JP4257135B2 - 缶胴用アルミニウム合金硬質板 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
この発明はDI成形(絞り−しごき加工)による2ピースアルミニウム缶用の缶胴に使用されるAl−Mg−Mn系アルミニウム合金の硬質板、およびその製造方法に関し、特に深絞り耳が低くかつ塗装焼付後の強度が高く、しかもDI加工時における成形性、例えばしごき加工性などが優れると同時に塗装焼付後の成形性、例えばフランジ成形性などが優れたDI缶胴用アルミニウム合金硬質板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に2ピースアルミニウム缶(DI缶)の製造工程としては、缶胴用素材に対して、深絞り加工およびしごき加工によるDI成形を施して缶胴形状とした後、所定の寸法、形状にトリミングを施して脱脂・洗浄処理を行ない、さらに塗装・印刷を行って焼付け(ベーキング)を行ない、その後に缶胴縁部に対してネッキング加工、フランジ加工を行ない、別に成形した缶蓋と合せてシーミング加工を行なうのが通常である。
【0003】
このようにして製造されるDI缶胴用素材としては、従来からAl−Mg−Mn系合金からなるJIS3004合金の硬質板が広く使用されている。この3004合金は、しごき加工性に優れていて、強度を高めるために高圧延率で冷間圧延を施した場合でも比較的良好な成形性を示すところから、DI缶胴材として好適であるとされている。
【0004】
なおこのような3004合金からなるDI缶胴用硬質板の製造方法としては、一般にDC鋳造法などによって鋳造した後、鋳塊に均質化処理を施し、さらに熱間圧延および冷間圧延によって所定の板厚とし、かつその過程における熱間圧延後の冷間圧延前、もしくは冷間圧延の中途において、再結晶のために中間焼鈍を施す方法が一般的である。
【0005】
ところで2ピースアルミニウム缶胴(DI缶)については、主として材料コスト削減の観点から、薄肉化を図ることが強く望まれている。そしてこのように薄肉化を図る場合、薄肉化に伴なう缶の座屈強度低下の問題等を回避するため、材料の高強度化を図ることが不可欠である。
【0006】
さらにDI缶胴用材料としては、DI成形時における耳率が小さいことが望まれる。すなわち、DI成形時の耳率が低いことは、DI成形時の歩留り向上と、缶胴の耳切れに起因する缶胴破断防止の点から重要である。
【0007】
そしてまた、DI缶製造時におけるフランジ成形性(口拡げ性)が優れること、およびしごき性(耐缶切れ性)が優れることも必要である。
【0008】
ここで、これらの強度、耳率、フランジ成形性(口拡げ性)、しごき性(耐缶切れ性)は、いずれか一つが優れていれば良いというものではなく、これらのバランスが良好で総合的に優れていることが必要であり、また製造方法としては、上述のような材料特性からの諸要求のほか、製造コストが低廉であることも重要である。
【0009】
ところで従来の3004合金缶胴用硬質板の一般的な製造方法においては、前述のように熱間圧延後の冷間圧延前、あるいは冷間圧延の中途において、再結晶のために中間焼鈍を行なうのが通常である。このような中間焼鈍の観点から従来の主な製造プロセスを分類すれば、次の(a)〜(c)のプロセスに分けられる。
(a) 熱延−バッチ焼鈍プロセス
これは、通常の熱間圧延の後、加熱速度の遅い箱型焼鈍炉(バッチ式焼鈍炉;BAF)を用いて焼鈍する方法である。
(b) 熱延−連続焼鈍プロセス
これは、通常の熱間圧延の後、加熱速度の速い連続焼鈍炉(CAL)を用いて焼鈍する方法である。
(c) 冷延中間連続焼鈍プロセス
これは、通常の熱間圧延後の冷間圧延の中途において、加熱速度の速い連続焼鈍炉を用いて焼鈍する方法である。
【0010】
さらに、以上の(a)〜(c)のプロセスのほか、次の(d)のような方法もある。
(d) 自己再結晶プロセス
これは、熱間圧延の上がり温度を材料の再結晶温度以上に制御することによって、熱間圧延上がりの状態で材料を自己再結晶(自己焼鈍)させる方法である。
【0011】
以上のような(a)〜(d)のプロセスのうち、(a)、(b)、(d)のプロセスを適用した場合、いずれも最終的に得られた缶胴材のしごき性が劣るという共通の問題がある。また(d)のプロセスを適用した場合、得られた缶胴材の材料強度が不足するという問題がある。さらに(c)のプロセスを適用した場合、缶胴材としてしごき性は優れるものの、フランジ成形性が劣るという問題がある。そしてまた、熱間圧延後に再結晶のための焼鈍を必要とする(a)、(b)、(c)のプロセスでは、製造コストが割高であるという問題もある。
【0012】
ここで、Al−Mg−Mn系合金からなるDI缶胴材の製造方法として既に提案されている先行技術の方法としては、例えば特許文献1〜特許文献8に示すような方法があるが、これらのうち特許文献1〜特許文献6の方法は、いずれも熱間圧延の後、もしくは冷間圧延の中途で焼鈍を必須とするものであり、前述のようにコスト面等で問題があった。
【0013】
また特許文献7には、熱間圧延後に焼鈍なしで最終冷間圧延を施す方法も示されているが、この特許文献7に示されているのは熱間圧延機としてタンデム式圧延機を用いた場合の方法であり、リバース式圧延機(リバーシング・ミル、リバーシング・ウォームミル)を用いた場合については開示されていない。タンデム式圧延機とリバース式圧延機では、最適な熱間圧延プロセス条件が異なるのが通常であり、したがって特許文献7に示されている方法をリバース式圧延機を用いた場合に転用しても、直ちに前記諸特性の優れた缶胴材が得られるとは限らないのが実情である。
【0014】
さらに特許文献8の方法でも、熱間圧延後の焼鈍を省略しても良いとされているが、この特許文献8の方法も、熱間圧延機としてタンデム式圧延機を使用するものであり、またその熱間圧延条件も厳密に規定されてはおらず、そのため特許文献8の方法をリバース式圧延機を用いる場合に転用しても、前記諸特性のバランスに優れたDI缶胴材は得られなかったのである。
【0015】
【特許文献1】
特開平11−256290号公報
【特許文献2】
特開平11−256291号公報
【特許文献3】
特開平11−256292号公報
【特許文献4】
特開2000−234158号公報
【特許文献5】
特開2001−40461号公報
【特許文献6】
特開2002−212691号公報
【特許文献7】
特開平10−310837号公報
【特許文献8】
特開平11−140576号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、DI缶胴材として望まれる諸特性をバランスよく満足し得る材料、すなわち高強度を有すると同時に低耳率で、しかもフランジ成形性、しごき性に優れていて、これらの諸特性のバランスが総合的に良好であり、かつまた低コストで製造し得ることを目的とするものである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者等が前述の課題を解決するべく種々実験・検討を重ねた結果、板の集合組織、特に板表面に近い部分の集合組織を適切に制御すると同時に、Mn固溶量、導電率を適切に調整することによって、高強度と低耳率を確保しながら、フランジ成形性としごき性のバランスを最適化し、高品質のDI缶胴材を得ることができることを見出した。そしてまた、このようなDI缶胴材を、製造するにあたっては、熱間圧延条件、特に板厚50mmの段階から熱間圧延上がりの段階における条件を厳密に規制することによって、熱間圧延後の再結晶のための焼鈍を省略しつつ高品質のDI缶胴材を得ることができるプロセス、特にリバーシングミル方式の熱間圧延機を使用して高品質のDI缶胴材を得ることができるプロセスを実現できることを見出し、この発明をなすに至った。
【0018】
具体的には、請求項1の発明の缶胴用アルミニウム合金硬質板は、Mg0.5〜2.0%、Mn0.5〜2.0%、Fe0.1〜0.7%、Si0.05〜0.5%、Cu0.05〜0.5%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金からなり、かつ板表層のβファイバに属するCu方位、S方位、Bs方位の各方位密度の合計をd0とするとともに、板表面から板厚方向に板厚の1/4の深さの位置におけるβファイバに属するCu方位、S方位、Bs方位の各方位密度の合計をd1/4とし、さらに板表層におけるCube方位の方位密度をC0とし、かつ板表面から板厚方向に板厚の1/4の深さの位置におけるCube方位の方位密度をC1/4とした場合に、次式
(d0+d1/4)>(C0+C1/4)
を満足し、さらにMn固溶量が0.05〜0.35%の範囲内でかつ導電率が34〜45IACS%の範囲内であることを特徴とするものである。
【0019】
また請求項2の発明の缶胴用アルミニウム合金硬質板は、請求項1の缶胴用アルミニウム合金硬質板において、前記アルミニウム合金の成分として、さらにCr0.05〜0.3%、Zn0.05〜0.5%、Ti0.005〜0.20%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とするものである。
【0022】
【発明の実施の形態】
先ずこの発明の缶胴用アルミニウム合金硬質板に用いられるアルミニウム合金の成分組成の限定理由について説明する。
【0023】
Mg:
Mgの添加は、Mgそれ自体の固溶による強度向上に効果があり、またMgの固溶に伴なう加工硬化量の増大による強度向上が期待でき、さらにはSiとの共存によるMg2Siの時効析出による強度向上も期待でき、したがってMgは缶胴材として必要な強度を得るためには不可欠の元素である。またMgは、加工時の転位の増殖作用があるため、再結晶粒を微細化させるためにも有効である。但しMg量が0.5%未満では上述の効果が少なく、一方2.0%を越えれば、高強度は容易に得られるものの、DI加工時の変形抵抗が大きくなって絞り性やしごき性を悪くする。したがってMg量は0.5〜2.0%の範囲内とした。
【0024】
Mn:
Mnは強度および成形性の向上に寄与する有効な元素である。特にこの発明で目的としている用途である缶胴材ではDI成形時にしごき加工が加えられるため、とりわけMnは重要となる。アルミニウム板のしごき加工においては通常エマルジョンタイプの潤滑剤が用いられているが、Mn系晶出物が少ない場合には同程度の強度を有していてもエマルジョンタイプ潤滑剤だけでは潤滑能が不足し、ゴーリングと称される擦り疵や焼付きなどの外観不良が発生するおそれがある。ゴーリングは晶出物の大きさ、量、種類に影響されることが知られており、その晶出物を形成するためにMnは不可欠な元素である。Mn量が0.5%未満ではMn系化合物による固体潤滑的な効果が得られず、一方Mn量が2.0%を越えればAl6Mnの初晶巨大金属間化合物が発生して、著しく成形性を損なってしまう。そこでMn量は0.5〜2.0%の範囲内とした。またここで製品板中における固溶Mnは、加工時の回復を抑制する効果および塗装焼付け時の軟化を低減する効果があり、そこでこの発明では後に改めて説明するように、材料中のトータルMn量のみならず、製品板中のMn固溶量をも規定している。
【0025】
Fe:
Feは、Mnの晶出や析出を促進して、アルミニウム基地中のMn固溶量やMn系金属間化合物の分散状態を制御するために必要な元素である。適切な化合物分散状態を得るためには、Mn添加量に応じてFeを添加することが必要である。Fe量が0.1%未満では適切な化合物分散状態を得ることが困難であり、一方Fe量が0.7%を越えれば、Mn添加に伴なって初晶巨大金属間化合物が発生しやすくなり、成形性を著しく損なう。そこでFe量の範囲は0.1〜0.7%とした。
【0026】
Si:
Siの添加は、Mg2Si系化合物の析出による時効硬化を通じて缶胴材の強度向上に寄与する。またSiは、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物を生成して、Mn系金属間化合物の分散状態を制御するために必要な元素である。Si量が0.05%未満では上記の効果が得られず、一方0.5%を越えれば時効硬化により材料が硬くなりすぎて成形性を阻害する。そこでSi量の範囲は0.05〜0.5%とした。
【0027】
Cu:
Cuは、アルミニウム基地中に溶体化させておき、塗装焼付処理時にAl−Cu−Mg系析出物として析出することによる析出硬化を利用した強度向上に寄与する。Cu量が0.05%未満ではその効果が得られず、一方Cuを0.5%を越えて添加した場合には、時効硬化は容易に得られるものの、硬くなりすぎて成形性を阻害し、また耐食性も劣化する。そこでCu量の範囲は0.05〜0.5%とした。
【0028】
以上の各元素のほかは、基本的にはAlおよび不可避的不純物とすれば良いが、必要に応じてTi、Cr、Znのうちの1種または2種以上を添加しても良い。これらのTi、Cr、Znについてさらに詳細に説明する。
【0029】
Ti:
通常のアルミニウム合金においては、鋳塊結晶粒微細化のためにTiを微量添加することが行なわれており、この発明においても、必要に応じて微量のTiを添加しても良い。但しTi量が0.005%未満ではその効果が得られず、一方0.20%を越えれば巨大なAl−Ti系金属間化合物が晶出して成形性を阻害するため、Tiを添加する場合のTi量は0.005〜0.20%の範囲内とした。またTiとともに微量のBを添加すれば鋳塊結晶粒微細化の効果が向上することが知られており、そこでこの発明の場合もTiとともに微量のBを添加することは許容される。このようにTiと併せてBを添加する場合、B量が0.0001%未満ではその効果がなく、0.05%を越えればTi−B系の粗大粒子が混入して成形性を害することから、TiとともにBを添加する場合のB量は0.0001〜0.05%の範囲内ととすることが望ましい。
【0030】
Cr:
Crは強度向上に効果的な元素であるが、0.05%未満ではその効果が少なく、0.3%を越えれば巨大晶出物生成によって成形性の低下を招くため、好ましくない。そこでCrを添加する場合のCr量の範囲は0.05〜0.3%とした。
【0031】
Zn:
Znの添加はAl−Mg−Zn系粒子の時効析出による強度向上に寄与するが、0.05%未満ではその効果が得られず、0.5%を越えれば、強度への寄与については問題がないが、耐食性を劣化させる。そこでZnを添加する場合のZr量の範囲は0.05〜0.5%とした。
【0032】
さらにこの発明の缶胴用アルミニウム合金硬質板においては、合金の成分組成を前述のように調整するばかりでなく、製品板中における固溶元素の固溶量を適切に調整する必要がある。そしてこの発明では、各固溶元素のうち、代表的なMnについてその固溶量を定めるとともに、その他の固溶元素を含めた総合的な固溶量の指標として導電率を定めた。
【0033】
すなわち、固溶元素は回復の抑制や塗装焼付け時における軟化の抑制などに効果があり、塗装焼付け後に適切な強度を得るためには、各元素の添加量だけではなく、固溶元素の固溶量を適切に制御する必要がある。そしてこの発明では、最も大きな影響を与えるMn固溶量を0.05〜0.35%の範囲内とするとともに、Mnのほかの固溶元素Mg、Cu、Si、Feの固溶量を、板の導電率を指標として34〜45IACS%の範囲内とすることによって、しごき性およびフランジ成形性を損なうことなく、塗装焼付け後に必要な高強度を得ることが可能となったのである。
【0034】
ここで、Mn固溶量が0.05%未満では、必要な強度を得ることが困難となり、一方0.35%を越えればしごき性およびフランジ成形性が悪くなる。したがってMn固溶量は0.05〜0.35%の範囲内とした。
【0035】
またMnのほかMg、Cu、Si、Fe等の総合的な固溶量の指標となる板の導電率が34IACS%未満では、全体の固溶量が多過ぎて、しごき性およびフランジ成形性が悪くなり、一方導電率が45IACS%を越えれば、全体の固溶量が少な過ぎて強度不足となるおそれがあり、そこで板の導電率を34〜45IACS%の範囲内に定めた。
【0036】
そしてまたこの発明の缶胴用アルミニウム合金硬質板では、板の表面やそれに近い部分(板表層の部位および板厚の1/4の部位)の集合組織を適切に制御することが、他の特性に悪影響を与えることなくしごき性を向上させるために重要である。
【0037】
すなわち、本願発明者等の詳細な実験によれば、d0、d1/4、C0、C1/4を、それぞれ
d0:板表層におけるβファイバに属するCu方位、S方位、Bs方位の各方位密度の合計
d1/4:板表面から板厚方向に板厚の1/4の深さの部位におけるβファイバに属するCu方位、S方位、Bs方位の各方位密度の合計
C0:板表層におけるCube方位の方位密度
C1/4:板表面から板厚方向に板厚の1/4の深さの部位におけるCube方位の方位密度
と規定した場合、次の(1)式
(d0+d1/4)>(C0+C1/4) ・・・(1)
を満たすように板の集合組織を調整することによって、しごき性を従来と比較して格段に向上させ得ることを見出し、この発明において(1)式を規定した。(1)式が満たされなければ充分なしごき性向上効果が得られない。
【0038】
なお各方位密度は、X線回折装置を用い、Schulz反射法により、{200}、{220}、{111}の不完全極点図を測定し、これらをもとに三次元結晶方位解析(ODF)を行なって得たものとする。またここで、Cu方位は{112}<111>方位、S方位は{123}<634>方位、Bs方位は{110}<112>方位、Cube方位は{001}<100>方位がそれぞれ理想方位であるが、これら理想方位を中心に方位差15°の範囲内のものも含むものとする。
【0039】
なおまた、d0、C0の各方位密度については板の表層と規定しているが、これは板の表面で測定した方位密度を意味する。
【0040】
次に前述のような発明の缶胴用アルミニウム合金硬質板を得るための製造プロセスについて説明する。
【0041】
先ず前述のような合金組成を有するアルミニウム合金鋳塊を、常法にしたがってDC鋳造法(半連続鋳造法)により鋳造する。次いでその鋳塊に対して均質化処理を行ない、鋳塊の偏析を均質化するとともにMn、Fe、Si系の第2相粒子サイズと分布を最適化する。またこのような第2相粒子のサイズと分布は最終板の集合組織に影響を及ぼすこともある。均質化処理温度が520℃未満では、均質化効果が不充分であるばかりでなく、最適な集合組織が得られなくなるおそれがあり、一方630℃を越えれば、共晶融解のおそれがある。また均質化処理の時間は、1時間未満では均質化効果が不充分となるばかりでなく、最適な集合組織が得られないおそれがある。したがって均質化処理条件は、520〜630℃の範囲内の温度で1時間以上と規定した。なお均質化処理時間の上限は特に規定しないが、経済性を考慮して48時間以下とすることが好ましい。
【0042】
均質化処理を施した鋳塊に対しては、熱間圧延を行なう。ここで、熱間圧延後に焼鈍を施さない方式を適用する場合、後述するように熱間圧延上がり板の状態で90%以上の再結晶率で再結晶している必要があり、また熱間圧延中の再結晶挙動は集合組織の制御を通じて耳率の低減およびしごき性の向上に大きな影響を与える。そこで熱間圧延開始温度や熱間圧延終了温度(熱延上がり温度)のみならず、熱間圧延中における板厚50mmの段階から熱延上がりまでの諸条件や、熱延上がり後、室温近くの温度(100℃以下の温度)に冷却されるまでの間の条件などを厳密に規定することが好ましい。具体的には、次の(1)〜(6)の条件とする。
【0043】
(1)熱間圧延開始温度を350〜590℃の範囲内とする
(2)板厚50mmから上がり板厚までの熱間圧延中において、材料温度を280〜450℃の範囲内に制御するとともに、各パスの歪み速度を2.0〜350/秒に制御し、かつ各パス間での滞留時間を10分以内に制御する
(3)板厚50mmから上がり板厚までの熱間圧延中において圧延ロールと板との接触部分の平均温度を350℃以下に保持する
(4)熱間圧延上がりの材料温度を280〜350℃の範囲内とする
(5)熱間圧延上がり板厚を1.5〜2.8mmの範囲とする
(6)熱間圧延上がりの280〜350℃の範囲内の温度から100℃以下の温度までの平均冷却速度を100℃/時間以下に制御する
【0044】
なお熱間圧延の仕上げ圧延機としては、リバーシング・ミルおよびリバーシング・ウォームミルを用いる場合、あるいは熱間圧延の粗圧延および仕上げ圧延兼用の圧延機としては、リバーシング・ミルを用いる場合を想定しており、上記の(1)〜(6)の条件も、少なくとも仕上げ圧延にリバース方式の圧延機を用いた場合に有効な条件として規定している。そしてまた上記の各条件中、「板厚50mmから上がり板厚までの熱間圧延中」とは、リバース方式による仕上げ圧延中に含まれる。
【0045】
上記(1)〜(6)の熱間圧延条件について次に詳細に説明する。
【0046】
(1)熱間圧延開始温度を350〜590℃の範囲内とする:
熱間圧延開始温度は、熱間圧延中の材料の回復、再結晶挙動に強い影響を及ぼす。熱間圧延開始温度が350℃未満では、圧延中に再結晶が起こりにくく、材料の延性が低下し、圧延中に板のエッジ割れ現象が生じやすい。一方590℃を越えた温度で熱間圧延を開始すれば、粗大な結晶粒が形成されやすく、板の表面品質が低下する。そこで熱間圧延開始温度は350〜590℃の範囲内とした。
【0047】
(2)板厚50mmから上がり板厚までの熱間圧延中において、材料温度を280〜450℃の範囲内に制御するとともに、各パスの歪み速度を2.0〜350/秒に制御し、かつ各パス間での滞留時間を10分以内に制御する:
熱間圧延中における板厚50mmの段階から仕上げ板厚までの熱間圧延諸条件は、再結晶挙動、適切な集合組織の形成に大きな影響を与える。この段階での材料温度、各パス歪み速度、各パス間滞留時間を上述のように定めて組合せることにより、熱間圧延板の再結晶挙動を調整し、板の集合組織を熱間圧延の段階から制御することによって、最終板での集合組織が前記(1)式を満足させることが可能となる。この段階で材料温度が280℃未満となれば、表面品質の低下と熱間圧延中の深刻なエッジ割れを招くおそれがあり、一方この段階の材料温度が450℃を越えれば、再結晶の進行が早まって、所要の集合組織が得られなくなる。またこの段階での各パスの歪み速度が2.0/秒未満では、生産性の低下を招き、一方350/秒を越えれば、エッジ割れや板表面品質の低下を招き、圧延負荷の過大化を招くおそれがある。さらに材料のパス間滞留時間が10分以上では、滞留中に回復と再結晶が進行し、所要の集合組織が得られなくなるおそれがあり、また生産性の低下をも招く。したがってこれらの条件を前述のように定めた。
【0048】
(3)板厚50mmから上がり板厚までの熱間圧延中において圧延ロールと板との接触部分の平均温度(ロール表面平均温度)を350℃以下に保持する:
板の集合組織、特に表層の集合組織の形成には、圧延ロール表面の状態、特にその温度が大きな影響を与える。50mmを越える厚板の段階ではその影響は小さいが、板厚50mmから上がり板厚までの間では、圧延ロール表面温度が板表層の集合組織形成に大きな影響を与える。ここで、熱間圧延においては、圧延板と圧延ロールの接触により圧延ロールの表面温度が室温より高くなるが、その圧延ロールと圧延板との接触部分の温度が350℃を越えれば、板の表層に適切な集合組織が得られなくなり、また板の表面品質の低下を招くおそれがある。そこでこの発明では、板厚50mmから仕上げ板厚までの間における圧延ロールと板との接触部分の平均温度を350℃以下に保持することとした。
【0049】
(4)熱間圧延上がりの材料温度を280〜350℃の範囲内とする:
熱間圧延の終了温度が280℃未満では、充分な再結晶が得られ難く、これをそのまま焼鈍せずに最終板厚まで冷間圧延した場合はDI缶の耳が高くなり、成形性の劣化を招く。一方熱間圧延終了温度が350℃を越える場合、材料は完全に再結晶するが、表面品質が低下してしまうおそれがある。そこで熱間圧延の終了温度は280〜350℃の範囲内とした。なおこの範囲内でも特に290〜340℃が好ましい。
【0050】
(5)熱間圧延上がり板厚を1.5〜2.8mmの範囲とする:
熱間圧延上がり板厚が1.5mm未満では、熱間圧延機での板厚精度の制御が困難となる。一方熱間圧延上がり板厚が2.8mmを越えれば、その後の冷間圧延率が高くなり過ぎて、高強度は容易に得られるが、耳率が大きくなってしまう。そこで熱間圧延上がり板厚は1.5〜2.8mmの範囲内とした。
【0051】
(6)熱間圧延上がりの280〜350℃の範囲内の温度から100℃以下の温度までの平均冷却速度を100℃/時間以下に制御する:
熱間圧延上がり材(コイル)の280〜350℃の範囲内の温度から100℃以下の温度までの冷却過程は、再結晶の進行過程であり、またCube方位結晶粒が成長する過程でもある。この過程での冷却速度が100℃/時間を越えれば、再結晶が充分に進行できず、Cube方位結晶粒の生成が不充分となる。その結果最終板の耳率を充分に低くすることができず、また成形性も低下するおそれがある。そこで熱間圧延上がりの280〜350℃の範囲内の温度から100℃以下の温度までの冷却過程の平均冷却速度を100℃/時間以下とした。
【0052】
以上のような(1)〜(6)の条件に従って、熱間圧延してコイルに巻上げ、さらに100℃以下の温度まで冷却した熱延板は、自己焼鈍により90%以上の再結晶率を達成することができ、このようなほぼ完全再結晶状態の組織の熱間圧延板に対しては、その後に改めて再結晶のための中間焼鈍を施すことなく、低コストで高品質の最終板に仕上げることができる。
【0053】
さらに、熱間圧延板の特性としては、耐力が120MPa以下で、しかも集合組織条件として、板表面から板厚方向に板厚の1/4の深さの部位におけるCube方位の方位密度がランダム方位の5〜140倍の範囲内で、かつ圧延集合組織に属するCu方位、S方位、Bs方位の各方位密度がそれぞれランダム方位の10倍以下となるように制御されているものとする。ここで、熱間圧延板における耐力が120MPaを越えている場合は、最終板において強度が高くなり過ぎ、しごき性の低下を招くおそれがある。また熱間圧延板における板厚1/4に相当する部位のCube方位の密度がランダム方位密度の5倍未満では、最終板に45°耳が高くなりやすく、一方140倍を越えれば、最終板に0−90°耳が高くなりやすい。さらに熱間圧延板における圧延集合組織に属するCu、S、Bs成分の方位密度がそれぞれランダム方位の10倍を越える場合は、最終板において45°耳が高くなりやすく、またしごき性の低下を招くおそれがある。
【0054】
熱間圧延板に対しては、その後に改めて再結晶のための中間焼鈍を施すことなく、最終板厚まで冷間圧延を行なう。ここで、冷間圧延率は65%以上とする必要がある。すなわち、中間焼鈍を施さずに最終冷間圧延率を65%未満にするためには、最終製品の板厚(通常0.35〜0.25mm)を考慮すれば、熱延上がり板を1mm未満にする必要があるが、そのようなことは実操業上極めて困難であるばかりでなく、材料の冷間加工硬化による強化が少なくなり、充分な材料強度が得られなくなるおそれがあり、さらには耳率の制御にも不利となる。したがって冷間圧延率は65%以上とした。
【0055】
以上のようにして得られた最終板(冷間圧延板)は、これをそのままDI缶胴に用いても良いが、最終板の延性の回復による成形性の向上を図るため、必要に応じて冷間圧延後の板に対し、80〜200℃の温度範囲で0.1〜24時間保持の条件で最終焼鈍(仕上げ焼鈍)を行なっても良い。この最終焼鈍の温度が80℃未満では、成形性の向上効果が不十分であり、一方200℃を越えれば、軟化による強度低下が大きくなる。また最終焼鈍の保持時間が0.1時間未満では成形性の向上効果が不十分となり、一方24時間を越えれば、成形性向上の効果が飽和し、コスト面で問題が生じる。なお、冷間圧延を高速で行なった場合に生じる加工熱を利用しても、上記の最終焼鈍と同様な焼鈍効果を得ることが可能である。
【0056】
【実施例】
表1に示す合金記号A〜Gの各合金について、常法に従ってDC鋳造法により鋳造した。得られた鋳塊に対し、均質化処理を施し、熱間圧延を行なってコイルに巻取り、100℃以下に冷却し、さらに冷間圧延を行なって最終板厚とし、一部のものについて最終焼鈍を行ない、最終板(製品板)とした。これらのプロセスの具体的な条件について、表2、表3の製造番号1〜12に示す。なお熱間圧延においては、仕上圧延機としてリバーシング・ミルを用いて、板厚50mm以下の段階での圧延はすべてリバーシング・ミルによるものとした。
【0057】
ここで、熱間圧延終了後100℃以下の温度まで冷却した段階で、その熱間圧延板について、強度(圧延方向の引張強さおよび耐力)を調べるとともに、その集合組織として、板表面から板厚方向に板厚の1/4の深さの位置のCube方位密度、Cu方位密度、S方位密度、Bs方位密度を測定したので、その結果を表3中に示す。
【0058】
また最終板について、板表層および板表面から板厚の1/4の部位のCube方位密度C0、C1/4と、同じく板表層および板表面から板厚の1/4の部位におけるβファイバに属するCu方位密度、S方位密度、Bs方位密度を調べ、板表層のCube方位密度C0と、板表面から板厚の1/4の部位のCube方位密度C1/4との和の値(C0+C1/4)を求め、同時に板表層のCu方位、S方位、Bs方位の各方位密度の合計d0と、板表面から板厚の1/4の部位のCu方位、S方位、Bs方位の各方位密度の合計d1/4との和の値(d0+d1/4)を求めたので、その結果を表4中に示す。
【0059】
なおここで上述のような各方位密度の測定、すなわち集合組織の測定は、次のようにして行なった。
【0060】
すなわち、板厚表層の集合組織を求めるにあたっては、圧延板そのままで、エッチングなしで測定サンプルとした。一方板厚の1/4に相当する部位の集合組織を求めるにあたっては、NaOH水溶液で表面から板厚の1/4に相当する部位までエッチングして測定サンプルとした。そしてX線回折装置を用い、Schulz反射法により、{200}、{220}、{111}の不完全極点図を測定し、これらをもとに三次元結晶方位解析(ODF)を行なった。なおCu方位は{112}<111>方位、S方位は{123}<634>方位、Bs方位は{110}<112>方位、Cube方位は{001}<100>方位がそれぞれ理想方位であるが、これら理想方位を中心に方位差15°のものもそれぞれの方位の結晶として算定した。
【0061】
さらに、前述のようにして得られた各最終板については、導電率(%IACS)と、Mn固溶量も調べたので、その結果を表4中に併せて示す。ここで導電率は、渦電流式導電率測定装置を用いて、銅、黄銅を基準試料として測定を行なった。
【0062】
前述のようにして得られた最終板(缶胴用の薄板)について、圧延方向と平行に採取した引張試験片を用いて元板の引張強度(TS)、耐力(YS)、伸び(EL)を測定し、また塗装焼付(ベーク)を想定した200℃×20分の熱処理を行なった後の引張強度(TS)、耐力(YS)、伸び(EL)を測定した。さらに元板の耳率を調べるとともに、しごき性の指標として「DI缶苛酷しごきの成功率」を調べるとともに、フランジ成形性(口拡げ性)の指標として口拡げ率を調べた。これらの結果を表4、表5に示す。
【0063】
ここで、耳率は、ポンチ径32mm、ブランク径56mmの条件でカップ深絞り試験を行なって調べた。またしごき性の指標としての「DI苛酷しごきの成功率」は、DI缶成形において第2のダイスを抜き、第1と第3のダイスのしごき率を55%としたときに、連続100缶の製缶で缶切れが発生しない缶の比率を調べた。さらにフランジ成形性(口拡げ性)の指標としての口拡げ率は、4段ネッキング後のDI缶について、トリミング、洗浄、ベークを行ない、そのDI缶の上部開口部分に、15°の勾配を有するポンチを、材料に割れが生じるまで押し込む試験を行ない、割れが生じるまでの口拡げ率を以下の式で求めた。
口拡げ率=[R1−R0]×100%
但し、R0:4段ネッキング後のDI缶開口部の半径(29mm)
R1:割れが生じる限界まで口拡げしたときの開口部の半径
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
表2〜表5において、製造番号1〜5は、いずれもこの発明で規定する成分組成範囲内の合金を用いて、前述の望ましい製造方法に従って製造した例である。これらの例では、表4、表5に示す通り、耳率が低く、ベーク後の強度も充分に高く、しかもしごき性とフランジ成形性にも優れた材料を得ることができた。
【0070】
これに対し製造番号6は、合金成分はこの発明で規定する範囲内であるが、製造方法が前述の望ましい範囲から外れたものである。すなわち熱間圧延における板厚50mm以降における最高温度が472℃と高く、この発明で規定する280〜450℃の範囲を外れ、また熱間圧延の上がり温度が256℃と低く、この発明で規定する280〜350℃の範囲を外れ、さらに熱間圧延上がり板の耐力が144MPaと高く、この発明で規定する120MPa以下の範囲を外れ、そしてまた熱間圧延板の集合組織と最終板の集合組織も、この発明で規定する範囲を外れたものであって、DI缶胴用の板として45°耳率が高く、苛酷しごきの成功率が低く、口拡げ率も劣った。
【0071】
また製造番号7は合金成分がこの発明で規定する範囲から外れたものであり、ベーク後の強度が不足し(注:DI缶の耐圧性などの点から、材料の耐力は240MPa以上が必要)、またしごき性とフランジ成形性も劣っていた。
【0072】
さらに製造番号8から製造番号10までの場合は、均質化処理あるいは熱間圧延の条件が前述の望ましい範囲を外れたため、熱間圧延中途からエッジ割れにより熱間圧延の続行が困難となってしまった。
【0073】
また製造番号11の場合は、熱間圧延ロールの表面温度が前述の望ましい範囲の上限を越えてしまったため、45°耳率が高く、またDI缶のしごき性も劣ってしまった。
【0074】
そしてまた製造番号12の場合は、均質化処理条件が前述の望ましい範囲を外れたため、0°、90°耳率が高く、またDI缶のしごき性も劣ってしまった。
【0075】
【発明の効果】
前述の実施例からも明らかなように、この発明によれば、DI缶胴用硬質板としてバランスの優れた板、すなわち塗装焼付後の強度として高強度を有すると同時に低耳率で、しかもしごき性およびフランジ成形性のいずれもが優れた板を得ることができる。そしてまた、熱間圧延後や冷間圧延中途における中間焼鈍を省略したプロセスで上述のような優れた材料を得ることができるところから、低コストで高品質の材料を得ることができる。
Claims (2)
- Mg0.5〜2.0%(mass%、以下同じ)、Mn0.5〜2.0%、Fe0.1〜0.7%、Si0.05〜0.5%、Cu0.05〜0.5%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金からなり、かつ板表層のβファイバに属するCu方位、S方位、Bs方位の各方位密度の合計をd0とするとともに、板表面から板厚方向に板厚の1/4の深さの位置におけるβファイバに属するCu方位、S方位、Bs方位の各方位密度の合計をd1/4とし、さらに板表層におけるCube方位の方位密度をC0とし、かつ板表面から板厚方向に板厚の1/4の深さの位置におけるCube方位の方位密度をC1/4とした場合に、次式
(d0+d1/4)>(C0+C1/4)
を満足し、さらにMn固溶量が0.05〜0.35%の範囲内でかつ導電率が34〜45IACS%の範囲内であることを特徴とする、缶胴用アルミニウム合金硬質板。 - 請求項1の缶胴用アルミニウム合金硬質板において、
前記アルミニウム合金の成分として、さらにCr0.05〜0.3%、Zn0.05〜0.5%、Ti0.005〜0.20%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする、缶胴用アルミニウム合金硬質板。
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