ここで、本発明の実施形態において、前記多孔質基材は、前記第2面側の表面積が前記第1面側の表面積よりも大きいものである。反応効率向上の観点からは、分離膜を形成しない第1面側は表面積を大きくする必要がない。そのため、専ら第2面側だけ表面積を大きくするための凹凸形状等を形成し、第1面側は、形状をできるだけ単純化して機械的強度を確保すると共に製造を容易にすることが好ましい。
また、本発明の他の実施形態において、前記分離膜用セラミック多孔質支持体は、前記全体形状が円筒型、平板形、マルチチャネル型、ハニカム型の何れかである。本発明は、種々の形状のセラミック多孔質支持体に適用されるもので、その形状は特に限定されない。円筒型は、単純な形状で製造が容易であると共に機械的強度の確保も容易な利点がある。平板形は、単純な形状であるため製造が容易であり、例えば複数枚を必要に応じてスペーサを介して積層したスタック構造で用いることにより、任意の処理容量を容易に実現できると共に、単位体積当たりの膜面積が大きくコンパクト化できる利点がある。なお、本発明においては、多孔質基材の第2面側の表面に凹凸が形成されていることを必須とする。したがって、上記円筒型および平板形は、凹凸が存することを前提として、全体として円筒型或いは平板形を成していることを意味するものである。また、マルチチャネル型の場合には、円柱状のセラミック多孔質支持体内に、小径の貫通孔が複数本形成され、ハニカム型の場合には、円柱状のセラミック多孔質支持体内に、断面矩形の貫通孔が複数本形成され、その貫通孔の内面には分離膜が形成される。故に、処理対象は内側から外側へ透過させられると、透過物は外側へ分離され、非透過物は内側から排出される。これ等は、単位体積当たりの膜面積が大きいため、コンパクトな装置となり、高強度が得られる。また、膜面積に対してシール箇所が少ない利点がある。
また、本発明の他の実施形態において、前記多孔質基材の前記第2面側の凹凸面は、断面がたとえば矩形波形、正弦波形、かまぼこ形、三角波形、又は、のこぎり波形の複数の凸条によって、或いは、たとえば半球形、円錐形、又は、角錐形の独立して突き出す複数の突起によって凹凸が形成されるが、これに限定されない。これらの形状とすれば、第2面側の表面積の大きな多孔質基材を容易に製造することができ、高強度が得られる利点がある。
また、本発明の他の実施形態において、前記多孔質基材は、アルミナ、ジルコニア、ムライト、シリカ、チタニア、窒化珪素、炭化珪素の何れかを主成分とするものである。本発明の適用対象は、セラミック多孔質材料であれば特に限定されず、一般的に用いられているものでもよく、形成される膜の材質や使用環境等に応じて種々の材料に適用できる。
また、本発明の他の実施形態の分離膜用セラミック多孔質支持体において、前記多孔質基材は全体が円筒状を成すものであり、その多孔質基材の両開口端の各々に端面を突き合わせて接合された一対の円筒形セラミック緻密体を含むものである。円筒状の分離膜用セラミック多孔質支持体に分離膜を形成した分離膜フィルターを利用するに際しては、開口部を封止する必要がある。開口部の封止は、通常、封止部材を開口部に締め付け固定することで行われるが、締め付け力が強すぎると多孔質支持体が破損するおそれがある一方、締め付け力が弱すぎると封止が不完全になる。特に、多孔質基材の第2面側に凹凸面が設けられている場合には、封止が一層困難になる。この態様によれば、分離膜フィルターを装置に組み付けるに際して、多孔質支持体を破損させることなく、円筒形セラミック緻密体の部分で容易且つ確実に気密或いは液密に封止することができる。
また、本発明の他の実施形態の分離膜用セラミック多孔質支持体において、前記多孔質基材は全体が円筒状を成すものであり、その多孔質基材の一方の開口端に端面を突き合わせて接合された円筒形セラミック緻密体と、他方の開口端にこれを閉塞するように接合された円板状セラミック緻密体とを含むものである。このようにしても、他方の開口端側に封止部材を締め付け固定する際に、円板状セラミック緻密体がその締め付け力を受けることから、多孔質支持体を破損させることなく容易且つ確実に気密或いは液密に封止することができる。また、円筒形状の分離膜用セラミック多孔質支持体に分離膜を形成した分離膜フィルターを利用するに際して、一方の開放端側だけを装置に固定する場合には、他方の開口端側は閉塞するだけで足りるので、上記のようにすれば、その他方の開口端側を破損させることなく確実に封止することができる。
また、本発明の他の実施形態において、前記分離膜用セラミック多孔質支持体は、前記多孔質基材と、前記多孔質膜との間に1つ以上の他の多孔質層を備えたものである。すなわち、多孔質膜を多孔質基材上に他の多孔質層を介して積層する構造とすることができ、特許請求の範囲にいう「積層」には、2層構造で互いに接する状態で直接的に積層される場合の他、3層以上の構造で間に他の多孔質層を介して間接的に積層される場合も含まれる。他の多孔質層は、例えば、多孔質膜の形成を容易にする目的で設けられる。例えば、多孔質基材と多孔質膜との細孔径の相違が大きく、多孔質基材上に多孔質膜を直接形成することが困難な場合には、多孔質基材の上にそれらの中間の細孔径を有する他の多孔質層を形成し、多孔質膜をその他の多孔質層の上に設ければよい。このように他の多孔質層を介在させることにより、細孔径の小さい多孔質膜を十分に薄い厚さ寸法で形成することが容易になる。
また、本発明の支持体は固液分離用の分離膜を形成するためのものも含まれる。固液分離の対象物は、液体中に固体粒子が分散したものであるが、全体として流動性を備えた一種の流体であるため、「処理対象流体」には、このようなものも含まれる。
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の実施例の円筒状セラミック多孔質支持体10の全体を示す斜視図である。この多孔質支持体10は、円筒状の多孔質基材12と、その外周面を覆って設けられた多孔質膜14とから構成されている。この多孔質支持体10は、例えば、その外周面すなわち多孔質膜14上にゼオライト等の適宜の材料から成る分離膜を形成して、分離膜フィルターを構成するために用いられるもので、内周面12bから外周面14aに貫通する多数の細孔を備えている。本実施例では、内周面12bが第1面に、外周面14aが第2面に相当する。
上記多孔質基材12は、例えば平均細孔径が1.3(μm)で気孔率が40(%)のアルミナから成るものである。ここで、細孔径および気孔率は、測定対象を7〜9(mm)角程度に砕いた試験片を用意し、水銀圧入法による細孔分布測定装置(例えば、Micromeritics社製AutoPore IV 9520型)を用いて、細孔径0.01〜100(μm)の範囲で測定した値であり、この装置により得られる「Median Pore Diameter(Volume)」すなわち容積平均径を細孔径として、「porosity」すなわち全容積に対する気孔容積の割合を気孔率として得た。以下の説明においても同様である。上記の多孔質基材12の多孔質膜14が設けられた外周面12aすなわち第2面側に位置する面は、軸心方向の全長に渡る略矩形断面の複数本の凸条16が周方向に周期的に備えられることにより、凹凸面に形成されている。これに対して、多孔質基材12の内周面12bは、円筒面に形成されている。そのため、外周面12aの面積は、直径の相違に加えて凹凸による面積増大により、内周面12bの面積よりも大きくなっている。多孔質基材12の内径寸法は例えば7.0(mm)程度、凸部16部分の直径は例えば10.4(mm)程度、凸条16間の凹部の直径は例えば9.6(mm)程度である。したがって、凸条16の高さは例えば0.4(mm)程度である。
また、上記多孔質膜14は、例えば平均細孔径が0.15(μm)で気孔率が38(%)のアルミナから成るものである。多孔質膜14の構成材料、平均細孔径、表面性状などは、その上に形成を予定する分離膜に応じて定められている。本実施例においては、ゼオライト等に合わせたものとなっている。この多孔質膜14の厚さ寸法は、例えば、5〜1000(μm)、好ましくは20〜100(μm)程度である。多孔質膜14は、凹凸面に形成された多孔質基材12の表面形状に倣って一様な厚さ寸法で設けられているため、その外周面14aすなわち多孔質支持体10の外周面は、軸心方向の全長に渡る複数本の凸条を周方向に周期的に備えた凹凸面となっている。このように、多孔質支持体10は、分離膜形成面とは反対側の多孔質基材12の細孔径が、分離膜形成面側の多孔質膜14の細孔径よりも大きくされている。また、多孔質膜14は、多孔質基材12に比較して極めて薄い厚さ寸法を備えている。
このように、多孔質基材12は、1.3(μm)程度と大きな平均細孔径を備えているが、その外周面12aを覆う多孔質膜14は、0.15(μm)程度の小さな平均細孔径を備えており、前述したゼオライト等から成る分離膜を形成するために好適な材料や表面状態が多孔質膜14によって実現されている。また、多孔質基材12は、処理対象流体の透過抵抗が十分に小さくなるような大きな細孔径を有しているので、機械的強度の確保に必要な厚さ寸法に構成し、且つ、上述したように凸条16が設けられることによって厚み方向の透過距離の長い部分が生じても、透過抵抗が十分に小さい状態に保たれる。多孔質膜14は、細孔径が小さいが、膜厚が薄く、また、一様な厚さ寸法で設けられていることから、透過抵抗に対する影響は小さい。このようにして、本実施例では、透過抵抗を小さく保ったまま、外周面12aの面積が、単純な円筒形状の場合に比較して大きくされている。
なお、上記のように大きな細孔径の多孔質基材12上には、分離膜を直接設けることが困難であるが、本実施例では、細孔径の小さい多孔質膜14を薄い膜厚で設けて、その上に分離膜を設ける構造となっている。このように、高い機械的強度と小さい透過抵抗とを実現するための多孔質基材12と、分離膜形成に好適な多孔質膜14との2層構造になっていることから、本実施例の多孔質支持体10によれば、処理対象流体の透過抵抗を小さく保ちながら、分離膜形成面である外周面14aの面積を大きくできるのである。この結果、処理対象流体の透過抵抗を小さく保ったまま、分離膜の面積すなわち反応面積を大きくできるので、分離膜フィルタを構成した場合に高い反応効率を得ることができる。
図2には、上記図1の形状例において、多孔質基材表面の凸条の本数が異なる場合の例を示す。(a)に示す多孔質支持体10では、12本の凸条16が15°毎に設けられている。凸条16相互間に形成される凹条18も凸条16と同一の周方向の幅寸法をもって15°毎に設けられている。(b)に示す多孔質支持体20では、それぞれ18本の凸条22および凹条24が10°毎に設けられている。凸条22および凹条24の周方向の幅寸法は同一である。(c)に示す多孔質支持体26では、それぞれ36本の凸条28および凹条30が5°毎に設けられている。この例でも、凸条28および凹条30の周方向の幅寸法は同一である。また、何れにおいても、凸条16,22,28は、多孔質基材12の外周面に軸心方向の全長に渡って設けられており、周方向における間隔は一様になっている。また、多孔質膜14は、何れの形状でもその多孔質基材12の外周面を覆って、その凹凸に倣って一様な厚さ寸法で設けられており、多孔質支持体10,20,26の外周面は、何れも全周に渡って一定間隔で凸条を備えたものとなっている。
図3(a)、(b)に、前記多孔質支持体10の断面の顕微鏡写真を示す。(a)は、凹条18部分、(b)は凸条16部分の断面である。何れにおいても、写真の下側部分に位置する細孔径の大きい組織の上に、細孔径の小さい組織が薄い膜厚で乗った構造を備えている。下側の細孔径の大きい組織は、前記多孔質基材12の組織であり、上側の細孔径の小さい組織は、前記多孔質膜14の組織である。前述したように、多孔質基材12の気孔率は40(%)程度、平均細孔径は1.3(μm)程度、多孔質膜14の気孔率は38(%)程度、平均細孔径は0.15(μm)程度であり、気孔率に大きな相違はないが、細孔径の大きさは著しく相違しており、上記顕微鏡写真には、この組織の相違が明瞭に現れている。
図4は、分離膜フィルターの支持体として用いられる他の円筒状セラミック多孔質支持体40の全体を示す斜視図である。この多孔質支持体40も、円筒状の多孔質基材42と、その外周面を覆って設けられた多孔質膜44とから構成されており、内周面42bから外周面44aに貫通する多数の細孔を備えている。
上記の多孔質基材42は、多孔質膜44が設けられた外周面42aが、軸心方向の全長に渡る複数本の凸条46が周方向に周期的に備えられることにより、凹凸面に形成されている。この凸条46は、前記凸条16等とは異なり、断面がなだらかに変化する波形になっており、多孔質基材42の外周面42aは、径方向寸法が周方向において連続的に増減するように変化するものとなっている。
また、多孔質膜44は、この実施例においても、略一様な厚さ寸法で多孔質基材42上に設けられている。そのため、多孔質支持体40の外周面44aは、多孔質基材42の外周面形状に倣った周方向になだらかに変化する波形の凹凸面に形成されている。なお、多孔質基材42および多孔質膜44の平均細孔径や気孔率は、前記多孔質支持体10の場合と同様であり、多孔質基材42の内径寸法、最小外径寸法、最大外径寸法、多孔質膜44の厚さ寸法も多孔質支持体10の場合と同様である。また、この多孔質支持体40は、多孔質支持体10と同様な組織を備えている。
図5には、上記図4の形状例において、多孔質基材表面の凸条の本数が異なる場合の例を示す。(a)に示す多孔質支持体40では、12本の凸条46が15°毎に設けられている。凸条46相互間に形成される凹条48も凸条46と同一の周方向の幅寸法をもって15°毎に設けられている。(b)に示す多孔質支持体50では、それぞれ18本の凸条52および凹条54が10°毎に設けられている。凸条52および凹条54の周方向の幅寸法は同一である。(c)に示す多孔質支持体56では、それぞれ36本の凸条58および凹条60が5°毎に設けられている。この例でも、凸条58および凹条60の周方向の幅寸法は同一である。また、何れにおいても、凸条46,52,58は、多孔質基材42の外周面に軸心方向の全長に渡って設けられており、周方向における間隔は一様になっている。また、多孔質膜44は、何れの形状でもその多孔質基材42の外周面を覆って、その凹凸に倣って一様な厚さ寸法で設けられており、多孔質支持体40,50,56の外周面は、何れも全周に渡って一定間隔で凸条を備えたものとなっている。
図6には、分離膜フィルターの支持体として用いられる更に他の円筒状セラミック多孔質支持体70の端面形状を示す。この多孔質支持体70は、円筒状の多孔質基材72と、その外周面を覆って設けられた多孔質層74と、その多孔質層74の外周面を覆って設けられた多孔質膜76とから構成されており、内周面72bから外周面76aに貫通する多数の細孔を備えている。すなわち、本実施例においては、多孔質膜76は、多孔質基材72の外周面上に他の多孔質層74を介して設けられている。
上記の多孔質基材72は、例えば、平均細孔径が12(μm)程度、気孔率が40(%)程度のアルミナから成るものであり、外周面72aが、軸心方向の全長に渡る複数本の凸条78が周方向に周期的に備えられることにより、凹凸面に形成されている。内周面72bは、前記各形状例と同様に円筒面である。この実施例では、多孔質基材72の平均細孔径は、前記多孔質基材12等に比べて著しく大きくなっている。また、図示の例では、凸条78は、前記凸条46等と同様な断面がなだらかに変化する波形になっており、前記図4に示す多孔質支持体40と同様な外観を備えているが、矩形断面の凸条を設けて、前記図1に示す多孔質支持体10と同様な外観を備えたものとすることもできる。
また、多孔質層74は、例えば、平均細孔径が0.8(μm)程度、気孔率が40(%)程度のアルミナから成るものであり、例えば、5〜1000(μm)、好ましくは20〜100(μm)程度の厚さ寸法で設けられている。多孔質層74は、略一様な厚さ寸法で多孔質基材72上に設けられており、その外周面は、多孔質基材72の外周面形状に倣った周方向になだらかに変化する波形の凹凸面に形成されている。
また、多孔質膜76は、例えば、平均細孔径が0.15(μm)、気孔率が38(%)程度のアルミナから成るものであり、分離膜の形成に好適な材料および表面性状で設けられている。すなわち、多孔質膜76は、前記多孔質膜14等と同様な組織で構成されている。また、この実施例においても、多孔質膜76は、略一様な厚さ寸法で多孔質膜76上に設けられている。そのため、多孔質支持体70の外周面は、多孔質基材72および多孔質膜76の外周面形状に倣った周方向になだらかに変化する波形の凹凸面に形成されている。なお、多孔質基材72の内径寸法、最小外径寸法、最大外径寸法、多孔質膜74の厚さ寸法は、多孔質支持体10の場合と同様である。
図7は、上記図6の多孔質支持体70の断面の顕微鏡写真を示す。(a)は、凸条78の根元部分、(b)は凸条78の頂部近傍部分の断面である。何れにおいても、写真の下側部分に位置する細孔径の大きい組織の上に、中間の細孔径の組織を介して、細孔径の小さい組織が薄い膜厚で乗った構造を備えている。下側の細孔径の大きい組織は、前記多孔質基材72の組織であり、中間の組織は前記多孔質層74の組織であり、上側の細孔径の小さい組織は、前記多孔質膜76の組織である。各組織の気孔率に大きな相違はないが、細孔径の大きさは著しく相違しており、上記顕微鏡写真には、この組織の相違が明瞭に現れている。
このように、本実施例においても、分離膜が形成される外周面76aは、平均細孔径が0.15(μm)程度の多孔質膜76で形成されており、分離膜形成に好適な状態になっている。中間に設けられた多孔質層74は、多孔質基材72の平均細孔径が12(μm)程度と大きく、多孔質膜76を薄い膜厚で直接形成することが困難であることから、これを形成できるようにする目的で設けられている。多孔質基材72の細孔径は極めて大きいことから、処理対象流体の厚み方向の透過抵抗が小さく、凸条78が設けられることによって厚さ寸法が大きく、透過距離が長くなる部分があっても、透過抵抗が大きくならない。その一方で、多孔質膜76を薄い膜厚で直接形成することができないが、中間の細孔径を備えた多孔質層74を介在させることで、多孔質基材72で機械的強度を確保し且つ多孔質膜76で分離膜形成に好適な外周面76aを実現している。
上記のような3層構造の多孔質支持体70によれば、多孔質基材72の平均細孔径が大きいことから、多孔質層74,多孔質膜76の平均細孔径と厚さ寸法とを適切に定めることにより、処理対象流体の透過抵抗を一層低下させることができる。したがって、多孔質基材72の外周面72aに凸条78が備えられることで面積が増大させられた多孔質膜76の外周面76aに分離膜を設けると、反応効率が極めて高い分離膜フィルタを得ることが可能である。
図8には、本発明の他の実施例の平板型セラミック多孔質支持体80を示す。この多孔質支持体80は、平板状の多孔質基材82と、その表面82a上に設けられた多孔質膜84とから構成されており、裏面82bから多孔質膜84の表面84aに貫通する多数の細孔を備えている。
上記の多孔質基材82は、例えば平均細孔径が1.3(μm)程度、気孔率が40(%)程度のアルミナから成るものである。多孔質基材82の多孔質膜84が設けられた表面82aは、一方向に沿って伸びる複数本の凸条86が周期的に備えられることにより、凹凸面に形成されている。多孔質基材82の厚さ寸法は、凹条88底面で1.0(mm)程度、凸条86上面で1.5(mm)程度である。また、凸条86および凸条86間に形成される凹条88の幅寸法と深さ寸法は、例えば何れも0.5(mm)程度であり、凸条86は例えば30〜40本程度が形成されているが、図では簡略化して示している。
また、多孔質膜84は、例えば平均細孔径が0.15(μm)程度、気孔率が38(%)程度のアルミナから成るもので、略一様な厚さ寸法で多孔質基材82上に設けられている。そのため、多孔質支持体80の表面84aは、多孔質基材82の表面形状に倣った矩形凹凸面に形成されている。また、この多孔質支持体80は、多孔質支持体10等と同様な組織を備えている。
図9は、上記多孔質支持体80の使用態様の一例であって、スタック構造の分離膜フィルタ90を示す図であり、図9(a)は正面図、図9(b)は右側から視た側面図である。例えば、表面84aにゼオライト等の分離膜が形成された一対の多孔質支持体80は、凸条86が形成されている側の面間が所定の距離の空隙を隔ててスペーサ89を介し接合されることによりユニットを形成する。更に前記ユニットは、多孔質支持体80の凸条86が無い側の面間が所定の距離の空隙を隔てスペーサ89を介して、相互に積み重ねられて接合され、周辺部が封止される。このように、多孔質支持体80は、積層することによりスタック構造で用いることができる。図9(a)は前記ユニットを3段積層した例であり、最上段および最下段に、例えば平板92がそれぞれ接合されて封止されている。このように製造した分離膜フィルタ90は、図示のように、矢印inで示した1方向から処理対象流体を流入させ、分離膜フィルタ90の1段を透過した流体が凸条86の無い面から導入方向とは90度異なる矢印outで示した方向へ流出させて用いられる。
図10は、他の形状の平板型セラミック多孔質支持体100を示す図であり、図11は、その要部断面を示す図である。図10、図11において、多孔質支持体100は、平板状の多孔質基材102と、その表面102aを覆って設けられた多孔質層104と、これを覆う多孔質膜106とから構成されており、裏面102bから多孔質膜106の表面106aに貫通する多数の細孔を備えている。
上記の多孔質基材102は、例えば、平均細孔径12(μm)程度、気孔率40(%)程度のアルミナから成るものである。多孔質基材102の多孔質層104、多孔質膜106が設けられた表面102aは、半球状の多数の突起108が一様な分布で設けられることにより、凹凸面に形成されている。多孔質基材102の厚さ寸法は、突起108がない部分で2.0(mm)程度である。また、突起108は、半径が1.0(mm)程度の半球である。
また、多孔質層104は、例えば、平均細孔径が0.8(μm)、気孔率が40(%)程度のアルミナから成るものであり、多孔質基材102の表面102a上に、その表面形状に倣って一様な厚さ寸法で設けられている。すなわち、本実施例においては、多孔質膜106は、多孔質基材102の表面102a上に他の多孔質層104を介して設けられている。
また、多孔質膜106は、例えば平均細孔径が0.15(μm)程度、気孔率が38(%)程度のアルミナから成るもので、略一様な厚さ寸法で多孔質層104上にその表面形状に倣って設けられている。そのため、多孔質支持体100の表面106aは、多孔質基材102の表面形状に倣った凹凸面に形成されている。
このように平板型の多孔質支持体100は、前記円筒状の多孔質支持体70と同様に、多孔質層104を介して多孔質膜106が積層される3層構造になっている。この多孔質支持体100も、前記多孔質支持体80と同様に、複数枚を積層してスタック構造で用いられる。
次に、上述した各形状および構造のセラミック多孔質支持体10の製造方法および評価結果を比較例の製造方法および評価結果と併せて説明する。
(比較例1)
粒径が0.2〜4.5(μm)の範囲内で、平均粒径が0.7(μm)のアルミナ粉末に、メチルセルロース系バインダー等の成形助剤と水とを加えてニーダーで混練し、混練物を得た。なお、成形助剤としては、他に、グリセリン等の可塑剤、アクリル酸メチル等の分散剤、ワックスエマルジョン等の滑剤等を加えてもよい。次に、押出成形機に成形形状に応じた口金を装着し、混練物をこれに投入して、押出成形により円筒状グリーン成形体を得た。得られた円筒状グリーン成形体を乾燥し、1250(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、平均細孔径0.15(μm)、気孔率38(%)の単層構造の円筒状セラミック多孔質支持体を得た。なお、成形した形状は、外周面に凹凸無しのもの、外周面に15°間隔で凹凸が形成され凸部を12個備えたもの、外周面に10°間隔で凹凸が形成され凸部を18個備えたもの、外周面に5°間隔で凹凸が形成され凸部を36個備えたもの、の4種であり、内周面は全て円筒面となっている。
(実施例1)
粒径が2.5〜18(μm)の範囲内で、平均粒径が7.0(μm)のアルミナ粉末に、メチルセルロース系バインダー等の成形助剤と水とを加えてニーダーで混練し、混練物を得た。次に、押出成形機に成形形状に応じた口金を装着し、混練物をこれに投入して、押出成形により円筒状グリーン成形体を得た。得られた円筒状グリーン成形体を乾燥し、1450(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、平均細孔径1.3(μm)、気孔率40(%)の単層構造の円筒状セラミック多孔質基材12、42(前記図1、図4を参照。)を得た。なお、成形した形状は、外周面12aに凸条無しのもの、周方向に矩形凹凸を備えたもので、15°間隔で12個の凸条16が形成されたもの、10°間隔で18個の凸条22が形成されたもの、5°間隔で36個の凸条28が形成されたもの(前記図2を参照。)、周方向に波形凹凸を備えたもので、15°間隔で12個の凸条46が形成されたもの、10°間隔で18個の凸条52が形成されたもの、および5°間隔で36個の凸条58が形成されたもの(前記図5参照。)の合計7種であり、内周面は全て円筒面となっている。
次いで、粒径が0.2〜4.5(μm)の範囲内で平均粒径が0.7(μm)のアルミナ粉末を用意し、有機バインダー等と水とを混合し、撹拌することにより、スラリーを作製した。先に作製した円筒状セラミック多孔質基材12,42の下端を封止して、このスラリー中にディッピングし、30秒間保持してから引き上げることにより、ケーク層としてスラリーが均一にコートされた多孔質基材12,42を得た。これを乾燥させた後、1250(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、円筒状セラミック多孔質基材12,42の外周面に平均細孔径0.15(μm)、気孔率38(%)の多孔質膜14,44が形成された2層構造の円筒状セラミック多孔質支持体10,40を得た。
(実施例2)
粒径が25〜60(μm)の範囲内で、平均粒径が45(μm)のアルミナ粉末に、焼結助剤としてタルクを10(wt%)添加して混合すると共に、これにメチルセルロース系バインダー等の成形助剤と水とを加えてニーダーで混練し、混練物を得た。次に、押出成形機に成形形状に応じた口金を装着し、混練物をこれに投入して、押出成形により円筒状グリーン成形体を得た。得られた円筒状グリーン成形体を乾燥し、1450(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、平均細孔径12(μm)、気孔率40(%)の単層構造の円筒状セラミック多孔質基材72(前記図6を参照。)を得た。なお、成形した形状は、外周面に凸条無しのもの、周方向に矩形凹凸を備えたもので、15°間隔で12個の凸条が形成されたもの、10°間隔で18個の凸条が形成されたもの、5°間隔で36個の凸条が形成されたもの、周方向に波形凹凸を備えたもので、15°間隔で12個の凸条が形成されたもの、10°間隔で18個の凸条が形成されたもの、および5°間隔で36個の凸条が形成されたものの7種であり、内周面は全て円筒面となっている。
次いで、粒径が0.7〜1.4(μm)の範囲内で、平均粒径が3.0(μm)のアルミナ粉末に、有機バインダー等と水とを混合し、攪拌することにより、スラリーを作製した。先に作製した円筒状セラミック多孔質基材72の下端を封止して、スラリー中にディッピングし、30秒間保持してから引き上げることにより、ケーク層としてスラリーが均一にコートされた多孔質基材72を得た。これを乾燥させた後、1400(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、単層構造の円筒状セラミック多孔質基材72の外周面に平均細孔径0.8(μm)、気孔率40(%)の多孔質層74を形成した2層構造の円筒状セラミック多孔質支持体を得た。
次いで、粒径が0.2〜4.5(μm)の範囲内で平均粒径が0.7(μm)のアルミナ粉末を用意し、有機バインダー等と水とを混合し、撹拌することにより、スラリーを作製した。先に作製した円筒状セラミック多孔質支持体の下端を封止して、このスラリー中にディッピングし、30秒間保持してから引き上げることにより、ケーク層としてスラリーが均一にコートされた多孔質基材を得た。これを乾燥させた後、1250(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、2層構造の円筒状セラミック多孔質支持体の外周面に平均細孔径0.15(μm)、気孔率38(%)の多孔質膜76が形成された3層構造の円筒状セラミック多孔質支持体70を得た。
(実施例3)
粒径が2.5〜18(μm)の範囲内で、平均粒径が7.0(μm)のアルミナ粉末に、メチルセルロース系バインダー等の成形助剤と水とを加えてニーダーで混練し、混練物を得た。次に、押出成形機に成形形状に応じた口金を装着し、混練物をこれに投入して、押出成形により平板状グリーン成形体を得た。得られた平板状グリーン成形体を乾燥し、1450(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、平均細孔径1.3(μm)、気孔率40(%)の単層構造の平板状セラミック多孔質基材82(前記図8を参照。)を得た。なお、成形した形状は、高さ0.5(mm)×幅0.5(mm)の凹凸形状を一面に設けた凹凸形平板である。
次いで、粒径が0.2〜4.5(μm)の範囲内で平均粒径が0.7(μm)のアルミナ粉末を用意し、有機バインダー等と水とを混合し、撹拌することにより、スラリーを作製した。先に作製した平板状セラミック多孔質基材82の凹凸面を下向きにして、凹凸部をこのスラリー中にディッピングし、30秒間保持してから引き上げることにより、ケーク層としてスラリーが均一にコートされた多孔質基材82を得た。これを乾燥させた後、1250(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、平板状セラミック多孔質基材82の表面82aに平均細孔径0.15(μm)、気孔率38(%)の多孔質膜84が形成された2層構造の平板状セラミック多孔質支持体80を得た。
(実施例4)
粒径が25〜60(μm)の範囲内で、平均粒径が45(μm)のアルミナ粉末に、焼結助剤としてタルクを10(wt%)添加して混合すると共に、これにPVA系バインダー等の成形助剤と水とを加えて造粒し、プレス成形用造粒粉を得た。次に、平板金型に造粒粉を充填し、プレス成形機で加圧成形を施すことにより、表面102aに半径1.0(mm)の多数の半球状突起108を備えた凹凸形平板状グリーン成形体を得た。得られた平板状グリーン成形体を乾燥し、1450(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、平均細孔径12(μm)、気孔率40(%)の単層構造の平板状セラミック多孔質基材102(前記図10、図11参照。)を得た。
次いで、粒径が0.7〜1.4(μm)の範囲内で、平均粒径が3.0(μm)のアルミナ粉末に、有機バインダー等と水とを混合し、攪拌することにより、スラリーを作製した。先に作製した平板状セラミック多孔質基材102の半球状突起108が備えられている表面102aを下向きにして、その表面102aをスラリー中にディッピングし、30秒間保持してから引き上げることにより、ケーク層としてスラリーが均一にコートされた多孔質基材を得た。これを乾燥させた後、1400(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、単層構造の平板状セラミック多孔質基材102の表面102aに平均細孔径0.8(μm)、気孔率40(%)の多孔質層104を形成した2層構造の平板状セラミック多孔質支持体を得た。
次いで、粒径が0.2〜4.5(μm)の範囲内で平均粒径が0.7(μm)のアルミナ粉末を用意し、有機バインダー等と水とを混合し、撹拌することにより、スラリーを作製した。先に作製した2層構造の平板状セラミック多孔質支持体を半球状突起108が備えられている表面102aを下向きにして、その表面102a側をスラリー中にディッピングし、30秒間保持してから引き上げることにより、ケーク層としてスラリーが均一にコートされた多孔質基材を得た。これを乾燥させた後、1250(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、2層構造の平板状セラミック多孔質支持体の表面に平均細孔径0.15(μm)、気孔率38(%)の多孔質膜106が形成された3層構造の平板状セラミック多孔質支持体100を得た。
(実施例5)
粒径が15〜50(μm)の範囲内で、平均粒径が35(μm)のアルミナ粉末に、成形助剤としてPVA系バインダー等を添加し、混合することにより、積層造形用粉体を得た。次に、積層造形用粉体を、たとえば3Dプリンタとして知られている粉末積層造形機に充填し、粉末積層造形機にて表面102aに半径1.0(mm)の多数の半球状突起108を備えた平板状セラミック多孔質基材102の一体的スタック構造のグリーン成形体を得た。得られた平板状セラミック多孔質基材102の一体的スタック構造のグリーン成形体をシリカ系ゾルに含浸・乾燥し、1450(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、平均細孔径9(μm)、気孔率50(%)の一体的スタック構造の積層多孔質基材を得た。この一体的スタック構造の積層多孔質基材は、例えば1層が平板状セラミック多孔質基材102(図10、図11参照。)で構成されている一体的積層体で、例えば、図9と同様に、3段のユニットが積層された形状を備えている。上記一体的スタック構造の積層多孔質基材では、半球状突起108が形成された側の面間が所定の距離の空隙を隔てられて形成された一対の平板状セラミック多孔質基材102によってユニットが形成されている。更に、このユニットは、平板状セラミック多孔質基材102の半球状突起108の無い側の面同士が所定の距離の空隙を隔てて複数段積層されることで相互に結合された一体的スタック構造となっている。この一体的スタック構造の積層多孔質基材の最上段および最下段は、例えば平板状に形成されている。
次いで、粒径が0.7〜1.4(μm)の範囲内で、平均粒径が3.0(μm)のアルミナ粉末に、有機バインダー等と水とを混合し、攪拌することにより、スラリーを作製した。先に作製した一体的スタック構造の積層多孔質基材の平板状セラミック多孔質基材102の半球状突起108が備えられている各面間にスラリーを満たし、30秒間保持してからスラリーを排出することにより、ケーク層としてスラリーが均一にコートされた一体的スタック構造の積層多孔質基材を得た。これを乾燥させた後、1400(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、一体的スタック構造の積層多孔質基材の平板状セラミック多孔質基材102の各層の表面に平均細孔径0.8(μm)、気孔率40(%)の多孔質層104を形成した2層構造の一体的スタック構造の平板状積層セラミック多孔質支持体を得た。
次いで、粒径が0.2〜4.5(μm)の範囲内で平均粒径が0.7(μm)のアルミナ粉末を用意し、有機バインダー等と水とを混合し、撹拌することにより、スラリーを作製した。先に作製した2層構造の一体的スタック構造の平板状積層セラミック多孔質支持体の半球状突起108が備えられている各面間にスラリーを満たし、30秒間保持してからスラリーを排出することにより、ケーク層としてスラリーが均一にコートされた一体的スタック構造の積層多孔質基材を得た。これを乾燥させた後、1250(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、前記2層構造の一体的スタック構造の平板状積層セラミック多孔質支持体の表面に平均細孔径0.15(μm)、気孔率38(%)の多孔質膜106が形成された3層構造の一体的スタック構造の平板状積層セラミック多孔質支持体100を得た。
(実施例6)
粒径が5〜50(μm)の範囲内で平均粒径が17(μm)程度のムライト粉末に、メチルセルロース系バインダー等の成形助剤と水とを加えてニーダーで混練し、混練物を得た。次に、押出成形機に成形形状に応じた口金を装着し、混練物をこれに投入して、押出成形により円筒状グリーン成形体を得た。得られた円筒状グリーン成形体を乾燥し、1550(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、平均細孔径3.2(μm)、気孔率35(%)の単層構造の円筒状セラミック多孔質基材を得た。なお、成形した形状は、例えば、前記図2、図5に端面形状を示したものと同様な形状、すなわち、外周面に軸心方向の全長に渡る複数本の凸条を周方向に周期的に備え、内周面は円筒形状を成すものである。
次いで、平均粒径が1.5(μm)のムライト粉末を用意し、有機バインダー等と水とを混合し、撹拌することにより、スラリーを作製した。先に作製した円筒状セラミック多孔質基材の下端を封止して、このスラリー中にディッピングし、30秒間保持してから引き上げることにより、ケーク層としてスラリーが均一にコートされた多孔質基材を得た。これを乾燥させた後、1300(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、円筒状セラミック多孔質基材の外周面に平均細孔径0.3(μm)、気孔率35(%)の多孔質膜形成された2層構造の円筒状セラミック多孔質支持体を得た。
(実施例7)
平均粒径が10(μm)程度のイットリア安定化ジルコニア粉末100(wt%)に、平均粒径が1(μm)程度のイットリア安定化ジルコニア粉末50(wt%)を添加して混合すると共に、メチルセルロース系バインダー等の成形助剤と水とを加えてニーダーで混練し、混練物を得た。次に、押出成形機に成形形状に応じた口金を装着し、混練物をこれに投入して、押出成形により円筒状グリーン成形体を得た。得られた円筒状グリーン成形体を乾燥し、1550(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、平均細孔径1.2(μm)、気孔率36(%)の単層構造の円筒状セラミック多孔質基材を得た。なお、成形した形状は、例えば、前記図2、図5に端面形状を示したものと同様な形状、すなわち、外周面に軸心方向の全長に渡る複数本の凸条を周方向に周期的に備え、内周面は円筒形状を成すものである。
次いで、平均粒径が0.5(μm)のイットリア安定化ジルコニア粉末を用意し、有機バインダー等と水とを混合し、撹拌することにより、スラリーを作製した。先に作製した円筒状セラミック多孔質基材の下端を封止して、このスラリー中にディッピングし、30秒間保持してから引き上げることにより、ケーク層としてスラリーが均一にコートされた多孔質基材を得た。これを乾燥させた後、1100(℃)で2時間保持して焼成処理を施すことにより、円筒状セラミック多孔質基材の外周面に平均細孔径0.1(μm)、気孔率45(%)の多孔質膜形成された2層構造の円筒状セラミック多孔質支持体を得た。
(ガス透過量の測定方法)
図12は、各円筒状セラミック多孔質支持体のガス透過量測定方法を説明する図である。図12において、多孔質支持体を50(mm)の長さに切断して測定用試料130を用意する。次いで、その測定用試料130の一端から例えばエポキシ樹脂132を開口端から5(mm)の深さまで注入して、その一端を封止する。次いで、他端からステンレス管134を挿入し、エポキシ樹脂136を注入してそのステンレス管134を固定すると共に、測定用試料130の内周面との間を封止する。このようにして作製した測定用試料130に対して、常温において、ステンレス管134からN2ガスを一定圧力で供給し、測定用試料130からのガス透過量をフローメーターで測定した。
上記のようにして測定した比較例および各実施例のガス透過量の評価結果を以下に説明する。なお、通常は、多孔質支持体のガス透過性は、単位面積当たりのガス透過量であるガス透過率で評価される。しかしながら、本実施例は、分離膜形成面の表面積を増大させたことを特徴とすることから、このようなガス透過率で評価しても、性能を適切に評価することができない。そこで、外周面に凹凸を設けていない円筒状の多孔質支持体のガス透過量を基準とする比率で特性を評価することとした。
下記の表1は、前記比較例の単層構造の円筒状セラミック多孔質支持体のガス透過量評価結果である。表1において、「面積比」は、外周面に凹凸なしのものの外周面表面積を1としたときの各形状の面積比である。また、「ガス透過量」は、N2ガスを0.3(MPa)の圧力で供給した場合の測定値である。また、「比率」は、凹凸なしのもののガス透過量を1としたときの各形状のガス透過量の比である。また、「ガス透過率」は、凹凸なしのものについて、ガス透過率を参考までに記載したものである。単層構造の比較例の多孔質支持体では、凹凸なしのもののガス透過量が0.69(L/min)である。15°毎に凹凸を設けたものは、面積比が1.31倍、ガス透過量が0.73(L/min)で比率が1.06、10°毎に凹凸を設けたものは、面積比が1.46倍、ガス透過量が0.75(L/min)で比率が1.09、5°毎に凹凸を設けたものは、面積比が1.92倍、ガス透過量が0.76(L/min)で比率が1.10となった。このように、単層構造の比較例では、外周面に凹凸を形成して面積を増大させても、ガス透過量の向上は最大でも10%程度と、僅かに留まる。
下記の表2は、前記実施例1の2層構造の円筒状セラミック多孔質支持体のガス透過量の評価結果である。この構造ではガスが透過しやすいことから、測定圧力は0.1(MPa)とした。表2において、「波型」については、表面形状がなだらかに変化するため凹凸形状に比べて表面積が小さくなるが、面積比の算出を省略した。この表2において、凹凸なしの場合には、ガス透過量が2.37(L/min)である。15°毎に凹凸を設けたものは、面積比が1.31倍、ガス透過量が2.92(L/min)で比率が1.23、10°毎に凹凸を設けたものは、面積比が1.46倍、ガス透過量が3.00(L/min)で比率が1.27、5°毎に凹凸を設けたものは、面積比が1.92倍、ガス透過量が3.03(L/min)で比率が1.28となった。また、15°毎の波型としたものは、ガス透過量が2.73(L/min)で比率が1.15、10°毎の波型としたものは、ガス透過量が2.79(L/min)で比率が1.18、5°毎の波型としたものは、ガス透過量が2.90(L/min)で比率が1.22となった。このように、分離膜を形成しない側の細孔径を大きく、分離膜形成側の細孔径を小さくした2層構造の実施例1では、凹凸なしでも単層構造に比較してガス透過量が著しく大きくなり、更に、凹凸や波型を設けて面積比を大きくすると、矩形凹凸の場合には23〜28%のガス透過量向上が認められ、面積増大が小さい波型凹凸の場合でも15〜22%のガス透過量向上が認められる。この結果によれば、平均細孔径が大きい多孔質基材の外周面に分離膜形成面を構成する多孔質膜を設ける2層構造とすることにより、分離膜形成面の面積が増大すると同時にガス透過量が増大する利点が明らかである。
下記の表3は、前記実施例2の3層構造の円筒状セラミック多孔質支持体のガス透過量の評価結果である。この構造では、実施例1に比較しても更にガスが透過しやすいことから、測定圧力は0.05(MPa)とした。表3において、凹凸なしの場合には、ガス透過量が3.34(L/min)である。15°毎に凹凸を設けたものは、面積比が1.31倍、ガス透過量が4.08(L/min)で比率が1.22、10°毎に凹凸を設けたものは、面積比が1.46倍、ガス透過量が4.65(L/min)で比率が1.39、5°毎に凹凸を設けたものは、面積比が1.92倍、ガス透過量が4.71(L/min)で比率が1.41となった。また、15°毎の波型としたものは、ガス透過量が3.98(L/min)で比率が1.19、10°毎の波型としたものは、ガス透過量が4.02(L/min)で比率が1.20、5°毎の波型としたものは、ガス透過量が4.19(L/min)で比率が1.25となった。このように、分離膜を形成しない側の細孔径を大きく、分離膜形成側の細孔径を小さくした3層構造の実施例2では、凹凸なしでも単層構造はもちろん2層構造に比較してもガス透過量が大きくなり、更に、凹凸や波型を設けて面積比を大きくすると、矩形凹凸の場合には22〜41%のガス透過量向上が認められ、面積増大が小さい波型凹凸の場合でも19〜25%のガス透過量向上が認められる。この結果によれば、多孔質基材の平均細孔径を一層大きくし、中間の大きさの平均細孔径を備えた多孔質層を介して、分離膜形成面を構成する多孔質膜を設けた3層構造とすると、分離膜形成面の面積が一層増大すると同時にガス透過量が増大する利点が明らかである。
図13は、前記円筒状セラミック多孔質支持体10等の使用態様の一例を説明する図である。図13において、多孔質支持体10の両端には、これと内外径が略同一寸法の一対の円筒形セラミック緻密体140、140が接合されている。この円筒形セラミック緻密体140,140は、例えば、気孔率0(%)のアルミナから成るものであり、ガラスフリットによって接合されている。本実施例では、多孔質支持体10の両端に円筒形セラミック緻密体140、140が接合された円筒状多孔質接合体142が、特許請求の範囲に言うセラミック多孔質支持体に該当する。なお、多孔質支持体10において、多孔質膜14は薄い膜厚で設けられていることから、円筒形セラミック緻密体140、140は、実質的に円筒状の多孔質基材12の開口端に接合されている。
上記の円筒状多孔質接合体142を製造するに際しては、例えば、ガラスフリットに適宜のバインダーや溶剤を添加して調製したガラスペーストを多孔質支持体10の環状端面に塗布し、円筒状セラミック緻密体140,140を、その環状端面に突き合わせ、乾燥後、ガラスフリットの種類に応じて例えば800〜950(℃)程度の温度で1時間保持して焼成処理を施す。これにより、環状端面に塗布されたガラスペーストが溶融・固着することにより、多孔質支持体10の両端に円筒形セラミック緻密体140,140が接合されて一体化した円筒状多孔質接合体142が得られる。
なお、図13においては、多孔質支持体10の外周面形状を簡略化して円筒面に描いているが、その外周面14aには前述したように軸心方向の全長に渡る複数本の凸状16が備えられており、周方向に凹凸が形成されている。上記円筒形セラミック緻密体140は、その周方向に凹凸が形成されている端面に接合されることになるが、例えば、その外径寸法を多孔質支持体10の凸条16の包絡面の外径寸法と同一或いはそれよりもやや大きい寸法に形成することが好ましい。また、上記の実施例は、多孔質支持体10に適用した場合について説明したが、先に説明した他の形状の多孔質支持体20,26,40,50,56,70等にも、同様に適用して接合体として用いることができる。
上記のように多孔質支持体10の両端に円筒形セラミック緻密体140、140が接合された円筒状多孔質接合体142によれば、多孔質支持体10の外周面14aに分離膜を形成して分離膜フィルターを構成し、これを装置に組み付けるに際して、円筒形セラミック緻密体140,140を締め付け固定して分離膜フィルターの両端部を封止できるため、多孔質支持体10を破損させることなく、円筒形セラミック緻密体140、140の部分で容易且つ確実に気密或いは液密に封止することができる利点がある。
図14は、前記円筒状セラミック多孔質支持体10等の使用態様の他の一例を説明する図である。図14において、多孔質支持体10の一端には、前記円筒形セラミック緻密体140が接合されており、他端には、これと外径が略同一寸法の円板状セラミック緻密体144が接合されている。この円板状セラミック緻密体144も、例えば、気孔率0(%)のアルミナから成るものであり、ガラスフリットによって接合されている。本実施例では、多孔質支持体10の一端に円筒形セラミック緻密体140が接合され、且つ他端に円板状セラミック緻密体144が接合された片端封止型円筒状多孔質接合体146が、特許請求の範囲に言うセラミック多孔質支持体に該当する。なお、多孔質支持体10において、多孔質膜14は薄い膜厚で設けられていることから、円筒形セラミック緻密体140および円板状セラミック緻密体144は、実質的に円筒状の多孔質基材12の開口端に接合されている。また、円筒形セラミック緻密体140および円板状セラミック緻密体144の接合方法は、前記円筒状多孔質接合体142の場合と同様である。
また、上記図14においても、図13の場合と同様に多孔質支持体10の外周面形状を簡略化して円筒面に描いている。したがって、図13の場合と同様に、接合する円筒形セラミック緻密体140および円板状セラミック緻密体144の外径寸法は、多孔質支持体10の凸条16の包絡面の外径寸法と同一或いはそれよりもやや大きい寸法に形成することが好ましい。また、この実施例も、多孔質支持体10に限られず、多孔質支持体20,26,40,50,56,70等にも、同様に適用できる。
上記のように多孔質支持体10の一端に円筒形セラミック緻密体140、他端に円板状セラミック緻密体144が接合された片端封止型円筒状多孔質接合体146によれば、多孔質支持体10の外周面14aに分離膜を形成して分離膜フィルターを構成し、これを装置に組み付けるに際して、円筒形セラミック緻密体140,円板状セラミック緻密体144を締め付け固定して分離膜フィルターの両端部を封止できるため、多孔質支持体10を破損させることなく、円筒形セラミック緻密体140、円板状セラミック緻密体144の部分で容易且つ確実に気密或いは液密に封止することができる利点がある。また、円板状セラミック緻密体144を接合した側は封止されているので、円筒形セラミック緻密体140だけを装置に固定する利用態様も可能となる。
表4には、上記の接合に用いられるガラスフリットの組成例を示す。実際の接合処理には、下記表4のガラス組成A〜Gの中から、熱膨張係数が多孔質基材のそれと合致するものが選ばれる。ガラスフリットは、表4に示される各組成となるように原料を混合、溶融して均一化されたガラスを例えば1〜5(μm)程度の平均粒径に粉砕して得られる。なお、表4に示される焼成温度は、各ガラスA〜Gによって接合処理を行うときの温度である。
表5には、上記の各ガラスA〜Gの線熱膨張係数を示す。線熱膨張係数は、例えば、以下のようにして測定した。すなわち、ガラスフリットを約5(mm)角で、長さ10〜20(mm)の角柱状に成形した後に焼成し、ガラス試験片を形成した。この作製したガラス試験片を示差熱膨張計(TMA8310 Rigaku製)に供して、圧縮荷重法による30(℃)から500(℃)の平均線熱膨張係数を測定した。
また、表6には、前記各実施例において作製した多孔質基材の線熱膨張係数を示す。これらの線熱膨張係数は、以下のように測定した。前述した実施例1〜2、6,7に記載したように、原料を混練、押出成形し、更に、乾燥、焼成処理を施すことにより、外径12(mm)、内径9(mm)、長さ10〜20(mm)の円筒状試験片を作製し、これを3〜5(mm)幅で短冊状に切断して用いた。作製した試験片を示差熱膨張計(TMA8310 Rigaku製)に供して、圧縮荷重法による30(℃)から500(℃)の平均線熱膨張係数を測定した。
前記の接合処理には、このようにして、ガラスおよび多孔質基材の線熱膨張係数をそれぞれ測定し、ガラスA〜Gの中から、接合しようとする多孔質基材に特性値が近似するものを選択して用いた。たとえば、実施例1、2には、ガラスA、B、C、D、Fのいずれかが用いられ、実施例6には、ガラスA、C、D、F、Gのいずれかが用いられ、実施例7には、ガラスA、B、C、Dが用いられた。
次に、本発明の多孔質支持体に分離膜としてゼオライト膜を形成して行った特性評価について説明する。この評価には、円筒状の多孔質支持体10の両端に円筒形セラミック緻密体140,140を接合した、前記円筒状多孔質接合体142を用いた。まず、ゼオライトのY型種結晶(Si/Al=7)を粉砕し、pH=8に調整して5(g/L)の懸濁液を作製し、円筒状多孔質接合体142をこれに浸漬した。一定時間の後、懸濁液から引き上げて、ゼオライト種結晶を担持した円筒状多孔質接合体142を室温で20分以上放置した後、70(℃)で20分乾燥した。次に、ゼオライトを担持した円筒状多孔質接合体142を、予め調製した反応合成液(SiO2:Al2O3:Na2O:H2O=25:1:22:990(mol組成))に浸漬し、100(℃)で4時間の水熱合成を行った。この水熱合成により、円筒状多孔質接合体142の外表面にゼオライト膜が形成された。これを純水で洗浄した後、70(℃)で12時間乾燥させ、多孔質支持体の外周面にゼオライト膜が形成された分離膜フィルターを得た。
上記のようにして製造した分離膜フィルターを、以下の条件で水/IPAの上記透過試験(すなわち分離試験)を行った。
・水/IPA=20wt%/80wt%
・供給側水分圧:45kPa
・供給側IPA分圧:55kPa
・供給側全圧:150kPa
・Feed He:50mL/min
・Sweep He:300mL/min
・測定温度:100(℃)
図15に、分離膜性能評価装置150の構成を示す。分離膜性能評価装置150は、恒温槽152と、その内部に設けられた気化室154と、前述したように作製した分離膜フィルター156を保持するためのホルダー158と、分離膜フィルター156を透過しなかった流体の流路に設けられた背圧弁160と、分離膜フィルター156を透過した流体の流路に設けられた六方弁162と、六方弁162の1回路に接続されたガスクロマトグラフ164と、前記気化室154に分離対象である水/IPAを送り込むための送液ポンプ166と、気化室154に送られた水/IPAを気化させるためのHeガスをその気化室154に供給するためのポンプ168と、ポンプ168に供給されるHeガス流量を調整するマスフローコントローラ170と、分離膜フィルター156の透過側に対してスイープガスとして供給されるHeの流量を調製するマスフローコントローラ172と、Heガス供給源174とを備えている。
上記の分離膜評価装置150を用いて、前記実施例2で作製した3層構造の多孔質支持体を用いた分離膜フィルターと、比較例の単層構造の多孔質支持体を用いた分離膜フィルターをそれぞれ評価した。なお、ここで、通常使用する水透過率Kw(mol/(m2・s・Pa))は、支持体の単位面積当たりの水透過流量で示されるが、前述したように、分離膜形成面の表面積を増大させた本実施例の評価では適当ではないため、ガス透過量の評価の場合と同様に、外周面に凹凸を設けていない多孔質支持体の水透過流量を基準とした比率で評価することとした。水透過率Kwは、下記式で求められる。凹凸がない場合の膜面積は6.28×10−4(m2)である。表7に比較例の評価結果を、表8に実施例2の評価結果をそれぞれ示す。
水透過率Kw(mol/(m2・s・Pa))
=(水透過流量(mol/s))/(供給/透過の水分圧差(Pa)×膜面積(m2))
上記の評価結果に示されるように、単層構造の比較例では、凹凸無しの場合に、水透過流量が1.98×10−5(mol/s)であり、凹凸が15°毎に設けられた形状では、面積比1.31に対して、水透過流量が2.06×10−5(mol/s)、比率1.04であり、凹凸が10°毎に設けられた形状では、面積比1.46に対して、水透過流量が2.10×10−5(mol/s)、比率1.06であり、凹凸が5°毎に設けられた形状では、面積比1.92に対して、水透過流量が2.12×10−5(mol/s)、比率1.07であった。すなわち、面積比が大きくなっても、それに応じただけの水透過流量の向上はない。
これに対して、3層構造の実施例2では、凹凸無しの場合に、水透過流量が3.96×10−5(mol/s)であり、凹凸が15°毎に設けられた形状では、面積比1.31に対して、水透過流量が4.51×10−5(mol/s)、比率1.14であり、凹凸が10°毎に設けられた形状では、面積比1.46に対して、水透過流量が5.06×10−5(mol/s)、比率1.28であり、凹凸が5°毎に設けられた形状では、面積比1.92に対して、水透過流量が5.34×10−5(mol/s)、比率1.35であった。すなわち、面積比が大きくなると、それに応じて水透過流量の14〜35(%)もの向上が認められる。
このように、本実施例によれば、多孔質支持体を2層構造或いは3層構造として、分離膜形成面側の反対面側の細孔径を相対的に大きくすることにより、分離膜形成面側の表面積を大きくしても、気体や液体の流量を大きくすることができるので、反応効率や分離効率を高めることが可能な分離膜用の多孔質支持体が得られるのである。
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。