以下、実施の形態に係る磁石構造体及びこれを用いたモータについて説明する。同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
図1は、磁石構造体を一部分解して示す斜視図である。図2は、磁石構造体(第1実施形態)を正面から見た縦断面を示す図(図2(A))、側面図(図2(B))、平面図(図2(C))である。
この磁石構造体MSは、台板1上に整列配置され、固定された複数の永久磁石2と、複数の永久磁石2を覆うためのカバー構造3とを備えている。カバー構造3は、非磁性体からなり複数の永久磁石2を覆う複数のカバー3aを備え、複数のカバー3a間の相対位置は固定されており、隣接するカバー3a間には隙間Gがある。隙間G内には気体(空気)が介在している。この図において、磁石構造体MSの長手方向をZ軸方向とし、磁石構造体MSの幅方向、すなわち、1つの永久磁石2(永久磁石バー)の長手方向をY軸方向とし、これらの双方に垂直な方向をZ軸方向とする。Z軸方向は、台板1の厚み方向に一致する。
図1には、12個の永久磁石2(永久磁石バー)と、10個のカバー3aが示されている。カバー3aは、永久磁石2を台板1上に固定した後に、Z軸方向にスライドして、永久磁石2を覆う。
カバー3aがあることにより、永久磁石2の腐食や脱落などが抑制される。一方、カバー3a間に隙間Gがあることにより、カバー3aに生じる渦電流を低減することができ、モータの効率が高くなる。また、この隙間により、熱膨張に伴う変形も抑制することができる。特に、カバー3aの上面側が開放していることが、渦電流発生の抑制、放熱の観点からは好ましい。
また、永久磁石2(永久磁石バー)間にも隙間G2がある。隙間G2内には気体(空気)が介在している。台板1(例;鉄など)が熱により膨張したり収縮した場合において、永久磁石2間の隙間G2は、永久磁石2にかかる応力を吸収することができる。したがって、永久磁石2が、台板1から外れにくい。永久磁石2は、台板1に接着剤で固定されている。
台板1は磁性体であってよい。台板1には、磁性体として、積層鋼板(鉄)、珪素鋼板、又は、鉄板などを用いることができる。また、非磁性体として、ステンレス、アルミニウム、又は、カーボンファイバーなどの材料を用いることも可能である。磁性体であれば、永久磁石2から発生した磁力線が台板1内を通ることができるため、磁気特性を高めることができる。
カバー3aの数は、永久磁石2(永久磁石バー)の数よりも少なくてよい。この場合、カバーを固定するための部品数が少なくてよく、生産性が向上する。特に、台板1に永久磁石2を固定する場合、台板1の強度が重要であり、固定用の部品点数が少ないほど、台板の体積を減少させず、また複雑な形状とならないため、台板1の強度は高くなる。
ここで、カバー3aと永久磁石2の数について、説明する。
図14は、磁石構造体とカバーを側面から見た縦断面構成を示す図である。長手方向に12個の永久磁石2が並んでいるが、カバー3aの数が永久磁石2よりも少ないことにより、永久磁石2間の隙間G2が、カバー3aにより覆われる度合いが高くなり、直接露出しにくくなる。したがって、当該隙間G2に水や埃などが入りにくくなり、隙間G2に接触する部分の防食効果、防錆効果が期待され、また、カバー3aによる永久磁石2の隙間位置の保護が高まることで、永久磁石2が割れたり欠けたりすることが減少する。磁石構造体のZ軸方向長を、カバー3aの数で割った最小単位と、永久磁石2の数で割った最小単位の最小公倍数がある場合には、その位置(図14において、G=G(*)の位置)において、隙間G2が露出する可能性がある。この場合、隙間G2の保護機能は低下するが、当該隙間G2(G(*))の露出を確認することで、カバーの取り付け位置が、規定通りであるかどうかを、確認することができる。また、カバー及び永久磁石の数、カバー及び永久磁石のZ方向の長さや隙間の広さを、適宜調整することにより、永久磁石の隙間がカバーの隙間から露出する位置にすることも可能である。
図3は、磁石構造体を正面から見た縦断面を示す図である。
符号3a1〜3a6は、カバー3aの各部位を示している。カバー3aと永久磁石2との間には隙間G3がある。この隙間G3には、接着剤を塗布することができ、カバー3aと永久磁石2とを固定することができる。この接着剤は、樹脂からなるが、永久磁石2を被覆し、カバー3aには接触せず、永久磁石2とカバー3aとの接着機能を有しない態様も可能である。いずれの場合も、永久磁石の表面は樹脂で覆われている。これにより磁石表面が外気から遮断され、永久磁石の腐食や劣化を防止できる。更に樹脂が接着剤である場合は、カバーと永久磁石とが固定され、磁石構造体の強度を高くすることができる。
この場合、カバー3aを台板1に対して固定するための固定部品(ネジB)を省略することが可能であり、台板1の強度を高くすることができる。なお、図3の構造の場合、台板1はネジ穴を有しており、ネジB(又はボルト)は、カバー3aの下方の屈曲部の孔と、台板1のネジ穴を通り、カバー3aを台板1に固定している。なお、永久磁石2と台板1との間の隙間には、接着剤G4が介在しており、これらを強固に固定している。なお、ネジBは雄ネジであり、ネジ穴は雌ネジを有している。ボルトは雄ネジの一種である。雄ネジの代わりに、ネジ溝のないピンを用意し、ネジ穴の代わりにピンを用意し、ピンを穴に差し込んだ後で、ピンを台板1に溶接固定する手法も考えられる。ネジ、ボルト及びピンなどの固定部品を台板1の穴に挿入することで、カバー3aを台板1に固定することができる。なお、隙間G3を設けず、カバー3aと永久磁石2を接触させた状態で固定させることもできる。
永久磁石2は、複数の永久磁石ブロック2BをY軸に沿って隙間なく配置し、バー状にしたものである。それぞれの永久磁石ブロック2Bが、台板1上に接着剤G4で固定されている。
台板1は、正面から見た場合に、2つの穴Hを有している。かかる穴Hには、磁石構造体の搬送用治具を挿入することが可能である。
カバー3aは、トップ部3a1、側面部3a2、屈曲部(3a3〜3a6)を備えている。トップ部3a1は、YZ平面に平行な板であり、側面部3a2はXZ平面に平行な板である。また、屈曲部を構成する屈曲部上部3a3は、YZ平面に平行な板であり、屈曲部を構成する屈曲部中部3a4は、XZ平面に平行な板であり、屈曲部を構成する屈曲部下部3a5は、YZ平面に平行な板であり、屈曲部を構成する屈曲部裾部3a6はXZ平面に平行な板である。
台板1の溝にカバー3aの屈曲部が嵌り、この溝はZ軸方向に沿って延びている。溝の幅(X軸方向)は、深さ方向に沿って一定であるが、これは変化させて、屈曲部を溝から抜けにくくすることができる。このように、台板1の側面には、その長手方向に沿って延びた溝が設けられており、カバー3aは、溝に嵌る屈曲部を備えている。この溝内に、屈曲部が嵌ることで、カバー3aを台板に対して固定することができる。この場合、カバー3aを台板1に対して固定するための部品(ネジ)を省略することも可能であり、台板1の強度を高くすることができる。この構造を上記接着剤と組み合わせると、固定強度は更に増加させることができる。
図4は、複数の磁石構造体を備えるモータのロータの正面図である。
磁石構造体MSは、長手方向が回転軸であるZ軸に平行になるように円筒形のロータCに固定される。例えば、周方向に並べられる磁石構造体MSの数は、128個である。同図では、軸方向に沿って2段の磁石構造体MSが配置されており、合計で256個の磁石構造体MSが用いられている。
図5は、モータの回転軸に垂直な断面構成を示す図である。図6は、図5における四角形の点線SQで囲まれた領域を示す図である。
モータにおいては、シャフトAXの周囲にロータCが固定され、複数の磁石構造体MSはロータCの表面に沿って配置され、モータは、複数の磁石構造体MSの磁界の範囲内に配置されたコイル10を備える。磁石構造体MSの面の極性は、ロータCの周方向に沿って交互に反転している。なお、磁石構造体自体は、リニア型の駆動を行うモータにも利用することが可能である。
図7は、モータを利用した発電装置のブロック図である。
具体的には、風力発電機に適用した例を説明する。風力発電機は複数のブレード20を備えており、流体F(風)を受けて、ハブ21の周囲を回転する。ハブ21の回転は、変速機22(増速器)によって増幅され、上述の発電機23のシャフトAXを回転させる。ブレードはタービンを構成することもできるし、流体Fは、液体であってもよい。
図8は、別の構造を有するモータの回転軸に垂直な断面構成を示す図である。
磁石構造体MSは、ロータCのスロットSの深さ方向に沿って積まれた複数の直方体状の永久磁石で構成されている。
永久磁石は、希土類焼結磁石で構成されており、たとえばR−T−B系焼結磁石であることが好ましい。R−T−B系焼結磁石は、R2T14B結晶から成る粒子(結晶粒子)および粒界を有する。
R−T−B系焼結磁石におけるRは、希土類元素の少なくとも1種を表す。希土類元素とは、長周期型周期表の第3族に属するScとYとランタノイド元素とのことをいう。ランタノイド元素には、例えば、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が含まれる。R−T−B系焼結磁石におけるTは、Fe、あるいはFeおよびCoを表す。さらに、その他の遷移金属元素から選択される1種以上を含んでいてもよい。R−T−B系焼結磁石におけるBは、ホウ素(B)、あるいは、ホウ素(B)および炭素(C)を表す。
本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、CuまたはAl等を含んでいてもよい。これらの元素の添加により、高保磁力化、高耐食性化、または温度特性の改善が可能となる。
さらに、本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、重希土類元素としてDy、Tb、またはその両方を含んでいてもよい。重希土類元素は、結晶粒子及び粒界に含まれていてもよい。重希土類元素が、結晶粒子に実質的に含まれない場合は、粒界に含まれることが好ましい。粒界における重希土類元素の濃度は、結晶粒子における濃度より高いことが好ましい。本実施形態に係るR−T−B系焼結磁石は、重希土類元素が粒界拡散されたR−T−B系焼結磁石であってもよい。重希土類元素を粒界拡散したR−T−B系焼結磁石は、粒界拡散しないR−T−B系焼結磁石と比較して、より少量の重希土類元素で残留磁束密度および保磁力を向上させることができる。
また、永久磁石の寸法は、いずれも同じ寸法になるように設計されており、たとえば、長辺長さは3〜70mmの範囲であり、短辺長さは3〜30mmの範囲であり、高さは3〜70mmの範囲である。一例として、永久磁石はいずれも、長辺長さが21mm、短辺長さが4mm、高さが6mmである。必要に応じて、永久磁石に所定の研磨処理(たとえばバレル研磨等)を施して面取りしてもよい。また、複数の永久磁石は、いずれも同一方向に磁化されており、短辺方向に平行な方向に磁化されている。
図9は、磁石構造体(第2実施形態)を正面から見た縦断面を示す図(図9(A))、側面図(図9(B))、平面図(図9(C))である。
第2実施形態は、第1実施形態からネジBと、ネジ穴を除いたものであり、加えて、カバー3aの形状を変更したものである。この他の構成及び適用は、上述の通りである。すなわち、台板1の側面には、カバー3aを固定するためのネジ穴が設けられていない。ネジを省略することで、台板1の強度を高く維持することが可能である。
カバー3aの側面は、台板1の長手方向(Z軸方向)に沿って突出した突出部Pを有している。突出部Pが隣接するカバー3aに当接することにより、カバー3aの長手方向への移動を規制することができ、カバー3a間の隙間の確保が可能となる。これにより渦電流を低減させることができる。図9においては、図3におけるカバー3aの屈曲部裾部3a6の部分を、Z軸方向に延ばしたものを示している。図3から、ネジ及びネジ穴を取り除いた断面構成は、図12に示されている。
図10は、磁石構造体(第3実施形態)を正面から見た縦断面を示す図(図10(A))、側面図(図10(B))、平面図(図10(C))である。
第3実施形態は、第2実施形態と比較して、カバー3aの側面形状のみが異なり、他の構成及び適用は上述の通りである。カバー3aは、台板1の長手方向(Z軸方向)に沿って突出した突出部Pを有しており、突出部Pが隣接するカバー3aに当接することにより、カバー3aの長手方向への移動を規制することができ、カバー3a間の隙間の確保が可能となる。これにより渦電流を低減させることができる。図10においては、図3におけるカバー3aの屈曲部中部3a4の部分を、Z軸方向に延ばしたものを示している。図3から、ネジ及びネジ穴を取り除いた断面構成は、第2実施形態と同様に、図12に示されている。
図11は、磁石構造体(第4実施形態)を正面から見た縦断面を示す図(図11(A))、側面図(図11(B))、平面図(図11(C))である。
第4実施形態は、第2実施形態と比較して、カバー3aの側面形状のみが異なり、他の構成及び適用は上述の通りである。カバー3aは、台板1の長手方向(Z軸方向)に沿って突出した突出部Pを有しており、突出部Pが隣接するカバー3aに当接することにより、カバー3aの長手方向への移動を規制することができ、カバー3a間の隙間の確保が可能となる。これにより渦電流を低減させることができる。図11においては、図3におけるカバー3aの側面部3a2の部分を、Z軸方向に延ばしたものを示している。図3から、ネジ及びネジ穴を取り除いた断面構成は、第2及び第3実施形態と同様に、図12に示されている。
なお、上述のいずれの構成においても、カバー3aの屈曲部の形状は、様々な変形をすることが可能である。
図13は、磁石構造体を正面から見た縦断面を示す図であり、カバー3aの屈曲部の形状を変形した例を示している。図13においては、屈曲部を構成する屈曲部上部3a3の形状が、図12(図3)と異なっている。屈曲部上部3a3は、深さ方向に進むに従って、幅(X軸方向長)が大きくなっており、楔形の形状をしている。なお、台板1の溝の形状は、屈曲部と同一である。
すなわち、この磁石構造体においては、台板1の溝の幅は、溝の深さ方向の浅い位置における第1の幅(X軸方向幅)と、溝の深さ方向の深い位置における第2の幅(X軸方向幅)を備えており、第1の幅は、第2の幅よりも小さい。換言すれば、台板1の溝の永久磁石2側の側面(屈曲部上部3a3)は、永久磁石2が固定される台板1の面(接着樹脂G4の面)に対して傾斜している、この場合、深い位置にある第2の幅が広く、浅い位置にある第1の幅が狭いため、上述の屈曲部が溝内に嵌った場合には、抜けにくくなる。溝の縦断面は楔型を構成することもできる。
図15は、電流の流れを示すカバーの部分斜視図である。
このカバーをモデル(A)とする。モデル(A)の構造の場合、渦電流損失が最も高く、渦電流損失の変動幅も大きい。図15〜図19においては、小さな矢印で電流の流れる方向が示されている。図15は、上述の複数のカバー3aを一体化したもの示しており、要するに、カバーは分割されていない。この場合、カバーにおける頂面(XY面)を多くの誘導電流(渦電流)が流れる。
図16は、電流の流れを示すカバーの部分斜視図である。
このカバーをモデル(B)とする。図16は、図15のカバーと比較して、隣接するカバー3aの頂面(XY面)のみを1mmほど離間させたものである。側面(YZ面)は分割されていない。この離間により、隣接するカバー3aの頂面を跨ぐ渦電流は流れないが、側面には依然として渦電流が流れる。
図17は、電流の流れを示すカバーの部分斜視図である。
このカバーをモデル(C)とする。図17は、図16のカバーと比較して、隣接するカバー3aの側面(YZ面)の一部分(図3における側面部3a2の頂部から中央部付近まで)を1mmほど離間させたものである。当然、離間部を跨ぐ渦電流は流れない。
図18は、電流の流れを示すカバーの部分斜視図である。
このカバーをモデル(D)とする。図18は、図17のカバーと比較して、隣接するカバー3aの側面(YZ面)の一部分(図3における側面部3a2の頂部から底部まで)を1mmほど離間させたものである。当然、離間部を跨ぐ渦電流は流れない。
図19は、電流の流れを示すカバーの部分斜視図である。
このカバーをモデル(E)とする。図19は、図18のカバーと比較して、隣接するカバー3aの側面(YZ面)の全て(図3における側面部3a2、屈曲部(3a3〜3a6))を1mmほど離間させたものである。当然、離間部を跨ぐ渦電流は流れない。
表1は、渦電流の損失(W)と比率(%)を示す表である。この表において、上記のモデル(A)〜(E)のカバーを用いた場合のデータが示されている。
モデル(A)の損失は119.5Wである。このときの比率を100%として、各モデル(B)〜(E)の損失を正規化すると、それぞれ、31,6%、30.2%、29.4%、28.2%であった。