JP2019173118A - アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

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健史 永井
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Abstract

【課題】本発明の目的は、特に自動車ボディシートのより難しい成形加工を可能にする優れた成形性と、塗装焼付処理後の高強度化の両立を実現できるアルミニウム合金板等を提供する。【解決手段】本発明の成形加工用アルミニウム合金板は、Mg:0.3〜1.5質量%およびSi:0.3〜2.0質量%を含む成分組成を有するアルミニウム合金板であって、球頭張出試験よる成形高さが18mm以上であり、前記アルミニウム合金版を塗装焼付処理に相当する熱処を施した前記アルミニウム合金板から採取した薄片試料の(001)面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したとき、析出物のうち、最大寸法が20nm以下である特定析出物は、観察視野面積に存在する個数密度が300〜500個/μm2の範囲である。【選択図】なし

Description

本発明は、例えば自動車ボディシートのような自動車部品に好適に用いられるアルミニウム合金板、特にAl-Mg-Si系もしくはAl-Mg-Si-Cu系のアルミニウム合金板およびその製造方法に関する。
近年、地球環境などへの配慮から、自動車のボディシートには、軽量化に貢献できるアルミニウム合金板を使用することが進められている。自動車用ボディシートは、プレス加工や、アウターパネルとインナーパネルを接合するヘミング加工等を施して使用するところから、成形加工性が優れていること、また高強度を有すること、特に塗装焼付を施すことから、塗装焼付後に高強度(特に高耐力)が得られることが要求される。
このような自動車用ボディシート向けのアルミニウム合金としては、時効性を有するJIS6000番系のアルミニウム合金、すなわちAl-Mg-Si系合金が主として使用される。このAl-Mg-Si系合金は、塗装焼付前の成形加工時には比較的強度が低く、成形性に優れており、一方、塗装焼付時の加熱によって時効し、強度が上昇して高強度化が図れるという利点を有する。
例えば、特許文献1には、重量%で、Mg:0.2〜1.0%、Si:0.5〜1.6%をMg/Siが1.2以下の割合で含有し、さらにFe:0.3%以下、Mn:0.3%以下、Cr:0.3%以下のうちから少なくとも1種以上を含有し、かつ必要に応じてCu:0.05〜1.2%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなり、結晶粒界上の析出物の径を粒界に沿って測定したときの大きさ(粒界析出物サイズ)が2.0μm以下であり、かつ粒界析出物サイズが0.5μm以上の析出物の結晶粒界における数密度(粒界析出密度)が0.3/μm2以下である、優れた成形性及び焼き付け硬化性を有するAl-Mg-Si系合金板が開示されている。
特開平11-350058号公報
近年では、デザイン性の観点から、自動車ボディシートのより難しい成形加工を可能にして、自動車ボディシートにおけるひずみのない曲面構成やキャラクターラインを実現できるぐらいに優れた成形性を有するとともに、塗装焼付処理後の強度も十分に高めることができるアルミニウム合金板を開発することが強く要求されようになってきた。
しかしながら、特許文献1に記載されているような従来のアルミニウム合金板では、上述したような厳しい要求レベルの成形性や塗装焼付処理後の高強度化の両立を実現することができない。
さらにパネルに局所的な力を加えた時に、くぼみが発生し、力を除去してもそのくぼみが残留してしまう場合がある。そのくぼみをデントと呼んでいる。実際の車両では、ドアやボンネットに使われる外板を指や手のひらで強く押した場合や、走行中に飛び石が当たった時等に発生する。くぼみは外観品質に関わり、くぼみの発生しにくい材料が求めれる。本発明者は特定析出物とデント性との関係に着目した。
本発明の目的は、上記の問題を解決するためになされたものであって、優れた成形性と、塗装焼付処理後の高強度化の双方を高い要求レベルで実現することができるアルミニウム合金板、特にAl-Mg-Si系もしくはAl-Mg-Si-Cu系のアルミニウム合金板およびその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するべく、本発明者らが実験・検討を重ねた結果、Al-Mg-Si系もしくAl-Mg-Si-Cu系合金の成分組成、塗装焼付処理後におけるアルミニウム合金組織中に存在する特定析出物の個数密度および製造条件を適正に制御することによって、特に自動車ボディシートのより難しい成形加工を実現できる程度の優れた成形性と、塗装焼付処理後の高強度化の両立を実現することができるアルミニウム合金板を提供できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
[1]Mg:0.3〜1.5質量%およびSi:0.3〜2.0質量%を含む成分組成を有するアルミニウム合金板であって、球頭張出試験よる成形高さが18mm以上であり、前記アルミニウム合金版を塗装焼付処理に相当する熱処理を施した前記アルミニウム合金板から採取した薄片試料の(001)面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したとき、析出物のうち、最大寸法が20nm以下である特定析出物は、観察視野面積に存在する個数密度が300〜500個/μm2の範囲であることを特徴とするアルミニウム合金板。
[2]前記成分組成は、Cu:0.15〜0.8質量%をさらに含む、上記[1]に記載のアルミニウム合金板。
[3]前記成分組成は、Fe:0.1〜0.5質量%およびMn:0.05〜0.3質量%の少なくとも1種をさらに含む、上記[1]または[2]に記載のアルミニウム合金板。
[4]前記成分組成は、Cr:0.1質量%未満、Zn:0.1質量%未満、Ti:0.1質量%未満およびB:0.1質量%未満の群から選択される少なくとも1種の成分をさらに含む、上記[1]、[2]または[3]に記載のアルミニウム合金板。
[5]上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板を製造する方法において、480℃以上の溶体化温度まで加熱し、もしくは前記溶体化温度まで加熱して300秒以内にわたって保持する溶体化処理を行い、溶体化処理後、前記溶体化温度から100℃までの温度域は90秒以内で冷却する第1冷却処理と、100℃から60℃までの温度域を300秒以上600秒以下で冷却する第2冷却処理とを行い、次いで、60℃から35℃までの温度域で2時間以上保持することを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
本発明によれば、Mg:0.3〜1.5質量%およびSi:0.3〜2.0質量%を含む成分組成を有するアルミニウム合金板であって、球頭張出試験よる成形高さが18mm以上であり、前記アルミニウム合金版を塗装焼付処理に相当する熱処を施した前記アルミニウム合金板から採取した薄片試料の(001)面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したとき、析出物のうち、最大寸法が20nm以下である特定析出物は、観察視野面積に存在する個数密度が300〜500個/μm2の範囲であることによって、特に自動車ボディシートのより難しい成形加工を可能にする優れた成形性と、塗装焼付処理後の高強度化の両立を実現することができるアルミニウム合金板を提供することが可能になった。
次に、本発明の実施形態について具体的に説明する。
本発明の実施形態のアルミニウム合金板は、Mg:0.3〜1.5質量%およびSi:0.3〜2.0質量%を含む成分組成を有するアルミニウム合金板であって、球頭張出試験よる成形高さが18mm以上であり、前記アルミニウム合金版を塗装焼付処理に相当する熱処を施した前記アルミニウム合金板から採取した薄片試料の(001)面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したとき、析出物のうち、最大寸法が20nm以下である特定析出物は、観察視野面積に存在する個数密度が300〜500個/μm2の範囲であることを特徴とするアルミニウム合金板である。
<アルミニウム合金板>
(1)成分組成
まず、本実施形態のアルミニウム合金板の成分組成を限定した理由について説明する。なお、以下で示す成分元素の含有量を表す「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味する。
[Mg:0.3〜1.5%]
Mgは、本発明が対象としているアルミニウム合金板の成分組成の基本となる成分元素であって、Siと協働して強度を上昇させる作用を有する。しかしながら、Mg含有量が0.3%未満では、塗装焼付後の強度の上昇が十分に得られず、一方、Mg含有量が1.5%を超えれば、冷間圧延時にせん断帯が形成されやすくなり、圧延時の割れの原因となる。このため、Mg含有量は0.3〜1.5%の範囲とした。
[Si:0.3〜2.0%]
Siも、Mgと同様、本発明が対象としているアルミニウム合金板の成分組成の基本となる成分元素であって、Siと協働して強度を上昇させる作用を有する。しかしながら、Si含有量が0.3%未満では、塗装焼付後の強度の上昇が十分に得られず、一方、Si含有量が2.0%を超えると、粗大な化合物を形成し、延性を劣化させる。このため、Si含有量は0.3〜2.0%の範囲とした。
本発明のアルミニウム合金板の成分組成は、上記MgおよびSiを基本含有成分とする。
なお、前記成分組成は、必要に応じて任意の含有成分として、Cu:0.15〜0.8%を含んでいても、また、Fe:0.1〜0.5%およびMn:0.05〜0.3%の少なくとも1種を含んでいても、さらに、Cr:0.1%未満、Zn:0.1%未満、Ti:0.1%未満およびB:0.1%未満の群から選択される少なくとも1種の成分を含んでいてもよい。
[Cu:0.15〜0.8%]
Cu:Cuは固溶強化などにより強度を上昇させる作用を有する成分元素である。しかしながら、Cu含有量が0.15%よりも少ないとその作用が十分に得られない傾向があり、また、Cu含有量を0.85%よりも多くすることは、その作用のさらなる向上が期待できなくなるだけではなく、耐食性なども劣化させる傾向がある。そのため、Cu含有量は0.15〜0.8%の範囲にすることが好ましい。
[Fe:0.1〜0.5%]
Feは、強度を上昇させるとともに結晶粒を微細化させる作用を有する成分元素である。しかしながら、Fe含有量が0.1%よりも少ないとその作用が十分に得られなくなる傾向があり、一方、Fe含有量が0.5%よりも多すぎると成形性が低下する傾向がある。そのため、Fe含有量は0.1〜0.5%の範囲にすることが好ましい。
[Mn:0.05〜0.3%]
Mnは、鋳塊および板の結晶粒を微細化して強度を上昇させる作用を有する成分元素である。しかしながら、Mn含有量が0.05%よりも少ないとその作用が十分に得られなくなる傾向があり、一方、Mn含有量が0.3%よりも多すぎると、粗大な化合物を形成しやすくなり、衝撃吸収性等を劣化させる傾向がある。そのため、Mn含有量は0.05〜0.3%の範囲にすることが好ましい。
[Cr:0.1%未満]
Crは、結晶粒を微細化する作用を有する成分元素である。しかしながら、Cr含有量が0.1%以上だと、粗大な化合物が生成されやすくなり、成形性に悪影響を及ぼす恐れがある。このため、Cr含有量は0.1%未満の範囲にすることが好ましい。
[Zn:0.1%未満]
Znは、鋳造性を改善する作用を有する成分元素である。しかしながら、Zn含有量が0.1%以上だと、成形性および耐食性を低下させる傾向がある。このため、Zn含有量は、0.1%未満の範囲にすることが好ましい。
[Ti、B:ともに0.1%未満]
TiおよびBは、ともにアルミニウム合金鋳塊の結晶粒を微細化する作用を有する成分元素である。しかしながら、TiおよびBの含有量は、ともに0.1%以上だと、粗大な化合物を形成しやすくなり、機械的性質を劣化させる傾向がある。このため、TiおよびBの含有量は、ともに0.1%未満の範囲にすることが好ましい。
[残部:Alおよび不可避不純物]
上述した成分元素以外の残部は、Alおよび不可避不純物である。不可避的不純物としては、V、Na、Caなどが挙げられ、各成分量が0.1%以下でかつ合計成分量が0.2%以下とし、かかる範囲内の不可避的不純物の含有量であれば、本発明の効果が損なわれることはない。
(2)アルミニウム合金組織(塗装焼付処理相当の熱処理後)
本発明のアルミニウム合金板は、塗装焼付処理に相当する熱処理を施した前記アルミニウム合金板から採取した薄片試料の(001)面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したとき、析出物のうち、最大寸法が20nm以下である特定析出物は、観察視野面積に存在する個数密度が300〜500個/μm2の範囲であることが必要である。
ここでいう「特定析出物」は、塗装焼付処理に相当する熱処理に伴って生成するMgとSiを含む金属間化合物であり、塗装焼付後の高強度化に寄与するものである。そして、前記特定析出物は、前記観察視野面積に存在する個数密度が300個/μm2未満である場合だと、塗装焼付後の強度を満足レベルまで上昇させることができず、また、500個/μm2超えである場合だと、塗装焼付後の強度を満足レベルまで上昇させることはできるが、前記熱処理前に行うプレス成形等の成形加工、特に自動車ボディシートのより難しい成形加工を可能にするほどの優れた成形性は得ることができず、いずれの場合も、理想的な組織ではない。このため、本発明では、塗装焼付処理相当の熱処理を行った後のアルミニウム合金組織において、前記観察視野面積に存在する前記特定析出物の個数密度を、300〜500個/μm2の範囲にすることとした。
また、前記特定析出物以外の析出物、すなわち、最大寸法が20nmよりも大きい析出物については、均質化処理等の熱処理工程で析出した析出物であって、塗装焼付後の強度の上昇には影響しないので、本発明では特に着目していない。さらに、前記特定析出物が存在する観察視野を薄片試料の(001)面とした理由は、MgとSiを含む金属間化合物の成長方向が[100]方向であり、成長すると棒状の析出物になり、長手断面からの観察と区別するため、垂直断面より観察するためである。
なお、析出物の最大寸法は、透過型電子顕微鏡を用いて析出物を観察し、析出物の長手方向寸法と短手方向寸法を割り出したときの長手方向寸法を意味する。また、塗装焼付処理に相当する熱処理とは、自動車の製造工程におけるプレス成形後に常法で行われている塗装焼付処理における焼付乾燥を意味し、焼付温度および焼付時間については、特に限定はしないが、例えば140〜200℃で10〜60分で行うことが好ましく、特に、170℃で1200秒の条件で行うことがより好適である。
(3)アルミニウム合金板の特性
本発明のアルミニウム合金板は、球頭張出試験よる成形高さが18mm以上であり、成形性に優れている。特に自動車ボディシートのより難しい成形加工を実現することができる。
<アルミニウム合金板の製造方法>
次に、本実施形態のアルミニウム合金板の製造方法について、以下で具体的に説明する。なお、ここで記載するアルミニウム合金板の製造方法は、あくまでも一例であって、本発明のアルミニウム合金板は、以下に示す方法だけに限定されるものではない。
まず、前述した成分組成を有するアルミニウム合金を常法に従って溶製し、連続鋳造法、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の鋳造法を適宜選択して鋳造する。そして得られた鋳塊に対し、必要に応じて均質化処理を施した後、熱間圧延を行う。ここで、均質化処理を行う場合の処理条件は特に限定されないが、通常は、480℃以上、580℃以下の温度まで加熱し、この加熱温度で0.5時間以上、24時間以下保持すればよい。
次に、従来の一般的な方法に従って熱間圧延を施せばよいが、熱間圧延開始までの過程においては、必要に応じて以下のいずれかの処理方法を適用することができる。すなわち、均質化処理後の冷却過程で常温もしくは常温近くまで冷却させた後、改めて熱間圧延の開始温度まで加熱して熱間圧延を開始しても良いし、あるいは均質化処理後の冷却過程で熱間圧延の開始温度まで冷却し、そのまま熱間圧延を開始しても良い。熱間圧延は、通常の条件に従って行えばよく、例えば熱間圧延開始温度を580℃未満、250℃以上とし、熱間圧延終了温度を150℃以上として熱間圧延が可能な温度に制御すればよい。
熱間圧延に続いては、必要に応じて一次冷間圧延、中間焼鈍を施してから、二次冷間圧延を施す。冷間圧延の圧延率は、特に限定しないが、一次冷間圧延を行う場合も含めて、合計で5〜90%程度とすることが好ましい。ここで、中間焼鈍を施す場合の中間焼鈍条件は特に限定されるものではないが、対象とする合金種に応じて、バッチ式焼鈍の場合、材料到達温度を300℃以上、450℃以下とし、その材料到達温度での保持時間を0.5以上、5時間以下とすることが好ましく、連続式焼鈍の場合は350℃以上、580℃以下の材料到達温度で保持時間を300秒以内とすることが好ましい。
本実施形態のアルミニウム合金板の製造方法は、上記冷間圧延後に、溶体化処理と、第1冷却処理と、第2冷却処理と、低温保持処理とを含むものである。
[溶体化処理]
上記冷間圧延後に、480℃以上の溶体化温度まで加熱し、もしくは前記溶体化温度まで加熱して300秒以内にわたって保持する溶体化処理を行う。
溶体化処理は、MgとSi等をアルミニウム合金母材(マトリックス)中に固溶させ、これにより塗装焼付処理後に析出相(特定析出物)を析出させて高強度化を図るために必要な工程であり、また、再結晶させて良好な成形性を得るための工程でもある。溶体化処理温度が480℃未満ではMgとSiの固溶量が少なく、塗装焼付後の強度の上昇が十分に得られないからである。溶体化処理温度の上限は特に規定しないが、共晶融解の発生のおそれや再結晶の粗大化等を考慮して、通常は、580℃以下とすることが望ましい。また、溶体化処理の時間は300秒よりも長くしても、塗装焼付後の強度の上昇が顕著には認められなくなり、しかも、長時間の保持は生産性の低下を招くことから、保持時間を300秒以内とする。なお、480℃以上の溶体化温度まで加熱した後は、その加熱温度で保持することなく、第1冷却処理を行ってもよい。
[第1冷却処理]
溶体化処理を行った後は、前記溶体化温度から100℃までの温度域は90秒以内で冷却する第1冷却処理を行う。前記溶体化温度から100℃までの温度域を90秒以内で冷却する理由は、かかる温度域を90秒よりも長い時間をかけて冷却すると、冷却中にMgとSiを含む粗大な金属間化合物が多量に析出してしまい、成形性が低下すると同時に、塗装焼付処理後の強度の上昇割合が低くなって塗装焼付処理後の高強度化が図れなくなるからである。
[第2冷却処理]
第1冷却処理後は、100℃から60℃までの温度域を300秒以上600秒以下で冷却する第2冷却処理を行う。100℃から60℃の温度域を300秒以上600秒以内で冷却する理由は、600秒よりも長い時間かけて冷却すると、塗装焼付処理後の高強度化は達成できるが、特に自動車ボディシートのより難しい成形加工を可能にする程度の成形性は得られない。この温度域で生成するクラスタは、塗装焼付処理後に強化相に移行しやすく、高強度化に寄与するものであるが、成形性を低下させるからである。また、100℃から60℃の温度域を300秒よりも短い時間で冷却すると、塗装焼付後の強度の上昇割合が低くなって塗装焼付処理後の高強度化が図れなくなるとともに、デント性も劣るからである。
[低温保持処理]
第2冷却処理後は、60℃から35℃までの温度域で2時間以上保持する低温保持処理を行う。60℃から35℃までの温度域で2時間以上保持する理由は、塗装焼付処理後に強化相に移行しにくいが、成形性に対しては良好であるクラスタを生成するためであって、保持時間が2時間未満であると、クラスタが十分に生成されないからである。なお、保持時間の上限は特に規定しないが、長時間の保持は生産性の低下を招くことから、最大で30時間程度とすることが好ましい。
以上のように、本発明ではアルミニウム合金の成分組成を適正に制御するとともに、480℃以上の溶体化温度まで加熱し、もしくは前記溶体化温度まで加熱して300秒以内にわたって保持する溶体化処理を行い、溶体化処理後、前記溶体化温度から100℃までの温度域は90秒以内で冷却する第1冷却処理と、100℃から60℃までの温度域を300秒以上600秒以下で冷却する第2冷却処理とを行い、次いで、60℃から35℃までの温度域で2時間以上保持することで、特に自動車ボディシートのより難しい成形加工を可能にする優れた成形性と、塗装焼付処理後の高強度化の双方を格段に向上させることができるアルミニウム合金板を提供することができる。
尚、上述したところは、この発明の実施形態の例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
次に、本発明のアルミニウム合金板を、下記に示す実施例において試作し、性能を評価したので、以下で説明する。なお、本発明は、以下の実施例だけに限定されるものではない。
表1に示す成分組成を有する10種類のアルミニウム合金(A1〜A6およびB1〜B4)について、それぞれ常法に従ってDC鋳造法により鋳造し、得られた鋳塊に530℃で5時間の均質化処理を施してから熱間圧延および冷間圧延を順次行って、厚さ1mmの圧延板とした。なお、アルミニウム合金B4は、冷間圧延中に割れが生じたため、性能評価のための試験を行っていない。続いて、各圧延板に対して570℃まで加熱し、この加熱した溶体化温度で10秒保持する溶体化処理を行ってから、表2に示す条件で、第1冷却処理、第2冷却処理および低温保持処理を順次行った。以上のようにして得られた各アルミニウム合金板(供試板)の成形性を評価した。成形性の評価結果を表3に示す。また、各アルミニウム合金板(供試板)は、製品を出荷してから自動車メーカーにて使用されるまでの日数を想定し、60日間放置してそれぞれプレス成形することを想定し、2%引張予ひずみを付与した後に、170℃で1200秒の塗装焼付処理に相当する熱処理(加熱)を行った。透過型電子顕微鏡を用いて、最大寸法が20nm以下である特定析出物の個数密度(個/μm)を算出した。さらに,塗装焼付処理後の強度上昇によるへこみにくさを示す耐デント性評価は押込み試験で評価した。特定析出物の個数密度の評価結果および耐デント性評価結果を表3に示す。
[性能評価]
(成形性の評価)
成形性は、球頭張出試験による成形高さ(mm)を測定した。球頭張出試験の条件は、パンチ径が50mm、ダイス径52.8mm、肩R5mm、パンチ速度は120mm/min、しわ押さえ荷重は40kNで実施した。また、装置を動かす前に、パンチとダイスに接触する供試板の表面にR-303P(スギムラ化学工業製の潤滑油)を塗布し、3回の試験を実施して成形高さを測定し、表3には、それらの成形高さの平均値を示した。なお、本実施例では、成形性は、成形高さ(平均値)が18mm以上である場合を合格とし、18mmに達成しない場合を不合格とした。
(特定析出物の個数密度の算出方法)
次に、析出物の具体的な測定方法について説明する。前記供試板を170℃で1200秒の熱処理を施した後、この供試板の圧延方向に直角な断面中央部から採取した薄片試料を、熱処理してから、5日以内に作製し、7日目に透過型電子顕微鏡を用いて加速電圧200kVにて、膜厚100nm〜110nmの箇所で観察した。なお、薄片試料で観察される合金組織は、月日が経過しても変わることはない。観察倍率は20万倍とし、アルミニウム合金母材(マトリックス)の(001)面で300nm×200nmの観察視野面積で合金組織を観察し、析出物は、結晶粒内に存在する析出物について、長手方向寸法(長辺)および短手方向寸法(短辺)を測定し、長手方向寸法を最大寸法とし、最大寸法が20nm以下の特定析出物が、観察視野面積(0.06μm)に存在する個数を測定し、これにより、特定析出物の個数密度で(個/μm)を算出した。特定析出物の個数密度は、5個の供試材で算出し、表3には、算出したこれらの析出物の個数密度の平均値を示した。
(耐デント性の評価方法)
次に,耐デント性の評価方法について説明する。パネルを定盤上に固定して,圧子を介して荷重を付加する。このときの荷重は人が指で強く押すときの荷重を想定した200Nとし、圧子はゴム製の直径100mmを使用した。試験後のへこみ深さ、すわなち、デント深さは、10μm未満を合格とし、10μm以上を不合格とした。
Figure 2019173118
Figure 2019173118
Figure 2019173118
表3に示す結果から、実施例1〜6は、いずれも成分組成が本発明の適正範囲内であり、また、塗装焼付処理に相当する熱処理後の特定析出物の個数密度が300〜500個/μmの範囲内であるので、いずれも塗装焼付前の成形高さが18mm以上と高く、成形性に優れているとともに、塗装焼付後の強度も十分に高い数値を有している。
これに対して、比較例1は、成分組成が本発明の適正範囲外であるため、析出物数密度が理想的な組織でないため、塗装焼付後の強度が低い。比較例2は、成分組成が本発明の適正範囲外であるため、成形高さが低い。比較例3は、成分組成が本発明の適正範囲外であるため、析出物数密度が理想的な組織でなく、塗装焼付後の強度が低い。また、比較例4〜8は本発明の成分組成が本発明の適正範囲内ではあるが、製造条件が本発明で規定する条件を満たさない。そのため、成形高さが低い、もしくは析出物数密度が理想的な組織ではなく、塗装焼付後の強度が低い。
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、優れた成形性を有するとともに、塗装焼付処理後の強度も十分に高めることが可能なアルミニウム合金板を提供できる。この結果、本発明によって、例えば自動車ボディシートのより難しい成形加工を可能にして、自動車ボディシートにおけるひずみのない曲面構成やキャラクターラインを実現できるようになり、特にAl-Mg-Si系もしくはAl-Mg-Si-Cu系のアルミニウム合金板の自動車部材への適用範囲の拡大を図ることができる。

Claims (5)

  1. Mg:0.3〜1.5質量%およびSi:0.3〜2.0質量%を含む成分組成を有するアルミニウム合金板であって、
    球頭張出試験よる成形高さが18mm以上であり、
    前記アルミニウム合金版を塗装焼付処理に相当する熱処を施した前記アルミニウム合金板から採取した薄片試料の(001)面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したとき、析出物のうち、最大寸法が20nm以下である特定析出物は、観察視野面積に存在する個数密度が300〜500個/μm2の範囲であることを特徴とするアルミニウム合金板。
  2. 前記成分組成は、Cu:0.15〜0.8質量%をさらに含む、請求項1に記載のアルミニウム合金板。
  3. 前記成分組成は、Fe:0.1〜0.5質量%およびMn:0.05〜0.3質量%の少なくとも1種をさらに含む、請求項1または2に記載のアルミニウム合金板。
  4. 前記成分組成は、Cr:0.1質量%未満、Zn:0.1質量%未満、Ti:0.1質量%未満およびB:0.1質量%未満の群から選択される少なくとも1種の成分をさらに含む、請求項1、2または3に記載のアルミニウム合金板。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金板を製造する方法において、
    480℃以上の溶体化温度まで加熱し、もしくは前記溶体化温度まで加熱して300秒以内にわたって保持する溶体化処理を行い、溶体化処理後、前記溶体化温度から100℃までの温度域は90秒以内で冷却する第1冷却処理と、100℃から60℃までの温度域を300秒以上600秒以下で冷却する第2冷却処理とを行い、次いで、60℃から35℃までの温度域で2時間以上保持することを特徴とするアルミニウム合金板の製造方法。
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