JP2019108293A - 香水組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】エチルアルコールを実質的に含まない香水組成物の提供。【解決手段】香水用香料を5−30質量%、揮発性イソパラフィン及び/又は揮発性シリコーンからなる揮発性溶媒を40−95質量%、及びエステル油からなる相溶性向上剤を0−30質量%、含む香水組成物。前記香水用香料としては、0.5−5質量%のP‐メンタン‐3,8‐ジオールと、酢酸ベンジル、酢酸リナリル、及びシトロネロールから選ばれる1種以上の合成香料とを含むることが好ましい香水組成物。又は、前水原料として、0.5〜5質量%のP−メンタン−3,8−ジオールと、ウイキョウ、ローズマリー及びコリアンダーの精油から選ばれる1種以上の精油とを含むことが好ましい、香水組成物。前記香水組成物からなる吸血害虫忌避剤。【選択図】図1

Description

本発明は香水組成物、特にそのノンアルコール溶媒の改良に関する。
一般に、香水、オードトワレ、オーデコロン等の香水組成物は、エチルアルコール又はエチルアルコールと水の混合物に、香料を約1−30質量%となるように溶解したものである。しかしながら、エチルアルコール過敏症または宗教上の理由から、エチルアルコールの使用を制限する需要者も少なくない。さらに、2004年の大気汚染防止法の改正により、エチルアルコールは排出量を規制すべき揮発性有機化合物(volatile organic compound;VOCと略記)に指定されており、その使用量の削減は社会的な課題となっている。
そこで、エチルアルコールを含まない、又は当該含有量を極力控えた香水組成物の作製が試みられている。
香水組成物に通常用いられる香料は極性が異なる油性成分の混合物であり、水を主溶媒として可溶化するには一般に多量の界面活性剤を要する。しかしながら、界面活性剤の高配合はべたつき感の原因となるため、香水組成物においては界面活性剤の使用は好ましくない。香水組成物に用いる溶媒は、香料との相溶性もさることながら、香料の香気に影響せず、適度な揮発性を有し、人体に対する安全性が高く、且つ、保存容器を侵食しないという条件をすべて満たす必要がある。さらに、需要者においては香水組成物の見た目の美しさも重要な評価基準であることから、無色透明であることが望ましい。
これまで、エチルアルコールに代わる有力な溶媒として、ジメチルポリシロキサンが注目されている。ジメチルポリシロキサンには、無臭で適度な揮発性を有し、人体及び保存容器に対する安全性の高いものが知られるが、香料との相溶性が十分でないために、シリコーン系界面活性剤の共配合を要するという問題があった。
この問題に対し、特許文献1では、特定のジメチルポリシロキサンに、2−メチル2−メトキシプロパノール、3−メチル3−メトキシブタノール、4−メチル4−メトキシペンタノール、5−メチル5−メトキシヘキサノールから選ばれるアルコール誘導体を配合することで、香料溶解性に優れ、使用感にも優れるノンアルコール香水組成物を開示している(特許文献1)。しかしながら、前記アルコール誘導体には特有の臭いを有するものがあり、香気への影響という課題を残している。
このように、香水組成物においては、エチルアルコール依存からの脱却が強く求められているにも関わらず、未だ十分な機能を有するノンアルコール香水組成物は得られていなかった。なお、本明細書における“ノンアルコール”は、“エチルアルコールを含まない”の意である。
特開2001−226246
本発明は前記従来技術に鑑みなされたものであり、エチルアルコールを実質的に含まない香水組成物を提供することを課題とする。
前記課題を解決するために、本発明者らは、VOC規制の対象となっていない、引火点が30℃以上の有機溶媒のうち、無色透明で刺激臭がなく、人体への安全性が高い液体について検討を行った。その結果、揮発性イソパラフィンと揮発性シリコーンが、さまざまな極性の香水用香料に対して優れた相溶性を示すことを見出した。さらに、特定のエステル油を共配合すると、前記溶媒と香料との相溶性が大幅に向上することを見出し、発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]香水用香料を5−30質量%、揮発性イソパラフィン及び/又は揮発性シリコーンからなる揮発性溶媒を40−95質量%、及び、エステル油からなる相溶性向上剤を0−30質量%、含むことを特徴とする香水組成物。
[2]前記揮発性溶媒としてイソドデカンを含むことを特徴とする、前記[1]に記載の香水組成物。
[3]前記揮発性溶媒としてトリシロキサンを含み、且つ、前記相溶性向上剤としてジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール及び/又は安息香酸C12−C15アルキルエステルを組成物中5−30質量%含むことを特徴とする、前記[1]に記載の香水組成物。
[4]前記香水用香料が精油である、前記[1]−[3]のいずれかに記載の香水組成物。
[5]エチルアルコールを含まないことを特徴とする、前記[1]−[4]のいずれかに記載の香水組成物。
[6] 前記香水用香料として、0.5−5質量%のp‐メンタン‐3,8‐ジオールと、酢酸ベンジル、酢酸リナリル、及びシトロネロールから選ばれる1種以上の合成香料を含むことを特徴とする、前記[1]−[5]のいずれかに記載の香水組成物。
[7]前記香水用香料として、0.5−5質量%のp‐メンタン‐3,8‐ジオールと、ウイキョウ、ローズマリー、及びコリアンダーの精油から選ばれる1種以上の精油を含むことを特徴とする、前記[1]−[5]のいずれかに記載の香水組成物。
[8] 前記[6]または[7]のいずれかに記載の香水組成物からなる吸血害虫忌避剤。
本発明により、揮発性イソパラフィン及び/又は揮発性シリコーンを溶媒とし、エチルアルコールを実質的に含まない香水組成物が提供される。
p‐メンタン‐3,8‐ジオールと特定の精油を配合した香水組成物の“蚊に対する忌避効果”を解析したグラフである。 p‐メンタン‐3,8‐ジオールと特定の精油を配合した香水組成物の“ダニに対する忌避効果”を解析したグラフである。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
本発明により、従来のエチルアルコールに代えて、揮発性イソパラフィン及び/又は揮発性シリコーンを溶媒とした香水組成物が提供される。
<香水用香料>
本発明に用いられる香料は、天然香料、合成香料のいずれでもよく、また、これらの香料を任意の香りが得られるように調合した調合香料も用いることができる。天然香料は、精油や樹脂に代表される植物性天然香料、及び、ムスク、シベット、カストリウム、アンバーグリス等に代表される動物性天然香料のいずれであってもよい。このうち、本発明には植物性天然香料を好適に用いることができ、特に好ましくは精油である。
本発明に係る溶媒は刺激臭を実質的に有さないため、さまざまな香調の精油を用いることができ、例えば、ローズ系、フローラルスパイシー系、フローラルシトラス系、フローラルブーケ系等の精油を好適に用いることができる。
香水組成物中における香料の配合量は、十分な香りが得られる量であればよく、特に限定はされないが、好ましくは5−30質量%、より好ましくは10−25質量%である。
また、香料として、害虫忌避成分として知られるp‐メンタン‐3,8‐ジオール(p‐Menthan‐3,8‐diol、CAS No.:42822-86-6)と、特定の合成香料または精油とを組み合わせて配合してもよい。p‐メンタン‐3,8‐ジオールには8種類の異性体の存在が知られるが(特開2013−112634参照)、いずれの異性体であってもよく、また、天然及び合成品のいずれをも用いることができる。
p‐メンタン‐3,8‐ジオールと組み合わせる合成香料としては、例えば、酢酸ベンジル(benzyl acetate、CAS No.:140-11-4)、酢酸リナリル(linalyl acetate、CAS No.:(S)体51685-40-6、(R)体16509-46-9)、及びシトロネロール(citronellol、CAS No.:106-22-9)から選ばれる1種以上の合成香料を好適に用いることができる。
この場合において、香水組成物におけるp‐メンタン‐3,8‐ジオールの配合量は、0.5−5質量%、好ましくは0.75−4質量%、より好ましくは1−3質量%、さらに好ましくは1.5−2.5質量%、最も好ましくは2質量%であってもよい。
また、この場合における前記合成香料の配合量は、香水組成物中、酢酸ベンジルが0.05−2質量%、酢酸リナリルが1−10質量%、シトロネロールが0.4−3質量%であってよい。
p‐メンタン‐3,8‐ジオールと組み合わせる精油としては、例えば、ウイキョウ、ローズマリー、及びコリアンダーの精油から選ばれる1種以上の精油を好適に用いることができる。
ウイキョウ(フェンネル(Fennel)とも呼ばれる)は、平安時代に中国から渡来し、健胃整腸、鎮痛、去痰効果や生理痛の緩和効果を奏する漢方薬として利用されている植物である。ウイキョウの精油は、ミドルノートで甘さとスパイシーさを備えたフローラル調の香りを基調とする。
ローズマリーもミドルノートで、強いフレッシュなハーブ調の香りを基調とする。
コリアンダーは、トップノートで甘くスパイシーな香りを基調とする。
なお、これらの精油は香料として汎用されているものであり、本発明には種々の市販品を用いることができる。
この場合において、香水組成物におけるp‐メンタン‐3,8‐ジオールの配合量は、0.5−5質量%、好ましくは0.75−4質量%、より好ましくは1−3質量%、さらに好ましくは1.5−2.5質量%、最も好ましくは2質量%であってもよい。
また、この場合における前記精油の配合量は、香水組成物中、ウイキョウ精油が4−16質量%、ローズマリー精油が1−4質量%、及びコリアンダー精油が2.5−10質量%であってもよい。
香料として、p‐メンタン‐3,8‐ジオールと前記合成香料または精油を配合することにより、優れた吸血害虫忌避効果を有し、且つ香気に優れる香水組成物を得ることができる。当該香水組成物は、肌に塗布することで特に蚊及びダニに対し屋内外で非常に高い忌避効果を奏するものであり、吸血害虫忌避剤としても使用することができる。
なお、当該香水組成物では、p‐メンタン‐3,8‐ジオールと前記合成香料または精油以外の香料も配合することができる。
<揮発性溶媒>
本発明には、揮発性溶媒として、揮発性イソパラフィン及び/又は揮発性シリコーンを用いることができる。揮発性イソパラフィンとしては、イソドデカン(2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン;引火点48℃)、イソヘキサデカン(2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン;引火点104℃)等が挙げられる。いずれの化合物も実質的な刺激臭を有さず本発明に好適に使用できるが、引火点がより低いことから、イソドデカンが特に好適である。
揮発性シリコーンとしては、トリシロキサン(オクタメチルトリシロキサン:引火点37℃)、ジシロキサン(引火点4℃)、デカメチルテトラシロキサン(引火点64℃)等が挙げられる。このうち、香気への影響が最も少ない点で、トリシロキサンが特に好適である。さらに、トリシロキサンを用いると、低分子シリコーン特有の優れた使用感(具体的しっとり感、サラサラ感等)を得ることができる。
エチルアルコールを主溶媒とする従来の香水組成物では、エチルアルコールが特有の刺激臭を有するために、塗布前の(製品としての)香水組成物の香りと、肌に塗布後の(エチルアルコールが揮発した後の)香りが異なる傾向があった。これに対し、本発明に係る溶媒は刺激臭を実質的に有さないため、香水組成物の使用前と使用後の香りにほとんど違いを生じない。よって、本発明に係る香水組成物には、塗布前はもちろん、塗布直後から塗布後の長時間にわたって同じ香りが持続するという特徴がある。
香水組成物中における前記揮発性溶媒の配合量は、香料の配合量にもよるが、好ましくは40−95質量%、より好ましくは50−80質量%である。
<相溶性向上剤>
本発明の香水組成物には、前記揮発性溶媒と香料との相溶性の向上を目的として、両者に対しバインダーとして機能し得るエステル油を配合することができる。当該エステル油(すなわち、相溶性向上剤)としては、多分岐構造を有するエステルや芳香族エステルを好適に用いることができる。前記多分岐構造を有するエステル油としては、多分岐構造を有する脂肪酸とジオールとのジエステル、さらに好ましくは多分岐構造を有する脂肪酸とグリコールとのジエステルが挙げられ、具体的な化合物の例としては、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ジネオペンタン酸ジエチルペンタンジオール、ジネオペンタン酸メチルペンタンジオール等が挙げられる。また、前記芳香族エステルとしては、芳香族カルボン酸エステルが好ましく、例えば、安息香酸と脂肪酸とのエステルを好適に用いることができる。当該安息香酸と脂肪酸とのエステルの例としては、炭素数12−15の脂肪族アルコールとのエステルである安息香酸C12−15アルキルエステル(INCI名:C12-15 Alkyl benzoate)等が挙げられる。
香水組成物中における相溶性向上剤の配合量は、0−30質量%、好ましくは0.5−25質量%、さらに好ましくは2−20質量%である。特に、前記揮発性溶媒として揮発性シリコーンを用いる場合には、相溶性向上剤を0.5質量%以上、好ましくは2−10質量%程度配合することが好ましい。
<香水組成物>
本発明に係る香水組成物の具体的な態様としては、香料の含有量に応じて、オーデコロン(2−5質量%)、オードトワレ(5−10質量%)、オードパルファン(10−15質量%)、パフューム(15−20質量%の)等が挙げられる(カッコ内は組成物全体に占める香料の含有量)。
本発明の香水組成物には、前述した必須成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧料に一般的に用いられる成分を必要に応じて配合することができる。そのような成分としては、例えば、着色剤、安定化剤、pH調整剤、増粘剤、保湿成分、前記必須成分以外の油性成分(油分を含む)等が挙げられる。
本発明に係る香水組成物は、エチルアルコールを実質的に含まないことを特徴とする。さらに、エチルアルコールだけでなく、水も実質的に含まないことが好適である。なお、本明細書における“実質的に含まない”とは、“1質量%以下”の意である。
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
実施例1:香料との相溶性の検討
揮発性イソパラフィンの代表としてイソドデカン、揮発性シリコーンの代表としてトリシロキサンについて、香水組成物に汎用される香料(精油)との相溶性を検討した。香料として、香水用組成物に汎用され、且つ、極性の異なる5種類の代表的な精油(下記香料A〜E)を用いた。以下に、当該精油を極性の低い順に記載し、その香調と代表的な成分を説明する。
・香料A
香調:ローズ系
代表的な成分:Phenylethylalcohol、Citronellol、Beta ionone等
・香料B
香調:ローズシュプレー系
代表的な成分:Bergamot essential oil bergapten free、Is-3-hexenyl saliciate、Lemone essential oil citrapten free等
・香料C
香調:フローラルスパイシー系
代表的な成分:1-81,2,3,4,5,6,7,8-octahydro-2,3,8,8,-tetramethyl-2-naphthyl)-1-one、Alpha-iso-methylionone methyl dihydrojasmonate、Omega-pentadecalactone等
・香料D
香調:フローラルシトラス系
代表的な成分:1-81,2,3,4,5,6,7,8-octahydro-2,3,8,8,-tetramethyl-2-naphthyl)-1-one、Hexahydrohexamethyl cyclopentabenzopyran、2.2-Dimethl-3-8-methyl phenyl)pupanol等
・香料E
香調:フローラルブーケ系
代表的な成分:1,2,3,4,5,6,7,8a-octahydro-2,3,8,8-tetramethyl-2-naphthyl ethanone、Methyl 3-oxo-2-pentylcyclopentaneacetate、4,6,6,7,8,8-Hexamethyl-1,3,4,6,7,8-hexahydrocyclopenta[g]isochromene等
<揮発性溶媒>
・イソドデカン(マルカゾールR、丸善石油化学株式会社製)
・トリシロキサン(KF-96A-1cs、信越化学工業株式会社製、BELSIL DM1PLUS 旭化成−WACKER社製)
<相溶性向上剤>
・ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール(コスモール525、日清オイリオグループ株式会社製、KAK NDO、高級アルコール工業株式会社製)
・安息香酸C12−C15アルキルエステル(フィンソルブTN、Finetex社製、CRODAMOL AB、クローダジャパン株式会社製)
前記精油のいずれか1種20gと、イソドデカン及び/又はトリシロキサン(表1−4中に記載した重量(g))を混合し、得られた混合物の状態を下記評価基準に従って目視で評価した。混合物が透明で均一な液状組成物である場合に、当該香料を完全に溶解するための十分な相溶性を有すると判断した。溶媒として、イソドデカン(表1)、トリシロキサン(表2)、イソドデカンとトリシロキサンの混合溶媒(表3)を用いた結果を、各々表1−4に示す。なお、表1−9における配合量はすべて質量(g)を表し、空欄は配合していないこと(すなわち、“0g”)を意味する。
<相溶性の判断基準>
○:混合物が透明で均一な液状であり、香料との十分な相溶性を有する
△:混合物が濁りのある液状であり、香料との相溶性が不十分である
×:混合物が白濁しており、香料との相溶性が低い
イソドデカンと香料A(試験例1−1)又は香料B(試験例1−2)の混合物は、透明均一な液状組成物となって相溶した。これに対し、イソドデカンと香料Cの混合物では、濁り(試験例1−3)を生じて相溶しなかった。しかしながら、香料Cが約25質量%になるようにイソドデカンの配合量を減らすと、透明均一となって完全に相溶した(試験例1−5)。香料Cが約22.2質量%の混合物では相溶しなかったが(試験例1−4)、該混合物にジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール又は安息香酸C12−C15アルキルエステルを10質量%となるように配合すると、透明均一になり、完全に相溶した(試験例1−6、1−7)。同様に、イソドデカンと香料E(20質量%)の混合物は白濁して相溶しなかったが(試験例1−8)、イソドデカンの一部(10g分)をジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコールに置換すると、完全に相溶した(試験例1−9)。
よって、イソドデカンは、香料の種類によって相溶性に差はあるものの、さまざまな香水用香料の溶媒として使用できることが明らかとなった。イソドデカンは特に低極性香料との相溶性に優れるが、高極性香料に対しても、配合量を調整したり、あるいはジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール又は安息香酸C12−C15アルキルエステル等の相溶性向上剤を配合することで、溶媒として十分に機能できることが示された。
表2より、トリシロキサンはイソドデカンよりも前記香料との相溶性は低いが(試験例2−1、2−3、2−5、2−8)、前記相溶性向上剤の共存下ではいずれの香料とも完全に相溶することが示された(試験例2−2,2−4,2−6,2−7,2−9)。
表3より、イソドデカンとトリシロキサンは、混合しても香水用組成物の溶媒として好適に使用できることが示された。
以上の結果より、イソドデカンに代表される揮発性イソパラフィン、及び、トリシロキサンに代表される揮発性シリコーンは、単独で又は混合して、香水用組成物の溶媒として使用できることが明らかとなった。さらに、これらの溶媒と香料との相溶性は、特定のエステル油(例えば、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール又は安息香酸C12−C15アルキルエステルジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール)の共配合により、大幅に上昇することも明らかとなった。
実施例2:相溶性向上剤の効果の検討
前記相溶性向上剤が、本発明に係る揮発性溶媒と香料との相溶性に及ぼす効果を詳細に解析した。
香料20gに、イソドデカン又はトリシロキサンを段階的に添加し、各添加時点における混合物の状態を前記相溶性の評価基準に従って評価した。当該混合物が白濁した時点で溶媒の添加をやめて、以降は相溶性向上剤(ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール)のみを段階的に添加して、各添加時点における混合物の状態を同様に評価した。イソドデカンについての結果を表4−6に、トリシロキサンについての結果を表7−9に示す。
表4より、イソドデカンは、香料Aと幅広い濃度範囲で相溶することが明らかとなった。上表では香料Aが約16.7−66.7質量%、イソドデカンが約33.3−83.3質量%の範囲で混合した結果しか示されていないが(試験例4−2〜4−5)、イソドデカンは香料Aが非常に微量(例えば、5質量%)であっても可溶化できると考えられる。
イソドデカンは、香料Cの濃度が高い範囲では相溶するが(試験例5−2〜5−5)、香料Cの濃度が約33.3質量%以下になると相溶できなくなり(試験例5−6〜5−7)、約26.7質量%では白濁した(試験例5−8)。当該白濁した系に、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコールを約6.25%となるように添加すると白濁状態が解消され(試験例5−9)、13.8%添加すると完全に相溶した(試験例5−11)。
イソドデカンは、香料Dの濃度が約40質量%にまで下がると相溶できなくなり、約36.4質量%では白濁した(試験例6−2〜6−6)。当該白濁した系に、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコールを約15.4%となるように添加すると白濁状態が解消され(試験例6−8)、約21.4%添加により完全に相溶した(試験例6−10)。
表4−6より、イソドデカンは前記いずれの香料とも相溶し得るが、香料の濃度が低すぎて相溶できない場合には、本発明に係る相溶性向上剤を約10質量%以上、好ましくは約10−30質量%となるように添加すると相溶することが明らかとなった。
トリシロキサンは、香料Aの濃度が高い範囲では相溶するが(試験例7−2)、香料Aの濃度が約69.0質量%以下になると相溶できなくなり(試験例7−3)、約66.7質量%では白濁した(試験例7−4)。当該白濁した系に、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコールを約1.6質量%となるように添加すると白濁状態が解消され(試験例7−5)、3.2%添加すると完全に相溶した(試験例7−6)。
また、トリシロキサンは、香料Cの濃度が約36.4質量%以下になると相溶できなくなるが(試験例8−2〜8−6)、約0.8質量%のジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコールによって白濁状態が解消され(試験例8−7)、約2.4%では完全に相溶した(試験例8−9)。
さらに、トリシロキサンは、香料Dの濃度が約42.6質量%以下になると相溶できなくなるが(試験例9−5〜9−7)、約2.0質量%のジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコールによって白濁状態が解消され(試験例9−6)、約3.8%では完全に相溶した(試験例9−10)。
表7−9より、トリシロキサンは前記いずれの香料とも相溶し得るが、香料の濃度が低すぎて相溶できない場合には、本発明に係る相溶性向上剤を約0.5質量%以上、好ましくは約2−10質量%となるように添加すると相溶できることが示された。
以上の結果より、本発明に係る相溶性向上剤(例として、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール)は、揮発性イソパラフィン及び/又は揮発性シリコーンと香料との混合物に約0.5−30質量%となるように添加することで、前記香料の溶媒への可溶化を大幅に促進することが明らかとなった。
実施例3:揮発性の検討
続いて、本発明に係る溶媒の揮発性について検討した。
10gのイソドデカン、トリシロキサン、又はエチルアルコールを各々シャーレに入れて静置し、常温常圧下で経時に伴う質量の変化を測定した。結果を表10に示す。
表10より、エチルアルコールの蒸散速度は非常に早く、30分後には約97%が揮発したことがわかる。香水組成物は香料が肌になじむことでその機能を発揮するため、基本的に溶媒は香料が肌になじんだ後は肌上から揮発してよいが、これほど速やかに揮発しなくてはいけない理由はない。エチルアルコールは本来、“特有の刺激臭を有し、香気に影響し得る”という欠点を有するが、塗布後に速やかに揮発することで、当該欠点が緩和されているのである。
これに対し、刺激臭のないイソドデカン及びトリシロキサンでは、エチルアルコールと同レベルの高い揮発性は不要である。表1より、両溶媒とも1時間後には約95%以上が揮発しており、香水組成物の溶媒として適切な揮発性を有していることが明らかとなった。
実施例4:保存容器浸食性の検討
本発明に係る香水組成物の保存容器に対する浸食性について検討した。
試験例1−6及び2−7の香水組成物を一般的なアトマイザー容器(PET樹脂製)に充填し、40℃暗所又は日光照射下で1ヶ月保存した。その後、香水組成物を除去して当該容器の質量を計測し、保存開始前の容器の質量に対する変化率を計算した。結果を表11に示す。
いずれの条件で保存した場合にも質量の増加傾向が認められたが、1%未満と非常に低い値であった(表11)。よって、本発明に係る溶媒は、PET樹脂に対し、溶解や浸潤による膨潤をほとんど引き起こさないことが明らかとなった。また、ステンレスに対しても、浸食作用は見られなかった。
さらに、本発明者は、イソドデカン、トリシロキサン、及びエチルアルコールについてパッチテスト(オープン試験、n=40)を行い、いずれも同程度の安全性を有することを確認している。
実施例5:蚊に対する忌避効果
下記香料Fを用いて、下記処方の香水組成物Pを定法に従って製造した。香水組成物Pは、ウォーターフローラルな香りを有し、オーデコロンとしても使用できるものである。
・香料F
成分 配合量(質量%)
p‐メンタン‐3,8‐ジオール 50.0
下記成分を合わせて 50.0
酢酸ベンジル
酢酸リナリル
シトロネロール
その他
計 100.00
・香水組成物P
成分 配合量(質量%)
香料F 4.0
イソドデカン 94.0
ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 2.0
計 100.0
(旧)薬事法殺虫剤指針に基づく「殺虫剤効力試験法解説」の忌避試験法「吸血害虫に対する試験法」を参考として、下記方法により蚊に対する忌避効果を検討した。
・試験方法
温度26.4℃、湿度74%の試験室において、合網性ケージ(30cm×30cm×30cm)を2つ用意し、各ケージ内にヒトスジシマカのメス成虫を放した(50匹/ケージ)。同一被験者の左腕を試験区、右腕を対照区とし、スプレーを用いて左腕の肘から指先までの領域に香水組成物P(約5mL)を均一にムラなく塗布した。右腕(対照区)は無処理とした。
その後、右腕・左腕を前記ケージ内にそれぞれ挿入した(=試験開始)。試験開始から30分後に腕をケージから出し、ケージ内のヒトスジシマカを冷凍により殺虫した。
殺虫されたヒトスジシマカをろ紙上で潰し、吸血の有無を判定した。対照区における吸血阻害率を、下記式(1)に従って算出した。なお、下記式において“吸血虫数”とは、吸血が確認されたヒトスジシマカの総数を表す。
・結果
上記試験を2回行い、得られた結果を表12に示す。
表12に示されるように、1回目、2回目のいずれにおいても対照区における吸血阻害率は100.0%であり、平均吸血阻害率は100.0%であった。
なお、対照区では腕をケージ内に挿入するとすぐに吸血反応が観察されたのに対し、試験区では蚊が腕を避けるように激しく飛び交っていた。さらに、試験区では、数匹の蚊が腕に止まっても吸血せずにすぐに飛び立つ様子が観察された。
よって、p‐メンタン‐3,8‐ジオールと、酢酸ベンジル、酢酸リナリル、及びシトロネロールから選ばれる1種以上の合成香料を香料として含む香水組成物を肌に塗布すると、蚊の皮膚への接触をほぼ阻止することができ、吸血を完全に阻止できることが示された。
実施例6:屋内塵性ダニに対する忌避効果
実施例5で製造した香水組成物Pについて、JIS L1920「繊維製品の防ダニ性能試験方法 忌避試験 侵入阻止報」を参考として、下記方法により、蚊に対する忌避効果を検討した。
・試験方法
直径4cmの円形ろ紙を2枚用意し、片方には香水組成物P(約0.4mL)をスプレーし(試験区)、もう一方は無処理とした(対照区)。各ろ紙を直径4cmのガラスシャーレの底部に設置し、その中央部分に誘因餌(マウス用飼料とビール酵母の等量混合物を粉砕したもの、50mg)を置いた。
約10,000匹のヤケヒョウヒダニを含むダニ培地(約0.3g)を直径9cmのガラスシャーレ内に均一に投入し、前記ろ紙を設置したガラスシャーレをその上に重ねた。当該ガラスシャーレセットを、湿度保持用の飽和食塩水とともに粘着シートを添付したタッパー容器に入れ、蓋をして25℃の恒温器に入れた。
24時間後に前記タッパー容器を恒温器から出し、前記4cmシャーレ内のろ紙上に侵入していたダニの数を顕微鏡観察により計測した。この実験を5回反復して実施し、対照区における忌避率を、下記式(2)に従って算出した。なお、下記式における“ダニ数”はいずれも、5回の反復実験で得られたダニ数の総和を表す。
・結果
得られた結果を表13に示す。
表13に示されるように、対照区では6560匹ものダニの侵入が観察されたのに対し、試験区におけるダニの侵入数はわずか260匹で、忌避率は約96.0%であった。
よって、香料として、p‐メンタン‐3,8‐ジオールと、酢酸ベンジル、酢酸リナリル、及びシトロネロールから選ばれる1種以上の合成香料を含む香水組成物を塗布すると、ダニの侵入をほぼ阻止できることが示された。
実施例7:蚊及びダニに対する忌避効果
下記香料Gを用いて、表14に記載した処方の香水組成物Q−1〜Q−4を定法に従って製造した。
・香料G
成分
ウイキョウ精油
ローズマリー精油
コリアンダー精油
その他
上記成分を合わせて 100.00
(表14)
配合量(%)
香水組成物 p‐メンタン‐3,8‐ジオール 香料G その他の成分
Q−1 2.0 0.0 98.0
Q−2 2.0 2.0 96.0

*その他の成分の内訳は以下の通り;
ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 5.0%
トリシロキサン 残余
香水組成物Q−1またはQ−2に対し、実施例5に記載した方法を用いて、蚊に対する忌避効果を検討した。結果を図1及び表15に示す。
(表15)
香水組成物 蚊に対する忌避効果 ダニに対する忌避効果
Q−1 85.0 79.0
Q−2 100.0 91.0
図1及び表15に示されるように、p‐メンタン‐3,8‐ジオールを2.0%含む香水組成物に対し、香料Gを2.0%となるように追加した香水組成物では、蚊に対する忌避率が大幅に上昇した(Q−1とQ−2の比較)。
よって、p‐メンタン‐3,8‐ジオールと、ウイキョウ、ローズマリー、及びコリアンダーの精油から選ばれる1種以上の精油を組み合わせると、p‐メンタン‐3,8‐ジオールの蚊に対する忌避効果が大幅に上昇して、忌避効果に非常に優れる香水組成物が得られることが示された。
続いて、実施例6に記載した方法を用いて、ダニに対する忌避効果を検討した。結果を図2及び表15に示す。
図2及び表15に示されるように、p‐メンタン‐3,8‐ジオールを2.0%含む香水組成物(Q−1)に対し、香料Gを2.0%となるように加えた香水組成物(Q−2)では、ダニに対する忌避率が大幅に上昇した。
よって、p‐メンタン‐3,8‐ジオールと、ウイキョウ、ローズマリー、及びコリアンダーの精油から選ばれる1種以上の精油を組み合わせると、p‐メンタン‐3,8‐ジオールのダニに対する忌避効果が大幅に上昇して、非常に高い忌避効果を有する香水組成物が得られることが示された。
以上の結果より、p‐メンタン‐3,8‐ジオールと、ウイキョウ、ローズマリー、及びコリアンダーの精油から選ばれる1種以上の精油、または、酢酸ベンジル、酢酸リナリル、及びシトロネロールから選ばれる1種以上の合成香料とを組み合わせることにより、蚊及びダニの忌避効果に非常に優れ、且つ、芳香性にも優れる香水組成物が得られることが示された。
以下に、本発明に係る香水性組成物の実施例を示す。いずれの組成物も、透明均一な液状であり、肌に塗布した際にはべたつき感を呈することなく、使用感に優れるものであった。
[実施例8]
成分 配合量(質量%)
香料A 20.0
イソドデカン 80.0
酸化防止剤 適量
計100.0
[実施例9]
成分 配合量(質量%)
香料C 20.0
イソドデカン 66.0
ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 14.0
酸化防止剤 適量
計100.0
[実施例10]
成分 配合量(質量%)
香料D 20.0
イソドデカン 56.0
ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 24.0
酸化防止剤 適量
計100.0
[実施例11]
成分 配合量(質量%)
香料A 20.0
イソドデカン 40.0
トリシロキサン 40.0
酸化防止剤 適量
計100.0
[実施例12]
成分 配合量(質量%)
香料C 20.0
トリシロキサン 76.0
ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 4.0
酸化防止剤 適量
計100.0
[実施例13]
成分 配合量(質量%)
香料C 20.0
イソドデカン 67.0
トリシロキサン 5.0
ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 8.0
酸化防止剤 適量
計100.0
[実施例14]
成分 配合量(質量%)
香料F 5.0
イソドデカン 88.0
メンタンジオール 2.0
ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 5.0
計100.0
[実施例15]
成分 配合量(質量%)
香料G 5.0
トリシロキサン 83.0
メンタンジオール 2.0
ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 10.0
計100.0

Claims (8)

  1. 香水用香料を5−30質量%、
    揮発性イソパラフィン及び/又は揮発性シリコーンからなる揮発性溶媒を40−95質量%、及び
    エステル油からなる相溶性向上剤を0−30質量%、
    含むことを特徴とする香水組成物。
  2. 前記揮発性溶媒としてイソドデカンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の香水組成物。
  3. 前記揮発性溶媒としてトリシロキサンを含み、且つ、前記相溶性向上剤としてジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール及び/又は安息香酸C12−C15アルキルエステルを組成物中5−30質量%含むことを特徴とする、請求項1に記載の香水組成物。
  4. 前記香水用香料が精油である、請求項1−3のいずれかに記載の香水組成物。
  5. エチルアルコールを含まないことを特徴とする、請求項1−4のいずれかに記載の香水組成物。
  6. 前記香水用香料として、0.5−5質量%のp‐メンタン‐3,8‐ジオールと、酢酸ベンジル、酢酸リナリル、及びシトロネロールから選ばれる1種以上の合成香料を含むことを特徴とする、請求項1−5のいずれかに記載の香水組成物。
  7. 前記香水用香料として、0.5−5質量%のp‐メンタン‐3,8‐ジオールと、ウイキョウ、ローズマリー、及びコリアンダーの精油から選ばれる1種以上の精油を含むことを特徴とする、請求項1−5のいずれかに記載の香水組成物。
  8. 請求項6または7に記載の香水組成物からなる吸血害虫忌避剤。
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