本発明は、濾過処理に使用されるセラミックフィルタの端部をシールする方法に関する。
近年、飲料水中に含まれるクリプトスポリジウム等の病原性微生物の問題が深刻化しており、安全性が高く高品質の水を簡易に製造し得る浄水器が求められている。セラミック多孔質体を利用したセラミックフィルタは、その要望に応え得るものであり、簡便な操作によって液体中の懸濁物質や病原性微生物等の有害物質を効果的に除去し得る浄水器として注目が集まっている。
セラミックフィルタは、多くの場合、濾過精度と流体透過量を両立させ、双方を向上させるために、セラミック多孔質体(平均気孔径1〜数100μm程度)からなる基材と、平均気孔径が基材に比して小さいセラミック多孔質体(平均気孔径0.01〜1μm程度)からなり基材の表面に配設された濾過膜と、を備えた構造を採用する。例えば、基材として、セラミック多孔質体からなる隔壁を有し、その隔壁によって、流体の流路が区画・形成されたチューブ状乃至はモノリス状のものを用い、その隔壁の表面に濾過膜が配設された構造のものが知られている。
このようなセラミックフィルタは、使用に際しては、濾過作用を発現するために、通常、図2に示されるように、弾性材料からなるO−リング等のシール材20によって、基材12の外周面側と基材12の端面17a側とが、気密的に隔離されるようにハウジング22内に収納される。しかし、図2に示されるセラミックフィルタ30のように、基材12を構成するセラミック多孔質体(比較的平均気孔径が大きい)の端面が暴露された構造を有するものであると、被処理流体Fが、基材12の端面から内部に浸入して濾過膜14を透過することなく基材12の外周面側に流出してしまうおそれがある。従って、目的とする濾過が行なわれず、更には、既に濾過膜14を透過した処理済流体中に被処理流体Fが混入し得ることから、セラミックフィルタ30は、処理済流体が汚染され易いという問題を抱えている。
そこで、このような問題を解決するために、図1に示されるセラミックフィルタ10が提案されている。このセラミックフィルタ10は、少なくとも基材12の端面17aを被覆するように配設されたガラスシール16を備えたものである(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。セラミックフィルタ10では、ガラスシール16によって基材12の端面が被覆されているため、被処理流体Fが、その端面から基材12の内部に浸入して被処理流体Fが濾過膜14を透過することなく基材12の外周面側に流出してしまう事態は回避される。即ち、被処理流体Fは、流路18から必ず濾過膜14、隔壁24を透過して基材12の外周面側に流出し、目的とする濾過が行なわれる。そして、既に濾過膜14を透過した処理済流体中に被処理流体Fが混入し、処理済流体を汚染してしまうという問題も生じない。
特開昭62−129104号公報
特開昭62−132518号公報
特公昭63−66566号公報
しかしながら、ガラスシールを備えたセラミックフィルタであっても、出荷前に濾過精度を検査すると、目的とする濾過が行なわれず処理済流体が汚染されていると考えられるような被検体が存在し、歩留まりが一定以上向上しないという、改善すべき問題に直面した。この問題の原因を調査してみると、ガラスシールで被覆した筈の部分に基材が露出しており、シール不良が発生していることが突き止められた。そして、この欠陥をなくして良好な濾過精度を発現する製品のみを出荷するために、従来は、基材の端面にガラスシールを配設した焼成済みのセラミックフィルタに、再度、ガラスシール形成用スラリーを塗布し、焼成して、再検査するという手間をかけていた。
本発明は、上述のような従来技術が抱える課題を解決するためになされたものであり、セラミックフィルタの製造にかかり、焼成済みのセラミックフィルタに再度のガラスシールの形成という追加工程を施すことなく、濾過精度の条件を満たしたセラミックフィルタが得られる、歩留まりの高いシール手段を提供することを目的とする。
鋭意、検討、観察が行われた結果、シール不良と基材の気孔径との間に相関関係があることが見出された。即ち、基材を構成するセラミック多孔質体の平均気孔径の大きさに関係して、ガラスシールで被覆した筈の部分に基材が露出してしまう確率が変わることが判明した。又、シール不良の発生箇所が、基材の端面と隔壁との境界部分(角部)に集中していることが確認された。このような知見を基に、研究が重ねられた結果、ガラスシール形成用スラリーを塗布する前に、基材に所定条件の下地用スラリーを塗布することによってシール不良を低減することが出来ることに想到し、本発明が完成した。具体的には、本発明は、以下の手段を提供する。
即ち、本発明によれば、先ず、二つの端面と外周面とを有し一の端面から他の端面まで貫通する流路が隔壁によって形成された、セラミック多孔質体からなる基材と、その基材の流路を形成する隔壁の表面に配設され、基材の隔壁の表面に比して平均気孔径が小さいセラミック多孔質体からなる濾過膜と、を具備するセラミックフィルタをシールする方法であって、少なくとも基材の端面を含む被シール面に、基材を構成するセラミック多孔質体の平均気孔径より小さい平均粒子径の骨材を主成分とするセラミック下地用スラリーを塗布した後に、ガラスシール形成用スラリーを塗布する工程を有するセラミックフィルタのシール方法が提供される。
本発明に係るセラミックフィルタのシール方法において、被シール面、即ち、シールが施される面は、少なくとも基材の端面を含む面であり、通常、両方の端面のみ、又はそれらと端面近傍の隔壁の表面を含む面がシール対象となる。
本発明に係るセラミックフィルタのシール方法が、シールを施す対象とするセラミックフィルタは、少なくとも基材と濾過膜とを具備するものであり、その他に、それら基材と濾過膜との間に中間膜が配設されたものであってもよい。この中間膜は、セラミック多孔質体の流路を形成する隔壁の表面における凹凸を確実に埋め、可能な限り平滑にするとともに、濾過膜を形成するための濾過膜用スラリーが、セラミック多孔質体の気孔を閉塞させることを防止するものである。
先にセラミック下地用スラリーを塗布してから、ガラスシール形成用スラリーを塗布した後に焼成を行い、基材の少なくとも端面を含む面にガラスシールを形成し配設する。そして、その焼成によって、ガラスシールの下側には、塗布されたセラミック下地用スラリーによって下地層(セラミック下地)が形成される。焼成は、少なくともガラスシール形成用スラリーの塗布の後には行なわれるが、セラミック下地用スラリーを塗布した後には、焼成を行っても行わなくてもよい。即ち、セラミック下地用スラリーを塗布した後に焼成を行って下地層を配設してから、それに重ねて、ガラスシール形成用スラリーを塗布し、焼成を行い、ガラスシールを形成してもよく、ガラスシール形成用スラリーを塗布した後の焼成のみを行って、下地層とガラスシールとを同時に形成してもよい。
本発明に係るセラミックフィルタのシール方法においては、セラミック下地用スラリーの主成分である骨材の平均粒子径が、基材の気孔径の1/100〜1/2であることが好ましい。
本発明に係るセラミックフィルタのシール方法においては、セラミック下地用スラリーの粘度が、1〜100dPa・sであることが好ましい。
本発明に係るセラミックフィルタのシール方法においては、被シール面が、基材の、端面と、隔壁の表面と、の間の境界の角を含む面で構成され、その被シール面にセラミック下地用スラリーを塗布することによって、ガラスシール形成用スラリーを塗布しようとする被シール面を、塗布する前より滑らかにすることが好ましい。
本発明に係るセラミックフィルタのシール方法においては、被シール面が、基材の、端面と、隔壁の表面と、の間の境界の角を含む面で構成され、その被シール面にセラミック下地用スラリーを塗布することによって、その、端面と、隔壁の表面と、の間の境界の角の曲率半径を大きくすることが好ましい。
基材粒子形状が凸凹の場合や、基材の気孔径が大きい場合には、基材端面が凸凹となり、ガラスシール焼成時に、ガラスシールが連続した面を作らずにピンホールを生じさせ易い。又、被シール面が、基材の、端面と隔壁の表面と、の間の境界の角を含む面で構成される場合には、被シール面には基材の角部(コーナー部)が存在することになる。このような態様の被シール面にガラスシール形成用スラリーを塗布すると、ガラスシール焼成時に、ガラスシールが連続した面を作らずピンホールを生じさせ易い。そこで、この好ましい態様は、基材の角部が存在する、被シール面を、セラミック下地用スラリーを塗布することによって覆い、被シール面を平滑にするとともに、下地スラリーの表面張力によって、見かけ上、角部をなくすことによって、ガラスシールのピンホールを抑制しようとするものである。セラミック下地用スラリーの塗布によって、基材の角部が覆われて基材の角部の曲率半径が大きくなると表現することが出来る。但し、セラミック下地用スラリーで覆った後の滑らかな面は、もはや基材の面とはいえないので、この好ましい態様を、被シール面をガラスシール形成用スラリーを塗布する前より塗布した後を滑らかにする、と表現している。尚、本明細書において、基材における隔壁の表面(濾過膜が配設される面)には、基材の端面は含まれない。
次に、本発明によれば、二つの端面と外周面とを有し一の端面から他の端面まで貫通する流路が隔壁によって形成された、セラミック多孔質体からなる基材と、その基材の流路を形成する隔壁の表面に配設され、基材の隔壁の表面に比して平均気孔径が小さいセラミック多孔質体からなる濾過膜と、を具備するセラミックフィルタを製造する方法であって、基材を作製し、得られた基材の少なくとも端面を含む面に、上記した何れかのセラミックフィルタのシール方法を使用して、下地層と、その下地層の上に重ねたガラスシールと、を配設する工程を有するセラミックフィルタの製造方法が提供される。
本発明に係るセラミックフィルタの製造方法においては、焼成のタイミングは限定されない。即ち、本発明に係るセラミックフィルタの製造方法において、ガラスシール形成用スラリーを塗布した後には、焼成を行い、基材の少なくとも端面を含む面にガラスシールを形成し配設することになり、焼成は、少なくともガラスシール形成用スラリーの塗布の後には行なわれるが、その他のタイミングは限定されない。
例えば、製造対象とするセラミックフィルタとして、基材と、濾過膜用スラリーを焼成して得られる濾過膜と、セラミック下地用スラリーを焼成して得られる下地層と、ガラスシールと、の他に、基材と濾過膜との間に中間膜が配設されたものを考えると、中間膜の形成前(中間膜用スラリーを塗布する前)に基材を焼成すること、及び、上記したように、ガラスシール形成用スラリーを塗布した後に焼成することは、必須要件となる。しかし、その他のタイミング、即ち、中間膜用スラリーを塗布した後、濾過膜用スラリーを塗布した後、セラミック下地用スラリーを塗布した後には、焼成を行っても行わなくてもよい。
又、本発明に係るセラミックフィルタの製造方法では、濾過膜用スラリーによる製膜のタイミングは限定されない。例えば、基材に濾過膜用スラリーによる製膜を行った後に焼成せず、セラミック下地用スラリーの塗布を行ってから焼成することによって、濾過膜と下地層は同時に形成される。
次に、本発明によれば、二つの端面と外周面とを有し一の端面から他の端面まで貫通する流路が隔壁によって形成された、セラミック多孔質体からなる基材と、その基材の流路を形成する隔壁の表面に配設され、基材の隔壁の表面に比して平均気孔径が小さいセラミック多孔質体からなる濾過膜と、を具備するセラミックフィルタであって、更に、少なくとも基材の端面を含む面に配設された、基材を構成するセラミック多孔質体の平均気孔孔径より小さい平均粒子径のセラミック多孔質体からなる下地層と、その下地層の上に重ねて配設されたガラスシールと、を具備するセラミックフィルタが提供される。
本発明に係るセラミックフィルタにおいては、セラミック多孔質体からなる下地層の平均粒子径は、基材の平均気孔径の1/100〜1/2であることが好ましい。
本発明に係るセラミックフィルタ、又は本発明に係るセラミックフィルタのシール方法が対象とするセラミックフィルタ、若しくは本発明に係るセラミックフィルタの製造方法が対象とするセラミックフィルタは、基材の外形的な形状、サイズ、流路の形状(流体の流通方向と直交する断面における形状)、及び基材の構造的な形状については、その濾過機能を阻害しない限りにおいて、特に制限はない。外形的な形状としては、円柱状、四角柱状、三角柱状等の形状が挙げられる。サイズは、精密濾過や限外濾過に用いる場合には、円柱状の場合に、外径30〜300mmφ程度、長さ150〜2000mm程度とすることが好ましい。流路の形状(流体の流通方向と直交する断面における形状)は、円形、三角形、四角形、五角形、六角形等の形状を採用することが出来る。基材の構造的な形状としてはモノリス状(ハニカム状を含む)及びチューブ状のものが採用され得る。モノリス状とは、セラミック多孔質体からなる格子状の隔壁を有し、その隔壁によって区分された多数の平行する流路が形成された形状を呈するものであり、この形状を採ると、単位体積当たりの濾過面積が大きく、透過処理量が高い、という利点を享受出来る。チューブ状のセラミックフィルタは、セラミック多孔質体からなる筒状の隔壁を有し、その隔壁によって区分された、中心部を貫通する単一の流路が形成された形状のものである。
本発明に係るセラミックフィルタのシール方法は、被シール面に、基材を構成するセラミック多孔質体の平均気孔径より小さい平均粒子径の骨材を主成分とするセラミック下地用スラリーを塗布した後に、ガラスシール形成用スラリーを塗布する工程を有するものであり、換言すれば、本発明に係るセラミックフィルタのシール方法によれば、ガラスシール形成用スラリーを塗布する際には、被シール面には、既に、基材を構成するセラミック多孔質体の平均気孔径より小さく、好ましくは平均粒子径が1/100〜1/2である骨材を主成分とするセラミック下地用スラリーが塗布されている。従って、ガラスシール形成用スラリーを塗布しようとする被シール面は、基材そのものより緻密であり、粗い粒子が存在しない面となっている。そのため、ガラスシール形成用スラリーを塗布し、焼成した際に、そのガラスシールにピンホール(欠陥)が生じ難く、ガラスシールで被覆した筈の部分が被覆されずに基材が露出されたままになる、といったシール不良が発生し難い。
セラミックフィルタとして流体透過量を多くし更に向上させるためには、基材の骨材粒子径を大きくして基材を構成するセラミック多孔質体の平均気孔径を大きくせざるを得ない。しかし、そうすると、表面が粗い骨材粒子によって凸凹になり易く、従来のように、直接、ガラスシール形成用スラリーを塗布すると、その凸凹によって、ガラスシールが連続した面を作らずピンホールを生じさせる場合がある。又、基材の角部ではシールが薄くなるため、基材の他の部分よりガラスシールがピンホールを生じ易い。加えて、基材の粗い骨材粒子の形状が凸凹である場合には、そうでない場合よりピンホールを発生し易くなる。本発明に係るセラミックフィルタのシール方法によれば、被シール面に粗い粒子が存在しなくなり、基材の角部の曲率半径を大きくすることが出来、セラミック下地用スラリーの塗布によって凹凸が埋められて被シール面が平滑になるので、これらの問題を回避することが出来る。
本発明に係るセラミックフィルタのシール方法がシールの対象とする被シール面は、基材の端面を含む面である。この面におけるシール不良がなくなり、ガラスシールによって、完全に基材の端面が被覆されることは、被処理流体が、その端面から基材の内部に浸入して濾過膜を透過することなく基材の外周面側に流出してしまうといった事態が、完全に回避され、被処理流体が、流路から必ず濾過膜、隔壁を透過して基材の外周面側に流出し、目的とする濾過が行なわれることを意味する。又、既に濾過膜を透過した処理済流体中に被処理流体が混入せず処理済流体を汚染しないことを意味する。そのため、本発明に係るセラミックフィルタのシール方法を使用することによって(本発明に係るセラミックフィルタの製造方法によって)、濾過精度の優れたセラミックフィルタを、高い歩留まりで得ることが可能となる。そして、基材の端面にガラスシールを配設した焼成済みのセラミックフィルタに、あらためて、ガラスシール形成用スラリーを塗布し焼成する、といった手間は必要なくなり、セラミックフィルタの生産効率が高められる。
本発明に係るセラミックフィルタのシール方法は、その好ましい態様において、被シール面が、基材の、隔壁の表面と端面との間の境界の角を含む面で構成され、その被シール面にセラミック下地用スラリーを塗布することによって、ガラスシールが形成される被シール面を、塗布する前より滑らかにするので、ガラスシール焼成時にガラスシールにピンホールが起こり難く、ガラスシールで被覆した筈の部分が被覆されずに基材が露出されたままになる、といったシール不良の発生が、更に抑制される。
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明に係る要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明に係る実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報によって制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
先ず、本発明に係るセラミックフィルタについて説明する。本発明に係るセラミックフィルタは、本発明に係るセラミックフィルタのシール方法によってシールが施されたものである。図3は、本発明に係るセラミックフィルタの一の実施形態を示す斜視図であり、図4は、図3に示されるセラミックフィルタの一の端面の近傍を表した断面図であり、円柱状のセラミックフィルタの軸方向に平行な断面を示す拡大図である。
図3及び図4に示されるセラミックフィルタ50は、二つの端面17a,17bと外周面19とを有し、端面17a,17bのうちの一の端面17aから他の端面17bまで貫通する流路18が隔壁24によって形成された基材12と、その基材12の流路18を形成する隔壁24の表面に配設された濾過膜14と、を具備するものである。セラミックフィルタ50には、更に、基材12の端面17a,17bを含む面に配設された下地層11が備わり、その下地層11の上に重ねて配設されたガラスシール16が備わる。
セラミックフィルタ50の基材12は、セラミック多孔質体からなる隔壁24を有し、その隔壁24によって、流体の流路18が形成されたものである。このような基材12を用いれば、被処理流体が隔壁24を透過して流路18内に流入する際に、又は被処理流体が流路18外に流出して隔壁24を透過する際に、濾過膜14において懸濁物質や病原性微生物等の有害物質が除去され、流路内に流入した流体乃至は流路18外に流出した流体を、浄化された処理済流体として回収することが出来る。基材12を構成するセラミック多孔質体の平均気孔径は、機械的強度と濾過抵抗のバランスを考慮して決定される。通常は、平均気孔径1〜数100μm程度のセラミック多孔質体が基材として用いられる。セラミックフィルタ50は、基材12の構造的な形状がモノリス状であり、基材12の外形的な形状は円柱状を呈し、流路の形状(流体の流通方向と直交する断面における形状)は円形である。
セラミックフィルタ50の濾過膜14は、多数の気孔が形成され、その平均気孔径が基材12の隔壁24の表面に比して小さいセラミック多孔質体からなり、隔壁24の表面に配設されたものである。基材12の表面に濾過膜14を備えた構造のセラミックフィルタ50は、濾過膜14によって濾過機能が発揮されるため、基材12の平均気孔径を大きく構成することが出来る。従って、隔壁24を透過して流路18の外に流出した流体が、基材12の内部を透過する際の流動抵抗を低減させることが出来、流体透過量を多くすることが可能となる。濾過膜14を構成するセラミック多孔質体の平均気孔径は、要求される濾過精度(除去すべき物質の粒子径)によって異なる。例えば、精密濾過や限外濾過に用いるセラミックフィルタの場合であれば、0.01〜1μm程度である。
セラミックフィルタ50の下地層11は、基材12の端面17a,17bに配設されたものである。セラミック多孔質体からなる下地層11の平均粒子径は、基材平均気孔径の1/100〜1/2であることが好ましい。
セラミックフィルタ50のガラスシール16は、被処理流体が基材12の端面17a,17bから基材12の内部に浸入することを防止するための部材である。ガラスシール16は、液不透過性のガラス材料で形成されたものであり、下地層11の上から更に重なるようにして、基材12の端面17a,17bを被覆して配設されている。ガラスシールの形成に使用されるガラス材料としては、基材12、濾過膜14、下地層11と熱膨張率差が小さいガラス材料を採用することが好ましい。
次に、本発明に係るセラミックフィルタの製造方法について説明し、それを通じて、本発明に係るセラミックフィルタのシール方法について説明する。本発明に係るセラミックフィルタのシール方法は、本発明に係るセラミックフィルタの製造方法における一の工程で用いられる手段である。
図5、図6、及び図7は、本発明に係るセラミックフィルタの製造方法の一の実施形態を示す図であり、セラミックフィルタの一の端面の近傍を表した断面図(図4に相当する図)である。それぞれには、各製造過程における、例えば円柱状のセラミックフィルタの軸方向に平行な断面が、拡大されて示されている。図5では、(a)に基材12に濾過膜14を形成した一の態様が示され、(b)に他の態様が示されている。図5の(a)では、端面17a近傍の濾過膜14が削られたようになっているが、これは、濾過膜用スラリーを塗布した後に焼成を行わない場合に、切断加工によって、膜の一部が脱落したことよって生じ得る態様である。濾過膜14がこのような態様になる場合には、下地層11は、基材12の端面17a,17bのみならず、その近傍の隔壁24の表面にも形成することが好ましい。又、図6では、濾過膜14を形成した基材12の端面17a(17b)を含む面に下地層11を形成した態様が示されており、図7では、濾過膜14及び下地層11を形成した基材12の端面17a(17b)を含む面にガラスシール16を形成した態様が示されている。
セラミックフィルタを製造するにあたっては、先ず、平均気孔径が1〜数100μm程度のセラミック多孔質体である基材を作製する。基材は、例えば、骨材粒子、分散媒の他、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を混合し混練することによって坏土を得て、その坏土を成形し、乾燥し、焼成する方法によって得ることが出来る。
基材の平均気孔径は、これらを構成する骨材粒子の平均粒子径によって制御することが可能である。即ち、平均粒子径が大きい骨材粒子を用いれば、平均気孔径が大きい基材を構成することが出来、平均粒子径が小さい骨材粒子を用いれば、平均気孔径が小さい基材を構成することが出来る。基材を構成する主材料である骨材粒子としては、例えば、アルミナ、ムライト、コージェライト、炭化珪素、陶磁器屑等のセラミックによって構成される材料を使用する。中でも、粒子径が制御された骨材粒子を入手し易く、安定な坏土を形成出来、かつ、耐食性が高いアルミナを構成材料として好適に用いることが出来る。尚、平均気孔径の制御方法や使用する骨材粒子の材料は、濾過膜や下地層の形成の場合にも、同様に採用し得る。
次に、得られた基材の流路を形成する隔壁の表面に濾過膜を形成する(図5を参照)。濾過膜は、例えば、骨材粒子、分散媒の他、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を混合することによって濾過膜用スラリーを調製し、その濾過膜用スラリーを、基材の隔壁の表面に製膜し、乾燥し、焼成する方法によって形成することが出来る。この際、濾過膜用スラリーに用いる骨材粒子の平均粒子径は、基材に用いる骨材粒子より小さく、0.01〜1μm程度とすることが好ましい。製膜は、従来公知の製膜法によって行うことが出来る。
次いで、基材の端面を含む面に下地層を形成する(図6を参照)。下地層は、例えば、骨材粒子、分散媒の他、必要に応じて界面活性剤等の添加剤を混合することによってセラミック下地用スラリーを調製し、そのセラミック下地用スラリーを、基材の端面を含む、シールしようとする面に塗布し、乾燥し、焼成する方法によって形成することが出来る。この際、セラミック下地用スラリーに用いる骨材粒子の平均粒子径は、基材の平均気孔径に用いる骨材粒子より小さく、基材の平均気孔径の1/100〜1/2程度とすることが好ましい。塗布は、従来公知の塗布法によって行うことが出来る。基材の端面と、隔壁の表面との境界部分(角部)の曲率半径を大きくするために、セラミック下地用スラリーの粘度は1〜100dPa・sであることが好ましい。尚、下地層の形成の前に、濾過膜の下に中間膜を形成してもよい。
次に、先に形成した下地層を覆うようにして、基材の端面を含む面にガラスシールを形成する(図7を参照)。ガラスシールは、例えば、以下のような方法によって形成することが出来る。先ず、ガラス原料を用意し、それを溶融し、更に冷却した後に、平均粒子径5〜50μm程度となるように粉砕したガラス粉末を用意する。次いで、そのガラス粉末に対し、水及び有機結合剤を加えて混合することによって、ガラスシール形成用スラリーを調製する。そして、ガラスシール形成用スラリーを基材の端面を含む面に塗布し、乾燥した後、焼成することによって、ガラスシールを形成することが出来る。
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例によって限定して解釈されるものではない。
(実施例1)[基材の作製](1)骨材粒子として平均粒子径50μmのアルミナ粒子を用い、これに、有機結合剤、水を添加し、混練して坏土を得た。次に、プランジャー押出機を使用して、得られた坏土を押出成形し、外径が30mmφ、長さが1000mmであり、流路の直径が2.5mmのセルを37個有する、ハニカム形状(ハニカム構造)をなす成形体を得た。そして、得られた成形体を、熱風循環型乾燥機を使用して、100℃で24時間、乾燥させ、その後、乾燥させた成形体を、電気炉を用いて、焼成温度1500℃、焼成時間1時間、昇温乃至降温の速度100℃/時間、の条件で焼成し、ハニカム形状(ハニカム構造)をなす多孔質体(基材)を得た。
[濾過膜の製膜](2)気孔径が1μm程度の多孔質な濾過膜を得るため、10μm程度の粒径の骨材を30質量%含み、分散剤を添加して濾過膜用スラリーを調製した。そして、その濾過膜用スラリーを用い、特許文献3に記載の濾過製膜法によって、先に得られた基材の流路を形成する隔壁の表面に、製膜を行った。
[セラミック下地用スラリーの塗布](3)骨材粒子としての平均粒子径5μmのアルミナ粒子50質量部に、無機結合剤として平均粒子径が1μmのガラス10質量部と、有機結合剤としてメチルセルロース2質量部を添加し、更に、水、分散剤を加えて、混合することによって、粘度が20dPa・sのセラミック下地用スラリーを調製した。そして、そのセラミック下地用スラリーを厚さが5mmの円盤状のスポンジに均一に含ませ、基材の端面及び(濾過膜用スラリーによる製膜を行った)端面近傍の隔壁の表面に、概ね500kPaの圧力で押し付けて塗布した。
[濾過膜及び下地層の配設](4)その後、大気雰囲気下、電気炉にて焼成を行い、濾過膜と同時に下地層を形成した。焼成条件は1200℃、1時間とし、昇温乃至降温の速度は100℃/時間とした。
[ガラスシールの配設](5)シール材料として、平均粒子径10μmのガラス粉末100質量部に、有機結合剤としてメチルセルロース2質量部を添加し、更に、水を加えて、混合することによってガラスシール形成用スラリーを調製した。そして、そのガラスシール形成用スラリーを厚さが5mmの円盤状のスポンジに均一に含ませ、下地層を配設した基材の端面及び端面近傍の隔壁の表面に塗布した。その後、大気雰囲気下、電気炉にて焼成を行いガラスシールを形成した。焼成条件は1000℃、1時間とし、昇温乃至降温の速度は100℃/時間とした。上記のようにして、下地層及びガラスシールを備えたセラミックフィルタを、10体作製した。
[セラミックフィルタの評価](6)得られた10体のセラミックフィルタに対して、水を試験液としてJIS K3832に記載のバブルポイント法試験に準拠して試験を行い、ガラスシールの部分の1μm以上の欠陥数の平均を求めたところ、平均欠陥数は0.2であった。
(比較例1)下地層を配設しないこと以外は、実施例1と同様の条件で、セラミックフィルタを、10体作製し、評価した。具体的には、工程(3)を行わず、工程(4)の焼成で形成したのは濾過膜のみである。下地層を配設しないので、工程(5)では、ガラスシール形成用スラリーを、直接、基材の端面、及び(濾過膜を配設した)端面近傍の隔壁の表面に塗布した。得られた10体のセラミックフィルタに対して、実施例1と同じ試験を行い、ガラスシールの部分の1μm以上の欠陥数の平均を求めたところ、平均欠陥数は9であった。
本発明に係るセラミックフィルタのシール方法は、セラミックフィルタの端面をシールする方法として利用することが出来る。対象となるセラミックフィルタは、高分子膜と比較して機械的強度や耐久性に優れるため信頼性が高く、耐食性が高いため酸やアルカリ等による薬液洗浄の際の劣化が少なく、更には、濾過能力を決定する平均気孔径を精密に制御することが可能であるといった様々な利点を有するものであり、飲料水(上水)の他にも、医薬、食品、半導体分野をはじめとする広範な分野において、液体やガス等の流体中に混在する懸濁物質、細菌、粉塵等を分別し除去するために利用される。セラミックフィルタは、特に、産業(工業)用水の製造、又は下水、産業排水の浄化等の水処理用途において、あるいは、排気ガスの浄化等のガス処理用途において、液体中又はガス中の懸濁物質や病原性微生物等の有害物質を除去するために、好適に利用されるものであり、本発明に係るセラミックフィルタのシール方法は、このようなセラミックフィルタの性能(濾過精度)、長期信頼性、生産効率等の向上を図る手段として有用である。
ガラスシールを備えたセラミックフィルタをハウジングに装填して使用した状態を示す概念図であり、セラミックフィルタを中心軸に沿って切断した切断面を側方から見た概略断面図である。
ガラスシールを備えていないセラミックフィルタをハウジングに装填して使用した状態を示す概念図であり、セラミックフィルタを中心軸に沿って切断した切断面を側方から見た概略断面図である。
本発明に係るセラミックフィルタの一の実施形態を示す斜視図である。
図3に示されるセラミックフィルタの一の端面の近傍を表した断面図である。
本発明に係るセラミックフィルタの製造方法の一の実施形態を示す断面図であり、(a)は基材に濾過膜を形成した一の態様を示す図であり、(b)は基材に濾過膜を形成した他の態様を示す図である。
本発明に係るセラミックフィルタの製造方法の一の実施形態を示す断面図であり、濾過膜を形成した基材の端面を含む面に下地層を形成した態様を示す図である。
本発明に係るセラミックフィルタの製造方法の一の実施形態を示す断面図であり、濾過膜及び下地層を形成した基材の端面を含む面にガラスシールを形成した態様を示す図である。
符号の説明
10,30,50 セラミックフィルタ
11 下地層
12 基材
14 濾過膜
16 ガラスシール
17a,17b 端面
18 流路
19 外周面
20 シール材
22 ハウジング
24 隔壁
25 隔壁の表面と端面との境界
F 被処理流体