JP2019052345A - 成膜方法および成膜装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】各種のターゲット材料を用いてプラズマスパッタリングにより基板に高速にかつ良質な成膜を行う。【解決手段】真空チャンバ10内に、巻き数が1周未満の線状導体521,531を誘電体層522,532で被覆した構造を有する誘導結合アンテナ52,53と、ターゲットを備えるスパッタカソード51とを近接配置し、内部気圧を所定の成膜圧力に調整した真空チャンバ内にスパッタガスを供給し、誘導結合アンテナに高周波電圧を、スパッタカソードに負電圧をそれぞれ印加して真空チャンバ内に誘導結合プラズマを発生させ、真空チャンバ内でターゲットに臨ませた基板Sの表面に、誘導結合プラズマによりターゲットがスパッタされて生じる成膜粒子を付着させて成膜する。ターゲットの表面における静磁場の該表面に沿う方向の最大磁束密度が15mT以下である。【選択図】図4

Description

この発明は、プラズマスパッタリング技術を用いて基板表面に成膜する技術に関するものである。
プラズマによりターゲットをスパッタリングすることで基板表面に薄膜を形成する技術においては、成膜速度が速く、また良好な膜質を得られることから、永久磁石により形成される磁場中に高密度のプラズマを発生させるマグネトロンカソード方式が広く用いられている。その中には、プラズマ密度をより高めるために、コイルに高周波電力を与えることで生じる誘導結合プラズマを、マグネトロンプラズマと併用したものがある(例えば、特許文献1、2参照)。
一方、他のスパッタリング成膜技術としては、マグネトロンを主たるプラズマ発生源とせず、高周波コイルに高周波電力を供給することでコイル内の空間に発生する誘導結合プラズマによりターゲットをスパッタするように構成されたものもある(例えば、特許文献3参照)。
特開2007−277730号公報 国際公開第2010/023878号明細書 特開2003−313662号公報
マグネトロンカソード方式の問題点として、ターゲットのうちスパッタされ消費される領域が特定部分に集中してしまうという問題がある。これは、マグネトロンによりターゲット近傍におけるターゲット表面に沿った方向の磁束の不均一な分布に起因して、磁束密度の高い部分でプラズマ密度が高くなり、ターゲットがより多くスパッタされることになるためである。そして、ターゲットの局所的な消費が進むことで当該位置における磁束がさらに強まり、結果としてターゲットの特定部分のみが集中的にスパッタされてしまうことになる。このことはターゲット材料の利用効率の低下につながる。
この問題を解決するために、例えば円筒状に形成されたターゲットを回転させるロータリーカソードのように、マグネトロンプラズマに曝されるターゲットの表面位置が随時変化するようにしてターゲットがより満遍なく消費されるように構成されたものがある。しかしながら、ターゲット材料によってはこのような形状への成形が困難なものもある。
また、特にターゲット材料が強磁性体である場合、ターゲットが磁気シールドとして作用することでマグネトロンの効果が大幅に弱められてしまう。このため、マグネトロンの磁気回路をより強力なものとする必要があり、装置コストの上昇を招く。また、この場合でもターゲットの局所的な消費という問題は解消されない。
特許文献3に記載されたように、実質的にマグネトロンによらないプラズマスパッタリング技術においてはこのような問題は回避される。しかしながら、スパッタに寄与する高密度のプラズマは強磁場が形成される高周波コイル内の空間において発生することから、大面積かつ均一にターゲットをスパッタすることのできるような広範囲にプラズマを発生させることが難しい。これにより成膜可能な面積が限定されるため、大きいサイズの基板への成膜に適したものではない。
電子デバイス用基板の大判化に伴い、例えば強磁性体を含み得る各種のターゲット材料を用いて基板に膜質の良好な皮膜を高速に、かつ制御性よく成膜することのできる技術が求められるが、上記したように、従来の技術はこのような要求に応えるに十分なものではなかった。
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、各種のターゲット材料を用いて基板に高速にかつ良質な成膜を行うことのできる技術を提供することを目的とする。
この発明の一の態様は、プラズマスパッタリングにより基板に成膜する成膜方法であって、上記目的を達成するため、真空チャンバ内に、巻き数が1周未満の線状導体を誘電体層で被覆した構造を有する誘導結合アンテナと、ターゲットを備えるスパッタカソードとを近接配置し、内部気圧を所定の成膜圧力に調整した前記真空チャンバ内にスパッタガスを供給し、前記誘導結合アンテナに高周波電圧を、前記スパッタカソードに負電圧をそれぞれ印加して前記真空チャンバ内に誘導結合プラズマを発生させ、前記真空チャンバ内で前記ターゲットに臨ませた前記基板の表面に、前記誘導結合プラズマにより前記ターゲットがスパッタされて生じる成膜粒子を付着させて成膜し、前記ターゲットのうち前記基板に臨む表面における静磁場の該表面に沿う方向の最大磁束密度が15mT以下である。
また、この発明に係る成膜装置の一の態様は、上記目的を達成するため、真空チャンバと、前記真空チャンバ内に設けられた、巻き数が1周未満の線状導体を誘電体層で被覆した構造を有する誘導結合アンテナと、前記真空チャンバ内に前記誘導結合アンテナに近接して設けられたターゲットを備えるスパッタカソードと、前記真空チャンバ内で基板を前記ターゲットに臨ませて保持する基板保持部と、前記真空チャンバの内部気圧を所定の成膜圧力に調整する圧力調整部と、前記真空チャンバ内にスパッタガスを供給するガス供給部と、前記誘導結合アンテナおよび前記スパッタカソードに所定の電位を付与する電源部とを備え、前記電源部が、前記誘導結合アンテナに高周波電圧を、前記スパッタカソードに負電圧をそれぞれ印加して、前記真空チャンバ内に誘導結合プラズマを発生させ、前記誘導結合プラズマにより前記ターゲットがスパッタされて生じる成膜粒子を前記基板に付着させて成膜し、前記ターゲットのうち前記基板に臨む表面における静磁場の該表面に沿う方向の最大磁束密度が15mT以下である。
このように構成された発明では、ターゲット表面に沿う磁束の作用に起因するプラズマは実質的に発生せず、誘導結合アンテナに供給される高周波電力により生じる誘導結合プラズマがプラズマ源となる。このため、マグネトロンプラズマをプラズマ源とする場合のような磁場の分布に起因する問題は生じない。これはターゲットが強磁性体である場合でも同様である。なお、本発明の「静磁場」は、誘導結合アンテナに高周波電力が与えられず誘導磁場が形成されていない状態において、ターゲット周辺の磁気デバイスや磁性材料等がターゲット表面に形成する時間的に変動のない磁場を意味する。
マグネトロンを用いない従来のスパッタ成膜プロセスは、多数回巻回された高周波コイルに供給される高周波電力により生じる誘導結合プラズマを利用するものである。この場合、広い空間領域に均一なプラズマを発生させるためには大径のコイルおよび大きな電力が必要となる。
これに対し、本発明では、巻き数を1回未満として表面を誘電体で被覆された誘導結合アンテナに高周波電力を供給することで誘導結合プラズマを発生させる。このような低インダクタンスの誘導結合アンテナは、アンテナの周囲に均一で安定したプラズマを発生させることが可能である。後述するように、本願発明者の実験によれば、このような構成の誘導結合アンテナに高周波電力を与えて生じさせた誘導結合プラズマによりターゲットをスパッタし成膜することで、マグネトロンを用いなくても十分に高い成膜速度が得られ、膜質の点ではむしろマグネトロンスパッタリングよりも良好な結果を得られることがわかった。
上記のように、本発明によれば、マグネトロンプラズマを併用しない誘導結合プラズマによるプラズマスパッタリングにより、各種のターゲット材料を用いて基板に高速にかつ良質な成膜を行うことが可能である。
本発明にかかる成膜装置の一実施形態の概略構成を示す側面図および上面図である。 成膜装置内部の主要構成の配置を示す斜視図である。 成膜装置の電気的構成を示すブロック図である。 スパッタソースの動作を示す図である。 この成膜装置による成膜処理を示すフローチャートである。 ターゲットが強磁性体である場合のマグネトロンの効果を示す図である。 カソード電力と成膜速度との関係を測定した結果を例示するグラフである。 マグネトロンを使用しない成膜における成膜圧力と膜質との関係を示すグラフである。 スパッタソースの変形例を示す図である。
図1は本発明にかかる成膜装置の一実施形態の概略構成を示す側面図および上面図である。図2は成膜装置内部の主要構成の配置を示す斜視図である。図3は成膜装置の電気的構成を示すブロック図である。以下の説明における方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標軸を設定する。XY平面が水平面を表す。また、Z軸が鉛直軸を表し、より詳しくは(−Z)方向が鉛直下向き方向を表している。
この成膜装置1は、プラズマスパッタリングにより処理対象である基板Sの表面に皮膜を形成する装置である。例えば、基板Sとしてのガラス基板や樹脂製の平板、シート、フィルム等の一方表面に、チタン、クロム、ニッケル等の金属皮膜や酸化アルミニウム等の金属酸化物皮膜を形成する目的に、この成膜装置1を適用することが可能である。ただし基板や皮膜の材料はこれに限定されず任意である。なお、ここでは矩形、枚葉状の基板Sに対し成膜を行う場合を例として説明するが、基板Sは任意の形状を有するものであってよい。
基板Sは、中央部に開口を有する額縁状のトレーTにより、その周縁部を保持されつつ下面の中央部を含む大部分が下向きに開放された状態で、成膜装置1内を搬送される。このようにすることで、薄くまたは大判で撓みやすい基板Sであっても水平姿勢に維持された状態での安定した搬送が可能となる。以下の説明では、トレーTが基板Sを支持することでトレーTと基板Sとが一体化された構造体を、成膜装置1の処理対象物であるワークWkと称する。なお基板Sの搬送態様はこれに限定されるものではなく任意である。例えば、基板Sが単体で搬送される態様であってもよく、また例えば上面が吸着保持された状態で搬送される態様であってもよい。また、基板は水平姿勢に限定されるものではなく、例えば主面が略垂直となった状態で搬送されてもよい。この場合、基板の搬送方向は水平方向、上下方向のいずれであってもよい。
成膜装置1は、真空チャンバ10と、ワークWkを搬送する搬送機構30と、スパッタソース50と、成膜装置1全体を統括制御する制御ユニット90とを備えている。真空チャンバ10は略直方体形状の外形を有する中空の箱型部材であり、底板の上面が水平姿勢となるように配置されている。真空チャンバ10は例えばステンレス、アルミニウム等の金属を主たる材料として構成されるが、チャンバ内を視認可能とするために、例えば石英ガラス製の透明窓が部分的に設けられてもよい。
図3に示すように、真空チャンバ10には、真空チャンバ10の内部空間SPと外部空間または他の処理チャンバ内の処理空間との間を開閉するシャッタ11と、真空チャンバ10内を減圧するための真空ポンプ12と、真空チャンバ10の内部空間SPの気圧を計測する圧力センサ13とが設けられている。
シャッタ11は制御ユニット90に設けられたシャッタ開閉制御部92により開閉制御される。シャッタ11の開状態ではワークWkの搬入および搬出が可能となる一方、シャッタ11の閉状態では真空チャンバ10内が気密状態とされる。また、真空ポンプ12および圧力センサ13は制御ユニット90に設けられた雰囲気制御部93に接続されている。雰囲気制御部93は、圧力センサ13による真空チャンバ10内の圧力計測結果に基づき真空ポンプ12を制御して、真空チャンバ10の内部空間SPを所定の気圧に制御する。雰囲気制御部93は、後述する成膜動作における真空チャンバ10内の気圧、すなわち成膜圧力を、CPU91からの制御指令に応じて複数段階に変更することが可能である。
搬送機構30は、ワークWkを略水平な搬送経路に沿って搬送する機能を有する。具体的には、搬送機構30は、基板Sを保持するトレーTの下面に当接することにより処理チャンバ10内でワークWkを支持する複数の搬送ローラ31と、搬送ローラ31を回転させることでワークWkをX方向に移動させる搬送駆動部32とを備えている。搬送駆動部32は制御ユニット90に設けられた搬送制御部94により制御される。このように構成された搬送機構30は、真空チャンバ10内で基板Sを水平姿勢に保持しつつ搬送して、基板SをX方向に移動させる。搬送機構30による基板Sの移動は、図1に点線矢印で示すように往復移動であってもよく、また(+X)方向または(−X)方向のいずれか一方向であってもよい。
搬送機構30により真空チャンバ10内を搬送される基板Sの下方に、スパッタソース50が設けられている。スパッタソース50は、プレーナカソード51と、プレーナカソード51をX方向から挟むように設けられた1対の誘導結合アンテナ52,53と、プレーナカソード51の周囲にスパッタガスを供給するスパッタガス供給ノズル54,54とを備えている。また、プレーナカソード51、誘導結合アンテナ52,53およびスパッタガス供給ノズル54,54の周囲を覆うように、金属板により箱型に形成されたチムニー55が設けられている。
プレーナカソード51は、例えば銅板のような導電性材料により板状に形成されたバッキングプレート511を備えている。バッキングプレート511の上面には、基板Sへの成膜材料により平板状(プレーナ状)に形成されたターゲット512が装着されている。ターゲット512の周囲はアノードシールド513により囲まれている。すなわち、アノードシールド513は上面にターゲット512の平面サイズと同等の開口が設けられた額縁形状をしており、ターゲット512の周囲を覆うとともに、開口を介してターゲット512の上面を基板Sの下面に臨ませる。なお、図1の上面図および図2においては、スパッタソース50の内部構造を明示するために、チムニー55はその外形のみが二点鎖線で示されている。
バッキングプレート511の下部は箱型に形成されたハウジング514により覆われている。ハウジング514は真空チャンバ10の底面に固定されている。バッキングプレート511の下面とハウジング514との間の空間には、後述する冷却機構58から冷媒としての流体、例えば冷却水が供給される。
真空チャンバ10内でプレーナカソード51を挟むように、1対の誘導結合アンテナ52,53が真空チャンバ10の底面から突出して設けられている。誘導結合アンテナ52,53はLIA(Low Inductance Antenna:株式会社イー・エム・ディーの登録商標)とも称されるものであり、図2に示すように、略U字型に形成された導体521,531の表面が例えば石英などの誘電体522,532で被覆された構造を有する。導体521,531は、U字を上下逆向きにした状態で、真空チャンバ10の底面を貫通してY方向に延設される。導体521,531は、Y方向に位置を異ならせてそれぞれ複数個並べて配置される。誘電体522は、複数の導体521それぞれを個別に被覆するように独立して設けられてもよく、また複数の導体521を一括して覆うように設けられてもよい。誘電体532についても同様である。
導体521,531の表面が誘電体522,532で被覆された構造とすることで、導体521,531がプラズマに曝露されることが防止される。これにより、導体521,531の構成元素が基板S上の膜に混入することが回避される。また、後述するように導体521,531に印加される高周波電流により誘導結合プラズマを生成することとなり、アーク放電などの異常放電を抑制して安定したプラズマを発生させることが可能となる。
このように構成された誘導結合アンテナ52,53の各導体521,531は、X方向を巻回軸方向とし巻回数が1未満のループアンテナと見ることができる。そのため、低インダクタンスである。このような小型のアンテナを、巻回軸方向と直交する方向に複数並べて配置することで、インダクタンスの増大を抑えつつ、後述するプラズマ発生のための誘導磁場を広い範囲に形成することが可能である。また、それぞれがY方向に並ぶ複数のアンテナからなる1対のアンテナ列をX方向に離隔して平行配置することにより、両アンテナ列に挟まれる空間に強く均一な誘導磁場を発生させることができる。
誘導結合アンテナ52,53に挟まれるプレーナカソード51の周囲空間には、ガス供給部56からスパッタガス(例えば不活性ガス)が導入される。具体的には、真空チャンバ10の底面に、プレーナカソード51をX方向から挟むように、それぞれガス供給部56に接続された1対のノズル54,54が設けられている。ガス供給部56は、成膜プロセス制御部95からの制御指令に応じてスパッタガスとしての不活性ガス、例えばアルゴンガスまたはキセノンガスをノズル54,54に供給する。スパッタガスはノズル54,54からプレーナカソード51の周囲に向けて吐出される。ガス供給部56はスパッタガスの流量を自動的に制御する流量調整機能を有することが好ましく、例えばマスフローコントローラを備えたものとすることができる。
図4はスパッタソースの動作を示す図である。プレーナカソード51と誘導結合アンテナ52,53との間には、電源部57から適宜の電圧が印加される。具体的には、プレーナカソード51のバッキングプレート511は電源部57に設けられたカソード電源571に接続されており、カソード電源571から接地電位に対する適宜の負電位がバッキングプレート511に与えられる。カソード電源571が出力する電圧としては、直流、直流パルス、正弦波交流、矩形波交流、矩形波交流パルスおよびそれらの幾つかが重畳されたもの等を使用可能である。一方、誘導結合アンテナ52,53には、電源部57に設けられた高周波電源572が図示しない整合回路を介して接続されており、高周波電源572から適宜の高周波電力が印加される。カソード電源571および高周波電源572のそれぞれから出力される電圧値やその波形は制御ユニット90の成膜プロセス制御部95により制御される。
高周波電源572から誘導結合アンテナ52,53に高周波電力(例えば周波数13.56MHzの高周波電力)が供給されることで、誘導結合アンテナ52,53の周囲空間に高周波誘導磁場が生じ、スパッタガスの誘導結合プラズマ(Inductivity Coupled Plasma;ICP)が発生する。プレーナカソード51、誘導結合アンテナ52,53は、いずれも図1紙面に垂直なY方向に沿って長く延びている。したがって、プラズマが発生するプラズマ空間PLも、プレーナカソード51の表面に沿ってY方向に長く延びた形状を有する空間領域となる。誘導結合プラズマは正の電位を持ち、したがってプレーナカソード51はプラズマの電位に対しても負の電位を持つことになる。
こうしてプラズマ空間PLに生成されるプラズマに含まれる陽イオン(図において白丸印で示す)が、負電位を与えられたプレーナカソード51に衝突する。これによりターゲット512の表面がスパッタされ、ターゲット512から飛翔した微細なターゲット材料の粒子が成膜粒子(図において黒丸印で示す)として基板Sの下面に付着する。その結果、基板Sの表面(下面)に成膜が行われる。具体的には、基板S下面のうちY方向に沿った帯状の領域にプラズマスパッタリングによる成膜が行われ、基板Sが、その主面に平行でY方向と直交する方向、つまりX方向に走査移動されることで、成膜対象領域の全体に二次元的に成膜が行われる。
プラズマ空間PLを覆うようにチムニー55が設けられることで、プラズマ空間PLで発生するプラズマ粒子およびこれにスパッタされて生じる成膜粒子が真空チャンバ10内に飛散することが抑制され、ターゲット512表面からスパッタにより飛翔した成膜粒子の飛翔方向が基板Sに向かう方向に制限される。このため、ターゲット材料を効率よく成膜に寄与させることができる。冷却機構58からプレーナカソード51に冷却水が供給されることで、プラズマに曝されるターゲット512の温度上昇が抑制される。
図3に示すように、制御ユニット90は、上記以外に、各種演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)91、CPU91が実行するプログラムや各種データを記憶するメモリおよびストレージ96、外部装置およびユーザとの間での情報のやり取りを担うインターフェース97等を備えている。例えば汎用のコンピュータ装置を、制御ユニット90として使用することが可能である。なお、制御ユニット90に設けられるシャッタ開閉制御部92、雰囲気制御部93、搬送制御部94および成膜プロセス制御部95等の各機能ブロックについては、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、またCPU91により実行されるソフトウェア上で実現されるものであってもよい。
図5はこの成膜装置による成膜処理を示すフローチャートである。この処理は、制御ユニット90が予め用意された制御プログラムに基づき、成膜装置1の各部に所定の動作を行わせることにより実現される。成膜対象である基板Sを含むワークWkが成膜装置1に搬入されるのに先立って、真空チャンバ10内の排気が開始されている(ステップS101)。
真空チャンバ10内が所定の気圧に制御された状態で、プラズマの点灯が開始される(ステップS102)。具体的には、ノズル54からスパッタガスが所定流量で真空チャンバ10内に吐出される。そして、電源部57がプレーナカソード51および誘導結合アンテナ52,53のそれぞれに所定の電圧を印加することにより、真空チャンバ10内に誘導結合プラズマが発生する。
こうして予め真空チャンバ10内にプラズマを点灯させた状態で、シャッタ11が開かれ、真空チャンバ10にワークWkが受け入れられる(ステップS103)。プラズマの点灯状態を安定させるため、ワークWkは、真空チャンバ10と同程度の真空状態に保たれた他の真空チャンバ(図示省略)から搬入されることが望ましい。成膜処理後のワーク搬出時についても同様である。なお、成膜処理前のワークWkを受け入れるためのシャッタと、成膜処理後のワークWkを払い出すためのシャッタとは異なっていてもよい。
真空チャンバ10にワークWkが搬入されると、搬送機構30がワークWkをX方向に走査移動させる(ステップS104)。これにより、ワークWk中の基板Sの下面に、ターゲット材料を含んだ組成の皮膜が形成されることになる。なお、プラズマ空間PLに反応性ガス(例えば酸素ガス)をさらに供給し、ターゲット512の成分と反応性ガスの成分とを含む皮膜(例えば金属酸化物皮膜)が形成されるようにしてもよい。
搬送機構30がワークWkを走査移動させることで、基板S下面における成膜粒子の着弾位置を変化させて基板S全体に成膜を行うことが可能である。このようなワークWkの走査移動を所定時間継続することで(ステップS105)、基板Sの表面(下面)に所定厚さの皮膜が形成される。基板Sに皮膜が形成された成膜後のワークWkは外部へ払い出される(ステップS106)。そして、次に処理すべきワークWkがあれば(ステップS107においてYES)、ステップS103に戻って新たなワークWkを受け入れて上記と同様の成膜処理を実行する。処理すべきワークがなければ(ステップS107においてNO)、装置各部を動作終了が可能な状態へ移行させる終了処理が実行され(ステップS108)、一連の動作は終了する。
以上のように、上記実施形態の成膜装置1では、ターゲット512を備えたプレーナカソード51の近傍に低インダクタンスの誘導結合アンテナ52,53を配置し、誘導結合プラズマを発生させてターゲット512をスパッタし基板Sに成膜を行う。プレーナカソード51は永久磁石を備えておらず、したがってターゲット512の近傍にプラズマを生じさせるような強いターゲット表面に平行な磁束(この例では水平磁束)は実質的に存在しない。例えば高周波電力による誘導磁場が形成されていない状態で、プレーナカソード51周辺の磁気回路や磁性材料等が作る静磁場のターゲット表面近傍、特にターゲット表面に沿う方向における最大磁束密度は、15mT以下である。このような強さの磁場では事実上マグネトロンとしての機能を果たさない。
したがって、プラズマスパッタリング成膜技術において広く利用されているマグネトロンプラズマは発生しない。本願発明者の知見によれば、マグネトロンプラズマによらない誘導結合プラズマスパッタリングにより良好な皮膜を、かつ実用上十分な成膜速度で成膜することが可能である。以下、本願発明者の知見について説明する。
例えば特許文献1,2に記載されたように、従来のマグネトロンプラズマスパッタリング成膜技術においては、マグネトロンプラズマを誘導結合プラズマにより支援することで、マグネトロンプラズマのみの場合に比べてプラズマ密度の向上および均一化が図られている。しかしながら、例えばターゲット材料が強磁性体である場合、ターゲットが磁気シールドとして作用することでターゲット表面での磁束密度が低くなり、十分な密度のプラズマを発生させることができないことがある。
図6はターゲットが強磁性体である場合のマグネトロンの効果を示す図である。より具体的には、図6(a)は強磁性体であるニッケルをターゲットとして成膜を試みた実験における成膜速度および膜密度の実測例を示すグラフである。また、図6(b)は実験に用いたマグネトロンスパッタリング成膜装置の主要部を示す図である。なお、図6(b)においては、本実施形態と共通の構成については同一符号を付して説明を省略する。
図6(b)に示すように、実験に用いられたマグネトロン方式のカソードの構造は、本実施形態のプレーナカソード51におけるバッキングプレート511とハウジング514との間の空間に、3組の永久磁石からなる磁気回路515を追加したものに相当している。磁気回路515により、ターゲット512の表面近傍にはプラズマ生成のためのターゲット表面に平行な磁束が形成される。
磁気回路515は、ターゲット512が非磁性体であるときにはターゲット表面における最大磁束密度が60mT程度の水平磁束が生じる。しかしながら、例えばニッケルのような強磁性体をターゲット512とした場合には、ターゲット512が磁気シールドとして作用し、ターゲット表面での最大磁束密度は5mT程度まで低下する。
この状態で、誘導結合アンテナ52,53へ高周波電力を供給せず、マグネトロンプラズマのみでスパッタリング成膜を試みた場合、図6(a)に「ケースA」として示すように、基板Sへの成膜はほとんど行われなかった。磁気回路515が発生する磁束がターゲットにより遮蔽され、スパッタリングに必要な密度のマグネトロンプラズマが発生しなかったと考えられる。このような磁束密度の低下を補うべく磁気回路をより強力なものとすることやターゲットをより薄くすることも考えられるが、装置コストや稼働率への悪影響の点で現実的ではない。
一方、誘導結合アンテナ52,53へ供給して誘導結合プラズマによる支援を付加すると、「ケースB」として示すように、1分当たり約6nmの成膜が行われた。このときの膜密度は1立方センチメートル当たり約9gであった。図6(a)において「LIA−ICP」の語は、図1、図2等に構造を示す本実施形態の低インダクタンスアンテナ(LIA)による誘導結合プラズマ(ICP)を意味している。
さらに、磁気回路515を除去し、本実施形態のプレーナカソード51と同等の構成として誘導結合プラズマのみによる成膜を行ったところ、「ケースC」として示すように、マグネトロンプラズマと誘導結合プラズマとを併用したケースBとほぼ同等の成膜速度および膜密度が得られた。このことから、強磁性体ターゲットを用いたスパッタリング成膜においては、マグネトロンを用いる効果は少なく、成膜は主として誘導結合プラズマによるスパッタリングで進行していることがわかる。
図7はカソード電力と成膜速度との関係を測定した結果を例示するグラフである。各種の成膜方式において、カソードに供給される電力密度を変化させて成膜を行い、成膜速度を評価したところ、次のような結果が得られた。図7に示される3つの曲線のうち実線は、ターゲットを単体のニッケル(Ni)とし、マグネトロンを用いず誘導結合プラズマのみで成膜を行ったケース、つまり図6(a)に「ケースC」として示したものに対応している。また破線は、ターゲットを同じくニッケルとしてマグネトロンプラズマと誘導結合プラズマとを併用したケース、つまり図6(a)における「ケースB」に対応する。
さらに、点線は、ターゲットをニッケル・バナジウム(Ni−V)合金(ニッケル93%、バナジウム7%)として強磁性特性を単体ニッケルの1割程度まで低減させ、マグネトロンプラズマと誘導結合プラズマとを併用して成膜を行ったケースである。このケースにおいては、ターゲットの磁気シールド作用による磁束密度の低下は小さく、成膜へのマグネトロンプラズマの寄与が他のケースよりも大きいと考えられる。
これらの曲線の比較により以下のことがわかる。いずれの成膜方式でもカソード電力密度が大きいほど成膜速度も大きく、特に点線で示されるNi−V合金をターゲットとしたケースでは成膜速度がほぼ電力密度に比例している。これに対し、単体ニッケルをターゲットとするケースでは、カソード電力と成膜速度との関係が非線形であるが、カソード電力密度が5W/cmより小さい領域ではNi−V合金をターゲットとするケースよりも高い成膜速度が得られる。
特に、図7に実線で示すマグネトロンを使用しない成膜において、カソード電力密度を同じとした場合、Ni−V合金をターゲットとするケースに対し最大で2倍程度の成膜速度が得られた。単体ニッケルをターゲットとしマグネトロンを併用するケースよりも高い成膜速度が得られているが、磁気回路による磁束が存在しないことでプラズマ密度の均一性が向上し、ターゲット表面の広い領域が高いプラズマ・インピーダンスで均一にスパッタされるためと考えられる。これらの事実は、マグネトロンを用いない誘導結合プラズマスパッタリング成膜において、マグネトロンプラズマスパッタリング成膜よりも高い電力効率で成膜を行うことができる可能性があることを示している。
一方、カソード電力密度が5W/cmよりも大きい領域では、マグネトロンを用いた場合の方が成膜速度が大きく、特にターゲットの強磁性特性を弱めたNi−V合金ターゲットを用いたケースにおいて高い成膜速度が得られた。これは、カソードの高電力化に応じてカソード電圧が上昇してスパッタ効率(スパッタイールド)が上昇し、さらにはマグネトロンプラズマ密度も増大することで、水平磁束領域の陽イオンフラックスが増加し、これらの相乗効果によってマグネトロンプラズマスパッタによる成膜速度の高速化が支配的になったものと考えられる。
スパッタ後のターゲット表面を観察したところ、Ni−V合金をターゲットとしたケースでは水平磁束領域の偏在に起因すると見られるターゲットの局所的な消耗があった。このようなターゲットの局所的な消耗はさらなる磁束の集中を招来し、結果としてターゲットの特定部分のみが消費されてしまうことになる。このため、ターゲットの多くの部分が消費されないまま交換が必要となり、長期的にはターゲットの利用効率を低下させる原因となる。これに対し、実質的にマグネトロンが寄与していない他の2つのケースではターゲット表面がほぼ均一に消費されていた。したがって、長期的なスパッタリング成膜プロセスにおけるターゲットの利用効率の点からも、主たるプラズマ発生源としてマグネトロンプラズマではなく誘導結合プラズマを利用したスパッタリングが有効であると言える。
図8はマグネトロンを使用しない成膜における成膜圧力と膜質との関係を示すグラフである。この場合のターゲットは単体ニッケルであり、互いに異なる成膜圧力でそれぞれ膜厚28nmとなるように成膜を行い、そのときの膜質を膜密度と表面粗さとにより評価した。グラフにおいて黒丸印で示すように、マグネトロンを使用せず誘導結合プラズマのみによるスパッタリング成膜においては、成膜圧力を変化させても膜密度の変化は小さい。
白丸印は、単体ニッケルをターゲットとしマグネトロンを併用して成膜を行った場合の膜密度の代表例を参考値として示したものであり、マグネトロンの使用の有無に関わらず、膜密度は概ね一定である。また、ニッケルの比重が約8.9であり、形成された皮膜の膜密度も同程度であることから、いずれの成膜方法によっても緻密なニッケル膜が形成されていると言える。
一方、黒三角印で示される膜の表面粗さについては、成膜圧力によって大きな変化が見られた。膜密度が変わらず表面粗さのみが変化していることから、いずれも緻密な膜でありながら表面粗さの異なる皮膜を成膜圧力の調整によって実現可能であることがわかる。成膜の目的により、例えば表面の平滑な皮膜を必要とされるケースや表面積の大きい皮膜を必要とされるケース等があるが、成膜圧力を適切に調整することで、いずれの要求にも応えることが可能となる。
なお、白三角印は、単体ニッケルをターゲットとしマグネトロンを併用して成膜を行った場合の表面粗さの代表例を参考値として示したものである。マグネトロンスパッタリングの場合、例えば成膜圧力の制御によって得られる皮膜の表面粗さを粗くしようとする場合、相当に高い成膜圧力が必要となる。一般的に高圧スパッタ成膜においては、成膜圧力の上昇に伴って成膜速度の急速な低下が生じることが知られており、生産性は悪化する。
マグネトロンを使用しない誘導結合プラズマスパッタリング成膜では、成膜圧力により、成膜速度を低下させることなく表面粗さを制御することが可能であることが示された。成膜装置1が成膜時の真空チャンバ10内の気圧(成膜圧力)を変更設定することができるように構成されていれば、一定の成膜速度および膜密度を確保しつつ種々の表面粗さの皮膜を形成することが可能である。
ここに述べた各成膜方式の比較は、強磁性体であるニッケルをターゲットの主材料としたものである。しかしながら、上記したマグネトロンを使用しない成膜方式の特長は、ターゲット材料が磁気シールドとして作用しない非磁性体(例えば、金属アルミニウム)である場合でも同様に得られるものと考えられる。
マグネトロンを用いないプラズマスパッタリング成膜を行う技術としては、例えば特許文献3に記載されたように高周波電力を与えられたコイル内空間で誘導結合プラズマを生じさせるものがある。しかしながら、このような構成では均一なプラズマが発生するのは巻回されたコイル内の空間に限定されるため、基板の大サイズ化への対応が困難である。
一方、本実施形態の誘導結合アンテナ52,53は、コイルとしての巻き数が1回未満で低インダクタンスであるため、大きな高周波電流を入力することが可能である。また、導体の周囲空間に誘導結合プラズマを発生させるので、アンテナの外部にプラズマ空間PLを形成することができる。また、同構造の誘導結合アンテナを複数配列することで広い空間領域に連続的にかつ密度の均一なプラズマを発生させることが可能であり、大サイズの基板に対しても効率的に成膜を行うことが可能である。
以上説明したように、この実施形態の成膜装置1においては、真空チャンバ10、プレーナカソード51および誘導結合アンテナ52,53がそれぞれ本発明の「真空チャンバ」、「スパッタカソード」および「誘導結合アンテナ」に相当する。そして、誘導結合アンテナを構成する導体521,531が、本発明の線状導体に相当する。また、搬送機構30、特に搬送ローラ31が、本発明の「基板保持部」および「移動機構」として機能している。また、真空ポンプ12、圧力センサ13および雰囲気制御部93が一体として本発明の「圧力調整部」として機能し、スパッタガス供給ノズル54およびガス供給部56が一体として本発明の「ガス供給部」として機能している。また、カソード電源571および高周波電源572を含む電源部57が、本発明の「電源部」として機能している。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記した実施形態においては、真空チャンバ10内で1組のプレーナカソード51を挟んで2組の誘導結合アンテナ52,53が配置されている。しかしながら、スパッタソースにおけるスパッタカソードおよび誘導結合アンテナの配置はこれに限定されるものではなく、例えば次のような配置も可能である。
図9はスパッタソースの変形例を示す図である。ここでは成膜装置を構成する各部のうちスパッタカソードおよび誘導結合アンテナの配置のみを示すが、上記実施形態が備える他の各構成も、適宜配置されるものとする。図9(a)に示す変形例では、1組の誘導結合アンテナ561を挟むように2組のスパッタカソード562,563が配置される。また、図9(b)に示す変形例では、2組並べて配置されたスパッタカソード571,572を挟んで2組の誘導結合アンテナ573,574が配置される。さらに、図9(c)に示す変形例では、2組のスパッタカソード581,582と3組の誘導結合アンテナ583,584,585が交互に配置される。
これらの構成によっても、誘導結合アンテナへの高周波電力供給およびスパッタカソードへのカソード電力供給によりスパッタカソードの周囲に誘導結合プラズマが発生し、これによりターゲットのスパッタおよび基板への成膜が実現される。
また、上記実施形態ではスパッタカソードとしてターゲットが平板状に形成されたプレーナカソードが用いられ、ターゲットは真空チャンバ内で固定されている。従来のマグネトロンプラズマスパッタリング成膜においては、ターゲット表面に平行な水平磁束の偏在に起因するターゲットの局所的な消費によってターゲットの利用効率が悪化する。この問題を解消しターゲットを満遍なく利用するためには、ターゲットと磁気回路とを相対移動させる等の手段も採られている。本実施形態ではこのような問題がないため、平板状のターゲットが真空チャンバ内で固定されたプレーナカソードであっても実用になる。しかしながら、例えばロータリーカソードのように真空チャンバ内でターゲットを回転させる構成も同様に適用可能である。
また、マグネトロンを用いない上記実施形態においては、プレーナカソード51およびその近傍には永久磁石が使用されていない。しかしながら、本発明は永久磁石を一切使用しない態様に限定されるものではなく、実質的にマグネトロンプラズマとしての機能を果たさない弱い水平磁場を形成するような磁石が用いられていても構わない。また、スパッタカソードに対して磁気回路を着脱可能な構成として、成膜の目的やターゲット材料に応じてマグネトロンの使用、不使用を切り替えてもよい。
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明において、ターゲットは例えば強磁性体材料であってよい。本発明は種々のターゲット材料に対し適用可能であるが、水平磁場により発生するマグネトロンプラズマに依存しないので、磁気シールドとして作用する強磁性体材料をターゲットとして用いる場合に特に顕著な効果を奏するものである。
また例えば、スパッタカソードは永久磁石による磁気回路を含まない構成であってよい。本発明ではこのような磁気回路を用いることなく良質かつ効率的な成膜が可能であり、磁気回路を設けることによる装置コストの上昇も抑えることができる。
また例えば、ターゲットは平板状に形成されてよい。本発明では、例えばマグネトロンプラズマによるスパッタリングと比較すると、ターゲットがより均一に消費される。したがって、マグネトロンプラズマスパッタリングにおいては局所的な消費が問題となり得る平板状のターゲットであっても優れた利用効率で成膜に供することが可能である。
また例えば、スパッタカソードを挟んで複数の線状導体が配置される構成であってよい。このような構成では、それぞれの線状導体に高周波電力が供給されることによりスパッタカソードを覆うようにプラズマを発生させることが可能になる。これにより、ターゲット表面の広い領域をスパッタすることで成膜を効率よく進行させることができる。また、ターゲットが均一に消費されることでその利用効率を向上させることができる。
また例えば、スパッタカソードに沿って複数の線状導体が列状に配置される構成であってよい。このような構成によれば、プラズマが発生する空間を線状導体の列方向に沿って長く延びたものとすることができるので、同方向における広い範囲で同時にスパッタリングおよび成膜が可能となる。したがって、成膜対象である基板の大サイズ化にも容易に対応することができる。
また例えば、スパッタカソードに印加される電圧は交流成分を含むものであってよい。このような構成によれば、ターゲットの近傍に効率よくプラズマを発生させることが可能となり、成膜速度を向上させることができる。
また、本発明に係る成膜装置は、真空チャンバ内で、スパッタカソードに対して基板を相対移動させる移動機構を備えてもよい。このような構成によれば、基板表面の広い領域に均一な成膜を行うことができる。
また例えば、圧力調整部が成膜圧力を変更可能な構成であってよい。このような構成によれば、一定の成膜速度および膜密度を維持しつつ、目的に応じて皮膜の表面粗さを異ならせて成膜を行うことができる。
この発明は、プラズマスパッタリングにより基板に成膜を行う技術全般に適用することが可能であり、特にマグネトロンを用いずにプラズマスパッタリングを行う場合や、ターゲット材料として強磁性体を用いる場合に好適なものである。
1 成膜装置
10 真空チャンバ
12 真空ポンプ(圧力調整部)
13 圧力センサ(圧力調整部)
30 搬送機構(基板保持部、移動機構)
31 搬送ローラ(基板保持部、移動機構)
50 スパッタソース
51 プレーナカソード(スパッタカソード)
52,53 誘導結合アンテナ
54 スパッタガス供給ノズル(ガス供給部)
56 ガス供給部
57 電源部
93 雰囲気制御部(圧力調整部)
521,531 導体(線状導体)
571 カソード電源
572 高周波電源
S 基板

Claims (14)

  1. プラズマスパッタリングにより基板に成膜する成膜方法において、
    真空チャンバ内に、巻き数が1周未満の線状導体を誘電体層で被覆した構造を有する誘導結合アンテナと、ターゲットを備えるスパッタカソードとを近接配置し、
    内部気圧を所定の成膜圧力に調整した前記真空チャンバ内にスパッタガスを供給し、前記誘導結合アンテナに高周波電圧を、前記スパッタカソードに負電圧をそれぞれ印加して前記真空チャンバ内に誘導結合プラズマを発生させ、
    前記真空チャンバ内で前記ターゲットに臨ませた前記基板の表面に、前記誘導結合プラズマにより前記ターゲットがスパッタされて生じる成膜粒子を付着させて成膜し、
    前記ターゲットのうち前記基板に臨む表面における静磁場の該表面に沿う方向の最大磁束密度が15mT以下である成膜方法。
  2. 前記ターゲットが強磁性体材料である請求項1に記載の成膜方法。
  3. 前記スパッタカソードは永久磁石による磁気回路を含まない請求項1または2に記載の成膜方法。
  4. 前記ターゲットは平板状に形成された請求項1ないし3のいずれかに記載の成膜方法。
  5. 前記スパッタカソードを挟んで複数の前記誘導結合アンテナが配置される請求項1ないし4のいずれかに記載の成膜方法。
  6. 前記スパッタカソードに印加される電圧が交流成分を含む請求項1ないし5のいずれかに記載の成膜方法。
  7. 真空チャンバと、
    前記真空チャンバ内に設けられた、巻き数が1周未満の線状導体を誘電体層で被覆した構造を有する誘導結合アンテナと、
    前記真空チャンバ内に前記誘導結合アンテナに近接して設けられたターゲットを備えるスパッタカソードと、
    前記真空チャンバ内で基板を前記ターゲットに臨ませて保持する基板保持部と、
    前記真空チャンバの内部気圧を所定の成膜圧力に調整する圧力調整部と、
    前記真空チャンバ内にスパッタガスを供給するガス供給部と、
    前記誘導結合アンテナおよび前記スパッタカソードに所定の電位を付与する電源部と
    を備え、
    前記電源部が、前記誘導結合アンテナに高周波電圧を、前記スパッタカソードに負電圧をそれぞれ印加して、前記真空チャンバ内に誘導結合プラズマを発生させ、前記誘導結合プラズマにより前記ターゲットがスパッタされて生じる成膜粒子を前記基板に付着させて成膜し、
    前記ターゲットのうち前記基板に臨む表面における静磁場の該表面に沿う方向の最大磁束密度が15mT以下である成膜装置。
  8. 前記スパッタカソードは永久磁石による磁気回路を含まない請求項7に記載の成膜装置。
  9. 前記ターゲットが強磁性体材料である請求項7または8に記載の成膜装置。
  10. 前記ターゲットは平板状に形成された請求項7ないし9のいずれかに記載の成膜装置。
  11. 前記スパッタカソードを挟んで複数の前記線状導体が配置された請求項7ないし10のいずれかに記載の成膜装置。
  12. 前記スパッタカソードに沿って複数の前記線状導体が列状に配置された請求項7ないし11のいずれかに記載の成膜装置。
  13. 前記真空チャンバ内で、前記スパッタカソードに対して前記基板を相対移動させる移動機構を備える請求項7ないし12のいずれかに記載の成膜装置。
  14. 前記圧力調整部が前記成膜圧力を変更可能である請求項7ないし13のいずれかに記載の成膜装置。
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