以下に、図面を参照しながら、本発明に係る液体吐出ヘッドの制御装置および液体吐出装置の実施形態を詳細に説明する。また、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではなく、以下の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想到できるもの、実質的に同一のもの、およびいわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下の実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換および変更を行うことができる。
(インクジェット記録装置の全体構成)
図1は、実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構造の一例を示す図である。図2は、実施形態に係るインクジェット記録装置の断面構成の一例を示す図である。図1および図2を参照しながら、本実施形態に係るインクジェット記録装置1の全体構成について説明する。
図1および図2に示すように、本実施形態に係るインクジェット記録装置1は、主走査方向に移動可能なキャリッジ11と、当該キャリッジ11に搭載したインクを吐出する記録ヘッド12と、当該記録ヘッド12へインクを供給するインクカートリッジ13と、を含む印字機構部10を備えている。また、インクジェット記録装置1は、下方部において前方側から多数枚の用紙22を積載可能、かつ抜き差し自在に装着可能な給紙カセット23と、用紙22を手差しで給紙するために開閉可能な手差しトレイ24と、給紙カセット23または手差しトレイ24から給紙された用紙22が所定の画像が印字された後に後面側に排紙するための排紙トレイ21と、を備えている。
キャリッジ11は、主走査方向に横架したガイド部材である主ガイドロッド31および従ガイドロッド32によって主走査方向に摺動自在に保持されている。記録ヘッド12は、キャリッジ11に搭載され、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(BK)の各色のインク滴を吐出し、主走査方向と交差する方向に配列され、かつ、吐出方向が下方向となるように形成された複数のインク吐出口(ノズル)を有する液体吐出ヘッドである。インクカートリッジ13は、記録ヘッド12に各色のインクを供給するために、キャリッジ11に交換可能に装着されている。また、インクカートリッジ13は、上方に形成された大気と連通する大気口と、下方に形成された記録ヘッド12へインクを供給する供給口と、内部に保有されたインクが充填された多孔質体と、を有する。この多孔質体は、毛管力により記録ヘッド12へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。なお、記録ヘッド12は、複数の色ごとにインク滴を吐出する複数のヘッドで形成されているものとしてもよく、または、各色のインク滴を吐出する複数のノズルを有する1つのヘッドで形成されているものとしてもよい。
また、インクジェット記録装置1は、主走査モータ33と、当該主走査モータ33の回転により回転駆動される駆動プーリ34と、当該駆動プーリ34と対となる従動プーリ35と、駆動プーリ34と従動プーリ35との間に張架されたタイミングベルト36と、を有する。キャリッジ11は、タイミングベルト36に固定されており、主走査モータ33の正逆転回転により主走査方向に往復移動する。
また、インクジェット記録装置1は、給紙ローラ41と、フリクションパッド42と、ガイド部材43と、搬送ローラ44と、搬送コロ45と、先端コロ46と、副走査モータ47と、を有する。
給紙ローラ41およびフリクションパッド42は、給紙カセット23にセットされた用紙22を記録ヘッド12の下方側に搬送するために、給紙カセット23から用紙22を分離給装する。ガイド部材43は、給紙ローラ41およびフリクションパッド42により分離給装された用紙22を、搬送ローラ44へ案内する。搬送ローラ44は、給紙された用紙22を反転させて記録ヘッド12の下方側へ搬送する。搬送コロ45は、用紙22を搬送ローラ44の周面に押し付ける。先端コロ46は、搬送ローラ44から搬送された用紙22の、記録ヘッド12の下方側への送り出し角度を規定する。副走査モータ47は、ギヤ列を介して給紙ローラ41を回転駆動させる。
また、インクジェット記録装置1は、印写受け部48と、搬送コロ49と、拍車50と、排紙ローラ51と、拍車52と、ガイド部材53、54と、を有する。
印写受け部48は、キャリッジ11の主走査方向の移動範囲に対応して給紙ローラ41から送り出された用紙22を、記録ヘッド12の下方側で案内するガイド部材である。搬送コロ49および拍車50は、印写受け部48の用紙搬送方向の下流側に設けられ、用紙22を排紙方向へ送り出すために回転駆動する部材である。排紙ローラ51および拍車52は、搬送コロ49および拍車50により送り出された用紙22を排紙トレイ21へ送り出すために回転駆動する部材である。ガイド部材53、54は、排紙経路を形成する部材である。
また、インクジェット記録装置1は、キャリッジ11の移動方向の端側の記録領域から外れた位置に配置され、記録ヘッド12の吐出不良を回復するための回復装置61を備えている。回復装置61は、キャッピング手段と、吸引手段と、クリーニング手段と、を有している。キャリッジ11は、印字待機中にはこの回復装置61側に移動し、キャッピング手段により記録ヘッド12がキャッピングされ、ノズル部の湿潤状態が保たれる。これによって、インクの乾燥による吐出不良が抑制される。また、記録ヘッド12は、記録と関係しないインクを吐出することにより、すべてのノズルのインクの粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
また、記録ヘッド12は、吐出不良が発生した場合等に、キャッピング手段によりノズルが密閉され、吸引手段によりチューブを通してノズルからインクと共に気泡等が吸い出され、クリーニング手段によりノズル付近に付着したインクおよびゴミ等が除去され、吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、インクジェット記録装置1の本体下部に設置された図示しない廃インク溜に排出され、廃インク溜の内部のインク吸収体に吸収保持される。
上述のようなインクジェット記録装置1は、記録(印刷)時には、キャリッジ11を移動させながら、画像データに応じて記録ヘッド12を駆動することにより、停止している用紙22にインクを吐出して1行分を記録し、用紙22を所定量だけ副走査方向に搬送後、次の行の記録を行う。また、インクジェット記録装置1は、記録終了信号、または、用紙22の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ、用紙22を排紙する。
(記録ヘッドの構成)
図3は、実施形態に係る記録ヘッドの要部断面図である。図4は、実施形態に係る記録ヘッドの個別電極および共通電極を説明するための断面図である。図5は、実施形態に係る記録ヘッドにおける保持基板を説明する図である。図3〜図5を参照しながら、本実施形態に係るインクジェット記録装置1の記録ヘッド12の構成について説明する。
図3に示すように、本実施形態に係る記録ヘッド12は、上側から、個別電極501、電気機械変換素子502、共通電極503、振動板504、圧力室基板505、ノズル板507の順で層状に構成されている。本発明の「積層体」は、振動板504、圧力室基板505、ノズル板507の順で層状に構成された物体に相当する。記録ヘッド12では、個別電極501、電気機械変換素子502および共通電極503が所望の形状となるようにエッチングされた後、絶縁保護膜(図4参照)が作製され、圧力室基板505(基板)のノズル側からエッチングされて、インクを吐出させるための圧力室506(液室)が作製される。記録ヘッド12では、高周波での吐出性能を確保するために、電気機械変換素子502、振動板504および絶縁保護膜の剛性を高める必要があり、高いヤング率を確保し、さらに厚膜化する必要がある。特に、振動板504に関しては、高周波での吐出性能を確保するため、SiO2、Si3N4、およびpoly−Siの各材料からなる複数の層から形成され、膜厚が1[μm]以上3[μm]以下で作製され、さらに、ヤング率が75[GPa]以上95[GPa]以下とすることが望ましい。
圧力室基板505は、シリコン単結晶基板が用いられることが望ましく、100〜600[μm]の厚みを持つことが望ましい。面方位としては、(100)、(110)、(111)の3種類があるが、半導体産業では、一般的に(100)、(111)が広く使用されており、本実施形態の圧力室基板505では、例えば、(100)の面方位を持つ単結晶基板が主に使用される。また、圧力室基板505において図3に示すような圧力室506を作製する場合、エッチングを利用してシリコン単結晶基板を加工していくが、この場合のエッチング方法としては、例えば、異方性エッチングが用いられる。ここで、異方性エッチングとは、結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えば、KOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。したがって、面方位(100)では、約54°の傾斜を有する構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では、深い溝を掘ることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができる。よって、圧力室基板505としては、(110)の面方位を持った単結晶基板を使用することも可能である。ただし、この場合、マスク材であるSiO2もエッチングされてしまう性質があるためこの点を留意して使用する必要がある。
また、圧力室506の幅としては、50[μm]以上70[μm]以下であることが望ましく、さらに望ましくは、55[μm]以上65[μm]以下とすることが望ましい。この値より大きくなると、残留振動が大きくなり高周波での吐出性能確保が難しくなり、この値より小さくなると、変位量が低下し、十分な吐出性能が確保できなくなる。
振動板504は、電気機械変換素子502によって発生した力を受けて変形変位し、圧力室506内のインクを、圧力室基板505の下部に形成されたノズル板507のノズル508からインク滴として吐出させる。そのため、振動板504としては、所定の強度を有したものであることが望ましい。作製方法としては、Si、SiO2、またはSi3N4等をCVD(Chemical Vapor Deposition)法により作製する方法が挙げられる。さらに、振動板504としては、図3に示すような電気機械変換素子502および共通電極503の線膨張係数に近い材料を選択することが望ましい。特に、電気機械変換素子502としては、一般的に材料としてPZTが使用されることから線膨張係数8×10−6[1/K]に近い線膨張係数として、振動板504としては、5×10−6〜10×10−6[1/K]の線膨張係数を有した材料が望ましく、さらには、7×10−6〜9×10−6[1/K]の線膨張係数を有した材料がより望ましい。
振動板504の具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム、または、これらの化合物等である。振動板504は、上述の物質を用いて、スパッタ法またはゾルゲル法を用いてスピンコータにて作製される。振動板504の膜厚としては、1〜3[μm]であることが望ましく、さらには1.5〜2.5[μm]であることがより望ましい。この範囲より小さいと、図3に示すような圧力室基板505における圧力室506の加工が難しくなり、この範囲より大きいと、振動板504が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる。
個別電極501および共通電極503は、その間に配置される電気機械変換素子502に対して電圧を印加することにより、電気機械変換素子502を変形変位させる電極である。個別電極501および共通電極503としては、例えば、高い耐熱性および低い反応性を有する白金が用いられる。ただし、鉛に対しては十分なバリア性を有するとはいえない場合もあるため、イリジウムもしくは白金−ロジウム等の白金族元素、またはこれらの合金膜を用いてもよい。また、個別電極501および共通電極503として、白金を使用する場合には、振動板504(特に、SiO2)との密着性が悪いために、Ti、TiO2、Ta、Ta2O5、Ta3N5等を先に積層することが好ましい。作製方法としては、スパッタ法、または真空蒸着等の真空成膜により作製する方法が挙げられる。個別電極501および共通電極503の膜厚としては、0.05〜1[μm]であることが望ましく、さらには0.1〜0.5[μm]であることがより望ましい。
また、個別電極501および共通電極503と、電気機械変換素子502との間に、SrRuO3、またはLaNiO3を材料とした酸化電極膜を形成するものとしてもよい。特に、共通電極503と電気機械変換素子502との間の酸化電極膜に関しては、その上に作製する電気機械変換素子502の配向制御に影響するため、配向優先させたい方位によって、選択される材料は異なる。例えば、電気機械変換素子502がPZTで形成された場合、(100)に優先配向させるため、LaNiO3、TiO2またはPbTiO3といったシード層を共通電極503上に作製し、その後、PZT膜である電気機械変換素子502を形成するものとすればよい。
また、個別電極501と電気機械変換素子502との間の酸化電極膜として、SrRuO3を用いた場合、その膜厚としては、20[nm]〜80[nm]が望ましく、30[nm]〜50[nm]がさらに望ましい。この膜厚範囲よりも薄いと、初期変位および変位劣化特性について十分な特性が得られない。一方、この膜厚範囲よりも厚いと、その後成膜したPZT(電気機械変換素子502)の絶縁耐圧が非常に悪くなり、かつ、電流リークが大きくなってしまう。
電気機械変換素子502は、個別電極501と共通電極503との間に形成された撓み変形を生じる圧電素子であり、双方の電極に電圧が印加されることによって変形変位する素子である。電気機械変換素子502としては、上述のように、例えば、PZTが用いられる。PZTとは、ジルコン酸鉛(PbTiO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体であり、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成は、PbZrO3と、PbTiO3との比率が53:47の割合であり、化学式で示すとPb(Zr0.53Ti0.47)O3と表され、一般には、PZT(53/47)と表される。電気機械変換素子502の材料としてPZT以外の複合酸化物としては、チタン酸バリウム等が挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。ただし、PZTの(100)面を優先配向とする場合においては、Zr/Tiの組成比率については、Ti/(Zr+Ti)で表したときに、0.45以上0.55以下であることが望ましく、0.48以上0.52以下であることがさらに望ましい。本実施形態においては、PZTの(100)面を優先配向させることが望ましく、その結晶の配向度は、以下の式(1)で示される。
ρ(hkl)=I(hkl)/ΣI(hkl) ・・・(1)
[ρ(hkl):(hkl)面方位の配向度、I(hkl):任意の配向のピーク強度、ΣI(hkl):各ピーク強度の総和]
上述の式(1)を用いて、X線回折法のθ−2θ測定で得られる各ピーク強度の総和を1としたときの各々の配向のピーク強度の比率に基づいて算出される(100)面配向の配向度は、0.75以上であることが望ましく、0.85以上であることがさらに望ましい。配向度が、上述の値以下になる場合には、圧電歪が十分得られず、変位量を十分確保できなくなる。上述のジルコン酸鉛(PbTiO3)およびチタン酸鉛(PbTiO3)のような材料は、一般式ABO3で記述され、A=Pb,Ba,Sr、B=Ti,Zr,Sn,Ni,Zn,Mg,Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として、(Pb1−xBax)(Zr,Ti)O3、(Pb1−xSrx)(Zr,Ti)O3と表され、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を補償する作用を示す。作製方法としては、スパッタ法またはゾルゲル法を用いてスピンコータにて作製される。その場合は、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得られる。
PZTをゾルゲル法により作製した場合、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ、均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製される。金属アルコキシド化合物は、大気中の水分により容易に加水分解してしまうため、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、またはジエタノールアミン等の安定化剤を適量添加してもよい。また、下地面の全面にPZT膜を得る場合、スピンコート等の溶液塗布法によって塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うため、クラックフリーな膜を得るには、一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整が必要になる。また、電気機械変換素子502の膜厚としては、1〜3[μm]であることが望ましく、1.5〜2.5[μm]であることがさらに望ましい。膜厚がこの範囲より小さいと、図3に示すような圧力室506の加工が難しくなり、この範囲より大きいと、下地が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる。
また、図4(a)に示すように、本実施形態に係る記録ヘッド12は、図1に示した個別電極501、電気機械変換素子502および共通電極503の露出した上面を覆うように形成された第1の絶縁保護膜511と、第1の絶縁保護膜511上に配設され個別電極501と導通する個別電極509と、第1の絶縁保護膜511上に配設され共通電極503と導通する共通電極510と、個別電極509、共通電極510および第1の絶縁保護膜511の上面を覆うように形成された第2の絶縁保護膜512と、をさらに有する。
図4(b)に示すように、第1の絶縁保護膜511には、個別電極501と同数のコンタクトホール509aが穿設されており、第1の絶縁保護膜511上に配設された個別電極509は、コンタクトホール509aを介して、個別電極501と接触(導通)している。また、第1の絶縁保護膜511には、コンタクトホール510aが穿設されており、第1の絶縁保護膜511上に配設された共通電極510は、コンタクトホール510aを介して、共通電極503と接触(導通)している。
また、図4(a)に示すように、第2の絶縁保護膜512には、個別電極509および共通電極510の一部がそれぞれ露出されるように、一部開口されている。個別電極509の当該開口部を介して露出された部分は、図4(b)に示すように、個別電極パッド509bを形成している。個別電極501および個別電極509は、この個別電極パッド509bを介して、後述するように、振動板504を変形変位させるための駆動波形に基づく電圧が印加される。
また、共通電極510の当該開口部を介して露出された部分は、図4(b)に示すように、共通電極パッド510bを形成している。共通電極503および共通電極510は、この共通電極パッド510bを介して、後述するバイアス電圧が印加される。
また、記録ヘッド12は、図5に示すように、保持基板531によってキャリッジ11に保持される。図5に示すように、保持基板531は、各電気機械変換素子502の間に形成された接合面段差525に接合させるための段差が下面に形成されている。接合面段差525は、各電気機械変換素子502の間、すなわち、圧力室506の隔壁506aに対向する位置に形成されている。図5に示すように、圧力室506は、圧力室基板505において複数が形成され、それぞれ隔壁506aによって画定されている。接合面段差525は、圧力室506の隔壁506aに対向する共通電極503の部分に形成された第1の絶縁保護膜521、当該第1の絶縁保護膜521上に設置されたメタル配線523、および、メタル配線523を覆う第2の絶縁保護膜522によって形成される。このように、接合面段差525は、電気機械変換素子502による活性部には設けられておらず、かつ、圧力室506の隔壁506aに対向する位置に形成されているので、振動板504の変形変位に影響を及ぼさないものとなっている。
(電気機械変換素子に対する分極処理)
図6は、分極処理装置の構成の一例を示す図である。図7は、電気機械変換素子に対する分極処理の状態の一例を示す図である。図6および図7を参照しながら、電気機械変換素子に対する分極処理について説明する。
図6に示す分極処理装置1000は、電気機械変換素子に対する分極処理を行うための装置の一例である。分極処理装置1000は、コロナ電極1001と、グリッド電極1002と、サンプルステージ1003と、を備えている。
コロナ電極1001は、コロナ電源1001aからの高い電圧の印加によって、コロナ放電を発生させるための電極である。グリッド電極1002は、メッシュ形状の電極であり、グリッド電源1002aからの電圧の印加によって、コロナ電極1001のコロナ放電により発生した電荷を帯びたイオン等を、効率よく下方のサンプルステージ1003に降り注ぐようにするための電極である。サンプルステージ1003は、分極処理の対象となる電気機械変換素子であるウェハ1011を載置するためのステージであり、例えば、最大350度までの温度をかけることが可能な温調機能を有し、適切な温度をかけながらウェハ1011に対して分極処理が行われることを可能にする。このサンプルステージ1003は、分極処理を可能にするため、アースに接続されている。
上述のような構成の分極処理装置1000において、コロナ電極1001もしくはグリッド電極1002に印加される電圧、または、当該両電極とサンプルステージ1003との距離を調整することによって、コロナ電極1001からのコロナ放電の強弱をつけることができる。
図7には、上述のような分極処理装置1000を用いて、電気機械変換素子に対して分極処理を行った場合の電界強度Eおよび分極Pのヒステリシスの状態が示されている。具体的には、±150[kV/cm]の電界強度をかけて、ヒステリシスループを測定する。
まず、最初の0[kV/cm]の時の分極をPiniとし、次に+150[kV/cm]の電界強度となる電圧を印加後、0[kV/cm]の電界強度に戻したときの分極をPrとしたとき、Pr−Piniの値を分極率として定義する。そして、この分極率から電気機械変換素子の分極状態を判断する。この分極率Pr−Piniについては、10[μC/cm2]以下となっていることが望ましく、さらに5[μC/cm2]以下となっていることがより望ましい。この値に満たない場合は、PZTの電気機械変換素子として連続駆動後の変位劣化については十分な特定が得られない。
所望の分極率Pr−Piniを得るには、図6に示す分極処理装置1000において、コロナ電極1001もしくはグリッド電極1002に印加される電圧、または、当該両電極とサンプルステージ1003との距離を調整することによって達成することができる。以上のような分極処理を行った電気機械変換素子を、図1に示す電気機械変換素子502として適用する。
(抗電界のシフト)
図8は、抗電界がシフトする状態を説明する図である。図8に示すように、電気機械変換素子502について初期の状態の電界強度Eおよび分極Pのヒステリシスループから、電気機械変換素子502に対する駆動を繰り返すこと(図8の例では1010回の駆動)により、抗電界が電界強度Eの負側にシフトしていく性質がある。ここで、抗電界とは、分極の符号が反転するときの電界強度(図8に示すように、正負の抗電界がある)をいう。このような抗電界のシフトに伴い、電気機械変換素子502の出力(変位量)が変化するため、記録ヘッド12のインク滴の吐出特性も変動してしまう。そこで、本実施形態に係るインクジェット記録装置1では、後述するように、シフトする抗電界に基づいて共通電極503に印加されるバイアス電圧に対する補正処理を行うことによって、吐出特性の変動を抑制するものとしている。なお、本実施形態では、正負の抗電界のうち負側の抗電界に着目するものとする。
(インクジェット記録装置のハードウェア構成)
図9は、実施形態に係るインクジェット記録装置のハードウェア構成の一例を示す図である。図10は、実施形態に係るインクジェット記録装置の要部のハードウェア構成の一例を示す図である。図9および図10を参照しながら、本実施形態に係るインクジェット記録装置1のハードウェア構成について説明する。
図9に示すように、本実施形態に係るインクジェット記録装置1は、画像処理基板300と、メイン制御基板100と、ヘッド中継基板200と、を備えている。
画像処理基板300は、入力した画像データに対して画像処理を行う回路基板である。画像処理基板300は、図9に示すように、画像データに対して画像処理を実行する画像処理回路310を備えている。
メイン制御基板100は、画像処理された画像データに基づいて、用紙に印字するためのインク滴を吐出する電気機械変換素子502を駆動するための駆動波形の生成、およびバイアス電圧を決定して、ヘッド中継基板200に対して電気機械変換素子502を駆動するための電圧の印加を指令する基板(制御装置)である。メイン制御基板100は、図9に示すように、CPU(Central Processing Unit)101と、FPGA(Field−Programmable Gate Array)102と、RAM(Random Access Memory)103と、ROM(Read Only Memory)104と、NVRAM(Non−Volatile RAM)105と、モータドライバ106と、駆動波形生成回路107と、を備えている。
CPU101は、インクジェット記録装置1の全体動作の制御を司る演算装置である。CPU101は、RAM103を作業領域として利用し、ROM104に格納された各種の制御プログラムを実行することによって、インクジェット記録装置1における各種動作を制御する制御指令を出力する。CPU101は、FPGA102と通信しながら、FPGA102と協働してインクジェット記録装置1における各種の動作制御を行う。
FPGA102は、CPU101と協働してインクジェット記録装置1における各種動作を制御する集積回路である。FPGA102は、CPU制御部111と、メモリ制御部112と、I2C制御部113と、センサ処理部114と、モータ制御部115と、記録ヘッド制御部116と、を備えている。
CPU制御部111は、CPU101と通信する機能を有する。メモリ制御部112は、RAM103およびROM104にアクセスする機能を有する。I2C制御部113は、NVRAM105にアクセスする機能を有する。
センサ処理部114は、各種センサ130からのセンサ信号の処理を行う。各種センサ130は、インクジェット記録装置1における各種の状態を検知するセンサの総称である。各種センサ130には、エンコーダセンサ、用紙(記録紙)の通過を検知する用紙センサ、カバー部材の開放を検知するカバーセンサ、環境温度および湿度を検知する温湿度センサ、用紙を固定するレバーの動作状態を検知する用紙固定レバー用センサ、および、カートリッジのインク残量を検知する残量検知センサ等が含まれる。また、各種センサ130から出力されるアナログのセンサ信号は、例えば、メイン制御基板100等に実装されるADコンバータによりデジタル信号に変換されてFPGA102に入力される。
モータ制御部115は、各種モータ140の制御を行う。各種モータ140は、インクジェット記録装置1が備えるモータの総称である。各種モータ140には、キャリッジ11を動作させるための主走査モータ33、用紙(記録紙)を副走査方向に搬送するための副走査モータ47、および、用紙を給紙するための給紙モータ等が含まれる。
ここで、主走査モータ33の動作制御を例に挙げ、CPU101と、FPGA102のモータ制御部115との連携による制御の具体例を説明する。まず、CPU101が、モータ制御部115に対して、主走査モータ33の動作開始指示と共に、キャリッジ11の移動速度および移動距離を通知する。この指示を受けたモータ制御部115は、CPU101から通知された移動速度および移動距離の情報を基に駆動プロファイルを生成し、センサ処理部114から取得するエンコーダセンサのエンコーダ値との比較を行いながら、PWM指令値を算出してモータドライバ106に出力する。モータ制御部115は、所定の動作を終了するとCPU101に対して動作終了を通知する。なお、ここではモータ制御部115が駆動プロファイルを生成する例を説明したが、CPU101が駆動プロファイルを生成してモータ制御部115に指示する構成であってもよい。CPU101は、印字枚数のカウント、および主走査モータ33のスキャン数のカウント等も行っている。
記録ヘッド制御部116は、ROM104に格納されたヘッド駆動データ、吐出同期信号LINE、および吐出タイミング信号CHANGEを、駆動波形生成回路107に送り、駆動波形生成回路107に駆動波形信号Vcomを生成させる。駆動波形生成回路107が生成した駆動波形信号Vcomは、後述するヘッド中継基板200に実装された記録ヘッドドライバ210へ出力される。
次に、図10を参照しながら、インクジェット記録装置1の要部のハードウェア構成についてさらに説明する。
記録ヘッド制御部116は、吐出のタイミングのトリガとなるトリガ信号Trigを受信すると、駆動波形の生成のトリガとなる吐出同期信号LINEを、駆動波形生成回路107へ出力する。記録ヘッド制御部116は、さらに、吐出同期信号LINEからの遅延量を示す吐出タイミング信号CHANGEを、駆動波形生成回路107へ出力する。
駆動波形生成回路107は、ROM104から読み出した波形データを用い、吐出同期信号LINEおよび吐出タイミング信号CHANGEに基づいたタイミングで駆動波形信号Vcomを生成する。
さらに、記録ヘッド制御部116は、図9に示す画像処理回路310から画像処理後の画像データSD’を受信し、この画像データSD’に基づいて、記録ヘッド12の各ノズルから吐出させるインク滴の大きさに応じて駆動波形信号Vcomの所定波形を選択するためのマスク制御信号MNを生成する。このマスク制御信号MNは、吐出タイミング信号CHANGEに同期したタイミングの信号である。そして、記録ヘッド制御部116は、画像データSD’と、同期クロック信号SCKと、画像データSD’のラッチを指令するラッチ信号LTと、生成したマスク制御信号MNとを、記録ヘッドドライバ210に送信する。
記録ヘッドドライバ210は、図10に示すように、シフトレジスタ211と、ラッチ回路212と、階調デコーダ213と、レベルシフタ214と、アナログスイッチ215と、を備えている。
シフトレジスタ211は、記録ヘッド制御部116から送信された画像データSD’および同期クロック信号SCKを入力する。ラッチ回路212は、シフトレジスタ211の各レジスト値を、記録ヘッド制御部116から送信されたラッチ信号LTによってラッチする。
階調デコーダ213は、ラッチ回路212でラッチした値(画像データSD’)と、マスク制御信号MNとをデコードしたロジックレベル電圧信号を出力する。レベルシフタ214は、階調デコーダ213のロジックレベル電圧信号をアナログスイッチ215が動作可能なレベルへとレベル変換する。
アナログスイッチ215は、レベルシフタ214を介して与えられる階調デコーダ213のロジックレベル電圧信号でオン/オフするスイッチである。このアナログスイッチ215は、記録ヘッド12が備えるノズルごとに設けられ、各ノズルに対応する電気機械変換素子502の個別電極501に接続されている。また、アナログスイッチ215は、駆動波形生成回路107からの駆動波形信号Vcomを入力する。また、上述したように、マスク制御信号MNのタイミングが駆動波形信号Vcomのタイミングと同期している。したがって、アナログスイッチ215は、レベルシフタ214を介して与えられる階調デコーダ213のロジックレベル電圧信号に応じて適切なタイミングでオン/オフを切り替えることにより、駆動波形信号Vcomを構成する駆動波形の中から各ノズルに対応する電気機械変換素子502に印加される波形(駆動波形)が選択される。その結果、電気機械変換素子502に対応する個別電極501に駆動波形の電圧が印加され、ノズルから吐出されるインク滴の大きさが制御される。
なお、図9および図10に示したインクジェット記録装置1のハードウェア構成は、一例を示すものであり、図9および図10に示した構成要素をすべて含む必要はなく、または、その他の構成要素を含むものとしてもよい。
(インクジェット記録装置の機能ブロック構成)
図11は、実施形態に係るインクジェット記録装置の機能ブロック構成の一例を示す図である。図12は、実施形態に係るインクジェット記録装置の駆動波形およびバイアス電圧の一例を示す図である。図13は、大滴のインク滴を吐出するための滴制御信号および駆動波形の一例を示す図である。図14は、中滴のインク滴を吐出するための滴制御信号および駆動波形の一例を示す図である。図15は、小滴のインク滴を吐出するための滴制御信号および駆動波形の一例を示す図である。図16は、微駆動の動作をさせるための滴制御信号および駆動波形の一例を示す図である。図17は、実施形態に係るインクジェット記録装置がバイアス電圧の補正に用いる補正テーブルの一例を示す図である。図11〜図17を参照しながら、本実施形態に係るインクジェット記録装置1の機能ブロック構成について説明する。
図11に示すように、本実施形態に係るインクジェット記録装置1は、画像処理部600と、制御部700と、温度計測部750と、ヘッド駆動部800(駆動部)と、記録ヘッド12と、を含む。
画像処理部600は、入力した画像データに対して、階調処理および画像変換処理を含む画像処理を実行し、記録ヘッド制御部116で処理可能な形式の画像データに変換する機能部である。画像処理部600は、図11に示すように、インターフェース部601と、階調処理部602と、画像変換部603と、画像データ記憶部604と、を含む。画像処理部600は、図9に示す画像処理回路310によって実現される。
インターフェース部601は、画像データの入出力部であり、制御部700(CPU101およびFPGA102)との通信インターフェースである。
階調処理部602は、インターフェース部601により入力された多値の画像データに対して階調処理を行い、少値の画像データへ変換する機能部である。少値の画像データとは、記録ヘッド12が吐出する液滴の種類(大滴、中滴、小滴)に等しい階調数の画像データである。そして、階調処理部602は、変換した画像データを、画像データ記憶部604上に1バンド分以上記憶させる。1バンド分の画像データとは、記録ヘッド12が1度の主走査方向の走査で印刷可能な最大の副走査方向の幅に相当する画像データを指す。
画像変換部603は、画像データ記憶部604上の1バンド分の画像データについて、主走査方向での1度の走査(1スキャン)で出力する画像単位で、画像データを変換する機能部である。具体的には、画像変換部603は、インターフェース部601を介してCPU101から受信した、印字順序および印字幅(1スキャンあたりの画像印刷の副走査方向の幅)の情報に従って、記録ヘッド12の構成に合せて変換する。
印字順序および印字幅は、記録媒体に対して1回の主走査方向の走査で画像を形成する1パス印字でもよく、または、記録媒体の同一領域に対して同一のノズル群もしくは異なるノズル群によって複数回の主走査方向の走査で画像を形成するマルチパス印字を用いてもよい。また、主走査方向にヘッドを並べて、同一領域を異なるノズルで打ち分けてもよい。これらの記録方法は適宜組み合わせて用いることができる。ここで、印字幅とは、記録ヘッド12の1度の主走査方向での走査(1スキャン)で記録する画像の、副走査方向の幅を示す。本実施形態では、CPU101によって、印字幅が設定される。
そして、画像変換部603は、変換した画像データSD’を、インターフェース部601を介して、制御部700へ出力する。
制御部700は、画像処理部600によって画像処理された画像データに基づいて、用紙(記録媒体)に印字するためのインク滴を吐出する電気機械変換素子502を駆動するための駆動波形の生成、およびバイアス電圧を決定して、ヘッド駆動部800に対して電気機械変換素子502を駆動するための電圧の印加を指令する機能部である。制御部700は、図11に示すように、入力部701と、印加時間計測部702(計測部)と、電圧補正部703と、駆動波形生成部704と、バイアス電圧指令部705と、記憶部706と、を含む。制御部700は、図9に示すメイン制御基板100によって実現される。
入力部701は、画像処理部600によって画像処理が行われた画像データSD’を入力する機能部である。入力部701は、図9に示すCPU101により実行されるプログラム、またはFPGA102によって実現される。
印加時間計測部702は、駆動波形生成部704により生成された駆動波形の電圧がヘッド駆動部800から記録ヘッド12(個別電極501)に印加されている場合、この駆動波形の電圧のうち中間電位となっている印加時間を計測(積算)する機能部である。ここで、中間電位とは、0[V]から所定量だけ引き上げられた電圧であって、インクを吐出するための図12に示す駆動波形の一例のように、電圧が上下する場合の基準となる電圧をいうものとする。また、本実施形態での中間電位は、図12に示すように、直流電圧であるバイアス電圧よりも高い電圧に設定される。図12に示す例では、インクを吐出する場合に駆動波形の電圧が上下する(図12では電圧が下降して、中間電位に戻った例を示す)とき以外は中間電位となっている。印加時間計測部702は、図9に示すCPU101により実行されるプログラム、またはFPGA102によって実現される。
電圧補正部703は、印加時間計測部702により計測された中間電位の印加時間から、電気機械変換素子502の抗電界のシフト量を推定し、当該抗電界のシフト量から、共通電極503に印加するバイアス電圧のシフト量を求めて、当該シフト量によりバイアス電圧を補正する機能部である。具体的には、電圧補正部703は、記憶部706に記憶された後述する補正情報713を参照し、中間電位の印加時間に対応するバイアス電圧のシフト量を直接求め、当該シフト量によりバイアス電圧を補正して、抗電界がシフトした分だけバイアス電圧がシフトするようにする。ただし、電圧補正部703は、補正したバイアス電圧が、抗電界の絶対値よりも小さい値となるようにする。この場合、電圧補正部703は、補正して求めたバイアス電圧の情報を、記憶部706に記憶させるものとしてもよい。また、電圧補正部703による共通電極503に印加するバイアス電圧の補正は、結果的に、個別電極501と共通電極503との間の印加電圧に対する補正となる。
ここで、補正情報713の一例として、図17に補正テーブル901を示す。補正テーブル901は、中間電位の印加時間(図17に示す補正タイミングに対応)と、バイアス電圧のシフト量(補正量)とを関連付けた情報である。図17に示す補正テーブル901では、例えば、補正タイミング(中間電位の印加時間)が200000[sec]である場合、バイアス電圧のシフト量が0.25[V]であることが示されている。
なお、図17に示す補正テーブル901は、テーブル形式の情報としているが、これに限定されるものではなく、中間電位の印加時間とバイアス電圧のシフト量とを互いに関連付けて管理することができれば、どのような形式の情報であってもよい。また、補正テーブル901で規定するバイアス電圧のシフト量は、例えば、基準電圧(例えば、初期のバイアス電圧)からのシフト量であってもよく、または、現在のバイアス電圧からのシフト量であってもよい。
電圧補正部703は、図9に示すCPU101により実行されるプログラム、またはFPGA102によって実現される。
駆動波形生成部704は、記憶部706に記憶された後述する基準波形情報711を用いて、入力部701により入力された画像データSD’等に基づいて、記録ヘッド12の個別電極501に印加する電圧の駆動波形(図10に示す駆動波形信号Vcomに相当)を生成する機能部である。また、駆動波形生成部704は、例えば、記憶部706に記憶された後述する温度情報712を用いて、インクの温度による特性の変化に応じて、駆動波形を生成する。駆動波形生成部704は、生成した駆動波形をヘッド駆動部800へ送信する。
駆動波形生成部704は、例えば、図12に示すような駆動波形を生成する。図12に示すように、駆動波形は、上述した中間電位を基準として電圧を上下させることにより、記録ヘッド12のノズルからインク滴を吐出させるための電圧波形である。次に、図13〜図16を参照しながら、各種の大きさのインク滴を吐出させるための駆動波形について説明する。図13に、記録ヘッド12から大滴のインクを吐出させるための駆動波形、および当該駆動波形による電圧の印加タイミングを規定する滴制御信号の一例を示す。滴制御信号は、信号レベルがHigh状態の期間に、駆動信号による電圧の印加を行うことを示す信号である。すなわち、図13に示すように、大滴のインクを吐出させるための駆動波形は、滴制御信号がHigh状態の場合に、中間電位を基準として上下する波形となっている。このような図13に示す駆動波形による個別電極501への電圧印加によって、記録ヘッド12のノズルから大滴のインクが記録媒体に吐出される。
図14に、記録ヘッド12から中滴のインクを吐出させるための駆動波形、および当該駆動波形による電圧の印加タイミングを規定する滴制御信号の一例を示す。図14に示すように、中滴のインクを吐出させるための駆動波形は、滴制御信号がHigh状態である2区間(時間軸方向で前半の1区間、後半の1区間)において、中間電位を基準として上下する波形となっている。このような図14に示す駆動波形による個別電極501への電圧印加によって、記録ヘッド12のノズルから中滴のインクが記録媒体に吐出される。
図15に、記録ヘッド12から小滴のインクを吐出させるための駆動波形、および当該駆動波形による電圧の印加タイミングを規定する滴制御信号の一例を示す。図15に示すように、小滴のインクを吐出させるための駆動波形は、滴制御信号がHigh状態である時間軸方向の中盤の区間において、中間電位を基準として上下する波形となっている。このような図15に示す駆動波形による個別電極501への電圧印加によって、記録ヘッド12のノズルから小滴のインクが記録媒体に吐出される。
図16に、記録ヘッド12のノズル近傍のインクを微駆動させるための駆動波形、および当該駆動波形による電圧の印加タイミングを規定する滴制御信号の一例を示す。図16に示すように、ノズル近傍のインクを微駆動させるための駆動波形は、滴制御信号がHigh状態である時間軸方向の初期の区間において、中間電位を基準として上下する波形となっている。このような図16に示す駆動波形による個別電極501への電圧印加によって、ノズル近傍のインクを微駆動させる。このような、インクを微駆動させるための駆動波形は、インク滴を記録媒体に吐出させるためではなく、記録ヘッド12のノズル近傍でインクの乾燥による吐出不良を抑制するための電圧波形である。
上述の図13〜図16に示した滴制御信号は、上述したように、吐出させるインク滴の大きさに応じて駆動波形信号Vcomの所定波形を選択するためのマスク制御信号MNに相当するものである。
駆動波形生成部704は、例えば、図10に示す駆動波形生成回路107および記録ヘッド制御部116によって実現される。
バイアス電圧指令部705は、電圧補正部703により補正されたバイアス電圧を記録ヘッド12の共通電極503に印加するための指令を、ヘッド駆動部800へ送信する機能部である。バイアス電圧指令部705は、例えば、図10に示す駆動波形生成回路107および記録ヘッド制御部116によって実現される。
なお、本発明の「電圧指令部」は、駆動波形生成部704およびバイアス電圧指令部705に対応する。図11においては、駆動波形生成部704とバイアス電圧指令部705とが別々の機能部として示しているが、説明のために概念上別々の機能部としているものであり、実装上は同一の機能部を構成するものとしてもよい。
記憶部706は、ヘッド駆動部800による記録ヘッド12の駆動に必要となる情報を記憶する機能部である。記憶部706は、例えば、図11に示すように、基準波形情報711と、温度情報712と、補正情報713と、を記憶する。記憶部706は、例えば、図9に示すRAM103、ROM104およびNVRAM105の少なくともいずれかによって実現される。
基準波形情報711は、駆動波形生成部704による駆動波形を生成する基準となる波形情報である。温度情報712は、温度計測部750により計測されたインクジェット記録装置1の内部の温度情報であり、駆動波形生成部704による駆動波形の生成の際に参照される。補正情報713は、中間電位の印加時間と、バイアス電圧のシフト量とを関連付けた情報である。
温度計測部750は、インクジェット記録装置1の内部の温度を計測する機能部である。温度計測部750は、例えば、図9に示す各種センサ130によって実現される。
ヘッド駆動部800は、駆動波形生成部704から受け取った駆動波形の電圧を記録ヘッド12の個別電極501に印加し、バイアス電圧指令部705から受け取った指令に基づいて記録ヘッド12の共通電極503にバイアス電圧を印加する機能部である。ヘッド駆動部800は、図9に示す記録ヘッドドライバ210によって実現される。
なお、図11に示すインクジェット記録装置1の画像処理部600および制御部700に含まれる各機能部は、機能を概念的に示したものであって、このような構成に限定されるものではない。例えば、図11に示す画像処理部600および制御部700それぞれにおいて、独立した機能部として図示した複数の機能部を、1つの機能部として構成してもよい。一方、図11に示す画像処理部600および制御部700それぞれにおいて、1つの機能部が有する機能を複数に分割し、複数の機能部として構成するものとしてもよい。
(インクジェット記録装置の印刷動作)
図18は、実施形態に係るインクジェット記録装置の印刷動作の一例を示すフローチャートである。図18を参照しながら、本実施形態に係るインクジェット記録装置1の印刷動作の流れを説明する。
<ステップS11>
制御部700の入力部701は、画像処理部600によって画像処理が行われた画像データSD’を入力する。そして、ステップS12へ移行する。
<ステップS12>
制御部700の駆動波形生成部704は、記憶部706に記憶された基準波形情報711を用いて、入力部701により入力された画像データSD’等に基づいて、記録ヘッド12の個別電極501に印加する電圧の駆動波形を生成する。そして、駆動波形生成部704は、生成した駆動波形をヘッド駆動部800へ送信する。そして、ステップS13へ移行する。
<ステップS13>
制御部700のバイアス電圧指令部705は、記憶部706に記憶されたバイアス電圧の情報を読み出し、当該バイアス電圧を記録ヘッド12の共通電極503に印加するための指令を、ヘッド駆動部800へ送信する。そして、ステップS14へ移行する。
<ステップS14>
ヘッド駆動部800は、駆動波形生成部704から受け取った駆動波形の電圧を記録ヘッド12の個別電極501に印加し、バイアス電圧指令部705から受け取った指令に基づいて記録ヘッド12の共通電極503にバイアス電圧を印加する。そして、ステップS15へ移行する。
<ステップS15>
ヘッド駆動部800による個別電極501および共通電極503への電圧の印加開始後、制御部700の印加時間計測部702は、ヘッド駆動部800から記録ヘッド12(個別電極501)に印加されている駆動波形の電圧のうち、中間電位となっている印加時間を計測(積算)する。そして、ステップS16へ移行する。
<ステップS16>
記録ヘッド12は、ヘッド駆動部800による個別電極501および共通電極503への電圧の印加によって、ノズルからインクを吐出し、記録媒体に印刷を行う。そして、ステップS17へ移行する。
<ステップS17>
ヘッド駆動部800は、記録ヘッド12により所定分(例えば、主走査方向の1スキャン分)の印刷が終了すると、個別電極501および共通電極503への電圧の印加を終了する。そして、ステップS18へ移行する。
<ステップS18>
ヘッド駆動部800による個別電極501および共通電極503への電圧の印加終了後、制御部700の印加時間計測部702は、中間電位の印加時間の計測を終了する。印加時間計測部702は、計測した中間電位の印加時間を、例えば、記憶部706に記憶させ、記録ヘッド12によるインクの吐出動作の都度、印加時間を累積して計測していく。そして、ステップS19へ移行する。
<ステップS19>
制御部700の電圧補正部703は、印加時間計測部702により計測された中間電位の印加時間が所定時間に到達したか否かを判定する。例えば、電圧補正部703は、印加時間が図17に示す補正テーブル901で規定されている補正タイミングに到達したか否かを判定する。中間電位の到達時間が所定時間に到達した場合(ステップS19:Yes)、ステップS20へ移行し、到達していない場合(ステップS19:No)、ステップS21へ移行する。
<ステップS20>
電圧補正部703は、中間電位の印加時間から、電気機械変換素子502の抗電界のシフト量を推定し、当該抗電界のシフト量から、共通電極503に印加するバイアス電圧のシフト量を求めて、当該シフト量によりバイアス電圧を補正する。具体的には、電圧補正部703は、記憶部706に記憶された補正テーブル901を参照し、中間電位の印加時間に対応するバイアス電圧のシフト量を直接求め、当該シフト量によりバイアス電圧を補正する。そして、電圧補正部703は、補正して求めたバイアス電圧の情報を、記憶部706に記憶させる。そして、ステップS21へ移行する。
<ステップS21>
制御部700は、入力部701により入力された画像データSD’についてすべて印刷が終了したか否かを判定する。印刷が終了した場合(ステップS21:Yes)、印刷動作を終了し、印刷が終了していない場合(ステップS21:No)、ステップS11へ戻る。
以上のステップS11〜S21によって、本実施形態に係るインクジェット記録装置1の印刷動作が行われる。
上述のように、電気機械変換素子502は繰り返し駆動するに従って、電気機械変換素子502の抗電界がシフトするので、変位量が変動して記録ヘッド12の液滴吐出特性が不安定となる。これに対して、本実施形態に係るインクジェット記録装置1では、電気機械変換素子502の抗電界のシフト量に基づいて、共通電極503に印加するバイアス電圧を補正し、電気機械変換素子502の変位量を安定化させている。このような、抗電界のシフト量を考慮したバイアス電圧の補正によって、繰り返し駆動に対して電気機械変換素子502の負荷を低減させることができ、かつ、記録ヘッド12の液滴吐出特性の低下を抑制することができる。
また、電気機械変換素子502の特定の変動は、負側の抗電界の絶対値を超えるようなバイアス電圧を印加することで顕著となり、かつ、この変動は印加した累積時間が寄与している。そこで、本実施形態では、より具体的には、中間電位の印加時間を計測し、当該印加時間が所定時間に到達するたびに、抗電界がシフトした分だけバイアス電圧がシフトするように補正するものとしている。これによって、電気機械変換素子502のクラック等の故障の発生を抑制し、電気機械変換素子502の経時的な特性の変動を抑制することができ、ひいては、記録ヘッド12の液滴吐出特性の低下を抑制することができる。
なお、上述では負側の抗電界のシフト量に着目してバイアス電圧を補正するものとしているが、これに限定されるものではなく、正側の抗電界のシフト量に基づいてバイアス電圧を補正するものとしてもよい。
また、計測した中間電位の印加時間に基づいて補正を実施したが、これに限定されるものではなく、補正のタイミングとして他の基準となるような情報があればそれに基づいて補正を行うものとしてもよい。例えば、中間電位の印加時間ではなく、駆動波形の電圧の印加時間、すなわち、上述の図13〜図15に示す滴制御信号のON時間を計測するものとしてもよい。または、駆動波形の印加回数に基づいて、補正を行うものとしてもよい。駆動波形の印加回数は、例えば、記録ヘッド12のノズルごと(電気機械変換素子502ごと)に、インク滴が吐出された回数をカウントするものとすればよい。
(変形例1)
図19は、実施形態の変形例1に係るインクジェット記録装置がバイアス電圧の補正に用いる補正テーブルの一例を示す図である。図19を参照しながら、本実施形態の変形例1に係るインクジェット記録装置について、本実施形態に係るインクジェット記録装置1と相違する点を中心に説明する。
本変形例に係るインクジェット記録装置の制御部700の電圧補正部703は、印加時間計測部702により計測された中間電位の印加時間から、電気機械変換素子502のシフトした抗電界を推定し、当該抗電界とバイアス電圧との比が一定となるように、当該バイアス電圧を補正する。具体的には、電圧補正部703は、記憶部706に記憶された補正情報713を参照し、中間電位の印加時間に対応するバイアス電圧のシフト量を直接求め、当該シフト量によりバイアス電圧を補正して、抗電界とバイアス電圧との比が一定となるようにする。ただし、電圧補正部703は、補正したバイアス電圧が、抗電界の絶対値よりも小さい値となるようにする。この場合、電圧補正部703は、補正して求めたバイアス電圧の情報を、記憶部706に記憶させるものとしてもよい。また、電圧補正部703による共通電極503に印加するバイアス電圧の補正は、結果的に、個別電極501と共通電極503との間の印加電圧に対する補正となる。
ここで、補正情報713の一例として、図19に補正テーブル902を示す。補正テーブル902は、中間電位の印加時間(図19に示す補正タイミングに対応)と、抗電界とバイアス電圧との比が一定となるようなバイアス電圧のシフト量(補正量)とを関連付けた情報である。図19に示す補正テーブル902では、例えば、補正タイミング(中間電位の印加時間)が80000[sec]である場合、バイアス電圧のシフト量が0.25[V]であることが示されている。
なお、図19に示す補正テーブル902は、テーブル形式の情報としているが、これに限定されるものではなく、中間電位の印加時間とバイアス電圧のシフト量とを互いに関連付けて管理することができれば、どのような形式の情報であってもよい。また、補正テーブル902で規定するバイアス電圧のシフト量は、例えば、基準電圧(例えば、初期のバイアス電圧)からのシフト量であってもよく、または、現在のバイアス電圧からのシフト量であってもよい。
電圧補正部703は、図9に示すCPU101により実行されるプログラム、またはFPGA102によって実現される。
なお、本変形例に係るインクジェット記録装置のその他の機能ブロックの動作は、実施形態に係るインクジェット記録装置1と同様である。
以上のように、本変形例に係るインクジェット記録装置では、電気機械変換素子502の抗電界のシフト量に基づいて、共通電極503に印加するバイアス電圧を補正し、電気機械変換素子502の変位量を安定化させている。本変形例では、より具体的には、中間電位の印加時間を計測し、当該印加時間が所定時間に到達するたびに、抗電界とバイアス電圧との比が一定となるように、当該バイアス電圧を補正するものとしている。これによって、繰り返し駆動に対して電気機械変換素子502の負荷を低減させることができ、かつ、記録ヘッド12の液滴吐出特性の低下を抑制することができる。
(変形例2)
図20は、実施形態の変形例2に係るインクジェット記録装置がバイアス電圧の補正に用いる補正テーブルの一例を示す図である。図20を参照しながら、本実施形態の変形例2に係るインクジェット記録装置について、本実施形態に係るインクジェット記録装置1と相違する点を中心に説明する。
本変形例に係るインクジェット記録装置の制御部700の電圧補正部703は、印加時間計測部702により計測された中間電位の印加時間から、電気機械変換素子502のシフトした抗電界を推定し、抗電界の絶対値を超えない範囲で、かつ、吐出速度が最大となるように、バイアス電圧を補正する。具体的には、電圧補正部703は、記憶部706に記憶された補正情報713を参照し、中間電位の印加時間に対応するバイアス電圧のシフト量を直接求め、当該シフト量によりバイアス電圧を補正して、抗電界の絶対値を超えない範囲で、かつ、吐出速度が最大となるようにする。この場合、電圧補正部703は、補正して求めたバイアス電圧の情報を、記憶部706に記憶させるものとしてもよい。また、電圧補正部703による共通電極503に印加するバイアス電圧の補正は、結果的に、個別電極501と共通電極503との間の印加電圧に対する補正となる。
ここで、補正情報713の一例として、図20に補正テーブル903を示す。補正テーブル903は、中間電位の印加時間(図20に示す補正タイミングに対応)と、抗電界の絶対値を超えない範囲で、かつ、吐出速度が最大となるようなバイアス電圧のシフト量(補正量)とを関連付けた情報である。図20に示す補正テーブル903では、例えば、補正タイミング(中間電位の印加時間)が400000[sec]である場合、バイアス電圧のシフト量が0.1[V]であることが示されている。
なお、図20に示す補正テーブル903は、テーブル形式の情報としているが、これに限定されるものではなく、中間電位の印加時間とバイアス電圧のシフト量とを互いに関連付けて管理することができれば、どのような形式の情報であってもよい。また、補正テーブル903で規定するバイアス電圧のシフト量は、例えば、基準電圧(例えば、初期のバイアス電圧)からのシフト量であってもよく、または、現在のバイアス電圧からのシフト量であってもよい。
電圧補正部703は、図9に示すCPU101により実行されるプログラム、またはFPGA102によって実現される。
なお、本変形例に係るインクジェット記録装置のその他の機能ブロックの動作は、実施形態に係るインクジェット記録装置1と同様である。
以上のように、本変形例に係るインクジェット記録装置では、電気機械変換素子502の抗電界のシフト量に基づいて、共通電極503に印加するバイアス電圧を補正し、電気機械変換素子502の変位量を安定化させている。本変形例では、より具体的には、中間電位の印加時間を計測し、当該印加時間が所定時間に到達するたびに、抗電界の絶対値を超えない範囲で、かつ、吐出速度が最大となるように、バイアス電圧を補正するものとしている。これによって、繰り返し駆動に対して電気機械変換素子502の負荷を低減させることができ、かつ、記録ヘッド12の液滴吐出特性の低下を抑制する(吐出速度を最大にする)ことができる。
(変形例3)
図21は、実施形態の変形例3に係る記録ヘッドの要部断面図である。図21を参照しながら、本実施形態の変形例3に係る記録ヘッド12aの構成について、本実施形態に係る記録ヘッド12と相違する点を中心に説明する。
図21に示すように、本変形例に係る記録ヘッド12aは、上側から、共通電極503a、電気機械変換素子502、個別電極501a、振動板504、圧力室基板505、ノズル板507の順で層状に構成されている。
個別電極501aおよび共通電極503aは、その間に配置される電気機械変換素子502に対して電圧を印加することにより、電気機械変換素子502を変形変位させる電極である。
電気機械変換素子502は、個別電極501aと共通電極503aとの間に形成された圧電素子であり、双方の電極に電圧が印加されることによって変形変位する素子である。電気機械変換素子502としては、上述のように、例えば、PZTが用いられる。
以上のように、本変形例に係る記録ヘッド12aは、実施形態に係る記録ヘッド12と比較して、個別電極と共通電極とが上下逆の配置となっている。このような構成であっても、上述した個別電極への駆動波形の電圧の印加、および、共通電極へのバイアス電圧の印加によって、本実施形態に係るインクジェット記録装置1と同様の効果を奏する。
(記録ヘッド12の作製)
上述の実施形態、変形例1および変形例2に係るインクジェット記録装置の記録ヘッド12として、以下のように作製したものを用いて、吐出速度の変動評価を実施した。
6インチシリコンウェアに、SiO2(膜厚600[nm])、Si(膜厚200[nm])、SiO2(膜厚100[nm])、SiN(膜厚150[nm])、SiO2(膜厚1300[nm])、SiN(膜厚150[nm])、SiO2(膜厚100[nm])、Si(膜厚200[nm])、SiO2(膜厚600[nm])の順に形成した振動板504を作製した。その後、個別電極501および共通電極503の密着膜として、チタン膜(膜厚20[nm])を成膜温度350[℃]でスパッタ装置にて成膜した後に、RTA(Rapid Thermal Anneal:急速熱処理)を用いて750[℃]にて熱酸化し、引き続き金属膜として白金膜(膜厚160[nm])を成膜温度400[℃]でスパッタ装置にて成膜した。
次に、下地層となるPbTiO3層として、Pb:Ti=1:1に調整した溶液と、電気機械変換膜としてPb:Zr:Ti=115:49:51に調整された溶液を準備し、スピンコート法により膜を成膜した。具体的な前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは、熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、上述の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.5[モル/リットル]にした。Ptの溶液に関してもPZT同様に作製し、これらの液を用いて、最初にPt層をスピンコートにより成膜し、成膜後、120[℃]乾燥を実施し、その後、PZTの液をスピンコートにより成膜し、120[℃]乾燥して400[℃]熱分解を行った。3層目の熱分解処理後に、結晶化熱処理(温度730℃)をRTAにて行った。このとき、PZTの膜厚は240[nm]であった。この工程を計8回(24層)実施し、約2[μm]のPZT膜厚を得た。
次に、個別電極509および共通電極510の酸化物膜として、SrRuO3膜(膜厚40[nm])、金属膜としてPt膜(膜厚125[nm])をスパッタ成膜した。その後、東京応化工業社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィでレジストパターンを形成した後、ICP(Inductively Coupled Plasma)エッチング装置(サムコ社製)を用いて図4に示すようなパターンを作製した。
次に、第1の絶縁保護膜511として、ALD(Atomic Layer Deposition)工法を用いてAl2O3膜を50[nm]成膜した。このとき原材料としてAlについては、TMA(トリメチルアルミニウム)(シグマアルドリッチ社)、Oについてはオゾンジェネレータによって発生させたO3を交互に積層させることで、成膜を進めた。その後、図4に示すように、エッチングによりコンタクトホール509a、510aを形成したその後、メタル配線としてAlをスパッタ成膜し、エッチングによりパターニング形成し、第2の絶縁保護膜512としてSi3N4をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)により500[nm]成膜した。電気機械変換素子502は1つのチップ内に300個一列に並ぶようにレイアウトした。
この後、コロナ帯電処理により分極処理を行った。コロナ帯電処理にはΦ50[μm]のタングステンのワイヤを用い、グリッド電極としてステンレス製の開口率60[%]のグリッド電極を用いた。分極処理条件としては、処理温度80[℃]、コロナ電圧9[kV]、グリッド電圧1.5[kV]、処理時間30[sec]、コロナ電極−グリッド電極間距離4[mm]、グリッド電極−ステージ間距離4[mm]にて行った。
また、個別電極パッド509bおよび共通電極パッド510bを形成したが、個別電極パッド509b間の距離は80[μm]とした。その後、図3に示すように裏面のSiをエッチングして、圧力室506(幅60[μm])を形成した。このとき、圧力室506を保持するため、保持基板531を接合した後にウェハ裏面からSiエッチングを実施した。
(吐出速度の変動評価)
以上のように作製した記録ヘッド12によって、吐出速度の変動評価を実施した。具体的には、上述の実施形態、変形例1および変形例2で説明した駆動波形の電圧を個別電極501に印加させ、バイアス電圧を共通電極503に印加して、吐出速度の変動評価を実施した。
上述の実施形態に係る記録ヘッド12では、中間電位の印加時間を計測し、図17に示した補正テーブル901に従って、所定のタイミング(補正タイミング)に到達した際に、抗電界がシフトした分だけバイアス電圧がシフトするように補正するものとした。また、初期のバイアス電圧を5[V]とし、環境温度は25[℃]とした。以上のような条件で、記録ヘッド12の吐出速度の変動評価を実施した。
上述の変形例1に係る記録ヘッド12では、中間電位の印加時間を計測し、図19に示した補正テーブル902に従って、所定のタイミング(補正タイミング)に到達した際に、抗電界とバイアス電圧との比が一定となるようにバイアス電圧を補正するものとした。また、初期のバイアス電圧を5[V]とし、環境温度は25[℃]とした。以上のような条件で、記録ヘッド12の吐出速度の変動評価を実施した。
上述の変形例2に係る記録ヘッド12では、中間電位の印加時間を計測し、図20に示した補正テーブル903に従って、所定のタイミング(補正タイミング)に到達した際に、抗電界の絶対値を超えない範囲で、かつ、吐出速度が最大となるようにバイアス電圧を補正するものとした。また、初期のバイアス電圧を5[V]とし、環境温度は25[℃]とした。以上のような条件で、記録ヘッド12の吐出速度の変動評価を実施した。
また、上述の実施形態、変形例1および変形例2と比較する例(比較例1)として、バイアス電圧は補正せず一定の電圧、すなわち、初期のバイアス電圧5[V]の印加を継続して、記録ヘッド12の吐出速度の変動評価を実施した。また、環境温度は25[℃]とした。
また、上述の実施形態、変形例1および変形例2と比較するその他の例(比較例2)として、中間電位の印加時間を計測し、図23に示した補正テーブル904に従って、所定のタイミング(補正タイミング)に到達した際に、所定のシフト量でバイアス電圧を下げていく補正をするものとした。また、初期のバイアス電圧を5[V]とし、環境温度は25[℃]とした。以上のような条件で、記録ヘッド12の吐出速度の変動評価を実施した。
ここで、図23に示す補正テーブル904は、中間電位の印加時間(図23に示す補正タイミングに対応)と、バイアス電圧のシフト量とを関連付けた情報である。図23に示す補正テーブル904では、例えば、補正タイミング(中間電位の印加時間)が10000[sec]である場合、バイアス電圧のシフト量が0.4[V]であることが示されている。
上述の実施形態、変形例1、変形例2、比較例1および比較例2における記録ヘッド12の吐出速度の変化率の評価を行った結果を、図22に示す。なお、初期の吐出速度の変化率を100[%]としている。
実施形態、変形例1および変形例2のぞれぞれの評価結果から、液滴の吐出速度がほぼ100[%]で推移していることが確認された。このことから、上述の実施形態、変形例1および変形例2で説明した抗電界を考慮した方式でバイアス値を補正することによって液滴吐出特性の変動を抑制することが可能である。また、実施形態のように抗電界がシフトした分だけバイアス電圧をシフトさせる補正が、最も吐出速度の変動幅を小さくすることができる。また、実施例1のように抗電界とバイアス電圧との比が一定となるようにバイアス電圧を補正する場合、吐出速度は、駆動回数が多くなるに従って少し低下し始める傾向がある。また、実施例2のように抗電界の絶対値を超えない範囲で、かつ、吐出速度が最大となるようにバイアス電圧を補正する場合、吐出速度は、初期に少し高くなり、駆動回数が多くなるに従って少し低下し始める傾向がある。これは、電気機械変換素子502の特性に基づくものと考えられる。すなわち、抗電界のシフトは、電気機械変換素子502の分極軸が駆動電圧方向に揃うことが主因であると推測される。したがって、駆動回数が多くなると、すなわち、長時間駆動したことによって分極軸が駆動電圧方向に大部分が揃うと、バイアス電圧のシフトではない他の要因により特性変動が発生して、吐出速度がやや低下しているが、十分に特性変動の抑制がなされている。
一方で、比較例1においては、駆動開始後の初期から大きく吐出速度が低下している。また、比較例2においては、初期の吐出速度は比較的一定に保たれているが、駆動回数が多くなるに従って、吐出速度が上下している。これは、バイアス電圧を所定のシフト量で一律にシフトしていったことにより、抗電界を超えるようなバイアス電圧になってしまったことが要因と考えられる。
以上のように、実施形態、変形例1および変形例2では、バイアス電圧の設定は電気機械変換素子502の特性(抗電界の値)によって決定するものとしている。また、補正タイミングに至る時間を計測するのに駆動波形の中間電位を計測したが、これにより、図13〜図16に示すように、複数の吐出パルスを含む駆動波形、および、それに対応する滴制御信号により、吐出されるインク滴のサイズを制御するような波形においても、中間電位の印加時間を計測することで、補正することができる。