従来、この種の加熱調理器に設けられるガス弁装置として、特許文献1により、バルブケーシング内に、電磁安全弁と、流量調節弁と、ステッピングモータにより連動機構を介して軸方向に駆動される操作ロッドと、軸方向に移動自在な弁座部材とを設けたものが知られている。このもので、軸方向一方を往動方向、軸方向他方を復動方向として、電磁安全弁は、弁座部材に往動方向を向くように設けられた安全弁用弁座と、安全弁用弁座に対向する安全弁用弁体と、安全弁用弁体を復動方向に付勢して安全弁用弁座に着座させる弁バネと、安全弁用弁体に往動方向にのびる弁軸を介して連結した吸着片と、吸着片に対向する電磁石とを備えており、流量調節弁は、弁座部材に復動方向を向くように設けられた調節弁用弁座と、調節弁用弁座に対向するように操作ロッドに固定された調節弁用弁体とを備えている。また、バルブケーシング内には、弁座部材の復動方向への移動を安全弁用弁座に安全弁用弁体が着座可能な所定の復動端位置で制止する弁座ストッパが設けられている。
このものでは、点消火操作部材による点火操作が行われたときに、ステッピングモータを正転させて操作ロッドを往動方向に移動させることにより、調節弁用弁体を調節弁用弁座に当接させて、弁座部材を復動端位置から往動方向に押動させ、安全弁用弁座を安全弁用弁体に当接させて、安全弁用弁体を電磁石に吸着片が当接する開弁位置まで弁バネの付勢力に抗して押動させ、この状態で電磁石に通電して安全弁用弁体を開弁位置に吸着保持した後、元弁を開弁させてから、点火手段を作動させると共にステッピングモータを逆転させて、操作ロッドを復動方向に移動させ、弁座部材の復動方向への移動で安全弁用弁座を開弁位置に吸着保持される安全弁用弁体から離隔させて、電磁安全弁を開弁させ、バーナへのガス供給を開始するようにしている。
ところで、安全弁用弁体が開弁位置に到達した瞬間、即ち、吸着片が電磁石に当接した瞬間にステッピングモータを停止することは制御上困難である。そして、安全弁用弁体が開弁位置に到達した後の更なるステッピングモータの正転で、吸着片と電磁石との当接部に過大な力が加わり、吸着片に傷が付いて吸着不良を生ずることがある。そこで、本願出願人は、先に特願2016−142075により、以下のものを提案している。このもので、連動機構は、ステッピングモータにより回転駆動される、操作ロッドと同心の筒状のカム体と、カム体に形成した螺旋状のカム溝に係合する、操作ロッドに固定のピンとを有し、カム体の正転と逆転とでカム溝からピンを介して作用する軸方向推力により操作ロッドが往動方向と復動方向とに移動するようにしたカム機構で構成されている。カム体は、軸方向に移動自在であって、カム体の往動方向への移動を所定位置で制止するカムストッパと、カム体を往動方向に付勢するカムバネとを備えている。そして、安全弁用弁体が開弁位置に到達した後の更なるステッピングモータの正転でピンからカム溝を介して作用する軸方向反力によりカム体が所定位置からカムバネの付勢力に抗して復動方向に移動するようにしている。そのため、操作ロッドに作用する往動方向への押圧力がカムバネの付勢力以下に抑えられて、吸着片と電磁石との当接部に過大な力は加わらず、吸着片の傷付きで吸着不良を生ずることを防止できる。
ここで、電磁石への通電で安全弁用弁体を開弁位置に吸着した後、元弁を開弁させる際にステッピングモータに通電されていると、消費電力が大きくなって、電源電池の電圧が低下し、電池寿命が短くなってしまう。そこで、上記先願のものにおいては、一般的に、安全弁用弁体が開弁位置に到着した後に、カム体が所定位置から復動方向に移動するまでステッピングモータを正転させた状態で電磁石への通電により安全弁用弁体を開弁位置に吸着保持し、この状態でステッピングモータへの通電を停止して、元弁を開弁させることが考えられる。
然し、カム体は、所定位置からカムバネの付勢力に抗して復動方向に移動するため、カム体が所定位置から復動方向に移動した状態でステッピングモータへの通電を停止すると、カムバネの付勢力によりピンに当接するカム溝を介して逆転方向の回転力がステッピングモータに作用する。そして、この回転力がディテントトルクを上回ると、ステッピングモータでの滑りを生じて、ステッピングモータの回転位相と操作ロッドの軸方向位置との相関に狂いを生じ、流量調節弁によるガス流量の調節誤差を生じてしまう。
図1を参照して、1は、本発明の実施形態の加熱調理器に設けられた被加熱物を加熱するバーナを示している。この加熱調理器は、バーナ1に点火する点火手段、具体的には、バーナ1に付設した点火電極2での火花放電を行うイグナイタ3と、バーナ1の点火及び消火のために操作される点消火操作部材たる、図示省略した操作パネル部に出没自在に配置された点消火ボタン4とを備えている。点消火ボタン4は、プッシュプッシュ式であって、操作パネル部に没入した消火位置から一旦押し込んで押込み解除することにより操作パネル部から突出した点火位置に変位し、この状態で火力調節のために回動操作することができるようになっている。尚、点火手段はイグナイタ3以外のものであってもよい。
加熱調理器は、更に、バーナ1へのガス供給路5に介設された元弁6と、ガス供給路5に元弁6と直列に介設されたガス弁装置7と、マイクロコンピュータから成るコントローラ8とを備えている。コントローラ8には、図示省略したバーナ1の火炎検知素子からの信号と共に点消火ボタン4の操作信号が入力される。そして、コントローラ8により、イグナイタ3、元弁6及びガス弁装置7が制御される。
図2を参照して、元弁6は、ガス流入口61aと、ガス流出口61bと、ガス流出口61bの開設箇所に設けられた弁座61cとを有するバルブケーシング61と、バルブケーシング61内に弁座61cに対向するように配置され、弁座61cに着座する閉じ方向にバネ62で付勢される弁体63と、弁体63に連結した吸着片64に対向する電磁石65と、電磁石65を送りねじ機構66を介して弁体63の開閉方向に駆動するモータ67とを備える電動式電磁弁で構成されている。元弁6を開弁させる際は、先ず、モータ67により電磁石65を閉じ方向(図2の下方)に移動させて吸着片64に当接させ(図2に示す状態)、その後、電磁石65に通電して吸着片64を吸着し、この状態でモータ67により電磁石65を開き方向(図2の上方)に移動させ、弁体63を弁座61cから離隔させる。また、元弁6を閉弁させる際は、電磁石65への通電を停止し、弁体63をバネ62の付勢力で弁座61cに着座する閉弁位置に復帰させる。
図3を参照して、ガス弁装置7は、筒状のバルブケーシング71と、バルブケーシング71内の軸方向一方寄り部分に配置した電磁安全弁72と、バルブケーシング71内の軸方向他方寄り部分に、電磁安全弁72と直列に配置した流量調節弁73と、バルブケーシング71の軸方向他方の端部に取付けられるボックス711の外端に搭載したステッピングモータ74と、バルブケーシング71内に軸方向他方から挿入され、ステッピングモータ74により連動機構75を介して軸方向に駆動される操作ロッド76と、バルブケーシング71内に軸方向に移動自在に設けられた弁座部材77とを備えている。以下の説明では、軸方向一方を往動方向、軸方向他方を復動方向と記す。
バルブケーシング71には、電磁安全弁72の上流側に位置するガス流入口71aと、流量調節弁73の下流側に位置するガス流出口71bとが開設されている。そして、電磁安全弁72が開弁したとき、ガス流入口71aからガス流出口71bにガスが流れ、バーナ1にガスが供給されるようにしている。
電磁安全弁72は、弁座部材77に往動方向を向くように設けられた安全弁用弁座721と、安全弁用弁座721に対向する安全弁用弁体722と、安全弁用弁体722を復動方向に付勢して安全弁用弁座721に着座させる弁バネ723と、安全弁用弁体722に往動方向にのびる弁軸722aを介して連結した吸着片724と、吸着片724に対向する電磁石725とを備えている。そして、安全弁用弁体722を吸着片724が電磁石725に当接する開弁位置まで弁バネ723に抗して押動させた状態で電磁石725に通電することにより、安全弁用弁体722が開弁位置に吸着保持されるようにしている。また、火炎検知素子により失火が検知されたときや、点消火ボタン4を点火位置から押し込んで消火位置に戻す消火操作を行ったときは、電磁石725への通電を停止し、安全弁用弁体722を弁バネ723により安全弁用弁座721に着座する閉弁位置に復帰させて、電磁安全弁72を閉弁する。
バルブケーシング71内には、弁座部材77の復動方向への移動を安全弁用弁体722が着座可能な所定の復動端位置で制止する、バルブケーシング71の内面に形成した突起部から成る弁座ストッパ771と、弁座部材77を復動方向に付勢して復動端位置に弾力的に保持する弁座バネ772とが設けられている。また、弁座部材77の外側にガスが流れることを防止するためにベロフラム773を設けている。尚、弁座部材77は、ガス流入口71aからのガス圧で復動方向に押圧されるため、弁座バネ772を省略することも可能である。
流量調節弁73は、弁座部材77に復動方向を向くように形成した調節弁用弁座731と、調節弁用弁座731に対向するように操作ロッド76に固定された調節弁用弁体732とを備えている。調節弁用弁体732は、調節弁用弁座731に開設した弁孔731aを閉塞するように調節弁用弁座731に着座可能な閉塞弁部732aと、弁孔731aに復動方向から挿入可能なニードル部732bと、流量調節弁73の上流側と下流側を常時連通するバイパス通路732cとを有している。尚、本実施形態では、調節弁用弁体732を操作ロッド76に一体に形成しているが、調節弁用弁体732を操作ロッド76と別体として、これを操作ロッド76に取付けてもよい。
図4も参照して、連動機構75は、ステッピングモータ74により回転駆動される操作ロッド76と同心の筒状のカム体754と、カム体754に形成した螺旋状のカム溝754aに係合する、操作ロッド76に固定したピン755とを有し、カム体754の正転と逆転とでカム溝754aからピン755を介して作用する軸方向推力により操作ロッド76が往動方向と復動方向とに移動するようにしたカム機構で構成されている。ステッピングモータ74とカム体754との間には、モータケース内に組み込んだ減速歯車列751と、減速歯車列751の出力側の回転軸752と、回転軸752とカム体754とを連結する連結子753とが設けられている。連結子753は、断面が非円形の回転軸752に嵌合する非円形の孔753aを有し、回転軸752と一緒に回転する。また、連結子753には、カム体754の復動方向側端部に形成した切欠き部754bに係合して回転力を伝達する突片部753bが設けられている。カム体754には、バルブケーシング71から復動方向に延出したガイド筒756が挿入されている。ガイド筒756には、軸方向に長手の長孔756aが形成されており、この長孔756aにピン755を軸方向に摺動自在に係合させている。
点消火ボタン12を消火位置から押し込んで点火位置に突出させる点火操作を行ったときは、ステッピングモータ74を正転させる。これによれば、連動機構75を介して操作ロッド76が往動方向に移動し、先ず、調節弁用弁体732の閉塞弁部732aが弁座ストッパ771で制止される復動端位置に存する弁座部材77の調節弁用弁座731に当接し、以後、弁座部材77が調節弁用弁体732に押されて往動方向に移動し、弁座部材77を介して安全弁用弁体722が開弁位置に押動される(図5(a)に示す状態)。この状態で電磁石725に通電して安全弁用弁体722を開弁位置に吸着保持する。その後、元弁6を開弁させてから、ステッピングモータ74を逆転させて、操作ロッド76を復動方向に移動させると共に、点火手段を作動、即ち、イグナイタ3に通電する。この際、弁座部材77は、復動端位置まで操作ロッド76に追従して復動方向に移動し、安全弁用弁座721が開弁位置に吸着保持される安全弁用弁体722から離れて、電磁安全弁72が開弁され、バーナ1へのガス供給が開始される。その後、復動端位置に制止される弁座部材77に対し調節弁用弁体732を更に復動方向に移動させ、閉塞弁部732aを調節弁用弁座731から離して、ガス流量を次第に増加させ、バーナ1に点火する。バーナ点火後、調節弁用弁体732が往動方向に移動して所定のストローク範囲、即ち、弁座部材77が復動端位置に存する状態で調節弁用弁座731に閉塞弁部732aが着座する位置(図5(b)の状態)と、開弁位置に存する安全弁用弁体722に安全弁用弁座721が当接する直前の位置(図5(c)の状態)との間の範囲に存するときであれば、バイパス通路732cのみを介してガスが流れてガス流量が最小量になる状態に維持される。
尚、安全弁用弁体722が開弁位置に到達した瞬間、即ち、吸着片724が電磁石725に当接した瞬間に、ステッピングモータ74を停止することは制御上困難である。そのため、安全弁用弁体722が開弁位置に到達した後の更なるステッピングモータ74の正転で連動機構75を介して操作ロッド76が往動方向に押されると、吸着片724と電磁石725との当接部に過大な力が加わり、吸着片724の傷付きで吸着不良を生ずることがある。
そこで、本実施形態では、カム体754を軸方向に移動自在とすると共に、カム体754の往動方向への移動を所定位置で制止する、ボックス711の端板で構成されるカムストッパ757と、カム体754を往動方向に付勢するカムバネ758とを設けている。そして、安全弁用弁体722が開弁位置に到達した後の更なるステッピングモータ74の正転で、ピン755からカム溝754aを介して作用する軸方向反力によりカム体754がカムバネ758の付勢力に抗して復動方向に移動するようにしている。これによれば、安全弁用弁体722が開弁位置に到達した後に更にステッピングモータ74を正転させても、操作ロッド76に作用する往動方向への押圧力はカムバネ758の付勢力以下に抑えられる。そのため、吸着片724と電磁石725との当接部に過大な力は加わらず、吸着片724の傷付きで吸着不良を生ずることを防止できる。尚、安全弁用弁体722が開弁位置に到達する前に、弁バネ723及び弁座バネ772の付勢力に負けてカム体754が復動方向に移動することのないように、カムバネ758の付勢力は、弁バネ723及び弁座バネ772の付勢力の合力よりも若干大きくなるように設定される。
ところで、電磁石725への通電で安全弁用弁体722を開弁位置に吸着した後、元弁6を開弁させる際にステッピングモータ74に通電されていると、消費電力が大きくなって、電源電池の電圧が低下し、電池寿命が短くなってしまう。この場合、カム体754がカムストッパ757で制止される所定位置からカムバネ758の付勢力に抗して復動方向に移動するまでステッピングモータ74を正転させた状態で電磁石725への通電により安全弁用弁体722を開弁位置に吸着保持し、この状態でステッピングモータ74への通電を停止して、元弁6を開弁させることが考えられる。然し、カム体754が所定位置から復動方向に移動した状態では、カムバネ758の付勢力によりピン755に当接するカム溝754aを介して逆転方向の回転力がステッピングモータ74に作用するため、この回転力がディテントトルクを上回ると、ステッピングモータ74での滑りを生ずる。そして、ステッピングモータ74の回転位相と操作ロッド76の軸方向位置との相関に狂いを生じ、流量調節弁73によるガス流量の調節誤差を生じてしまう。
そこで、本実施形態では、点消火ボタン4による点火操作が行われたときに、上記の如くステッピングモータ74を正転させて安全弁用弁体722を開弁位置に押動させることと、安全弁用弁体722が開弁位置に到着した後にカム体754がカムストッパ757で制止される所定位置から復動方向に移動するまでステッピングモータ74を正転させた状態で電磁石725への通電により安全弁用弁体722を開弁位置に吸着保持することと、ステッピングモータ74を逆転させてカム体754を所定位置に復帰させることと、ステッピングモータ74への通電を停止した状態で元弁6を開弁させることと、ステッピングモータ74の逆転を再開すると共にイグナイタ3に通電することとを順に行うようにしている。
これによれば、ステッピングモータ74への通電を停止した状態で元弁6を開弁させる際は、カム体754がカムストッパ757で制止される所定位置に復帰しているため、ステッピングモータ74にカムバネ758の付勢力による逆転方向のトルクは作用しない。従って、元弁6の開弁時にステッピングモータ74への通電を停止することで当該モータ74での滑りを生ずることはなく、この滑りに起因する流量調節弁73によるガス流量の調節誤差を防止することができる。
尚、元弁6の開弁前のステッピングモータ74の逆転を、カム体754がカムストッパ757で制止される所定位置に復帰した瞬間に停止することは制御上困難である。そのため、カム体754が所定位置に復帰位置してからステッピングモータ74がある程度逆転して、図5(c)に近い状態になったときにステッピングモータ74の逆転を停止すればよい。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上記実施形態では、元弁6の開弁後、ステッピングモータ74の逆転再開と同時にイグナイタ3への通電、即ち、点火手段の作動を開始しているが、元弁6の開弁後、ステッピングモータ74の逆転で流量調節弁73の開度がある程度増加したところで点火手段の作動を開始し、或いは、元弁6の開弁前に点火手段の作動を開始することも可能であり、要は、元弁6の開弁前又は開弁後の所定時期に点火手段の作動を開始すればよい。また、上記実施形態では、元弁6を電動式電磁弁で構成しているが、通常の電磁弁で元弁6を構成してもよい。更に、本発明の加熱調理器の代表例としては、ガスコンロが挙げられるが、ガスコンロ以外の加熱調理器にも同様に本発明を適用できる。