JP2019087443A - 負極材料とこれを用いたリチウム二次電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】サイクル特性に優れたリチウム二次電池を作製することができる負極材料を提供する。【解決手段】本発明により、炭素材料を含み、XPSのID/IG比が0.2〜0.74である負極活物質2と、負極活物質2の表面に配置される被覆部4と、を備えるリチウム二次電池用の負極材料1が提供される。被覆部4は、ホウ素原子と、C−O−Cの結合部分を有し上記ホウ素原子と負極活物質2との間に介在される架橋部位と、を備える。XPSスペクトルにおいて、上記ホウ素原子の1s電子軌道のピークの面積をAbとし、上記C−O−Cの結合部分のピークの面積をAcとしたときに、上記ピーク面積Abに対する上記ピーク面積Acの比(Ac/Ab)が、0.11以上0.51以下である。【選択図】図2

Description

本発明は、負極材料とこれを用いたリチウム二次電池に関する。
リチウム二次電池では、性能向上の一環として、更なる高耐久化が検討されている。これに関連して、例えば特許文献1には、負極活物質の表面にホウ酸エステル化合物からなる被覆層を備えた負極材料、およびこの負極材料を用いたリチウム二次電池が開示されている。
国際公開2014/162529号公報 特開2014−002953号公報 特開2010−192430号公報
上記負極材料では、ホウ素原子の吸着作用によって、負極活物質の表面にホウ酸エステル化合物を吸着させている。しかし、負極活物質は、電池の充放電サイクルに伴って膨張・収縮を繰り返す。特に、2C以上のハイレートで充放電サイクルを行う場合には、負極活物質が急激な膨張・収縮を繰り返す。このため、充放電サイクルによって被覆層(ホウ酸エステル化合物)が負極活物質から徐々に脱着していき、被覆の効果が低下することがある。かかる場合、充放電サイクル後に内部抵抗が増大して、電池特性が悪化する課題があった。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、サイクル特性に優れたリチウム二次電池を作製することができる負極材料を提供することにある。関連する他の目的は、充放電サイクル後の内部抵抗の増大が抑制され、サイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供することにある。
本発明により、炭素材料を含み、かつ、アルゴンレーザーを用いたレーザーラマン分光法で測定されるラマンスペクトルにおいて、1580cm−1の位置に現れるGピークの強度Iに対する1350cm−1の位置に現れるDピークの強度Iの比(I/I)が、0.2以上0.74以下である負極活物質と、上記負極活物質の表面に配置される被覆部と、を備えるリチウム二次電池用の負極材料が提供される。上記被覆部は、ホウ素(B)原子と、C−O−Cの結合部分を有し、上記ホウ素原子と上記負極活物質との間に介在される架橋部位と、を備える。X線光電子分光法で測定されるXPSスペクトルにおいて、結合エネルギーが193〜194eVの位置に現れる、上記ホウ素原子の1s電子軌道のピークの面積をAbとし、結合エネルギーが287〜288eVの位置に現れる、上記C−O−Cの結合部分のピークの面積をAcとしたときに、上記ホウ素原子の上記ピーク面積Abに対する上記C−O−Cの上記ピーク面積Acの比(Ac/Ab)が、0.11以上0.51以下である。
上記負極材料では、C−O−Cの化学的な結合を利用して、負極活物質の表面に被覆部が配置されている。そのため、特許文献1に記載されるホウ素の吸着作用を利用する方法に比べて、負極活物質の表面に被覆部をより強固に保持することができる。このことにより、負極活物質が膨張・収縮を繰り返しても被覆部が負極活物質から剥離し難くなり、長期にわたって被覆部の効果を発揮することができる。したがって、充放電サイクル後にも内部抵抗の増大を抑えて、電池特性の低下を抑制することができる。
ここに開示される負極材料の好適な一態様では、上記XPSスペクトルの上記ピーク面積Abに基づいて算出される上記ホウ素原子の組成比が、全原子の合計を100atmic%としたときに、0.27atmic%以上である。これにより、被覆部にホウ素原子を含むことの効果がより良く発揮されて、負極の抵抗を一層高いレベルで低減することができる。
ここに開示される負極材料の好適な一態様では、上記被覆部が、ヒドロキシル基を有するホウ素化合物と、ポリオールと、の脱水縮合物を含む。上記被覆部は、例えば、ホウ酸とポリビニルアルコール(PVA)との脱水縮合物を含む。この場合、上記ホウ酸に対する上記ポリビニルアルコールの質量比が、1〜5であるとよい。これにより、ここに開示される技術の効果がより高いレベルで発揮され、負極の抵抗を一層高いレベルで低減することができる。
なお、ホウ素化合物やPVAに関する従来技術文献として、特許文献2、3が挙げられる。例えば特許文献2には、ホウ酸とPVAと無機フィラーとを含む塗工液を多孔質基材の表面に塗布して、多孔質基材と耐熱層と備えるセパレータを作製することが開示されている。また、特許文献3には、オキサラトボレート系添加剤を含んだ非水電解液が開示されている。しかしながら、これらの文献には、ここに開示される技術を直接的または間接的に示唆するような内容は一切開示されていない。
ここに開示される負極材料の好適な一態様では、上記負極活物質が、非晶質コート黒鉛である。これにより、負極活物質の表面に、均質および/または高密度に被覆部が形成された負極材料を好適に実現することができる。また、上記I/I比を、上記範囲に調整しやすい利点もある。
また、本発明により、上記負極材料を負極に備えるリチウム二次電池が提供される。かかるリチウム二次電池は、例えば、初期抵抗が低く、且つ、2C以上の充放電レートでハイレート充放電を繰り返しても電池容量の低下が生じ難い、ハイレートサイクル特性に優れたものである。
一実施形態に係る負極材料の断面構造を示す模式図である。 負極材料の表面を拡大した模式図である。 ステップ3における脱水縮合を説明する説明図である。 被覆部の質量比(PVA/ホウ酸)とXPSの面積比(Ac/Ab)との関係を表すグラフである。
以下、適宜図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば負極材料の組成や性状)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない他の電池構成要素や電池の一般的な製造プロセス等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
また、本明細書において数値範囲をA〜B(ここでA,Bは任意の数値)と記載している場合は、A以上B以下を意味するものとする。
[負極材料]
図1は、一実施形態に係る負極材料1の断面構造を示す模式図である。図2は、負極材料1の表面を拡大した模式図である。特に限定することを意図したものではないが、以下では、負極材料1を例として、ここに開示される技術を具体的に説明する。
負極材料1は、リチウム二次電池の負極に用いられる材料である。負極材料1は、複合粒子である。負極材料1は、負極活物質2と、被覆部4と、を備えている。負極活物質2は、負極材料1の核となる部分である。被覆部4は、負極活物質2の表面に配置されている。被覆部4は、負極活物質2の表面の少なくとも一部を覆って、負極材料とその他の電池構成要素(例えば非水電解質)との接触を抑制する部分である。
負極活物質2は、電荷担体たるリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出可能な材料である。負極活物質2は、アルゴンレーザーを用いたレーザーラマン分光法で測定されるラマンスペクトルにおいて、1580cm−1の位置に現れるGピークの強度Iに対する1350cm−1の位置に現れるDピークの強度Iの比(I/I)が、0.2〜0.74である。上記I/I比は、規則的なグラファイト構造を反映したGピークの強度Iに対する、不規則な構造を反映したDピークの強度Iの比であり、R値と呼ばれている。本明細書においても、上記I/I比を「R値」ということがある。
R値は、負極活物質2の表面に存在する表面官能基の量を表す1つの指標となる。すなわち、R値が大きいことは、負極活物質2の表面に存在する表面官能基、典型的にはヒドロキシル基(−OH基)やカルボキシル基(−C(=O)OH基)等の酸素含有基の量が多いことを表す(図3参照)。表面官能基は、反応活性の高い部位である。被覆部4は、負極活物質2の表面の表面官能基に化学的に結合されている。R値を所定値以上とすることで、被覆部4が、高密度に、および/または、強固に形成された負極材料1を実現することができる。上記観点からは、R値が、概ね0.3以上、例えば0.4以上であってもよい。一方、R値が小さくなると、負極活物質2の表面で、反応活性の低いベーサル面の割合が多くなる。これにより、負極活物質2と非水電解質との反応性が低減されて、不可逆容量が小さく抑えられる。また、負極活物質2の表面に非水電解質の分解物を含んだ高抵抗な皮膜が形成されることを抑制することができる。そのため、R値を所定値以下とすることで、内部抵抗を低減すると共にサイクル特性を向上することができる。上記観点からは、R値が、概ね0.7以下、例えば0.6以下であってもよい。
負極活物質2は、炭素材料を含んでいる。負極活物質2は、炭素材料で構成されていてもよいし、炭素材料に加えて、一般に負極活物質として使用し得ることが知られている材料を1種または2種以上含んでもよい。炭素材料の種類は特に限定されない。上記R値の範囲を満たし得る炭素材料としては、例えば、結晶性の異なる2種以上の炭素材料の混合物や複合体が挙げられる。一好適例として、天然黒鉛や人造黒鉛のような黒鉛材料と、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素および活性炭のうちの少なくとも1種と、を含む黒鉛系炭素材料が挙げられる。なお、本明細書において「黒鉛系炭素材料」とは、黒鉛の割合が概ね50質量%以上、典型的には80質量%以上である炭素材料をいう。なかでも、黒鉛の表面が結晶性の低い炭素材料でコートされている非晶質コート黒鉛が好ましい。一般に、結晶性の低い炭素材料は、結晶性の高い炭素材料に比べて相対的に多くの表面官能基を有する。結晶性の低い炭素材料で黒鉛材料の表面をコートすることにより、負極活物質2の表面に、均質および/または高密度に被覆部4が形成された負極材料1を好適に実現することができる。また、非晶質コート黒鉛は、R値を上記範囲に調整しやすい利点もある。
非晶質コート黒鉛は、従来公知の手法で製造することができる。例えば、先ず、原料としての黒鉛材料と、非晶質炭素材料(例えば易黒鉛化炭素)とを準備する。次に、CVD法(Chemical Vapor Deposition)等の気相法、あるいは、液相法、固相法等によって、黒鉛材料の表面に非晶質炭素材料を付着させる。そして、非晶質炭素材料の付着した黒鉛材料を、例えば800〜1400℃程度で焼成し、炭化させることによって、非晶質コート黒鉛を製造することができる。なお、非晶質コート黒鉛のR値は、例えば、使用する原料(黒鉛材料および/または非晶質炭素材料)のR値、原料の混合比率、焼成時の焼成温度等によって調整することができる。
負極活物質2は、粒子状である。特に限定されるものではないが、負極活物質2の平均粒径(レーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定で得られた体積基準の粒度分布における累積50%の粒径。)は、取扱い性や被覆部4の形成容易性等を考慮して、概ね0.5〜50μm、典型的には1〜20μm、例えば5〜10μmであるとよい。また、負極活物質2の比表面積(窒素ガスを用いた定容量式吸着法により測定した表面積を、BET法で解析したBET比表面積。)は、概ね0.1〜30m/g、典型的には0.5〜10m/g、好ましくは1〜5m/g、例えば3〜4m/gであるとよい。
被覆部4は、負極活物質2の表面官能基と化学的に結合されている。被覆部4は、ホウ素(B)原子と、架橋部位と、を含んでいる。ホウ素原子は、被覆部4の形成に使用されるホウ素化合物4a(図3参照)に由来する。ホウ素原子は典型的には3価の配位構造を有する。ホウ素原子は、負極活物質2におけるリチウムイオンの吸蔵・放出をアシストする機能を有する。具体的には、ホウ素原子は、ルイス酸性を有し、自身の近傍に存在するリチウム塩の解離度を高める作用がある。このことにより、負極活物質2の表面で、リチウムイオンの量が増加する。また、ホウ素原子は、僅かに負電荷を帯びており、リチウムイオンを負極活物質2の表面に引きつける作用がある。したがって、被覆部4にホウ素原子を含むことで、負極の抵抗を低減することができる。
架橋部位は、ホウ素原子と負極活物質2との間に介在されている。架橋部位は、被覆部4の形成時に使用される架橋剤4b(図3参照)に由来する。架橋部位は、ホウ素原子を負極活物質2に強く結合させる機能を有する。すなわち、架橋部位は、C−O−C結合部分を含んでいる。架橋部位は、C−O−C結合部分の共有結合によって、負極活物質2の表面の表面官能基と結合されている。このことにより、被覆部4は、例えば特許文献1に記載されるような吸着作用(物理的な結合)を利用した被覆層に比べて、負極活物質2の表面に強固に固定され、負極活物質2と一体化されている。
被覆部4は、典型的には、ホウ素化合物と架橋剤との縮合物である。被覆部4は、例えば、ヒドロキシル基を有するホウ素化合物と、ポリオールと、の脱水縮合物である。一好適例として、ホウ酸および/またはホウ酸エステルと、ポリビニルアルコール(PVA)と、の脱水縮合物が挙げられる。被覆部4が、ホウ酸とPVAとの脱水縮合物で構成されている場合、ホウ酸に由来する成分に対する、PVAに由来する成分の比は、質量基準で、1〜5であるとよい。
なお、被覆部4に含まれる架橋剤の種類、例えばポリオールの種類は、熱分解ガスクロマトグラフィー(GC−MS)を用いた定性分析で確認することができる。また、後述する試験例に示す通り、脱水縮合物の質量比は、負極材料1の製造時の配合比と同様である。脱水縮合物の質量比は、後述する試験例に記載する方法で確認することもできる。
負極材料1は、X線光電子分光法(XPS)で測定されるXPSスペクトルにおいて、結合エネルギーが193〜194eVの位置に、ホウ素原子の1s電子軌道のピークPbを有する。ピークPbは、被覆部4のホウ素原子の存在を表すピークである。
なお、本明細書において「ピークPbを有する」とは、XPSスペクトルにおけるピークPbのピーク面積Abから算出されるホウ素(B)原子の組成比が、全原子の合計(例えば、ホウ素原子と炭素(C)原子と酸素(O)原子との合計)を100atmic%としたときに、0.1atmic%以上であることをいう。
ピークPbのピーク面積Abから算出されるホウ素(B)原子の組成比は、概ね0.2atmic%以上、好ましくは0.27atmic%以上、典型的には0.3atmic%以上、例えば0.38atmic%以上であるとよい。負極活物質2の表面で、ホウ素原子の組成比が高くなることにより、上述したリチウム塩の解離度、および/または、リチウムイオンとの静電的な相互作用が増大する。これにより、負極の抵抗をより高いレベルで低減して、優れた出力特性を実現することができる。特に限定されるものではないが、ホウ素原子の組成比の上限は、概ね5.0atmic%以下、典型的には2.0atmic%以下、例えば1.4atmic%以下であってもよい。
また、負極材料1は、XPSで測定されるXPSスペクトルにおいて、結合エネルギーが287〜288eVの位置に、C−O−C結合部分のピークPcを有する。ピークPcは、ホウ素原子と負極活物質2とが共有結合されていることを表すピークである。
なお、本明細書において「ピークPcを有する」とは、C−O−C結合部分のピークに対してカーブフィッティングを行い、ピーク面積を求めた時に、負極活物質2のみの場合(基準)のピーク面積に比べて、1.5倍以上、好ましくは2倍以上であることをいう。
ここに開示される技術では、ホウ素原子のピーク面積Abに対する、C−O−Cのピーク面積Acの比(Ac/Ab)が、0.11〜0.51である。Ac/Ab比が所定値に満たないと、ホウ素原子に対する架橋剤の割合が不足する。このため、ホウ素原子と負極活物質2と架橋性が低くなって、被覆部4のホウ素原子の量が共連れで低下したり、ホウ素原子が負極活物質2から解離し易くなったりする。一方、Ac/Ab比が所定値を超えると、ホウ素原子に対する架橋剤の割合が過多となる。そのため、負極活物質の表面が架橋剤で被覆されて、リチウムイオンの吸蔵・放出が阻害される。
Ac/Ab比を上記範囲とすることで、ここに開示される技術の効果を適切に発揮することができる。すなわち、被覆部4が上記したリチウムイオンの吸蔵・放出をアシストする機能をいかんなく発揮して、初期の内部抵抗を低く抑えることができる。また、充放電サイクル後にも被覆部4が負極活物質2の表面に適切に維持されて、内部抵抗の増大を抑えることができる。
なお、負極材料1は、XPSで測定されるXPSスペクトルにおいて、上記以外にもピークを有していてもよい。一例として、架橋剤が未反応の(脱水縮合されていない)水酸基を有する場合は、結合エネルギーが532〜534eVの位置に、酸素原子の1s電子軌道のピークが検出され得る。なお、XPSでは、装置の特性上、負極材料1の最表面から0.5〜10nm程度までの深さについての分析を行うことができる。
[負極材料の製造方法]
上述のような負極材料1は、例えば、以下の工程:(ステップ1)負極活物質2を用意する用意工程;(ステップ2)負極活物質2と、ヒドロキシル基を有するホウ素化合物4aと、架橋剤4bと、を混合する混合工程;(ステップ3)上記混合工程で得られた混合物を焼成する焼成工程;を包含する製造方法によって得ることができる。以下、各工程について説明する。
(ステップ1)用意工程
本工程では、負極活物質2を用意する。負極活物質2は、上記したR値を満たすもの、言い換えれば、所定量の表面官能基を有するものであればよい。負極活物質2は、市販品を購入しても良く、あるいは従来公知の方法で製造することもできる。例えば市販品が上記した性状(R値、比表面積、平均粒径)になるように、適宜、表面官能基の付与や粉砕、分級等の処理を行ってもよい。一好適例では、負極活物質2として、上記R値を満たす非晶質コート黒鉛を用意する。
(ステップ2)混合工程
本工程では、ステップ1で用意した負極活物質2に、ヒドロキシル基を有するホウ素化合物4aと、架橋剤4bと、を混合する。混合方法としては、固相法や液相法を採用し得る。一好適例では、液相法を採用し、まず、ホウ素化合物4aと架橋剤4bとを所定の混合比となるように秤量し、溶媒中で混合して、コート液を調製する。溶媒としては、例えば、水や、沸点が水以下(100℃以下)である有機溶剤を好ましく用いることができる。
ホウ素化合物4aとしては、1つまたは2つ以上のヒドロキシル基と、3配位のホウ素原子と、を有するホウ素化合物を好ましく用いることができる。ホウ素化合物4aは、無機ホウ素化合物と有機ホウ素化合物とを包含する。ホウ素化合物4aは、架橋剤4bとの結合性を高める観点から、ヒドロキシル基を1分子中に2つ以上、例えば3つ有しているとよい。ホウ素化合物4aの一好適例として、ホウ酸(B(OH))が挙げられる。ホウ素化合物4aの他の一好適例として、1つまたは2つ以上のB−OH結合を有するホウ酸エステル化合物が挙げられる。例えば、次の式(I):B(OR)OH(ただし、式中のRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基およびハロアルキル基から選択される。);で表わされるホウ酸エステル化合物を好ましく用いることができる。
式(I)中のRがアルキル基またはハロアルキル基の場合、炭素原子数は、概ね10以下、典型的には1〜6、例えば1〜3であってもよい。Rは、直鎖状であってもよく分岐を有してもよい。ハロアルキル基は、アルキル基を構成する水素原子(H)の1または2以上がフッ素原子(F)に置き換えられた構造の基(フルオロアルキル基)であってもよい。好ましい一態様では、Rが、水素原子または炭素数1のアルキル基である。
架橋剤4bは、2つ以上のヒドロキシル基を有し、加熱によって脱水縮合反応を生じる化合物であるとよい。架橋剤4bは、ヒドロキシル基を1分子中に概ね100以上、例えば1000〜5000程度有しているとよい。架橋剤4bとしては、例えば、ポリオール、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸エステル等の有機ポリマーを用いることができる。ポリオールとしては、例えば、次の式(II):(−CHCH(OH)−);で表されるポリビニルアルコール(PVA)や、ポリビニルアセタール、変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系化合物が挙げられる。変性ポリビニルアルコールとしては、エチレン、プロピレン等のオレフィンや、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル等で、ポリビニルアルコールを変性したものが挙げられる。
特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール系化合物の重合度(PVAの場合は上記式(II)の繰り返し単位n)は、概ね100〜10000、例えば1000〜5000であるとよい。また、ポリビニルアルコール系化合物のケン化度(JIS K 6726:1994年に従って求められる値。)は、概ね70モル%以上、典型的には80〜95モル%、例えば80〜90モル%であるとよい。
ホウ素化合物4aと架橋剤4bとの混合比は、上記したようなXPSスペクトルの面積比を実現するための1つの重要なパラーメータである。一好適例として、ホウ素化合物4aとしてホウ酸を使用し、架橋剤4bとしてPVAを使用する場合は、ホウ酸とPVAとの混合比を、質量比で、ホウ酸:PVA=1:1〜1:5とするとよい。また、負極活物質2に対するホウ素化合物4aの混合比は、上記したようなホウ素原子の組成比を実現するための1つの重要なパラーメータである。一好適例として、ホウ素化合物4aとしてホウ酸を使用する場合は、負極活物質2の100質量部に対して、ホウ酸を、1.4質量部以上とするとよい。
本工程では、次に、ホウ素化合物4aと架橋剤4bとを含んだコート液と、負極活物質2とを、所定の混合比で混合する。そして、溶媒を蒸発乾固させる。これにより、表面にホウ素化合物4aと架橋剤4bとが付着した負極活物質2を得ることができる。
(ステップ3)焼成工程
本工程では、ホウ素化合物4aと架橋剤4bとが付着している負極活物質2を焼成する。図3は、本工程における脱水縮合を説明する説明図である。図3に示すように、焼成により、負極活物質2の表面官能基と架橋剤4bとの間、および、架橋剤4bとホウ素化合物4aとの間で、それぞれ水が脱離する。これにより、負極活物質2の表面官能基と架橋剤4bとの間、および、架橋剤4bとホウ素化合物4aとの間で、それぞれ縮合反応が生じる。その結果、図2に示すように、C−O−Cの結合部分を有する架橋部位によって、負極活物質2の表面とホウ素とが化学的に結合される。
焼成温度(焼成時の最高温度)は、上記した脱水反応が生じ、かつ、ホウ素化合物4a、架橋剤4b、および脱水反応によって生成された重合物が分解されない温度範囲とすることが重要である。このような観点から、焼成温度は、例えば、示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)のデータに基づいて、1段階の反応となるように決定するとよい。焼成温度は、概ね100℃以上、言い換えれば、水分の沸点以上であって、概ねホウ素化合物4aの分解温度未満、例えば120〜250℃、好ましくは140〜200℃に設定するとよい。また、焼成雰囲気は、不活性雰囲気(例えば窒素雰囲気)とするとよい。
以上のようにして、負極活物質2と、負極活物質2の表面に配置された被覆部4と、を備えた負極材料1を製造することができる。
[リチウム二次電池用の負極]
負極材料1は、リチウム二次電池の負極に用いられる。リチウム二次電池の負極は、典型的には、負極集電体と、上記負極集電体上に形成された負極活物質層と、を有している。負極集電体としては、例えば銅等の金属箔が例示される。負極活物質層は、少なくとも負極材料1を含んでいる。負極活物質層は、負極材料1の他に、例えば、バインダ、増粘剤、分散剤、導電材等を含んでもよい。バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類や、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂が例示される。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース類が例示される。
[リチウム二次電池]
上記負極は、リチウム二次電池の構築に用いられる。リチウム二次電池は、正極と、上記した負極と、非水電解質とを備える。
正極は、従来と同様でよく特に限定されない。正極は、典型的には、正極集電体と、上記正極集電体上に形成された正極活物質層と、を有している。正極集電体としては、例えばアルミニウム等の金属箔が例示される。正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含んでいる。正極活物質としては、例えば、リチウムニッケル含有複合酸化物、リチウムコバルト含有複合酸化物、リチウムニッケルコバルト含有複合酸化物、リチウムマンガン含有複合酸化物、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物が例示される。正極活物質層は、正極活物質の他に、例えば、導電材、バインダ、分散剤等を含んでもよい。導電材としては、例えば、カーボンブラック、典型的には、アセチレンブラックやケッチェンブラックが例示される。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂や、ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイドが例示される。
非水電解質は、従来と同様でよく特に限定されない。非水電解質は、典型的には支持塩と非水溶媒とを含んでいる。非水電解質は、典型的には室温(25℃)で液体状態を示す非水電解液である。支持塩は、非水溶媒中で解離して電荷担体たるリチウムイオンを生成する。支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF等のフッ素含有リチウム塩が挙げられる。非水溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒が挙げられる。非水電解質は、上記した支持塩と非水溶媒とに加えて、例えば、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、ビニレンカーボネート(VC)等の皮膜形成剤や、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤を含んでもよい。
[リチウム二次電池の用途]
負極材料1を負極に含んだリチウム二次電池は、各種用途に利用可能であるが、従来品に比べて内部抵抗が低減され、優れた出力特性やハイレートサイクル特性を実現するものである。したがって、ここに開示されるリチウム二次電池は、このような特徴を活かして、例えば、車両に搭載されるモーター用の動力源(駆動用電源)として好ましく用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、典型的には自動車、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等が挙げられる。なお、リチウム二次電池は、複数個が直列および/または並列に接続された組電池の形態で使用されてもよい。
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
≪試験例1≫
<負極材料の作製>
〔例1〜4〕
先ず、R値が0.2〜0.74の負極活物質(平均粒径10μm、比表面積3〜4m/g)を用意した。次に、負極活物質と、架橋剤としてのポリビニルアルコール(PVA、ケン化度:90モル%、重合度:1500)を含む水溶液と、ホウ素化合物としてのホウ酸(TG−DTAに基づく分解温度300℃)を含む水溶液とを、負極活物質:PVA:ホウ酸=100:6.9:2.0の質量比となるように混合した後、水分を蒸発乾固させた。これにより、負極活物質の表面にホウ酸とPVAとを付着させた。次に、不活性雰囲気下において、焼成温度160℃で、ホウ酸とPVAとが付着している負極活物質を焼成した。このようにして、負極活物質と、その表面に配置され、ホウ酸とPVAとの脱水縮合物を含んだ被覆部と、を備える負極材料を作製し、負極材料として使用した。
〔比較例1〕
R値が0.12の負極活物質を、負極材料としてそのまま使用した。
〔比較例2〕
比較例1の(R値が0.12の)負極活物質と、架橋剤としてのPVAを含む水溶液とを、負極活物質:PVA=100:6.9の質量比となるように混合した後、水分を蒸発乾固させた。これにより、負極活物質の表面にPVAを付着させた。次に、PVAが付着している負極活物質を、不活性雰囲気下において、焼成温度160℃で焼成した。このように負極材料を作製し、負極材料として使用した。
〔比較例3〕
比較例1の(R値が0.12の)負極活物質と、ホウ素化合物としてのホウ酸を含む水溶液とを、負極活物質:ホウ酸=100:2.0の質量比となるように混合した後、水分を蒸発乾固させた。これにより、負極活物質の表面にホウ酸を付着させた。そして、熱処理せずに負極材料として使用した。
〔比較例4〕
比較例3で得られた、表面にホウ酸が付着している負極活物質を、不活性雰囲気下において、焼成温度160℃で焼成した。このように負極材料を作製し、負極材料として使用した。
〔比較例5〕
R値が0.12の負極活物質を使用したこと以外は例1と同様に負極材料を作製し、負極材料として使用した。
〔比較例6〜8〕
R値が0.2の負極活物質を使用したこと以外は比較例2〜4と同様に負極材料を作製し、負極材料として使用した。
〔比較例9〕
R値が0.86の負極活物質を使用したこと以外は例1と同様に負極材料を作製し、負極材料として使用した。
〔比較例10〕
例2で作製した、ホウ酸とPVAとが付着している負極活物質を、熱処理せずに負極材料として使用した。
〔比較例11〕
焼成温度を、ホウ酸の分解温度と同じ300℃としたこと以外は例2と同様に負極材料を作製し、負極材料として使用した。
<被覆部の定量分析>
上記負極材料について、被覆部の定量分析を行った。
具体的には、まず、例1〜4、比較例5,9の各例につき、負極材料を10g採取し、エチルメチルカーボネート(EMC)で洗浄した。
次に、洗浄後の負極材料について、XPSを測定した。そして、得られたXPSスペクトルから、結合エネルギーが193〜194eVの位置に現れる、ホウ素原子の1s電子軌道のピークPbに対してカーブフィッティングを行い、ピーク面積Abを求めた。なお、ピーク面積Abは、炭素原子の1s電子軌道のピーク(C1s)を284.80eVとして帯電補正を行ってから測定した。次に、ピーク面積Abに基づいて、ホウ素原子と炭素原子と酸素原子との合計を100atmic%としたときの、ホウ素原子の組成比(atomic%)を算出した。なお、本試験例では、ホウ素原子と炭素原子と酸素原子との合計が略全原子に相当する。そして、負極材料を10gあたりのホウ酸(B(OH))の質量へと換算した。得られた結果を表1に示す。
次に、洗浄後の負極材料を10mg秤量し、TG−DTAの測定を行った。具体的には、アルゴン雰囲気において、10℃/min.の昇温レートで、室温から500℃まで負極材料を昇温した。このときの、220〜500℃での重量減少率から、PVAの質量を算出した。そして、負極材料10gあたりのPVAの質量へと換算した。得られた結果を表1に示す。
次に、上記PVAの質量を上記ホウ酸の質量で除すことによって、被覆部におけるPVAとホウ酸との質量比率を算出した。得られた結果を表1に示す。
表1に示すように、被覆部におけるPVAとホウ酸との質量比率には、負極材料作製時の質量比(仕込み比)が反映されていた。
<C−O−C結合部分の分析>
負極材料について、XPSを測定し、得られたXPSスペクトルから、結合エネルギーが287〜288eVの位置に現れる、C−O−C結合部分のピークPcに対してカーブフィッティングを行い、ピーク面積Acを求めた。なお、ピーク面積Acは、C1sのピークを284.80eVとして帯電補正を行ってから測定した。そして、比較例10の(負極活物質のみの)ピーク面積を基準(1)として、各例の結果を規格化した。得られた結果を表1に示す。
<リチウム二次電池の構築>
各例につき、上記負極材料を用いて、リチウム二次電池を構築した。
具体的には、先ず、上記得られた負極活物質(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=100:0.5:0.5の質量比率(固形分換算)になるように秤量し、イオン交換水中で混合して、負極スラリーを調製した。この負極スラリーを、帯状の銅箔(負極集電体、厚み10μm)の表面に塗布し、乾燥後にプレスした。これにより、負極集電体上に負極活物質層を有する負極を作製した。
次に、正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、NCM:AB:PVdF=92:5:3の質量比率になるように秤量し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中で混合して、正極スラリーを調製した。この正極スラリーを、帯状のアルミニウム箔(正極集電体、厚み15μm)の表面に、100mm幅で塗布し、乾燥後にプレスした。これにより、正極集電体上に正極活物質層を有する正極を作製した。
そして、上記で作製した正極と負極とを、帯状のセパレータを介在させた状態で対向させて、長手方向に捲回し、捲回電極体を作製した。なお、セパレータとしてはポリエチレン(PE)の両面にポリプロピレン(PP)が積層されたPP/PE/PPの3層構造の基材(平均厚み24μm)と、その片側の表面に形成された耐熱層(平均厚み4μm)と、で構成された多孔質シートを用いた。また、セパレータは、耐熱層の側が負極に対向するように配置した。
次に、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)とを、EC:DMC:EMC=3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.0mol/Lの濃度で溶解させて、非水電解液を調製した。
そして、上記作製した電極体と、上記調製した非水電解液とを電池ケースに収容して、封止した。これにより、リチウム二次電池を構築した。
<活性化処理>
上記構築したリチウム二次電池を、25℃の環境下で暫く放置して、非水電解液を含浸させた。次に、リチウム二次電池を、電圧が4.1Vとなるまで0.1Cの充電レートで定電流充電した(コンディショニング)。次に、充電したリチウム二次電池を60℃の環境下で暫く保持した(エージング)。
<初期抵抗の測定(−10℃)>
上記活性化処理後のリチウム二次電池をSOC56%に調整した後、−10℃の恒温槽内に設置して暫く放置した。リチウム二次電池の温度が安定した後、10Cの放電レートで10秒間放電させた。このときの電流値と電圧降下量から抵抗値(Ω)を算出した。結果を表1の初期抵抗の欄に示す。なお、表1では、比較例1の抵抗値を基準(100)とした相対値で結果を示している。表1の値は、数値が小さいほど、内部抵抗が低く抑えられていて好ましいといえる。
<ハイレートサイクル特性の測定>
上記活性化処理後のリチウム二次電池を60℃の恒温槽内に設置して暫く放置した。リチウム二次電池の温度が安定した後、SOC0〜100%の電圧範囲において、2Cの充放電レートで500サイクルのハイレート充放電を行った。次に、ハイレート充放電後のリチウム二次電池について、初期抵抗と同様にして抵抗値を測定した。そして、ハイレート充放電後の抵抗を初期抵抗で除して、サイクル後の抵抗増加率を算出した。結果を表1の抵抗増加率の欄に示す。なお、表1では、比較例1の抵抗増加率を基準(100)とした相対値で結果を示している。表1の値は、数値が小さいほど、抵抗増加が低く抑えられていて好ましいといえる。
Figure 2019087443
例1〜4は、負極活物質のR値が0.2〜0.74であり、負極活物質の表面にホウ酸とPVAとの脱水縮合物を備える試験例である。表1に示すように、例1〜4では、相対的に初期抵抗が低く抑えられ、かつ、ハイレートサイクル特性にも優れていた。
例1〜4で初期抵抗が低く抑えられた理由としては、(1)負極活物質のR値を所定値以上とすることで、負極活物質の表面の反応起点が増加したこと、(2)負極活物質の表面にPVAを導入することで、反応起点が増加し、負極活物質の近傍でホウ素原子の量がさらに増加したこと、等が考えられる。また、例1〜4でハイレートサイクル後の抵抗の増大が抑えられた理由としては、(1)負極活物質のR値を所定値以下とすることで、非水電解液の還元分解を抑制できたこと、(2)負極活物質の表面に、ホウ酸と共にPVAを導入することで、負極活物質とホウ素との結合性がより強固になったこと、等が考えられる。
これら試験例に対して、次のいずれか1つ以上の条件:負極活物質のR値が上記範囲を満たしていない;ホウ酸および/またはPVAを使用していない;焼成工程(脱水縮合工程)を経ていない;焼成工程の焼成温度がホウ酸の分解温度以上である;に該当する比較例1〜11では、相対的に初期抵抗が高く、かつ、ハイレートサイクル特性も悪かった。
例えばホウ酸を使用していない比較例2,6では、負極活物質をそのまま使用した比較例1よりも初期抵抗が高かった。この理由として、負極活物質の表面がPVAで被覆されることにより、負極活物質のリチウムイオンの吸蔵・放出が阻害されたことが考えられる。また、比較例2,6では、ハイレートサイクル特性も比較例1と同等だった。
また、例えばPVAを使用していない比較例4,8では、初期抵抗が比較例1よりもわずかに向上したものの、ハイレートサイクル特性は比較例1と同等だった。この理由として、PVAを使用していない場合、負極活物質とホウ素との結合が特許文献1に記載されるような物理的な吸着や、あるいは、結合力の弱い水素結合となる。そのため、ハイレートサイクル後に負極活物質の表面からホウ素が離れてしまったことが考えられる。
また、負極活物質のR値が小さい比較例5では、初期抵抗が比較例1よりもわずかに向上したものの、ハイレートサイクル特性は比較例1よりも悪化した。この理由として、反応の起点が少ないために、ここに開示される技術の効果が適切に発揮されず、負極活物質の近傍でホウ素原子の量が減少したことが考えられる。
また、負極活物質のR値が大きい比較例9では、初期抵抗、ハイレートサイクル特性共に、比較例1と同等だった。この理由として、負極活物質の表面に余剰の表面官能基が大量に存在することで、これを起点として非水電解液の分解が生じ、その結果、負極活物質の表面に非水電解液の分解物を含んだ高抵抗な皮膜が形成されたことが考えられる。
また、焼成工程を経ていない比較例10や焼成温度が高かった比較例11では、初期抵抗、ハイレートサイクル特性共に、比較例1よりも悪化した。この理由として、比較例10では、C−O−Cの結合部分のピークPcが小さかったことから、負極活物質の表面官能基とPVAの縮合反応、および、PVAとホウ酸の縮合反応が進行しなかったことが考えられる。また、比較例11では、B1sのピークがほとんど検出されなかったことから、ホウ酸が加熱分解してしまったことが考えられる。
≪試験例2≫
例5〜10および比較例12〜15では、負極活物質100質量部に対して、PVAまたはホウ酸の添加量を表2のように変更したこと以外は例2と同様に負極材料を作製し、負極材料として使用した。そして、被覆部の定量分析と、リチウム二次電池の構築、特性評価を行った。結果を、表2に示す。なお、表2には、XPSスペクトルにおける、ホウ素原子のピークPbの面積Abに対するC−O−C結合部分のピークPcの面積Acの比(Ac/Ab)を併せて示している。
Figure 2019087443
図4は、上記した被覆部の質量比(PVA/ホウ酸)と、XPSの面積比(Ac/Ab)と、の関係を表すグラフである。表2および図4に示すように、Ac/Ab比と被覆部の質量比との間には相関係数Rが0.93以上の相関関係が得られた。
また、表2に示すように、Ac/Ab比が0.11〜0.51の範囲では、ここに開示される技術の効果が適切に発揮されていた。
一方、Ac/Ab比が上記範囲を満たさない比較例12〜15では、ここに開示される技術の効果が適切に発揮されていなかった。この理由として、比較例13,15では、ホウ酸に対するPVAの割合が過多となり、負極活物質の表面がPVAで被覆されて、リチウムイオンの吸蔵・放出が阻害されたことが考えられる。一方、比較例12,14では、ホウ酸に対するPVAの割合が不足し、ホウ酸と負極活物質と架橋性が低くなって、負極活物質の表面のホウ素原子の量が共連れで低下したり、ホウ素原子が負極活物質から離れ易くなったりしたことが考えられる。
以上の結果は、ここに開示される技術の技術的意義を裏付けるものである。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
1 負極材料
2 負極活物質
4 被覆部
4a ホウ素化合物
4b 架橋剤

Claims (7)

  1. リチウム二次電池用の負極材料であって、
    炭素材料を含み、かつ、アルゴンレーザーを用いたレーザーラマン分光法で測定されるラマンスペクトルにおいて、1580cm−1の位置に現れるGピークの強度Iに対する1350cm−1の位置に現れるDピークの強度Iの比(I/I)が、0.2以上0.74以下である負極活物質と、
    前記負極活物質の表面に配置される被覆部と、を備え、
    前記被覆部は、
    ホウ素原子と、
    C−O−Cの結合部分を有し、前記ホウ素原子と前記負極活物質との間に介在される架橋部位と、を備え、
    X線光電子分光法で測定されるXPSスペクトルにおいて、
    結合エネルギーが193〜194eVの位置に現れる、前記ホウ素原子の1s電子軌道のピークの面積をAbとし、
    結合エネルギーが287〜288eVの位置に現れる、前記C−O−Cの結合部分のピークの面積をAcとしたときに、
    前記ホウ素原子の前記ピーク面積Abに対する前記C−O−Cの前記ピーク面積Acの比(Ac/Ab)が、0.11以上0.51以下である;
    リチウム二次電池用の負極材料。
  2. 前記XPSスペクトルの前記ピーク面積Abに基づいて算出される前記ホウ素原子の組成比が、全原子の合計を100atmic%としたときに、0.27atmic%以上である、
    請求項1に記載の負極材料。
  3. 前記被覆部が、ヒドロキシル基を有するホウ素化合物と、ポリオールと、の脱水縮合物を含む、
    請求項1または2に記載の負極材料。
  4. 前記被覆部が、ホウ酸とポリビニルアルコールとの脱水縮合物を含む、
    請求項1から3のいずれか1つに記載の負極材料。
  5. 前記ホウ酸に対する前記ポリビニルアルコールの質量比が、1〜5である、
    請求項4に記載の負極材料。
  6. 前記負極活物質が、非晶質コート黒鉛である、
    請求項1から5のいずれか1つに記載の負極材料。
  7. 請求項1から6のいずれか1つに記載の負極材料を負極に備えるリチウム二次電池。
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