JP4248796B2 - 曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、曲げ加工性および耐食性に優れ、輸送機器部材とくに自動車用外板として好適なアルミニウム合金板、およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用外板としては、1)成形性、2)形状凍結性(プレス加工時にプレス型の形状が正確に出るという特性)、3)耐デント性、4)耐食性、5)製品面質などが要求され、従来、自動車用外板として、5000系アルミニウム合金や6000系アルミニウム合金が適用されてきたが、塗装焼付硬化性に優れ、高強度が得られるため、さらに薄肉化、軽量化が期待できる6000系アルミニウム合金が注目され、種々の改良が行われている。
【0003】
自動車用外板として要求される前記の特性のうち、形状凍結性は材料の耐力が小さいほど良好となるのに対して、耐デント性は耐力が大きいほど良好となり、耐力に関して両者は相反するが、6000系アルミニウム合金においては、形状凍結性に優れた耐力の低い段階でプレス加工を行い、その後塗装焼付け工程で硬化させて耐力を高め、耐デント性を向上させるという手法によりこの相反する問題を解決している(特開平5−247610号公報、特開平5−279822号公報、特開平6−17208号公報など)。
【0004】
成形加工後の製品面質については、6000系アルミニウム合金においても、肌荒れやリジングマーク(塑性加工によって圧延方向に生じる長い筋状欠陥)などの発生が経験されている。製品面質欠陥については、合金成分の調整や製造条件の管理により解決が図られており、例えば、リジングマークの抑制のために、500℃以上の温度で均質化処理した後、450〜350℃まで冷却し、この温度域で熱間圧延を開始することにより粗大析出物の生成を防止することが提案されている(特開平7−228956号公報)が、500℃以上の均質化処理温度から450℃の熱間圧延温度に冷却する場合の冷却速度が遅くなると、Mg−Si系化合物の凝集化が生じ、そのためその後の工程において高温、長時間の溶体化処理が必要となり、製造上能率を低下させるという問題がある。
【0005】
成形性については、自動車用外板のアウターパネル用材料はインナーパネル用材料と組み付ける際、曲げ中心半径(R)と板厚(t)との比(R/t)が小さく加工条件の厳しい180°曲げ加工(フラットヘム加工)が行われるが、6000系アルミニウム合金は、5000系アルミニウム合金に比べて曲げ加工性が劣り、プレス加工度が大きい部位ではフラットヘム加工性に問題が生じていた。
【0006】
良好なプレス成形性およびヘム加工性を達成するために、Mn:0.01〜0.30%を含み、Feを0.30%以下に規制した6000系アルミニウム合金材において、溶体化処理後のミクロ組織におけるAl−Fe系化合物およびMg2 Si晶出物の平均径、平均間隔、さらにAl−Mn系などの分散粒子の平均径と数密度を規定することが提案されている(特開2000−144294号公報)。この手法により成形性および曲げ加工性の改善が得られるが、発明者らは、6000系アルミニウム合金材の曲げ加工性および耐食性に及ぼす要因についてさらに試験、検討を重ねた結果、これらの特性を改善するには、分散粒子の存在如何にかかわらず、隣接する結晶粒の方位差が15°以下である結晶粒界の占める割合が支配的であること、さらにその割合を高くするには、均質化処理後の冷却速度を制御するとともに、圧延加工条件を制御することが重要であることを見出した。とくに、均質化処理後の冷却速度を制御することによって、圧延加工前に、曲げ加工性を得るための好ましい固溶析出状態が達成される。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、6000系アルミニウム合金を自動車用外板として適用する場合における上記従来の問題を解消するために、上記の知見をベースとし、成形性、成形加工後の製品面質、形状凍結性と耐デント性など、自動車用外板として要求される特性と合金組成、製造条件との関連について、さらに試験、検討を加えた結果としてなされたものであり、その目的は、フラットヘム加工が可能な優れた曲げ加工性をそなえ、成形後に肌荒れやリジングマークを生じることがなく、形状凍結性と耐デント性の問題を解決し得る優れた塗装焼付硬化性を有し、さらに耐食性とくに耐糸錆性にも優れたアルミニウム合金板およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための請求項1による曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板は、Si:0.4〜1.5%、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.05〜0.3%を含有し、さらにTi:0.1%以下、B:500ppm以下のうちの少なくとも1種を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、隣接する結晶粒の方位差が15°以下である結晶粒界の占める割合が20%以上であり、エリクセン試験における成形高さが10mm以上で、且つ2%の引張変形を施し170℃で20分の加熱処理を行ったのちの耐力(σ 0.2 )が200MPa以上であることを特徴とする。
【0009】
請求項2による曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板は、請求項1において、アルミニウム合金板が、さらにZn:0.5%以下を含有することを特徴とする。
【0010】
請求項3による曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板は、請求項1または2において、アルミニウム合金板が、さらにCu:1.0%以下を含有することを特徴とする。
【0011】
請求項4による曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板は、請求項1〜3のいずれかにおいて、アルミニウム合金板が、さらにCr:0.3%以下、V:0.2%以下、Zr:0.15%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項5による曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板の製造方法は、請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金板の製造方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、480℃以上の温度で均質化処理後、150℃/h以上の冷却速度で300〜450℃の範囲の温度まで冷却し、300〜450℃の温度で圧延を開始する熱間圧延を行い、さらに冷間圧延した後、500℃以上の温度で溶体化処理を行い、溶体化処理後、120℃までを5℃/s以上の冷却速度で冷却する焼入れを行い、焼入れ後60分以内に40〜120℃の温度で50h以内の熱処理を行うことを特徴とする。
【0014】
請求項6による曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板の製造方法は、請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金板の製造方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、480℃以上の温度で均質化処理後、室温以上300℃未満の温度まで冷却し、該冷却において300℃までを150℃/h以上の冷却速度で冷却し、ついで300〜450℃の温度に再加熱して圧延を開始する熱間圧延を行い、さらに冷間圧延した後、500℃以上の温度で溶体化処理を行い、溶体化処理後、120℃までを5℃/s以上の冷却速度で冷却する焼入れを行い、焼入れ後60分以内に40〜120℃の温度で50h以内の熱処理を行うことを特徴とする。
【0016】
請求項7による曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板の製造方法は、請求項5または6において、前記熱処理後7日以内に、170〜230℃の温度で60s以内の復元処理を行うことを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、基本的にはT4調質(溶体化処理、焼入れ、常温時効)で使用する6000系アルミニウム合金に関するものであり、まず、本発明における含有成分の意義および限定理由について説明すると、Siは、Mgと共存してMg−Si系化合物を形成して強度を向上させるとともに、高い塗装焼付硬化性を与えるよう機能する。Siの好ましい含有範囲は0.4〜1.5%であり、0.4%未満では塗装焼付時の加熱で十分な強度が得られず、さらに成形性(プレス成形性およびヘム加工性、以下同じ)を低下させることもあり、1.5%を越えて含有すると、耐力は高くなって成形性および形状凍結性が低下し、塗装後の耐食性も劣化する。Siのさらに好ましい含有範囲は0.6〜1.3%であり、最も好ましい範囲は0.8〜1.2%である。
【0018】
Mgは、Siと共存してMg−Si系化合物を形成して強度を向上させる。Mgの好ましい含有量は0.2〜1.2%の範囲であり、0.2%未満では塗装焼付時の加熱で十分な強度が得られず、1.2%を越えると、溶体化処理後、最終熱処理後の耐力が高くなり、成形性および形状凍結性が低下する。Mgのさらに好ましい範囲は0.3〜0.8%であり、最も好ましい範囲は0.4〜0.7%である。
【0019】
Mnは、隣接する結晶粒の方位差を小さくするよう機能する。Mnの好ましい含有量は0.05〜0.3%の範囲であり、この範囲のMnを含有させることにより、隣接する結晶粒の方位差が15°以下の結晶粒界の占める割合が20%以上となり、成形性とくに曲げ加工性が向上する。0.05%未満ではその効果が十分でなく、0.3%を越えると、粗大な金属間化合物が生成して成形性が低下する。
【0020】
Znは選択的に含有される元素であるが、0.5%以下の範囲で含有されると、表面処理性を改善するよう機能する。含有量が0.5%を超えると塗装後の耐食性の低下を招く。さらに好ましい含有範囲は0.1〜0.3%である。
【0021】
Cuは選択的に含有される元素であるが、1.0%以下の範囲で含有されると成形性を改善するよう機能する。含有量が1.0%を超えると塗装後の耐食性の低下を招く。成形性の観点からは0.3〜1.0%、耐食性が重視される場合には0.1%以下が好ましい。
【0022】
Cr、V、Zrはいずれも選択的に含有される元素であり、強度の向上、結晶粒微細化による成形加工時の肌荒れ防止に機能する。好ましい含有量は、Cr:0.3%以下、V:0.2%以下、Zr:0.15%以下の範囲であり、それぞれ上記の範囲を越えると、粗大な金属間化合物が生成して成形性が低下する。各元素のさらに好ましい含有範囲は、Cr:0.05〜0.15%、V:0.05〜0.15%、Zr:0.05〜0.12%である。
【0023】
TiおよびBは、鋳造組織を微細化して、成形性を向上させるよう機能する。好ましい含有量は、Ti:0.1%以下、B:50ppm以下の範囲であり、それぞれ上記の範囲を越えて含有されると、粗大な金属間化合物が増加して成形性が低下する。なお、0.5%以下、好ましくは0.3%以下のFeの含有は本発明の効果に影響を与えることはない。
【0024】
本発明においては、隣接する結晶粒の方位差が15°以下である結晶粒界の占める割合を20%以上とすることが重要である。方位差が15°以下の結晶粒界は、粒界エネルギーが低いことから粒界析出が起こりにくく、曲げ加工時の粒界割れが発生しにくくなるとともに、粒界腐食を伴う腐食も軽減される。そのため、15°以下の結晶粒界の占める割合が高いほど、曲げ加工性が向上するとともに、耐食性も向上する。15°以下の方位差を有する結晶粒界の最適な割合を検討した結果、20%以上であれば曲げ加工性と耐食性の改善効果が得られることが明らかになったことから、本発明では隣接する結晶粒の方位差が15°以下である結晶粒界の占める割合を20%以上に規定する。
【0025】
つぎに、本発明によるアルミニウム合金板の製造方法について説明する。前記の組成を有するアルミニウム合金を、例えば、通常のDC鋳造によって造塊し、得られた鋳塊について均質化処理を行う。均質化処理温度は480℃以上の温度で行うのが好ましい。480℃未満では、鋳塊偏析の除去、均質化が十分でなく、また強度を向上させるMg−Si系化合物の固溶が不十分となり、成形性が低下することがある。さらに好ましい均質化処理温度は500℃以上である。
【0026】
均質化処理後の冷却速度が遅いと、Mg−Si系化合物が析出、凝集するため、この化合物を溶入させるための溶体化処理に長時間を要し、作業能率を低下させる。均質化処理後の冷却速度を制御することにより、溶体化処理時間を短縮することが可能となり、さらに後述の圧延加工条件と組み合わせることにより、隣接する結晶粒の方位差が15°以下である結晶粒界の占める割合が20%以上となる組織性状を得ることができる。
【0027】
そのためには、均質化処理後、鋳塊を冷却して、300〜450℃の範囲の所定の温度になった時点で熱間圧延を開始する場合には、均質化処理後、熱間圧延の開始温度までを150℃/h以上の冷却速度で冷却して熱間圧延を開始する。また、均質化処理後、鋳塊を室温〜300℃未満の温度まで冷却した後、再加熱して熱間圧延を行う場合には、均質化処理温度から300℃までは150℃/h以上の冷却速度で冷却し、300〜450℃に再加熱して熱間圧延を開始する。冷却速度が150℃/h未満では上記の結晶粒界の状態が得られない。冷却設備などを考慮して、150〜1000℃/hの冷却速度に制御するのが好ましい。さらに好ましい冷却速度は200〜1000℃/hである。なお、通常工程における鋳塊の均質化処理後の冷却速度は30℃/h以下である。
【0028】
熱間圧延は、300〜450℃の温度で開始するのが好ましい。300℃未満では変形抵抗が大きくなり圧延能率が低下する。450℃を越える温度で圧延すると、圧延中に結晶粒の粗大化が生じリジングマークが発生し易くなるとともに、隣接する結晶粒の方位差が15°以下である結晶粒界の占める割合が20%未満となる。変形抵抗、加工組織の点から、熱間圧延は350〜450℃の温度で開始するのがさらに好ましい。
【0029】
熱間圧延後、必要に応じて中間焼鈍を挟みながら、所定厚さまで冷間圧延を行い、その後、溶体化処理、焼入れを行う。好ましい溶体化処理温度は500℃以上の温度であり、500℃未満では、Mg−Si系化合物の固溶が不十分となり、十分な強度、焼付硬化性、成形性が得られず、あるいは、必要な強度、成形性を得るために、きわめて長時間の溶体化処理が必要となるため工業上好ましくない。
【0030】
溶体化処理後の焼入れは、120℃までを5℃/s以上、さらに好ましくは10℃/s以上の冷却速度で冷却するのが好ましい。焼入速度が遅い場合には、溶質元素の析出が生じ、強度特性、塗装焼付硬化性、成形性が劣化するとともに耐食性が低下する。
【0031】
また、焼入れ後60分以内に、40〜120℃の温度に50h以内の時間加熱する熱処理を行うことができ、この最終熱処理により塗装焼付硬化性の向上が得られる。40℃未満の温度では、塗装焼付硬化性の向上が十分でなく、120℃を越える温度または50hを越える時間では、成形性や塗装焼付硬化性が低下することがある。
【0032】
さらに、焼入れ後60分以内に、40〜120℃の温度で50h以内の時間加熱する熱処理を行った後、7日以内に170〜230℃の温度で60s以内の復元処理を行うことができ、この復元処理により塗装焼付け硬化性をさらに向上させることができる。170℃未満の温度では、塗装焼付け硬化性の向上が十分でなく、230℃を超える温度では、成形性、強度、塗装焼付硬化性が低下することがある。
【0033】
なお、従来の6000系アルミニウム合金においても、溶体化処理、焼入れ後の最終熱処理によって塗装焼付硬化性を向上させることが行われているが、本発明においては、均質化処理後の冷却速度を150℃/h以上とすることにより溶体化処理時の溶質元素の固溶が促進されて、従来の6000系アルミニウム合金において最終熱処理を行った場合より、塗装焼付硬化性の改善効果が大きくなる。
【0034】
本発明においては、溶体化処理、焼入れ後、または焼入れ後に常温時効を行った後(T4調質)において、隣接する結晶粒の方位差が15°以下である結晶粒界の占める割合が20%以上とする組織性状をそなえることにより、曲げ加工性および耐食性が改善され、輸送機器部材とくに自動車用外板として好適なアルミニウム合金板材料となる。
【0035】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明するとともに、それに基づいてその効果を実証する。なお、これらの実施例は、本発明の好ましい一実施態様を説明するためのものであって、これにより本発明が制限されるものではない。
【0036】
実施例1
DC鋳造法により表1に示す組成を有するアルミニウム合金を造塊し、得られた鋳塊を540℃の温度で6h均質化処理し、300℃/hの冷却速度で室温まで冷却した。ついで、この鋳塊を400℃の温度に再加熱して、この温度で熱間圧延を開始して厚さ4.0mmまで圧延し、さらに冷間圧延を経て厚さ1mmとした。
【0037】
得られた冷間圧延板について、540℃の温度で5sの溶体化処理を施した後、120℃の温度まで30℃/sの冷却速度で焼入れを行い、焼入れ後5分後に、100℃で3hの熱処理を行った。
【0038】
得られた最終熱処理板を試験材として、以下の方法によって、最終熱処理から10日後の引張特性、成形性、耐食性、塗装焼付硬化性を評価し、さらに結晶粒界の方位差分布を計測した。結果を表2に示す。
【0039】
引張特性:引張試験を行い、引張強さ(σB ) 、耐力(σ0.2)、伸び(δ)を測定する。
成形性:プレス成形性を評価するために、エリクセン試験(EV)を行い、成形高さが10mmに達しないものを不合格とする。また、ヘム加工性の評価のために、10%引張予歪後の限界曲げ半径を測定する180°曲げ試験を行い、内側限界曲げ半径が0.5mm以下を合格とする。
【0040】
耐食性:試験材について、市販の化成処理液でリン酸亜鉛処理および電着塗装を行い、アルミニウムの素地に達するクロスカットを施して、JIS Z 2371に従って塩水噴霧試験を24時間行い、その後、50℃−95%の湿潤雰囲気中に1か月放置した後、クロスカット部から発生する最大糸錆長さを測定し、最大糸錆長さ4mm以下のものを合格とした。
塗装焼付硬化性(BH性):2%の引張変形を施し、170℃で20分の加熱処理(BH)を行ったのちの耐力(σ0.2)を測定し、耐力が200MPa以上のものを合格とする。
【0041】
結晶粒界の方位差分布の計測:試験材の板表面をエメリー紙で研磨後、さらに電解研磨によって鏡面仕上げを行い、走査型電子顕微鏡(SEM)にセットする。観察倍率を100倍にし、SEMに取り付けたEBSP装置で、結晶粒方位を10μm ピッチで測定し、結晶粒界の傾角分布を計測し、15°以下の結晶粒界の比率を計算する。
【0042】
【表1】
《表注》Bはppm
【0043】
【表2】
【0044】
表2にみられるように、本発明の条件に従う試験材No.1〜8はいずれも、BH性の評価において200MPaを越える優れたBH性を示し、成形性についてもEVでの成形高さは10mmを越え、内側限界曲げ半径も0.2mm以下であり、良好な成形性をそなえている。また、最大糸錆長さも4mm以下で優れた耐食性を示す。
【0045】
比較例1
DC鋳造法により表3に示す組成を有するアルミニウム合金を造塊し、得られた鋳塊を実施例1と同一の工程で処理し、厚さ1mmの冷間圧延板とし、得られた冷間圧延板について、実施例1と同一条件の溶体化処理、焼入れを行い、焼入れ後5分後に、100℃で3hの熱処理を行った。
【0046】
得られた最終熱処理板を試験材として、実施例1と同一の方法によって、最終熱処理から10日後の引張特性、成形性、耐食性、塗装焼付硬化性を評価し、さらに結晶粒界の方位差分布を計測した。結果を表4に示す。
【0047】
【表3】
《表注》Bはppm
【0048】
【表4】
【0049】
表4に示すように、試験材No.9はSi量が少なく、試験材No.11はMg量が少ないため、いずれもBH性が劣る。試験材No.10はSi量が多く、試験材No.12はMg量が多いため、いずれも曲げ加工性が劣っている。試験材No.13はZn量が多く、試験材No.14はCu量が多いため耐糸錆性が劣り、試験材No.15〜18は、それぞれMn量、Cr量、V量、Zr量が多いため、EVの成形高さが小さく、曲げ加工性も十分でない。試験材No.19はMn量が少ないため、隣接する結晶粒の方位差が15°以下の結晶粒界の占める割合が20%未満となり、曲げ加工性が劣ったものとなった。
【0050】
実施例2
実施例1で用いた、表1に示す合金Aの鋳塊を用い、表5に示す条件で均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、最終熱処理を行い、試験材No.19〜25を作製した。このとき、均質化処理時間を6h、熱間圧延の上がり板厚を4.0mm、冷間圧延の上がり板厚を1.0mm、焼入れ後最終熱処理を行うまでの時間を5分とした。試験材No.19については、熱処理後に、200℃で3sの復元処理を行った。なお、最終熱処理後復元処理までの日数は1日とした。
【0051】
得られた試験材を用い、実施例1と同一の方法によって、最終熱処理から10日後の引張特性、成形性、耐食性、塗装焼付硬化性を評価し、さらに結晶粒界の方位差分布を計測した。結果を表6に示す。また、圧延方向に対して90°方向に10%の引張変形を与えた後、電着塗装を行って、リジングマークの発生の有無を目視により観察したところ、リジングマークの発生は全く認められなかった。
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
表6に示すように、本発明に従う試験材No.20〜26は、優れた引張強度、BH性、成形性、耐食性を示している。リジングマークの発生も全く認められなかった。
【0055】
比較例2
実施例1で用いた、表1に示す合金Aの鋳塊を用い、表7に示す条件で均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、最終熱処理を行い、試験材No.27〜30を作製した。このとき、均質化処理時間を6h、熱間圧延の上がり板厚を4.0mm、冷間圧延の上がり板厚を1.0mm、焼入れ後最終熱処理を行うまでの時間を5分とした。
【0056】
得られた試験材について、実施例1と同一の方法によって、最終熱処理から10日後の引張特性、成形性、耐食性、塗装焼付硬化性を評価し、さらに結晶粒界の方位差分布を計測した。結果を表8に示す。また、圧延方向に対して90°方向に10%の引張変形を与えた後、電着塗装を行って、リジングマークの発生の有無を目視により観察したところ、試験材No.29にリジングマークの発生が観察された。
【0057】
【表7】
【0058】
【表8】
【0059】
表8にみられるように、試験材No.27は均質化処理温度が低いため、EV値が低く、曲げ加工性が劣り、さらにBH性も低い。試験材No.28および29は均質化処理後の冷却速度が小さいため、曲げ加工性が劣り、BH性も低い。試験材No.30は熱間圧延の開始温度が高いため、曲げ加工性が劣り、リジングマークが発生した。
【0060】
【発明の効果】
本発明によれば、フラットヘム加工が可能な優れた曲げ加工性をそなえ、成形後に肌荒れやリジングマークを生じることがなく、形状凍結性と耐デント性とを両立させる優れた塗装焼付硬化性を有し、さらに耐食性とくに耐糸錆性にも優れたアルミニウム合金板およびその製造方法が提供される。当該アルミニウム合金板は、輸送機器部材、例えば自動車用フード、フェンダー、トランクリッド、ルーフ、ドアなどに好適に使用され、これら部材のゲージダウンを可能とする。
Claims (7)
- Si:0.4〜1.5%(質量%、以下同じ)、Mg:0.2〜1.2%、Mn:0.05〜0.3%を含有し、さらにTi:0.1%以下、B:500ppm以下のうちの少なくとも1種を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、隣接する結晶粒の方位差が15°以下である結晶粒界の占める割合が20%以上であり、エリクセン試験における成形高さが10mm以上で、且つ2%の引張変形を施し170℃で20分の加熱処理を行ったのちの耐力(σ 0.2 )が200MPa以上であることを特徴とする曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が、さらにZn:0.5%以下(0%を含まず、以下同じ)を含有することを特徴とする請求項1に記載の曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が、さらにCu:1.0 %以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金板が、さらにCr:0.3%以下、V:0.2%以下、Zr:0.15%以下のうちの1種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金板の製造方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、480℃以上の温度で均質化処理後、150℃/h以上の冷却速度で300〜450℃の範囲の温度まで冷却し、300〜450℃の温度で圧延を開始する熱間圧延を行い、さらに冷間圧延した後、500℃以上の温度で溶体化処理を行い、溶体化処理後、120℃までを5℃/s以上の冷却速度で冷却する焼入れを行い、焼入れ後60分以内に40〜120℃の温度で50h以内の熱処理を行うことを特徴とする曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金板の製造方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、480℃以上の温度で均質化処理後、室温以上300℃未満の温度まで冷却し、該冷却において300℃までを150℃/h以上の冷却速度で冷却し、ついで300〜450℃の温度に再加熱して圧延を開始する熱間圧延を行い、さらに冷間圧延した後、500℃以上の温度で溶体化処理を行い、溶体化処理後、120℃までを5℃/s以上の冷却速度で冷却する焼入れを行い、焼入れ後60分以内に40〜120℃の温度で50h以内の熱処理を行うことを特徴とする曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板の製造方法。
- 前記熱処理後7日以内に、170〜230℃の温度で60s以内の復元処理を行うことを特徴とする請求項5または6に記載の曲げ加工性および耐食性に優れたアルミニウム合金板の製造方法。
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