JP2019123885A - 繊維強化プラスチック成形体用シート - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、特定方向の強度が十分に高められた繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを提供することを課題とする。【解決手段】本発明は、強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートであって、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.5〜1.0であり、平面方向の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.25〜1.0である繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。【選択図】図1

Description

本発明は、繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。具体的には、本発明は、厚み方向及び平面方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)を特定範囲とした繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。
炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む不織布(繊維強化プラスチック成形体用シートともいう)を加熱加圧処理し、成形した繊維強化プラスチック成形体は、既にスポーツ、レジャー用品、航空機用材料など様々な分野で用いられている。これらの繊維強化プラスチック成形体においてマトリックスとなる樹脂には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、またはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられることが多い。しかし、熱硬化性樹脂を用いた場合、熱硬化性樹脂と強化繊維を混合した不織布は冷蔵保管しなければならず、長期保管ができないという難点がある。
このため、近年は、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用い、強化繊維を含有した繊維強化不織布の開発が進められている。このような熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いた繊維強化不織布は、保存管理が容易であり、長期保管ができるという利点を有する。また、熱可塑性樹脂を含む不織布は、熱硬化性樹脂を含む不織布と比較して成形加工が容易であり、加熱加圧処理を行うことにより成形加工品を成形することができるという利点を有している。
従来、熱可塑性樹脂は、耐薬品性・強度等が、熱硬化性樹脂よりも劣るものが主流であった。しかし、近年は、耐熱性、耐薬品性などに優れた熱可塑性樹脂が盛んに開発されるようになり、これまで熱可塑性樹脂について常識とされてきた上記のような欠点が目覚ましく改善されてきている。このような熱可塑性樹脂は、いわゆる「エンプラ(エンジニアリングプラスチック)」と呼ばれる樹脂であり、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)等が挙げられる(例えば、非特許文献1)。
強化繊維には、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等が用いられている。このような強化繊維は繊維強化プラスチック成形体の強度を高める働きをする。また、強化繊維は、その配向方向を特定の方向に調整することによって、繊維強化プラスチック成形体の強度に方向性を持たせることが知られている(例えば、特許文献1〜6)。このような繊維強化プラスチック成形体は、自動車のバンパービーム等の補強用芯材や、一方向に機械的強度が要求される構造部品に用いられている。
特開平5−44188号公報 特開平9−41280号公報 特開平6−155495号公報 特開平4−208405号公報 特開平4−208406号公報 特開平4−208407号公報
「平成19年度 熱可塑性樹脂複合材料の機械工業分野への適用に関する調査報告書」、財団法人 次世代金属・複合材料研究開発協会、社団法人 日本機械工業連合会、平成20年3月発行
上述したように、従来技術で得られる繊維強化プラスチック成形体用シートにおいては、強化繊維を一方向に配向させることにより繊維強化プラスチック成形体の強度にある程度の方向性を持たせることはできた。しかしながら、近年はより一方向に強度が高められた繊維強化プラスチック成形体が求められており、このような繊維強化プラスチック成形体においては、繊維強化プラスチック成形体全体の曲げ強度が不十分な傾向が見られるため問題となっていた。このため、特定の方向に機械的強度が高められた繊維強化プラスチック成形体であって、繊維強化プラスチック成形体全体の曲げ強度が高められた繊維強化プラスチック成形体の開発が求められていた。
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、特定方向の強度が十分に高められた繊維強化プラスチック成形体であって、繊維強化プラスチック成形体全体の曲げ強度が高い繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを提供することを目的として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートにおいて、厚み方向及び平面方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)を特定範囲とすることにより、特定方向の強度が十分に高められ、かつ優れた曲げ強度を有する繊維強化プラスチック成形体を成形し得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1]強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートであって、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.5〜1.0であり、平面方向の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.25〜1.0である繊維強化プラスチック成形体用シート。
[2]熱可塑性樹脂が熱可塑性樹脂繊維である[1]に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[3]バインダー成分をさらに含み、バインダー成分は、繊維強化プラスチック成形体用シートの全質量に対して0.1〜10質量%含まれている[1]又は[2]に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[4]バインダー成分として、ポリエチレンテレフタレート又は変性ポリエチレンテレフタレート繊維を含む[3]記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[5]強化繊維の質量平均繊維長が3〜100mmである[1]〜[4]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[6]強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維から選ばれる少なくとも1種である[1]〜[5]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[7]強化繊維は、単繊維強度が4600MPa以上の炭素繊維である[1]〜[6]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[8]熱可塑性樹脂は、ポリエーテルイミド繊維、ポリカーボネート繊維、ポリアミド繊維及びポリプロピレン繊維から選ばれる少なくとも1種である[1]〜[7]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[9]熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン繊維である[1]〜[8]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[10]ポリプロピレン繊維は、酸変性ポリプロピレン繊維である[9]に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[11]熱可塑性樹脂は、ナイロン繊維である[1]〜[8]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[12]ナイロン繊維は、ナイロン6繊維である[11]に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[13]強化繊維及び熱可塑性樹脂は、チョップドストランドである[1]〜[12]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
[14][1]〜[13]のいずれかに記載されている繊維強化プラスチック成形体用シートを、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上の温度で加圧加熱成形することにより形成される繊維強化プラスチック成形体であって、繊維強化プラスチック成形体における厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.5〜1.0であり、平面方向の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.25〜1.0である繊維強化プラスチック成形体。
[15]繊維強化プラスチック成形体の第1方向の曲げ強度と、第1方向に直交する第2方向の曲げ強度の強度比が2.5以上である[14]に記載の繊維強化プラスチック成形体。
[16]繊維強化プラスチック成形体は、150〜600℃の温度で加熱加圧成形することにより形成されている[14]又は[15]に記載の繊維強化プラスチック成形体。
[17] 厚みが40μmより厚く、100μm以下である[14]〜[16]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体。
[18]厚さが20μmより厚く、40μm以下である[14]〜[16]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体。
[19][14]〜[18]のいずれかに記載の繊維強化プラスチック成形体と、密度が0.2〜0.9g/cm3の芯材とを有し、
前記芯材の両面に前記繊維強化プラスチック成形体が接着されてなる積層体。
[20]強化繊維と、熱可塑性樹脂繊維を混合したスラリーを、湿式抄紙する工程を含み、湿式抄紙する工程は、傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程であり、傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.98以下となるように走行する繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
[21]傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.90以下となるように走行する[20]に記載の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
[22]スラリーの分散媒の25℃における粘度は1.00mPaを超え4.00mPa以下である[20]又は[21]に記載の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
本発明によれば、特定方向の強度が十分に高められ、かつ優れた曲げ強度を有する繊維強化プラスチック成形体を成形し得る繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートから成形される繊維強化プラスチック成形体は、一方向に機械的強度が要求される構造部品等に好ましく用いられる。
図1は、本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートの繊維配向パラメーターを測定するための断面観察用試験片のイメージ図である。 図2は、実施例で用いた傾斜型抄紙機の構成を説明する図である。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
(繊維強化プラスチック成形体用シート)
本発明は、強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は0.5〜1.0であり、平面方向の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が0.25〜1.0である。
本明細書において、強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)は、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける強化繊維の配向状態を表すパラメーターである。繊維配向パラメーター(fp)は、繊維配向分布を−1.0〜1.0の数値で表すパラメーターであり、fp=−1.0及びfp=1.0のとき、強化繊維が一方向に配向していることを意味し、fp=0.0のとき、強化繊維が完全にランダムに配置されていることを意味する。
本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける、厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は0.5〜1.0であればよい。厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は、0.6〜1.0であることが好ましく、0.7〜1.0であることがより好ましく、0.8〜1.0であることがさらに好ましい。また、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける平面方向の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は0.25〜1.0であればよく、0.30〜1.0であることが好ましく、0.4〜1.0であることがより好ましく、0.60〜1.0であることがさらに好ましい。このように、本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートにおいては、強化繊維の厚み方向の配向と、平面方向の配向は一定方向であることが好ましい。
なお、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向及び平面方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)は、たとえば繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法等を適切に選択することによって制御することが可能である。
(厚み方向の繊維配向パラメーターの算出)
繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)を測定する場合は、繊維強化プラスチック成形体用シートに、一般的に電子顕微鏡観察で使用される包埋用エポキシ樹脂等を含浸させて、断面観察用試験片を作製する。ここで包埋用エポキシ樹脂を含浸させるのは、後述する断面の切り出しの際に繊維の配向方向が切断時のせん断力で変わってしまうことを防止するためである。包埋用樹脂としては、エポキシ樹脂やスチレン樹脂等、せん断力に耐えうる十分な強度・硬度を有する樹脂が好ましいが、本発明では、エポキシ樹脂を使用することで厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)を測定する。包埋用樹脂としては、例えば、日本電子株式会社製、アロニックス LCA D−800を例示することができる。なお、熱硬化タイプの樹脂や、硬化時に発熱する樹脂は、硬化時の熱で繊維強化プラスチック成形体用シート中のバインダーの強化繊維同士の接着力が低下し、強化繊維の角度が変わってしまう可能性がある。このため、紫外線等の光硬化タイプのエポキシ樹脂等、硬化時に熱源とならない樹脂を用いることが好ましい。
樹脂包埋の方法としては、電子顕微鏡観察や光学顕微鏡観察で一般的に用いられる方法を採用することができる。具体的には、繊維強化プラスチック成形体用シートを幅5mm、長さ10mmに切断し、上述した包埋用エポキシ樹脂を少なくとも試験片の表面が全て覆われるまで滴下して含浸させ、硬化させる。また、包埋用エポキシ樹脂の滴下は、たとえばスポイト等を用いて行うことができる。
図1は、繊維強化プラスチック成形体用シートに紫外線硬化タイプの包埋用エポキシ樹脂を含浸させて得られた断面観察用試験片の概念図である。図1(a)に示されているように、断面観察用試験片45は、繊維強化プラスチック成形体用シート5を構成する強化繊維20及び熱可塑性樹脂25、並びに包埋用エポキシ樹脂40を包含する。断面観察用試験片45においては、強化繊維20及び熱可塑性樹脂25の位置関係及び形状は繊維強化プラスチック成形体用シート5における状態と同一である。すなわち、断面観察用試験片45においては、強化繊維20及び熱可塑性樹脂25の位置関係及び形状を保持するように包埋用エポキシ樹脂40が存在している。
なお、図1(a)においては、熱可塑性樹脂25は繊維形状で示されているが、実際は、繊維形状でなくてもよく、粒子形状等であってもよい。図1(a)に示すように熱可塑性樹脂25が繊維形状である場合は、強化繊維20と同様の形状であり、見分けが付かないようにも見える。しかし、強化繊維の配向状態を観察する場合には、繊維径の差異や、繊維の色の差異、元素マッピング等を利用して強化繊維のみの配向を観察することができる。
厚み方向の繊維配向を観察する際には、断面観察用試験片から幅0.3〜0.6mmの試験片を切り出し、得られた試験片の厚み方向の断面を、光学顕微鏡で観察する。切り出す方法としては、安全カミソリ、手術用メス等の薄い鋭利な刃物で垂直に切断する方法を採用しうる。但し、手作業では垂直断面を得るのが難しいため、FT−IR測定用切片等を切り出すためのフィルムスライサー若しくは電子顕微鏡観察用の切片を切り出すためのイオンスライサーを用いることもできる。なお、フィルムスライサーとしては日本分光株式会社製、スライスマスター HS−1が、イオンスライサーとしては日本電子株式会社製、EM−09100ISが例示される。ここで試験片の切り出し方向は、後述する方法で求めた平面方向の基準線と平行な方向である。光学顕微鏡には、キーエンス社製、マイクロスコープを用い、モノフィラメントが視認できる倍率に拡大して繊維を観察する。強化繊維が透明な繊維ではない場合(例えば、炭素繊維などの場合)は、透過光で強化繊維を観察することができる。本実施形態においては、たとえば上記倍率を300倍、600倍、および800倍から選択することができる。また、強化繊維の観察は、試験片の観察面およびその反対面のそれぞれから深さ10μm以上の部分に焦点を合わせて観察する。なお、試験片は、ミクロトームを用いて切り出してもよい。
本発明では、エポキシ樹脂で包埋して、厚み方向の断面を切り出すことにより、切断時のせん断力で繊維の角度が変わってしまうことを防ぐことができる。
強化繊維が炭素繊維等の不透明な繊維である場合は、光学顕微鏡で観察した際の繊維の色度の違いによって、強化繊維の配向方向を観察することができる。例えば、炭素繊維を観察した場合、黒色の繊維を強化繊維として観察することができる。
なお、ガラス繊維のように透明な強化繊維などを用いた場合は、上記のような光学顕微鏡で観察しても強化繊維と樹脂の界面がはっきり視認できない場合も生じる。その場合は、上記と同様にエポキシ樹脂で繊維強化プラスチック成形体用シートを包埋し、断面観察用試験片の断面が露出するように切り出した後に、元素マッピングを行うことにより、強化繊維の配向を観察することができる。この場合、マッピングする元素は、強化繊維のみが含有し、熱可塑性樹脂とエポキシ樹脂は含有しない元素とする。例えば、ガラス繊維においては、Si又はCa元素を、エネルギー分散型X分析(EDS/EDX: Energy Dispersive X−Ray Spectroscopy)装置を備えた電子顕微鏡によりマッピングすることで、繊維配向を測定することができる。このような装置としては、オランダ フェノムワールド社製の卓上走査型電子顕微鏡「PRO X」等が例示される。
強化繊維の配向方向とは、強化繊維の長軸方向である。また、厚み方向の断面において、強化繊維は楕円形で確認される場合もある。強化繊維が楕円形で確認される場合はこの楕円の長軸方向を繊維の配向方向とする。強化繊維の配向角度θiは、基準線に対する選び出した強化繊維の配向方向(配向線)のなす角度である。本発明では、上記条件で試験片の厚み方向の断面を光学顕微鏡等で観察して、上記断面のうちの任意に選択される連続した1.5mm2の測定領域を観察し、この測定領域中に存在する視認し得る全ての強化繊維(繊維数はn本とする)の配向角度θiを測定する。配向角度θiは、基準線に対して時計回りの方向の角度を測定し、0°以上180°未満の角度とする。
厚み方向の繊維配向パラメーター(fp、以下fp値ともいう)は、上記の方法で測定した配向角度θiから以下の式(1)を用いて算出することができる。
fp=2×Σ(cos2θi/n)−1 式(1)
ここで、θiは基準線に対する選び出した強化繊維の配向角度(i=1〜n)である。
ここで、基準線は、下記の方法により決定することができる。
基準線を設定する際には、まず仮基準線pを選択し、上記測定領域内に存在する視認し得る全ての強化繊維n本の角度を測定する。この場合、仮基準線pと各繊維の角度は、α(p)i(i=1〜n)で表される。
仮基準線pとした際の繊維配向パラメーター(fp(p))は、下記式を用いて算出することができる。
fp(p)=2×Σ(cos2α(p)i/n)−1
(i=1、2、3、・・・、n)
次に、仮基準線pを±1°ずつ、±90°となるまで回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))をとり、仮基準線p+zと仮基準線p-zと繊維n本の角度を算出する。この場合の角度は、α(p+ziと、α(p-zi(i=1〜n)で表される。
回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))と強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p±z))は、下記式を用いて算出することができる。
fp(p±z)=2×Σ(cos2α(p±zi/n)−1
(i=1、2、3、・・・、n)
このようにして、得られたfp(p)値及びfp(p±z)値の絶対値のうち最大値が得られた場合に設定した仮基準線を基準線Pとすることができる。このように決定した基準線Pから算出される繊維配向パラメーターを、厚み方向における繊維配向パラメーター(fp)とすることができる。
図1(b)は、図1(a)に示した断面観察用試験片45をB−B'方向に切り出し、厚み方向を縦方向とした断面概念図である。B−B'方向は、繊維の大半が配向している方向と平行な方向であることが好ましい。すなわち、B−B'方向は、後述する方法で求めた平面方向の基準線と平行な方向である。
図1(b)では、上記の方法で決定された基準線は、Pで表される点線であり、各強化繊維の配向は、各々QとRの点線で表されている。なお、図1(b)において、P'とした点線は基準線と平行な線であり、基準線Pと、各強化繊維の配向線(Q及びR)がなす角度をわかりやすく説明するための補助線である。図1(b)では、P'とQがなす角度(配向角度θ1)は0°であるため、P'とQは重なっている。また、P'とRがなす角度(配向角度θ2)はθ2として表されている。このようにして、θ1〜θnが測定される。なお、図1(b)では、強化繊維の配向状態を確認しやすくするために、強化繊維のみを図示している。
なお、繊維配向パラメーター(fp)や仮基準線と強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p±z))を測定する部分としては、断面観察用試験片の厚み方向の断面の端部を避け、中央近辺とすることが好ましい。具体的には、断面観察用試験片の両端部辺から厚み方向に5%(断面観察用試験片の厚みに対して5%)までの領域を避けて測定領域とすることが好ましい。
(平面方向の繊維配向パラメーターの算出)
一方、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける平面方向の繊維配向パラメーターの測定は、特に樹脂包埋等の処理をせずとも測定することができる。具体的には、長さ3cm×幅3cmに切り出した繊維強化プラスチック成形体用シートをスライドガラス上に載せ、上から更にスライドガラスを載せて、マイクロスコープを用いて通常の反射光の測定で観察することができる。
本発明では、スライドガラスで挟んだ試験片の一方の面について光学顕微鏡にて観察する。光学顕微鏡には、キーエンス社製、マイクロスコープを用い、モノフィラメントが視認できる倍率に拡大して反射光にて、または反射光と透過光を併用して繊維を観察する。本実施形態においては、たとえば上記倍率を300倍、600倍、および800倍から選択することができる。これにより、一方の面のうちの任意に選択される連続した2.0mm2の測定領域を観察し、この測定領域中に存在する視認し得る全ての強化繊維(繊維数はm本とする)の配向角度θiを測定する。配向角度θiは、基準線に対して時計回りの方向の角度を測定し、0°以上180°未満の角度とする。繊維配向パラメーター(fp、以下fp値ともいう)は、上記の方法で測定した配向角度θiから以下の式(2)を用いて算出することができる。
fp=2×Σ(cos2θi/m)−1 式(2)
ただし、i=1〜mである。
そして、反対面についても同様に測定し、一方の面と反対面の平均値を求めて、これを平面方向の繊維配向パラメーター(fp)とする。なお、一方の面の測定領域と反対面の測定領域は、たとえば平面視において重なる領域である。また、一方の面および反対面のいずれの観察においても、たとえば一方の面および反対面のそれぞれから深さ10μm以上の部分に焦点を合わせて観察することができる。
平面方向の繊維配向パラメーターの測定をする際の基準線は、下記の方法により決定することができる。
基準線を設定する際には、まず仮基準線pを選択し、上記測定領域内に存在する視認し得る全ての繊維m本の角度を測定する。この場合、仮基準線pと各繊維の角度は、α(p)i(i=1〜m)で表される。
仮基準線pとした際の繊維配向パラメーター(fp(p))は、下記式を用いて算出することができる。
fp(p)=2×Σ(cos2α(p)i/m)−1
(i=1、2、3、・・・、m)
次に、仮基準線pを±1°ずつ、±90°となるまで回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))をとり、仮基準線p+zと仮基準線p-zと繊維m本の角度を算出する。この場合の角度は、α(p+ziと、α(p-zi(i=1〜m)で表される。
回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))と強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p±z))は、下記式を用いて算出することができる。
fp(p±z)=2×Σ(cos2α(p±zi/m)−1
(i=1、2、3、・・・、m)
このようにして、得られたfp(p)値及びfp(p±z)値のうち最大値が得られた場合に設定した仮基準線を基準線Pとすることができる。このように決定した基準線Pから算出される繊維配向パラメーターを、平面方向における繊維配向パラメーター(fp)とすることができる。
強化繊維は、繊維強化プラスチック成形体用シートの平面方向のいずれの方向に配向していてもよいが、繊維強化プラスチック成形体用シートのMD方向(抄紙ラインの流れ方向)に配向していることが好ましい。
上記のような繊維強化プラスチック成形体用シートを成形することで得られた繊維強化プラスチック成形体においては、一方向の曲げ強度が高められている。特に、強化繊維がMD方向に配向している場合、繊維強化プラスチック成形体においてはMD方向の強度が高められる。さらに、上記のような繊維強化プラスチック成形体用シートを成形することで得られた繊維強化プラスチック成形体においては、繊維強化プラスチック成形体の全体の曲げ強度も高められている。
本発明において、厚み方向及び平面方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値が上記範囲内であることは、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向及び平面方向の強化繊維の配向が一定方向であることを意味する。すなわち、繊維強化プラスチック成形体用シートにおいて、強化繊維は一方向に配向していることを意味する。そして、このような繊維強化プラスチック成形体用シートから成形される繊維強化プラスチック成形体においても、強化繊維は一方向に配向していることとなる。
なお、繊維強化プラスチック成形体用シートや繊維強化プラスチック成形体において、厚み方向の強化繊維の配向が一定方向であることは、強化繊維が、繊維強化プラスチック成形体用シートや繊維強化プラスチック成形体の表面(抄紙面)に平行に配向していることをいう。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートにおいて、強化繊維の配合割合は、20〜83質量%であることが好ましい。強化繊維の配合割合を上記範囲内とすることにより、特定方向に配向した繊維の本数を増やすことが可能となる。これにより、強化繊維間の距離が短くなり、加熱加圧成形後の強化繊維の充填密度が高くなり、繊維強化プラスチック成形体の強度を効果的に高めることができる。
また、繊維強化プラスチック成形体用シート中の強化繊維と熱可塑性樹脂の質量比は1:0.2〜1:10であることが好ましく、1:0.5〜1:5であることがより好ましく、1:0.7〜1:3であることがさらに好ましい。強化繊維と熱可塑性樹脂の質量比を上記範囲内とすることにより、軽量であり、かつ高強度の繊維強化プラスチック成形体を成形することができる。
繊維強化プラスチック成形体用シートのJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2に規定される透気度は、250秒以下であることが好ましく、230秒以下であることがより好ましく、200秒以下であることがさらに好ましい。この数値は、数字が小さいほど空気が通りやすい(通気性が良い)ことを表す。本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートの透気度を上記範囲内とすることにより、加熱加圧工程における成形速度を高めることができ、生産効率を高めることができる。
(強化繊維)
強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの強化繊維は、1種のみを使用してもよく、複数種を使用してもよい。また、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を含有していてもよい。
強化繊維として、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の無機繊維を使用した場合、繊維強化プラスチック成形体用シートに含まれる熱可塑性樹脂の溶融温度で加熱加圧処理することにより繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。
また、強化繊維として、アラミド等の有機繊維を用いた場合は、一般的に強化繊維として無機繊維を使用した繊維強化プラスチック成形体用シートから形成される成形体よりも耐摩耗性を向上させ得る。
強化繊維の質量平均繊維長は、3〜100mmであることが好ましく、3〜75mmであることがより好ましく、3〜50mmであることがさらに好ましく、6〜50mmであることが特に好ましい。強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートから強化繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。また、強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、強化繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
なお、本明細書において、質量平均繊維長は、100本の繊維について測定した繊維長の平均値である。
なお、強化繊維の繊維径は、平均繊維径として特に限定されないが、一般的には炭素繊維、ガラス繊維共に繊維径が5〜25μm程度の繊維が好適に使用される。また、強化繊維には、複数の素材や形状を併用してもよい。
なお、本明細書において、平均繊維径は、100本の繊維の繊維径を測定した際の平均値である。
(炭素繊維)
強化繊維としては炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維に含まれる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等の炭素繊維を用いることができる。これらの炭素繊維は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせ用いてもよい。また、これら炭素繊維の中でも、工業規模における生産性及び機械特性の観点から、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維を用いることが好ましい。
炭素繊維の質量平均繊維長は、3〜100mmであることが好ましく、3〜75mmであることがより好ましく、3〜50mmであることがさらに好ましく、6〜50mmであることが特に好ましい。炭素繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートから炭素繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。また、炭素繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、強化繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
炭素繊維の単繊維強度は、4500MPa以上であることが好ましく、4600MPa以上であることがより好ましく、4700MPa以上であることがさらに好ましい。単繊維強度とは、モノフィラメントの引っ張り強度をいう。このような炭素繊維を使用した場合、前述した強化繊維の繊維配向の効果との相乗効果で曲げ強度が大幅に向上する。なお、単繊維強度は、JIS R7601「炭素繊維試験方法」に準じて測定することができる。
炭素繊維の繊維径は特に限定されないが、概ね好ましい範囲としては5〜20μmが好ましい。炭素繊維の繊維径を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体の強度を高めることができる。
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、加熱加圧処理時にマトリックス、あるいは、繊維成分の交点に結着点を形成する。このような熱可塑性樹脂を用いた不織布状の繊維強化プラスチック成形体用シートは、熱硬化性樹脂を使用したシートに比べて、オートクレーブ処理が不要で、加工する際の加熱加圧成形時間が短時間ですみ、生産性を高めることができる。
熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂繊維であることが好ましい。熱可塑性樹脂繊維としては、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアミド、ポリプロピレン等を例示することができる。中でも、繊維分散性が良好であり、かつ高強度の繊維強化プラスチック成形体を得るために、ポリカーボネートやポリエーテルイミド、ポリアミドを用いることが好ましい。なお、ポリアミドはナイロンであることが好ましく、ナイロン6であることがより好ましい。
本発明では、安価で融点が低いため成形加工が容易になるという理由から、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン繊維を用いることも好ましい。さらに、ポリプロピレンをマトリックス樹脂として使用する場合、ポリプロピレンは酸変性ポリプロピレンであることが好ましい。変性ポリプロピレンを使用すると変性ポリプロピレンと強化繊維との接着性が向上するため、繊維強化プラスチック成形体の曲げ強度と弾性率が向上する。酸変性ポリプロピレンは、酸基含有ポリオレフィンであることが好ましく、酸基含有ポリオレフィンとしては、特に限定されないが、極性基を有する酸変性ポリプロピレンを用いることが好ましい。例えば、カルボキシル基を含有するモノマーと共重合したポリプロピレンを用いることができる。上記カルボキシル基を含有するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸などの不飽和カルボン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などのジカルボン酸などを用いることができる。上記共重合するポリプロピレンは、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレン共重合体であってもよい。上記プロピレン共重合体としては、例えば、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンと他のオレフィンのブロック共重合体などが挙げられる。上記α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテンなどが挙げられる。具体的には、プロピレン共重合体としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体などを用いることができる。中でも、安価に入手でき、融点が高く、耐衝撃性に優れることから、プロピレン単独重合体が好ましい。共重合の方法は、特に限定されず、例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合などを用いることができる。繊維にしたときにカルボキシル基が表面に出やすいという観点から、グラフト共重合であることが好ましい。カルボキシル基量が多いという観点から、酸変性ポリプロピレンは、マレイン酸変性ポリプロピレン及び無水マレイン酸変性ポリプロピレンからなる群から選ばれる一種以上であることが好ましい。上記酸変性ポリプロピレンは、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
熱可塑性樹脂は、繊維状態において限界酸素指数が24以上であることが好ましく、27以上であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の限界酸素指数を上記範囲とすることにより、難燃性に優れた繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。なお、本発明において、「限界酸素指数」とは、燃焼を続けるのに必要な酸素濃度を表し、JIS K7201に記載された方法で測定した数値をいう。すなわち、限界酸素指数が20以下は、通常の空気中で燃焼することを示す数値である。
また、熱可塑性樹脂のASTM E−662に記載の方法で測定した20分燃焼時の発煙量は30ds前後であることが好ましく、非常に発煙量が少ない繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。
熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、140℃以上であるものが好ましい。熱可塑性樹脂には、繊維強化プラスチック成形体を形成する際に300℃から400℃というような温度条件下で十分に流動的であることが求められる。なお、PPS樹脂繊維のようにガラス転移温度が140℃未満のスーパーエンプラ繊維であっても、樹脂の荷重たわみ温度が190℃以上となるスーパーエンプラを繊維化したものであれば使用可能である。このような熱可塑性樹脂は、加熱・加圧により溶融して限界酸素指数が30以上という非常に高い難燃性を有する樹脂ブロックを形成する。
熱可塑性樹脂繊維の質量平均繊維長は、2〜100mmであることが好ましく、2〜50mmであることがより好ましく、3〜50mmであることがさらに好ましく、3〜40mmであることが特に好ましく、3〜25mmであることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートから熱可塑性樹脂繊維が脱落することを抑制することができ、ハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。また、熱可塑性樹脂の繊維長を上記範囲内とすることにより、熱可塑性樹脂繊維の分散性を良好にすることができるため、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
本発明で用いられる繊維強化プラスチック成形体用シートでは、熱可塑性樹脂が繊維形態をしていることによりシート中に空隙が存在している。
本発明では、熱可塑性樹脂が加熱加圧成形前には、繊維形態を維持しているため、繊維強化プラスチック成形体を形成する前は、シート自体がしなやかでドレープ性がある。このため、繊維強化プラスチック成形体用シートを巻き取りの形態で保管・輸送することが可能であり、ハンドリング性に優れるという特徴を有する。
[強化繊維と熱可塑性樹脂の質量比]
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートにおいて、強化繊維とマトリックス樹脂繊維の質量比は10:90〜80:20であることが好ましく、20:80〜70:30であることがより好ましく、30:70〜70:30であることがさらに好ましい。強化繊維とマトリックス樹脂繊維の質量比を上記範囲内とすることにより、軽量であり、かつ高強度の繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
(バインダー成分)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートは、バインダー成分をさらに含むことが好ましい。バインダー成分は、繊維強化プラスチック層の全質量に対して0.1〜10質量%となるように含有されることが好ましく、0.3〜10質量%であることがより好ましく、0.4〜9質量%であることがさらに好ましく、0.5〜8質量%であることが特に好ましい。バインダー成分の含有率を上記範囲内とすることにより、製造工程中の強度を高めることができ、ハンドリング性を向上させることができる。なお、バインダー成分の量は多くなると表面強度・層間強度共に強くなるが、逆に加熱成形時の臭気の問題が発生しやすくなる。しかし、上記の範囲においては臭気の問題はほとんど発生せず、また繰り返しの断裁工程を経ても層間剥離などを発生しない繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。
バインダー成分としては、一般的に不織布製造に使用される、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、PVA樹脂、各種澱粉、セルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドーアクリル酸エステルーメタクリル酸エステル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が使用できる。
バインダー成分は、メチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位、エチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体を含有することが好ましい。中でも、バインダー成分は、メチルメタクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位及びエチルメタクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体を含有することが好ましい。また、これらのモノマーは他のモノマー、例えばスチレンや酢酸ビニル、アクリルアミド等と共重合させてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を含むことを意味し、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を含むことを意味する。
更に、本発明で好ましいバインダー成分として、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。変性ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂を変性することで融点を低下させたものであれば特に限定されないが、変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。変性ポリエチレンテレフタレートとしては、共重合ポリエチレンテレフタレート(coPET)が好ましく、例えば、ウレタン変性共重合ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。ポリエステル樹脂は本発明の熱可塑性樹脂と加熱溶融時に相溶するため、冷却後も熱や樹脂の機能を損ないにくいため、好ましく用いられる。
共重合ポリエチレンテレフタレートは、融点が140℃以下のものが好ましく、120℃以下ものがより好ましい。また、特公平1−30926号公報に記載のような変性ポリエステル樹脂を使用してもよい。変性ポリエステル樹脂の具体例として、特に、ユニチカ社製商品名「メルティ4000」(繊維全てが共重合ポリエチレンテレフタレートである繊維)が好ましく挙げられる。また、芯鞘構造のバインダー繊維としては、ユニチカ社製商品名「メルティ4080」や、クラレ社製商品名「N−720」等が好適に使用できる。
本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートを湿式抄紙し、強度縦横比を大きくしている。一般に、強度縦横比を大きくすると、繊維が一方向に並ぶ傾向となり、不織布の密度が高くなる傾向にある。その結果、不織布中の繊維間の交点が増加するため、バインダー成分の添加量を減少させることができ、少量のバインダーでも十分な表面強度が得られる。
(繊維形状)
本発明では、熱可塑性樹脂繊維と強化繊維は、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。また、バインダー繊維もチョップドストランドであることが好ましい。このような形態とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シート中で、各種繊維を均一に混合することができる。
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する際には、熱可塑性樹脂繊維、強化繊維、バインダー繊維のチョップドストランドを溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式抄紙法)が採用される。
(繊維強化プラスチック成形体)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートは、目的とする成形品の形状や成形法に合わせて任意の形状に加工することができる。繊維強化プラスチック成形体用シートは、1枚単独、或いは所望の厚さとなるように積層して熱プレスで加熱加圧成形したり、あらかじめ赤外線ヒーター等で予熱し、金型によって加熱加圧成形することができる。このように、一般的な繊維強化プラスチック成形体用シートの加熱加圧成形方法を用いて加工することにより、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体とすることができる。
本発明は強化繊維と、熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートを、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上の温度で加圧加熱成形することにより形成される繊維強化プラスチック成形体に関するものでもある。ここで、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は0.5〜1.0であり、平面方向の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値は0.25〜1.0である。
本発明の繊維強化プラスチック成形体においては、強化繊維のうち大半の強化繊維が、繊維強化プラスチック成形体の表面とほぼ平行であって、第1方向の曲げ強度と、第1方向に直交する第2方向の曲げ強度の強度比が2.5以上である。
繊維強化プラスチック成形体の厚みは、特に限定されないが、モバイル機器等の筐体として使用される場合などにおいて軽量化という観点からは薄いほうが好ましい。具体的には、0.1〜50.0mmであることが好ましく、0.1〜10.0mm以下であることがより好ましく、0.4〜1.0mm以下であることがさらに好ましい。本発明の繊維強化プラスチック成形体は、上記範囲の厚みであっても、強度に優れており、かつ一定方向の強度が高められている。
本発明の繊維強化プラスチック成形体は、強化繊維のうち大半の強化繊維が、繊維強化プラスチック成形体の表面とほぼ平行に配列しているため、加熱加圧成形時の樹脂の流動による破れが生じにくい。そのため、上記の範囲よりもさらに薄い繊維強化プラスチック成形体を成形することもできる。例えば、繊維強化プラスチック成形体の厚みを100μm以下とすることもできる。また、本発明の繊維強化プラスチック成形体の厚みは、40μmより厚く、100μm以下とすることもできる。さらに、本発明の繊維強化プラスチック成形体の厚みを20μmより厚く、40μm以下とすることもできる。なお、10μm以上20μm以下の繊維強化プラスチック成形体も得ることが可能である。
このような繊維強化プラスチック成形体は、低密度の芯材の両面に貼合して軽量・高強度の部材(積層体)を得るための補強シートや、テープ基材として好適に使用できる。本発明は、芯材の両面に繊維強化プラスチック成形体が接着されてなる積層体に関するものであってもよい。
低密度の芯材の両面に繊維強化プラスチック成形体を貼合する場合、芯材としては、例えば、天然パルプ、合成パルプ、無機繊維及び有機繊維等から選ばれる少なくとも1種の材料を含む不織布が挙げられる。また、芯材としては、上述した不織布の加熱加圧成形物、もしくは熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる発泡体等の多孔質体等も好適に使用される。
芯材の密度は低い方が軽量性に優れ、高い方が強度に優れる。このような観点より、芯材の密度は0.2〜0.9g/cm3が好適である。芯材の密度を上記範囲内とすることにより、軽量性であり、かつ高強度な積層体を得ることができる。
芯材と繊維強化プラスチック成形体を接着するための方法は芯材に接着剤を塗布して繊維強化プラスチック成形体を接着する方法や、繊維強化プラスチック成形体に接着剤を塗布して接着する方法、もしくは芯材と接着剤を熱圧着する方法等が挙げられるが、これらに限定されない。
なお、繊維強化プラスチック成形体に接着材を塗布する場合、繊維強化プラスチック成形体の片面若しくは両面に粘着剤層又は接着剤層を設けることもできる。この場合、接着剤層の上に剥離紙を貼り付けて、ハンドリング性を向上させることも可能である。本発明の繊維強化プラスチック成形体は、後述する通りの曲率半径となるように湾曲させることが可能なため、接着剤層を設けて更に剥離紙を貼り付けた場合、巻き取り形状にして輸送することが可能となる。このような形態は商品の流通上も好適である。
上述の芯材に代えて、コルゲート加工したライナーの中芯やハニカム構造の中芯を使用することもできる。この場合、コルゲート加工したライナーの中芯用の原紙や、ハニカム構造の中芯用の原紙として、本発明の繊維強化プラスチック成形体を使用することもできる。
本発明の繊維強化プラスチック成形体においては、強化繊維のうち大半の強化繊維が、繊維強化プラスチック成形体の表面とほぼ平行に配列しているため、優れた引張強度を有する。よって、繊維強化プラスチック成形体を上記のような補強材として使用した場合、繊維強化プラスチック成形体の厚さが薄くても十分な強度が得られるため軽量性と高強度を兼ね備えた積層体を得ることができる。また、本発明の繊維強化プラスチック成形体は、特定方向への強度が優れるため、用途に応じて必要な方向への強度を特に高めた積層体を得ることができる。
さらに、繊維強化プラスチック成形体においては、強化繊維のうち大半の強化繊維が、繊維強化プラスチック成形体の表面とほぼ平行に配列しているため、上記のように薄く成形すれば、曲率半径Rが10mm以下、あるいは5mm以下、さらには3mm以下に湾曲させても割れが生じないという特徴を有する。
この特徴を生かして、筒状、あるいはスパイラル状に加工してセンサー等の保護材料として使用したり、コルゲート加工を行い波型に加工して、両面にライナーシートを貼合して軽量かつ高強度の積層体を得ることも可能である。
繊維強化プラスチック成形体においては、強化繊維のうち大半の強化繊維が、繊維強化プラスチック成形体の表面とほぼ平行に配列しているため、圧縮強度にも優れる。そのため、ハニカム加工したコア材としても好適に使用することができる。
なお、射出成形でも板状の繊維強化プラスチック成形体を得ることはできるが、本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートを用いて繊維強化プラスチック成形体を得ることにより、薄膜化が可能となり、かつ成形時に破れや破損が生じないという利点を有する。
本発明の様に、繊維強化プラスチック成形体用シートを用いる場合には、繊維強化プラスチック成形体用シートの坪量を調節することにより、薄物成形体の製造が可能である。特に、本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートにおいては、厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp)の絶対値を0.5以上とすることにより平面方向の補強効果が得られ、きわめて薄い薄物成形体の製造においても、成形時に破れや破損が生じ難いという技術的意義を有する。このことにより、本発明の繊維強化プラスチック成形体の厚みは、40μmより厚く、100μm以下とすることもできる。さらに、本発明の繊維強化プラスチック成形体の厚みを20μmより厚く、40μm以下とすることもできる。なお、10μm以上20μm以下の繊維強化プラスチック成形体も得ることが可能である。
本発明の繊維強化プラスチック成形体を製造する際、繊維強化プラスチック成形体用シートの積層枚数は1枚でも、複数枚を積層して加熱加圧成形することもできる。すなわち、坪量60g/m2の繊維強化プラスチック成形体を得るために、60g/m2の繊維強化プラスチック成形体用シートを加熱加圧成形してもよいし、20g/m2の繊維強化プラスチック成形体用シートを3枚積層してもよいし、10g/m2の繊維強化プラスチック成形体用シートを2枚と、20g/m2の繊維強化プラスチック成形体用シートを2枚積層してもよい。積層枚数が1枚、あるいは少ない枚数である場合、積層工程が簡略化されるため、生産効率・製造コストの観点から好ましい。
一方、繊維強化プラスチック成形体用シートを複数枚積層する場合、繊維強化プラスチック成形体の均一性が向上し、薄物であってもピンホール等が発生しにくくなるという利点がある。さらに、繊維強化プラスチック成形体用シートの坪量が低いほうが、繊維強化プラスチック成形体用シートの厚さが薄くなるため、繊維強化プラスチック成形体の厚み方向の強化繊維の配向が一定方向となりやすく、厚み方向の配向パラメーター(fp)が1.0に近づきやすくなるため、繊維強化プラスチック成形体の強度が向上し、たわみ量が減少するという利点がある。
また、繊維強化プラスチック成形体用シートを複数枚積層する場合、繊維強化プラスチック成形体の用途に応じて、異なる種類の強化繊維や熱可塑性樹脂繊維を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートを積層することもできる。例えば、炭素繊維を強化繊維として含有する繊維強化プラスチック成形体用シートとガラス繊維を強化繊維として含有する繊維強化プラスチック成形体用シートを積層することができる。この場合、炭素繊維とガラス繊維は繊維の引張強度・破断時の伸度・導電性・熱伝導率が異なるため、その積層枚数を適宜調節することで、強度・電磁シールド性・熱伝導率などを用途に合わせて調整することも可能である。
また、片面にコア材を接着するような用途の場合、当該接着面に配する繊維強化プラスチック成形体用シートが含有する熱可塑性樹脂を、コア材との接着性に優れる樹脂、例えば融点が低いもの、粘着性を有するもの、コア材が含有する成分と相溶性に優れるものなどに変更することも可能である。
繊維強化プラスチック成形体においては、曲げ強度の相乗平均値が350MPa以上であることが好ましい。曲げ強度の相乗平均値は、400MPa以上であることが好ましく、450MPa以上であることがより好ましい。このように、繊維強化プラスチック成形体の表面に平行な面上の強化繊維の密度が高いため、本発明で得られる繊維強化プラスチック成形体は、力学的強度に優れている。
ここで、曲げ強度の相乗平均値とは、繊維強化プラスチック成形体における繊維の配向方向(MD方向)と強化繊維の配向方向と直交する方向(CD方向)の曲げ強度の相乗平均値であり、以下の式で表される強度をいう。
曲げ強度の相乗平均値=√(FMD×FCD)
ここで、FMDはFD方向の曲げ強度を表し、FCDはCD方向の曲げ強度を表す。
また、繊維強化プラスチック成形体においては、繊維強化プラスチック成形体の第1方向の曲げ強度と、第1方向に直交する第2方向の曲げ強度の強度比は、2.5以上であればよく、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。なお、第1方向とは、繊維強化プラスチック成形体における強化繊維の配向方向をいい、第2方向とは、強化繊維の配向方向に直交する方向をいう。繊維強化プラスチック成形体の強度比を上記範囲とすることにより、特定の方向に強度が高められた繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。このような繊維強化プラスチック成形体は、自動車や航空機等に用いられる一方向に機械的強度が要求される構造部品に好ましく用いられる。
(繊維強化プラスチック成形体の成形方法)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートの成形方法は特に限定されず、成形体の用途等に応じて選択が可能である。代表的な方法としてはプレス成形が例示される。また、プレス成形の方法としては、各種存在するプレス成形の方法の中でも、大型の航空機などの成形体部材を作製する際によく使用されるオートクレーブ法や、工程が比較的簡便である金型プレス法が好ましく挙げられる。ボイドの少ない高品質な成形体を得るという観点からはオートクレーブ法が好ましい。一方、設備や成形工程でのエネルギー使用量、使用する成形用の治具や副資材等の簡略化、成形圧力、温度の自由度の観点からは、金属製の型を用いて成形をおこなう金型プレス法を用いることが好ましく、これらは用途に応じて選択することができる。
金型プレス法には、ヒートアンドクール法やスタンピング成形法を採用することができる。ヒートアンドクール法は、繊維強化プラスチック成形体用シートを型内に予め配置しておき、型締とともに加圧、加熱をおこない、次いで型締をおこなったまま、金型の冷却により該シートの冷却をおこない成形体を得る方法である。スタンピング成形法は、予め該シートを遠赤外線ヒーター、加熱板、高温オーブン、誘電加熱などの加熱装置で加熱し、熱可塑性樹脂を溶融、軟化させた状態で、成形体型の内部に配置し、次いで型を閉じて型締を行い、その後加圧冷却する方法である。また、低密度の成形体を得る場合など、成形時の温度が比較的低い場合は、ホットプレス法を採用することもできる。
成形用の金型は大きく2種類に分類され、1つは鋳造や射出成形などに使用される密閉金型であり、もう1つはプレス成形や鍛造などに使用される開放金型である。本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートを用いた場合、用途に応じていずれの金型も使用することが可能である。成形時の分解ガスや混入空気を型外に排除する観点からは開放金型が好ましいが、過度の樹脂の流出を抑制するためには、成形加工中においては開放部をできるだけ少なくし、樹脂の型外への流出を抑制するような形状を採用することも好ましい。
さらに、金型には打ち抜き機構、タッピング機構から選択される少なくとも一種を有する金型を使用することができる。2段プレス機構を用いるなどの工夫で、熱プレス後に連続して、成形体を打ち抜き加工することも可能である。また、成形体は、その使用目的などによってはリブやボス等の強度補強・加工用の突起やネジ穴の形成、意匠性の付与を目的とした模様の付与を行うことができる。
また、繊維強化プラスチック成形体用シートを成形すると同時、或いは成形後にアウトサート成形やインサート成形によって、より複雑な形状部材を接着することも可能である。
繊維強化プラスチック成形体用シートから繊維強化プラスチック成形体を成形する際には、具体的には、繊維強化プラスチック成形体用シートを150〜600℃の温度で加熱加圧成形することが好ましい。なお、加熱温度は、熱可塑性樹脂が流動する温度であって強化繊維は溶融しない温度帯であることが好ましい。
繊維強化プラスチック成形体を成形する際の圧力としては、5〜20MPaが好ましい。また、所望の保持温度に到達するまでの昇温速度は3〜20℃/分が好ましく、所望の熱プレス温度での保持時間としては1〜30分、その後、成形体を取り出す温度(200℃以下)までは圧力を維持しながら、3〜20℃/分の冷却速度とするのが好ましい。更に、生産効率はやや落ちるものの、熱プレスの保持温度からマトリックス樹脂のガラス転移温度までは空冷でゆっくりと0.1〜3℃/分で冷却することも、強度向上の観点からは好ましい。また、急速加熱、急速冷却(ヒートアンドクール)成形を用いて熱プレス成形することも可能であり、その場合の昇温、冷却速度はそれぞれ30〜500℃/分である。更に、赤外線ヒーターによる場合は、温度として150〜600℃、好ましくは200〜500℃で1〜30分間加熱し、その後30〜150MPaの圧力で成形することができる。
(繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造工程は、強化繊維と、熱可塑性樹脂とを混合したスラリーを、湿式抄紙する工程を含む。
強化繊維と、熱可塑性樹脂とを混合してスラリーを得る工程では、分散液の濃度や溶媒の粘度を調整することで、各繊維を十分に分散させることができる。溶媒の粘度は、ポリアクリルアミド系の高分子を添加する等の方法で調整できる。各繊維を十分に分散させることで、繊維強化プラスチック成形体用シート中の各繊維同士が均一に混抄される。これより、本シートを加熱加圧成形した繊維強化プラスチック成形体が、例えば、部分的に樹脂の割合が多くなるのを防ぐことができ、繊維強化プラスチックの曲げ強度を高める事ができる。混合する工程では、強化繊維を単繊維状に分散させることが好ましい。
繊維強化プラスチック成形体用シートを抄紙する際には、スラリーの分散媒の25℃における粘度(ただし、JIS Z 8803「液体の粘度測定方法」に規定された測定方法による。)は、1.00mPa・sを超え4.00mPa・s以下であることが好ましく、1.05〜2.00mPa・sであることがより好ましい。
なお、ここでいうスラリーとは、抄紙工程直前のスラリーをいい、インレット中のスラリーのことである。また、スラリーの分散媒の粘度を測定する際は、インレットのスラリーを500ml採取し、150メッシュの金属製のフルイで繊維をろ過して得られるろ液を用いて測定する。
スラリーの分散媒の粘度は、インレットに、ポリアクリルアミド系等の粘剤を添加するなどして調整することができる。スラリーの分散媒の粘度を上記範囲内とすることにより、ワイヤー付近における分散液の流れの乱れを抑制し、層流とすることができる。これにより、繊維強化プラスチック成形体用シートの厚み方向及び平面方向の繊維配向パラメーター(fp)を所望の範囲内とすることができる。
湿式抄紙する工程は、傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程であることが好ましい。そして、傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.98以下となるように走行することが好ましい。傾斜型抄紙機のワイヤーのジェットワイヤー比は、0.96以下であることがより好ましく、0.90以下であることがさらに好ましく、0.80以下であることが特に好ましい。
ここで、ジェットワイヤー比とは、強化繊維とバインダー成分を含むスラリーの供給速度とワイヤー走行速度の比であり、スラリーの供給速度/ワイヤー走行速度で表される。ジェットワイヤー比が1よりも大きい場合は、スラリーの供給速度がワイヤーの走行速度よりも速く、この場合を「押し地合」という。また、ジェットワイヤー比が1以下場合は、スラリーの供給速度はワイヤーの走行速度よりも遅く、この場合を「引き地合」という。
本発明では、ジェットワイヤー比を上記範囲とし、「引き地合」で抄紙することにより、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける厚み方向の繊維配向パラメーター(fp)を所望の範囲内とすることができる。さらに、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける平面方向の繊維配向パラメーター(fp)についても所望の範囲内とすることが可能となる。
なお、湿式抄紙する工程は、傾斜型抄紙機の代わりに、円網抄紙機又は長網抄紙機を用いて抄紙する工程であってもよい。円網抄紙機を用いて抄紙を行う場合、円網抄紙機の円網の直径は80cm以上であることが好ましい。円網抄紙機の円網の直径を上記範囲とすることにより、強化繊維の配向方向を一方向とすることができ、かつ大半の強化繊維を繊維強化プラスチック成形体の表面と平行となるように配向させることが容易となる。これにより、繊維強化プラスチック成形体において特定の方向の強度をより高めることができる。
円網抄紙機を用いて抄紙を行う場合の抄造速度は、15m/min以上であることが好ましい。抄造速度を上記とすることにより、強化繊維の配向方向を一方向とすることができ、かつ大半の強化繊維を繊維強化プラスチック成形体の表面と平行となるように配向させることが容易となる。これにより、繊維強化プラスチック成形体の特定の方向の強度をより高めることができる。
繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程が傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程を含むものである場合、傾斜型抄紙機の傾斜ワイヤーに備えられている複数のサクションボックスの吸引力を各々適宜調節することが好ましい。具体的には、複数のサクションボックスの脱水量を同程度にしたり、傾斜ワイヤーの下流側のサクションボックスの脱水量が多くなるように調節することが好ましい。図2は、本発明で用いることができる傾斜型抄紙機100の一例の構成を説明する図である。図2に示されているように、傾斜型抄紙機100は、インレット110の底部に設けられた傾斜ワイヤー120の下方に第1のサクションボックス101、第2のサクションボックス102、第3のサクションボックス103、第4のサクションボックス104を備えている。このような、傾斜型抄紙機100においては、全てのサクションボックスにおける脱水量を100とした場合に、第1のサクションボックス101の脱水量を5〜65とすることが好ましく、20〜60とすることがより好ましく、35〜60とすることがさらに好ましい。なお、第1のサクションボックス101の脱水量を25よりも多くした場合は、第2〜第4のサクションボックスの脱水量は、順次低下するよう調節されることが好ましい。
このように脱水量を調節することによっても、強化繊維の配向方向を調整することができ、特定方向の強度が高められ、かつ優れた曲げ強度を有する繊維強化プラスチック成形体を成形することができる。
傾斜型抄紙機の傾斜ワイヤーの通気度は、250cm3/cm2/sec以上であることが好ましい。なお、ワイヤーの通気度は上述したインレット内のスラリーの分散媒の粘度によって適宜調節することができる。
なお、繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程では、バインダー成分を抄紙工程後に後添することもできる。例えば、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを、抄紙されたシートに内添、塗布又は含浸させ、加熱乾燥させてもよい。このような工程を設けることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートの表面繊維の飛散、毛羽立ちや脱落を抑制することができ、ハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。
なお、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを繊維強化プラスチック成形体用シートに内添、塗布又は含浸させた後は、その繊維強化プラスチック成形体用シートを急速に加熱することが好ましい。このような加熱工程を設けることにより、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを繊維強化プラスチック成形体用シートの表層領域に移行させることができる。さらに、バインダー成分を水掻き膜状に局在させることができる。
(繊維強化プラスチック成形体の用途)
繊維強化プラスチック成形体の用途としては、例えば、「OA機器、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末、タブレットPC、デジタルビデオカメラなどの携帯電子機器、エアコンその他家電製品などの筐体、及び筐体に貼り付けるリブ等の補強材、「支柱、パネル、補強材」などの土木、建材用部品、「各種フレーム、各種車輪用軸受、各種ビーム、ドア、トランクリッド、サイドパネル、アッパーバックパネル、フロントボディー、アンダーボディー、各種ピラー、各種フレーム、各種ビーム、各種サポート、などの外板またはボディー部品及びその補強材」、「インストルメントパネル、シートフレームなどの内装部品」、または「ガソリンタンク、各種配管、各種バルブなどの燃料系、排気系、または吸気系部品」、「エンジン冷却水ジョイント、エアコン用サーモスタットベース、ヘッドランプサポート、ペダルハウジング」、などの自動車、二輪車用部品、「ウィングレット、スポイラー」などの航空機用部品、「鉄道車両用の座席用部材、外板パネル、外板パネルに貼り付ける補強材、天井パネル、エアコン等の噴出し口」などの鉄道車両用部品、「樹脂(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂)からなる成形体の補強材、樹脂と強化繊維からなる成形体の補強材、植物由来のシート(クラフト紙、段ボール、耐油紙、絶縁紙、導電紙、剥離紙、含浸紙、グラシン紙、セルロースナノファイバーシートなど)の補強材」などの部材等に好適に使用される。さらに、本発明の繊維強化プラスチック成形体は薄くても難燃性に優れるため、電気絶縁性の高いガラス繊維を強化繊維として用いることで、電気絶縁用基板としても好適に用いることができる。
このように、本発明の繊維強化プラスチック成形体は、強度が高く、また優れた難燃性を有するため安全性が高いので、電気、電子機器用の筐体、自動車用の構造部品、航空機用の部品、土木、建材用のパネル、その他多種多様な用途に好ましく用いられる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
<実施例1>
繊維長12mmの炭素繊維(東レ社製、T700)をスラリー濃度0.5%となるように水中に投入し、分散剤としてエマノーン(登録商標)3199V(花王株式会社製)を、炭素繊維100質量部に対して1質量部となるよう添加した。なお、エマノーン3199Vはあらかじめ0.5%濃度の水溶液となるように水に溶解して添加した。その後、古紙離解用パルパーを用いて30秒間攪拌して初期分散を行った後、スラリー濃度0.15%となるように水で希釈した(炭素繊維スラリー)。
別容器にて、粉末のアニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤(MTアクアポリマー株式会社製、スミフロック)を溶解した水溶液を作製した。粉末のアニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤は、水溶液の全質量に対して、0.1質量%となるように添加した。この水溶液を、上記の炭素繊維スラリーに添加した。水溶液の添加量は、水溶液の全質量に対して増粘剤の固形分が60ppmとなるように調整した。その後、攪拌し、炭素繊維がモノフィラメント化するまで分散させた。
次いで、太さ2.2dtex、繊維長15mmのナイロン6繊維(東レ社製、アミラン、繊維長15mm)と、バインダーとして用いるPVA繊維(クラレ社製、VPB−105−2)を、質量配合比が表1となるように計量した。これを、スラリー濃度が10%となるよう水中に投入して熱可塑性樹脂スラリーを得た。尚、ナイロン6繊維は分散性が良好であったため、特に攪拌等の処置をせずとも十分に分散した。得られた熱可塑性樹脂スラリーを炭素繊維スラリーと混合し、均一に混合するように攪拌し、繊維スラリーを得た。
この繊維スラリーを、ヤンキードライヤー式の乾燥設備を備えた傾斜型抄紙機に連続的に流送し、抄速30m/minで抄造し、坪量50g/m2である繊維強化プラスチック成形体用シートを得た。
抄造に際し、スラリーの分散媒の粘度(JIS Z 8803「液体の粘度測定方法」に規定された測定方法により測定した液温25℃における粘度)を表1に示すとおりに調整した。なお、スラリーの分散媒は、インレットのスラリーを500ml採取し、150メッシュの金属製のフルイで繊維をろ過して得られるろ液である。スラリーの分散媒の粘度は、循環白水に連続的にアニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤(MTアクアポリマー株式会社製、スミフロック)を溶解した水溶液を添加することで調整した。
また、実施例1で用いた傾斜型抄紙機には、傾斜ワイヤー部分に4つのサクションボックス(脱水ボックス)を備えるものを用いた。図2は、実施例で用いた傾斜型抄紙機100の構成を説明する図である。図2に示されているように、傾斜型抄紙機100は、インレット110の底部に設けられた傾斜ワイヤー120の下方に第1のサクションボックス101、第2のサクションボックス102、第3のサクションボックス103、第4のサクションボックス104を備えている。
なお、実施例1では、傾斜ワイヤー部分を構成するワイヤーは、125Paの差圧をかけた際の通気度が350cm3/cm2/secとなるものを使用した。そして、実施例1では、4つのサクションボックスから脱水される循環白水の総量を100とした場合の各サクションボックスの脱水量の比率を、各サクションボックスの吸引力を調整することで表1に示すとおりとなるようにした。
また、傾斜型抄紙機のワイヤーのジェットワイヤー比を循環白水の総量を制御することで表1に示す通りとなるよう調整した。このようにして、繊維強化プラスチック成形体用シートを作製した。得られた繊維強化プラスチック成形体用シートのfp値の絶対値は表1に示した。
<曲げ強度測定用の繊維強化プラスチック成形体の作製>
得られた繊維強化プラスチック成形体用シートを28枚積層し、プレス速度を3.5cm/secで上昇させ、プレス圧を10MPaとして260℃まで昇温し、60秒加熱加圧した後、50℃に冷却して厚み1.0mmの繊維強化プラスチック成形体を得た。
<実施例2>
実施例2は、実施例1においてサクションボックスの吸引力を調整して、全てのサクションボックスの脱水量が等量となるように変更した以外は実施例1と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例3>
アニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤(MTアクアポリマー株式会社製、スミフロック)を溶解した水溶液のインレットへの連続添加量を増加させることにより、インレット分散媒の粘度を表1の通りとした以外は実施例1と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例4>
各サクションボックスの脱水量の比率を表1に示すとおりとなるように調整した以外は、実施例3と同様にして繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例5>
傾斜ワイヤー部に用いるワイヤーを、通気度が275cm3/cm2/secのものに変更した以外は、実施例4と同様にして繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例6>
インレット内の分散媒の粘度を表1の通りとなるように調整した以外は実施例5と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例7〜9>
ジェットワイヤー比が表1に示す通りとなるように調整した以外は、実施例6と同様にして繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例10>
炭素繊維を、単繊維強度5880MPaのもの(東レ社製、T800)に変更した以外は、実施例9と同様にして繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例11>
熱可塑性樹脂繊維を、ポリカーボネート繊維(ダイワボウ社製、繊維径30μm、繊維長15mm)に変更した以外は、実施例10と同様にして繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例12>
熱可塑性樹脂繊維を、酸変性ポリプロピレン繊維(ダイワボウ社製、PZAD、2.2dtex×15mm)とした以外は、実施例10と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<実施例13>
熱可塑性樹脂繊維を、PEI繊維(クラレ社製、2.2dtex×15mm)とした以に変更した以外は、実施例10と同様にして、繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
<比較例1及び2>
ジェットワイヤー比が表1となるように調整した以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を作製した。
(評価)
<厚み方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp値)の測定>
実施例・比較例で得られた繊維強化プラスチック成形体用シートを幅5mm、長さ10mmに切断し、紫外線硬化タイプの包埋用エポキシ樹脂(日本電子株式会社製、アロニックス LCA D−800)を、試験片の表面全面を覆うようにスポイトを用いて滴下して含浸させ、紫外線を照射して硬化させた。そして、日本分光株式会社製、スライスマスター HS−1を用いて、断面観察用試験片から幅0.4mm、長さ10mmの試験片を切り出した。なお、切断方向は、図1(b)におけるB−B'方向とした。B−B'方向とは、後述する方法で求めた平面方向の基準線と平行な方向である。
得られた試験片の厚み方向の断面を、キーなお、エンス社製、マイクロスコープで、300倍に拡大して透過光にて強化繊維を観察した。ここでは、上記断面のうちの連続した1.5mm2の測定領域を観察した。また、試験片の観察面およびその反対面のそれぞれから深さ10μm以上の部分に焦点を合わせて観察を行った。そして、上記測定領域中に存在する、観察像において視認し得る全ての強化繊維(繊維数はn本とする)について、後述する方法で設定した基準線に対する角度θi(i=1〜n)を測定した。配向角度θiは、基準線に対して時計回りの方向の角度を測定し、0°以上180°未満の角度とした。そして、設定された基準線に対する繊維の角度θiから、以下の式(1)を用いて厚み方向の繊維配向パラメーターを算出した。
fp=2×Σ(cos2θi/n)−1 式(1)
なお、基準線は下記の方法で決定した。基準線を決定する際には、まず仮基準線pを選択し、上記測定領域内に存在する視認し得る全ての強化繊維n本の角度を測定した。この場合、仮基準線pと各繊維の角度は、α(p)i(i=1〜n)で表した。
仮基準線pとした際の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p))は、下記式を用いて算出した。
fp(p)=2×Σ(cos2α(p)i/n)−1
(i=1、2、3、・・・、n)
次に、仮基準線pを±1°ずつ、±90°となるまで回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))をとり、仮基準線p+zと仮基準線p-zと繊維n本の角度を算出した。この場合の角度は、α(p+ziと、α(p-zi(i=1〜n)で表した。
回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))と強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p±z))は、下記式を用いて算出した。
fp(p±z)=2×Σ(cos2α(p±zi/n)−1
(i=1、2、3、・・・、n)
このようにして、得られたfp(p)値及びfp(p±z)値の絶対値うち最大値が得られた場合に設定した仮基準線を基準線とした。
<平面方向の強化繊維の繊維配向パラメーター(fp値)の測定>
実施例・比較例で得られた繊維強化プラスチック成形体用シートを幅3cm×長さ3cmとなるように切り出し、この試験片をスライドガラスで挟み、当該試験片の一方の面を光学顕微鏡にて観察した。光学顕微鏡には、キーエンス社製、マイクロスコープを用い、300倍に拡大して反射光にて強化繊維を観察した。ここでは、上記一方の面のうちの連続した2.0mm2の測定領域を観察した。そして、この測定領域中に存在する、観察像において視認し得る全ての強化繊維(繊維数はm本とする)について、後述する方法で設定した基準線に対する角度θi(i=1〜m)を測定した。配向角度θiは、基準線に対して時計回りの方向の角度を測定し、0°以上180°未満の角度とした。そして、設定された基準線に対する繊維の角度θiから、以下の式(2)を用いて厚み方向の繊維配向パラメーターを算出した。
fp=2×Σ(cos2θi/m)−1 式(2)
そして、反対面についても同様に測定し、一方の面と反対面の平均値を求めて、これを平面方向の繊維配向パラメーター(fp)とした。なお、一方の面の測定領域と反対面の測定領域は、平面視において重なる領域とした。また、一方の面および反対面のいずれの観察においても、一方の面および反対面のそれぞれから深さ10μm以上の部分に焦点を合わせて観察を行った。
なお、基準線は下記の方法で決定した。基準線を決定する際には、まず仮基準線pを選択し、上記測定領域内に存在する視認し得る全ての強化繊維m本の角度を測定した。この場合、仮基準線pと各繊維の角度は、α(p)i(i=1〜m)で表した。
仮基準線pとした際の繊維配向パラメーター(fp(p))は、下記式を用いて算出した。
fp(p)=2×Σ(cos2α(p)i/m)−1
(i=1、2、3、・・・、m)
次に、仮基準線pを±1°ずつ、±90°となるまで回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))をとり、仮基準線p+zと仮基準線p-zと繊維m本の角度を算出した。この場合の角度は、α(p+ziと、α(p-zi(i=1〜m)で表した。
回転させた仮基準線(p+z、p-z(z=1〜90))と強化繊維の繊維配向パラメーター(fp(p±z))は、下記式を用いて算出した。
fp(p±z)=2×Σ(cos2α(p±zi/m)−1
(i=1、2、3、・・・、m)
このようにして、得られたfp(p)値及びfp(p±z)値の絶対値うち最大値が得られた場合に設定した仮基準線を基準線とした。
<曲げ強度の測定>
実施例及び比較例で得られた曲げ強度測定用繊維強化プラスチック成形体を、JIS K 7074 炭素繊維強化 プラスチックの曲げ試験方法に従って、繊維の配向方向(マシンディレクション、以下MDとする)及び繊維の配向と直角方向(クロスディレクション、以下CDとする)について測定し、強度及びMD方向とCD方向の強度比を表1に示した。
曲げ強度の相乗平均値=√(FMD×FCD)
ここで、FMDはMD方向の曲げ強度を表し、FCDはCD方向の曲げ強度を表す。
表1に示されているように、厚さ方向のfp値の絶対値が0.5以上であり、平面方向のfp値の絶対値が0.25以上の繊維強化プラスチック成形体用シートから形成される繊維強化プラスチック成形体においては、曲げ強度相乗平均値が高いことがわかる。また、このような繊維強化プラスチック成形体においては、平面方向のいずれか一方の方向の曲げ強度が高められている。
また、実施例1〜4を比較すると、傾斜ワイヤー部分における脱水は、ワイヤーの前半部分の脱水量を増やすことによって、厚さ方向のfp値をより好ましい範囲に調整することができることがわかる。これは、インレットにおける液面からワイヤーまでの距離が長い部分はスラリーの流速が遅いため乱流になりにくいため、この付近でウエットウエブの形成をすることにより繊維がシートの厚さ方向の制御がしやすくなるためと考えられる。なお、図2では、サクションボックス101が液面からワイヤーまでの距離が最も長くなる。
また、実施例1〜6を見ると、インレットの分散媒の粘度を高くすることでfp値をより好ましい範囲にすることができるが、ワイヤーの通気度を低くすることで、インレット内の分散媒の粘度が低くても、fp値をより好ましい範囲にできることがわかる。このことは、通気度が低いワイヤーを使用することで抄造時の粘剤の添加量を減少させ得ることを意味する。これにより、製造コストを低減させたり、粘剤に起因する抄紙用具の汚染を減少させることができる。
5 繊維強化プラスチック成形体用シート
20 強化繊維
25 熱可塑性樹脂
40 包埋用エポキシ樹脂
45 断面観察用試験片
100 傾斜型抄紙機
101 第1のサクションボックス
102 第2のサクションボックス
103 第3のサクションボックス
104 第4のサクションボックス
110 インレット
120 傾斜ワイヤー
P 基準線
P' 基準線と平行な線(補助線)
Q 基準線に対する強化繊維の角度を表す線
R 基準線に対する強化繊維の角度を表す線

Claims (6)

  1. 強化繊維と、熱可塑性樹脂繊維を混合したスラリーを、湿式抄紙する工程を含み、
    前記湿式抄紙する工程は、傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程であり、
    前記傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.98以下となるように走行する繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
  2. 前記傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.90以下となるように走行する請求項1に記載の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
  3. 前記スラリーの分散媒の25℃における粘度は1.00mPaを超え4.00mPa以下である請求項1又は2に記載の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
  4. 前記傾斜型抄紙機の傾斜ワイヤーの通気度が250cm3/cm2/sec以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
  5. 前記傾斜型抄紙機の傾斜ワイヤーの下方に、第1のサクションボックス、第2のサクションボックス、第3のサクションボックス及び第4のサクションボックスを備え、前記第1のサクションボックスの脱水量が、全てのサクションボックスにおける脱水量を100とした場合、5〜65である請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
  6. 前記スラリーは、強化繊維を分散した強化繊維スラリーと、熱可塑性樹脂繊維を分散した熱可塑性樹脂スラリーを混合したスラリーである請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法。
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