以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1,2には、本発明の1実施形態としての医療用コネクタ10が示されている。この医療用コネクタ10は、内部流路12を有する略筒状のハウジング14を備えている。また、内部流路12には、スリット16を有する弁部材18が配されており、当該弁部材18にシリンジなどの雄ルアー20(後述する図5〜7参照)を挿通してスリット16を押し開くことで、雄ルアー20の内側のルアー内流路22(後述する図5〜7参照)とハウジング14の内部流路12とが相互に連通されるようになっている。なお、以下の説明において、軸方向とは、ハウジング14の中心軸方向となる図1中の上下方向をいうとともに、径方向とはハウジング14の中心軸に対して直交する方向となる、例えば図1中の左右方向をいう。また、上下方向とは、図1中の上下方向をいう。
より詳細には、本実施形態のハウジング14は、上下方向で分割可能な構造とされており、何れも略筒形状とされた上方のカバー部材24と下方のベース部材26とを含んで構成されている。また、本実施形態のカバー部材24は、径方向で分割可能な構造とされており、何れも略筒形状とされた外周側の外側保持部28と内周側の内側保持部30とを含んで構成されている。本実施形態では、これらベース部材26、外側保持部28、内側保持部30が、硬質の合成樹脂により形成されている。
この外側保持部28は、何れも略筒状とされた周壁を備える上方の小径筒部32と下方の大径筒部34とが、径方向に広がる段差状の環状壁部36で一体的に接続された構造とされており、即ち当該環状壁部36の内周縁部から上方に小径筒部32が突出しているとともに、環状壁部36の外周縁部から下方に大径筒部34が突出している。換言すれば、外側保持部28の軸方向中間部分に環状壁部36が設けられており、当該環状壁部36よりも上方が小径筒部32とされている一方、環状壁部36よりも下方が大径筒部34とされている。
なお、本実施形態では、小径筒部32の内周面および外周面は、軸方向外方(上方)になるにつれて次第に径寸法が小さくなるテーパ面形状とされている。特に、本実施形態では、小径筒部32の内周面における軸方向に対する傾斜角度が、小径筒部32の外周面における軸方向に対する傾斜角度よりも大きくされており、小径筒部32が、上方に向かって次第に厚さ寸法(径方向寸法)が大きくなっている。
そして、かかる小径筒部32の突出先端(上端)には、内周側に突出する略環状の内周フランジ部38が形成されている。また、当該内周フランジ部38の突出先端(内周端)には、下方に突出する略環状の外側係合爪40が形成されている。これにより、当該外側係合爪40の外周側には、これら小径筒部32の周壁と内周フランジ部38と外側係合爪40とで構成されて、下方に開口する略環状の外側保持溝42が設けられている。
一方、小径筒部32の突出基端、即ち環状壁部36の内周端には、環状壁部36の下面から下方に突出する略環状の係止凸部44が設けられている。これにより、環状壁部36の下面において、係止凸部44と大径筒部34との径方向間には、下方に開口する略環状の嵌合溝46が形成されている。
なお、本実施形態では、かかる小径筒部32の外周面において、例えばルアーロックコネクタの雌ねじ部が螺合する雄ねじ部48が形成されている。当該雄ねじ部48は、例えばISO594やISO80369−7で規定された、ルアーロックコネクタの雌ねじ部との接続が可能な二条ねじとされる。
また、小径筒部32の外径寸法は、本実施形態のような雄ねじ部48を形成しない場合には、6.0〜7.0mmの範囲内で設定されることが好ましく、本実施形態のように雄ねじ部48を形成する場合には、ねじ山を含んだ外径寸法が7.2〜8.0mmの範囲内で設定されることが好ましい。
一方、本実施形態の大径筒部34は、内径寸法および外径寸法が略一定な略ストレート形状とされており、当該大径筒部34の軸方向寸法が、後述するベース部材26における支持筒部70の突出高さ寸法と略等しくされている。
また、内側保持部30は、全体として下方になるにつれて大径となる略テーパ筒形状とされており、当該内側保持部30の下端部分には、略一定の厚さ寸法(上下方向寸法)をもって外周側に突出する略環状の下端環状部50が設けられている。さらに、本実施形態において、下端環状部50の上面における径方向中間部分には、先細状の断面をもって上方に突出する略環状の係止凸部52が形成されており、後述する外側保持部28と内側保持部30との組付時において、外側保持部28から下方に突出する係止凸部44と内側保持部30から上方に突出する係止凸部52とが上下方向で相互に対向している。
なお、本実施形態において、内側保持部30の外周面と内周面は、軸方向の少なくとも中間部分において、何れも上方に向かって径寸法が次第に小径となるテーパ面とされている。特に、本実施形態において、内側保持部30の軸方向中間部分では、外周面における軸方向に対する傾斜角度が、内周面における軸方向に対する傾斜角度よりも大きくされており、内側保持部30の厚さ寸法(径方向寸法)が、上方に向かって次第に小さくなるようになっている。
そして、かかる内側保持部30の上端部分における厚さ寸法が小さくされた部分からは、内周側へ滑らかに狭まる、即ち外径寸法および内径寸法が上方に向かって次第に小さくなる略環状の受座部54が上方に突出して形成されているとともに、当該受座部54の内周縁部には、更に上方に向かって突出する略環状の内側係合爪56が設けられている。後述する外側保持部28と内側保持部30との組付時には、外側保持部28の内周フランジ部38と内側保持部30の受座部54とが上下方向で相互に対向するとともに、外側保持部28から下方に突出する外側係合爪40と内側保持部30から上方に突出する内側係合爪56とが上下方向で相互に対向するようになっている。
また、本実施形態では、内側係合爪56の内周面が湾曲面58とされており、湾曲面58の曲率中心が当該湾曲面58よりも外周側に位置している。かかる湾曲面58の曲率半径は、略全長に亘って略一定とされてもよいが、部分的に異ならされてもよい。特に、本実施形態では、外側係合爪40の内周端、即ち内周フランジ部38の内周面59の軸方向延長線上に、内側係合爪56の内周端、即ち湾曲面58において最も内周側に突出する部分が位置している。
さらに、本実施形態のベース部材26は、図3,4に組付前の単品状態が示されているように、上下方向に延びる中央筒状部60の外周側に周壁部62が設けられて、それぞれの上端部分が上底部64で連結されることにより構成されている。換言すれば、略環状とされた上底部64の内周縁部から下方に中央筒状部60が突出しているとともに、上底部64の外周縁部から下方に周壁部62が突出している。この中央筒状部60の軸方向寸法は周壁部62の軸方向寸法より大きくされており、周壁部62の内部において中央筒状部60が下方へ突出している。
なお、当該周壁部62の内周面には、雌ねじ部66が形成されており、ルアーロックコネクタなどの雄ねじ部と螺合可能とされている。一方、周壁部62の外周面には、上下方向に延びる凹部67が複数形成されており、周壁部62の外周面が、周方向で凹と凸が交互に繰り返す凹凸形状とされている。このように、周壁部62の外周面に凹凸形状が付されることで、使用者がベース部材26、ひいては医療用コネクタ10を容易に把持できるようにされている。
さらに、上底部64の上面には、径方向中間部分を周方向の略全周に亘って延びる略円環形状の固定用溝68が、上方に開口して形成されている。すなわち、固定用溝68よりも外周側には、上底部64の上面から上方に突出する略筒状の支持筒部70が形成されているとともに、固定用溝68よりも内周側には、上底部64の上面から上方に突出する略筒状の固定筒部72が形成されており、これら支持筒部70および固定筒部72の径方向間に固定用溝68が形成されている。なお、本実施形態では、支持筒部70の内周面が上方に向かって次第に外周側に傾斜していると共に固定筒部72の外周面が上方に向かって次第に内周側に傾斜しており、固定用溝68の開口幅寸法(径方向幅寸法)が、上方に向かって次第に拡開するようになっている。また、支持筒部70の外径寸法は、周壁部62の外径寸法より小さくされており、上底部64の上面における外周部分が、周方向の略全周に亘って連続する略環状の段差面74とされている。
かかるベース部材26は、カバー部材24(外側保持部28)と上下方向で重ね合わせた状態で超音波で溶融されることで、カバー部材24と相互に固着されるようになっている。
以上の如き構造とされた外側保持部28と内側保持部30とベース部材26とが相互に組み付けられることで、本実施形態のハウジング14が構成されている。
すなわち、本実施形態では、ハウジング14の内部流路12が、ベース部材26における中央筒状部60の内孔と固定筒部72の内孔とカバー部材24における内側保持部30との内孔とを含んで構成されている。そして、カバー部材24における外側保持部28と内側保持部30との間に弁部材18が組み付けられることで、ハウジング14の内部流路12に弁部材18が配されるようになっている。
ここにおいて、弁部材18は、ゴムやエラストマなどの弾性材により構成されている。なお、弁部材18の具体的な形状は何等限定されるものではないが、本実施形態の弁部材18は略ディスク形状とされており、中央部分78に上下方向に貫通するスリット16が形成されている。かかるスリット16の形状も、直線状や十文字など、何等限定されるものではないが、本実施形態のスリット16は、弁部材18の中央から三方向に、周方向で略等間隔に放射状に延びている。
また、弁部材18の外周部分には軸方向内外に突出する筒状支持部80が設けられている。そして、弁部材18の中央部分78と筒状支持部80とが周方向の略全周に亘って延びる環状連結部82で接続されていることにより、弁部材18が一体成形品として形成されている。
この環状連結部82は、弁部材18の中央部分78よりも厚さ寸法を小さくすることにより形成されており、即ち弁部材18における軸方向外面(上面)83a側および軸方向内面(下面)83b側の外周部分には、それぞれ周方向の略全周に亘って延びる溝状の外側環状溝84および内側環状溝86が形成されている。これら両環状溝84,86により弁部材18の外周部分には括れが形成されており、この括れ部分、即ち両環状溝84,86の底部の軸方向間が環状連結部82とされている。なお、これら両環状溝84,86の形状はそれぞれ、外側係合爪40および内側係合爪56に略対応するものとされて、それら外内の係合爪40,56が嵌め込まれ得るようになっている。
尤も、これら両環状溝84,86は、弁部材18の成形時に形成される必要はなく、弁部材18を外側保持部28および内側保持部30に組み付ける際に、軸方向外面83aおよび軸方向内面83bが、それぞれ外側係合爪40および内側係合爪56により押し込まれることで形成されるようになっていてもよい。また、これら外側係合爪40および外側環状溝84は、それぞれ環状に形成される必要はなく、周上の対応する位置に部分的に形成されてもよい。同様に、内側係合爪56および内側環状溝86も、それぞれ周上の対応する位置に部分的に形成されてもよい。
さらに、内側環状溝86の内周側の壁部には凹溝部88が形成されており、凹溝部88の内面形状が内側係合爪56の内周面である湾曲面58の形状に略対応している。これにより、後述する雄ルアー20の挿入時において、内側係合爪56における湾曲面58と凹溝部88の内面が重なって当接して、医療用コネクタ10内の内部流路12において隙間が形成されるおそれが軽減されている。
そして、環状連結部82の外周側に接続される筒状支持部80は、環状連結部82から軸方向外方(上方)に突出する上方支持部90と軸方向内方(下方)に突出する下方支持部92を含んで、筒状支持部80が構成されている。
要するに、上方支持部90は所定の軸方向寸法をもって環状連結部82から上方に突出していると共に、径方向幅寸法が外側保持溝42における径方向幅寸法と略同じか僅かに大きくされている。また、上方支持部90の内周面形状が外側係合爪40の外周面形状に略対応している一方、上方支持部90の外周面形状が小径筒部32の内周面形状に略対応している。更に、下方支持部92は所定の軸方向寸法をもって環状連結部82から下方に突出しており、本実施形態では、ハウジング14と弁部材18との組付時において、外側保持部28の環状壁部36よりも下方となる位置まで突出している。そして、下方支持部92の内周面形状が内側保持部30の外周面形状に略対応している一方、下方支持部92の外周面形状が外側保持部28の内周面形状に対応している。
また、弁部材18において、上方支持部90の上端部における外径寸法は、好適には5.0〜6.5mmの範囲内で設定される。当該外径寸法が5.0mmよりも小さいと、外径が略4.0mmに統一された標準的なルアーロックコネクタの雄ルアーの挿入が困難になるおそれがある一方、当該外径寸法が6.5mmよりも大きいと、医療用コネクタ10の特に小径筒部32の外径が大きくなって、標準的なルアーロックコネクタの雌ねじ部との接続が困難となるおそれがあるからである。
かかる構造とされた弁部材18がハウジング14に組み付けられている。すなわち、ベース部材26の固定用溝68に対して内側保持部30の下端環状部50が差し入れられて、径方向で位置決めされる。そして、かかる内側保持部30を上方から覆うように弁部材18が配される。すなわち、下端環状部50の上面の係止凸部52が弁部材18に重ね合わされるとともに、内側係合爪56が弁部材18の軸方向内面83bに設けられた内側環状溝86に差し入れられる。
そして、弁部材18の上方から外側保持部28が重ね合わされて、必要に応じて外側保持部28がベース部材26に対して軸方向で押し付けられる。これにより、ベース部材26における支持筒部70が外側保持部28の嵌合溝46に差し入れられて、支持筒部70の上面が環状壁部36に重ね合わされる。かかる状態で、外側保持部28とベース部材26とが相互に固着される。
かかるベース部材26と外側保持部28との固着状態では、外側保持部28の係止凸部44が弁部材18に重ね合わされるとともに、外側係合爪40が弁部材18の軸方向外面83aに設けられた外側環状溝84に差し入れられる。これにより、弁部材18が、外側保持部28と内側保持部30との間において、外側係合爪40と内側係合爪56との軸方向間および/または係止凸部44,52間で圧縮されるか、または圧縮されることなく挟まれて支持されている。
このように弁部材18がハウジング14に組み付けられることで、ハウジング14の内部流路12における上方開口部(ハウジング14の上方開口部であって、外側保持部28の上方開口部)100が、弁部材18により閉塞されている。
ここにおいて、本実施形態のハウジング14には、内部流路12を部分的に仕切る障壁102が設けられている。当該障壁102は、ベース部材26における固定筒部72の内周側において、内部流路12の直径方向、即ち図1中の左右方向に延びており、中央筒状部60の上方開口部においてベース部材26に対して一体的に形成されている。本実施形態では、図2にも示されているように、障壁102が略矩形断面を有するブロック状とされている。すなわち、当該障壁102は、内部流路12の軸直角方向に広がる平坦面としての上面103aと下面103bと、これら上面103aと下面103bとを相互に接続して上下方向に広がる平坦な一対の側面103c,103cとを備えており、上下両面103a,103bおよび一対の側面103c,103cが、内部流路12の直径方向に延びている。
また、中央筒状部60の内径寸法は、上端部分において径方向(図2中の左右方向)で大きくされており、当該大きくされた中央筒状部60の内径寸法が、障壁102の幅寸法(側面103c,103cの対向面間距離)よりも大きくされている。これにより、中央筒状部60の上方開口部が障壁102により部分的に仕切られているとともに、障壁102を挟んだ径方向両側(図2中の左右方向両側)には、障壁102により仕切られていない部分が形成されている。これにより、障壁102を挟んだ径方向両側には、障壁102よりも上下を相互に連通する一対の連通流路104,104が形成されている。
さらに、かかる障壁102の長さ方向両端部分(内部流路12の直径方向の両端部分)は、固定筒部72の内周面にまで至っており、当該固定筒部72の内周面には、障壁102の長さ方向両端部分から上方に向かってスロープ状に傾斜した一対のスロープ状案内面106,106が、径方向で相互に対向して形成されている。すなわち、本実施形態では、障壁102における上面103aの外周部分からスロープ状案内面106,106が連続して延び出している。これらのスロープ状案内面106,106は、それぞれ同じ周方向に向かって螺旋状に延びており、本実施形態では、それぞれのスロープ状案内面106,106が、半周よりも僅かに短い周方向寸法を有している。かかるスロープ状案内面106は、障壁102の長さ方向両端部分から上方に向かって延びていることから、換言すれば、障壁102が、スロープ状案内面106よりも下方に設けられている。
すなわち、これらスロープ状案内面106,106の長さ方向一方の端部が、障壁102の長さ方向各一方の端部とされているとともに、スロープ状案内面106,106の長さ方向他方の端部が、固定筒部72の上端部分に位置している。特に、本実施形態では、かかるスロープ状案内面106の長さ方向他方の端部には、軸直角方向に広がる平坦面108が設けられており、当該平坦面108が、後述する雄ルアー20の挿入時において、雄ルアー20の先端110が直接に且つ周上で部分的に当接するルアー当接部とされている。
したがって、かかる平坦面108は、障壁102よりも上方に設けられており、当該平坦面108と障壁102とは軸方向に広がる垂直面111で接続されている。要するに、スロープ状案内面106において、長さ方向他方の端部(周方向における平坦面108と反対側の端部)には垂直面111がそびえており、障壁102に衝突した流体が、スロープ状案内面106に沿った流動と反対方向に流動することが防止されている。
以上の如き構造とされた医療用コネクタ10の弁部材18におけるスリット16に対して、シリンジなどの雄ルアー20が挿し入れられることで、図5〜7に示されているように、スリット16が押し開かれて、雄ルアー20の内側のルアー内流路22とハウジング14の内部流路12とが相互に連通されて、医療用コネクタ10に雄ルアー20が接続されるようになっている。すなわち、スリット16に対して雄ルアー20を挿し入れることで、弁部材18の中央部分78が下方に弾性変形せしめられて、弁部材18の軸方向内面83bが内側保持部30の内周面に密着して当接するとともに、弁部材18の軸方向外面83aが雄ルアー20の外周面20aに密着して当接するようになっている。これにより、医療用コネクタ10と雄ルアー20との間が液密的にシールされて、血液や薬液の漏出が防止され得る。なお、弁部材18に挿し入れられる雄ルアー20は何等限定されるものではないが、例えばISO594やISO80369−7に規定される雄ルアーとされる。また、雄ルアー20の医療用コネクタ10への挿入は、上述のように、雄ルアー20の先端110と、スロープ状案内面106の長さ方向他方の端部に設けられた平坦面(ルアー当接部)108とが相互に当接することによって規制され得る。すなわち、本実施形態では、挿入された雄ルアー20よりも下方(雄ルアー20における先端110側)に、障壁102が設けられている。
ここにおいて、雄ルアー20の弁部材18への挿入に際して、雄ルアー20が弁部材18を貫通するようになっており、雄ルアー20の外周側(外周面20a上)、具体的には雄ルアー20において弁部材18から下方に突出する雄ルアー20の先端部分とハウジング14(特に内側保持部30)との径方向間で、且つ弾性変形せしめられた弁部材18の下方には、周方向の略全周に亘って連続して延びる略環状の環状内部領域112が形成されている。特に、雄ルアー20と内側保持部30との径方向間の空間の容積は、弾性変形せしめられる弁部材18の中央部分78の体積よりも大きくされており、弁部材18の弾性変形がより確実に許容されるようになっている。これにより、弁部材18の弾性変形が阻害されて雄ルアー20の挿入抵抗が大きくなるおそれが回避されるとともに、環状内部領域112を安定して形成することができる。
また、スロープ状案内面106,106の外周縁部における外径寸法は、雄ルアー20の先端110における外径寸法より大きくされており、雄ルアー20の先端110と、ハウジング14の内周面である固定筒部72の内周面113(スロープ状案内面106,106の外周縁部)との間には隙間が形成されている。したがって、当該隙間により、固定筒部72におけるスロープ状案内面106,106の外周側の壁部と雄ルアー20との間には、ルアー内流路22と環状内部領域112とを繋ぐ案内路114が形成されている。すなわち、本実施形態では、固定筒部72の内孔を含んでハウジング14の内部流路12が構成されていることから、かかる案内路114が、ハウジング14の内部流路12を構成する壁部(内壁)に設けられている。当該案内路114は、スロープ状案内面106を含んで構成されており、本実施形態では、一対の案内路114,114が、半周よりも僅かに短い周方向寸法をもって径方向で相互に対向して形成されている。すなわち、雄ルアー20とベース部材26との間において、周上で部分的に、即ちスロープ状案内面106,106の形成位置では、案内路114,114によりルアー内流路22と環状内部領域112とが相互に繋がれているとともに、ルアー当接部(平坦面)108,108の形成位置ではルアー内流路22と環状内部領域112とが相互に遮断されている。
ところで、前記特許文献1に記載された従来技術では、FIG.9〜10に示されているように、雄ルアーのハウジングに対する挿入端位置が、弾性変形した弁部材を挟んで雄ルアーの先端がハウジングに突き当てられることによって規定されている。
ところが、そもそも弁部材や雄ルアーの大きさには誤差があるし、挿入される雄ルアーは必ずしも一定の形状や寸法を有していないことから、雄ルアーを挿入した際の弁部材の弾性変形量(伸び代)は一定にならない。それ故、特許文献1に記載のように、挿入された雄ルアーの先端を、弾性変形した弁部材を挟んでハウジングに突き当てるようにした従来構造の医療用コネクタでは、弁部材の弾性変形が十分に許容されずに雄ルアーの挿入抵抗が大きくなったり挿入できなくなるおそれがあり、たとえ挿入できても弁部材の弾性変形量によって雄ルアーの挿入端位置を精度良く規定することが難しかった。
そこで、本発明者は、ハウジング内において弁部材の弾性変形を許容するための空間(環状内部領域)を大きく確保することを検討した。
しかしながら、ハウジング内に弁部材の弾性変形の許容空間(環状内部領域)を大きく設定すると、かかる許容空間が雄ルアーの挿入時にもハウジング内に隙間として残存してしまう。そのために、この残存した隙間に残留した空気が気泡となって、例えば雄ルアーの挿抜などを繰り返すことで大きくなった気泡が輸液ルート上に移動して体内に混入するおそれがある。
かかる課題を解決するためになされた本発明に係る医療用コネクタ10を使用するに際しては、先ず、生理食塩水などのプライミング液が内部に収容されたシリンジなどの雄ルアー20が、弁部材18のスリット16に挿し入れられて医療用コネクタ10に接続される。これにより、弁部材18のスリット16が押し開かれて、雄ルアー20のルアー内流路22とハウジング14の内部流路12とが相互に連通状態とされる。かかる状態から、シリンジのプランジャなどを操作して、ルアー内流路22から内部流路12に向かってプライミング液を流出させる。ルアー内流路22から流出せしめられたプライミング液は、内部流路12内を上下方向(雄ルアー20の挿入方向)に直進して、その一部は、障壁102に衝突することなく、連通流路104,104から中央筒状部60の内孔を通じて医療用コネクタ10の外部に排出される一方、また一部が、内部流路12を部分的に仕切る障壁102の上面103aに衝突するようになっている。すなわち、本実施形態では、障壁102において雄ルアー20側に位置する上面103aにより、ルアー内流路22から流出するプライミング液などの流体が衝突する流体衝突面が構成されている。
そして、内部流路12内を上下方向に直進するプライミング液は、障壁102の流体衝突面(上面103a)に衝突することで、その一部が、障壁102の両側に分岐せしめられて、障壁102の両側に設けられた連通流路104,104から中央筒状部60の内孔を通じて医療用コネクタ10の外部に排出されるようになっている。
また、障壁102の流体衝突面(上面103a)に衝突したプライミング液は、また一部が、障壁102に沿って障壁102の長さ方向両側に流動する。さらに、障壁102の長さ方向両端に流動したプライミング液は、スロープ状案内面106,106を含む案内路114,114に沿って、周方向の旋回流をもって上方の環状内部領域112に導き入れられるようになっている。これにより、環状内部領域112の内部においても、プライミング液が回転方向の流れをもって流動せしめられる。すなわち、本実施形態では、内部流路12における雄ルアー20と障壁102との上下方向間の空間(および当該空間に連通するルアー内流路22)から環状内部領域112への流体の流動を案内する流体案内面116,116が、案内路114,114の内面により構成されており、スロープ状案内面106,106を含んで構成されている。特に、本実施形態では、案内路114の内面である流体案内面116が、上方に向かって次第に内径寸法が大きくなる湾曲面形状をもって構成されている。
そして、環状内部領域112内を回転方向に流動するプライミング液は、その一部が回転方向に流動を続ける一方、またその一部が内周側に移動して、連通流路104,104および中央筒状部60を通じて外部に排出されるようになっている。尤も、障壁102からスロープ状案内面106に沿って流動せしめられる流体も、その全量が環状内部領域112に導き入れられるものでなく、一部は内周側に移動して、連通流路104,104および中央筒状部60を通じて外部に排出されるようになっている。
このように、障壁102に衝突したプライミング液が、スロープ状案内面106,106に沿って流動して環状内部領域112内で回転方向に流動することから、環状内部領域112内に残留する空気が、プライミング液によって、大きな流速や遠心力の作用などにより効率的に排出されるようになっている。すなわち、環状内部領域112内がより確実にプライミング液で満たされることから、雄ルアー20を接続して薬液を投与する際にも、患者の体内への空気(気泡)の混入が、より効果的に防止され得る。
特に、本実施形態では、かかるスロープ状案内面106が、流体が衝突する障壁102から連続して設けられていることから、障壁102に衝突した流体が、スロープ状案内面106に沿って環状内部領域112に容易に導かれるようになっている。
また、障壁102において流体が衝突せしめられる流体衝突面(上面)103aが、軸直角方向に広がっていることから、より確実に流体が流体衝突面103aに衝突せしめられる。さらに、かかる障壁102の流体衝突面103aが、内部流路12における直径方向に延びていることから、流体衝突面103aの断面積を十分に確保しつつ、内部流路12において障壁102で覆われない部分(連通流路104,104)の断面積も十分に確保することができる。
更にまた、本実施形態では、略半周の周方向寸法とされたスロープ状案内面106が一対設けられていることから、スロープ状案内面106の周方向寸法が過剰に長くなることが回避されて、障壁102に衝突した流体が、スロープ状案内面106により、より確実に環状内部領域112に導かれるようになっている。また、これら一対のスロープ状案内面106,106が、同じ周方向に向かって延びていることから、流動する流体同士が衝突して乱流を生じるおそれが低減されて、より大きな流速や遠心力を得ることも可能となる。
また、本実施形態では、雄ルアー20が挿入された際に、雄ルアー20の先端110が直接当接してそれ以上の雄ルアー20の挿入を阻止するルアー当接部(平坦面108)が設けられていることから、雄ルアー20が過剰に挿入されて弁部材18が損傷するなどのおそれが低減されている。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
たとえば、前記実施形態では、案内路114として、スロープ状案内面106を採用して、プライミング液の勢いをできる限り減少させずに一定方向の流れをもって環状内部領域112にプライミング液が流入されるように設計されている。しかし、環状内部領域において一定方向の流れを生じさせることができれば、環状内部領域において気泡を掻き出し得る流れを形成することは可能である。したがって、案内路は、プライミング液の流れのベクトルを一定の方向に案内しさえすればよく、スロープ状案内面でなくともよい。たとえば、ハウジング内面にプライミング液の流れのベクトルが一定の方向になるような流路溝を設けることで、プライミング液の勢いを集束させることができる。このような流路溝と環状内部領域の一部とをつなげて環状内部領域への入口を形成するとともに、環状内部領域からの出口を入口から離れた場所に形成すれば、環状内部領域に一定方向のプライミング液の流れを形成することができる。
更にまた、前記実施形態では、一対のスロープ状案内面106,106が設けられていたが、スロープ状案内面の数は何等限定されるものではなく、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、スロープ状案内面が複数設けられる場合、各スロープ状案内面は同じ周方向に向かって延びる必要はなく、異なる周方向、例えば相互に反対向きに延びていてもよい。
さらに、前記実施形態では、障壁102の長さ方向両端部分からスロープ状案内面106が連続して延びていたが、かかる態様に限定されるものではない。すなわち、障壁とスロープ状案内面とは、相互に離隔していてもよいし、例えばスロープ状案内面が、障壁の長さ方向中間部分から延びていてもよい。
なお、障壁の形状は何等限定されるものではない。すなわち、前記実施形態のように、横断面が略矩形状とされてもよいし、円形状(楕円、半円、長円などを含む)や多角形状、またはこれらの組み合わせなど、各種形状が採用され得る。また、障壁の上面(流体衝突面)や下面は軸直角方向に対して傾斜していてもよいし、障壁の側面も軸方向に対して傾斜していてもよい。更にまた、前記実施形態では、障壁102が内部流路12の直径方向に延びて、即ち内部流路12を横断して形成されていたが、障壁は内部流路を横断していなくてもよい。すなわち、例えば障壁として、ハウジング内周面の一部が径方向内側に突出する突出部を設けたり、例えば中央筒状部の流路断面形状を半円状などにして、内部流路を横断しない障壁を形成してもよい。また、障壁は、天面(軸方向)から見て雄ルアーのルアー内流路に一部が位置していることが好ましい。
さらに、前記実施形態では、障壁102が、ハウジング14におけるベース部材26に一体的に形成されていたが、障壁は、別体として形成されてハウジングに対して後固着されてもよい。なお、障壁は、ハウジングに対して一体として、または別体として設けられる場合であっても、ベース部材に設けられる必要はなく、カバー部材(例えば、内側保持部)に設けられてもよい。
尤も、ハウジングの構造は、前記実施形態のものに限定されるものではなく、例えばベース部材と内側保持部が一体として形成されてもよいし、ハウジング全体が一部品として形成されてもよい。また、ハウジングが複数の部材により構成される場合であっても、それぞれの部材は、前記実施形態の如き超音波溶着により固着される態様に限定されるものではなく、溶着や接着など、従来公知の固着方法が採用され得る。
また、弁部材の具体的な構造は何等限定されるものではない。すなわち、前記実施形態の如き筒状支持部80、環状連結部82、外内の環状溝84,86、係止凹部96,98などは設けられる必要はなく、例えば単なるディスク状であってもよい。同様に、ハウジングにおいて、外内の係合爪や、外側保持溝、固定用溝などは必須なものではない。
さらに、前記実施形態では、スロープ状案内面106の長さ方向他方の端部に平坦面108が設けられてルアー当接部が構成されていたが、かかるルアー当接部は必須なものではない。また、ルアー当接部が設けられる場合であっても、ベース部材におけるスロープ状案内面以外の部分に設けられてもよいし、ベース部材以外、例えば内側保持部や外側保持部に設けられてもよい。なお、前記実施形態では、雄ルアー20が弁部材18を貫通してルアー当接部(平坦面108)に直接当接していたが、雄ルアーは弁部材を貫通しなくてもよく、即ち雄ルアーは、弁部材を介してルアー当接部に当接するようになっていてもよい。
更にまた、前記実施形態では、中央筒状部60(内部流路12)が略ストレートに延びて、内部流路12における外部への開口部が、ベース部材26の下方に設けられているが、本発明に係る医療用コネクタ10のハウジング14は、全体としてT字型やY字型とされてもよいし、医療用コネクタ10が、例えば国際公開第2017/150125号に記載の如き三方活栓に取り付けられてもよい。すなわち、例えば医療用コネクタ10が、国際公開第2017/150125号に記載の如き三方活栓に取り付けられる場合には、前記実施形態に記載の障壁102は、例えば国際公開第2017/150125号における隔壁(133)により構成され得る。
また、雄ルアーの弁部材への挿入に際して、雄ルアーは弁部材を貫通しなくてもよいが、前記実施形態のように、雄ルアーが弁部材を貫通するようになっていることが好適である。これにより、弁部材の弾性的な復元力が雄ルアーに及ぼされて雄ルアーが意図せず弁部材から抜け落ちることが防止され得る。なお、雄ルアーが弁部材を貫通しない場合、環状内部領域は、弁部材よりも下方、例えば弁部材と障壁との軸方向間に設定される。さらに、雄ルアーの弁部材への挿入に際して、雄ルアーの外周面がハウジングの内周面に嵌合するようになっていてもよい。すなわち、雄ルアー20の外周面20aと、例えばハウジング14の内周面である内周フランジ部38の内周面59とが、ある程度の嵌合力をもって相互に当接するようになっていてもよい。これにより、弁部材の弾性的な復元力が雄ルアーに及ぼされる際にも、雄ルアーがハウジングから意図せず脱落することが防止され得る。なお、前記実施形態の図5〜7において、雄ルアー20の外周面20aと内周フランジ部38の内周面59とは僅かに離隔しているが、これら両面20a,59は、図示されていない周方向位置において相互に当接していてもよい。