダンス整合構造を示す斜視図であり、図39Bは、断面図である。この変形例と、図38Aおよび38Bの構成例との相違点は、この変形例では、第1部分150aから第2導電部材120の第4導電性表面120bまでの間隔(距離)が、第3導電部材140の第5導電性表面140aから第2導電部材120の第4導電性表面120bまでの間隔(距離)に等しいことである。
図40Aは、実施形態3の更に他の変形例におけるインピーダンス整合構造を示す斜視図である。図40Bは、その断面図である。この変形例では、チョーク構造150の側に設けられたインピーダンス整合構造に加えて、導波部材122Lの側にも、インピーダンス整合のための凹部123dが設けられている。
図41および図42は、それぞれ、上述したインピーダンス整合構造を備える具体的な構成例を示す斜視図である。図38Aから図42に示すようなインピーダンス整合構造を用いた場合でも、ポート145Lを信号波が通過する際の不要な反射を抑制できる。
以上の各例では、第3導電部材140の正面側の第5導電性表面140aから背面側の第6導電性表面140bまで貫通するポート145Lにおけるインピーダンス整合構造を説明した。同様の構造は、ポート145L以外のポートまたはスロットに適用してもよい。本実施形態におけるチョーク構造150は、ポートまたはスロットなどの任意の貫通孔の近傍に設けられ得る。例えば、図42等に示すポート145Lをスロット(アンテナ素子)として機能させることもできる。
図43Aから図43Iは、本開示のバリエーションを説明するための模式断面図である。これらの例では、チョーク構造150は第1導電部材110と第2導電部材120との間にある。ポート145は第2導電部材120を貫通している。
図43Aは、チョークリッジの長さをおよそλ0/8にまで短縮した例を示している。従来、このような構成では電磁波の漏洩を十分に抑制できないと考えられていたが、本発明者らの解析によれば、実用上問題ないレベルにまで漏洩を抑制できることがわかった。なお、図43Bの様に、チョークリッジの長さをλ0/8とする場合、リッジの周囲に配置される導電性ロッドの長さと幅もλ0/8である場合が多いため、チョークリッジと導電性ロッドの寸法と形状が同じになる事もある。その様な構造も本開示の実施形態である。
図43Bから図43Dは、チョークリッジが切り欠きを有する例を示している。切欠きの深さおよび範囲は、図示されるように多様である。図43Bの例では、チョークリッジの切り欠きでは無い部分(第2部分)の長さはλ0/8の1.5倍である。図43Dの例では、導波部材122の、ポート145に隣接する部位にも切り欠きが設けられている。切り欠きの部位は間隙拡大部であり、その部位では、導電部材110の導電性表面110aと導波部材122の導波面122aとの距離が、ポート145とは逆側において切り欠きの部位に隣接する部位よりも長い。
図43Eから図43Iは、切り欠きの代わりにテーパーがチョークリッジまたは導波部材122の一端に設けられた例を示している。これらの例では、チョークリッジおよび導波部材122の少なくとも一方は、間隙拡大部において傾斜面を有する。このような構造でも、同様の反射抑制効果が得られる。なお、図43Bや図43Iに示す様に、切り欠きまたはテーパーが大きい場合には、基部において測ったチョークリッジ全体の長さがλ0/4を超える場合もある。
これらの例のように、切り欠きやテーパーをチョークリッジに導入してチョーク構造に間隙拡大部を設ける事により、ポート145を通過する信号波が、ポート145周辺で反射されることを抑制出来る。
以上の例では、第2導電部材120にポート145が設けられているが、ポート145は第1導電部材110の側に設けられていてもよい。ポート145をスロット(アンテナ素子)として機能させてもよい。
図44Aから図44Gは、ポート145が第1導電部材110の側に設けられている例を示している。これらの例における1導電部材110は、導波部材122の一端に近接する導波面122aの部位に対向する位置に配置されたポート145を有する。ポート145は、第1導電性表面110bから第2導電性表面110aに連通する。第2導電部材120は、導波部材122の一端を含む領域にチョーク構造150を有する。チョーク構造150は、ポート145の開口を導波面122aに投影した際の縁から導波部材122の一端の縁までの範囲を占める導波部材端部156と、導波部材122の一端に対して間隙を空けて第3導電性表面120a上に配置された一本以上の導電性ロッド154とを含む。図44Aの例において、導波部材端部156の長さは、λ0/8の1.13倍である。導波路を伝搬する電磁波の、自由空間における中心波長をλ0とするとき、導波路に沿った方向における導波部材端部156の長さは、例えばλ0/16以上λ0/4未満に設定され得る。
図44Bから図44Gに示す例では、第1導電部材110の第2導電性表面110aは、導波部材端部156が対向する部位においてポート145に隣接する第1部分117と、第1部分117に隣接する第2部分118とを有している。第1部分117と導波面122aとの距離は、第2部分118と導波面122aとの距離よりも長い。第1部分117は、図44Bから図44Eの例では傾斜面を有している。図44Bの例において、第2部分の長さはλ0/8の1.5倍である。図44Fおよび図44Gの例では、第1部分117は、切り欠きが設けられた部位である。切り欠きまたは傾斜面は間隙拡大部であり、その部位では導波面122aとの距離が、隣接する部位よりも長い。間隙拡大部は、導波部材122が延びる方向においてポート145に隣接する両側に設けられていてもよい。図44C、図44E、図44Gは、そのような例を示している。
図44Bから図44Gに示すように間隙拡大部を設ける事により、ポート145を通過する信号波が、ポート145周辺で反射されることを抑制できる。
図45Aから図45Dは、さらに他の変形例を示す図である。この例では、第1導電部材110または導波部材122は、ポート145の近傍に、間隙拡大部ではなく間隙縮小部を有する。間隙縮小部では、導電性表面110aと導波面122aとの距離が隣接する部位よりも縮小する。用途によってはこのような構造を採用してもよい。これらの構造も、ポート145を通過する信号波が、ポート145周辺で反射されることを抑制できる。
(実施形態4)
図46Aは、実施形態4における第3導電部材140(分配層)の構造を模式的に示す平面図である。本実施形態では、第3導電部材140上の導波部材122Lが、8ポートディバイダの構造を有している点で、前述の各実施形態とは異なる。
図46Aに示すように、本実施形態における導波部材122Lは、複数のT型分岐部122t1、122t2、122t3(以下、これらをまとめて「T型分岐部122t」と称することがある。)を有している。複数のT型分岐部122tの組み合わせによって、ポート145Lから延びる1本の導波部122L0(以下、「幹部122L0」とも称する。)が、8本の終端導波部122L3に分岐している。導波部材122Lは、ポート145Lから8本の終端導波部122L3の先端までの伝搬距離が全ての経路で等しくなるように設計されている。
複数のT型分岐部122tは、導波部材122Lの幹部122L0を2本の第1梢部122L1に分岐する第1分岐部122t1と、第1梢部122L1のそれぞれを2本の第2梢部122L2に分岐する2個の第2分岐部122t2と、第2梢部122L2のそれぞれを2本の第3梢部122L3に分岐する4個の第3分岐部122t3とを含む。8個の第3梢部122L3は、終端導波部として機能する。
図46Bは、本実施形態における第2導電部材120(励振層)の構造を示す平面図である。8個の終端導波部122L3の先端部は、第2導電部材120における8個のポート145Uに対向している。8個の終端導波部122L3から8個のポート145Uを通過した信号波は、第2導電部材120上の8本の導波部材122U上を伝搬し、その上部の第1導電部材110における複数のスロット112を励振する。
図46Cは、本実施形態における第1導電部材110の構造を示す平面図である。本実施形態における第1導電部材110は、48個のスロット112を有している。Y方向に並んだ8個のスロット112からなるスロット列が、X方向に8列並んでいる。8個のスロット列は、第2導電部材120における8本の導波部材122Uにそれぞれ対向している。第2導電部材120における8本の導波部材122Uのそれぞれに沿って伝搬した信号波は、第1導電部材110における対向するスロット列に含まれる各スロット112を励振する。これにより、電磁波が放射される。
再び図46Aを参照する。第3導電部材140は、導波部材122Lの幹部122L0の先端に隣接する位置に、ポート145Lを有している。幹部122L0の先端の側面(端面)は、ポート145Lの内壁につながっている。このポート145Lは、図28に例示されているような第4導電部材160上の導波部材122Xの先端部に対向している。
図28に示されるポート(方形導波管)165を通過して導波部材122Xを伝搬した信号波は、ポート145Lを通過して導波部材122Lの幹部122L0に到達する。この信号波は、幹部122L0から、複数の分岐部122tによって分岐し、8個の終端導波部122L3の先端に到達する。そして、図46Bに示す第2導電部材120における8個のポート145Uを通過し、第2導電部材120上の8本の導波部材122U上の導波路を伝搬する。その結果、図46Cに示す各スロット112が励振され、電磁波が外部空間に放射される。
図46Aに示される導波部材122Lは、14個の屈曲部(図46Aにおいてハッチングされている箇所)を有している。これらの屈曲部には、凹部または凸部が形成されている。本実施形態では、8個の終端導波部122L3のうちで中央部(内側)に位置する4個の終端導波部122L3の形状は、外側に位置する4個の終端導波部122L3の形状とは異なっている。より具体的には、中央部(内側)の4個のポート145U(図46B)につながる4個の終端導波部122L3の屈曲部は、凹部を有している。外側の4個のポートにつながる4個の終端導波部122L3の屈曲部は、凸部を有している。このように、終端導波部122L3によって屈曲部の構造が異なる。このような構造により、内側の4個のポート145Uにつながるアンテナ素子に比べて、外側の4個のポート145Uにつながるアンテナ素子の励振振幅が小さくなる。その結果、アレーアンテナとして使用する際にサイドローブを抑制することができる。
上記の効果は、屈曲部に凹部を設けた場合には、屈曲部における信号波の反射が抑制され、屈曲部に凸部を設けた場合には、逆に屈曲部における信号波の反射が大きくなるという本発明者らの発見に基づいている。アレーアンテナの放射効率を高めるためには、屈曲部での反射を抑制することが好ましい。しかし、サイドローブの抑制が優先される場合には、例えば本実施形態のように、分配層における導波部材122Lの外側の屈曲部で敢えて反射を生じさせて、外側のスロットから放射される電磁波の振幅を抑制することが効果的である。
図47は、本実施形態の変形例を示す斜視図である。図47に示す導波部材122Lでは、各屈曲部の外側の角が面取りされ、加えて、各分岐部の側面に、導波面まで達する3つの半円柱状の窪み(凹部)がある。さらに、導波部材122Lは、各T型分岐部における幹側の部分の導波面の高さが分岐部に近づくほど高くなる構造(インピーダンス変成部)が設けられている。これらの構造により、屈曲部または分岐部における不要な反射を抑制することができる。
図48Aは、図47に示す導波部材122Lの一部(破線枠で囲まれた部分)を拡大して示す図である。図48Aには、8個の終端導波部122L3を有する導波部材122Lの片側の半分(4ポートディバイダ)のみを示している。図示されている4個の終端導波部122L3のうちの外側(図48Aにおいて下側)の2つの終端導波部122L3における屈曲部122Lbは、凸部を有している。一方、内側(図において上側)の2つの終端導波部122L3における屈曲部122Lbは、凹部を有している。図48Aに示されていない残り4個の終端導波部122L3の屈曲部122Lbについても同様に、外側の屈曲部122Lbは凸部を有し、内側の屈曲部122Lbは凹部を有している。このような構造により、外側の屈曲部122Lbにおいて信号波の反射を意図的に大きくし、外側の終端導波部122L3から励振層に向かう信号波の振幅を小さくすることができる。これにより、サイドローブを低減することができる。
サイドローブを低減するための構造は、上述の構造に限定されず、多様な構造が可能である。例えば、外側の少なくとも2つの終端導波部122L3の屈曲部122Lbの高さを基準の高さ(すなわち、凹部も凸部も存在しない部位の高さ)から変えずに、内側の少なくとも2つの終端導波部122L3の屈曲部122Lbに凹部を設けてもよい。あるいは、内側の少なくとも2つの終端導波部122L3の屈曲部122Lbの高さを基準の高さから変えずに、外側の少なくとも2つの終端導波部122L3の屈曲部122Lbに凸部を設けてもよい。屈曲部122Lbの凹部の深さまたは凸部の高さは、全ての屈曲部122Lbについて異なっていてもよいし、一部の屈曲部122Lbについては同じであってもよい。
本実施形態では、内側の屈曲部122Lbの高さよりも外側の屈曲部122Lbの高さを高くすることによって外側のポート145U(図36B参照)に繋がる信号波の振幅を抑制しているが、このような構造に限定されない。例えば、図48Aに示されている屈曲部122Lbの角の面取りを、内側の屈曲部122Lbについてだけ行い、外側の屈曲部122Lbについては行わない構成でもよい。角を面取りすると、信号波の反射が抑制されるため、内側の屈曲部122Lbについてのみ面取りを行うことにより、内側のスロット112から放射される信号波の振幅を選択的に高めることができる。あるいは、屈曲部122Lb以外の部位の形状を調整することにより、内側では反射を抑制し、外側ではより大きい反射を生じさせてもよい。例えば、図48Aに示されている分岐部122t3における側面の3つの窪みを、内側のいくつかの分岐部122t3においてのみ設けた構造が考えられる。他にも、信号波の伝搬経路の長さまたはインピーダンスを、内側と外側とで異ならせる構造によって同様の効果を得ることができる。
サイドローブを低減する目的とは異なる目的で、複数の終端導波部122L3の少なくとも一つの形状を、他のいずれかの形状とは異なる形状にしてもよい。各終端導波部の形状は、要求されるアレーアンテナの性能に応じて、適宜設計され得る。
本実施形態では、分配層における導波部材122Lが8ポートディバイダの構成を有しているが、4ポートディバイダ、16ポートディバイダ、または32ポートディバイダなどの他の構成であってもよい。言い換えれば、本実施形態の効果を得るためには、導波部材122Lは、複数のT型分岐部の組み合わせによって1個の幹部から2N個(Nは2以上の整数)の終端導波部に分岐する構成であればよい。そのような構成において、導波部材122Lに対向する導電性表面を有する導波部材は、2N個の終端導波部に対向する2N個のポートを少なくとも有する。2N個の終端導波部の少なくとも一つの形状を、他のいずれかの形状とは異なる形状にすることにより、目的に応じた所望の放射特性を実現し得る。本実施形態ではN=3であるが、N=2またはN≧4でもよい。
N≧3の場合、2N個の終端導波部のうちで中央部(内側)に位置する4個の終端導波部の形状は、当該4個の終端導波部の外側に位置する少なくとも4個の終端導波部の形状とは異なっていてもよい。例えば、中央部に位置する4個の終端導波部における屈曲部の形状を凹部にし、当該4個の終端導波部の外側に位置する少なくとも4個の終端導波部の屈曲部の形状を凸部にすることにより、本実施形態と同様に、サイドローブを低減する効果が得られる。
一方、N=2の場合、4個の終端導波部のうちで中央部に位置する2個の終端導波部の形状は、当該2個の終端導波部の外側に位置する2個の終端導波部の形状とは異なっていてもよい。例えば、中央部に位置する2個の終端導波部における屈曲部の形状を凹部にし、当該2個の終端導波部の外側に位置する2個の終端導波部の屈曲部の形状を凸部にすることにより、4列のスロットを有するアレーアンテナについて、サイドローブを低減する効果が得られる。
次に、本実施形態におけるインピーダンス変成部の構造および効果を説明する。以下の説明において、インピーダンス変成部122i1、122i2をまとめて「インピーダンス変成部122i」と称することがある。
図48Aに示されるように、分配層における導波部材122Lは、複数のT型分岐部122tに隣接する、幹部122L0側の部分に、導波路のキャパシタンスを増加させる複数のインピーダンス変成部122iをそれぞれ有している。本実施形態では、各インピーダンス変成部122iは、導波面と、それに対向する導電部材の導電性表面との間の距離を小さくする構造を有する。言い換えれば、各インピーダンス変成部122iは、高さが隣接する部分よりも高い凸部を有している。各インピーダンス変成部122iは、導波面の幅(導波面が延びる方向に垂直な方向の寸法)が隣接する部分よりも広い幅広部を有していてもよい。導波面と導電部材の導電性表面との間の距離を小さくする代わりに幅を広くした場合でも、同様にキャパシタンスを増加させる効果がある。インピーダンス変成部122iの高さ(もしくは導波面と導電性表面との距離)または幅を適切に設定することにより、分岐部122tにおけるインピーダンスの整合度を高めることができる。
図48Aに示す例では、各インピーダンス変成部122iは、分岐部122tに隣接し、一定の高さを有する第1変成部と、当該分岐部122tとは反対の側で第1変成部に隣接し、一定の高さを有する第2変成部とを含む。第1変成部の高さは、第2変成部の高さよりも高い。高さではなく幅を変化させる場合は、第1変成部の幅は、第2変成部の幅よりも広くなる。各インピーダンス変成部122iは、高さまたは幅が2段階に変化する構成に限らず、1段階または3段階以上に変化する構成を有していてもよい。
導波部材122Lにおいて、同一の高さを有する部分の導波路に沿った長さは、典型的には、導波路中での信号波の波長の1/4程度に設定される。しかし、本実施形態では、そのような寸法から大きく外れた寸法が用いられている。
本実施形態では、複数のインピーダンス変成部122iのうち、終端導波部122L3から相対的に遠い第1インピーダンス変成部122i1の導波路に沿った方向の長さは、終端導波部122L3に相対的に近い第2インピーダンス変成部122i2の導波路に沿った方向の長さよりも短い。図48Aの例では、第1インピーダンス変成部122i1は第1梢部122L1にあり、第2インピーダンス変成部122i2は第2梢部122L2にある。
図48Bは、インピーダンス変成部122i1、122i2の寸法を説明するための図である。第1インピーダンス変成部122i1において、分岐部に近い第1変成部の、導波路に沿った長さをy1とし、分岐部から遠い第2変成部の、導波路に沿った長さをy2とする。同様に、第2インピーダンス変成部122i2において、分岐部に近い第1変成部の、導波路に沿った長さをy3とし、分岐部から遠い第2変成部の、導波路に沿った長さをy4とする。本実施形態では、y1<y2、y3>y4、およびy3>y1が成立する。y1、y2、y3、y4の値の一例は、y1=1.0mm、y2=1.15mm、y3=1.4mm、y4=0.9mmである。
以上のように、本実施形態では、導波路に沿った方向に関して、第1インピーダンス変成部122i1における第1変成部は、第2インピーダンス変成部122i2における第1変成部よりも短い。また、導波路に沿った方向に関して、第1インピーダンス変成部122i1における第1変成部(長さy1)は、第1インピーダンス変成部122i1における第2変成部(長さy2)よりも短く、第2インピーダンス変成部122i2における第1変成部(長さy3)は、第2インピーダンス変成部122i2における第2変成部(長さy4)よりも長い。また、第1インピーダンス変成部122i1における第1変成部の、終端導波部122L3に近い側の端部は、終端導波部122L3から遠い側の分岐部122tに達しているが、第2インピーダンス変成部122i2における第1変成部の、終端導波部122L3に近い側の端部は、終端導波部122L3に近い側の分岐部122tには達していない。このような構成により、全ての変成部の長さを伝搬波長の1/4に設定した一般的なインピーダンス変成器と比べて、分岐部122tにおけるインピーダンス整合度を高めることに成功した。
なお、本実施形態では、第3導電部材140(分配層)が8ポートディバイダの構成を有しているが、第2導電部材120(励振層)が同様の構成を有していてもよい。すなわち、複数の終端導波部122L3が、第1導電部材110における複数のスロット112に対向していてもよい。そのような構成によってもアレーアンテナの励振振幅の面内分布を制御し、分岐部122tでの伝搬損失を低減することができる。
(実施形態5)
図49は、実施形態5における第4導電部材160の一部の構造を示す斜視図である。本実施形態における第4導電部材160は、導波部材122Xの一端に隣接する位置に配置された方形導波管165Lと、方形導波管165Lを介して導波部材122Xの上記一端に対向する位置に設けられたチョーク構造150とを有する。方形導波管165Lは、第4導電部材160の背面側の導電性表面から、導波部材122X上の導波路に連通している。方形導波管165Lは、信号波(高周波信号)を生成または受信する電子回路(例えば、MMIC)と第4導電部材160とを結合する。すなわち、電子回路で生成された信号波は、方形導波管165Lを通過して導波部材122Xを一端から他端へ伝搬し、当該他端からからポートを経由して上部の層(分配層または励振層)に送られる。一方、アンテナ素子から導波部材122Xの上記他端に送られてきた信号波は、導波部材122Xを上記一端まで伝搬し、方形導波管165Lを通過して電子回路に送られる。
第4導電部材160の導電性表面160aの法線方向から見たとき、方形導波管165Lは、一対の長辺と、当該長辺に直交する一対の短辺とによって規定される長方形の形状を有している。ここで、「長方形の形状」とは、厳密な長方形に限定されない。例えば、角が丸い形状、または、一対の長辺および一対の短辺の少なくとも一方が、平行から外れた形状も、「長方形の形状」に含まれ得る。
方形導波管165Lにおける一対の長辺の一方は、導波部材122Xの一端に接している。一対の長辺の他方は、チョーク構造150の構成要素であるチョークリッジ122X’の側面に接している。チョークリッジ122X’は、方形導波管165Lによって分断された導波部材122Xの部分と解釈することもできる。チョークリッジ122X’は、導波部材122Xが延びる方向についての寸法がロッド124Xよりもわずかに大きい。チョークリッジ122X’と、その延長線上のいくつかのロッド124Xとによってチョーク構造150が形成されている。なお、チョークリッジ122X’は、ロッド124Xで代用してもよい。
第4導電部材160上の複数のロッド124Xは、導波部材122Xに沿って導波部材122Xの両側に配列された2列以上のロッド124Xを含んでいる。チョークリッジ122X’の両側にも、2列以上のロッド124Xが配置されている。図49には、参考のため、導波部材122Xおよびチョークリッジ122X’に隣接する2列のロッドが、破線で示されている。方形導波管165Lは、導波部材122Xの両側に隣接して導波部材122Xに沿って並ぶ1列目のロッド列124X1を分断するが、2列目のロッド列には達していない。より具体的には、方形導波管165Lの長辺の長さは、少なくとも2列のロッドの最短中心間距離の2倍よりも長く、最短中心間距離の3.5倍よりも短い。方形導波管165Lの短辺の長さは、前記最短中心間距離の1.5倍よりも短い。
このような方形導波管165Lによれば、MMICなどの電子回路と導波路とを接続する際に、信号波のエネルギーの漏れを抑制し、アレーアンテナ装置の性能を向上させることができる。
(実施形態6)
実施形態6、および次の実施形態7は、導電性ロッドのサイズおよびその配置周期に関する。
実施形態6、7のいずれも、導電性ロッドが角柱形状であり、その「辺」のサイズを変更することにより、導電性ロッドの配置周期を変更する点で共通する。ここで言う「辺」とは、角柱形状の導電性ロッドを導電性表面の法線方向から見たときの、図3におけるX方向またはY方向の辺を言う。以下では、導電性ロッドのX方向の辺の長さおよびY方向の辺の長さの比を、導電性ロッドの「アスペクト比」と呼ぶ。
これまで説明した実施形態では、上述した導電性ロッドの先端部124aの平面形状は、図面上、概ね正方形であった。つまり、アスペクト比は実質的に1であった(たとえば図17)。
本実施形態および次の実施形態7は、アスペクト比が1ではない非正方形の平面形状を有する導電性ロッドにより、人工磁気導体を構成する。本実施形態と次の実施形態7との差異は、本実施形態では、導電性ロッドの、隣接する導波部材が延びる方向に平行な方向(Y方向)の辺のサイズを短縮するのに対し、次の実施形態7では、隣接する導波部材が延びる方向に垂直な方向(X方向)の辺のサイズを短縮する。なお、本実施形態では導電性ロッドのX方向の辺のサイズは増加しているが、それは隣接する導波部材の配置との関係に拠る。
上述したように、導波部材の導波面に凹凸を形成して、導波面と、それに対向する導電部材の導電性表面との距離を導波路に沿って変動させることにより、導波路上を伝搬する信号波の波長を短縮することができる。加えて、またはそれに代えて、導波面の幅を導波路に沿って変動させることによっても、導波路上を伝搬する信号波の波長を短縮することができる。本願発明者らがある実施例について検証したところ、たとえば凹凸が形成されていない導波面を伝搬する信号波の中心波長をλrとすると、凹凸が形成された導波面を伝搬する信号波の波長λgはλg=0.61λrであった。たとえば、λr=4.5mmであれば、λg=2.75mmまでに短縮されている。
そこで、本願発明者らは、波長λrによって導電性ロッドの配置間隔を決定するのではなく、短縮された波長λgを考慮して導電性ロッドのサイズを変更することとした。これにより、人工磁気導体による電磁波(信号波)の漏洩抑制効果を向上させることが可能になる。
以下、本実施形態の導電性ロッドの構成を説明する。
本実施形態もまたアレーアンテナ装置の構成に関するが、以下では主として、アレーアンテナ装置の、導電性ロッドと導波部材とが設けられた第2導電部材120の、導電性ロッドの構造および配置を説明する。ただし、当該説明は、第2導電部材120以外の、第3導電部材140および/または第4導電部材160にも適用可能である。また、特に説明しないアレーアンテナ装置の構成に関しては、これまでのアレーアンテナ装置の説明を援用し、再度の繰り返しは省略する。なお、複数の導電性ロッドは、第2導電部材120上ではなく、導波部材に対向する第1導電部材の導電性表面上に設けられていてもよい。
図50Aは、本実施形態による、アスペクト比が1でない導電性ロッド170a1および170a2を有する第2導電部材120を示す。第2導電部材120はまた、アスペクト比が1の導電性ロッド170b1および170b2も有している。図50Aから理解されるように、Y方向に関して、同じ形状の導電性ロッドが同じ間隔で配列されている。このことを、本実施形態では「導電性ロッドが周期的に配列されている」と言う。また以下では、Y方向に周期的に配列された、アスペクト比が1の複数の導電性ロッドを「標準導電性ロッド群」と呼び、Y方向に周期的に配列された、アスペクト比が1でない複数の導電性ロッドを「高密度導電性ロッド群」と呼ぶ。「高密度導電性ロッド群」を「第1ロッド群」と呼び、「標準導電性ロッド群」を「第2ロッド群」と呼ぶこともある。これらのロッド群を支持する導電部材の導電性表面の法線方向から見たとき、第1ロッド群に属する複数の導電性ロッド(第1ロッド)の各々は、導波路に沿った方向の辺の方が他の辺よりも長い非正方形の形状を有する。一方、当該導電性表面の法線方向から見たとき、第2ロッド群に属する複数の導電性ロッド(第2ロッド)の各々は、正方形の形状を有する。
図50Bは、高密度導電性ロッド群170a、171a、172a、および、標準導電性ロッド群170bおよび171bを模式的に示す上面図である。
上述のように、本実施形態では、波長短縮効果を生じさせる導波面を採用したことに伴って、高密度導電性ロッド群を設けることとした。したがって、高密度導電性ロッド群は、少なくとも所定以上の波長短縮効果を生じさせる導波部材に隣接して設けられる。一方、そのような導波部材に隣接しない位置には、高密度導電性ロッド群ではなく、標準導電性ロッド群が設けられる。
図50Bには、波長短縮効果を生じさせる導波部材122L−a1および122L−a2が示されている。そして、それらの導波部材に隣接する位置には、高密度導電性ロッド群170a、171a、172aが設けられている。一方、それらの導波部材に隣接しない位置には、標準導電性ロッド群171bが設けられている。また、標準導電性ロッド群170bは、所定以上の波長短縮効果を生じさせない導波部材122L−bに隣接して設けられている。
まず、標準導電性ロッド群170b、171bを説明する。例示的に、標準導電性ロッド群170bに含まれる導電性ロッド170b1および170b2を参照する。導電性ロッド170b1および170b2の先端部の平面形状は正方形であり、アスペクト比は1である。また、導電性ロッド170b1および170b2の間隔(Y方向の間隙の距離)は、その正方形の1辺の長さと概ね等しくなるよう設計されている。
具体例を挙げると、導電性ロッド170b1および170b2の各辺は0.5mmであり、導電性ロッドの間隔も0.5mmである。つまり、導電性ロッド群170bをY方向についてみると、0.5mmの辺を有する導電性ロッドが0.5mmの間隔を空けて周期的に配列されている。
次に、高密度導電性ロッド群170a、171a、172aを説明する。例示的に、高密度導電性ロッド群170aに含まれる導電性ロッド170a1および170a2を参照する。導電性ロッド170a1および170a2の先端部124aの平面形状は長方形であり、アスペクト比は1ではない。Y方向の辺の長さは、導電性ロッド170b1および170b2の辺の長さよりも短い。一方、導電性ロッド170a1および170a2の間隔(Y方向の間隙の距離)は、本実施形態では、電性ロッド170b1および170b2の間隔と同じである。
具体例を挙げると、導電性ロッド170a1および170a2のY方向の各辺は0.325mmであり、導電性ロッドの間隔は0.5mmに設定されている。つまり、高密度導電性ロッド群170aをY方向についてみると、0.325mmの辺を有する導電性ロッドが0.5mmの間隔を空けて周期的に配列されている。
高密度導電性ロッド群170a、171a、172a内の導電性ロッドの配列周期と、標準導電性ロッド群170b、171b内の導電性ロッドの配列周期とを比較すると、後者の方が長い。上述の具体例では、1周期あたり、後者の方が0.175mm長い。よって、高密度導電性ロッド群には、同じ長さの範囲内で導電性ロッドをより多く設けることができる。このため、導波部材を伝搬する信号波の漏洩をより効果的に抑制できる。
以下、高密度導電性ロッド群を構成する導電性ロッドのX方向の寸法および配置についても説明する。たとえば図50Bの高密度導電性ロッド群171aの導電性ロッド171a1に注目する。
上記「(1)導電性ロッドの幅」において説明したように、導電性ロッドの幅(X方向およびY方向のサイズ)はλm/2未満に設定され得るが、より好ましくはλ0/4未満である。
そこで本願発明者らは、導電性ロッド171a1のX方向のサイズをλ0/4未満に設定した。加えて、導電性ロッド171a1と導波部材122L−a1との距離(間隙の大きさを意味する。以下同じ。)、および、導電性ロッド171a1と導波部材122L−a2との距離を、標準導電性ロッド群のそれよりも広げることとした。
具体例を挙げると、導電性ロッド171a1のX方向の幅は0.75mm(=0.19・λ0)であり、導電性ロッド170b1のそれよりも0.25mm長い。また、導電性ロッド171a1と導波部材122L−a1との距離、および、導電性ロッド171a1と導波部材122L−a2との距離はいずれも0.625mm(=0.16・λ0))であり、導電性ロッド170b1と導波部材122L−bとの距離よりも0.125mm長い。
図50Aでは、導波部材122L−aだけでなく、導波部材122L−bにおいても導波面に凹凸が形成されている。よって、導波部材122L−bの両側にも、高密度導電性ロッド群を設けてもよい。本実施形態では、導波部材122L−bよりも導波部材122L−aの方により多くの凹凸が形成されており、波長の短縮効果がより高い。このため、導波部材122L−a1および122L−a2の両側の導電性ロッド群について高密度導電性ロッド群170a、171a、172aを形成した。高密度導電性ロッド群または標準導電性ロッド群のいずれを設けるかの基準は適宜定めることができる。たとえば波長短縮効果を有しない導波面を伝搬する信号波の中心波長をλrとし、波長短縮効果を有する導波面を伝搬する信号波の波長λgとしたとき、λg<0.80λrであれば高密度導電性ロッド群を設け、λg≧0.80λrであれば標準導電性ロッド群を設けてもよい。
なお、本実施形態において、導電性ロッド群170a、171a、172aのY方向における配置周期(すなわち、隣接するロッド間の中心間距離)は、導波部材122L−a1が有するポート145a1と、導波部材122L−a2が有するポート145a2のY方向における隔たりの2分の1に等しい。この周期を選択することにより、ポート145a1および145a2の位置がY方向において異なっているにもかかわらず、H字型の形状を有するポート145a1および145a2の水平部分(横部)のY方向位置が、それぞれに隣接する導電性ロッド171aのY方向位置と一致している。この様な位置関係を選択することにより、ポート145a1および145a2の近傍での電界の状態を、等しくすることができる。なお、このような効果を得るための導電性ロッド170a、171a、172aのY方向における配置周期は、ポート145a1とポート145a2のY方向における配置周期の2分の1に限られない。より一般的には、整数分の1(整数は1を含む)の寸法を選択できる。また、電界の状態を等しく保つという効果を得る事を目的とする場合は、波長短縮効果を生じさせる導波面を採用する必要はない。
(実施形態7)
これまでの実施形態では、たとえば図26たは図31に示されるように、1つの導電部材が複数の導波部材を有し、当該複数の導波部材に対向する導電部材、当該導波部材、および人工磁気導体によって形成された複数の導波路を、送信する信号波および/または受信される信号波が伝搬する構造を説明した。
複数の導波部材が設けられるとき、その間隔は、アンテナアレイの受信性能および/または送信性能に影響を与える。たとえば、励振層に設けられる複数の導波部材の間隔はアンテナ素子の配列間隔(即ち、隣接する2つのアンテナ素子の中心間隔)を決定する。既に説明した通り、隣接する2つのアンテナ素子の中心間隔が使用する電磁波の波長よりも大きくなると、アンテナの可視領域内にグレーティングローブが現れる。アンテナ素子の配列間隔がさらに広がると、グレーティングローブの生じる方位が主ローブの方位に近づく。よって、アンテナ素子の配列間隔、つまり複数の導波部材の間隔を小さくすることが必要とされる。また、アンテナアレイの受信可能な角度範囲を広げるためにも、励振層に設けられる導波部材の配置間隔を小さくする必要がある。
複数の導波部材の配置間隔を小さくすると、その間に配置される導電性ロッドの列の数が制限され得る。たとえば互いに隣接する2つの導波部材の配置間隔によっては、導電性ロッド群を1列しか設けることができなくなり、導波面同士の電磁気的な分離が十分確保できなくなる可能性が生じ得る。つまり、ある導波路を伝搬する電磁波が、隣接する導波面に漏れ出してしまう可能性が生じ得る。
そこで本願発明者らは、導波部材に隣接して配置された導電性ロッドに関し、導波部材に平行な平面内において、導波部材に垂直な方向(X方向)の辺のサイズを短縮することとした。その結果、導波部材が少なくとも2列の導電性ロッド群に囲まれることになり、導波面同士の十分な電磁気的な分離が実現される。
以下、本実施形態の構成を説明する。
本実施形態もまた、アレーアンテナ装置の構成に関するが、以下では主として、アレーアンテナ装置の、導電性ロッドと導波部材とが設けられた第2導電部材120の、導電性ロッドの構造および配置を説明する。ただし、当該説明は、第2導電部材120以外の、第3導電部材140および/または第4導電部材160にも適用可能である。また、特に説明しないアレーアンテナ装置の構成に関しては、これまでのアレーアンテナ装置の説明を援用し、再度の繰り返しは省略する。なお、複数の導電性ロッドは、第2導電部材120上ではなく、導波部材に対向する第1導電部材の導電性表面上に設けられていてもよい。
図51Aは、各々の両側が2列の導電性ロッド群で囲まれた2本の導波部材122L−cおよび122L−dを示す。導波部材122L−cは、2列の導電性ロッド群180と、2列の導電性ロッド群181とで囲まれている。また導波部材122L−dは、2列の導電性ロッド群181と、2列の導電性ロッド群182とで囲まれている。2列の導電性ロッド群180〜182を構成する個々の導電性ロッドのY方向の寸法は、X方向の寸法よりも長い。参考として、図51Aには、導波部材122L−eと、その両側に配置された2組の標準導電性ロッド群184が示されている。
以下、導電性ロッド群180〜182を構成する個々の導電性ロッドを「本実施形態による導電性ロッド」と呼び、標準導電性ロッド群184を構成する個々の導電性ロッドを「標準導電性ロッド」と呼ぶ。本実施形態による導電性ロッドの方が、標準導電性ロッドよりも小さいことが理解される。
図51Bは、本実施形態による導電性ロッドの寸法および配置を模式的に示す上面図である。本実施形態による導電性ロッドとして、Y方向に互いに隣接する2つの導電性ロッド180aおよび180bに注目する。
導波部材122L−cから導波部材122L−dの間を、以下のように区分する。
w1:導波部材122L−cから導電性ロッド180aまでの距離
w2:導電性ロッド180aのX方向の幅
w3:導電性ロッド180aから導電性ロッド180bまでの距離
w4:導電性ロッド180bのX方向の幅
w5:導電性ロッド180bから導波部材122L−dまでの距離
本実施形態では、便宜的にw2=w4、w1=w5とおく。ただしこの要件は必須ではない。
上述のように、本実施形態ではw2およびw4を、標準導電性ロッドのX方向の幅よりも短くしている。たとえば、標準導電性ロッドのX方向の幅がλ0/8であるとき、w2およびw4はλ0/16である。この結果、w3をλ0/8程度確保することができる。仮に、w1およびw5としてλ0/8を確保すると、導波部材122L−cから導波部材122L−dの間隔はλ0/2程度になる。
一方、XY平面上で、標準導電性ロッドが一辺λ0/8の正方形であり、2列のロッドの配置間隔もλ0/8であるとしたときは、2本の導波部材の間隔はλ0・5/8となる。よって、本実施形態の構成の方が2本の導波部材の間隔が短い。
本実施形態による導電性ロッドのY方向の寸法は、X方向の寸法よりも長く設定している。これにより、各導電性ロッドの強度を確保している。ただし、Y方向についても、本実施形態による導電性ロッドの寸法を、標準導電性ロッドの寸法よりも短くすることが可能である。これにより、実施形態6で説明した高密度導電性ロッド群を設けることが可能になる。
上述の実施形態6および7では、導電性ロッドは角柱形状であるとした。しかしながら、導電性ロッドは円柱形状であってもよい。その場合には、たとえば円柱の半径を小さくすることにより、導波部材に沿う方向について導電性ロッドの配置密度を向上させることができ、または、互いに隣接する導波部材間に配置される導電性ロッドの列数を増やすことができる。あるいは、導電性ロッドを円柱ではなく楕円柱で形成し、上述の長方形の長辺および短辺を楕円の長軸および短軸に読み替えて構成してもよい。
(アレーアンテナ装置の具体例)
以上、本発明の例示的な実施形態を説明した。以下、図52、図53および図54A〜54Dを参照しながら、上述の各実施形態の構成を含むアレーアンテナ装置の具体的な構成例を説明する。
図52は、例示的なアレーアンテナ装置1000の立体斜視図である。さらに図53は、アレーアンテナ装置1000の側面図である。
アレーアンテナ装置1000は、4つの導電部材が積層されて構成されている。具体的には、+Z方向に、順に、第4導電部材160、第3導電部材140、第2導電部材120および第1導電部材110が積層されている。対向する2つの導電部材同士の間隔は上述したとおりである。
また、各導電部材に設けられた各ポートと背面側(−Z方向側)の層の各導波路とは、互いに対向して配置される。たとえば、導電部材140に注目する。導電部材140に設けられた導波部材の導波面と、導電部材140に対向する導電部材120の導電性表面との間には導波路が形成される。導波路は、導電部材140に設けられたポートに接続されている。ポートの直下の導電部材160には、ポートに対向する位置に、その層の導波路が形成されている。これにより、信号波はポートを通って下の層へと伝搬することが可能になる。逆に、MMICなどの電子回路310(図13D)によって生成された信号波が、上の層へ伝搬することも可能になる。
図52に示すように、アレーアンテナ装置1000は3種類のアンテナA1〜A3を有している。たとえば、アンテナA1およびA3は信号波の送信に利用される送信アンテナであり、アンテナA2は信号波の受信に利用される受信アンテナである。アレーアンテナ装置1000では、アンテナA1〜A3の各々に対応して、独立した導波路が形成されている。
図54A〜54Dは、それぞれ、+Z側(正面側)から−Z側(背面側)を見たときの、第1導電部材110、第2導電部材120、第3導電部材140および第4導電部材160の具体的な構成を示す正面図である。図54Aは、放射層である第1導電部材110を示す。図54Bは、励振層である第2導電部材120を示す。図54Cは、分配層である第3導電部材140を示す。図54Dは、接続層である第4導電部材160を示す。
図54Aを参照する。アレーアンテナ装置1000では、たとえば、アンテナA1として図14Aに示すアレーアンテナが採用されている。アンテナA1は、放射された電磁波が一様な分布を有するように調整されており、高利得化を図ることができる。
アンテナA2として図29に示すアレーアンテナが採用されている。これにより、図のY軸の方向について、アンテナ素子の配列ピッチを半分に短縮した効果を得ることができる。
アンテナA3として、図12に示す構成における、複数のホーン114が一列に配列されたアレーアンテナが採用されている。アンテナA3についても、図のY軸の方向について、アンテナ素子の配列ピッチを従来よりも短縮させることができる。
なお、図54D中の破線の円で囲んだ部分Cは、図49を参照して説明した接続構造を示している。他の位置に設けられた各方形導波管および各導波部材もまた、同じ構造で接続されている。つまり、第4導電部材160の全ての接続構造は図49に示す接続構造と同じにすることが好適である。ただしこれは一例である。全ての接続構造を図49に示す接続構造に統一する必要はない。
<変形例>
次に、導波部材122、導電部材110、120、および導電性ロッド124の他の変形例を説明する。
図55Aは、導波部材122の上面である導波面122aのみが導電性を有し、導波部材122の導波面122a以外の部分は導電性を有していない構造の例を示す断面図である。第1の導電部材110および第2の導電部材120も同様に、導波部材122が位置する側の表面(導電性表面110a、120a)のみが導電性を有し、他の部分は導電性を有していない。このように、導波部材122、第1の導電部材110、および第2の導電部材120の各々は、全体が導電性を有していなくてもよい。
図55Bは、導波部材122が第2の導電部材120上に形成されていない変形例を示す図である。この例では、導波部材122は、第1の導電部材110と第2の導電部材とを支持する支持部材(例えば、筐体外周部の壁等)に固定されている。導波部材122と第2の導電部材120との間には間隙が存在する。このように、導波部材122は第2の導電部材120に接続されていなくてもよい。
図55Cは、第2の導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124の各々が、誘電体の表面に金属などの導電性材料がコーティングされた構造の例を示す図である。第2の導電部材120、導波部材122、および複数の導電性ロッド124は、相互に導電体で接続されている。一方、第1の導電部材110は、金属などの導電性材料で構成されている。
図55D、図55Eは、導電部材110、120、導波部材122、および導電性ロッド124の各々の最表面に、誘電体の層110c、120cを有する構造の例を示す図である。図55Dは、導体である金属製の導電部材の表面を誘電体の層で覆った構造の例を示す。図55Eは、導電部材120が、樹脂などの誘電体製の部材の表面を、金属などの導体で覆い、更にその金属の層を誘電体の層で覆った構造を有する例を示す。金属表面を覆う誘電体の層は樹脂などの塗膜であっても良いし、当該金属が酸化する事で生成された不動態皮膜などの酸化皮膜であっても良い。
最表面の誘電体層は、WRG導波路によって伝播される電磁波の損失を増やす。しかし、導電性を有する導電性表面110a、120aを腐食から守ることができる。また、直流電圧や、WRG導波路によっては伝播されない程度に周波数の低い交流電圧の影響を遮断することができる。
図55Fは、導波部材122の高さが導電性ロッド124の高さよりも低く、第1の導電部材110の導電性表面110aが、導波部材122の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、図4に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の実施形態と同様に動作する。
図55Gは、図55Fの構造において、さらに、導電性表面110aのうち導電性ロッド124に対向する部分が、導電性ロッド124の側に突出している例を示す図である。このような構造であっても、図4に示す寸法の範囲を満たしていれば、前述の実施形態と同様に動作する。なお、導電性表面110aの一部が突出する構造に代えて、一部が窪む構造であってもよい。
図56Aは、第1の導電部材110の導電性表面110aが曲面形状を有する例を示す図である。図56Bは、さらに、第2の導電部材120の導電性表面120aも曲面形状を有する例を示す図である。これらの例のように、導電性表面110a、120aの少なくとも一方は、平面形状に限らず、曲面形状を有していてもよい。特に、第2の導電部材120は、図2Bを参照して説明したように、巨視的には平面状の箇所が存在しない導電性表面120aを有していてもよい。
本実施形態における導波路装置およびアンテナ装置は、例えば車両、船舶、航空機、ロボット等の移動体に搭載されるレーダ装置(以下、単に「レーダ」と称する。)またはレーダシステムに好適に用いられ得る。レーダは、レーダは、本開示の実施形態におけるアンテナ装置と、当該アンテナ装置に接続されたマイクロ波集積回路とを備える。レーダシステムは、当該レーダと、当該レーダのマイクロ波集積回路に接続された信号処理回路とを備える。本実施形態のアンテナ装置は、小型化が可能なWRG構造を備えているため、従来の中空導波管を用いた構成と比較して、アンテナ素子が配列される面の面積を小さくすることができる。このため、当該アンテナ装置を搭載したレーダシステムを、例えば車両のリアビューミラーの鏡面の反対側の面のような狭小な場所、またはUAV(Unmanned Aerial Vehicle、所謂ドローン)のような小型の移動体にも容易に搭載することができる。なお、レーダシステムは、車両に搭載される形態の例に限定されず、例えば道路または建物に固定されて使用され得る。
本開示の実施形態におけるスロットアレーアンテナは、無線通信システムにも利用できる。そのような無線通信システムは、上述したいずれかの実施形態におけるスロットアレーアンテナと、通信回路(送信回路または受信回路)とを備える。無線通信システムへの応用例の詳細については、後述する。
本開示の実施形態におけるスロットアレーアンテナは、さらに、屋内測位システム(IPS:Indoor Positioning System)におけるアンテナとしても利用することができる。屋内測位システムでは、建物内にいる人、または無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)などの移動体の位置を特定することができる。スロットアレーアンテナはまた、店舗または施設に来場した人が有する情報端末(スマートフォン等)に情報を提供するシステムにおいて用いられる電波発信機(ビーコン)に用いることもできる。そのようなシステムでは、ビーコンは、例えば数秒に1回、IDなどの情報を重畳した電磁波を発する。その電磁波を情報端末が受信すると、情報端末は、通信回線を介して遠隔地のサーバコンピュータに、受け取った情報を送信する。サーバコンピュータは、情報端末から得た情報から、その情報端末の位置を特定し、その位置に応じた情報(例えば、商品案内またはクーポン)を、当該情報端末に提供する。
なお、本明細書では、本発明者の一人である桐野による論文(非特許文献1)、および同時期に関連する内容の研究を発表したKildalらの論文の記載を尊重して、「人工磁気導体」という用語を用いて本開示の技術を記載している。しかし、本発明者らの検討の結果、本開示に係る発明には、従来の定義における「人工磁気導体」を、必ずしも必須としないことが明らかになってきている。即ち、人工磁気導体には、周期構造が必須であると考えられてきたが、本開示に係る発明を実施するためには、必ずしも周期構造は必須ではない。
本開示の実施形態において、人工磁気導体は、例えば導電性ロッドの列によって実現される。導波面から離れる方向に漏れ出る電磁波を阻止するためには、導波部材(リッジ)に沿って並ぶ導電性ロッドの列が、導波部材の片側に少なくとも2つあることが必須であると考えられてきた。導電性ロッド列の配置「周期」は、列が最低限2本なければ存在しないからである。しかし、本発明者らの検討によれば、並行して延びる2つの導波部材の間に、導電性ロッドの列が1列あるいは1本しか配置されていない場合でも、一方の導波部材から他方の導波部材に漏れ出る信号の強度は−10dB以下に抑えられる。これは、多くの用途において実用上十分な値である。不完全な周期構造しか持たない状態で、この様な十分なレベルの分離が達成される理由は、今のところ不明である。しかし、この事実を考慮し、本開示においては、従来の「人工磁気導体」の概念を拡張し、「人工磁気導体」の用語が、導電性ロッドが1列または1本のみ配置された構造をも包含することとする。
<応用例1:車載レーダシステム>
次に、上述したアレーアンテナ装置を利用する応用例として、アレーアンテナ装置を備えた車載レーダシステムの一例を説明する。車載レーダシステムに利用される送信波は、たとえば76ギガヘルツ(GHz)帯の周波数を有し、その自由空間中の波長λ0は約4mmである。
自動車の衝突防止システムおよび自動運転などの安全技術には、特に自車両の前方を走行する1または複数の車両(物標)の識別が不可欠である。車両の識別方法として、従来、レーダシステムを用いた到来波の方向を推定する技術の開発が進められてきた。
図57は、自車両500と、自車両500と同じ車線を走行している先行車両502とを示す。自車両500は、上述した実施形態にアレーアンテナ装置を有する車載レーダシステムを備えている。自車両500の車載レーダシステムが高周波の送信信号を放射すると、その送信信号は先行車両502に到達して先行車両502で反射され、その一部は再び自車両500に戻る。車載レーダシステムは、その信号を受信して、先行車両502の位置、先行車両502までの距離、速度等を算出する。
図58は、自車両500の車載レーダシステム510を示す。車載レーダシステム510は車内に配置されている。より具体的には、車載レーダシステム510は、リアビューミラーの鏡面と反対側の面に配置されている。車載レーダシステム510は、車内から車両500の進行方向に向けて高周波の送信信号を放射し、進行方向から到来した信号を受信する。
本応用例による車載レーダシステム510は、上記の実施形態におけるアレーアンテナ装置を有している。本応用例では、複数の導波部材の各々が延びる方向が鉛直方向に一致し、複数の導波部材の配列方向が水平方向に一致するように配置される。このため、複数のスロットを正面から見たときの横方向の寸法を小さくできる。上述のアレーアンテナ装置を含むアンテナ装置の寸法の一例は、横×縦×奥行きが、60×30×10mmである。76GHz帯のミリ波レーダシステムのサイズとしては非常に小型であることが理解される。
なお、従来の多くの車載レーダシステムは、車外、たとえばフロントノーズの先端部に設置されている。その理由は、車載レーダシステムのサイズが比較的大きく、本開示のように車内に設置することが困難であるからである。本応用例による車載レーダシステム510は、前述のように車内に設置できるが、フロントノーズの先端に搭載してもよい。フロントノーズにおいて、車載レーダシステムが占める領域を減少させられるため、他の部品の配置が容易になる。
本応用例によれば、送信アンテナに用いられる複数の導波部材(リッジ)の間隔を狭くすることができるため、隣接する複数の導波部材に対向して設けられる複数のスロットの間隔も狭くすることができる。これにより、グレーティングローブの影響を抑制することができる。たとえば、横方向に隣接する2つのスロットの中心間隔を送信波の自由空間波長λ0よりも短く(約4mm未満に)した場合にはグレーティングローブは前方には発生しない。これにより、グレーティングローブの影響を抑制できる。なお、グレーティングローブは、アンテナ素子の配列間隔が電磁波の波長の半分よりも大きくなると出現する。しかし、配列間隔が波長未満であればグレーティングローブは前方には現れない。このため、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子から放射される電波に位相差を付与するビームステアリングを行わない場合は、アンテナ素子の配置間隔が波長よりも小さければ、グレーティングローブは実質的には影響しない。送信アンテナのアレーファクタを調整することにより、送信アンテナの指向性を調整することができる。複数の導波部材上を伝送される電磁波の位相を個別に調整できるように、位相シフタを設けてもよい。この場合は、グレーティングローブの影響を避けるために、アンテナ素子の配置間隔を送信波の自由空間波長λ0の半分未満にすることが好ましい。位相シフタを設けることにより、送信アンテナの指向性を任意の方向に変更することができる。位相シフタの構成は周知であるため、その構成の説明は省略する。
本応用例における受信アンテナは、グレーティングローブに由来する反射波の受信を低減できるため、以下に説明する処理の精度を向上させることができる。以下、受信処理の一例を説明する。
図59Aは、車載レーダシステム510のアレーアンテナ装置AAと、複数の到来波k(k:1〜Kの整数;以下同じ。Kは異なる方位に存在する物標の数。)との関係を示している。アレーアンテナ装置AAは、直線状に配列されたM個のアンテナ素子を有する。原理上、アンテナは送信および受信の両方に利用することが可能であるため、アレーアンテナ装置AAは送信アンテナおよび受信アンテナの両方を含み得る。以下では受信アンテナが受信した到来波を処理する方法の例を説明する。
アレーアンテナ装置AAは、様々な角度から同時に入射する複数の到来波を受ける。複数の到来波の中には、同じ車載レーダシステム510の送信アンテナから放射され、物標で反射された到来波が含まれる。さらに、複数の到来波の中には、他の車両から放射された直接的または間接的な到来波も含まれる。
到来波の入射角度(すなわち到来方向を示す角度)は、アレーアンテナ装置AAのブロードサイドBを基準とする角度を表している。到来波の入射角度は、アンテナ素子群が並ぶ直線方向に垂直な方向に対する角度を表す。
いま、k番目の到来波に注目する。「k番目の到来波」とは、異なる方位に存在するK個の物標からアレーアンテナ装置にK個の到来波が入射しているときにおける、入射角θkによって識別される到来波を意味する。
図59Bは、k番目の到来波を受信するアレーアンテナ装置AAを示している。アレーアンテナ装置AAが受信した信号は、M個の要素を持つ「ベクトル」として、数1のように表現できる
(数1)
S=[s1,s2,…,sM]T
ここで、s
m(m:1〜Mの整数;以下同じ。)は、m番目のアンテナ素子が受信した信号の値である。上付きのTは転置を意味する。Sは列ベクトルである。列ベクトルSは、アレーアンテナ装置の構成によって決まる方向ベクトル(ステアリングベクトルまたはモードベクトルと称する。)と、物標(波源または信号源とも称する。)における信号を示す複素ベクトルとの積によって与えられる。波源の個数がKであるとき、各波源から個々のアンテナ素子に到来する信号の波が線形的に重畳される。このとき、s
mは数2のように表現できる。
数2におけるak、θkおよびφkは、それぞれ、k番目の到来波の振幅、到来波の入射角度、および初期位相である。λは到来波の波長を示し、jは虚数単位である。
数2から理解されるように、smは、実部(Re)と虚部(Im)とから構成される複素数として表現されている。
ノイズ(内部雑音または熱雑音)を考慮してさらに一般化すると、アレー受信信号Xは数3のように表現できる
(数3)
X=S+N
Nはノイズのベクトル表現である。
信号処理回路は、数3に示されるアレー受信信号Xを用いて到来波の自己相関行列Rxx(数4)を求め、さらに自己相関行列Rxxの各固有値を求める。
ここで、上付きのHは複素共役転置(エルミート共役)を表す。
求めた複数の固有値のうち、熱雑音によって定まる所定値以上の値を有する固有値(信号空間固有値)の個数が、到来波の個数に対応する。そして、反射波の到来方向の尤度が最も大きくなる(最尤度となる)角度を算出することにより、物標の数および各物標が存在する角度を特定することができる。この処理は、最尤推定法として公知である。
次に、図60を参照する。図60は、本開示による車両走行制御装置600の基本構成の一例を示すブロック図である。図60に示される車両走行制御装置600は、車両に実装されたレーダシステム510と、レーダシステム510に接続された走行支援電子制御装置520とを備えている。レーダシステム510は、アレーアンテナ装置AAと、レーダ信号処理装置530とを有している。
アレーアンテナ装置AAは、複数のアンテナ素子を有しており、その各々が1個または複数個の到来波に応答して受信信号を出力する。上述のように、アレーアンテナ装置AAは高周波のミリ波を放射することも可能である。なお、アレーアンテナ装置AAは、上記の実施形態におけるアレーアンテナ装置に限らず、受信に適した他のアレーアンテナ装置であってもよい。
レーダシステム510のうち、アレーアンテナ装置AAは車両に取り付けられる必要がある。しかしながらレーダ信号処理装置530の少なくとも一部の機能は、車両走行制御装置600の外部(例えば自車両の外)に設けられたコンピュータ550およびデータベース552によって実現されてもよい。その場合、レーダ信号処理装置530のうちで車両内に位置する部分は、車両の外部に設けられたコンピュータ550およびデータベース552に、信号またはデータの双方向通信が行えるように、常時または随時に接続され得る。通信は、車両が備える通信デバイス540、および一般の通信ネットワークを介して行われる。
データベース552は、各種の信号処理アルゴリズムを規定するプログラムを格納していても良い。レーダシステム510の動作に必要なデータおよびプログラムの内容は、通信デバイス540を介して外部から更新され得る。このように、レーダシステム510の少なくとも一部の機能は、クラウドコンピューティングの技術により、自車両の外部(他の車両の内部を含む)において実現し得る。したがって、本開示における「車載」のレーダシステムは、構成要素のすべてが車両に搭載されていることを必要としない。ただし、本願では、簡単のため、特に断らない限り、本開示の構成要素のすべてが1台の車両(自車両)に搭載されている形態を説明する。
レーダ信号処理装置530は、信号処理回路560を有している。この信号処理回路560は、アレーアンテナ装置AAから直接または間接に受信信号を受け取り、受信信号、または受信信号から生成した二次信号を到来波推定ユニットAUに入力する。受信信号から二次信号を生成する回路(不図示)の一部または全部は、信号処理回路560の内部に設けられている必要はない。このような回路(前処理回路)の一部または全部は、アレーアンテナ装置AAとレーダ信号処理装置530との間に設けられていても良い。
信号処理回路560は、受信信号または二次信号を用いて演算を行い、到来波の個数を示す信号を出力するように構成されている。ここで、「到来波の個数を示す信号」は、自車両の前方を走行する1または複数の先行車両の数を示す信号ということができる。
この信号処理回路560は、公知のレーダ信号処理装置が実行する各種の信号処理を実行するように構成されていればよい。例えば、信号処理回路560は、MUSIC法、ESPRIT法、およびSAGE法などの「超分解能アルゴリズム」(スーパーレゾリューション法)、または相対的に分解能が低い他の到来方向推定アルゴリズムを実行するように構成され得る。
図60に示す到来波推定ユニットAUは、任意の到来方向推定アルゴリズムにより、到来波の方位を示す角度を推定し、推定結果を示す信号を出力する。信号処理回路560は、到来波推定ユニットAUが実行する公知のアルゴリズムにより、到来波の波源である物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を推定し、推定結果を示す信号を出力する。
本開示における「信号処理回路」の用語は、単一の回路に限られず、複数の回路の組み合わせを概念的に一つの機能部品として捉えた態様も含む。信号処理回路560は、1個または複数のシステムオンチップ(SoC)によって実現されても良い。例えば、信号処理回路560の一部または全部がプログラマブルロジックデバイス(PLD)であるFPGA(Field−Programmable Gate Array)であってもよい。その場合、信号処理回路560は、複数の演算素子(例えば汎用ロジックおよびマルチプライヤ)および複数のメモリ素子(例えばルックアップテーブルまたはメモリブロック)を含む。または、信号処理回路560は、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合であってもよい。信号処理回路560は、プロセッサコアとメモリとを含む回路であってもよい。これらは信号処理回路560として機能し得る。
走行支援電子制御装置520は、レーダ信号処理装置530から出力される各種の信号に基づいて車両の走行支援を行うように構成されている。走行支援電子制御装置520は、所定の機能を発揮するように各種の電子制御ユニットに指示を行う。所定の機能は、例えば、先行車両までの距離(車間距離)が予め設定された値よりも短くなったときに警報を発してドライバにブレーキ操作を促す機能、ブレーキを制御する機能、アクセルを制御する機能を含む。例えば、自車両のアダプティブクルーズコントロールを行う動作モードのとき、走行支援電子制御装置520は、各種の電子制御ユニット(不図示)およびアクチュエータに所定の信号を送り、自車両から先行車両までの距離を予め設定された値に維持したり、自車両の走行速度を予め設定された値に維持したりする。
MUSIC法による場合、信号処理回路560は、自己相関行列の各固有値を求め、それらのうちの熱雑音によって定まる所定値(熱雑音電力)より大きい固有値(信号空間固有値)の個数を示す信号を、到来波の個数を示す信号として出力する。
次に、図61を参照する。図61は、車両走行制御装置600の構成の他の例を示すブロック図である。図61の車両走行制御装置600におけるレーダシステム510は、受信専用のアレーアンテナ装置(受信アンテナとも称する。)Rxおよび送信専用のアレーアンテナ装置(送信アンテナとも称する。)Txを含むアレーアンテナ装置AAと、物体検知装置570とを有している。
送信アンテナTxおよび受信アンテナRxの少なくとも一方は、上述した導波路構造を有している。送信アンテナTxは、例えばミリ波である送信波を放射する。受信専用の受信アンテナRxは、1個または複数個の到来波(例えばミリ波)に応答して受信信号を出力する。
送受信回路580は、送信波のための送信信号を送信アンテナTxに送り、また、受信アンテナRxで受けた受信波による受信信号の「前処理」を行う。前処理の一部または全部は、レーダ信号処理装置530の信号処理回路560によって実行されても良い。送受信回路580が行う前処理の典型的な例は、受信信号からビート信号を生成すること、および、アナログ形式の受信信号をデジタル形式の受信信号に変換することを含み得る。
なお、本開示によるレーダシステムは、車両に搭載される形態の例に限定されず、道路または建物に固定されて使用され得る。
続いて、車両走行制御装置600のより具体的な構成の例を説明する。
図62は、車両走行制御装置600のより具体的な構成の例を示すブロック図である。図62に示される車両走行制御装置600は、レーダシステム510と、車載カメラシステム700とを備えている。レーダシステム510は、アレーアンテナ装置AAと、アレーアンテナ装置AAに接続された送受信回路580と、信号処理回路560とを有している。
車載カメラシステム700は、車両に搭載される車載カメラ710と、車載カメラ710によって取得された画像または映像を処理する画像処理回路720とを有している。
本応用例における車両走行制御装置600は、アレーアンテナ装置AAおよび車載カメラ710に接続された物体検知装置570と、物体検知装置570に接続された走行支援電子制御装置520とを備えている。この物体検知装置570は、前述したレーダ信号処理装置530(信号処理回路560を含む)に加えて、送受信回路580および画像処理回路720を含んでいる。物体検知装置570は、レーダシステム510によって得られる情報だけではなく、画像処理回路720によって得られる情報を利用して、道路上または道路近傍における物標を検知することができる。例えば自車両が同一方向の2本以上の車線のいずれかを走行している最中において、自車両が走行している車線がいずれの車線であるかを、画像処理回路720によって判別し、その判別の結果を信号処理回路560に与えることができる。信号処理回路560は、所定の到来方向推定アルゴリズム(たとえばMUSIC法)によって先行車両の数および方位を認識するとき、画像処理回路720からの情報を参照することにより、先行車両の配置について、より信頼度の高い情報を提供することが可能になる。
なお、車載カメラシステム700は、自車両が走行している車線がいずれの車線であるかを特定する手段の一例である。他の手段を利用して自車両の車線位置を特定してもよい。例えば、超広帯域無線(UWB:Ultra Wide Band)を利用して、複数車線のどの車線を自車両が走行しているかを特定することができる。超広帯域無線が位置測定および/またはレーダとして利用可能なことは広く知られている。超広帯域無線を利用すれば、レーダの距離分解能が高まるため、前方に多数の車両が存在する場合でも、距離の差に基づいて個々の物標を区別して検知できる。このため、路肩のガードレール、または中央分離帯からの距離を特定することが可能である。各車線の幅は、各国の法律等で予め定められている。これらの情報を利用して、自車両が現在走行中の車線の位置を特定することができる。なお、超広帯域無線は一例である。他の無線による電波を利用してもよい。また、ライダー(LIDAR:Light Detection and Ranging)をレーダと組合せて用いてもよい。LIDARは、レーザレーダと呼ばれることもある。
アレーアンテナ装置AAは、一般的な車載用ミリ波アレーアンテナ装置であり得る。本応用例における送信アンテナTxは、ミリ波を送信波として車両の前方に放射する。送信波の一部は、典型的には先行車両である物標によって反射される。これにより、物標を波源とする反射波が発生する。反射波の一部は、到来波としてアレーアンテナ装置(受信アンテナ)AAに到達する。アレーアンテナ装置AAを構成している複数のアンテナ素子の各々は、1個または複数個の到来波に応答して、受信信号を出力する。反射波の波源として機能する物標の個数がK個(Kは1以上の整数)である場合、到来波の個数はK個であるが、到来波の個数Kは既知ではない。
図60の例では、レーダシステム510はアレーアンテナ装置AAも含めて一体的にリアビューミラーに配置されるとした。しかしながら、アレーアンテナ装置AAの個数および位置は、特定の個数および特定の位置に限定されない。アレーアンテナ装置AAは、車両の後方に位置する物標を検知できるように車両の後面に配置されてもよい。また、車両の前面または後面に複数のアレーアンテナ装置AAが配置されていても良い。アレーアンテナ装置AAは、車両の室内に配置されていても良い。アレーアンテナ装置AAとして、各アンテナ素子が上述したホーンを有するホーンアンテナが採用される場合でも、そのようなアンテナ素子を備えるアレーアンテナ装置は車両の室内に配置され得る。
信号処理回路560は、受信アンテナRxによって受信され、送受信回路580によって前処理された受信信号を受け取り、処理する。この処理は、受信信号を到来波推定ユニットAUに入力すること、
または、受信信号から二次信号を生成して二次信号を到来波推定ユニットAUに入力すること、を含む。
図62の例では、信号処理回路560から出力される信号および画像処理回路720から出力される信号を受け取る選択回路596が物体検知装置570内に設けられている。選択回路596は、信号処理回路560から出力される信号および画像処理回路720から出力される信号の一方または両方を走行支援電子制御装置520に与える。
図63は、本応用例におけるレーダシステム510のより詳細な構成例を示すブロック図である。
図63に示すように、アレーアンテナ装置AAは、ミリ波の送信を行う送信アンテナTxと、物標で反射された到来波を受信する受信アンテナRxとを備えている。図面上では送信アンテナTxは1つであるが、特性の異なる2種類以上の送信アンテナが設けられていてもよい。アレーアンテナ装置AAは、M個(Mは3以上の整数)のアンテナ素子111、112、・・・、11Mを備えている。複数のアンテナ素子111、112、・・・、11Mの各々は、到来波に応答して、受信信号s1、s2、・・・、sM(図59B)を出力する。
アレーアンテナ装置AAにおいて、アンテナ素子111〜11Mは、例えば、固定された間隔を空けて直線状または面状に配列されている。到来波は、アンテナ素子111〜11Mが配列されている面の法線に対する角度θの方向からアレーアンテナ装置AAに入射する。このため、到来波の到来方向は、この角度θによって規定される。
1個の物標からの到来波がアレーアンテナ装置AAに入射するとき、アンテナ素子111〜11Mには、同一の角度θの方位から平面波が入射すると近似できる。異なる方位にあるK個の物標からアレーアンテナ装置AAにK個の到来波が入射しているとき、相互に異なる角度θ1〜θKによって個々の到来波を識別することができる。
図63に示されるように、物体検知装置570は、送受信回路580と信号処理回路560とを含む。
送受信回路580は、三角波生成回路581、VCO(Voltage−Controlled−Oscillator:電圧制御可変発振器)582、分配器583、ミキサ584、フィルタ585、スイッチ586、A/Dコンバータ587、制御器588を備える。本応用例におけるレーダシステムは、FMCW方式でミリ波の送受信を行うように構成されているが、本開示のレーダシステムは、この方式に限定されない。送受信回路580は、アレーアンテナ装置AAからの受信信号と送信アンテナTxのための送信信号とに基づいて、ビート信号を生成するように構成されている。
信号処理回路560は、距離検出部533、速度検出部534、方位検出部536を備える。信号処理回路560は、送受信回路580のA/Dコンバータ587からの信号を処理し、検出された物標までの距離、物標の相対速度、物標の方位を示す信号をそれぞれ出力するように構成されている。
まず、送受信回路580の構成および動作を詳細に説明する。
三角波生成回路581は三角波信号を生成し、VCO582に与える。VCO582は、三角波信号に基づいて変調された周波数を有する送信信号を出力する。図64は、三角波生成回路581が生成した信号に基づいて変調された送信信号の周波数変化を示している。この波形の変調幅はΔf、中心周波数はf0である。このようにして周波数が変調された送信信号は分配器583に与えられる。分配器583は、VCO582から得た送信信号を、各ミキサ584および送信アンテナTxに分配する。こうして、送信アンテナは、図64に示されるように三角波状に変調された周波数を有するミリ波を放射する。
図64には、送信信号に加えて、単一の先行車両で反射された到来波による受信信号の例が記載されている。受信信号は、送信信号に比べて遅延している。この遅延は、自車両と先行車両との距離に比例している。また、受信信号の周波数は、ドップラー効果により、先行車両の相対速度に応じて増減する。
受信信号と送信信号とを混合すると、周波数の差異に基づいてビート信号が生成される。このビート信号の周波数(ビート周波数)は、送信信号の周波数が増加する期間(上り)と、送信信号の周波数が減少する期間(下り)とで異なる。各期間におけるビート周波数が求められると、それらのビート周波数に基づいて、物標までの距離と、物標の相対速度が算出される。
図65は、「上り」の期間におけるビート周波数fu、および「下り」の期間におけるビート周波数fdを示している。図65のグラフにおいて、横軸が周波数、縦軸が信号強度である。このようなグラフは、ビート信号の時間−周波数変換を行うことによって得られる。ビート周波数fu、fdが得られると、公知の式に基づいて、物標までの距離と、物標の相対速度が算出される。本応用例では、以下に説明する構成および動作により、アレーアンテナ装置AAの各アンテナ素子に対応したビート周波数を求め、それに基づいて物標の位置情報を推定することが可能になる。
図63に示される例において、各アンテナ素子111〜11Mに対応したチャンネルCh1〜ChMからの受信信号は、増幅器によって増幅され、対応するミキサ584に入力される。ミキサ584の各々は、増幅された受信信号に送信信号を混合する。この混合により、受信信号と送信信号との間にある周波数差に対応したビート信号が生成される。生成されたビート信号は、対応するフィルタ585に与えられる。フィルタ585は、チャンネルCh1〜ChMのビート信号の帯域制限を行い、帯域制限されたビート信号をスイッチ586に与える。
スイッチ586は、制御器588から入力されるサンプリング信号に応答してスイッチングを実行する。制御器588は、例えばマイクロコンピュータによって構成され得る。制御器588は、ROMなどのメモリに格納されたコンピュータプログラムに基づいて、送受信回路580の全体を制御する。制御器588は、送受信回路580の内部に設けられている必要は無く、信号処理回路560の内部に設けられていても良い。つまり、送受信回路580は信号処理回路560からの制御信号にしたがって動作してもよい。または、送受信回路580および信号処理回路560の全体を制御する中央演算ユニットなどによって、制御器588の機能の一部または全部が実現されていても良い。
フィルタ585の各々を通過したチャンネルCh1〜ChMのビート信号は、スイッチ586を介して、順次、A/Dコンバータ587に与えられる。A/Dコンバータ587は、スイッチ586から入力されるチャンネルCh1〜ChMのビート信号を、サンプリング信号に同期してデジタル信号に変換する。
以下、信号処理回路560の構成および動作を詳細に説明する。本応用例では、FMCW方式によって、物標までの距離および物標の相対速度を推定する。レーダシステムは、以下に説明するFMCW方式に限定されず、2周波CWまたはスペクトル拡散などの他の方式を用いても実施可能である。
図63に示される例において、信号処理回路560は、メモリ531、受信強度算出部532、距離検出部533、速度検出部534、DBF(デジタルビームフォーミング)処理部535、方位検出部536、物標引継ぎ処理部537、相関行列生成部538、物標出力処理部539および到来波推定ユニットAUを備えている。前述したように、信号処理回路560の一部または全部がFPGAによって実現されていてもよく、汎用プロセッサおよびメインメモリ装置の集合によって実現されていてもよい。メモリ531、受信強度算出部532、DBF処理部535、距離検出部533、速度検出部534、方位検出部536、物標引継ぎ処理部537、および到来波推定ユニットAUは、それぞれ、別個のハードウェアによって実現される個々の部品であってもよいし、1つの信号処理回路における機能上のブロックであってもよい。
図66は、信号処理回路560がプロセッサPRおよびメモリ装置MDを備えるハードウェアによって実現されている形態の例を示している。このような構成を有する信号処理回路560も、メモリ装置MDに格納されたコンピュータプログラムの働きにより、図63に示す受信強度算出部532、DBF処理部535、距離検出部533、速度検出部534、方位検出部536、物標引継ぎ処理部537、相関行列生成部538、到来波推定ユニットAUの機能が果たされ得る。
本応用例における信号処理回路560は、デジタル信号に変換された各ビート信号を受信信号の二次信号として、先行車両の位置情報を推定し、推定結果を示す信号を出力するよう構成されている。以下、本応用例における信号処理回路560の構成および動作を詳細に説明する。
信号処理回路560内のメモリ531は、A/Dコンバータ587から出力されるデジタル信号をチャンネルCh1〜ChMごとに格納する。メモリ531は、例えば、半導体メモリ、ハードディスクおよび/または光ディスクなどの一般的な記憶媒体によって構成され得る。
受信強度算出部532は、メモリ531に格納されたチャンネルCh1〜ChMごとのビート信号(図64の下図)に対してフーリエ変換を行う。本明細書では、フーリエ変換後の複素数データの振幅を「信号強度」と称する。受信強度算出部532は、複数のアンテナ素子のいずれかの受信信号の複素数データ、または、複数のアンテナ素子のすべての受信信号の複素数データの加算値を周波数スペクトルに変換する。こうして得られたスペクトルの各ピーク値に対応するビート周波数、すなわち距離に依存した物標(先行車両)の存在を検出することができる。全アンテナ素子の受信信号の複素数データを加算すると、ノイズ成分が平均化されるため、S/N比が向上する。
物標、すなわち先行車両が1個の場合、フーリエ変換の結果、図65に示されるように、周波数が増加する期間(「上り」の期間)および減少する期間(「下り」の期間)に、それぞれ、1個のピーク値を有するスペクトルが得られる。「上り」の期間におけるピーク値のビート周波数を「fu」、「下り」の期間におけるピーク値のビート周波数を「fd」とする。
受信強度算出部532は、ビート周波数毎の信号強度から、予め設定された数値(閾値)を超える信号強度を検出することによって、物標が存在していることを判定する。受信強度算出部532は、信号強度のピークを検出した場合、ピーク値のビート周波数(fu、fd)を対象物周波数として距離検出部533、速度検出部534へ出力する。受信強度算出部532は、周波数変調幅Δfを示す情報を距離検出部533へ出力し、中心周波数f0を示す情報を速度検出部534へ出力する。
受信強度算出部532は、複数の物標に対応する信号強度のピークが検出された場合には、上りのピーク値と下りのピーク値とを予め定められた条件によって対応づける。同一の物標からの信号と判断されたピークに同一の番号を付与し、距離検出部533および速度検出部534に与える。
複数の物標が存在する場合、フーリエ変換後、ビート信号の上り部分とビート信号の下り部分のそれぞれに物標の数と同じ数のピークが表れる。レーダと物標の距離に比例して、受信信号が遅延し、図64における受信信号は右方向にシフトするので、レーダと物標との距離が離れるほど、ビート信号の周波数は、大きくなる。
距離検出部533は、受信強度算出部532から入力されるビート周波数fu、fdに基づいて、下記の式により距離Rを算出し、物標引継ぎ処理部537へ与える。
R={c・T/(2・Δf)}・{(fu+fd)/2}
また、速度検出部534は、受信強度算出部532から入力されるビート周波数fu、fdに基づいて、下記の式によって相対速度Vを算出し、物標引継ぎ処理部537へ与える。
V={c/(2・f0)}・{(fu−fd)/2}
距離Rおよび相対速度Vを算出する式において、cは光速、Tは変調周期である。
なお、距離Rの分解能下限値は、c/(2Δf)で表される。したがって、Δfが大きくなるほど、距離Rの分解能が高まる。周波数f0が76GHz帯の場合において、Δfを660メガヘルツ(MHz)程度に設定するとき、距離Rの分解能は例えば0.23メートル(m)程度である。このため、2台の先行車両が併走しているとき、FMCW方式では車両が1台なのか2台なのかを識別することは困難である場合がある。このような場合、角度分解能が極めて高い到来方向推定アルゴリズムを実行すれば、2台の先行車両の方位を分離して検出することが可能である。
DBF処理部535は、アンテナ素子111、112、・・・、11Mにおける信号の位相差を利用して、入力される各アンテナに対応した時間軸でフーリエ変換された複素データを、アンテナ素子の配列方向にフーリエ変換する。そして、DBF処理部535は、角度分解能に対応した角度チャネル毎のスペクトルの強度を示す空間複素数データを算出し、ビート周波数毎に方位検出部536に出力する。
方位検出部536は、先行車両の方位を推定するために設けられている。方位検出部536は、算出されたビート周波数毎の空間複素数データの値の大きさのうち、一番大きな値を取る角度θを対象物が存在する方位として物標引継ぎ処理部537に出力する。
なお、到来波の到来方向を示す角度θを推定する方法は、この例に限定されない。前述した種々の到来方向推定アルゴリズムを用いて行うことができる。
物標引継ぎ処理部537は、今回算出した対象物の距離、相対速度、方位の値と、メモリ531から読み出した1サイクル前に算出された対象物の距離、相対速度、方位の値とのそれぞれの差分の絶対値を算出する。そして、差分の絶対値が、それぞれの値毎に決められた値よりも小さいとき、物標引継ぎ処理部537は、1サイクル前に検知した物標と今回検知した物標とを同じものと判定する。その場合、物標引継ぎ処理部537は、メモリ531から読み出したその物標の引継ぎ処理回数を1つだけ増やす。
物標引継ぎ処理部537は、差分の絶対値が決められた値よりも大きな場合には、新しい対象物を検知したと判断する。物標引継ぎ処理部537は、今回の対象物の距離、相対速度、方位およびその対象物の物標引継ぎ処理回数をメモリ531に保存する。
信号処理回路560で、受信した反射波を基にして生成された信号であるビート信号を周波数解析して得られるスペクトラムを用い、対象物との距離、相対速度を検出することができる。
相関行列生成部538は、メモリ531に格納されたチャンネルCh1〜ChMごとのビート信号(図64の下図)を用いて自己相関行列を求める。数4の自己相関行列において、各行列の成分は、ビート信号の実部および虚部によって表現される値である。相関行列生成部538は、さらに自己相関行列Rxxの各固有値を求め、得られた固有値の情報を到来波推定ユニットAUへ入力する。
受信強度算出部532は、複数の対象物に対応する信号強度のピークが複数検出された場合、上りの部分および下りの部分のピーク値ごとに、周波数が小さいものから順番に番号をつけて、物標出力処理部539へ出力する。ここで、上りおよび下りの部分において、同じ番号のピークは、同じ対象物に対応しており、それぞれの識別番号を対象物の番号とする。なお、煩雑化を回避するため、図63では、受信強度算出部532から物標出力処理部539への引出線の記載は省略している。
物標出力処理部539は、対象物が前方構造物である場合に、その対象物の識別番号を物標として出力する。物標出力処理部539は、複数の対象物の判定結果を受け取り、そのどちらもが前方構造物である場合、自車両の車線上にある対象物の識別番号を物標が存在する物体位置情報として出力する。また、物標出力処理部539は、複数の対象物の判定結果を受け取り、そのどちらもが前方構造物である場合であって、2つ以上の対象物が自車両の車線上にある場合、メモリ531から読み出した物標引継ぎ処理回数が多い対象物の識別番号を物標が存在する物体位置情報として出力する。
再び図62を参照し、車載レーダシステム510が図62に示す構成例に組み込まれた場合の例を説明する。画像処理回路720は、映像から物体の情報を取得し、その物体の情報から物標位置情報を検出する。画像処理回路720は、例えば、取得した映像内のオブジェクトの奥行き値を検出して物体の距離情報を推定したり、映像の特徴量から物体の大きさの情報等を検出したりすることにより、予め設定された物体の位置情報を検出するように構成されている。
選択回路596は、信号処理回路560および画像処理回路720から受け取った位置情報を選択的に走行支援電子制御装置520に与える。選択回路596は、例えば、信号処理回路560の物体位置情報に含まれている、自車両から検出した物体までの距離である第1距離と、画像処理回路720の物体位置情報に含まれている、自車両から検出した物体までの距離である第2距離とを比較してどちらが自車両に対して近距離であるかを判定する。例えば、判定された結果に基づいて、自車両に近いほうの物体位置情報を選択回路596が選択して走行支援電子制御装置520に出力し得る。なお、判定の結果、第1距離および第2距離が同じ値であった場合には、選択回路596は、そのいずれか一方または両方を走行支援電子制御装置520に出力し得る。
なお、物標出力処理部539(図63)は、受信強度算出部532から物標候補がないという情報が入力された場合には、物標なしとしてゼロを物体位置情報として出力する。そして、選択回路596は、物標出力処理部539からの物体位置情報に基づいて予め設定された閾値と比較することで信号処理回路560あるいは画像処理回路720の物体位置情報を使用するか選択している。
物体検知装置570によって先行物体の位置情報を受け取った走行支援電子制御装置520は、予め設定された条件により、物体位置情報の距離や大きさ、自車両の速度、降雨、降雪、晴天などの路面状態等の条件と併せて、自車両を運転しているドライバに対して操作が安全あるいは容易となるような制御を行う。例えば、走行支援電子制御装置520は、物体位置情報に物体が検出されていない場合、予め設定されている速度までスピードを上げるようにアクセル制御回路526に制御信号を送り、アクセル制御回路526を制御してアクセルペダルを踏み込むことと同等の動作を行う。
走行支援電子制御装置520は、物体位置情報に物体が検出されている場合において、自車両から所定の距離であることが分かれば、ブレーキバイワイヤ等の構成により、ブレーキ制御回路524を介してブレーキの制御を行う。すなわち、速度を落とし、車間距離を一定に保つように操作する。走行支援電子制御装置520は、物体位置情報を受けて、警告制御回路522に制御信号を送り、車内スピーカを介して先行物体が近づいていることをドライバに知らせるように音声またはランプの点灯を制御する。走行支援電子制御装置520は、先行車両の配置を含む物体位置情報を受けとり、予め設定された走行速度の範囲であれば、先行物体との衝突回避支援を行うために自動的にステアリングを左右どちらかに操作し易くするか、あるいは、強制的に車輪の方向を変更するようにステアリング側の油圧を制御することができる。
物体検知装置570では、選択回路596が前回検出サイクルにおいて一定時間連続して検出していた物体位置情報のデータで、今回検出サイクルで検出できなかったデータに対して、カメラで検出したカメラ映像からの先行物体を示す物体位置情報が紐付けされれば、トラッキングを継続させる判断を行い、信号処理回路560からの物体位置情報を優先的に出力するようにしても構わない。
信号処理回路560および画像処理回路720の出力を選択回路596に選択させるための具体的構成の例および動作の例は、米国特許第8446312号明細書、米国特許第8730096号明細書、および米国特許第8730099号明細書に開示されている。この公報の内容の全体をここに援用する。
[第1の変形例]
上記の応用例の車載用レーダシステムにおいて、周波数変調連続波FMCWの1回の周波数変調の(掃引)条件、つまり変調に要する時間幅(掃引時間)は、例えば1ミリ秒である。しかし、掃引時間を100マイクロ秒程度に短くすることもできる。
ただし、そのような高速の掃引条件を実現するためには、送信波の放射に関連する構成要素のみならず、当該掃引条件下での受信に関連する構成要素をも高速に動作させる必要が生じる。例えば、当該掃引条件下で高速に動作するA/Dコンバータ587(図63)を設ける必要がある。A/Dコンバータ587のサンプリング周波数は、例えば10MHzである。サンプリング周波数は10MHzよりも早くてもよい。
本変形例においては、ドップラーシフトに基づく周波数成分を利用することなく、物標との相対速度を算出する。本変形例では、掃引時間Tm=100マイクロ秒であり、非常に短い。検出可能なビート信号の最低周波数は1/Tmであるので、この場合は10kHzとなる。これは、およそ20m/秒の相対速度を持つ物標からの反射波のドップラーシフトに相当する。即ち、ドップラーシフトに頼る限り、これ以下の相対速度を検出することはできない。よって、ドップラーシフトに基づく計算方法とは異なる計算方法を採用することが好適である。
本変形例では、一例として、送信波の周波数が増加するアップビート区間で得られた、送信波と受信波との差の信号(アップビート信号)を利用する処理を説明する。FMCWの1回の掃引時間は100マイクロ秒で、波形は、アップビート(上り)部分のみからなる鋸歯形状である。即ち、本変形例において、三角波/CW波生成回路581が生成する信号波は鋸歯形状を有する。また、周波数の掃引幅は500MHzである。ドップラーシフトに伴うピークは利用しないので、アップビート信号とダウンビート信号を生成して双方のピークを利用する処理は行わず、何れか一方の信号のみで処理を行う。ここではアップビート信号を利用する場合について説明するが、ダウンビート信号を用いる場合も同様の処理を行うことができる。
A/Dコンバータ587(図63)は、10MHzのサンプリング周波数で各アップビート信号をサンプリングして、数百個のデジタルデータ(以下「サンプリングデータ」と呼ぶ。)を出力する。サンプリングデータは、例えば、受信波が得られる時刻以後で、かつ、送信波の送信が終了した時刻までのアップビート信号に基づいて生成される。なお、一定数のサンプリングデータが得られた時点で処理を終了してもよい。
本変形例では、連続して128回アップビート信号の送受信を行い、各々について数百個のサンプリングデータを得る。このアップビート信号の数は128個に限られない。256個であってもよいし、あるいは8個であってもよい。目的に応じて様々の個数を選択することができる。
得られたサンプリングデータは、メモリ531に格納される。受信強度算出部532はサンプリングデータに2次元の高速フーリエ変換(FFT)を実行する。具体的には、まず、1回の掃引で得られたサンプリングデータ毎に、1回目のFFT処理(周波数解析処理)を実行してパワースペクトルを生成する。次に、速度検出部534は、処理結果を、全ての掃引結果に渡って集めて2回目のFFT処理を実行する。
同一物標からの反射波により各掃引期間で検出される、パワースペクトルのピーク成分の周波数はいずれも同じである。一方、物標が異なるとピーク成分の周波数は異なる。1回目のFFT処理によれば、異なる距離に位置する複数の物標を分離することができる。
物標に対する相対速度がゼロでない場合は、アップビート信号の位相は、掃引毎に少しずつ変化する。つまり、2回目のFFT処理によれば、上述した位相の変化に応じた周波数成分のデータを要素として有するパワースペクトルが、1回目のFFT処理の結果毎に求められることになる。
受信強度算出部532は、2回目に得られたパワースペクトルのピーク値を抽出して速度検出部534に送る。
速度検出部534は、位相の変化から相対速度を求める。例えば、連続して得られたアップビート信号の位相が、位相θ[RXd]ずつ変化していたとする。送信波の平均波長をλとすると、1回のアップビート信号が得られるごとに距離がλ/(4π/θ)だけ変化したことを意味する。この変化は、アップビート信号の送信間隔Tm(=100マイクロ秒)で生じた。よって、{λ/(4π/θ)}/Tm により、相対速度が得られる。
以上の処理によれば、物標との距離に加えて、物標との相対速度を求めることができる。
[第2の変形例]
レーダシステム510は、1つまたは複数の周波数の連続波CWを用いて、物標を検知することができる。この方法は、車両がトンネル内にある場合の様に、周囲の静止物から多数の反射波がレーダシステム510に入射する環境において、特に有用である。
レーダシステム510は、独立した5チャンネルの受信素子を含む受信用のアンテナアレイを備えている。このようなレーダシステムでは、入射する反射波の到来方位の推定は、同時に入射する反射波が4つ以下の状態でしか行うことができない。FMCW方式のレーダでは、特定の距離からの反射波のみを選択することで、同時に到来方位の推定を行う反射波の数を減らすことができる。しかし、トンネル内など、周囲に多数の静止物が存在する環境では、電波を反射する物体が連続的に存在しているのに等しい状況にあるため、距離に基づいて反射波を絞り込んでも、反射波の数が4つ以下にならない状況が生じ得る。しかし、それら周囲の静止物は、自車両に対する相対速度が全て同一で、しかも前方を走行する他車両よりも相対速度が大きいため、ドップラーシフトの大きさに基づいて、静止物と他車両とを区別し得る。
そこで、レーダシステム510は、複数の周波数の連続波CWを放射し、受信信号において静止物に相当するドップラーシフトのピークを無視し、それよりもシフト量が小さなドップラーシフトのピークを用いて距離を検知する処理を行う。FMCW方式とは異なり、CW方式では、ドップラーシフトのみに起因して、送信波と受信波との間に周波数差が生じる。つまり、ビート信号に現れるピークの周波数はドップラーシフトのみに依存する。
なお、本変形例の説明でも、CW方式で利用される連続波を「連続波CW」と記述する。上述のとおり、連続波CWの周波数は一定であり、変調されていない。
レーダシステム510が周波数fpの連続波CWを放射し、物標で反射した周波数fqの反射波を検出したとする。送信周波数fpと受信周波数fqとの差はドップラー周波数と呼ばれ、近似的にfp−fq=2・Vr・fp/c と表される。ここでVrはレーダシステムと物標との相対速度、cは光速である。送信周波数fp、ドップラー周波数(fp−fq)、および光速cは既知である。よって、この式から相対速度Vr=(fp−fq)・c/2fpを求めることができる。物標までの距離は、後述するように位相情報を利用して算出する。
連続波CWを用いて、物標までの距離を検出ためには2周波CW方式を採用する。2周波CW方式では、少しだけ離れた2つの周波数の連続波CWが、それぞれ一定期間ずつ放射され、各々の反射波が取得される。例えば76GHz帯の周波数を用いる場合には、2つの周波数の差は数百キロヘルツである。なお、後述する様に、2つの周波数の差は、使用するレーダが物標を検知できる限界の距離を考慮して定められることがより好ましい。
レーダシステム510が周波数fp1およびfp2(fp1<fp2)の連続波CWを順次放射し、2種類の連続波CWが1つの物標で反射されることにより、周波数fq1およびfq2の反射波がレーダシステム510に受信されたとする。
周波数fp1の連続波CWとその反射波(周波数fq1)とによって、第1のドップラー周波数が得られる。また、周波数fp2の連続波CWとその反射波(周波数fq2)とによって、第2のドップラー周波数が得られる。2つのドップラー周波数は実質的に同じ値である。しかしながら、周波数fp1およびfp2の相違に起因して、受信波の複素信号における位相が異なる。この位相情報を用いることにより、物標までの距離(レンジ)を算出できる。
具体的には、レーダシステム510は、距離RをR=c・Δφ/4π(fp2−fp1)として求めることができる。ここで、Δφは2つのビート信号の位相差を表す。2つのビート信号とは、周波数fp1の連続波CWとその反射波(周波数fq1)との差分として得られるビート信号1、および、周波数fp2の連続波CWとその反射波(周波数fq2)との差分として得られるビート信号2である。ビート信号1の周波数fb1およびビート信号2の周波数fb2の特定方法は、上述した単周波数の連続波CWにおけるビート信号の例と同じである。
なお、2周波CW方式での相対速度Vrは、以下のとおり求められる。
Vr=fb1・c/2・fp1 または Vr=fb2・c/2・fp2
また、物標までの距離を一意に特定できる範囲は、Rmax<c/2(fp2−fp1)の範囲に限られる。これよりも遠い物標からの反射波より得られるビート信号は、Δφが2πを超え、より近い位置の物標に起因するビート信号と区別がつかなくなるためである。そこで、2つの連続波CWの周波数の差を調節して、Rmaxをレーダの検出限界距離よりも大きくすることがより好ましい。検出限界距離が100mであるレーダでは、fp2−fp1を例えば1.0MHzとする。この場合、Rmax=150mとなるため、Rmaxを超える位置にある物標からの信号は検出されない。また、250mまで検出できるレーダを搭載する場合は、fp2−fp1を例えば500kHzとする。この場合は、Rmax=300mとなるため、やはりRmaxを超える位置にある物標からの信号は検出されない。また、レーダが、検出限界距離が100mで水平方向の視野角が120度の動作モードと、検出限界距離が250mで水平方向の視野角が5度の動作モードとの、両方を備えている場合は、各々の動作モードにおいて、fp2−fp1の値を、1.0MHzと500kHzとにそれぞれ切り替えて動作させることがより好ましい。
N個(N:3以上の整数)の異なる周波数で連続波CWを送信し、各々の反射波の位相情報を利用することにより、各物標までの距離をそれぞれ検出することが可能な検出方式が知られている。当該検出方式によれば、N−1個までの物標については距離を正しく認識できる。そのための処理として、例えば高速フーリエ変換(FFT)を利用する。いま、N=64、あるいは128として、各周波数の送信信号と受信信号との差であるビート信号のサンプリングデータについてFFTを行って周波数スペクトル(相対速度)を得る。その後、同一の周波数のピークに関してCW波の周波数でさらにFFTを行って距離情報を求めることができる。
以下、より具体的に説明する。
説明の簡単化のため、まず、3つの周波数f1,f2,f3の信号を時間的に切り換えて送信する例を説明する。ここでは、f1>f2>f3であり、かつ、f1−f2=f2−f3=Δfであるとする。また、各周波数の信号波の送信時間をΔtとする。図67は、3つの周波数f1、f2、f3の関係を示す。
三角波/CW波生成回路581(図63)は、それぞれが時間Δtだけ持続する周波数f1、f2、f3の連続波CWを、送信アンテナTxを介して送信する。受信アンテナRxは、各連続波CWが1または複数の物標で反射された反射波を受信する。
ミキサ584は、送信波と受信波とを混合してビート信号を生成する。A/Dコンバータ587はアナログ信号としてのビート信号を、例えば数百個のデジタルデータ(サンプリングデータ)に変換する。
受信強度算出部532は、サンプリングデータを用いてFFT演算を行う。FFT演算の結果、送信周波数f1,f2,f3の各々について、受信信号の周波数スペクトルの情報が得られる。
その後受信強度算出部532は、受信信号の周波数スペクトルの情報から、ピーク値を分離する。所定以上の大きさを有するピーク値の周波数は、物標との相対速度に比例する。受信信号の周波数スペクトルの情報から、ピーク値を分離することは、相対速度の異なる1または複数の物標を分離することを意味する。
次に、受信強度算出部532は、送信周波数f1〜f3の各々について、相対速度が同一または予め定められた範囲内のピーク値のスペクトル情報を計測する。
いま、2つの物標AおよびBが、同程度の相対速度で、かつ、それぞれが異なる距離に存在する場合を考える。周波数f1の送信信号は物標AおよびBの両方で反射され、受信信号として得られる。物標AおよびBからの各反射波のビート信号の周波数は、概ね同一になる。そのため、受信信号の、相対速度に相当するドップラー周波数でのパワースペクトルは、2つの物標AおよびBの各パワースペクトルを合成した合成スペクトルF1として得られる。
同様に、周波数f2およびf3の各々についても、受信信号の、相対速度に相当するドップラー周波数でのパワースペクトルは、2つの物標AおよびBの各パワースペクトルを合成した合成スペクトルF2およびF3として得られる。
図68は、複素平面上の合成スペクトルF1〜F3の関係を示す。合成スペクトルF1〜F3の各々を張る2つのベクトルの方向に向かって、右側のベクトルが物標Aからの反射波のパワースペクトルに対応する。図68ではベクトルf1A〜f3Aに対応する。一方、合成スペクトルF1〜F3の各々を張る2つのベクトルの方向に向かって、左側のベクトルが物標Bからの反射波のパワースペクトルに対応する。図68ではベクトルf1B〜f3Bに対応する。
送信周波数の差分Δfが一定のとき、周波数f1およびf2の各送信信号に対応する各受信信号の位相差と、物標までの距離は比例する関係にある。よって、ベクトルf1Aとf2Aの位相差と、ベクトルf2Aとf3Aの位相差とは同じ値θAになり、位相差θAが物標Aまでの距離に比例する。同様に、ベクトルf1Bとf2Bの位相差と、ベクトルf2Bとf3Bの位相差とは同じ値θBになり、位相差θBが物標Bまでの距離に比例する。
周知の方法を用いて、合成スペクトルF1〜F3の、および、送信周波数の差分Δfから物標AおよびBの各々までの距離を求めることができる。この技術は、例えば米国特許6703967号に開示されている。この公報の内容の全体をここに援用する。
送信する信号の周波数が4以上になった場合も同様の処理を適用することができる。
なお、N個の異なる周波数で連続波CWを送信する前に、2周波CW方式で各物標までの距離および相対速度を求める処理を行ってもよい。そして、所定の条件下で、N個の異なる周波数で連続波CWを送信する処理に切り換えてもよい。例えば、2つの周波数の各々のビート信号を用いてFFT演算を行い、各送信周波数のパワースペクトルの時間変化が30%以上である場合には、処理の切り換えを行ってもよい。各物標からの反射波の振幅はマルチパスの影響等で時間的に大きく変化する。所定の以上の変化が存在する場合には、複数の物標が存在する可能性があると考えられる。
また、CW方式では、レーダシステムと物標との相対速度がゼロである場合、すなわちドップラー周波数がゼロの場合には物標を検知できないことが知られている。しかしながら、例えば以下の方法によって擬似的にドップラー信号を求めると、その周波数を用いて物標を検知することは可能である。
(方法1)受信用アンテナの出力を一定周波数シフトさせるミキサを追加する。送信信号と、周波数がシフトされた受信信号とを用いることにより、擬似ドップラー信号を得ることができる。
(方法2)受信用アンテナの出力とミキサとの間に、時間的に連続して位相を変化させる可変位相器を挿入し、受信信号に擬似的に位相差を付加する。送信信号と、位相差が付加された受信信号とを用いることにより、擬似ドップラー信号を得ることができる。
方法2による、可変位相器を挿入して擬似ドップラー信号を発生させる具体的構成の例および動作の例は、特開2004−257848号公報に開示されている。この公報の内容の全体をここに援用する。
相対速度がゼロの物標、または、非常に小さな物標を検知する必要がある場合は、上述の擬似ドップラー信号を発生させる処理を使用してもよいし、または、FMCW方式による物標検出処理への切り換えを行ってもよい。
次に、図69を参照しながら、車載レーダシステム510の物体検知装置570によって行われる処理の手順を説明する。
以下では、2個の異なる周波数fp1およびfp2(fp1<fp2)で連続波CWを送信し、各々の反射波の位相情報を利用することにより、物標との距離をそれぞれ検出する例を説明する。
図69は、本変形例による相対速度および距離を求める処理の手順を示すフローチャートである。
ステップS41において、三角波/CW波生成回路581は、少しだけ周波数が離れている、2種類の異なる連続波CWを生成する。周波数はfp1およびfp2とする。
ステップS42において、送信アンテナTxおよび受信アンテナRxは、生成された一連の連続波CWの送受信を行う。なお、ステップS41の処理およびステップS42の処理はそれぞれ、三角波/CW波生成回路581および送信アンテナTx/受信アンテナRxにおいて並列的に行われる。ステップS41の完了後にステップS42が行われるのではないことに留意されたい。
ステップS43において、ミキサ584は、各送信波と各受信波とを利用して2つの差分信号を生成する。各受信波は、静止物由来の受信波と、物標由来の受信波とを含む。そのため、次に、ビート信号として利用する周波数を特定する処理を行う。なお、ステップS41の処理、ステップS42の処理およびステップS43の処理はそれぞれ、三角波/CW波生成回路581、送信アンテナTx/受信アンテナRxおよびミキサ584において並列的に行われる。ステップS41の完了後にステップS42が行われるのではなく、また、ステップS42の完了後にステップS43が行われるのでもないことに留意されたい。
ステップS44において、物体検知装置570は、2つの差分信号の各々について、閾値として予め定められた周波数以下で、かつ予め定められた振幅値以上の振幅値を有し、なおかつ互いの周波数の差が所定の値以下であるピークの周波数を、ビート信号の周波数fb1およびfb2として特定する。
ステップS45において、受信強度算出部532は、特定した2つのビート信号の周波数のうちの一方に基づいて相対速度を検出する。受信強度算出部532は、例えばVr=fb1・c/2・fp1 により、相対速度を算出する。なお、ビート信号の各周波数を利用して相対速度を算出してもよい。これにより、受信強度算出部532は、両者が一致しているか否かの検証し、相対速度の算出精度を高めることができる。
ステップS46において、受信強度算出部532は、2つのビート信号1および2の位相差Δφを求め、物標までの距離R=c・Δφ/4π(fp2−fp1)を求める。
以上の処理により、物標までの相対速度および距離を検出することができる。
なお、3以上のN個の異なる周波数で連続波CWを送信し、各々の反射波の位相情報を利用して、相対速度が同一で、かつ異なる位置に存在する複数の物標までの距離を検出してもよい。
以上で説明した、車両500は、レーダシステム510に加えて、さらに他のレーダシステムを有していてもよい。例えば車両500は、車体の後方、または側方に検知範囲を持つレーダシステムをさらに備えていてもよい。車体の後方に検知範囲を持つレーダシステムを有する場合には、当該レーダシステムは後方を監視し、他車両によって追突される危険性があるときは、警報を出す等の応答をすることができる。車体の側方に検知範囲を持つレーダシステムを有する場合には、当該レーダシステムは、自車両が車線変更などを行う場合に、隣接車線を監視し、必要に応じて警報を出す等の応答をすることができる。
以上で説明したレーダシステム510の用途は、車載用途に限られない。種々の用途のセンサとして利用することができる。例えば、家屋その他の建築物の周囲を監視するためのレーダとして利用できる。あるいは、屋内において特定の場所における人物の有無、あるいはその人物の動きの有無等を、光学的画像に寄らずに監視するためのセンサとして利用することができる。
[処理の補足]
前記したアレーアンテナに関する2周波CWまたはFMCWについて、他の実施形態を説明する。前述したとおり、図31の例において、受信強度算出部532は、メモリ531に格納されたチャンネルCh1〜ChMごとのビート信号(図32の下図)に対してフーリエ変換を行う。その際のビート信号は、複素信号である。その理由は、演算対象としている信号の位相を特定するためである。これにより、到来波方向を正確に特定できる。しかしこの場合、フーリエ変換のための演算負荷量が増大し、回路規模が大きくなる。
これを克服するために、ビート信号としてスカラ信号を生成し、それぞれ生成された複数のビート信号に対して、アンテナ配列に沿った空間軸方向および時間の経過に沿った時間軸方向についての2回の複素フーリエ変換を実行することにより、周波数分析結果を得てもよい。これにより、最終的には、少ない演算量で、反射波の到来方向を特定可能なビーム形成を行うことができ、ビーム毎の周波数分析結果を得ることができる。本件に関連する特許公報として、米国特許第6339395号明細書の開示内容全体を本明細書に援用する。
[カメラ等の光学センサとミリ波レーダ]
次に、上述したアレーアンテナと従来のアンテナとの比較、および、本アレーアンテナと光学センサ、例えばカメラ、との双方を利用した応用例について説明する。なお、光学センサとして、ライダー(LIDAR)等を用いてもよい。
ミリ波レーダは、物標までの距離(レンジ)とその相対速度を直接検出することが可能である。また、薄暮を含む夜間、または降雨、霧、降雪等の悪天候時にも、検出性能が大きく低下しないという特徴がある。一方、ミリ波レーダは、カメラに比較して、物標を2次元的にとらえることが容易ではない、とされている。他方、カメラは、物標を2次元的にとらえ、その形状を認識することが比較的容易である。しかし、カメラは、夜間または悪天候時には、物標を撮像できないことがあり、この点が大きな課題となっている。特に採光部分に水滴が付着した場合、または霧で視界が狭くなった場合には、この課題が顕著である。同じ光学系センサであるLIDAR等でも、この課題は同様に存在する。
近年、車両の安全運行要求が高まる中、衝突等を未然に回避する運転者補助システム(Driver Assist System)が開発されている。運転者補助システムは、車両進行方向の画像をカメラまたはミリ波レーダ等のセンサで取得し、車両運行上障害になると予想される障害物を認識した場合に、自動的にブレーキ等を操作することで、衝突等を未然に回避する。このような衝突防止機能は、夜間または悪天候時といえども、正常に機能することが求められる。
そこで、センサとして、従来のカメラ等の光学センサに加えて、ミリ波レーダを搭載し、双方の利点を生かした認識処理を行う、いわゆるフュージョン構成の運転者補助システムが普及しつつある。そのような運転者補助システムについては、後述する。
一方、ミリ波レーダそのものに求められる要求機能は、一層高まっている。車載用途のミリ波レーダでは、76GHz帯の電磁波が主に使用されている。そのアンテナの空中線電力(antenna power)は、各国の法律等により、一定以下に制限されている。例えば日本国では0.01W以下に制限されている。このような制限の中で、車載用途のミリ波レーダには、例えばその検出距離は200m以上、アンテナのサイズは60mm×60mm以下、水平方向の検知角度は90度以上、距離分解能は20cm以下、10m以内の近距離での検出も可能であること等、の要求性能を満たすことが求められている。従来のミリ波レーダは、導波路としてマイクロストリップラインを用い、アンテナとしてパッチアンテナを用いていた(以下、これらを合わせて「パッチアンテナ」という)。しかしパッチアンテナでは、上記の性能を実現することは困難であった。
発明者は、本開示の技術を応用したスロットアレーアンテナを用いることで、上記性能を実現することに成功した。これにより、従来のパッチアンテナ等に比較して、小型、高効率、高性能なミリ波レーダを実現した。加えて、このミリ波レーダと、カメラ等の光学センサとを組み合わせることで、従来存在しなかった小型、高効率、高性能のフュージョン装置を実現した。以下、これについて詳述する。
図70は、車両500における、本開示の技術を応用したスロットアレーアンテナを有するレーダシステム510(以下、ミリ波レーダ510とも称する。)、および車載カメラシステム700を備えるフュージョン装置に関する図である。この図を参照しながら、以下に、種々の実施形態について説明する。
[ミリ波レーダの車室内設置]
従来のパッチアンテナによるミリ波レーダ510’は、車両のフロントノーズにあるグリル512の後方内側に配置される。アンテナから放射される電磁波は、グリル512の隙間を抜け、車両500の前方に放射される。この場合、電磁波通過領域には、ガラス等の電磁波エネルギーを減衰させ、または反射する誘電層は存在しない。これにより、パッチアンテナによるミリ波レーダ510’から放射された電磁波は、遠距離、例えば150m以上、の物標にも届く。そしてこれに反射した電磁波をアンテナで受信することで、ミリ波レーダ510’は、物標を検出できる。しかしこの場合、アンテナが車両のグリル512の後方内側に配置されることで、車両が障害物に衝突した場合に、レーダが破損することがある。また雨天等の際に泥等がかぶることで、アンテナに汚れが付着し、電磁波の放射や受信を阻害することがある。
本開示の実施形態におけるスロットアレーアンテナを用いたミリ波レーダ510では、従来と同様に、車両のフロントノーズにあるグリル512の後方に配置することができる(図示せず)。これにより、アンテナから放射される電磁波のエネルギーを100%活用することができ、従来を超える遠距離、例えば250m以上の距離にある物標の検出が可能となる。
さらに、本開示の実施形態によるミリ波レーダ510は、車両の車室内に配置することもできる。その場合、ミリ波レーダ510は、車両のフロントガラス511の内側で、且つリアビューミラー(図示せず)の鏡面とは反対側の面との間のスペースに配置される。一方、従来のパッチアンテナによるミリ波レーダ510’は、車室内に置くことはできなかった。その理由は、主に次の2つである。第1の理由は、サイズが大きいため、フロントガラス511とリアビューミラーとの間のスペースに収まらないことである。第2の理由は、前方に放射された電磁波が、フロントガラス511により反射され、誘電損により減衰する為、求められる距離まで到達できないことである。その結果、従来のパッチアンテナによるミリ波レーダを車室内に置いた場合、例えば前方100mに存在する物標までしか検出できなかった。他方、本開示の実施形態によるミリ波レーダは、フロントガラス511での反射または減衰があっても、200m以上の距離にある物標を検出できる。これは従来のパッチアンテナによるミリ波レーダを車室外に置いた場合と同等、あるいはそれ以上の性能である。
[ミリ波レーダとカメラ等の車室内配置によるフュージョン構成]
現在、多くの運転者補助システム(Driver Assist System)で用いられている主たるセンサには、CCDカメラ等の光学的撮像装置が用いられている。そして通常、カメラ等は、外的環境等の悪影響を考慮して、フロントガラス511の内側の車室内に配置されている。その際、雨滴等の光学的な影響を最小にするために、カメラ等は、フロントガラス511の内側で且つワイパー(図示せず)が作動する領域に配置される。
近年、車両の自動ブレーキ等の性能向上要請から、どんな外的環境でも確実に作動する自動ブレーキ等が求められている。この場合、運転者補助システムのセンサをカメラ等の光学機器のみで構成した場合、夜間や悪天候時においては確実な作動が保証できないという課題があった。そこで、カメラ等の光学センサに加えて、ミリ波レーダも併用し、連携処理することで、夜間や悪天候時でも確実に動作する運転者補助システムが求められている。
前述したとおり、本スロットアレーアンテナを用いたミリ波レーダは、小型化できたこと、および放射される電磁波の効率が従来のパッチアンテナに比較して著しく高まったことで、車室内に配置することが可能になった。この特性を活用し、図70に示す通り、カメラ等の光学センサ(車載カメラシステム700)のみならず、本スロットアレーアンテナを用いたミリ波レーダ510も、共に車両500のフロントガラス511の内側に配置することが可能になった。これにより以下の新たな効果が生じた。
(1)運転者補助システム(Driver Assist System)の車両500への取付けが容易になった。従来のパッチアンテナによるミリ波レーダ510’では、フロントノーズにあるグリル512の後方に、レーダを配置するスペースを確保する必要があった。このスペースは車両の構造設計に影響する部位を含むことから、レーダのサイズが変化した場合、新たに構造設計をやり直す必要が生じる場合があった。しかしミリ波レーダを車室内に配置することで、そのような不都合は解消された。
(2)車両の外的環境である雨天や夜間等に影響されず、より信頼性の高い動作が確保できるようになった。特に図71に示す通り、ミリ波レーダ(車載レーダシステム)510とカメラとを車室内のほぼ同じ位置に置くことで、それぞれの視野・視線が一致し、後述する「照合処理」、即ちそれぞれが捉えた物標情報が同一物であることを認識する処理、が容易になる。他方、ミリ波レーダ510’を車室外のフロントノーズにあるグリル512の後方に置いた場合、そのレーダ視線Lは、車室内に置いた場合のレーダ視線Mと異なることから、車載カメラシステム700で取得された画像とのずれが大きくなる。
(3)ミリ波レーダ装置の信頼性が向上した。前述の通り、従来のパッチアンテナによるミリ波レーダ510’は、フロントノーズにあるグリル512の後方に配置されていることから、汚れが付着しやすく、また小さな接触事故等でも破損する場合があった。これらの理由により、清掃および機能確認が常時必要であった。また、後述する通り、事故等の影響でミリ波レーダの取付け位置または方向がずれた場合、カメラとの位置合わせを再度行う必要が生じていた。しかし、ミリ波レーダを車室内に配置することで、これらの確率は小さくなり、そのような不都合は解消された。
このようなフュージョン構成の運転者補助システムでは、カメラ等の光学センサと、本スロットアレーアンテナを用いたミリ波レーダ510とは、相互に固定された一体の構成を有してもよい。その場合、カメラ等の光学センサの光軸と、ミリ波レーダのアンテナの方向とは、一定の位置関係を確保する必要がある。これについては後述する。またこの一体構成の運転者補助システムを、車両500の車室内に固定する場合、カメラの光軸等が車両前方の所要の方向に向くように調整する必要がある。これについては、米国特許出願公開第2015/0264230号明細書、米国特許出願公開第2016/0264065号明細書、米国特許出願15/248141、米国特許出願15/248149、米国特許出願15/248156が存在し、これらを援用する。また、これに関連するカメラを中心とした技術として、米国特許第7355524号明細書、および米国特許第7420159号明細書があり、これらの開示内容全体を本明細書に援用する。
また、カメラ等の光学センサとミリ波レーダとを車室内に配置することについては、米国特許第8604968号明細書、米国特許第8614640号明細書、および米国特許第7978122号明細書等が存在する。これらの開示内容全体を本明細書に援用する。しかし、これらの特許の出願時点では、ミリ波レーダとしてはパッチアンテナを含む従来のアンテナしか知られておらず、従って、十分な距離の観測ができない状態であった。例えば、従来のミリ波レーダで観測可能な距離はせいぜい100m〜150mと考えられる。また、ミリ波レーダをフロントガラスの内側に配置した場合、レーダのサイズが大きいため、運転者の視野を遮り、安全運転に支障をきたす等の不都合が生じていた。これに対し、本開示の実施形態にかかるスロットアレーアンテナを用いたミリ波レーダは、小型であること、および放射される電磁波の効率が従来のパッチアンテナに比較して著しく高まったことで、車室内に配置することが可能になった。これにより、200m以上の遠距離の観測が可能となるとともに、運転者の視野を遮ることもない。
[ミリ波レーダとカメラ等との取付け位置の調整]
フュージョン構成の処理(以下「フュージョン処理」ということがある)においては、カメラ等で得られた画像とミリ波レーダにて得られたレーダ情報とが、同じ座標系に対応付けられることが求められる。相互に位置および物標のサイズが異なった場合、双方の連携処理に支障をきたすからである。
これについては次の3つの観点で、調整する必要がある。
(1)カメラ等の光軸と、ミリ波レーダのアンテナの方向とが一定の固定関係にあること。
カメラ等の光軸とミリ波レーダのアンテナの方向とが相互に一致していることが求められる。あるいは、ミリ波レーダでは、2以上の送信アンテナと2以上の受信アンテナを持つ場合があり、それぞれのアンテナの方向が意図的に異なっている場合もある。従ってカメラ等の光軸と、これらのアンテナの向きとの間には、少なくとも一定の既知の関係があることを保証することが求められる。
前述の、カメラ等とミリ波レーダとが相互に固定された一体の構成を有する場合、カメラ等とミリ波レーダとの位置関係は固定されている。従ってこの一体構成の場合は、これらの要件は満たされている。他方、従来のパッチアンテナ等では、ミリ波レーダは、車両500のグリル512の後方に配置される。この場合は、これらの位置関係は、通常次の(2)により調整される。
(2)カメラ等による取得画像とミリ波レーダのレーダ情報とが、車両に取り付けられた場合の初期状態(例えば出荷時)において、一定の固定関係にあること。
カメラ等の光学センサ、およびミリ波レーダ510または510’の、車両500における取付け位置は、最終的に、以下の手段で決定される。即ち、車両500の前方の所定位置800に、基準となるチャート、またはレーダによって観測させる物標(以下、それぞれ「基準チャート」、「基準物標」といい、両者をまとめて「基準対象物」ということがある)を正確に配置する。これをカメラ等の光学センサ、あるいはミリ波レーダ510によって観測する。観測された基準対象物の観測情報と、予め記憶された基準対象物の形状情報等とを比較し、現状のずれ情報を定量的に把握する。このずれ情報に基づき、以下の少なくとも一方の手段で、カメラ等の光学センサ、およびミリ波レーダ510または510’の取付け位置を調整または補正する。なお、同様の結果をもたらす、これ以外の手段を用いてもよい。
(i)基準対象物がカメラとミリ波レーダとの中点に来るように、カメラとミリ波レーダの取付け位置を調整する。この調整には、別途設けられた治具等を使用してもよい。
(ii)基準対象物に対するカメラとミリ波レーダの軸/方位のずれ量を求め、カメラ画像の画像処理およびレーダ処理にて、それぞれの軸/方位のずれ量を補正する。
注目すべき点は、カメラ等の光学センサと、本開示の実施形態にかかるスロットアレーアンテナを用いたミリ波レーダ510とが、相互に固定された一体の構成を有する場合は、カメラあるいはレーダの何れかについて、基準対象物とのずれを調整すれば、他方についてもずれ量が分かり、他方について再度基準対象物のずれを検査する必要がない点である。
即ち、車載カメラシステム700について、基準チャートを所定位置750に置き、その撮像画像と、予め基準チャート画像がカメラの視野の何処に位置すべきかを示す情報と、を比較することで、ずれ量を検出する。これに基づき、上記(i)、(ii)の少なくとも一方の手段により、カメラの調整を行う。次にカメラで求めたずれ量を、ミリ波レーダのずれ量に換算する。その後、レーダ情報について、上記(i)、(ii)の少なくとも一方の手段により、ずれ量を調整する。
あるいは、これをミリ波レーダ510に基づいて行ってもよい。即ち、ミリ波レーダ510について、基準物標を所定位置800に置き、そのレーダ情報と、予め基準物標がミリ波レーダ510の視野の何処に位置すべきかを示す情報とを比較することで、ずれ量を検出する。これに基づき、上記(i)、(ii)の少なくとも一方の手段により、ミリ波レーダ510の調整を行う。次に、ミリ波レーダで求めたずれ量を、カメラのずれ量に換算する。その後、カメラで得られた画像情報について、上記(i)、(ii)の少なくとも一方の手段により、ずれ量を調整する。
(3)カメラ等による取得画像とミリ波レーダのレーダ情報とが、車両における初期状態以降においても、一定の関係が維持さていること。
通常、カメラ等による取得画像とミリ波レーダのレーダ情報とは、初期状態において固定され、車両事故等がない限り、その後変化することは少ないとされる。しかし、仮にこれらにずれが生じた場合は、以下の手段で調整することが可能である。
カメラは、その視野内に、例えば自車両の特徴部分513、514(特徴点)が入る状態で取り付けられている。この特徴点のカメラによる現実の撮像位置と、カメラが本来正確に取付けられている場合のこの特徴点の位置情報と、を比較し、そのずれ量を検出する。この検出されたずれ量に基づき、それ以降に撮像された画像の位置を補正することで、カメラの物理的な取付け位置のずれを補正することができる。この補正により、車両に求められる性能が十分発揮できる場合は、前記(2)の調整は不要となる。またこの調整手段を、車両500の起動時や稼働中でも定期的に行うことで、新たにカメラ等のずれが生じた場合でも、ずれ量の補正が可能であり、安全な運行を実現できる。
ただしこの手段は、前記(2)で述べた手段に比較して、一般に、調整精度が落ちると考えられている。基準対象物をカメラで撮影して得られる画像に基づいて、調整を行う場合、基準対象物の方位が高精度で特定できるため、高い調整精度を容易に達成できる。しかし本手段では、基準対象物に代えて車体の一部の画像を調整に利用するため、方位の特性精度を高める事はやや難しい。そのため、調整精度も落ちることになる。但し事故や車室内でのカメラ等に大きな外力が加わった場合等が原因で、カメラ等の取付け位置が大きく狂った場合の補正手段としては有効である。
[ミリ波レーダとカメラ等とが検出した物標の対応付け:照合処理]
フュージョン処理においては、1つの物標に対して、カメラ等で得られた画像とミリ波レーダにて得られたレーダ情報とが「同一物標である」と認識されている必要がある。例えば車両500の前方に、2つの障害物(第1の障害物と第2の障害物)、例えば2台の自転車、が出現した場合を考える。この2つの障害物は、カメラの画像として撮像されると同時に、ミリ波レーダのレーダ情報としても検出される。その際、第1の障害物について、カメラ画像とレーダ情報とは、相互に同一の物標であることが対応づけられている必要がある。同様に、第2の障害物について、そのカメラ画像とそのレーダ情報とは、相互に同一の物標であることが対応づけられている必要がある。仮に誤って、第1の障害物であるカメラ画像と、第2の障害物であるミリ波レーダのレーダ情報とが、同一物標であると誤認された場合、大きな事故に繋がる可能性が生じる。以下、本明細書においては、このようなカメラ画像上の物標とレーダ画像上の物標とが同一物標であるか否かを判断する処理を、「照合処理」と称することがある。
この照合処理については、以下に述べる種々の検出装置(または方法)がある。以下これらについて、具体的に説明する。なお以下の検出装置は、車両に設置され、少なくとも、ミリ波レーダ検出部と、ミリ波レーダ検出部が検出する方向と重複する方向に向けて配置されたカメラ等の画像検出部と、照合部とを備える。ここで、ミリ波レーダ検出部は、本開示のいずれかの実施形態におけるスロットアレーアンテナを有し、少なくとも、その視野におけるレーダ情報を取得する。画像取得部は、少なくとも、その視野における画像情報を取得する。照合部は、ミリ波レーダ検出部による検出結果と画像検出部による検出結果とを照合し、これら2つの検出部で同一の物標を検出しているか否かを判断する処理回路を含む。ここで画像検出部は、光学カメラ、LIDAR、赤外線レーダ、超音波レーダの何れか1つ、または2つ以上が選択されて構成され得る。以下の検出装置は、照合部における検出処理が異なっている。
第1の検出装置における照合部は、次の2つの照合を行う。第1の照合は、ミリ波レーダ検出部によって検出された注目する物標に対して、その距離情報および横位置情報を得るのと並行して、画像検出部で検出された1または2以上の物標の中で、注目する物標に最も近い位置にある物標を照合し、それらの組合せを検出することを含む。第2の照合は、画像検出部によって検出された注目する物標に対して、その距離情報および横位置情報を得るのと並行して、ミリ波レーダ検出部によって検出された1または2以上の物標の中で、注目する物標に最も近い位置にある物標を照合し、それらの組合せを検出することを含む。さらにこの照合部は、ミリ波レーダ検出部によって検出されたこれらの各物標に対する組合せと、画像検出部によって検出されたこれらの各物標に対する組合せとにおいて一致する組合せがあるか否かを判定する。そして一致する組合せがある場合には、2つの検出部で同一の物体を検出していると判断する。これにより、ミリ波レーダ検出部と画像検出部とでそれぞれ検出された物標の照合を行う。
これに関連する技術は、米国特許第7358889号明細書に記載されている。その開示内容全体を本明細書に援用する。この公報において、画像検出部は、2つのカメラを有する、いわゆるステレオカメラを例示して、説明されている。しかしこの技術は、これに限定されるものではない。画像検出部が1つのカメラを有する場合でも、検出された物標に対して適宜画像認識処理等を行うことで、物標の距離情報と横位置情報とが得られればよい。同様に画像検出部としてレーザスキャナ等のレーザセンサを用いてもよい。
第2の検出装置における照合部は、所定時間毎に、ミリ波レーダ検出部による検出結果と画像検出部による検出結果とを照合する。照合部は、前回の照合結果で2つの検出部で同一の物標を検出していると判断した場合、その前回の照合結果を用いて照合を行う。具体的には、照合部は、ミリ波レーダ検出部で今回検出された物標および画像検出部で今回検出された物標と、前回の照合結果において判断されている2つの検出部で検出された物標とを照合する。そして、照合部は、ミリ波レーダ検出部で今回検出された物標との照合結果と、画像検出部で今回検出された物標との照合結果とに基づいて、2つの検出部で同一の物標を検出しているか否かを判断する。このように、この検出装置は、2つの検出部による検出結果を直接照合するのではなく、前回の照合結果を利用して2つの検出結果と時系列での照合を行う。このため、瞬間的な照合しか行わない場合に比べて検出精度が向上し、安定的な照合を行うことができる。特に、瞬間的に検出部の精度が低下したときでも、過去の照合結果を利用しているので、照合が可能である。また、この検出装置では、前回の照合結果を利用することにより、2つの検出部の照合を簡単に行うことができる。
また、この検出装置の照合部は、前回の照合結果を利用した今回の照合において、2つの検出部で同一の物体を検出していると判断した場合、その判断された物体を除いて、ミリ波レーダ検出部で今回検出された物体と、画像検出部で今回検出された物体とを照合する。そして、この照合部は、2つの検出部で今回検出された同一の物体があるか否かを判断する。このように、検出装置は、時系列での照合結果を考慮した上で、その一瞬一瞬で得られた2つの検出結果により瞬間的な照合を行う。そのため、検出装置は、今回の検出で検出した物体も確実に照合することができる。
これらに関連する技術は、米国特許第7417580号明細書に記載されている。その開示内容全体を本明細書に援用する。この公報においては、画像検出部は、2つのカメラを有する、いわゆるステレオカメラを例示して、説明されている。しかしこの技術は、これに限定されるものではない。画像検出部が1つのカメラを有する場合でも、検出された物標に対して適宜画像認識処理等を行うことで、物標の距離情報と横位置情報とが得られればよい。同様に、画像検出部としてレーザスキャナ等のレーザセンサを用いてもよい。
第3の検出装置における2つの検出部および照合部は、所定の時間間隔で物標の検出とこれらの照合を行い、これらの検出結果と照合結果とが時系列でメモリなどの記憶媒体に記憶される。そして照合部は、画像検出部によって検出された物標の画像上のサイズの変化率と、ミリ波レーダ検出部によって検出された自車両から物標までの距離およびその変化率(自車両との相対速度)とに基づいて、画像検出部によって検出された物標とミリ波レーダ検出部によって検出された物標とが同一物体であるかどうかを判断する。
照合部は、これらの物標が同一物体であると判断した場合には、画像検出部によって検出された物標の画像上の位置と、ミリ波レーダ検出部によって検出された自車から物標までの距離および/またはその変化率とに基づき、車両との衝突の可能性を予測する。
これらに関連する技術は、米国特許第6903677号明細書に記載されている。その開示内容全体を本明細書に援用する。
以上説明した通り、ミリ波レーダとカメラ等の画像撮像装置とのフュージョン処理においては、カメラ等で得られた画像とミリ波レーダにて得られたレーダ情報とが、照合される。上述した本開示の実施形態によるアレーアンテナを用いたミリ波レーダは、高性能且つ小型に構成可能である。従って、上記照合処理を含むフュージョン処理全体について、高性能化と小型化等が達成できる。これにより、物標認識の精度が向上し、車両のより安全な運行制御が可能となる。
[他のフュージョン処理]
フュージョン処理においては、カメラ等で得られた画像とミリ波レーダ検出部にて得られたレーダ情報との照合処理に基づき、種々の機能が実現される。フュージョン処理の代表的な機能を実現する処理装置の例を以下に説明する。
以下の処理装置は、車両に設置され、少なくとも、所定方向に電磁波を送受するミリ波レーダ検出部と、このミリ波レーダ検出部の視野と重複する視野を有する単眼カメラ等の画像取得部と、これらから情報を得て物標の検出等を行う処理部とを備える。ミリ波レーダ検出部は、その視野におけるレーダ情報を取得する。画像取得部は、その視野における画像情報を取得する。画像取得部には、光学カメラ、LIDAR、赤外線レーダ、超音波レーダの何れか1つ、または2以上が選択されて使用され得る。処理部は、ミリ波レーダ検出部および画像取得部に接続された処理回路によって実現され得る。以下の処理装置は、この処理部における処理内容が異なっている。
第1の処理装置の処理部は、ミリ波レーダ検出部によって検出された物標と同一であると認識される物標を、画像取得部によって撮像された画像から抽出する。即ち、前述した検出装置による照合処理が行われる。そして、抽出された物標の画像の右側エッジおよび左側エッジの情報を取得し、取得された右側エッジおよび左側エッジの軌跡を近似する直線または所定の曲線である軌跡近似線を両エッジについて導出する。この軌跡近似線上に存在するエッジの数が多い方を物標の真のエッジとして選択する。そして真のエッジとして選択された方のエッジの位置に基づいて物標の横位置を導出する。これにより、物標の横位置の検出精度をより向上させることが可能である。
これらに関連する技術は、米国特許第8610620号明細書に記載されている。この文献の開示内容全体を本明細書に援用する。
第2の処理装置の処理部は、物標の有無の決定に際して、画像情報に基づいて、レーダ情報における物標の有無の決定に用いられる判断基準値を変更する。これにより、例えば車両運行の障害物となる物標画像がカメラ等にて確認できた場合、あるいは物標の存在が推定された場合等において、ミリ波レーダ検出部による物標検出の判断基準を最適に変更することで、より正確な物標情報を得ることができる。即ち、障害物の存在する可能性が高い場合には、判断基準を変更することより、確実にこの処理装置を作動させることが可能となる。他方、障害物の存在する可能性が低い場合に、判断基準を変更することにより、処理装置の不要な作動を防止できる。これにより、適切なシステムの作動が行える。
さらにこの場合、処理部は、レーダ情報に基づいて画像情報の検出領域を設定し、この領域内の画像情報に基づいて障害物の存在を推定することも可能である。これにより検出処理の効率化を図ることができる。
これらに関連する技術は、米国特許第7570198号明細書に記載されている。この文献の開示内容全体を本明細書に援用する。
第3の処理装置の処理部は、複数の異なる画像撮像装置およびミリ波レーダ検出部により得られた画像およびレーダ情報に基づく画像信号を、少なくとも1台の表示装置に表示する複合表示を行う。この表示処理において、水平、垂直同期信号を複数の画像撮像装置およびミリ波レーダ検出部で相互に同期させ、これらの装置からの画像信号に対して、1水平走査期間内もしくは1垂直走査期間内で所望の画像信号に選択的に切り替え可能とする。これにより、水平および垂直同期信号に基づき、選択された複数の画像信号の像を並べて表示可能とし、かつ、表示装置から所望の画像撮像装置およびミリ波レーダ検出部における制御動作を設定する制御信号を送出する。
複数台の異なる表示装置にそれぞれの画像等が表示された場合は、それぞれの画像間の比較が困難となる。また表示装置が第3の処理装置本体とは別個に配置される場合には装置に対する操作性がよくない。第3の処理装置は、このような欠点を克服する。
これらに関連する技術は、米国特許第6628299号明細書、および米国特許第7161561号明細書に記載されている。これらの開示内容全体を本明細書に援用する。
第4の処理装置の処理部は、車両の前方にある物標について、画像取得部およびミリ波レーダ検出部に指示し、その物標を含む画像およびレーダ情報を取得する。処理部は、その画像情報の内、その物標が含まれる領域を決定する。処理部は、さらに、この領域におけるレーダ情報を抽出し、車両から物標までの距離および車両と物標との相対速度を検出する。処理部は、これらの情報に基づいて、その物標が車両に衝突する可能性を判定する。これによりいち早く物標との衝突可能性を判定する。
これらに関連する技術は、米国特許第8068134号明細書に記載されている。これらの開示内容全体を本明細書に援用する。
第5の処理装置の処理部は、レーダ情報により、またはレーダ情報と画像情報とに基づくフュージョン処理により、車両前方の1または2以上の物標を認識する。この物標には、他の車両または歩行者等の移動体、道路上の白線によって示された走行レーン、路肩およびそこにある静止物(側溝および障害物等を含む)、信号機、横断歩道等が含まれる。処理部は、GPS(Global Positioning System)アンテナを含み得る。GPSアンテナによって自車両の位置を検出し、その位置に基づき、道路地図情報を格納した記憶装置(地図情報データベース装置と称する)を検索し、地図上の現在位置を確認してもよい。この地図上の現在位置と、レーダ情報等によって認識された1または2以上の物標とを比較し、走行環境を認識することができる。これに基づき、処理部は、車両走行に障害となると推定される物標を抽出し、より安全な運行情報を見出し、必要に応じて表示装置に表示し、運転者に知らせてもよい。
これらに関連する技術は、米国特許第6191704号明細書に記載されている。その開示内容全体を本明細書に援用する。
第5の処理装置は、さらに、車両外部の地図情報データベース装置と通信するデータ通信装置(通信回路を有する)を有していてもよい。データ通信装置は、例えば毎週1回または月1回程度の周期で、地図情報データベース装置にアクセスし、最新の地図情報をダウンロードする。これにより、最新の地図情報を用いて、上記の処理を行うことができる。
第5の処理装置は、さらに、上記の車両運行時に取得した最新の地図情報と、レーダ情報等によって認識された1または2以上の物標に関する認識情報とを比較し、地図情報にはない物標情報(以下「地図更新情報」という)を抽出してもよい。そしてこの地図更新情報を、データ通信装置を介して地図情報データベース装置に送信してもよい。地図情報データベース装置は、この地図更新情報を、データベース内の地図情報に関連付けて記憶し、必要があれば現在の地図情報そのものを更新してもよい。更新に際しては、複数の車両から得られた地図更新情報を比較することで、更新の確実性を検証してもよい。
なお、この地図更新情報には、現在の地図情報データベース装置が有する地図情報より詳しい情報を含むことができる。例えば一般の地図情報では、道路の概形は把握できるが、例えば路肩部分の幅またはそこにある側溝の幅、新たに生じた凹凸または建造物の形状等の情報は一般に含まれない。また、車道と歩道の高さ、または歩道に繋がるスロープの状況等の情報も含まれない。地図情報データベース装置は、別途設定された条件に基づき、これらの詳しい情報(以下「地図更新詳細情報」という)を、地図情報と関連付けて記憶しておくことができる。これらの地図更新詳細情報は、自車両を含む車両に、元の地図情報よりも詳しい情報を提供することで、車両の安全走行の用途に加えて、他の用途でも利用可能となる。ここで「自車両を含む車両」とは、例えば自動車でもよいし、二輪車、自転車、あるいは今後新たに出現する自動走行車両、例えば電動車椅子等であってもよい。地図更新詳細情報は、これらの車両が運行する際に利用される。
(ニューラルネットワークによる認識)
第1から第5の処理装置は、さらに、高度認識装置を備えていてもよい。高度認識装置は、車両の外部に設置されていてもよい。その場合、車両は、高度認識装置と通信する高速データ通信装置を備え得る。高度認識装置は、いわゆるディープラーニング等を含むニューラルネットワークにて構成されてもよい。このニューラルネットワークは、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、以下「CNN」という)を含むことがある。CNNは、画像認識で成果を挙げているニューラルネットワークであり、その特徴の1つは、畳み込み層(Convolutional Layer)とプーリング層(Pooling Layer)と呼ばれる2つの層の組を一または複数持つ点にある。
処理装置における畳み込み層に入力される情報として、少なくとも次の3種類の何れかがあり得る。
(1)ミリ波レーダ検出部で取得されたレーダ情報に基づき得られた情報
(2)レーダ情報に基づき、画像取得部で取得された特定画像情報に基づき得られた情報
(3)レーダ情報と、画像取得部で取得された画像情報とに基づいて得られたフュージョン情報、またはこのフュージョン情報に基づき得られた情報
これらの何れかの情報、あるいはこれらの組み合わせられた情報に基づき、畳み込み層に対応する積和演算が行われる。その結果は、次段のプーリング層に入力され、予め設定されたルールに基づき、データの選択が行われる。そのルールとしては、例えば、画素値の最大値を選ぶ最大プーリング(max pooling)では、畳み込み層の分割領域ごとに、その中の最大値を選択し、これがプーリング層における対応する位置の値とされる。
CNNで構成された高度認識装置は、このような畳み込み層とプーリング層を一組、あるいは複数組、直列につなぐ構成を有することがある。これにより、レーダ情報および画像情報に含まれた車両周辺の物標を正確に認識することができる。
これらに関連する技術は、米国特許第8861842号明細書、米国特許第9286524号明細書、および米国特許出願公開第2016/0140424号明細書に記載されている。これらの開示内容全体を本明細書に援用する。
第6の処理装置の処理部は、車両のヘッドランプ制御に関係する処理を行う。車両を夜間に走行させる際、運転者は、自車両の前方に他の車両または歩行者が存在するか否かを確認し、自車両のヘッドランプのビームを操作する。他の車両の運転者または歩行者が、自車両のヘッドランプで幻惑されることを防ぐためである。この第6の処理装置は、レーダ情報、またはレーダ情報とカメラ等による画像との組み合わせを用いて、自車両のヘッドランプを自動で制御する。
処理部は、レーダ情報により、またはレーダ情報と画像情報とに基づくフュージョン処理により、車両前方の車両あるいは歩行者に該当する物標を検出する。この場合、車両前方の車両には、前方の先行車両、対向車線の車両、2輪車等が含まれる。処理部は、これらの物標を検出した場合、ヘッドランプのビームを下げる指令を出す。この指令を受けた車両内部の制御部(制御回路)は、ヘッドランプを操作し、そのビームを下げる。
これらに関連する技術は、米国特許第6403942号明細書、米国特許第6611610号明細書、米国特許第8543277号明細書、米国特許第8593521号明細書、および米国特許第8636393号明細書に記載されている。これらの開示内容全体を本明細書に援用する。
以上説明したミリ波レーダ検出部による処理、およびミリ波レーダ検出部とカメラ等の画像撮像装置とのフュージョン処理においては、ミリ波レーダを高性能且つ小型に構成可能であることから、レーダ処理、またはフュージョン処理全体の高性能化と小型化等が達成できる。これにより、物標認識の精度が向上し、車両のより安全な運行制御が可能となる。
<応用例2:各種監視システム(自然物、建造物、道路、見守り、セキュリティ)>
本開示の実施形態によるアレーアンテナを備えるミリ波レーダ(レーダーシステム)は、自然物、気象、建造物、セキュリティ、介護等における監視の分野でも、広く活用することができる。これに関係する監視システムでは、ミリ波レーダを含む監視装置は、例えば固定した位置に設置され、監視対象を常時監視する。その際、ミリ波レーダは、この特定の監視対象における検知分解能を最適値に調整し、設定される。
本開示の実施形態によるアレーアンテナを備えるミリ波レーダは、例えば100GHzを超える高周波電磁波による検出が可能である。また、レーダ認識に用いられる方式、例えばFMCW方式等における変調帯域については、当該ミリ波レーダは、現在4GHzを超える広帯域を実現している。即ち前述した超広帯域(UWB:Ultra Wide Band)に対応している。この変調帯域は、距離分解能に関係する。即ち従来のパッチアンテナにおける変調帯域は600MHz程度までであったことから、その距離分解能は25cmであった。これに対し、本アレーアンテナに関係するミリ波レーダでは、その距離分解能が3.75cmとなる。これは、従来のLIDARの距離分解能にも匹敵する性能を実現できることを示している。一方、LIDAR等の光学式センサは、前述したとおり、夜間または悪天候時には物標を検出できない。これに対してミリ波レーダでは、昼夜、天候にかかわらず、常時検出が可能である。これにより従来のパッチアンテナを利用したミリ波レーダでは適用できなかった多様な用途で、本アレーアンテナに関係するミリ波レーダを利用することが可能になった。
図72は、ミリ波レーダによる監視システム1500の構成例を示す図である。ミリ波レーダによる監視システム1500は、少なくとも、センサ部1010と本体部1100とを備える。センサ部1010は、少なくとも、監視対象1015に照準を合わせたアンテナ1011と、送受される電磁波に基づいて物標を検出するミリ波レーダ検出部1012と、検出されたレーダ情報を送信する通信部(通信回路)1013とを備える。本体部1100は、少なくとも、レーダ情報を受信する通信部(通信回路)1103と、受信したレーダ情報に基づいて所定の処理を行う処理部(処理回路)1101と、過去のレーダ情報および所定の処理に必要な他の情報等を蓄積するデータ蓄積部(記録媒体)1102とを備える。センサ部1010と本体部1100との間には、通信回線1300があり、これを介して両者間での情報およびコマンドの送信および受信が行われる。ここで通信回線とは、例えば、インターネット等の汎用の通信ネットワーク、携帯通信ネットワーク、専用の通信回線等の何れかを含み得る。なお、本監視システム1500は、通信回線を介することなく、センサ部1010と本体部1100とが直接接続される構成でもよい。センサ部1010には、ミリ波レーダに加えて、カメラ等の光学センサを併設することもできる。これにより、レーダ情報とカメラ等による画像情報とのフュージョン処理による物標認識を行うことで、監視対象1015等のより高度な検出が可能になる。
以下これらの応用事例を実現する監視システムの例を、具体的に説明する。
[自然物監視システム]
第1の監視システムは、自然物を対象に監視するシステム(以下「自然物監視システム」という)である。図72を参照して、この自然物監視システムについて説明する。この自然物監視システム1500における監視対象1015は、例えば河川、海面、山岳、火山、地表等であり得る。例えば河川が監視対象1015である場合、定位置に固定されたセンサ部1010が、河川1015の水面を常時監視する。その水面情報は、常時、本体部1100における処理部1101に送信される。そして水面が一定以上の高さになった場合、処理部1101は、本監視システムとは別に設けられた、例えば気象観測監視システム等の他のシステム1200に、通信回線1300を介してその旨を知らせる。あるいは、処理部1101は、河川1015に設けられた水門等(図示せず)を自動的に閉鎖するための指示情報を、水門を管理するシステム(図示せず)に送付する。
この自然物監視システム1500は、1つの本体部1100で、複数のセンサ部1010、1020等を監視することができる。この複数のセンサ部が、一定の地域に分散して配置された場合、その地域における河川の水位状況を同時に把握できる。これにより、この地域における降雨が、河川の水位にどの様に影響し、洪水等の災害に繋がる可能性があるか否かを評価することも可能になる。これに関する情報は、通信回線1300を介して、気象観測監視システム等の他のシステム1200に知らせることができる。これにより、気象観測監視システム等の他のシステム1200は、より広域の気象観測または災害予想に、通知された情報を活用することができる。
この自然物監視システム1500は、河川以外の他の自然物にも同様に適用できる。例えば津波または高潮を監視する監視システムにおいては、その監視対象は、海面水位である。また海面水位の上昇に対応して、防潮堤の水門を自動的に開閉することも可能である。あるいは、降雨または地震等による山崩れを監視する監視システムでは、その監視対象は、山岳部の地表等である。
[交通路監視システム]
第2の監視システムは、交通路を監視するシステム(以下「交通路監視システム」という)である。この交通路監視システムにおける監視対象は、例えば、鉄道の踏切、特定の線路、空港の滑走路、道路の交差点、特定の道路、または駐車場等であり得る。
例えば監視対象が鉄道の踏切である場合、踏切内部を監視できる位置にセンサ部1010が配置される。この場合、センサ部1010は、ミリ波レーダに加えて、カメラ等の光学センサも併設してよい。この場合には、レーダ情報と画像情報とのフュージョン処理により、より多角的に監視対象における物標を検出できる。センサ部1010によって得られた物標情報は、通信回線1300を介して、本体部1100に送られる。本体部1100は、より高度な認識処理、制御で必要となる他の情報(例えば電車の運行情報等)の収集、およびこれらに基づく必要な制御指示等を行う。ここで、必要な制御指示とは、例えば、踏切閉鎖時に踏切内部に人または車両等が確認された場合に、電車を停止させる等の指示をいう。
また、例えば監視対象を空港の滑走路とした場合は、滑走路上を所定の分解能、例えば滑走路上の5cm角以上の異物が検出できる分解能を実現できる様に、複数のセンサ部1010、1020等が、滑走路に沿って配置される。監視システム1500は、滑走路上を昼夜、天候を問わず常時監視する。この機能は、UWB対応が可能な本開示の実施形態におけるミリ波レーダを用いるからこそ実現できる機能である。また、本ミリ波レーダは、小型、高解像、低コストで実現できるので、滑走路全面を隈なくカバーする場合にも、現実的な対応が可能である。この場合、本体部1100は、複数のセンサ部1010、1020等を統合管理する。本体部1100は、滑走路上に異物を確認した場合、空港管制システム(図示せず)に、異物の位置と大きさに関する情報を送信する。これを受けた空港管制システムは、その滑走路での離着陸を一時的に禁止する。その間、本体部1100は、例えば別途設けられた滑走路上を自動的に清掃する車両等に対して、異物の位置と大きさに関する情報を送信する。これを受けた清掃車両は、自力で異物がある位置に移動し、その異物を自動的に除去する。清掃車両は、異物の除去が完了すると、本体部1100にその旨の情報を送信する。そして本体部1100は、その異物を検出したセンサ部1010等が「異物がない」ことを再度確認し、安全であることを確認した後、空港管制システムにその旨を伝える。これを受けた空港管制システムは、該当する滑走路の離着陸禁止を解除する。
さらに、例えば監視対象を駐車場とした場合、駐車場のどの位置が空いているのかを、自動的に認識することができる。これに関連する技術は、米国特許第6943726号明細書に記載されている。その開示内容全体を、本明細書に援用する。
[セキュリティ監視システム]
第3の監視システムは、私有敷地内または家屋への不法侵入者を監視するシステム(以下「セキュリティ監視システム」という)である。このセキュリティ監視システムでの監視対象は、例えば、私有敷地内または家屋内等の特定領域である。
例えば、監視対象を私有敷地内とした場合、これを監視できる1または2以上の位置にセンサ部1010が配置される。この場合、センサ部1010として、ミリ波レーダに加えて、カメラ等の光学センサも併設してよい。この場合には、レーダ情報と画像情報とのフュージョン処理により、より多角的に監視対象における物標を検出できる。センサ部1010で得られた物標情報は、通信回線1300を介して、本体部1100に送られる。本体部1100において、より高度な認識処理、制御で必要となる他の情報(例えば侵入対象が人であるか犬または鳥等の動物であるかを正確に認識するために必要となる参照データ等)の収集、およびこれらに基づく必要な制御指示等が行われる。ここで、必要な制御指示とは、例えば、敷地内に設置された警報を鳴らすとか、照明を点ける等の指示に加えて、携帯通信回線等を通じて敷地の管理者に直接通報する等の指示を含む。本体部1100における処理部1101は、検出された物標を、内蔵した、ディープラーニング等の手法を採用した高度認識装置に認識させてもよい。あるいは、この高度認識装置は、外部に配置されていてもよい。その場合、高度認識装置は、通信回線1300によって接続され得る。
これに関連する技術は、米国特許第7425983号明細書に記載されている。その開示内容全体を本明細書に援用する。
このようなセキュリティ監視システムの他の実施形態として、空港の搭乗口、駅の改札口、建物の入り口等に設置される人監視システムにも応用することができる。この人監視システムでの監視対象は、例えば、空港の搭乗口、駅の改札口、建物の入り口等である。
例えば監視対象が空港の搭乗口である場合、センサ部1010は、例えば搭乗口の持ち物検査装置に設置され得る。この場合、その検査方法には次の2通りの方法がある。1つは、ミリ波レーダが、自らが送信した電磁波が監視対象である搭乗者で反射して戻ってきた電磁波を受信することで、搭乗者の持ち物等を検査する方法である。もう1つは、搭乗者自らの人体から放射される微弱なミリ波をアンテナで受けることで、搭乗者が隠し持つ異物を検査する方法である。後者の方法では、ミリ波レーダには、受信するミリ波をスキャンする機能を持つことが望ましい。このスキャン機能は、デジタルビームフォーミングを利用することによって実現してもよいし、機械的なスキャン動作によって実現してもよい。なお、本体部1100の処理については、前述した例と同様の通信処理および認識処理を用いることもできる。
[建造物検査システム(非破壊検査)]
第4の監視システムは、道路もしくは鉄道の高架橋または建造物等のコンクリートの内部、または道路もしくは地面の内部等の監視または検査を行うシステム(以下「建造物検査システム」という)である。この建造物検査システムでの監視対象は、例えば、高架橋もしくは建造物等のコンクリートの内部、または道路もしくは地面の内部等である。
例えば、監視対象がコンクリート建造物の内部である場合、センサ部1010は、コンクリート建造物の表面に沿ってアンテナ1011を走査させることができる構造を有する。ここで「走査」は、手動で実現してもよいし、走査用の固定レールを別途設置し、このレール上をモータ等の駆動力を用いて移動させることで実現してもよい。また、監視対象が道路または地面の場合は、アンテナ1011を車両等に下向きに設置し、車両を一定速度で走行させることによって「走査」を実現してもよい。センサ部1010で使用される電磁波は、例えば100GHzを超える、いわゆるテラヘルツ領域のミリ波を用いてもよい。前述したとおり、本開示の実施形態におけるアレーアンテナによれば、例えば100GHzを超える電磁波にも、従来のパッチアンテナ等に比較して、より少ない損失のアンテナを構成できる。より高周波の電磁波は、コンクリート等の検査対象物に、より深く浸透することができ、より正確な非破壊検査を実現できる。なお、本体部1100の処理については、前述した他の監視システム等と同様の通信処理や認識処理も用いることができる。
これに関連する技術は、米国特許第6661367号明細書に記載されている。その開示内容全体を本明細書に援用する。
[人監視システム]
第5の監視システムは、介護対象者を見守るシステム(以下「人見守りシステム」という)である。この人見守りシステムでの監視対象は、例えば、介護者または病院の患者等である。
例えば監視対象を介護施設の室内における介護者とした場合、この室内に、室内全体を監視できる1または2以上の位置に、センサ部1010が配置される。この場合、センサ部1010には、ミリ波レーダに加えて、カメラ等の光学センサも併設してよい。この場合には、レーダ情報と画像情報とのフュージョン処理により、より多角的に監視対象を監視できる。他方、監視対象を人とした場合、プライバシー保護の観点から、カメラ等での監視は適当でない場合がある。この点を考慮して、センサを選択する必要がある。なお、ミリ波レーダでの物標検出では、監視対象の人を、画像ではなくその影ともいえる信号によって取得することができる。従って、ミリ波レーダは、プライバシー保護の観点から、望ましいセンサと言える。
センサ部1010で得られた介護者の情報は、通信回線1300を介して、本体部1100に送られる。センサ部1010は、より高度な認識処理、制御で必要となる他の情報(例えば介護者の物標情報を正確に認識するために必要となる参照データ等)の収集、およびこれらに基づく必要な制御指示等、を行う。ここで、必要な制御指示とは、例えば、検出結果に基づき、管理者に直接通報する等の指示を含む。また、本体部1100の処理部1101は、検出された物標を、内蔵した、ディープラーニング等の手法を採用した高度認識装置に認識させてもよい。この高度認識装置は、外部に配置されてもよい。その場合、高度認識装置は、通信回線1300によって接続され得る。
ミリ波レーダで人を監視対象とする場合、少なくとも次の2つの機能を追加することができる。
第1の機能は、心拍数・呼吸数の監視機能である。ミリ波レーダでは、電磁波は衣服を透過して、人体の皮膚表面の位置および動きを検出できる。処理部1101は、まず監視対象となる人とその外形を検出する。次に、例えば心拍数を検知する場合は、心拍の動きが検出しやすい体表面の位置を特定し、そこの動きを時系列化して検出する。これにより、例えば1分間の心拍数を検出することができる。呼吸数を検知する場合も同様である。この機能を用いることで、介護者の健康状態を常時確認することができ、より質の高い介護者への見守りが可能である。
第2の機能は、転倒検出機能である。老人等の介護者は、足腰が弱っていることに起因して、転倒することがある。人が転倒する場合、人体の特定部位、例えば頭部等、の速度、または加速度が一定以上になる。ミリ波レーダで人を監視対象とする場合、常時、対象物標の相対速度または加速度を検出することができる。従って、例えば監視対象として頭部を特定し、その相対速度または加速度を時系列的に検知することで、一定値以上の速度を検出した場合、転倒したと認識することができる。処理部1101は、転倒を認識した場合、例えば的確な介護支援に対応する指示等を発行することができる。
なお、以上説明した監視システム等では、センサ部1010が一定の位置に固定されていた。しかしセンサ部1010を、例えばロボット、車両、ドローン等の飛行体等の移動体に設置することも可能である。ここで車両等には、例えば自動車のみならず、電動車椅子等の小型移動体も含まれる。この場合、この移動体は、自己の現在位置を常に確認するためにGPSユニットを内蔵してもよい。加えてこの移動体は、地図情報および前述の第5の処理装置について説明した地図更新情報を用いて、自らの現在位置の正確性をさらに向上させる機能を有していてもよい。
さらに、以上説明した、第1から第3の検出装置、第1から第6の処理装置、第1から第5の監視システム等と類似する装置またはシステムにおいて、これらと同様の構成を利用することで、本開示の実施形態におけるアレーアンテナまたはミリ波レーダを用いることができる。
<応用例3:通信システム>
[通信システムの第1の例]
本開示における導波路装置およびアンテナ装置(アレーアンテナ)は、通信システム(telecommunication system)を構成する送信機(transmitter)および/または受信機(receiver)に用いることができる。本開示における導波路装置およびアンテナ装置は、積層された導電部材を用いて構成されるため、中空導波管を用いる場合に比して、送信機および/または受信機のサイズを小さく抑えることができる。また、誘電体を必要としないため、マイクロストリップ線路を用いる場合に比して、電磁波の誘電損失を小さく抑えることができる。よって、小型で高効率の送信機および/または受信機を備える通信システムを構築することができる。
そのような通信システムは、アナログ信号に直接変調をかけて送受信する、アナログ式通信システムであり得る。しかし、デジタル式通信システムであれば、より柔軟で性能の高い通信システムを構築することが可能である。
以下、図73を参照しながら、本開示の実施形態における導波路装置およびアンテナ装置を用いた、デジタル式通信システム800Aを説明する。
図73は、デジタル式通信システム800Aの構成を示すブロック図である。通信システム800Aは、送信機810Aと受信機820Aとを備えている。送信機810Aは、アナログ/デジタル(A/D)コンバータ812と、符号化器813と、変調器814と、送信アンテナ815とを備えている。受信機820Aは、受信アンテナ825と、復調器824と、復号化器823と、デジタル/アナログ(D/A)コンバータ822とを備えている。送信アンテナ815および受信アンテナ825の少なくとも一方は、本開示の実施形態におけるアレーアンテナによって実現され得る。本応用例において、送信アンテナ815に接続される変調器814、符号化器813、およびA/Dコンバータ812などを含む回路を、送信回路と称する。受信アンテナ825に接続される復調器824、復号化器823、およびD/Aコンバータ822などを含む回路を、受信回路と称する。送信回路と受信回路とを合わせて、通信回路と称することもある。
送信機810Aは、信号源811から受け取ったアナログ信号を、アナログ/デジタル(A/D)コンバータ812によってデジタル信号に変換する。次に、デジタル信号は、符号化器813によって符号化される。ここで、「符号化」とは、送信すべきデジタル信号を操作し、通信に適した形態に変換することを指す。そのような符号化の例としては、CDM(Code−Division Multiplexing)等がある。また、TDM (Time−Division Multiplexing)またはFDM (Frequency Division Multiplexing)、またはOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を行うための変換も、この符号化の一例である。符号化された信号は、変調器814によって高周波信号に変換され、送信アンテナ815から送信される。
なお、通信の分野では、搬送波に重畳される信号を表す波を「信号波」と称することがあるが、本明細書における「信号波」の用語は、そのような意味では用いられていない。本明細書における「信号波」とは、導波路を伝搬する電磁波、およびアンテナ素子を用いて送受信される電磁波を広く意味する。
受信機820Aは、受信アンテナ825で受信した高周波信号を、復調器824によって低周波の信号に戻し、復号化器823によってデジタル信号に戻す。復号されたデジタル信号は、デジタル/アナログ(D/A)コンバータ822でアナログ信号に戻され、データシンク(データ受信装置)821に送られる。以上の処理により、一連の送信と受信のプロセスが完了する。
通信する主体がコンピュータのようなデジタル機器である場合は、上記の処理において、送信信号のアナログ/デジタル変換、および受信信号のデジタル/アナログ変換は不要である。したがって、図73におけるアナログ/デジタルコンバータ812およびデジタル/アナログコンバータ822は省略可能である。このような構成のシステムも、デジタル式通信システムに含まれる。
デジタル式通信システムにおいては、信号強度の確保、または通信容量の拡大のために、様々な方法が用いられる。そのような方法の多くは、ミリ波帯またはテラヘルツ帯の電波を用いる通信システムにおいても有効である。
ミリ波帯またはテラヘルツ帯における電波は、より低い周波数の電波に比して直進性が高く、障害物の陰の側に回り込む回折は小さい。このため、受信機が、送信機から送信された電波を直接に受信できないことも少なくない。そのような状況でも、反射波を受信できることは多いが、反射波の電波信号の質は直接波よりも劣ることが多いため、安定した受信はより難しくなる。また、複数の反射波が異なる経路を通って到来することもある。その場合、経路長の異なる受信波は互いに位相が異なり、マルチパス・フェージング(Multi−Path Fading)を引き起こす。
このような状況を改善するための技術として、アンテナダイバーシティ(Antenna Diversity)と呼ばれる技術を利用することができる。この技術においては、送信機および受信機の少なくとも一方は、複数のアンテナを備える。それらの複数のアンテナ間の距離が、波長程度以上異なれば、受信波の状態は異なってくる。そこで、最も品質のよい送受信が行えるアンテナが選択して用いられる。こうすることで通信の信頼性を高めることができる。また、複数のアンテナから得られる信号を合成して信号の品質の改善を図ってもよい。
図73に示される通信システム800Aにおいて、例えば受信機820Aは受信アンテナ825を複数個備えていてもよい。この場合、複数の受信アンテナ825と復調器824との間には、切り替え器が介在する。受信機820Aは、切り替え器によって、複数の受信アンテナ825の中から最も品質のよい信号が得られるアンテナと復調器824とを接続する。なお、この例において、送信機810Aが送信アンテナ815を複数個備えていてもよい。
[通信システムの第2の例]
図74は、電波の放射パターンを変化させることのできる送信機810Bを含む通信システム800Bの例を示すブロック図である。この応用例において、受信機は図73に示す受信機820Aと同一である。このため、図74には受信機は図示されていない。送信機810Bは、送信機810Aの構成に加えて、複数個のアンテナ素子8151を含むアンテナアレイ815bを有する。アンテナアレイ815bは、本開示の実施形態におけるアレーアンテナであり得る。送信機810Bはさらに、複数のアンテナ素子8151と変調器814との間にそれぞれ接続された複数の移相器(PS)816を有する。この送信機810Bにおいて、変調器814の出力は、複数の移相器816に送られ、そこで位相差を付与されて、その結果得られる信号が複数のアンテナ素子8151に導かれる。複数のアンテナ素子8151が等間隔に配置されている場合において、各アンテナ素子8151に、隣り合うアンテナ素子に対して一定量だけ異なる位相の高周波信号が供給される場合、その位相差に応じてアンテナアレイ815bの主ローブ817は正面から傾いた方位を向く。この方法はビームフォーミング(Beam Forming)と呼ばれることがある。
各移相器816が付与する位相差を様々に異ならせて主ローブ817の方位を変化させることができる。この方法はビームステアリング(Beam Steering)と呼ばれることがある。送受信の状態が最も良くなる位相差を見つけることにより、通信の信頼性を高めることができる。なお、ここでは移相器816が付与する位相差が、隣り合うアンテナ素子8151の間では一定である例を説明したが、そのような例に限られない。また、直接波だけではなく、反射波が受信機に届く方位に電波が放射されるように、位相差が付与されてもよい。
送信機810Bでは、ヌルステアリング(Null Steering)と呼ばれる方法も利用できる。これは、位相差を調節することで、特定の方向に電波が放射されない状態を作る方法を指す。ヌルステアリングを行うことにより、電波を送信したくない他の受信機に向けて放射される電波を抑制することができる。これにより、混信を回避することができる。ミリ波またはテラヘルツ波を用いたデジタル通信は、非常に広い周波数帯域を利用できるが、それでも、可能な限り効率的に帯域幅を利用することが好ましい。ヌルステアリングを利用すれば、同一の帯域で複数の送受信が行えるため、帯域幅の利用効率を高めることができる。ビームフォーミング、ビームステアリング、およびヌルステアリング等の技術を用いて帯域の利用効率を高める方法は、SDMA(Spatial Division Multiple Access)と呼ばれることもある。
[通信システムの第3の例]
特定の周波数帯域における通信容量を増やす為に、MIMO(Multiple−Input and Multiple−Output)と呼ばれる方法を適用することもできる。MIMOにおいては、複数の送信アンテナおよび複数の受信アンテナが使用される。複数の送信アンテナの各々から電波が放射される。ある一例において、放射される電波には、それぞれ異なる信号を重畳させることができる。複数の受信アンテナの各々は、送信された複数の電波を何れも受信する。しかし、異なる受信アンテナは、異なる経路を通って到達する電波を受信するため、受信する電波の位相に差異が生じる。この差異を利用することにより、複数の電波に含まれていた複数の信号を受信機の側で分離することが可能である。
本開示に係る導波路装置およびアンテナ装置は、MIMOを利用する通信システムにおいても用いることができる。以下、そのような通信システムの例を説明する。
図75は、MIMO機能を実装した通信システム800Cの例を示すブロック図である。この通信システム800Cにおいて、送信機830は、符号化器832と、TX−MIMOプロセッサ833と、2つの送信アンテナ8351、8352とを備える。受信機840は、2つの受信アンテナ8451、8452と、RX−MIMOプロセッサ843と、復号化器842とを備える。なお、送信アンテナおよび受信アンテナのそれぞれの個数は、2つより多くてもよい。ここでは、説明を簡単にするため、各アンテナが2つの例を取り上げる。一般には、送信アンテナと受信アンテナの内の少ない方の個数に比例して、MIMO通信システムの通信容量は増大する。
データ信号源831から信号を受け取った送信機830は、符号化器832によって信号を送信のために符号化する。符号化された信号は、TX−MIMOプロセッサ833によって、2つの送信アンテナ8351、8352に分配される。
MIMO方式のある一例における処理方法においては、TX−MIMOプロセッサ833は、符号化された信号の列を、送信アンテナ8352の数と同じ数である2つに分割し、並列に送信アンテナ8351、8352に送る。送信アンテナ8351、8352は、分割された複数の信号列の情報を含む電波をそれぞれ放射する。送信アンテナがN個である場合は、信号列はN個に分割される。放射された電波は、2つの受信アンテナ8451、8452の両方で同時に受信される。すなわち、受信アンテナ8451、8452の各々で受信された電波には、送信時に分割された2つの信号が混ざって含まれている。この混ざった信号の分離は、RX−MIMOプロセッサ843によって行われる。
混ざった2つの信号は、例えば電波の位相差に着目すれば分離することができる。送信アンテナ8351から到達した電波を受信アンテナ8451、8452が受信した場合の2つの電波の位相差と、送信アンテナ8352から到達した電波を受信アンテナ8451、8452が受信した場合の2つの電波の位相差と異なる。すなわち、送受信の経路によって、受信アンテナ間での位相差は異なる。また、送信アンテナと受信アンテナの空間的な配置関係が変化しなければ、それらの位相差は不変である。そこで、2つの受信アンテナで受信された受信信号を、送受信経路によって定まる位相差だけずらして相関をとることにより、その送受信経路を通って受信された信号を抽出することができる。RX−MIMOプロセッサ843は、例えばこの方法により、受信信号から2つの信号列を分離し、分割される前の信号列を回復する。回復された信号列は、まだ符号化された状態にあるので、復号化器842に送られて、そこで元の信号に復元される。復元された信号は、データシンク841に送られる。
この例におけるMIMO通信システム800Cは、デジタル信号を送受信するが、アナログ信号を送受信するMIMO通信システムも実現可能である。その場合は、図75の構成に、図73を参照して説明した、アナログ/デジタルコンバータと、デジタル/アナログコンバータとが追加される。なお、異なる送信アンテナからの信号を見分けるために利用される情報は、位相差の情報に限られない。一般に、送信アンテナと受信アンテナとの組合せが異なると、受信された電波は、位相以外にも、散乱またはフェージング等の状況が異なり得る。これらは総称してCSI(Channel State Information) と呼ばれる。CSIは、MIMOを利用するシステムにおいて、異なる送受信経路を見分けるために利用される。
なお、複数の送信アンテナが、各々独立の信号を含んだ送信波を放射することは、必須の条件ではない。受信アンテナの側で分離できるのであれば、複数の信号を含んだ電波を、各送信アンテナが放射する構成でもよい。また、送信アンテナの側でビームフォーミングを行って、各送信アンテナからの電波の合成波として、単一の信号を含んだ送信波が受信アンテナの側で形成されるように構成することも可能である。この場合も、各送信アンテナは、複数の信号を含む電波を放射する構成となる。
この第3の例においても、第1および第2の例と同様、信号の符号化の方法として、CDM、FDM、TDM、OFDM等の種々の方法を用いることができる。
通信システムにおいて、信号を処理するための集積回路(信号処理回路または通信回路と称する)を搭載する回路基板は、本開示の実施形態における導波路装置およびアンテナ装置に積層して配置することができる。本開示の実施形態における導波路装置およびアンテナ装置は、板形状の導電部材が積層された構造を持つため、回路基板をそれらの上に積み重ねる配置にすることは容易である。このような配置にすることで、中空導波管などを用いた場合に比して、容積が小さい送信機および受信機を実現できる。
以上で説明した、通信システムの第1から第3の例において、送信機または受信機の構成要素である、アナログ/デジタルコンバータ、デジタル/アナログコンバータ、符号化器、復号化器、変調器、復調器、TX−MIMOプロセッサ、RX−MIMOプロセッサ等は、図73、74、75においては独立した1つの要素として表されているが、必ずしも独立している必要はない。例えば、これらの要素の全てを、1つの集積回路で実現してもよい。あるいは、一部の要素のみを纏めて、1つの集積回路で実現してもよい。いずれの場合も、本開示で説明した機能を実現している限り、本発明を実施しているといえる。
以上のように、本開示は、以下の項目に記載のアンテナアレイ、導波路装置、アンテナ装置、レーダ、レーダシステム、および通信システムを含む。
[項目1]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する導電部材を備え、
前記導電部材は、第1の方向に沿って並ぶ複数のスロットを有し、
前記導電部材の前記第1導電性表面は、前記複数のスロットにそれぞれ連通する複数のホーンを規定する形状を有し、
前記複数のスロットの各々のE面は、同一平面上または実質的に平行な複数の平面上にあり、
前記複数のスロットは、隣り合う第1のスロットおよび第2のスロットを含み、
前記複数のホーンは、前記第1のスロットに連通する第1のホーンおよび前記第2のスロットに連通する第2のホーンを含み、
前記第1のホーンのE面断面において、前記E面と前記第1のスロットの縁との2つの交点の一方から前記E面と前記第1のホーンの開口面の縁との2つの交点の一方までの前記第1のホーンの内壁面に沿った長さは、前記E面と前記第1のスロットの前記縁との交点の他方から前記E面と前記第1のホーンの前記開口面の縁との交点の他方までの前記内壁面に沿った長さよりも長く、
前記第2のホーンのE面断面において、前記E面と前記第2のスロットの縁との2つの交点の一方から前記E面と前記第2のホーンの開口面の縁との2つの交点の一方までの前記第2のホーンの内壁面に沿った長さは、前記E面と前記第2のスロットの前記縁との交点の他方から前記E面と前記第2のホーンの前記開口面の縁との交点の他方までの前記内壁面に沿った長さ以下であり、
前記第1のスロットの中心と前記第1のホーンの前記開口面の中心とを通る軸の方向は、前記第2のスロットの中心と前記第2のホーンの前記開口面の中心とを通る軸の方向とは異なる、
アンテナアレイ。
[項目2]
前記第1および第2のホーンの前記開口面の中心間の距離は、前記第1および第2のスロットの中心間距離よりも短い、項目1に記載のアンテナアレイ。
[項目3]
前記複数のホーンの各々は、前記ホーンの中心を通るE面に対して対称な形状を有する、項目1または2に記載のアンテナアレイ。
[項目4]
前記複数のスロットは、第3のスロットを含み、
前記複数のホーンは、前記第3のスロットに連通する第3のホーンを含み、
前記第1のホーンは、前記第1のスロットの中心を通り前記第1のスロットのE面および前記第1のホーンの前記開口面の両方に垂直な平面に対して非対称な形状を有し、
前記第2のホーンは、前記第2のスロットの中心を通り前記第2のスロットのE面および前記第2のホーンの前記開口面の両方に垂直な平面に対して非対称な形状を有し、
前記第3のホーンは、前記第3のホーンに連通する第3のスロットの中心を通り前記第3のスロットのE面および前記第3のホーンの開口面の両方に垂直な平面に対して対称な形状を有する、
項目1から3のいずれかに記載のアンテナアレイ。
[項目5]
前記第3のスロットは、前記第2のスロットに隣り合い、
前記複数のスロットは、前記第1のスロットに隣り合う第4のスロットと、前記第4のスロットに隣り合う第5のスロットと、前記第5のスロットに隣り合う第6のスロットと、を含み、
前記複数のホーンは、前記第4から第6のスロットにそれぞれ連通する第4から第6のホーンを含み、
前記第4から前記第6のホーンは、それぞれ、前記第1から第3のホーンを、前記第1のホーンと前記第2のホーンとの間の中点を通り前記E面に垂直な面について反転した形状を有する、
項目4に記載のアンテナアレイ。
[項目6]
前記アンテナアレイは、中心周波数f0の周波数帯域の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられ、
前記中心周波数f0の電磁波の自由空間波長をλ0とするとき、
前記第1のホーンの前記E面断面において、前記E面と前記第1のスロットの前記縁との前記交点の一方から前記E面と前記第1のホーンの前記開口面の前記縁との前記交点の一方までの前記第1のホーンの内壁面に沿った長さと、前記E面と前記第1のスロットの前記縁との前記交点の他方から前記E面と前記開口面の前記縁との前記交点の他方までの前記内壁面に沿った長さとの差は、λ0/32以上λ0/4以下であり、
前記第2のホーンの前記E面断面において、前記E面と前記第2のスロットの前記縁との前記交点の一方から前記E面と前記第2のホーンの前記開口面の前記縁との前記交点の一方までの前記第2のホーンの内壁面に沿った長さと、前記E面と前記第2のスロットの前記縁との前記交点の他方から前記E面と前記開口面の前記縁との前記交点の他方までの前記内壁面に沿った長さとの差は、λ0/32以上λ0/4以下である、
項目1から5のいずれかに記載のアンテナアレイ。
[項目7]
前記アンテナアレイは、中心周波数f0の周波数帯域の電磁波の送信および受信の少なくとも一方に用いられ、
前記中心周波数f0の電磁波の自由空間波長をλ0とするとき、
各ホーンの開口面の、E面に沿った幅は、λ0よりも小さい、
項目1から6のいずれかに記載のアンテナアレイ。
[項目8]
前記複数のホーンの少なくとも1つにおける前記E面と交差する方向に延びる少なくとも1つの内壁面は、前記開口面に垂直な方向から見たときに前記少なくとも1つのホーンに連通するスロットの中央部に向かって突出する突出部を有する、請求項1から7のいずれかに記載のアンテナアレイ。
[項目9]
前記導電部材の前記第1導電性表面は、前記複数のホーンによって構成される列の一端または両端に位置するホーンの前記開口面の縁に接続して拡がる平坦面を有する、項目1から8のいずれかに記載のアンテナアレイ。
[項目10]
前記導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、
をさらに備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記複数のスロットの各々は前記導波面に対向している、
項目1から9のいずれかに記載のアンテナアレイ。
[項目11]
中空導波管をさらに備え、
前記複数のスロットは、前記中空導波管に接続されている、
項目1から9のいずれかに記載のアンテナアレイ。
[項目12]
前記導電部材の少なくとも一部は、前記中空導波管の側面であり、
前記複数のスロットおよび前記複数のホーンは、前記中空導波管の前記側面に設けられている、項目11に記載のアンテナアレイ。
[項目13]
前記中空導波管は、幹部と、前記幹部から少なくとも1つの分岐部を介して分岐した複数の枝部を有し、
前記複数の枝部の末端が、前記複数のスロットにそれぞれ接続されている、
項目11に記載のアンテナアレイ。
[項目14]
各ホーンは、角錐形状を有する、項目1から13のいずれかに記載のアンテナアレイ。
[項目15]
各ホーンは、直方体形状または立方体形状の内部空洞を有するボックスホーンである、項目1から13のいずれかに記載のアンテナアレイ。
[項目16]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する導電部材を備え、
前記導電部材は、第1の方向に沿って並ぶ複数のスロットを有し、
前記導電部材の前記第1導電性表面は、前記複数のスロットにそれぞれ連通する複数のホーンを規定する形状を有し、
前記複数のスロットの各々のE面は、同一平面上または実質的に平行な複数の平面上にあり、
前記複数のホーンは、前記第1の方向に沿って並ぶ第1のホーン、第2のホーン、および第3のホーンを含み、
前記第1から第3のホーンにそれぞれ連通する第1から第3のスロットに電磁波が供給されたとき、
前記第1から第3のホーンからそれぞれ放射される3つの主ローブは互いに重なり、
前記3つの主ローブの中心軸の方位は互いに異なり、
前記3つの主ローブの前記中心軸の方位の差は、前記3つの主ローブの各々の幅よりも小さい、
アンテナアレイ。
[項目17]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第2導電部材は、
前記導波部材の一端に隣接する位置に配置された、前記第4導電性表面から前記導波路に連通するポートと、
前記ポートを介して前記導波部材の前記一端に対向する位置に設けられたチョーク構造と、を有し、
前記チョーク構造は、前記ポートに隣接する位置に設けられた導電性のリッジと、前記リッジの、前記ポートから遠い側の一端に対して間隙を空けて前記第3導電性表面上に配置された一本以上の導電性のロッドと、を含み、
前記導波路を伝搬する電磁波の自由空間における中心波長をλ0とするとき、
前記導波路に沿った方向における前記リッジの長さは、λ0/16以上λ0/4未満である、
導波路装置。
[項目18]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第1導電部材は、前記導波部材の一端に隣接する前記導波面の部位に対向する位置に配置された、前記第1導電性表面から前記第2導電性表面に連通するポートを有し、
前記第2導電部材は、前記導波部材の前記一端を含む領域にチョーク構造を有し、
前記チョーク構造は、前記ポートの開口を前記導波面に投影した際の縁から前記導波部材の前記一端の縁までの範囲の導波部材端部と、前記導波部材の前記一端に対して間隙を空けて前記第3導電性表面上に配置された一本以上の導電性のロッドと、を含み、
前記導波路を伝搬する電磁波の自由空間における中心波長をλ0とするとき、
前記導波路に沿った方向における前記導波部材端部の長さは、λ0/16以上λ0/4未満である、
導波路装置。
[項目19]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第2導電部材は、
前記導波部材の一端に隣接する位置に配置された、前記第4導電性表面から前記導波路に連通するポートと、
前記ポートを介して前記導波部材の前記一端に対向する位置に設けられたチョーク構造と、を有し、
前記チョーク構造は、前記ポートに隣接する位置に設けられた導電性のリッジと、前記リッジの、前記ポートから遠い側の一端に対して間隙を空けて前記第3導電性表面上に配置された一本以上の導電性のロッドと、を含み、
前記リッジは、前記ポートに隣接する第1部分と、前記第1部分に隣接する第2部分とを有し、
前記第1部分と前記第2導電性表面との距離は、前記第2部分と前記第2導電性表面との距離よりも長い、導波路装置。
[項目20]
前記導波部材は前記ポートに隣接する部位に間隙拡大部を有し、
前記間隙拡大部と前記第2導電性表面との距離は、前記ポートとは逆側において前記間隙拡大部に隣接する前記導波部材の部位と前記第2導電性表面との距離よりも長い、
項目19に記載の導波路装置。
[項目21]
前記導波部材は、前記間隙拡大部において傾斜面を有する、項目20に記載の導波路装置。
[項目22]
前記チョーク構造における前記リッジは、前記第1部分において傾斜面を有する、
項目19から21のいずれかに記載の導波路装置。
[項目23]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第1導電部材は、前記導波部材の一端に隣接する前記導波面の部位に対向する位置に配置された、前記第1導電性表面から前記第2導電性表面に連通するポートを有し、
前記第2導電部材は、前記導波部材の前記一端を含む領域にチョーク構造を有し、
前記チョーク構造は、前記ポートの開口を前記導波面に投影した際の縁から前記導波部材の前記一端の縁までの範囲の導波部材端部と、前記導波部材の前記一端に対して間隙を空けて前記第3導電性表面上に配置された一本以上の導電性のロッドと、を含み、
前記第1導電部材の前記第2導電性表面は、前記導波部材端部が対向する部位において前記ポートに隣接する第1部分と、前記第1部分に隣接する第2部分とを有し、
前記第1部分と前記導波面との距離は、前記第2部分と前記導波面との距離よりも長い、
導波路装置。
[項目24]
前記第1導電部材の前記第2導電性表面は、前記チョーク構造から遠い側において前記ポートに隣接する部位に間隙拡大部を有し、
前記間隙拡大部と前記導波面との距離は、前記ポートとは逆側において前記間隙拡大部に隣接する前記第2導電性表面の部位と前記導波面との距離よりも長い、
項目23に記載の導波路装置。
[項目25]
前記第1導電部材は、前記間隙拡大部において傾斜面を有する、項目24に記載の導波路装置。
[項目26]
前記導波部材は、前記一端において傾斜面を有する、項目23から25のいずれかに記載の導波路装置。
[項目27]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第2導電部材は、前記第4導電性表面から前記導波路に連通するポートを有し、
前記導波部材は、前記ポート上で第1部分と第2部分とに空間的に分離しており、
前記ポートの内壁の一部は、前記導波部材の前記第1部分の一端に接続し、
前記ポートの前記内壁の他の一部は、前記導波部材の前記第2部分の一端に接続し、
前記導波部材の前記第1部分の前記一端および前記第2部分の前記一端における対向する2つの端面で規定される導波部材間隙は、その大きさが、前記導波部材の前記第1部分に接続する前記ポートの前記内壁の部分と、前記導波部材の前記第2部分に接続する前記ポートの前記内壁の他の部分との間隙の大きさよりも小さい狭幅部を含む、導波路装置。
[項目28]
前記ポートの中心軸に直交する前記ポートの断面は、H型形状を有している、項目27に記載の導波路装置。
[項目29]
前記狭幅部は、前記導波部材の前記導波面にまで達する、項目27または28に記載の導波路装置。
[項目30]
前記狭幅部は、前記ポートの内部にまで達する、項目27から29のいずれかに記載の導波路装置。
[項目31]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有し、複数のスロットを備える第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、
を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第2導電部材は、前記第4導電性表面から前記導波路に連通するポートを有し、
前記第2導電性表面において、前記複数のスロットのうちの隣り合う第1のスロットおよび第2のスロットは、前記ポートの中心に対して対称な位置に配置され、
前記導波部材は、前記ポートに隣接する一対のインピーダンス整合構造を有し、前記一対のインピーダンス整合構造のそれぞれは、前記ポートに隣接する平坦部と、前記平坦部に隣接する凹部とを含み、かつ、前記第1および第2のスロットの一方に部分的に対向している、アレーアンテナ装置。
[項目32]
前記導波路を伝搬する信号波が真空中を伝搬するときの中心波長をλ0とするとき、前記平坦部の前記導波部材が延びる方向における長さはλ0/4よりも長く、前記凹部の前記導波部材が延びる方向における長さはλ0/4よりも短い、項目31に記載のアレーアンテナ装置。
[項目33]
前記第2導電性表面における前記第1のスロットの中心から前記第2のスロットの中心までの距離は、2λ0よりも短く、λ0よりも長い、項目32に記載のアレーアンテナ装置。
[項目34]
前記一対のインピーダンス整合構造のそれぞれが有する前記凹部の少なくとも一部は、前記第1および第2のスロットの一方に対向している、項目31から33のいずれかに記載のアレーアンテナ装置。
[項目35]
前記複数のスロットは、前記第1のスロットに隣り合う第3のスロットと、前記第2のスロットに隣り合う第4のスロットとを含み、前記第3および第4のスロットは、前記第2導電性表面において前記ポートの前記中心に対して対称な位置に配置されている、項目31から34のいずれかに記載のアレーアンテナ装置。
[項目36]
前記第2導電性表面から前記導波面までの距離、および前記導波面の幅の少なくとも一方は、前記導波路に沿って変動しており、
前記第2導電性表面において、前記第1のスロットの中心から前記第3のスロットの中心までの距離は、前記第1のスロットの中心から前記第2のスロットの中心までの距離よりも短い、項目35に記載のアレーアンテナ装置。
[項目37]
前記第2導電性表面において、前記第1のスロットの中心から前記第3のスロットの中心までの距離は、前記導波路を伝搬する信号波の前記導波路内における波長に等しい、項目35または36に記載のアレーアンテナ装置。
[項目38]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、
を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第2導電部材は、前記第4導電性表面から前記導波路に連通するポートを有し、
前記導波部材は、前記ポート上で第1部分と第2部分とに空間的に分離しており、
前記ポートの内壁の一部は、前記導波部材の前記第1部分の一端に接続し、
前記ポートの前記内壁の他の一部は、前記導波部材の前記第2部分の一端に接続し、
前記導波部材の前記第1部分の前記一端および前記第2部分の前記一端における対向する2つの端面の間の距離は、前記導波部材の前記第1部分に接続する前記ポートの前記内壁の前記部分と、前記導波部材の前記第2部分に接続する前記ポートの前記内壁の前記他の部分との間の距離とは異なっている、
アレーアンテナ装置。
[項目39]
前記ポートの中心軸に直交する前記ポートの断面は、H型形状を有している、項目38に記載のアレーアンテナ装置。
[項目40]
前記導波部材の前記第1部分および前記第2部分は、それぞれ、前記ポートに隣接するインピーダンス整合構造を有し、前記インピーダンス整合構造は、前記ポートに隣接する平坦部と、前記平坦部に隣接する凹部とを含む、項目38または39に記載のアレーアンテナ装置。
[項目41]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有し、複数のスロットを備える第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、
を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第2導電部材は、前記第4導電性表面から前記導波路に連通するポートを有し、
前記複数のスロットは前記導波面に対向し、
前記複数のスロットのうちの隣り合う第1のスロットおよび第2のスロットは、前記第2導電性表面において、前記ポートの中心に対して対称な位置に配置され、
前記第1導電部材の前記第1導電性表面は、それぞれが各スロットに連通する複数のホーンを規定する形状を有し、
前記複数のホーンのうちの隣り合う2個のホーンの開口中心間の距離は、前記第2導電性表面における前記第1のスロットの中心から前記第2のスロットの中心までの距離よりも短い、アレーアンテナ装置。
[項目42]
前記複数のスロットは、前記第1のスロットに隣り合う第3のスロットと、前記第2のスロットに隣り合う第4のスロットとを含み、前記第3および第4のスロットは、前記第2導電性表面において、前記ポートの中心に対して対称な位置に配置されている、項目41に記載のアレーアンテナ装置。
[項目43]
前記複数のホーンのそれぞれは、連通するスロットの中心を通って前記第2導電性表面および前記導波路の両方に直交する平面に関して非対称な形状を有している、項目41または42に記載のアレーアンテナ装置。
[項目44]
前記第2導電性表面において、前記第1のスロットの中心から前記第3のスロットの中心までの距離は、前記導波路を伝搬する信号波の前記導波路内における波長に等しい、項目42に記載のアレーアンテナ装置。
[項目45]
前記第2導電性表面から前記導波面までの距離、および前記導波面の幅の少なくとも一方は、前記導波路に沿って変動している、項目41から44のいずれかに記載のアレーアンテナ装置。
[項目46]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、
を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第2導電部材は、
前記導波部材の一端に隣接する位置に配置された、前記第4導電性表面から前記導波路に連通するポートと、
前記ポートを介して前記導波部材の前記一端に対向する位置に設けられたチョーク構造と、
を有し、
前記チョーク構造は、前記ポートに隣接する第1部分と、前記第1部分に隣接する第2部分とを有し、
前記第1部分と前記第2導電性表面との距離は、前記第2部分と前記第2導電性表面との距離よりも長い、アレーアンテナ装置。
[項目47]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有し、2N個(Nは2以上の整数)のポートを備える第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向する導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、
を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定され、
前記導波部材は、複数のT型分岐部の組み合わせによって1個の幹部から2N個の終端導波部に分岐し、2N個の前記ポートは、それぞれ、2N個の前記終端導波部に対向しており、
2N個の前記終端導波部の少なくとも一つの形状は、他のいずれかの形状とは異なっている、アレーアンテナ装置。
[項目48]
2N個の前記終端導波部のうちで中央部に位置する少なくとも2個の終端導波部の形状は、前記2個の終端導波部の外側に位置する少なくとも2個の終端導波部の形状とは異なっている、項目47に記載のアレーアンテナ装置。
[項目49]
N≧3が成立し、
2N個の前記終端導波部のうち、内側に位置する少なくとも4個の終端導波部の形状は、前記4個の終端導波部の外側に位置する少なくとも4個の終端導波部の形状とは異なっている、項目48に記載のアレーアンテナ装置。
[項目50]
N=3が成立し、
前記複数のT型分岐部は、前記導波部材の前記幹部を2本の第1梢部に分岐する第1分岐部と、前記第1梢部のそれぞれを2本の第2梢部に分岐する2個の第2分岐部と、前記第2梢部のそれぞれを2本の第3梢部に分岐する4個の第3分岐部とを含み、8個の前記第3梢部が前記終端導波部として機能する、項目47から49のいずれかに記載のアレーアンテナ装置。
[項目51]
8個の前記終端導波部のうちで中央部に位置する4個の終端導波部の形状は、前記4個の終端導波部の外側に位置する4個の終端導波部の形状とは異なっている、項目50に記載のアレーアンテナ装置。
[項目52]
8個の前記終端導波部は、それぞれ、前記第2梢部に接続される側に屈曲部を有しており、
中央部に位置する前記4個の終端導波部の前記屈曲部は凹部を有している、項目51に記載のアレーアンテナ装置。
[項目53]
中央部に位置する前記4個の終端導波部の外側に位置する前記4個の終端導波部の前記屈曲部は凸部を有している、項目51または52に記載のアレーアンテナ装置。
[項目54]
前記第2導電部材は、背面側に第4導電性表面を有し、前記導波部材の前記幹部の一端に隣接する位置に、前記第4導電性表面から前記導波路に連通するポートを有している、項目57から53のいずれかに記載のアレーアンテナ装置。
[項目55]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向する導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第2導電性表面および前記第3導電性表面の少なくとも一方にある人工磁気導体と、
を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記導波部材は、複数のT型分岐部の組み合わせによって1個の幹部から2N個(Nは2以上の整数)の終端導波部に分岐しており、
前記導波部材は、前記複数のT型分岐部に隣接する前記幹部側の部分に、前記導波路のキャパシタンスを増加させる複数のインピーダンス変成部をそれぞれ有し、
前記複数のインピーダンス変成部のうち、前記終端導波部から相対的に遠い第1インピーダンス変成部の前記導波路に沿った方向の長さは、前記終端導波部に相対的に近い第2インピーダンス変成部の前記導波路に沿った方向の長さよりも短い、アレーアンテナ装置。
[項目56]
N=3が成立し、
前記複数のT型分岐部は、前記導波部材の前記幹部を2本の第1梢部に分岐する第1分岐部と、前記第1梢部のそれぞれを2本の第2梢部に分岐する2個の第2分岐部と、前記第2梢部のそれぞれを2本の第3梢部に分岐する4個の第3分岐部とを含み、8個の前記第3梢部が前記終端導波部として機能する、項目55に記載のアレーアンテナ装置。
[項目57]
前記第1インピーダンス変成部は、前記第1梢部に位置し、前記第2インピーダンス変成部は、前記第2梢部に位置する、項目56に記載のアレーアンテナ装置。
[項目58]
前記第1インピーダンス変成部および前記第2インピーダンス変成部の各々は、
前記複数のT型分岐部の1つに隣接し、一定の高さまたは幅を有する第1変成部と、
前記複数のT型分岐部の前記1つとは反対の側で前記第1変成部に隣接し、一定の高さまたは幅を有する第2変成部と、
を含み、
前記第1変成部における前記導波面と前記第2導電性表面との距離は、前記第2変成部における前記導波面と前記第2導電性表面との距離よりも小さい、または、前記第1変成部における前記導波面の幅は、前記第2変成部における前記導波面の幅よりも大きい、
項目55から57のいずれかに記載のアレーアンテナ装置。
[項目59]
前記導波路に沿った方向に関して、前記第1インピーダンス変成部における前記第1変成部は、前記第2インピーダンス変成部における前記第1変成部よりも短い、
項目58に記載のアレーアンテナ装置。
[項目60]
前記導波路に沿った方向に関して、前記第1インピーダンス変成部における前記第1変成部は、前記第1インピーダンス変成部における前記第2変成部よりも短く、
前記導波路に沿った方向に関して、前記第2インピーダンス変成部における前記第1変成部は、前記第2インピーダンス変成部における前記第2変成部よりも長い、
項目58または59に記載のアレーアンテナ装置。
[項目61]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有する第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面に対向する導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面、および背面側の第4導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第3導電性表面上の複数の導電性ロッドを有する人工磁気導体と、
を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第2導電部材は、前記導波部材の一端に隣接する位置に配置された、前記第4導電性表面から前記導波路に連通する方形導波管と、
前記方形導波管を介して前記導波部材の前記一端に対向する位置に設けられたチョーク構造と、
を有し、
前記複数の導電性ロッドは、前記導波部材に沿って前記導波部材の両側に配列された少なくとも2列の導電性ロッドを含んでおり、
前記第3導電性表面の法線方向から見たとき、
前記方形導波管は、一対の長辺と、前記長辺に直交する一対の短辺とによって規定される長方形の形状を有し、前記一対の長辺の一方が前記導波部材の前記一端に接しており、
前記方形導波管の前記長辺の長さは、前記少なくとも2列の導電性ロッドの最短中心間距離の2倍よりも長く、前記最短中心間距離の3.5倍よりも短い、アレーアンテナ装置。
[項目62]
前記方形導波管の前記短辺の長さは、前記最短中心間距離の1.5倍よりも短い、項目61に記載のアレーアンテナ装置。
[項目63]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有し、複数のスロットを備える第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面および前記複数のスロットの少なくとも1つに対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第3導電性表面にある人工磁気導体であって、前記第3導電性表面上の複数の導電性ロッドを有する人工磁気導体と、
を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第2導電性表面から前記導波面までの距離、および前記導波面の幅の少なくとも一方は、前記導波路に沿って変動しており、
前記複数の導電性ロッドのうち、前記導波部材に隣接する複数の第1導電性ロッドは、前記導波路に沿った方向に第1周期で周期的に配列されており、
前記複数の導電性ロッドのうち、前記導波部材に隣接しない複数の第2導電性ロッドは、前記導波路に沿った方向に、前記第1周期よりも長い第2周期で周期的に配列されている、
アレーアンテナ装置。
[項目64]
前記導波路に沿った方向に関し、各第1導電性ロッドの幅は各第2導電性ロッドの幅よりも短い、項目63に記載のアレーアンテナ装置。
[項目65]
前記導波路に沿った方向に関し、隣接する2つの第1導電性ロッドの間隔と、隣接する2つの第2導電性ロッドの間隔とは等しい、項目64に記載のアレーアンテナ装置。
[項目66]
前記導波路を伝搬する信号波が真空中を伝搬したときの前記信号波の中心波長をλ0とするとき、
前記第2導電部材に平行な平面上における、前記導波路に沿った方向と垂直な方向に関し、前記複数の第1導電性ロッドの各々の幅はλ0/4未満である、項目63から65のいずれかに記載のアレーアンテナ装置。
[項目67]
前記複数の第2導電性ロッドに隣接する他の導波部材をさらに備え、
前記複数の第1導電性ロッドの各々と前記導波部材との距離は、前記複数の第2導電性ロッドの各々と前記他の導波部材との距離よりも長い、項目66に記載のアレーアンテナ装置。
[項目68]
前記複数の第1導電性ロッドの各々、および前記複数の第2導電性ロッドの各々は角柱形状で形成されており、
前記第3導電性表面の法線方向から見たとき、前記複数の第1導電性ロッドの各々は前記導波路に沿った方向の辺の方が他の辺よりも長い非正方形であり、前記複数の第2導電性ロッドの各々は正方形である、項目63に記載のアレーアンテナ装置。
[項目69]
正面側の第1導電性表面および背面側の第2導電性表面を有し、複数のスロットを備える第1導電部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記第2導電性表面および前記複数のスロットの少なくとも1つに対向するストライプ形状の導電性の導波面を有し、前記第2導電性表面に沿って延びる導波部材と、
前記第1導電部材の背面側に位置し、前記導波部材を支持し、前記第2導電性表面に対向する正面側の第3導電性表面を有する第2導電部材と、
前記導波部材の両側に位置し、前記第3導電性表面にある人工磁気導体であって、前記第3導電性表面上の複数の導電性ロッドを有する人工磁気導体と、
を備え、
前記第2導電性表面、前記導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記導波面との間隙に導波路が規定されており、
前記第2導電部材に平行な平面内において、前記導波路に沿って延びる方向を第1の方向とし、前記第1の方向に垂直な方向を第2の方向としたとき、
前記複数の導電性ロッドのうちの前記導波部材に隣接するロッド群の各々に関し、前記第1の方向の寸法は、前記第2の方向の寸法よりも大きい、
アレーアンテナ装置。
[項目70]
前記導波部材の少なくとも一部は、前記第1の方向に沿って設けられた、前記導波部材に隣接する前記ロッド群を含む複数列のロッド群に囲まれており、前記複数列のロッド群を構成する導電性ロッドの寸法は同じである、項目69に記載のアレーアンテナ装置。
[項目71]
前記第2導電部材は、前記導波部材とは異なる他の導波部材をさらに備え、
前記第2導電性表面、前記他の導波部材の導波面、および前記人工磁気導体により、前記第2導電性表面と前記他の導波部材の導波面との間隙には他の導波路が規定されており、
前記複数の導電性ロッドは、前記導波部材に隣接する第1ロッド群と、前記他の導波部材に隣接して配置された第2ロッド群とを含み、
前記他の導波部材の少なくとも一部は、前記他の導波路に沿って設けられた、前記第2ロッド群を含む複数列のロッド群に囲まれており、
前記第1ロッド群に含まれる、隣接する2つの導電性ロッドの間隔と、前記第2ロッド群に含まれる、隣接する2つの導電性ロッドの間隔とは等しい、項目70に記載のアレーアンテナ装置。
[項目72]
項目1から30のいずれかに記載の導波路装置と、
前記導波路装置に接続された少なくとも1つのアンテナ素子と、
を備えるアンテナ装置。
[項目73]
項目1から16のいずれかに記載のアンテナアレイと、
前記アンテナアレイに接続されたマイクロ波集積回路と、
を備えるレーダ。
[項目74]
項目72に記載のアンテナ装置と、
前記アンテナ装置に接続されたマイクロ波集積回路と、
を備えるレーダ。
[項目75]
項目31から71のいずれかに記載のアレーアンテナ装置と、
前記アレーアンテナ装置に接続されたマイクロ波集積回路と、
を備えるレーダ。
[項目76]
項目73から75のいずれかに記載のレーダと、
前記レーダの前記マイクロ波集積回路に接続された信号処理回路と、
を備えるレーダシステム。
[項目77]
項目1から16のいずれかに記載のアンテナアレイと、
前記アンテナアレイに接続された通信回路と、
を備える無線通信システム。
[項目78]
項目72に記載のアンテナ装置と、
前記アンテナ装置に接続された通信回路と、
を備える無線通信システム。
[項目79]
項目31から71のいずれかに記載のアレーアンテナ装置と、
前記アレーアンテナ装置に接続された通信回路と、
を備える無線通信システム。
例示的な実施形態について、本発明を説明したが、開示された発明が多様な態様に改変することができ、上で詳述したものとは異なる多くの実施形態が想定されることは、当業者に明らかであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の本質およびその範囲に含まれる全ての改変を含むことを意図している。
本願は、2016年4月5日付で出願された日本国特許出願第2016−075684号に基づいている。その開示全体を本願において援用する。