JP2019135222A - 抗メパニピリム抗体および該抗体を用いたメパニピリム測定方法 - Google Patents

抗メパニピリム抗体および該抗体を用いたメパニピリム測定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】メパニピリムおよびメパニピリムプロパノールに対して等しい反応性を有する抗体を誘起しうる化合物、およびそのような化合物によって誘起される抗体またはその断片の提供。【解決手段】構造式(式中、Rは、HOOC-(CH2)n-O-を表し、nは、1〜7の整数を表す。)であるメパニピリム誘導体および免疫学上許容される担体からなる、免疫原性を有する複合体に対する抗体またはその断片。【選択図】なし

Description

本発明は、メパニピリム誘導体と免疫学上許容される担体の結合体によって得られる抗体またはその断片に関する。さらに本発明は、該抗体またはその断片を含むメパニピリムの測定キット、ならびに該抗体またはその断片を用いたメパニピリムの測定方法に関する。
メパニピリム(IUPAC:N-(4-メチル-6-プロパ-1-イニルピリミジン-2-イル)アニリン)は、クミアイ化学工業株式会社によって開発されたアニリノピリミジン系抗菌剤(特許文献1)であり、胞子の発芽管伸長を阻害し、その後の付着器の形成、宿主への侵入に至る病原菌の感染行動を阻害し、灰色かび病、りんご黒星病等に効果を示す。日本国内では、1995年に初回農薬登録されており、諸外国では米国及びEUで登録されている。
一方、残留農薬の基準値について、厚生労働省によって定められたポジティブリスト制が施行されており、全ての農薬や抗生物質・合成抗菌剤等について、加工食品を含む全ての食品が規制の対象となり、基準値を超えた食品の販売等は原則禁止されている状況である。メパニピリムを含むアニリノピリミジン系殺菌剤についても、各食品別に残留農薬の基準値が規定されており、精度の高い分析を行う必要がある。
残留農薬の検出においては、検出対象由来の試料を粉砕あるいは細切後有機溶媒で抽出し、その抽出液を、濃縮した上で、NPD検出器付GCやGC/MSなどで分析する手法がある。しかしながら、該方法では、分析を精密に行うには熟練した技術を要し、大掛かりな測定装置や設備が必要で、それに伴う測定の様々な制約がある。
一方、臨床診断の分野で用いられてきた免疫学的測定法による、環境負荷化学物質の測定への適用が進んでいる。免疫学的測定法は、抗原抗体反応を利用して抗原の測定を行うもので、測定精度が優れているばかりでなく、迅速、簡便かつ経済的な測定法である。また、農産物中の残留農薬分析においてスクリーニング的な使用方法を想定した場合は、1度の測定において多種類の農薬が検出可能なことが望ましい。
これまで発明者らは、免疫学的測定法を用いてメパニピリムを測定するべく、新たなメパニピリムハプテンを作製し、該ハプテンを用いて抗メパニピリム抗体を得た(特許文献2)。該抗体は、メパニピリムのみならず、その他のアニリノピリミジン系殺菌剤であるシプロジニルやピリメタールにも反応性を示し、1度の測定において多種類のアニリノピリミジン系殺菌剤が検出可能であることを示した。
しかし、メパニピリムとメパニピリム代謝物(メパニピリムプロパノール:1−(2−アニリノ−6−メチルピリミジン−4−イル)−2−プロパノール)をメパニピリムに換算したものとの和を残留メパニピリムの濃度とみなすため、免疫学的測定法を用いて残留メパニピリムを測定する場合、両者に等しい反応性を有する抗体が必要であった。上記で見出した抗体は、メパニピリムに対する反応性に比べて、メパニピリムプロパノールに対する反応性が小さいため、両者に対する反応性が等しい抗体が望まれた。
特公平6−29263号公報 特開2018−011583号公報
本発明は、メパニピリムおよびメパニピリムプロパノールに対して等しい反応性を有する抗体を誘起しうる化合物、およびそのような化合物によって誘起される抗体またはその断片を提供することを目的とする。本発明はまた、そのような抗体またはその断片を使用した、試料中のアニリノピリミジン系殺菌剤を測定する方法、およびそのような測定に用いることができる測定キットを提供することを目的とする。
本発明者らは、メパニピリムおよびメパニピリムプロパノールに等しい反応性を示す抗体を提供すべく鋭意研究を行った結果、メパニピリムおよびメパニピリムプロパノールに対して等しい反応性を有する抗体を誘起しうる化合物を見出した。さらに、該抗体は、その他のアニリノピリミジン系殺菌剤に対しても反応性を有することを見出し、以って該化合物によって誘起される抗体またはその断片、それらを用いた測定方法または測定キット等を完成した。
すなわち、本発明は、
[1]構造式
Figure 2019135222
(式中、Rは、HOOC-(CH2)n-O-を表し、nは、1〜7の整数を表す。)であるメパニピリム誘導体および免疫学上許容される担体からなる、免疫原性を有する複合体に対する抗体またはその断片;
[2]構造式
Figure 2019135222
であるメパニピリム誘導体および免疫学上許容される担体からなる、免疫原性を有する複合体に対する抗体またはその断片;
[3]免疫学上許容される担体がKLHである、[1]または[2]に記載の抗体またはその断片;
[4][1]〜[3]のいずれか1つに記載の抗体を産生する、受託番号NITE P-02596のハイブリドーマ;
[5][1]〜[3]のいずれか1つに記載の抗体またはその断片を試料に接触させる工程を含む、アニリノピリミジン系殺菌剤の測定方法;
[6][1]〜[3]のいずれか1つに記載の抗体またはその断片を含む、アニリノピリミジン系殺菌剤の測定キット;
[7]構造式
Figure 2019135222
(式中、Rは、HOOC-(CH2)n-O-を表し、nは、1〜7の整数を表す。)であるメパニピリム誘導体;
[8][7]に記載のメパニピリム誘導体および免疫学上許容される担体からなる、免疫原性を有する複合体;
を提供する。
本発明の抗体またはその断片は、メパニピリムとメパニピリムプロパノールに等しい結合性を有するため、メパニピリム量およびメパニピリムプロパノールのメパニピリム換算量の合算として計算される、試料中の残留メパニピリム量を測定できる。さらに、メパニピリムやメパニピリムプロパノールに類似した構造を有する複数のアニリノピリミジン系殺菌剤にも結合能を有するため、該アニリノピリミジン系殺菌剤に対して個別に抗体を用意することなく、本発明の抗体またはその断片のみを用いて、1回の測定で複数のアニリノピリミジン系殺菌剤の有無を検出することができるため、測定が迅速かつ経済的である。
間接競合ELISAを用いた、マウス抗血清、MPP204抗体のメパニピリムに対する阻害曲線を示す図である。縦軸:阻害率(メパニピリム添加時の吸光度/メパニピリム無添加時の吸光度)、横軸:メパニピリム濃度 (ng/mL) 直接競合ELISAを用いた、MPP204抗体のメパニピリムに対する阻害曲線を示す図である。縦軸:阻害率(メパニピリム添加時の吸光度/メパニピリム無添加時の吸光度)、横軸:メパニピリム濃度 (ng/mL)
本発明は、メパニピリム誘導体および免疫学上許容される担体からなる、免疫原性を有する複合体を提供する。
本明細書においてメパニピリムとは、下記の式
Figure 2019135222
で表される化合物である。
また、本明細書においてメパニピリムプロパノールとは、下記の式
Figure 2019135222
で表される化合物である。
また、本明細書においてメパニピリム誘導体とは、下記の式
Figure 2019135222
(式中、Rは、HOOC-(CH2)n-O-を表し、nは、1〜7の整数を表す。)で表される化合物である。
このうち、好ましいメパニピリム誘導体とは、上記メパニピリム誘導体の式中のnが1である、下記の式
Figure 2019135222
で表される化合物である。
前記メパニピリム誘導体の製造は、様々な合成方法により行なうことができ、特に限定されるものではない。たとえば、上記の好ましいメパニピリム誘導体の場合、下記反応式の通り、aniline (化合物1)およびcyanamide (化合物2)を出発原料として、50%エタノール存在下、硝酸と共に反応時間30分〜24時間、加熱還流させた後、反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製することによって、1-Phenylguanidine(化合物3)を得る。
Figure 2019135222
さらに、前記反応式で得られた1-Phenylguanidine(化合物3)を、無水DMF存在下、炭酸カリウム(K2CO3)と共に、3-acetyl-6-methyl-2H-pyran-2,4(3H)-dione (化合物4)と反応時間30分〜10時間、加熱反応させ、反応液を分液、乾燥させ、1-(6-methyl-2-(phenylamino)pyrimidin-4-yl)propan-2-one(化合物5)を得る。
Figure 2019135222
さらに、前記反応式で得られた1-(6-methyl-2-(phenylamino)pyrimidin-4-yl)propan-2-one(化合物5)を、ピリジン/メタノール/蒸留水存在下、塩酸と共に、2-(aminooxy)acetic acid (化合物6)と反応時間30分〜10時間、加熱反応させ、反応液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、メパニピリム誘導体である2-(((1-(6-Methyl-2-(phenylamino)pyrimidin-4-yl)propan-2-ylidene)amino)oxy)acetic acid(化合物7)を得る。
Figure 2019135222
このようにして得られるメパニピリム誘導体は、メパニピリムおよびメパニピリム代謝物であるメパニピリムプロパノールに共通する骨格を有し、かつメパニピリムの有するCH3-C≡C-またはメパニピリムプロパノールの有するHO-CH(CH3)-CH2-がHOOC-CH2-O-CH2-N=C(CH3)-CH2-に置換された低分子化合物であって、単独では免疫原性、すなわち抗体産生誘導能がないか、または非常に低いハプテンである。したがって、本発明のメパニピリム誘導体を常法を用いて免疫学上許容される担体に結合して免疫原性を有する複合体もしくは免疫原性がより高められた複合体(以下、本発明の複合体と記載することがある)、すなわちメパニピリムおよびメパニピリムプロパノールに対する人工抗原を作製することができる。
免疫学上許容される担体としては、特に制限はないが、例えば牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、チログロブリン(TG)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、免疫グロブリン等の高分子量タンパク質の他、赤血球、多糖体等が挙げられ、好ましくは、KLHが挙げられる。ここで、メパニピリム誘導体のHOOC-(CH2)n-O-のカルボキシル基は、免疫学上許容される担体のリジン残基のアミノ基とアミド結合を形成し、得られた複合体は、免疫原性を有し、メパニピリムおよびメパニピリムプロパノールに特異的な抗体(本発明の抗体)を誘起するのに好適に用いられ得る。
従って、本発明は、メパニピリム誘導体および免疫学上許容される担体からなる、免疫原性を有する複合体に対する抗体またはその断片を提供する。より好ましくは、前記免疫原性を有する複合体中において、免疫学上許容される担体が、該担体のリジン残基のアミノ基とメパニピリム誘導体のカルボキシル基のアミド結合を介してメパニピリム誘導体と結合している。
本発明の抗体としては、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体をともに包含する。また、当該抗体は、IgG、IgA、IgM、IgDまたはIgEのいずれの免疫グロブリンクラスに属するものであってもよいが、好ましくはIgGである。
本発明のポリクローナル抗体は、例えば以下の方法により作製することができる。上記の本発明の複合体と完全または不完全フロイントアジュバント(FCAまたはFIA)との混和物を感作抗原として、ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、モルモットまたはハムスター等の哺乳動物に免疫(初回免疫から約1〜4週間毎に1〜数回追加免疫する)し、各追加免疫の約3〜10日後に部分採血した血清の抗体価を従来公知の抗原抗体反応を利用して測定、その上昇を確認しておく。さらに、最終免疫から約3〜10日後全血を採取して抗血清を精製する。ポリクローナル抗体は、硫安分画等の塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィー等の慣用の分離技術を用いて単独の免疫グロブリンクラスとして精製することもできる。
また、本発明のモノクローナル抗体は、通常細胞融合によって製造されるハイブリドーマ(融合細胞)から取得することができる。すなわち、上記ポリクローナル抗体の場合と同様、本発明の複合体を免疫感作した哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これと骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを形成させ、当該ハイブリドーマをクローン化し、メパニピリムあるいは本発明のメパニピリム誘導体をマーカー抗原(あるいはマーカーハプテン)として、それに対して特異的な親和性を示す抗体を生産するクローンを選択することによって製造される。また、あらかじめ単離された脾細胞あるいはリンパ球等に培養液中で上記の複合体を作用させて生じる抗体産生細胞も使用することができる。この場合にはヒト由来の抗体産生細胞も調製可能である。
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの調製はケーラーおよびミルシュタインの方法(Nature, Vol. 256, pp. 495-497, 1975)およびその変法に従って行うことができる。すなわち、本発明のモノクローナル抗体は、前述のごとく免疫感作された動物から取得される脾細胞、胸腺細胞、リンパ節細胞、末梢リンパ球、骨髄腫細胞あるいは扁桃細胞等、好ましくは脾細胞に含まれる抗体産生細胞と、好ましくは同種のマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒトの骨髄腫細胞(ミエローマ)との融合により得られるハイブリドーマを培養することにより調製される。培養は、インビトロまたはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等の哺乳動物、好ましくはマウスまたはラット、より好ましくはマウスの腹腔内等でのインビボで行うことができ、抗体はそれぞれ培養上清あるいは哺乳動物の腹水から取得することができる。
細胞融合に用いられる骨髄腫細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3-NSI-1-Ag4-1、P3-X63-Ag8-U1、P3-X63-Ag8-653、 SP2/0-Ag14、F0あるいはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3-Ag1.2.3、ヒト由来ミエローマU-266AR1、GML500-6TG-A1-2、UC729-6、CEM-AGR、D1R11あるいはCEM-T15等が挙げられる。
本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖のみられたウェル中の培養上清の、マーカー抗原(またはハプテン)に対する反応性を、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイ等によって測定することにより行うことができる。
後述する実施例に記載の通り、メパニピリムに高い反応性を示す抗体を産生したハイブリドーマを、限界希釈法によって細胞クローニングし、モノクローナル抗体産生細胞(MPP204)として取得した。このMPP204を平成29年12月19日に、受託番号NITE P-02596として独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託した。
モノクローナル抗体の単離精製は、上述のような方法によって製造される該抗体含有培養上清あるいは腹水を、イオン交換クロマトグラフィー、抗イムノグロブリンカラムまたはプロテインGカラム等のアフィニティーカラムクロマトグラフィーに付すことにより行うことができる。
本発明のモノクローナル抗体は、上述の製造方法に限定されることなく、いかなる方法で得られたものであってもよい。また、通常モノクローナル抗体は免疫感作を施す哺乳動物の種類によりそれぞれ異なる構造の糖鎖を有するが、本発明におけるモノクローナル抗体は、該糖鎖の構造差異により限定されるものではなく、あらゆる哺乳動物由来のモノクローナル抗体をも包含するものである。
また、本発明の抗体には、前記のポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換え技術を用いて製造され得るキメラ抗体、一本鎖抗体に加えて、これらの抗体の断片が含まれる。抗体の断片とは、特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的にはFab、Fab’、F(ab’)2、scAb、scFv、またはscFv-Fc等を包含する。
また、当業者であれば、本発明の抗体または断片と他のペプチドやタンパク質との融合抗体を作製することや、修飾剤を結合させた修飾抗体を作製することも可能である。融合に用いられる他のペプチドやタンパク質は、抗体の結合活性を低下させないものである限り特に限定されず、例えば、ヒト血清アルブミン、各種tagペプチド、人工へリックスモチーフペプチド、マルトース結合タンパク質、グルタチオンSトランスフェラーゼ、各種毒素、その他多量体化を促進しうるペプチドまたはタンパク質等が挙げられる。修飾に用いられる修飾剤は、抗体の結合活性を低下させないものである限り特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、糖鎖、リン脂質、リポソーム、低分子化合物等が挙げられる。
通常、抗体の結合能は、抗原の構造に大きく依存し、認識できる抗原の構造が異なれば、その抗原を認識できなくなる場合が多い。この点、複数の抗原に対して特異性を有する抗体を用いることによって、1度で複数の抗原の存在を検出することが可能である。しかし、同じ試料中に含まれる複数の抗原と異なる反応性を示す抗体を用いた場合は、偽陽性や偽陰性を生じる原因となるため、適切ではない。残留メパニピリムの濃度とは、メパニピリムとメパニピリムの代謝産物であるメパニピリムプロパノールをメパニピリムに換算したものとの和と定義されているため、この点が問題になっていた。したがって、残留メパニピリムの濃度を測定する場合、メパニピリムとメパニピリムプロパノールに対して等しい反応性を有する抗体を用いることが好ましい。本発明の抗体またはその断片は、メパニピリムおよびメパニピリムプロパノールに対して等しい反応性を有するため優れている。一方、本発明の抗体は、メプロニルと同じアニリノピリミジン系殺菌剤に属するシプロジニル、ピリメタニルに対しても結合能を保持している。これらの殺菌剤は同時に使用されることが稀なため、本発明の抗体またはその断片を用いることで定量的に検出することが可能となる。結果として、対応する個別の抗体を用意する必要がないため利用価値が高い。
従って、本発明はまた、上記のようにして取得される本発明の抗体またはその断片を用いて、アニリノピリミジン系殺菌剤を測定することを特徴とする、試料中のアニリノピリミジン系殺菌剤の測定方法を提供する。
本発明の測定方法で測定されるアニリノピリミジン系殺菌剤とは、限定されるわけではないが、メパニピリム、メパニピリムプロパノール、シプロジニルおよびピリメタニルが挙げられ、好ましくは、メパニピリム、メパニピリムプロパノールである。
本明細書においてシプロジニルとは、下記の式
Figure 2019135222
で表される化合物である。
本明細書においてピリメタニルとは、下記の式
Figure 2019135222
で表される化合物である。
本発明の測定方法に供試される試料の原材料としては、特に制限されないが、野菜、穀物、果物などが挙げられる。野菜としては、例えば、小豆、インゲン、レタス、ねぎ、トマト、ミニトマト、ピーマン、なす、きゅうり、かぼちゃ、ホウレンソウなどが挙げられる。穀物としては、米、小麦、大麦などが挙げられる。果物としては、すいか、メロン、みかん、ゆず、かぼす、りんご、なし、びわ、桃、いちご、ラズベリー、ぶどう、かき、マンゴーなどが挙げられる。試料は、例えば、上記原材料を破砕し、有機溶媒と混合した後、遠心分離や濾過などによって有機溶媒層を分離することによって得ることができる。または、試料は、河川、用水路、下水、湖沼等の農薬汚染が疑われる水を有機溶媒と混合して、遠心分離や濾過などによって有機溶媒層を分離することによって得ることもできる。使用される有機溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、アセトニトリルなどが用いられうるが、そのうちメタノールが好ましい。また、試料に含まれるメタノールの終濃度は、0%〜30%、好ましくは0.5%〜10%、より好ましくは1%である。
本発明の測定方法としては、通常の抗原−抗体反応を利用する方法であれば特に制限されず、放射性同位元素免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光もしくは発光検出法、凝集法、イムノブロット法、イムノクロマト法等(Meth. Enzymol., 92, 147-523 (1983), Antibodies Vol.II IRL Press Oxford (1989))が挙げられる。標識の手段としては、酵素、金コロイド、放射性同位元素、蛍光物質、発光物質などがある。放射性同位元素としては、特に限定されるものではないが、例えば[125I]、[131I]、[3H]、[14C]などが好ましい。酵素としては、特に限定されるものではないが、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えばβ−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが挙げられる。蛍光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばフルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネートなどが挙げられる。発光物質としては、特に限定されるものではないが、例えばルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが挙げられる。これらのうち、特に感度や簡便性等の点から、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素を用いるELISA、あるいは金コロイドを用いたイムノクロマトが好ましい。
代表的なELISAによる検出法は、間接競合阻害ELISAまたは直接競合阻害ELISAなどが挙げられる。例えば以下に述べるような本発明の抗体(またはその断片、以下同様)を用いた直接競合阻害ELISAによって代表的なアニリノピリミジン系殺菌剤であるメパニピリムの検出を行うことができる。
(1)本発明の抗体を、支持体に固相化する。用いる支持体は、96穴、48穴、192穴等のマイクロタイタープレートが好ましい。固相化は、例えば、固相化用抗体を含む緩衝液を支持体上に載せ、インキュベーションすればよい。緩衝液中の抗体の濃度は、通常0.01μg/mLから10μg/mL程度である。緩衝液としては、検出手段に応じて公知のものを使用することができる。
(2)支持体の固相表面へのタンパク質の非特異的吸着を防止するため、固相化用抗体が吸着していない固相表面部分を、該抗体と無関係なタンパク質等によりブロッキングする。ブロッキング剤としては、BSAもしくはスキムミルク溶液、または市販のブロックエース(大日本住友製薬社製)等を使用することができる。ブロッキングは、前記ブロッキング剤を支持体に添加し、例えば、約4℃で一晩インキュベーションした後、洗浄液で洗浄することにより行われる。洗浄液としては特に制限はないが、前記(1)と同じ緩衝液を使用することができる。
(3)各種濃度のメパニピリムを含む試料に、メパニピリム(または本発明のメパニピリム誘導体、以下同様)と酵素を結合させた酵素結合メパニピリムを加えた混合物を調製する。酵素結合メパニピリムの調製は、メパニピリムを酵素に結合する方法であれば特に制限なく、いかなる方法で行ってもよい。
(4)工程(3)の混合物を工程(2)で得られた抗体固相化支持体と反応させる。メパニピリムと酵素結合メパニピリムとの競合阻害反応により、これらと固相化抗体との複合体が生成する。反応は例えば、約25℃で約1時間行う。メパニピリムは、水に不溶性であるため、反応溶液中には各種有機溶媒を含有することができる。前記有機溶媒としては、メパニピリムを溶解させ、かつ抗原−抗体反応を阻害しない範囲で有機溶媒およびその含有量を選択すればよい。具体的には、メタノール、アセトニトリル、エタノールなどがあげられる。反応終了後、緩衝液で支持体を洗浄し、固相化抗体と結合しなかった酵素結合メパニピリムを除去する。固相化抗体−酵素結合メパニピリムの複合体の量を検出することにより、予め作成した検量線から試料中のメパニピリムの量を決定する。
(5)支持体に結合した標識酵素と反応する発色基質溶液を加え、吸光度を検出することによって検量線からメパニピリムの量を算出することができる。標識酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、例えば、過酸化水素と、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンまたはo−フェニレンジアミンを含む発色基質溶液を使用することができる。通常、発色基質溶液を加えて室温で約10分程度反応させた後、硫酸を加えることにより酵素反応を停止させる。3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを使用する場合、450nmの吸光度を検出する。o−フェニレンジアミンを使用する場合、492nmの吸光度を検出する。なお、バックグランド値を補正するため、630nmの吸光度も同時に検出することが望ましい。
標識酵素としてアルカリホスファターゼを使用する場合には、例えばp−ニトロフェニルリン酸を基質として発色させ、NaOH溶液を加えて酵素反応を止め、415nmでの吸光度を検出する方法があげられる。
メパニピリムを添加しない反応溶液の吸光度に対して、メパニピリムを添加して本発明の抗体と反応させた溶液の吸光度の減少率を阻害率として計算する。既知の濃度のメパニピリムを添加した反応液の阻害率により予め作成しておいた検量線を用いて、試料中のメパニピリムの濃度を算出することができる。
別の態様としてメパニピリムの検出は以下のような手順により間接競合阻害ELISAによって行うことができる。
(1)前述のメパニピリムに対する人工抗原を支持体に固相化する。用いる支持体は、通常のELISAに用いる支持体であれば特に制限されないが、96穴、48穴、192穴等のマイクロタイタープレートが好ましい。固相化は、例えば、固相化用メパニピリム(または本発明のメパニピリム誘導体、以下同様)を含む緩衝液を支持体上に載せ、インキュベーションすればよい。緩衝液中のメパニピリムの濃度は、通常0.01μg/mLから100μg/mL程度である。緩衝液としては、検出手段に応じて公知のものを使用することができる。
(2)支持体の固相表面へのタンパク質の非特異的吸着を防止するため、固相化用抗原が吸着していない固相表面部分を、メパニピリムと無関係なタンパク質等によりブロッキングする。ブロッキング剤としては、BSAもしくはスキムミルク溶液、または市販のブロックエース(大日本住友製薬社製)等を使用することができる。ブロッキングは、前記ブロッキング剤を支持体に添加し、例えば、約4℃で一晩インキュベーションした後、洗浄液で洗浄することにより行われる。洗浄液としては特に制限はないが、前記(1)と同じ緩衝液を使用することができる。
(3)前記(1)および(2)で処理された固相表面にメパニピリムを含む試料および本発明の抗体溶液を加え、該抗体を前記固相化メパニピリムおよびメパニピリムに競合的に反応させて、固相化メパニピリム抗体複合体およびメパニピリムに対する抗体複合体を生成させる。反応は、通常室温、1時間程度で行うことができる。メパニピリムは、水に不溶性であるため、反応溶液中には各種有機溶媒を含有することが必要である。前記有機溶媒としては、メパニピリムを溶解させ、かつ抗原−抗体反応を阻害しない範囲で有機溶媒およびその含有量を選択すればよい。具体的には、メタノール、アセトニトリル、エタノールなどがあげられるが、そのうちメタノールが好ましい。また、試料に含まれるメタノールの終濃度は、0%〜30%、好ましくは0.5%〜10%、より好ましくは1%である。
(4)固相化メパニピリム抗体複合体の量は、酵素標識した二次抗体(例えば、マウス抗体を認識する抗体)を添加して検出することができる。例えばメパニピリムに対する抗体としてマウスモノクローナル抗体を用いる場合、酵素標識(例えば、ペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ等)した抗マウス抗体−ヤギ抗体を用いて、支持体に結合したメパニピリムに対する本発明の抗体と反応させるのが望ましい。反応は、前記(3)と同様の条件下で行えばよい。反応後、緩衝液で洗浄する。
(5)支持体に結合した二次抗体の標識酵素と反応する発色基質溶液を加え、二次抗体に結合させた酵素に反応する発色基質溶液を前述の直接競合阻害ELISA法と同様に加え、吸光度を検出することによりあらかじめ作成した検量線からメパニピリムの量を算出することができる。
前記本発明の測定方法においては、検出対象物に応じた前処理により試料を調製した後、直接競合阻害ELISAまたは間接競合阻害ELISAに供することができる。検出対象物が食品(野菜、果物、穀物など)の場合、アニリノピリミジン系殺菌剤が抽出できる全ての方法を用いることができる。アニリノピリミジン系殺菌剤を含む食品からの抽出物は、メタノール、エタノールあるいはアセトニトリル(好ましくは、メタノール)で抽出し緩衝液で希釈したものをそのまま試料とする。試料に含まれるメタノールの終濃度は、0.1%〜30%、好ましくは0.5%〜10%、より好ましくは1%である。
また、本発明は前記のアニリノピリミジン系殺菌剤測定方法を実施するためのアニリノピリミジン系殺菌剤測定キットを提供する。本発明の測定キットは、このような測定方法を好適に行い得るように、本発明の抗体またはその断片を含む。さらに、該キットは、本発明の測定方法を実施する際に使用される周知の試薬類(例えば、反応緩衝液、ブロッキング液、洗浄液、標識検出試薬等)および器具類(例えば、反応容器等)を含んでいてもよい。
以下において、実施例により本発明をより具体的にするが、この発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1 メパニピリム誘導体の合成
メパニピリム誘導体を、以下の反応を経て合成した。
(1)1-Phenylguanidineの合成
Figure 2019135222
三方コックとジムロートを付け、撹拌子を入れた100 mlフラスコに、aniline (化合物1) 558.8 mg (Mw. 93.13,6 mmol)をいれ、脱気、Ar置換した。そこへエタノール/水(1/1, v/v) 17 mlを加えて溶解し、cyanamide (化合物2) 353.1 mg (Mw. 42.04,8.4 mmol)と硝酸 457 μl (Mw. 63.00,d=1.38,6 mmol,60 %水溶液)を加えて24時間加熱還流した。反応液を濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM→DCM/MeOH = 20/1→13/1→10/1→5/1)で精製し、1-Phenylguanidine(目的化合物3)を収率48 %で得た。目的化合物3の構造は1H NMRにより決定した。
1H NMR (500 MHz, CH3OD) δ 7.44-7.50 (m, 2H), 7.39-7.34 (m, 1H), 7.30-7.26 (m, 2H) ppm.
(2)1-(6-Methyl-2-(phenylamino)pyrimidin-4-yl)propan-2-oneの合成
Figure 2019135222
三方コックとジムロートを付け、撹拌子を入れた30 mlナスフラスコに、1-Phenylguanidine(化合物3)202.8 mg (Mw. 135.17,1.5 mmol)、3-acetyl-6-methyl-2H-pyran-2,4(3H)-dione(化合物4) 252.2 mg (Mw. 168.15,1.5 mmol)、炭酸カリウム 103.7 mg (Mw. 138.21,0.75 mmol)を入れ、脱気、Ar 置換した。そこへ無水DMF 1 mlを入れて溶解させ、2.5時間加熱還流した。反応終了後、反応液に冷水を約15 ml加え、トルエンで分液後、有機層を水洗しNa2SO4で乾燥し、1-(6-methyl-2-(phenylamino)pyrimidin-4-yl)propan-2-one(目的化合物5)を得た。さらなる精製は行わず、そのまま次の反応に使用した。
crude 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.66-7.62 (m, 2H), 7.35-7.29 (m, 2H), 7.00-7.05 (m, 1H), 6.54 (s, 1H), 3.72 (s, 2H), 2.40 (s, 3H), 2.27 (s, 3H) ppm.
(3)2-(((1-(6-Methyl-2-(phenylamino)pyrimidin-4-yl)propan-2-ylidene)amino)oxy)acetic acid(メパニピリム誘導体: 以降ハプテンと称す)の合成
Figure 2019135222
三方コックとジムロートを付け、撹拌子を入れた100 mlナスフラスコに、1-(6-methyl-2-(phenylamino)pyrimidin-4-yl)propan-2-one(化合物5)164.7 mg (Mw. 241.29,0.48 mmol,純度70%として)を入れ、ピリジン/メタノール/蒸留水=1/4/1(v/v/v)12 ml に溶解させた。そこへ2-(aminooxy)acetic acid(化合物6)189.1 mg (Mw. 109.3,1.73 mmol)を加え、3.5時間加熱還流させた。反応液を濃縮し、残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/Methanol = 100/1-10/1-/Methanolで徐々に極性を上げ溜出)で精製、目的化合物7である2-(((1-(6-Methyl-2-(phenylamino)pyrimidin-4-yl)propan-2-ylidene)amino)oxy)acetic acidを含むフラクションを濃縮した。さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2/Methanol = 200/1_100/1_10/1で徐々に極性を上げ溜出)で精製し、該ハプテンをオキシムのsyn,anti異性体の混合物として得た。これらの混合物を抗体作製に用いた。
HRMS:M++H calcd for C12H19N4O3,315.1457, found 315.1456, major 1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.69-7.63 (m, 2H), 7.34-7.28 (m, 2H), 7.06-6.99 (m, 1H), 6.54 (d, J = 6.50 Hz, 1H), 4.71 (d, J= 19.49 Hz, 2H), 3.74 (s, 1H), 3.52 (s, 1H), 2.43 (s, 1H), 2.28 (s, 1H), 1.99 (s, 1H), 1.90 (s, 1H) ppm. major 13C NMR (126 MHz, CDCl3) δ171.6, 169.8, 165.7, 156.8, 139.0, 128.9, 123.1, 128.9, 122.6, 120.1, 111.4, 70.1, 37.4, 24.4, 20.3ppm
実施例2 免疫原、間接競合ELISA用抗原、直接競合ELISA用標識抗原の作製
実施例1において合成したハプテンは、活性化エステル法によりスカシ貝ヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)と結合させ、免疫原およびELISA抗原とした。
まず、ハプテン5.0 μmolをDMSO 100 μLに溶解した。次にこれらの溶液にN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS) 6.0 μmolをDMSO 5 μLに溶解し添加後、さらに1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC) 6.0 μmolをDMSO 10 μLに溶解し添加した。室温にて1.5時間反応させた後、この反応溶液に10 mmol/Lリン酸緩衝液(pH 7.0) 1 mLに溶解したKLH、BSA、HRP各々10 mgを添加し、再び室温にて1.5時間反応させた。反応終了後、150 mmol/Lの塩化ナトリウムを添加した上記のリン酸緩衝液(PBS)に対して透析し、ハプテン−KLH結合体とハプテン−BSA結合体を調製した。一方、ハプテン−HRP結合体(HRP標識ハプテン)においては、ゲル濾過(セファデックス G-25, fineグレード, GE社製)により精製した。
実施例3 ハプテン−KLH結合体の免疫
実施例2において調製したハプテン−KLH結合体100 μgを、PBS 50 μLに溶解し、等量のフロイント完全アジュバントと乳化混合した後、Balb/cマウスの腹腔内に接種した。その後2週間ごとに2回、初回免疫量の1/4量を追加免疫し、さらに追加免疫と同量を最終免疫した。追加免疫の1週間後に部分採血し、抗体価の上昇を確認した。
実施例4 間接ELISAによる抗体の反応性の確認
免疫により上昇した抗体価は、間接ELISAを用いて確認した。すなわち、ハプテン−BSA結合体をPBSで1μg/mLに調製し、96ウェルのマイクロタイタープレートに100 μL/ウェルの量で添加した後、4℃で1晩静置することにより固相化した。液を吸引除去後、0.4% BSAを添加したPBS(以下、ブロッキング緩衝液という)300 μL/ウェルを加えて室温で1時間ブロッキングした。このウェルを0.02%tween20を添加したPBS(以下、洗浄液という)で洗浄後、マウスの抗血清を0.2% のBSAを添加したPBS(以下、抗体希釈液という)で希釈して50 μL/ウェルの量で加え、室温で1時間反応させた。洗浄液で3回洗浄した後、抗体希釈液で2000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(H+L)ウサギ抗体(invitrogen社製)を100 μL/ウェルの量で加え、1時間反応させた。再び洗浄液で3回洗浄した後、100 μg/mLの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)と0.006%の過酸化水素を加えた0.1 mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)(以下、発色基質液という)を100 μL/ウェル添加し10分間で発色反応させた。0.5 mol/L 硫酸を100 μL/ウェル添加し反応停止させ450 nmの吸光度を測定した。
実施例5 間接競合ELISAによる抗血清のメパニピリムとの反応性の確認
メパニピリムとの反応性は、間接競合ELISAを用いて確認した。すなわち、前記の間接ELISAと同様にハプテン−BSA結合体を固相化し、ブロッキングした。このウェルに、10%メタノールによって適当な濃度に希釈したメパニピリム溶液(丁度阻害がかかる濃度に希釈)と抗体希釈液で希釈した抗血清(前記の間接ELISAにおいて、生じた吸光度が飽和している領域の50%の吸光度を示すように希釈)とを等量ずつ加えて混合したものを100 μL/ウェルの量で加え、室温で1時間反応させた。洗浄した後、前記の間接ELISAと同様に、HRP標識抗体と反応させ、吸光度を測定した。
間接競合ELISAによる抗血清とメパニピリムとの反応性を、図1に示した。抗血清のメパニピリムに対するIC50値は4500 ng/mLだった。
実施例6 メパニピリムと反応するマウスモノクローナル抗体の作製
モノクローナル抗体の作製は、常法により行った。まず細胞融合には、最終免疫後3日目のマウスから取り出した脾臓細胞を用いた。メッシュで大きな固形物を除去しながら、RPMI1640培地中に取り出した脾臓細胞をRPMI1640培地にて3回洗浄した後、マウスのミエローマ細胞P3-X63-Ag8-653と細胞数の比で5:1(脾臓細胞:ミエローマ細胞)になるように混合し、遠心(1300 rpm、5分間)して細胞沈渣を集めた。この細胞沈渣に予め37℃に加温しておいた50%ポリエチレングリコール(分子量1500)1 mLを加え、細胞を融合した。細胞融合は、RPMI1640培地10 mLを徐々に添加し、牛胎児血清(以下、FBSという)1 mLを更に添加することにより、停止した。融合した細胞は、10%のFBSを添加したRPMI1640培地(以下「RPMI1640/10% FBS培地」という)に100 μmol/Lのヒポキサンチン、0.4 μmol/Lのアミノプテリン、および16 μmol/Lのチミジンを添加したHAT培地に懸濁後、96ウェルのポリスチレンプレートに5×104細胞/ウェルで分注し、37℃、5%二酸化炭素存在下で10日間−14日間培養した。培養後、コロニーの生じたウェル中の抗体活性の有無を、上記の間接ELISAと間接競合ELISAを用いて、スクリーニングした。
メパニピリムに高い反応性を示す抗体を産生したウェル中のハイブリドーマは、限界希釈法によって細胞クローニングし、モノクローナル抗体産生細胞(MPP204)とした。このMPP204を平成29年12月19日に、受託番号NITE P-02596として独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託した。
この細胞の培養上清は、MPP204由来のモノクローナル抗体(以下、MPP204抗体という)として使用した。MPP204抗体のサブクラスはIgG2aκだった。
間接競合ELISAを用いて、MPP204抗体のメパニピリムとの反応性を調べた。結果は図1に示した通り、IC50値は180 ng/mLとなり、抗血清と比較して25倍高感度にメパニピリムと反応した。
実施例7 モノクローナル抗体を用いたメパニピリムを測定するための直接競合ELISAの構築
MPP204抗体を用いた直接競合ELISAを以下のように構築した。PBSで5 μg/mLに希釈した抗マウスIgGヤギ抗体(Thermo Fisher Scientific社製)を、96ウェルのマイクロタイタープレートの各ウェルに100 μL/ウェルで添加した後、4℃で1晩静置することにより固相化した。次に、ブロッキング緩衝液に置き換え、室温で1時間ブロッキングした。洗浄液で1回洗浄した後、MPP204抗体を抗体希釈液によって希釈し、100 μL/ウェルで添加した後、室温で1時間反応させた。このウェルに、10%メタノールによって適当な濃度に希釈したメパニピリム溶液と、50 ng/mLに緩衝液によって希釈したHRP標識ハプテンを等量ずつ加えて混合したものを100 μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。洗浄液で3回洗浄した後、発色基質液を100 μL/ウェル加えて10分間発色反応させた。0.5 mol/L 硫酸を100 μL/ウェル添加し反応停止させ450 nmの吸光度を測定した。その結果を図2に示す。図2から、MPP204抗体を用いた直接競合ELISAでは、IC50値は0.46ng/mLとなり、間接競合ELISAと比較して390倍高感度にメパニピリムと反応した。
実施例8 作製したモノクローナル抗体の交差反応性
直接競合ELISAにおいて、メパニピリム代謝物であるメパニピリムプロパノールと2種類のメパニピリム関連化合物であるアニリノピリミジン系殺菌剤シプロジニル、ピリメタニルおよび汎用される殺菌剤であるクロロタロニル、ボスカリドとMPP204抗体との交差反応性(CR%)を調べた。その結果は、表1に記載した通り、MPP204抗体はメパニピリムプロパノールに34%、シプロジニルに128%、ピリメタニルに73%の交差反応性を示したが、クロロタロニル、ボスカリドとは全く反応しなかった。
Figure 2019135222
実施例9 野菜中に残留するメパニピリムの測定
直接競合ELISAが構築できたことから、野菜中に残留するメパニピリムが測定可能なことを添加回収試験によって確認した。まず、野菜を摩砕均一化して5 g分取し、所定の濃度でメパニピリムを添加した。30分間静置後、25 mLのメタノールを添加して30分間激しく振とうした。遠心して残渣を除去し、上清1 mLを7.5 mLの蒸留水で希釈し、10%メタノール相当の測定試料を得た。この試料を用いて上記のMPP204抗体を用いた直接競合ELISAを行い、検量線から元のメパニピリム添加濃度を測定値として算出し、回収率を求めた。結果は、表2に示した通り、いずれも良好な回収率を得た。このように、今回作製したMPP204抗体は、新規であるばかりでなく実用性が高く、メパニピリムの測定に大きな力を発揮することが期待される。
Figure 2019135222
実施例10 MPP204抗体のメパニピリム、メパニピリムプロパノールに対する反応性のメタノール耐性
MPP204抗体を用いて直接競合ELISAにおけるメパニピリム、メパニピリムプロパノール体に対する反応性のメタノール耐性を調べる試験を実施した。本実施例では、メパニピリム、メパニピリムプロパノールの溶媒中のメタノール濃度を段階的に変えて試験を行った。結果は、表3に示した通り、低メタノール濃度においてメパニピリム、メパニピリムプロパノールのIC50値が低い値を示し、メタノール濃度が1%の条件で、MPP204抗体のメパニピリムとメパニピリムプロパノールに対する反応性がほぼ等しくなることがわかった。残留メパニピリムの測定は、メパニピリムとメパニピリムプロパノールをメパニピリムに換算したものの和とするため、両者を同等に測定できるMPP204抗体は、新規であるばかりでなく実用性が高く、メパニピリムの測定に大きな力を発揮することが期待される。
Figure 2019135222
実施例11 野菜中に残留するアニリノピリミジン系殺菌剤メパニピリム、シプロジニル、ピリメタニルの測定
MPP204抗体は、アニリノピリミジン系殺菌剤に広く交差反応を示すこと、メタノール濃度が1%の条件においての直接競合ELISAにおいて、メパニピリムとメパニピリムプロパノールの反応性がほぼ等しくなることから、野菜中に残留するアニリノピリミジン系殺菌剤が1%メタノールでの直接競合ELISAにおいて測定可能なことを添加回収試験によって確認した。まず、野菜を摩砕均一化して5 g分取し、所定の濃度でアニリノピリミジン系殺菌剤を各々添加した。30分間静置後、25 mLのメタノールを添加して30分間激しく振とうした。遠心して残渣を除去し、上清0.1 mLを8.4 mLの蒸留水で希釈し、1%メタノール相当の測定試料を得た。この試料を用いて上記のMPP204抗体を用いた直接競合ELISAを行い、検量線から殺菌剤の各添加濃度を測定値として算出し、回収率を求めた。結果は、表4に示した通り、いずれも良好な回収率を得た。このように、今回作製したMPP204抗体は、新規であるばかりでなく、3種類のアニリノピリミジン系殺菌剤を測定できるため実用性が高く、アニリノピリミジン系殺菌剤の測定に大きな力を発揮することが期待される。
Figure 2019135222
実施例12 環境水中に残留するメパニピリムの測定
高感度な直接競合ELISAを構築できたことから、環境水中に微量に残留するメパニピリムが測定可能なことを添加回収試験によって確認した。環境水を採取し、所定の濃度でメパニピリムを添加した。メパニピリムを添加した環境水に最終濃度1%となるようにメタノールを加えて測定試料を得た。この試料を用いて上記のMPP204抗体を用いた直接競合ELISAを行い、検量線から元のメパニピリム添加濃度を測定値として算出し、回収率を求めた。結果は、表5に示した通り、いずれも良好な回収率を得た。このように、今回作製したMPP204抗体は、高感度であるため環境水においても大きな力を発揮することが期待される。
Figure 2019135222
本発明の抗体またはその断片は、メパニピリムとメパニピリムの代謝産物であるメパニピリムプロパノールに等しい結合性を有するため、メパニピリム量およびメパニピリムプロパノールのメパニピリム換算量の合算として計算される、試料中の残留メパニピリム量を測定できる。さらに、メパニピリムやメパニピリムプロパノールに類似した構造を有する複数のアニリノピリミジン系殺菌剤にも結合能を有するため、該アニリノピリミジン系殺菌剤に対して個別に抗体を用意することなく、本発明の抗体またはその断片のみを用いて、1回の測定で複数のアニリノピリミジン系殺菌剤の有無を検出することができるため、測定が迅速かつ経済的である。

Claims (8)

  1. 構造式
    Figure 2019135222

    (式中、Rは、HOOC-(CH2)n-O-を表し、nは、1〜7の整数を表す。)であるメパニピリム誘導体および免疫学上許容される担体からなる、免疫原性を有する複合体に対する抗体またはその断片。
  2. 構造式
    Figure 2019135222

    であるメパニピリム誘導体および免疫学上許容される担体からなる、免疫原性を有する複合体に対する抗体またはその断片。
  3. 免疫学上許容される担体がKLHである、請求項1または2に記載の抗体またはその断片。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体を産生する、受託番号NITE P-02596のハイブリドーマ。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体またはその断片を試料に接触させる工程を含む、アニリノピリミジン系殺菌剤の測定方法。
  6. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体またはその断片を含む、アニリノピリミジン系殺菌剤の測定キット。
  7. 構造式
    Figure 2019135222

    (式中、Rは、HOOC-(CH2)n-O-を表し、nは、1〜7の整数を表す。)であるメパニピリム誘導体。
  8. 請求項7に記載のメパニピリム誘導体および免疫学上許容される担体からなる、免疫原性を有する複合体。
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