本発明における脆弱物とは、物理的強度が低く、液体の揺れなどによって、破れ、破損、変形などが生じ得る物体をいう。かかる物体としては、薄肉部を有する物体、帯形状を有する物体、シート形状を有する物体などが挙げられる。かかるシート形状を有する物体としては、とくに限定されないが、シート状構造物、例えば、シート状細胞培養物などの、生体由来材料からなる平膜状の膜組織や、プラスチック、紙、織布、不織布、金属、高分子、脂質といった種々の材質のフィルム等が含まれる。これらのうち、液体中で難分解性のもの、液体中で難崩壊性のものなどが好ましい。シート状構造物は、多角形や円形などであってもよく、幅、厚み、直径などは一様であってもなくてもよい。本発明におけるシート状構造物は、1枚のみを単層の状態で使用してもよいし、2枚以上を重ねた積層体の状態で使用してもよい。後者の場合、積層体の各層は互いに連結していても、連結していなくてもよく、連結している場合は、重なり合っている部分が全て連結していても、部分的に連結していてもよい。
本発明において、シート状細胞培養物とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、シート状細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層体(多層)、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。
本発明におけるシート状細胞培養物は、上記の構造を形成し得る任意の細胞から構成される。かかる細胞の例としては、限定されずに、接着細胞(付着性細胞)を含む。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞(例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞など)および幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などを含む。体細胞は、幹細胞、特にiPS細胞から分化させたものであってもよい。シート状細胞培養物を形成し得る細胞の非限定例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。本明細書においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞または心筋細胞などが好ましく、とくに好ましくは骨格筋芽細胞またはiPS細胞由来の心筋細胞である。
細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、とくに限定されないが、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、例えば骨格筋芽細胞の場合、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
本発明におけるシート状細胞培養物は、スキャフォールド(細胞培養時の足場)に細胞を播種し、培養することによって得られるシート形状の培養組織などでもよいが、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
シート状細胞培養物は、任意の既知の手法によって製造されたものであってよい。
本発明の一態様において、シート状細胞培養物は、シート状骨格筋芽細胞培養物である。これは、シート状骨格筋芽細胞培養物は、その一部をつかむと自重で破断するほど脆弱であるがゆえに、従来単体で移送することができないばかりか、一度折り重なると元の形状に戻すことが極めて困難なため、液中でシート形状を維持することに大きな意義があるからである。
本発明において、容器は、内部に脆弱物、液体などを収容でき、液体が漏出しないものであればとくに限定されず、市販の容器を含む任意のものを用いることができる。容器の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。また、容器は、脆弱物の形状を維持するための少なくとも1つの平坦な底面を有することが好ましく、例えば、シャーレ、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられるがこれに限定されない。平坦な底面の面積は、特に限定されないが、典型的には、1.13〜78.5cm2、好ましくは12.6〜78.5cm2、より好ましくは9.1〜60.8cm2である。
本発明において、容器内の液体は、少なくとも1種の成分から構成され、その成分としてはとくに限定されないが、例えば、水、水溶液、非水溶液、懸濁液、乳液などの液体から構成される。
本明細書における液または液体とは、全体として流動性を有する流体であればよく、細胞足場などの固形物質や気泡などその他非液体成分を含んでもよい。
容器内の液体を構成する成分は、脆弱物に与える影響が少ないものであればとくに限定されない。脆弱物が生体由来材料からなる膜である場合、容器内の液体を構成する成分は、生物学的安定性や長期保存可能性の観点から、生体適合性のもの、すなわち、生体組織や細胞に対して炎症反応、免疫反応、中毒反応などの望まない作用を起こさないか、少なくともかかる作用が小さいものが好ましく、例えば、水、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、HBSS、PBS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80−7、IMDM等)、糖液(スクロース溶液、Ficoll−paque(登録商標)PLUS等)、海水、血清含有溶液、レノグラフィン(登録商標)溶液、メトリザミド溶液、メグルミン溶液、グリセリン、エチレングリコール、アンモニア、ベンゼン、トルエン、アセトン、エチルアルコール、ベンゾール、オイル、ミネラルオイル、動物脂、植物油、オリーブ油、コロイド溶液、流動パラフィン、テレピン油、アマニ油、ヒマシ油などが挙げられる。
脆弱物がシート状細胞培養物である場合、容器内の液体を構成する成分は、細胞を安定して保存することができ、細胞生存に必要な最低限の酸素や栄養等を含み、細胞を浸透圧等により破壊しないものが好ましく、例えば、生理食塩水、生理緩衝液(例えば、HBSS、PBS、EBSS、Hepes、重炭酸ナトリウム等)、培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB、L15、SkBM、RITC80−7、IMDM等)、糖液(スクロース溶液、Ficoll−paque PLUS(登録商標)等)などが挙げられるが、これらに限定されない。
容器内の液体の量は、蓋部材を容器に取り付けた状態で脆弱物を保持できる程度であって、容器の底部と蓋部材の頂部との間に形成される液嵩が、脆弱物が揺動しない程度の高さであればとくに限定されない。本発明の一態様において、シート状細胞培養物の直径は約35〜55mmであり、面積は6cm2以上である。上記液嵩は、シート状細胞培養物の直径に関わらず、例えば、1.0mm〜20.0mmである。
本発明において、蓋部材は、容器を密閉できるものであればとくに限定されない。蓋部材の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられるがこれに限定されない。
本発明において、蓋部材および容器の形状は、蓋部材と容器とが係合可能で、かかる係合により密閉空間が形成され得る限り、特に限定されない。例えば、容器が汎用シャーレである場合は、蓋部材の形状を円形にすることが好ましい。また、蓋部材および/または容器を光透過性の材料で構成することで、容器に収容されている脆弱物の状態や、液体中の気泡の有無を確認できるようにしてもよい。
本発明において、「容器に取り付けた状態」とは、蓋部材を容器に取り付けて、蓋部材と容器とを密着させて密閉空間を形成した状態をいう。また、「容器内空間」とは、液体、気体、脆弱物などを収容することができる容器の収容空間をいう。したがって、「容器に取り付けた状態で容器内空間に向けて突出する凸部」とは、容器に取り付けた状態で、容器内空間の気体や液体が凸部の容積分だけ押し出されることを意味する。さらに、「液密空間」とは、蓋部材と容器とが密着して形成された密閉空間が液体で満たされている状態をいう。
本発明において、蓋部材の凸部とは、例えば、蓋部材の突き出ている部分、膨らんでいる部分などをいう。容器内空間に向けて突出する凸部とは、凸部が容器内空間の液体や気体を押し出す程度に突出していることをいい、当業者は、容器の寸法や容積、使用する液体の量や液嵩に応じて、凸部の寸法を自由に設定することができる。凸部は、蓋部材の一部として一体成型されたもの、または蓋部材とは別に成型したものを蓋部材と共に使用してもよく、弾性の材料で構成することで、容器の寸法誤差に関わらず容器に密着できるようにすることが好ましい。
本発明において、凸部の形状は、自由に設定することができるが、少なくともその一部をドーム形状とすることが好ましい。また、ドーム形状の頂部が、蓋部材の中心線と交わるように設計することが好ましい。すなわち、頂部を有するドーム形状とは、ドーム形状部分の水平断面積が垂直下方に向かうほど小さいく、液体の上方から垂直下方に降下させながら液体に浸漬する場合、液体との接触面積が徐々に大きくなることをいう。ドーム形状部分の曲面形状としては、双曲面形状、放物面形状、半球面形状、円錐面形状、角錐面形状などが挙げられるが、これに限定されない。
本発明において、脆弱物は液体が収容された容器内の液体中に保持される。脆弱物の液体中での位置は、特に限定されないが、蓋部材を容器に取り付けて密閉空間を形成した状態で、蓋部材と脆弱物とが接触しない位置に配置される(または接触してもよい)。好ましくは、脆弱物は、容器の液体中で、容器の底面上、底面付近などに配置される。
〔第1実施形態〕
本発明の一側面は、脆弱物を収容するための容器と、容器を密閉する蓋部材とを含む、デバイスであって、蓋部材は、容器に取り付けた状態で容器内空間に向けて突出する凸部を有し、該凸部が脆弱物および液体を収容した容器内の気体および/または液体を押し出して該蓋部材と容器の縁部とが密着することで液密空間を形成することができ、凸部と容器との間に介在する環状の弾性シール材をさらに含む、前記デバイスに関する。
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るデバイス1の断面図、図2は、第1実施形態に係るデバイス1の横断面図、図3は、第1実施形態の第1変形例に係るデバイス1Aの断面図、図4は、第1変形例に係るデバイス1Aの横断面図である。なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。
図1Aに示すように、本発明の第1実施形態に係るデバイス1は、容器2および容器2を密閉する蓋部材3を含む。容器2は、開口部を取り囲む縁部21を有する汎用シャーレの形状を有しており、脆弱物Sなどを収容できる容器内空間を構成する。蓋部材3は、天板部32と天板部32から下方に突出する凸部31を含む。天板部32は、容器2の開口を覆って縁部21に密着し、容器2内を密閉することができる。凸部31は、蓋部材3を容器2に取り付けた状態で容器2内空間に向けて突出する。凸部31は、容器2の内径より小さな外径を有する円柱形状であり、蓋部材3を容器2に取り付けた状態で、凸部31と容器2との間には空間Aが形成される。また、デバイス1は、凸部31と容器2との間に介在する環状の弾性シール材33を含み、弾性シール材33は、凸部31と容器2との間に延伸する薄肉形状を有する。本実施形態において、弾性シール材33は、凸部31の外周面に取り付けられ、蓋部材3の天板部32と容器2と弾性シール材33とで囲まれる空間Aを形成できるように構成されている。
図1Bに示すように、デバイス1を使用する際は、容器2に液体Lおよび脆弱物Sを収容し、容器2に蓋部材3を取り付ける。蓋部材3を取り付ける際は、天板部32を把持して凸部31を容器内空間に挿嵌する。凸部31を容器内空間に押し込むと、先ず容器内空間の気体が押し出され、次に液体Lが押し出される。この際に、流体は凸部31と容器2との間に介在する弾性シール材33を通過するが、弾性シール材33は薄肉形状であるため、押し出された流体の圧力により上方に変形して流体を通過させることができる。また、押し出された液体Lは空間Aに受容され、容器2の外に漏出しないため衛生的である。蓋部材3をさらに押し込んで、天板部32と容器2の縁部21が密着すると、流体の移動が起こらなくなるため、弾性シール材33が復原して容器2の内周面に密着する。このようにして、凸部31、弾性シール材33および容器2で密閉された液密空間が形成される。
図1Bに示すように、液体Lは、少なくとも一部が空間Aに移動する程度で、容器2から漏れないように事前に液量を調節することが好ましいが、液体Lを縁部21付近まで満たした状態で蓋部材3を取り付けて、液体Lを溢れさせながら液密空間を形成するようにしてもよい。このように、空間Aは、液体Lが容器2から溢れないように受容する、液体受容空間として機能させることができる。また、弾性シール材33が薄肉形状である場合、製造段階において薄肉部分を予め上方に傾斜した形に成型してもよい。これにより、弾性シール材33に逆止弁のような機能を持たせ、蓋部材3を容器2に取り付ける際の流体の排出をスムーズにする一方で、流体が逆流しないように工夫することもできる。
図2Aに示すように、弾性シール材33は蓋部材3の凸部31と容器2の縁部21との間に介在して容器2内空間の密閉性を保っている。蓋部材3を容器2から取り外す場合は、容器2を把持して蓋部材3を上方に引き上げて弾性シール材33を変形させながら取り外す。この場合は、弾性シール材33は真空圧により下方に変形するため、容器2との間に隙間が生じ、蓋部材3を簡単に容器2から取り外すことができる。また、これとは別の方法として、蓋部材3をスライドさせて取り外す方法もある。例えば、図2Bに示すように、蓋部材3を容器2に対して水平方向にスライドさせ、弾性シール材33を片側に変形(収縮)させることにより、スライドさせた方向の反対側において弾性シール材33と容器2との間に空隙Gを生じさせる。
そして、かかる空隙Gでデバイス1の液密状態を解除した状態で蓋部材3を取り外すことができるため、容器2に急激な圧力が掛からず、液体Lの流動を抑えることができる。このように、蓋部材3と容器2との間の水平方向の隙間に弾性シール材33を介在させて、弾性シール材33を変形機構として利用することで、蓋部材3の脱着作業を簡単にすることができる。弾性シール材33を薄肉形状にすると水平方向にも変形させやすいため好ましい。また、弾性シール材33は、その幅を蓋部材3と容器2との隙間の幅よりも少し大きく設定することで、デバイス1の製造段階の寸法誤差を吸収することができる。運搬中の蓋部材3の水平方向へのスライドを防止する手法として、筒状スカート壁を有する蓋部材(図示せず)を蓋部材3の上にさらに被せたり、筒状の部材で蓋部材3と容器2とを取り囲んだりするようにしてもよい。
以上、本発明の第1実施形態に係るデバイス1によれば、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく液密状態を達成することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。そして、容器内を完全に液密状態にできるため、気泡(気体)が容器内にはいらず、移送中の容器の揺れなどによって気泡が容器内で動いて脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
また、本発明の第1実施形態に係るデバイス1によれば、液密状態を簡単に解除することができるため、例えば、作業者の蓋部材の無理な取り外しによる、容器の振動や液体の流動の発生を抑えることができるため、脆弱物を破損することがない。
さらに、本発明の第1実施形態に係るデバイス1によれば、蓋部材によって押し出された液体を受容する空間を有するため、周囲を汚染することがない。したがって、シート状細胞培養物の作製に使用されるバイオクリーンルームなど、清浄度が厳密に管理されている場所での使用に適している。
次に、本発明の第1実施形態に係るデバイス1の第1変形例について説明する。以下、第1実施形態との相違点について詳細に説明し、同様の事項については、説明を省略する。
図3Aに示すように、第1変形例に係るデバイス1Aは、容器2Aおよび容器2Aを密閉する蓋部材3Aを含む。凸部31の底部34は、蓋部材3Aの中心線と略交わる頂部を有する円形のドーム形状を有する。すなわち、凸部31下端側の水平断面積は垂直下方に向かうほど小さく、放物面形状の曲面を有する。容器2Aは、上部22および下部23を含む有底筒状の容器であり、下部23は、脆弱物Sなどを収容できる空間を構成する。上部22の内径は下部23の内径より大きく、上部22と下部23との境界に段差部24が設けられている。
容器2Aの下部23の内径は、蓋部材3Aの凸部31の外径よりも少し大きい。本実施形態において、環状の弾性シール材33は薄肉形状で、上方に傾斜した形に成型されており、凸部31と容器2Aの上部22および下部23の内周面との間に介在する。上部側の環状の弾性シール材33の幅は、下部側の環状の弾性シール材33の幅よりも大きい。また、下部側の環状の弾性シール材33の側面には、垂直方向に延在する溝Dが設けられている。容器2Aの上部22の内径は、蓋部材3Aの凸部31の外径より大きく、その空隙に空間Bが形成されるように構成されている。
図3Bに示すように、デバイス1Aを使用する際は、容器2Aに液体Lおよび脆弱物Sを収容して蓋部材3Aを取り付ける。この際に、液面に気泡などが存在する場合、気泡は凸部31の底部34曲面に沿って上方に押し出される。すなわち、底部34は水平面に対して傾斜しているため、気泡に浮力が掛りやすく、気泡を確実に押し出すことができる。また、底部34はドーム形状であるため、凸部31を液体Lに浸漬する際に、液体との接触面積が徐々に大きくなるため、液体Lの波打ちなどの発生を最小限に抑えることができる。さらに、液体Lは底部34の円形ドーム形状に沿って放射状に均一に押し出されるため、容器2A内の液体Lが半径方向の偏った方向に移動することがなく、結果的に、容器2内の液体Lの流動を抑えることができる。
凸部31によって押し出された液体Lは、容器2Aの上部22と蓋部材3Aの凸部31との間の空間Bに受容されるため(液体受容空間)、液体Lが外部に漏出することがない。また、凸部31を容器2Aの下部23にコルク栓のように嵌挿して、天板部32を下方に押し付けて縁部21と密着させることで、空間B内の流体の漏出を確実に抑えることができる。さらに、本実施形態においては、凸部31と容器2Aとの間に2つの弾性シール材33が介在するため、下部側で下部23内の液密を保持し、上部側で上部22内の気密性を保持することができる。さらに、薄肉形状の弾性シール材33は、垂直方向および水平方向の寸法誤差を同時に吸収することが出来る。すなわち、弾性シール材33が垂直方向に変形する場合は、デバイス1Aの垂直方向の寸法誤差を吸収し、弾性シール材33が水平方向に変形する場合は、デバイス1Aの水平方向の寸法誤差を吸収することができる。
図4Aに示すように、本実施形態において、下部側の弾性シール材33は溝Dを有する。図4Bに示すように、蓋部材3Aを容器2Aに取り付けると、弾性シール材33は、凸部31と容器2Aとで挟持されて変形(収縮)し、溝Dが潰され、液密空間を形成できるように構成されている。そして、脆弱物Sを使用する際は、図4Cに示すように蓋部材3Aを弾性シール材33の溝Dに対向する側に水平方向にスライドさせて溝Dへの圧力を減少させることで、溝Dを復原させる。そして、かかる溝Dによりデバイス1Aの液密状態を解除し、蓋部材3Aを取り外して脆弱物Sを使用することができる。
以上、第1実施形態の第1変形例に係るデバイス1Aによれば、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく液密状態を達成することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。そして、容器内を完全に液密状態にできるため、気泡(気体)が容器内にはいらず、移送中の容器の揺れなどによって気泡が容器内で動いて脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
また、第1実施形態の変形例1に係るデバイス1Aによれば、液密状態を簡単に解除することができるため、例えば、作業者の蓋部材の無理な取り外しによる、容器の振動や液体の流動の発生を抑えることができるため、脆弱物を破損することがない。
さらに、第1実施形態の第1変形例のデバイス1Aによれば、蓋部材によって押し出された液体を受容する空間を有するため、周囲を汚染することがない。したがって、シート状細胞培養物の作製に使用されるバイオクリーンルームなど、清浄度が厳密に管理されている場所での使用に適している。
本変形例は、さらに種々の変形例を有することができる。例えば、段差部24に溝部(図示せず)を設け、凸部31により押し出された液体Lを段差部24の溝部で保持するようにしてもよい。この場合は、溝部が液体を保持する液体保持空間として機能するため、蓋部材3Aを取り外した際に液体Lが容器2Aの下部23に戻されず衛生的であり、水流の発生も抑えることができる。さらに、容器2Aの下部23に、弾性シール材33の溝Dと嵌合する突条部を設けてもよい。例えば、液密状態を維持する際は溝Dと突条部とを嵌合させて密閉し、蓋部材3Aを脱着する際には、蓋部材3Aを回転させて溝Dと突条部との嵌合を解除して溝Dを露出させることで、液密状態を解除することができる。弾性シール材33は、容器2Aの下部23の内周面に取り付けてもよく、この場合は、突条部は凸部31の外周面に設けられる。弾性シール材33の断面形状は、薄肉形状に限定されず、三角形、四角形、円形など、他の形状でもよい。
〔第2実施形態〕
本発明の別の側面は、脆弱物を収容するための容器と、容器を密閉する蓋部材とを含む、デバイスであって、該蓋部材で脆弱物および液体を収容した容器内の気体および/または液体を押し出して該蓋部材と容器とが密着することで液密空間を形成することができ、蓋部材が蓋部材の周縁から垂下する筒状スカート壁および筒状スカート壁の内周面に設けられる第1環状突起を有し、容器が容器の外周面に設けられる第2環状突起を有し、蓋部材を容器に対して押し付けて第1環状突起を第2環状突起に乗り上げて密着させることで、蓋部材を容器に対して固定することができる、前記デバイスに関する。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図5は、本発明の第2実施形態に係るデバイス1Bの断面図、図6は、図5の環状突起の一態様を示した概念図、図7は、第2実施形態の第1変形例に係るデバイス1Cの断面図である。なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。
図5Aに示すように、本発明の第2実施形態に係るデバイス1Bは、容器2Bおよび容器2Bを密閉する蓋部材3Bを含む。容器2Bは、開口部を取り囲む縁部21を有する汎用シャーレの形状を有しており、脆弱物Sなどを収容できる容器内空間を構成する。蓋部材3は、天板部32と天板部32の周縁から垂下する筒状スカート壁36を含む。筒状スカート壁36の内径は、容器2Bの外径よりも僅かに大きく、蓋部材3Bを取り付ける際に、筒状スカート壁36を容器2Bの外周上をスライドさせることができる。筒状スカート壁36の内周面には、第1環状突起35が設けられており、容器2Bの外周面には、第1環状突起35と係合する、第1環状突起35と略同じ直径を有する第2環状突起25が設けられている。蓋部材3Bの天板部32と容器2Bの縁部21との間にはパッキンリングRが介在する。
図5Aおよび図5Bに示すように、デバイス1Bを使用する際は、容器2Bに液体Lおよび脆弱物Sを収容して蓋部材3Bを取り付ける。この際に、容器2Bを液体Lで満たした状態でさらに液体Lを加えることで、液体Lの表面張力で液面に凸面を形成させる(図5A)。次に、蓋部材3Bで凸面を圧し潰しながら縁部21に密着させることで、液体Lの凸面部分を押し出す。このようにして蓋部材3Bを取り付けることで、容器2Bから気体を押し出す作業を省略してもよい。すなわち、蓋部材3Bの天板部32が、容器2Bの縁部21ではなく、液面の凸面に最初に接触するため、蓋部材3Bと液面との間に気体が入り込まない。
そして、蓋部材3Bを容器2Bに対してさらに押し込むと、第1環状突起35が第2環状突起25に乗り上げるため、蓋部材3Bを容器2Bに対して強固にロックすることができる。このように、第1環状突起35および第2環状突起25は、蓋部材3Bを容器2Bにロックするロック機構として機能させることができる。また、容器2Bの縁部21と蓋部材3Bとで挟持されたパッキンリングRの反発力で、第1環状突起35と第2環状突起25との間に抗力が発生して密閉性が高まるため、コンタミネーションなどの発生を抑えながら長期間に渡って脆弱物を保持することができる
以上、第2実施形態のデバイス1Bによれば、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく液密状態を達成することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。そして、容器内を完全に液密状態にできるため、気泡(気体)が容器内にはいらず、移送中の容器の揺れなどによって気泡が容器内で動いて脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
また、第2実施形態のデバイス1Bによれば、液密状態を簡単に解除することができるため、例えば、作業者の蓋部材の無理な取り外しによる、容器の振動や液体の流動の発生を抑えることができるため、脆弱物を破損することがない。
さらに、第2実施形態のデバイス1Bによれば、蓋部材によって押し出された液体を受容する空間を有するため、周囲を汚染することがない。したがって、シート状細胞培養物の作製に使用されるバイオクリーンルームなど、清浄度が厳密に管理されている場所での使用に適している。
本実施形態における第1環状突起35および第2環状突起25の形状は、限定されず、例えば、断面形状が円形、四角形、三角形、多角形のものを使用することができるが、一例として、断面形状が三角形である場合の第1環状突起35および第2環状突起25を以下に詳述する。
図6は、図5の環状突起の一態様を示した概念図である。図6Aに示すように、第1環状突起35’および第2環状突起25’の断面は直角三角形の形状を有している。すなわち、第1環状突起35’および第2環状突起25’は傾斜面および水平面を有しており、傾斜面同士および水平同士で係合させることができる。図6Bに示すように、蓋部材3Bを容器2Bに対して押し付けると、傾斜面同士の作用により第1環状突起35’に水平方向の力が加わり、筒状スカート壁36が拡開される。そして、図6Cに示されるように、さらに蓋部材3Bを押し付けると、第1環状突起35’が第2環状突起25’に乗り上げて、水平面同士が密着する。
第1環状突起35’が第2環状突起25’に乗り上げた後に、容器2Bから蓋部材3Bを取り外そうとしても、水平面同士が向かい合う形になっているため、上記のような傾斜面同士の作用が発生せず簡単に取り外すことができない。また、容器2Bの縁部21と蓋部材3Bとで挟持されたパッキンリングRの反発力で、水平面同士がより強く密着するため蓋部材3Bが外れ難い上に密閉性が高まる。図6Dに示されるように、蓋部材3Bを取り外す際は、例えば、部材Pのような環状部材の縁部を第1環状突起35’に押し付けて拡開させて取り外すようにしてもよい。ここで、筒状スカート壁36の拡開を容易にするために、筒状スカート壁36に縦方向にスリットを設けてもよい。このように、本実施形態のデバイス1Bは、蓋部材3Bの着脱をワンタッチ手法で実現できるため、蓋部材3Bを回転させるなどして容器2Bを不用意に振動させることがない。また、従来の固定用冶具などに代えて、環状の突起を設けるという単純な機構を使用することができるため、製造コストを下げることができ、冶具を紛失するなどの問題も起こらない。
次に、本発明の第2実施形態の第1変形例であるデバイス1Cについて説明する。以下、第2実施形態との相違点について詳細に説明し、同様の事項については、説明を省略する。
図7Aに示すように、本発明の第2実施形態の第1変形例に係るデバイス1Cは、容器2Cおよび容器2Cを密閉するための蓋部材3Cを含む。蓋部材3Cは、天板部32の周縁から垂下する筒状スカート壁36を含む。筒状スカート壁36の内径は、容器2Cの上部22の外径と略同一か、それよりも僅かに大きく、蓋部材3Cを取り付ける際に、筒状スカート壁36を容器2Cの外周上をスライドさせることができる。筒状スカート壁36の内周面には、第1環状突起35が設けられており、容器2Cの上部22外周面には、第1環状突起35と係合し、第1環状突起35と略同じ直径を有する第2環状突起25が設けられている。蓋部材3Cの天板部32と容器2Cの縁部21との間、および蓋部材3Cの凸部31と容器2Cの段差部24との間には断面形状が四角形のパッキンリングRが設けられている。
図7Aに示すように、デバイス1Cを使用する際は、容器2Cに液体Lおよび脆弱物Sを収容して蓋部材3Cを取り付ける。この際に、液嵩が段差部24上のパッキンリングRを越える高さまで液体Lを注ぎ入れる。そして、凸部31で容器2C内の気体を押し出しながら液面に達した後、さらに降下させると、液体Lは凸部31の外周面と容器2Cの内周面との間の空間Cに押し出されて液面が上昇し、空間C内の気体が容器2Cから排出される。このようにして、蓋部材3Cと容器2Cとで囲まれた下部23に液密空間が形成される。一方で、かかる液密空間を維持するために、蓋部材3Cを容器2Cに押し付けて第1環状突起35を第2環状突起25に乗り上げさせて、蓋部材3Cを容器2Cに対して強固にロックすることができる。そして、第1環状突起35および第2環状突起25は、水平面同士で密着しているため、空間C内の液体Lが漏出することがない。
以上、第2実施形態の第1変形例に係るデバイス1Cによれば、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく液密状態を達成することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。そして、容器内を完全に液密状態にできるため、気泡(気体)が容器内にはいらず、移送中の容器の揺れなどによって気泡が容器内で動いて脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
また、第2実施形態の変形例1に係るデバイス1Cによれば、液密状態を簡単に解除することができるため、例えば、作業者の蓋部材の無理な取り外しによる、容器の振動や液体の流動の発生を抑えることができるため、脆弱物を破損することがない。
さらに、第2実施形態の第1変形例に係るデバイス1Cによれば、蓋部材によって押し出された液体を受容する空間を有するため、周囲を汚染することがない。したがって、シート状細胞培養物の作製に使用されるバイオクリーンルームなど、清浄度が厳密に管理されている場所での使用に適している。
本実施形態は、種々の変形例を有することができる。例えば、本実施形態において、凸部31の底部の少なくとも一部を、第1実施形態におけるデバイス1Aの底部34のようにドーム形状にする、凸部31の外周面と容器2C上部22の内周面との間に、第1実施形態における環状の弾性シール材33を介在させる、凸部31の外径を下部23の内径より小さくして、第1実施形態におけるデバイス1Aのように下部23空間に挿嵌できるようするなど、自由に選択することができる。また、本実施形態において、傾斜面は、第1環状突起35および第2環状突起25の両方に設けられているが、これを第1環状突起35および第2環状突起25の少なくとも一方に設けてもよい。さらに、第1環状突起35および第2環状突起25に代えて、雄ネジおよび雌ネジを使用し、蓋部材3Cを容器2Cに螺着できるようにしてもよい。
〔第3実施形態〕
本発明の別の側面は、脆弱物を収容するための容器と、容器を密閉する蓋部材とを含む、デバイスであって、該蓋部材で脆弱物および液体を収容した容器内の気体および/または液体を押し出して該蓋部材と容器とが密着することで液密空間を形成することができ、容器および/または蓋部材は脆弱物を取り出すための開閉可能な取出口を有する、前記デバイスに関する。
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図8は、本発明の第3実施形態に係るデバイス1Dの断面図、図9は、第3実施形態の第1変形例に係るデバイス1Eの断面図である。なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。
図8Aに示すように、本発明の第3実施形態に係るデバイス1Dは、容器2Dおよび容器2Dを密閉する蓋部材3Dを含む。容器2Dは、汎用シャーレの形状を有しており、脆弱物Sなどを収容できる容器内空間を構成する。蓋部材3Dは、天板部32と天板部32の周縁から垂下する筒状スカート壁36を含む。筒状スカート壁36の内径は、容器2Dの外径と略同一か、それよりも僅かに大きい。蓋部材3Dの天板部32および筒状スカート壁36と、容器2Dの縁部21との間には、断面形状がL字形のパッキンリングRが介在している。本実施形態においては、パッキンリングRがL字形状であるため、デバイス1Dの垂直方向の寸法誤差の吸収と水平方向の寸法誤差の吸収とを同時に達成することができる。
また、パッキンリングRは、筒状スカート壁36と容器2Dの外側面とで挟持されることで反発力が生じるため、蓋部材3Dが容器2Dに密着して外れにくい。蓋部材3Dの天板部32には、脆弱物を取り出し可能な取出口38が設けられている。取出口38は、フィルム材39で覆われている。フィルム材39は、好ましくはロール状に巻き取り可能な可撓性を有するものである。取出口38は、フィルム材39を巻き取ることで開閉することができる、ピールオープン式の開口部である。フィルム材39は、取出口38にラミネート処理、接着処理、超音波処理またはヒートシールのような解除可能な手段によって固着されている。
図8Aおよび図8Bに示すように、デバイス1Dを使用する際は、容器2Dに液体Lおよび脆弱物Sを収容して蓋部材3Dを取り付ける。この際に、容器2Dを液体Lで満たして表面張力で液面に凸面を形成させる(図8A)。次に、蓋部材3Dで液体Lの凸部分を圧し潰しながら縁部21に密着させることで、液体Lの凸部分を押し出して密閉空間を形成することで、気泡が入らないようにする。脆弱物Sを使用する際は、取出口38を覆っているフィルム材39を剥すことで、蓋部材3Dを取り外すことなく簡単に取出口38から脆弱物Sを取り出すことができる。
デバイス1Dは、ピールオープン式で開封することができるため、容器2D内が液密状態である場合でも、蓋部材3D簡単に取り外すことができる。すなわち、蓋部材3Dの内面と液面とが面同士で接している場合は、取り外す際に蓋部材3Dが液面に引っ張られ、蓋部材3Dが外れた瞬間に反発力が生じてデバイスに振動が発生する。一方で、ピールオープン式のフィルム材39の場合は、フィルム材39を巻き取るように引き剥すことができ、液面との接触面積を徐々に小さくできるため、液面の波打ちを最小限に抑えることができる。
以上、本発明の第3実施形態に係るデバイス1Dによれば、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく液密状態を達成することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。そして、容器内を完全に液密状態にできるため、気泡(気体)が容器内にはいらず、移送中の容器の揺れなどによって気泡が容器内で動いて脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
また、本発明の第3実施形態に係るデバイス1Dによれば、液密状態を簡単に解除することができるため、例えば、作業者の蓋部材の無理な取り外しによる、容器の振動や液体の流動の発生を抑えることができるため、脆弱物を破損することがない。
さらに、本発明の第3実施形態に係るデバイス1Dによれば、蓋部材によって押し出された液体を受容する空間を有するため、周囲を汚染することがない。したがって、シート状細胞培養物の作製に使用されるバイオクリーンルームなど、清浄度が厳密に管理されている場所での使用に適している。
次に、本発明の第3実施形態に係るデバイス1Dの第1変形例であるデバイス1Eについて説明する。以下、第3実施形態との相違点について詳細に説明し、同様の事項については、説明を省略する。
図9Aに示すように、第1変形例に係るデバイス1Eは、容器2Eおよび容器2Eを密閉する蓋部材3Eを含む。容器2Eは、開口部を取り囲む縁部21を有する汎用シャーレの形状を有しており、底部において上方に突設された筒状壁26を有する。筒状壁26の高さは、容器2Eの縁部21の高さより低く、筒状壁26の直径は、蓋部材3Eの凸部31の直径より小さく設定され、蓋部材3Eを容器2Eに取り付けた際に、凸部31によって筒状壁26の開口部が覆われるように構成されている。容器2Eの筒状壁26内側の空間には、脆弱物Sなどを収容することができる。
蓋部材3Eは、天板部32と、天板部32から下方に突出する凸部31と、天板部32の周縁から垂下する筒状スカート壁36とを含む。天板部32は、凸部31の形状に沿った凹部を有し、凹部の中央部には取出口38が設けられている。取出口38は、ピールオープン式のフィルム材39で覆われている。筒状スカート壁36の内周面には、雌ネジ部37が設けられており、容器2Eの外周面には、雌ネジ部37と螺合する雄ネジ部27が設けられている。容器2Eへの蓋部材3Eの脱着作業を螺合機構で制御することで、作業者の手技によらず、脱着作業を均一化することができるため、蓋部材の無理な脱着による容器の振動が起こり難い。本実施形態においては、蓋部材3Eの天板部32および凸部31と、容器2Dの縁部21との間には、断面形状がL字形のパッキンリングRが介在する。
図9Aおよび図9Bに示すように、デバイス1Eを使用する際は、容器2Eの筒状壁26の内側に液体Lおよび脆弱物Sを収容して蓋部材3Eを取り付ける。この際に、液体Lを筒状壁26の縁部の高さまで注ぎ入れ、表面張力で液面に凸面を形成させる(図9A)。次に、凸部31を筒状壁26の開口部に押し付けて液体Lを押し出す。凸部31は液面の凸面の頂部に最初に接触して徐々に接触面積が増えるため、凸部31と液面との間に気泡が入り込み難い。
そして、筒状壁26の外側の空間Eは、筒状壁26の縁部より低い位置にあるため、押し出された液体Lは空間Eに保持される。このように、空間Eは液体保持空間として機能する。そして、蓋部材3Eを回転させながら雌ネジ部37を雄ネジ部27に螺合させてパッキンリングRに密着させることで、空間Eに保持されている液体Lが外に漏れないようにすることができる。脆弱物Sを使用する際は、取出口38を覆っているフィルム材39を剥すことで、蓋部材3Eを取り外すことなく簡単に取出口38から脆弱物Sを取り出すことができる。また、フィルム材39を剥して液密状態を解除してから、蓋部材3Eを取り外すようにしてもよい。螺合機構を使用した場合は、蓋部材の着脱作業が制御されるため、作業者の手技に関わらず、着脱作業を均一化することができ、作業者による蓋部材の無理な着脱で起こり得る振動を防止することができる。
以上、第3実施形態の変形例1に係るデバイス1Eによれば、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく液密状態を達成することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。そして、容器内を完全に液密状態にできるため、気泡(気体)が容器内にはいらず、移送中の容器の揺れなどによって気泡が容器内で動いて脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
また、第3実施形態の変形例1に係るデバイス1Eによれば、液密状態を簡単に解除することができるため、例えば、作業者の蓋部材の無理な取り外しによる、容器の振動や液体の流動の発生を抑えることができるため、脆弱物を破損することがない。
さらに、第3実施形態の変形例1に係るデバイス1Eによれば、蓋部材によって押し出された液体を受容する空間を有するため、周囲を汚染することがない。したがって、シート状細胞培養物の作製に使用されるバイオクリーンルームなど、清浄度が厳密に管理されている場所での使用に適している。
本実施形態は、さらに種々の変形例を有することができる。例えば、取出口38を蓋部材3Dや3Eに設ける代わりに、容器2Dや2Eの底部に設けてフィルム材39で覆うようにしてもよく、この場合は、蓋部材3Dや3Eに代えて、第1実施形態および第2実施形態における蓋部材3、3A、3B、3Cなどを取り付けてもよい。また、容器2Dや2Eに代えて、容器2、2A、2B、2Cを使用する、ネジ部同士の螺合機構に代えて環状突起同士の係合機構を使用するなど、適宜自由に組み合わせてデバイスを構成してもよい。本実施形態の取出口38およびフィルム材39は、第1および第2実施形態の蓋部材3、3A、3B、3C、容器2、2A、2B、2Cに適用してもよいし、本実施形態の容器2EやL字形のパッキンリングRを第1および第2実施形態のデバイスに適用してもよい。
〔第4実施形態〕
本発明の別の側面は、脆弱物を収容するための容器と、容器を密閉する蓋部材とを含む、デバイスであって、該蓋部材で脆弱物および液体を収容した容器内の気体および/または液体を押し出して該蓋部材と容器とが密着することで液密空間を形成することができ、液体を排出するための開閉可能な排出ポートを有する、前記デバイスに関する。
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
図10は、本発明の第4実施形態に係るデバイス1Fの断面図である。なお、本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。
図10Aに示すように、第4実施形態に係るデバイス1Fは、容器2Fおよび容器2Fを密閉する蓋部材3Fを含む。蓋部材3Fは、天板部32の周縁から垂下する筒状スカート壁36を有する。筒状スカート壁36の内径は、容器2Fの外径と略同じか、それよりも僅かに小さい。蓋部材3Fの凸部31は円形ドーム形状を有する。本実施形態において、蓋部材3Fは弾性材料で一体成型されており、デバイス1Fの寸法誤差を吸収できるように構成されている。容器2Fの側面には開閉可能な排出ポート28が設けられている。排出ポート28は、蓋部材3Fを容器2Fに取り付けた状態で、液面より下で、かつ液面に近接した位置に配置されている。
図10Aおよび図10Bに示すように、デバイス1Fを使用する際は、排出ポート28を閉じた状態で容器2Fに液体Lおよび脆弱物Sを収容し、容器2Fに蓋部材3Fを取り付ける。容器内空間に凸部31が押し込まれると、先ず容器内空間の気体が押し出され、次に液体Lが押し出される。蓋部材3Fをさらに押し込むと、弾性材料で成型された蓋部材3Fは拡開して容器2Fの縁部21の外周面に密着する。図10Bに示すように、脆弱物Sを使用する際は、排出ポート28を開けて液体Lを排出し、蓋部材3Fを取り外して脆弱物Sを取り出す。本実施形態においては、蓋部材3Fを取り外す前に液体Lが排出されるため、蓋部材3Fと液面とが接触していない状態で取り外すことができ、液面が波打つことがない。また、排出ポート28は、液面に近接し、脆弱物Sから離れた位置に配置されているため、液体を排出しても容器2F内の液体に流動が起こり難く、脆弱物の損傷を防ぐことができる。
以上、本発明の第4実施形態に係るデバイス1Fによれば、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく蓋の脱着作業を行うことができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。また、蓋や容器の寸法誤差に関わらず液密状態を達成することができるため、流体の移動が起こらず、脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、容器内で気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
以上、本発明の第4実施形態に係るデバイス1Fによれば、簡便な機構と、簡単な作業で効率よく液密状態を達成することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。そして、容器内を完全に液密状態にできるため、気泡(気体)が容器内にはいらず、移送中の容器の揺れなどによって気泡が容器内で動いて脆弱物を破損することがない。特に、脆弱物がシート状細胞培養物の積層体である場合に、気泡が移動して、積層体がズレたり欠損したりすることがない。したがって、液体中の脆弱物の形状を保持して変形を防止しつつ、長期保存することができる。
また、第4実施形態に係るデバイス1Fによれば、液密状態を簡単に解除することができるため、例えば、作業者の蓋部材の無理な取り外しによる、容器の振動や液体の流動の発生を抑えることができるため、脆弱物を破損することがない。
本実施形態は、さらに種々の変形例を有することができる。排出ポート28は、様々なデバイスに適用することができ、例えば、第1〜第3実施形態における容器2、2A、2B、2C、2D、2Eに設けてもよい。また、例えば、本実施形態における容器2Fの底部に筒状壁26を設け、筒状壁26の側面に排出ポート28を設け、蓋部材3Fで筒状壁26の縁部を密閉するようにしてもよい。この場合は、筒状壁26の外側の空間Eが密閉されない状態になるが、代わりに排出ポート28にアクセスすることができるため、液体Lを排出することができ、さらに、排出された液体Lは、筒状壁26の外側の空間Eに受容されるため衛生的である。
以上、本発明を図示の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
第1実施形態における環状の弾性シール材33、第2実施形態における環状突起、第3実施形態におけるフィルム材39、第3実施形態におけるネジ部、第3実施形態におけるL字形のパッキンリングR、第3実施形態における筒状壁26、第4実施形態における排出ポート、および第4実施形態におけるドーム形状は、第1〜第4実施形態におけるデバイス1〜1Fのすべてに好適に適用することができ、また、2以上の構成を組み合わせてデバイス1〜1Fに適用させることもできる。第1〜第4実施形態における蓋部材3〜3Fと、容器2〜2Fとは、自由に組み合わせることができる。
本発明においては、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
本発明のデバイスを用いた脆弱物の使用は、例えば以下の工程によって順次行うことができる。
(1)容器に液体および脆弱物を収容する。
(2)蓋部材で容器内の気体および/または液体を押し出しながら容器を密閉して、容器内を液密にする。
(3)デバイスを移送する。
(4)液密状態を解除する。
(5)蓋部材を容器から取り外す。
(6)脆弱物を取り出して使用する。
本発明において、蓋部材の着脱は、工程(2)および(5)において行われる。工程(2)に関して、デバイス1、1A、1C、1Fのように、凸部31で容器内の気体を押し出して液密にしてもよいし、デバイス1B、1D、1Eのように、液面に凸面を形成してから蓋部材で液体を押し出して液密にしてもよい。凸部31で容器内の気体を押し出す際に、若干の液体が押し出される場合もあるが、それを空間A、B、C、Eなどで受容できるように構成してもよい。工程(3)に関して、環状突起によるロック機構は、デバイスを強固にロックできるため、移送中に液密状態を保持することができるが、当業者は様々な公知のロック手段を適用することができる。工程(4)に関して、弾性シール材33を変形させたり、フィルム材39を剥離したり、排出ポート28から排液したりすることで液密状態を解除してもよい。液密状態を解除してから工程(5)を実行することで、蓋を取り外す際の強い力が不要になり、蓋の脱着の際に液体が波打つことがなくなる。